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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】金属空気電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 12/08 20060101AFI20240828BHJP
   H01M 4/74 20060101ALI20240828BHJP
【FI】
H01M12/08 K
H01M4/74 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020093319
(22)【出願日】2020-05-28
(65)【公開番号】P2021190261
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】平川 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】山地 博之
(72)【発明者】
【氏名】高崎 まい
(72)【発明者】
【氏名】杉野 文俊
(72)【発明者】
【氏名】水畑 宏隆
(72)【発明者】
【氏名】竹中 忍
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-532477(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M12/00-16/00
H01M 4/64- 4/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気極と、負極とを有する金属空気電池であって、
前記負極は、活物質を担持した集電体を含み、
前記集電体は、貫通孔を有する平板を波状に折り曲げて形成され、
前記負極での厚み方向において、前記集電体の折り曲げの高さは、平板の厚みより高く、
前記負極は、前記厚み方向に並べて設けられた2つの前記集電体を含み、
一方の前記集電体から他方の前記集電体に向かって突出した凸部同士が面して接触するように、2つの前記集電体における波筋の方向を平行にして配置されていること
を特徴とする金属空気電池。
【請求項2】
請求項1に記載の金属空気電池であって、
前記集電体は、前記厚み方向で突出した凸部が曲面とされていること
を特徴とする金属空気電池。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の金属空気電池であって、
充電極を有すること
を特徴とする金属空気電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気極と、負極とを有する金属空気電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電極用金属の化学反応を用いた様々な電池が実用化されており、その1つとして金属空気電池が挙げられる。金属空気電池は、空気極(正極)および燃料極(負極)を備えており、電気化学的な反応により、亜鉛、鉄、マグネシウム、アルミニウム、ナトリウム、カルシウム、およびリチウム等の金属が金属酸化物に変化する過程で得られる電気エネルギーを取り出して利用する。金属空気電池では、金属からなる集電体に、活物質である酸化亜鉛を担持した負極を用いることがある。
【0003】
ところで、集電体を含む負極では、積載した際の負荷や、使用環境での温度変化などによって、内部に応力が生じて変形することがあった。このような変形によって、抵抗が増加し、電池性能が低下することがあった。そこで、集電体において、応力による変形を最小化する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-38823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された固形酸化物形燃料電池用の集電体は、一方向に延長された長さ部を有する多数の一方向支持体と、一方向支持体と異なる他方向に延長された長さ部を有する多数の他方向支持体と、互いに交差して配列された一方向支持体と他方向支持体とで囲まれた多数の気孔と、支持体に備えられた切断部とを含んでいる。上述した固形酸化物形燃料電池用の集電体では、支持体に切断部を設けて、応力による変形を最小化しているが、集電体自体の強度を高めることが考慮されておらず、応力が強くなると変形することは避けられない。
【0006】
二次電池とされた金属空気電池では、エッチング金属からなる集電体に酸化亜鉛を担持した負極から、亜鉛酸イオンが溶出する時、一部の不均一な溶解で生じた酸化亜鉛の孤立粒子が、集電体から脱離してしまう。このような酸化亜鉛粒子は、重力により電池の下方に沈み込み、その周辺の亜鉛酸イオン濃度を、局所的に増大させるため、電池反応の不均一性を生む。
【0007】
また、エッチング金属からなる集電体を有する負極では、亜鉛酸イオンを介して亜鉛が析出する時、負極表面全体に亜鉛の析出が進行する一方で、一部に亜鉛が突出して成長するデンドライトが形成される。デンドライトは機械的強度を有しないため、外部の振動、電解液の揺らぎ程度の外力でも、変形、折れに伴う脱離を生じる。この様な亜鉛粒子は、重力により電池の下方に沈み込む。集電体と電子のやり取りが不能となった亜鉛は、電池反応に介さない亜鉛となる。
【0008】
さらに、エッチング金属からなる集電体に酸化亜鉛を担持した板状の負極の場合、酸化亜鉛層の厚さは、0.5~数ミリメートル程度に作られる。亜鉛空気電池では、重量エネルギー密度の大きさを最大の特徴とする点から、酸化亜鉛の搭載量は大きくなる傾向にあり、必然的に酸化亜鉛層の厚さも厚くなる傾向にある。酸化亜鉛層の厚さが数ミリメートルになると、集電体からの距離も大きくなり電子のやり取りの均一性も損なわれる。このため、活物質中の電流分布は不均一になり、充電時の亜鉛の析出挙動に著しい偏りを生じ易くなり、活物質のシェイプチェンジを発生させる。
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、負極自体の変形を抑えることができる金属空気電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る金属空気電池は、空気極と、負極とを有する金属空気電池であって、前記負極は、活物質を担持した集電体を含み、前記集電体は、貫通孔を有する平板を波状に折り曲げて形成され、前記負極での厚み方向において、前記集電体の折り曲げの高さは、平板の厚みより高く、前記負極は、前記厚み方向に並べて設けられた2つの前記集電体を含み、一方の前記集電体から他方の前記集電体に向かって突出した凸部同士が面して接触するように、2つの前記集電体における波筋の方向を平行にして配置されていることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る金属空気電池では、前記集電体は、前記厚み方向で突出した凸部が曲面とされている構成としてもよい。
【0017】
本発明に係る金属空気電池は、充電極を有する構成としてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、集電体が波打ち構造とされているので、電池反応中のたわみを抑制して負極自体の変形を抑え、安定した電池特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1実施形態に係る金属空気電池を示す概略断面図である。
図2】負極の集電体を示す拡大平面図である。
図3図2に示す集電体の模式斜視図である。
図4図2に示す集電体の模式断面図である。
図5】本発明の第2実施形態に係る金属空気電池における負極の模式断面図である。
図6図5に示す負極の模式平面図である。
図7】本発明の第3実施形態に係る金属空気電池における負極の模式断面図である。
図8図7に示す負極の模式平面図である。
図9】作成時での負極の変形量を測定する方法を示す模式説明図である。
図10】第1実施例と比較例との放電特性を示す特性図である。
図11】第1実施例と第3実施例との放電特性を示す特性図である。
図12】第2実施例と第3実施例との放電特性を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態に係る金属空気電池について、図面を参照して説明する。
【0021】
図1は、本発明の第1実施形態に係る金属空気電池を示す概略断面図である。
【0022】
本発明の第1実施形態に係る金属空気電池1は、負極30を充電極11と空気極21との間に挟んだ構造とされ、3極方式の金属空気二次電池である。金属空気電池1は、例えば、亜鉛空気電池、リチウム空気電池、ナトリウム空気電池、カルシウム空気電池、マグネシウム空気電池、アルミニウム空気電池、および鉄空気電池などである。充電極11および空気極21は、撥水膜(充電極側撥水膜12および空気極側撥水膜22)を介して、金属空気電池1の外装の内面に面しており、金属空気電池1の外装は、充電極11および空気極21に対応する箇所に開口を設けて、空気だけを通す構造とされている。
【0023】
空気極21は、空気極触媒を有し、且つ、放電正極となる多孔性の電極とされている。空気極側撥水膜22は、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)やPE(ポリエチレン)等の撥水性の多孔質シートとされている。空気極21では、電解液としてアルカリ性水溶液を使用する場合、空気極触媒上において電解液などから供給される水と、大気から供給される酸素ガスと、電子とが反応し水酸化物イオンを生成する放電反応が起こる。
【0024】
充電極11は、電子伝導性を有する材料で形成された多孔性の電極とされている。充電極11では、電解液としてアルカリ性水溶液を使用する場合、水酸化物イオンから酸素と水と電子とが生成される充電反応が起こる。
【0025】
負極30は、活物質31を担持した集電体40を含む。なお、負極30の詳細な構造と製造方法とについては、後述する図2ないし図4を参照して説明する。
【0026】
負極30は、充電極11側の面が充電極側セパレータ51に覆われており、空気極21側の面が空気極側セパレータ52に覆われている。充電極側セパレータ51および空気極側セパレータ52は、電子的に絶縁性の材料で形成され、電極間で電子伝導経路が形成されて短絡することを防ぐものであって、例えば、充電時に集電体40で還元析出した金属デンドライトが、充電極11や空気極21に到達し、短絡することを抑制する。充電極側セパレータ51および空気極側セパレータ52としては、多孔性樹脂シートやイオン交換膜などの固体電解質シートが利用される。
【0027】
金属空気電池1では、充電極側セパレータ51が、アニオン膜を含む構成としてもよい。アニオン膜は、周期表の第1族~第17族から選ばれる少なくとも1種の元素を含有し、酸化物、水酸化物、層状複水酸化物、硫酸化合物、およびリン酸化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つの化合物とポリマーとで形成されている。アニオン膜は、水酸化物イオン等のアニオンを透過させる。
【0028】
図2は、負極の集電体を示す拡大平面図であって、図3は、図2に示す集電体の模式斜視図であって、図4は、図2に示す集電体の模式断面図である。なお、図面の見易さを考慮して、図3では、集電体40に設けられた貫通孔40bを省略して示し、図4では、ハッチングを省略している。
【0029】
本実施の形態において、集電体40は、エキスパンドメタルとされ、網目状に延びる金属部40aに囲まれた複数の貫通孔40bを有している。集電体40では、開口率が約50%とされ、1つの開口面積が約2mmとされている。なお、貫通孔40bを設けた集電体40については、これに限定されず、エッチング処理やワイヤーメッシュ処理などで形成してもよい。
【0030】
集電体40では、平板に貫通孔40bを形成する工程を経た後、波状に折り曲げる波打ち加工が施される。波打ち加工を施すことで、集電体40は、平板での厚み方向Tに対し、一方の側と他方の側とに突出した凸部(頂点)が形成される。以下では説明のため、凸部が延びている方向(波筋の方向)を波筋方向Nと呼ぶことがある。また、厚み方向Tにおいて、一方の側(図4では、上方)に向かう方向を第1厚み方向T1と呼び、他方の側(図4では、下方)に向かう方向を第2厚み方向T2と呼ぶことがある。集電体40の凸部について、区別するため、第1厚み方向T1に突出した凸部を上方凸部40cと呼び、第2厚み方向T2に突出した凸部を下方凸部40dと呼ぶ。
【0031】
集電体40は、厚み方向Tで突出した頂点(上方凸部40cおよび下方凸部40d)が曲面とされている。また、上方凸部40cおよび下方凸部40d同士の間は、厚み方向Tに対して傾斜した斜面40eとされている。このように、頂点を曲面とすることで、局所的な電界の集中を避け、活物質31内での電流集中を抑制することができる。それによって、活物質31のシェイプチェンジを抑制することができる。さらに、斜面40eによって頂点同士が連続する構造とすることができ、局所的な電界の集中を避けることができる。
【0032】
集電体40を構成する平板は、厚み(板厚TW)が0.1~0.2mmとされていればよく、本実施の形態では、0.2mmとされている。集電体40全体での厚み(波打ち振幅)は、0.5~1.0mmとされていればよく、 本実施の形態では、0.5mmとされている。つまり、集電体40の折り曲げの高さ(厚み方向Tでの中心から頂点までの高さ:波打ち高さNW)は、0.25~0.5mmとされており、平板の厚み(板厚TW)より高くなっている。波打ち加工の周期(同じ方向に突出した頂点同士の間隔:周期長PL)は、1.5~3.0mmとされていればよく、本実施の形態では、2.0mmとされている。このように、集電体40が波打ち構造とされているので、電池反応中のたわみを抑制して負極30自体の変形を抑え、安定した電池特性を得ることができる。なお、金属空気電池1の電池特性については、後述する第2実施形態および第3実施形態と併せて、図10ないし図12を参照して説明する。
【0033】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る金属空気電池について、図5および図6を参照して説明する。なお、第2実施形態に係る金属空気電池の構造については、第1実施形態と略同様であるので、説明および図面を省略する。
【0034】
図5は、本発明の第2実施形態に係る金属空気電池における負極の模式断面図であって、図6は、図5に示す負極の模式平面図である。
【0035】
第2実施形態では、第1実施形態に対し、負極30の構造が異なっており、厚み方向Tに並べて設けられた2つの集電体40を含む。2つの集電体40を区別するため、厚み方向Tにおいて、上方側に設けられた集電体40を第1集電体41と呼び、下方側に設けられた集電体40を第2集電体42と呼ぶ。2つの集電体40を設けることで、構造的な強度を増しつつ、電池性能を向上させることができる。
【0036】
第1集電体41と第2集電体42とは、接触している。具体的に、第1集電体41の下方凸部41dと、第2集電体42の上方凸部42cとが接している。集電体40同士が接触しているので、互いを支持し、構造的な強度を増すことができる。
【0037】
第1集電体41と第2集電体42とは、それぞれの波筋方向Nが平行にされ、一方の集電体40から他方の集電体40に向かって突出した頂点同士が、重なるように配置されている。図6では、第1集電体41の上方凸部41cと第2集電体42の下方凸部42dとに対応する波筋を実線で示し、第1集電体41の下方凸部41dと第2集電体42の上方凸部42cとに対応する波筋を一点鎖線で示している。また、図6では、集電体40の外縁に沿った方向を横方向Xと縦方向Yとで示しており、第1集電体41と第2集電体42との波筋方向Nは、縦方向Yに沿っている。このように、互いの波筋方向Nを平行にし、頂点同士が面するように配置することで、集電体40同士の間隔を保ちつつ、構造的な強度をさらに増すことができる。
【0038】
本実施の形態では、第1集電体41と第2集電体42とが接触しているが、これに限らず、後述する第3実施形態のように、第1集電体41と第2集電体42とが離間していてもよい。
【0039】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係る金属空気電池について、図7および図8を参照して説明する。なお、第3実施形態に係る金属空気電池の構造については、第1実施形態および第2実施形態と略同様であるので、説明および図面を省略する。
【0040】
図7は、本発明の第3実施形態に係る金属空気電池における負極の模式断面図であって、図8は、図7に示す負極の模式平面図である。
【0041】
第3実施形態では、第2実施形態に対し、負極30の中での2つの集電体40の配置が異なっている。2つの集電体40については、第2実施形態と同様に、上方側に設けられた集電体40を第1集電体41と呼び、下方側に設けられた集電体40を第2集電体42と呼ぶ。
【0042】
第1集電体41と第2集電体42とは、離間している。具体的に、第1集電体41の下方凸部41dと、第2集電体42の上方凸部42cとの間には隙間が設けられている。集電体40同士の間に隙間を設けることで、活物質31の膨張による変形を緩和することができる。
【0043】
第1集電体41と第2集電体42とは、それぞれの波筋方向Nが交差している。図8では、第1集電体41の上方凸部41cに対応する波筋を実線で示し、第1集電体41の下方凸部41dに対応する波筋を一点鎖線で示している。また、第2集電体42の上方凸部42cに対応する波筋を破線で示し、第2集電体42の下方凸部42dに対応する波筋を二点鎖線で示している。第1集電体41は、波筋方向Nが横方向Xに沿っており、第2集電体42は、波筋方向Nが縦方向Yに沿っている。このように、波筋方向Nを交差させるように配置することで、一方の集電体40の波筋が、他方の集電体40に対し、複数の波筋に跨るので、構造的な強度をさらに増すことができる。
【0044】
本実施の形態では、第1集電体41と第2集電体42との波筋が直交するように配置したが、これに限定されず、第1集電体41と第2集電体42との波筋が交差する角度が、直角でなくてもよい。
【0045】
本実施の形態では、第1集電体41と第2集電体42とが離間していたが、これに限らず、負極30の厚さAと、第1集電体41の層厚(上述した波打ち高さNWを2倍した値に相当)と第2集電体42の層厚(上述した波打ち高さNWを2倍した値に相当)との合計値である集電体の層厚Bとの関係に応じて、両者が接触した構成としてもよい。
【0046】
具体的に、A<Bの場合では、第1集電体41と第2集電体42とを接触させて負極30が構成される。この構成では、第2実施形態と同様に、構造的な強度を増すことができる。
【0047】
亜鉛空気電池では、重量エネルギー密度の大きさを最大の特徴とする点から、酸化亜鉛の搭載量が大きくなる傾向にあり、必然的に酸化亜鉛層も厚くなる傾向にある。その結果、酸化亜鉛層の厚さが数ミリメートルになると、A>Bになりやすい。
【0048】
A>Bであり、第1集電体41と第2集電体42とが接触する場合、2つの集電体は、負極30の厚み方向において、中心、空気極21寄り、または充電極11寄りのいずれかの位置に配置される。
【0049】
A>Bであり、第1集電体41と第2集電体42とが離間する場合、2つの集電体は、負極30のそれぞれの表面端に配置されることが好ましい。この構成では、充放電サイクルを繰り返した際、負極活物質と集電体電極との導電性を維持しやすい。
【0050】
(負極の作成方法)
次に、負極30の作成方法について説明する。負極30を作成する際、活物質31の基となる負極活物質分散溶液を準備する。負極活物質分散液は、酸化亜鉛粒子と、純水と、分散安定剤であるCMC(カルボキシメチルセルロース)と、結着剤であるSBR(スチレンブタジエンゴム)とを、所定の質量比で混合し、ビーズミルで撹拌して作成される。そして、集電体40を固定したキャスティングカップに、負極活物質分散溶液を規定量流し込む。90℃の電気炉で乾燥した後、キャスティングカップから取出し、プレスで圧縮成形することで、負極30が作成される。本実施の形態では、亜鉛を活物質とした場合について説明したが、これに限らず、活物質に応じて適宜材料を変更してもよい。
【0051】
ところで、負極活物質分散溶液を電気炉で乾燥させる際、カップの上面で乾燥が先に進み、カップの底部分では遅れて乾燥する。この過程で、上面の体積は大きく収縮する一方、底面の体積は緩やかに収縮するため、負極30には、上面に反り返る方向の応力が発生する。ここで、負極30の支持体となる集電体40において、曲がり易い方向がある場合、その方向への変形が生じる。
【0052】
図9は、作成時での負極の変形量を測定する方法を示す模式説明図である。なお、図9では、図面の見易さを考慮して、負極30の変形量を強調して示しており、実際の変形量とは異なる。
【0053】
負極30の変形量を測定する際、先ず、負極30を平坦な水平面101に載置し、負極30の一端の上に錘102を載せて、浮き上がりを抑える。そして、負極30の他端が水平面101から浮き上がった高さ(浮上距離UW)を測定する。ここでの浮上距離UWが負極30の変形量に相当する。
【0054】
変形量の測定では、2種類のサンプルとして、第2実施形態で用いられる負極30と、第3実施形態で用いられる負極30とを用意した。このサンプルは、サイズが7×7cmであって、厚さが1.95mmとされている。その結果、第2実施形態で用いられる負極30では、変形量が1.0~1.2mmであり、第3実施形態で用いられる負極30では、変形量が0.2mm以下であった。
【0055】
酸化亜鉛粒子からなる負極30では、電池内で電池反応を進めると、充電極11に面する負極30において、充電時の亜鉛化に伴う体積膨張(密度が小さい亜鉛結晶の析出)や、放電時の酸化亜鉛化に伴う体積膨張(酸化による体積増加)などが生じる。一方、空気極21に面する酸化亜鉛は、充電に伴って、ジンケートイオンが充電極11側に移動することで、その存在が疎になる。この結果、集電体40は、空気極21側へ突出するように応力を受け、自身が変形する。このような負極30の変形は、集電体40表面からの距離の増加や、密度低下による接触抵抗を増大させる要因となり、充電電圧の上昇や、放電電圧の低下といった電池性能の低下を招く。
【0056】
負極30については、作成時か電池反応時かに拘わらず、自身に応力が掛かった際、その応力に打ち勝つ構造を自身が有することで、負極30の変形を抑制することができ、電池性能の劣化を避けることができる。
【0057】
(電池特性)
次に、金属空気電池1の電池特性を評価した結果について、図10ないし図12を参照して説明する。以下では説明のため、第1実施形態に係る金属空気電池1を第1実施例と略し、第2実施形態に係る金属空気電池1を第2実施例と略し、第3実施形態に係る金属空気電池1を第3実施例と略す。なお、第1実施例ないし第3実施例については、比較する対象に応じて、集電体の配置が同じであっても、負極30自体の厚みなどを変えて、容量が異なるサンプルを適宜用意している。
【0058】
図10は、第1実施例と比較例との放電特性を示す特性図である。
【0059】
図10において、横軸は、放電時間を示し、縦軸は、放電電流を示している。なお、後述する図11および図12においても、横軸と縦軸との関係については、図10と同様であるので、説明を省略する。比較例については、第1実施例に対し、集電体40の構造が異なっている。具体的に、比較例での集電体は、板厚が0.2mmの平板のエッチングメタルとされ、開口形は、1.0×1.0mmの正方形であって、開口間の梁の幅は、0.5mmである。図10での第1実施例は、厚みが0.69mmとされた低容量(2.5Ah)負極である。なお、第1実施例と比較例とについては、予め初期状態での電流-電圧特性を測定しており、両者に差がないことを確認している。
【0060】
図10では、第1実施例の放電特性を実線で示し、比較例の放電特性を一点鎖線で示している。図10に示すように、第1実施例と比較例とについて、30mA/cmでCC放電を行った結果、第1実施例では、放電時間が2時間を少し超えてから放電電流が低下しているのに対し、比較例では、放電時間が1時間を超えてから放電電流が低下している。従って、第1実施例の方が、比較例よりも放電特性が優れていることが分かる。
【0061】
図11は、第1実施例と第3実施例との放電特性を示す特性図である。
【0062】
第1実施例と第3実施例とについては、予め初期状態での電流-電圧特性を測定しており、両者に差がないことを確認している。図11では、図10と同様の第1実施例を用いている。また、図11での第3実施例は、厚みが0.8mmとされた低容量負極であって、2つの集電体が接触している。
【0063】
図11では、第3実施例の放電特性を実線で示し、第1実施例の放電特性を一点鎖線で示している。図11に示すように、第1実施例と第3実施例とについて、60mA/cmでCC放電を行った結果、第1実施例では、放電時間が1時間に到達する前に放電電流が低下しているのに対し、第3実施例では、放電時間が1時間程度から放電電流が低下している。従って、第3実施例の方が、第1実施例よりも放電特性が優れていることが分かる。
【0064】
図12は、第2実施例と第3実施例との放電特性を示す特性図である。
【0065】
第2実施例と第3実施例とについては、予め初期状態での電流-電圧特性を測定しており、両者に差がないことを確認している。図12での第2実施例は、厚みが1.95mmとされた高容量(15Ah)負極であって、2つの集電体が離間している。また、図12での第3実施例は、厚みが1.95mmとされた高容量負極であって、2つの集電体が離間している。
【0066】
図12では、第3実施例の放電特性を実線で示し、第2実施例の放電特性を一点鎖線で示している。図12に示すように、第2実施例と第3実施例とについて、60mA/cmでCC放電を行った結果、第2実施例では、放電時間が1時間に到達する前に放電電流が低下しているのに対し、第3実施例では、放電時間が1時間を超えてから放電電流が低下している。従って、第3実施例の方が、第2実施例よりも放電特性が優れていることが分かる。
【0067】
なお、今回開示した実施の形態は全ての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。従って、本発明の技術的範囲は、上記した実施の形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0068】
1 金属空気電池
11 充電極
21 空気極
30 負極
31 活物質
40 集電体
40a 金属部
40b 貫通孔
40c 上方凸部
40d 下方凸部
40e 斜面
図1
図2
図3
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図5
図6
図7
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図9
図10
図11
図12