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特許7545244全固体電池の製造装置、および全固体電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】全固体電池の製造装置、および全固体電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20240828BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20240828BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240828BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20240828BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/66 A
H01M10/0562
H01M10/0585
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020118341
(22)【出願日】2020-07-09
(65)【公開番号】P2022015478
(43)【公開日】2022-01-21
【審査請求日】2023-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(72)【発明者】
【氏名】坂本 拓矢
(72)【発明者】
【氏名】西部 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】日置 智也
(72)【発明者】
【氏名】大野 雅人
(72)【発明者】
【氏名】小出 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】稲田 和正
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-243402(JP,A)
【文献】特開昭63-202852(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/84
H01M10/00-10/39
H01G11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電箔と活物質層が積層された全固体電池の製造装置であって、
前記活物質層を支持面上で支持した状態で搬送する搬送装置と、
外部から供給される前記集電箔を付着させる円筒面である箔付着面を有すると共に、円筒面の中心軸を回転軸として回転することで、前記箔付着面に付着させた前記集電箔を、前記搬送装置によって搬送されている前記活物質層の表面に回転移動させ、且つ、前記搬送装置の前記支持面との間で前記集電箔と前記活物質層を厚み方向にプレスするプレスローラと、
前記プレスローラの前記箔付着面によって回転移動される前記集電箔の移動経路上に設けられ、前記プレスローラに付着した前記集電箔に接着剤を付与する接着剤付与装置と、
を備えたことを特徴とする、全固体電池の製造装置。
【請求項2】
前記接着剤付与装置は、
前記接着剤と接触する円筒面である接着剤接触面を有すると共に、前記プレスローラの回転軸と平行な軸を回転軸として回転することで、前記箔付着面に付着した前記集電箔上の前記接着剤の厚みを調整する接着剤ローラ
を備えたことを特徴とする、請求項1に記載の全固体電池の製造装置。
【請求項3】
前記接着剤付与装置は、
前記接着剤ローラの前記接着剤接触面に前記接着剤を供給する供給装置をさらに備え、
前記接着剤ローラは、前記供給装置によって前記接着剤接触面に供給された前記接着剤を、前記箔付着面に付着した前記集電箔に転写しつつ、前記接着剤の厚みを調整することを特徴とする、請求項2に記載の全固体電池の製造装置。
【請求項4】
前記接着剤は、硬化光が照射されることで硬化する光硬化型接着剤であり、
前記接着剤に前記硬化光を照射する硬化光照射部をさらに備えたことを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の全固体電池の製造装置。
【請求項5】
前記接着剤は、硬化光が照射されることで硬化する光硬化型接着剤であり、
前記接着剤ローラの少なくとも一部が、前記硬化光を透過する材質によって形成されており、
前記プレスローラに付着した前記集電箔上の前記接着剤に、前記接着剤ローラを透過させて前記硬化光を照射する硬化光照射部をさらに備えたことを特徴とする、請求項2または3に記載の全固体電池の製造装置。
【請求項6】
前記プレスローラは、前記箔付着面から内部へ延びる複数の通気孔を備えており、前記通気孔から内部へ気体を吸引することで、前記集電箔を前記箔付着面に付着させることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の全固体電池の製造装置。
【請求項7】
前記集電箔に付与される際の前記接着剤の粘度が、100mPa・s~5000mPa・sであることを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載の全固体電池の製造装置。
【請求項8】
前記接着剤が付与される前記集電箔の表面にはカーボンがコーティングされており、
前記集電箔に付与される際の前記接着剤の粘度が、500mPa・s~1500mPa・sであることを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載の全固体電池の製造装置。
【請求項9】
集電箔と活物質層が積層された全固体電池の製造方法であって、
円筒面である箔付着面を有し、円筒面の中心軸を回転軸として回転するプレスローラの前記箔付着面に、前記集電箔を付着させる集電箔付着工程と、
前記箔付着面に付着した前記集電箔上に接着剤を付与する接着剤付与工程と、
前記プレスローラを回転させることで、前記箔付着面に付着した前記集電箔を、搬送装置によって搬送されている活物質層の表面に回転移動させ、且つ、前記搬送装置との間で前記集電箔と前記活物質層を厚み方向にプレスするプレス工程と、
を含むことを特徴とする、全固体電池の製造方法。
【請求項10】
円筒面である接着剤接触面を有し、前記プレスローラの回転軸と平行な軸を回転軸として回転する接着剤ローラの前記接着剤接触面を、前記箔付着面に付着した前記集電箔上の前記接着剤に接触させることで、前記接着剤の厚みを調整する厚み調整工程
をさらに含むことを特徴とする、請求項9に記載の全固体電池の製造方法。
【請求項11】
前記接着剤ローラの前記接着剤接触面に供給された前記接着剤を、前記箔付着面に付着した前記集電箔に転写させることで、前記接着剤付与工程と厚み調整工程が同時に実行されることを特徴とする、請求項10に記載の全固体電池の製造方法。
【請求項12】
前記接着剤は、硬化光が照射されることで硬化する光硬化型接着剤であり、
前記接着剤に前記硬化光を照射する硬化光照射工程
をさらに含むことを特徴とする、請求項9から11のいずれかに記載の全固体電池の製造方法。
【請求項13】
前記接着剤付与工程において前記集電箔に付与される際の前記接着剤の粘度が、100mPa・s~5000mPa・sであることを特徴とする、請求項9から12のいずれかに記載の全固体電池の製造方法。
【請求項14】
前記接着剤が付与される前記集電箔の表面にはカーボンがコーティングされており、
前記接着剤付与工程において前記集電箔に付与される際の前記接着剤の粘度が、500mPa・s~1500mPa・sであることを特徴とする、請求項9から12のいずれかに記載の全固体電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池の製造装置、および全固体電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池は、パソコンや携帯端末等のポータブル電源、あるいはEV(電気自動車)、HV(ハイブリッド自動車)、PHV(プラグインハイブリッド自動車)等の車両駆動用電源として広く用いられている。二次電池の一例として、液体電解質に代えて固体電解質を用いた全固体電池の開発が進められている。全固体電池では、第1集電体、第1活物質層、固体電解質層、第2活物質層、および第2集電体が順に積層されている。積層された複数の層の相対的な位置がずれると、電池性能が変化する可能性がある。従って、複数の層の位置ずれを抑制するために、互いに隣接する2つの層を接着する技術が提案されている。例えば、特許文献1に開示されている全固体電池は、第1集電体と第1活物質層が熱可塑性樹脂によって接着されることで製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-204377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の全固体電池の製造方法によると、接着する層の間に接着剤を配置した状態で、平板を用いて複数の層を積層方向に加熱圧縮することで、複数の層が接着されていた。この方法では、製造時間を短縮することが困難であった。従って、複数の層をより適切に接着できる方法が望まれていた。
【0005】
本発明の典型的な目的は、電池を構成する複数の層をより適切に接着することが可能な全固体電池の製造装置および全固体電池の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を実現するべく、ここに開示される一態様の全固体電池の製造装置は、集電箔と活物質層が積層された全固体電池の製造装置であって、上記活物質層を支持面上で支持した状態で搬送する搬送装置と、外部から供給される上記集電箔を付着させる円筒面である箔付着面を有すると共に、円筒面の中心軸を回転軸として回転することで、上記箔付着面に付着させた上記集電箔を、上記搬送装置によって搬送されている上記活物質層の表面に回転移動させ、且つ、上記搬送装置の上記支持面との間で上記集電箔と上記活物質層を厚み方向にプレスするプレスローラと、上記プレスローラの上記箔付着面によって回転移動される上記集電箔の移動経路上に設けられ、上記プレスローラに付着した上記集電箔に接着剤を付与する接着剤付与装置と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
本開示に係る全固体電池の製造装置によると、プレスローラによって集電箔を回転移動させながら、接着剤が付与された集電箔と活物質層を積層させてプレス(圧縮)することができる。従って、平板等を用いて集電箔と活物質層をプレスする場合に比べて、短時間で集電箔と活物質層を接着させることができる。
【0008】
ここに開示される製造装置の効果的な一態様では、接着剤付与装置は接着剤ローラを備える。接着剤ローラは、接着剤と接触する円筒面である接着剤接触面を有する。接着剤ローラは、プレスローラの回転軸と平行な軸を回転軸として回転することで、プレスローラの箔付着面に付着した集電箔上の接着剤の厚みを調整する。
【0009】
平板を用いて集電箔と活物質層をプレスする場合には、プレス時間を長くすることで、集電箔と活物質層の間の接着剤の厚みを薄くすることが可能である。しかし、前述したように、平板を用いる場合には製造時間を短縮することは困難である。また、プレスローラによって単純に集電箔と活物質層をプレスする場合には、プレス圧が加わる時間が短くなるので、集電箔と活物質層の間の接着剤の厚みが薄くならず、全固体電池の積層体の形状が乱れる可能性もある。積層体の形状が乱れると、電池性能の劣化等が生じる場合もある。これに対し、集電箔上に付着した接着剤の厚みが、接着剤ローラによって予め調整される(薄くされる)ことで、集電箔と活物質層が短時間で接着され、且つ、積層体の形状も乱れにくくなる。よって、集電箔と活物質層がより適切に接着される。
【0010】
ここに開示される製造装置の効果的な一態様では、接着剤付与装置は、接着剤ローラの接着剤接触面に接着剤を供給する供給装置をさらに備える。接着剤ローラは、供給装置によって接着剤接触面に供給された接着剤を、箔付着面に付着した集電箔に転写しつつ、接着剤の厚みを調整する。この場合、接着剤を集電箔に付与する工程と、集電箔上の接着剤の厚みを調整する工程が、同時に(並行して)実行される。よって、より効率よく集電箔と活物質層が接着される。ただし、接着剤は、接着剤ローラによる転写以外の方法(例えば、滴下、塗布、または吹き付け等の方法)で、集電箔に付与されてもよい。
【0011】
ここに開示される製造装置の効果的な一態様では、接着剤は、硬化光が照射されることで硬化する光硬化型接着剤である。製造装置は、プレスローラに付着した集電箔上の接着剤に硬化光を照射する硬化光照射部をさらに備える。この場合には、加熱されることで溶融されるホットメルトを接着剤として使用する場合とは異なり、接着剤を加熱する必要が無いので、製造効率がさらに向上し、且つ、熱によって全固体電池の部材に悪影響が生じることもない。さらに、全固体電池の温度が使用時に上昇しても、接着剤が溶融されないので、形状も変化し難い。よって、より適切に集電箔と活物質層が接着される。ただし、ホットメルト等を接着剤として使用することも可能である。
【0012】
ここに開示される製造装置の効果的な一態様では、接着剤ローラの少なくとも一部が、硬化光を透過する材質によって形成されている。硬化光照射部は、プレスローラに付着した集電箔上の接着剤に、接着剤ローラを透過させて硬化光を照射する。この場合、接着剤ローラによって集電箔上の接着剤の厚みが調整されつつ、接着剤に硬化光が照射される。よって、各装置の配置の自由度が向上すると共に、より効率よく集電箔と活物質層が接着される。ただし、接着剤ローラを透過させずに硬化光を接着剤に照射することも可能である。
【0013】
ここに開示される製造装置の効果的な一態様では、プレスローラは、箔付着面から内部へ延びる複数の通気孔を備えている。プレスローラは、通気孔から内部へ気体を吸引することで、集電箔を箔付着面に付着させる。この場合、プレスローラは容易且つ適切に集電箔を箔付着面に付着させることができる。
【0014】
ここに開示される製造装置の効果的な一態様では、集電箔に付与される際の接着剤の粘度が、100mPa・s~5000mPa・sである。この場合、接着剤が適切に集電箔に付与され、且つ、集電箔と活物質層の接着も適切に行われる。また、集電箔の表面にカーボンがコーディングされている場合には、接着剤の粘度が低すぎると、カーボン層に接着剤が過剰に浸透してしまい、集電箔と活物質層が十分に接着されない可能性がある。逆に接着剤の粘度が高すぎると、カーボン層に接着剤が浸透し難く、十分に接着剤の厚みが薄くならない可能性がある。従って、集電箔の表面にカーボンがコーディングされている場合、接着剤の粘度は500mPa・s~1500mPa・sであってもよい。この場合、良好な接着剤厚みと接着性を得ることができる。
【0015】
ここに開示される一態様の全固体電池の製造方法は、集電箔と活物質層が積層された全固体電池の製造方法であって、円筒面である箔付着面を有し、円筒面の中心軸を回転軸として回転するプレスローラの箔付着面に、集電箔を付着させる集電箔付着工程と、箔付着面に付着した集電箔上に接着剤を付与する接着剤付与工程と、プレスローラを回転させることで、箔付着面に付着した集電箔を、搬送装置によって搬送されている活物質層の表面に回転移動させ、且つ、搬送装置との間で集電箔と活物質層を厚み方向にプレスするプレス工程と、を含むことを特徴とする。
【0016】
本開示に係る全固体電池の製造方法によると、プレスローラによって集電箔を回転移動させながら、接着剤が付与された集電箔と活物質層を積層させてプレス(圧縮)することができる。従って、平板等を用いて集電箔と活物質層をプレスする場合に比べて、短時間で集電箔と活物質層を接着させることができる。
【0017】
ここに開示される製造方法の効果的な一態様は、厚み調整工程をさらに含む。厚み調整工程では、円筒面である接着剤接触面を有し、プレスローラの回転軸と平行な軸を回転軸として回転する接着剤ローラの接着剤接触面を、箔付着面に付着した集電箔上の接着剤に接触させることで、接着剤の厚みを調整する。この場合、前述したように、集電箔上に付着した接着剤の厚みが、接着剤ローラによって予め調整されることで、集電箔と活物質層が短時間で接着され、且つ、積層体の形状も乱れにくくなる。
【0018】
ここに開示される製造方法の効果的な一態様では、接着剤ローラの接着剤接触面に供給された接着剤を、箔付着面に付着した集電箔に転写させることで、接着剤付与工程と厚み調整工程が同時に実行される。この場合、より効率よく集電箔と活物質層が接着される。
【0019】
ここに開示される製造方法の効果的な一態様では、接着剤は、硬化光が照射されることで硬化する光硬化型接着剤であり、紫外線および/または可視光線等の硬化光が照射されることで硬化する光硬化型接着剤が好ましい。製造方法は、接着剤に硬化光を照射する硬化光照射工程をさらに含む。この場合、接着剤を加熱する必要が無いので、製造効率がさらに向上し、且つ、熱によって全固体電池の部材に悪影響が生じることもない。さらに、使用中の全固体電池の加熱による形状変化も生じにくい。
【0020】
ここに開示される製造方法の効果的な一態様では、集電箔に付与される際の接着剤の粘度が、100mPa・s~5000mPa・sである。また、集電箔の表面にカーボンがコーディングされている場合、接着剤の粘度は500mPa・s~1500mPa・sであってもよい。この場合、前述したように、より適切に集電箔と活物質層が接着される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】全固体電池の製造装置1の側面図である。
図2】全固体電池の製造方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本開示における典型的な実施形態の1つについて、図面を参照しつつ詳細に説明する。本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって実施に必要な事柄(例えば、全固体電池の構成等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、以下の図面においては、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明している。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚み等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
【0023】
<全固体電池>
まず、本開示で例示する製造装置および製造方法によって製造される全固体電池の一例である全固体リチウムイオン二次電池(以下、単に「全固体電池」という場合もある)の概略構成について説明する。ただし、本開示における製造方法の適用対象となる全固体電池は、全固体リチウムイオン二次電池に限定されない。つまり、全固体電池は、リチウムイオン以外の金属イオンを電化担体とするもの、例えば、ナトリウムイオン二次電池、マグネシウムイオン二次電池、等であってもよい。
【0024】
本開示における全固体電池は、積層体である電池ユニットが複数個積層されることで製造される。電池ユニットは、正極集電体、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、および負極集電体を備える。
【0025】
固体電解質層は、少なくとも固体電解質を含む。固体電解質として、例えば、硫化物系固体電解質および酸化物系固体電解質が挙げられる。硫化物系固体電解質の例としては、LiS-SiS系、LiS-P系、LiS-P系、LiS-GeS系、LiS-B系、等のガラスまたはガラスセラミックスが挙げられる。酸化物系電解質の例としては、NASICON構造、ガーネット型構造、またはペロブスカイト型構造を有する種々の酸化物が挙げられる。固体電解質は、例えば、粒子状である。固体電解質層には、ブタジエンゴム等のバインダ(結着材)が含有される。
【0026】
正極活物質層は、少なくとも正極活物質を含む。正極活物質層は、固体電解質を更に含むことが好ましく、導電材、バインダ等を更に含んでいてもよい。正極活物質層の導電材には、例えば、VGCF、アセチレンブラック等の公知の導電材を使用できる。正極活物質層のバインダには、例えば、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素含有樹脂等を使用できる。正極活物質として、この種の電池で従来から用いられている種々の化合物を使用することができる。正極活物質の例として、LiCoO、LiNiO等の層状構造の複合酸化物、LiNiMn、LiMn等のスピネル構造の複合酸化物、LiFePO等のオリビン構造の複合化合物、等が挙げられる。正極活物質層における固体電解質としては、固体電解質層に含有される固体電解質と同種の材料を用いることができる。正極活物質は、例えば、粒子状である。
【0027】
負極活物質層は、少なくとも負極活物質を含む。負極活物質層は、固体電解質を更に含むことが好ましく、導電材、バインダ等を更に含んでいてもよい。負極活物質層の導電材には、例えば、アセチレンブラック等の公知の導電材を使用できる。負極活物質層のバインダには、例えば、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素含有樹脂等を使用できる。負極活物質として、この種の電池で従来から用いられている種々の化合物を使用することができる。負極活物質の例として、例えば、グラファイト、メソカーボンマイクロビーズ、カーボンブラック等の炭素系の負極活物質が挙げられる。また、負極活物質の例として、ケイ素(Si)またはスズ(Sn)を構成元素とする負極活物質が挙げられる。負極活物質層における固体電解質としては、固体電解質層に含有される固体電解質と同種の材料を用いることができる。負極活物質は、例えば、粒子状である。
【0028】
正極集電体としては、この種の電池の正極集電体として用いられるものを特に制限なく用いることができる。典型的には、正極集電体は、良好な導電性を有する金属製であることが好ましい。正極集電体は、例えば、アルミニウム、ニッケル、クロム、金、白金、チタン、亜鉛、ステンレス鋼等の金属材から構成されていてもよい。なお、本実施形態の正極集電体は、金属箔(集電箔)であり、厚みが約3μmのカーボン層が表面にコーティングされている。負極集電体としては、この種の電池の負極集電体として用いられるものを特に制限なく用いることができる。典型的には、負極集電体は、良好な導電性を有する金属製であることが好ましい。負極集電体として、例えば、銅(銅箔)や銅を主体とする合金、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタン、亜鉛等を用いることができる。
【0029】
<製造装置>
図1を参照して、本実施形態における全固体電池の製造装置1について説明する。製造装置1は、集電箔2を接着剤5によって活物質層3に接着することで、全固体電池の電池ユニットを製造する。一例として、本実施形態の製造装置1は、正極集電体である集電箔2を、正極活物質層である活物質層3に積層して接着する。しかし、製造装置1は、負極集電体である集電箔を負極活物質層に接着する場合に使用されてもよい。また、以下では、説明を簡略化するために、活物質層3が他の層(例えば、固体電解質層、対極の活物質層、および対極の集電体の少なくともいずれか)と未だ積層されていない状態で、活物質層3に集電箔2が積層(接着)される。しかし、製造装置1は、他の層と既に積層された活物質層3の表面に、集電箔2を積層して接着してもよい。
【0030】
本実施形態の製造装置1は、搬送装置10、プレスローラ20、供給・裁断装置30、接着剤付与装置50、および硬化光照射部60を備える。
【0031】
搬送装置10は、活物質層3を支持面11上で支持した状態で、活物質層3を搬送方向CDに沿って搬送する。支持面11は、例えばコンベアベルト等であってもよい。詳細は後述するが、支持面11は、集電箔2と活物質層3をプレスするプレス面としても使用される。従って、支持面11は、適度な剛性を有する材質によって形成されることが望ましい。本実施形態では、均一な大きさに形成された複数の活物質層3が、搬送装置10によって連続して搬送される。従って、全固体電池の製造時間が容易に短縮される。また、本実施形態では、平板状に形成された活物質層3の一対の幅広面の一方(底面)が、支持面11によって支持される。その結果、一対の幅広面の他方(以下、「表面」という)は上方を向く。ただし、前述したように、搬送装置10によって搬送される活物質層3は、他の層と積層されていてもよい。この場合、活物質層3と積層された他の層が支持面11と接触し、活物質層3が上方を向く。
【0032】
プレスローラ20は、外形略円筒状または略円柱状の部材である。換言すると、プレスローラ20の外周面は円筒面となっている。プレスローラ20は、外部から供給される集電箔2を、円筒面である箔付着面21に付着させる。プレスローラ20は、円筒面(箔付着面21)の中心軸を回転軸25として、矢印PD方向に回転する。回転軸25は、搬送装置10による活物質層3の搬送方向に垂直に、水平方向に延びる。
【0033】
本実施形態のプレスローラ20は、円筒面である箔付着面21から内部へ延びる複数の通気孔23を備える。複数の通気孔23は、箔付着面21上に多数設けられているが、図1では、複数の通気孔23の一部のみを点線で示している。プレスローラ20は、通気孔23から内部へ気体(空気)を吸引することで、集電箔2を箔付着面21に付着させる。
【0034】
なお、本実施形態のプレスローラ20(または、製造装置1の制御部)は、各々の通気孔23からの気体の吸引と、吸引停止(または排出)とを位置に応じて切り換えることで、箔付着面21への集電箔2の付着と、箔付着面21からの集電箔2の剥離とを切り換える。詳細には、本実施形態のプレスローラ20は、周方向に多数設けられた通気孔23のうち、回転して下方に位置した通気孔23(つまり、搬送装置10に最も近い位置の通気孔23)からは、気体を外部に排出させる。また、プレスローラ20は、箔付着面21のうち、少なくとも集電箔2を付着させる領域に位置した通気孔23からは、気体を内部に吸引する。
【0035】
ただし、箔付着面21に集電箔2を付着させるための原理を変更することも可能である。例えば、集電箔2が静電気等によって箔付着面21に付着されてもよい。また、集電箔2と箔付着面21の間の付着力が、集電箔2と活物質層3の間の接着剤5による付着力(詳細は後述する)よりも弱い場合には、プレスローラ20は、箔付着面21に付着した集電箔2を剥離させる構成を備えていなくてもよい。
【0036】
供給・裁断装置30は、集電箔2を外部からプレスローラ20に供給する。また、本実施形態の供給・裁断装置30は、長尺状の集電箔2を所定の長さに裁断してプレスローラ20に供給する。本実施形態では、供給・裁断装置30はプレスローラ20の上方に設けられている。裁断されてプレスローラ20の上部に供給された集電箔2は、箔付着面21に付着する。
【0037】
本実施形態の供給・裁断装置30は、一対のローラの間に集電箔2を挟み込んだ状態で、一対のローラを回転させることで、集電箔2をプレスローラ20の上部に供給する。また、一対のローラの少なくとも一方にはカッターが設けられている。一対のローラが回転し、プレスローラ20側に供給される集電箔2の長さが所定の長さになると、集電箔2がカッターによって切断される。供給・裁断装置30は、所定の長さの集電箔2を連続してプレスローラ20に供給する。供給・裁断装置30の動作は、製造装置1の制御部によって制御される。なお、供給・裁断装置30の構成を変更できることは言うまでもない。
【0038】
プレスローラ20は、供給・裁断装置30によって供給されて箔付着面21に付着した集電箔2を、上部から、下部において搬送装置10によって搬送されている活物質層3の表面へ回転移動させる。この際、集電箔2上に付与された接着剤5(詳細は後述する)は、集電箔2と活物質層3の間に挟まれる。さらに、プレスローラ20は、搬送装置10の支持面11との間で、集電箔2と活物質層3を厚み方向(図1の上下方向)にプレスする。つまり、製造装置1は、プレスローラ20によって集電箔2を回転移動させながら、集電箔2と活物質層3を積層させてプレスすることができる。従って、平板等を用いて活物質層をプレスする場合に比べて、短時間で集電箔2と活物質層3を積層(接着)することができる。
【0039】
接着剤付与装置50は、プレスローラ20の箔付着面21によって回転移動される集電箔2の移動経路上(本実施形態では、集電箔2が供給される上部から、活物質層3に積層される下部までの移動経路上)に設けられている。接着剤付与装置50は、プレスローラ20に付着した集電箔2に、接着剤5を付与する。
【0040】
本実施形態の接着剤付与装置50は、接着剤ローラ51を備える。接着剤ローラ51は、外形略円筒状または略円柱状の部材である。換言すると、接着剤ローラ51の外周面は円筒面となっている。接着剤ローラ51の円筒面は、接着剤5に接触する接着剤接触面52となる。接着剤ローラ51は、円筒面(接着剤接触面52)の中心軸を回転軸55として、矢印AD方向に回転する。接着剤ローラ51の回転軸55は、プレスローラ20の回転軸25と平行である。また、接着剤ローラ51の回転方向ADと、プレスローラ20の回転方向PDは逆方向である。接着剤ローラ51の接着剤接触面52と、プレスローラ20の箔付着面21の間の距離は、後述する接着剤5の厚みの調整量に応じて予め定められた距離に設定されている。
【0041】
接着剤付与装置50は、供給装置57を備える。供給装置57は、接着剤ローラ51の接着剤接触面52に接着剤5を供給する。供給装置57による接着剤接触面52への接着剤5の供給方法には、種々の方法(例えば、滴下、塗布、または吹き付け等)を採用できる。供給装置57から接着剤接触面52に供給された接着剤5は、矢印AD方向に回転移動し、プレスローラ20の箔付着面21に付着した集電箔2上に転写される。供給装置57から接着剤接触面52への接着剤の供給箇所、供給量、および供給タイミングは、適切に調整される。その結果、プレスローラ20によって回転移動されている集電箔2の適切な位置に、適切な量の接着剤5が転写される。
【0042】
本実施形態の製造装置1では、接着剤ローラ51の接着剤接触面52が、集電箔2に付与された接着剤5に接触することで、集電箔2上の接着剤5の厚みが調整される。接着剤ローラ51の回転方向ADと、プレスローラ20の回転方向PDは逆方向であるため、摩擦等の影響を受けることなく、集電箔2上の接着剤5の厚みが適切に調整される。一例として、本実施形態では、接着剤ローラ51によって、集電箔2上の接着剤5の厚みが2μm以下に調整される。その後、集電箔2と活物質層3の間に、厚みが予め調整された接着剤5が挟まれた状態で、集電箔2と活物質層3がプレスローラ20によって厚み方向にプレスされる。従って、プレス圧の印加時間が短くなり易いプレスローラ20によって、集電箔2と活物質層3がプレスされても、接着剤5の厚みは適切な厚み以下となり易い。その結果、全固体電池の電池ユニット(積層体)の形状が、接着剤5の厚みの影響で乱れる可能性が低下する。よって、本開示の製造装置1によると、集電箔2と活物質層3が短時間で適切に接着される。
【0043】
また、本実施形態の接着剤ローラ51は、接着剤5を箔付着面21の集電箔2に転写しつつ、転写した接着剤5の厚みを調整する。つまり、本実施形態では、接着剤5を集電箔2に付与する工程と、集電箔2上の接着剤5の厚みを調整する工程が、同時に実行される。よって、より効率よく集電箔2と活物質層3が接着される。
【0044】
接着剤5は、硬化光が照射されることで硬化する光硬化型接着剤であり、紫外線および/または可視光線等の硬化光が照射されることで硬化する光硬化型接着剤が好ましい。一例として、本実施形態では、アクリル系の光硬化型化合物を含む接着剤5が使用されている。アクリル系の光ラジカル硬化型化合物を含む接着剤5を使用する場合、硬化後の表面が室温で感圧接着性を有する接着剤が好ましい。しかし、他の光硬化型接着剤(例えば、エポキシ系等の光カチオン硬化型接着剤、およびシリコン系の光湿気硬化型接着剤等の少なくともいずれか)が使用されてもよい。光硬化型接着剤を使用する場合には、ホットメルトを接着剤として使用する場合とは異なり、接着剤5を加熱する必要が無いので、製造効率がさらに向上し、且つ、熱によって全固体電池の部材に悪影響が生じることもない。さらに、全固体電池の温度が使用時に上昇しても、接着剤5が溶融されないので、形状も変化し難い。よって、より適切に集電箔2と活物質層3が接着される。
【0045】
硬化光照射部60は、接着剤5に硬化光を照射する。本実施形態の接着剤5は、硬化光照射部60から硬化光が照射されることを契機として硬化反応を開始し、プレスローラ20による集電箔2と活物質層3のプレス後には十分に硬化する。
【0046】
詳細には、本実施形態の接着剤ローラ51の少なくとも一部は、硬化光を透過する材質によって形成されている。硬化光照射部60は、プレスローラ20に付着した集電箔上の接着剤5に、接着剤ローラ51を透過させて硬化光を照射する。従って、接着剤ローラ51によって集電箔2上の接着剤5の厚みが調整されつつ、接着剤5に硬化光が照射される。よって、各装置の配置の自由度が向上すると共に、より効率よく集電箔2と活物質層3が接着される。さらに、アクリル系の光ラジカル硬化型化合物を含む接着剤5を使用して光硬化する場合、空気中の酸素によって重合が阻害され、これが厚さ数μm程度の場合は顕著になることが知られている。一方、本実施形態のように、ローラ51の材質として硬化光を透過する材質、好ましくは紫外線および/または可視光を透過する材質を使用し、ローラ51が接触している箇所で接着剤5に硬化光を照射する構成とすることにより、アクリル系の光ラジカル硬化型化合物を含む接着剤5を使用する場合であっても、重合阻害を起こすことなく良好に接着剤5を硬化させることができる。
【0047】
集電箔2に付与される際の接着剤5の粘度は、100mPa・s~5000mPa・sである。この場合、接着剤5が適切に集電箔2に付与され、且つ、集電箔2と活物質層3の接着も適切に行われる。より詳細には、本実施形態の集電箔2の表面には、カーボン層がコーディングされている。この場合、接着剤5の粘度が低すぎると、カーボン層に接着剤5が過剰に浸透してしまい、集電箔2と活物質層3が十分に接着されない可能性がある。逆に、接着剤5の粘度が高すぎると、カーボン層に接着剤5が浸透し難く、十分に接着剤5の厚みが薄くならない可能性がある。従って、本実施形態では、集電箔2に付与される際の接着剤5の粘度を500mPa・s~1500mPa・sとすることで、接着剤の厚みを良好な厚みとしつつ、接着剤5の過剰な浸透によって接着力が低下することを抑制している。
【0048】
<製造方法>
図2を参照して、本実施形態における全固体電池の製造方法について説明する。図2に例示する製造方法は、前述した製造装置1(図1参照)によって実行される。なお、実際の製造方法では、複数の集電箔2と複数の活物質層3が順次積層される。しかし、説明を簡略化するために、図2に示すフローチャートでは、1組の集電箔2および活物質層3を積層(接着)する工程を示している。本開示における全固体電池の製造方法は、集電箔付着工程(S1)、接着剤付与工程および厚み調整工程(S2)、硬化光照射工程(S3)、およびプレス工程(S4)を含む。
【0049】
集電箔付着工程(S1)では、プレスローラ20の箔付着面21に集電箔2が付着される。前述したように、本実施形態では、供給・裁断装置30によって長尺状の集電箔2が所定の長さに裁断されて、箔付着面21に付着(供給)される。
【0050】
接着剤付与工程では、箔付着面21に付着した集電箔2上に接着剤5が付与される。前述したように、本実施形態では、接着剤付与装置50によって、集電箔2上に接着剤5が付与される。
【0051】
厚み調整工程では、接着剤ローラ51の接着剤接触面52が、集電箔2上の接着剤5に接触されることで、集電箔2上の接着剤5の厚みが調整される。その結果、後述するプレス工程(S4)後の、集電箔2と活物質層3の間の接着剤5の厚みは、適切な厚み以下となり易くなる。よって、全固体電池の電池ユニットの形状が乱れにくくなる。
【0052】
本実施形態では、接着剤付与工程と厚み調整工程が、同時に実行される(S2)。詳細には、接着剤ローラ51の接着剤接触面52に供給された接着剤5が、集電箔2上に転写されることで、接着剤5の付与と接着剤の厚みの調整が同時に実行される。よって、製造効率がさらに向上する。
【0053】
硬化光照射工程(S3)では、接着剤5に硬化光が照射される。その結果、接着剤5の硬化反応が適切に開始されるので、集電箔2と活物質層3のプレス後には、両者は接着剤5によって接着する。
【0054】
プレス工程(S4)では、プレスローラ20によって、箔付着面21に付着した集電箔2が、搬送装置10によって搬送されている活物質層3の表面に回転移動される。さらに、搬送装置10との間で、集電箔2と活物質層3が厚み方向にプレスされる。従って、平板等を用いる場合に比べて、短時間で適切に集電箔2と活物質層3が接着される。
【0055】
上記実施形態で開示された技術は一例に過ぎない。従って、上記実施形態で例示された技術を変更することも可能である。例えば、光硬化型接着剤の代わりに、ホットメルト等を接着剤として使用することも可能である。また、上記実施形態で例示された複数の技術の一部のみを採用することも可能である。例えば、接着剤ローラ51によって接着剤5の厚みを調整する技術、および、接着剤5の粘度を適切な粘度として集電箔2に付与する技術の一方のみが採用されてもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 製造装置
2 集電箔
3 活物質層
5 接着剤
10 搬送装置
11 支持面
20 プレスローラ
21 箔付着面
23 通気孔
25 回転軸
50 接着剤付与装置
51 接着剤ローラ
52 接着剤接触面
55 回転軸
57 供給装置
60 硬化光照射部
図1
図2