(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】電界紡糸装置及びナノファイバの製造方法
(51)【国際特許分類】
D01D 5/04 20060101AFI20240828BHJP
B05B 15/50 20180101ALN20240828BHJP
【FI】
D01D5/04
B05B15/50
(21)【出願番号】P 2020120182
(22)【出願日】2020-07-13
【審査請求日】2023-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池山 卓
(72)【発明者】
【氏名】福田 郁夫
(72)【発明者】
【氏名】東城 武彦
【審査官】山下 航永
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-012711(JP,A)
【文献】特開2002-079151(JP,A)
【文献】特開2017-148742(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01D 1/00 - 13/02
D04H 1/00 - 18/04
B05B 12/16 - 12/36
B05B 14/00 - 16/80
B05D 1/00 - 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を含む原料液を吐出するノズルと、該ノズルのクリーニング機構を備え、
前記クリーニング機構は少なくとも1つのロールを備え、
前記ロールは、その回転方向と、前記ノズルの接離方向とが一致するように配されており、
前記ロールは、その周面に前記ノズルを接触させながら前記ノズルを一方向に移動させることによって回転し、該方向と反対方向に前記ノズルを移動させる際に該ロールが回転しない機構を有し、
前記ノズルと前記クリーニング機構とが相対的に近づいて、該ノズルの先端域が
該ロールの周面である第1の清浄面に接触するとともに、
第1の清浄面と同一周面に存在し且つ第1の清浄面と異なる位置にある第2の清浄面に
前記ノズルの先端域が接触しながら、前記ノズルと前記クリーニング機構とが相対的に離間するように構成されている、電界紡糸装置。
【請求項2】
前記クリーニング機構における清浄面は弾性材料により構成されている、請求項1に記載の電界紡糸装置。
【請求項3】
前記ロールは、一方向にのみ回転力を伝達する回転制御機構を備えている、請求項1又は2に記載の電界紡糸装置。
【請求項4】
前記回転制御機構はワンウェイクラッチ機構である、請求項3に記載の電解紡糸装置。
【請求項5】
前記回転制御機構はスプラグクラッチ又はカムクラッチである、請求項4に記載の電解紡糸装置。
【請求項6】
前記クリーニング機構は一対のロールを備え、
前記各ロールの軸線が互いに平行に配されており、
前記ノズルと前記クリーニング機構との近接時において、前記ノズルが前記各ロール間に侵入するように構成されている、請求項
1~5のいずれか一項に記載の電界紡糸装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の電界紡糸装置を用い、前記原料液を前記ノズルから吐出して電界紡糸法によって紡糸を行う工程を備えるナノファイバの製造方法であって、
前記紡糸を行った後で且つ前記紡糸を再開する前に、前記ノズルと前記クリーニング機構における清浄面とを接触させて、該ノズルに付着した該原料液の固化物を除去する、ナノファイバの製造方法。
【請求項8】
前記クリーニング機構は少なくとも1つのロールを備え、
前記ロールの周面と前記ノズルとを接触させることによって、該ノズルに付着した該原料液の固化物を除去する、請求項7に記載のナノファイバの製造方法。
【請求項9】
前記固化物を除去する工程を複数回備え、
前記クリーニング機構は、長手方向と該方向に直交する幅方向を有し、
前記固化物の除去が行われた前記クリーニング機構の位置とは異なる位置に、前記ノズルを前記クリーニング機構の長手方向に沿って移動させて前記固化物の除去を行う、請求項7又は8に記載のナノファイバの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界紡糸装置及びナノファイバの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電界紡糸法は、原料樹脂の溶液又は溶融液を吐出して、ナノサイズの直径の繊維を有する繊維シートを簡便且つ高い生産性で製造できる技術として注目を浴びている。一般的に、電界紡糸法は、樹脂を含む原料液を吐出するためのノズルと、ノズルから所定距離を隔てた位置に設置された捕集用電極との間に高電圧を印加して、その状態下で原料液を吐出する。
【0003】
本出願人は、電界紡糸法に用いられる装置として、原料液を噴射する導電性のノズルに付着した固化物を空気の噴射によって除去するように構成した電界紡糸装置を提案した(特許文献1参照)。
【0004】
特許文献2には、樹脂溶液を噴射するノズルと回転体コレクタとの間に高電圧を印加する高圧電源と、ノズルをクリーニングステーションに移動させて、樹脂の固化物が付着したノズルの噴射口を柔軟部材に接触させてクリーニングするクリーニング手段とを備えたナノファイバ製造装置が開示されている。
【0005】
また特許文献3には、電界紡糸装置のノズルヘッドに設けられたノズルを清掃する清掃装置が開示されている。この製造装置は、一方の面が開口した箱状の収納部と、その内部に設けられた切り込み状の清掃部を有することも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-95986号公報
【文献】特開2008-202169号公報
【文献】特開2018-145551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電界紡糸法においては、原料液が吐出されるノズルに原料液の固化物が意図せず付着してしまうことがあり、当該固化物によるノズルや目的とする製品の汚染が問題になることがある。特許文献1に記載の技術はノズルに付着した固化物を空気の噴射によって除去するものであるので、ノズルの汚染防止は十分に達成できる。しかし、固化物が目的とする製品に混入した場合、その製品は不良品として廃棄する必要があるので、生産効率の向上に関して改善の余地があった。
【0008】
また特許文献2の電界紡糸装置では、ノズル先端の噴射口に対してクリーニング部材を当接させるものであるので、当該部材を当接する際にノズルに付着している固化物がノズル外壁部に付着したり、ノズル先端に残存したりするおそれがあり、ノズルのクリーニングが不十分となり得る。また、樹脂の固化物が意図せずノズルから剥落した場合、樹脂の固化物がナノファイバ表面に堆積してしまい、ナノファイバ製品の品質が損なわれる。
【0009】
特許文献3に記載の清掃装置は、清掃部に電界紡糸装置のノズルを差し込むことによってノズルを洗浄するものであるが、ノズルを差し込む際に清掃部表面に付着した固化物が、ノズルを抜き出す際にノズルに再度付着してしまうので、ノズルの汚染除去効果は十分なものとは言えない。
【0010】
したがって本発明は、原料液の固化物を除去した状態で、安定的に電界紡糸を行うことができ、且つ得られるナノファイバの品質の低下を抑制できる電界紡糸装置及びナノファイバの製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、樹脂を含む原料液を吐出するノズルと、該ノズルのクリーニング機構を備える電界紡糸装置に関する。
前記電界紡糸装置は、好ましくは前記ノズルと前記クリーニング機構とが相対的に近づいて、該ノズルの先端域が該クリーニング機構における第1の清浄面に接触するとともに、好ましくは前記ノズルの先端域が前記クリーニング機構における第2の清浄面に接触しながら、前記ノズルと前記クリーニング機構とが相対的に離間するように構成されているものである。
【0012】
また本発明は、前記電界紡糸装置を用い、前記原料液を前記ノズルから吐出して電界紡糸法によって紡糸を行う工程を備えるナノファイバの製造方法に関する。
前記製造方法は、好ましくは前記紡糸を行った後で且つ前記紡糸を再開する前に、前記ノズルと前記クリーニング機構における清浄面とを接触させて、該ノズルに付着した該原料液の固化物を除去するものである。
本発明の他の特徴は、請求の範囲および以下の説明から明らかになるであろう。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ノズルの先端域に意図せず付着した原料液の固化物を除去した状態で、安定的に電界紡糸を行うことができ、且つ得られるナノファイバの品質の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の電界紡糸装置の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、クリーニング機構の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、クリーニング機構の別の実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図4】
図4は、クリーニング機構の更に別の実施形態を模式的に示す斜視図である。
【
図5】
図5(a)ないし(d)は、
図3に示すクリーニング機構を用いたときのノズルの清浄工程を模式的に示す断面図である。
【
図6】
図6(a)及び(b)は、
図4に示すクリーニング機構を用いたときのノズルの清浄工程を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。
本明細書において数値の上限値若しくは下限値又は上下限値が規定されている場合、上限値及び下限値そのものの値も含まれる。また特に明示がなくても、数値の上限値以下若しくは下限値以上又は上下限値の範囲内におけるすべての数値又は数値範囲が記載されているものと解釈される。
本明細書において、「a」及び「an」等は、「一又はそれ以上」の意味に解釈される。
本明細書における上述の開示及び以下の開示に照らせば、本発明の様々な変更形態や改変形態が可能であることが理解される。したがって、請求の範囲の記載に基づく技術的範囲内において、本明細書に明記されていない実施形態についても本発明の実施が可能であると理解すべきである。
上述の特許文献及び以下の特許文献の記載内容は、それらのすべての内容が本明細書の内容の一部として本明細書に組み入れられる。
【0016】
本発明の電界紡糸装置は電界紡糸法に好適に用いられる。
電界紡糸装置は、典型的には、樹脂を含む原料液を吐出する導電性のノズルと、ノズルに対向するように配され且つ該ノズルとの間に電界を生じさせる導電性の電極と、ノズルと電極との間に電圧を印加する電源である電圧発生部とを備えている。
電界紡糸法は、原料液を電場中に吐出することによって、吐出された原料液が、電気的引力と、原料液自身が有する電荷による自己反発力とによる延伸を繰り返して極細繊維化され、これによって繊維状の樹脂(ナノファイバ)を形成することができる方法である。
【0017】
図1には、本発明の電界紡糸装置の一実施形態の構造が示されている。
同図に示す電界紡糸装置10は、樹脂を含む原料液を吐出するノズル1を備える紡糸ユニット20と、ノズル1のクリーニング機構50とを備えている。
【0018】
紡糸ユニット20は、典型的には、樹脂を含む原料液を吐出する導電性且つ中空のノズル1と、ノズルに対向するように配され且つ該ノズルとの間に電界を生じさせる導電性の電極(図示せず)と、ノズルと電極との間に電圧を印加する電源である電圧発生部(図示せず)とを備える。
ノズル1の後端は、典型的には、圧力付与手段を備える原料液の供給源(図示せず)に接続されており、圧力付与手段によって発生した圧力によって、ノズルの開口端である先端から原料液を吐出できるようになっている。
【0019】
本実施形態においては、電圧発生部は、正又は負の電圧が印加できるようになっており、電圧の印加によって、ノズル1と電極との間に電場を形成できるようになっている。
電圧発生部は、例えば、ノズル1と電気的に接続されてノズル1に対して電圧を印加可能に構成され、且つ電極が接地した状態であってもよい。これに代えて、電圧発生部が電極に電気的に接続されて電極に対して電圧を印加可能に構成され、且つノズル1が接地した状態であってもよい。
【0020】
電界紡糸装置10は、ノズル1と対向する位置に、吐出された原料液によって紡糸された繊維を捕集する捕集部(図示せず)を有していてもよい。
捕集部は、典型的には、金属等の導電性材料から構成された捕集用電極を備え、ノズル1と捕集用電極との電位の差によって、紡糸された繊維を捕集部上で捕集できるようになっている。
捕集用電極は、好ましくは平板状のものであり、捕集用電極の板面と、ノズル1が延びる方向とが略直交していることも好ましい。また捕集部は、ノズル1と捕集用電極との間に配されたベルトコンベア等の捕集手段及び搬送手段を有していてもよい。
【0021】
また電界紡糸装置10は、気体流噴射部(図示せず)を更に備えていてもよい。
気体流噴射部は、典型的には、ノズル1の延在方向に沿って形成され、ノズル1の後方から先端の方向に向けて、非加熱の又は加熱された気体流を噴射させるように構成することができる。
このような気体流噴射部を備える場合、気体流噴射部は、例えば繊維の堆積対象となる部材や、上述した捕集部に向かって気体流を吹き付けながら、目的とする部材上にナノファイバを堆積させることができる。
【0022】
上述した構成を有する電界紡糸装置として、特開2017-31517号公報の段落〔0011〕~〔0027〕に記載の構造を有する電界紡糸装置や、特開2019-2082号公報の段落〔0013〕~〔0031〕に記載の構造を有する電界紡糸装置を用いることもできる。
【0023】
電界紡糸装置10は、
図1に示すように、ノズル1のクリーニング機構50を備えることが好ましい。
クリーニング機構50は、ノズルの先端及びその近傍の領域に意図せず付着した原料液の固化物を除去するためのものである。
【0024】
電界紡糸装置による電界紡糸を行った後でノズルからの原料液の吐出を停止すると、ノズル内の残圧によって原料液滴がノズル先端域に露出し、その状態が維持される。ノズル先端に露出した原料液滴は、大気等のノズル周囲の雰囲気によって、時間経過とともに乾燥して液滴が固化した固化物となる。固化物が存在する状態で電界紡糸を再開すると、ノズル先端域に付着した固化物によってノズル内の圧力が過度に上昇して、原料液の吐出量が不安定になったり、あるいは原料液の吐出に伴って、固化物が製造後のナノファイバに混入する虞があったりして、得られるナノファイバの品質に改善の余地があった。
この点を改善するため、ノズルのクリーニングを行うに当たり、ノズルとクリーニング機構との接触時において接触する清浄面と、ノズルとクリーニング機構との離間時において接触する清浄面とを異なるように構成すること好ましい。これによって、ノズル先端域に付着した固化物を除去するとともに、除去した固化物がノズルに再度付着することを防ぐことができ、電界紡糸において生じる不具合の原因となる固化物の除去を十分に達成できる。
【0025】
クリーニング機構50は、これと清浄対象のノズルとを接触させることによって発生する摩擦力によって、原料液の固化物を除去することが好ましい。
クリーニング機構50は、典型的には、ノズルの清浄時にノズルと当接する清浄面を有する清浄部材を備えている。
【0026】
電界紡糸装置10は、ノズル1とクリーニング機構50とが相対的に近づいて、ノズル1の先端域がクリーニング機構50における清浄面に接触するように構成されていることが好ましい。以下、この清浄面を「第1の清浄面」ともいう。
また、電界紡糸装置10は、ノズル1の先端域がクリーニング機構50における別の清浄面に接触しながら、ノズル1とクリーニング機構50とが相対的に離間するように構成されていることが好ましい。以下、この清浄面を「第2の清浄面」ともいう。
つまり、電界紡糸装置10におけるクリーニング機構50は、清浄対象となるノズル1の先端域が該機構50とノズル1とが相対的に近接することによって接触する清浄面と、清浄対象となるノズル1の先端域が該機構50とノズル1とが相対的に離間しながら接触する清浄面とが互いに異なるように構成されていることが好ましい。
このような構成を有していることによって、ノズル1とクリーニング機構50との近接時及び離間時においてそれぞれ異なる清浄面を用いてノズルを清浄することができる。そして、ノズル1とクリーニング機構50との近接時において除去した固化物が、ノズル1とクリーニング機構50との離間時に再度付着することを防ぐことができる。その結果、固化物の除去性能を高め、ナノファイバの生産効率及び品質を向上させることができる。
【0027】
ノズルに接触する清浄面を近接時及び離間時で互いに異なるようにするためには、例えば、クリーニング機構50に1つの清浄部材を備え、清浄部材がノズルの延在方向と同一方向又は該方向と交差する方向に移動するなどして、清浄部材における清浄面が近接時及び離間時で異なる位置となるように構成することができる。あるいは、例えば、クリーニング機構50に2つ以上の清浄部材を備え、清浄部材が移動するなどして、近接時と離間時とで異なる清浄部材又は異なる清浄面の位置を用いるように構成したりすることができる。
【0028】
ノズル1とクリーニング機構50とを相対的に接離可能に構成する部材として、電界紡糸装置10は、駆動部(図示せず)を更に備えていることが好ましい。
駆動部は、典型的には、ノズル1及びクリーニング機構50のうち少なくとも一方に備えられている。
具体的には、駆動部は、ノズル1あるいはノズル1を備える紡糸ユニット20に備えられており、静止しているクリーニング機構50に対してノズル1を移動させて、ノズル1を近接又は離間させるように構成されていてもよい。また、駆動部はクリーニング機構50に備えられており、静止しているノズル1に対してクリーニング機構50を移動させて、クリーニング機構50を近接又は離間させるように構成されていてもよい。これに代えて、駆動部はノズル1及びクリーニング機構50の双方に備えられており、ノズル1及びクリーニング機構50がそれぞれ独立して互いに移動して近接又は離間できるように構成されていてもよい。
電界紡糸装置は、典型的には、紡糸された繊維の堆積位置を制御したり、得られる繊維堆積体の形状や寸法を制御したりするために、紡糸時においてノズル1を所定の軌道を描くように移動させる第2駆動部(図示せず)がノズル1又はノズル1を備える紡糸ユニット20に設けられている。そのため、ノズルのクリーニングのための駆動部と、ノズルの軌道形成のための第2駆動部とを一つの駆動機構として集約しつつ併用できるようにして、電界紡糸装置の寸法を小さくして、省スペース化を実現する観点から、駆動部は、ノズル1又はノズル1を備える紡糸ユニット20に備えられており、静止しているクリーニング機構50に対してノズル1を近接又は離間させる構成が好ましい。
【0029】
クリーニング機構50は、清浄部材として少なくとも1つのロール51を備えていることが好ましい。この場合、ロール51の周面が清浄対象となるノズル1の先端域が接触する清浄面となる。
ロール51を備えるクリーニング機構50の好適な実施形態を、
図2及び
図3を参照して以下に説明する。
【0030】
本実施形態のロール51は、ロール51の回転方向Rと、ノズル1の接離方向Zとが一致するように配されている。ロール51は、例えば外力が付与される方向に応じて回転する連れまわりロールとすることができる。このような構成になっていることによって、ノズルの接離に対応してロールが回転するので、固化物の除去を新たな清浄面を用いて複数回行うことができ、また固化物の除去性能が向上する。
【0031】
ノズルの侵入を容易にしながらも、ノズルの引き抜き時にロール51とノズル1との間に生じる摩擦力を高めて固化物の除去性能を高める観点から、ロール51は、弾性伸縮部52を介して壁部57に保持されていることが好ましい。
弾性伸縮部52は、バネ状の部材であることが好ましい。
弾性伸縮部52は、ノズル1の延在方向と交差する方向に伸縮可能になっていることが好ましい。
弾性伸縮部52は、その一端がロール51の軸部と接続され、他端が壁部57に接続されて、ロール51が壁部57に保持されていることが好ましい。
【0032】
クリーニング機構50における清浄部材としてロール51を備える場合、ロール51は、一方向にのみ回転力を伝達する回転制御機構を備えていることが好ましい。具体的には、ロール51の周面にノズル1を接触させながらノズル1を一方向に移動させることによって回転し、該方向と反対方向にノズル1を移動させる際にロール51が回転しない機構を有することが好ましい。
後述する第一及び第二実施形態では、ノズル1とクリーニング機構50との近接時において、ロール51の周面にノズル1を接触させながらノズル1を侵入させると、ノズルの近接方向Pに沿ってロール51が回転する。一方、ノズル1とクリーニング機構50との離間時において、近接方向Pとは反対方向である離間方向Sに沿ってノズル1を相対的に移動させる際にはロール51が回転しない機構となっている。
このような機構としては、例えば、スプラグクラッチやカムクラッチ等のワンウェイクラッチ機構を採用することができる。つまり、ロール51はワンウェイクラッチロールであることが好ましい。
【0033】
上述した回転制御機構をロール51に備えていることによって、ノズル1とクリーニング機構50との近接時に当接する清浄面と、ノズル1とクリーニング機構50との離間時に当接する清浄面とを異なるようにして、ノズル1とクリーニング機構50との近接時において除去した固化物が、ノズル1とクリーニング機構50との離間時に再度付着することをより簡便にかつ効率的に防ぐことができ、ノズルの清浄状態を十分に維持することができる。
これに加えて、ノズル1とクリーニング機構50との離間時にはロールが回転しないので、ロール51の周面とノズル1との間に生じる摩擦力をより強く発生させることができる。その結果、固化物がノズルの先端域に強固に付着してしまった場合であっても、固化物を容易に取り除くことができ、除去性能が一層向上する。
【0034】
クリーニング機構50は、長手方向と該方向に直交する幅方向を有し、その長手方向が、ノズル1の延在方向と直交して配されていることが好ましい。このように構成されていることによって、一つのクリーニング機構50にて、固化物の除去が既に行われた清浄面とは異なる未使用の清浄面を用いてノズルを清浄することができるので、省スペース化を達成できるとともに、使用済みの清浄面に付着している固化物がノズルに再度付着することを防ぐことができ、ノズルの清浄性を更に高めることができる。
【0035】
第一実施形態では、クリーニング機構50は、清浄部材として1つのロール51と、該ロールに対向して配される対向部材55と、これらの部材を保持する壁部57とを備えていることが好ましい。これに加えて、クリーニング機構50は、壁部57を介してロール51を保持する弾性伸縮部52を備えていることも好ましい。これらの構成を備えた実施形態を
図2に示す。
第一実施形態のクリーニング機構50は、ノズル1が近接する前及び離間した後において、ロール51の周面が対向部材55と当接した状態となっている。
また、ノズル1とクリーニング機構50との近接時において、ロール51の周面と固定部材との間に清浄対象のノズルを侵入させるように構成されている。
ロール51の周面と固定部材との間に清浄対象のノズルを侵入させることによって、ロール51の周面とノズル1との間に摩擦力を効率的に発生させることができ、固化物を容易に除去することができる。
【0036】
また第二実施形態では、クリーニング機構50は、清浄部材として一対のロール51,51が備えられていることが更に好ましい。この場合、各ロール51,51の各周面がそれぞれ、清浄対象となるノズル1の先端域が接触する清浄面となる。これに加えて、クリーニング機構50は、一対のロール51,51に加えて、各ロール51,51を保持する壁部57を備えていることが好ましい。これに加えて、クリーニング機構50は、壁部57を介してロール51を保持する弾性伸縮部52をそれぞれ備えていることも好ましい。これらの構成を備えた実施形態を
図3に示す。
【0037】
第二実施形態の各ロール51,51は、これらの軸線が互いに平行に配されており、各ロール51,51の周面が互いに当接している部位を有する。
各ロール51,51は、その回転方向Rと、ノズル1の接離方向Zとが一致するように配されていることが好ましい。
このような構成になっていることによって、ノズルの接離に対応してロールが回転するとともに、新たな清浄面を用いて固化物の除去を複数回行うことができる。また清浄部材として2つのロールを一度の工程で用いるので、固化物の除去性能を更に高め、電界紡糸を更に安定的に行うことできる。
【0038】
第二実施形態のクリーニング機構50は、ノズル1が近接する前及び離間した後において、各ロール51の周面どうしが当接した状態となっている。また、ノズル1とクリーニング機構50との近接時において、各ロール51間に清浄対象のノズルを侵入させるように構成されている。
各ロール51の間に清浄対象のノズルを侵入させることによって、清浄面であるロール51の周面とノズル1との間に摩擦力を効率的に発生させることができるとともに、対向する2つの清浄面を用いてノズルの外周を清浄することができるので、固化物を容易に除去することができ、またその除去性能が更に向上する。
したがって、第二実施形態を採用することによって、第一実施形態と比較して、固化物の除去性能を更に高め、電界紡糸を更に安定的に行うことできる点で有利である。
【0039】
図3に示すように、クリーニング機構50が一対のロール51,51を備える場合、一方のロール51にのみ回転制御機構を備え、他方のロール51は回転制御機構を備えていなくてもよく、あるいは、一対のロール51,51の双方に回転制御機構を備えていてもよい。また双方のロール51,51に回転制御機構を備える場合、一方のロール51における回転制御機構と他方のロール51における回転制御機構とは互いに同じ機構を採用してもよく、異なる機構を採用してもよい。
固化物の除去を双方のロールにおける新たな清浄面を用いて行い易くし、固化物のノズルへの再付着を効率的に防止する観点から、双方のロール51、51に回転制御機構を備えることが好ましい。この場合、一方のロール51における回転方向と、他方のロール51における回転方向とは互いに反対になるように構成されていることも更に好ましい。
【0040】
クリーニング機構50が長手方向Xと長手方向Xに直交する方向である幅方向Yとを有するように構成された実施形態が
図4に示されている。
図4に示すクリーニング機構50は、一対のロール51,51からなる清浄ユニット5Aが、各ロール51,51の軸方向と長手方向Xとを一致させて複数組配されている。各清浄ユニット5Aは壁部57を介して幅方向Yに沿って配置されている。
同図に示すように、各ロール51は、弾性伸縮部52を介して壁部57に保持されていることも好ましい。
【0041】
クリーニング機構50がロール51を備えているか否かによらず、クリーニング機構50における清浄面は弾性材料によって構成されていることが好ましい。清浄面に弾性材料を用いることによって、ノズル1とクリーニング機構50との近接時において、清浄面の弾性変形によって、ノズルの外周を包み込むようにして接触面積を多くした状態で清浄面をノズルに接触させることができるので、ノズルに付着した固化物の除去効率を更に高めることができる。また、ノズルのクリーニング時におけるノズルの意図しない損傷を防止して、電界紡糸装置を長期間使用できるという利点もある。
クリーニング機構50がロール51を備える場合、清浄面であるロール51の少なくとも周面が弾性材料によって構成されていることが更に好ましい。
【0042】
ロール51に用いられる弾性材料とは、清浄面を有する部材としてのロール51とノズル1との接触によってロール51がノズル1に押圧され、該押圧によって生じる荷重が弾性変形の範囲内となる性質を有する材料を指す。
弾性変形可能な材料としては、不織布、織布、編み地、紙、メッシュシート、スポンジ、ゴム等から選ばれる1又は2以上を用いることができる。
不織布としては、例えばメルトブローン不織布、スパンボンド不織布、エアスルー不織布及びスパンレース不織布などを用いることができる。
スポンジは、具体的には、合成樹脂又は天然樹脂を発泡させた多孔性材料、例えば発泡樹脂からなるものである。
多孔性材料を構成する合成樹脂又は天然樹脂としては、例えばウレタン、ポリエチレン、メラミン、天然ゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、ニトリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどを用いることができる。
発泡樹脂は、通気性を有する形態を形成し得るものであれば、種々の材料を用いることができる。
ゴムとしては、例えば天然ゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリルゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、エチレン酢酸ビニルゴム、エビクロルヒドリンゴム、多流化ゴムなどを用いることができる。
【0043】
以下に、上述した構成を有する電界紡糸装置を用いたナノファイバの製造方法を説明する。本製造方法は電界紡糸法に係るものであり、詳細には、電界紡糸装置10を用い、樹脂を含む原料液をノズル1から電場中に吐出して電界紡糸法によって紡糸を行う工程を備える。
【0044】
本製造方法は、原料液をノズルから吐出して電界紡糸法による紡糸を行い、原料液の吐出を停止する。その後、紡糸を再開する前に、つまり原料液の電場中への吐出を再度行う前に、ノズル1とクリーニング機構50における清浄面とを接触させて、ノズル1に付着した原料液の固化物を除去することが好ましい。
【0045】
クリーニング機構50の好適な態様である一対のロール51,51を備える態様を例にとり、固化物の除去工程を
図5(a)~(d)を参照して説明する。
まず
図5(a)に示すように、電界紡糸法による紡糸を行い、原料液の吐出を停止すると、ノズル内の残圧によってノズル1先端に原料液滴が露出する。この原料液滴は時間経過とともに固化し、ノズル1の先端域に付着した固化物Aとなる。
【0046】
次いで、固化物Aが付着しているノズル1とクリーニング機構50とを相対的に近接させながら、ノズル1の先端域1aとクリーニング機構50における清浄面とを接触させる。
図5(b)に示す実施形態では、固化物Aが付着しているノズル1を、クリーニング機構50における一対のロール51間に侵入させる。
本実施形態では、まず、各ロール51,51の周面どうしが当接している位置である当接部5aにノズル1の先端が固化物Aとともに接触するので、当接部5a及びその近傍のロール周面が第1の清浄部C1となる。その状態でノズル1を近接方向Pに相対的に移動させると、各ロール51は、各ロール51の回転方向Rと近接方向Pとが一致する方向に回転しつつ、ノズル1がロール51間に当接部5aを超えて侵入する。その結果、各ロール51における第1の清浄部C1は、当接部5aよりもロール回転方向Rの下流側に位置した状態となる。ノズル先端域1aに付着した固化物Aは、第1の清浄部C1上に付着及び保持される。
【0047】
続いて、ノズル1の先端域をクリーニング機構50における第2の清浄面に接触させながら、ノズル1とクリーニング機構50とを相対的に離間させる。
図5(c)に示す実施形態では、クリーニング機構50における一対のロール51間に侵入したノズル1を離間方向Sに相対的に移動させると、各ロール51,51の周面どうしの当接部5aとノズル1の先端域とが再度接触する。このときノズルと接触する当接部5aは、ノズル1とクリーニング機構50との近接時において各ロール51,51が回転することによって新たに当接した部位であるので、第1の清浄部C1とは異なる清浄部である第2の清浄部C2となる。第2の清浄部C2は、第1の清浄部C1と同様にロール51の同一周面に存在するが、第1の清浄部C1とは異なる位置である。
【0048】
そして、
図5(c)及び(d)に示すように、ノズル1が離間方向Sに更に移動すると、ノズル1が第2の清浄部C2を通過する際に、各ロール51の当接によって生じている押圧力がノズル1の延在方向と交差する方向に付与される。このとき、各ロール51の周面とノズル1の先端域との間に摩擦力が発生し、ノズル外周をぬぐうように、ノズル1がロール51間から引き抜かれる。これによって、固化物Aが第2の清浄部C2に付着及び保持されて、ノズル1から固化物Aが除去される。
【0049】
クリーニング機構50にロール51を備える場合、ノズル1とクリーニング機構50との近接時においては、ノズル1が侵入可能な程度の間隔(クリアランス)を容易に確保可能にするとともに、ノズル1とクリーニング機構50との離間時においては、ノズル1とロール51との間に生じる摩擦力を更に高める観点から、ロール51は弾性伸縮部52を介して他の部材に保持されていることが好ましい。
【0050】
またクリーニング機構50にロール51を備える場合、ロール51として、上述したワンウェイクラッチロールを用いることが好ましい。これによって、固化物がノズル1に再度付着することをより簡便にかつ効率的に防ぐことができ、ノズルの清浄状態を十分に維持することができる。
【0051】
固化物を除去する工程を複数回備えることが固化物除去の作業効率を高める観点から好ましい。この実施形態が
図6(a)及び(b)に模式的に示されている。
詳細には、
図6(a)に示すように、まず、紡糸を行った後で且つ紡糸を再開する前に行う第1の固化物除去工程として、クリーニング機構50の任意の位置T1において、清浄ユニット5Aにおける各ロール51の周面にノズルが接触するようにノズル1とクリーニング機構50とを近接させて、両ロール51間にノズルを侵入させる。その後、ノズル1とクリーニング機構50とを離間させて、ノズルに付着した固形物の除去を行う。
【0052】
次いで、清浄されたノズルで紡糸を行った後で且つ紡糸を再開する前に、第2の固化物除去工程を行う。このとき、
図6(b)に示すように、第1の固化物除去工程において固化物の除去が行われたクリーニング機構50の位置T1とは異なる長手方向の位置T2に、ノズル1をクリーニング機構50の長手方向Xに沿って移動させて、その後、ノズル1とクリーニング機構50とを近接及び離間させて、ノズルに付着した固化物の除去を行うことが好ましい。
これによって、固化物の除去が既に行われた清浄面とは異なる未使用の清浄面を用いてノズルを清浄することができるので、使用済みの清浄面に付着している固化物がノズルに再度付着することを防ぐことができ、ノズルの清浄性を更に高めることができる。
【0053】
長手方向Xと幅方向Yとを有し、清浄ユニット5Aを複数有するクリーニング機構50を用いることが好ましい。これに加えて、複数本のノズル1を一度の工程で清浄して、固化物を除去することが好ましい。この実施形態が
図6(a)及び(b)に模式的に示されている。
ノズルを複数本配した状態で電界紡糸を行う際に、清浄ユニット5Aを複数有するクリーニング機構50を用いて固化物を除去することによって、複数本のノズル1に付着した固化物を一度の工程で効率よく除去することができる。そして、固化物の除去をより簡便に且つ短時間で行うことができ、品質が高いナノファイバの生産効率を一層高めることができる。また、複数本のノズル1を配して電界紡糸を行うと、原料液の吐出量を増加させることができ、これに伴って、生成されるナノファイバの生産量も増加するので、電界紡糸をすべてのノズルで安定的に行うことができ、ナノファイバの生産効率を一層高めることができる。
【0054】
複数本のノズル1を配して電界紡糸を行うためには、例えば一つの紡糸ユニット20を備える電界紡糸装置10を複数用いて電界紡糸を行ったり、複数個の紡糸ユニット20を備える一つの電界紡糸装置10を単独又は複数用いて電界紡糸を行ったりすることができる。
複数の電界紡糸装置10又は紡糸ユニット20の配置位置は、製造環境や、製造する繊維の用途に応じて適宜選択することができる。詳細には、例えば、紡糸ユニット20を正面視したときに、複数の紡糸ユニット20を一方向に沿って並べた紡糸ユニット列を一列又は複数列配置してもよく、隣り合う紡糸ユニット20を一方向における前後に交互に位置するように配置してもよい。
【0055】
電界紡糸において用いられる原料液は、樹脂を含む溶液又は溶融液であり、好ましくは樹脂の溶液である。
上述した構成を有する電界紡糸装置を用いて電界紡糸するにあたり、原料液として樹脂の溶融液を用いる場合、該溶融液は樹脂を加熱溶融することによって得られるものであるので、電界紡糸を行った後でノズル先端域に残存した溶融液は、時間経過とともに冷却固化して、ノズル先端域に付着した固化物となる。樹脂の溶融液に由来する固化物は、例えば電界紡糸を再開する前にノズルを樹脂の溶融温度以上に加熱することによって、固化物を再溶融して除去することができる。これに代えて、電界紡糸を再開する前に、上述したクリーニング機構を用いて除去することもできる。
【0056】
一方、原料液として樹脂の溶液を用いる場合、電界紡糸を行った後でノズル先端域に残存した溶液は、溶液に含まれる溶媒が時間経過とともに蒸発して、樹脂成分が主体となった固化物となる。このような固化物は、再溶解可能な溶媒がノズル周囲に存在せず、また固化物を溶解する量の溶媒をノズル内又は電界紡糸装置の外部から溶媒を供給することは、工業上非常に煩雑となる。そのため、固化物を簡便に除去して得られるナノファイバの品質を高める観点から、電界紡糸を再開する前に、クリーニング機構50を用いて固化物を除去することが好適である。
したがって、クリーニング機構を備える電界紡糸装置は、原料液として樹脂を含む溶液を用いる電界紡糸に特に好適に用いられる。
【0057】
電界紡糸に用いられる樹脂としては、繊維形成能を有するものを用いることができ、具体的には、水溶性ポリマー及び水不溶性ポリマーが挙げられる。
本明細書において「水溶性ポリマー」とは、1気圧・23℃の環境下において、ポリマー1gを秤量したのちに、10gのイオン交換水に浸漬し、24時間経過後、浸漬したポリマーの0.5g以上が水に溶解する性質を有するものをいう。
本明細書において「水不溶性ポリマー」とは、1気圧・23℃の環境下において、ポリマー1gを秤量したのちに、10gの脱イオン水に浸漬し、24時間経過後、浸漬したポリマーの0.5g未満が脱イオン水に溶解する性質を有するものをいう。
繊維形成能を容易に発現する観点から、電界紡糸法において用いられる原料液は、水不溶性ポリマーを含むことが好ましい。
【0058】
水溶性ポリマーとしては、例えばプルラン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ポリ-γ-グルタミン酸、β-グルカン、グルコオリゴ糖、ヘパリン、ケラト硫酸等のムコ多糖、セルロース、ペクチン、キシラン、リグニン、グルコマンナン、ガラクツロン、サイリウムシードガム、タマリンド種子ガム、アラビアガム、トラガントガム、変性コーンスターチ、大豆水溶性多糖、アルギン酸、カラギーナン、ラミナラン、寒天(アガロース)、フコイダン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の天然ポリマー、部分鹸化ポリビニルアルコール(後述する架橋剤と併用しない場合)、低鹸化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸ナトリウム等の合成ポリマーなどが挙げられる。これらの水溶性ポリマーは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0059】
水不溶性ポリマーとしては、例えばナノファイバ形成後に不溶化処理できる完全鹸化ポリビニルアルコール、架橋剤と併用することでナノファイバ形成後に架橋処理できる部分鹸化ポリビニルアルコール、ポリ(N-プロパノイルエチレンイミン)グラフト-ジメチルシロキサン/γ-アミノプロピルメチルシロキサン共重合体等のオキサゾリン変性シリコーン、ツエイン(とうもろこし蛋白質の主要成分)、ポリ乳酸などのエステル樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリメタクリル酸樹脂等のアクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂などが挙げられる。これらの水不溶性ポリマーは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0060】
その他のポリマーとしては一般に、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンナフタレート、ポリ-m-フェニレンテレフタレート、ポリ-p-フェニレンイソフラテート、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン-アクリレート共重合体、ポリアクリロニトリル-メタクリレート共重合体、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステルカーボネート、ナイロン、アラミド、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリ酢酸ビニル、ポリペプチド等が挙げられる。これらのポリマーは単独で又は複数混合して用いることができる。
【0061】
原料液の溶媒としては、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジベンジルアルコール、1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル-n-ヘキシルケトン、メチル-n-プロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、アセトン、ヘキサフルオロアセトン、フェノール、ギ酸、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル、塩化メチル、塩化エチル、塩化メチレン、クロロホルム、o-クロロトルエン、p-クロロトルエン、四塩化炭素、1,1-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、トリクロロエタン、ジクロロプロパン、ジブロモエタン、ジブロモプロパン、臭化メチル、臭化エチル、臭化プロピル、酢酸、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、シクロペンタン、o-キシレン、p-キシレン、m-キシレン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、ピリジン等が挙げられる。これらの溶媒は単独で又は複数混合して用いることができる。
【0062】
特に溶媒として水を用いる場合は、水への溶解度の高い下記のような天然ポリマー及び合成ポリマーを用いるのが好適である。天然ポリマーとしては、例えばプルラン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ポリ-γ-グルタミン酸、β-グルカン、グルコオリゴ糖、ヘパリン、ケラト硫酸等のムコ多糖、セルロース、ペクチン、キシラン、リグニン、グルコマンナン、ガラクツロン酸、サイリウムシードガム、タマリンド種子ガム、アラビアガム、トラガントガム、大豆水溶性多糖、アルギン酸、カラギーナン、ラミナラン、寒天(アガロース)、フコイダン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が挙げられる。合成ポリマーとしては、例えば部分鹸化ポリビニルアルコール、低鹸化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸ナトリウム等が挙げられる。これらの高分子化合物は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの高分子化合物のうち、ナノファイバの製造が容易である観点から、プルラン等の天然ポリマー、並びに部分鹸化ポリビニルアルコール、低鹸化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン及びポリエチレンオキサイド等の合成ポリマーを用いることが好ましい。
【0063】
本製造方法によって製造されるナノファイバは、その繊維径を円相当直径で表した場合、繊維径が10μm以下の細径の繊維となる。ナノファイバは、その繊維径が好ましくは0.1μm以上であり、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下のものである。
【0064】
ナノファイバの繊維径は、走査型電子顕微鏡観察による二次元画像から、紡糸された繊維の塊、繊維どうしの交差部分、ポリマー液滴といった欠陥を除いた繊維を任意に500本選び出し、繊維の長手方向に直交する線を引いたときの長さを繊維径として直接読み取ることで測定することができる。測定した繊維径の分布からメジアン繊維径を求め、これを本発明の繊維径とする。
【0065】
上述した電界紡糸装置10を用いて電界紡糸法によって製造されたナノファイバ又はその繊維堆積体は、それを集積させた繊維成形体として各種の目的に使用することができる。
成形体の形状としては、シート、綿状体、糸状体などが挙げられる。繊維成形体は、他のシートと積層したり、各種の液体、微粒子、ファイバなどを含有させたりして使用してもよい。
繊維シートは、例えば医療目的や、美容目的、装飾目的等の非医療目的でヒトの肌、歯、歯茎、毛髪、非ヒト哺乳類の皮膚、歯、歯茎、枝や葉等の植物表面等に付着されるシートや、清拭目的において硬質表面の清浄や肌面の清拭に用いられるシートとして好適に用いられる。
また、高集塵性でかつ低圧損の高性能フィルタ、高電流密度での使用が可能な電池用セパレータ、高空孔構造を有する細胞培養用基材等としても好適に用いられる。繊維の綿状体は防音材や断熱材等として好適に用いられる。
【0066】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば、上述した実施形態においては、固化物の除去工程をナノファイバの製造方法の一工程として説明したが、これに限られない。詳細には、上述の説明から明らかなとおり、本開示は、クリーニング機構を用いた固化物の除去方法も提供する。
【0067】
上述した実施形態に関し、本発明は、更に以下の電界紡糸装置及び該装置を用いたナノファイバの製造方法を開示する。
【0068】
<1>
樹脂を含む原料液を吐出するノズルと、該ノズルのクリーニング機構を備え、
前記ノズルと前記クリーニング機構とが相対的に近づいて、該ノズルの先端域が該クリーニング機構における第1の清浄面に接触するとともに、
前記ノズルの先端域が前記クリーニング機構における第2の清浄面に接触しながら、前記ノズルと前記クリーニング機構とが相対的に離間するように構成されている、電界紡糸装置。
【0069】
<2>
前記クリーニング機構における清浄面は弾性材料により構成されている、前記<1>に記載の電界紡糸装置。
<3>
前記弾性材料は、前記清浄面と前記ノズルとの接触によりノズルに押圧され、該押圧によって生じる荷重が弾性変形の範囲内となる性質を有する材料である、前記<2>に記載の電界紡糸装置。
<4>
前記弾性材料は、不織布、織布、編み地、紙、メッシュシート、スポンジ及びゴムから選ばれる1又は2以上である、前記<2>又は<3>に記載の電界紡糸装置。
<5>
前記クリーニング機構は少なくとも1つのロールを備え、
前記ロールは、その回転方向と、前記ノズルの接離方向とが一致するように配されている、前記<1>~<4>のいずれか一に記載の電界紡糸装置。
【0070】
<6>
前記ロールは、その周面に前記ノズルを接触させながら前記ノズルを一方向に移動させることによって回転し、該方向と反対方向に前記ノズルを移動させる際に該ロールが回転しない機構を有する、前記<5>に記載の電界紡糸装置。
<7>
前記ロールは、一方向にのみ回転力を伝達する回転制御機構を備えている、前記<6>に記載の電界紡糸装置。
<8>
前記クリーニング機構は一対のロールを備え、
前記各ロールの軸線が互いに平行に配されており、
前記ノズルと前記クリーニング機構との近接時において、前記ノズルが前記各ロール間に侵入するように構成されている、前記<5>~<7>のいずれか一に記載の電界紡糸装置。
<9>
前記一対のロールの双方は、一方向にのみ回転力を伝達する回転制御機構を備えている、前記<8>に記載の電界紡糸装置。
<10>
前記回転制御機構はスプラグクラッチ又はカムクラッチである、前記<7>又は<9>に記載の電界紡糸装置。
【0071】
<11>
前記クリーニング機構は長手方向と該方向に直交する幅方向を有し、
前記クリーニング機構の長手方向が、前記ノズルの延在方向と直交して配されている、前記<1>~<10>のいずれか一に記載の電界紡糸装置。
<12>
前記クリーニング機構は、一対のロールからなる清浄ユニットが複数組配されており、
前記各ロールは、該各ロールの軸方向と前記長手方向とを一致させて配されている、前記<11>に記載の電界紡糸装置。
<13>
前記ロールは、外力が付与される方向に応じて回転する連れまわりロールである、前記<5>~<8>、<12>のいずれか一に記載の電界紡糸装置。
<14>
前記各ロールの周面が互いに当接している、前記<8>~<10>、<12>のいずれか一に記載の電界紡糸装置。
<15>
前記ロールの周面が、清浄対象となる前記ノズルの先端域が接触する前記清浄面である、前記<5>~<10>、<12>~<14>のいずれか一に記載の電界紡糸装置。
【0072】
<16>
前記クリーニング機構は、少なくとも1つのロールと、弾性伸縮部と、壁部とを備え、
前記ロールは、前記弾性伸縮部を介して前記壁部に保持されている、前記<1>~<15>のいずれか一に記載の電界紡糸装置。
<17>
前記弾性伸縮部はバネ状部材である、前記<16>に記載の電界紡糸装置。
<18>
前記弾性伸縮部の一端が前記ロールの軸部と接続され、前記弾性伸縮部の他端が前記壁部に接続されて、前記ロールが前記壁部に保持されている、前記<16>又は<17>に記載の電界紡糸装置。
<19>
前記ノズルと前記クリーニング機構とを相対的に接離可能に構成する部材としての駆動部を更に備えている、前記<1>~<18>のいずれか一に記載の電界紡糸装置。
<20>
前記駆動部は、前記ノズル及び前記クリーニング機構のうち少なくとも一方に備えられている、前記<19>に記載の電界紡糸装置。
【0073】
<21>
前記駆動部は、前記ノズル又は該ノズルを備える紡糸ユニットに備えられており、
前記駆動部は、静止している前記クリーニング機構に対して前記ノズルを近接又は離間させる構成である、前記<19>又は<20>に記載の電界紡糸装置。
<22>
複数本の前記ノズルを有する、前記<1>~<21>のいずれか一に記載の電界紡糸装置。
<23>
前記<1>~<22>のいずれか一に記載の電界紡糸装置を用い、前記原料液を前記ノズルから吐出して電界紡糸法によって紡糸を行う工程を備えるナノファイバの製造方法であって、
前記紡糸を行った後で且つ前記紡糸を再開する前に、前記ノズルと前記クリーニング機構における清浄面とを接触させて、該ノズルに付着した該原料液の固化物を除去する、ナノファイバの製造方法。
<24>
前記ノズルの先端に露出した原料液滴が乾燥固化した前記固化物を除去する、前記<23>に記載のナノファイバの製造方法。
<25>
前記クリーニング機構は少なくとも1つのロールを備え、
前記ロールの周面と前記ノズルとを接触させることによって、該ノズルに付着した該原料液の固化物を除去する、前記<23>又は<24>に記載のナノファイバの製造方法。
【0074】
<26>
前記固化物を除去する工程を複数回備え、
前記クリーニング機構は、長手方向と該方向に直交する幅方向を有し、
前記固化物の除去が行われた前記クリーニング機構の位置とは異なる位置に、前記ノズルを前記クリーニング機構の長手方向に沿って移動させて前記固化物の除去を行う、前記<23>~<25>のいずれか一に記載のナノファイバの製造方法。
<27>
一対のロールを備え、前記ノズルが近接する前及び離間した後において、前記各ロールの周面どうしが当接した状態となっている前記クリーニング機構を用いて、該ノズルに付着した該原料液の固化物を除去する、前記<23>~<26>のいずれか一に記載のナノファイバの製造方法。
<28>
複数本の前記ノズルを備え、
前記クリーニング機構が、長手方向と該方向に直交する幅方向を有し、該長手方向が前記ノズルの延在方向と直交して配され、且つ
一対のロールを備え、該各ロールの軸方向と前記長手方向とを一致させて配された清浄ユニットが複数組配された電界紡糸装置を用い、
複数本の前記ノズルに付着した該原料液の固化物を一度の工程で除去する、前記<23>~<27>のいずれか一に記載のナノファイバの製造方法。
<29>
前記原料液として樹脂を含む溶液又は溶融液を用いる、前記<23>~<28>のいずれか一に記載のナノファイバの製造方法。
<30>
前記原料液を前記ノズルから吐出して電界紡糸法によって紡糸を行い、円相当直径で表した繊維径が0.1μm以上10μm以下、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下である繊維を得る、前記<23>~<30>のいずれか一に記載のナノファイバの製造方法。
【符号の説明】
【0075】
1 ノズル
1a ノズル先端域
10 電界紡糸装置
20 紡糸ユニット
50 クリーニング機構
51 ロール
A 固化物
C1 第1の清浄面
C2 第2の清浄面
P 近接方向
S 離間方向
X 長手方向
Y 幅方向
Z 接離方向