(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】サンプルショット領域のセットを決定する方法、計測値を得る方法、情報処理装置、リソグラフィ装置、プログラム、および物品製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 9/02 20060101AFI20240828BHJP
G01B 11/00 20060101ALI20240828BHJP
【FI】
G03F9/02
G01B11/00 C
(21)【出願番号】P 2020161328
(22)【出願日】2020-09-25
【審査請求日】2023-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江頭 信一
【審査官】藤田 健
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-232028(JP,A)
【文献】特開2010-040553(JP,A)
【文献】特開2006-108533(JP,A)
【文献】特開平06-349707(JP,A)
【文献】特表2004-531063(JP,A)
【文献】特開2018-060108(JP,A)
【文献】国際公開第2006/019166(WO,A1)
【文献】特開2011-142321(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0228435(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/20
G03F 9/00
G01B 11/00
H01L 21/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の複数のショット領域のうち、マークの位置を実測すべきショット領域であるサンプルショット領域のセットを決定する方法であって、
サンプルショット領域のセットの初期配置を設定する設定工程と、
前記初期配置におけるサンプルショット領域以外のショット領域のうち、推定モデル
により推定されたマークの位置の
誤差の発生確率に基づく前記マークの位置の推定値の不確実性を示す値が所定の閾値を超えるショット領域を、前記サンプルショット領域のセットに追加する追加工程と、
を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
基板の複数のショット領域に対してマークの位置が実測された実測値と前記マークの位置の推定値とに基づいて前記誤差を算出する算出工程を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記算出工程では、前記誤差に基づいて前記複数のショット領域のそれぞれにおける誤差の発生確率を更に算出することを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記推定モデルは、上下レイヤーのオーバーレイ計測値、デバイス製造プロセスパラメータ、リソグラフィ工程で使用されるセンサのパラメータ、および前記サンプルショット領域におけるマークの位置の実測による計測値を含む入力データを入力し、前記サンプルショット領域以外のショット領域のマークの位置の計測値の推定値を出力する、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記推定モデルは、前記サンプルショット領域のマークの位置の実測による計測値を教師データとして入出力の関係性が学習されたモデルである、ことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記推定モデルは、前記教師データから多項式の回帰係数を学習する多項式回帰モデルである、ことを特徴とする請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
前記追加工程は、前記不確実性を示す値が前記閾値を超えるショット領域を抽出し、該抽出されたショット領域のうち前記不確実性を示す値が最も大きいショット領域を前記サンプルショット領域のセットに追加する、ことを特徴とする請求項
6に記載の方法。
【請求項8】
前記追加工程で新たなサンプルショット領域が追加された後に回帰係数の確率分布の事後分布を算出する第1算出工程と、
前記算出された事後分布から、各ショット領域におけるマークの位置の計測値の推定値の不確実性を示す値を算出する第2算出工程と、
を更に有し、前記第2算出工程で算出された不確実性を示す値が前記閾値を超えるショット領域がなくなるまで、前記追加工程、前記第1算出工程、および前記第2算出工程が繰り返し行われる、ことを特徴とする請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
前記マークの位置は、前記基板の表面に平行な方向における前記マークの位置であることを特徴とする請求項1乃至
8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記マークの位置は、前記基板の表面に垂直な方向における前記マークの位置であることを特徴とする請求項1乃至
8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記マークの位置は、上下レイヤーの重ね合わせマーク間の相対位置であることを特徴とする請求項1乃至
8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
決定された前記サンプルショット領域のセットの情報をユーザに通知する通知工程を更に有することを特徴とする請求項1乃至
11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
実測による計測値に対する前記推定値の誤差である推定誤差の平均値を算出する工程と、
前記算出された平均値が所定値を超えるショット領域がある場合に、ユーザに通知を行う工程と、
を更に有することを特徴とする請求項1乃至
12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
決定されたサンプルショット領域のマークの位置の実測による計測値が、前記不確実性を示す値に基づき設定された所定の範囲を超えている場合に、ユーザに通知を行う工程を更に有することを特徴とする請求項1乃至
13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記推定値の不確実性を示す値は、前記推定値の分散を含むことを特徴とする請求項1乃至
14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記回帰係数の確率分布の情報を表示部に表示する工程を更に有することを特徴とする請求項
6乃至
8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
基板の複数のショット領域のそれぞれのマークの位置の計測値を得る方法であって、
請求項1乃至
16のいずれか1項に記載の方法によって決定されたサンプルショット領域のセットにおける各サンプルショット領域のマークの位置を計測し、
前記推定モデルを用いて、前記サンプルショット領域のセットにおける各サンプルショット領域のマークの計測結果に基づいて、サンプルショット領域のセットに含まれない各ショット領域のマークの位置の計測値を推定する、
ことを特徴とする方法。
【請求項18】
基板の複数のショット領域のうち、マークの位置を実測すべきショット領域であるサンプルショット領域のセットを決定する情報処理装置であって、
処理部を有し、前記処理部は、
サンプルショット領域のセットの初期配置を設定し、
前記初期配置におけるサンプルショット領域以外のショット領域のうち、推定モデル
により推定されたマークの位置の
誤差の発生確率に基づく前記マークの位置の推定値の不確実性を示す値が所定の閾値を超えるショット領域を、前記サンプルショット領域のセットに追加する、
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項19】
請求項
17に記載の方法により得られたマークの位置の計測値に基づいて基板を位置決めする基板ステージを有することを特徴とするリソグラフィ装置。
【請求項20】
請求項1乃至
17のいずれか1項に記載の方法の各工程をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項21】
請求項
19に記載のリソグラフィ装置を用いて基板にパターンを形成する工程と、
前記パターンが形成された基板を加工する工程と、
を有し、前記加工された基板から物品を製造することを特徴とする物品製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンプルショット領域のセットを決定する方法、計測値を得る方法、情報処理装置、リソグラフィ装置、プログラム、および物品製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デバイスの微細化、高集積化に伴い、デバイスの位置合わせ(以下、アライメント)精度向上の要求が高まっている。アライメント精度の向上には、アライメントのずれ(以下、オーバーレイ)を高精度に検査しそれに基づいてオフセットを制御する必要があるため、オーバーレイ検査の高精度化への要求も高まっている。
【0003】
しかし、アライメントやオーバーレイ検査を高精度に実施するには、計測対象物(ウエハ、パネル等。以下、基板)上の計測点数を増やす必要があるが、計測点数の増加は、計測、検査時間の増加につながり、生産性が落ちてしまう、という問題がある。これに対し、特許文献1、2では、Virtual Metrologyシステムが提案されている。このシステムは、装置動作時の各種センサのデータ、デバイス製造プロセスでの動作ログ、基板を処理した装置種別等に基づく統計モデルを用いて、実際に計測・検査していない点の値を推定する。これにより、仮想的に計測点数を増加させることが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2018/133999号
【文献】米国特許第10545412号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
Virtual Metrologyシステムにより、計測点数の削減は可能となるが、現状において、計測点数をどのように削減するかというところはトライアンドエラーで実施されており、明確な手法は確立されていない。
【0006】
本発明は、例えば、基板の位置合わせの精度向上に有利な、基板における計測位置を決定する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面によれば、基板の複数のショット領域のうち、マークの位置を実測すべきショット領域であるサンプルショット領域のセットを決定する方法であって、サンプルショット領域のセットの初期配置を設定する設定工程と、前記初期配置におけるサンプルショット領域以外のショット領域のうち、推定モデルにより推定されたマークの位置の誤差の発生確率に基づく前記マークの位置の推定値の不確実性を示す値が所定の閾値を超えるショット領域を、前記サンプルショット領域のセットに追加する追加工程と、を有することを特徴とする方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、基板の位置合わせの精度向上に有利な、基板における計測位置を決定する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図4】基板上のサンプルショット領域のレイアウトの例を示す図。
【
図5】各サンプルショット領域のアライメント計測値をベクトル表現で示した図。
【
図6】各ショット領域の仮想的なアライメント計測値をベクトル表現で示した図。
【
図7】アライメント計測値を推定するVirtual Metrologyシステムの構成例を示す図。
【
図8】アライメント計測値の推定モデルの学習時のデータフローを示す図。
【
図9】各ショット領域における、アライメント計測値の推定誤差の確率分布の分散を例示する図。
【
図10】分散に基づき選択されたサンプルショット領域の例を示す図。
【
図11】サンプルショット領域の決定処理のフローチャート。
【
図12】初期サンプルショット領域の位置および分散の例を示す図。
【
図13】決定処理後のサンプルショット領域の位置および分散の例を示す図。
【
図14】オーバーレイ計測値を推定するVirtual Metrologyシステムの構成例を示す図。
【
図15】オーバーレイ計測値の推定モデルの学習時のデータフローを示す図。
【
図16】サンプルショット領域の決定処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0011】
本発明は、基板の位置合わせの精度向上に有利な、基板における計測点の位置を決定する技術を提供するものであり、以下ではそのような技術が適用されたリソグラフィ装置について説明する。以下では1つの具体例として、本発明がリソグラフィ装置の一例である露光装置に適用された例を説明する。ただし、リソグラフィ装置は露光装置に限らず、他のリソグラフィ装置であってもよい。例えば、リソグラフィ装置は、荷電粒子線で基板(の上の感光剤)に描画を行う描画装置であってもよい。あるいは、リソグラフィ装置は、基板上のインプリント材を型で成形して基板にパターンを形成するインプリント装置であってもよい。
【0012】
<第1実施形態>
図1は、実施形態に係る露光装置1の構成を示す図である。露光装置1は、投影光学系3と、基板チャック5と、基板ステージ6と、アライメント検出光学系7とを有する。レチクルともよばれる原版2には、基板4に転写されるべきパターン(例えば回路パターン)が描画されており、原版2は、不図示の原版ステージによって支持されている。投影光学系3は、パターン(例えば回路パターン)が描画された原版2を基板4に投影する。基板チャック5は、前工程で下地パターンおよびアライメントマークが形成された基板4を保持する。
【0013】
基板4には、
図4に示すように、原版2のパターンの転写領域である複数のショット領域41が格子状に配列されている。各ショット領域には、前工程で転写(形成)された下地パターンおよびアライメントマークが形成される。各ショット領域には通常、同一のパターンが形成される。また、複数のショット領域41のうち、所定のショット領域43には、ラフなアライメントであるプリアライメントで用いられるプリアライメントマーク11が形成されている。また、複数のショット領域41のうちサンプルショット領域42として予め定められた領域には、ファインアライメントで用いられるファインアライメントマーク12が形成されている。
【0014】
基板ステージ6は、基板4を所定の位置に位置決めする。アライメント検出光学系7は、基板4上のアライメントマークを撮像してマークの画像を得る撮像部を含みうる。制御部Cは、露光処理のために各部を統括的に制御する。制御部Cは、CPUおよびメモリを含む情報処理装置(コンピュータ)によって実現されうる。このようなコンピュータは、各種情報を表示する表示部を有していてもよい。実施形態において、制御部Cは、アライメント検出光学系7により得られた画像を処理してマークの位置を求める処理を行う処理部としても機能しうる。
【0015】
一例において、制御部Cは、アライメント検出光学系7を用いて原版2と基板4との相対的な位置を検出し、その検出結果に基づいて基板ステージ6を制御することにより、アライメントが行われる。その後、制御部Cは不図示の照明光学系に露光光を射出させ、これにより、投影光学系3は、原版2に描画されたパターンを基板4に投影する。
【0016】
図2には、アライメント検出光学系7の構成が示されている。光源8からの照明光は、ビームスプリッタ9で反射し、レンズ10を通り、基板4上のアライメントマーク11を照明する。アライメントマーク11からの回折光は、レンズ10、ビームスプリッタ9、レンズ13を通り、センサ14上にアライメントマーク11の像を形成する。センサ14は、形成された像を画像信号に光電変換し、その画像信号を制御部Cへ伝送する。制御部Cは、受信した画像信号に対して位置検出処理を行ってアライメントマークの位置を計測する。制御部Cは、このようなマーク位置計測を、後述する基板4における複数のサンプルショット領域上の計測点に対して行い、Virtual Metrology技術によりサンプルショット領域以外のショット領域におけるマークの位置の仮想的な計測値を得る。制御部Cは、こうして得られた各ショット領域の計測値に基づいて、基板ステージ6の位置を原版2に対して合わせる。
【0017】
以下、
図3のフローチャートを参照して、露光装置1が基板をアライメントし、露光するまでの一連の工程を説明する。S301で、基板4が露光装置1に搬入され、基板4は基板チャック5によって保持される。
【0018】
S302では、プリアライメント計測が行われる。プリアライメント計測では、アライメント検出光学系7により基板上のプリアライメントマーク11の位置が検出される。アライメント検出光学系7によるプリアライメントマーク11の検出は、プリアライメントマーク11が形成されている複数のプリアライメント用のショット領域で行われる。制御部Cは、それらの検出結果に基づいて、基板全体のシフトと1次線形成分(倍率・回転)を算出する。
【0019】
次に、S303で、制御部Cは、ファインアライメントのために最適化されたサンプルショット領域の配置を設定する。サンプルショット領域は、基板の複数のショット領域のうち、マークの位置を実測すべきショット領域であり、サンプルショット領域のセットがどのように決定されているのかについては後述する。
【0020】
その後、S304で、ファインアライメント計測が行われる。ファインアライメント計測において、制御部Cは、プリアライメント計測結果に基づき、ファインアライメントマーク12をアライメント検出光学系7で観察可能な位置に基板ステージ6を駆動する。その後、制御部Cは、アライメント検出光学系7を用いて、サンプルショット領域のファインアライメントマーク12の位置を計測する。
【0021】
S305で、制御部Cは、マークの位置の計測値(以下「アライメント計測値」という。)の推定モデルを用いて、サンプルショット領域以外のショット領域のアライメント計測値を推定する。すなわち、サンプルショット領域以外のショット領域については実測する必要がない。サンプルショット領域の実測と、それ以外のショット領域のアライメント計測値の推定により、基板上のすべてのショット領域の精密なアライメント計測値を得ることができる。
【0022】
S306で、制御部Cは、ショット領域毎に、S304およびS305で得られたファインアライメント計測結果に基づき基板ステージ6を駆動し、原版2のパターンを投影光学系3を介して基板上に投影し、基板を露光する。その後、S307で、露光済みの基板が搬出される。
【0023】
制御部Cは、基板4に歪が発生している場合に、高次の変形成分を補正する機能を有する。その機能について説明する。ここでは、3次多項式のモデル例を示すが、補正モデルは本実施例のものに限定せず、任意の次数モデルを使用してもいいし、多項式以外の他のモデルを使用してもよい。
【0024】
基板変形を3次多項式モデルで表す場合の、各ショット領域の補正値 (ShiftX, ShiftY) は、次の式1により表される。
【0025】
ShiftX = k1+k3x+k5y
+ k7x2+k9xy
+ k11y2+k13x3
+ k15x2y+k17xy2
+ k19y3,
ShiftY = k2+k4y+k6x
+ k8y2+k10xy
+ k12x2+k14y3
+ k16xy2+k18x2y
+ k20x3 (式1)
ただし、x,yは、基板面内のショット領域の位置を表す。制御部Cは、実際の各ショット領域のアライメント計測値から回帰係数k1~k20を求め、それによって補正値を算出する。
【0026】
例えば、実際の計測データを取得するために、基板上の一部のショット領域のアライメント計測が実施されうる。このときに使用されるショット領域をサンプルショット領域という。
図4の例には、14個のサンプルショット領域を含むサンプルショット領域のセットが設定されている。高次の基板変形成分を補正する場合には、より多くのサンプルショット領域の数が必要となる。しかし、サンプルショット領域の数の増加は、アライメント計測時間とのトレードオフになるため、デバイスの生産性も考慮してサンプルショット領域の数が決められる。
【0027】
次に、Virtual Metrologyシステムについて説明する。なお、ここで示すモデル構造は一例であり、本発明はこのモデルに限定されるものではない。
【0028】
ここでは、サンプルショット領域のセットは、
図4に示されるように決められているものとする。アライメント計測の実測は、サンプルショット領域でのみ実施される。
図5は、各サンプルショット領域で得られたアライメント計測値dx,dyをベクトル表現で示したものである。それぞれのベクトルは、各サンプルショット領域でのアライメント計測値に対応している。制御部Cは、実際には計測していないショット領域(すなわちサンプルショット領域以外のショット領域)のアライメント計測値を、各種データを使って推定し、
図6に示されるような仮想的なアライメント計測値を得る。これが、Virtual Metrologyシステムの概要である。
【0029】
以下、その推定機能について説明する。
図7に、Virtual Metrologyシステムの構成例を示す。このシステムにおいて、以下のデータが、アライメント計測値の推定モデル200への入力データとされる。
・前工程のオーバーレイ計測値101(上下レイヤーのオーバーレイ計測値)、
・デバイス製造プロセスパラメータ102、
・露光装置センサデータ103、
・実測により得られたサンプルショット領域のアライメント計測値であるサンプリングアライメント計測値104。
【0030】
デバイス製造プロセスパラメータ102は例えば、基板を処理したデバイス製造装置のID、デバイス製造時に発生した基板の反り量、基板にレジスト剤を塗布した際の装置パラメータ等の、デバイス製造に関するパラメータを含みうる。露光装置センサデータ103は例えば、基板ステージが基板を吸引固定する際の圧力値、基板温調時の基板温度、露光装置内で発生した露光熱負荷の履歴、アライメント計測時のマーク画像データ等を含みうる。サンプリングアライメント計測値104は、
図5に示されたサンプルショット領域でのアライメント計測値に相当する。
【0031】
これらの入力データに基づいて、アライメント計測値の推定モデル200が、サンプルショット領域以外のショット領域のアライメント計測値を推定し、各ショット領域のアライメント計測値の推定値300を出力する。推定値300をベクトル表現で示すと、
図6のようになる。推定モデル200は、事前に機械学習等によって入出力の関係性が学習されたモデルである。
【0032】
図8に、推定モデル200の学習時のデータフローを示す。学習時は、実際にアライメント計測をしたショット領域のアライメント計測値である実測値400を教師データとして、推定モデル内部のパラメータを学習させる。教師データである実測値400の形式は推定値300と同様であり、すなわち、
図6に示すような計測値の形式である。
【0033】
このように学習された推定モデル200を用いて、アライメント計測をしていないショット領域(サンプルショット領域以外のショット領域)のアライメント計測値が推定される。これにより、高次の基板変形成分の補正が実現され、高精度なアライメントを行うことが可能になる。
【0034】
次に、実施形態におけるサンプルショット領域の決定方法について説明する。制御部Cは、推定モデル200の学習に使用された複数の基板に対するデータから、各ショット領域の推定値300の推定誤差を算出する。推定誤差は、実測値と推定値との差分である。次に、制御部Cは、各ショット領域における推定誤差のデータ間分布(推定誤差分布)を算出する。この分布は、推定誤差の発生確率の分布を表しており、そのショット領域における推定値の不確かさを表現している。例えば、推定誤差分布の分散を使うと、分散は、
図9に示すような形で表現されうる。楕円の横方向の径は、x方向のアライメントずれ量dxの推定誤差分布の分散を示し、楕円の縦方向の径は、y方向のアライメントずれ量dyの推定誤差分布の分散を示している。この例では、基板の外周に近いほど推定誤差分布の分散が大きい傾向があり、推定値の不確かさが高いことが分かる。推定モデルの推定精度を高めるためには、推定誤差分布の分散(推定値の不確かさ)が大きいショット領域をアライメント計測を実際に行うサンプルショット領域として選択するのが有利である。そこで本実施形態では、推定誤差分布の分散が所定の閾値を超えるショット領域がサンプルショット領域として選択される。
【0035】
図10に、推定誤差分布の分散が所定の閾値を超えることにより選択されたサンプルショット領域の例を示す。ここで、推定誤差分布の分散(推定値の不確かさ)が大きいショット領域が隣接している場合、どちらのショット領域もサンプルショット領域として選択されることになる。以下では、このような場合により少ない数のサンプルショット領域の選択で期待する効果を実現する手法について説明する。
【0036】
ここでは、例として、推定モデルが多項式回帰モデルである例を示す。この多項式回帰モデルは、教師データから推定モデルを学習する際に、多項式の回帰係数を学習する。例えば3次多項式の場合、多項式回帰モデルは、上記した式1の各回帰係数k
1~k
20を学習する。ただし、1次線形成分であるk
1~k
6は、サンプルショット領域の実アライメント計測時に実計測値で補正可能な成分である。そのため実際には、多項式回帰モデルは、それらの係数を除いたk
7~k
20までの回帰係数を学習することになる。その際に、制御部Cは、各教師データにおける回帰係数から回帰係数の分布を計算する。そして、制御部Cは、その回帰係数の分布に基づいて、基板上の各ショット領域におけるアライメント計測値の推定値の分布を算出する。これにより、多項式回帰モデルの出力値としての、アライメント計測値の推定値の分布が求まる。制御部Cは、これを使ってサンプルショット領域を変更する。以下、
図11のフローチャートを参照して、サンプルショット領域の決定処理を説明する。
【0037】
S200で、制御部Cは、最小のサンプルショット領域の数を決定する。例えば3次多項式の場合、2次以降の係数は、xとyに対してそれぞれ7個ある。具体的には、xに対する2次以降の係数は、k7, k9, k11, k13, k15, k17, k19である。yに対する2次以降の係数は、k8, k10, k12, k14, k16, k18, k20である。そのため、この場合、最小のサンプルショット領域の数を7個とする。
【0038】
S201で、制御部Cは、サンプルショット領域のセットの初期配置を設定する。これは、現状使用しているサンプルショット領域の位置をそのまま使用してもよいし、偏った配置にならなければ、教師データから算出されるアライメント計測値の推定値の分散が大きいショット領域から順に選択してもよい。
図12に、7個のサンプルショット領域を選んだ場合の、アライメント計測値の推定値の分散の例を示す。
【0039】
S202で、制御部Cは、初期配置におけるサンプルショット領域以外のショット領域のうち、推定モデルを用いたアライメント計測値の推定値の分散が所定の閾値を超えるショット領域が存在するかを確認する。閾値を超えるショット領域が存在しない場合は、この決定処理は終了する。閾値を超えるショット領域が存在する場合は、閾値を超えるショット領域がサンプルショット領域のセットに追加される。実施形態では、S203以降で以下のような処理が行われる。
【0040】
S203で、制御部Cは、分散が所定の閾値を超えるものとして抽出されたショット領域のうち分散が最も大きいショット領域をサンプルショット領域のセットに追加する。次にS204で、制御部Cは、学習時に得られている回帰係数の確率分布を事前分布情報として取得する。S205で、制御部Cは、現時点で選択されているサンプルショット領域の計測値をアライメント計測値の推定値の最尤値とした際の、回帰係数の確率分布の事後分布を算出する(第1算出工程)。事後分布の算出には、例えばベイズ推論が使用されうる。ベイズ推論の詳細については省略するが、事前分布に追加の観測データが得られた際の事後分布の算出には、以下の式2が使用されうる。
【0041】
p(θ|D) = p(D|θ)p(θ)/p(D) (式2)
ただし、θは、モデルパラメータ、
Dは、観測データ、
p(θ|D)は、追加の観測データDが得られた際のモデルパラメータθの事後分布、
p(D|θ)は、モデルパラメータθから観測データDが発生する確率を表す尤度関数、
p(θ)は、モデルパラメータθの事前分布、
p(D)は、観測データDの周辺尤度、である。
【0042】
なお、周辺尤度p(D)が解析的に計算可能でない場合、事後分布p(θ|D)の計算には、例えば、サンプリング手法であるMCMC (Markov chain Monte Carlo) 法を使用することができる。あるいは、この計算には、近似確率分布を使って解析的に計算する変分推論などの近似推論を使用することもできる。
【0043】
S206では、制御部Cは、最後に算出した回帰係数の事後分布から、各ショット領域のアライメント計測値の推定値(以下「アライメント推定値」ともいう。)の分散を算出する(第2算出工程)。
図13に、このときの分散の例を示す。
図13では、
図12の初期配置に対して、サンプルショット領域Aが追加されており、これにより、サンプルショット領域A近傍の分散(不確実性)を低くすることができている。
【0044】
その後、処理はS202に戻る。S202で、制御部Cは再び、現時点で選択されているサンプルショット領域の他にアライメント計測値の推定値の分散が所定の閾値を超えるショット領域が存在するかを確認する。こうして、分散が所定の閾値を超えるショット領域がなくなるまで、S202~S206が繰り返される。S202で分散が所定の閾値を超えるショット領域がなくなったことが確認されれば、処理は終了する。これにより、期待する精度の推定が可能なモデルが得られる。
【0045】
なお、サンプリングアライメント計測値104以外の入力データ(オーバーレイ計測値101、デバイス製造プロセスパラメータ102、露光装置センサデータ103)を含むモデルの場合は、各データを、学習時データの最尤値として扱ってもよい。あるいは、実際の推定処理時に入力データが得られたタイミングで、実データを用いてもよい。
【0046】
なお、上述の説明では、サンプルショット領域におけるアライメントマークは、サンプルショット領域の1点に配置されたものとして説明したが、これに限定されない。サンプルショット領域内に複数点のアライメントマークを含み、それらを計測することでサンプルショット領域の形状も表現したモデルが使用されてもよい。また、サンプルショット領域に関連する計測値を基板の表面に平行な方向であるx,y方向のマークの位置(ずれ量)を表すアライメント計測値として説明したが、これに限定されない。x,y方向のずれ量を、基板の表面に垂直な方向であるz方向のずれ量を表す各ショット領域のフォーカス計測値などに置き換えてもよい。
【0047】
また、推定モデルは、例えば、ニューラルネットワークにより構成されてもよい。ここで、ニューラルネットワークとは、入力層、中間層、出力層といった多層のネットワーク構造を有するモデルである。推定モデルの学習時において、入力データと教師データとの関係を示す学習データを用いて、誤差逆伝播法等のアルゴリズムでニューラルネットワーク内部の結合重み付け係数等が最適化される。誤差逆伝播法は、出力データと教師データとの誤差が小さくなるように、各ニューラルネットワークのノード間の結合重み付け係数等を調整する手法である。
【0048】
また、上述の方法により決定されたサンプルショット領域のセットの情報を、例えば表示部に表示することにより、ユーザに通知するようにしてもよい。
【0049】
<第2実施形態>
第2実施形態では、基板の上下レイヤーの重ね合わせマーク間の相対位置であるオーバーレイ計測値を推定するVirtual Metrologyシステムについて説明する。
【0050】
図14に、第2実施形態に係るオーバーレイ計測値を推定するVirtual Metrologyシステムの構成例を示す。このシステムにおいて、以下のデータが、オーバーレイ計測値の推定モデル210への入力データとされる。
・アライメント推定値111、
・デバイス製造プロセスパラメータ112、
・露光装置センサデータ113、
・オーバーレイ検査パラメータ114。
【0051】
アライメント推定値111は、第1実施形態の推定モデル200の出力データである推定値300でありうる。あるいは、アライメント推定値111は、推定値300の基礎となった、第1実施形態の推定モデル200の入力データを、そのまま推定モデル210への入力として使用してもよい。デバイス製造プロセスパラメータ112は例えば、露光装置で露光された基板を処理する現像装置のID、計測パラメータ、使用する原版のパターン情報等を含みうる。露光装置センサデータ113は例えば、基板ステージ、原版ステージの制御偏差、装置内温調時の装置内温度、装置内の加速度計の計測値等を含みうる。オーバーレイ検査パラメータ114は例えば、オーバーレイ検査装置の計測信号や装置ログ等を含みうる。
【0052】
これらの入力データに基づいて、オーバーレイ計測値の推定モデル210が、各ショット領域のオーバーレイ計測値を推定し、各ショット領域のオーバーレイ計測値の推定値310を出力する。推定モデル210は、事前に機械学習等によって入出力の関係性が学習されたモデルである。
【0053】
図15に、推定モデル210の学習時のデータフローを示す。第2実施形態では、オーバーレイ計測が実施されるショット領域をサンプルショット領域という。学習時は、実際にオーバーレイ計測をしたショット領域のオーバーレイ計測値である実測値410を教師データとして、推定モデル内部のパラメータを学習させる。
【0054】
このように学習された推定モデル210を用いて、オーバーレイ計測をしていないショット領域(サンプルショット領域以外のショット領域)のオーバーレイ計測値が推定される。これにより、オーバーレイ検査の頻度を減らすことができ、生産性が向上する。
【0055】
なお、サンプルショット領域の決定方法は、第1実施形態におけるアライメント計測値をオーバーレイ計測値に置き換えた形となるだけのため、詳細は省略する。本実施形態においても、第1実施形態と同様の手順によって、サンプルショット領域の最適化が可能となる。
【0056】
<第3実施形態>
第3実施形態では、露光装置1は、推定モデルの表現力が低い場合にユーザに通知する機能を有する。この機能は、第1実施形態のアライメント計測値の推定モデル、第2実施形態のオーバーレイ計測値の推定モデルのどちらにも適用可能である。以下では一例として、第1実施形態のアライメント計測値の推定モデルを例に説明する。
【0057】
図16のフローチャートを参照して、本実施形態におけるサンプルショット領域の決定処理を説明する。
図11のフローチャートと同じ処理ステップには同じ参照符号を付し、それらの説明は省略する。
図16のフローチャートでは、S202とS203との間に、S207が追加されている。S207では、制御部Cは、ショット領域毎に、実測による計測値に対する推定値の誤差である推定誤差の平均値を算出し、その平均値が所定値を超えるショット領域があるかどうかを判定する。推定誤差の平均値が所定値を超えるショット領域がある場合は、基板面内のアライメント計測値の推定において、現在使用中の推定モデルでは表現できない誤差が発生している状態であり、モデルの表現力が不足していると判断される。その場合、S208で、制御部Cは、モデルの表現力が不足していることをユーザへ通知する。通知は例えば、モデルの表現力が不足している旨のメッセージを表示部に表示することにより行われる。音声等によって通知が行われてもよい。これにより、ユーザは、推定モデルの修正が必要なタイミングを把握することができる。
【0058】
<第4実施形態>
第4実施形態では、露光装置は、計測値の異常検知機能を有する。アライメント計測値の推定モデルの分布から、各ショット領域でのアライメント計測値が通常取り得る範囲が経験的に分かる。そこで、制御部Cは、各サンプルショット領域でアライメント計測を実施したとき(S304)に得られた計測値が、推定モデルから算出されるアライメント計測値の推定値の分布の分散に基づき設定された所定の範囲内にあるかどうかを判定する。制御部Cは、計測値がその範囲を超えている場合、その計測値を計測異常値として判定する。
【0059】
計測異常値が検出された場合、制御部Cは、そのことをユーザへ通知することができる。通知は例えば、計測異常値が検出された旨のメッセージを表示部に表示することにより行われる。音声等によって通知が行われてもよい。これにより、ユーザは、推定モデルの修正が必要なタイミングを把握することができる。
【0060】
<第5実施形態>
第5実施形態では、第1実施形態のアライメント計測値の推定モデル、または、第2実施形態のオーバーレイ計測値の推定モデルで求めた、基板面内における各ショット領域の位置での回帰係数の確率分布が、マップとしてGUI上に表示される。表示する際の表現としては、例えば
図9のような形でありうる。これにより、ユーザは、不確実性が高いショット領域に着目した工程改善アクションを実施するタイミングを把握することができる。
【0061】
<物品製造方法の実施形態>
本発明の実施形態における物品製造方法は、例えば、半導体デバイス等のマイクロデバイスや微細構造を有する素子等の物品を製造するのに好適である。本実施形態の物品製造方法は、上記のリソグラフィ装置(露光装置やインプリント装置、描画装置など)を用いて基板に原版のパターンを転写する工程と、かかる工程でパターンが転写された基板を加工する工程とを含む。更に、かかる製造方法は、他の周知の工程(酸化、成膜、蒸着、ドーピング、平坦化、エッチング、レジスト剥離、ダイシング、ボンディング、パッケージング等)を含む。本実施形態の物品製造方法は、従来の方法に比べて、物品の性能・品質・生産性・生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。
【0062】
(他の実施形態)
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読み出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0063】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0064】
1:露光装置、2:原版、3:投影光学系、4:基板、5:基板チャック、6:基板ステージ、7:アライメント検出光学系、C:制御部(処理部)