(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】軟磁性材料、軟磁性材料の製造方法および電動機
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240828BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20240828BHJP
C21D 6/00 20060101ALI20240828BHJP
C21D 8/12 20060101ALI20240828BHJP
【FI】
C22C38/00 303S
H01F1/147
C21D6/00 C
C21D8/12 F
(21)【出願番号】P 2020164922
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】品川 一矢
(72)【発明者】
【氏名】小室 又洋
(72)【発明者】
【氏名】浅利 裕介
(72)【発明者】
【氏名】寺田 尚平
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-007332(JP,A)
【文献】特開平03-244108(JP,A)
【文献】特表2018-509756(JP,A)
【文献】特開平06-267722(JP,A)
【文献】国際公開第2021/131162(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
H01F 1/147
C21D 6/00
C21D 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
FeとCoを合計で90質量%以上含む
FeCo基合金からなる軟磁性材料であって、
含有成分が、Fe:50質量%以上、Co:
0質量%超40質量%以下、
N:0質量%超1.2質量%以下、C:0.1質量%以下、Ni:2.0質量%以下、Mn、Si、Cr、Ti、NbおよびV:
それぞれ0.2質量%以下および不可避不純物であり、
Fe
16
N
2
またはFe
8
Nの析出物を含
み、該析出物の平均粒径が2~20nmであり、
前記軟磁性材料の20℃における飽和磁束密度が2.2T以上である、
ことを特徴とする軟磁性材料。
【請求項2】
前記析出物の数密度が100個/μm
2以上であることを特徴とする請求項1に記載の軟磁性材料。
【請求項3】
前記軟磁性材料に含まれる面心立方晶の体積率が5%以下であることを特徴とする請求項1に記載の軟磁性材料。
【請求項4】
含有成分が、Co:0質量%超40質量%以下、C:0.1質量%以下、Ni:2.0質量%以下、Mn、Si、Cr、Ti、NbおよびV:それぞれ0.2質量%以下、残部がFeおよび不可避不純物であり、前記Feと
前記Co
とを合計で90質量%以上含む
FeCo基合金からなる軟磁性材料原料を窒素雰囲気中で熱処理
してN濃度を0質量%超1.2質量%以下とする窒素導入・拡散熱処理工程と、
前記窒素導入・拡散熱処理工程を経た前記軟磁性材料原料を急冷する冷却工程と、
前記冷却工程後の前記軟磁性材料原料を、引張応力をかけながらアニールするテンションアニール工程と、を有
し、
前記テンションアニール工程によって前記冷却工程後の前記軟磁性材料原料にFe
16
N
2
またはFe
8
Nを析出させて、20℃における飽和磁束密度が2.2T以上となる軟磁性材料とする、
ことを特徴とする軟磁性材料の製造方法。
【請求項5】
前記窒素導入・拡散熱処理工程における前記熱処理は、600℃以上1200℃以下で24時間以下保持することを特徴とする請求項
4に記載の軟磁性材料の製造方法。
【請求項6】
前記冷却工程は、100℃/s未満の冷却速度で実施することを特徴とする請求項
4に記載の軟磁性材料の製造方法。
【請求項7】
前記テンションアニール工程は、100℃以上200℃以下、24時間以下および引張応力100MPaで実施することを特徴とする請求項
4に記載の軟磁性材料の製造方法。
【請求項8】
前記テンションアニール工程後の前記軟磁性材料に含まれる面心立方晶の体積率が5%以下であることを特徴とする請求項
4に記載の軟磁性材料の製造方法。
【請求項9】
請求項1から
3のいずれか1項に記載の前記軟磁性材料を用いたことを特徴とする電動機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性材料、軟磁性材料の製造方法および電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
バルク合金の中で最も飽和磁束密度が高い材料はFeCo系合金である。合金元素として使用されるCoのコストが高いため、材料を構成する元素としてCoに代わる元素が望まれていた。薄膜でFeCo合金と同等の飽和磁束密度(以下Bsと略す)を示す材料としてFe系マルテンサイトがある。Fe系マルテンサイトの中でもFe16N2を主成分とする薄膜または箔でBsが2.4Tを超えることが知られている。
【0003】
特許文献1には、規則マルテンサイト窒化鉄粉末を製造する方法が開示されている。特許文献2には、Fe16N2のN(窒素)の一部がC,BまたはOの少なくとも1種で置換された磁性材料が開示されている。また、特許文献3には、Feを主成分としグラファイトで被覆された金属微粒子が開示され、特許文献4にはα-Fe相とFe16N2相の混相から構成される高飽和磁化Fe-N系磁性体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2015-507354号公報
【文献】特表2017-530547号公報
【文献】特開2007-046074号公報
【文献】特開2001-176715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、FeCo系合金におけるCoを他の元素に置換しようとすると、Coの低減とともに飽和磁束密度も低減するという課題があった。
【0006】
したがって、本発明の目的は、FeCo基合金からなる軟磁性材料において、Coを低減して高飽和密度を達成できる軟磁性材料および軟磁性材料の製造方法を提供することにある。また、本発明の軟磁性材料を用いた電動機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の軟磁性材料の一態様は、FeとCoを合計で90質量%以上含む軟磁性材料であって、含有成分が、Fe:50質量%以上、Co:40質量%以下、C:0.1質量%以下、Ni:2.0質量%以下、Mn、Si、Cr、Ti、NbおよびV:0.2質量%以下および不可避不純物であり、鉄と窒素の化合物の析出物を含むことを特徴とする軟磁性材料である。
【0008】
また、本発明の軟磁性材料の製造方法の一態様は、FeとCoを合計で90質量%以上含む軟磁性材料原料を窒素雰囲気中で熱処理する窒素導入・拡散熱処理工程と、窒素導入・拡散熱処理工程を経た軟磁性材料原料を急冷する冷却工程と、冷却工程後の前記軟磁性材料原料を引張応力をかけながらアニールするテンションアニール工程と、を有することを特徴とする軟磁性材料の製造方法である。
【0009】
また、本発明の電動機は、上記軟磁性材料を用いた電動機である。
【0010】
本発明のより具体的な構成は、特許請求の範囲に記載される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、FeCo基合金からなる軟磁性材料において、Coを低減して高飽和密度を達成できる軟磁性材料、軟磁性材料の製造方法および電動機を提供することができる。
【0012】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の軟磁性材料の製造方法の一例を示すフロー図
【
図2】実施例1の軟磁性材料のTEM観察写真と電子回折パターン
【
図4】比較例4の軟磁性材料のTEM観察写真と電子回折パターン
【発明を実施するための形態】
【0014】
上述したように、本発明の軟磁性材料は、FeとCoを合計で90質量%以上含む軟磁性材料であって、含有成分が、Fe:50質量%以上、Co:40質量%以下、C:0.1質量%以下、Ni:2.0質量%以下、Mn、Si、Cr、Ti、NbおよびV:0.2質量%以下および不可避不純物であり、鉄と窒素の化合物の析出物を含む。この析出物は、高飽和磁束密度を発現するFe16N2またはFe8Nを含む。このような窒化物の析出物は、FeCo合金をテンションアニールすることで得られる。
【0015】
上記の軟磁性材料において、面心立方晶を有するγ相の体積率が5%以下であることが望ましい。γ相は非磁性であるため、この相の体積率の増大によって磁束密度が低下する。
【0016】
γ相の増大を防止する方法としては、上記の組成範囲の材料を製造すること、また、製造過程において生成したγ相を飽和磁束密度の高いα相もしくはα´相に変態させることが挙げられる。この製造方法としては、材料中に窒素を導入する熱処理後の冷却において、液体窒素に浸漬して急激に冷却するサブゼロ処理が挙げられる。
【0017】
また、冷却後に後述する低飽和磁束密度で面心立方構造を有する窒化物Fe4Nが生成しない条件での焼戻し処理により、α相およびα´相、高い飽和磁束密度を有するFe8NもしくはFe16N
2
相に分解する方法も有効である。
【0018】
上記のFe窒化物には高い飽和磁束密度を有するFe8NもしくはFe16N2と低い飽和磁束密度を有するFe4Nがある。高い飽和磁束密度を実現するためには、Fe4Nの生成を防止する必要がある。このためには、窒素を導入する熱処理の後に実施する冷却過程において、十分に速い速度で材料を冷却する必要がある。Fe4Nは冷却速度が不十分であった場合に、窒素原子が拡散しFeと結合することで生成するためである。
【0019】
高い飽和磁束密度を有するFe8NもしくはFe16N2の生成を増大させる方法として、冷却後に適正な条件での焼戻し処理が挙げられる。Fe8NもしくはFe16N2の生成に適した条件は不明な点が多いが、上記窒素の濃度範囲0.01~1.2質量%でかつ十分な冷却速度によって得られるα相またはα´相であることが望ましい。これは、α´相では導入される転位が多く高歪な状態であるため核生成しやすく、低温の焼戻し温度においても多量のFe8NまたはFe16N2を短時間で生成できるためである。この歪は、冷却及び相変態に伴って生成するものだかでなく、外部から引張や圧縮で導入されるものであっても良い。
【0020】
以下、本発明の軟磁性材料とその製造方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
[軟磁性材料の含有成分]
まず始めに、上述した本発明の軟磁性材料の含有成分について説明する。
【0022】
Fe(鉄):50質量%以上
Feは軟磁性材料のベースのとなる元素である。軟磁性材料の飽和磁束密度2.2T以上を実現させるためには、体心立方構造のα相と体心正方構造のα´とFe8NおよびFe16N
2
窒化物が必要となるため、これらを生成するために十分な50質量%以上であることが望ましい。
【0023】
Co(コバルト):40質量%以下
CoはFeとともに軟磁性材料のベースとなる元素であり、FeとCoの合計含有量は90質量%であることが好ましい。しかし、Coの添加量の増大とともに飽和磁束密度を向上させる効果があるが、同時に材料のコストを増大させ、さらに後述する製造方法における高温で窒素を導入させる処理において窒素の導入量を低下させる課題もある。このため、40質量%以下であることが望ましい。更に望ましくは30質量%以下であり、特に望ましくは25質量%以下である。
【0024】
N(窒素):1.2質量%以下
Nは濃度の増大とともに高飽和磁束密度を増大させるFe8NまたはFe16N2等の窒化物の量を増大させる。一方でNの増大と共に非磁性のγ相が安定化され、後述する製造方法における冷却中もしくは冷却後のサブゼロ処理、またその後のテンションアニールにおいてγがαもしくはα´に変態しにくくなる。さらに磁気特性を低下させるFe4Nも析出し易くなり問題もあるため、1.2質量%以下であることが望ましい。下限値は、飽和磁束密度が2.2T以上となるのに必要なFe8NもしくはFe16N
2
窒化物の析出量が確保できる濃度であれば特に限定はなく、この時の濃度は、後述する製造方法において、窒素を材料中に導入拡散する条件およびテンションアニールの条件によって決定されるものである。
【0025】
C:0.1質量%以下
Cは濃度の増大と共に、非磁性のγ相の安定化や低磁気特性のFe3C炭化物の析出を促進し、飽和磁束密度を低下させるため、可能な限り低減することが望ましく、0.1質量%以下とすることが望ましい。
【0026】
Ni:2.0質量%以下
Niは濃度の増大とともに飽和磁束密度を向上させる効果があるが、同時に材料のコストを増大させ、さらに後述する製造方法における高温で窒素を導入させる処理において、窒素の導入量を低下させる課題もあるため、2.0質量%以下であることが望ましい。
【0027】
Mn、Si、Cr、Ti、Nb、V:0または0~0.2質量%以下
Mn、Si、Cr、Ti、Nb、Vはそれぞれ飽和磁束密度を低下させ、Nと結合することで磁気特性の低い窒化物を析出させるため、0または0.2質量%以下であることが望ましい。
【0028】
[軟磁性材料]
上記成分を有する軟磁性材料原料は、後述する本発明の製造方法を経て、本発明の軟磁性材料を生成する。本発明の軟磁性材料は、製造方法の過程でFeと窒素の化合物が析出する。この析出物は、主に粒状であり、平均粒径は2nm以上20nm以下、数密度が100個/μm2以上である。平均粒径および数密度は、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)によって分析することができる。
【0029】
[軟磁性材料の製造方法]
図1は本発明の軟磁性材料の製造方法の一例を示すフロー図である。
図1に示すように、本発明の軟磁性材料の製造方法は、溶融工程(S1)、凝固工程(S2)、熱処理工程(S3)、熱間加工工程(S4)、熱処理工程(S5)、冷間加工工程(S6)、熱処理工程(S7)、窒素導入・拡散熱処理工程(S8)、冷却工程(S9)およびテンションアニール工程(S10)を含む。
【0030】
溶融工程(S1)は、上述した本発明の軟磁性材料を構成する元素を含む材料を混合して溶融し、溶融材料を得る。凝固工程(S2)は、溶融工程(S1)で得られた溶融材料を凝固して凝固物を得る。熱処理工程(S3)は、凝固工程(S2)で得られた凝固物を融点未満の温度で熱処理する。熱間加工工程(S4)は、熱処理工程(S3)の熱処理における高温を保ったまま圧延して所定の大きさに成形また組成及び組織を均質化する。熱処理工程(S5)は、熱間加工後の歪と加工組織を除去し、組織を均質化する。冷間加工工程(S6)は、冷間加工によって必要な厚さまで成形する。熱処理工程(S7)は、冷間加工後の歪と加工組織を除去し組織を均質化する。
【0031】
これまでの製造フローにおいて、Feを含む材料の形態や濃度、溶融、凝固、各種熱処理工程における諸条件については、特に限定されるものではない。
【0032】
窒素導入・拡散熱処理工程(S8)は、必要な窒素を材料中に導入拡散する工程であり、600℃以上1200℃以下、24時間以下実施することが好ましい。冷却工程(S9)は、窒素導入・拡散熱処理工程(S8)の材料を冷却する。100℃/s未満の冷却速度で実施することが好ましい。テンションアニール工程(S10)は、引張もしくは圧縮などの応力を付加しながら熱処理し、Fe8NもしくはFe16N2等のFeとNの化合物を析出させる工程である。その条件は、温度:100℃以上200℃以下、保持時間:24時間以下および引張応力:10.197kgf/mm2(100MPa)であることが好ましい。
【0033】
[電動機]
本発明の軟磁性材料は種々の磁気回路に適用することができる。電動機に適用した場合には、低コストで小型でありながら、高い飽和磁束密度および高いトルクを有する電動機を提供できる。
【実施例】
【0034】
以下、実験結果に基づいて本発明の効果を実証する。
【0035】
[実施例1]
Co:40質量%、C:0.1質量%、Ni:2.0質量%、Mn、Si、Cr、Ti、NbおよびVがそれぞれ0.2質量%、残部がFeおよび不可避不純物からなる溶解物を、熱間加工工程(熱間圧延)および冷間加工工程を経て0.1mm厚さまで成形した材料を得た。
【0036】
この材料を、オーステナイト(γ)形成温度範囲である900℃に10℃/分の昇温速度で加熱し、1×105Paのアンモニア(NH3)窒素雰囲気になるまでNH3を供給し窒素濃度はFe8Nが飽和磁束密度2.2Tを達成するのに必要な濃度とした後に水中に焼入れて急冷した。この過程でγからα´に変態し変態しきれなったものはγとして残留する。その後、200℃保持時に鉄箔の長手方向に引張応力を1-20kgf/mm2の範囲で印加し、高磁束密度のFe8N窒化物を析出させて実施例1の軟磁性材料を得た。
【0037】
得られた軟磁性材料の組成分析をEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)にて分析したところ、Fe:50質量%、Co:40質量%、C:0.1質量%、Ni:2.0質量%、Mn:0.2質量%、Si:0.2質量%、Cr:0.2質量%、Ti:0.2質量%、Nb:0.2質量%およびV:0.2質量%であった。
【0038】
図2は実施例1の軟磁性材料のTEM(Transmission Electron Microscope)観察写真と電子回折パターンである。
図2に示すように、実施例1の軟磁性材料は、母相のFeにFe
8Nおよびが析出していることが確認された。
【0039】
実施例1の軟磁性材料の残留γ相の体積率を、XRD(X‐ray diffraction)測定(Mo-Kα線)により得たパターンに含まれるfccの回折パターンの比率を求めることで算出した結果、4%であった。
【0040】
また、20℃の飽和磁束密度を振動試料型磁力計(Vibrating Sample Magnetometer:VSM)によって測定した結果、2.4Tであった。純鉄箔の飽和磁束密度2.1Tを上回り、市販材Fe50Coパーメンジュール(飽和磁束密度:2.4T)と同等の飽和磁束密度であることを確認した。
【0041】
[実施例2]
Co:40質量%、C:0.1質量%、Ni:2.0質量%、Mn、Si、Cr、Ti、NbおよびVがそれぞれ0.2質量%、残部がFeおよび不可避不純物からなる溶解物を、熱間加工工程(熱間圧延)および冷間加工工程を経て0.1mm厚さまで成形した材料を得た。
【0042】
この材料を、オーステナイト(γ)形成温度範囲である900℃に10℃/分の昇温速度で加熱し、1×105Paのアンモニア(NH3)窒素雰囲気になるまでNH3を供給した。窒素濃度が1.2質量%とした後に水中に焼入れて急冷した。この過程でγからα´に変態し変態しきれなったものはγとして残留する。その後、200℃保持時に鉄箔の長手方向に引張応力を1-20kgf/mm2の範囲で印加し、高磁束密度のFe8NとFe16N
2
窒化物を析出させて実施例2の軟磁性材料を得た。
【0043】
得られた軟磁性材料の組成分析をEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)にて分析したところ、Fe:50質量%、Co:40質量%、C:0.1質量%、Ni:2.0質量%、Mn:0.2質量%、Si:0.2質量%、Cr:0.2質量%、Ti:0.2質量%、Nb:0.2質量%およびV:0.2質量%であった。
【0044】
実施例2の軟磁性材料の残留γ相の体積率を、XRD(X‐ray diffraction)測定(Mo-Kα線)により得たパターンに含まれるfccの回折パターンの比率を求めることで算出した結果、4%であった。
【0045】
また、20℃の飽和磁束密度を振動試料型磁力計によって測定した結果、2.2Tであった。純鉄箔の飽和磁束密度2.1Tを上回り、市販材Fe50Coパーメンジュール(飽和磁束密度:2.4T)と同等の飽和磁束密度であることを確認した。
【0046】
[実施例3]
Co:40質量%、C:0.1質量%、Ni:2.0質量%、Mn、Si、Cr、Ti、NbおよびVがそれぞれ0.2質量%、残部がFeおよび不可避不純物からなる溶解物を、熱間加工工程(熱間圧延)および冷間加工工程を経て0.1mm厚さまで成形した材料を得た。
【0047】
この材料を、オーステナイト(γ)形成温度範囲である900℃に10℃/分の昇温速度で加熱し、1×105Paのアンモニア(NH3)窒素雰囲気になるまでNH3を供給した。窒素濃度はFe8Nが飽和磁束密度2.2Tを達成するのに必要な濃度とした後に水中に焼入れて急冷した。この過程でγからα´に変態し変態しきれなったものはγとして残留する。その後、200℃保持時に鉄箔の長手方向に引張応力を1-20kgf/mm2の範囲で印加し、高磁束密度のFe8NとFe16N
2
窒化物を析出させて実施例3の軟磁性材料を得た。
【0048】
得られた軟磁性材料の組成分析をEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)にて分析したところ、Fe:50質量%、Co:40質量%、C:0.1質量%、Ni:2.0質量%、Mn:0.2質量%、Si:0.2質量%、Cr:0.2質量%、Ti:0.2質量%、Nb:0.2質量%およびV:0.2質量%であった。
【0049】
実施例3の軟磁性材料の残留γ相の体積率を、XRD(X‐ray diffraction)測定(Mo-Kα線)により得たパターンに含まれるfccの回折パターンの比率を求めることで算出した結果、2%であった。
【0050】
実施例3の軟磁性材料のTEM観察により、Fe8NおよびFe16N
2
が析出していることを確認した。
【0051】
また、20℃の飽和磁束密度を振動試料型磁力計によって測定した結果、2.4Tであった。純鉄箔の飽和磁束密度2.1Tを上回り、市販材Fe50Coパーメンジュール(飽和磁束密度:2.4T)と同等の飽和磁束密度であることを確認した。
【0052】
[比較例1]
Co:40質量%、Ni:2.0質量%、C:0.15質量%、Mn、Si、Cr、Ti、NbおよびVがそれぞれ0.2質量%、残部がFeおよび不可避不純物からなる溶解物を、熱間加工工程(熱間圧延)および冷間加工工程を経て0.1mm厚さまで成形した材料を得た。
【0053】
この材料を、オーステナイト(γ)形成温度範囲である900℃に10℃/分の昇温速度で加熱し、1×105Paのアンモニア(NH3)窒素雰囲気になるまでNH3を供給した。窒素濃度は、Fe8Nが飽和磁束密度2.2Tを達成するのに必要な濃度とした後に水中に焼入れて急冷した。この過程でγからα´に変態し変態しきれなったものはγとして残留する。その後、200℃保持時に鉄箔の長手方向に引張応力を1-20kgf/mm2の範囲で印加し、高磁束密度のFe8NとFe16N
2
窒化物を析出させて比較例1の軟磁性材料を得た。
【0054】
得られた軟磁性材料の組成分析をEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)にて分析したところ、Fe:50質量%、Co:40質量%、C:0.15質量%、Ni:2.0質量%、Mn:0.2質量%、Si:0.2質量%、Cr:0.2質量%、Ti:0.2質量%、Nb:0.2質量%およびV:0.2質量%であり、Cの含有量が本発明の範囲(0.1質量%以下)を満たしていなかった。
【0055】
比較例1の軟磁性材料の残留γ相の体積率を、XRD(X‐ray diffraction)測定(Mo-Kα線)により得たパターンに含まれるfccの回折パターンの比率を求めることで算出した結果、4%であった。
【0056】
また、透過型電子顕微鏡観察によりFe8NおよびFe16N
2
の析出を確認したが、低磁気特性のFe3C炭化物の析出も確認された。
【0057】
20℃の飽和磁束密度を振動試料型磁力計によって測定した結果、2.18Tであり、2.2Tを達成することができなかった。
【0058】
[比較例2]
Co:40質量%、Ni:2.0質量%、C:0.1質量%、Mn、Si、Cr、Ti、NbおよびVがそれぞれ0.2質量%、残部がFeおよび不可避不純物からなる溶解物を、熱間加工工程(熱間圧延)および冷間加工工程を経て0.1mm厚さまで成形した材料を得た。
【0059】
この材料を、オーステナイト(γ)形成温度範囲である900℃に10℃/分の昇温速度で加熱し、1×105Paのアンモニア(NH3)窒素雰囲気になるまで供給した。窒素濃度が1.4質量%となった後に水中に焼入れて急冷した。この過程でγからα´に変態しきれなったものはγとして残留する。その後、200℃保持時に鉄箔の長手方向に引張応力を1-20kgf/mm2の範囲で印加し、高磁束密度のFe8NとFe16N
2
窒化物を析出させて比較例2の軟磁性材料を得た。
【0060】
得られた軟磁性材料の組成分析をEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)にて分析したところ、Fe:50質量%、Co:40質量%、C:0.1質量%、Ni:2.0質量%、Mn:0.2質量%、Si:0.2質量%、Cr:0.2質量%、Ti:0.2質量%、Nb:0.2質量%およびV:0.2質量%であった。
【0061】
比較例2の軟磁性材料の残留γ相の体積率を、XRD(X‐ray diffraction)測定(Mo-Kα線)により得たパターンに含まれるfccの回折パターンの比率を求めることで算出した結果、10%であった。
【0062】
また、20℃の飽和磁束密度を振動試料型磁力計によって測定した結果、2.09Tであり、2.2Tを達成することができなかった。
【0063】
[比較例3]
Co:40質量%、C:0.1質量%、Ni:2.0質量%、Mn、Si、Cr、Ti、NbおよびVがそれぞれ0.2質量%、残部がFeおよび不可避不純物からなる溶解物を熱間加工工程(熱間圧延)および冷間加工工程を経て0.1mm厚さまで成形した材料を、オーステナイト(γ)形成温度範囲である900℃に10℃/分の昇温速度で加熱し、1×105Paのアンモニア(NH3)窒素雰囲気中になるまでNH3を供給した。窒素濃度が1.2質量%とした後に、N2ガスによって冷却した。この過程でγからα´に変態し変態しきれなったものはγとして残留しさらに拡散変態によるFe4N窒化物も生成した。その後、200℃保持時に鉄箔の長手方向に引張応力を1-20kgf/mm2の範囲で印加し、高磁束密度のFe8NとFe16N
2
窒化物を析出させて比較例3の軟磁性材料を得た。比較例3の軟磁性材料は、窒素導入後に急冷していない。
【0064】
得られた軟磁性材料の組成分析をEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)にて分析したところ、Fe:50質量%、Co:40質量%、C:0.1質量%、Ni:2.0質量%、Mn:0.2質量%、Si:0.2質量%、Cr:0.2質量%、Ti:0.2質量%、Nb:0.2質量%およびV:0.2質量%であった。
【0065】
図3は比較例3の軟磁性材料のXRD回折パターンである。比較例3の軟磁性材料のXRD(X‐ray diffraction)測定(Mo-K
α線)により得たパターンから、磁気特性の低いFe
4N窒化物が析出していることが確認された。
【0066】
また、20℃の飽和磁束密度を振動試料型磁力計によって測定した結果、1.89Tであり、2.2Tを達成することができなかった。
【0067】
[比較例4]
Co:40質量%、Ni:2.0質量%、C:0.1質量%、Mn、Si、Cr、Ti、NbおよびVがそれぞれ0.2質量%、残部がFeおよび不可避不純物からなる溶解物を熱間加工工程(熱間圧延)および冷間加工工程を経て0.1mm厚さまで成形した材料を、オーステナイト(γ)形成温度範囲である900℃に10℃/分の昇温速度で加熱し、1×105Paのアンモニア(NH3)窒素雰囲気中になるまでNH3を供給した。窒素濃度が、Fe8Nが飽和磁束密度2.2Tを達成するのに必要な濃度とした後に水中に焼入れて急冷した。この過程でγからα´に変態し変態しきれなったものはγとして残留する。この後にテンションアニール工程を実施せず、比較例4の軟磁性材料を得た。
【0068】
得られた軟磁性材料の組成分析をEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)にて分析したところ、Fe:50質量%、Co:40質量%、C:0.1質量%、Ni:2.0質量%、Mn:0.2質量%、Si:0.2質量%、Cr:0.2質量%、Ti:0.2質量%、Nb:0.2質量%およびV:0.2質量%であった。
【0069】
比較例4の軟磁性材料の残留γ相の体積率を、XRD(X‐ray diffraction)測定(Mo-Kα線)により得たパターンに含まれるfccの回折パターンの比率を求めることで算出した結果、6%であった。
【0070】
図4は比較例4の軟磁性材料のTEM観察写真と電子回折パターンである。
図4に示すように、比較例4の軟磁性材料にはFe
8NおよびFe
16N
2
の析出を確認できなかった。
【0071】
また、20℃の飽和磁束密度を振動試料型磁力計によって測定した結果、2.18Tであり、2.2Tを達成することができなかった。
【0072】
実施例1~3および比較例1~4の組成、熱処理条件、冷却速度、テンションアニール条件および飽和磁束密度を表1に示す。〇は本発明の範囲内であり、×は本発明の範囲外であることを示す。
【0073】
【0074】
表1より、本発明の条件を満たす実施例1~3は、飽和磁束密度2.2T以上を達成している。
【0075】
以上、説明したように、本発明によれば、FeCo基合金からなる軟磁性材料において、Coを低減して高飽和密度を達成できる軟磁性材料、軟磁性材料の製造方法および電動機を提供できることが実証された。
【0076】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。