(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】筆ペン用水性インキ組成物およびそれを内蔵した、筆ペンおよび筆ペン用インキカートリッジ
(51)【国際特許分類】
B43K 8/02 20060101AFI20240828BHJP
C09D 11/16 20140101ALI20240828BHJP
【FI】
B43K8/02 130
C09D11/16
(21)【出願番号】P 2020166195
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-07-12
(31)【優先権主張番号】P 2020097983
(32)【優先日】2020-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】福嶋 梓
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-017361(JP,A)
【文献】特許第7383508(JP,B1)
【文献】特開2006-348304(JP,A)
【文献】特開2004-277449(JP,A)
【文献】特開2018-168249(JP,A)
【文献】特開2013-173890(JP,A)
【文献】特開2018-109116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/16
B43K 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インキ貯蔵部と、ペン先と、前記インキ貯蔵部に貯蔵されたインキをペン先へ供給するためのインキ供給機構とを備えてなる筆ペンであって、
前記インキ貯蔵部としてインキカートリッジを備えてなり、
前記ペン先が繊維集束体からなり、
前記インキ供給機構は連続気孔を有する多孔体からなり、
自己分散型カーボンブラックとアセチレン結合を有する界面活性剤と水とを含み、前記アセチレン結合を有する界面活性剤が下記式(1)に示される構造を有する、水性インキ組成物が内蔵されてなる、筆ペン。
【化1】
ここで、R1~R4は炭化水素基を示し、R5はエチレン基を示す。m、pは0以上の整数である。
【請求項2】
インキ貯蔵部と、ペン先と、前記インキ貯蔵部に貯蔵されたインキをペン先へ供給するためのインキ供給機構とを備えてなる筆ペンであって、
前記インキ貯蔵部は、内側にインキ収容室を設けた軸筒からなり、
前記ペン先は、軟質性樹脂乃至エラストマーの押出成形加工体からなり、
前記インキ貯蔵部と前記ペン先とが前記インキ供給機構を介して接合されてなり、
前記インキ供給機構は、多数の円盤体が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、前記円盤体を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝及び該溝より太幅の通気溝が設けられ、軸心にペン先へインキを誘導するためのインキ誘導芯が配置されてなるペン芯であり、
自己分散型カーボンブラックとアセチレン結合を有する界面活性剤と水とを含み、前記アセチレン結合を有する界面活性剤が下記式(1)に示される構造を有する、水性インキ組成物が内蔵されてなる、筆ペン。
【化1】
ここで、R1~R4は炭化水素基を示し、R5はエチレン基を示す。m、pは0以上の整数である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆ペン用水性インキ組成物と、それを内蔵した、筆ペンおよび筆ペン用インキカートリッジに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、筆記具用インキにおいては、鮮明な筆跡を形成可能とするための検討が行われている。特に、着色材に顔料を用いた水性顔料インキは、安全性が高く、筆跡に耐水性や耐光性を付与できることから近年盛んに検討されている。(例えば、特許文献1参照)
【0003】
特許文献1には、カーボンブラックと特定の水溶性樹脂を含み、カーボンブラックと水溶性樹脂の含有量比率と表面張力が特定された水性記録液組成物が記載されている。前記組成物は、滲みのない良好な文字・画像が得られ、筆記用としても適用が可能とされている。
【0004】
しかしながら、前記従来技術のインキは紙面浸透性が十分でなく、インキを筆記具に適用したときに乾燥性に優れる筆跡を形成し難いことがあり、特に筆ペンの場合においては、多量のインキが紙面に塗布されることから、筆跡の乾燥性を良好とすることは一層困難であった。また、前記インキが紙面に吐出されたときに、吐出されたインキ中のカーボンブラックの一部は紙表面に留まることなく紙内部に侵入するため、前記インキは筆跡の発色性を良好としにくいことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、黒色が濃く、鮮やかで、滲みが抑制された筆跡を形成可能としつつ、筆跡の乾燥性を良好とする筆ペン用水性インキ組成物とそれを内蔵した、筆ペンおよび筆ペン用インキカートリッジを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するために、
「1.自己分散型カーボンブラックとアセチレン結合を有する界面活性剤と水とを含み、前記アセチレン結合を有する界面活性剤が下記式(1)に示される構造を有する、筆ペン用水性インキ組成物。
【化1】
ここで、R
1~R
4は炭化水素基を示し、R
5はエチレン基を示す。
m、pは0以上の整数である。
2.第1項に記載のインキ組成物が内蔵されてなる筆ペン。
3.インキ貯蔵部と、ペン先と、前記インキ貯蔵部のインキをペン先へ供給するためのインキ供給機構とを備えてなる、第2項に記載の筆ペン。
4.インキカートリッジを備えてなる、第3項に記載の筆ペン。
5.前記インキ貯蔵部が内側にインキ収容室を設けた軸筒からなり、前記インキ貯蔵部と前記ペン先とが前記インキ供給機構を介して接合されてなる、第3項に記載の筆ペン。
6.多数の円盤体が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、前記円盤体を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝及び該溝より太幅の通気溝が設けられ、軸心にペン先へインキを誘導するためのインキ誘導芯が配置されてなるペン芯を前記インキ供給機構として備える、第3項~第5項のいずれか1項に記載の筆ペン。
7.第1項に記載のインキ組成物が内蔵されてなる、筆ペン用インキカートリッジ。」とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、黒色が濃く、鮮やかで、滲みが抑制された筆跡を形成可能としつつ、筆跡の乾燥性を良好とする筆ペン用水性インキ組成物と、それを内蔵した、筆ペンおよび筆ペン用インキカートリッジが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の筆ペンの一実施例を示す説明図である。
【
図2】本発明の筆ペンの他の実施例を示す説明図である。
【
図3】本発明の筆ペン用インキカートリッジの一実施例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本明細書において、配合を示す「部」、「%」、「比」などは特に断らない限り質量基準である。
【0011】
本発明による筆ペン用水性インキ組成物(以下、場合により、「水性インキ組成物」または「組成物」と表すことがある。)は、水と、自己分散型カーボンブラックと、アセチレン結合を有する界面活性剤とを少なくとも含んでなる。以下、本発明による筆ペン用水性インキ組成物を構成する各成分について説明する。
【0012】
(自己分散型カーボンブラック)
インキ組成物は、自己分散型カーボンブラックを含有する。
自己分散型カーボンブラックとは、樹脂、界面活性剤等の分散剤なしに水性媒体中に分散することが可能であるカーボンブラックを指し、カーボンブラックを分散させるための分散剤を用いなくても、例えば、カーボンブラックに物理的処理または化学的処理を施すことで、カーボンブラックの表面に親水性の官能基が結合したものをいう。上記親水基としては、例えば、-COOM、-SO3M、-SO2M、-CO-、-COO-、-OM、-SO2NH2、-RSO2M、-PO3HM、-PO3M2、-SO2NHCOR、-NH3、及び-NR3から選択される一以上の親水基であることが好ましい。なお、これらの式中のMは互いに独立して、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、置換基を有していてもよいフェニル基、又は有機アンモニウムを表す。また、これらの式中のRは互いに独立して、炭素原子数1~12のアルキル基又は置換基を有していてもよいナフチル基を表す。
上記物理的処理としては、例えば、真空プラズマ処理等が挙げられ、化学的処理としては、例えば、水中で酸化剤により酸化する湿式酸化法や、p-アミノ安息香酸をカーボンブラック表面に結合させることによりフェニル基を介してカルボキシル基を結合させる方法等が挙げられる。
紙面浸透性に優れる顔料インキは、ビヒクルとともに顔料が紙内部に侵入しやすいため、筆跡の発色性を良好とし難い傾向にある。しかしながら、本発明の組成物は前記した自己分散型カーボンブラックを含有することで、インキ組成物の紙面浸透性が良好でありつつも、黒色が濃く、鮮やかな筆跡を形成することができる。また、本発明の組成物は、自己分散型カーボンブラックによって筆跡の滲みを抑制することもできる。
これは、自己分散型カーボンブラックの表面に存在する親水性官能基と紙繊維のセルロースとが高い親和性を有することから、インキ組成物が紙面に吐出されたときに、自己分散型カーボンブラックが自身の親水性官能基を介して紙表面のセルロースに速やかに吸着して、自己分散型カーボンブラックが、紙内部に侵入することや紙面の筆記部分の周辺に広がることが抑制されるためであると推測される。
【0013】
インキ組成物に適用できる自己分散型カーボンブラックとしては、例えば、市販品では、オリエント化学工業株式会社製のマイクロジェットシリーズ、キャボット社製のCAB-O-JETシリーズ、東海カーボン株式会社製のAqua-Blackシリーズ、冨士色素株式会社製のFuji-JETBlackシリーズなどが挙げられる。
【0014】
自己分散型カーボンブラックの含有量は、インキ組成物全質量に対して5~15質量%とすることが好ましく、6~12質量%とすることが好ましい。
含有量が前記範囲内であると、筆跡の黒色を濃く鮮やかにしつつ、筆跡を擦過したときに筆跡の自己分散型カーボンブラックが筆跡周辺に付着して紙面が汚染されることや、ペン先に残ったインキから水分が蒸発してペン先が乾燥した場合に再筆記が不能になることを抑制できる。
【0015】
(アセチレン結合を有する界面活性剤)
水性インキ組成物には、アセチレン結合を有する界面活性剤が必須である。前記界面活性剤は、インキ組成物の紙面浸透性を良好とする。
筆ペンはペン先に潤沢なインキを含むことができることから、筆ペンで筆記すると紙面に多量のインキが塗布されやすい反面、その筆跡は乾燥性が劣る傾向にある。しかしながら、本発明のインキ組成物は紙面浸透性に優れるため、多量のインキが塗布された場合でも筆跡の乾燥性が良好となる。
さらに、前記界面活性剤は、インキ組成物が、筆ペンにおけるインキ貯蔵部、インキ供給機構およびペン先等のインキ流路を円滑に移動できるようにしてインキ吐出性を向上させることもできる。
【0016】
インキ組成物に適用できるアセチレン結合を有する界面活性剤は、下記一般式(1)の構造を有する。
【化1】
ここで、R
1~R
4は炭化水素基を示し、R
5はエチレン基を示す。
m、pは0以上の整数である。
【0017】
本発明に用いられるアセチレン結合を有する界面活性剤は、インキ組成物の紙面浸透性を良好にすることを考慮すると、HLB値が4~18の値であるものが好ましく、8~17の値であるものがより好ましく、12~16の値であるものが特に好ましい。
また、式(1)におけるm+pは、0≦m+p≦30であることが好ましく、0≦m+p≦20であることがより好ましい。
ここで、本発明に用いられる界面活性剤のHLB値は、グリフィンが提唱した化合物の親水性を評価する値であり、下記一般式(2)によって算出される値をいう。グリフィン法によるHLB値は、0~20の範囲内の値を示し、数値が大きい程、化合物が親水性であることを示す。
HLB値=20×(親水基の質量%)=20×(親水基の式量の総和/界面活性剤の分子量)・・・(2)
【0018】
本発明のインキ組成物に適用できる具体的なアセチレン結合を有する界面活性剤としては、オルフィンD-10A、オルフィンD-10PG、オルフィンE1004、オルフィンE1010、オルフィンE1020、オルフィンE1030W、オルフィンPD-001、オルフィンPD-002W、オルフィンPD-003、オルフィンPD-004、オルフィンPD-201、オルフィンPD-301、オルフィンEXP.4001、オルフィンEXP.4200、オルフィンEXP.4123、オルフィンEXP.4300、サーフィノール82、サーフィノール104E、サーフィノール104H、サーフィノール104A、サーフィノール104PA、サーフィノール104PG-50、サーフィノール104S、サーフィノール420、サーフィノール440、サーフィノール465、サーフィノール485、サーフィノール2502、ダイノール604、ダイノール607、以上日信化学工業株式会社製、アセチレノールE13T、アセチレノールEH、アセチレノールEL、アセチレノールE40、アセチレノールE60、アセチレノールE81、アセチレノールE100、アセチレノール85、以上川研ファインケミカル株式会社製、を挙げることが可能であり、1種または2種以上を好ましく用いることができる。上記の界面活性剤の中では、インキ吐出性およびインキ組成物の紙面浸透性を良好とすることを考慮するとオルフィンE1010、オルフィンE1020およびサーフィノール485が好ましい。
アセチレン結合を有する界面活性剤は1種のみを用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0019】
アセチレン結合を有する界面活性剤の含有量は、インキの紙面浸透性を良好として筆跡の乾燥性を高めつつ、筆跡の滲みをより抑制することを考慮して、インキ組成物全質量に対して0.5~3質量%とすることが好ましく、0.5~2.5質量%とすることがより好ましい。
【0020】
(水)
水としては、特に制限はなく、例えば、イオン交換水、限外ろ過水または蒸留水などを用いることができる。
【0021】
(水溶性有機溶剤)
インキ組成物には従来公知の水溶性有機溶剤を適用できる。
具体的には、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等の多価アルコール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンおよび2-ピロリドンなどが挙げられる。
中でも、筆跡の乾燥性を一層高めることができることから、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールおよび2-ピロリドンが好ましく用いることができる。
水溶性有機溶剤は、1種または2種以上を用いることができる。
【0022】
(その他)
本発明のインキ組成物は、必要に応じて上記以外の物質を添加することも可能である。具体的には、染料、前記自己分散型カーボンブラック以外の顔料、防腐剤、カオリン、タルク、マイカ、クレー、ベントナイト、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、セリサイト、およびチタン酸カリウムなどの体質材、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ナイロン樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、およびフッ素樹脂などからなる樹脂粒子、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、アルキッド樹脂、スルフォアミド樹脂、マレイン酸樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、エチレン酢ビ樹脂、塩ビ-酢ビ樹脂、スチレンとマレイン酸エステルとの共重合体、スチレン-アクリロニトリル樹脂、シアネート変性ポリアルキレングリコール、エステルガム、キシレン樹脂、尿素樹脂、尿素アルデヒド樹脂、フェノール樹脂、アルキルフェノール樹脂、テルペンフェノール樹脂、ロジン系樹脂やその水添化合物、ロジンフェノール樹脂、ポリビニルアルキルエーテル、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂、シクロヘキサノン系樹脂、剪断減粘性付与剤、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、およびサポニンなどの防錆剤、尿素、リン酸エステル系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤等の各種界面活性剤、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどの水溶性樹脂からなる顔料分散剤、還元又は非還元デンプン加水分解物、トレハロース等の二糖類、オリゴ糖、ショ糖、サイクロデキストリン、ぶどう糖、デキストリン、ソルビット、マンニット、およびピロリン酸ナトリウムなどを挙げることができる。
また、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の酸性物質、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素カリウム等の塩基性物質も適用できる。
【0023】
インキ組成物の粘度は、20℃において1~6mPa・sとすることが好ましく、2~5mPa・sとすることがより好ましい。粘度が上記範囲内であればインキ吐出性を良好としつつ、インキの紙面浸透性を高めて筆跡乾燥性を高めることが容易となる。
インキ組成物の粘度は、EL型粘度計を用いて測定する。
【0024】
インキ組成物の表面張力は、インキ組成物の紙面浸透性を良好としつつ筆跡の滲みをより抑制することを考慮して、20℃において25~40mN/mとすることが好ましく、25~35mN/mとすることがより好ましい。
インキ組成物の表面張力は、協和界面科学株式会社製の表面張力計測器を用い、白金プレートを用いて、垂直平板法によって測定して求められる。
【0025】
本発明による水性インキ組成物は、従来知られている任意の方法により製造することができる。具体的には、前記各成分を必要量配合し、プロペラ攪拌、ホモディスパー、またはホモミキサーなどの各種攪拌機やビーズミルなどの各種分散機などにて混合し、製造することができる。
【0026】
(筆ペン)
筆ペンとしては、筆形態のペン先を備えるものであれば構造に特に限りはない。筆ペンの一例としては、インキ貯蔵部と、筆形態のペン先と、前記インキ貯蔵部に貯蔵されたインキをペン先へと供給するためのインキ供給機構を備える筆ペンを挙げることができる。
前記筆ペンの構造を具体的に例示すると、(1)筆形態のペン先と、インキ貯蔵部と、インキ供給機構とを備え、前記インキ貯蔵部が内側にインキ収容室を設けた軸筒からなり、前記インキ貯蔵部とペン先とが前記インキ供給機構を介して接合された構造、(2)筆形態のペン先と、インキ貯蔵部と、インキ供給機構とを備え、着脱可能なインキカートリッジをインキ貯蔵部として備えてなる構造を挙げることができる。
前記(1)におけるより具体的な構造としては、一例として、有底筒体よりなる軸筒の前部にペン先とインキ供給機構が装着され、前記インキ供給機構の後方の軸筒内にインキ収容室が形成されてなる構造が挙げられる。
また、前記(2)におけるより具体的な構造としては、一例として、ペン先とインキ供給機構とが装着された前軸筒とインキカートリッジからなる後軸筒とが離合可能に接続されてなる構造、およびペン先とインキ供給機構とが装着された前軸筒とインキカートリッジとが離合可能に接続され、前記インキカートリッジが後軸筒で被覆されてなる構造が挙げられる。
【0027】
インキ貯蔵部としては、構成材料として用いることができる物質に限りはなく、金属、ガラス、ゴム、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂,ポリメチルペンテン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ABS樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂等の合成樹脂を用いることができる。中でも、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂が好ましい。
【0028】
インキ貯蔵部は、インキ組成物を直に充填する構成のものであってもよく、水性インキ組成物を充填することのできるインキ収容体またはインキ吸蔵体を備えるものであってもよい。
また、筆ペンがインキ組成物を直に充填する構成のものである場合は、自己分散型カーボンブラックを再分散させるために、インキ収容体にはインキを攪拌する攪拌ボールなどの攪拌体を内蔵しても良い。。前記攪拌体の形状としては、球状体、棒状体などが挙げられる。攪拌体の材質は特に限定されるものではないが、具体例として、金属、セラミック、樹脂、硝子などを挙げることができる。
また、筆ペンがインキ組成物を充填することのできるインキ吸蔵体を備えるものである場合は、インキ吸蔵体は、撚り合わせた繊維を用いてなる繊維集束体が好ましい。
【0029】
インキ貯蔵部としては、前記インキ収容室にインキ組成物を収容可能な構造を有していれば、構造に制限はない。
【0030】
また、インキカートリッジとしては、筆ペン本体に接続することで筆ペンを構成する軸筒を兼ねたものや、筆ペン本体に接続した後に軸筒(後軸)を被覆して保護するものが適用できる。これらのカートリッジは、筆ペン接続前にあらかじめインキを充填されたものであっても良い。
【0031】
また、インキカートリッジの構造としては特に限りはなく、例えば、長手方向に対して直交する直交断面が円形状を有する有底筒体が挙げられる。なお、筒体とは中空の細長い棒状体を指す。インキカートリッジは、押圧変形及び復元可能な構造を有していても良い。
本発明に用いられるインキカートリッジは、前記筒体の外面や内面がテーパー状に傾斜していても良く、段差を有していても良い。
【0032】
ペン先としては、繊維相互を長手方向に密接状に束ねた、毛筆等の繊維集束体、連続気孔を有するプラスチックポーラス体、合成樹脂繊維の熱融着乃至樹脂加工体、または軟質性樹脂乃至エラストマーの押出成形加工体からなる筆形態のチップを用いることができる。前記チップは、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デンプンまたはアラビアガム等の水溶性物質で糊付けされたものであっても良い。
【0033】
インキ供給機構についても特に限定されるものではなく、例えば、(1)繊維束などからなるインキ誘導芯をインキ流量調節部材として備え、水性インキ組成物をペン先に誘導する機構、(2)多数の円盤体が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、前記円盤体を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝及び該溝より太幅の通気溝が設けられ、前記インキ誘導溝を通じてペン先へインキ組成物を供給する機構、(3)多数の円盤体が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、前記円盤体を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝及び該溝より太幅の通気溝が設けられ、軸心にインキ貯蔵部からペン先へインキを誘導するためのインキ誘導芯が配置されてなるペン芯を介してインキ組成物をペン先へ誘導する機構(4)弁機構によるインキ流量調節部材を備え、水性インキ組成物をペン先に供給する機構、(5)ペン先を具備したインキ収容体または軸筒より、水性インキ組成物を直接、ペン先に供給する機構および(6)インキ組成物を含侵可能な、連続気孔を有する多孔体を介してペン先へインキ組成物を供給する機構などを挙げることができる。
【0034】
インキ供給機構が、前記、多数の円盤体が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、前記円盤体を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝及び該溝より太幅の通気溝が設けられ、軸心に前前記インキ貯蔵部から前記ペン先へインキを誘導するためのインキ誘導芯が配置されてなるペン芯である場合、前記インキ供給機構はインキ貯蔵部からペン先へのインキ供給性を安定的に良好としやすいため、インキ吐出性を向上させることができる。このため、(3)のインキ供給機構は、筆ペンのインキ供給機構として好ましい形態である。
【0035】
前記インキ供給機構の材質としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリカーボネート樹脂、およびアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂等が挙げられ、いずれも好ましく用いることができる。
【0036】
以下に本発明の水性インキ組成物、それを用いた筆ペンおよび筆ペン用インキカートリッジの実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0037】
(実施例1)
下記原材料および配合量にて、ホモディスパーを用いて室温で1時間攪拌混合することにより、筆ペン用水性インキ組成物を得た。
・自己分散型カーボンブラック分散体 40質量%
(表面処理によって表面にカルボキシ基が結合したカーボンブラックが分散されてなる分散体、20質量%水分散体、分散剤非含有、商品名:Aqua-Black162、東海カーボン株式会社製)
・アセチレン結合を有する界面活性剤 1質量%
(商品名:オルフィンE1010、HLB値:13.3、日信化学工業株式会社製)
・イオン交換水 59質量%
【0038】
(実施例2~11、比較例1~2)
実施例1に対して、配合する成分の種類や添加量を表1に示したとおりに変更して、実施例2~11、比較例1~2のインキ組成物を得た。
上記実施例で使用した材料の詳細は以下の通りである。
・自己分散型カーボンブラック分散体1
(表面処理によって表面にカルボキシ基が結合したカーボンブラックが分散されてなる分散体、20質量%水分散体、分散剤非含有、商品名:Aqua-Black162、東海カーボン株式会社製)
・自己分散型カーボンブラック分散体2
(表面処理によって表面にカルボキシ基が結合したカーボンブラックが分散されてなる分散体、15質量%水分散体、分散剤非含有、商品名:Fuji-JETBlack B-15、冨士色素株式会社製)
・カーボンブラック分散体
(POE(20)POP(8)セチルエーテルからなる分散剤によってカーボンブラックが分散されてなる分散体、20質量%水分散体)
・アセチレン結合を有する界面活性剤1
(商品名:オルフィンE1010、HLB値13.3、日信化学工業株式会社製)
・アセチレン結合を有する界面活性剤2
(商品名:オルフィンE1020、HLB値15~16、日信化学工業株式会社製)
・リン酸エステル系界面活性剤
(ポリオキシアルキレンスチレン化フェニルエーテルリン酸エステル、商品名:プライサーフAL、第一工業製薬株式会社製)
・シリコーン系界面活性剤1
(ポリエーテル変性シリコーン、商品名:TSF-4440、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン株式会社製)
・シリコーン系界面活性剤2
(ポリエーテル変性シリコーン、商品名:KF-6004、信越化学工業株式会社製)
・トリエタノールアミン
・防腐剤 ベンゾイソチアゾリン-3-オン
(商品名:プロキセルXL-2、ロンザジャパン株式会社製)
・エチレングリコール
・グリセリン
・2-ピロリドン
・尿素
・イオン交換水
【0039】
調製した水性インキ組成物について、下記の通り、評価を行った。得られた結果は表1に記載したとおりであった。
評価試験で用いる筆ペンは、以下のものを用いた。
筆ペン(A)着脱可能なインキカートリッジをインキ貯蔵部として備える筆ペン(
図1参照)
筆ペン1は、押圧変形及び復元可能な、ポリエチレン樹脂製有底筒体のインキカートリッジ2からなる後軸筒と、熱可塑性ポリエステルエラストマーの集束体からなるペン先4と連続気孔が形成された環状多孔体5とが装着された前軸筒3とが離合可能に接続されてなり、インキカートリッジ2の一端には中心孔6を備える中栓7が嵌着され、ペン先4は後端面に突起部9を備える固着層8が設けられてなり、ペン先4の後部側周に環状多孔体5が緩挿され、突起部9と中栓7の前端とが、固着層8と中栓7前端との間に誘導間隙10を形成しながら当接されてなる。
筆ペン(B)インキ貯蔵部が内側にインキ収容室を設けた軸筒からなり、前記インキ貯蔵部とペン先とがインキ供給機構を介して接合されてなる筆ペン(
図2参照)
筆ペン11は、ポリエチレン樹脂製有底筒体からなる軸筒12の前部に、ポリウレタンで表面を被覆した、軟質性樹脂の押出成形加工体からなるペン先14を備えるインキ供給機構13が装着され、インキ供給機構13の後方の軸筒内にインキ収容室15が形成されてなる。インキ供給機構13は、多数の円盤体16が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、前記円盤体16を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝17及び該溝より太幅の通気溝18が設けられ、軸心にインキ誘導芯19が配置され、インキ誘導芯19がペン先14と接続されてなる。
【0040】
また、前記筆ペン(A)に装着するインキカートリッジには、以下のものを用いた。
・筆ペン(A)に装着するインキカートリッジ(
図3参照)
インキカートリッジ2は、中栓7の後部に中心孔6より大径の第一の取り付け孔21および第一の取り付け孔20より大径の第二の取り付け孔21が同心状に配設され、孔22および孔23には内パイプ23および外パイプ24を嵌着されてなる。
【0041】
(筆跡発色性の評価)
前記インキ組成物を内蔵した筆ペンにて文字「小諸なる」を筆記し、筆跡の色調や濃さを目視により観察した。なお、筆記試験紙として「筆ペン」(日本筆記具工業会基準、JWIMA M 003:2015)に準拠した筆記用紙(商品名:NPiフォーム<55>、日本製紙株式会社製)を用いた。評価基準は、Aを合格とし、Bを不合格とした。
A:濃く鮮やかな黒。
B:濃灰色がかった黒。若干薄い。
また、前記筆跡の色濃度(K値)を蛍光分光濃度計(製品名:FD-7型、コニカミノルタ株式会社製)を用いて測定した。測定値(K値)は測定3回の平均値であり、数値が大きいほど筆跡の濃度が高いことを示す。
【0042】
(筆跡乾燥性の評価)
筆記後に筆跡を指で擦過したときのインキ組成物の筆跡周辺への広がりを目視により観察した。なお、試験紙には、前記筆跡発色性の評価と同種の紙を用いた。評価基準は、AおよびBを合格とし、Cを不合格とした。
A:筆記1秒後に筆跡を擦過したときに、インキ組成物が筆跡周辺へ広がった形跡が確認されない。
B:筆記1秒後に筆跡を擦過したときには、インキ組成物は筆跡周辺へ広がるものの、筆記3秒後に筆跡を擦過したときには、インキ組成物が筆跡周辺へ広がった形跡は確認されない。
C:筆記後4秒が経過した場合でも、筆跡を擦過したときに、インキ組成物が筆跡周辺へ広がった形跡が確認される。
【0043】
(筆跡滲みの評価)
文字(漢数字「一」)を筆記し、書き出し部の滲みの有無を確認した。なお、書き出し部を形成する際、50gの荷重で1秒間のとめをおこなった。筆記用紙は前記評価と同種の紙を用いた。評価基準は、AおよびBを合格とし、Cを不合格とした。
A:滲みが確認されず、輪郭が鮮明。
B:輪郭の一部に滲みが確認される。
C:輪郭の滲みが顕著で、輪郭が不鮮明。
【0044】
【符号の説明】
【0045】
1 筆ペン
2 インキカートリッジ
3 前軸筒
4 ペン先
5 環状多孔体
6 中心孔
7 中栓
8 固着層
9 突起部
10 誘導間隙
11 筆ペン
12 軸筒
13 インキ供給機構
14 ペン先
15 インキ収容室
16 円盤体
17 インキ誘導溝
18 通気溝
19 インキ誘導芯
20 第一の取り付け孔
21 第二の取り付け孔
22 内パイプ
23 外パイプ