(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】ポンプ駆動装置の異常判定装置、異常判定方法およびモータ起動時の異常判定装置
(51)【国際特許分類】
H02P 6/182 20160101AFI20240828BHJP
【FI】
H02P6/182
(21)【出願番号】P 2020174006
(22)【出願日】2020-10-15
【審査請求日】2023-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】難波 良一
(72)【発明者】
【氏名】大塚 忍
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-207731(JP,A)
【文献】特開2013-027216(JP,A)
【文献】特開2014-176236(JP,A)
【文献】特許第6273396(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/182
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ駆動装置の異常判定装置であって、
ポンプを駆動するモータの実回転数をセンサレスで求める検出部と、
前記モータの目標回転数を指示して、前記モータの運転を制御する
と共に、前記モータの起動時に、回転磁界を形成することでモータを回転させる同期制御を行なう制御部と、
前記目標回転数と前記実回転数との乖離が所定以上である場合の累積期間が予め定めた閾値を超えた場合に異常と判定する
異常判定処理を行なう判定部と、
を備え、
前記判定部は、
前記実回転数が検出できる場合には、前記異常判定処理を行なうと共に、前記乖離が予め定めた範囲内となった場合には、前記累積期間を前記閾値より小さな値に低減する低減処理を行ない、
前記同期制御が行なわれる期間のうちの少なくとも一部の期間であって、前記検出部が前記実回転数を検出できない期間には、
前記同期制御における見込み回転数を前記実回転数として扱って前記異常判定処理を行なうと共に、前記乖離が予め定めた範囲内となった場合の前記低減処理を抑制する、
ポンプ駆動装置の異常判定装置。
【請求項2】
前記累積期間は、
[1]前記目標回転数と前記実回転数との乖離が所定以上である時間を累積した値、
[2]前記目標回転数と前記実回転数との乖離が所定以上である場合の回転数差を累積した値、
[3]前記目標回転数と前記実回転数との乖離が所定以上である場合の前記ポンプにより供給される流体の流量の、予め定めた値からの不足分を累積した量、
のうちの少なくとも1つである、請求項1記載のポンプ駆動装置の異常判定装置。
【請求項3】
前記検出部は、前記モータの多相コイルの誘起電圧により、前記モータの実回転数を検出する、請求項1
または請求項2に記載のポンプ駆動装置の異常判定装置。
【請求項4】
前記目標回転数と前記実回転数との乖離が所定以上とは、前記目標回転数と前記実回転数とが、予め定めた回転数差以上に相違する状態である、請求項1から
請求項3のいずれか一項に記載のポンプ駆動装置の異常判定装置。
【請求項5】
前記判定部が行なう前記低減処理は、前記累積期間を初期化する処理であり、
前記モータの前記実回転数を検出できない期間における前記低減処理の抑制は、前記初期化を禁止することで実現される、
請求項1から
請求項4のいずれか一項に記載のポンプ駆動装置の異常判定装置。
【請求項6】
ポンプ駆動装置の異常判定方法であって、
ポンプを駆動するモータの実回転数をセンサレスで求め、
前記モータの目標回転数を指示して、前記モータの運転を制御
すると共に、前記モータの起動時に、回転磁界を形成することでモータを回転させる同期制御を行ない、
前記実回転数が検出できる場合には、前記目標回転数と前記実回転数との乖離が所定以上である場合の累積期間が予め定めた閾値を超えた場合に異常と判定
する異常判定処理を行なうと共に、前
記乖離が予め定めた範囲内となった場合には、前記累積期間を前記閾値より小さな値に低減する低減処理を行ない、
前記同期制御が行なわれる期間のうちの少なくとも一部の期間であって、前記実回転数を検出できない期間には、
前記同期制御における見込み回転数を前記実回転数として扱って前記異常判定処理を行なうと共に、前記乖離が予め定めた範囲内となった場合の前記低減処理を抑制する、
ポンプ駆動装置の異常判定方法。
【請求項7】
モータの起動時の異常判定装置であって、
前記モータの実回転数をセンサレスで求める検出部と、
前記モータの起動時に同期制御により、前記モータの目標回転数を順次指示
すると共に、回転磁界を形成して、前記モータの起動を制御する制御部と、
前記目標回転数と前記実回転数との回転数差が所定以上である場合の累積期間が予め定めた閾値を超えた場合に異常と判定する
異常判定処理を行なう判定部と、
を備え、
前記判定部は、
前記実回転数が検出できる場合には、前記異常判定処理を行なうと共に、前記目標回転数と前記実回転数との回転数差が予め定めた範囲内となった場合には、前記累積期間を前記閾値より小さな値に低減する低減処理を行ない、
前記同期制御が行なわれる期間のうちの少なくとも一部の期間であって、前記検出部が前記実回転数を検出できない期間には、
前記同期制御における見込み回転数を前記実回転数として扱って前記異常判定処理を行なうと共に、前記回転数差が予め定めた範囲内となった場合の前記低減処理を抑制する、モータ起動時の異常判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポンプ駆動装置やモータの異常判定の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
多相、例えば三相のブラシレスモータは、産業の様々な分野で広く用いられている。例えば燃料電池システムでは、燃料電池の冷却ポンプや水素ポンプなどの駆動源として利用されている。こうしたプラシレスモータを用いたシステムでは、モータが起動しないとか、所望の回転数が得られないといった異常が発生すると、システム全体の動作に支障を来たすことがあり得るので、モータやこれを駆動するコントローラの異常の発生を検出する様々な手法が採用されている。例えば下記特許文献1では、モータの実回転数を検出し、モータに対して指示した目標回転数と検出した実回転数との関係が、予め定めた範囲に入らないと、モータやコントローラを備えたポンプ駆動装置に異常が発生したと判断している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、こうした目標回転数と実回転数の関係から、ポンプ駆動装置の異常を検知する装置では、モータの実回転数の検出が正確に行なわれないと、ポンプの異常の検知も正確に行なうことができないという問題があった。特に、モータの駆動コイルの誘起電圧を用いて回転数を検出する、いわゆるセンサレスのモータ制御装置では、特定の条件下、例えば回転数の低い領域で、回転数を検出できない、あるいは回転数を誤検出することがあり、異常判定を正確に行なえない場合があり得た。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0006】
(1)本開示の一態様として、モータにより駆動されるポンプ駆動装置の異常判定装置が提供される。このポンプ駆動装置の異常判定装置は、ポンプを駆動するモータの実回転数をセンサレスで求める検出部と、前記モータの目標回転数を指示して、前記モータの運転を制御すると共に、前記モータの起動時に、回転磁界を形成することでモータを回転させる同期制御を行なう制御部と、前記目標回転数と前記実回転数との乖離が所定以上である場合の累積期間が予め定めた閾値を超えた場合に異常と判定する異常判定処理を行なう判定部と、を備える。こごて、前記判定部は、前記実回転数が検出できる場合には、前記異常判定処理を行なうと共に、前記乖離が予め定めた範囲内となった場合には、前記累積期間を前記閾値より小さな値に低減する低減処理を行ない、前記同期制御が行なわれる期間のうちの少なくとも一部の期間であって、前記検出部が前記実回転数を検出ができない期間には、前記同期制御における見込み回転数を前記実回転数として扱って前記異常判定処理を行なうと共に、前記乖離が予め定めた範囲内となった場合の前記低減処理を抑制する。こうすれば、モータの運転の制御のためにモータの実回転数を検出できない期間があり、この間に実際のモータの回転数とは異なる回転数が検出されたとしても、累積期間を誤って大きく低減してしまい、モータの回転の異常の検出ができなくなってしまうという事態の発生を抑制できる。モータの実回転数の検出ができない期間とは、モータの回転数をセンサレスで、例えばモータの非通電のコイルに発生する誘起電圧によって検出する場合などで、モータの回転数が低い場合などに生じ得る。もとより、ホール素子などのセンサを設けて回転数を検出する場合であっても、回転数を検出できない場合があれば、同様に適用可能である。ここでモータの回転の異常は、モータ自体の故障の他、モータが駆動しているポンプのインペラなどの部材の固着故障や、モータを駆動するインバータなどの駆動回路の異常を含む。
(2)こうしたポンプ駆動装置の異常判定装置において、前記累積期間は、
[1]前記目標回転数と前記実回転数との乖離が所定以上である時間を累積した値、
[2]前記目標回転数と前記実回転数との乖離が所定以上である場合の回転数差を累積した値、
[3]前記目標回転数と前記実回転数との乖離が所定以上である場合の前記ポンプにより供給される流体の流量の、予め定めた値からの不足分を累積した量、
のうちの少なくとも1つとしてもよい。こうすれば、様々なパラメータを用いて、異常の判定を行なうことができ、異常判定を柔軟に行なうことができる。
(3)こうしたポンプ駆動装置の異常判定装置において、前記制御部は、前記モータの起動時に、同期制御を行ない、前記同期制御が行なわれる少なくとも一部の期間は、前記検出部が前記実回転数の検出ができない期間であるとしてもよい。同期制御を行なう場合には、通常低回転数の範囲では実回転数を正確に検出することが困難であることが多い。この場合でも、異常の検出を的確に行なうことができる。
(4)こうしたポンプ駆動装置の異常判定装置において、前記検出部は、前記モータの多相コイルの誘起電圧により、前記モータの実回転数を検出するものとしてもよい。こうすれば、センサレスでモータの回転数を検出することができる。多相コイルとしては、三相コイルに限らず、五相コイルなどであってもよい。
(5)こうしたポンプ駆動装置の異常判定装置において、前記目標回転数と前記実回転数との乖離が所定以上とは、前記目標回転数と前記実回転数とが、予め定めた回転数差以上に相違する状態であるものとしてもよい。乖離の判断は回転数差によって判断できるが、予め定めた回転数差は、固定値であってもよいし、目標回転数の1/10など、目標回転数に対する割合として定めてもよい。もとより、関数やグラフなどにより、目標回転数に対する回転数差を設定するものとしてもよい。
(6)こうしたポンプ駆動装置の異常判定装置において、前記判定部が行なう前記低減処理は、前記累積期間を初期化する処理であり、前記モータの前記実回転数を検出できない期間における前記低減処理の抑制は、前記初期化を禁止することで実現されるものとしてもよい。低減処理は、徐々に累積期間を低減(デクリメント)することで実現してもよいし、直接初期値に戻す初期化を行なうようにしてもよい。
(7)本開示の他の態様として、モータにより駆動されるポンプの異常判定方法が提供される。このポンプの異常判定方法は、前記モータの実回転数をセンサレスで求め、前記モータの目標回転数を指示して、前記モータの運転を制御と共に、前記モータの起動時に、回転磁界を形成することでモータを回転させる同期制御を行ない、前記実回転数が検出できる場合には、前記目標回転数と前記実回転数との乖離が所定以上である場合の累積期間が予め定めた閾値を超えた場合に異常と判定する異常判定処理を行なうと共に、前記乖離が予め定めた範囲内となった場合には、前記累積期間を前記閾値より小さな値に低減する低減処理を行ない、
前記同期制御が行なわれる期間のうちの少なくとも一部の期間であって、前記実回転数を検出できない期間には、前記同期制御における見込み回転数を前記実回転数として扱って前記異常判定処理を行なうと共に、前記乖離が予め定めた範囲内となった場合の前記低減処理を抑制する。かかる手法によって、モータの運転の制御のためにモータの実回転数を検出できない期間があっても、ポンプの異常を的確に判定できる。
【0007】
(8)本開示の更に他の態様として、モータの起動時の異常判定装置が提供される。このモータの異常判定装置は、前記モータの実回転数をセンサレスで求める検出部と、前記モータの起動時に同期制御により、前記モータの目標回転数を順次指示すると共に、回転磁界を形成して、前記モータの起動を制御する制御部と、前記目標回転数と前記実回転数との回転数差が所定以上である時間の累積期間が予め定めた閾値を超えた場合に異常と判定する異常判定処理を行なう判定部と、を備える。ここで、前記判定部は、前記実回転数が検出できる場合には、前記異常判定処理を行なうと共に、前記目標回転数と前記実回転数との回転数差が予め定めた範囲内となった場合には、前記累積期間を前記閾値より小さな値に低減する低減処理を行ない、前記同期制御が行なわれる期間のうちの少なくとも一部の期間であって、前記検出部が前記実回転数を検出できない期間には、前記同期制御における見込み回転数を前記実回転数として扱って前記異常判定処理を行なうと共に、前記回転数差が予め定めた範囲内となった場合の前記低減処理を抑制する。こうすれば、モータの運転の制御のためにモータの実回転数を検出できない期間があっても、モータの異常を的確に判定できる。
【0008】
本開示は他の態様によっても実施可能である。例えば、ポンプの制御装置やポンプの制御方法に組み込んで実施することも可能である。また、モータを駆動するモータ駆動装置やドライバ、その駆動方法としても実現可能であるし、こうしたドライバにポンプやモータの駆動を指示する制御装置としても実施可能である。ドライバに組み込む場合には、目標回転数は上位の制御装置から与えられ、制御装置に組み込む場合には、実回転数はドライバ側から取得される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態のポンプ駆動装置の異常判定装置を示す概略構成図。
【
図2】ポンプ駆動装置の異常判定装置をモータの駆動系を中心に示す構成図。
【
図3】第1実施形態の異常判定処理ルーチンを示すフローチャート。
【
図5】第1実施形態における異常判定の手法を比較して示す説明図。
【
図6】第2実施形態の異常判定処理ルーチンを示すフローチャート。
【
図7】第3実施形態の異常判定処理ルーチンを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
A.第1実施形態:
(1)ハードウェア構成:
第1形態のポンプ駆動装置の異常判定装置20を含む燃料電池システムの構成を、
図1に示す。図示するように、このポンプ駆動装置の異常判定装置20は、燃料電池30を冷却する冷却液循環系40に設けられた冷却水循環用のポンプ41の駆動装置の異常を判定する装置である。まず、燃料電池30を運転する構成について説明すると、燃料電池30は、図示しない周知の燃料ガス供給排気系および酸化ガス(大気)供給排気系を備え、燃料ガスである水素と大気に含まれる酸素との電気化学反応により、発電を行なう。燃料電池30は、電気化学反応により発熱するため、冷却液循環系40により、冷却される。こうした燃料ガスや大気の供給・排出を行なう燃料ガス供給排気系、酸化ガス供給排気系、更には、冷却液循環系40等の制御は、制御部70により行なわれる。制御部70は、燃料電池30に設けられた図示しない温度センサや圧力センサなどのセンサ群から信号FCSを受け取り、燃料電池30に設けられたインジェクタ、各種電磁弁などのアクチュエータ群に信号ACSを出力し、燃料電池30を所望の状態で運転する。燃料電池30の構成および運転の手法は周知のものなので、冷却液循環系40以外の詳細は、図示および説明を省略する。
【0011】
冷却液循環系40は、ポンプ41の他、ポンプ41により循環される冷却液と大気との間で熱交換を行なうラジエータ43、燃料電池30から排出される冷却液をラジエータ43もしくはバイパス管路46のいずれかに分岐する三方弁45,燃料電池30とラジエータ43との間で冷却液を循環させる循環路を構成する配管47等から構成される。また、ポンプ41には、駆動用のモータ51およびドライバ60からなるポンプ駆動装置50が設けられている。
【0012】
ポンプ駆動装置50のモータ51は、直流電源であるバッテリ52の電力を用いて、ドライバ60により駆動される。ドライバ60は制御部70に接続されており、制御部70から指示された目標回転数St*でモータ51を運転する。ドライバ60は、制御部70に対して、モータ51の実回転数Srrを出力する。制御部70は、この目標回転数St*と実回転数Srrとを用いて、モータ51により駆動されるポンプの異常の判定をする。
【0013】
モータ51の駆動系を含むポンプ駆動装置50の異常判定装置20の詳細を、
図2に示した。図示するように、ポンプ駆動装置50の異常判定装置20は、モータ51、ドライバ60、および制御部70から構成される。ドライバ60は、インバータ62と駆動回路64とから構成されている。ドライバ60の駆動回路64は、制御部70からの目標回転数St*の指示を受け、インバータ62に設けられたスイッチング素子を制御して、モータ51を駆動する。以下、モータ51を駆動するための回路構成とを各部の機能について順次説明する。
【0014】
ポンプ41を駆動するモータ51は、本実施形態では、ブラシレスの三相PMモータである。モータ51は、U相,V相,W相の三相コイルに、位相が120度ずれた正弦波の電流を流すことにより、回転磁界を形成し、これにより永久磁石を備える回転子53を回転する。回転子53が回転すると、ポンプ41の図示しないインペラが回転し、配管47内の冷却液を燃料電池30方向に押し出す。U相,V相,W相の三相コイルは、本実施形態では、星形結線されており、各コイルの一端に、インバータ62からの出力が接続されている。
【0015】
インバータ62は、バッテリ52からの電源ライン間に並列に介装された3組のスイッチング素子S1-S2,S3-S4,S5-S6、スイッチング素子S1-S6のコレクタ-エミクタ間に接続された保護用ダイオードD1-D6、を備える。各スイッチング素子S1-S6のゲートには、駆動回路64からの駆動信号Du+,Du-,Dv+,Dv-,Dw+,Dw-が入力される。この駆動信号により、スイッチング素子は駆動され、順次導通状態(ターンオン)となる。なお、各組のスイッチング素子は同時に導通状態となることはない。
【0016】
各組のスイッチング素子S1-S2,S3-S4,S5-S6の結合点は、モータ51のU相,V相,W相の三相コイルの一端に接続される。したがって、例えば駆動信号Du+がアクティプとなってスイッチング素子S1が導通状態となり、駆動信号Dv-がアクティブとなってスイッチング素子S4が導通状態となると、バッテリ52からの電流が、スイッチング素子S1からU相コイルとV相コイル、更にはスイッチング素子S4を通って流れることになる。U相コイルに流れる電流Iu、U相コイルに接続されたラインに設けられた電流センサ55uにより検出可能となっている。同様に、V相コイルに接続されたラインには電流センサ55Vが、W相コイルに接続されたラインには電流センサ55wが、それぞれ設けられ、V相コイルに流れる電流Iv、W相コイルに流れる電流Iwを検出する。
【0017】
駆動回路64は、モータ制御部65,出力部66、検出部67、入出力部68を備える。検出部67は、電流センサ55u,55v,55wからの信号を読み取ってモータ51の各相電流Iu,Iv,Iwを検出する。なお、ここでは理解の便を図って、三相コイルに流れる電流を全て検出するものとしたが、モータ51の各相コイルに流れ込む電流と流れ出す電流とは対応しているので、電流センサは、三相の全てに設ける必要はない。
【0018】
入出力部68は、モータ制御部65の指示を受けて、インバータ62の各スイッチング素子S1からS6を駆動する信号Du+,Du-,Dv+,Dv-,Dw+,Dw-を出力する。モータ制御部65は、入出力部68を介して受け取った目標回転数St*に向けて、モータ51の回転数を制御する。その際、モータ制御部65は、回転数を増減するために必要な各相電流を演算し、これを出力部66に出力する。出力部66は、この指示を受けて、インバータ62の各スイッチング素子S1からS6を駆動する信号Du+,Du-,Dv+,Dv-,Dw+,Dw-のオン時間を定め、これを出力する。出力部66は、各スイッチング素子のオン時間を制御するパルス幅変調モジュール(PWM)として機能する。
【0019】
モータ制御部65は、検出部67を介して各相コイルの電流の変化を検出するが、このうち、2組のスイッチング素子がターンオンして駆動電流が流れるコイル以外のコイルには、回転子53に設けられた永久磁石との位置関係に応じた誘起電圧が生じる。この誘起電圧に対応した電流は、電流センサにより検出可能である。モータ51が一定以上の回転数で回転していれば、誘起電圧による電流変化は、回転子53の角度を演算するに十分な大きさとなっているので、モータ制御部65は、これから回転子53の回転位相、つまり三相コイルu,v,wに対する角度を求め、この角度に基づいて、各相コイルに流すべき電流の大きさを演算し、出力部66を介して、インバータ62の各スイッチング素子S1-S6のオン・オフを制御する。モータ制御部65は、回転子53の回転角度の変化からモータ51の実回転数Srrを求め、これを入出力部68を介して、制御部70に出力する。
【0020】
他方、モータ51の回転数が低い場合、例えば停止していたモータ51を制御部70からの指示により起動する場合などには、誘起電圧による電流変化によっては、回転子53の回転角度を検出することができない。更に言えば、回転子53が停止している場合には、回転子53が各相コイルに対してどのような角度で停止しているかを検出することができないので、最初に通電すべきコイルを特定することもできない。そこで、こうした場合には、
[1]回転磁界の形成前に、停止している回転子53の回転角度を検出する検出処理、
[2]回転子53の回転角度を検出することなく回転磁界を形成する同期制御、
のいずれかを行なう。本実施形態では、[2]の手法を採用している。
【0021】
同期制御では、回転子53の位置を検出しないまま、各相コイルu,v,wに電流を流し、ゆっくりと回転する回転磁界を形成する。この場合、回転子53の回転角度を検出していないので、回転子53の永久磁石が形成する磁束の方向対して、高効率の角度に回転磁界を形成することができない場合も多いが、回転子53は、徐々に回転を始め、時間をかけて回転磁界の回転に同期する。この間は、誘起電圧は十分な大きさにならないので、モータ制御部65は、誘起電圧から回転子53の回転角度、ひいては回転数を検出することができない。このためモータ制御部65は、自ら指示する回転磁界の回転速度に対応した回転数で、回転子53が回転しているものとして、この回転磁界の回転速度に対応した回転数を、実回転数Srrとして、外部に、ここでは制御部70に出力する。
【0022】
制御部70は、コンピュータ(CPU)やメモリ、入出力インタフェース部などを内蔵し、後述するプログラムを実行することにより、指示部、判定部、出力部などの機能を実現する。
図2に示したように、制御部70は、インバータ62の駆動回路64に対して、指示部の働きにより目標回転数St*を出力し、駆動回路64から実回転数Srrを受け取って、判定部の働きによりポンプ41の異常を判定し、異常判定の結果を出力部の働きにより、外部に、例えばインスツルメントパネルの警告灯や、ダイアグノーシスコンピュータ等に出力する。なお、検出されるポンプ41の異常は、ポンプ41を駆動するモータ51自体の故障の他、モータ51が駆動しているポンプ41のインペラなどの部材の固着故障や、モータ51を駆動するインバータ62などの駆動回路、更にはインバータを制御する制御側の異常、各種配線の断線や短絡故障などの異常を含む。
図2において、駆動回路64の入出力部68から制御部70に出力されている信号Sscは、駆動回路64が同期制御を実施している場合にアクティブとなる信号であるが、第1実施形態では、駆動回路64はこの信号を出力する機能を有していない。この信号Sscについては、第2実施形態で説明する。
【0023】
(2)異常判定処理:
ポンプ駆動装置50の異常判定装置20が行なう異常判定処理について、
図3のフローチャートを用いて説明する。図示する異常判定処理は、制御部70に内蔵されたCPUにより、所定の間隔で繰り返し実行される。この処理が開始されると、まずモータ51を運転するかを判断する(ステップS105)。モータ51を運転する必要がない場合には、何も行なわず、「NEXT」に抜けて、本処理ルーチンを終了する。運転する必要がない場合とは、ポンプ41を運転して冷却液を循環する必要がない場合のみならず、モータ51の起動に失敗して、次の再起動を待っている間などが相当する。
【0024】
モータ51を運転すると判断した場合には、次に、51の目標回転数St*をドライバ60に指示し(ステップS110)、ドライバ60からモータ51の実回転数Srrを受け取る処理を行なう(ステップS120)。その上で、制御部70は、指示した目標回転数St*と取得した実回転数Srrとの偏差の絶対値(┃St*-Srr┃)が、予め定めた回転数閾値ΔSより大きいか否かを判断する(ステップS125)。この処理は、目標回転数St*と実回転数Srrとが乖離している場合に相当する。
【0025】
ドライバ60は、目標回転数St*を受け取って、モータ51を起動するが、モータ51の回転数は徐々に目標回転数St*に向かって上昇していくため、その間は、実回転数Srrは目標回転数St*を下回っている。しかも、起動時には、上述した様に、同期制御が行なわれるため、回転数の上昇は緩やかなものとなり、ドライバ60は、この間、誘起電圧による回転子53の回転数の検出ができないので、実測された回転数に代えて、制御上の見込み回転数を実回転数Srrとして出力する。
【0026】
この様子を
図4に例示した。図において実線J1は、同期制御によって、モータ51の回転子53の実回転数Srrが目標回転数St*に向かって上昇していく場合を示す。他方、破線B1は、何らかの異常が生じて、回転子53の実回転数Srrが目標回転数St*まで上昇しない場合を示す。同期制御が行なわれている場合には、ドライバ60の駆動回路64は、実回転数Srrを実際には計測していないから、異常が生じた場合でも、実回転数Srrは、破線B1のようにはならず、実線J1のように上昇する。
【0027】
この結果、同期制御の間に出力され実回転数Srrと目標回転数St*との偏差は、時刻t1までは回転数閾値ΔSを上回ることになる。そこで、この場合には、制御部70は、異常判定カウンタCerr をインクリメントする(ステップS140)。つまり、異常判定カウンタCerr は、実回転数Srrと目標回転数St*との乖離が所定以上の場合の累積期間を求めることに相当する。他方、時刻t1になると、見かけ上の偏差は回転数閾値ΔSより小さくなるので(ステップS125:「NO」)、次に、時刻tが同期制御の実施期間より後の所定のタイミングtsより小さいかの判断を行なう(ステップS135)。仮に、t<ts、つまり同期制御の実施期間を過ぎたタイミングtsに至っていなければ、何も行なわない。時刻tが所定のタイミングts以降になっていれば(ステップS135:「NO」)、異常判定カウンタCerr を値0に初期化する処理を行なう(ステップS150)。ここで初期化は、実回転数Srrと目標回転数St*との偏差が大きい時間を累積した累積期間を低減する低減処理に相当する。初期化すれば、直ちに累積期間である異常判定カウンタCerr は値0に低減される。初期化は、例えば2段階に分けて行なうなど、一度に行なわない手法を含む。また、ステップS135の判断によって、初期化を行なわないことは、累積期間の低減を含む初期化を抑制値(ここでは禁止)することに相当する。
【0028】
これらいずれかの処理を行なったのち、異常判定カウンタCerr が閾値ThCより大きいか否かの判断を行なう(ステップS165)。異常判定カウンタCerr が閾値ThCより大きくなっていれば、異常と判定し、これを異常信号Serr として出力する(ステップS170)。異常判定カウンタCerr が閾値ThCより大きくなっていなければ、異常は生じていないとして、何も行なわず、「NEXT」に抜けて、本処理ルーチンを一旦終了する。
【0029】
上述した異常判定処理ルーチンは所定の間隔で繰り返し実行されるから、仮にモータ51の回転子53の実回転数Srrが破線B1のように、いつまでたっても目標回転数St*に到達しない場合、ステップS125の判断は、繰り返し「YES」となって、異常判定カウンタCerr は、この判定処理ルーチンが実行される度にインクリメントされる(ステップS140)。この結果、異常判定カウンタCerr は、破線Eb1のようにカウントアップを続け、時刻t2で閾値ThCを上回るから、異常と判定されることになる。他方、同期制御の結果、回転子53の実回転数Srrが正常に上昇した場合には、同期制御の実施期間より後の所定のタイミングtsになると、異常判定カウンタCerr は値0に初期化されるから(ステップS150)、異常との判定はなされない。
【0030】
図4において、破線B1は仮想的な回転数であり、仮に何らかの異常、例えばポンプ41のインペラが異物を噛み込んで回転不能となっていたり三相コイルu,v,wのいずれかが断線して正常回転できない状態となっていたりすると、同期制御によってモータ51の回転子53は正常に回転しないが、その場合でも、駆動回路64は正常回転しているものとして、同期制御の実施期間は、実線J1と同様に実回転数Srrを出力し続ける。その上で、実回転数Srrが目標回転数St*から回転数閾値ΔSだけ小さい回転数まで上昇していれば、誘起電圧によって回転数は検出できるとして、誘起電圧の周期の逆数として回転子53の回転数を検出し、これを実回転数Srrとして出力する。つまり、同期制御によってモータ51の起動に失敗した場合には、
図4に一点鎖線D1として示したように、同期制御が終了するタイミングtpには、実回転数Srrは正常値から外れてしまう。正常値から外れるとは、回転子53が噛み込みなどにより回転できない場合には、実回転数St*が値0となり、三相コイルの一部断線などの場合には、実回転数Srrが値0ではないものの、目標回転数St*より回転数閾値を超えて小さくなることがある。回転数が誘起電圧による検出ができないほど小さければ回転していても回転数0とされる。
【0031】
そこで、こうした同期制御によってモータ51が正常に起動できない場合の異常判定処理ルーチンにおける異常検出の様子を、
図5を用いて説明する。
図5は、同期制御を行なっても、モータ51が起動しないケースを示す。制御部70がドライバ60に対してモータ51の起動を指示し、目標回転数St*を指示すると、同期制御が行なわれる期間Pscでは、実線J2に示すように、ドライバ60の駆動回路64は、実回転数Srrとして目標回転数St*に向けて上昇していく同期制御上の仮想的な回転数を出力し続ける。この間、異常判定カウンタCerr は、順次インクリメントされて増加されていく。
【0032】
この様子を、
図5では、(1)と(2)として2つ示した。(1)における異常判定カウンタCerr は、
図3の処理ルーチンにおいて、ステップS135の判断、つまり時刻tが同期制御の実施期間Pscを超えたタイミングtsであるかを判断して、時刻tがタイミングtsを超えるまで、異常判定カウンタCerr の初期化の処理(ステップS150)を行なわない、という一連の処理を行なわない場合を示している。この場合、
図5の破線Ej2とした示したように、異常判定カウンタCerr は、目標回転数St*と実回転数Srrとの偏差の絶対値が、回転数閾値ΔSより小さくなったタイミングt1で初期化されて値0となる。このため、同期制御の実施期間Pscが経過し、モータ51の起動に失敗した場合でも、異常判定カウンタCerr は初期化されてしまうので、再度起動を試みて同期制御を行なうと、同様の処理が繰り返され、何度同期制御を行なって起動に失敗しても、これを異常として検出することができない。
【0033】
これに対して、本実施形態では、目標回転数St*と実回転数Srrとの偏差の絶対値が、回転数閾値ΔSより小さくなっても(ステップS125:「NO」)、時刻tがタイミングtsを超えるまでは(ステップS135:「YES」)、異常判定カウンタCerr の初期化の処理(ステップS150)を行なわない。したがって、
図5の(2)に実線Eb2として示したように、異常判定カウンタCerr は、タイミングt1で初期化されず、インクリメントされた値に維持される。同期制御が終了すれば、次の同期制御の開始まで、ステップS105の判断は「NO」となり、異常判定カウンタCerr には何らの変化は生じない。次に、モータ51を起動するとして同期制御を開始すると(図示タイミングt3)、目標回転数St*と実回転数Srrとの偏差の絶対値は、回転数閾値ΔSより大きいから、再びステップS125での判断は「YES」となり、異常判定カウンタCerr のインクリメントが行なわれる。この結果、異常判定カウンタCerr はやがて閾値ThCを超え(図示タイミングt4)、制御部70は、モータ51によるポンプ41の起動ができないとして、異常を検出し、これを出力する(ステップS165.S170)。もとより、異常判定カウンタCerr が閾値ThCに到達するまでに、目標回転数St*と実回転数Srrとの偏差の絶対値が、回転数閾値ΔSより小さくなれば、異常判定カウンタCerr は初期化され、異常との判定がなされず、ポンプ41は正常に起動されたと判断される。
【0034】
以上説明した第1実施形態では、センサレスで回転数を検出してモータ51を駆動するドライバ60が、モータ51の起動時に同期制御を行ない、同期制御の実施期間中、モータ51の実回転数Srrとして、実際の回転子53の回転数ではなく制御上の回転数を出力する場合であっても、異常の判定を誤ることがない。同期制御を繰り返してもモータ51を起動できない場合には、モータ51を再度起動しようとするリトライを許容しつつ、予め設定した回数までリトライしても誘起電圧による回転数の検出ができなければ、ポンプ41の異常と判定することができる。また、モータ51が一旦起動した後、誘起電圧によってモータ51の実回転数Srrが検出できる状態になった後、何らかの原因で、目標回転数St*と実回転数Srrとの乖離が回転数閾値以上となる状況が続くと、異常判定カウンタCerr はインクリメントされるから(
図3、ステップS140)、同期制御以外でも異常の発生を判定できる。
【0035】
上記第1実施形態では、ステップS135で、時刻tが、所定の時刻tsを超えたかを判断したが、この時刻tsは、同期制御が開始されたタイミングからの所定の期間として規定してもよい。また、モータ51の起動が繰り返される場合には、同期制御の開始は、再度同期制御が行なわれる場合の再同期を待っている期間の終了のタイミングとして規定してもよい。
【0036】
B.第2実施形態:
次に第2実施形態について、説明する。第2実施形態のポンプ駆動装置の異常判定装置20は、第1実施形態と同様のハードウェア構成を備えるが、
図1に示した構成のうち、駆動回路64が出力する信号Sscを制御部70が利用可能となっている点で相違する。この信号Sscは、駆動回路64が同期制御を行なっていることを示す信号である。
【0037】
図6は、第2実施形態における異常判定処理ルーチンを示すフローチャートである。この処理ルーチンは、第1実施形態のステップS135に代えて、ステップS137を行なう点のみが相違する。すなわち、第2実施形態では、同期制御開始からの経過時間である時刻tが予め同期制御の実施期間を超えるタイミングtsより大きいかを判断する(
図3:ステップS135)代わりに、同期制御が行なわれているか否かを信号Sscがオンであるか否かにより判断する(ステップS137)のである。この結果、同期制御が行なわれている間(Sscがオン)の場合には、目標回転数St*と実回転数Srrとの偏差の絶対値が、回転数閾値ΔSより小さくなっていても、異常判定カウンタCerr の初期化の処理(ステップS150)は行なわれない。したがって、この第2実施形態でも、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0038】
C.第3実施形態:
次に第3実施形態について、
図7を用いて説明する。第3実施形態では、第1,第2実施形態と同様のハードウェア構成を用いるが、
図7に示すように、第1実施形態のステップS135や第2実施形態のステップS137に相当する処理を行なわない。つまり、同期制御期間であれば、異常判定カウンタCerr の初期化を行なわないという判断を実行しない。第3実施形態では、図示するように、同期制御期間であるか否かの判断に代えて、目標回転数St*と実回転数Srrとの偏差の絶対値が、回転数閾値ΔSより大きい場合(ステップS125,「YES」)には、異常判定カウンタCerr を値1ずつインクリメントする(ステップS142)。他方、目標回転数St*と実回転数Srrとの偏差の絶対値が、回転数閾値ΔS以下になった場合(ステップS125:「NO」)には、異常判定カウンタCerr を値4ずつデクリメントし(ステップS152)、異常判定カウンタCerr が0未満となったら(ステップS154)、これを値0に初期化する(ステップS155)。
【0039】
かかる処理を行なう第3実施形態では、
図4に示した例に則して言えば、時刻t1までは異常判定カウンタCerr は傾き1でインクリメントされて値が大きくなるが、同期制御中に、目標回転数St*と実回転数Srrとの偏差の絶対値が、回転数閾値ΔSより小さくなると、以後は、異常判定カウンタCerr はデクリメントされ、値が小さくなっていく。その後、同期制御の実施期間が終了すると、モータ51の起動に成功していれば、そのまま異常判定カウンタCerr はデクリメントされ続け、値0に初期化される。モータ51の起動に失敗していれば、同期制御の残時間(時刻t1からtsまど)は、異常判定カウンタCerr はデクリメントされるが、誘起電圧による回転数検出に失敗すれば、異常判定カウンタCerr のデクリメントは止まり、再度同期制御によるモータ51の起動が開始されると、再び、異常判定カウンタCerr はインクリメントされる。この結果、数度の同期制御によってもモータ51が起動しない場合には、異常判定カウンタCerr はいずれ閾値ThCを超えることになり、ポンプ41の異常を検出できる。リトライの間にモータ51が正常に回転できるようになれば、異常判定カウンタCerr は値4ずつデクリメントされて、いずれ値0に初期化される。なお、本実施形態において、デクリメントの方をインクリメントより大きな値で行なっているのは、モータ51の目標回転数St*と実回転数Srrとの偏差の絶対値が、回転数閾値ΔSより小さくなった場合には、つまりモータ51が正常に起動した場合には、異常判定カウンタCerr を速やかに初期化するためである。もとより、インクリメントとデクリメントの速度は同じであってもよいし、インクリメントの方を大きな値で行なうようにしてもよい。
【0040】
D.他の実施形態:
上記各実施形態では、累積期間は、カウンタを用いて、モータ51の目標回転数と実回転数との乖離が所定以上である時間を累積した値として求めたが、累積期間は、例えばモータ51の目標回転数と実回転数との乖離が所定以上である場合の回転数差を累積した値として求めてもよい。この場合には、回転数差が大きい場合には累積期間は短時間で大きな値となるので、回転数差が大きいほど短い時間で異常の判定を行なうことができる。また、累積期間は、モータ51の目標回転数と実回転数との乖離が所定以上である場合のポンプ41による冷媒の流量の、予め定めた流量からの不足分を累積した量として求めてもよい。この場合には、配管47に流体である冷媒の流量を検出する流量計を設けておき、制御部70によりこの流量に関して、予め定めた定格流量からの不足分を累積すればよい。この場合には、不足流量が大きいほど、累積期間は短時間で大きな値となるので、流量の不足分が大きいほど、短時間で異常の判定を行なうことができる。
【0041】
上記実施形態では、ポンプとして、燃料電池30の冷却液を循環するポンプ41を異常判定の対象とした。このため、ポンプの異常を判定した場合には、燃料電池30の運転を停止したり、インスツルメントパネルに異常を表示して運転者に警告するなどの対応をとり、燃料電池30が十分な冷却がなされないまま運転されるといった事態を回避できる。ポンプとしては、燃料電池30に限らず、電気自動車のモータの冷却を行なう冷却液の循環ポンプなど、他の冷却液循環ポンプに適用してもよい。もとより、冷却液の循環ポンプに限らず、燃料電池における大気の供給用ポンプ(コンプレッサ)や水素ポンプなどの異常判定装置としても実施可能である。更には車載各種ポンプ、揚水や排水用の各種ポンプなどに適用することも差し支えない。
【0042】
更に、ポンプ以外の対象を駆動するモータの異常判定装置として実施してもよい。モータは、起動時に同期制御を行なうものに限らず、センサレスモータにおいて固定子の停止位置を検出してから回転磁界を形成するものに適用してもよい。あるいは、ホール素子などのセンサを用いて回転数を検出する構成においてあも、回転数を検出できない領域がある場合には、適用可能である。
【0043】
上記各実施形態において、ハードウェアによって実現されていた構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよい。ソフトウェアによって実現されていた構成の少なくとも一部は、ディスクリートな回路構成により実現することも可能である。また、本開示の機能の一部または全部がソフトウェアで実現される場合には、そのソフトウェア(コンピュータプログラム)は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納された形で提供することができる。「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスクやCD-ROMのような携帯型の記録媒体に限らず、各種のRAMやROM等のコンピュータ内の内部記憶装置や、ハードディスク等のコンピュータに固定されている外部記憶装置も含んでいる。すなわち、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、データパケットを一時的ではなく固定可能な任意の記録媒体を含む広い意味を有している。
【0044】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0045】
20…ポンプ駆動装置の異常判定装置、30…燃料電池、40…冷却液循環系、41…ポンプ、43…ラジエータ、45…三方弁、46…バイパス管路、50…ポンプ駆動装置、51…モータ、52…バッテリ、53…回転子、55V,55u,55w…電流センサ、60…ドライバ、62…インバータ、64…駆動回路、65…モータ制御部、66…出力部、67…検出部、68…入出力部、70…制御部