(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】K-ω乱流モデルについての普遍的な壁面境界条件処理
(51)【国際特許分類】
G06F 17/13 20060101AFI20240828BHJP
【FI】
G06F17/13
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020203293
(22)【出願日】2020-12-08
【審査請求日】2023-12-08
(32)【優先日】2019-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514180812
【氏名又は名称】ダッソー システムズ アメリカス コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【氏名又は名称】那須 威夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141553
【氏名又は名称】鈴木 信彦
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【氏名又は名称】上杉 浩
(72)【発明者】
【氏名】マーティン サンチェス-ローシャ
【審査官】坂東 博司
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104794293(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104156525(CN,A)
【文献】特開2004-126925(JP,A)
【文献】米国特許第8775140(US,B2)
【文献】David C. Wilcox,Formulation of the k-w Turbulence Model Revisited,AIAA Journal vol.46, N0.11,米国,AIAA,2012年,vol.46, N0.11,2823-2838,https://cfd.spbstu.ru/agarbaruk/doc/2008_Wilcox_Formulation%20of%20the%20k-%20w%20Turbulence%20Model%20Revisited.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 17/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物理的実体についての流体流動をシミュレートするためのコンピュータ実施方法であって、
1つまたは複数のコンピューティングシステムによって、シミュレーション空間におけるシミュレートされている前記物理的実体の表現を定義するメッシュを含む前記シミュレーション空間のモデルを
データリポジトリから受信することであって、前記メッシュが、前記物理的実体の表面を考慮する
解像度を有する複数のセルを含み、前記メッシュは、粘性層を有する境界、バッファ層、及び前記境界の対数領域を有する境界を定義する、受信することと、
前記1つまたは複数のコンピューティングシステムによって、前記メッシュ内のセルのセル中心を決定すること、
前記1つまたは複数のコンピューティングシステムによって、決定された前記セル中心および流体流動変数から、前記シミュレーション空間において定義される前記粘性層、前記バッファ層、および前記境界の前記対数領域について有効な、乱流についての
比エネルギー散逸率の値を計算し、前記境界から離れたメッシュの第1のグリッド要素が前記バッファ層に存在するようなメッシュのメッシュ依存性を実質的に除去すること、
によって、前記境界から離れた第1の要素についての前記流体流動のk-ω乱流流体流動モデルの前記
比エネルギー散逸率についての境界条件を
前記1つまたは複数のコンピューティングシステムによって判断することと、
を含む、コンピュータ実施方法。
【請求項2】
yが前記境界におけるセルである場合の前記境界のy
+<3の位置に位置するセルに対して、前記方法が、
前記1つまたは複数のコンピューティングシステムによって、バッファ層補正係数を前記
比エネルギー散逸率についての境界条件として適用することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記境界条件を判断することが、
前記1つまたは複数のコンピューティングシステムによって、バッファ層補正係数を、yが前記境界におけるセルである場合の前記境界のy
+<3の位置に位置するセルに対する前記
比エネルギー散逸率についての境界条件として適用することをさらに含み、前記バッファ層補正係数が、
ω’
Hyb=f
blendω
Hyb
に従って与えられ、式中、ω’
Hybが、前記バッファ層補正係数であり、f
blendが、ブレンディング関数であり、ω
Hybが、粘性層補正関数である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記1つまたは複数のコンピューティングシステムによって、粘性底層補正係数を前記
比エネルギー散逸率についての境界条件として適用することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記境界条件を判断することが、
前記1つまたは複数のコンピューティングシステムによって、粘性底層補正係数を前記
比エネルギー散逸率についての境界条件として適用することであって、前記粘性底層補正係数が、
【数1】
に従って与えられ、式中、
【数2】
が、前記粘性底層補正係数であり、
【数3】
が、位置1における前記セルであり、
【数4】
が、位置2における前記セルである、適用することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記境界条件を判断することが、
前記1つまたは複数のコンピューティングシステムによって、粘性底層補正係数を前記
比エネルギー散逸率についての境界条件として適用することであって、前記粘性底層補正係数が、
【数5】
に従って与えられ、式中、
【数6】
が、前記粘性底層補正係数であり、
【数7】
が、位置1における前記セルであり、
【数8】
が、位置2における前記セルである、適用することをさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記k-ωモデルにアクセスすることと、
アクセスされた前記k-ωモデルを、判断された前記境界条件で初期化することと、
初期化された前記k-ωモデルを実行して、前記シミュレートされた物理的実体についての前記流体流動をシミュレートすることと、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記k-ω乱流流体流動モデルにアクセスすることであって、前記k-ω乱流流体流動モデルが、
前記流体流動の乱流運動エネルギーを判断するための第1の偏微分方程式、および
前記シミュレーション空間における前記流体流動の前記
比エネルギー散逸率を判断するための第2の偏微分方程式
を含む、アクセスすることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の要素が前記バッファ層にあるかどうかを判断することと、前記バッファ層にあるときに、
前記バッファ層における前記
比エネルギー散逸率の値に作用し、前記シミュレーション空間において定義される前記境界の前記粘性層における値にブレンディング関数が影響を与えることを防止する、前記ブレンディング関数を適用すること
によって、前記バッファ層においてのみ前記
比エネルギー散逸率の値を増加させる補正を適用することと、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記補正を適用することが、
前記バッファ層における前記
比エネルギー散逸率の値に作用し、前記シミュレーション空間において定義される前記境界の前記粘性層における値にブレンディング関数が影響を与えることを防止する、前記ブレンディング関数を適用することをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
シミュレートされた物理的実体についての
流体流動をシミュレートするためのシステムであって、
1つまたは複数のプロセッサデバイスと、
前記1つまたは複数のプロセッサデバイスに動作可能に連結されるメモリと、
前記システムに、
シミュレーション空間におけるシミュレートされている前記物理的実体の表現を定義するメッシュを含む前記シミュレーション空間のモデルを受信させ、前記メッシュが、前記物理的実体の表面を考慮する
解像度を有する複数のセルを含み、前記メッシュは、粘性層を有する境界、バッファ層、及び前記境界の対数領域を有する境界を定義し、
前記システムに
前記メッシュ内のセルのセル中心を決定させ、
決定された前記セル中心および流体流動変数から、前記シミュレーション空間において定義される前記粘性層、前記バッファ層、および前記境界の前記対数領域について有効な、乱流についての
比エネルギー散逸率の値を計算させ、前記境界から離れたメッシュの第1のグリッド要素が前記バッファ層に存在するようなメッシュのメッシュ依存性を実質的に除去させる、命令によって、前記境界から離れた第1の要素についての前記流体流動のk-ω乱流流体流動モデルの前記
比エネルギー散逸率についての境界条件を判断させる、
命令を含む、コンピュータプログラムを記憶する記憶媒体と、
を備える、システム。
【請求項12】
yが前記境界におけるセルである場合の前記境界のy
+<3の位置にセルが位置すると判断し、
バッファ層補正係数を前記
比エネルギー散逸率についての境界条件として適用するようにさらに構成され、前記バッファ層補正係数が、
ω’
Hyb=f
blendω
Hyb
に従って与えられ、式中、ω’
Hybが、前記バッファ層補正係数であり、f
blendが、ブレンディング関数であり、ω
Hybが、粘性層補正関数である、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
粘性底層補正係数を前記
比エネルギー散逸率についての境界条件として適用するようにさらに構成され、前記粘性底層補正係数が、
【数9】
に従って与えられ、式中、
【数10】
が、前記粘性底層補正係数であり、
【数11】
が、位置1における前記セルであり、
【数12】
が、位置2における前記セルである、請求項11に記載のシステム。
【請求項14】
粘性底層補正係数を前記
比エネルギー散逸率についての境界条件として適用するようにさらに構成され、前記粘性底層補正係数が、
【数13】
に従って与えられ、式中、
【数14】
が、前記粘性底層補正係数であり、
【数15】
が、位置1における前記セルであり、
【数16】
が、位置2における前記セルである、請求項12に記載のシステム。
【請求項15】
前記k-ωモデルにアクセスし、
アクセスされた前記k-ωモデルを、判断された前記境界条件で初期化し、
初期化された前記k-ωモデルを実行して、前記シミュレートされた物理的実体についての前記流体流動をシミュレートするようにさらに構成される、請求項12に記載のシステム。
【請求項16】
物理的実体についての流体流動をシミュレートするためのコンピュータプログラ
ムであって、前記コンピュータプログラ
ムが、コンピュータ可読記憶媒体上に有形に記憶され、前記コンピュータプログラ
ムが、システムに、
シミュレーション空間におけるシミュレートされている前記物理的実体の表現を定義するメッシュを含む前記シミュレーション空間のモデルを受信させ、前記メッシュが、前記物理的実体の表面を考慮する
解像度を有する複数のセルを含み、前記メッシュは、粘性層を有する境界、バッファ層、及び前記境界の対数領域を有する境界を定義し、
前記システムに、
前記メッシュ内のセルのセル中心を決定させ、
決定された前記セル中心および流体流動変数から、前記シミュレーション空間において定義される前記粘性層、前記バッファ層、および前記境界の前記対数領域について有効な、乱流についての
比エネルギー散逸率の値を計算させる、命令によって、前記境界から離れた第1の要素についての前記流体流動のk-ω乱流流体流動モデルの前記
比エネルギー散逸率についての境界条件を判断させる
、
コンピュータプログラ
ム。
【請求項17】
前記システムに、
さらに、
yが前記境界におけるセルである場合の前記境界のy
+<3の位置にセルが位置すると判断させ、
バッファ層補正係数を前記
比エネルギー散逸率についての境界条件として適用させ、前記バッファ層補正係数が、
ω’
Hyb=f
blendω
Hyb
に従って与えられ、式中、ω’
Hybが、前記バッファ層補正係数であり、f
blendが、ブレンディング関数であり、ω
Hybが、粘性層補正関数である
、請求項16に記載のコンピュータプログラ
ム。
【請求項18】
前記システムに、
さらに、
粘性底層補正係数を前記
比エネルギー散逸率についての境界条件として適用させ、前記粘性底層補正係数が、
【数17】
に従って与えられ、式中、
【数18】
が、前記粘性底層補正係数であり、
【数19】
が、位置1における前記セルであり、
【数20】
が、位置2における前記セルである
、請求項16に記載のコンピュータプログラ
ム。
【請求項19】
前記システムに、
さらに、
粘性底層補正係数を前記
比エネルギー散逸率についての境界条件として適用させ、前記粘性底層補正係数が、
【数21】
に従って与えられ、式中、
【数22】
が、前記粘性底層補正係数であり、
【数23】
が、位置1における前記セルであり、
【数24】
が、位置2における前記セルである
、請求項17に記載のコンピュータプログラ
ム。
【請求項20】
前記システムに、
さらに、
前記k-ωモデルにアクセスさせ、
アクセスされた前記k-ωモデルを、判断された前記境界条件で初期化させ、
初期化された前記k-ωモデルを実行して、前記シミュレートされた物理的実体についての前記流体流動をシミュレートさせる
、
請求項16に記載のコンピュータプログラ
ム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本説明は、物理的流体流動(fluid flow)などの物理的プロセスのコンピュータシミュレーションに関する。
【背景技術】
【0002】
高レイノルズ数流れは、巨視的な物理量(例えば、密度、温度、流速)を表す変数に関する多くの離散空間位置のそれぞれにおいて高精度の浮動小数点演算動作を実行することにより、ナビエ-ストークス(Navier-Stokes)微分方程式の離散化解を生成することによってシミュレートされている。対象となる問題をシミュレートする1つの手法は、いわゆるSST k-ω乱流モデルという広く使用される乱流モデルを使用し、それは、2つの偏微分方程式(k)および(ω)を解く。これらの方程式のうちの1つ(k)は、乱流運動エネルギー(TKE,turbulent kinetic energy)のためのものであり、これらの方程式のうちの1つ(ω)は、比エネルギー散逸率(SEDR,specific energy dissipation rate)のためのものである。これらの方程式の組合せが、流体流動の乱流状態を定義する。
【0003】
原則として、対象の問題をシミュレートするために流体力学の支配方程式(例えば、ナビエ-ストークス方程式)を解くことが可能である。残念ながら、大抵の実際の工学的問題は、乱流条件下で大きなレイノルズ数流れにおいて発生する流動条件を伴う。このことは、そのような条件下において合理的な計算コストおよび時間コストで解を得るために、計算流体力学(CFD)シミュレーションソルバが、乱流モデリング技術を適用して時間および計算モデルサイズを実際のレベルまで縮小させることを必要とする。乱流モデリングは、乱流流体流動の挙動を近似する方法論である。
【0004】
そのようなモデルの1つが、k-ω乱流モデルのせん断応力輸送の公式化、または単に「SST k-ω乱流モデル」である。SST k-ω乱流モデルは、2つの偏微分方程式に対する解を伴う。偏微分方程式には概して当てはまるが、kおよびωの偏微分方程式は、それらの方程式を解くために境界条件の指定を必要とする。
【0005】
乱流運動エネルギーのための方程式(k)は、比エネルギー散逸率でこの方程式の積分を定義するディリクレ(Dirichlet)およびノイマン(Neumann)の境界条件を受けるが(ω偏微分方程式)、ω偏微分方程式は、壁面境界においてディリクレ型またはノイマン型のいずれかの境界条件を欠いており、したがって、ω偏微分方程式は、解をもたらすためにk偏微分方程式で容易に積分され得ない。
【0006】
これらの方程式を有効に積分する解法をもたらすためには、典型的には、ω偏微分方程式を単純化して壁面境界が漸近的に接近するときのω偏微分方程式の挙動を説明する付帯方程式を導出するために、壁面近傍解析が行われる。
【0007】
しかしながら、この補助方程式は、ω偏微分方程式を解くために使用され得る公式の境界条件ではないが、壁面境界付近でこの方程式を施行することによって、それでも解が可能となる。問題となるのは、補助方程式を施行する方法である。様々な解法が提案されている。補助方程式の挙動を施行するための1つの提案された解法は、漸近的挙動を回復するために追加メッシュポイントを作り出す。提案された別の解法は、補助方程式をディリクレ境界条件として施行するための補助方程式に対する修正である。
【発明の概要】
【0008】
上述のように、特定のSST k-ω乱流モデルおよびより概略的なk-ωモデルの欠点は、比エネルギー散逸率についてのω偏微分方程式が、壁面境界においてディリクレ型またはノイマン型のいずれかの境界条件を欠いており、したがって、解をもたらすためにk方程式で容易に積分され得ないということである。
【0009】
本明細書に説明されるのは、SST k-ω乱流モデルを具体的に使用するシミュレーションを用いて、境界条件の指定に使用するためのω偏微分方程式のための一般化された壁面境界条件(wall-boundary condition)の処理であり、より概略的には、解法は、k-ω乱流モデルの公式化に概して適用可能である。
【0010】
本明細書に説明される一般化された壁面境界条件は、粘性底層(viscous-sublayer)および対数層(logarithmic-layer)において必要とされる正しい補助漸近的関係を自動的に与え、よって、粘性底層がメッシュによって適切に分解されないときに示されない精度で、病的なメッシュ依存劣化を除去する。説明される一般化された壁面境界条件は、壁面境界から離れた第1の要素がバッファ層内に位置するときに示される精度で、病的なメッシュ依存劣化を除去し得る。さらに、一般化された壁面境界条件処理は、残りの境界層が適切に分解される限り、壁から離れた第1の要素の位置とは独立して、結果を正確に予測し得る。
【0011】
態様によれば、シミュレートされた物理的実体(physical object)についての流体流動をシミュレートするためのコンピュータ実施方法は、1つまたは複数のコンピューティングシステムによって、シミュレーション空間における物理的実体の表現を定義するメッシュを含むシミュレーション空間のモデルを受信することであって、メッシュが、物理的実体の表面を考慮する分解能(解像度、resolution)を有する複数のセルを含む、受信することと、メッシュ内のセルのセル中心を判断すること、ならびに1つまたは複数のコンピューティングシステムによって、セル中心の距離および流体流動変数から、シミュレーション空間において定義される境界の粘性層、バッファ層、および対数領域について有効な、乱流についての比エネルギー散逸率の値を計算することによって、流体流動のk-ω乱流流体流動モデル(k-Omega turbulence fluid flow model)の比エネルギー散逸率についての境界条件を判断することと、を含む。
【0012】
他の態様は、コンピューティングシステムおよびコンピュータプログラム製品を含む。
【0013】
上記態様のうちの1つまたは複数が、以下の特徴または後述する他の特徴の任意の1つまたは複数を含み得る。
【0014】
yが境界におけるセルである場合の境界のy+<3の位置に位置するセルに対して、態様は、バッファ層補正係数をエネルギー散逸率についての境界条件として適用する。境界条件を判断することは、1つまたは複数のコンピューティングシステムによって、バッファ層補正係数を、yが境界におけるセルである場合の境界のy+<3の位置に位置するセルに対するエネルギー散逸率についての境界条件として適用することを含み、補正係数は、
ω’Hyb=fblendωHyb
に従って与えられ、式中、ω’Hybが、補正係数であり、fblendが、ブレンディング関数であり、ωHybが、粘性層補正関数である。
【0015】
境界条件を判断することは、粘性底層補正係数をエネルギー散逸率についての境界条件として適用することを含む。境界条件を判断することは、1つまたは複数のコンピューティングシステムによって、粘性底層補正係数をエネルギー散逸率についての境界条件として適用することであって、粘性底層補正係数が、
【数1】
に従って与えられ、式中、
【数2】
が、補正係数であり、
【数3】
が、位置1におけるセルであり、
【数4】
が、位置2におけるセルである、適用することをさらに含む。
【0016】
態様は、k-ωモデルにアクセスすることと、アクセスされたk-ωモデルを、判断された境界条件で初期化することと、初期化されたk-ωモデルを実行して、シミュレートされた物理的実体についての流体流動をシミュレートすることと、をさらに含む。態様は、k-ω乱流流体流動モデルにアクセスすることであって、k-ω乱流流体流動モデルが、流体流動の乱流運動エネルギーを判断するための第1の偏微分方程式、およびシミュレーション空間における流体流動の比エネルギー散逸率を判断するための第2の偏微分方程式を含む、アクセスすることをさらに含む。
【0017】
態様は、位置がバッファ層にあるかどうかを判断することと、バッファ層にあるときに、バッファ層においてのみエネルギー散逸率の値を増加させる補正を適用することと、をさらに含む。補正を適用することは、バッファ層におけるエネルギー散逸率の値に作用し、シミュレーション空間において定義される境界の粘性層における値にブレンディング関数が影響を与えることを防止する、ブレンディング関数を適用することをさらに含む。
【0018】
上記態様のうちの1つまたは複数が、以下の利点のうちの1つまたは複数を提供し得る。
【0019】
境界条件を指定する手法は、現行の境界条件の方策と比較して、k-ωモデルの任意のファミリを使用する乱流CFDシミュレーションの精度を実質的に改善し得る。手法は、現行の境界条件の方策とは異なり、粘性底層を適切に分解しないメッシュ上で見出されるメッシュ依存性を予測から除去する。手法は、現行の境界条件の方策とは異なり、壁から離れた第1のグリッド要素がバッファ層に存在するメッシュ上のメッシュ依存性を除去するか、または実質的に低下させる。手法は、現行の境界条件の方策とは異なり、壁から離れた第1のグリッド点の位置から独立している、乱流境界層の内層全体を通した境界条件処理を提供する。手法は、現行の境界条件の方策とは異なり、壁におけるω偏微分方程式についての境界条件の適用を一般化してもよく、粘性底層および対数層の漸近的挙動を施行する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】圧縮性流れまたは非圧縮性流れについての乱流境界層モデルを含む、流体流動のシミュレーションのためのシステムを示す図である。
【
図2】K-ω SST乱流モデルの公式化のための動作を示すフローチャートである。
【
図3】境界条件を判断するための補正についての動作を示すフローチャートである。
【
図4】乱流チャネル流におけるωPDEの解を示すプロットである。
【
図5】粘性底層および対数層におけるωについての付帯関係のブレンディングを示すプロットである。
【
図6】粘性底層分解能によるメッシュ依存性を示すプロットである。
【
図7】壁面近傍分解能(near wall resolution)が段階的変化において十分精細でないときに、ωの分散およびチャネル流を示すプロットである。
【
図9】異なる壁面近傍分解能(未補正)についての平均速度プロファイルおよび摩擦係数を示すプロットであり、プロットされた分解能ケースにおける複数の例を有するが、明確にするために選択したもののみが基準線によって示される。
【
図10】異なる壁面近傍分解能(補正済み)についての平均速度プロファイルおよび摩擦係数を示すプロットであり、プロットされた分解能ケースにおける複数の例を有するが、明確にするために選択したもののみが基準線によって示される。
【
図11】バッファ層におけるωの不整合を示すプロットである。
【
図12】バッファ層における境界層条件の性能を示すプロットであり、プロットされた分解能ケースにおける複数の例を有するが、明確にするために選択したもののみが基準線によって示される。
【
図13】バッファ層において精度を改善するブレンディング関数を示すプロットである。
【
図14】バッファ層におけるωの補正を示すプロットである。
【
図15】境界条件補正を適用した結果を示すプロットであり、プロットされた分解能ケースにおける複数の例を有するが、明確にするために選択したもののみが基準線によって示される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に説明されるのは、導出される一般的な補助方程式であり、これは、壁面近傍限界におけるメッシュ依存解を除去する補正を用いて壁面近傍挙動および壁関数限界を正しく再現して、計算流体力学シミュレーションに使用されるk-ω乱流モデルにおけるω偏微分方程式の補助境界条件処理の実用的な実施を提供する。
【0022】
以下の説明において、境界条件処理は、全てのk-ω乱流モデルに適用可能であるω偏微分方程式に対して導入される。以下の説明において、壁面境界からの距離は、「y+n」と示され、「y」は、境界であり、「n」は、境界から離れるセルの数であり、nは、整数または小数のいずれかの値をとる数である。
【0023】
以下に説明される境界条件手法は、公称y+0.1~y+5の間の粘性底層、壁から離れた、例えばy+>25の完全乱流領域である対数層(ログ層)、および粘性底層でも完全乱流対数領域でもなく、典型的には5<y+<25により定義されるバッファ層を参照する。これらの範囲の他の変形も可能である。
【0024】
境界条件手法は、粘性底層(例えば壁面境界に近い、典型的にはy+5である層)におけるω偏微分方程式ωVの漸近的挙動を説明し、かつ乱流平衡対数層(例えば、壁から遠位の、典型的にはy+25であるがまだ境界層内にある層)ωLに完全に対応する、ωについての普遍的補助関係を導出することに基づく。補助方程式に対するこの手法は、粘性底層において比較的不十分なメッシュ分解能に関連する精度の劣化を修正する補正係数も含む。
【0025】
ここで
図1を参照すると、システム10は、k-ω乱流モデルのファミリの任意のモデルを使用したCFDシミュレーションのために構成されるシミュレーションエンジン34を含む。シミュレーションエンジン34は、特定のk-ω乱流モデルを実行する乱流モデルモジュール34aと、乱流モデルモジュール34aと共に使用する境界条件を自動的に指定する境界モジュール34bと、を含む。境界モジュール34bにおいて実行される境界条件は、境界層内で乱流挙動を満たすωについての普遍的解から導出される。言い換えると、乱流平衡対数層(例えば、壁から遠位の、例えばy
+25であるがまだ境界層内にある層)に十分に対応しつつ、粘性底層(例えば、壁面境界に近い、例えばy
+5である層)におけるω偏微分方程式の漸近的挙動を説明する、補助関係が提供される。
【0026】
本実施におけるシステム10は、クライアントサーバ、またはクラウドベースアーキテクチャに基づき、大規模並列コンピューティングシステム12(スタンドアロンまたはクラウドベース)として実施されるサーバシステム12と、クライアントシステム14と、を含む。サーバシステム12は、メモリ18、バスシステム11、インターフェース20(例えば、ユーザインターフェース/ネットワークインターフェース/ディスプレイまたはモニタインターフェースなど)、および処理デバイス24を含む。メモリ18内は、メッシュ準備エンジン32、およびシミュレーションエンジン34である。
【0027】
図1は、メモリ18内のメッシュ準備エンジン32を示しているが、メッシュ準備エンジンは、サーバ12とは異なるシステム上で実行されるサードパーティアプリケーションであってもよい。メッシュ準備エンジン32がメモリ18内で実行するか、またはサーバ12とは異なるシステム上で実行されるかに関わらず、メッシュ準備エンジン32は、ユーザ供給メッシュ定義30を受信し、メッシュ準備エンジン32は、メッシュを準備し、シミュレーションエンジン34によるシミュレーションのためにモデル化されている物理的実体に従って、準備されたメッシュをシミュレーションエンジン34に送信(および/または記憶)する。システム10は、2Dおよび/または3Dメッシュ(デカルトおよび/または曲線)、座標系、ならびにライブラリを記憶するデータリポジトリ38にアクセスする。任意の数の物理的実体または物理的流体流動が、物理的実体または物理的流動を表すために使用されるシミュレーション空間において表現され得る。シミュレーションは、空気力学/航空宇宙解析、気象、環境工学、産業システム、生物システム、一般流体流動、および燃焼システムなどを含む広範囲の技術的および工学的問題において使用され得る。
【0028】
ここで
図2を参照すると、物理的実体の表現についての流体流動をシミュレートするためのプロセス40が示されている。本明細書に説明される実施例では、物理的実体は、エアフォイルである。物理的実体は、任意の形状のものであってもよく、特に平面および/または湾曲した表面を有し得るため、エアフォイルの使用は、単なる例示である。プロセス40は、シミュレートされている物理的実体のためのメッシュ(またはグリッド)を、例えばクライアントシステム14から受信する42か、またはデータリポジトリ38から取り出す。他の実施形態において、外部システムまたはサーバ12のいずれかが、ユーザ入力に基づいて、シミュレートされている物理的実体についてのメッシュを生成する。他の実施例は、含む。
【0029】
プロセスは、取り出したメッシュから幾何学量を予め計算する44。プロセス40は、取り出したメッシュおよび流動場変数に基づいて、(例えば境界モジュール34bにおいて)境界条件を判断する46。速度、ω、k、温度などの流動場変数は、境界モジュール34bにおいて使用するためにシミュレートされている実体についてωHCorrを計算するために使用される。乱流変数が分かると、偏微分方程式kおよびωが解かれる。乱流モデルは、メッシュによって分解できない乱流の影響を表し、かつ解を進めるために使用される渦粘性(eddy viscosity)を提供する。メッシュは、シミュレーション空間を含むか、またはシミュレーション空間を複数のセルに分割する。
【0030】
プロセスは、選択されたk-ω乱流モデルを使用して計算流体力学シミュレーション(CFD)を実行する48。モデルは、境界条件によって初期化され、取り出されたメッシュに対応する予め計算された幾何学量を用いて、乱流モデルモジュール34aにおいて実行される。
【0031】
ここで
図3を参照すると、シミュレートされた物理的実体についての流体流動をシミュレートするためのプロセス60が示されている。プロセス60は、コンピューティングシステムによって、シミュレーション空間における物理的実体の表現を定義するメッシュを含むシミュレーション空間のモデルを受信すること62を含み、メッシュが、物理的実体の表面を考慮する分解能を有する複数のセルを含む。プロセス60は、また、メッシュ内のセルのセル中心を判断すること、ならびに1つまたは複数のコンピューティングシステムによって、セル中心の距離および流体流動変数からシミュレーション空間において定義される境界の粘性層、バッファ層、および対数領域について有効な、乱流についての
比エネルギー散逸率の値を計算すること66によって、流体流動のk-ω乱流流体流動モデルの比エネルギー散逸率についての境界条件を判断すること64と、を含む。
【0032】
プロセス60は、また、yが境界におけるセルである場合の境界のy+<3の位置に位置するセルに対して、バッファ層補正係数をエネルギー散逸率についての境界条件として適用すること68aを含む。プロセス60は、また、粘性底層補正係数をエネルギー散逸率についての境界条件として適用すること69bを含む。
【0033】
上述した、壁関数の仮定を導出するために、流体流動は、乱流チャネル流に対して解析される。非圧縮性乱流チャネルについてのレイノルズ平均支配方程式は、
【数5】
【数6】
によって与えられる。
【0034】
十分発達した流れで、かつ平均スパン方向速度がない場合、仮定は、
【数7】
である。
【0035】
乱流のxおよびz成分が0であることは、平均的に流れがxおよびzに対して変化しないことを意味する。しかしながら、これらの方向に対して、流れは、幾何空間の一部に対して即座に変化し得る。
【0036】
したがって、連続性についての方程式は、
【数8】
になる。
【0037】
これは、移流が0であることを示唆し、よって、定常状態支配方程式は、
【数9】
のようになる。
【0038】
Z方向において方程式を評価することによって、
【数10】
がもたらされる。
【0039】
この方程式は、Z軸全体を通して平衡を保ち、それは、レイノルズ応力の勾配が一定であり、Z軸に沿って対称であることを意味する。
【数11】
【0040】
これは、レイノルズ応力が非対称であることを示唆する。
【数12】
【0041】
よって、z=0におけるレイノルズ応力は、ゼロである。
【数13】
【0042】
これは、圧力がz軸にわたって変化せず、スパン方向z=0の中心において圧力を「測定」するには十分であることを意味する。Y方向において方程式を評価することは、壁法線のレイノルズ応力が壁法線方向の関数のみであることを示す。
【数14】
【0043】
これは、
【数15】
をもたらすように積分され得る。
【0044】
この方程式から、流れ方向の圧力勾配は、壁における圧力の勾配と等しい。
【数16】
【0045】
式(5.c)を用いてX運動量方程式を評価すること、および対称性条件を適用することによって、
【数17】
【数18】
がもたらされる。
【0046】
チャネルy=Hの中心においてこの式を評価することによって、
【数19】
がもたらされる。
【0047】
よって、チャネルにおける圧力損失は、
【数20】
と計算され得る。
【0048】
運動量方程式は、また、全応力に関して、
【数21】
と書かれ得る。
【0049】
式(7.a)を用いると、方程式(7.c)は、
【数22】
と書かれ得る。
【0050】
したがって、チャネルにおける全応力は、y
+(式7.d)および摩擦レイノルズ数(式8.0)の関数として書かれ得る。
【数23】
【0051】
この方程式が拡大され、速度勾配を計算するためにいわゆる「壁法則」が使用される場合、式(8.0)は、
【数24】
と書かれ得る。壁法則は、y
+を有する平均速度プロファイルの値に関する万能評価関数であり、この速度プロファイルは、3つの領域、粘性底層(速度がy
+<5について線形関数に従う)、対数層(速度が、y
+>25について対数関数に従う)、および5<y
+<25について両方の層の間の滑らかな移行関数であるバッファ層によって構成され、壁においては、
【0052】
【数25】
になる。よって、レイノルズ応力が正確に計算され得る。
【数26】
【0053】
流れはRe
τ>100において乱流になり始め、したがって、y
+<5、u
+=y
+は、粘性底層について
【数27】
と書かれ得る。
【0054】
これは、レイノルズ応力が粘性底層において約0であることを示す。対数領域y
+>25において、
【数28】
であり、レイノルズ応力は、
【数29】
と、近似される。
【0055】
したがって、十分大きなRe
τについて、レイノルズ応力は、壁せん断応力に等しい。さらに、レイノルズ応力Re
τ=100の場合であっても、対数領域y
+=25において、式(10.b)は、
【数30】
をもたらし、これは、かろうじて乱流であり、より大きなレイノルズ数
【数31】
の場合、壁または境界において乱流にほぼ等しい。
【0056】
壁付近の生産の実施は、壁に非常に近い近接を仮定すること、および第2項を除去することによって式(9.c)を適用して行われる。高いRe
τに対して第2項は0であるはずである。
【数32】
【0057】
壁せん断応力を乱流変数と関連させることが可能である。乱流運動エネルギーの量は、対数領域において生産が散逸と平衡を保つと予測する。
【数33】
【0058】
k-εモデルを用いると、渦粘性は、
【数34】
と書かれる。
【0059】
(11.0)において式(12.0)を用いると、壁せん断は、対数層における乱流運動エネルギーに関して書かれ得る。
【数35】
【0060】
よって、摩擦速度
【数36】
は、
【数37】
と書かれ得る。
【0061】
粘性底層および対数領域におけるεの値を計算するために、以下の関係が使用され得る。壁におけるTKE量に基づいて、TKEの拡散は、エネルギー散逸率と平衡を保つ。
【数38】
これは、
【数39】
のように積分され得る。
【0062】
境界条件k(y=0)=0、C
2=0と仮定すると、乱流運動エネルギーは、
【数40】
のように書かれ得る。
【0063】
乱流運動エネルギーは常に正でなければならないため、これは、
【数41】
であることを必要とする。
【0064】
この点が存在し、式(14.b)による最小値であるため、臨界点の位置を探すことによってさらなる情報が得られ得る。
【数42】
【0065】
臨界点は領域y≧0の中に位置しなければならないため、これは、C
1≦0であることを課す。両方の条件を課すことによって、
【数43】
がもたらされる。
【0066】
これは、y=0を含む全てのyについて保持するため、式(19.0)における条件は、
C1≧0 & C1≦0 (20.0)
となる。
【0067】
式20.0が真であり得る唯一の方法は、C
1=0であるときであり、それは、
【数44】
であることを示唆する。
【0068】
対数領域における散逸率についての関係は、式(10.b)を式(11.0)上に代入することによって得られ得る。
【数45】
また、式(14.a)を用いることによって、対数関係は、
【数46】
と、書かれ得る。
【0069】
渦粘性が式(23.0)を用いて評価される場合、渦粘性は、対数領域において線形であることが分かり得る。
νΤ=uτΚy (24.0)
【0070】
平面チャネル流れについての壁近傍乱流解析
SST k-ωモデルによって予測される結果は、結果に対する壁近傍依存性を有する。この依存性は、それが壁近傍領域に近付くときのオメガ(ω)方程式の壁近傍挙動に起因する。
【0071】
【0072】
壁に非常に近い定常流の場合、式(1.b)は、
【数49】
に簡略化され得る。
【0073】
この方程式は、壁の非常に近くでのみ適用可能である以下の解を有する。
【数50】
【0074】
壁関数の公式化を展開するために、エネルギー散逸率について以前に展開した乱流チャネル流解析の式(22.0)が使用される。しかしながら、それが使用される前に、プロセスは、対応する渦粘性の定義を用いることによってεおよびωの変数をリンクする。
【数51】
【0075】
この関係を用いて、式(22.0)は、ωに関して書かれ得る。
【数52】
【0076】
図4は、乱流チャネル流についての数値解が式(27)および(29)において提示される両方の限界をどのように予測するかを示している。両方の限界を併合する方程式を展開することが望ましい。
【数53】
【0077】
図5は、解析ハイブリッド関数、例えば式30.0が非常に近接して数値計算を予測することが可能であることを示す。
図5は、粘性底層y
+<5(ω
V)および対数層y
+>25(ω
L)におけるωについての付帯関係のブレンディング(ω
hyb)の影響を示し、それは、y
+の関数として正しい付帯関係を作り出す。
【0078】
壁面近傍分解能が段階的変化において十分精細でないときに、メッシュの分解能が、例えば
図7において、約y
+<0.1ではない場合、数値計算は、粘性底層におけるωの激しい変動を高い精度で予測することができない。丸で示される数値計算は、y
+=0.05の壁面近傍分解能を使用する。結果は、第1のセルにおけるωの値が、予期される理論値(ω
V)に入らず、内層に位置する残りのグリッド点上のωの不適当な分布を引き起こす(
図7参照)ことを示している。その場合に、ωの値(塗りつぶした丸)はω
V分布より上にある。したがって、結果は、拡散離散化が、以下に示されるようにωの急勾配を適切に分解することができないために生じるメッシュ依存性を示す。
【0079】
y
+<2についての粘性底層において、式26は、正確に離散化される必要がある。式26の解は、壁Y1から離れた第1のセルにおいて式30を施行することを必要とする(
図8)。しかしながら、拡散離散化は、壁におけるωの解析勾配を適切に回復しない。
【数54】
【0080】
壁から離れた第1のセルにおけるωの値を指定することによって、拡散流を必要とする第1の要素について拡散流をキャプチャするのに十分であると仮定される。しかしながら、壁から離れた第1のセルは、積分されず、値は、式30を用いて規定される。拡散に使用される有限体積離散化は、以下に示されるようなωの急峻な変動を再現することができない。
【0081】
【0082】
ここで、ωの粘性底層の挙動を代用することによって、かつその後、式32.bの何らかの代数操作は、要素面におけるωの勾配が不適当であることを示す。
【数56】
すなわち、ωの規定された値を用いた数値離散化は、常に拡散流を過大に予測し、それが、
図9における傾斜が急峻である理由である。
【0083】
しかしながら、メッシュ分解能がy+<0.1である場合、式33によって引き起こされる不正確な流動があっても、解が最終的にωの正しい分散に漸近的に近付くことを可能にするのに、第1のグリッド点は十分壁に近い。
【0084】
よって、解全体は、これ以上のメッシュ改良点によって変更されない。しかしながら、第1のグリッドポイントがy
+>0.1に位置する場合、ωがそのログ領域値に向かって変化する前に、式33は、ωの正しい分布に漸近的に近付くように解を抑制する大きな数値誤差を導入する。
図6に示されるように、これは、メッシュ依存であり、かつ壁面近傍分解能が0.1<y
+<2であると分かるときにより顕著な、計算における誤差を生み出す。
【0085】
ωの拡散についての方程式を解析的に導出することが可能であり、したがって、拡散流に対する補正が、式33における誤差を考慮に入れるために導入され得る(式34)。
【数57】
【0086】
ωの補正された値は、ωが弱まるときに関連するTKEの生産を防止するTKE方程式において使用される。式34が、式33が有効であるy+<3.5についての補正のみであることに留意することが非常に重要である。式34を使用することにより精度の改善を示すために、式30を用いた予測される速度プロファイルおよび摩擦係数を示すチャネル流の数値計算が、以下に提示される。
【0087】
図9は、y
+<3の壁面近傍分解能が使用されるときに発生する典型的な従来の結果を示しており、結果がメッシュ依存であることを示している。摩擦係数および速度分布についての精度不足が明らかである。即ち、Y
+0.5および2.5の壁面近傍分解能を有するメッシュについてもたらされる大きな誤差が存在する(
図9を参照)。複数の分解能がプロットされているが、明確にするために選択したもののみが基準線によって示される。
【0088】
図10は、しかしながら、図示されるように、式34が使用されるときにメッシュ依存性が除去されており、精度が実質的に改善されることを示している。式(34.0)を用いた摩擦係数および速度分布に対する精度の改善が、非常に明らかである。即ち、
図9において示される大きな誤差が、Y
+0.5および2.5の壁面近傍分解能を有するメッシュについてもたらされ、これらの分解能に対して除去され、正確な結果が、計算精度を改善するために式34の重要性を実証して予期されることとなる。複数の分解能がプロットされているが、明確にするために選択したもののみが基準線によって示される。
【0089】
粘性離散化方程式(33.0)に関連する誤差は、式34.0を用いて補正され得るが、残念ながら、壁面近傍分解能がバッファ層に位置するときに遭遇する別の誤差が存在する。その場合、ωの値は、粘性底層も対数層も満たさない。
【0090】
図11は、式30が内側領域およびログ領域の両方において、ωの偏微分方程式(式25.b)の正確な解を非常に近く予測することが可能であることを示している。式30について、バッファ層における数値は式25.bからの数値解に非常に近いが、バッファ層における値は過小予測される。
【0091】
図12は、壁から離れた第1のグリッド点がバッファ層上に位置するときに、(ω
hyb)の新たな境界条件の性能を示す。バッファ層(5<y
+<25)においてはω
Vもω
Lも有効な挙動でないため、この挙動が予期される。速度プロファイルは、ログ層の過小予測を示し、それは、予期されるものからの摩擦速度の上昇に関連する。その結果、壁せん断がより大きくなり、よって、摩擦係数が増加する。摩擦係数の増加は、
図10が示すように、バッファ層に位置するときの第1のセルにおける、式34によって予測されるωのより低い値に起因する。ωがより低い値であるほど、より大きなTKEの値が引き起こされ、その結果、より大きな壁せん断が引き起こされる。複数の分解能がプロットされているが、明確にするために選択したもののみが基準線によって示される。
【0092】
事例において、粘性底層ωVおよび対数層値ωLの両方が、バッファ層において必要とされる値を過小予測し、よって、そのいずれも、それらのいかなる平均も十分ではない。
【0093】
したがって、バッファ層においてのみωの値を増加させるバッファ層補正が、展開される必要がある。そのような補正関数を提供するために、式27、29、および30が、以下のように使用される。
【数58】
【0094】
式35が
図13上にプロットされており、それは、バッファ層における約30%の増加を示し、それは、バッファ層を超えて拡張する漸近的挙動も示し、これが問題となり得る。粘性層、バッファ層、および対数領域に有効な、新たなω境界条件方程式ω
hybは、
ω’
hyb=f
blendω
hyb (36.0)
と書かれ得る。
【0095】
図14は、式30が式35を用いて補正されるときの、バッファ層における改善を示す。バッファ層内およびバッファ層において示される改善は、実質的である。ここで、内層内のωの挙動は、壁関数理論について普遍的であり、よって、流れが乱流であると仮定すると、Re独立である。これらの関係は、平衡の仮定の下で展開され、したがって、これらの式の導出に繋がる基礎となる仮定を満たすシミュレートされた流れに対して作用することだけが予期され得る。
【0096】
図14は、壁全体を通して(全てのy
+、粘性底層、バッファ層、および対数層)正確であるω
HCorrと呼ばれる関数を作り出すためにω
hybに対してブレンディング関数を適用するωの関係を示す。流れが平衡していないときにブレンディング関数の結果が適用されないことが論じられ得るが、これらは、壁関数手法全体に適用されるとして有効である。しかしながら、仮定は、概して、境界条件方程式を導出するために適用される理想化から条件が逸脱した流れについて壁近傍モデリングを提供する。したがって、式36は、粘性底層、対数層を回復し、粘性底層およびバッファ層におけるメッシュ独立結果に補正をもたらし、ωについての最良の境界条件処理と考えられてもよく、それは、壁関数手法が有効である限り有効である。
【0097】
式35は、粘性底層および対数領域内によく行き渡る漸近的挙動を有する。式30の補正は、バッファ層における適用のみを必要とするため、ブレンディング関数は、式36.1でのように、補正される必要がない内層およびログ層において値に影響を及ぼすことを防止するために、バッファ層において機能するように制限され得る。
【0098】
【0099】
粘性底層補正(式34)およびバッファ層補正(式36.1)を用いた結果は、
図15に示される壁近傍挙動における精度を著しく改善する。
【0100】
図15は、普遍的な境界条件ω
HCorrを適用した結果を示し、それはバッファ層における結果に対する著しい改善を示す。複数の分解能がプロットされているが、明確にするために選択したもののみが基準線によって示される。バッファ層は実質的に改善をもたらすが、予測される摩擦係数もまた、より良く一致しており、
図11において観測される大きな誤差は、実質的に除去される。
【0101】
本明細書において説明される主題および機能的動作の実施形態は、デジタル電子回路、有形に具現化されたコンピュータソフトウェアもしくはファームウェア、コンピュータハードウェア(本明細書に開示される構造およびそれらの構造的な均等物を含む)、またはそれらの1つもしくは複数の組合せにおいて実施され得る。本明細書において説明される主題の実施形態は、1つまたは複数のコンピュータプログラム(即ち、データ処理装置による実行のための、またはデータ処理装置の動作を制御するための有形非一時的プログラム担体上で符号化されるコンピュータプログラム命令の1つまたは複数のモジュール)として実施され得る。コンピュータ記憶媒体は、機械可読記憶デバイス、機械可読記憶基板、ランダムもしくはシリアルアクセスメモリデバイス、またはそれらの1つもしくは複数の組合せであってもよい。
【0102】
「データ処理装置」という用語は、データ処理ハードウェアを指し、例として、プログラマブルプロセッサ、コンピュータ、または複数のプロセッサもしくはコンピュータを含む、データを処理するための装置、デバイス、および機械の全ての種類を包含する。装置は、また、専用論理回路(例えば、FPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)もしくはASIC(特定用途向け集積回路))であってもよく、またはそれらをさらに含んでもよい。ハードウェアに加えて、装置は、コンピュータプログラム(例えば、プロセッサファームウェアを構成するコード、プロトコルスタック、データベース管理システム、オペレーティングシステム、またはそれらの1つもしくは複数の組合せ)用の実行環境を生成するコードを含んでもよい。
【0103】
コンピュータプログラムは、プログラム、ソフトウェア、ソフトウェアアプリケーション、モジュール、ソフトウェアモジュール、スクリプト、またはコードと呼ばれまたは記載されてもよく、コンパイル済みもしくはインタプリタ済み言語、または宣言型もしくは手続型言語を含むプログラミング言語の任意の形態で書かれてもよい。また、それは、スタンドアロンプログラムとして、またはモジュール、コンポーネント、サブルーチン、もしくはコンピューティング環境での使用に適当な他のユニットとして含む、任意の形態で配備され得る。コンピュータプログラムは、ファイルシステム内のファイルに対応してもよいが、必ずしもそうではない。プログラムは、他のプログラムまたはデータ(例えば、マークアップ言語文書、問題のプログラム専用の単一ファイル、または複数の協調型ファイル(例えば、1つもしくは複数のモジュール、サブプログラム、もしくはコードの一部を記憶するファイル)に記憶された1つまたは複数のスクリプト)を保持するファイルの一部に記憶され得る。コンピュータプログラムは、プログラムが1つのコンピュータ上、または1つの場所に位置する、もしくは複数の場所にわたって分散され、かつデータ通信ネットワークによって相互接続される複数のコンピュータ上で実行されるように、配備され得る。
【0104】
本明細書に説明されるプロセスおよび論理フローは、1つまたは複数のプログラマブルコンピュータが、1つまたは複数のコンピュータプログラムを実行して入力データに対して動作することおよび出力を生成することによって機能を実行することにより実行され得る。プロセスおよび論理フローは、また、専用論理回路(例えば、FPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)またはASIC(特定用途向け集積回路))によって実行されてもよく、装置は、専用論理回路として実施されてもよい。
【0105】
コンピュータプログラムの実行に適当なコンピュータは、汎用もしくは専用マイクロプロセッサもしくはその両方、または任意の他の種類の中央処理装置に基づき得る。概して、中央処理装置は、読み出し専用メモリもしくはランダムアクセスメモリ、またはその両方から命令およびデータを受信する。コンピュータの必須要素は、命令を遂行または実行するための中央処理装置、ならびに命令およびデータを記憶するための1つまたは複数のメモリデバイスである。概して、コンピュータは、また、データを記憶するための1つまたは複数の大規模記憶デバイス(例えば、磁気、光磁気ディスク、または光ディスク)を含むか、あるいは、1つまたは複数の大規模記憶デバイスからデータを受信し、もしくはデータを移送し、またはその両方を行うように動作可能に連結されるが、コンピュータがそのようなデバイスを有する必要はない。さらに、コンピュータは、別のデバイス(例えば、いくつか例を挙げると、携帯電話、携帯情報端末(PDA)、モバイル音声もしくはビデオプレーヤ、ゲームコンソール、全地球測位システム(GPS)受信機、またはポータブル記憶デバイス(例えば、ユニバーサルシリアルバス(USB)フラッシュドライブ))に組み込まれ得る。
【0106】
コンピュータプログラム命令およびデータを記憶するのに適当なコンピュータ可読媒体は、例として、半導体メモリデバイス(例えば、EPROM、EEPROM、およびフラッシュメモリデバイス)、磁気ディスク(例えば、内部ハードディスクまたはリムーバブルディスク)、光磁気ディスク、ならびにCD-ROMおよびDVD-ROMディスクを含む、媒体およびメモリデバイス上の不揮発性メモリの全ての形態を含む。プロセッサおよびメモリは、専用論理回路によって補助されてもよく、または専用論理回路に組み込まれてもよい。
【0107】
ユーザとの対話を提供するために、本明細書に説明される主題の実施形態は、情報をユーザに表示するためのディスプレイデバイス(例えば、CRT(陰極線管)またはLCD(液晶ディスプレイ)モニタ)、ならびにユーザがコンピュータに入力を提供し得るキーボードおよびポインティングデバイス(例えば、マウスまたはトラックボール)を有するコンピュータ上で実施され得る。他の種類のデバイスが、同様にユーザとの対話を提供するために使用され得る。例えば、ユーザに提供されるフィードバックは、任意の形態の感覚フィードバック(例えば、視覚フィードバック、聴覚フィードバック、または触覚フィードバック)であってもよく、ユーザからの入力は、音響、発話、または触覚入力を含む任意の形態で受信され得る。さらに、コンピュータは、ユーザによって使用されるデバイスに文書を送信することおよびデバイスから文書を受信することによって、例えば、ウェブブラウザから受信した要求に応答してユーザのデバイス上のウェブブラウザにウェブページを送信することによって、ユーザと対話し得る。
【0108】
本明細書において説明される主題の実施形態は、バックエンドコンポーネント(例えば、データサーバとして)を含み、もしくはミドルウェアコンポーネント(例えば、アプリケーションサーバ)を含み、もしくはフロントエンドコンポーネント(例えば、本明細書に説明される主題の実施とユーザが対話し得るグラフィカルユーザインターフェースもしくはウェブブラウザを有するクライアントコンピュータ)を含むコンピューティングシステム、または1つもしくは複数のそのようなバックエンド、ミドルウェア、もしくはフロントエンドコンポーネントの任意の組合せにおいて実施され得る。システムのコンポーネントは、デジタルデータ通信(例えば、通信ネットワーク)の任意の形態または媒体によって相互接続され得る。通信ネットワークの実施例は、ローカルエリアネットワーク(LAN)およびワイドエリアネットワーク(WAN)(例えば、インターネット)を含む。
【0109】
コンピューティングシステムは、クライアントおよびサーバを含み得る。クライアントおよびサーバは、概して互いから遠隔にあり、典型的には通信ネットワークを通して対話する。クライアントおよびサーバの関係は、それぞれのコンピュータ上で動作し、互いにクライアントサーバ関係を有するコンピュータプログラムによって生じる。いくつかの実施形態において、サーバは、(例えば、ユーザデバイスと対話するユーザに対してデータを表示し、かつユーザからユーザ入力を受信するために)データ(例えば、HTMLページ)をユーザデバイスに送信し、ユーザデバイスは、クライアントとして機能する。ユーザデバイスにおいて生成されるデータ(例えば、ユーザ対話の結果)は、サーバにおいてユーザデバイスから受信され得る。
【0110】
本明細書は、多くの特定の実施の詳細を含むが、これらは、任意の発明の範囲または特許請求され得るものの範囲に対する限定として解釈されるべきではなく、むしろ特定の発明の特定の実施形態に特有であり得る特徴の説明として解釈されるべきである。別個の実施形態の文脈において本明細書に説明されるある特徴は、また、単一の実施形態における組合せで実施され得る。一方、単一の実施形態の文脈において説明される様々な特徴は、また、複数の実施形態において別個に、または任意の適当な部分的組合せで実施され得る。さらに、特徴は、ある組合せで機能するとして上述され、初めはそのように特許請求され得るが、特許請求された組合せからの1つまたは複数の特徴が、場合によっては組合せから切り取られてもよく、特許請求された組合せが、部分的組合せまたは部分的組合せの変形を対象としてもよい。
【0111】
同様に、動作は、特定の順序で図面に示されているが、これは、そのような動作が示された特定の順序もしくは連続順序で実行されること、または所望の結果を達成するために全ての例示された動作が実行されることを必要とすると理解されるべきではない。ある状況においては、マルチタスクおよび並列処理が有利であり得る。さらに、上述した実施形態における様々なシステムモジュールおよびコンポーネントの分離は、全ての実施形態においてそのような分離を必要とすると理解されるべきではなく、説明されたプログラムコンポーネントおよびシステムは、概して単一のソフトウェア製品に一体化されてもよく、または複数のソフトウェア製品にパッケージ化され得ると理解されるべきである。
【0112】
主題の特定の実施形態が説明されている。他の実施形態は、以下の特許請求の範囲内にある。例えば、特許請求の範囲に列挙された動作は、異なる順序で実行されてもよく、それでも所望の結果を達成し得る。1つの実施例として、添付図面に示されるプロセスは、所望の結果を達成するために、示された特定の順序または連続順序を必ずしも必要としない。場合によっては、マルチタスクおよび並列処理が有利であり得る。
【符号の説明】
【0113】
10 システム
12 サーバシステム
14 クライアントシステム
18 メモリ
20 インターフェース
24 処理デバイス
30 メッシュ定義
32 メッシュ準備エンジン
34 シミュレーションエンジン
34a 乱流モデルモジュール
34b 境界モジュール
38 データリポジトリ