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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】インクジェット記録用水系インク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/322 20140101AFI20240828BHJP
【FI】
C09D11/322
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020215023
(22)【出願日】2020-12-24
(65)【公開番号】P2022100817
(43)【公開日】2022-07-06
【審査請求日】2023-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江川 剛
(72)【発明者】
【氏名】川口 太生
(72)【発明者】
【氏名】黒田 あずさ
(72)【発明者】
【氏名】田村 裕一
(72)【発明者】
【氏名】金城 一聖
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-119115(JP,A)
【文献】国際公開第2020/203088(WO,A1)
【文献】特開2017-226218(JP,A)
【文献】特開2020-164571(JP,A)
【文献】特開2020-075436(JP,A)
【文献】特開2016-125057(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01
B41M 5/00
C09D 11/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
白色顔料、ポリマー粒子、水溶性有機溶剤、界面活性剤、及び水を含有するインクジェット記録用水系インクであって、
該界面活性剤が、アセチレングリコール系界面活性剤(a)とポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤(s)とを含み、
該アセチレングリコール系界面活性剤(a)の含有量が、水系インク中、1.2質量%以上であり、
該アセチレングリコール系界面活性剤(a)に対する該ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤(s)の質量比[(s)/(a)]が、0.4以上1.2以下である、
非吸水性記録媒体用のインクジェット記録用水系インク。
【請求項2】
アセチレングリコール系界面活性剤(a)がアセチレングリコールのエチレンオキシド付加物であり、該エチレンオキシドの平均付加モル数が1以上20以下である、請求項1に記載のインクジェット記録用水系インク。
【請求項3】
アセチレングリコール系界面活性剤(a)の含有量が、水系インク中、1.3質量%以上5質量%以下である、請求項1又は2に記載のインクジェット記録用水系インク。
【請求項4】
水溶性有機溶剤が、多価アルコール及び多価アルコールアルキルエーテルから選ばれる1種以上である、請求項1~3のいずれかに記載のインクジェット記録用水系インク。
【請求項5】
白色顔料が、白色顔料を含有するポリマー粒子の形態である、請求項1~4のいずれかに記載のインクジェット記録用水系インク。
【請求項6】
非吸水性記録媒体が、ポリエチレンテレフタレートフィルム又はポリプロピレンフィルムである、請求項1~5のいずれかに記載のインクジェット記録用水系インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用水系インクに関する。
【背景技術】
【0002】
商品包装や広告等における商業印刷分野では、ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン等の樹脂製の記録媒体に対し、環境負荷の低減、省エネルギー等の観点から、水系インクを用いるインクジェット記録方法が注目されている。
インクジェット記録方法は、微細なノズルからインク液滴を直接吐出し、記録媒体に付着させて、文字や画像が記録された記録物を得る記録方式であり、フルカラー化が容易で、かつ安価であり、記録媒体に対して非接触、という数多くの利点がある。
一方、白地ではない樹脂フィルム等に対するインクジェット記録においては、白色を表現する目的や視認性を高める目的で白色インクが使用されている。白色インクに用いる着色剤としては、隠蔽性の高い酸化チタンが汎用されており、酸化チタン等の顔料の分散性を向上させることを目的として、ポリマー分散剤が用いられている。
【0003】
樹脂フィルムへのインクジェット記録方法において、ベタ印刷均一性等を改善すべく、種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、ベタ印刷均一性に優れ、良好な画像を得ることができるインクジェット記録方法として、低吸液性記録媒体上に、第1インクと第2インクを重ねて記録するインクジェット記録方法であって、第1インク及び第2インクが、着色剤、ポリマー、有機溶媒を含有する水系インクであり、第1インク及び第2インクの静的表面張力と粘度が特定の関係式を満たし、1以上の第1インクで画像を形成した後、第2インクで背景用画像を形成するインクジェット記録方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-119115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
食品包装においては、樹脂フィルム等の非吸水性記録媒体が用いられ、従来、UV硬化型インクや油性インクが多用されていた。しかしながら、UV硬化型インク等では、インク中の重合開始剤やモノマー成分が食品へ移行するというマイグレーションの懸念があり、問題視されていた。水系インクにおいても、水系インク中の低分子量成分のマイグレーションの防止が求められる。
特許文献1等の従来技術では、ベタ印刷均一性について改善されているが、水系インクのマイグレーションの防止対策については改善の余地があった。
本発明は、非吸水性記録媒体への記録においても、インク中に含まれる界面活性剤等の化学物質のマイグレーションを防止でき、また、ベタ印刷均一性や白色度等の画質に優れた記録物を得ることができるインクジェット記録用水系インクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、アセチレングリコール系界面活性剤とポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤を特定の質量比で含む界面活性剤を用いることにより、上記課題を解決し得ることを見出した。
すなわち、本発明は、白色顔料、ポリマー粒子、水溶性有機溶剤、界面活性剤、及び水を含有するインクジェット記録用水系インクであって、
該界面活性剤が、アセチレングリコール系界面活性剤(a)とポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤(s)とを含み、該アセチレングリコール系界面活性剤(a)の含有量が、水系インク中、1.2質量%以上であり、
該アセチレングリコール系界面活性剤(a)に対する該ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤(s)の質量比[(s)/(a)]が、0.4以上1.2以下である、
非吸水性記録媒体用のインクジェット記録用水系インクを提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、非吸水性記録媒体への記録においても、インク中に含まれる界面活性剤等の化学物質のマイグレーションを防止でき、また、ベタ印刷均一性や白色度等の画質に優れた記録物を得ることができるインクジェット記録用水系インクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[インクジェット記録用水系インク]
本発明の非吸水性記録媒体用のインクジェット記録用水系インク(以下、「本発明インク」ともいう)は、白色顔料、ポリマー粒子、水溶性有機溶剤、界面活性剤、及び水を含有するインクジェット記録用水系インクであって、
該界面活性剤が、アセチレングリコール系界面活性剤(a)とポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤(s)とを含み、該アセチレングリコール系界面活性剤(a)の含有量が、水系インク中、1.2質量%以上であり、
該アセチレングリコール系界面活性剤(a)に対する該ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤(s)の質量比[(s)/(a)]が、0.4以上1.2以下である。
【0009】
なお、本明細書において「水系」とは、顔料を分散させる媒体中で、水が質量比で最大割合を占めていることを意味する。
また、「記録」とは、文字や画像を記録する印刷、印字を含む概念であり、「記録物」とは、文字や画像が記録された印刷物、印字物を含む概念である。
「非吸水性」とは、記録媒体と純水との接触時間100m秒間における該記録媒体の吸水量が1g/m2以下であることを意味する。
【0010】
本発明インクによれば、非吸水性記録媒体への記録においても、インク中に含まれる界面活性剤等の化学物質のマイグレーションを防止でき、また、ベタ印刷均一性や白色度等の画質に優れた記録物を得ることができる。その理由は定かではないが、以下のように考えられる。
本発明インクは、アセチレングリコール系界面活性剤(a)を1.2質量%以上含有するが、アセチレングリコール系界面活性剤(a)に対するポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤(s)の質量比[(s)/(a)]を0.4以上1.2以下に制御しているため、その相互作用により、インク中に含まれる低分子界面活性剤等の化学物質のマイグレーション(移行)を防止できると考えられる。
また、非吸水性記録媒体上でインクが乾燥する過程において、インク塗膜表面にポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤(s)が多く存在し、インク塗膜内部により分子量の小さいアセチレングリコール系界面活性剤(a)を留めることになると考えられ、インク液滴が非吸水性記録媒体上で濡れ拡がり易くなり、ベタ印刷均一性や白色度が向上すると考えられる。
【0011】
<白色顔料>
本発明で用いられる顔料は、白色顔料であり、無機顔料であることが好ましい。
無機顔料としては、例えば、二酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、アルミナ、マグネシア等の金属酸化物、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の金属硫酸塩、炭酸カルシム、炭酸マグネシウム等の金属炭酸塩が挙げられる。これらの中では、高い白色度を得る観点から、二酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、アルミナ、マグネシア等の金属酸化物が好ましく、二酸化チタン及び酸化亜鉛から選ばれる1種以上がより好ましく、二酸化チタンが更に好ましい。
前記白色顔料は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0012】
二酸化チタンとしては、ルチル型二酸化チタン、アナターゼ型二酸化チタンが用いることができるが、安定性及び入手性の観点から、好ましくはルチル型二酸化チタンである。
二酸化チタンは、本発明インク中における良好な分散性を得る観点から、表面処理されたものが好ましい。二酸化チタンの表面処理としては、特に限定されず、有機物での表面処理や無機物での表面処理のいずれの処理が施されていてもよい。光触媒性による影響を避ける観点から、無機物で表面処理された酸化チタンが好ましく、シリカとアルミナで表面処理された二酸化チタンがより好ましい。
二酸化チタンの平均一次粒子径は、白色度の観点から、好ましくは100nm以上、より好ましくは150nm以上、更に好ましくは200nm以上であり、そして、好ましくは500nm以下、より好ましくは400nm以下、更に好ましくは350nm以下、より更に好ましくは300nm以下である。
なお、酸化チタンの平均一次粒子径は、実施例に記載の方法により測定される。
ルチル型二酸化チタンの市販品例としては、石原産業株式会社製の商品名:タイペークR、CR、PFシリーズ、堺化学工業株式会社製の商品名:Rシリーズ、テイカ株式会社製の商品名:JR、MTシリーズ、チタン工業株式会社製の商品名:KURONOS KRシリーズ、富士チタン工業株式会社製の商品名:TRシリーズ等が挙げられる。
【0013】
本発明インクで用いられる白色顔料は、ポリマー分散剤でインク中に分散状態で保持されていることが好ましい。
本発明インク中での白色顔料及びポリマー分散剤の存在形態としては、白色顔料を含有するポリマー粒子(以下、「顔料含有ポリマー粒子」ともいう)の形態がより好ましい。
顔料含有ポリマー粒子とは、ポリマー分散剤が白色顔料を包含した形態の粒子、ポリマー分散剤と白色顔料からなる粒子の表面に白色顔料の一部が露出している形態の粒子、ポリマー分散剤が白色顔料の一部に吸着している形態の粒子、又はこれらの混合物を意味する。これらの中では、ポリマー分散剤が白色顔料を包含した形態の粒子がより好ましい。
【0014】
〔顔料含有ポリマー粒子〕
顔料含有ポリマー粒子を構成するポリマー分散剤(以下、「ポリマーa」ともいう)は、少なくとも顔料分散能を有するものであれば特に制限はない。
ポリマーaとしては、ビニル単量体の付加重合により得られるビニル系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。これらの中でも、白色顔料の分散安定性、保存安定性等の観点から、ビニル系樹脂が好ましい。
ポリマーaは、水溶性ポリマーでも水不溶性ポリマーでもよい。
【0015】
〔ポリマーa〕
ポリマーaがビニル系樹脂である場合、ポリマーaは、(a-1)イオン性モノマー由来の構成単位を含有することが好ましく、更に(a-2)疎水性モノマー及び/又は(a-3)ノニオン性モノマー由来の構成単位を含有することがより好ましい。
【0016】
〔(a-1)イオン性モノマー〕
(a-1)イオン性モノマーとしては、アニオン性モノマーが好ましく、カルボン酸モノマー、スルホン酸モノマー等が挙げられ、カルボン酸モノマーがより好ましい。
カルボン酸モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、及びシトラコン酸から選ばれる1種以上が挙げられるが、好ましくは(メタ)アクリル酸である。「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる少なくとも1種を意味する。以下における「(メタ)」も同義である。
【0017】
〔(a-2)疎水性モノマー〕
(a-2)疎水性モノマーの「疎水性」とは、モノマーを25℃のイオン交換水100gへ飽和するまで溶解させたときに、その溶解量が10g未満であることをいう。
(a-2)疎水性モノマーの具体例としては、特開2018-83938号公報の段落〔0020〕~〔0022〕に記載のものが挙げられる。これらの中では、炭素数1以上18以下、特に炭素数1以上10以下のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート、炭素数6以上22以下の芳香族基を有する芳香族基含有モノマー、片末端に重合性官能基を有するマクロモノマー等が好ましく、アルキル(メタ)アクリレート、スチレン、α-メチルスチレン及びベンジル(メタ)アクリレートから選ばれる1種以上がより好ましい。
【0018】
〔(a-3)ノニオン性モノマー〕
(a-3)ノニオン性モノマーは、水や水溶性有機溶剤との親和性が高いモノマーであり、例えば水酸基やポリアルキレングリコール鎖を含むモノマーである。
(a-3)成分の具体例としては、特開2018-83938号公報の段落〔0018〕に記載のものが挙げられる。これらの中では、メトキシポリエチレングリコール(n=1~30)(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(n=2~30)(メタ)アクリレートから選ばれる1種以上が好ましい。
上記(a-1)~(a-3)成分は、それぞれ、各成分に含まれるモノマー成分を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0019】
(ポリマーa中における各構成単位の含有量)
ポリマーa中における(a-1)~(a-3)成分由来の構成単位の含有量は、画質を向上させる観点から、次のとおりである。
(a-1)成分の含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、そして、好ましくは100質量%以下であり、100質量%であることがより好ましい。
(a-2)成分の含有量は、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下であり、含まないことが好ましい。
(a-3)成分の含有量は、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下であり、含まないことが好ましい。
【0020】
(ポリマーaの製造)
ポリマーaは、上記(a-1)~(a-3)のモノマー成分の混合物を公知の重合法により共重合させることによって製造できる。重合法としては溶液重合法が好ましい。
溶液重合法で用いる溶媒に制限はないが、水、脂肪族アルコール、ケトン類、エーテル類、エステル類等の極性溶媒が好ましい。
重合の際には、重合開始剤や重合連鎖移動剤を用いることができる。重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩や水溶性アゾ重合開始剤等が挙げられ、重合連鎖移動剤としてはメルカプタン類等が挙げられる。
重合温度は、使用する重合開始剤、モノマー、溶媒の種類等によって異なるが、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上であり、そして、好ましくは95℃以下、より好ましくは85℃以下である。
重合雰囲気は、好ましくは窒素ガスや不活性ガス雰囲気である。
ポリマーaは、後述するように中和剤で中和することが好ましい。
【0021】
ポリマーaの酸価は、分散安定性等の観点から、好ましくは200mgKOH/g以上、より好ましくは400mgKOH/g以上、更に好ましくは600mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは1000mgKOH/g以下、より好ましくは900mgKOH/g以下、更に好ましくは850mgKOH/g以下である。
ポリマーaの重量平均分子量は、化学物質のマイグレーションを防止し、分散安定性を向上する等の観点から、好ましくは1,500以上、より好ましくは2,000以上、更に好ましくは2,500以上であり、そして、分散安定性を向上する等の観点から、好ましくは3万以下、より好ましくは2万以下、更に好ましくは1万以下である。
ポリマーaの酸価、重量平均分子量は、実施例に記載の方法により測定される。
ポリマー分散剤は市販品を用いることもできる。市販品例としては、東亞合成株式会社製の商品名:アロンAC-10SL等の水溶性ポリアクリル酸、富士フイルム和光純薬株式会社製のポリアクリル酸、花王株式会社製の商品名:ポイズ520、ポイズ530等の特殊ポリカルボン酸等が挙げられる。
【0022】
〔顔料含有ポリマー粒子の製造〕
顔料含有ポリマー粒子は、顔料水分散体として下記の工程1を有する方法により、効率的に製造することができる。
工程1:白色顔料、ポリマー分散剤(ポリマーa)、及び水を含む顔料混合物を分散処理して、顔料含有ポリマー粒子の水分散体(以下、「顔料水分散体」ともいう)を得る工程
得られた顔料水分散体には、必要に応じて架橋剤を添加し、更に架橋処理することもできる。
【0023】
ポリマーaが酸基を有する場合、該酸基の少なくとも一部を、中和剤で中和することが好ましい。これにより、中和後に発現する電荷反発力が大きくなり、水系インクにおける白色顔料粒子の凝集を抑制し、分散安定性を向上できると考えられる。
中和する場合は、pHが7以上11以下になるように中和することが好ましい。
中和剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、各種アミン等の塩基が挙げられ、好ましくは水酸化ナトリウム及びアンモニアである。
また、ポリマーaを予め中和しておいてもよい。
中和剤の使用当量は、分散安定性、保存安定性を向上させる観点から、好ましくは10モル%以上、より好ましくは15モル%以上、更に好ましくは20モル%以上であり、そして、好ましくは150モル%以下、より好ましくは120モル%以下、更に好ましくは100モル%以下である。
ここで中和剤の使用当量は、中和前のポリマーaを「ポリマーa’」とする場合、次式によって求めることができる。
中和剤の使用当量(モル%)=〔{中和剤の添加質量(g)/中和剤の当量}/[{ポリマーa’の酸価(mgKOH/g)×ポリマー(B)の質量(g)}/(56×1,000)]〕×100
【0024】
工程1における分散処理は、剪断応力による本分散だけで白色顔料粒子を所望の粒径となるまで微粒化することもできるが、均一な顔料水分散体を得る観点から、顔料混合物を予備分散した後、さらに本分散することが好ましい。
予備分散に用いる分散機としては、アンカー翼、ディスパー翼等の一般に用いられている混合撹拌装置が挙げられる。本分散に用いる分散機としては、ロールミル、ニーダー等の混練機、マイクロフルイダイザー等の高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ビーズミル等のメディア式分散機が挙げられる。
分散処理の条件を制御することにより、顔料水分散体中の顔料粒子の平均粒径を調整することができる。
工程1において、有機溶媒を用いることもできる。有機溶媒を用いた場合は、白色顔料、ポリマー分散剤、有機溶媒及び水を含む顔料混合物を分散処理した後、公知の方法で有機溶媒を除去すればよい。
【0025】
得られる顔料水分散体の不揮発成分濃度(固形分濃度)は、顔料水分散体の分散安定性を向上させる観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下である。
固形分濃度は、実施例に記載の方法により測定される。
顔料水分散体中の白色顔料の含有量は、分散安定性の観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下である。
顔料水分散体中のポリマー分散剤(ポリマーa)の含有量は、分散安定性の観点から、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.4質量%以上であり、そして、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下である。
顔料含有ポリマー粒子の平均粒径は、分散安定性の観点から、好ましくは100nm以上、より好ましくは200nm以上であり、そして、好ましくは500nm以下、より好ましくは400nm以下である。
顔料含有ポリマー粒子の平均粒径は、実施例に記載の方法により測定される。
【0026】
<ポリマー粒子>
本発明インクは、定着性及び画質を向上させる観点から、顔料を含有しないポリマー粒子を含有する。
前記ポリマー粒子を構成するポリマー(以下、「ポリマーb」ともいう)は、少なくとも白色顔料を記録媒体に定着する定着能を有するものであれば特に制限はない。
ポリマーbとしては、ビニル単量体の付加重合により得られるビニル系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられるが、ビニル系樹脂が好ましい。
ポリマーbは、水溶性ポリマーでも水不溶性ポリマーでもよいが、水不溶性ポリマーであることが好ましい。ここで、ポリマーの「水不溶性」とは、105℃で2時間乾燥させ、恒量に達したポリマーを、25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が10g未満であることを意味する。ポリマーがアニオン性ポリマーの場合、その溶解量は、ポリマーのアニオン性基を水酸化ナトリウムで100%中和した時の溶解量である。
【0027】
ポリマーbは、(b-1)イオン性モノマー由来の構成単位と(b-2)疎水性モノマー由来の構成単位を含有することがより好ましい。ポリマーbは、更に(b-3)ノニオン性モノマー由来の構成単位を含有することができる。
(b-1)イオン性モノマーの具体例、好適例は、前記ポリマーaの欄で説明した(a-1)イオン性モノマーの具体例、好適例と同じである。すなわち、(b-1)成分は、好ましくはアクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる1種以上である。
(b-2)疎水性モノマーの具体例、好適例は、前記ポリマーaの欄で説明した(a-2)疎水性モノマーの具体例、好適例と同じである。すなわち、(b-2)成分は、好ましくはアルキル(メタ)アクリレート、スチレン、α-メチルスチレン及びベンジル(メタ)アクリレートから選ばれる1種以上であり、より好ましくは炭素数1以上18以下、特に炭素数1以上10以下のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートである。
(b-3)ノニオン性モノマーの具体例、好適例は、前記ポリマーaの欄で説明した(a-3)ノニオン性モノマーの具体例、好適例と同じである。
ポリマーbの製造は、前記(ポリマーaの製造)と同様にして行うことができる。
ポリマー粒子は、それが水系媒体中に分散した水分散体として用いることが好ましい。
【0028】
(ポリマーb中における各構成単位の含有量)
ポリマーb中における(b-1)~(b-3)成分由来の構成単位の含有量は、定着性及び画質を向上させる観点から、次のとおりである。
(b-1)成分の含有量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上、更に好ましくは2質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、好ましくは15質量%以下、好ましくは8質量%以下である。
(b-2)成分の含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、更に好ましくは92質量%以上であり、そして、好ましくは99質量%以下、好ましくは98.5質量%以下、好ましくは98質量%以下である。
(b-3)成分の含有量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下であり、含まないことが好ましい。
【0029】
ポリマーbの酸価は、定着性及び画質を向上させる観点から、好ましくは5mgKOH/g以上であり、より好ましくは8mgKOH/g以上、更に好ましくは10mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは100mgKOH/g以下、より好ましくは60mgKOH/g以下、更に好ましくは30mgKOH/g以下である。
ポリマーbの重量平均分子量は、定着性及び画質を向上させる観点から、好ましくは5万以上、より好ましくは10万以上、更に好ましくは20万以上であり、そして、好ましくは200万以下、より好ましくは150万以下、更に好ましくは100万以下である。
ポリマーbの酸価、重量平均分子量は、実施例に記載の方法により測定される。
【0030】
本発明インク中のポリマー粒子の平均粒径は、定着性及び画質を向上させる観点から、好ましくは20nm以上、より好ましくは40nm以上、更に好ましくは60nm以上であり、そして、好ましくは400nm以下、より好ましくは300nm以下、更に好ましくは200nm以下である。
なお、ポリマー粒子の平均粒径は、実施例に記載の方法により測定される。
【0031】
<水溶性有機溶剤>
本発明で用いられる水溶性有機溶剤は、主として非吸水性記録媒体に対するインクの濡れ広がり性を付与する役割を有する。水溶性有機溶剤は、25℃で液体であっても固体であってもよいが、該有機溶剤を25℃の水100mLに溶解させたときに、その溶解量は10mL以上である。
水溶性有機溶剤の沸点は、化学物質のマイグレーションを防止し、画質を向上させる観点から、好ましくは110℃以上、より好ましくは130℃以上、更に好ましくは150℃以上であり、そして、好ましくは250℃以下、より好ましく240℃以下、更に好ましく235℃以下である。
水溶性有機溶剤は、上記と同様の観点から、多価アルコール及び多価アルコールアルキルエーテルから選ばれる1種以上を含有することが好ましい。
多価アルコールとしては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-オクタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,2-デカンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール等が挙げられる。
これらの中では、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-プロパンジオール、及び1,4-ブタンジオール等から選ばれる1種以上が好ましく、1,2-プロパンジオールがより好ましい。
【0032】
多価アルコールアルキルエーテルとしては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
これらの中では、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、及びジエチレングリコールモノブチルエーテルから選ばれる1種以上が好ましく、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルがより好ましい。
水溶性有機溶剤は、本発明の効果を阻害しない範囲内で、更に上記以外の有機溶剤を含有することができる。
【0033】
<界面活性剤>
本発明インクは、インクの表面張力を適正に保ち、記録媒体への濡れ性を向上させる観点から、界面活性剤を含有する。界面活性剤は、更に化学物質のマイグレーションを防止し、画質を向上させる観点から、アセチレングリコール系界面活性剤(a)とポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤(s)とを含み、該アセチレングリコール系界面活性剤(a)の含有量が、水系インク中、1.2質量%以上であり、該アセチレングリコール系界面活性剤(a)に対する該ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤(s)の質量比[(s)/(a)]が、0.4以上1.2以下である。
【0034】
(アセチレングリコール系界面活性剤(a))
アセチレングリコール系界面活性剤(a)としては、例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、2,4-ジメチル-5-ヘキシン-3-オール、2,5-ジメチル-3-ヘキシン-2,5-ジオール、2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオール等のアセチレン系ジオール、及びそれらのエチレンオキシド付加物が挙げられる。これらの中では、アセチレングリコールのエチレンオキシド付加物が好ましい。
前記エチレンオキシド付加物のエチレンオキシ基(EO)の平均付加モル数の和(n)は、好ましくは1以上、より好ましくは1.2以上であり、そして、好ましくは20以下、より好ましくは16以下、更に好ましくは12以下である。
【0035】
アセチレングリコール系界面活性剤(a)のHLB(親水性親油性バランス)値は、インク液滴を非吸水性記録媒体上で濡れ拡がり易くする観点から、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、更に好ましくは4以上であり、好ましくは18以下、より好ましくは15以下、さらに好ましくは13以下である。ここで、HLB値は、グリフィン法により求めることができる。
アセチレングリコール系界面活性剤の市販品例としては、日信化学工業株式会社及び Air Products & Chemicals社製の「サーフィノール」シリーズ、例えば、サーフィノール420(n:1.3)、サーフィノール440(n:3.5)、サーフィノール465(n:10.0)、「オルフィン」シリーズ、川研ファインケミカル株式会社製の「アセチレノール」シリーズ等が挙げられる。
【0036】
(ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤(s))
ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤(s)は、シリコーンオイルの側鎖及び/又は末端の炭化水素基を、ポリエーテル基で置換された構造を有するものである。該ポリエーテル基としては、ポリエチレンオキシ基、ポリプロピレンオキシ基、エチレンオキシ基(EO)とプロピレンオキシ基(PO)がブロック状又はランダムに付加したポリアルキレンオキシ基が好適であり、シリコーン主鎖にポリエーテル基がグラフトした化合物、シリコーンとポリエーテル基がブロック状に結合した化合物等を用いることができる。
【0037】
ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤(s)のHLB値は、インク液滴を非吸水性記録媒体上で濡れ拡がり易くする観点から、好ましくは3以上、より好ましくは4以上、更に好ましくは5以上であり、好ましくは12以下、より好ましくは10以下、さらに好ましくは8以下である。
ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤の具体例としては、日信化学工業株式会社製のシルフェイスSAG005等、信越化学工業株式会社製のKFシリーズ;KF-353、KF-355A、KF-642等、ビックケミー・ジャパン株式会社製のBYK-348等が挙げられる。
【0038】
本発明においては、非吸水性記録媒体上でインクが乾燥する過程において、インク塗膜表面にポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤(s)が多く存在し、インク塗膜内部により分子量の小さいアセチレングリコール系界面活性剤(a)を留めることになるため、インク中に含まれる低分子界面活性剤等の化学物質のマイグレーションを防止できると考えられるが、アセチレングリコール系界面活性剤(a)とポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤(s)との親和性を下げる方がその効率が高まる。そのため、アセチレングリコール系界面活性剤(a)のHLBとシリコーン系界面活性剤(s)のHLB値はグリフィン法により求めた値で2以上離れていることが好ましく、3以上離れていることがより好ましい。
本発明においては、上記の界面活性剤を2種以上組み合わせて用いることができ、その中でも、シリコーン系界面活性剤(s)を1種類、アセチレングリコール系界面活性剤(a)を2種類組み合わせることが好ましい。また、本発明の効果を阻害しない範囲で、上記以外の界面活性剤を含有することができる。
【0039】
本発明インクは、白色顔料、好ましくは白色顔料を含有するポリマー粒子、顔料を含有しないポリマー粒子、水溶性有機溶剤、界面活性剤、水、及び必要に応じて、防腐剤、pH調整剤、粘度調整剤、消泡剤、防錆剤等の各種添加剤を混合することにより、効率的に製造することができる。それらの混合方法に特に制限はない。
【0040】
(本発明インク中の各成分の含有量)
本発明インク中の各成分の含有量は、化学物質のマイグレーションを防止し、画質を向上させる観点から、以下のとおりである。
(白色顔料の含有量)
白色顔料の含有量は、本発明インク中、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは2.5質量%以上であり、そして、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましく8質量%以下である。
顔料含有ポリマー粒子の含有量は、本発明インク中、好ましくは2質量%以上、より好ましくは4質量%以上、更に好ましくは6質量%以上であり、そして、好ましくは18質量%以下、より好ましくは16質量%以下、更に好ましくは14質量%以下、より更に好ましくは12質量%以下である。
【0041】
(ポリマー粒子の含有量)
顔料を含有しないポリマー粒子の含有量は、本発明インク中、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは2質量%以上であり、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、更に好ましくは6質量%以下である。
【0042】
(水溶性有機溶剤の含有量)
多価アルコールの含有量は、本発明インク中、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは25質量%以上であり、そして、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下である。
多価アルコールアルキルエーテルの含有量は、本発明インク中、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
水溶性有機溶剤の合計含有量は、本発明インク中、好ましくは16質量%以上、より好ましくは22質量%以上、更に好ましくは28質量%以上であり、そして、好ましくは65質量%以下、より好ましくは55質量%以下、更に好ましくは45質量%以下である。
【0043】
(界面活性剤の含有量)
アセチレングリコール系界面活性剤(a)の含有量は、本発明インク中、1.2質量%以上であり、好ましくは1.3質量%以上、より好ましくは1.4質量%以上、更に好ましくは1.5質量%以上であり、そして、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。
ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤(s)の含有量は、本発明インク中、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.4質量%以上、更に好ましくは0.6質量%以上であり、そして、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。
本発明インク中の界面活性剤の合計含有量は、好ましくは1.4質量%以上、より好ましくは1.7質量%以上、更に好ましくは2.1質量%以上であり、そして、10質量%以下であり、好ましくは8質量%以下、より好ましくは6質量%以下である。
アセチレングリコール系界面活性剤(a)に対するポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤(s)の質量比[(s)/(a)]は、0.4以上であり、好ましくは0.45以上、より好ましくは0.5以上、更に好ましくは0.6以上であり、そして、1.2以下であり、好ましくは1.15以下、より好ましくは1.1以下、更に好ましくは1.0以下である。
【0044】
本発明インク中の水の含有量は、好ましくは25質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは35質量%以上であり、そして、好ましくは75質量%以下、より好ましくは65質量%以下、更に好ましくは55質量%以下である。
本発明インクは、その用途に応じて、任意成分として、防腐剤、pH調整剤、粘度調整剤、消泡剤、防錆剤等の各種添加剤を含有することができる。その場合、水の含有量の一部を各種添加剤等の成分に置き換えて含有することができる。
【0045】
(本発明インクの物性)
本発明インクの32℃の粘度は、保存安定性、画質向上の観点から、好ましくは2mPa・s以上、より好ましくは3mPa・s以上、更に好ましくは5mPa・s以上であり、そして、好ましくは12mPa・s以下、より好ましくは9mPa・s以下、更に好ましくは7mPa・s以下である。水系インクの粘度は、E型粘度計を用いて測定できる。
本発明インクのpHは、保存安定性、画質向上の観点から、好ましくは7.0以上、より好ましくは7.2以上、更に好ましくは7.5以上であり、部材耐性、皮膚刺激性の観点から、好ましくは11以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは9.5以下である。水系インクのpHは、常法により測定できる。
【0046】
[インクジェット記録方法]
本発明インクは、非吸水性記録媒体用のインクジェット記録用水系インクとして、ピエゾ式等の公知のインクジェット記録装置に装填し、記録媒体にインク液滴として吐出させて高画質の記録物を得ることができる。
非吸水性記録媒体としては、合成樹脂フィルムが挙げられる。合成樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、ナイロン等のフィルムが挙げられる。これらのフィルムは、二軸延伸、一軸延伸、無延伸のフィルムであってもよい。これらの中では、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリプロピレンフィルムが好ましく、フィルム表面をコロナ放電処理したものがより好ましい。
【実施例
【0047】
以下の製造例、実施例及び比較例において、「部」及び「%」は特記しない限り「質量部」及び「質量%」である。なお、各物性等の測定方法は以下のとおりである。
【0048】
(1)酸化チタンの平均一次粒子径の測定
酸化チタンの平均一次粒子径は、透過電子顕微鏡「JEM-2100」(日本電子株式会社製)を用いて、画像解析で500個の酸化チタン一次粒子を抽出してその粒子径を測定し、その平均を算出して数平均粒子径とした。なお、酸化チタンに長径と短径がある場合は、長径を用いて算出した。
【0049】
(2)ポリマーの重量平均分子量の測定
N,N-ジメチルホルムアミド(富士フイルム和光純薬株式会社製、高速液体クロマトグラフィー用)に、リン酸(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬特級)及びリチウムブロマイド(東京化成工業株式会社製、試薬)をそれぞれ60mmol/Lと50mmol/Lの濃度となるように溶解した液を溶離液として、ゲルクロマトグラフィー法〔東ソー株式会社製GPC装置(HLC-8120GPC)、東ソー株式会社製カラム(TSK-GEL、α-M×2本)、流速:1mL/min〕により、標準物質として分子量が既知の単分散ポリスチレンを用いて測定した。
【0050】
(3)ポリマーの酸価の測定
電位差自動滴定装置(京都電子工業株式会社製、電動ビューレット、型番:APB-610)に樹脂をトルエンとアセトン(2:1)を混合した滴定溶剤に溶かし、電位差滴定法により0.1N水酸化カリウム/エタノール溶液で滴定し、滴定曲線上の変曲点を終点とした。水酸化カリウム溶液の終点までの滴定量から酸価(mgKOH/g)を算出した。
【0051】
(4)顔料含有ポリマー粒子、ポリマー粒子の平均粒径の測定
レーザー粒子解析システム(大塚電子株式会社製、商品名:ELS-8000)を用いて、動的光散乱法により粒径を測定し、キュムラント法解析により算出した。
測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力した。測定濃度は5×10-3質量%(固形分濃度換算)で行い、得られたキュムラント平均粒径をポリマー粒子の平均粒径とした。
【0052】
(5)水分散体の固形分濃度の測定
30mLのポリプロピレン製容器(φ:40mm、高さ:30mm)にデシケーター中で恒量化した硫酸ナトリウム10.0gを量り取り、そこへサンプル約1.0gを添加して、混合させた後、正確に秤量し、105℃で2時間維持して、揮発分を除去し、更にデシケーター内で更に15分間放置し、質量を測定した。揮発分除去後のサンプルの質量を固形分として、添加したサンプルの質量で除して固形分濃度とした。
【0053】
製造例1(白顔料含有ポリマー粒子Aの水分散体の製造)
5Lポリ容器に、ポリマー分散剤として水溶性ポリアクリル酸(東亜合成株式会社製、アロンAC-10SL、重量平均分子量:3000、酸価:779mgKOH/g、固形分濃度40%)を2500g、イオン交換水3.57gを添加し、容器を氷浴で冷却、溶液を100rpmで撹拌しながら5N水酸化ナトリウム水溶液を1666.43gゆっくりと添加して中和させた(中和度:60モル%)。中和させた水溶液にイオン交換水を添加して固形分濃度を20%に調整して、アクリル酸系分散剤の中和水溶液を得た。
2Lのポリ容器に、上記で得られたアクリル酸系分散剤の中和水溶液を30.0g、C.I.ピグメント・ホワイト6(石原産業株式会社製、酸化チタン、商品名:タイペークCR-80、ルチル型、Al・Si処理、平均一次粒子径250nm)を300g、水を306g加えて、ジルコニアビーズを1000g添加して、卓上型ポットミル架台(アズワン株式会社)にて8時間分散を行った。金属メッシュを用いてジルコニアビーズを除去し、イオン交換水で固形分濃度を調整して白顔料含有ポリマー粒子Aの水分散体(固形分濃度:40%、顔料:39.2%、ポリマー分散剤:0.8%、平均粒径:300nm)を得た。
【0054】
製造例2(水不溶性ポリマーa溶液の製造)
アクリル酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)61.6部、スチレン128.8部、α-メチルスチレン9.6部を混合しモノマー混合液を調製した。反応容器内に、メチルエチルケトン(MEK)20部、重合連鎖移動剤(2-メルカプトエタノール)0.3部、及び前記モノマー混合液の10%を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行った。
一方、滴下ロートに、モノマー混合液の残りの90%、前記重合連鎖移動剤0.27部、MEK60部、及びアゾ系ラジカル重合開始剤(2,2’‐アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、富士フイルム和光純薬株式会社製、商品名:V-65)2.2部の混合液を入れ、窒素雰囲気下、反応容器内の前記モノマー混合液を攪拌しながら65℃まで昇温し、滴下ロート中の混合液を3時間かけて滴下した。滴下終了から65℃で2時間経過後、前記重合開始剤0.3部をMEK5部に溶解した溶液を加え、更に65℃で2時間、70℃で2時間熟成させ、水不溶性ポリマーa溶液(ポリマーaの数平均分子量:10500、酸価:239mgKOH/g)を得た
【0055】
調製例1(黒顔料を含有するポリマー粒子の水分散体の調製)
(1)製造例2で得られた水不溶性ポリマーa溶液を減圧乾燥させて得られたポリマー58.1部をMEK71.5部と混合し、更に5N水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム固形分16.9%)23.6部を加え、ポリマーのカルボキシ基のモル数に対する水酸化ナトリウムのモル数の割合が40モル%になるように中和した(中和度:40モル%)。更にイオン交換水695.1部を加え、その中にカーボンブラック顔料(C.I.ピグメント・ブラック7、キャボット社製、商品名:MONARCH 717)200gを加え、ディスパー(浅田鉄工株式会社製、ウルトラディスパー:商品名)を用いて、20℃でディスパー翼を7000rpmで回転させる条件で60分間攪拌した。
得られた混合物をマイクロフルイダイザー(Microfluidics社製、商品名)で150MPaの圧力で9パス分散処理した。
(2)前記(1)で得られた分散処理物1000gを2Lナスフラスコに入れ、イオン交換水666.7gを加え(固形分濃度:15.0%)、回転式蒸留装置(東京理化器械株式会社製、商品名:ロータリーエバポレーターN-1000S)を用いて、回転数50rpmで、32℃に調整した温浴中、0.09MPaの圧力で3時間保持して、有機溶媒を除去した。更に、温浴を62℃に調整し、圧力を0.07MPaに下げて固形分濃度25.0%になるまで濃縮した。
【0056】
(3)得られた濃縮物を500mLアングルローターに投入し、高速冷却遠心機(日立工機株式会社製、商品名:himac CR22G、設定温度20℃)を用いて7000rpmで20分間遠心分離した後、液層部分を5μmのメンブランフィルター(Sartorius社製、商品名:Minisart)でろ過した。
得られたろ液400g(カーボンブラック顔料:76.0g、水不溶性ポリマーa:22.1g)にイオン交換水61.6gを添加し、更にプロキセルLVS(アーチケミカルズジャパン株式会社製、防黴剤、有効分20%)1.08gを添加し、更に架橋剤(トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ナガセケムテックス株式会社製、商品名:デナコールEX-321L、エポキシ当量:129、水溶率:27質量%)5.2gを添加し、70℃で3時間攪拌した。25℃に冷却後、前記5μmフィルターでろ過し、更にイオン交換水を加えて、黒顔料を含有するポリマー粒子の水分散体(固形分濃度:18%、顔料:14%、ポリマー:4%、平均粒径:90nm)を得た。
【0057】
調製例2(ポリマー粒子Bの水分散体の製造)
滴下ロートを備えた反応容器内に、メタクリル酸0.5部、メタクリル酸メチル14.5部、アクリル酸2-エチルヘキシル5.0部、ラテムルE-118B(ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、花王株式会社製、界面活性剤)11.1部、過硫酸カリウム(重合開始剤)0.2部、イオン交換水382.8部を入れて混合し、窒素ガス置換を行い、初期仕込みモノマー溶液を得た。また、メタクリル酸9.5部、メタクリル酸メチル275.5部、アクリル酸2-エチルヘキシル95.0部、ラテムルE-118B 35.1部、過硫酸カリウム0.6部、イオン交換水183.0部を混合して、滴下モノマー溶液を得、滴下ロート内に入れて、窒素ガス置換を行った。
窒素雰囲気下、反応容器内の初期仕込みモノマー溶液を攪拌しながら室温から80℃まで30分間かけて昇温し、80℃に維持したまま、滴下ロート中のモノマーを3時間かけて徐々に反応容器内に滴下した。滴下終了後、反応容器内の温度を維持したまま、1時間攪拌した。次いで200メッシュでろ過し、水不溶性ポリマー粒子Bの水分散体(固形分濃度:44.1%、平均粒径:100nm)を得た。
ポリマー粒子Bを構成するポリマーbの重量平均分子量は70万、ガラス転移温度は50℃、酸価は15mgKOH/gであった。
【0058】
実施例1(水系インク1の調製)
製造例1で得られた白顔料含有ポリマー粒子Aの水分散体(固形分濃度:40%)25.50g(固形分10.2g)、調製例2で得られたポリマー粒子Bの水分散体(固形分濃度:44.1%)9.07g(固形分4.0g)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル6.0g、1,2-プロパンジオール31.0g、アセチレングリコール系界面活性剤S420(商品名:サーフィノール420)0.75g、アセチレングリコール系界面活性剤S465(商品名:サーフィノール465)0.75g、ポリエーテル変性シリコーン界面活性剤SAG005(商品名:シルフェイスSAG005)1.20g、合計量が100gとなるようイオン交換水を添加して、水系インク1(固形分濃度:16.9%、白色顔料含有ポリマー粒子(白色顔料:10.0%、ポリマー0.2%)、ポリマー粒子:4.0%、平均粒径:310nm)を得た。
【0059】
用いた界面活性剤の詳細は以下のとおりである。
〔アセチレングリコール系界面活性剤(a)〕
・S420:日信化学工業株式会社製、商品名:サーフィノール420
サーフィノール104(2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、EO平均付加モル数:0モル、有効分100%)のエチレンオキシド(20%)付加物、エチレンオキシド平均付加モル数:1.3、有効分100%、HLB:4
・S465:日信化学工業株式会社製、商品名:サーフィノール465
サーフィノール104のエチレンオキシド(65%)付加物、エチレンオキシド平均付加モル数:10、有効分100%、HLB:13
〔ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤(b)〕
・SAG005:日信化学工業株式会社製、商品名:シルフェイスSAG005、HLB:7、有効分100%
【0060】
実施例2~4、及び比較例1~3(水系インク2~4、11~13の調製)
実施例1において、表1に示す組成に変更した以外は、実施例1と同様にして、水系インク2~4、11~13を得た。
【0061】
参考例1(水系インク21の調製)
調製例1で得られた黒顔料を含有するポリマー粒子の水分散体(固形分濃度:18%)を用いて、表1に示す組成に変更した以外は、実施例1と同様にして、水系インク21を得た。
【0062】
実施例1~4、比較例1~3、及び参考例1で得られた水系インクを用いて、以下のインクジェット印刷方法で、印刷物を作製し、セットオフマイグレーション、画像のベタ均一性、白色度の評価を行った。結果を表1に示す。
なお、表1中の各成分の量は有効分(固形分)量である。
【0063】
<印刷物の作製>
(インクジェット印刷方法)
温度25±1℃、相対湿度30±5%の環境で、インクジェット印刷ヘッド(京セラ株式会社製、商品名:KJ4B-HD06MHG-STDV、ピエゾ式)を装備した印刷評価装置(株式会社トライテック製)に水系インクを充填した。
印刷ヘッド印加電圧26V、駆動周波数20kHz、吐出液適量12pL、印刷ヘッド温度32℃、解像度600dpi、吐出前フラッシング回数200発、負圧-4.0kPaを設定し、搬送台の上にA4サイズのフィルムヒーター(株式会社河合電器製作所製)を固定して印刷媒体(フタムラ化学株式会社製、「FOR-AQ」、OPPフィルム)を加温できるようにし、印刷媒体の長手方向と搬送方向が同じになる向きに、印刷媒体をフィルムヒーター上にのりで固定した。
前記フィルムヒーターの加温温度は、40℃に設定した。
前記印刷評価装置に印刷命令を転送し、インクを吐出させて印刷を行った。その後、60℃の温風乾燥機にて5秒間乾燥させて印刷物を得た。
【0064】
<セットオフマイグレーションの評価>
上記印刷条件下、インク100%dutyで10cm×10cmのベタ画像を印刷し、印刷面と非印刷面が接するように印刷物を2枚重ねた。重ねた印刷物をアルミホイルで包み、1kg/dmとなるように荷重をかけ、40℃で1週間静置した。その後、あらかじめ95%エタノール50重量部を入れた片面溶出器(株式会社前田製作所製、MK-10型)に、印刷面と接していた非印刷面の50cmが95%エタノールに接するように固定し、ガラス容器で密閉し、60℃の7日間静置した。7日間放置後、上記95%エタノールを片面溶出器から取り出した。
ガスクロマトグラフ質量分析計(Agilent Technology社製、商品名:6890N NetworkGC)にて、あらかじめ作成しておいたアセチレングリコール系界面活性剤の検量線を用いて、95%エタノールへのアセチレングリコール系界面活性剤の移行量(マイグレーション量)を定量し、下記の評価基準で、セットオフマイグレーションを評価した。
(評価基準)
3:ベタ画像から溶出したアセチレングリコール系界面活性剤量が10ppb以下であった。
2:ベタ画像から溶出したアセチレングリコール系界面活性剤量が10ppbを超え、50ppb以下であった。
1:ベタ画像から溶出したアセチレングリコール系界面活性剤量が50ppbを超えていた。
評価結果が3又は2であれば、セットオフマイグレーションは実用上許容されるレベルである。
【0065】
<ベタ印刷均一性の評価>
上記印刷条件下、インク100%dutyでベタ画像を印刷し、1日放置後、目視でムラやスジがないか確認し、下記の評価基準で画像のベタ印刷均一性を評価した。
(評価基準)
○:ムラ、スジが認められず、ベタ印刷均一性は良好である。
△:ムラ、スジがあるが、実使用はできる。
×:ムラ、スジがあり、実使用上問題である。
【0066】
<白色度の評価>
上記印刷条件下、インク100%dutyでベタ画像を印刷し、1日放置後、黒色画用紙の上において、目視により、下記の評価基準で白色度を評価した。
(評価基準)
○:黒色が認められず、白色度が高い。
△:少し黒色が認められるが、実使用はできる。
×:黒色がかなり認められ、白印刷物としては実使用上問題である。
【0067】
【表1】
【0068】
表1から、実施例で得られた水系インクは、比較例で得られた水系インクに比べて、溶剤等を含む物品への界面活性剤等の化学物質の移行が少なく、また、ベタ印刷均一性や白色度等の画質に優れた印刷物を得ることができることが分かる。