(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】乗物制御プログラム及び乗物制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 30/02 20120101AFI20240828BHJP
B60W 50/10 20120101ALI20240828BHJP
B60W 40/12 20120101ALI20240828BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20240828BHJP
B60K 6/54 20071001ALI20240828BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20240828BHJP
B60W 10/18 20120101ALI20240828BHJP
B60W 20/30 20160101ALI20240828BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20240828BHJP
B60W 20/00 20160101ALI20240828BHJP
B60W 20/10 20160101ALI20240828BHJP
【FI】
B60W30/02
B60W50/10
B60W40/12
B60K6/48 ZHV
B60K6/54
B60W10/06 900
B60W10/18 900
B60W20/30
B60W10/08 900
B60W20/00 900
B60W20/10
(21)【出願番号】P 2020218275
(22)【出願日】2020-12-28
【審査請求日】2023-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】521431099
【氏名又は名称】カワサキモータース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳瀬 大祐
(72)【発明者】
【氏名】中山 恭太郎
(72)【発明者】
【氏名】河合 大輔
(72)【発明者】
【氏名】多田 知希
【審査官】吉村 俊厚
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-120172(JP,A)
【文献】特開2003-018704(JP,A)
【文献】特開平04-101049(JP,A)
【文献】国際公開第2020/202261(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0197234(US,A1)
【文献】国際公開第2014/167983(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/02
B60W 50/10
B60W 40/12
B60K 6/48
B60K 6/54
B60W 10/06
B60W 10/18
B60W 20/30
B60W 10/08
B60W 20/00
B60W 20/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪に回転方向の外力を与える少なくとも1つのアクチュエータを制御する乗物の制御プログラムであって、
走行中に要求される前記車輪の回転力に対応する、前記アクチュエータに関する要求外力
であって、運転者によって操作される操作子の操作量に基づいて要求される外力と、運転者による操作を除く車両状態に基づいて要求される外力と、を含む要求外力を取得する要求取得工程と、
前記アクチュエータが前記要求外力に対応する外力を発生した場合の乗物挙動を定めた規範運動モデルを読み出す運動モデル読出工程と、
前記規範運動モデルに従って、前記アクチュエータが前記要求外力に対応する外力を発生した場合の乗物挙動を要求乗物挙動として算出する要求挙動算出工程と、
走行中の実乗物挙動を計測する計測工程と、
前記計測工程で計測された前記実乗物挙動を前記要求挙動算出工程で算出された前記要求乗物挙動に近づけるように前記要求外力を補正する補正工程と、
前記補正された要求外力に基づいて前記アクチュエータを制御する制御工程と、
をコンピュータに実行させる、乗物制御プログラム。
【請求項2】
前記要求外力は、運転者のアクセル操作量に基づいて生成される要求駆動外力と、運転者のブレーキ操作量に基づいて生成される要求制動外力と、が合算されてなる、請求項1に記載の乗物制御プログラム。
【請求項3】
前記要求外力は、前記乗物の変速機の入力軸に要求されるトルクである走行要求トルクである、請求項1又は2に記載の乗物制御プログラム。
【請求項4】
前記車両状態に基づいて要求される前記外力は、前輪回転数センサ及び後輪回転数センサから受信する前輪及び後輪の回転数の差に応じて生成される、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の乗物制御プログラム。
【請求項5】
前記少なくとも1つのアクチュエータは、それぞれ個別で車輪を駆動可能な第1原動機及び第2原動機を含み、
前記第1原動機及び前記第2原動機は、前記補正工程で補正された前記要求外力に基づいてそれぞれ制御される、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の乗物制御プログラム。
【請求項6】
前記第1原動機及び前記第2原動機のそれぞれの駆動配分は、前記車両状態に応じて決められる、請求項
5に記載の乗物制御プログラム。
【請求項7】
前記第1原動機は内燃機関であり、前記第2原動機は駆動モータであり、
前記乗物は、前記内燃機関からの動力伝達を切断及び接続するクラッチを備える、請求項
5又は6に記載の乗物制御プログラム。
【請求項8】
前記乗物の回転慣性に関するパラメータを算出するパラメータ算出工程を更に前記コンピュータに実行させ、
前記規範運動モデルは、前記パラメータを有する、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の乗物制御プログラム。
【請求項9】
前記乗物に搭載されたセンサの検出値に基づいて推定される前記乗物の重量に関するパラメータを算出するパラメータ算出工程を更に前記コンピュータに実行させ、
前記規範運動モデルは、前記パラメータを有する、請求項
1乃至7のいずれか1項に記載の乗物制御プログラム。
【請求項10】
前記規範運動モデルは、ユーザの選択に応じた前記乗物の挙動になるように前記ユーザにより変更可能に設定されている、請求項
1乃至9のいずれか1項に記載の乗物制御プログラム。
【請求項11】
車輪に回転方向の外力を与える少なくとも1つのアクチュエータを制御する乗物の制御プログラムであって、
走行中に要求される前記車輪の回転力に対応する、前記アクチュエータに関する要求外力を取得する要求取得工程と、
前記アクチュエータが前記要求外力に対応する外力を発生した場合の乗物挙動を定めた規範運動モデルを読み出す運動モデル読出工程と、
前記規範運動モデルに従って、前記アクチュエータが前記要求外力に対応する外力を発生した場合の乗物挙動を要求乗物挙動として算出する要求挙動算出工程と、
走行中の実乗物挙動を計測する計測工程と、
前記計測工程で計測された前記実乗物挙動を前記要求挙動算出工程で算出された前記要求乗物挙動に近づけるように前記要求外力を補正する補正工程と、
前記補正された要求外力に基づいて前記アクチュエータを制御する制御工程と、
をコンピュータに実行させ、
前記規範運動モデルは、ユーザの選択に応じた前記乗物の挙動になるように前記ユーザにより変更可能に設定されている、乗物制御プログラム。
【請求項12】
車輪に回転方向の外力を与える少なくとも1つのアクチュエータを制御する乗物の制御プログラムであって、
走行中に要求される前記車輪の回転力に対応する、前記アクチュエータに関する要求外力を取得する要求取得工程と、
前記アクチュエータが前記要求外力に対応する外力を発生した場合の乗物挙動を定めた規範運動モデルを読み出す運動モデル読出工程と、
前記規範運動モデルに従って、前記アクチュエータが前記要求外力に対応する外力を発生した場合の乗物挙動を要求乗物挙動として算出する要求挙動算出工程と、
走行中の実乗物挙動を計測する計測工程と、
前記計測工程で計測された前記実乗物挙動を前記要求挙動算出工程で算出された前記要求乗物挙動に近づけるように前記要求外力を補正する補正工程と、
前記補正された要求外力に基づいて前記アクチュエータを制御する制御工程と、
をコンピュータに実行させ、
前記少なくとも1つのアクチュエータは、それぞれ個別で車輪を駆動可能な第1原動機及び第2原動機を含み、
前記第1原動機及び前記第2原動機は、前記補正工程で補正された前記要求外力に基づいてそれぞれ制御され、
前記第1原動機及び前記第2原動機のそれぞれの駆動配分は、運転者による操作を除く車両状態に応じて決められ、
前記規範運動モデルは、その内容がユーザの入力に応じて変更可能に構成されている
、乗物制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物制御プログラム及び乗物制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されたエンジントルク制御では、車両の運転条件(例えば、回転数、負荷等)とエンジントルクとの関係を実験によってマップ化し、当該マップを参照して要求トルク(目標トルク)からスロットル開度及び点火時期の指令値が決定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来のトルク制御では、マップの適合に誤差がある場合やマップに考慮されていない状況変化や外乱が生じた場合には、実際に出力される実トルクが要求トルクから乖離する。そのため、意図通りの実トルクが得られない場合がある。また、運転者の要求に対する車両の挙動が運転者の好み等に応じて制御されることが望まれることも考えられる。
【0005】
そこで本発明は、要求される乗物挙動を達成しやすくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る乗物制御プログラムは、車輪に回転方向の外力を与える少なくとも1つのアクチュエータを制御する乗物の制御プログラムであって、走行中に要求される前記車輪の回転力に対応する、前記アクチュエータに関する要求外力を取得する要求取得工程と、前記アクチュエータが前記要求外力に対応する外力を発生した場合の乗物挙動を定めた規範運動モデルを読み出す運動モデル読出工程と、前記規範運動モデルに従って、前記アクチュエータが前記要求外力に対応する外力を発生した場合の乗物挙動を要求乗物挙動として算出する要求挙動算出工程と、走行中の実乗物挙動を計測する計測工程と、前記計測工程で計測された前記実乗物挙動を前記要求挙動算出工程で算出された前記要求乗物挙動に近づけるように前記要求外力を補正する補正工程と、前記補正された要求外力に基づいて前記アクチュエータを制御する制御工程と、をコンピュータに実行させる。前記乗物制御プログラムは、コンピュータが読み取り可能な記憶媒体に記憶される。前記記憶媒体は、非一時的(non-transitory)で有形(tangible)な媒体である。
【0007】
本発明の一態様に係る乗物制御装置は、車輪に回転方向の外力を与える少なくとも1つのアクチュエータを制御する乗物の制御装置であって、走行中に要求される前記車輪の回転力に対応する前記アクチュエータに関する要求外力を取得する要求取得部と、前記アクチュエータが前記要求外力に対応する外力を発生した場合の乗物挙動を定めた規範運動モデルを読み出す規範運動モデル読出部と、前記規範運動モデルに従って、前記アクチュエータが前記要求外力に対応する外力を発生した場合の乗物挙動を要求乗物挙動として算出する要求挙動算出部と、走行中に計測された実乗物挙動を取得する実挙動取得部と、前記実挙動取得部で取得された前記実乗物挙動を前記要求挙動算出部で算出された前記要求乗物挙動に近づけるように前記要求外力を補正する補正部と、前記補正された要求外力に基づいて前記アクチュエータを制御する制御部と、を備える。
【0008】
前記した各構成によれば、実測しやすい物理量に基づいて要求外力を補正するため、測定精度の向上とコストアップ抑制とを両立しつつ、要求される乗物挙動を達成しやすくなる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、要求される乗物挙動を達成しやすくできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態に係るハイブリッド車両のブロック図である。
【
図5】
図5は、
図2のコントローラでの処理のフローチャートである。
【
図6】
図6は、走行要求トルクの車速フィードバックのロジックを整理するブロック図である。
【
図7】
図7(A)は、比較例のシミュレーションにおける入力軸に与える走行要求トルクを示すグラフであり、
図7(B)は、比較例のシミュレーション結果における要求車速及び実車速を示すグラフである。
【
図8】
図8(A)は、実施例のシミュレーションにおける入力軸に与える補正後走行要求トルクを示すグラフであり、
図8(B)は、実施例のシミュレーション結果における要求車速及び実車速を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
【0012】
図1は、実施形態に係るハイブリッド車両1のブロック図である。ハイブリッド車両1(乗物)は、例えば、運転者が跨って乗る鞍乗車両(例えば、自動二輪車、自動三輪車等)の例であるが、自動四輪車等であってもよい。
図1に示すように、ハイブリッド車両1は、エンジン2(第1原動機)、駆動モータ3(第2原動機)、変速機4、メインクラッチ5、クラッチアクチュエータ6、出力伝達部材7、駆動輪8、第1バッテリ9、充電口10、ISG11、コンバータ12、第2バッテリ13、電装品14(電気負荷)、及び、コントローラ15を備える。
【0013】
エンジン2は、内燃機関である。エンジン2は、駆動輪8を駆動するための走行駆動源である。駆動モータ3は、電気モータである。駆動モータ3は、エンジン2と共に又はエンジン2に代わって、駆動輪8を駆動するための走行駆動源である。即ち、ハイブリッド車両1は、パラレルハイブリッド方式の車両である。駆動モータ3は、電動モータであり、発電機としても機能する。変速機4は、エンジン2及び駆動モータ3から出力された回転動力を変速する。変速機4は、例えば、入力軸4a、出力軸4b及び変速ギヤを有する手動変速機である。変速機4は、運転者の変速操作によって変速比が変更されるように構成されている。
【0014】
メインクラッチ5は、エンジン2と変速機4との間の動力伝達経路に介在している。クラッチアクチュエータ6は、メインクラッチ5が係合状態と切断状態との間で切り替わるようにメインクラッチ5を動作させる。例えば、メインクラッチ5が油圧駆動式である場合には、クラッチアクチュエータ6は油圧経路を開閉するソレノイド弁である。出力伝達部材7は、変速機4の出力軸4bから出力される回転動力を駆動輪8に伝達する部材である。出力伝達部材7は、例えば、ドライブチェーン、ドライブベルト、ドライブシャフト等である。駆動輪8は、例えば、ハイブリッド車両1の後輪である。
【0015】
ハイブリッド車両1は、エンジン2から変速機4を介して駆動輪8にトルクを回転方向の外力として伝達する第1伝達経路(エンジン2、メインクラッチ5、変速機4及び出力伝達部材7)と、駆動モータ3から駆動輪8にトルクを回転方向の外力として伝達する第2伝達経路(駆動モータ3、変速機4及び出力伝達部材7)と、を有する。
【0016】
駆動輪8には、ブレーキ装置45が設けられている。なお、
図1には図示しないが、前輪にもブレーキ装置が設けられている。ブレーキ装置45は、駆動輪8に回転方向の外力として制動力を与える。即ち、エンジン2及び駆動モータ3は、駆動輪8に回転正方向の外力として駆動力を付与するアクチュエータである一方、ブレーキ装置45は、駆動輪8に回転負方向の外力として制動力を付与するアクチュエータである。
【0017】
第1バッテリ9は、駆動モータ3に供給される電力(例えば、48V)を蓄電する。第1バッテリ9には、充電口10が接続されている。ISG11は、インテグレーテッド・スタータ・ジェネレータである。ISG11は、エンジン2の始動時にエンジン2を駆動でき、かつ、エンジン2によって駆動されて発電できる。コンバータ12は、第1バッテリ9及びISG11からの直流電力(例えば、48V)を降圧して第2バッテリ13に供給する。第2バッテリ13は、ハイブリッド車両1に搭載されたコントローラ15(乗物制御装置)や他の電装品14に供給される電力(例えば、12V)を蓄電する。第1バッテリ9は、第2バッテリ13に比べて高い電圧を出力するよう構成される。
【0018】
コントローラ15は、センサ類16が検出する情報に基づいて、エンジン2、駆動モータ3、クラッチアクチェータ6及びISG11等を制御する。コントローラ15は、外部と通信可能なインターフェースとしてコネクタ15aを有する。なお、コントローラ15は、1つのコントローラであってもよいし、複数のコントローラに分散されたものであってもよい。
【0019】
センサ類16は、運転者の操作を検出するセンサ類と、運転者操作を除いた車両の状態を検出するセンサ類とを含む。センサ類16は、例えば、アクセル操作量センサ、ブレーキ操作量センサ、変速操作センサ、変速機ギヤポジションセンサ、前輪回転数センサ、後輪回転数センサ、車体ピッチ角センサ、サスペンションストロークセンサ、燃料残量センサ、クラッチ状態センサ、エンジン回転数センサ、モータ回転数センサ、ブレーキ状態センサ(ブレーキ圧センサ)、ジャイロセンサ等を含む。
【0020】
コントローラ15は、ハイブリッド車両1の運転モードを決定し、その決定された運転モードに応じてエンジン2及び駆動モータ3を制御する。コントローラ15は、運転者操作及び車両状態(運転者操作を除く)に応じて、エンジン2による駆動輪8の駆動と駆動モータ3による駆動輪8の駆動との間の配分変更又は切り替えを指令する。
【0021】
前記運転モードは、EVモード及びHEVモードを含む。EVモードは、要求トルクの100%を駆動モータ3に配分し、駆動モータ3を駆動して走行するモードである。EVモードでは、エンジン2は、停止している状態、或いは駆動しているが駆動輪8に動力伝達されない状態である。HEVモードは、要求トルクをエンジン2及び駆動モータ3にそれぞれ分配し、エンジン2及び駆動モータ3の両方を駆動して走行するモードである。HEVモードは、メインクラッチ5が接続状態になるようにクラッチアクチュエータ6が制御される。
【0022】
HEVモードは、要求トルクの100%をエンジン2に配分する状態も含み得る。即ち、HEVモードは、駆動モータ3を駆動せずにエンジン2を駆動して走行するモードも含む概念としている。なお、要求トルクの100%をエンジン2に配分し、駆動モータ3を駆動せずにエンジン2を駆動して走行するモードをENGモードと呼称してもよい。
【0023】
図2は、
図1のコントローラ15のブロック図である。
図2に示すように、コントローラ15の出力側には、メインクラッチ5のクラッチアクチュエータ6、エンジン2のスロットルモータ41、インジェクタ42及び点火コイル43、駆動モータ3のインバータ44、及び、ブレーキ装置45の液圧発生装置46が接続されている。コントローラ15の入力側には、前述したセンサ類16(
図1参照)が接続されている。
【0024】
コントローラ15は、ハードウェア面においては、プロセッサ、メモリ及びI/Oインターフェース等を有する。前記メモリは、ストレージ(例えば、ハードディスク、フラッシュメモリ等)及びメインメモリ(RAM)を含む。前記ストレージには、乗物制御プログラムが保存されている。前記ストレージ及び前記メインメモリは、メモリと総称し得る。前記乗物制御プログラムは、メインクラッチ5(クラッチアクチュエータ6)、エンジン2(スロットルモータ41、インジェクタ42及び点火コイル43)、駆動モータ3(インバータ44)、ブレーキ装置45(液圧発生装置46)等に制御指令を出すように前記プロセッサに実行させる指示を含んでいる。即ち、コントローラ15は、一種のコンピュータである。
【0025】
コントローラ15は、機能面においては、トルク要求部21、走行要求トルク算出部22、要求車速算出部23、規範運動モデル読出部24、トルク補正部25、トルク分配部26、EV/HEV切替部27、エンジン制御部28、モータ制御部29、クラッチ制御部30、ブレーキ制御部31、及び、実車速取得部32を備える。これら各部21~31は、前記ストレージから前記メインメモリに読み出した前記乗物制御プログラムを前記プロセッサが演算処理することで実現される。
【0026】
トルク要求部21は、アクセル操作量センサから受信する運転者のアクセル操作量に応じて、駆動要求トルクを生成する。トルク要求部21は、ブレーキ操作量センサから受信する運転者のブレーキ操作量に応じて、制動要求トルクを生成する。即ち、トルク要求部21は、運転者によって操作される操作子の操作量であって走行中に変更可能な操作量に基づいて要求トルクを生成する。トルク要求部21は、センサ類16から受信する各種センサ信号に応じて、車両を制御するための制御要求トルクを生成する。
【0027】
トルク要求部21は、例えば、前輪回転数センサ及び後輪回転数センサから受信する前輪及び後輪の回転数の差に応じて、エンジン2及び/又は駆動モータ3の駆動力や前後輪の制動力を調節するための制御要求トルクを生成してもよい。例えば、トルク要求部21は、変速操作センサから受信した変速入力に応じて、変速ショックを低減するためにエンジン2及び/又は駆動モータ3の駆動力を調節するための制御要求トルクを生成してもよい。
【0028】
走行要求トルク算出部22は、トルク要求部21から受信した駆動要求トルク、制動要求トルク及び制御要求トルクを合算し、変速機4の入力軸4aに要求されるトルクとして走行要求トルクを生成する。なお、エンジン2の駆動力と駆動モータ3の駆動力とが合流する入力軸4aを走行要求トルクの対象部位としたが、入力軸4aから駆動輪8までの動力伝達経路上の他の部位(例えば、駆動輪8の車軸等)にしてもよい。
【0029】
トルク要求部21及び走行要求トルク算出部22は、走行中に要求される駆動輪8の回転力に対応する走行要求トルクを取得する要求取得部20として機能する。要求取得部20は、運転者によって操作されるアクセル操作子及びブレーキ操作子等の操作量であって走行中に変更可能な操作量に基づいて走行要求トルク(要求外力)を取得し得る。要求取得部20は、運転者による操作を除く車両状態(センサ類16の信号)に基づいても、走行要求トルク(要求外力)を取得し得る。
【0030】
要求車速算出部23は、変速機4の入力軸4aに走行要求トルクが発生した場合のハイブリッド車両1の挙動を要求乗物挙動として算出する。前記挙動は、ハイブリッド車両1の移動に関する値である。前記移動に関する値は、例えば、変位、速度又は加速度とし得る。本実施形態では、要求車速算出部23は、変速機4の入力軸4aに走行要求トルクが発生したと仮定した場合の車速(駆動輪8の回転速度)を要求車速として算出する。即ち、要求車速は、走行要求トルクの変化に対応して変化する。なお、要求車速算出部23は、要求乗物挙動を示す物理量として車速を算出する代わりに変位又は加速度を算出してもよい。
【0031】
実車速取得部32は、車速センサ(例えば、車輪速センサ)で計測された実車速(実乗物挙動)を取得する。実車速取得部32は、例えば、前記車速センサの信号を受信するコントローラ15の入力インターフェースである。
【0032】
トルク補正部25は、実車速取得部32で取得された実車速を要求車速算出部23で算出された要求車速に近づけるように、走行要求トルク算出部22で算出された前記走行要求トルクを補正する。トルク補正部25の詳細は後述する。
【0033】
トルク分配部26は、トルク補正部25から出力される補正後走行要求トルクに基づいて、EV/HEVモード要求、エンジン要求トルク、モータ要求トルク及びブレーキ要求トルクを決定する。トルク分配部26は、補正後走行要求トルクに基づいて、走行モードをEVモードにすべきかHEVモードにすべきかを予め決められた規則に従って決定する。トルク分配部26は、その決定された走行モードと補正後走行要求トルクとに基づいて、エンジン要求トルク、モータ要求トルク及びブレーキ要求トルクを決定する。
【0034】
トルク分配部26は、補正後要求トルクが駆動輪8を加速させる正トルクである場合、エンジン2及び/又は駆動モータ3を加速制御する。トルク分配部26は、補正後要求トルクが駆動輪8を減速させる負トルクである場合、エンジン2及び/又は駆動モータ3を減速制御するとともに、必要に応じてブレーキ装置45に制動力を発生させるようにブレーキ装置45を制御する。
【0035】
EV/HEV切替部27は、トルク分配部26で決定されたEV/HEVモード要求、エンジン要求トルク及びモータ要求トルクと、駆動モータ3の回転数(モータ回転数)とに応じて、EV/HEV切替ステータス、補正後エンジン要求トルク、エンジン目標回転数及び補正後モータ要求トルクを決定する。EV/HEV切替部27は、トルク分配部26で決定された走行モード(EV/HEVモード要求)に応じて、EVモードとHEVモードとの間の切替に関するEV/HEV切替ステータスをエンジン制御部28及びクラッチ制御部30に出力する。
【0036】
EV/HEV切替部27は、EVモードからHEVモードに切り替える場合には、駆動モータ3から入力軸4aに伝達される駆動力の回転数にエンジン2から入力軸4aに伝達される駆動力の回転数が近づくように、モータ回転数に基づいてエンジン目標回転数を決定する。
【0037】
クラッチ制御部30は、EV/HEV切替部27から出力されたEV/HEV切替ステータスに基づいてクラッチアクチュエータ6を制御する。例えば、クラッチ制御部30は、EVモードからHEVモードへの切り替えが発生したときに、クラッチアクチュエータ6を制御してメインクラッチ5を切断状態から係合状態に変更する。
【0038】
エンジン制御部28は、エンジン2の発生トルクがエンジン要求トルクに近づくように且つエンジン2の回転数がエンジン目標回転数に近づくように、エンジン2(スロットルモータ41、インジェクタ42及び点火コイル43)を制御する。モータ制御部29は、駆動モータ3の発生トルクがモータ要求トルクに近づくように、駆動モータ3(インバータ44)を制御する。ブレーキ制御部31は、ブレーキ装置45によって生じるトルクがブレーキ要求トルクに近づくように、ブレーキ装置45(液圧発生装置46)を制御する。
【0039】
図3は、
図2の要求車速算出部23のブロック図である。なお、
図3の構成は一例であり、
図3中の各要素は他の要素から分離して任意に削除又は抽出可能である。
図3に示すように、要求車速算出部23は、コントローラ15の前記ストレージに保存され規範運動モデル50に従って走行要求トルクを要求車速に変換する。規範運動モデル50は、エンジン2、駆動モータ3及び/又はブレーキ装置45が走行要求トルクを発生した場合の要求乗物挙動を定めたものである。
【0040】
規範運動モデル50は、センサ類16からの信号に応じて変化するパラメータを有する。例えば、規範運動モデル50は、変速機ギヤポジションセンサで検出される変速比、車体ピッチ角センサで検出される車体ピッチ角、サスペンションストロークセンサで検出されるサスペンションストローク量、及び、燃料残量センサで検出される燃料残量、に応じて変化する。
【0041】
要求車速算出部23は、単位・基準軸変換部51、走行抵抗算出部52、車重推定部53及び挙動変換部54を有する。単位・基準軸変換部51は、前記対象部位(入力軸4a)における走行要求トルクを駆動輪8(後輪)の外周面から路面に付与される駆動力に変換する。言い換えると、単位・基準軸変換部51は、走行要求トルクに対して正相関を有する車両駆動力を算出する。具体的には、単位・基準軸変換部51は、入力軸4aにおける走行要求トルクに対し、所定の変換マップを参照して変速機4のギヤポジションから算出される変速比と、変速機4から駆動輪8までの二次減速比とを乗算するとともに、駆動輪8の半径で除算し、駆動輪8に要求される駆動力を算出して出力する。
【0042】
走行抵抗算出部52は、入力軸4aに走行要求トルクと同じトルクが発生して走行する場合のハイブリッド車両1の走行抵抗を算出する。走行抵抗算出部52は、走行抵抗の構成要素として、例えば、空気抵抗、摩擦抵抗、転がり抵抗及び勾配抵抗を算出する。そして、走行抵抗算出部52は、それぞれ算出された空気抵抗、摩擦抵抗、転がり抵抗及び勾配抵抗を合算して走行抵抗として出力する。
【0043】
空気抵抗は、所定の空気抵抗係数に対し、後述の挙動変換部54で算出される要求車速の二乗を乗算して得られる。摩擦抵抗は、所定の摩擦抵抗係数に対し、後述の挙動変換部54で算出される要求車速を乗算して得られる。転がり抵抗は、所定の転がり抵抗係数に対し、cosθ(θは路面傾斜角)と重力とを乗算して得られる。なお、重力は、重力加速度に対し、後述の車両総重量を乗算して得られる。勾配抵抗は、所定のフィルタ時定数のローパスフィルタにて車体ピッチ角をフィルタしたものに対し、sinθ(θは路面傾斜角)を乗算し、重力を乗算して得られる。なお、勾配抵抗は、勾配抵抗セレクタによって有効又は無効の何れかを選択できる。即ち、勾配抵抗を走行抵抗に含めるか又は含めないかを選択できる。
【0044】
車重推定部53は、ハイブリッド車両1の運動に作用する全体重量を推定する。本実施形態では、車重推定部53は、車両総重量(積載重量含む)だけでなくハイブリッド車両1の回転部(例えば、フライホイール等)の等価慣性重量も含んだ合成慣性重量を推定するが、回転部等価慣性重量を考慮せずに車両総重量のみを推定してもよい。車重推定部53は、予め定められた車体重量と、サスペンションストロークセンサで検出されるサスペンションストローク量と、燃料残量センサで検出される燃料残量と、に基づいて車両総重量(運転者体重を含む)を算出する。
【0045】
車重推定部53は、サスペンションストローク量と積載重量(乗車した人間の体重や荷物の重量の合計)との関係を示した推定マップを参照し、サスペンションストローク量から積載重量を算出する。車重推定部53は、車体重量を予め記憶している。車重推定部53は、燃料体積に対する燃料重量の割合を示す係数に燃料残量(体積)を乗算し、燃料重量を算出する。車重推定部53は、それら積載重量、車体重量及び燃料重量を合算し、車両総重量とする。更に車重推定部53は、その算出した車両総重量に対し、予め記憶された回転部等価慣性重量を加算し、合成慣性重量として出力する。
【0046】
挙動変換部54は、運動方程式を用い、単位・基準軸変換部51で求めた車両駆動力に基づいて、駆動輪8の運動値(変位、速度又は加速度)を算出する。具体的には、まず、挙動変換部54は、単位・基準軸変換部51から出力された駆動力から、走行抵抗算出部52から出力された走行抵抗を減算し、合成駆動力を算出する。挙動変換部54は、その合成駆動力に対し、車重推定部53から出力された合成慣性重量を除算し、車両加速度を算出する。即ち、挙動変換部54は、運動方程式を利用し、合成駆動力及び合成慣性重量から車両加速度を算出する。挙動変換部54は、その車両加速度を積分して車速を算出し、走行要求トルクに対応する要求車速として出力する。
【0047】
図4は、
図2のトルク補正部25のブロック図である。
図4に示すように、トルク補正部25は、要求車速算出部23で算出された要求車速と、実車速取得部32で取得された実車速との間の偏差に基づいて、実車速をフィードバック制御する。トルク補正部25は、フィードバック制御の一種であるPID制御を行うPID制御部61を有する。PID制御部61は、要求車速と実車速との間の偏差が小さくなるように走行要求トルクの補正量を算出する。なお、PID制御は一例であって、各種のフィードバック制御則を用いることができる。例えば、フィードバック制御は、P制御やPI制御でもよい。
【0048】
トルク補正部25は、その補正量を、走行要求トルク算出部22で算出された走行要求トルクに加算し、補正後走行要求トルクとして出力する。即ち、トルク補正部25のフィードバック制御では、トルク補正部25に入力される要求車速が目標値であり、走行要求トルクはフィードフォワード的な操作量であり、トルク補正部25が出力する補正後走行要求トルクが操作量であり、要求車速と実車速との差が偏差(比較値)である。
【0049】
図5は、
図2のコントローラ15での処理のフローチャートである。以下、
図2を適宜参照しながら
図5のフローチャートの流れに沿って説明する。コントローラ15のトルク要求部21は、センサ類16の検出信号に基づいて、駆動要求トルク、制動要求トルク及び制御要求トルクを出力する(ステップS1)。走行要求トルク算出部22は、トルク要求部21から出力された各要求トルクに基づいて、走行中に要求される駆動輪8の回転力に対応する走行要求トルクを算出する(ステップS2)。即ち、トルク要求部21及び走行要求トルク算出部22が、走行中に要求される駆動輪8の回転力に対応する走行要求トルクを取得する要求取得部20を構成する。
【0050】
要求車速算出部23は、走行要求トルク算出部22が算出した走行要求トルクから要求車速を算出する(ステップS3)。実車速取得部32は、車速センサで計測された実車速を取得する(ステップS4)。なお、トルク補正部25は、実車速取得部32で取得された実車速と要求車速算出部23が算出した要求車速との間の偏差が小さくなるように、走行要求トルク算出部22が算出した走行要求トルクを補正する(ステップS5)。
【0051】
トルク分配部26、EV/HEV切替部27、エンジン制御部28、モータ制御部29、クラッチ制御部30及びブレーキ制御部31は、トルク補正部25から出力される補正後走行要求トルクに基づいて、メインクラッチ5(クラッチアクチュエータ6)、エンジン2(スロットルモータ41、インジェクタ42及び点火コイル43)、駆動モータ3(インバータ44)及びブレーキ装置45(液圧発生装置46)を制御する(ステップS6)。この制御においては、補正後走行要求トルクが駆動輪8を加速させる値である場合には、エンジン2及び/又は駆動モータ3が制御され、補正後走行要求トルクが駆動輪8を減速させる値である場合には、エンジン2及び/又は駆動モータ3の制御とともにブレーキ装置45が制御される。
【0052】
図6は、走行要求トルクの車速フィードバックのロジックを整理するブロック図である。前述したフィードバック制御の概念についてアクチュエータをエンジンとした例にて整理して説明する。
図6に示すように、ブロック71において、トルクとスロットル開度との間の関係を定義した制御マップを参照し、走行要求トルクを補正した補正後走行要求トルクに対応する目標開度を求める。ブロック72において、その目標開度に対応するスロットル制御指令を求める。ブロック73において、そのスロットル制御指令に応じてスロットル弁を駆動し、エンジンがトルクを発生する。ブロック74において、エンジンの発生トルクに応じて駆動輪が駆動されて車両が走行して実車速が決まる。
【0053】
ブロック75において、走行要求トルクが入力された規範運動モデルが要求車速を出力する。減算器76は、要求車速と実車速との間の偏差を求める。ブロック77は、当該偏差を減らすように走行要求トルクをフィードバック補正するトルク補正量を求める。加算器78は、当該トルク補正量を走行要求トルクに加算することで、前述した補正後走行要求トルクを求める。なお、ブロック75は、
図3の要求車速算出部23に対応する。減算器76、ブロック77及び加算器78の群は、
図4のトルク補正部25に対応する。
【0054】
要求車速算出部23は、規範運動モデル50のパラメータをユーザの入力に応じて変更可能に構成されている。具体的には、コントローラ15の通信インターフェース15aに有線又は無線にて情報処理装置(例えば、パソコン、スマートフォン、車載装置(車載ナビゲーションシステム、車載メータ装置等)を通信可能に接続することで、ユーザは、当該情報処理装置を使って要求車速算出部23の設定を変更できる。例えば、規範運動モデル50において、空気抵抗係数、摩擦抵抗係数、勾配抵抗セレクタ、回転部等価慣性重量等が、通信インターフェース15aを介してユーザ入力によって変更可能になっている。
【0055】
例えば、通信インターフェース15aに接続される情報処理装置が車載ナビゲーションシステムである場合、位置情報や路面情報に応じてパラメータの値が設定されてもよい(例えば、滑りやすい路面では転倒抑制を意図したパラメータの値とする等)。また例えば、通信インターフェース15aに接続される情報処理装置が車載メータ装置やハンドルスイッチの場合、情報処理装置とハンドルが近接的に配置されるため、運転者の操作性が向上する。
【0056】
規範運動モデル50は、実際のハイブリッド車両1を高精度に模擬したモデルでもよいし、そうでないモデルでもよい。例えば、規範運動モデル50における車体重量をハイブリッド車両1の実際の重量よりも軽い値に設定して、好みによって車両挙動を変更可能としてもよい。なお、ユーザ変更可能なパラメータは、これら以外のものであってもよい。また、規範運動モデル50を構成する運動方程式の代わりに、力学的解釈に依らない多項式が用いられてもよい。また、規範運動モデル50のパラメータは、人工知能による学習に基づき、経時的に更新されてもよい。
【0057】
以上に説明した構成によれば、エンジン2、駆動モータ3及び/又はブレーキ装置45に関する走行要求トルクを、実測しにくい物理量である力から実測しやすい車速に変換し、その変換された要求車速に実乗物挙動が近づくように走行要求トルクを補正するため、要求される乗物挙動を達成しやすくなる。特に、ハイブリッド車両1が鞍乗車両やスポーツ走行車両である場合には原動機の発生トルクに対して車両が軽量であることから、目標トルクと発生トルクとの偏差が車両の運動挙動に反映されやすくて要求に対する車両挙動の応答性が高くなり、挙動変化に起因する運転者へのフィーリングへの影響が大きくなるため、本構成の有効性が高くなる。
【0058】
また、要求車速と実車速との間の偏差に基づいて走行要求トルクをフィードバック制御するので、要求車速に実車速を精度よく近づけることができる。また、EVモードとHEVモードとの間での切替えによって、トルク制御の出力特性が変化することを防止できる。即ち、駆動モータ3のトルクは外乱(例えば、大気圧、温度、風速)に影響され難いが、内燃機関であるエンジン2のトルクは外乱に影響され易い。
【0059】
そのため、外乱の影響を抑えることのできるフィードバック制御を実現することで、モード切替えによる出力特性の変化を防止できる。特に、運転者の操作状態を除く車両状態に応じた走行モードの切替(運転者が積極的に操作しない場合の走行モード切替)時に、運転者の違和感を抑えることができる。また、各種条件とエンジントルクの関係を実験的に網羅しておく必要がなく、例えば、大気圧、温度、勾配、重量変化等の種々の要因による負荷変動を考慮したエンジントルクのマップを不要とできる。
【0060】
また、走行要求トルクを変換する物理量(車速)は、ハイブリッド車両1の移動に関する値(例えば、乗物変位、速度、加速度、車輪回転数、乗物座標、速度ベクトル等)であるので、それを検出するセンサを他の用途と共用できる。よって、トルクを検出する場合に比べて、特別な部品及び装置、推定式等を不要とすることができる。また、走行要求トルクは、運転者によって操作される操作子の操作量であって走行中に変更可能な操作量に基づいて算出されるので、運転者に良好な運転フィーリングを与えることができる。
【0061】
また、要求車速算出部23は、ハイブリッド車両1に設けられるセンサ類16の検出結果に応じて要求車速を出力するので、現実の運動挙動に近づけることができる。また、走行要求トルクが駆動輪8を加速させる力である場合にエンジン2及び/又は駆動モータ3を制御し、走行要求トルクが駆動輪8を減速させる力である場合には、エンジン2及び/又は駆動モータ3を制御するとともに、ブレーキ装置45を制御するので、要求される加速及び減速を達成できる。また、要求車速算出部23は、ギヤポジションに応じて要求車速を出力するので、変速によるユーザ意図を反映した要求値を得ることができる。
【0062】
また、要求車速算出部23は、規範運動モデル50のパラメータをユーザの入力に応じて変更可能に構成されているので、ユーザの意図する運動挙動に近づけることができる。即ち、規範運動モデル50のパラメータを外部から調節できるため、ユーザが車両特性を容易にカスタマイズできる。
【0063】
また、駆動輪8に動力伝達する原動機が切り替わる際に、原動機ごとの特性の違いによって運転挙動が変化することが抑えられ、運転者に与えるフィーリングばらつきを抑えることができる。具体的には、電動モータ3のトルクは外乱(例えば、大気圧、温度)に影響され難いが、内燃機関であるエンジン2のトルクは外乱に影響され易い。そのため、外乱の影響を抑えることのできるフィードバック制御を実現することで、EVモードとHEVモードとの間での切替えによる出力特性の変化を防止できる。
【0064】
次に、比較例及び実施例のシミュレーション結果について説明する。
図7(A)は、比較例のシミュレーションにおける入力軸に与える走行要求トルクを示すグラフであり、
図7(B)は、比較例のシミュレーション結果における要求車速及び実車速を示すグラフである。比較例は、
図2において、要求車速算出部23及びトルク補正部25を設けず、走行要求トルク算出部22から出力される走行要求トルクをトルク分配部26に入力するものである。比較例において、
図7(A)に示す走行要求トルク(目標トルク)をシミュレーションモデルに入力した結果、
図7(B)に示すように、外乱の影響によって、実車速が要求車速(目標車速)との間に乖離が発生した(
図7(B)の要求車速は規範運動モデルを用いて求めた。)。
【0065】
図8(A)は、実施例のシミュレーションにおける入力軸に与える補正後走行要求トルクを示すグラフであり、
図8(B)は、実施例のシミュレーション結果における要求車速及び実車速を示すグラフである。実施例は、
図2と同じ構成である。実施例において
図8(A)に示す走行要求トルクをシミュレーションモデルに入力したところ、要求車速算出部23及びトルク補正部25にて補正後走行要求トルクが求められ、その補正後走行要求トルクに基づく制御の結果、
図8(B)に示すように、実車速が要求車速(目標車速)とほぼ一致した(
図8(B)では破線は実線と重なっている。)。
【0066】
なお、本開示は前述した実施形態に限定されるものではなく、その構成を変更、追加、又は削除することができる。例えば、前述した技術は、ハイブリッド車両以外にも適用可能であり、具体的には、エンジン車両、電動車両のいずれかにも適用可能である。走行用の駆動源の種類は、特に制限されない。
【0067】
前述したコントローラ15のアルゴリズムで制御されるアクチュエータは、進行方向の外力(すなわち駆動力)を与えるものと、進行方向と逆向きの外力(すなわち制動力)を与えるものとの両方である必要はなく、いずれか一方だけでもよい。制動力を与えるアクチュエータは、ブレーキ装置に限定されず、エンジンブレーキおよび回生制動の少なくとも一方でもよい。即ち、トルク補正部25が補正する要求トルクは、加速トルクに限られず、減速トルクでもよい。
【0068】
アクチュエータ(例えば、エンジン、電動モータ、ブレーキ装置等)に関する要求外力は、運転者から与えられるものであってもよいし、予めコントローラ15の記憶装置に記憶されてもよいし、車両外の装置から与えられる情報に基づいて演算されるものでもよい。走行ルートや交通状況などの外部環境に応じて要求外力が決定されてもよい。要求外力は、自動運転のように運転者の要求なしに自動的に決定されてもよい。
【0069】
要求外力は、トルク以外で表されるものであってもよい。前述する実施形態では、要求外力としてトルク(単位:ニュートンメートル)を例示したが、例えば車両に与えられる外力に相関する値であれば他のものでもよい。例えば、要求外力は、車両に与えられる力(単位:ニュートン)であってもよい。その場合、規範運動モデル50は、車両が要求外力を発生した場合の車速(要求車速)を算出するモデルとなる。
【0070】
運転者の操作に基づいて走行要求トルクを決める場合に、クラッチ操作量に応じて、走行要求トルクが抑えられるように補正されてもよい。運転者から入力される操作量(アクセル、ブレーキ、クラッチ、変速)に応じて走行要求トルクが変化することで、運転者の要求に基づいた制御が実現される。例えば、アクセル操作に応じた制御の外乱の影響を抑えることで、運転者の期待に沿った車速変化を実現することができる。
【0071】
本実施形態では、EVモード、HEVモード、ENGモードの速応性や出力特性の違いによる影響が抑えられる。これは、走行中にHEVモードのトルク配分が多様に変化する乗物において特に効果的である。減速時において、原動機2,3による制動(エンジンブレーキや回生ブレーキ)と、機械的な制動(ブレーキ装置45)とが組み合わされる場合に、それらの制動手段やトルク配分が多様に変化する場合でも、制動フィーリングの違和感が抑えられる。
【0072】
本実施形態の規範運動モデル50は一例である。規範運動モデル50が運動方程式をベースに決められる場合、規範運動モデル50は、想定される抵抗成分を考慮に入れずに決められてもよい。
図3に示す複数の抵抗成分(走行抵抗、摩擦抵抗、転がり抵抗、勾配抵抗)や加速成分(勾配加速)のうちで、影響の小さいであろう一部の抵抗要素を除くように規範運動モデル50が設定されてもよい。例えば、
図3において勾配抵抗の要素が除外された場合には、走行路面の勾配の影響が抑制されて、要求に対する挙動(たとえば車速)に近づくように乗物が制御される。
【0073】
即ち、抵抗成分自体が外乱の1つとなり、その外乱の影響を抑えるように制御されることで、坂道走行中も平地走行中と同じような運転フィーリングが提供され得る。また、規範運動モデル50において、車重推定部53が車重推定する代わりに、予め定める車重推定値が前記ストレージに記憶されていてもよい。この場合、実際の乗物の重量変化が外乱の1つとなる。同様に、規範運動モデル50を単純化した場合には、単純化するにあたって省略した要因自体が外乱として生じたとしても、その影響を抑えることができる。
【0074】
規範運動モデル50は、運動方程式をベースとしなくてもよい。例えば、走行要求トルクの値ごとに要求車速が設定される関数としたり、2次元マップとしたりしてもよい。このように規範運動モデルを適宜選択することで、要求に対する乗物挙動を異ならせ、運転フィーリングを異ならせることができる。
【0075】
規範運動モデルは、ユーザの希望に応じた乗物挙動になるように変更し得る。例えば、走行要求トルクに対する出力応答性が高くなるように規範運動モデルを設定し、あたかも高出力の駆動源を搭載した乗物を運転しているかようなフィーリングを実現してもよい。また、規範運動モデルで設定される車両重量を軽量となるように設定して、軽快な走行フィーリングを実現してもよい。その他、回転数に対するトルク特性を運転者の選択に応じて異ならせてもよい。スポーツタイプ、アメリカンタイプ、モトクロスタイプなどの挙動を模した複数種類の規範運動モデルを用意し、運転者の選択に応じて、状況や好みに応じた走行フィーリングを実現してもよい。
【0076】
なお、本明細書で開示する要素の機能は、開示された機能を実行するよう構成またはプログラムされた汎用プロセッサ、専用プロセッサ、集積回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuits)、従来の回路、及び/又は、それらの組み合わせ、を含む回路または処理回路を使用して実行できる。プロセッサは、トランジスタやその他の回路を含むため、処理回路または回路と見なされる。本開示において、回路、ユニット、または手段は、列挙された機能を実行するハードウェアであるか、又は、列挙された機能を実行するようにプログラムされたハードウェアである。ハードウェアは、本明細書に開示されているハードウェアであってもよいし、或いは、列挙された機能を実行するようにプログラムまたは構成されているその他の既知のハードウェアであってもよい。ハードウェアが回路の一種と考えられるプロセッサである場合、回路、手段又はユニットは、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせであり、ソフトウェアはハードウェア及び/又はプロセッサの構成に使用される。
【符号の説明】
【0077】
1 ハイブリッド車両(乗物)
2 エンジン(アクチュエータ:第1原動機)
3 駆動モータ(アクチュエータ:第2原動機)
8 駆動輪(車輪)
15 コントローラ(乗物制御装置)
20 要求取得部
23 要求車速算出部(要求挙動算出部)
25 トルク補正部(補正部)
26 トルク分配部(制御部)
27 EV/HEV切替部(制御部)
28 エンジン制御部(制御部)
29 モータ制御部(制御部)
30 クラッチ制御部(制御部)
31 ブレーキ制御部(制御部)
32 実車速取得部(実挙動取得部)
45 ブレーキ装置(アクチュエータ)