(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】粘着テープ
(51)【国際特許分類】
C09J 7/38 20180101AFI20240828BHJP
C09J 133/06 20060101ALI20240828BHJP
C09J 151/00 20060101ALI20240828BHJP
C09J 183/10 20060101ALI20240828BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J133/06
C09J151/00
C09J183/10
(21)【出願番号】P 2020515263
(86)(22)【出願日】2020-03-04
(86)【国際出願番号】 JP2020009016
(87)【国際公開番号】W WO2020184311
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2023-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2019042672
(32)【優先日】2019-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】緒方 雄大
【審査官】橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-073629(JP,A)
【文献】特開昭62-288676(JP,A)
【文献】特開2010-132755(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 7/38
C09J 133/06
C09J 151/00
C09J 183/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着剤層を有する粘着テープであって、
前記粘着剤層はアクリル系粘着剤成分及びシリコーン化合物を含有し、
前記シリコーン化合物はシリコーン系グラフト共重合体であり、
前記シリコーン系グラフト共重合体は、シリコーンマクロモノマーに由来する構造、極性官能基含有モノマーに由来する構造及び前記極性官能基と架橋可能である官能基含有モノマーに由来する構造を有する、
粘着テープ。
【請求項2】
前記シリコーン化合物は、重量平均分子量が40万以下のアクリル系ポリマーである、請求項
1記載の粘着テープ。
【請求項3】
前記極性官能基含有モノマーは水酸基含有モノマーであり、前記極性官能基と架橋可能である官能基含有モノマーはブロックイソシアネート基含有モノマーである、請求項
1又は2記載の粘着テープ。
【請求項4】
前記シリコーン系グラフト共重合体の原料モノマー混合物は、前記水酸基含有モノマーを0.1重量%以上20重量%以下、前記ブロックイソシアネート基含有モノマーを0.1重量%以上20重量%以下、及び前記シリコーンマクロモノマーを1重量%以上90重量%以下含有する、請求項
1、2又は3記載の粘着テープ。
【請求項5】
前記シリコーン系グラフト共重合体の含有量がアクリル系粘着剤成分100重量部に対して0.1重量部以上20重量部以下である、請求項
1、2、3又は4記載の粘着テープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着テープに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、粘着テープは各種産業分野に用いられている。建築分野では養生シートの仮固定、内装材の貼り合わせ等に、自動車分野ではシート、センサー等の内装部品の固定、サイドモール、サイドバイザー等の外装部品の固定等に、電気電子分野ではモジュール組み立て、モジュールの筐体への貼り合わせ等に両面粘着テープが用いられている。具体的には、例えば、画像表示装置又は入力装置を搭載した携帯電子機器(例えば、携帯電話、携帯情報端末等)において、組み立てのために両面粘着テープが用いられている。より具体的には、例えば、携帯電子機器の表面を保護するためのカバーパネルをタッチパネルモジュール又はディスプレイパネルモジュールに接着したり、タッチパネルモジュールとディスプレイパネルモジュールとを接着したりするために両面粘着テープが用いられている。このような両面粘着テープは、例えば、額縁状等の形状に打ち抜かれ、表示画面の周辺に配置されるようにして用いられる(例えば、特許文献1、2)。また、車輌部品(例えば、車載用パネル)を車両本体に固定する用途にも両面粘着テープが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-242541号公報
【文献】特開2009-258274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
粘着テープの用途によっては、粘着テープを被着体に貼りつけたまま高温の熱処理工程を行い、その後、粘着テープを剥離する必要がある。例えば、半導体チップの製造工程において、両面粘着テープを介して半導体ウエハを支持板に接着して補強した状態で、各種の高温の熱処理工程を行い、その後に半導体ウエハを支持板から剥離することが行われる。ここで、高温の熱処理工程により粘着テープが接着亢進してしまうと、半導体ウエハを支持板から剥離することが困難となったり、剥離時に半導体ウエハの表面に糊残りしてしまったりすることがある。これに対して、離型助剤として粘着剤層にシリコーン化合物を配合することが行われる。シリコーン化合物を配合することにより、粘着剤層からブリードアウトしたシリコーン化合物によって接着亢進を防止することができる。
【0005】
しかしながら、従来のシリコーン化合物は被着体の種類によっては接着亢進を充分に抑えることが難しい場合がある。従来のシリコーン化合物は低極性であることから高極性の物質と親和性が低いという性質があり、被着体が半導体ウエハのような極性の高いものである場合、粘着テープ表面にブリードアウトしたシリコーン化合物が表面に留まることができず、被着体との界面から拡散してしまう。そのため、粘着テープと被着体との界面に存在するシリコーン化合物が減少してしまい、接着亢進を充分に抑えることができないことがある。特に200℃以上の熱処理工程を伴う場合は、熱によってシリコーン化合物がより動きやすくなるため、被着体との界面からシリコーン化合物が離れやすくなってしまい、接着亢進が大きくなってしまう。
【0006】
また、粘着テープは接着亢進を抑える必要がある一方で、貼り付け時には高い粘着力を有している必要がある(以下、貼り付け時の粘着力を初期粘着力という)。しかしながら、従来のシリコーン化合物は、上記の理由から大量に使用しなければ接着亢進を抑えることができず、シリコーン化合物を大量に使用すると初期粘着力が低下してしまうという問題もある。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑み、初期粘着力が高く、高温の熱処理工程に供しても接着亢進を抑えることができる粘着テープを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、粘着剤層を有する粘着テープであって、前記粘着剤層はアクリル系粘着剤成分及びシリコーン化合物を含有し、前記粘着テープは、前記粘着テープの前記粘着剤層側をガラスに貼り付けて、220℃で120分間加熱し、剥離した後の前記粘着剤層について、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)による測定を行ったときの、前記粘着剤層表面から厚み方向に1nmの領域における、質量数71及び質量数75のイオン強度比A(質量数75のイオン強度/質量数71のイオン強度)と、前記粘着剤層表面から厚み方向に50nmの領域における、質量数71及び質量数75のイオン強度比B(質量数75のイオン強度/質量数71のイオン強度)との比(A/B)が10以上である、粘着テープである。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明の粘着テープは、アクリル系粘着剤成分及びシリコーン化合物を含有する粘着剤層を有し、上記粘着剤層側をガラスに貼り付けて、220℃で120分間加熱し、剥離した後の上記粘着剤層について、下記を満たすものである。
即ち、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)による測定を行ったときの、上記粘着剤層表面から厚み方向に1nmの領域における、質量数71及び質量数75のイオン強度比Aと、上記粘着剤層表面から厚み方向に50nmの領域における、質量数71及び質量数75のイオン強度比Bとの比(A/B)が10以上である。
なお、加熱後の上記粘着剤層の剥離は、220℃で120分間加熱し、室温下で放冷後、JIS Z0237に準じて、剥離速度300mm/分で180°方向に剥離を行う。
【0010】
上記TOF-SIMSによる測定を行った場合における上記質量数71及び上記質量数75に由来するセグメントの化学構造は、それぞれC3H3O2(アクリル系粘着剤成分に由来)およびSiCH3O2(シリコーン化合物に由来)であると考えられる。質量数71のイオンはアクリル系粘着剤成分に由来し、質量数75のイオンはシリコーン化合物に由来することから、A/Bは粘着剤層表面から厚み方向に1nmの領域と50nmの領域でのシリコーン化合物の存在量の比を表していると考えられる。加熱後の粘着剤層において、A/Bが10以上である、つまり、粘着剤層表面にシリコーン化合物が多く存在することによって、高温下での接着亢進を抑えることができる。接着亢進をさらに抑制できる観点から、上記A/Bの好ましい下限は12、より好ましい下限は15、更に好ましい下限は18、特に好ましい下限は20である。上記A/Bの上限は特に限定されないが、例えば50、好ましくは30である。
なお、上記A/Bは、上記シリコーン化合物の種類によって制御することができる。また、上記A/Bは、被着体のガラスとして松浪ガラス工業社製、大型スライドガラス白縁磨 No.2を用いて得られた値のことを指す。ここで粘着剤層表面とは、粘着剤層の被着体と接する面のことを指す。
【0011】
飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS:Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)は、固体試料にイオンビーム(一次イオン)を照射し、表面から放出されるイオン(二次イオン)を、その飛行時間差(飛行時間は重さの平方根に比例)を利用して質量分離する方法である。TOF-SIMSでは、試料表面から厚み方向に1nmの領域に存在する元素や分子種に関する情報を高い検出感度で得ることができる。TOF-SIMSにおいて1回測定を行うごとにスパッタイオンとしてC60+を用いたスパッタを行うことで試料が約1nm削られるため、1回目のTOF-SIMSで試料表面からの厚み方向に1nmの領域における元素や分子種が測定できる。そして、50回目のTOF-SIMSで試料表面から厚み方向に50nmの領域における元素や分子種を測定することができる。TOF-SIMSに用いる分析装置としては、ION-TOF社製「TOF-SIMS5」等が挙げられる。また、上記イオン強度比は、例えば、Bi3
+イオンガンを測定用の一次イオン源とし、25keVの条件にて測定することで求めることができる。
【0012】
上記粘着剤層は、アクリル系粘着剤成分を含有する。
粘着剤層がアクリル系粘着剤成分を含有することで、粘着テープの耐熱性や耐候性を高めることができ、また、粘着テープを幅広い被着体に対して用いることができる。
上記アクリル系粘着剤成分は特に限定されず、硬化型であっても非硬化型であってもよい。また、構造も特に限定されず、単独のモノマーからなる重合体であってもよく、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよい。
【0013】
上記アクリル系粘着剤成分は、上記シリコーン化合物と架橋可能な官能基を有していることが好ましい。
アクリル系粘着剤成分がシリコーン化合物と架橋可能な官能基を有することで、被着体との界面に集まったシリコーン化合物が粘着剤成分と架橋して界面に固定されるため、高温下での接着亢進を抑えることができるとともに、被着体の汚染も抑えることができる。
【0014】
上記シリコーン化合物と架橋可能な官能基は特に限定されず、上記シリコーン化合物が有する官能基に応じて適宜選択することができる。例えば、上記シリコーン化合物が有する官能基がイソシアネート基である場合は水酸基、上記シリコーン化合物が有する官能基がエポキシ基である場合はカルボキシ基等が挙げられる。
上記アクリル系粘着剤成分の原料となる水酸基含有モノマーとしては、例えば、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。カルボキシ基含有モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-フタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0015】
上記シリコーン化合物と架橋可能な官能基を有するモノマー以外の上記アクリル系粘着剤成分の原料として用いることのできる原料モノマーとしては、例えば、アルキル基の炭素数が1~3の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、アルキル基の炭素数が13~18の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、官能性モノマー等が挙げられる。
上記アルキル基の炭素数が1~3の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル等が挙げられる。上記アルキル基の炭素数が13~18の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、メタクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。上記官能性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、グリセリンジメタクリレート、(メタ)アクリル酸グリシジル、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸等が挙げられる。
【0016】
上記アクリル系粘着剤成分を得るには、原料モノマーを、重合開始剤の存在下にてラジカル反応させればよい。上記原料モノマーをラジカル反応させる方法、即ち、重合方法としては、従来公知の方法が用いられ、例えば、溶液重合(沸点重合又は定温重合)、乳化重合、懸濁重合、塊状重合等が挙げられる。
上記重合開始剤は特に限定されず、例えば、有機過酸化物、アゾ化合物等が挙げられる。上記有機過酸化物として、例えば、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、t-ヘキシルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシピバレート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(2-エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシラウレート等が挙げられる。上記アゾ化合物として、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル等が挙げられる。これらの重合開始剤は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0017】
上記アクリル系粘着剤成分はリビングラジカル重合によって得てもよい。
リビングラジカル重合は、重合反応が停止反応又は連鎖移動反応等の副反応で妨げられることなく分子鎖が生長していく重合である。リビングラジカル重合によれば、例えばフリーラジカル重合等と比較してより均一な分子量及び組成を有するポリマーが得られ、低分子量成分等の生成を抑えることができるため、得られるアクリル系粘着剤成分の高温下での接着亢進を抑えられる一方、意図せぬ剥離が起きない程度にアクリル系粘着剤成分を剥がれにくくすることができる。
【0018】
リビングラジカル重合は一般的に用いられるものであれば特に限定されず、TERP法、RAFT法、NMP法等が挙げられる。TERP法においては有機テルル化合物、RAFT法においてはRAFT剤、NMP法においてはニトロキシド化合物が用いられ、必要に応じて有機過酸化物、アゾ化合物等の上記重合開始剤を組み合わせて使用する。他に、ATRP法を用いることもできる。
【0019】
上記ラジカル重合において、上記重合開始剤に加えて、重合速度の促進を目的としてアゾ化合物を用いてもよい。
上記アゾ化合物は、ラジカル重合に一般的に用いられるものであれば特に限定されず、例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、1,1-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、1-[(1-シアノ-1-メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリアン酸)、ジメチル-2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、ジメチル-1,1’-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボキシレート)、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1’-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス[N-(2-プロペニル)-2-メチルプロピオンアミド]、2,2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス(N-シクロヘキシル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’-アゾビス{2-[1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリン-2-イル]プロパン}二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]四水和物、2,2’-アゾビス(1-イミノ-1-ピロリジノ-2-メチルプロパン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)等が挙げられる。これらのアゾ化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
上記ラジカル重合においては、分散安定剤を用いてもよい。上記分散安定剤として、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0021】
上記重合において重合溶媒を用いる場合、該重合溶媒は特に限定されない。上記重合溶媒としては、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、トルエン、キシレン等の非極性溶媒や、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、N,N-ジメチルホルムアミド等の高極性溶媒を用いることができる。これらの重合溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、重合温度は、重合速度の観点から0~110℃が好ましい
【0022】
上記粘着剤層はシリコーン化合物を含有する。シリコーン化合物を含有することで、熱が加えられた際にシリコーン化合物が粘着剤層と被着体との界面に集まり、高温時の接着亢進を抑えることができる。
【0023】
上記シリコーン化合物は、上記A/Bを満たすことができれば特に限定されないが、重量平均分子量が40万以下のアクリル系ポリマーであることが好ましい。
シリコーン化合物をアクリル系ポリマーとすることで、アクリル系粘着剤成分との相溶性を向上させることができる。また、重量平均分子量が40万以下であることで、分子の運動性が向上し、アクリル系ポリマーを粘着剤層と被着体との界面に集まりやすくすることができる。その結果、上記A/Bを満たしやすくなり、高温下での接着亢進を抑えることができる。上記重量平均分子量は、20万以下であることがより好ましく、10万以下であることが更に好ましい。上記重量平均分子量の下限は特に限定されないが、シリコーン化合物がアクリル系粘着剤成分と架橋しやすくなり、被着体の汚染を抑えられることから5000以上であることが好ましい。
なお、上記重量平均分子量は、例えばGPC法によりポリスチレン標準で求めることができる。具体的には、例えば、測定機器としてWater社製「2690 Separations Module」、カラムとして昭和電工社製「GPC KF-806L」溶媒として酢酸エチルを用い、サンプル流量1mL/min、カラム温度40℃の条件で測定することができる。
【0024】
上記シリコーン化合物は、シリコーン系グラフト共重合体であることがより好ましい。上記シリコーン化合物がシリコーン系グラフト共重合体であることで、シリコーン化合物をより粘着剤層と被着体との界面に集めやすくすることができ、上記A/Bを満たしやすくなることから、高温下での接着亢進をより抑えることができる。上記シリコーン系グラフト共重合体は特に限定されないが、シリコーンマクロモノマーに由来する構造を有することが好ましい。
【0025】
上記シリコーンマクロモノマーとしては、シロキサン結合を有するモノマーであればよく、例えば、シロキサン結合を有するアクリル系モノマー、シロキサン結合を有するスチレン系モノマー等が挙げられる。上記シロキサン結合を有するアクリル系モノマーとしては、例えば、以下のような構造式を有するモノマーが挙げられる。
【0026】
【0027】
ここで、Rは(メタ)アクリロイル基含有官能基を表し、X及びYはそれぞれ独立して0以上の整数を表し、通常5000以下、特に500以下の整数を表す。
【0028】
上記シリコーン系グラフト共重合体の原料モノマー混合物中における上記シリコーンマクロモノマーの含有量は、1重量%以上90重量%以下であることが好ましい。
シリコーンマクロモノマーの含有量が上記範囲であることで、高温下での接着亢進をより抑えることができる。高温下での接着亢進を更に抑える観点から、上記シリコーンマクロモノマーの含有量のより好ましい下限は5重量%、更に好ましい下限は10重量%、より好ましい上限は80重量%、更に好ましい上限は60重量%である。
即ち、上記シリコーン系グラフト共重合体における上記シリコーンマクロモノマーに由来する構成単位の含有量は、1重量%以上90重量%以下であることが好ましい。上記シリコーンマクロモノマーに由来する構成単位の含有量のより好ましい下限は5重量%、更に好ましい下限は10重量%、より好ましい上限は80重量%、更に好ましい上限は60重量%である。
【0029】
上記シリコーン系グラフト共重合体は、シリコーンマクロモノマーに由来する構造に加えて、極性官能基含有モノマーに由来する構造及び前記極性官能基と架橋可能である官能基含有モノマーに由来する構造を有することが好ましい。
シリコーン系グラフト共重合体が極性官能基及び極性官能基と架橋可能である官能基を有していることで、シリコーン系グラフト共重合体同士が架橋(自己架橋)することができる。自己架橋が起きると、粘着剤層と被着体との界面に集まったシリコーン系グラフト共重合体が界面で固定されるため、上記A/Bを満たしやすくなり、高温下での接着亢進を抑えることができる。また、極性官能基又は極性官能基と架橋可能である官能基が上記アクリル系粘着剤成分と架橋可能であると、シリコーン系グラフト共重合体の一部がアクリル系粘着剤成分と架橋して固定されるため、被着体の汚染も抑えることができる。更に、上記極性官能基は、自己架橋する前においては親水性の被着体に対する親和性を高めてシリコーン系グラフト共重合体を被着体の界面に集まりやすくする役割と、初期粘着力を向上させる役割を果たすこともできる。
【0030】
上記極性官能基含有モノマーは、極性官能基を有していれば特に限定されない。上記極性官能基としては、例えば、水酸基、カルボキシ基、アミド基、エポキシ基等が挙げられる。水酸基含有モノマーとしては、例えば、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。上記カルボキシ基含有モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-フタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。アミド基含有モノマーとしては、例えば、ヒドロキシエチルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド等が挙げられる。エポキシ基含有モノマーとしては例えば、グリシジル(メタ)アクリレートが挙げられる。なかでも、極性の高い被着体との界面に集まりやすくなることから水酸基含有モノマーであることが好ましい。また、耐熱性、耐候性に優れることから、水酸基含有(メタ)アクリレートモノマーであることがより好ましい。
【0031】
上記極性官能基含有モノマーは、極性官能基と結合した保護基を有することが好ましい。
極性官能基含有モノマーが極性官能基と結合した保護基を有していることで、意図せぬ自己架橋反応を抑えることができる。上記保護基は、上記極性官能基に応じて、従来知られている保護基を適宜使用することができる。例えば、上記極性官能基が水酸基である場合、保護基としてはシリル基、アセチル基、アセタール系保護基、ベンジル基、アリル基、ピラゾール基、フェノール基、オキシム基、ラクタム基等が挙げられ、上記極性官能基がカルボキシ基である場合、保護基としてはビニルエーテル基等が挙げられる。これらのなかでも、熱処理工程時に自己架橋反応を開始できることから、熱によって脱離する保護基であることが好ましい。熱によって脱離する保護基としては、ピラゾール基、フェノール基、オキシム基、ラクタム基、ビニルエーテル基等が挙げられる。
【0032】
上記シリコーン系グラフト共重合体の原料モノマー混合物中における上記極性官能基含有モノマーの含有量は、0.1重量%以上20重量%以下であることが好ましい。
極性官能基含有モノマーの含有量が上記範囲であることで、上記A/Bを満たしやすくなり、高温下での接着亢進をより抑えることができる。高温下での接着亢進を更に抑える観点から、上記極性官能基含有モノマーの含有量のより好ましい下限は0.3重量%、更に好ましい下限は0.5重量%、更により好ましい下限は0.7重量%、特に好ましい下限は1重量%である。上記極性官能基含有モノマーの含有量のより好ましい上限は18重量%、更に好ましい上限は15重量%、更により好ましい上限は12重量%、特に好ましい上限は10重量%、とりわけ好ましい上限は8重量%、非常に好ましい上限は5重量%である。
即ち、上記シリコーン系グラフト共重合体における上記極性官能基含有モノマーに由来する構成単位の含有量は、0.1重量%以上20重量%以下であることが好ましい。上記極性官能基含有モノマーに由来する構成単位の含有量のより好ましい下限は0.3重量%、更に好ましい下限は0.5重量%、更により好ましい下限は0.7重量%、特に好ましい下限は1重量%である。上記極性官能基含有モノマーに由来する構成単位の含有量のより好ましい上限は18重量%、更に好ましい上限は15重量%、更により好ましい上限は12重量%、特に好ましい上限は10重量%、とりわけ好ましい上限は8重量%、非常に好ましい上限は5重量%である。
【0033】
上記極性官能基と架橋可能である官能基含有モノマーは、上記極性官能基と架橋可能である官能基を有していれば特に限定されない。上記極性官能基と架橋可能である官能基としては、例えば、上記極性官能基が水酸基である場合はイソシアネート基、上記極性官能基がカルボキシ基である場合はエポキシ基等が挙げられる。イソシアネート基含有モノマーとしては、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。エポキシ基含有モノマーとしては、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。なかでも、極性の高い被着体との界面に集まりやすい水酸基含有モノマーと架橋可能なことからイソシアネート基含有モノマーであることが好ましく、後述する保護基がイソシアネート基と結合したブロックイソシアネート基含有モノマーであることがより好ましい。また、耐熱性及び耐候性に優れることから、ブロックイソシアネート基含有(メタ)アクリルモノマーであることが更に好ましい。
【0034】
上記極性官能基と架橋可能である官能基含有モノマーは、極性官能基と架橋可能である官能基と結合した保護基を有することが好ましい。
上記極性官能基と架橋可能である官能基含有モノマーが上記極性官能基と架橋可能である官能基と結合した保護基を有していることで、意図せぬ自己架橋反応を抑えることができる。上記保護基は、上記極性官能基と架橋可能である官能基に応じて、従来知られている保護基を適宜使用することができる。例えば、上記極性官能基と架橋可能である官能基がイソシアネート基である場合はピラゾール基等が挙げられる。これらのなかでも、熱処理工程時に自己架橋反応を開始できることから、熱によって脱離する保護基であることが好ましい。熱によって脱離する保護基としては、ピラゾール基、フェノール基、オキシム基、ラクタム基、ビニルエーテル基等が挙げられる。なお、上記保護基は、上記極性官能基モノマー又は上記極性官能基と架橋可能である官能基含有モノマーの少なくとも一方に存在していればその効果を発揮することができるが、両方に保護基が存在していてもよい。
【0035】
上記シリコーン系グラフト共重合体の原料モノマー混合物中における上記極性官能基と架橋可能である官能基含有モノマーの含有量は、0.1重量%以上20重量%以下であることが好ましい。
極性官能基と架橋可能である官能基含有モノマーの含有量が上記範囲であることで、上記A/Bを満たしやすくなり、高温下での接着亢進をより抑えることができる。高温下での接着亢進を更に抑える観点から、上記極性官能基と架橋可能である官能基含有モノマーの含有量のより好ましい下限は0.3重量%、更に好ましい下限は0.5重量%、更により好ましい下限は0.7重量%、特に好ましい下限は1重量%である。上記極性官能基と架橋可能である官能基含有モノマーの含有量のより好ましい上限は10重量%、更に好ましい上限は8重量%、更により好ましい上限は5重量%である。
即ち、上記シリコーン系グラフト共重合体における上記極性官能基と架橋可能である官能基含有モノマーに由来する構成単位の含有量は、0.1重量%以上20重量%以下であることが好ましい。上記極性官能基と架橋可能である官能基含有モノマーに由来する構成単位の含有量のより好ましい下限は0.3重量%、更に好ましい下限は0.5重量%、更により好ましい下限は0.7重量%、特に好ましい下限は1重量%である。上記極性官能基と架橋可能である官能基含有モノマーに由来する構成単位の含有量のより好ましい上限は10重量%、更に好ましい上限は8重量%、更により好ましい上限は5重量%である。
【0036】
上記シリコーングラフト共重合体においては、上記極性官能基含有モノマーが水酸基含有モノマーであり、上記極性官能基と架橋可能である官能基含有モノマーがイソシアネート基含有モノマー、なかでも特にブロックイソシアネート基含有モノマーであることがより好ましい。このような組合せの場合、より効率的に上記シリコーン系グラフト共重合体の自己架橋を形成できる。また、このような組み合わせの場合、上記シリコーン系グラフト共重合体の原料モノマー混合物は、上記水酸基含有モノマーを0.1重量%以上20重量%以下、上記ブロックイソシアネート基含有モノマーを0.1重量%以上20重量%以下、及び上記シリコーンマクロモノマーを1重量%以上90重量%以下含有することが好ましい。
【0037】
上記極性官能基含有モノマーが水酸基含有モノマーであり、上記極性官能基と架橋可能である官能基含有モノマーがイソシアネート基含有モノマーである場合、上記水酸基と上記イソシアネート基の当量比(水酸基/イソシアネート基)は0.1以上10以下であることが好ましい。
水酸基とイソシアネート基の比率を上記範囲とすることで、自己架橋反応が効率よく進むため、粘着剤層表面の弾性率がより向上し、被着体への糊残りをより抑えることができる。より被着体への糊残りを低減する観点から、上記水酸基と上記イソシアネート基の当量比は0.2以上であることがより好ましく、0.4以上であることが更に好ましく、4以下であることがより好ましく、2.5以下であることが更に好ましい。
【0038】
上記シリコーン系グラフト共重合体の原料モノマー混合物に用いられる、上記極性官能基含有モノマー、上記極性官能基と架橋可能である官能基含有モノマー及び上記シリコーンマクロモノマー以外のその他のモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられる。上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。上記その他のモノマーとしては、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-ブトキシエチル(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等も挙げられる。
【0039】
上記シリコーン系グラフト共重合体は、ケイ素元素の含有量が1重量%以上30重量%以下であることが好ましい。
ケイ素元素の含有量が1重量%以上であることで、より接着亢進を抑えることができ、ケイ素元素の含有量が30重量%以下であることで、より初期粘着力を高めることができる。接着亢進を更に抑えて、初期の粘着力を更に向上させる観点から、上記ケイ素元素の含有量は1.5重量%以上であることがより好ましく、3重量%以上であることが更に好ましく、25重量%以下であることがより好ましく、20重量%以下であることが更に好ましい。
【0040】
上記シリコーン系グラフト共重合体の製造方法は、特に限定されず、原料モノマー混合物を溶媒中でラジカル重合することによって得ることができる。上記ラジカル重合の重合方法としては、従来公知の方法を用いることができ、例えば、溶液重合(沸点重合又は定温重合)、乳化重合、懸濁重合、塊状重合等が挙げられる。
【0041】
上記粘着剤層中における上記シリコーン化合物の含有量は0.1重量%以上30重量%以下であることが好ましい。
粘着剤組成物中における上記シリコーン化合物の含有量が0.1重量%以上であることで、高温時における接着亢進をより抑えることができる。シリコーン化合物の含有量が30重量%以下であることで、粘着剤組成物の白濁を抑えることができ、粘着テープ越しにアライメント等の光を用いた工程を行うことができる。高温時の接着亢進と白濁をより抑える観点から、上記粘着剤層中における上記シリコーン化合物の含有量は0.5重量%以上であることがより好ましく、1重量%以上であることが更に好ましい。上記シリコーン化合物の含有量は20重量%以下であることがより好ましく、15重量%以下であることが更に好ましく、10重量%以下であることが更により好ましく、5重量%以下であることが特に好ましい。
【0042】
上記シリコーン化合物がシリコーン系グラフト共重合体である場合、上記粘着剤層中における上記シリコーン系グラフト共重合体の含有量はアクリル系粘着剤成分100重量部に対して0.1重量部以上20重量部以下であることが好ましい。
上記シリコーン系グラフト共重合体は、効率よく粘着剤層の表面に集まることから、従来の離型助剤と比べて格段に少ない使用量で、接着亢進を抑えることができる。アクリル系粘着剤成分100重量部に対する上記シリコーン系グラフト共重合体の含有量は0.2重量部以上であることがより好ましく、0.5重量部以上であることが更に好ましい。アクリル系粘着剤成分100重量部に対する上記シリコーン系グラフト共重合体の含有量は15重量部以下であることがより好ましく、10重量部以下であることが更に好ましく、4重量部以下であることが更により好ましく、3重量部以下であることが特に好ましい。
【0043】
上記粘着剤層は架橋剤を含有することが好ましい。
架橋剤を含有することで、アクリル系粘着剤成分の凝集力が高まり、初期粘着力を高めることができる。
上記架橋剤は特に限定されず、例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アジリジン系架橋剤、金属キレート系架橋剤等が挙げられる。なかでも、より粘着剤成分の凝集力が高まることからエポキシ系架橋剤が好ましい。
【0044】
上記粘着剤層中における上記架橋剤の含有量は、0.1重量%以上20重量%以下であることが好ましい。
架橋剤が上記範囲で含有されていることで、アクリル系粘着剤成分を適度に架橋して、初期粘着力をより高めることができる。初期粘着力をより高める観点から、上記架橋剤の含有量のより好ましい下限は0.5重量%、更に好ましい下限は1.0重量%、より好ましい上限は15重量%、更に好ましい上限は10重量%である。
【0045】
上記粘着剤層は、必要に応じて、刺激により気体を発生する気体発生剤や、無機充填剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、可塑剤、樹脂、界面活性剤、ワックス等の公知の添加剤を含有してもよい。
【0046】
上記粘着剤層は、加熱前における上記イオン強度比Aが0.5以下であることが好ましい。
加熱前におけるイオン強度比Aが上記範囲、つまり、加熱前は粘着剤層表面にシリコーン化合物が集まっていないことで、初期粘着力を高めることができる。上記加熱前におけるAは0.45以下であることがより好ましく、0.4以下であることが更に好ましい。上記加熱前におけるイオン強度比Aの下限は特に限定されないが、装置の検出限界の観点から0.01程度が限度である。上記加熱前におけるイオン強度比Aは、上記シリコーン化合物の種類によって制御することができる。
【0047】
上記粘着剤層の厚さは特に限定されないが、下限が3μm、上限が100μmであることが好ましい。上記粘着剤層の厚みが上記範囲であると充分な粘着力で支持体と接着することができる。同様の観点から、上記粘着剤層の厚さのより好ましい下限は5μm、更に好ましい下限は10μm、更により好ましい下限は20μmであり、より好ましい上限は80μm、さらに好ましい上限は60μm、更により好ましい上限は50μmである。
【0048】
本発明の粘着テープは基材を有するサポートタイプであってもよく、基材を有さないノンサポートタイプであってもよい。本発明の粘着テープがサポートタイプである場合、上記基材を構成する材料は耐熱性を持つ材料であることが好ましい。上記耐熱性を持つ材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、超高分子量ポリエチレン、シンジオタクチックポリスチレン、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ素樹脂、液晶ポリマー等が挙げられる。なかでも、耐熱性に優れることからポリエチレンナフタレートが好ましい。
【0049】
上記基材の厚さは特に限定されないが、好ましい下限が15μm、より好ましい下限が25μm、さらに好ましい下限が40μm、更により好ましい下限が50μmであり、好ましい上限が250μm、より好ましい上限が125μm、さらに好ましい上限が100μm、更により好ましい上限が75μmである。上記基材がこの範囲であることで取り扱い性に優れる粘着テープとすることができる。
【0050】
本発明の粘着テープを製造する方法は特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、溶媒に上記アクリル系粘着剤成分と、上記シリコーン化合物と、必要に応じて架橋剤等の添加剤を加えた粘着剤溶液を、離型処理を施したフィルム上に塗工、乾燥させて粘着剤層を形成し、基材と貼り合わせることで製造することができる。
【0051】
本発明の粘着テープの用途は特に限定されないが、200℃を超えるような熱処理工程に用いられても接着亢進を抑えられることから、半導体デバイス等の高温処理工程(例えば150℃以上、特に180℃以上、とりわけ200℃の高温処理工程)を有する製品の製造において、被着体を保護する保護テープとして好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0052】
本発明によれば、初期粘着力が高く、高温の熱処理工程に供しても接着亢進を抑えることができる粘着テープを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0053】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0054】
(実施例1)
(アクリル系粘着剤成分Aの調製)
重合開始剤6.38g(50mmol)をテトラヒドロフラン(THF)50mLに懸濁させ、これに1.6mol/Lのn-ブチルリチウム/ヘキサン溶液34.4mL(55mmol)を、室温でゆっくり滴下した。この反応溶液を金属テルル(重合開始剤)が完全に消失するまで攪拌した。この反応溶液に、エチル-2-ブロモ-イソブチレート10.7g(55mmol)を室温で加え、2時間攪拌した。反応終了後、減圧下で溶媒を濃縮し、続いて減圧蒸留して、黄色油状物の2-メチル-2-n-ブチルテラニル-プロピオン酸エチルを得た。
アルゴン置換したグローブボックス内で、反応容器中に、製造した2-メチル-2-n-ブチルテラニル-プロピオン酸エチル45.7μL、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)10mg、酢酸エチル0.5mLを投入した後、反応容器を密閉し、反応容器をグローブボックスから取り出した。続いて、反応容器にアルゴンガスを流入しながら、反応容器内に、原料モノマー混合物を加えた。原料モノマー混合物の組成は、2-エチルへキシルアクリレート(2EHA)100重量部、アクリル酸(Aac)3重量部、及び、アクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEA)0.1重量部とした。更に、重合溶媒として酢酸エチル68.7gを投入し、60℃で20時間重合反応を行い、アクリル系粘着剤成分含有溶液を得た。なお、原料は以下のものを用いた。
重合開始剤:Tellurium、金属テルル、40メッシュ、アルドリッチ社製
n-ブチルリチウム/ヘキサン溶液:アルドリッチ社製
2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル):和光純薬工業社製
【0055】
次いで、得られたアクリル系粘着剤成分含有溶液をテトラヒドロフラン(THF)によって50倍に希釈して得られた希釈液を、ポア径0.2μmのポリテトラフルオロエチレン製フィルターで濾過した。その後、得られた濾液をゲルパミエーションクロマトグラフに供給してGPC測定を行った。アクリル系粘着剤成分のポリスチレン換算分子量を測定して、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)を求めた。その結果、Mw:89.9万、Mw/Mn:1.78であった。なお、測定機器と測定条件は以下の通りとした。
ゲルパミエーションクロマトグラフ:e2695 Separations Module(Waters社製)
検出器:示差屈折計(2414、Waters社製)
カラム:GPC KF-806L(昭和電工社製)
標準試料:STANDRAD SM-105(昭和電工社製)
サンプル流量:1mL/min
カラム温度:40℃
【0056】
(アクリル系粘着剤成分Bの調製)
温度計、攪拌機、冷却管を備えた反応器を用意し、この反応器内に、モノマーとして2-エチルヘキシルアクリレート100重量部、アクリル酸3重量部及びヒドロキシエチルアクリレート0.1重量部、酢酸エチル80重量部を加えた。この反応器を加熱して還流を開始した。続いて、上記反応器内に、重合開始剤としてV-60(2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、和光純薬工業社製)0.01重量部を投入し、60℃で8時間重合反応を行い、アクリル系粘着剤成分含有溶液を得た。アクリル系粘着剤成分Aの調製と同様にして、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)を求めた。その結果、Mw:92.3万、Mw/Mn:4.06であった。
【0057】
(シリコーン化合物Aの調製)
温度計、攪拌機、冷却管を備えた反応器を用意した。この反応器内に、2-エチルへキシルアクリレート39.5重量部、シリコーンマクロモノマー60重量部、4-ヒドロキシブチルアクリレート0.25重量部、ブロックイソシアネート基含有モノマーA0.25重量部、ラウリルメルカプタン0.01重量部と、酢酸エチル80重量部を加えた後、反応器を加熱して還流を開始した。続いて、上記反応器内に、重合開始剤として1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン0.01重量部を添加し、還流下で重合を開始させた。次に、重合開始から1時間後及び2時間後にも、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンを0.01重量部ずつ添加し、更に、重合開始から4時間後にt-ヘキシルパーオキシピバレートを0.05重量部添加して重合反応を継続させた。そして、重合開始から8時間後に、シリコーン化合物Aを得た。上記アクリル系粘着剤成分と同様にしてMw及びMw/Mnを測定したところ、Mw:5.3万、Mw/Mn:1.7であった。なお、シリコーンマクロモノマー及びブロックイソシアネート基含有モノマーAは以下のものを用いた。
シリコーンマクロモノマー:KF-2012、片末端メタクリロイル変性PDMS、信越化学社製
ブロックイソシアネート基含有モノマーA:カレンズMOI-BP、昭和電工社製
【0058】
(シリコーン化合物B~Jの調製)
モノマー組成を表1の通りとした以外はシリコーン化合物Aの調製と同様にして、シリコーン化合物B~Jを得て、Mw及びMw/Mnを測定した。なお、ブロックイソシアネート基含有モノマーBは以下のものを用いた。
ブロックイソシアネート基含有モノマーB:カレンズAOI-BP、昭和電工社製
【0059】
(実施例1)
得られたアクリル系粘着剤成分含有溶液の固形分100重量部に対して離型助剤としてシリコーン化合物A1.0重量部、エポキシ系架橋剤3.0重量部を加えて粘着剤組成物溶液を得た。次いで、粘着剤組成物溶液を表面に離型処理が施されたポリエチレンテレフタレートフィルムの離型処理面上に乾燥皮膜の厚さが40μmとなるようにドクターナイフで塗工し110℃、5分間加熱乾燥させて粘着剤層を得た。得られた粘着剤層と片面にコロナ処理を施した厚さ50μmの透明なポリエチレンナフタレートフィルムのコロナ処理面とを貼り合わせて、粘着テープを得た。なお、架橋剤としては以下のものを用いた。
エポキシ系架橋剤:テトラッドC、三菱ガス化学社製
【0060】
(TOF-SIMS測定)
得られた粘着テープの粘着剤層表面に対して、ION-TOF社製「TOF-SIMS5」を用いて、Bi3
+イオンガンを測定用の一次イオン源とし、TOF-SIMSの測定を行った。得られた測定結果から、アクリル系粘着剤成分由来の質量数71のピークとシリコーン化合物由来の質量数75のピークを基に、加熱前の粘着剤層表面から厚み方向に1nmの領域におけるイオン強度比A(質量数75のイオン強度/質量数71のイオン強度)を算出した。結果を表2に示した。
【0061】
次いで、上記測定に用いた粘着テープとは別の粘着テープの、粘着剤層側をガラス(松浪ガラス工業社製、大型スライドガラス白縁磨 No.2)に貼り付けて、220℃で120分間の加熱処理を行った。加熱処理後、粘着剤層を剥離し、上記と同様の方法でTOF-SIMSの測定を行い、加熱後の粘着剤層表面から厚み方向に1nmの領域におけるイオン強度比A(質量数75のイオン強度/質量数71のイオン強度)を算出した。なお、加熱後の粘着剤層の剥離は、220℃で120分間加熱し、室温下で放冷後、JIS Z0237に準じて、剥離速度300mm/分で180°方向に剥離を行った。
その後、TOF-SIMSの測定とスパッタイオンとしてC60+を用いたスパッタとを繰り返し、50回目の測定結果を基に、加熱後の粘着剤層表面から厚み方向に50nmの領域におけるイオン強度比B(質量数75のイオン強度/質量数71のイオン強度)を算出した。得られたA、BからA/Bを算出した。結果を表2に示した。なお、TOF-SIMSの具体的な測定条件は以下の通りである。
一次イオン:Bi3
+
一次イオン電圧:25keV
一次イオン電流:0.1~0.2pA
質量範囲:1~500mass
分析エリア:500μm×500μm
チャージ防止:電子照射中和
ランダムスキャンモード
スパッタイオン:C60+
スパッタイオン電圧:25keV
スパッタイオン電流:1nA
スパッタエリア:800μm×800μm
【0062】
(実施例2~17、比較例1~5)
用いる粘着剤の種類、離型助剤の種類及び配合量、並びに、架橋剤の種類及び配合量を表2、3の通りとした以外は実施例1と同様にして粘着テープを得て、TOF-SIMS測定を行った。なお、離型助剤、イソシアネート系架橋剤としては以下のものを用いた。
シリコーンオイル:KF-96-10cs、信越化学社製
エポキシ変性シリコーン:X-22-163C、信越化学社製
シリコーンジアクリレート:EBECRYL350、ダイセル・オルネクス社製
イソシアネート系架橋剤:コロネートL45、日本ポリウレタン社製
【0063】
<評価>
実施例及び比較例で得られた粘着テープについて、以下の方法により評価を行った。
結果を表2、3に示した。
【0064】
(初期粘着力及び加熱後粘着力の評価)
粘着テープを25mm幅に切り出して試験片を得た。得られた試験片の粘着層をガラス板(松浪ガラス工業社製、大型スライドガラス白縁磨 No.2)上に載せた。次いで、試験片上に300mm/分の速度で2kgのゴムローラーを一往復させることにより、試験片とガラス板とを貼り合わせた。その後、23℃で1時間静置して試験サンプルを作製した。静置後の試験サンプルについて、JIS Z0237に準じて、剥離速度300mm/分で180°方向の引張試験を行い、初期粘着力を測定した。
次いで、上記と同様の方法で作製した試験サンプルについて220℃、2時間の熱処理を行った。放冷後、上記と同様の方法で180°方向の引張試験を行い、加熱後粘着力を測定した。
【0065】
(汚染性の評価)
加熱後粘着力の測定後のガラス板を目視にて観察し、下記基準で残渣を評価した。
○:残渣なし
△:一部に残渣あり(貼付面積の10%以下)
×:全面に残渣あり(貼付面積の10%より広範囲)
【0066】
【0067】
【0068】
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によれば、初期粘着力が高く、高温の熱処理工程に供しても接着亢進を抑えることができる粘着テープを提供することができる。