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特許7545333レオロジー的に定義されたリグニン組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】レオロジー的に定義されたリグニン組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 97/00 20060101AFI20240828BHJP
   D01F 2/00 20060101ALI20240828BHJP
【FI】
C08L97/00
D01F2/00 Z
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2020573355
(86)(22)【出願日】2019-06-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-04
(86)【国際出願番号】 CA2019050883
(87)【国際公開番号】W WO2020000094
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2022-06-06
(31)【優先権主張番号】62/690,245
(32)【優先日】2018-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520507324
【氏名又は名称】スザノ カナダ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カドラ、ジョン フランク
(72)【発明者】
【氏名】マ、レイ
(72)【発明者】
【氏名】ダルメイヤー、ジェイムズ イアン
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/056758(WO,A1)
【文献】特開2009-041010(JP,A)
【文献】特開2013-227469(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱処理で使用するために調製された人為的リグニン誘導体であって、前記リグニン誘導体は、3℃/分の加熱速度で測定した場合、10,000Pa以下の最小貯蔵弾性率(G’min)、125℃以上の軟化の開始温度(T)、175℃以上の主に粘性から主に弾性挙動へのクロスオーバー温度(T)、及びG’minから250℃で測定された貯蔵弾性率(G’250)までの貯蔵弾性率の増加(ΔG’)が4未満又は7を超える架橋の程度(ΔG’=G’250/G’min)を有し、前記リグニン誘導体は全体が又は一部が広葉樹バイオマス由来であることを特徴とする、上記リグニン誘導体。
【請求項2】
1,000Pa以下のG’minを有することを特徴とする、請求項1に記載のリグニン誘導体。
【請求項3】
100Pa以下のG’minを有することを特徴とする、請求項1に記載のリグニン誘導体。
【請求項4】
130℃以上のTを有することを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載のリグニン誘導体。
【請求項5】
150℃以上のTを有することを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載のリグニン誘導体。
【請求項6】
180℃以上のTを有することを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載のリグニン誘導体。
【請求項7】
200℃以上のTを有することを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載のリグニン誘導体。
【請求項8】
220℃以上のTを有することを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載のリグニン誘導体。
【請求項9】
前記リグニン誘導体が、G’minから250℃で測定された値(G’250)までの貯蔵弾性率の増加(ΔG’)が7より大きくなるような架橋の程度(ΔG’=G’250/G’min)を有する、請求項1からのいずれか一項に記載のリグニン誘導体。
【請求項10】
前記リグニン誘導体が、G’minから250℃で測定された値(G’250)までの貯蔵弾性率の増加(ΔG’)が8以上となるような架橋の程度(ΔG’=G’250/G’min)を有する、請求項1からのいずれか一項に記載のリグニン誘導体。
【請求項11】
前記リグニン誘導体は一部が針葉樹バイオマス由来である、請求項1から10の一項に記載のリグニン誘導体。
【請求項12】
前記リグニン誘導体はクラフトパルプ化により製造される、請求項1から11の一項に記載のリグニン誘導体。
【請求項13】
形状を有する成形又は押し出しされた熱可塑性形態を形成する方法であって、
請求項1から12のいずれか一項に記載のリグニン誘導体をTより上に加熱して、主に粘性状態にあり、貯蔵弾性率が10,000Pa以下である加熱された熱可塑性材料を形成する;
加熱された熱可塑性材料を熱可塑性形態の形状に形成する;及び
加熱された熱可塑性材料をT未満に冷却して、熱可塑性形態を提供する
ことを含む、上記方法。
【請求項14】
リグニン誘導体が1つ又は複数の熱可塑性ポリマーと混合される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
熱可塑性ポリマーが縮合ポリマーを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
固体材料から構成される複数の部品を固体複合形態に結合することを含む複合材料を熱成形する方法であって、部品は、加熱及び圧縮により、請求項1から12のいずれか1つのリグニン誘導体を含む接着剤と混合して接合され、前記加熱及び圧縮は、混合物をTを超える温度に上昇させる、上記方法。
【請求項17】
形状を有する成形又は押し出しされた熱硬化性形態を形成する方法であって、
請求項1から12のいずれか一項に記載のリグニン誘導体をTより上に加熱して加熱材料を形成する、その結果、加熱された材料は主に粘性状態にあり、貯蔵弾性率が10,000Pa以下である;
加熱された材料を熱硬化性形態の形状に形成し、成形された熱硬化性形態を形成する;
成形された熱硬化性形態をTを超えて加熱する;
成形された熱硬化性形態をTで1分より長く保持する;及び
成形された熱硬化性形態をT未満に冷却して、成形又は押し出しされた熱硬化性形態を提供する
ことを含む、上記方法。
【請求項18】
リグニン誘導体が1つ又は複数の熱可塑性ポリマーと混合される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
熱可塑性ポリマーが熱硬化性ポリマーを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
熱可塑性ポリマーがエラストマーを含む、請求項18又は19に記載の方法。
【請求項21】
固体材料から構成される複数の部品を含む複合材料を固体複合形態に溶液形成する方法であって、前記部品は、請求項1から12のいずれか一項に記載のリグニン誘導体を含む混合物として加熱及び/又は圧縮によって固められ,加熱及び/又は圧縮は、混合物をTを超える温度、又はG’minでの温度を超える温度に上昇させる、上記方法。
【請求項22】
リグニン誘導体が1つ又は複数の熱可塑性ポリマーと混合される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
熱可塑性ポリマーが、ポリアクリロニトリル及び/又は関連するコポリマーを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
熱可塑性ポリマーが縮合ポリマーを含む、請求項22又は23に記載の方法。
【請求項25】
リグニン誘導体が、1つ又は複数の熱硬化性ポリマー及び/又は1つ又は複数の熱硬化性樹脂と混合される、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
前記1つ又は複数の熱硬化性ポリマー及び/又は1つ又は複数の熱硬化性樹脂が、ポリエステル樹脂、ポリウレタン、フェノール‐ホルムアルデヒド、尿素‐ホルムアルデヒド、メラミン樹脂、エポキシ樹脂又はそれらの組み合わせを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
熱硬化性ポリマーがエラストマーを含む、請求項25又は26に記載の方法。
【請求項28】
リグニン誘導体が、2つ以上の別個のリグニン誘導体のブレンドを含む複合リグニン組成物であり、別個のリグニン誘導体が、最小貯蔵弾性率(G’min);軟化の開始温度(T);及び主に粘性から主に弾性挙動へのクロスオーバー温度(T)のうちの1つ以上において異なる、請求項1から12のいずれか一項に記載の人為的リグニン誘導体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグノセルロース原料に由来する天然リグニンの誘導体、及びその工業的用途に関する。より具体的には、本発明は、特定の粘弾性特性を有する天然リグニンの誘導体、並びにそれらの使用、プロセス、方法及び組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
リグニンは、不均一なクラスの複雑な架橋有機ポリマーである。それらは、維管束植物の構造成分において、セルロース及びヘミセルロースに対して比較的疎水性で芳香族のフェニルプロパノイド補体を形成する。木化は、植物の細胞壁の発達の最終段階、細胞壁を固める「接着剤」として機能するリグニンである。。そのような天然リグニンは普遍的に定義された構造を持っていない。天然リグニンは、いくつかの異なる炭素‐炭素及び炭素‐酸素結合を介して接続された3‐一次モノリグノール(例:フェニルプロパン単位;p‐クマリルアルコール、コニフェリルアルコール及びシナピルアルコール)で構成される複雑な高分子である。モノリグノールの種類とユニット間の連鎖は、遺伝的及び環境的要因、種、細胞/成長の種類、細胞壁内/細胞壁間の位置など、さまざまな要因によって異なる。
【0003】
リグノセルロース系バイオマスからリグニンを抽出することは、一般に、リグニンの分解/修飾、及び様々な化学的性質及び高分子特性の多数のリグニンフラグメントの生成をもたらす。バイオマスからリグニンを除去するために使用されるいくつかのプロセスは、リグニン構造を大量のフェノール性ヒドロキシル基を有する低分子量フラグメントに加水分解し、それによって処理液(例えば、硫酸リグニン)へのそれらの溶解度を増加させる。他のプロセスは、リグニン高分子を分解するだけでなく、新しい官能基をリグニン構造に導入して、溶解性を改善し、それらの除去を容易にする(例:亜硫酸リグニン)。生成されたリグニンフラグメントは、一般に、リグニン誘導体及び/又は技術的リグニンと呼ばれる。分子と高分子のそのような複雑な混合物を解明及び特徴付けることは非常に困難であるため、リグニン誘導体は通常、使用されるリグノセルロース植物材料、及びそれらが製造及び回収される方法の観点から説明される。すなわち針葉樹種のクラフトパルプ化から単離されたリグニンは針葉樹クラフトリグニンと呼ばれる。同様に、年次繊維のオルガノソルブパルプ化は、年次繊維オルガノソルブリグニンなどを生成する(例えば、米国特許第4,100,016号;第7,465,791号;及びPCT公開番号WO2012/000093、A.L. Macfarlane, M. Mai et al., 20 - Bio-based chemicals from biorefining: lignin conversion and utilisation, 2014(20‐バイオリファイニングからのバイオベースの化学物質:リグニンの変換と利用)参照)。
【0004】
リグニンは地球上で最も豊富な天然ポリマーの1つであるにもかかわらず(A.L. Macfarlane, M. Mai et al., 20 - Bio-based chemicals from biorefining: lignin conversion and utilisation, 2014(20‐バイオリファイニングからのバイオベースの化学物質:リグニンの変換と利用)))、製紙用パルプの製造に使用される従来のパルプ化プロセスから分離された抽出リグニン誘導体の大規模な商業的使用は限られている。これは、リグニンとリグニン含有処理液がプロセスの化学的/エネルギー回収において果たす重要な役割だけでなく、それらの化学的及び物理的特性に固有の不一致によるものでもある。これらの不一致は、バイオマス供給の変化(地域/時期/気候)や採用された特定の抽出/生成/回収条件などの多くの要因によって発生する可能性があり、これらはバイオマス自体の化学/分子構造に固有の複雑さによってさらに複雑になる。
【0005】
それらの複雑さにもかかわらず、リグニンは、様々な熱可塑性、熱硬化性、エラストマー及び炭素質材料について評価され続けている。たとえば、針葉樹クラフトリグニンは、多くの接着剤システム(フェノール‐ホルムアルデヒド、ポリウレタン、エポキシ樹脂)、ゴム材料、ポリオレフィン、炭素繊維において効果的な代替成分であることが示されている(T.Q. Hu, Chemical Modification, Properties, and Usage of Lignin, 2002)(リグニンの化学修飾、特性、使用))(A.L. Macfarlane, M. Mai et al., 20 - Bio-based chemicals from biorefining: lignin conversion and utilisation, 2014(20‐バイオリファイニングからのバイオベースの化学物質:リグニン変換と利用))。
【0006】
熱処理は、リグニンベースの材料を含む、様々な異なるタイプのポリマー材料の調製における一般的なステップである。たとえば、一般的なクラスの材料としての熱軟化性プラスチック、つまり熱可塑性プラスチックの利点は、加熱すると粘性のある流体のような状態を形成できることであり、これにより、さまざまな形状に繰り返し形成、成形、又は押し出すことができ、これらは、材料が冷却された後も保持される。熱可塑性プラスチックの例には、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリラクテート、ポリビニル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリアセテート、ポリアクリレート、及びポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンのクラスが含まれる。同様に、熱硬化性プラスチックの用途、特に熱硬化性樹脂システムでは、熱処理を利用して、初期の固体又は粘性の液体ポリマーを不融性の不溶性ポリマーネットワークに不可逆的に硬化させる。熱硬化性樹脂は、通常、硬化前に展性又は液体であり、最終的な形状に成形されるか、接着剤として使用されるか、炭素繊維などの繊維材料に形成されるように設計されることがよくある。熱硬化性樹脂の例には、アクリル樹脂、ポリエステル、不飽和ビニルエステル、エポキシ、ポリウレタン、フェノール樹脂、アミノ樹脂、及びフラン樹脂のクラスが含まれる。
【0007】
新しい多相材料を設計/開発する場合、又はある構成材料を別の構成材料に置き換えることを検討する場合、いくつかの重要な要件がある:界面化学、微細構造、及び反応性の制御(D.R. Paul and C.B. Bucknall, Polymer Blends: Formulation, 2000(ポリマーブレンド:配合))。溶融/熱処理系では、粘弾性挙動は、多成分系の形態、加工性、したがって性能を示すことができる。合成ポリマー系と同様に、リグニンの熱特性は、リグニンベースの材料の結果として得られる性能に強い影響を及ぼす。これらの熱特性は、リグニンの種類によって大きく異なる可能性があり、さまざまな物理現象を定量化するさまざまな手法によって特徴付けられる場合がある。通常、ガラス転移温度(T)、軟化温度(Ts)、及び分解温度(T)の測定値は、リグニンベースの材料の加工性と性能を説明及び予測するために使用されてきた。
【0008】
ガラス転移温度(T)は、リグニンなどのアモルファスポリマーが硬いガラス状の固体から柔らかいゴム状の材料に変化する温度を定義する最も頻繁に引用されるパラメータである。温度T<Tでは、リグニン分子の動きは、ポリマー主鎖の剛性と隣接するポリマー鎖間の分子間相互作用によって妨げられ、個々のリグニン分子は相互に固定されたままになる。T>Tでは、系に存在する熱エネルギーは、ポリマーの柔軟性を高め、リグニン分子を所定の位置に保持する水素結合やその他の相互作用のネットワークを破壊するのに十分である。これは、Tを超える温度では、分子鎖が相互に移動できることを意味する。Tの値は、通常、示差走査熱量測定(DSC)で測定される。これは、同じ空のるつぼと比較して、るつぼに含まれるサンプルの温度を上げるために必要な熱エネルギーの量を測定する。Tは、最も一般的には、差動熱流信号のシグモイド形状のステップ変化の中点に割り当てられる。単離されたリグニンについては、広範囲のT値が報告されており、通常は80~200℃の範囲である。分離されたリグニンのTの値は、特定のバイオマスタイプ、分離に使用される脱リグニンプロセス、水分含有量、及びサンプルの熱履歴に基づいて大きく変化することが知られている。
【0009】
それらの高い炭素含有量のために、単離されたリグニンは、活性炭(AC)及び炭素繊維(CF)などの炭素材料の候補前駆体である。炭素材料の製造には、化学構造から非炭素元素を除去するために、不活性条件で高温(多くの場合1000℃以上)で前駆体を熱処理する必要がある。この熱処理は通常、処理コストと最終製品の性能を最適化するように設計された一連のステップである。特定の熱処理プロセスの詳細は、特定のタイプの炭素前駆体に対して最適化されている。単離されたリグニン間で熱特性に大きなばらつきがあるため、特定の特性を持つ炭素材料の製造に理想的なリグニンのタイプを特定することと、可能な限り低いコストで可能な限り最高の炭素製品につながる熱処理ステップを最適化することの両方が非常に困難である。リグニンの重要な熱特性、主にT、軟化温度Ts、分解温度Tdを定義するために、さまざまな熱分析手法が使用される。リグニンの熱特性を正確に特性評価することで、リグニンを高性能製品に変換し、プロセス効率と最終製品の性能を向上させることができる。
【0010】
単離されたリグニンからのCFの製造における課題は、紡糸プロセスを通じて繊維を形成する能力と、高温炭化中にその繊維形態を維持する能力との間にトレードオフがあることである(すなわち、繊維は溶融してはならず、繊維の形状と優れた機械的特性を維持する必要がある)。繊維の紡糸後、炭化の前に、繊維前駆体を炭化中に固体形態を維持することができる不融性状態に変換するための安定化ステップが必要となる場合がある。これは、樹脂硬化(熱硬化)プロセスと同様に、空気中で繊維を加熱して化学架橋を誘発することによって最も一般的に達成される。残念ながら、溶融紡糸性能が良好なほとんどの商業的/半商業的工業生産リグニン、たとえばAlcell(アルセル)リグニンは、安定化を成功させるために非常に遅い加熱速度(したがって長い処理時間)を必要とするため、経済的にCFに変換することができない。
【0011】
リグニンベースのCF処理の分野において、Tの値は、所与のリグニンが処理を受けて、望ましい特性を有する繊維を製造することができるかどうかを予測するためのベンチマークとして使用されてきた (D.A. Baker and T.G. Rials, Recent advances in low-cost carbon fiber manufacture from lignin(リグニンからの低コスト炭素繊維製造における最近の進歩), 2013)。例えば、T<130℃の単離リグニンは溶融紡糸によりフィラメントを形成できると報告されているが、安定化に必要な時間は数日のオーダーであり、長すぎて経済的ではなかった。溶融紡糸前のリグニンの熱処理は、Tを増加させ、単離されたリグニンのメルトフロー特性を変更するために使用され、炭化後の収率を増加させるという追加の利点がある(安定した前駆体繊維の重量に基づく)。135~145℃の範囲でより高いTを持つ熱処理リグニンが(D.A. Baker and T.G. Rials, Recent advances in low-cost carbon fiber manufacture from lignin, 2013(リグニンからの低コスト炭素繊維製造の最近の進歩))、紡糸性を維持することが示され、安定化時間を短縮する必要があったが、残念ながらTはさらに増加すると、リグニンの溶融加工性が低下し、強度が低下した低品質の繊維が生成された。Tが約160℃を超えて増加したとき、おそらく熱軟化の欠如のために、リグニンは溶融紡糸可能ではなかった。それは公表された研究から見ることができ(D.A. Baker, F.S. Baker et al., Thermal Engineering of Lignin for Low-cost Production of Carbon Fiber, 2009(炭素繊維の低コスト生産のためのリグニンの熱工学), D.A. Baker and T.G. Rials, Recent advances in low-cost carbon fiber manufacture from lignin, 2013(リグニンからの低コスト炭素繊維製造の最近の進歩), I. Norberg, Y. Nordstrom et al., A new method for stabilizing softwood kraft lignin fibers for carbon fiber production, 2013(炭素繊維生産のための針葉樹クラフトリグニン繊維を安定化するための新しい方法), H. Mainka, O. Tager et al., Lignin - an alternative precursor for sustainable and cost-effective automotive carbon fiber, 2015(リグニン‐持続可能でコスト効果的な自動車用炭素繊維の代替前駆体‐))、これらの研究は、リグニンが熱軟化特性を持っている場合、通常、経済的な時間内に必要な化学的架橋を形成するのに十分な反応性がないというものである。この分野の研究者は、Tの値を使用して、特定のリグニンが軟化と架橋性のスペクトルのどこにあるかを判断した。Tは、しばしば、特定のタイプの分離されたリグニンについて予想される軟化と架橋の挙動の優れた指標であると考えられている。
【0012】
他の研究者は、リグニンの熱軟化及び反応性についてのより多くの情報を捕捉するより高度な分析技術を用いてリグニンの熱特性を研究している。加工性の熱測定基準としてTを使用することの欠点は、加熱を受けている間のリグニンの機械的特性に関する限られた情報しか伝達しないことである。レオロジー測定は、温度と変形の関数としてリグニンの剛性を測定できるようにすることで、この情報のギャップを埋めることができる。たとえば、平行板を使用した定常せん断レオメトリーは、溶媒抽出クラフトリグニンが「粗製」の単離されたままのクラフトリグニンよりもはるかに低い熱反応性を有することを示すために使用されてきた。この評価は、連続せん断変形下で選択した温度で等温的に行われた測定に基づいて行われ、「粗製」クラフトリグニンの見かけの溶融粘度が時間の関数として増加し、溶媒抽出リグニンは時間とともに一定の見かけのせん断粘度を維持したことを示した。アルセルリグニンでの観察と同様に、この溶媒抽出クラフトリグニンは優れた溶融紡糸性能を有することが示されたが、熱反応性が低いため、安定化には溶融を回避するために非常に遅い加熱速度が必要となる(D.A. Baker, N.C. Gallego et al., On the characterization and spinning of an organic-purified lignin toward the manufacture of low-cost carbon fiber, 2012(低コストの炭素繊維の製造に向けた有機精製リグニンの特性評価及び紡糸について))。
【0013】
レオメトリーの別の変形は、小さなひずみ振幅による動的振動を使用して、温度及び変形の関数として粘弾性特性を測定する。動的振動の利点は、材料の粘弾性応答を分解された形式で表現できることである。これにより、変形に対する全体的な応力応答に対する弾性及び粘性の寄与の相対的な大きさに関する情報が得られる。たとえば、小振幅振動せん断(SAOS)レオメトリーは、バイオマスと、リグニンを含むその成分の熱分解中の粘弾性特性の変化を研究するために使用されており、石炭の炭化を研究するためにも使用されている。このタイプのデータは、軟化の開始と程度、凝固の開始と程度、及び1~5℃/分の範囲の加熱速度での関連する温度範囲を特定するために使用されている。興味深いことに、SAOSレオメトリー技術は、軟化するリグニンと軟化しないリグニンを区別できるが、より強力な方法として、この技術は、温度と加熱速度の関数として軟化又は架橋の大きさを測定できる。これは、示差走査熱量測定によるTの測定だけでは不可能である。SAOS技術は、軟化と架橋に関連する温度範囲を明確に定義できることでも注目に値する。
【発明の概要】
【0014】
これらのリグニン誘導体の特定の最終製品への加工を選択的に促進する、特定の粘弾性測定基準を有する、天然リグニンの人為的誘導体が提供される。そのようなリグニン誘導体は、例えば、最小貯蔵弾性率(G’min)、軟化の開始温度(T)、及び/又は主に粘性から主に弾性挙動へのクロスオーバー温度(T)を含み得るレオロジー測定基準によって特徴付けられる。
【0015】
選択された実施形態は、熱処理で使用するために調製されたリグニン誘導体を含み、例えば、10,000Pa以下のG’min、125℃以上のT、175℃以上のT、及び架橋の程度(ΔG’=G’250/G’min)を有することを特徴とし、G’minから250℃で測定されたもの(G’250)への貯蔵弾性率の増加(ΔG’)は約4未満か、又は7より大きい。この種の実施形態は、例えば、成形又は押し出しされた熱可塑性形態を形成する方法での使用に特に適している可能性がある。
【0016】
代替の実施形態は、繊維、フィルム、シート、コーティング、粒子又はナノ粒子を形成する際に使用するために調製されたリグニン誘導体を含み、例えば、100,000Pa以上のG’min、170℃以上のT、250℃以上のTを有することを特徴とする。この種の実施形態は、例えば、炭素繊維などの繊維材料を製造する方法での使用に特に適している可能性がある。
【0017】
さらなる実施形態は、繊維、フィルム、シート、コーティング、粒子、及びナノ粒子を形成する際に使用するために調製されたリグニン誘導体を含み、前記リグニン誘導体は、100,000Pa以上の最小貯蔵弾性率(G’min)、及び1未満のtan(δ)を有することを特徴とする。
【0018】
本明細書には、形状を有する成形又は押し出しされた熱可塑性形態を形成する方法であって、本明細書に記載のリグニン誘導体をTを超えて加熱して、主に粘性状態にあり、貯蔵弾性率が10,000Pa以下である加熱された熱可塑性材料を形成し;加熱された熱可塑性材料を熱可塑性形態の形状に形成し;及び加熱された熱可塑性材料をT未満に冷却して、熱可塑性形態を提供することを含む、上記方法も記載される。
【0019】
本明細書には、固体材料から構成される複数の部品を固体複合形態に結合することを含む複合材料を熱成形する方法も記載されており、部品は、本明細書に記載のように、リグニン誘導体を含む接着剤との混合物中で加熱及び圧縮によって接合され、ここで、加熱及び圧縮は、混合物をTを超える温度に上昇させる。
【0020】
本明細書には、形状を有する成形又は押し出しされた熱硬化性形態を形成する方法であって、本明細書に記載のリグニン誘導体をTを超えて加熱して加熱材料を形成し、加熱された材料が主に粘性状態になり、10,000Pa以下の貯蔵弾性率を有するようにし;加熱された材料を熱硬化性形態の形状に形成し、成形された熱硬化性形態を形成し;成形された熱硬化性形態をTを超えて加熱し;成形された熱硬化性形態をTで1分を超えて保持し、及び成形された熱硬化性形態をTより下に冷却して、成形又は押し出しされた熱硬化性形態を提供する。
【0021】
固体材料から構成された複数の部分を含む複合材料を固体複合形態に溶液形成する方法も本明細書に記載されており、ここで、部分は、記載されるようなリグニン誘導体を含む混合物として加熱及び/又は圧縮によって固められ、加熱及び/又は圧縮は、混合物をTを超える温度、又はG’minでの温度を超える温度に上昇させる。
【0022】
本明細書には、固体材料から構成される複数の部分を含む複合材料を、本明細書に記載のリグニン誘導体を含む混合物として圧縮に溶液形成する方法も記載されており、加熱及び/又は圧縮により、混合物がTより上の温度まで上昇する。
【0023】
本明細書には、本明細書に記載のリグニン誘導体を繊維紡糸溶媒に溶解して、溶解したリグニンを生成し;溶解したリグニンを紡糸して繊維状にするステップを含む繊維材料を形成する方法も記載されている。
【0024】
リグニンをセルロース材料から分離し、リグニンを試験して、G‘min、T及びTを含む1つまたは複数のレオロジー特性を測定することを含む、本明細書に記載のリグニン誘導体を製造する方法も本明細書に記載される。
【0025】
本明細書に記載されているようなリグニン誘導体を溶媒に溶解して、溶解したリグニンを生成し;溶解したリグニンを材料の形状又は形態に鋳造するステップを含む、材料を溶液形成する方法も本明細書に記載される。様々な実施形態において、形状又は形態は、繊維、フィルム、シート、コーティング、粒子、ナノ粒子などであり得る。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】粘弾性係数、G’及びG”、及びそれらの比率(G”/G’=tan(δ))の変化を、小振幅の正弦波ひずみをサンプルに適用しながら温度の関数として示す天然リグニンの誘導体の温度ランプ。対応するブラックボックスに示されているポイント<T>、<T>、<G’min>、<ΔG’>の拡大図も含まれている。
【0027】
図2】天然リグニンの誘導体の温度の関数としての重量損失。
【0028】
図3】炭素繊維への加工性に対する特定のレオロジー測定基準の影響を示す天然リグニンの誘導体の貯蔵弾性率と温度の関係。
【0029】
図4】得られるブレンド粘弾性測定基準に対する異なるリグニンのブレンドの効果。
【発明を実施するための形態】
【0030】
発明の詳細な説明
本発明は、特定の粘弾性測定基準を有する天然リグニンの誘導体を提供する。軟化の開始(T)、最小貯蔵弾性率(G’min)、主に粘性から主に弾性挙動へのクロスオーバー温度(T)、及び架橋の程度(ΔG’)の特定の組み合わせを有するリグニン誘導体は、産業関連の応用でより効果的に処理されることが見出されている。したがって、特定の粘弾性測定基準を有する天然リグニンの誘導体を選択すると、より高く、より予測可能な処理及び材料性能を有する製品が得られる。
【0031】
10,000Pa以下の最小貯蔵弾性率(G’min)を有し、125℃以上の軟化の開始温度(T)及び175℃以上の主に粘性から主に弾性挙動までのクロスオーバー温度(T)を有する天然リグニンの誘導体が良好な熱軟化材料となることが見出された。たとえば、G’minが約8,000Pa以下、約5,000Pa以下、又は約1,000Pa以下、又は約100Pa以下、Tが約130℃以上、約150℃以上、約170℃以上、及びTが約180℃以上、約200℃以上、又は約220℃以上。
【0032】
さらに、天然リグニンの前記誘導体はまた、高度の架橋(ΔG’=G’250/G’min)を有し、すなわち、G’minから250℃で測定されたもの(G’250)への貯蔵弾性率の増加(ΔG’)が600%より大きく(ΔG’>7)、これにより熱軟化と熱硬化特性の優れた組み合わせを備えたプラスチック材料(例えば、溶融/融解繊維紡糸、熱硬化性樹脂など)が得られる。たとえば、ΔG’は約7以上、約8以上、約9以上、約10以上、又は約100以上である。他の実施形態では、約4以下、約3以下、約2以下、又は約1以下のΔG’もまた、熱軟化及び熱硬化特性の良好な組み合わせを有するプラスチック材料をもたらす。
【0033】
同様に、170℃以上の軟化の開始温度(T)及び250℃以上の主に粘性から主に弾性までのクロスオーバー温度(T)とともに、100,000Pa以上の最小貯蔵弾性率(G’min)を有する天然リグニンの誘導体は、溶液紡糸(例えば、湿式、乾式、ゲル、エレクトロスピニングなど)を介して良好な繊維形成材料(例えば、炭素繊維)をもたらす。たとえば、G’minが約200,000Pa以上、約500,000Pa以上、又は約1,000,000Pa以上、Tが約175℃以上、約200℃以上、約225℃以上、又は約245℃以上、及びTが約260℃以上、約280℃以上、又は約300℃以上。
【0034】
本発明は、リグノセルロース原料のパルプ化中又はパルプ化後に回収された天然リグニンの誘導体を提供する。パルプ及び/又はリグニン及び/又はその誘導体は、広葉樹、針葉樹、一年生繊維、及びそれらの組み合わせを含む任意の適切なリグノセルロース原料からのものであり得る。
【0035】
例えば、広葉樹、針葉樹、又は一年生繊維原料からの天然リグニンの誘導体であり、G’minが10,000Pa以下、Tが125℃以上、及びΔG’が7より大きいものは、炭素材料への優れた繊維溶融/融解紡糸及び熱処理(安定化速度など)を備えていることが見出されている。例えば、G’minは約5,000Pa以下、1,000Pa以下、約100Pa以下、Tは約130℃以上、約150℃以上、約170℃以上、ΔG’は約7以上、約8以上、約10以上、又は約100以上。他の実施形態では、約4以下、約3以下、約2以下、又は約1以下のΔG’はまた、炭素材料への良好な繊維溶融/融解紡糸及び熱加工を伴うリグニン誘導体をもたらす。
【0036】
天然リグニンの誘導体、例えば広葉樹、針葉樹、又は1年生繊維原料からの、200,000Pa以上のG’min、170℃以上のT、及び250℃以上のTを有するものは、炭素材料への繊維溶液の紡糸と熱処理が良好になることが見出されている。例えば、G’minは約250,000Pa以上、500,000Pa以上、約1,000,000Pa以上、Tは約175℃以上、約180℃以上、約200℃以上、Tは約260℃以上、約280℃以上、又は約300℃以上。
【0037】
本発明において、「軟化の開始」、「最小貯蔵弾性率」、「[主に粘性から主に弾性挙動への]クロスオーバー温度」及び「架橋の程度」は、リグニン誘導体の粘弾性挙動又は「測定基準」を指す。これらの粘弾性測定基準は、たとえばTA Instruments DHRレオメーターを使用して、小振幅振動せん断(SAOS)レオメトリー(動的機械熱分析又はDTMAとも呼ばれる)によって測定できる。粉末、プレスディスク、シート、繊維、その他の織布/不織布を含むさまざまなサンプル形態を利用して、酸化及び/又は不活性雰囲気下で分析することができる。典型的な実験では、リグニン誘導体を2つの平行な円形プレートの間に配置し、正弦波的に変化するひずみ、γ(t)=γsin(ωt)を適用し、機械的応答を測定しながらサンプルを特定の温度範囲で加熱する。
【0038】
選択された実施形態では、測定の信号品質及び一貫性は、圧縮されたサンプルが使用される場合、低温で(起こり得る熱軟化の前に)より良好であり得る。圧縮されたサンプルは、通常、摩擦散逸損失の影響を受けにくいが、散逸損失もあることが知られているため、そこから報告される係数は見かけの値として報告される。
【0039】
いくつかの実施形態では、一貫した低温弾性率測定は、レオメーターによる温度ランププログラムの適切な実行を容易にするのに役立つ場合があり、サンプルは通常、低温での滑りを防ぐために小さな正の軸方向圧縮力の下で保持される。プログラムはまた、大幅な熱軟化が発生する前に設定された弾性率値で軸方向の圧縮を低減し、より流体のようなサンプルがプレート間から押し出されるのを防ぐように設計することもできる。
【0040】
ひずみ波と同相の応力成分に対応する弾性率は、一般に貯蔵弾性率と呼ばれ、τ’/γに等しく、通常はG’で表される。ひずみ波と90°位相がずれている(ひずみ波の速度と同相の)応力成分に対応する弾性率は、一般に損失弾性率と呼ばれ、τ”/γに等しく、通常はG”で示される。この例では、周波数は1Hz(6.2rad/s)で一定に保たれ、γは制限内に保たれ、測定が材料の線形粘弾性領域の範囲内で行われるようにする。ここに示されているように(図1)、小さなひずみの粘弾性係数G’及びG”は、温度と時間の関数としてのリグニンの粘弾性挙動に関する貴重な情報を提供する。さらに、いくつかの実施形態では、比G”/G’=tan(δ)を定義して、測定されたせん断応力に対する粘性及び弾性の寄与の相対的な大きさを説明することが有用である。正弦波ひずみがリグニンサンプルに適用されている間、5℃/分(サンプルの実際の温度と設定温度の間の遅れを避けるための実用的な上限)まで制御された速度で加熱することができ、G’及びG”の値は、さまざまな加熱速度で温度の関数として測定できる。現在の粘弾性測定基準は、3℃/分の速度で加熱されたサンプルに関連しているが、より遅い又はより速い加熱速度を使用して、リグニン及びリグニンの誘導体の相対的な熱可塑性及び反応性、すなわち軟化及び架橋挙動を明らかにすることができる。
【0041】
天然リグニンの人為的誘導体は、例えば、(1)細かく粉砕された木材の溶媒抽出(粉砕木材リグニン、MWL)によって、又は(2)木材の酸性ジオキサン抽出(酸分解)によって得ることができる。天然リグニンの誘導体は、(3)蒸気爆発、(4)希酸加水分解、(5)アンモニア繊維の膨張、(6)自己加水分解法を使用して前処理されたバイオマスから分離することもできる。天然リグニンの誘導体は、工業的に操作された(3)クラフト及び(4)ソーダパルプ化(及びそれらの改変)及び(5)亜硫酸パルプ化を含むリグノセルロースのパルプ化後に回収することができる。さらに、(1)エタノール/溶剤パルプ化(別名Alcell(登録商標)プロセス)、(2)アルカリ性亜硫酸アントラキノンメタノールパルプ化(別名「ASAM」プロセス)、(3)メタノールパルプ化、続いてメタノール、NaOH、及びアントラキノンパルプ化(別名「オルガノセル」プロセス)、(4)酢酸/塩酸又はギ酸パルプ化(別名「アセトソルブ」プロセス)、及び(5)高沸騰溶剤パルプ化(別名「HBS」パルプ化)など、多くのさまざまなパルプ化方法が開発されているが、工業的には導入されていない。
【0042】
抽出、単離及び/又はパルプ化の前又は後に、天然リグニンの人為的誘導体を、1つ又は複数の精製技術によって個別の画分に分離することができる。これらの精製技術には、例えば、濾過(例えば、ナノ、マイクロ、又は限外濾過など)、抽出(例えば、液液抽出又は液固抽出など)、熱処理(例えば、大気圧又は減圧下でなど)などが含まれる。様々な実施形態において、抽出、単離及び/又はパルプ化の前又は後に、天然リグニンの人為的誘導体は、抽出及び/又は熱処理によって別個の画分に分離される。他の実施形態では、天然リグニンの人為的誘導体は、抽出、単離、又はパルプ化の前又は後に精製技術によって個別の画分に分離されない。
【0043】
本明細書の天然リグニンの誘導体は、単独で利用することができ、又はポリマー組成物に組み込むことができる。本明細書に開示される組成物は、本発明による天然リグニンの誘導体及びポリマー形成成分を含み得る。本明細書で使用される場合、「ポリマー形成成分」という用語は、ポリマーに重合することができる成分、並びにすでに形成されたポリマーを意味する。例えば、特定の実施形態では、ポリマー形成成分は、重合することができるモノマー単位を含み得る。特定の実施形態では、ポリマー成分は、重合することができるオリゴマー単位を含み得る。特定の実施形態では、ポリマー成分は、すでに実質的に重合されているポリマーを含み得る。
【0044】
本明細書で使用するためのポリマー形成成分は、エポキシ樹脂、尿素‐ホルムアルデヒド樹脂、フェノール‐ホルムアルデヒド樹脂、ポリイミド、ポリアクリレート、ポリニトリル、イソシアナート樹脂などの熱可塑性又は熱硬化性ポリマー及びコポリマーをもたらし得る。たとえば、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、及びポリアクリロニトリル共重合体などのポリニトリル。
【0045】
典型的には、天然リグニンの誘導体は、組成物の約0.1重量%以上、約0.5重量%以上、約1重量%以上を含むであろう。典型的には、リグニン誘導体は、組成物の約99.9重量%以下、約80重量%以下、約60重量%以下、約40重量%以下、約20重量%以下、約10重量%以下を含む。
【0046】
組成物は、天然リグニンの誘導体及びポリマー形成成分を含むが、接着促進剤;殺生物剤(抗菌剤、殺菌剤、防カビ剤)、防曇剤;帯電防止剤;接着剤、発泡剤、起泡剤;分散剤;充填剤と増量剤;難燃剤(fire and flame retardants)及び煙抑制剤;衝撃改質剤;開始剤;潤滑剤;雲母;顔料、着色剤、染料;可塑剤;加工助剤;離型剤;シラン、チタン酸塩及びジルコン酸塩;スリップ及びブロッキング防止剤;安定剤;ステアリン酸塩;紫外線吸収剤;発泡剤;消泡剤;硬化剤;着臭剤;脱臭剤;防汚剤;粘度調整剤;ワックス;及びそれらの組み合わせなどの他の様々な任意の成分を含み得る。
【0047】
本発明は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、及び繊維形成ポリマーの機能性成分として、単独で、又は従来の又は進化するポリマーと組み合わせて、天然リグニンの本誘導体の使用を提供する。例えば、本用途は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリニトリル、スチレン‐ブタジエン、及びそれらの組み合わせなどの熱可塑性ポリマーに、熱安定性及び機械的性能を向上させることであり得る。その他の例としては、ブチルゴムの硬化の増加、合成ゴム(ポリブタジエン、ニトリル、ネオプレン、スチレンブタジエン)及び天然ゴムの摩耗指数の改善;ポリアクリロニトリル共重合体の炭素繊維への収率と熱処理の改善;接着剤シーラント、エポキシ樹脂、フェノール‐ホルムアルデヒド樹脂の機械的特性、接着性の向上、排出量の削減(ホルムアルデヒドなど)などがある。
【実施例
【0048】
例1:リグニンサンプルの温度ランプ曲線
(酸素の非存在下の窒素ガス流下で3℃/分で加熱されたリグニンサンプルの典型的な曲線を図1に示す。図1の曲線の一般的な形状は、かなりの程度の軟化がおよそ125~225℃で発生することを示している。。低温では、貯蔵弾性率(G’)は損失弾性率(G”)よりも約1桁大きく、リグニンペレットが主に弾性又は固体のような機械的挙動を示すことを示している(分析温度がTをはるかに下回るので予想通り)。軟化の直前に、両方の弾性率がピーク値まで増加する。これは、サンプルがガラス転移温度を超えて加熱されたときのサンプルの圧縮/緻密化に起因する可能性があり、変形に対する全体的な抵抗が増加する。ピーク値に達した後、温度が125から225℃に上昇すると、G’とG”の両方が約4桁減少する。この係数の減少は、熱軟化に対応する。
【0049】
この実施例の一態様は、リグニンのレオロジー的特徴付けにおける温度ランプ曲線に沿った選択点の定義及び決定を含む。 本発明の一態様では、リグニンを分類するために使用できるレオロジー特性の3つの代替点があり、これらは図1の黒いボックスで示され、関連する拡大画像でさらに示されている。
【0050】
点<T>は、G’=G”であり、それを超えるとG’<G”であるクロスオーバー(交差)の最初の点での温度(T=T)を表す。この例では、見かけの粘弾性係数G’及びG”は約10Paである。この点を超えると、材料は変形に対してまだ大きな抵抗を示すが、温度が上昇し、せん断応力への粘性の寄与が弾性寄与より大きくなると、この抵抗は急速に低下する。点Tでの温度の値は、軟化開始温度と呼ばれる。同様に、2番目のクロスオーバーはTで表され、再びG’=G”の温度を表し、それを超えると再度G”<G’になる。この点は、主に粘性のある液体の挙動から主に弾性の挙動に戻る遷移を示し、クロスオーバー温度Tで表される。この点を超えると、温度がさらに上昇すると、両方の係数は、極小値に達する点G’minまで減少し続ける。この時点で、このリグニンサンプルが入る最も柔らかい状態に到達し、最小貯蔵弾性率G’minを定義する。ここで、すべてのリグニンサンプルが熱分解の開始よりも低い貯蔵弾性率の極小値を示すわけではないことに注意されたい。したがって、これらの場合、軟化の程度は、Tでの軟化の開始と熱分解開始温度での弾性率の間の貯蔵弾性率の変化に基づいて決定される。これは、ほとんどのリグニンでは約250℃である。この典型的なクラフトリグニンについて、10℃/分の加熱速度での温度の関数としての重量損失%のグラフを図2に示す。
【0051】
図1に示されるリグニンサンプルについて、G’がG’minと250℃との間で増加し始めることが見られ、熱的に誘発された架橋の開始;熱処理ルートによるリグニンベースの材料の製造に関心のある別の現象を示している。250℃はリグニン繊維の酸化的熱安定化を行って炭素繊維の製造に備えるための一般的な温度であるため、この温度は熱軟化及び低温架橋の評価に便利なエンドポイントでもあり、一部の市販の熱可塑性プラスチックの処理の実用的な上限であると見なすことができる。したがって、架橋の程度(ΔG’)を、G’minと250℃での弾性率の変化(ΔG’=G’250/G’min)として定義する。
【0052】
例2:異なるリグニンのレオロジー比較と対応する熱加工性
図3は、25mmのリグニンペレットを使用して空気雰囲気中で測定された3つのリグニンのレオロジーフィンガープリントを示している。リグニン1(下の曲線)は、G’minが小さく(<100Pa)、架橋度が比較的低い(ΔG’=3.6)という高度な熱軟化を示す。リグニン2(上の曲線)は、低度の熱軟化(G’min>10,000Pa)と中程度の架橋を示す(ΔG’=6.3)。リグニン3(中央の曲線)は、中程度の熱軟化(G’min>1,000Pa)と高度の架橋(ΔG’=19.4)を示す。リグニン1及び3は、熱的に容易に処理され、例えば熱成形又は溶融紡糸されて繊維を含むさまざまな形態になるが、リグニン2は十分に軟化せず、熱紡糸して繊維形態になる。同様に、リグニン1は、商業的に適切な処理速度で炭素繊維に変換することはできず、1℃/分未満の非常に遅い熱安定化加熱速度が必要である。一方、リグニン3は繊維に容易に紡糸でき、5~10℃/分をはるかに超える加熱速度で熱安定化する。
【0053】
表1は、溶液形成及びその後の熱処理に対するリグニン粘弾性測定基準の効果を示している。リグニン4は、G’min<100,000Paで低度の熱軟化を示し、tan(δ)>1の適度に粘性のある材料である。リグニン5は、G’min>100,000Pa及び、主に弾性挙動を示すtan(δ)<1でほとんど軟化を示さない。リグニン4は、20℃/分を超える加熱速度で熱処理できるリグニン5よりも大幅に低い熱処理速度を必要とする。
【表1】
【0054】
例3:粘弾性測定基準を操作するためのリグニン混合の効果。
図4は、25mmのリグニンペレットを使用して空気中で測定された、得られたブレンド粘弾性測定基準に対する実施例3のリグニン1及び2のブレンドの効果を示す。リグニン1の量を増やしてリグニン2を希釈すると、粘弾性測定基準がすべて減少する効果があることがわかる。軟化温度(T)が低下すると、それに対応して架橋度が低下する、ΔG’
【0055】
例4:フェノール‐ホルムアルデヒド樹脂のせん断強度に対するリグニン粘弾性測定基準の効果。
表2は、典型的な加工木材製品用途で得られる熱硬化性樹脂の性能に対するリグニン粘弾性測定基準の効果を示している。実施例2のリグニン1及びリグニン3を使用して、標準的なフェノール‐ホルムアルデヒド(PF)樹脂の25%を置き換え、せん断強度への影響を、自動結合評価システム(ABES)を使用して決定した。約1.8gの樹脂をコンディショニングされた(25℃/50%RH)セットの広葉樹単板に塗布し、190℃で15秒間硬化させた後に接着強度を測定した。架橋の可能性が高い(ΔG’が大きい)リグニン3は、リグニン1よりも優れた結合強度を示したことがわかる。
【表2】
【0056】
参考文献
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図1
図2
図3
図4