(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】多層コイル
(51)【国際特許分類】
A61M 25/00 20060101AFI20240828BHJP
A61M 25/09 20060101ALI20240828BHJP
【FI】
A61M25/00 600
A61M25/09 516
(21)【出願番号】P 2021008741
(22)【出願日】2021-01-22
【審査請求日】2023-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】390030731
【氏名又は名称】朝日インテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下垣外 浩平
(72)【発明者】
【氏名】木村 和幸
【審査官】上石 大
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-136047(JP,A)
【文献】特表2019-528882(JP,A)
【文献】特開2011-199(JP,A)
【文献】特開2014-100265(JP,A)
【文献】特開2009-337(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/00
A61M 25/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素線を螺旋状に巻回することで形成した内側コイル層と、
前記内側コイル層を覆うように前記内側コイル層の長軸方向に沿って素線を螺旋状に巻回することで形成した外側コイル層とを備えている多層コイルであって、
前記長軸方向の一部の領域において、前記内側コイル層と前記外側コイル層とが離隔しており、
前記一部の領域での前記内側コイル層を構成する巻線の最大外径は、前記一部の領域とは異なる前記長軸方向の他の領域での前記内側コイル層を構成する巻線の最大外径よりも小さいか、または前記一部の領域での前記外側コイル層を構成する巻線の最小内径は、前記他の領域での前記外側コイル層を構成する巻線の最小内径よりも大きいか、の少なくともいずれかであ
り、
前記内側コイル層は、内側第1素線と、この内側第1素線の素線径よりも大きな素線径を有する内側第2素線とを多条に巻回して構成されたものであり、
前記他の領域には前記内側第2素線が配置され、前記一部の領域には前記内側第1素線が配置されていることを特徴とする多層コイル。
【請求項2】
素線を螺旋状に巻回することで形成した内側コイル層と、
前記内側コイル層を覆うように前記内側コイル層の長軸方向に沿って素線を螺旋状に巻回することで形成した外側コイル層とを備えている多層コイルであって、
前記長軸方向の一部の領域において、前記内側コイル層と前記外側コイル層とが離隔しており、
前記一部の領域での前記内側コイル層を構成する巻線の最大外径は、前記一部の領域とは異なる前記長軸方向の他の領域での前記内側コイル層を構成する巻線の最大外径よりも小さいか、または前記一部の領域での前記外側コイル層を構成する巻線の最小内径は、前記他の領域での前記外側コイル層を構成する巻線の最小内径よりも大きいか、の少なくともいずれかであ
り、
前記外側コイル層は、外側第1素線と、この外側第1素線の素線径よりも大きな素線径を有する外側第2素線とを多条に巻回して構成されたものであり、
前記他の領域には前記外側第2素線が配置され、前記一部の領域には前記外側第1素線が配置されており、
前記他の領域と前記一部の領域とは交互に繰り返して配置されており、
前記外側第1素線は、横断面形状が円形であることを特徴とする多層コイル。
【請求項3】
前記内側コイル層を構成する素線の巻回方向と前記外側コイル層を構成する素線の巻回方向とが、互いに逆向きである請求項1
または請求項
2に記載の多層コイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、カテーテルなどの医療器具では、湾曲した血管内を円滑に進行させるため、先端部の柔軟性や、基端に加えられた回転力の先端部への伝達性が求められる。
【0003】
このような医療器具としては、例えば、右巻きのコイルの外周を覆うように左巻きのコイルを配置するカテーテルが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このような技術によれば、コイルにより柔軟性を確保しつつ、回転力の伝達性を向上することで、カテーテルの操作性を高めることが期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述したような従来の技術では、カテーテルの長軸に直交する方向に隣接するコイルどうしの干渉(摩擦抵抗)により、コイルに予期せぬ癖が付くなど、所望の柔軟性を十分に発揮できない虞がある。
【0007】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、内側コイル層と外側コイル層とを備えた多層コイルの柔軟性を向上することが可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のいくつかの態様は、
(1)素線を螺旋状に巻回することで形成した内側コイル層と、
前記内側コイル層を覆うように前記内側コイル層の長軸方向に沿って素線を螺旋状に巻回することで形成した外側コイル層とを備えている多層コイルであって、
前記長軸方向の一部の領域において、前記内側コイル層と前記外側コイル層とが離隔しており、
前記一部の領域での前記内側コイル層を構成する巻線の最大外径は、前記一部の領域とは異なる前記長軸方向の他の領域での前記内側コイル層を構成する巻線の最大外径よりも小さいか、または前記一部の領域での前記外側コイル層を構成する巻線の最小内径は、前記他の領域での前記外側コイル層を構成する巻線の最小内径よりも大きいか、の少なくともいずれかであることを特徴とする多層コイル、
(2)前記内側コイル層は、内側第1素線と、この内側第1素線の素線径よりも大きな素線径を有する内側第2素線とを多条に巻回して構成されたものであり、
前記他の領域には前記内側第2素線が配置され、前記一部の領域には前記内側第1素線が配置されている前記(1)に記載の多層コイル、
(3)前記外側コイル層は、外側第1素線と、この外側第1素線の素線径よりも大きな素線径を有する外側第2素線とを多条に巻回して構成されたものであり、
前記他の領域には前記外側第2素線が配置され、前記一部の領域には前記外側第1素線が配置されている前記(1)または(2)に記載の多層コイル、および
(4)前記内側コイル層を構成する素線の巻回方向と前記外側コイル層を構成する素線の巻回方向とが、互いに逆向きである前記(1)から(3)のいずれか1項に記載の多層コイル、である。
【0009】
なお、本明細書において「長軸方向の一部の領域において、内側コイル層と外側コイル層とが離隔し」とは、内側コイル層の長軸方向の一部の領域において、内側コイル層における上記長軸方向に隣接する素線どうしの外周側の共通外接線を連結した線と、外側コイル層における上記長軸方向に隣接する素線どうしの内周側の共通外接線を連結した線とが、上記長軸方向に直交する方向(内側コイル層の半径方向)に離間していることを意味する。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、内側コイル層と外側コイル層とを備えた多層コイルの柔軟性を向上することが可能な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施形態の全体を示す概略的断面図である。
【
図2】第1の実施形態の一部拡大概略的縦断面図である。
【
図3】第1の実施形態の一部拡大概略的縦断面図である。
【
図4】第2の実施形態の一部拡大概略的縦断面図である。
【
図5】第3の実施形態の一部拡大概略的縦断面図である。
【
図6】第4の実施形態の全体を示す概略的断面図である。
【
図7】第5の実施形態の全体を示す概略的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示の多層コイルは、素線を螺旋状に巻回することで形成した内側コイル層と、上記内側コイル層を覆うように上記内側コイル層の長軸方向に沿って素線を螺旋状に巻回することで形成した外側コイル層とを備えている多層コイルであって、上記長軸方向の一部の領域において、上記内側コイル層と上記外側コイル層とが離隔しており、上記一部の領域での上記内側コイル層を構成する巻線の最大外径は、上記一部の領域とは異なる上記長軸方向の他の領域での上記内側コイル層を構成する巻線の最大外径よりも小さいか、または上記一部の領域での上記外側コイル層を構成する巻線の最小内径は、上記他の領域での上記外側コイル層を構成する巻線の最小内径よりも大きいか、の少なくともいずれかである。本開示の多層コイルは、通常、上記他の領域において内側コイル層と外側コイル層とが接している。
【0013】
なお、本明細書において、「長軸方向」とは、特に記載がない限り、多層コイルの長軸を意味する。
【0014】
以下、本発明の第1~第5の実施形態について図面を参照して説明するが、本発明は、当該図面に記載の実施形態にのみ限定されるものではない。また、各図面に示したカテーテルの寸法は、実施内容の理解を容易にするために示した寸法であり、実際の寸法に対応するものではない。
【0015】
[第1の実施形態]
図1,2は、第1の実施形態を示す概略図である。多層コイル1は、
図1,
図2に示すように、概略的に、内側コイル層110と、外側コイル層210とにより構成されている。
【0016】
内側コイル層110は、素線を螺旋状に巻回することで形成したコイル層である。内側コイル層110は、具体的には、例えば、素線110wとして単線若しくは撚線を用い、これを螺旋状に一条若しくは多条で巻回することで形成することができる。なお、単線とは1本の単一線を意味し、撚線とは複数本の単一線を予め互いに撚り合って形成した一束の線群を意味する。コイル層110の内側には、例えば、多層コイル1の先端から基端に亘って内腔1hが形成されている。
【0017】
外側コイル層210は、内側コイル層110を覆うように内側コイル層110の長軸方向に沿って素線を螺旋状に巻回することで形成されるコイル層である。外側コイル層210は、例えば、素線210wとして単線若しくは撚線を用い、これを螺旋状に一条若しくは多条で巻回することで形成することができる。
【0018】
ここで、内側コイル層110と外側コイル層210とは、長軸方向の一部の領域A1において、離隔するように配置され、上記一部の領域A1とは異なる長軸方向の他の領域B1において、接するように配置されている。換言すれば、
図3に示すように、上記一部の領域A1において、内側コイル層110における上記長軸方向に隣接する素線110wどうしの外周側の共通外接線を連結した線(破線L1)と、外側コイル層210における上記長軸方向に隣接する素線210wどうしの内周側の共通外接線を連結した線(破線L2)とが、上記長軸方向に直交する方向(半径方向)に離間するように配置されている。一方、上記他の領域B1においては、破線L1と破線L2とが接するか、または交差するように配置されている。
【0019】
上述した一部または他の領域A1,B1においては、例えば、一部の領域での内側コイル層を構成する巻線の最大外径が、他の領域での内側コイル層を構成する巻線の最大外径よりも小さくなるように形成されるか、または一部の領域での外側コイル層を構成する巻線の最小内径が、他の領域での外側コイル層を構成する巻線の最小内径よりも大きくなるように形成されるか、の少なくともいずれかである。
【0020】
本実施形態の内側コイル層110は、内側コイル層110を構成する素線110wとして内側第1素線111w(単線)と、この内側第1素線111wの素線径よりも大きな素線径を有する内側第2素線112w(単線)とを用い、一部の領域A1および他の領域B1のいずれにおいても内側コイル層110を構成する巻線の最小内径が一定となるように、多条(二条)の螺旋状に巻回することで形成されている。他の領域B1には内側第2素線112wが配置され、一部の領域A1には内側第1素線111wが配置されている。
【0021】
本実施形態の外側コイル層210は、外側コイル層210を構成する素線210wとして一定の素線径を有する1本の素線211w(単線)を用い、一部の領域A1および他の領域B1のいずれにおいても外側コイル層210を構成する巻線の最小内径が一定となるように、一条の螺旋状に巻回することで形成されている。
【0022】
なお、一部の領域A1が複数ある場合、複数の一部の領域A1は、相互に同一であってもよく、少なくとも一部が異なっていてもよい。同様に、他の領域B1が複数ある場合、複数の他の領域B1は、相互に同一であってもよく、少なくとも一部が異なっていてもよい。かかる場合、例えば、多層コイル1の先端側に向かって一部の領域A1の長さが増加するようにしてもよい。また、長軸方向における一部の領域A1の長さ(一部の領域A1が複数ある場合は、その合計長さ)と、長軸方向における他の領域B1の長さ(他の領域B1が複数ある場合は、その合計長さ)との割合は、適宜選択することができる。
【0023】
内側コイル層110を構成する素線110wの巻回方向と外側コイル層210を構成する素線210wの巻回方向とは、互いに逆向きであってもよい(素線110w,210wの一方がS撚りで他方がZ撚り)。素線110w,210wの巻回方向が逆向きの場合、多層コイル1を長軸廻りに回転する際、内側コイル層110を構成する素線110wと外側コイル層210を構成する素線210wとに加わる軸方向の力の向きを相対させることができ、いずれの回転方向であっても長軸方向に隣接する素線どうしの離間に起因するトルク伝達性の低下を抑制することができる。
【0024】
内側コイル層110および外側コイル層210を構成する素線110w,210wの材料としては、抗血栓性および生体適合性を付与する観点から、例えば、SUS316などのステンレス鋼;Ni-Ti合金などの超弾性合金;白金、タングステンなどの放射線不透過性の金属等を採用することができる。
【0025】
以上のように、多層コイル1は、上記構成であるので、内側コイル層110と外側コイル層210との接触領域を低減することができ、多層コイル1の柔軟性を向上することができる。また、内側コイル層110と外側コイル層210とが接する他の領域B1の割合等を増減させることによって硬くも柔らかくもすることができるため、柔軟性と硬さのバランスを適度に調整することもできる。
【0026】
また、多層コイル1は、内側コイル層110に内側第1素線111wおよび内側第2素線112wが用いられているので、簡易な構成で内側コイル層110と外側コイル層210とが離隔した一部の領域A1を容易かつ確実に形成することができる。
【0027】
[第2の実施形態]
図4は、第2の実施形態を示す概略図である。多層コイル2は、
図4に示すように、概略的に、内側コイル層120と、外側コイル層220とにより構成されている。多層コイル2は、内側コイル層120および外側コイル層220を備えている点で、第1の実施形態と異なっている。なお、以下に示す内側コイル層120および外側コイル層220の構成以外の構成は、第1の実施形態と同様であるので、その詳細な説明は省略する。
【0028】
内側コイル層120は、素線を螺旋状に巻回することで形成したコイル層である。本実施形態の内側コイル層120は、内側コイル層120を構成する素線120wとして一定の素線径を有する1本の素線121w(単線)を用い、一部の領域A2および他の領域B2のいずれにおいても内側コイル層120を構成する巻線の最大外径が一定となるように、一条の螺旋状に巻回することで形成されている。
【0029】
外側コイル層220は、内側コイル層120を覆うように内側コイル層120の長軸方向に沿って素線を螺旋状に巻回することで形成されるコイル層である。本実施形態の外側コイル層220は、外側第1素線221wと、この外側第1素線221wの素線径よりも大きな素線径を有する外側第2素線222wとを用い、一部の領域A2および他の領域B2のいずれにおいても外側コイル層220を構成する巻線の最大外径が一定となるように、多条の螺旋状に巻回することで形成されている。また、他の領域B2には外側第2素線222wが配置され、一部の領域A2には外側第1素線221wが配置されている。
【0030】
以上のように、多層コイル220は、上記構成であるので、内側コイル層120と外側コイル層220との接触領域を低減することができ、多層コイル2の柔軟性を向上することができる。また、多層コイル1における内側コイル層110および外側コイル層210と同様に、内側コイル層120と外側コイル層220とが接する他の領域B2の割合等を増減させることによって硬くも柔らかくもすることができるため、柔軟性と硬さのバランスを適度に調整することもできる。
【0031】
また、多層コイル2は、外側コイル層220に外側第1素線221wおよび外側第2素線222wが用いられているので、簡易な構成で内側コイル層120と外側コイル層220とが離隔した一部の領域A2を容易かつ確実に形成することができる。
【0032】
[第3の実施形態]
図5は、第3の実施形態の一部拡大概略的縦断面図である。多層コイル3は、
図5に示すように、概略的に、内側コイル層130と、外側コイル層230とにより構成されている。多層コイル3は、内側コイル層130および外側コイル層230を備えている点で、第1の実施形態と異なっている。なお、以下に示す内側コイル層130および外側コイル層230の構成以外の構成は、第1の実施形態と同様であるので、その詳細な説明は省略する。
【0033】
内側コイル層130は、素線を螺旋状に巻回することで形成したコイル層である。本実施形態の内側コイル層130は、内側コイル層130を構成する素線130wとして一定の素線径を有する1本の素線131w(単線)を用い、内側コイル層130を構成する素線131wが多層コイル3の径方向に波打つ(一部の領域A3での巻線の最大外径が他の領域B3での巻線の最大外径よりも小さくなる)ように構成されている。
【0034】
外側コイル層230は、内側コイル層130を覆うように内側コイル層130の長軸方向に沿って素線を螺旋状に巻回することで形成されるコイル層である。本実施形態の外側コイル層230は、外側コイル層230を構成する素線230wとして一定の素線径を有する1本の素線231w(単線)を用い、一部の領域A3および他の領域B3のいずれにおいても、最小内径が一定となるように構成されている。
【0035】
このように、多層コイル3は、長軸方向に沿って内側コイル層130の巻線の最大外径が波打つように形成されており、これにより長軸方向の一部の領域A3において、内側コイル層130と外側コイル層230とが離隔するように構成される。
【0036】
以上のように、多層コイル3は、上記構成であるので、内側コイル層130と外側コイル層230との接触領域を低減することができ、多層コイル3の柔軟性を向上することができる。また、多層コイル1における内側コイル層110および外側コイル層210と同様に、内側コイル層130と外側コイル層230とが接する他の領域B3の割合等を増減させることによって硬くも柔らかくもすることができるため、柔軟性と硬さのバランスを適度に調整することもできる。
【0037】
また、多層コイル3は、内側コイル層130を構成する素線130wの素線径が一定であるので、簡易な構成で内側コイル層130と外側コイル層230とが離隔した一部の領域A3を容易かつ確実に形成することができる。
【0038】
ここで、本開示の多層コイルは、上記構成であるので、例えば、後述するような、貫通カテーテル、超音波診断医療用カテーテル、光干渉診断医療用カテーテル等のカテーテル;各種ガイドワイヤ等に好適に使用することができる。また、詳述はしていないが、本開示の多層コイルは、血管、消化管、尿管、気管等の体内の管状器官や体組織の治療に用いられる医療用内視鏡などの医療器具に用いてもよい。
【0039】
[第4の実施形態]
図6は、第4の実施形態を示す概略図である。本実施形態では、上述した多層コイル1を適用したカテーテル4が例示されている。カテーテル4は、
図6に示すように、概略的に、多層コイル1と、先端チップ300と、基部400とにより構成されている。
【0040】
多層コイル1は、
図2に示すように、内側コイル層110と、外側コイル層210とを備えている。内側コイル層110は、素線を螺旋状に巻回することで形成したコイル層である。外側コイル層210は、内側コイル層110を覆うように内側コイル層110の長軸方向に沿って素線を螺旋状に巻回することで形成されるコイル層である。長軸方向の一部の領域A1において、内側コイル層110と外側コイル層210とが離隔しており、一部の領域A1での内側コイル層110を構成する巻線の最大外径は、一部の領域A1とは異なる長軸方向の他の領域B1での内側コイル層110を構成する巻線の最大外径よりも小さいか、または一部の領域A1での外側コイル層210を構成する巻線の最小内径は、他の領域B1での外側コイル層210を構成する巻線の最小内径よりも大きいか、の少なくともいずれかである。
【0041】
先端チップ300は、内側コイル層110および外側コイル層210の先端に接合された部材である。先端チップ300は、具体的には、例えば、多層コイル1が血管などの体腔内を移動し易いように、先端部が先端側に向かって丸みを帯びた形状となるように形成されている。先端チップ300は、先端に開口300aを有する内腔300hを備えている。
【0042】
先端チップ300と内側コイル層110および外側コイル層210との接合方法としては、例えば、内側コイル層110および外側コイル層210を構成する素線110w,210wの先端を、先端チップ300の基端部に溶着等で埋設する方法等を採用することができる。
【0043】
先端チップ300を構成する材料としては、抗血栓性、生体適合性体と共に、体腔等への衝撃を緩和できるように、柔軟性を有していることが好ましい。このような材料としては、例えば、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマーなどの樹脂材料等が挙げられる。
【0044】
基部400は、オペレータがカテーテル4を把持する部材である。基部400は、例えば、多層コイル1の基端部に接続され、多層コイル1の内腔1hに連通する内腔400hを有している。内腔400hの基端側の端部には開口400aが形成されている。なお、基部400の形状は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、例えば、オペレータが操作しやすい形状に形成することができる。
【0045】
ここで、先端チップ300の内腔300hと、多層コイル1の内腔1hと、基部400の内腔400hとによりルーメンLが形成される。このルーメンLには、例えば、開口400aを介してガイドワイヤ(不図示)などの医療器具等が挿脱される。
【0046】
次に、カテーテル4の使用態様について説明する。ここでは、カテーテル4をガイディングカテーテルとして用い、心臓の冠動脈に生じた狭窄部をバルーンカテーテルで拡張する手技を例示する。
【0047】
カテーテル4の使用に先立ち、まず、ガイドワイヤA(不図示)を血管内に挿入し、その先端を心臓の冠動脈入口近くまで送り込む。次いで、カテーテル4のルーメンLにガイドワイヤAを挿入し、先端が心臓の冠動脈入口まで達するように、ガイドワイヤAに沿ってカテーテル4を血管内に押し込みながら前進させる。この際、カテーテル4は、血管の湾曲に追従しながら送り込まれる。
【0048】
次に、ガイドワイヤAを抜き取ってバルーンカテーテル用のより細いガイドワイヤB(不図示)に入れ替え、カテーテル4を介してガイドワイヤBの先端が狭窄部を通過する位置まで到達させる。次いで、ガイドワイヤBに沿ってバルーンカテーテル(不図示)を狭窄部の内側まで挿入し、バルーンにより狭窄部を拡張することで治療を行う。この治療後は、バルーンカテーテル、ガイドワイヤB、カテーテル4の順でこられを体外に抜去することで手技が完了する。
【0049】
以上のように、カテーテル4は、上記構成であるので、多層コイル1が有する優れた柔軟性により、例えば、複雑に湾曲した血管内においても高い操作性を発揮することができる。また、内側コイル層110と外側コイル層210とが接触する他の領域B1の割合等を増減させることによってカテーテルの先端を硬くも柔らかくもすることができるため、柔軟性と貫通力のバランスを適度に調整することもできる。
【0050】
[第5の実施形態]
図7は、第5の実施形態を示す概略図である。本実施形態では、上述した多層コイル1を適用したガイドワイヤ5が例示されている。ガイドワイヤ5は、
図7に示すように、概略的に、コアシャフト500と、多層コイル1と、先端固着部610と、基端固着部620とにより構成されている。
【0051】
コアシャフト500は、長手形状のシャフトである。コアシャフト500は、例えば、拡径部510と、小径部520と、大径部530とを有するように構成することができる。
【0052】
拡径部510は、基端側に向かって拡径する部位である。小径部520は、基端が拡径部510の先端に位置し先端側に向かって延設された部位である。大径部530は、先端が拡径部510の基端に位置し基端側に向かって延設された部位である。なお、小径部520および大径部530それぞれは、コアシャフト500の長軸方向に沿って一定の外径を有するように構成することができる。
【0053】
コアシャフト500を構成する材料としては、ガイドワイヤ5の柔軟性を向上すると共に、抗血栓性および生体適合性を付与する観点から、例えば、SUS304などのステンレス鋼、Ni-Ti合金などの超弾性合金等を採用することができる。
【0054】
多層コイル1は、
図2に示すように、内側コイル層110と、外側コイル層210とを備えている。内側コイル層110は、素線を螺旋状に巻回することで形成したコイル層である。外側コイル層210は、内側コイル層110を覆うように内側コイル層110の長軸方向に沿って素線を螺旋状に巻回することで形成されるコイル層である。長軸方向の一部の領域A1において、内側コイル層110と外側コイル層210とが離隔しており、一部の領域A1での内側コイル層110を構成する巻線の最大外径は、一部の領域A1とは異なる長軸方向の他の領域B1での内側コイル層110を構成する巻線の最大外径よりも小さいか、または一部の領域A1での外側コイル層210を構成する巻線の最小内径は、他の領域B1での外側コイル層210を構成する巻線の最小内径よりも大きいか、の少なくともいずれかである。
【0055】
先端固着部610は、多層コイル1の先端部とコアシャフト500の先端部とを固着する部位である。先端固着部610は、具体的には、例えば、先端部が先端側に向かって凸状に湾曲した略半球形状となるように形成することができる。これにより、ガイドワイヤ5が血管内を前進する際の抵抗を減らすことができ、ガイドワイヤ5を円滑に挿入することができる。
【0056】
先端固着部610の形成方法としては、例えば、コアシャフト500および/または多層コイル1を構成する素線の先端部を溶融して形成する方法、ロウ材を用いてコアシャフト500と多層コイル1とを接合する方法等を採用することができる。上記ロウ材としては、例えば、Sn-Pb合金、Pb-Ag合金、Sn-Ag合金、Au-Sn合金などの金属ロウ等が挙げられる。
【0057】
基端固着部620は、多層コイル1の基端部とコアシャフト500とを固着する部位である。基端固着部620は、具体的には、例えば、コアシャフト500の拡径部510上に形成することができる。
【0058】
基端固着部620の形成方法としては、例えば、多層コイル1を構成する素線の基端部を溶融して形成する方法、ロウ材を用いてコアシャフト500と多層コイル1とを接合する方法等を採用することができる。なお、ロウ材としては、例えば、先端固着部610の形成に用いたロウ材と同様のロウ材等を用いることができる。
【0059】
なお、ガイドワイヤ5の使用態様としては、例えば、第4の実施形態のカテーテル4の使用態様にて説明したガイドワイヤAやガイドワイヤBと同様の態様を例示することができる。
【0060】
以上のように、ガイドワイヤ5は、上記構成であるので、多層コイル1が有する優れた柔軟性により、例えば、複雑に湾曲した血管内においても高い操作性を発揮することができる。また、内側コイル層110と外側コイル層210とが接触する他の領域B1の割合等を増減させることによってガイドワイヤの先端を硬くも柔らかくもすることができるため、柔軟性と貫通力のバランスを適度に調整することもできる。
【0061】
なお、本発明は、上述した実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。例えば、上述した実施形態の構成のうちの一部を削除したり、他の構成に置換してもよく、上述した実施形態の構成に他の構成を追加等してもよい。
【0062】
例えば、第1の実施形態では、内側コイル層110および外側コイル層210のうち、内側コイル層110のみが素線径が異なる内側第1素線111wおよび内側第2素線112wを用いた多層コイル1について説明した。一方、第2の実施形態では、内側コイル層120および外側コイル層220のうち、外側コイル層220のみが素線径が異なる外側第1素線221wおよび外側第2素線222wを用いた多層コイル2について説明した。しかしながら、内側コイル層および外側コイル層それぞれが、異なる素線径を有する二以上の素線を備え、一部の領域にて内側コイル層と外側コイル層とが離隔し、かつ他の領域にて内側コイル層と外側コイル層とが接している多層コイルであってもよい。
【0063】
また、第3の実施形態では、内側コイル層130および外側コイル層230のうち、内側コイル層130の巻線の最大外径のみが波打つ構成の多層コイル3について説明した。しかしながら、内側コイル層130の巻線の最大外径および外側コイル層230の巻線の最小内径の両者が波打ち、一部の領域にて内側コイル層と外側コイル層とが離隔し、かつ他の領域にて内側コイル層と外側コイル層とが接している多層コイルであってもよい。
【0064】
本開示の多層コイルにおいては、内側コイル層と外側コイル層とが離隔している一部の領域の割合は特に限定されない。上記割合は、多層コイルに求められる柔軟性等に応じて適宜変更すればよい。上記割合は、例えば、多層コイルの長手方向の長さに対して、1~99%であってよく、10~90%であってよい。より柔軟な多層コイルが求められる場合、上記割合は、50%以上であることが好ましく、70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上が更に好ましい。比較的硬い多層コイルが求められる場合、上記割合は、50%未満であってよく、40%以下であってよく、30%以下であってよく、20%以下であってよい。
【0065】
本開示の多層コイルにおいては、上記一部の領域における内側コイル層と外側コイル層とが離隔している長さ(長軸方向に直行する方向の長さ)は、本発明の効果を損なわない限り、特に限定されない。上記長さは、例えば、内側コイル層と外側コイル層の合計厚みを100%としたとき、0.01~50%であってよく、0.1~40%であってよく、1~30%であってもよい。なお、「内側コイル層と外側コイル層の合計厚み」とは、多層コイルの最大外径から最小内径を減じた長さを2で除した値とすることができる。
【0066】
本開示の多層コイルにおいては、内側コイル層および外側コイル層を構成する素線の線径は特に限定されず、用途にあわせて適宜設定することができる。上記線径は、例えば、0.01~5mmであってよい。上述したカテーテルやガイドワイヤに本開示の多層コイルを使用する場合には、上記線径は、0.01~1.00mmが好ましく、0.03~0.80mmがより好ましい。
【符号の説明】
【0067】
1,2,3 多層コイル
110w,120w,130w,210w,220w,230w 素線
110,120,130 内側コイル層
111w 内側第1素線
112w 内側第2素線
210,220,230 外側コイル層
221w 外側第1素線
222w 外側第2素線
A1,A2,A3 一部の領域
B1,B2,B3 他の領域