(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】緩衝器
(51)【国際特許分類】
F16F 9/32 20060101AFI20240828BHJP
F16F 9/348 20060101ALI20240828BHJP
【FI】
F16F9/32 L
F16F9/348
(21)【出願番号】P 2021020666
(22)【出願日】2021-02-12
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】カヤバ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】望月 隆久
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2005/0087409(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/32
F16F 9/348
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、
前記シリンダ内に移動自在に挿入されるロッドと、
前記シリンダ内に挿入されて前記シリンダ内に二つの作動室を区画する
とともに前記二つの作動室に面するラティス構造部を有する区画部材と
、
前記区画部材に積層されて、前記ラティス構造部における空隙で
形成される前記二つの作動室同士を連通するポート
を開閉するリーフバルブとを備え、
前記区画部材は、
前記ポートを取り囲むとともに前記リーフバルブが離着座する弁座を有し、前記ポートの前記リーフバルブに対向する面との間に隙間が形成されている
ことを特徴とする緩衝器。
【請求項2】
前記区画部材は、前記ポートの出口端に前記リーフバルブに当接して前記リーフバルブと前記ラティス構造部との接触を防止するランド部を有する
ことを特徴とする請求項
1に記載の緩衝器。
【請求項3】
前記区画部材は、環状であって、
前記ラティス構造部は、前記区画部材の一端に周方向に沿って設けられる環状部と、前記区画部材の他端から前記環状部に接続する複数の接続部とを有し、
前記弁座は、前記環状部の外周を取り囲んでいる
ことを特徴とする請求項
1または2に記載の緩衝器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝器に関する。
【背景技術】
【0002】
緩衝器は、たとえば、シリンダと、シリンダ内に移動自在に挿入されるピストンロッドと、シリンダ内に摺動自在に挿入されるとともにピストンロッドに連結されるピストンと、ピストンでシリンダ内に区画されるとともに作動油が充填される伸側室と圧側室と、ピストンに設けられて伸側室と圧側室とを連通する伸側ポートと圧側ポートと、ピストンの圧側室側端に積層されるとともにピストンロッドに内周が固定されて外周の撓みが許容されて伸側ポートを開閉する環状の伸側リーフバルブと、ピストンの伸側室側端に積層されるとともにピストンロッドに内周が固定されて外周の撓みが許容されて圧側ポートを開閉する環状の圧側リーフバルブとを備えている。
【0003】
このように構成された緩衝器の伸長作動時には、圧縮される伸側室の作動油が伸側リーフバルブを押し開いて伸側ポートを通過して拡大する圧側室へ向かう。この作動油の流れに対して伸側リーフバルブと伸側ポートとが抵抗となるので、緩衝器は、伸長作動を妨げる伸側の減衰力を発揮する。
【0004】
反対に、緩衝器の収縮作動時には、圧縮される圧側室の作動油が圧側リーフバルブを押し開いて圧側ポートを通過して拡大する伸側室へ向かう。この作動油の流れに対して圧側リーフバルブと圧側ポートとが抵抗となるので、緩衝器は、収縮作動を妨げる圧側の減衰力を発揮する(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、従来の緩衝器では、伸縮作動時に、シリンダ内の作動油は、ピストンに設けられた伸側ポートと圧側ポートのいずれかを通過して伸側室と圧側室とを行き来し、伸側ポートと圧側ポートとが作動油の流れに抵抗を与える。よって、緩衝器の減衰力特性(緩衝器の伸縮速度に対する減衰力の特性)の設計自由度は、伸側および圧側のポートの流路面積の大きさによって制限を受け、ポートの流路面積を大きくしたい場合がある。
【0007】
ところが、緩衝器が使用される車両等の仕様によっては緩衝器の搭載スペースが極狭く、緩衝器の外径寸法の大型化が困難な場合がある。そうなると、ピストンの大型化も難しくなり、ピストンの強度上の制限も相俟って、ポートの流路面積を大きく確保できない。なお、緩衝器は、ピストンだけではなく、シリンダ端部に嵌合されて圧側室とリザーバとを区画するとともにポートを備えるバルブケースを備える場合もあり、バルブケースについてもピストンと同様に大型化が難しいので、バルブケースの強度上の制限も相俟って、ポートの流路面積を大きく確保できない。
【0008】
このように従来の緩衝器では、ピストンやバルブケースといった区画部材の強度と外径寸法の制限から、区画部材におけるポートの流路面積を大きく確保することが難しいという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、区画部材の強度確保しつつも区画部材に設けられるポートの流路面積を大きく確保できる緩衝器の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記した課題を解決するために、本発明の緩衝器は、シリンダと、シリンダ内に移動自在に挿入されるロッドと、シリンダ内に挿入されてシリンダ内に二つの作動室を区画する区画部材とを備え、区画部材は、二つの作動室に面するラティス構造部を有し、ラティス構造部における空隙で二つの作動室同士を連通するポートが形成されている。
【0011】
このように構成された緩衝器では、ポートを形成するラティス構造部が単なる空洞ではなく、格子が3次元で周期的に並んで組み合わさった構造となっていて強度を持っているため、ポートの流路面積を大きくしても区画部材の強度低下を抑制できる。
【0012】
また、緩衝器は、区画部材に積層されてポートを開閉するリーフバルブを備え、区画部材は、ポートを取り囲むとともにリーフバルブが離着座する弁座を有し、ポートのリーフバルブに対向する面との間に隙間が形成されている。このように構成された緩衝器によれば、リーフバルブが直接ラティス構造部に接触しないので、リーフバルブとラティス構造部の双方の劣化を防止できる。
【0013】
さらに、緩衝器における区画部材は、ポートの出口端にリーフバルブに当接してリーフバルブとラティス構造部との接触を防止するランド部を有してもよい。このように構成された緩衝器によれば、ラティス構造部の作動室に対向する面積を大きくしてもリーフバルブとラティス構造部との接触が防止されるので、ポートの流路面積を大きく確保しやすくなり、リーフバルブの圧力を受ける受圧面積を大きくできる。よって、この緩衝器によれば、減衰力特性の設計自由度をより一層向上できる。
【0014】
また、緩衝器における区画部材は、環状であって、ラティス構造部は、区画部材の一端に周方向に沿って設けられる環状部と、区画部材の他端から環状部に接続する複数の接続部とを有し、弁座は、環状部の外周を取り囲んでいてもよい。このように構成された緩衝器によれば、リーフバルブの全周に圧力を開弁方向へ作用させることができるので、リーフバルブの一部のみに応力が集中するのを防止できリーフバルブの劣化を抑制できる。
【発明の効果】
【0015】
以上より、本発明の緩衝器によれば、区画部材の強度確保しつつも区画部材に設けられるポートの流路面積を大きく確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】一実施の形態における緩衝器の縦断面図である。
【
図2】一実施の形態における緩衝器のピストンの平面図である。
【
図3】一実施の形態における緩衝器のピストンのAA断面図である。
【
図4】一実施の形態における緩衝器のピストンの底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。
図1に示すように、一実施の形態における緩衝器Dは、シリンダ1と、シリンダ1内に移動自在に挿入されるロッド2と、シリンダ1内に挿入されてシリンダ1内に二つの作動室としての伸側室R1と圧側室R2とを区画する区画部材としてのピストン3とを備えている。そして、この緩衝器Dの場合、たとえば、図示しない車両における車体と車軸との間に介装されて使用され、車体および車輪の振動を抑制する。
【0018】
以下、緩衝器Dの各部について詳細に説明する。
図1に示すように、シリンダ1の上端には、環状のロッドガイド10が装着されており、シリンダ1の下端はキャップ11で閉塞されている。そして、シリンダ1内には、先端にピストン3が装着されたロッド2が移動自在に挿入されている。
【0019】
ロッド2は、ロッドガイド内に摺動自在に挿通されてシリンダ1内に挿入されており、ロッドガイド10によって軸方向への移動が案内される。また、シリンダ1内は、ピストン3によって、作動油等の液体が充填される伸側室R1と圧側室R2とに区画されている。なお、液体は、作動油以外にも、たとえば、水、水溶液といった液体の使用もできる。
【0020】
なお、シリンダ1内であって圧側室R2よりも下方には、シリンダ1内に摺動自在に挿入されるフリーピストン6によって気室Gが区画されている。そして、気室Gは、シリンダ1に対してロッド2が軸方向に変位すると、ロッド2のシリンダ1内に出入りする体積に応じてフリーピストン6がシリンダ1に対して軸方向へ変位することで拡縮され、この気室Gの容積変化によりシリンダ1内に出入りするロッド2の体積補償がなされる。このように緩衝器Dは、所謂単筒型の緩衝器とされているが、シリンダ1外にリザーバを備える復筒型の緩衝器として構成されてもよい。
【0021】
戻って、ロッド2は、その
図1中下端となる先端部2aの外周に設けた螺子部2bと、先端部2aより上方の外周に装着されるCリング2cとを備えている。ロッド2の先端部2aの外周に、環状に形成された伸側のリーフバルブ7および圧側のリーフバルブ8が環状のピストン3とともに装着される。これらリーフバルブ7,8およびピストン3は、螺子部2bに螺着されるピストンナット9とCリング2cとで挟持されてロッド2の先端部2aの外周に固定されている。
【0022】
伸側のリーフバルブ7は、複数枚の環状板を積み重ねた積層リーフバルブとされており、ピストン3の
図1中圧側室R2を向く下面に積層されている。伸側のリーフバルブ7は、内周がピストンナット9とCリング2cとで挟持されて固定されており、自由端である外周側の撓みが許容され、後述するラティス構造部31で形成されるポートの出口端を開閉する。
【0023】
また、圧側のリーフバルブ8は、複数枚の環状板を積み重ねた積層リーフバルブとされており、ピストン3の
図1中伸側室R1を向く上面に積層されている。圧側のリーフバルブ8は、内周がピストンナット9とCリング2cとで挟持されて固定されており、自由端である外周側の撓みが許容され、後述するラティス構造部32で形成されるポートの出口端を開閉する。
【0024】
ピストン3は、
図2から
図4に示すように、環状であって、先端部2aの外周に固定されており、外周がシリンダ1の内周に摺接しており、シリンダ1内を作動室としての伸側室R1と圧側室R2とに区画している。
【0025】
また、ピストン3は、ピストン3の
図3中上端から
図3中下端までにかけて形成されて、それぞれ伸側室R1と圧側室R2とに面するラティス構造部31(図中格子状ハッチング部分)およびラティス構造部32(図中網目状ハッチング部分)を備えている。ラティス構造部31,32は、ピストン3に対して互いに独立して接しないように配置されて設けられており、詳しくは図示しないが、複数の腕で形成される格子が3次元で周期的に並んで組み合わさった構造となっており、腕間の空隙を通じて各々が伸側室R1と圧側室R2とを連通している。このように、本実施の形態のピストン3は、ラティス構造部31,32における空隙によって伸側室R1と圧側室R2とを連通するポートを形成している。
【0026】
ラティス構造部31は、
図2から
図4に示すように、ピストン3の圧側室側端に周方向に沿って設けられる環状部31aと、ピストン3の伸側室側端から環状部31aに接続する3つの接続部31bとを備えている。ラティス構造部31における接続部31bは、ピストン3に対して周方向に等間隔をもって設けられており、ピストン3の伸側室側端面における形状は円弧状とされている。また、
図2および
図3に示すように、接続部31bの伸側室側端の円弧形状の周方向の辺31b1,31b2をピストン3の内周側へ延長してできる扇の範囲内において、接続部31bは、ピストン3の内部で内周側に張り出した形状となっている。
【0027】
ラティス構造部32は、
図2から
図4に示すように、ラティス構造部31を天地逆にした形状とほぼ同形状でピストン3に設けられている。具体的には、ラティス構造部32は、ピストン3の伸側室側端に周方向に沿って設けられる環状部32aと、ピストン3の圧側室側端から環状部32aに接続する3つの接続部32bとを備えている。ラティス構造部32における接続部32bは、ピストン3に対して周方向に等間隔をもって設けられており、ピストン3の圧側室側端面における形状は円弧状とされている。また、
図3および
図4に示すように、接続部32bの圧側室側端の円弧形状の周方向の辺32b1,32b2をピストン3の内周側へ延長してできる扇の範囲内において、接続部32bは、ピストン3の内部で内周側に張り出した形状となっている。
【0028】
そして、ラティス構造部31における接続部31bと接続部31bとの間に、ラティス構造部32の接続部32bが配置されるようにして、これらのラティス構造部31,32がピストン3に設けられている。ラティス構造部31の接続部31bとラティス構造部32の接続部32bは、ピストン3に対して周方向で交互に並べられた状態で形成される。
【0029】
ラティス構造部31における環状部31aは、ピストン3の圧側室側端に環状に設けられており、ピストン3の圧側室側端においてラティス構造部32における3つの接続部32bの内周側に形成される円環部31a1と、接続部32b,32b間のスペースに張り出した扇状の張り出し部31a2とを備えている。
【0030】
また、ピストン3は、環状部31aの外周に沿って、この環状部31aを取り囲む環状の伸側の弁座33を備えている。つまり、ピストン3の圧側室側端において、ラティス構造部31における環状部31aとラティス構造部32の接続部32bとは、前記弁座33によって分断されている。
【0031】
さらに、ピストン3は、環状部31aの内周に伸側のリーフバルブ7の内周が着座する環状の内周座部34を備えるとともに、内周座部34から環状部31aにおける円環部31a1における張り出し部31a2の内周側へと延びる軸方向視でT字状のランド部35を備えている。弁座33、内周座部34およびランド部35は、ラティス構造部31の環状部31aよりも圧側室側へ突出しており、ピストン3を側方から見てラティス構造部31における環状部31aとラティス構造部32の接続部32bの圧側室側端面は、弁座33、内周座部34およびランド部35の端面よりも低くなっている。また、弁座33の高さは、ランド部35および内周座部34よりも高い。つまり、弁座33の端面の位置は、ランド部35の端面および内周座部34の位置よりも高い。なお、ランド部35の高さは、ラティス構造部31における環状部31aよりも高く、弁座33と内周座部34の端面同士を結んだ仮想線よりも低くなっていればよい。
【0032】
よって、伸側のリーフバルブ7は、ピストン3に重ねてピストンナット9とロッド2のCリング2cとで挟持されてロッド2に固定されると、弁座33および内周座部34、或いは、弁座33、ランド部35および内周座部34に接して外周が圧側室側へ向けて撓んだ状態でピストン3に積層され、環状部31aおよび接続部32bには接しない。このように、ラティス構造部31,32のリーフバルブ7に対向する対向面とリーフバルブ7との間には、隙間S1が形成されている。
【0033】
そして、リーフバルブ7は、外周が弁座33に着座した状態では、伸側のポートを閉塞してラティス構造部31における環状部31aと圧側室R2との連通を断つ。また、リーフバルブ7は、ラティス構造部31を介して伸側室R1の圧力を受けて撓んで弁座33から離座すると、伸側のポートを開放し、環状部31aと圧側室R2とを連通し、伸側室R1から圧側室R2へ向かう作動油の流れに抵抗を与える。
【0034】
他方、ラティス構造部32における環状部32aは、ピストン3の伸側室側端に環状に設けられており、ピストン3の伸側室側端においてラティス構造部31における3つの接続部31bの内周側に形成される円環部32a1と、接続部31b,31b間のスペースに張り出した扇状の張り出し部32a2とを備えている。
【0035】
また、ピストン3は、環状部32aの外周に沿って、この環状部32aを取り囲む環状の圧側の弁座36を備えている。ピストン3の伸側室側端において、ラティス構造部32における環状部32aとラティス構造部31の接続部31bとは、前記弁座36によって分断されている。
【0036】
さらに、ピストン3は、環状部32aの内周に圧側のリーフバルブ8の内周が着座する環状の内周座部37を備えるとともに、内周座部37から環状部32aにおける円環部32a1における張り出し部32a2の内周側へと延びる軸方向視でT字状のランド部38を備えている。弁座36、内周座部37およびランド部38は、ラティス構造部32の環状部32aよりも伸側室側へ突出しており、ピストン3を側方から見てラティス構造部32における環状部32aとラティス構造部31の接続部31bの伸側室側端面は、弁座36、内周座部37およびランド部38の端面よりも低くなっている。また、弁座36の高さは、ランド部38および内周座部37よりも高い。つまり、弁座36の端面の位置は、ランド部38の端面および内周座部37の位置よりも高い。なお、ランド部38の高さは、ラティス構造部32における環状部32aよりも高く、弁座36と内周座部37の端面同士を結んだ仮想線よりも低くなっていればよい。
【0037】
よって、圧側のリーフバルブ8は、ピストン3に重ねてピストンナット9とロッド2のCリング2cとで挟持されてロッド2に固定されると、弁座36および内周座部37、或いは、弁座36、ランド部38および内周座部37に接して外周が圧側室側へ向けて撓んだ状態でピストン3に積層され、環状部32aおよび接続部31bには接しない。このように、ラティス構造部31,32のリーフバルブ8に対向する対向面とリーフバルブ8との間には、隙間S2が形成されている。
【0038】
そして、リーフバルブ8は、外周が弁座36に着座した状態では、圧側のポートを閉塞してラティス構造部32における環状部32aと伸側室R1との連通を断つ。また、リーフバルブ8は、ラティス構造部32を介して圧側室R2の圧力を受けて撓んで弁座36から離座すると、圧側のポートを開放し、環状部32aと伸側室R1とを連通し、圧側室R2から伸側室R1へ向かう作動油の流れに抵抗を与える。
【0039】
また、ラティス構造部31とラティス構造部32は、ピストン3内において互い独立して接しておらず、ラティス構造部31で形成される伸側のポートとラティス構造部32で形成される圧側のポートとはピストン3内において分断されて互いに独立して連通していない。前述したように、ピストン3の周方向においてラティス構造部31の接続部31bとラティス構造部32の接続部32bとは、交互に配置されている。また、ラティス構造部31の接続部31bは、ラティス構造部32の環状部32aを避けつつ、ピストン3内ではピストン3を軸方向から見て前記環状部32aと重なる位置まで内周側に張り出して形成される。同様に、ラティス構造部32の接続部32bは、ラティス構造部31の環状部31aを避けつつ、ピストン3内ではピストン3を軸方向から見て前記環状部31aと重なる位置まで内周側に張り出して形成される。
【0040】
このように、ラティス構造部31とラティス構造部32は、互いに接してはいないが、ピストン3に占める体積が可能な限り大きくなるようにピストン3内で効率的に配置されている。
【0041】
このようにラティス構造部31,32のピストン3の体積に占める割合が大きくとも、ラティス構造部31,32は、単なる空洞ではなく、格子が3次元で周期的に並んで組み合わさった構造となっていて強度を持っている。従来の緩衝器と同様に空洞のポートをピストン3に設けた場合と、ラティス構造部31,32で同じ体積のポートをピストン3に設けた場合とを比較すると、ラティス構造部31,32でポートを形成する方がピストン3の強度低下を抑制できる。このように、ラティス構造部31,32でポートを形成した本実施の形態の緩衝器Dでは、ポートの流路面積を大きくしてもピストン3の強度低下を抑制できるので、ピストン3の外径の大型化を避けつつもポートの流路面積を大きくできる。
【0042】
なお、前述のように構成されたピストン3は、3Dプリンタを利用して製造することができる。3Dプリンタを利用すれば、簡単に複雑な構造を持つラティス構造部31,32をピストン3に形成することができる。3Dプリンタを利用せずともラティス構造部31,32をピストン3に形成できる場合、3Dプリンタ以外の加工装置、加工方法を採用してピストン3を製造してもよい。
【0043】
緩衝器Dは、以上のように構成され、以下に、緩衝器Dの作動について説明する。まず、シリンダ1に対してロッド2が
図1中上方へ移動して緩衝器Dが伸長作動する場合の作動について説明する。緩衝器Dが伸長作動すると、ピストン3がシリンダ1に対して
図1中上方へ移動するので、伸側室R1が圧縮され圧側室R2が拡大される。
【0044】
すると、伸側室R1内の圧力が上昇し、この圧力がピストン3の
図1中上端に積層されているリーフバルブ8によって閉塞されていないラティス構造部31における3つの接続部31bおよび環状部31aを介してリーフバルブ7に作用し、リーフバルブ7は、撓んで弁座33から離座して伸側のポートを開放する。よって、伸側室R1の作動油は、ラティス構造部31を通過して圧側室R2へ移動する。この作動油の流れに対して、ポートとして機能するラティス構造部31と、リーフバルブ7と弁座33との間に形成される隙間とで抵抗が与えられてピストン3の上面と下面とに作用する伸側室R1と圧側室R2の圧力に差が生じ、緩衝器Dは、シリンダ1に対してロッド2が
図1中上方へ移動する伸長作動を妨げる減衰力を発生する。
【0045】
また、シリンダ1に対してロッド2が
図1中下方へ移動して緩衝器Dが収縮作動する場合の作動について説明する。緩衝器Dが収縮作動すると、ピストン3がシリンダ1に対して
図1中下方へ移動するので、圧側室R2が圧縮され伸側室R1が拡大される。
【0046】
すると、圧側室R2内の圧力が上昇し、この圧力がピストン3の
図1中下端に積層されているリーフバルブ7によって閉塞されていないラティス構造部32における3つの接続部32bおよび環状部32aを介してリーフバルブ8に作用し、リーフバルブ8は、撓んで弁座36から離座して圧側のポートを開放する。よって、圧側室R2の作動油は、ラティス構造部32を通過して伸側室R1へ移動する。この作動油の流れに対して、ポートとして機能するラティス構造部32と、リーフバルブ8と弁座36との間に形成される隙間とで抵抗が与えられてピストン3の上面と下面とに作用する伸側室R1と圧側室R2の圧力に差が生じ、緩衝器Dは、シリンダ1に対してロッド2が
図1中下方へ移動する収縮作動を妨げる減衰力を発生する。
【0047】
このように緩衝器Dでは、伸側のポートと圧側のポートも作動油の流れに抵抗を与えるため、リーフバルブ7,8の撓み量が大きくなってリーフバルブ7と弁座33との間の隙間、リーフバルブ8と弁座36との間の隙間が大きくなる状態となると、緩衝器Dは、伸側と圧側のポートの流路面積に依存した減衰力を発生するようになる。一般的には、リーフバルブ7,8の撓み量が大きくなるのは、緩衝器Dの伸縮速度が高くなる場合であるから、緩衝器Dの伸縮速度が高速域に到達すると緩衝器Dの減衰力特性(緩衝器Dの伸縮速度に対する減衰力の大きさの特性)は伸側と圧側のポートの流路面積によって特徴づけられる。
【0048】
本実施の形態の緩衝器Dは、前述したように、シリンダ1と、シリンダ1内に移動自在に挿入されるロッド2と、シリンダ1内に挿入されてシリンダ1内に二つの作動室としての伸側室R1と圧側室R2とを区画するピストン(区画部材)3とを備え、ピストン(区画部材)3が伸側室(作動室)R1と圧側室(作動室)R2に面するラティス構造部31,32を有し、ラティス構造部31,32における空隙で伸側室(作動室)R1と圧側室(作動室)R2を連通するポートが形成されている。このように構成された緩衝器Dでは、ポートを形成するラティス構造部31,32が単なる空洞ではなく、格子が3次元で周期的に並んで組み合わさった構造となっていて強度を持っているため、ポートの流路面積を大きくしてもピストン(区画部材)3の強度低下を抑制できる。したがって、ラティス構造部31,32でポートを形成した本実施の形態の緩衝器Dでは、ポートの流路面積を大きくしてもピストン3の強度低下を抑制できるので、ピストン3の外径の大型化を避けつつもポートの流路面積を大きく確保できる。
【0049】
また、本実施の形態の緩衝器Dでは、ピストン(区画部材)3に設けることができるポートの流路面積の上限が従来の緩衝器に比較して大きくなるので、ポートの流路面積の設計自由度が向上し、緩衝器Dの伸縮速度が高速域における減衰力特性の設計自由度も向上する。
【0050】
なお、ラティス構造部31,32の具体的な形状は、一例であって、ピストン(区画部材)3に形成されるポートに緩衝器Dの減衰力の設計上で要求される流路面積が確保できれば適宜設計変更できる。したがって、ラティス構造部31,32は、環状部31a,32aを廃止して接続部31b,32bのみで構成されて接続部31b,32b同士が互いに独立していてもよく、接続部31b,32bの設置数および形状も任意に変更できる。さらに、環状部31a,32aについても形状は任意に変更できる。
【0051】
また、本実施の形態の緩衝器Dは、ピストン(区画部材)3に積層されてポートを開閉するリーフバルブ7,8を備え、ピストン(区画部材)3がポートを取り囲むとともにリーフバルブ7,8が離着座する弁座33,36を有し、ポートのリーフバルブ7,8に対向する面との間に隙間S1,S2が形成されている。このように構成された緩衝器Dによれば、リーフバルブ7,8が直接ラティス構造部31,32に接触しないので、リーフバルブ7,8とラティス構造部31,32の双方の劣化を防止できる。ラティス構造部31,32は、前述したように、複数の腕で形成される格子が3次元で周期的に並んで組み合わさった構造となっており、リーフバルブ7,8に臨む端部では接続されていない腕の末端がむき出しのままリーフバルブ7,8に対向している。本実施の形態の緩衝器Dは、リーフバルブ7,8とラティス構造部31,32と間に隙間S1,S2が設けられて互いに接触しないように配慮されているので、リーフバルブ7,8が前記腕の末端で傷ついて劣化することがなく、前記腕の末端がリーフバルブ7,8に当接して変形して劣化することない。
【0052】
さらに、本実施の形態の緩衝器Dでは、ピストン(区画部材)3がポートの出口端にリーフバルブ7,8に当接してリーフバルブ7,8とラティス構造部31,32との接触を防止するランド部35,38を有している。このようにランド部35,38をピストン(区画部材)3に設けると、リーフバルブ7(8)が圧側室R2(伸側室R1)の圧力を受けてピストン(区画部材)3側へ向けて撓んでもランド部35(38)がリーフバルブ7(8)を支えるので、内周座部34(37)と弁座33(36)までの間の径方向距離を長くとる場合であってもてリーフバルブ7(8)とラティス構造部31(32)との接触が防止される。したがって、本実施の形態の緩衝器Dによれば、ラティス構造部31(32)の圧側室R2(伸側室R1)に対向する面積を大きくしてもリーフバルブ7(8)とラティス構造部31(32)との接触が防止されるので、ラティス構造部31(32)で形成するポートの流路面積を大きく確保しやすいとともに、リーフバルブ7(8)の圧力を受ける受圧面積を大きくできる。よって、本実施の形態の緩衝器Dによれば、減衰力特性の設計自由度をより一層向上できる。なお、ランド部35,38の形状は任意に設計変更でき、内周座部34と接続されていなくともよい。
【0053】
また、本実施の形態の緩衝器Dでは、ピストン(区画部材)3が環状であって、ラティス構造部31,32がピストン(区画部材)3の一端に周方向に沿って設けられる環状部31a,32aと、ピストン(区画部材)3の他端から環状部31a,32aに接続する複数の接続部31b,32bとを有し、弁座33,36が環状部31a,32aの外周を取り囲んでいる。このように構成された緩衝器Dによれば、リーフバルブ7(8)の全周に伸側室R1(圧側室R2)の圧力を開弁方向へ作用させることができるので、リーフバルブ7(8)の一部のみに応力が集中するのを防止できリーフバルブ7(8)の劣化を抑制できる。
【0054】
なお、本実施の形態の緩衝器Dでは、区画部材をピストン3としているが、シリンダ1に固定される態様で使用される隔壁等を区画部材としてもよい。たとえば、シリンダの外方にリザーバを備える複筒型の緩衝器においてシリンダの端部に固定されるバルブケースを区画部材として、バルブケースで区画されるリザーバと圧側室とを作動室として、区画部材に形成されるラティス構造部でリザーバと圧側室とを連通するようにしてもよい。
【0055】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。
【符号の説明】
【0056】
1・・・シリンダ、2・・・ロッド、3・・・ピストン(区画部材)、7,8・・・リーフバルブ、31,32・・・ラティス構造部、31a,32a・・・環状部、31b,32b・・・接続部、33,36・・・弁座、35,38・・・ランド部、D・・・緩衝器、R1・・・伸側室(作動室)、R2・・・圧側室(作動室)、S1,S2・・・隙間