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特許7545345ブラシレスモータの制御装置及び制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】ブラシレスモータの制御装置及び制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/14 20160101AFI20240828BHJP
【FI】
H02P6/14
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021025631
(22)【出願日】2021-02-19
(65)【公開番号】P2022127464
(43)【公開日】2022-08-31
【審査請求日】2023-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【氏名又は名称】西山 春之
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(72)【発明者】
【氏名】大場 真吾
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-163733(JP,A)
【文献】特開2021-002898(JP,A)
【文献】特開2017-175700(JP,A)
【文献】特開2013-150491(JP,A)
【文献】特開2017-123704(JP,A)
【文献】特開2016-015832(JP,A)
【文献】特開2013-021869(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上段スイッチング素子及び下段スイッチング素子が直列に接続され、前記上段スイッチング素子及び前記下段スイッチング素子に還流ダイオードが併設されたブリッジ回路を相補パルス幅変調で制御するブラシレスモータの制御装置であって、
前記ブリッジ回路から前記ブラシレスモータに通電する通電パターンが所定の複数回数変化するごとに、前記相補パルス幅変調のデッドタイムにおいて還流電流が流れる電流経路を前記上段スイッチング素子及び前記下段スイッチング素子に交互に切り替える、
ブラシレスモータの制御装置。
【請求項2】
前記所定の複数回数は、偶数である、
請求項1に記載のブラシレスモータの制御装置。
【請求項3】
上段スイッチング素子及び下段スイッチング素子が直列に接続され、前記上段スイッチング素子及び前記下段スイッチング素子に還流ダイオードが併設されたブリッジ回路を相補パルス幅変調で制御するブラシレスモータの制御装置が、前記ブリッジ回路から前記ブラシレスモータに通電する通電パターンが所定の複数回数変化するごとに、前記相補パルス幅変調のデッドタイムにおいて還流電流が流れる電流経路を前記上段スイッチング素子及び前記下段スイッチング素子に交互に切り替える、
ブラシレスモータの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシレスモータの制御装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
三相ブラシレスモータは、三相ブリッジ回路を備えたインバータ回路によって制御される。この場合、直流電源のプラス端子から三相ブラシレスモータに電流を流す上流相の上段スイッチング素子がONに制御され、三相ブラシレスモータから直流電源のマイナス端子に電流を流す下流相の上段スイッチング素子及び下段スイッチング素子が相補PWM(Pulse Width Modulation)で制御される。相補PWMでは、上段スイッチング素子及び下段スイッチング素子の短絡を防止するためのデッドタイムが設けられている。デッドタイムにおける還流電流は、すべての下段スイッチング素子がOFFに制御されていることから、すべて上段スイッチング素子の還流ダイオードに流れ、上段スイッチング素子の発熱量が大きくなってデッドタイム損失が増大するおそれがある。
【0003】
そこで、デッドタイム損失を軽減するために、特開2014-176129号公報(特許文献1)や特開2017-11857号公報(特許文献2)に記載される技術が提案されている。特許文献1では、スイッチング素子の温度が所定閾値を超えるとPWM信号のデューティ比を100%にすることで、スイッチング動作をなくして、スイッチング損失による発熱を抑制している。また、特許文献2では、スイッチング電源の出力電圧及び出力電流に基づいて負荷率を計算し、この負荷率に応じたデッドタイムを設定することで、デッドタイムの短縮化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-176129号公報
【文献】特開2017-11857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1で提案される技術では、目標回転速度に対応したデューティ比を超えるために目標回転速度よりも高くなって、回転速度や回転角度を正確に制御する用途には適用できなかった。また、特許文献2で提案される技術では、デッドタイムを完全になくすことができないことから、上段スイッチング素子の発熱を抑制することが不十分となると共に、デッドタイムを短縮しすぎて上段スイッチング素子及び下段スイッチング素子の短絡が発生するおそれもあった。
【0006】
そこで、本発明は、回転速度や回転角度を正確に制御可能としつつ、スイッチング素子の発熱を抑制した、ブラシレスモータの制御装置及び制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ブラシレスモータの制御装置は、上段スイッチング素子及び下段スイッチング素子が直列に接続され、これらに還流ダイオードが併設されたブリッジ回路を相補パルス幅変調で制御する。このとき、ブラシレスモータの制御装置は、ブリッジ回路からブラシレスモータに通電する通電パターンが所定の複数回数変化するごとに、相補パルス幅変調のデッドタイムにおいて還流電流が流れる電流経路を上段スイッチング素子及び下段スイッチング素子に交互に切り替える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、回転速度や回転角度を正確に制御可能としつつ、スイッチング素子の発熱を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】自動車用エンジンシステムの概要図である。
図2】可変バルブタイミング機構(VTC)の斜視図である。
図3】三相ブラシレスモータ及びインバータ回路の一例を示す説明図である。
図4】第1の制御パターンの一例を示す説明図である。
図5】第1の制御パターンにおける通電パターン2の一例を示す説明図である。
図6】相補PWMにおける通電中の電流経路の説明図である。
図7】相補PWMにおけるデッドタイム中の電流経路の説明図である。
図8】第2の制御パターンの一例を示す説明図である。
図9】第2の制御パターンにおける通電パターン2の一例を示す説明図である。
図10】相補PWMにおけるデッドタイム中の電流経路の説明図である。
図11】制御パターンを切り替える第1のタイミングを示す説明図である。
図12】制御パターンを切り替える第2のタイミングを示す説明図である。
図13】制御パターンを切り替える第3のタイミングを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付された図面を参照し、本発明を実施するための実施形態について詳述する。
図1は、本実施形態に係るブラシレスモータの制御装置が適用され得る、自動車用エンジンのシステム構成を示している。
【0011】
エンジン10は、例えば、直列4気筒のガソリンエンジンであり、各気筒に吸気(吸入空気)を導入するための吸気管12には、エンジン10の負荷の一例としての吸気流量Qを検出する吸気流量センサ14が取り付けられている。吸気流量センサ14としては、例えば、エアフローメータなどの熱線式流量計を使用することができる。なお、エンジン10の負荷としては、吸気流量Qに限らず、例えば、吸気負圧、過給圧力、スロットル開度、アクセル開度など、トルクと密接に関連する状態量を使用することができる。
【0012】
各気筒の燃焼室16に吸気を導入する吸気ポート18には、その開口を開閉する吸気弁20が配設されている。吸気弁20の吸気上流に位置する吸気管12には、吸気ポート18に向けて燃料を噴射する燃料噴射弁22が取り付けられている。燃料噴射弁22は、電磁コイルへの通電によって磁気吸引力が発生すると、スプリングによって閉弁方向に付勢されている弁体がリフトして開弁し、燃料を噴射する電磁式の噴射弁である。燃料噴射弁22には、その開弁時間に比例した燃料が噴射されるように、所定圧力に調圧された燃料が供給されている。
【0013】
燃料噴射弁22から噴射された燃料は、吸気ポート18と吸気弁20との隙間を介して燃焼室16に吸気と共に導入され、点火プラグ24の火花点火によって着火燃焼し、その燃焼による圧力がピストン26をクランクシャフト(図示省略)に向けて押し下げることで、クランクシャフトを回転駆動させる。
【0014】
また、燃焼室16から排気を導出する排気ポート28には、その開口を開閉する排気弁30が配設され、この排気弁30が開弁することで、排気ポート28と排気弁30との隙間を介して、排気が排気管32へと排出される。排気管32には、触媒コンバータ34が配設されており、排気中の有害物質は、触媒コンバータ34によって無害成分に浄化された後、排気管32の終端開口から大気中に放出される。ここで、触媒コンバータ34としては、例えば、排気中のCO(一酸化炭素)、HC(炭化水素)及びNOx(窒素酸化物)を同時に浄化する三元触媒を使用することができる。
【0015】
吸気弁20を開閉駆動する吸気カムシャフト36の端部には、クランクシャフトに対する吸気カムシャフト36の回転位相を変化させることで、吸気弁20のバルブタイミングを変更するVTC38が取り付けられている。VTC38は、図2に示すように、クランクシャフトの回転駆動力を伝達するカムチェーン(図示省略)が巻き回されるカムスプロケット38Aと一体化され、減速機が内蔵された三相ブラシレスモータ38Bにより、カムスプロケット38Aに対して吸気カムシャフト36を相対回転させることで、バルブタイミングを進角又は遅角させる。図2において符号38Cで示すものは、三相ブラシレスモータ38Bへの電力を供給するハーネスを接続するためのコネクタである。
【0016】
なお、VTC38は、吸気弁20に限らず、吸気弁20及び排気弁30の少なくとも一方に備え付けられていればよい。また、燃料噴射弁22は、吸気ポート18に燃料を噴射する構成に限らず、燃焼室16に燃料を直接噴射してもよい。
【0017】
燃料噴射弁22、点火プラグ24及びVTC38は、マイクロコンピュータを内蔵した電子制御装置40によって制御されている。そして、電子制御装置40は、各種のセンサ又はスイッチの出力信号を入力し、不揮発性メモリに予め格納された制御プログラムによって、燃料噴射弁22、点火プラグ24及びVTC38の各操作量を決定して出力する。燃料噴射弁22による燃料噴射制御においては、例えば、各気筒の吸気行程で個別の燃料噴射を行う、いわゆる「シーケンシャル噴射制御」が行われる。
【0018】
電子制御装置40には、吸気流量センサ14の出力信号に加え、エンジン10の冷却水温度(水温)Twを検出する水温センサ42、エンジン10の回転速度Neを検出する回転速度センサ44、クランクシャフトの回転角度(基準位置からの角度)θCRKを検出するクランク角度センサ46、吸気カムシャフト36の回転角度θCAMを検出するカム角度センサ48の各出力信号が入力されている。
【0019】
VTC38の三相ブラシレスモータ38Bには、その出力軸が所定角度回転するたびにローレベル又はハイレベルに変化する矩形波を出力する回転角度センサ50が取り付けられており、その出力信号が電子制御装置40に入力されている。従って、回転角度センサ50は、減速機で減速される前の三相ブラシレスモータ38Bの出力軸の回転角度θVTCを検出し、電子制御装置40が減速比などを考慮して回転角度θVTCからバルブタイミングの変更角度を高精度に演算することができる。
【0020】
電子制御装置40は、VTC38の制御に加え、次のように、燃料噴射弁22及び点火プラグ24を制御する。即ち、電子制御装置40は、吸気流量センサ14及び回転速度センサ44から吸気流量Q及び回転速度Neを夫々読み込み、これらに基づいてエンジン運転状態に応じた基本燃料噴射量を演算する。また、電子制御装置40は、水温センサ42から水温Twを読み込み、基本燃料噴射量を水温Twなどで補正した燃料噴射量を演算する。そして、電子制御装置40は、エンジン運転状態に応じたタイミングで、燃料噴射量に応じた燃料を燃料噴射弁22から噴射し、点火プラグ24を適宜作動させて燃料と吸気との混合気を着火燃焼させる。このとき、電子制御装置40は、図示省略の空燃比センサから空燃比を読み込み、排気中の空燃比が理想空燃比に近づくように、燃料噴射弁22をフィードバック制御する。なお、燃料噴射弁22及び点火プラグ24の制御は、電子制御装置40とは異なる他の電子制御装置で行うようにしてもよい。
【0021】
VTC38の三相ブラシレスモータ38Bは、図3に示すように、U相コイル38B1、V相コイル38B2及びW相コイル38B3がスター結線されており、電子制御装置40に内蔵されたインバータ回路52によって回転駆動が制御される。インバータ回路52は、6つのスイッチング素子、例えば、Nチャネル型のMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor;以下「FET」と略記する。)を有する三相ブリッジ回路からなる。なお、スイッチング素子としては、Nチャネル型のMOSFETに限らず、Pチャネル型のMOSFET、NPN型のトランジスタ、PNP型のトランジスタなどであってもよい。
【0022】
インバータ回路52は、直流電源としてのバッテリ54のプラス端子54Aに接続された上段側の上段FET52A,52C及び52Eと、バッテリ54のマイナス端子54Bに接続された下段側の下段FET52B,52D及び52Fと、を含んで構成されている。具体的には、上段FET52AのドレインDがバッテリ54のプラス端子54Aに接続され、上段FET52AのソースSが下段FET52BのドレインDに接続され、下段FET52BのソースSがバッテリ54のマイナス端子54Bに接続されている。また、上段FET52CのドレインDがバッテリ54のプラス端子54Aに接続され、上段FET52CのソースSが下段FET52DのドレインDに接続され、下段FET52DのソースSがバッテリ54のマイナス端子54Bに接続されている。さらに、上段FET52EのドレインDがバッテリ54のプラス端子54Aに接続され、上段FET52EのソースSが下段FET52FのドレインDに接続され、下段FET52FのソースSがバッテリ54のマイナス端子54Bに接続されている。
【0023】
上段FET52A,52C及び52E並びに下段FET52B、52D及び52Fには、ソースSからドレインDに向けて還流電流を流すことができる還流ダイオード52G~52Lが夫々併設されている。直列に接続された上段FET52Aと下段FET52Bとの間に位置する電路は、U相駆動ライン52Mを介して三相ブラシレスモータ38BのU相コイル38B1に接続されている。また、直列に接続された上段FET52Cと下段FET52Dとの間に位置する電路は、V相駆動ライン52Nを介して三相ブラシレスモータ38BのV相コイル38B2に接続されている。さらに、直列に接続された上段FET52Eと下段FET52Fとの間に位置する電路は、W相駆動ライン52Oを介して三相ブラシレスモータ38BのW相コイル38B3に接続されている。
【0024】
上段FET52A,52C及び52E並びに下段FET52B,52D及び52Fは、電子制御装置40のドライバ(図示省略)を介してゲートGに印加される電圧によってON又はOFFに制御される。ここで、上段FET52A,52C及び52Eは、バッテリ54のプラス端子54Aから供給される電流をU相コイル38B1、V相コイル38B2及びW相コイル38B3へと導入するスイッチング素子として機能し、以下の説明では、U相上段FET52A,V相上段FET52C及びW相上段FET52Eと夫々呼ぶこととする。また、下段FET52B,52D及び52Fは、U相コイル38B1、V相コイル38B2及びW相コイル38B3から流れ出る電流をバッテリ54のマイナス端子54Bへと導入するスイッチング素子として機能し、以下の説明では、U相下段FET52B,V相下段FET52D及びW相下段FET52Fと夫々呼ぶこととする。
【0025】
電子制御装置40は、このような三相ブリッジ回路からなるインバータ回路52を矩形波駆動(120°通電)の相補PWMで制御する。即ち、電子制御装置40は、三相ブラシレスモータ38Bのロータ角度に応じて、図4に示すように、U相コイル38B1からV相コイル38B2へと電流を流す通電パターン1と、U相コイル38B1からW相コイル38B3へと電流を流す通電パターン2と、V相コイル38B2からW相コイル38B3へと電流を流す通電パターン3と、V相コイル38B2からU相コイル38B1へと電流を流す通電パターン4と、W相コイル38B3からU相コイル38B1へと電流を流す通電パターン5と、W相コイル38B3からV相コイル38B2へと電流を流す通電パターン6と、をこの順番で順次切り替える。以下、この制御パターンを第1の制御パターンと呼ぶこととする。
【0026】
通電パターン1では、U相上段FET52AがONに制御され、V相上段FET52C及びV相下段FET52Dが相補PWMで制御される。通電パターン2では、U相上段FET52AがONに制御され、W相上段FET52E及びW相下段FET52Fが相補PWMで制御される。通電パターン3では、V相上段FET52CがONに制御され、W相上段FET52E及びW相下段FET52Fが相補PWMで制御される。通電パターン4では、U相上段FET52A及びU相下段FET52Bが相補PWMで制御され、V相上段FET52CがONに制御される。通電パターン5では、U相上段FET52A及びU相下段FET52Bが相補PWMで制御され、W相上段FET52EがONに制御される。通電パターン6では、V相上段FET52C及びV相下段FET52Dが相補PWMで制御され、W相上段FET52EがONに制御される。要するに、第1の制御パターンでは、上流相のFETがONに制御され、下流相のFETが相補PWMで制御されている。なお、各通電パターン1~6において、制御状態が定義されていない他のFETはすべてOFFに制御されている(以下同様)。
【0027】
ところで、相補PWMでFET52A~52Fを制御する場合、上段側のFETと下段側のFETとの短絡を防止するため、デッドタイムを設ける必要がある。下流相のW相上段FET52E及びW相下段FET52Fを相補PWMで制御する通電パターン2に着目すると、図5に示すように、W相上段FET52EがOFFに制御され、W相下段FET52FがONに制御されている。ここで、W相下段FET52FをONからOFF又はOFFからONに制御するとき、W相上段FET52EがOFFからON又はONからOFFに制御されるので、W相上段FET52EとW相下段FET52Fとの短絡を防止するため、ON/OFFの切り替え中に所定時間のデッドタイムを設け、W相上段FET52E及びW相下段FET52Fが共にOFFとなるようにしている。
【0028】
通電パターン2においてW相下段FET52FがONに制御されている通電中には、図6の太線で示すように、バッテリ54のプラス端子54Aから供給される電流は、U相上段FET52A、U相駆動ライン52M、U相コイル38B1、W相コイル38B3、W相駆動ライン52O及びW相下段FET52Fを通ってバッテリ54のマイナス端子54Bへと流れる。そして、W相下段FET52FがOFFになるデッドタイム中には、図7の太線で示すように、W相コイル38B3から流れ出る還流電流は、W相駆動ライン52O、W相上段FET52Eに付設された還流ダイオード52K、U相上段FET52A、U相駆動ライン52M、U相コイル38B1及びW相コイル38B3を循環して流れる。
【0029】
還流電流が流れているデッドタイム中には、下段側のU相下段FET52B、V相下段FET52D及びW相下段FET52FのすべてがOFFに制御され、これらに付設された還流ダイオード52H,52J及び52Lにより図示の下方への還流電流の流れが阻止される。このため、還流電流は必ず上段側のU相上段FET52Aの還流ダイオード52G、V相上段FET52Cの還流ダイオード52I及びW相上段FET52Eの還流ダイオード52Kのいずれか1つに流れることとなる。従って、上段側のU相上段FET52A、V相上段FET52C及びW相上段FET52Eのいずれか1つの発熱量が大きくなり、デッドタイム損失が増大してしまうおそれがある。
【0030】
そこで、電子制御装置40は、図4に示した第1の制御パターンと、以下に詳細を説明する第2の制御パターンと、を交互に切り替えながらインバータ回路52を制御し、還流電流によるFETの発熱を分散させる。第2の制御パターンの通電パターン1’では、図8に示すように、U相上段FET52A及びU相下段FET52Bが相補PWMで制御され、V相下段FET52DがONに制御される。また、通電パターン2’では、U相上段FET52A及びU相下段FET52Bが相補PWMで制御され、W相下段FET52FがONに制御される。通電パターン3’では、V相上段FET52C及びV相下段FET52Dが相補PWMで制御され、W相下段FET52FがONに制御される。通電パターン4’では、U相下段FET52BがONに制御され、V相上段FET52C及びV相下段FET52Dが相補PWMで制御される。通電パターン5’では、U相下段FET52BがONに制御され、W相上段FET52E及びW相下段FET52Fが相補PWMで制御される。通電パターン6’では、V相下段FET52DがONに制御され、W相上段FET52E及びW相下段FET52Fが相補PWMで制御される。要するに、第2の制御パターンでは、第1の制御パターンとは異なり、上流相のFETが相補PWMで制御され、下流相のFETがONに制御されている。
【0031】
上流相のU相上段FET52A及びU相下段FET52Bを相補PWMで制御する通電パターン2’に着目すると、図9に示すように、U相上段FET52AがONに制御され、U相下段FET52BがOFFに制御されている。ここで、U相上段FET52AをONからOFF又はOFFからONに制御するとき、U相下段FET52BがOFFからON又はONからOFFに制御されるので、U相上段FET52AとU相下段FET52Bとの短絡を防止するため、ON/OFFの切り替え間に所定時間のデッドタイムを設け、U相上段FET52A及びU相下段FET52Bが共にOFFとなるようにしている。
【0032】
通電パターン2’においてU相上段FET52AがONに制御されている通電中には、図6の太線で示すように、バッテリ54のプラス端子54Aから供給される電流は、U相上段FET52A、U相駆動ライン52M、U相コイル38B1、W相コイル38B3、W相駆動ライン52O及びW相下段FET52Fを通ってバッテリ54のマイナス端子54Bへと流れる。そして、U相上段FET52AがOFFになるデッドタイム中には、図10の太線で示すように、W相コイル38B3から流れ出る還流電流は、W相駆動ライン52O、ONに制御されているW相下段FET52F、U相下段FET52Bに付設された還流ダイオード52H、U相駆動ライン52M、U相コイル38B1及びW相コイル38B3を循環して流れる。
【0033】
還流電流が流れているデッドタイム中には、上段側のU相上段FET52A、V相上段FET52C及びW相上段FET52EのすべてがOFFに制御され、下段側の他のFETに付設された還流ダイオード52H,52J及び52Lにより図示の上方への還流電流の流れが可能となっている。このため、三相ブラシレスモータ38Bから流れ出た還流電流は、必ず下段側のU相下段FET52Bの還流ダイオード52H、V相下段FET52Dの還流ダイオード52J及びW相下段FET52Fの還流ダイオード52Lのいずれか1つに流れることとなる。従って、デッドタイム中の第2の制御パターンでは、還流電流によって下段側のU相下段FET52B、V相下段FET52D及びW相下段FET52Fのいずれか1つが発熱することとなる。
【0034】
そして、所定タイミングで第1の制御パターンと第2の制御パターンとを交互に切り替えることで、デッドタイム中の還流電流によるFETの発熱を上段側及び下段側に分散させ、回転速度や回転角度を正確に制御可能としつつ、FETの発熱を抑制することができる。また、FETの発熱を抑制することで、デッドタイム損失も小さくすることができる。
【0035】
第1の制御パターンと第2の制御パターンとを交互に切り替える所定タイミングは、例えば、三相ブラシレスモータ38Bの制御状態に応じて決定することができる。この制御状態としては、例えば、上段側のU相上段FET52A、V相上段FET52C及びW相上段FET52Eの温度、並びに下段側のU相下段FET52B、V相下段FET52D及びW相下段FET52Fの温度とすることができる。この温度は、PWMのデューティ比から求めてもよいし、上段側及び下段側のFETの切り替え回数並びにそこを流れる電流の積算値から求めてもよい。なお、この温度は、上段側のU相上段FET52A、V相上段FET52C及びW相上段FET52Eの温度、並びに下段側のU相下段FET52B、V相下段FET52D及びW相下段FET52Fに付設された温度センサによって測定してもよい。
【0036】
第1の制御パターンと第2の制御パターンとを交互に切り替える所定タイミングは、所定数の通電パターンごとであってもよい。具体的には、図11に示すように、6つの通電パターンごとに制御パターンを切り替えてもよい。また、図12に示すように、4つの通電パターンごとに制御パターンを切り替えてもよい。さらに、図13に示すように、2つの通電パターンごとに制御パターンを切り替えてもよい。ここで、所定数として偶数を採用した理由は、還流電流による上段側のFET及び下段側のFETの発熱量が均等となるからであるが、所定数として奇数を採用してもよい。どの切り替えタイミングを使用するかは、例えば、インバータ回路52の設置位置、各FETの特性などを考慮して設計時に適宜選択すればよい。
【0037】
上記実施形態においては、三相ブラシレスモータ38Bの制御について説明したが、制御対象として他の相数のブラシレスモータであってもよい。また、第1の制御パターン及び第2の制御パターンは、上述した実施形態に限定されず、所要の目的を達成可能であれば任意に設定することができる。
【0038】
なお、当業者であれば、様々な上記実施形態の技術的思想について、その一部を省略したり、その一部を適宜組み合わせたり、その一部を置換したりすることで、新たな実施形態を生み出せることを容易に理解できるであろう。
【符号の説明】
【0039】
38B 三相ブラシレスモータ
38B1 U相コイル
38B2 V相コイル
38B3 W相コイル
40 電子制御装置
52 インバータ回路
52A U相上段FET
52B U相下段FET
52C V相上段FET
52D V相下段FET
52E W相上段FET
52F W相下段FET
52G~52L 還流ダイオード
図1
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図13