(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】空気圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04B 49/02 20060101AFI20240828BHJP
F04B 49/03 20060101ALI20240828BHJP
【FI】
F04B49/02 331D
F04B49/03 331
(21)【出願番号】P 2021053127
(22)【出願日】2021-03-26
【審査請求日】2023-03-15
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】二階堂 将
(72)【発明者】
【氏名】酒井 航平
(72)【発明者】
【氏名】矢部 利明
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】実開昭52-132310(JP,U)
【文献】特開2008-163927(JP,A)
【文献】特開昭60-252182(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 49/00-51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機と、
前記電動機によって駆動され、空気を圧縮する圧縮機本体と、
前記圧縮機本体の吸入側に設けられた吸込み絞り弁と、
前記吸込み絞り弁の操作室と前記圧縮機本体の吐出側の間で接続された経路に設けられた電磁弁を有し、前記電磁弁によって前記吸込み絞り弁を開閉する操作回路と、
前記電動機の回転数を可変するインバータと、
前記インバータを介し前記電動機を制御すると共に、前記電磁弁を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記電動機の起動時に、前記吸込み絞り弁を閉状態とし、
前記電動機の起動後に、前記電磁弁を制御して、前記圧縮機本体から吐出された圧縮空気の一部を前記操作室に導出することにより、前記吸込み絞り弁を開
き、
前記電動機が起動してか
ら前記吸込み絞り弁が全開状態になるまでの間、予め定格回転数より高く設定された所定の回転数となるように、
前記インバータを介し前記電動機の回転数を制御することを特徴とする空気圧縮機。
【請求項2】
請求項1に記載の空気圧縮機において、
前記制御装置は、前記電動機が起動してから、所定の時間が経過するまでの間、前記所定の回転数となるように、前記電動機の回転数を制御することを特徴とする空気圧縮機。
【請求項3】
請求項1に記載の空気圧縮機において、
前記吸込み絞り弁と前記圧縮機本体の間の圧力を検出する圧力センサを備え、
前記制御装置は、前記電動機が起動してから、前記圧力センサで検出された圧力が所定値以上となるまでの間、前記所定の回転数となるように、前記電動機の回転数を制御することを特徴とする空気圧縮機。
【請求項4】
請求項1に記載の空気圧縮機において、
前記吸込み絞り弁の弁体のストロークを検出するストロークセンサを備え、
前記制御装置は、前記電動機が起動してから、前記ストロークセンサで検出されたストロークが所定値以上となるまでの間、前記所定の回転数となるように、前記電動機の回転数を制御することを特徴とする空気圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の空気圧縮機は、電動機と、電動機によって駆動され、空気を圧縮する圧縮機本体と、圧縮機本体の吸入側に設けられた吸込み絞り弁と、吸込み絞り弁を開閉する操作回路とを備える。
【0003】
操作回路は、吸込み絞り弁の操作室と圧縮機本体の吐出側の間で接続された経路に設けられた開閉弁(電磁弁)を有する。特許文献1には明確に記載されていないものの、開閉弁が閉状態に制御された場合に、吸込み絞り弁が閉じる。一方、開閉弁が開状態に制御された場合に、圧縮機本体から吐出された圧縮空気の一部が吸込み絞り弁の操作室に導出されて、吸込み絞り弁が開くようになっている。
【0004】
特許文献1の空気圧縮機では、電動機の起動時に、吸込み絞り弁を閉状態とする。これにより、電動機の起動トルクを低減する。そして、電動機の起動後に、開閉弁を閉状態から開状態に切換えて、吸込み絞り弁を開く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、例えば低温環境下であれば、電動機の起動直後は、吸込み絞り弁内のグリス(潤滑油)の粘性が高いままである。このような理由等により、吸込み絞り弁の動作不良を起こす可能性がある。
【0007】
本発明は、上記事柄に鑑みてなされたものであり、吸込み絞り弁の操作力を一時的に高めて、吸込み絞り弁の動作不良を防止することを課題の一つとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、特許請求の範囲に記載の構成を適用する。本発明の空気圧縮機は、上記課題を解決するための手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、電動機と、前記電動機によって駆動され、空気を圧縮する圧縮機本体と、前記圧縮機本体の吸入側に設けられた吸込み絞り弁と、前記吸込み絞り弁の操作室と前記圧縮機本体の吐出側の間で接続された経路に設けられた電磁弁を有し、前記電磁弁によって前記吸込み絞り弁を開閉する操作回路と、前記電動機の回転数を可変するインバータと、前記インバータを介し前記電動機を制御すると共に、前記電磁弁を制御する制御装置とを備え、前記制御装置は、前記電動機の起動時に、前記吸込み絞り弁を閉状態とし、前記電動機の起動後に、前記電磁弁を制御して、前記圧縮機本体から吐出された圧縮空気の一部を前記操作室に導出することにより、前記吸込み絞り弁を開き、前記電動機が起動してから前記吸込み絞り弁が全開状態になるまでの間、予め定格回転数より高く設定された所定の回転数となるように、前記インバータを介し前記電動機の回転数を制御する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、吸込み絞り弁の操作力を一時的に高めて、吸込み絞り弁の動作不良を防止することができる。
【0010】
なお、上記以外の課題、構成及び効果は、以下の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態における空気圧縮機の構成を表す図であり、電動機の起動前の状態を示す。
【
図2】本発明の一実施形態における空気圧縮機の構成を表す図であり、電動機の起動時の状態を示す。
【
図3】本発明の一実施形態における空気圧縮機の構成を表す図であり、電動機が起動してから所定の時間t1が経過したときの状態を示す。
【
図4】本発明の一実施形態における空気圧縮機の構成を表す図であり、電動機が起動してから所定の時間t2が経過した後の状態を示す。
【
図5】本発明の第1の変形例における空気圧縮機の構成を表す図である。
【
図6】本発明の第2の変形例における空気圧縮機の構成を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態を、
図1~
図4を用いて説明する。
図1~
図4は、本実施形態における空気圧縮機の構成を表す図である。
図1は、電動機の起動前の状態を示し、
図2は、電動機の起動時の状態を示し、
図3は、電動機が起動してから所定の時間t1が経過したときの状態を示し、
図4は、電動機が起動してから所定の時間t2(但し、t2>t1)が経過した後の状態を示す。なお、
図1~
図4において、三方弁のポートの開状態を白抜きで示し、閉状態を黒塗りで示す。
【0013】
本実施形態の空気圧縮機は、電動機1と、電動機1によって駆動され、空気を圧縮する圧縮機本体2と、圧縮機本体2の吸入側に設けられた吸込み絞り弁3と、吸込み絞り弁3を開閉する操作回路4と、吸込み絞り弁3の上流側に設けられたフィルタ5と、圧縮機本体2の吐出側に設けられたプレクーラ6と、プレクーラ6の下流側に設けられたアフタークーラ7と、圧縮機本体2の吐出側(本実施形態では、プレクーラ6とアフタークーラ7の間)から分岐された放気経路8と、放気経路8に接続された放気弁9と、放気弁9の下流側に接続されたサイレンサ10とを備える。
【0014】
本実施形態の空気圧縮機は、電動機1の回転数を可変するインバータ11と、インバータ11を介し電動機1を制御する制御装置12と、制御装置12に接続されたユーザインターフェイス13とを備える。ユーザインターフェイス13は、例えば、運転スイッチ、停止スイッチ、及びディスプレイを有する。制御装置12は、例えば、プログラムを記憶するメモリと、プログラムに基づいて処理を実行するプロセッサとを有する。制御装置12は、運転スイッチの操作に応じて、インバータ11を介し電動機1を起動させ、停止スイッチの操作に応じて、インバータ11を介し電動機1を停止させる。
【0015】
圧縮機本体2は、例えば、互いに噛み合う雌雄一対のスクリューロータと、スクリューロータを互いに同期回転させる一対のタイミングギヤと、それらを収納するケーシングとを備えており、スクリューロータの歯溝に複数の作動室が形成されている。各作動室は、ロータの回転に伴ってロータの軸方向に移動すると共に、空気を吸入する吸入過程と、空気を圧縮する圧縮過程と、圧縮空気を吐出する吐出過程とを順次行う。
【0016】
電動機1と圧縮機本体2の間にはギヤ装置14が設けられている。ギヤ装置14は、電動機1の回転軸に設けられたブルギヤと、圧縮機本体2の駆動ロータ(詳細には、雌ロータ及び雌ロータのうちの一方)の端部に設けられ、ブルギヤと噛合うピニオンと、それらを収納するギヤケーシングとを有する。ブルギヤ及びピニオンなどを介し電動機1の回転力が伝達されて、圧縮機本体2が駆動される。プレクーラ6及びアフタークーラ7は、冷却風又は冷却水との熱交換により、圧縮機本体2から吐出された圧縮空気を冷却するようになっている。
【0017】
吸込み絞り弁3は、弁座15と、弁座15を開閉する弁体16と、弁体16に連結されたピストン17と、ピストン17を収納する操作室18とを有する。なお、本実施形態では、放気弁9の弁体19がピストン17に連結されており、放気弁9と吸込み絞り弁3が連動するようになっている。
【0018】
操作回路4は、吸込み絞り弁3の操作室18のポート20aに接続された経路21aと、吸込み絞り弁3の操作室18のポート20bに接続された経路21bと、圧縮機本体2の吸入側(詳細には、吸込み絞り弁3の弁座15の下流側)に接続された経路21cと、圧縮機本体2の吐出側(本実施形態ではアフタークーラ7の下流側)に接続された経路21dと、経路21dから分岐された経路21eと、3つのポートのうちの2つのポートが経路21a,21eにそれぞれ接続された三方弁22a(電磁弁)と、3つのポートが経路21b,21c,21dにそれぞれ接続された三方弁22b(電磁弁)とを有する。
【0019】
制御装置12は、上述した電動機1の制御と共に、三方弁22a,22bを介し吸込み絞り弁3及び放気弁9を制御する。詳しく説明すると、制御装置12は、電動機1の停止時(又は起動前)に、三方弁22aを制御(例えばOFF)して、吸込み絞り弁3の操作室18のポート20aと周囲を連通する。また、三方弁22bを制御(例えばOFF)して、吸込み絞り弁3の操作室18のポート20bと圧縮機本体2の吐出側を連通する。これにより、圧縮機本体2から吐出された圧縮空気の一部が吸込み絞り弁3の操作室18のポート20bに導出されて、ピストン17が図示左側に移動し、吸込み絞り弁3を閉じ、放気弁9を開く(
図1参照)。
【0020】
制御装置12は、吸込み絞り弁3を閉状態としたまま、電動機1を起動させる。これにより、電動機の起動トルクを低減する。但し、本実施形態では、圧縮機本体2が無給液式(詳細には、油又は水などの液体を作動室に注入することなく、空気を圧縮するもの)であり、給液式(詳細には、油又は水などの液体を作動室に注入することなく、空気を圧縮するもの)である場合と比べ、圧縮空気の温度が高くなりやすい。そのため、吸込み絞り弁3は、閉状態であっても弁座15と弁体16の間の隙間を有し、少量の空気の吸込みを可能にしている。これにより、圧縮比を抑えて、圧縮空気の温度を抑えるようになっている。
【0021】
制御装置12は、電動機1の起動とほぼ同時に、三方弁22bを制御(例えばON)して、吸込み絞り弁3の操作室18のポート20bと圧縮機本体2の吸入側を連通する(
図2参照)。電動機1の起動(すなわち、圧縮機本体2の起動)に伴い、圧縮機本体2の吸入側が負圧となるため、ピストン17が図示右側に少し移動する。
【0022】
制御装置12は、電動機1が起動してから所定の時間t1(例えば数秒)が経過したときに、三方弁22aを制御(例えばON)して、吸込み絞り弁3の操作室18のポート20aと圧縮機本体2の吐出側を連通する(
図3参照)。これにより、圧縮機本体2から吐出された圧縮空気の一部が吸込み絞り弁3の操作室18のポート20aに導出されて、ピストン17が図示右側に大きく移動する。これにより、吸込み絞り弁3が全開状態になる(
図4参照)。
【0023】
ここで、本実施形態の最も大きな特徴として、制御装置12は、電動機1が起動してから、吸込み絞り弁3が全開状態になるまでの間、すなわち、例えば所定の時間t2(例えば数十秒)が経過するまでの間、予め定格回転数より高く設定された所定の回転数となるように、電動機1の回転数を制御する。所定の時間t2が経過した後、定格回転数となるように、電動機1の回転数を制御する。
【0024】
以上のように本実施形態においては、電動機1の回転数を一時的に高めることにより、吸込み絞り弁3の操作室18のポート20aに導出される圧縮空気の圧力、すなわち、吸込み絞り弁3の操作力を一時的に高めることができる。したがって、例えば低温環境下でも、吸込み絞り弁3の動作不良を防止することができる。
【0025】
吸込み絞り弁3の操作力を高める別の方法として、ピストン17の断面積を大きくする方法が考えられるものの、吸込み絞り弁3の大型化を招く。本実施形態では、ピストン17の断面積を大きくする必要がなくなるため、吸込み絞り弁3の大型化を回避することができる。
【0026】
なお、上記一実施形態において、制御装置12は、電動機1が起動してから、吸込み絞り弁3が全開状態になるまでの間として、所定の時間t2が経過するまでの間、所定の回転数となるように、電動機1の回転数を制御する場合を例にとって説明したが、これに限られない。
【0027】
本発明の第1の変形例を、
図5を用いて説明する。
図5は、本変形例における空気圧縮機の構成を表す図である。なお、本変形例において、上記一実施形態と同等の部分は同一の符号を付し、適宜、説明を省略する。
【0028】
本変形例の空気圧縮機は、吸込み絞り弁3と圧縮機本体2の間の圧力を検出する圧力センサ23を備える。制御装置12は、圧力センサ23で検出された圧力が所定値以上となるときに、吸込み絞り弁3が全開状態になると認識する。そのため、制御装置12は、電動機1が起動してから、圧力センサ23で検出された圧力が所定値以上となるまでの間、所定の回転数となるように、電動機1の回転数を制御する。この変形例においても、上記一実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0029】
本発明の第2の変形例を、
図6を用いて説明する。
図6は、本変形例における空気圧縮機の構成を表す図である。なお、本変形例において、上記一実施形態と同等の部分は同一の符号を付し、適宜、説明を省略する。
【0030】
本変形例の空気圧縮機は、吸込み絞り弁3のピストン17のストローク(すなわち、弁体16のストローク)を検出するストロークセンサ24を備える。制御装置12は、ストロークセンサ24で検出されたストロークが所定値以上となるときに、吸込み絞り弁3が全開状態になると認識する。そのため、制御装置12は、電動機1が起動してから、ストロークセンサ24で検出されたストロークが所定値以上となるまでの間、所定の回転数となるように電動機1の回転数を制御する。この変形例においても、上記一実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0031】
なお、上記一実施形態及び変形例において、圧縮機本体2は、無給液式である場合を例にとって説明したが、これに限られず、給液式であってもよい。圧縮機本体2が給液式であれば、吸込み絞り弁3の閉状態は、全閉状態としてもよい。
【0032】
また、上記一実施形態及び変形例において、操作回路4は、圧縮機本体2から吐出された圧縮空気の一部を吸込み絞り弁3の操作室18のポート20a,20bにそれぞれ導出するための三方弁22a,22bを有する場合を例にとって説明したが、これに限られない。例えば、吸込み絞り弁3のピストン17を図示左側に付勢するバネを設けることにより、操作回路4は、圧縮機本体2から吐出された圧縮空気の一部を吸込み絞り弁3の操作室18のポート20aに導出するための三方弁22aのみを有してもよい。
【0033】
なお、以上において、圧縮機本体2は、スクリュー式であって、雌雄一対のスクリューロータを備えた場合を例にとって説明したが、これに限られない。圧縮機本体2は、例えば、1つのスクリューロータと複数のゲートロータを備えてもよい。また、圧縮機本体2は、スクリュー式以外の他の方式であってもよい。
【0034】
空気圧縮機は、1段の圧縮機本体2を備えた場合を例にとって説明したが、これに限られず、2段以上の圧縮機本体を備えてもよい。
【符号の説明】
【0035】
1…電動機、2…圧縮機本体、3…吸込み絞り弁、4…操作回路、11…インバータ、12…制御装置、16…弁体、18…操作室、22a,22b…三方弁(電磁弁)、23…圧力センサ、24…ストロークセンサ