(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】抗菌・抗ウイルス性シート
(51)【国際特許分類】
A01N 59/16 20060101AFI20240828BHJP
A01N 25/34 20060101ALI20240828BHJP
A01N 55/10 20060101ALI20240828BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20240828BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20240828BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20240828BHJP
【FI】
A01N59/16 A
A01N25/34 A
A01N55/10 100
A01P1/00
A01P3/00
B32B27/18 F
(21)【出願番号】P 2021062695
(22)【出願日】2021-04-01
【審査請求日】2024-01-09
(73)【特許権者】
【識別番号】510045438
【氏名又は名称】TBカワシマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大原 弘平
(72)【発明者】
【氏名】藤田 和博
(72)【発明者】
【氏名】大石 貴之
(72)【発明者】
【氏名】福井 竜也
(72)【発明者】
【氏名】竹田 麻希
【審査官】鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-077638(JP,A)
【文献】国際公開第2014/102980(WO,A1)
【文献】特開平11-147927(JP,A)
【文献】国際公開第2017/150063(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第102669179(CN,A)
【文献】特開平07-067758(JP,A)
【文献】実開平07-009996(JP,U)
【文献】特開2020-152111(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0202656(US,A1)
【文献】特許第6877665(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
B32B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
裏布の片面側に、ポリ塩化ビニル又はポリウレタンからなる基材層を有しており、当該基材層の上には、銀イオンが担持されたリン酸ジルコニウムを含むウレタン系樹脂からなる抗菌剤含有層が積層され、更に前記抗菌剤含有層の上に、抗ウイルス剤を含む抗ウイルス剤含有層が積層されており、前記抗ウイルス剤含有層が、メトキシシラン系第4級アンモニウム塩を含む抗ウイルス剤と、バインダーとしてのカルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有する水系ウレタン樹脂と、分散剤としての水溶性有機高分子と、浸透剤としてのポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含む層であることを特徴とする抗菌・抗ウイルス性シート。
【請求項2】
前記抗菌剤含有層中の、前記銀イオンが担持されたリン酸ジルコニウムの含有量が1~50重量%であり、しかも、前記抗ウイルス剤含有層中の、前記抗ウイルス剤の含有量が0.5~30重量%であることを特徴とする請求項1に記載の抗菌・抗ウイルス性シート。
【請求項3】
前記水溶性有機高分子が、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプン、ウレタン変性ポリエーテル、キサンタンガム、ポリビニルアルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種の高分子であることを特徴とする請求項1又は2に記載の抗菌・抗ウイルス性シート。
【請求項4】
前記メトキシシラン系第4級アンモニウム塩が、下記式(1)で表される構造の化合物であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の抗菌・抗ウイルス性シート。
【化1】
【請求項5】
前記基材層がポリ塩化ビニルからなる層であり、当該基材層と前記抗菌剤含有層との間に更に、ウレタン系樹脂からなる層または、ウレタン系樹脂とアクリル系樹脂の混合物からなる黄変防止層が設けられていることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の抗菌・抗ウイルス性シート。
【請求項6】
前記裏布の片面側に接着樹脂層を介して前記基材層が積層されていることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の抗菌・抗ウイルス性シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌・抗ウイルス性シート、特に、摩耗試験後においても優れた抗菌・抗ウイルス性を発揮するシート(ポリ塩化ビニル(PVC)合成皮革、ポリウレタン(PU)合成皮革)に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境衛生に対する意識の高まりと関連して、多くの抗菌・抗ウイルス剤や、抗菌・抗ウイルス剤を付与した素材が開発されてきた。ケイ素を含む抗菌剤・抗ウイルス剤として、加水分解可能な基を含むオルガノシラン化合物が公知である。これらの中で、素材の表面に固定化可能な抗ウイルス剤として、エトキシシラン系第4級アンモニウム塩が知られている(特許文献1)。この抗ウイルス剤は、分子中に、抗ウイルス性を発現する比較的長鎖のアルキル基を有するアンモニウム基と、素材の表面と共有結合を形成し得るアルコキシシリル基とを有しており、アルコキシシリル基が、無機材料等の表面に存在するヒドロキシル基等の含酸素官能基と反応し、共有結合を形成することによって、材料の表面に強固に固定化されるという特徴がある。
【0003】
一方、前記の抗ウイルス剤を、表面に含酸素官能基を有さない物品、例えばポリエステル繊維等の合成繊維やポリプロピレン等の樹脂材料等に固定化する場合には、前処理の工程が必要とされていた。特許文献1には、物品の表面に含酸素官能基を付与するために、抗ウイルス剤を付与する前に、物品に対してオゾン水処理を行うことも開示されている。
【0004】
また特許文献2には、合成樹脂の物品に前記の抗ウイルス剤を固定化する場合、抗ウイルス剤の固定化に先立ってプラズマ処理を行うことによって、合成樹脂がポリメタクリル酸メチル樹脂やポリエチレンテレフタレート樹脂である場合にも、抗ウイルス剤を効率的に固定化できることが開示されている。また特許文献3には、上記の抗ウイルス剤を物品の表面に固定化するために、オゾン水処理のほか、マイクロ波照射を行うことが記載されている。オゾン水処理及びマイクロ波照射はいずれも、物品の表面に-OH基や-CHO基(アルデヒド基)、又は-O-基等を生じさせるために行われている。
【0005】
さらに特許文献4には、上記の抗ウイルス剤を合成繊維に固定化するために、抗ウイルス剤の固定化処理に先立って、合成繊維にカルボキシル基を有するバインダーを付与することが開示されている。特許文献4の発明によれば、ポリエステル繊維などの合成繊維等に対して、好適に抗ウイルス剤を付与できる。
【0006】
また、特許文献5には、メトキシシラン系第4級アンモニウム塩を含む抗ウイルス剤と、特定のアクリル酸系の樹脂成分との相溶性を検証することにより、1回の加工で処理できる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-98976号公報
【文献】特開2007-126557号公報
【文献】WO2009/136561号公報
【文献】WO2013/047642号公報
【文献】特許第6482099号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のとおり、メトキシシラン系又はエトキシシラン系第4級アンモニウム塩を物品の表面に固定化するために様々な方法が提案されているが、プラズマ処理を行うためにはプラズマ処理装置が必要となり、また、オゾン水処理やマイクロ波照射を行うためには、それぞれオゾン水を供給する設備や、マイクロ波を発生させるための専用の設備が必要となっていた。
また、PUまたはPVCからなる基材層の表面に、メトキシシラン系第4級アンモニウム塩を含むウレタン樹脂層(抗ウイルス層)を設けた場合、シート表面の摩耗耐久性が良くないために、摩耗試験後に抗菌・抗ウイルス性が低下するという問題があった。
更に、PVCからなる基材層の場合には、抗ウイルス層中のメトキシシラン系又はエトキシシラン系第4級アンモニウム塩と、基材層の塩化ビニルの塩素とが反応することにより黄変色が発生するという問題点もあった。
【0009】
このような状況に鑑み、本発明は、摩耗試験を行った際にも抗菌・抗ウイルス性の低下を起こすことがなく、基材層がPVCからなる層である場合にも、基材層の黄変色を防止することが可能な抗菌・抗ウイルス性シート(PVC合成皮革、PU合成皮革)を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、上記課題について検討を行った結果、ポリ塩化ビニル又はポリウレタンからなる基材層の表面に、当該基材層と抗ウイルス剤とが直接接触しないようにするための中間層として、銀イオン(Ag+)を担持させたリン酸ジルコニウムを含むウレタン系樹脂からなる層(抗菌剤含有層)を設け、更に、この層の上に、ポリウレタン樹脂中にメトキシシラン系4級アンモニウム塩を含む抗ウイルス剤が分散された層(抗ウイルス剤含有層)を設け、この際、バインダーとして、カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有する水系ポリウレタン樹脂を使用し、分散剤として水溶性有機高分子を配合し、浸透剤としてポリオキシアルキレンアルキルエーテルを配合すると、摩耗試験後においても良好な抗菌・抗ウイルス活性が維持されることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
なお、本明細書中で「カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有する」とは、組成物中や布帛の表面に存在するカルボキシル基が、解離していないフリーのカルボキシル基(-COOH)として存在する場合だけでなく、末端の水素原子が離脱してカルボキシレートアニオンになっている場合やカルボキシレートアニオンと抗ウイルス剤分子とが化学的に結合している場合も、特に断りのない限り、含むものとする。
【0012】
すなわち、本発明は次の構成を有する。
[1]裏布の片面側に、ポリ塩化ビニル又はポリウレタンからなる基材層を有しており、当該基材層の上には、銀イオンが担持されたリン酸ジルコニウムを含むウレタン系樹脂からなる抗菌剤含有層が積層され、更に前記抗菌剤含有層の上に、抗ウイルス剤を含む抗ウイルス剤含有層が積層されており、前記抗ウイルス剤含有層が、メトキシシラン系第4級アンモニウム塩を含む抗ウイルス剤と、バインダーとしてのカルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有する水系ウレタン樹脂と、分散剤としての水溶性有機高分子と、浸透剤としてのポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含む層であることを特徴とする抗菌・抗ウイルス性シート。
[2]前記抗菌剤含有層中の、前記銀イオンが担持されたリン酸ジルコニウムの含有量が1~50重量%であり、しかも、前記抗ウイルス剤含有層中の、前記抗ウイルス剤の含有量が0.5~30重量%であることを特徴とする、[1]に記載の抗菌・抗ウイルス性シート。
[3]前記水溶性有機高分子が、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプン、ウレタン変性ポリエーテル、キサンタンガム、ポリビニルアルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種の高分子であることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の抗菌・抗ウイルス性シート。
【0013】
[4]前記メトキシシラン系第4級アンモニウム塩が、下記式(1)で表される構造の化合物であることを特徴とする、[1]~[3]のいずれか1項に記載の抗菌・抗ウイルス性シート。
【0014】
【0015】
[5]前記基材層がポリ塩化ビニルからなる層であり、当該基材層と前記抗菌剤含有層との間に更に、ウレタン系樹脂からなる層または、ウレタン系樹脂とアクリル系樹脂の混合物からなる黄変防止層が設けられていることを特徴とする、[1]~[4]のいずれか1項に記載の抗菌・抗ウイルス性シート。
[6]前記裏布の片面側に接着樹脂層を介して前記基材層が積層されていることを特徴とする、[1]~[5]のいずれか1項に記載の抗菌・抗ウイルス性シート。
【発明の効果】
【0016】
本発明の抗菌・抗ウイルス性シートは、ポリウレタン又はポリ塩化ビニルからなる基材層の表面側に、銀イオンが担持されたリン酸ジルコニウムを含むウレタン系樹脂からなる抗菌剤含有層が設けられ、当該抗菌剤含有層の表面に、メトキシシラン系第4級アンモニウム塩を含む抗ウイルス剤含有層が積層された層構成を有することによって、摩耗試験を行った後においても優れた抗菌性・抗ウイルス性が発揮される。
特に、基材層が、ポリ塩化ビニルからなる基材層の場合、基材層と抗ウイルス剤含有層との間に抗菌剤含有層が存在することによって、メトキシシラン系第4級アンモニウム塩と、ポリ塩化ビニルの塩素(Cl)との接触を防止することができ、メトキシシラン系第4級アンモニウム塩と、塩素との反応による黄変色の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の抗菌・抗ウイルス性シート(基材層:ポリウレタン又はポリ塩化ビニルからなる層)の層構成の一例を示す図である。
【
図2】本発明の抗菌・抗ウイルス性シート(基材層:ポリ塩化ビニルからなる層)の層構成の一例を示す図である。
【
図3】本発明の抗菌・抗ウイルス性シート(基材層:ポリウレタン又はポリ塩化ビニルからなる層)を製造する際の工程の一例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の抗菌・抗ウイルス性シートは、
図1に示されるようにして、裏布1の片面側に、ポリ塩化ビニル又はポリウレタンからなる基材層3を有しており、当該基材層3の上に、銀イオンが担持されたリン酸ジルコニウムを含むウレタン系樹脂からなる抗菌剤含有層4が積層され、更に前記抗菌剤含有層4の上に、抗ウイルス剤を含む抗ウイルス剤含有層5が積層された層構成を有する。
そして、前記の抗ウイルス剤含有層5は、メトキシシラン系第4級アンモニウム塩を含む抗ウイルス剤と、バインダーとしてのカルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有する水系ウレタン樹脂と、分散剤としての水溶性有機高分子と、浸透剤としてのポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含有する。
【0019】
本発明の抗菌・抗ウイルス性シートにおける裏布1は特に限定されるものではなく、市販のものが広く使用でき、例えばポリエステルファブリック(目付:100~400g/m
2程度)が好ましい。
又、本発明では、
図1に示されるようにして、裏布1の片面側に接着樹脂層2を介して基材層3が積層されていることが好ましく、この際、接着樹脂層2を形成する接着性樹脂の種類は特に限定されない。この接着樹脂層2の厚みは20~300μm程度が一般的である。
【0020】
上記の接着樹脂層2の上に積層される基材層3は、ポリ塩化ビニル樹脂又はポリウレタン樹脂を塗布することにより形成された層であることが好ましく、ポリ塩化ビニル樹脂の塗布量については、WETで200~500g/m2が好ましく、ポリウレタン樹脂の塗布量については、WETで200~300g/m2が好ましく、乾燥後の基材層3の厚みは10~500μm程度が一般的である。
【0021】
本発明では、上記基材層3の上に、銀イオンが担持されたリン酸ジルコニウムを含むウレタン系樹脂からなる抗菌剤含有層4が積層されており、この抗菌剤含有層4は、抗菌性性能を発揮する層として機能するだけでなく、基材層3がポリ塩化ビニル樹脂からなる層である場合に、基材層3中の塩素(Cl)と、後述する抗ウイルス剤含有層5中の抗ウイルス剤(メトキシシラン系第4級アンモニウム塩)との接触を防止し、基材層が黄変するのを防止する働きがある。
【0022】
本発明では、抗菌剤含有層4に含まれる抗菌剤として、例えば特許第5354012号公報に記載される銀系無機抗菌剤(銀イオン担持リン酸ジルコニウム、東亜合成株式会社製の商品名:ノバロン(登録商標))が好ましい。
上記公報に記載される銀系無機抗菌剤は、 ピロリン酸ジルコニウム(ZrP2O7)を含有する下記式〔1〕で示され、粉末X線回折図において、2θが20.0°~20.2°のX線回折ピークの強度を100とした場合、2θ=21.3°~21.5°のX線回折ピークの相対強度は5~50である。
AgaMbZrcHfd(PO4)3・nH2O 〔1〕
(式〔1〕において、Mはアルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、水素イオン、オキソニウムイオンから選ばれる少なくとも1種のイオンであり、a、b、cおよびdは正数であり、1.75<(c+d)<2.2、a+b+4(c+d)=9を満たす数であり、nは2以下である。)
【0023】
本発明における抗菌剤含有層4中の抗菌剤の含有割合は1~50重量%であることが好ましく、2~30重量%であることがより好ましく、5~25重量%であることが特に好ましい。この抗菌剤含有層4は、銀イオン担持リン酸ジルコニウムが分散されたウレタン系樹脂溶液(後述する実施例における表層部から2層目の処理薬剤)を塗布することにより形成され、当該溶液の塗布量は、WETで40~50g/m2が好ましく、乾燥後の抗菌剤含有層4の厚みは1~10μm程度が一般的である。
【0024】
本発明の抗菌・抗ウイルス性シートでは、上記の抗菌剤含有層4の上に更に、抗ウイルス性を発揮する層として、メトキシシラン系第4級アンモニウム塩を含む抗ウイルス剤と、バインダーとしてのカルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有する水系ウレタン樹脂と、分散剤としての水溶性有機高分子と、浸透剤としてのポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含む抗ウイルス剤含有層5が積層されている。
この抗ウイルス剤含有層5中の抗ウイルス剤の含有割合は0.5~30重量%であることが好ましく、1~15重量%であることがより好ましく、3~10重量%であることが特に好ましい。尚、このウイルス剤含有層5は、メトキシシラン系第4級アンモニウム塩を含むウレタン系樹脂溶液(後述する実施例における表層部処理薬剤)を塗布することにより形成され、当該溶液の塗布量は、WETで40~50g/m2が好ましく、乾燥後のウイルス剤含有層5の厚みは1~10μm程度が一般的である。
【0025】
本発明の抗菌・抗ウイルス性シートにおける抗ウイルス剤含有層5に含まれる抗ウイルス剤は、メトキシシラン系第4級アンモニウム塩を含む抗ウイルス剤であり、このメトキシシラン系第4級アンモニウム塩は、抗ウイルス性を発現する比較的長鎖のアルキル基を有するアンモニウム基と、布帛表面のバインダーと共有結合を形成し得るアルコキシシリル基とを有している。メトキシシラン系第4級アンモニウム塩として具体的には、下記一般式(2)で表される化合物がある。
【0026】
【化2】
(式(2)中、R
1は炭素原子数12~24のアルキル基を示し、R
2及びR
3は同一又は異なっていてもよい炭素原子数1~6の低級アルキル基を示し、Xはハロゲンイオン又は有機カルボニルオキシイオン(有機カルボン酸イオン)を示す。)
【0027】
式(2)中のXとしては、塩素イオン、臭素イオンなどのハロゲンイオン、メチルカルボニルオキシイオン(アセテートイオン)、エチルカルボニルオキシイオン(プロピオネートイオン)、フェニルカルボニルオキシイオン(ベンゾエートイオン)などの有機カルボニルオキシイオン(有機カルボン酸イオン)を例示することができる。
【0028】
式(2)中のR1の炭素原子数12~24のアルキル基としては、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基、ウンエイコシル基、ドエイコシル基、トリエイコシル基、テトラエイコシル基などが例示できる。
【0029】
式(2)中のR2及びR3の同一又は異なっていてもよい炭素原子数1~6の低級アルキル基としては、たとえば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基、シクロヘクシル基などを例示することができる。
【0030】
上記一般式(2)で表されるメトキシシラン系第4級アンモニウム塩の具体例としては、オクタデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ドデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ドデシルジイソプロピル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、テトラデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、テトラデシルジエチル(3-トリメトキシシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、テトラデシルジ-n-プロピル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ペンタデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ペンタデシルジエチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ペンタデシルジ-n-プロピル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ヘキサデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ヘキサデシルジエチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ヘキサデシルジ-n-プロピル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジエチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジ-n-プロピル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド等が挙げられ、これらの中でも、より抗ウイルス性の観点からオクタデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド(下記化学式(1))が好ましい。
【0031】
【0032】
上記の抗ウイルス剤は、上記のメトキシシラン系第4級アンモニウム塩の1種又は2種以上であってもよいし、さらに他の抗ウイルス剤と併用することもできる。上記のメトキシシラン系第4級アンモニウム塩は、グラム陽性菌、グラム陰性菌に対する抗菌(制菌)効果、及び、インフルエンザウイルス、はしかウイルス等のエンベロープウイルスに対しても抗ウイルス作用を有している(以後、抗菌効果及び抗ウイルス効果をまとめて、抗ウイルス効果ということがある。)。さらに、抗ウイルス効果以外にも、制電効果、防臭効果も同時に有するものと考えられている。
【0033】
上記の抗ウイルス剤の濃度は、抗ウイルス剤含有層を形成する際に使用される樹脂液中において安定に維持され、本発明の効果が得られる限り特に制限されないが、例えば、水等を用いて希釈を行う前の未希釈の状態で0.01~50重量%含まれるものとでき、10~45重量%含まれていればより好ましい。
【0034】
本発明の抗菌・抗ウイルス性シートにおける抗ウイルス剤含有層5を構成するバインダーとしてのウレタン樹脂(カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有する水系ウレタン樹脂)は、ポリイソシアネート化合物、ポリオール化合物、カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するジオール化合物を反応して得られるイソシアネート基末端プレポリマーの中和物を水分散させたのち、アミン系鎖伸長剤を用いて水中で鎖伸長反応して得られる。
【0035】
上記のポリイソシアネート化合物に特に制限はなく、例えば、芳香族ポリイソシアネート化合物、脂肪族ポリイソシアネート化合物、脂環式ポリイソシアネート化合物などを挙げることができる。芳香族ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トルエンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどを挙げることができる。脂肪族ポリイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)などを挙げることができる。脂環式ポリイソシアネート化合物としては、例えば、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロへキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、ノルボルナンジイソシアネートなどを挙げることができる。これらのポリイソシアネート化合物は、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
このようなポリイソシアネートの中でも、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環式ポリイソシアネート化合物は、無黄変性をPVC合成皮革やPU合成皮革に与えるので好適に用いることができ、特にヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキルメタンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート及び、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンを好適に用いることができる。
【0036】
また、ポリオール化合物としては、ポリエーテルポリオールやポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールなどを挙げることができる。これらのポリオール化合物は、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることもできる。PVC合成皮革、PU合成皮革の耐摩耗性が良好となることからポリカーボネートポリオールを用いることが望ましい。
また、ポリオール化合物は数平均分子量1,000~3,000であることが好ましい。数平均分子量がその範囲であるとPVC合成皮革、PU合成皮革の外観品位と耐摩耗性とが良好となる。
【0037】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、またはそれらのブロックもしくはランダム共重合からなるポリオールなどを挙げることができる。
【0038】
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、あるいはビスフェノールAのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド付加物、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等から選ばれる1種または2種以上のポリオール類;と、ジエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジフェニルカーボネート等から選ばれる1種または2種以上のカーボネート類との脱アルコール反応、脱フェノール反応等で得られるものが挙げられる。上記ポリカーボネートポリオールは、1種を単独で用いることができ、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、コハク酸、マロン酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4-シクロヘキシルジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸等から選ばれる1種または2種以上の二塩基酸と、前述のポリカーボネートポリオールの合成に用いられる1種または2種以上のポリオール類との重縮縮合反応により得られるものが挙げられる。上記ポリエステルポリオールは、1種を単独で用いることができ、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するジオール化合物としては、例えば、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、及びこれらの塩を挙げることができる。さらに、このようなジオール化合物として、カルボキシル基を有するジオール化合物と、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸等とを反応させて得られるペンダント型カルボキシル基を有するポリエステルポリオールを用いることもできる。なお、前記カルボキシル基を有するジオール化合物に、ジオール成分としてカルボキシル基を有さないジオール化合物を混合して反応させても良い。これらのジオール化合物は、1種を単独で用いることができ、あるいは、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0041】
また、ポリウレタン樹脂中のカルボキシル基の含有量は、抗ウイルス剤の固着性または抗ウイルス剤との相溶性の観点から、ポリウレタン中のカルボキシル基及び/又はカルボキシレート基の含有量が0.5質量%~4.0質量%の範囲が好ましい。カルボキシル基の含有量が4.0質量%を超えた場合、PVCシート、PUシートの風合いが硬くなる、屈曲時に白化が生じやすくなるなどの恐れがある。また0.5質量%以下の場合はポリウレタン樹脂の貯蔵安定性が低下するため安定的な加工ができない恐れがある。
【0042】
前記のイソシアネート基末端プレポリマーを調製する際に、必要に応じて鎖伸長剤を用いることができる。使用する鎖伸長剤としては、例えば、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトールなどの低分子量多価アルコール、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヒドラジン、4,4'-ジアミノジシクロへキシルメタン、ピペラジン、2-メチルピペラジン、イソホロンジアミン、ノルボランジアミン、ジアミノジフェニルメタン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミンなどの低分子量ポリアミンなどを挙げることができる。これらの鎖伸長剤は、1種を単独で用いることができ、あるいは、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0043】
尚、本発明の抗菌・抗ウイルス性シートにおける抗ウイルス剤含有層5を構成するウレタン樹脂は、例えば、特開2006-206839号公報に開示されたリン系化合物を難燃成分として含む難燃剤ブレンドウレタン系樹脂であってもよい。
【0044】
上記の抗ウイルス剤含有層5を形成させる際に用いられるウレタン樹脂液中には、抗ウイルス剤とウレタン樹脂を同一液中に分散させるための分散剤として水溶性有機高分子が配合されており、このような水溶性有機高分子としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプン、ウレタン変性ポリエーテル、キサンタンガム、ポリビニルアルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種の高分子であることが好ましく、特にウレタン変性ポリエーテルまたはキサンタンガムが好ましい。
本発明において、上記の抗ウイルス剤含有層5中の分散剤の含有割合は、1~15重量%であることが好ましく、3~10重量%であることがより好ましい。
ウレタン変性ポリエーテルとしては、末端に疎水基を有し、分子鎖中にウレタン結合を有するウレタン変性ポリエーテルが含有されてもよく、例えば特許第3972234号、または、特許第4528908号に記載されているウレタン変性ポリエーテル:
【0045】
R1-X-(PEG-X-R2-X)m-PEG-X-R1'
(R1,R1':炭素数8~36のアルキル基あるいは芳香環を有する炭化水素基でR1とR1'は同一でも異なっていても良い、R2:NCO基を除く炭素数6~36のジイソシアネート残基、X:ウレタン結合、PEG:分子量1,500~33,000のポリエチレングリコール残基、m:0以上の整数);
【0046】
R1-Y-R2-(X-PEG-X-R3)m-X-PEG-X-R2-Y-R1'
(R1,R1':炭素数8~36のアルキル基あるいは芳香環を有する炭化水素基でR1とR1'は同一でも異なっていても良い、R2,R3:NCO基を除く炭素数6~36のジイソシアネート残基でR2とR3は同一でも異なっていても良い、X:ウレタン結合、Y:ウレタン結合あるいはウレア結合、PEG:分子量1,500~33,000のポリエチレングリコール残基、m:0以上の整数);
【0047】
R1-(OA)p-X-R2-(X-PEG-X-R3)m-X-(AO)q-R1'
(R1,R1':炭素数8~36のアルキル基あるいは芳香環を有する炭化水素基でR1とR1'は同一でも異なっていても良い、R2,R3:NCO基を除く炭素数6~36のジイソシアネート残基でR2とR3は同一でも異なっていても良い、X:ウレタン結合、A:炭素数2~4の炭化水素で少なくともエチレンを含む炭化水素残基、m:0以上の整数、p,q:1~200の整数でpとqは同一でも異なっていても良い);
【0048】
【0049】
(R1,R1',R1":炭素数8~36のアルキル基あるいは芳香環を有する炭化水素基で、R1、R1'とR1"は同一でも異なっていても良い、R4:NCO基を除く多官能ポリイソシアネート残基、A:炭素数2~4の炭化水素で少なくともエチレンを含む炭化水素残基、X:ウレタン結合、i,j,k:0以上の整数でかつ(i+j+k)が3以上の整数、p,q,r:1~200の整数で、p、qとrは同一でも異なっていても良い);
【0050】
【0051】
(R1,R1',R1":炭素数8~36のアルキル基あるいは芳香環を有する炭化水素基で、R1、R1'とR1"は同一でも異なっていても良い、R4:NCO基を除く多官能ポリイソシアネート残基、A:炭素数2~4の炭化水素で少なくともエチレンを含む炭化水素残基、X:ウレタン結合、Y:ウレタン結合あるいはウレア結合、i,j,k:0以上の整数でかつ(i+j+k)が3以上の整数、p,q:1~200の整数で、pとqは同一でも異なっていても良い);
【0052】
【0053】
(R1,R1',R1":炭素数8~36のアルキル基あるいは芳香環を有する炭化水素基で、R1、R1'とR1"は同一でも異なっていても良い、R5:活性水素を除く多官能ポリオールあるいはポリアミン残基、A:炭素数2~4の炭化水素で少なくともエチレンを含む炭化水素残基、X:ウレタン結合、i,j,k:0以上の整数でかつ(i+j+k)が3以上の整数、p,q,r:1~200の整数で、p、qとrは同一でも異なっていても良い);
【0054】
下記の一般式(3)で示される重量平均分子量10,000以上40,000未満の化合物Aが20質量%以上80質量%未満と、一般式(4)で示される重量平均分子量40,000以上140,000未満の化合物Bが20質量%以上80質量%未満とを必須成分として含有することを特徴とする組成物:
【0055】
【0056】
(式中、X1、X2は炭素数15~24の炭化水素基であり、Yはジイソシアネート化合物から導かれる2価の有機残基であり、OR、OR’、OR”は炭素数2~4のオキシアルキレン基であり、a,b,dは1~500の整数であり、cは1以上の整数である。)
【0057】
【0058】
(式中、X3、X4は炭素数4~24の炭化水素基であり、Yはジイソシアネート化合物から導かれる2価の有機残基であり、OR、OR’、OR”は炭素数2~4のオキシアルキレン基であり、a,b,dは1~500の整数であり、cは1以上の整数。)
等が挙げられる。
【0059】
更に、本発明の抗菌・抗ウイルス性シート(PVC合成皮革、PU合成皮革)において最表層に位置する抗ウイルス剤含有層5には、菌やウイルスとの接触性を向上させ、抗菌性・抗ウイルス性の向上を図る目的で、浸透剤としてポリオキシアルキレンアルキルエーテルが配合されており、抗ウイルス剤含有層5中に含まれる上記浸透剤の量は、0.1~ 10重量%であることが好ましく、0.2~5重量%がより好ましく、0.3~2重量%が特に好ましい。尚、浸透剤として適したポリオキシアルキレンアルキルエーテルは市販品が使用でき、例えば三洋化成株式会社から市販されている商品名:サンノニックFN-140等が挙げられる。
また、この抗ウイルス剤含有層5には、各種の添加剤等が含まれていてもよく、例えば、本発明の効果を妨げない限りにおいて、乳化剤、増粘剤、防腐剤、緩衝材、pH調整剤等が含まれていてもよい。
【0060】
本発明では、前記の基材層3がPVC樹脂からなる層である場合、
図2に示されるようにして、基材層3と抗菌剤含有層4との間に更に、ウレタン系樹脂からなる層または、ウレタン系樹脂とアクリル系樹脂の混合物からなる黄変防止層6を設けることが好ましく、このような黄変防止層6を設けることによって、基材層3を構成するPVCの塩素と、抗ウイルス剤含有層5中のメトキシシラン系第4級アンモニウム塩との接触が防止され、基材層の黄変を防止する効果が一層高まる。
尚、この黄変防止層6は、上記の樹脂を含有する溶液を塗布することにより形成され、当該溶液の塗布量はWETで20~30g/m
2が好ましく、乾燥後の黄変防止層6の厚みは0.5~6μm程度が一般的である。
【0061】
次に、本発明の抗菌・抗ウイルス性シート(PVC合成皮革、PU合成皮革)を製造する際の工程について説明する。
図3には、本発明の抗菌・抗ウイルス性シートの製造工程の一例が示されており、まず最初に、離型紙(凹凸柄のある紙であってもよい)の表面に表皮樹脂(PVC樹脂又はPU樹脂)を塗布し、乾燥を行って基材層を設け、次に、当該基材層の表面にさらに接着性を有する樹脂(接着樹脂)を塗布して乾燥を行った後、当該接着樹脂の塗布面に基布(裏布)と貼り合わせ、ロール状に巻き取る。
その後、巻き取った状態のまま1日以上養生して接着性樹脂を硬化させ、離型紙を剥離して合皮シートを得た後、基材層の表面に、銀イオンが担持されたリン酸ジルコニウムを含むウレタン系樹脂コーティング液を塗布し、乾燥を行って抗菌剤含有層を形成させる。
そして、この抗菌剤含有層の表面に更に、抗ウイルス剤(メトキシシラン系第4級アンモニウム塩)と、分散剤(水溶性有機高分子)と、浸透剤(ポリオキシアルキレンアルキルエーテル)と、水系ウレタン樹脂を含むコーティング液を塗布し、乾燥を行い、抗ウイルス剤含有層を形成させると、
図1に示される層構成を有した本発明の抗菌・抗ウイルス性シートが製造できる。
【0062】
尚、本発明では、基材層がPVC樹脂からなる層である場合、離型紙を剥離した後の合皮シートの表面に、ウレタン系樹脂を含むコーティング液または、ウレタン系樹脂とアクリル系樹脂を含むコーティング液を塗布し、乾燥を行って黄変防止層を形成させてから、この黄変防止層の上に、上記のコーティング液を塗布して、抗菌剤含有層及び抗ウイルス剤含有層を順次形成させることが好ましく、このような工程により、
図2に示される層構成を有した本発明の抗菌・抗ウイルス性シートが製造できる。
以下、本発明の実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【実施例】
【0063】
以下の実施例及び比較例においては、抗菌剤含有層及び抗ウイルス剤含有層を形成するためのコーティング液(処理薬剤)を構成する成分(表1に記載される各成分)として、下記のものを合成又は準備した。
【0064】
〔水系ポリウレタン組成物Aの合成〕
攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹込み管を備えた4ツ口フラスコに、1,6-ヘキサンジオールポリカーボネートポリオール(分子量1,000)225.7g、DMPA(ジメチロールプロピオン酸)10.5g、TMP(トリメチロールプロパン)1.6g、溶媒としてメチルエチルケトン114.5gを量り取り、均一に混合した後、ポリイソシアネートとしてとしてH12MDI(ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート)105.6gを加え、80±5℃で180分間反応させ、イソシアネート基の含有量が1.48質量%である末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。その後60℃でトリエチルアミン7.5gを加え中和反応を行う。次に水643.2gを徐々に加えて攪拌し、前記末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを乳化分散させた。この乳化分散液に、ヒドラジン一水和物を8.1g及びジエチレントリアミン1.7gを水29.2gに溶解したポリアミン水溶液を添加し、40±5℃で90分間攪拌した後、減圧下に40℃で脱溶剤(脱メチルエチルケトン)を行い、得量:1kg、ポリウレタン不揮発分:35.0%、の水系ポリウレタン組成物Aを得た。
【0065】
〔水系アクリル組成物aの合成〕
温度計、撹拌機、滴下装置、還流冷却管及び窒素導入管を備えた反応装置に、イオン交換水28部を秤量し、窒素を封入して内温を80℃まで昇温させた。そして、その温度に保ちながら、10%濃度の過硫酸アンモニウム水溶液2部を添加し、直ちに、別に準備しておいた、下記のようにして調製した単量体乳化物を連続的に4時間滴下して乳化重合した。上記で用いた単量体乳化物は、アクリル酸32部、アクリル酸エチル45部、アクリル酸ブチル23部の単量体混合物に、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(花王株式会社製、商品名:ラテムルE-118B)4部とイオン交換水30部を混合し、乳化することで調製した。また、この単量体乳化物の滴下に並行して、5%濃度の過硫酸アンモニウム水溶液4部を滴下した。滴下終了後、80℃で4時間熟成し、その後、室温まで冷却した。最後に、アンモニア水で中和し、固形分を水で調整して、固形分60%である水系アクリル組成物aを得た。
【0066】
上記の組成物を合成する他、以外の成分を準備した。
・水系ポリウレタン組成物B:ラックコートWN(セイコー化成社製) 固形分濃度:15重量%
・抗ウイルス剤:3-(トリメトキシシリル)プロピルジメチルオクタデシルアンモニウムクロライドのメタノール溶液 固形分濃度:40重量%
・フィラー:ACEMATT TS-100(EVONIK社製、平均粒子径:10μm)
・浸透剤:ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(三洋化成社製、商品名:サンノニックFN-140)
・消泡剤:フォームレックス747(日華化学社製) 固形分濃度:50重量%
・レベリング剤:ディスパロン AQ-7120(楠本化成社製)
・ウレタン変性ポリエーテル:ネオステッカー N(日華化学社製) 固形分濃度:30重量%
・イソシアネート系架橋剤 固形分濃度:20重量%
・抗菌剤:Ag+担持リン酸ジルコニウム(ノバロン(登録商標))(東亜合成社製)
【0067】
[実施例1]
上記の各成分を用いて、以下の表1に記載される組成を有する処理薬剤(抗ウイルス剤含有層を形成するための表層部処理薬剤I及び、抗菌剤含有層を形成するための、表層部から2層目の処理薬剤II)を調製した。尚、表層部処理薬剤I中の全固形分に対する抗ウイルス剤(メトキシシラン系第四級アンモニウム塩)の割合は約4重量%であり、表層から2層目の層を形成する処理薬剤II中の全固形分に対する抗菌剤(Ag
+担持リン酸ジルコニウム)の割合は、比較例4と実施例1に関して9.9重量%配合、比較例5と実施例2に関して18.2重量%配合である。
そして、離型紙(凹凸柄のある紙)の表面に、市販のポリウレタン樹脂を200μmの厚みにて塗布し、乾燥を行って基材層を設け、次に、当該基材層の表面にさらに接着樹脂(ポリカーボネート系接着剤)を250μmの厚みにて塗布して乾燥を行い、当該接着樹脂を介して裏布(目付210g/m
2のポリエステル織物)と貼り合わせ、ロール状に巻き取った。その後、巻き取った状態のまま1日以上養生して接着樹脂を硬化させ、離型紙を剥離して合皮シートを得た後、基材層の表面に、上記で調製した処理薬剤IIをWETで45g/m
2の塗布量にて塗布し、乾燥を行って抗菌剤含有層(層厚み:約6μm)を形成させ、更にこの抗菌剤含有層の表面に、上記で調製した処理薬剤IをWETで45g/m
2の塗布量にて塗布し、乾燥を行って抗ウイルス剤含有層(層厚み:約5μm)を形成させ、
図1に示される層構成を有した本発明の抗菌・抗ウイルス性シートを製造した。
【0068】
[実施例2]
以下の表1に記載される組成を有するコーティング液(処理薬剤I及びII)を調製し、実施例1と同様にして、抗菌・抗ウイルス性シートを製造した。
【0069】
[比較例1~5]
以下の表1に記載される組成を有するコーティング液(処理薬剤I及びII)をそれぞれ調製し、実施例1と同様にして、抗ウイルス剤含有層を有するシート(比較例1と2のシートには抗菌剤含有層は存在していない)を製造した。
【0070】
上記の実施例1、2及び比較例1~5で用いたコーティング液(処理薬剤I及びII)の、液安定性、キワツキ性に関する評価試験結果を、以下の表1示す。
表1に記載される各評価項目における評価方法及び評価基準は以下の通りである。
【0071】
[液安定性(相溶性)試験]
表1に記載される組成を有した各コーティング液(実施例1~2及び比較例1~5)について、調製後のコーティング液中の樹脂カスの有無を目視により判断し、○(樹脂カス発生無し)、×(樹脂カス発生有り)の評価基準にて評価した。
【0072】
[キワツキ性の評価]
上記実施例1~2及び比較例1~5の各シートの表面に、蒸留水を1ml滴下し、乾燥後のキワツキを目視により評価した。尚、上記の液安定性試験において十分な相溶性を有さない組成物については、キワツキ性の評価は実施しなかった。
○:キワツキが観察されない
×:キワツキが観察される
【0073】
[抗ウイルス性の評価]
抗ウイルス性については、各シートに付着した抗ウイルス剤を、ブロモフェノールブルーとアンモニウム塩とのカチオン性の呈色反応により検出することで評価した。具体的には、上記実施例1~2及び比較例1~5の各シートについて、5cm×5cmのサンプル片を切り出し、ブロモフェノールブルーの呈色反応(反応剤濃度:0.03%sol、反応時間:180秒)を行い、乾燥した後、呈色後の試験シートの明度及びΔEを、分光光度計(コニカミノルタ社製)にて測定、算出し、下記基準に従い評価を行った。なお、測定及び算出方法は、JISZ8781(2012)に準じた。
◎:ΔE≧10
○:5≦ΔE<10
△:3≦ΔE<5
×:ΔE<3
○以上で合格とした。
耐摩耗試験後の抗ウイルス性の評価については、JIS L1096(マーチンデール型摩耗試験法)により、上記実施例1~2及び比較例1~5のシートを摩耗試験機のホルダに取り付け、荷重:1600g、摩耗速度:48往復/min、摩耗回数26回(往復)の摩耗試験を行った後、上記と同様にして抗ウイルス性を評価し、○以上で合格とした。
【0074】
[抗菌性の評価]
JIS Z2801:2010の抗菌性試験方法(フィルム密着法)に準じた抗菌試験を行い、大腸菌、黄色ぶどう球菌、肺炎かん菌に対する抗菌活性値を評価した。
【0075】
[耐摩耗試験後の抗菌活性の評価]
JIS L1096(マーチンデール型摩耗試験法)により、上記実施例1~2及び比較例1~5のシートを摩耗試験機のホルダに取り付け、荷重:1600g、摩耗速度:48往復/min、摩耗回数26回(往復)の摩耗試験を行った後、上記と同様にして、抗菌活性値を評価した。
以下の表1には、上記の評価結果が要約されている。
【0076】
【0077】
上記の表1の結果から、実施例1及び2の抗菌・抗ウイルス性シート(本発明品)は、キワツキ性が良好であり、高い抗ウイルス性を有しており、耐摩耗試験後においても抗ウイルス性を維持できることが確認された。又、抗菌性に関して、特に、実施例1よりも高濃度で抗菌剤を含む抗菌剤含有層が形成された実施例2の抗菌・抗ウイルス性シートは、耐摩耗試験前と後の両方において、大腸菌、黄色ぶどう球菌、肺炎かん菌に対する抗菌活性値が99%以上であった。
これに対し、抗ウイルス剤含有層中に、分散剤であるウレタン変性ポリエーテルが含まれていない比較例1の表層部処理薬剤Iは、液安定性が悪く、樹脂カスが観察された。又、表層部の抗ウイルス剤含有層中に、ウレタン変性ポリエーテルを含有するが、浸透剤(ポリオキシアルキレンアルキルエーテル)を含まない比較例2~5のシートはいずれも、キワツキ性は良好であったが、実施例1及び2のシートよりも抗ウイルス性が低かった。そして、抗菌剤含有層が設けられていない比較例2のシートは、大腸菌、黄色ぶどう球菌、肺炎かん菌のいずれに対しても優れた抗菌活性を示さず、比較例3~5のシートはいずれも、耐摩耗試験前にて、大腸菌に対する高い抗菌活性値を示さなかった。
尚、基材層を構成する樹脂としてポリ塩化ビニル樹脂を用い、基材層と抗菌剤含有層との間に、前記の水系ポリウレタン組成物Bを塗布して形成した層(黄変防止層)を設けて、前記実施例1と同様にして、
図2に示される層構成を有した本発明の抗菌・抗ウイルス性シートを製造したところ、このシートは、優れた抗菌性及び抗ウイルス性を示すと共に、長期間保存した際にも基材層(ポリ塩化ビニル樹脂)の黄変色がほとんど生じないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の抗菌・抗ウイルス性シート(PVC合成皮革、PU合成皮革)は、基材層がポリ塩化ビニル樹脂からなる層である場合においても、基材層の黄変色を防止することができ、耐摩耗試験を行った後においても抗菌・抗ウイルス性の低下が非常に少なく、抗菌性及び抗ウイルス性が求められる各種製品の表面シート材として有用である。
【符号の説明】
【0079】
1 裏布
2 接着樹脂層
3 基材層
4 抗菌剤含有層
5 抗ウイルス剤含有層
6 黄変防止層