IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社豊田中央研究所の特許一覧 ▶ 株式会社デンソーの特許一覧

<>
  • 特許-水素生成触媒 図1
  • 特許-水素生成触媒 図2
  • 特許-水素生成触媒 図3
  • 特許-水素生成触媒 図4
  • 特許-水素生成触媒 図5
  • 特許-水素生成触媒 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】水素生成触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/83 20060101AFI20240828BHJP
   C01B 3/04 20060101ALI20240828BHJP
   C01G 25/00 20060101ALN20240828BHJP
【FI】
B01J23/83 M
C01B3/04 R
C01G25/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021071795
(22)【出願日】2021-04-21
(65)【公開番号】P2022166532
(43)【公開日】2022-11-02
【審査請求日】2023-07-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】藤田 悟
(72)【発明者】
【氏名】森川 彰
(72)【発明者】
【氏名】人見 卓磨
(72)【発明者】
【氏名】酒井 伸吾
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0016578(US,A1)
【文献】特開2018-034081(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2004-0051953(KR,A)
【文献】特開2010-241675(JP,A)
【文献】国際公開第2013/132862(WO,A1)
【文献】Materials Science Forum,2018年,Vol.941,p.2214-2219
【文献】Energy Conversion and Management,2014年,vol.84,p.664-670
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C01B 3/00-3/58
C01G 25/00
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構成を備えた水素生成触媒。
(1)前記水素生成触媒は、
CeO2-ZrO2(CZ)系固溶体からなるCZ系粒子と、
前記CZ系粒子に近接して配置されたNi系粒子と
を備えている。
(2)前記水素生成触媒は、
前記水素生成触媒を還元処理し、
還元処理された前記水素生成触媒を加熱し、加熱された前記水素生成触媒と水蒸気を含むガス(炭化水素を含むガスを除く)とを接触させ、水素を生成させる
ために用いられる。
【請求項2】
前記CZ系粒子は、
(a)ドーパントを含まないCZ、又は、
(b)Y、Sc、及び/又は、LaがドープされたCZ
からなる請求項1に記載の水素生成触媒。
【請求項3】
前記CZ系粒子は、次の式(1)で表される組成を有する請求項1又は2に記載の水素生成触媒。
(Sc,Y,La)xCeyZr1-(x+y)2-δ …(1)
但し、
0≦x<0.5、0<y<0.5、x+y<0.5、
δは、電気的中性が保たれる値。
【請求項4】
前記CZ系粒子は、平均粒径が4nm以上100nm以下である請求項1から3までのいずれか1項に記載の水素生成触媒。
但し、前記「平均粒径」とは、X線回折法を用いて測定される結晶子径をいう。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素生成触媒に関し、さらに詳しくは、高温下において水蒸気と接触させることにより水素を発生させる水素生成触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
水素は、燃料電池の燃料、ロケットや水素エンジンの燃料、化学物質(例えば、アンモニア、塩酸など)を製造するための原料、金属酸化物や化学物質の還元剤などに広く用いられている。
【0003】
水素を製造する方法としては、例えば、
(a)メタンなどの炭化水素を水蒸気改質する方法、
(b)製鉄プロセスや化学工業プロセスから排出されるガスに含まれる水素を分離・精製する方法、
(c)固体酸化物形電解セル、固体高分子膜(PEM)形電解セルなどの電解装置を用いて水を電気分解する方法、
(d)水素生成触媒を用いて水素を含む化合物(例えば、水、メタノール、アンモニアなど)を分解し、水素を発生させる方法
などが知られている。
【0004】
これらの中でも、水素生成触媒を用いる方法は、
(a)Ru、Pdなどの貴金属元素や、Prなどの希土類元素を必ずしも使用する必要がない、
(b)原料としてH2Oを使用し、水素生成に伴うCO2排出量が少ない、
(c)水蒸気を改質する方法であるため、安価である、
(d)水素発生時の投入エネルギーが少ない、
(e)規模の多様化が容易である、
などの利点がある。
そのため、このような水素生成触媒に関し、従来から種々の提案がなされている。
【0005】
例えば、特許文献1には、
(a)硝酸二アンモニウムセリウム(IV)、硝酸プラセオジム(III)六水和物、硝酸アルミニウム九水和物、及び尿素を含む反応溶液を加熱して沈殿物を生成させ、
(b)沈殿物を洗浄及び乾燥させ、
(c)乾燥させた沈殿物を500℃×5時間+650℃×5時間で焼成する
ことにより得られる水素製造触媒が開示されている。
【0006】
同文献には、
(A)このような方法により、酸化セリウム、酸化プラセオジム、及び酸化アルミニウムを含む複合金属酸化物からなる水素製造触媒が得られる点、
(B)酸化セリウムと酸化プラセオジムを含む複合金属酸化物をAr雰囲気下において800℃に加熱すると、複合金属酸化物中のプラセオジム及びセリウムが4価から3価に還元される点、
(C)還元処理された複合金属酸化物を450℃に加熱し、これと水蒸気とを接触させると、複合酸化物が酸化されると同時に水が分解して水素が発生する点、及び、
(D)複合金属酸化物に含まれる酸化アルミニウムは、複合金属酸化物の熱劣化(粒成長)を抑制する作用がある点
が記載されている。
【0007】
非特許文献1には、Gdドープセリアにマイクロ波を照射することにより得られる酸素欠損型Gdドープセリアが開示されている。
同文献には、
(A)Gdドープセリアにマイクロ波を照射すると、Ce4+がCe3+に還元され、これによってGdドープセリア内に酸素空孔が導入される点、及び
(B)このようにして得られた酸素欠損型Gdドープセリアと水とを250℃において接触させると、水素が生成する点
が記載されている。
【0008】
特許文献1では、PrOx、CeO2及びAl23からなる水素分解触媒を高温不活性雰囲気下で還元(Ce4+→Ce3+、Pr4+→Pr3+)した後、これと水蒸気とを接触させて水素を製造している。
【0009】
非特許文献1では、Gdドープセリアにマイクロ波を照射して酸素空孔(Ce4+→Ce3+への還元も含む)を形成した後、これと水蒸気とを250℃において接触させて水素を製造している。しかしながら、非特許文献1においては、Ce還元時の格子膨張を緩和する工夫がなされておらず、CeO2の水還元性能を十分に引き出していない可能性が高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第5817782号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】J. M. Sera et al, "Hydrogen production via microwave-induced water splitting at low temperature," Nature Energy, Volume 5, pages 910-919 (2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、高温下において水蒸気と接触させることにより水素を発生させることが可能な新規な水素生成触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために本発明に係る水素生成触媒は、
CeO2-ZrO2(CZ)系固溶体からなるCZ系粒子と、
前記CZ系粒子に近接して配置されたNi系粒子と
を備えている。
【発明の効果】
【0014】
CZ系粒子とNi系粒子とを含む水素生成触媒を高温下において還元処理し、還元処理された水素生成触媒を高温下において水蒸気と接触させると、従来の水素生成触媒に比べて多量の水素が発生する。これは、
(a)還元処理により酸素欠陥が導入されたCZ系粒子と水蒸気とを接触させると、CZ系粒子内の酸素欠陥が水分子の酸素原子を引き抜き、引き抜かれた酸素原子が酸素欠陥内にトラップされるため、
(b)Ni系粒子とCZ系粒子とが近接している状態で、還元処理されたCZ系粒子と水蒸気とを接触させると、上述した水素生成反応がより効率良く進行するため、及び、
(c)ZrO2をCeO2に固溶させると、Ce還元時の格子膨張が緩和され、酸素欠陥が生成されやすくなり、水の分解反応活性点が増加するため、
と考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る水素生成触媒を用いた水の還元反応メカニズムの模式図である。
図2】700℃における水素生成の評価条件を示す図である。
図3】550℃又は400℃における水素生成の評価条件を示す図である。
図4】実施例1~4で得られた水素生成触媒の700℃における水素生成量プロファイルである。
図5】実施例1~4及び比較例1で得られた水素生成触媒の700℃における水素生成量である。
図6】実施例2で得られた水素生成触媒の700℃、550℃、及び400℃における水素生成量である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 水素生成触媒]
本発明に係る水素生成触媒は、
CeO2-ZrO2(CZ)系固溶体からなるCZ系粒子と、
前記CZ系粒子に近接して配置されたNi系粒子と
を備えている。
【0017】
[1.1. CZ系粒子]
[1.1.1. 組成]
「CZ系粒子」とは、CeO2とZrO2との固溶体(CZ)、又は、CZにさらにドーパントを固溶させた固溶体からなる粒子をいう。
水素生成触媒の主相として、CZ系粒子を用いると、水の還元分解能が向上する。本発明に係る水素生成触媒に含まれるCZ系粒子は、ドーパントを含まないCZであっても良く、あるいは、ドーパントを含むCZであっても良い。特に、ドーパントを含むCZ系粒子は、ドーパントを含まないCZ系粒子に比べて高い水の還元分解能を示す。これは、CZにドーパントを固溶させると、CZ系粒子が還元されやすくなるためと考えられる。
【0018】
CZ系粒子がドーパントを含むCZである場合、ドーパントの種類は特に限定されるものではなく、目的に応じて、最適なドーパントを選択することができる。ドーパントとしては、例えば、Y、Sc、La、Nd、Prなどがある。CZ系粒子は、これらのいずれか1種のドーパントが含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。
これらの中でも、ドーパントは、Y、Sc、及び/又は、Laが好ましい。これは、CZに+3価のドーパントを固溶させることにより、電荷補償の原理に従って酸素欠陥が形成されやすくなるためである。
【0019】
CZ系粒子は、特に、次の式(1)で表される組成を有するものが好ましい。
(Sc,Y,La)xCeyZr1-(x+y)2-δ …(1)
但し、
0≦x<0.5、0<y<0.5、x+y<0.5、
δは、電気的中性が保たれる値。
【0020】
式(1)中、xは、CZ系粒子に含まれるCe、Zr及びドーパント(Sc、Y、及び/又は、La)の総原子数に対するドーパントの原子数の比を表す。ドーパントを含まないCZ系粒子(x=0)であっても、水の還元分解能を示す。しかしながら、一般に、xが大きくなるほど、CZ系粒子の水の還元分解能が向上する。このような効果を得るためには、xは、0.01以上が好ましい。xは、さらに好ましくは、0.05以上である。
一方、xが大きくなりすぎると、材料中のCe含有量が低下し、水素生成反応に有効な酸素欠陥量が減少する場合がある。従って、xは、0.5未満が好ましい。
【0021】
式(1)中、yは、CZ系粒子に含まれるCe、Zr及びドーパントの総原子数に対するCeの原子数の比を表す。一般に、CZ系粒子に含まれるCeの量が多くなるほど、CZ系粒子の水の還元分解能が向上する。このような効果を得るためには、yは、0超が好ましい。yは、さらに好ましくは、0.05以上、さらに好ましくは、0.10以上である。
一方、yが大きくなりすぎると、Zrによる格子膨張緩和効果が低下し、Ceが還元されにくくなる。従って、yは、0.5未満が好ましい。
【0022】
式(1)中、x+yは、CZ系粒子に含まれるCe、Zr及びドーパントの総原子数に対するCe及びドーパントの原子数の比を表す。一般に、x+yが過剰になると、Zrによる格子膨張緩和効果が低下する。従って、x+yは、0.5未満が好ましい。x+yは、さらに好ましくは、0.4以下、さらに好ましくは、0.3以下である。
【0023】
[1.1.2. 平均粒径]
「平均粒径」とは、X線回折法を用いて測定される結晶子径をいう。
CZ系粒子の平均粒径は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な平均粒径を選択することができる。一般に、CZ系粒子の平均粒径が小さくなりすぎると、反応時にCZ系粒子が粒成長し、活性が低下する場合がある。従って、CZ系粒子の平均粒径は、4nm以上が好ましい。平均粒径は、好ましくは、10nm以上、さらに好ましくは、15nm以上である。
一方、CZ系粒子の平均粒径が大きくなりすぎると、反応速度が遅くなる場合がある。従って、CZ系粒子の平均粒径は、100nm以下が好ましい。
【0024】
[1.2. Ni系粒子]
[1.2.1. 組成]
「Ni系粒子」とは、粒子に含まれる金属元素の総質量に対するNiの質量の割合が10mass%以上である金属粒子又は酸化物粒子をいう。Ni系粒子に含まれるNiの質量割合は、好ましくは、20mass%以上である。
【0025】
水素生成触媒中のNi系粒子は、それ自身が水の還元分解能を持つが、CZ系粒子による水の還元分解反応をより低温で生じさせる機能も併せ持つ。Ni系粒子は、このような機能を奏するものである限りにおいて、特に限定されない。
Ni系粒子としては、例えば、Ni、Ni-Fe合金、Ni-Co合金、又は、これらの酸化物などがある。これらの中でも、Ni系粒子は、Ni若しくはNi-Fe合金、又は、これらの酸化物が好ましい。
【0026】
[1.2.2. 平均粒径]
Ni系粒子の平均粒径は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な平均粒径を選択することができる。一般に、Ni系粒子の平均粒径が小さくなりすぎると、CZ系粒子との固相反応性が増し、Ni系粒子が金属状態に還元されにくくなる。従って、Ni系粒子の平均粒径は、10nm以上が好ましい。平均粒径は、好ましくは、20nm以上、さらに好ましくは、30nm以上である。
一方、Ni系粒子の平均粒径が大きくなりすぎると、CZ系粒子との接触界面が減少し、反応活性が低下する場合がある。従って、Ni系粒子の平均粒径は、200nm以下が好ましい。平均粒径は、好ましくは、150nm以下、さらに好ましくは、100nm以下である。
【0027】
[1.3. 配置]
Ni系粒子は、CZ系粒子に近接して配置されている。
「近接して配置されている」とは、CZ系粒子による水の還元分解反応を助長できる位置にNi系粒子が存在していることをいう。換言すれば、「近接して配置されている」とは、CZ系粒子がNi系粒子から酸素イオンを受け取ることが可能な位置にNi系粒子が存在していることをいう。
より具体的には、「近接して配置されている」とは、
(a)CZ系粒子の表面にNi系粒子が担持されていること、又は、
(b)Ni系粒子の表面にCZ系粒子が担持されていること、
をいう。
【0028】
[1.4. CZ系粒子の含有量]
「CZ系粒子の含有量」とは、水素生成触媒に含まれるCZ系粒子及びNi系粒子の総質量に対するCZ系粒子の質量の割合をいう。
CZ系粒子の含有量は、特に限定されるものではないが、水素生成量を最大化するためには、Ni系粒子とCZ系粒子の混合比に適正な範囲がある。そのためには、CZ系粒子の含有量は、50mass%以上95mass%以下が好ましい。この範囲を外れると、水素生成反応効率が低下する場合がある。
【0029】
[2. 使用方法]
本発明に係る水素生成触媒は、
(a)水素生成触媒を還元処理し、
(b)還元処理された水素生成触媒を加熱し、加熱された水素生成触媒と水蒸気とを接触させ、水素を生成させる
ために用いられる。
【0030】
[2.1. 水素生成触媒の還元処理]
本発明に係る水素生成触媒を用いて水素を発生させる際には、まず、水素生成触媒の還元処理を行う。還元処理は、主として、CZ系粒子に含まれるCe4+をCe3+に還元するため、及び、これによってCZ系粒子の結晶格子内に酸素欠陥を導入するために行われる。この時、Ni系粒子が酸化状態にある時には、同時にNi系粒子も還元される。
【0031】
次の式(1)にCZの酸素吸蔵・放出反応(酸化・還元反応)の反応式を示す。式(1)中、右側に進む反応は酸化反応を表し、左側に進む反応は還元反応を表す。
CeO2-x-ZrO2+(x/2)O2 ⇔ CeO2-ZrO2 …(1)
【0032】
ZrO2中に固溶しているCeイオンは、周囲の雰囲気中の酸素分圧に応じて、可逆的に3価の状態(還元状態)と、4価の状態(酸化状態)とを取ることができる。そのため、還元状態にあるCZが酸化雰囲気に曝された時には、CZは雰囲気中にある酸素イオンを結晶格子内に取り込む。一方、酸化状態にあるCZが還元雰囲気に曝された時には、CZは結晶格子内にある酸素イオンを雰囲気中に放出する。すなわち、CZ系粒子内のCe4+がCe3+に還元されると、電気的中性を保つためにCZ系粒子の結晶格子内に酸素欠陥が導入される。この点は、CZ系粒子がドーパントを含む場合も同様である。
【0033】
水素生成触媒の還元処理条件は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な条件を選択することができる。一般に、還元処理の温度が低すぎると、CZ系粒子の結晶格子内に導入される酸素欠陥の量が不足する。従って、還元処理の温度は、400℃以上が好ましい。
一方、還元処理の温度が高くなりすぎると、CZ系粒子が粒成長し、反応活性が低下する場合がある。従って、還元処理の温度は、1000℃以下が好ましい。
還元処理の時間は、CZ系粒子が十分に還元される時間であれば良い。
【0034】
[2.2. 水素生成触媒の加熱及び水蒸気との接触]
水素生成触媒による水素生成反応は、室温ではほとんど進行しない。そのため、本発明に係る水素生成触媒を用いて水素を発生させるためには、還元処理された水素生成触媒を所定の温度に加熱する必要がある。
一般に、加熱温度が低すぎると、水の還元分解反応の反応速度が遅くなり、水素生成量が少なくなる。従って、加熱温度は、400℃以上が好ましい。
一方、加熱温度が高くなりすぎると、CZ系粒子が粒成長し、反応活性が低下する場合がある。従って、加熱温度は、1000℃以下が好ましい。
【0035】
次に、所定の温度に加熱された水素生成触媒に水蒸気を接触させる。これにより、水分子が還元され、水素が発生する。
図1に、本発明に係る水素生成触媒を用いた水の還元反応メカニズムの模式図を示す。上述したように、CZ系粒子を還元処理すると、結晶格子内に酸素欠陥が導入される。この時、CZ系粒子にドーパントを添加すると、CZ系粒子がより容易に還元され、CZ系粒子の結晶格子内に酸素欠陥が生成されやすくなる。
【0036】
酸素欠陥が導入されたCZ系粒子と水蒸気とを接触させると、水分子の酸素原子が酸素欠陥にトラップされ、水素が効率良く生成する。また、還元状態にあるNi系粒子自身も、水分子の酸素原子をトラップする機能(すなわち、水素を発生させる機能)を持つ。
【0037】
さらに、Ni系粒子とCZ系粒子とが近接している状態で、CZ系粒子と水蒸気とを接触させると、水素生成反応がより効率良く進行する。これは、
(a)水分子がNi系粒子上に吸着することにより水分子が解離し、Ni系粒子に吸着した酸素原子がCZ系粒子にスピルオーバーし、酸素原子がCZ系粒子の酸素欠陥に取り込まれることによって、水素が生成すると同時にNi系粒子が金属状態に還元されるため、及び/又は、
(b)水分子が直接、CZ系粒子と反応し、水分子の酸素イオンがCZ系粒子の酸素欠損に取り込まれることによって、水素が発生するため
と考えられる。
【0038】
[3. 水素生成触媒の製造方法]
本発明に係る水素生成触媒は、種々の方法により製造することができる。
例えば、CZ系粒子の製造方法としては、例えば、
(a)共沈法を用いて、Ce及びZr、並びに、必要に応じてドーパントを含む前駆体ゲルを作製し、前駆体ゲルを焼成する方法、
(b)CeO2粉末及びZrO2粉末、並びに、必要に応じてドーパントを含む酸化物粉末を混合し、混合物を固相反応させる方法
などがある。
【0039】
CZ系粒子とNi系粒子を複合化させる方法としては、例えば、
(a)Ni系粒子の原料となる金属塩を含む水溶液をCZ系粒子の表面に散布して前駆体粉末とし、得られた前駆体粉末を大気中で熱処理する方法、
(b)Ni系粒子の原料となる金属塩を含む水溶液にCZ系粒子を浸漬し、乾燥させることにより前駆体粉末とし、得られた前駆体粉末を大気中で熱処理する方法、
(c)NiO粉末とCZ系粉末とを物理的に混合した後、還元処理してNiをCZ系粒子表面に固着させた後、大気中で酸化熱処理する方法、
などがある。
【0040】
[4. 作用]
CZ系粒子とNi系粒子とを含む水素生成触媒を高温下において還元処理し、還元処理された水素生成触媒を高温下において水蒸気と接触させると、従来の水素生成触媒に比べて多量の水素が発生する。これは、
(a)還元処理により酸素欠陥が導入されたCZ系粒子と水蒸気とを接触させると、CZ系粒子内の酸素欠陥が水分子の酸素原子を引き抜き、引き抜かれた酸素原子が酸素欠陥内にトラップされるため、
(b)Ni系粒子とCZ系粒子とが近接している状態で、還元処理されたCZ系粒子と水蒸気とを接触させると、上述した水素生成反応がより効率良く進行するため、及び、
(c)ZrO2をCeO2に固溶させると、Ce還元時の格子膨張が緩和され、酸素欠陥が生成されやすくなり、水の分解反応活性点が増加するため、
と考えられる。
【0041】
特に、CZ系粒子がドーパントを含む場合には、より多くの水素が発生する。これは、ドーパントによりCZ系粒子が還元されやすくなり、CZ系粒子の結晶格子内に酸素欠陥が生成されやすくなるためと考えられる。
【実施例
【0042】
(実施例1~4、比較例1)
[1. 試料の作製]
[1.1. 実施例1:NiO/ScCZ]
硝酸セリウム溶液:98.29g(CeO2固形分として28mass%)、硝酸ジルコニウム溶液:836.40g(ZrO2固形分として18mass%)、及び、硝酸スカンジウム:65.51gをイオン交換水:200gに溶解し、これにさらに過酸化水素水:199.5gを加えて原料溶液を作製した。
これとは別に、25%アンモニア水:291.80gをイオン交換水:700gに溶解した中和溶液を作製した。
【0043】
原料溶液を中和溶液に攪拌しながら加え、さらにホモジナイザーを用いて、回転数:11,000rpmで10分間攪拌した。得られた前駆体ゲルを脱脂炉で150℃で7時間乾燥させた後、さらに400℃で5時間脱脂し、Sc添加CeO2-ZrO2固溶体(ScCZ)を得た。得られたScCZ粉末の組成は、原子比で、Sc/Zr/Ce=13.5/76.5/10.0であった。
【0044】
このScCZ粉末に硝酸ニッケル水溶液を加え、蒸発乾固させることにより、ScCZ粉末にNiを担持させた。担持量は、NiO換算で10mass%とした。得られた粉末を500℃で1時間焼成後、さらに大気中で1400℃で5時間熱処理し、触媒(NiO/ScCZ)を得た。
【0045】
[1.2. 実施例2:NiO/YCZ]
硝酸スカンジウムに代えて、硝酸イットリウム:82.73gを用いた以外は、実施例1と同様にして、Y添加CeO2-ZrO2固溶体(YCZ)を作製した。得られたYCZ粉末の組成は、原子比で、Y/Zr/Ce=13.5/76.5/10.0であった。以下、実施例1と同様にして、触媒(NiO/YCZ)を作製した。
【0046】
[1.3. 実施例3:NiO/LaCZ]
硝酸スカンジウムに代えて、硝酸ランタン:98.29gを用いた以外は、実施例1と同様にして、La添加CeO2-ZrO2固溶体(LaCZ)を作製した。得られたLaCZ粉末の組成は、原子比で、La/Zr/Ce=13.5/76.5/10.0であった。以下、実施例1と同様にして、触媒(NiO/LaCZ)を作製した。
【0047】
[1.4. 実施例3:NiO/CZ]
硝酸スカンジウムを用いなかった以外は、実施例1と同様にして、CeO2-ZrO2固溶体(CZ)を作製した。得られたCZ粉末の組成は、原子比で、Zr/Ce=76.5/10.0であった。以下、実施例1と同様にして、触媒(NiO/CZ)を作製した。
【0048】
[1.5. 比較例1:NiO/ZrO2
硝酸セリウム溶液及び硝酸スカンジウムを用いなかった以外は、実施例1と同様にして、ZrO2粉末を作製した。以下、実施例1と同様にして、触媒(NiO/ZrO2)を作製した。
【0049】
[2. 試験方法]
[2.1. ペレット触媒の調製]
上記の触媒:1gに対して、Al23粉末:0.25gを混合した。得られた混合粉末を、CIPを用いて1000kgf/cm2(98MPa)の圧力で1分間加圧成型した。成形体を粉砕してφ0.5~1mmのペレット触媒に整粒し、評価に用いた。
【0050】
[2.2. 水素生成(水還元)反応評価]
[2.2.1. 700℃での水素生成反応]
水素生成(水還元)反応の評価には、固定床流通触媒反応装置(BEST-CATA-5000-7SP)を用いた。図2に、700℃における水素生成の評価条件を示す。上記のペレット触媒を装置にセットし、図2に示す条件下で水素生成挙動を測定した。なお、ペレット触媒の量は0.5g、ガス流量は5L/min、反応温度は700℃とした。
【0051】
まず、ペレット触媒を5%O2-95%N2雰囲気下において、室温から700℃まで昇温し、700℃で10分間保持した。その後、雰囲気を100%N2に切り替えてさらに5分間保持し、酸化状態にあるペレット触媒を得た(ステップ1~3)。
次に、雰囲気を1%H2-99%N2に切り替えて10分間保持し(ステップ4)、さらに20分間保持した(ステップ5)。これにより、ペレット触媒が還元された。
【0052】
次に、ペレット触媒を再度、100%N2雰囲気下で10分間加熱した(ステップ6)。この状態から、雰囲気を20%H2O-80%N2に切り替え、700℃において20分間保持した(ステップ7)。さらに、ステップ7における水素生成量を定量した。
なお、「水素生成量」とは、水蒸気の導入を開始してから100秒経過後までに放出された水素量の積算値をいう。
20分経過後、雰囲気を100%N2に切り替えて5分間保持した(ステップ8)。その後、ペレット触媒を室温まで冷却した(ステップ9)。
【0053】
[2.2.2. 550℃又は400℃での水素生成反応]
図3に、550℃又は400℃における水素生成の評価条件を示す。550℃又は400℃における水素生成量の評価を行う場合、ステップ1~4までは、700℃における水素生成評価と同一条件とした。次に、ステップ5において、温度を700℃から550℃又は400℃まで20分かけて降下させた。以下、測定温度を550℃又は400℃とした以外は、700℃における水素生成評価と同様にして、水素生成量を定量した。
【0054】
[3. 結果]
図4に、実施例1~4で得られた水素生成触媒の700℃における水素生成量プロファイルを示す。図4より、Ni(NiO)粒子が近接したCZ系固溶体は、気相中の水(水蒸気)を還元分解することができることが分かる。これは、CZ系固溶体の結晶格子中に導入された酸素欠陥が水から酸素を引き抜いているためと考えられる。
【0055】
図5に、実施例1~4及び比較例1で得られた水素生成触媒の700℃における水素生成量を示す。なお、図5には、非特許文献1に記載されたGDC触媒、及び特許文献1に記載されたPr-CeO2触媒の結果を併せて示した。また、図6に、実施例2で得られた水素生成触媒の700℃、550℃、及び400℃における水素生成量を示す。さらに、表1に、実施例1~4及び比較例1で得られた水素生成触媒の組成及び水素生成量を示す。図5図6、及び表1より、以下のことが分かる。
【0056】
(1)Ni/ZrO2であっても、水素が生成した。これは、Ni粒子がH2Oを還元し、自らはNiOになったためと考えられる。
(2)Ni/CZは、Ni/ZrO2よりも水素生成量が増加した。これは、Ni粒子だけでなく、CZ粒子もまた、H2Oを還元しているためと考えられる。
(3)Ni/ScCZ、Ni/YCZ、及び、Ni/LaCZは、いずれも、Ni/CZに比べて水素生成量が増加した。これは、CZにドーパントを添加することによって、CZ系粒子の結晶格子内に酸素欠陥が導入されやすくなったため、及び、共存しているNi粒子がCZ系粒子によるH2Oの還元を促進させる役割を果たしているためと考えられる。
(4)Ni/YCZ(実施例2)は、400℃においても比較例1、2と同等以上の水素を生成した。
【0057】
【表1】
【0058】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明に係る水素生成触媒は、高温の水蒸気から水素を生成させるための触媒として使用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6