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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】車両側部構造
(51)【国際特許分類】
   B60J 5/06 20060101AFI20240828BHJP
   E05F 11/54 20060101ALI20240828BHJP
   E05F 15/643 20150101ALN20240828BHJP
【FI】
B60J5/06 B
E05F11/54 A
E05F15/643
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021107037
(22)【出願日】2021-06-28
(65)【公開番号】P2023005248
(43)【公開日】2023-01-18
【審査請求日】2023-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金杉 英明
(72)【発明者】
【氏名】日▲高▼ 大
(72)【発明者】
【氏名】石黒 大樹
【審査官】高島 壮基
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-001531(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102007002427(DE,A1)
【文献】特開2007-253885(JP,A)
【文献】特開2020-093773(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0348409(US,A1)
【文献】特開2022-118931(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 5/06
E05B 83/40
E05F 11/54
15/643
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搭乗者が乗降する乗降用開口を有する車体側面構造体と、
スライドして前記乗降用開口を開閉するスライドドアと、
前記乗降用開口の上縁に沿って前記車体側面構造体に配置されたアッパレールであって、前記スライドドアと共にスライドするアッパヒンジを案内するアッパレールと、
前記乗降用開口の側縁から当該乗降用開口を離れる方向に延びて前記車体側面構造体に配置されたセンタレールであって、前記スライドドアと共にスライドするセンタヒンジを案内するセンタレールと、
前記スライドドアの前記センタレールより低い位置に配置されたロワレールであって、前記乗降用開口の前記側縁近傍の前記車体側面構造体に配置されたロワヒンジによって前記スライドドアのスライド時に案内されるロワレールと、
前記スライドドアが閉じているとき前記スライドドアの先縁下端を前記車体側面構造体に固定する下縁ロック機構と、
を備え
前記ロワレールは、前記スライドドアの下縁に配置され、
前記スライドドアはドアパネルを有し、
前記ロワレールは、前記スライドドアの先縁から前記ドアパネルの車幅方向内側を前記ドアパネルに沿って、かつ前記ドアパネルから離れて延びる直線部分と、前記スライドドアの先縁とは反対側の前記直線部分の端から前記ドアパネルに向けて湾曲して延びる湾曲部分を有し、
前記下縁ロック機構は、前記乗降用開口の下縁に設けられた下縁ストライカと、前記下縁ストライカに係合可能なフックを含む下縁ロックユニットとを有し、前記下縁ロックユニットは、前記ドアパネルと前記ロワレールの前記直線部分との間に配置され、
前記スライドドアは、前記ドアパネルの車幅方向内側に固定され、かつ前記ドアパネルとの間に位置する前記下縁ロックユニットを覆うように配置された下縁ロックユニットカバーを有し、
前記ロワレールの前記直線部分は、前記下縁ロックユニットカバーよりも車幅方向内側に配置され、
前記ロワレールは、当該ロワレールの前記直線部分において、前記下縁ロックユニットから前記スライドドアの基縁側に離れた位置に配置されたスペーサを介して前記ドアパネルに固定されている、
車両側部構造。
【請求項2】
請求項に記載の車両側部構造であって、前記スライドドアが閉じた状態において、前記スライドドアまたは前記車体側面構造体に、前記乗降用開口の下縁に沿って延びて設けられたウェザストリップを備え、前記下縁ロック機構は、前記スライドドアの下縁を車体に近づけ、前記ウェザストリップを押圧して挟む、車両側部構造。
【請求項3】
請求項に記載の車両側部構造であって、前記スライドドアが閉じたことを検出するドア閉じセンサを更に備え、前記下縁ロック機構は、アクチュエータによってロック動作し、前記ドア閉じセンサが、ドアが閉じたことを検出すると、ロック動作を開始する、車両側部構造。
【請求項4】
請求項1からのいずれか1項に記載の車両側部構造であって、前記スライドドアを2つ備え、当該2つのスライドドアが両開きドアを構成する、車両側部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両側部構造、特にスライドドアを備えた車両の側部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の、搭乗者が乗降する乗降用開口を開閉するドアにおいて、車両の側面に沿ってスライドして開閉を行う、いわゆるスライドドアが知られている。スライドドアは、例えば車体に配置されたレールに案内されるヒンジに支持され、ヒンジがレールに沿ってスライドすることで、スライドドアもスライドする。全高が高く、スライドドアの高さも高くなる車両にあっては、車体の上部、下部および中央部の3箇所で支持するスライドドアが知られている。
【0003】
下記特許文献1には、キャブ(1)に旋回可能に結合されたアーム(22~25)が、スライドドア(11)に固定されたスライドレール(26)を介して、当該スライドドア(11)を支持する構造が示されている。なお、上記の( )内の符号は、下記特許文献1で用いられている符号であり、本願の実施形態の説明で用いられる符号とは関連しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-320852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車体の上部、下部、中央部の3箇所で支持されるスライドドアにおいて、3本のレールが全て車体に配置され、スライドドアに3個のヒンジが配置される場合、3個のヒンジはスライドドアと共に移動する。よって、スライドドアの開状態、閉状態にかかわらず、3個のヒンジの相対位置関係は変化しない。つまり、3個のヒンジを結んでできる三角形の形状がスライドドアの開閉により変化しない。一方、3本のレールのうち2本が車体に配置され、1本が上記特許文献1のようにスライドドアに配置された場合、2個のヒンジがスライドドアに、1個のヒンジが車体に配置される。スライドドアに配置された2個のヒンジは、スライドドアと共に移動するが、車体に配置された1個のヒンジは移動しない。したがって、3個のヒンジを結んでできる三角形の形状は、スライドドアの開閉によって変化する。3個のヒンジが作る三角形の面積が大きいときには、スライドドアの支持が安定するが、三角形が変形して面積が小さくなったとき、スライドドアの支持が不安定となる。
【0006】
本発明は、3本のレールのうち、下部のレールをスライドドアに配置した車両側部構造において、スライドドアを閉じたときの支持の安定性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る車両側部構造は、搭乗者が乗降する乗降用開口を有する車体側面構造体と、スライドして乗降用開口を開閉するスライドドアとを備える。スライドドアは、高さの異なる3箇所に配置された3本のレールによってスライド可能に支持される。3本のレールのうち最も上に位置するアッパレールは、乗降用開口の上縁に沿って車体側面構造体に配置され、スライドドアと共にスライドするアッパヒンジを案内する。3本のレールのうち中央に位置するセンタレールは、乗降用開口の側縁から当該乗降用開口を離れる方向に延びて車体側面構造体に配置され、スライドドアと共にスライドするセンタヒンジを案内する。3本のレールのうち下に位置するロワレールはスライドドアに配置され、乗降用開口の、センタレールの起点となる側縁の近傍の車体側面構造体に配置されたロワヒンジによってスライドドアのスライド時に案内される。さらに、車両側部構造は、スライドドアが閉じているときに、スライドドアの先縁下端を車体側面構造体に固定する下縁ロック機構を備える。
【0008】
2個のヒンジがスライドドアと共にスライドし、一方1個のヒンジが車体側面構造体に配置されてスライドしないため、3個のヒンジが作る三角形の形状がスライドに伴って変化し、面積が小さくなるとき、スライドドアの支持の安定性が低下する。このとき、下縁ロック機構によってスライドドアの先縁下端を車体側面構造体に固定することによって、スライドドアを安定して支持することができる。
【0009】
また、ロワレールは、スライドドアの下縁に配置されたものとすることができる。アッパレールからの距離を大きくすることができ、スライドドアの支持安定性が向上する。
【0010】
また、スライドドアはドアパネルを有し、ロワレールは、スライドドアの先縁から、ドアパネルの車幅方向内側を、ドアパネルに沿って、かつドアパネルから離れて延びる直線部分と、スライドドアの先縁とは反対側の直線部分の端からドアパネルに向けて湾曲して延びる湾曲部分を有するものとすることができる。さらに、下縁ロック機構は、乗降用開口の下縁に設けられた下縁ストライカと、下縁ストライカに係合可能なフックを含む下縁ロックユニットとを有するものとすることができ、下縁ロックユニットは、ドアパネルとロワレールの直線部分との間に配置されたものとすることができる。ドアパネルとロワレールの間の空間を有効に活用することができる。
【0011】
また、スライドドアは、ドアパネルの車幅方向内側に固定された下縁ロックユニットカバーを有するものとすることができ、この下縁ロックユニットカバーは、ドアパネルとの間に位置する下縁ロックユニットを覆うように配置されている。ロワレールの直線部分は、下縁ロックユニットカバーよりも車幅方向内側に配置されているものとすることができる。下縁ロックユニットカバーによって下縁ロックユニットを保護することができる。
【0012】
また、ロワレールは、当該ロワレールの直線部分において下縁ロックユニットからスライドドアの基縁側に離れた位置に配置されたスペーサを介してドアパネルに固定されるようにすることができる。
【0013】
また、車両側部構造は、スライドドアが閉じた状態において、スライドドアまたは車体側面構造体に、乗降用開口の下縁に沿って延びて設けられたウェザストリップを備えるものとすることができる。このとき、下縁ロック機構は、スライドドアの下縁を車体に近づけ、ウェザストリップを押圧して挟むものとすることができる。ウェザストリップを押圧して挟むことにより、室内への水の浸入を抑制する効果を高めることができる。
【0014】
また、車両側部構造は、スライドドアが閉じたことを検出するドア閉じセンサを更に備えるものとすることができ、下縁ロック機構は、アクチュエータによってロック動作し、前記ドア閉じセンサが、ドアが閉じたことを検出するとロック動作を開始するものとすることができる。
【0015】
さらに、2つのスライドドアによって両開きドアを構成することができる。
【発明の効果】
【0016】
3個のヒンジに加え、下縁ロック機構で支持することにより、閉じた状態のスライドドアを安定して支持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態に係る車両の外観を示す図である。
図2】車両の側部構造、特に左側の側部構造を模式的に示す斜視図である。
図3】乗降用開口の下縁周囲の構造を示す断面図である。
図4】スライドドアの下縁をロックするための機構を示す図である。
図5】車両の上部、中央部および下部に配置されるレールとヒンジを模式的に示す図である。
図6】スライドドアのロワレール周囲の構成を示す水平面断面図である。
図7】スライドドアのロワレール周囲を、スライドドアの先縁側から見た状態を示す図である。
図8】下縁ロック機構の動作に係る構成を示すブロック図である。
図9】スライドドアの開閉と、ヒンジによる支持点の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。以下の説明において、特段の断りがない限り、前後左右上下等の相対位置および向きを表す語句は、車両に関する相対位置および向きを表す。また、車両の左右方向(幅方向)において車両の前後方向に延びる中心線に近い側を車幅方向内側、遠い側を車幅方向外側と記す。各図において、矢印FRの向きが前方、矢印UPの向きが上方、矢印LHの向きが左方、矢印OUTの向きが車幅方向外側である。
【0019】
図1は、車両10の外観を模式的に示す斜視図である。車両10は、概略直方体の車体12を有する。車体12の寸法は、前後方向が最も長く、次いで上下方向が長い。車体12の四隅に車輪14が配置される。車体12の前面の上側領域には、ウインドシールドガラス16が配置され、下側の領域の左右にはヘッドランプ18が配置されている。車体12の後面には、前面のウインドシールドガラス16と同形状のバックウインドガラス(不図示)が配置され、前面のヘッドランプ18と同じ位置にリアコンビネーションランプ(不図示)が配置されている。
【0020】
車体12の側面には、乗降用のドア20が配置されている。ドア20は、車体12の一方の側面に配置され、左側通行の地域では左側面に、右側通行の地域では右側面に配置される。また、ドア20を両側面に配置することもできる。ドア20は、車両の前後方向に沿ってスライドする2枚のスライドドア22A,22Bを有し、スライドドア22A,22Bのスライドにより、ドア20が開閉する。スライドドア22A,22Bは、開くときに、閉じた状態からまずスライドしつつ車両の幅方向外側に動き、その後車体12の外側を車体側面に沿ってスライドする。スライドドア22A,22Bには、それぞれドアガラスが設けられドア窓が形成されている。スライドドア22A,22Bの窓以外の部分をドアパネル23A,23Bと記す。ドア20は、車両の前後方向において、車体12の側面のほぼ中央に配置され、ドア20の前方および後方にサイドウインドウガラス24が配置され側方窓が形成されている。ドア20が配置されていない側面には、車体12の前後方向のほぼ全体にわたって側方窓が形成されている。
【0021】
図2は、車両側部、特に乗降口に関連する車両側部の構造を模式的に示す図である。図2には、左側の車両側部構造が示され、特に車体12の車体側面構造体26とスライドドア22A,22Bが互いに分離された状態で示されている。車両の右側にドアが設けられる場合、その構造は、図示する左側の構造と左右対称である。車体側面構造体26には、搭乗者等が乗降する際通過する乗降用開口28が形成されており、スライドドア22A,22Bは、乗降用開口28を開閉する。図2において、スライドドア22A,22Bは、背後が透けて見える状態で示されている。
【0022】
乗降用開口28は、略長方形であり、上縁28a、下縁28b、前側縁28cおよび後側縁28dを有する。上縁28aおよび下縁28bは、車両10の前後方向に沿って延び、前側縁28cおよび後側縁28dは、上下方向に沿って延びている。
【0023】
スライドドア22A,22Bの概形も直方形であり、それぞれが乗降用開口28の約半分を覆う大きさを有している。2枚のスライドドア22A,22Bの上縁をそれぞれ22Aa,22Baと記し、下縁をそれぞれ22Ab,22Bbと記す。2枚のスライドドア22A,22Bの互いに閉じ合わさる縁、すなわちドア20を開いたときに乗降口を規定する縁を先縁22Ac,22Bcと記し、反対側の縁を基縁22Ad,22Bdと記す。スライドドアの上縁22Aa,22Baおよび下縁22Ab,22Bbは、乗降用開口の上縁28aおよび下縁28bに対応し、車両10の前後方向に沿って延びている。スライドドア22Aの先縁22Acとスライドドア22Bの先縁22Bcは、車両10の前後方向において互いに向き合っており、それぞれ上下方向に沿って延びている。スライドドア22Aの基縁22Adは、スライドドア22Aが閉じているとき、乗降用開口の前側縁28cに沿い、かつ隣接するように位置する。スライドドア22Bの基縁22Bdは、スライドドア22Bが閉じているとき、乗降用開口の後側縁28dに沿い、かつ隣接するように位置する。
【0024】
スライドドア22A,22Bは、それぞれ車両10の上部、中央部、下部の3箇所において、車体側面構造体26に、概略、車両10の前後方向に沿って延びるレールと、レールに対して相対的にスライドするヒンジとによって、スライド可能に支持されている。スライドドア22A,22Bは、これらのレールによって案内されてスライドする。
【0025】
車体側面構造体26には、乗降用開口28の上縁28aに沿って、かつその近傍にアッパレール30A,30Bが配置されている。アッパレール30Aがスライドドア22Aに対応し、アッパレール30Bがスライドドア22Bに対応する。以下、同様に、スライドドア22Aに対応する要素の符号に「A」を付し、スライドドア22Bに対応する要素の符号に「B」を付す。スライドドア22A,22Bの上縁22Aa,22Baと先縁22Ac,22Bcとが形成する角部には、アッパヒンジ32A,32Bが設けられ、アッパヒンジ32A,32Bは、対応するアッパレール30A,30Bとスライド可能に係合する。スライドドア22A,22Bがスライドするとき、アッパヒンジ32A,32Bも共にスライドする。
【0026】
また、車体側面構造体26には、乗降用開口の前側縁28cと後側縁28dから乗降用開口を離れる方向に延びて、センタレール34A,34Bが配置されている。センタレール34A,34Bは、アッパレール30A,30Bよりも低い位置に、例えば乗降用開口28のほぼ中央の高さの位置に配置されている。スライドドア22A,22Bの基縁22Ad,22Bdの近傍には、センタレール34A,34Bが配置された高さに合わせてセンタヒンジ36A,36Bが設けられ、センタヒンジ36A,36Bは、対応するセンタレール34A,34Bにスライド可能に係合する。スライドドア22A,22Bがスライドするとき、センタヒンジ36A,36Bも共にスライドする。
【0027】
スライドドア22A,22Bの、センタレール34A,34Bより低い位置、例えばスライドドアの下縁22Ab,22Bbの近傍に、下縁22Ab,22Bbに沿ってロワレール38A,38Bが配置されている。乗降用開口の前側縁28cには、ロワレール38Aが配置された高さに合わせてロワヒンジ40Aが設けられ、ロワヒンジ40Aは、ロワレール38Aに対して相対的にスライド可能に係合する。乗降用開口の後側縁28dには、ロワレール38Bが配置された高さに合わせてロワヒンジ40Bが設けられ、ロワヒンジ40Bは、ロワレール38Bに対して相対的にスライド可能に係合する。スライドドア22A,22Bがスライドするとき、ロワレール38A,38Bも共にスライドする。
【0028】
乗降用開口の前側縁28cの上下方向において中央部には、前側縁ストライカ42Aが配置され、前側縁ストライカ42Aに対応してスライドドア22Aの基縁22Ad近傍に基縁ロックユニット44Aが設けられている。同様に、乗降用開口の後側縁28dの上下方向において中央部に、後側縁ストライカ42Bが配置され、後側縁ストライカ42Bに対応してスライドドア22Bの基縁22Bd近傍に基縁ロックユニット44Bが設けられている。基縁ロックユニット44A,44Bは、対応する側縁ストライカ42A,42Bの棒状部分に掛かるフック(不図示)を含む。スライドドア22A,22Bが閉じたとき、フックが対応する側縁ストライカ42A,42Bに係合することで、スライドドア22A,22Bが基縁22Ad,22Bdにおいて車体12に固定される。
【0029】
スライドドア22Aの先縁22Acの上下方向において中央部には、先縁ストライカ46が配置され、先縁ストライカ46に対応して、スライドドア22Bの先縁22Bcの近傍に先縁ロックユニット48が設けられている。先縁ロックユニット48は、先縁ストライカ46の棒状部分に掛かるフック(不図示)を含む。スライドドア22A,22Bが閉じたとき、フックが対応する先縁ストライカ46に係合することで、スライドドア22A,22B同士が互いに固定される。先縁ストライカ46と先縁ロックユニット48の配置に関しては、上記とは逆に、つまり先縁ストライカをスライドドア22Bに、先縁ロックユニット48をスライドドア22Aに配置してもよい。
【0030】
乗降用開口の下縁28bの中央部には、下縁ストライカ50A,50Bが配置されている。スライドドア22Aの先縁22Acと下縁22Abとが形成する角部には、下縁ストライカ50Aに対応して下縁ロックユニット52Aが設けられている。スライドドア22Bの先縁22Bcと下縁22Bbとが形成する角部には、下縁ストライカ50Bに対応して下縁ロックユニット52Bが設けられている。下縁ロックユニット52A,52Bは、それぞれ下縁ストライカ50A,50Bの棒状部分に掛かるフック66(図4参照)を含む。スライドドア22A,22Bが閉じたとき、フック66が対応する下縁ストライカ50A,50Bに係合することで、スライドドア22A,22Bが下縁22Ab,22Bbにおいて車体12に固定される。下縁ストライカ50Aと下縁ロックユニット52Aにより、また下縁ストライカ50Bと下縁ロックユニット52Bにより、スライドドアの先縁下端を車体側面構造体26に固定する下縁ロック機構が構成される。スライドドア22A,22Bの下縁におけるロックについては、後に詳述する。
【0031】
さらに、車体側面構造体26の、乗降用開口の上縁28aの近傍には、スライドドア22A,22Bを駆動してスライドさせる駆動ユニット54A,54Bが配置されている。駆動ユニット54A,54Bは、それぞれ駆動モータ(不図示)と、駆動モータとアッパヒンジ32A,32Bをつなぐワイヤなどの伝達要素(不図示)含む。駆動モータにより、アッパヒンジ32A,32Bが、アッパレール30A,30Bに沿ってスライドし、これによりスライドドア22A,22Bがスライドして開閉する。
【0032】
図3は、乗降用開口の下縁28b周囲の、車体側面構造体26とスライドドア22Bの、前後方向に直交する断面を示す図である。なお、スライドドア22Aの断面も同様に現れる。乗降用開口の下縁28bは、フロア56の左側縁の一部であり、フロア56は、乗降用開口の下縁28bとほぼ同一の高さに形成されている。乗降用開口28に対応したフロア56の下方には、車体12のアンダフレーム58との間にスロープ板60が格納されている。スロープ板60は、必要に応じて、例えば車いす利用の搭乗者が乗降するときに、車体側面構造体26の乗降用開口の下縁28bに隣接して設けられたスロープ板用開口62を通して、車両10の側方に向けて繰り出される(図3において一点鎖線で示す。)。スロープ板60の繰り出しおよび格納は、駆動モータを含む駆動装置により実現することができる。
【0033】
スライドドア22Bの下縁22Bbには、下縁22Bbに沿って延びるウェザストリップ64が配置されている。この例では、ウェザストリップ64は、スライドドア22Bに固定され、先端縁が、フロア56の側端縁に当接する。ウェザストリップ64は、スライドドア22Bの下縁のほぼ全体にわたって延び、乗降用開口の下縁28bとスライドドア22Bとの隙間を封止し、外部からの水等の浸入を防止する。スライドドア22Aにも同様にウェザストリップが配置される。ウェザストリップは、1本に限らず2本、またはそれ以上が並列的に配置されてもよい。また、ウェザストリップは、スライドドアに代えて車体側面構造体26に配置してもよく、また両方に配置してもよい。
【0034】
図4は、乗降用開口の下縁28bに設けられた下縁ストライカ50Bと、スライドドア22Bに設けられた下縁ロックユニット52Bを示す図である。図4は、スライドドア22Bが閉じたときの状態が示されており、下縁ロックユニット52Bのフック66が下縁ストライカ50Bに対向している。
【0035】
下縁ストライカ50Bは、乗降用開口の下縁28bを規定するフロア56に設けられたT字形の開口68(以下、T字開口68と記す。)内に配置される。特に、下縁ストライカ50Bは、フロア56の面から突出しないように配置されてよい。下縁ストライカ50Bは、例えばU字形状を有し、U字を倒立した状態で配置されている。そして、U字の底辺に相当する棒状の部分がT字開口68のT字の横画に相当する部分に対応している。
【0036】
下縁ロックユニット52Bは、フック66と、駆動モータを含むアクチュエータ70と、アクチュエータの駆動力をフック66に伝達するギヤ、リンク、レバー等を含む伝達機構72とを含む。フック66は、先端に爪66aを含み、フック66が図中の矢印Y1の方向に回動すると、爪66aがT字開口68のT字の縦画に相当する部分に進入し、さらに、下縁ストライカ50Bに係合する。フック66、特に爪66aは、フック66の回動に伴って下縁ストライカ50Bを相対的に引き寄せる形状を有しており、フック66が下縁ストライカ50Bに係合するとき、スライドドア22Bとフロア56の隙間を狭めるようにする。これにより、ウェザストリップ64のフロア56への密着性が高まる。
【0037】
図5は、スライドドア22Bのスライドの様子を示す図であり、閉じた状態と、開いた状態が重ねて表されている。図5の上部にはアッパレール30Bに関連する支持構造が、中央部にはセンタレール34Bに関連する支持構造が、下部にはロワレール38に関連する支持構造が示されている。なお、スライドドア22Aに係る構成は、スライドドア22Bに係る構成と左右対称に現れる。
【0038】
各レール30B,34B,38Bは、前後方向に延びており、相手方のスライドドア22Aに近い側の端を先端、相手方のスライドドア22Aから遠い側の端を基端と記す。図5においては、各レール30B,34B,38Bの左端が先端であり、右端が基端である。
【0039】
アッパレール30Bは、先端30Baに向けて車幅方向内側に湾曲しており、湾曲した部分よりも基端30Bb側では略直線形状となっている。アッパヒンジ32Bは、スライドドア22Bに固定されるアッパヒンジ基部74と、アッパヒンジ基部74に対して回動可能なアッパヒンジブラケット76を含む。アッパヒンジブラケット76は、先端において、アッパレール30Bと係合するガイドローラを回転可能に支持している。
【0040】
センタレール34Bは、先端34Baに向けて車幅方向内側に湾曲しており、湾曲した部分よりも基端34Bb側では略直線形状となっている。センタレール34Bは、基端34Bbに向けて、わずかに車幅方向内側に湾曲していてもよい。これにより、スライドドア22Bが開いたとき、スライドドアの基縁22Bdが車体12に近づく。センタヒンジ36Bは、スライドドア22Bに固定されるセンタヒンジ基部78と、センタヒンジ基部78に対して回動可能なセンタヒンジブラケット80を含む。センタヒンジブラケット80は、先端において、センタレール34Bに係合するガイドローラを回転可能に支持している。
【0041】
ロワレール38Bは、基端38Bbに向けて車幅方向外側に湾曲しており、湾曲した部分よりも先端38Ba側では、略直線形状となっている。ロワヒンジ40Bは、車体側面構造体26に固定されるロワヒンジ基部82と、ロワヒンジ基部82に対して回動可能なロワヒンジブラケット84を含む。ロワヒンジブラケット84は、先端において、ロワレール38Bと係合するガイドローラを回転可能に支持している。
【0042】
スライドドア22Bが、図5において左側に示される閉じた状態から開くとき、スライドドア22Bは、まず、矢印Y2で示されるように、各レール30B,34B,38Bの湾曲部分に案内されて、後方に向けて移動しつつ、車幅方向外側に向けて移動する。これにより、スライドドア22Bは、車体側面構造体26よりも車幅方向外側にせり出す。続けて、スライドドア22Bは、矢印Y3で示されるように、車体側面構造体26の外側を、その表面に沿って後方にスライドし、図5において右側に示す開いた状態となる。
【0043】
スライドドア22Bを閉めるときは、上記と逆に動作し、スライドドア22Bが閉じ位置に来ると、基縁ロックユニット44B、先縁ロックユニット48、下縁ロックユニット52Bが動作し、スライドドア22Bを閉じ位置に引き寄せ位置決めする。
【0044】
もう1つのスライドドア22Aの開閉動作は、上述のスライドドア22Bと同様であり、スライドの方向のみが反対向きとなる。
【0045】
図6,7は、スライドドア22Bの下縁部、特にロワレール38Bの周囲の構成を模式的に示す図であり、図6はロワレール38の位置における水平面断面図、図7はスライドドア22Bの先端下縁を前方から見た状態を示す図である。ロワレール38Bは、ドアパネル23Bの車幅方向内側に配置される。ロワレール38Bは、先端38Ba近傍にて、下縁ロックユニット52Bに固定されたロワレール先端ブラケット86によって支持され、後端38b近傍にて、ドアパネル23Bに固定されたロワレール基端ブラケット88により支持される。ロワレール38Bは、スライドドアの先縁22Bcから基縁22Bdに向けてドアパネル23Bに沿って、かつドアパネル23Bから離れて延びる直線部分38Bcと、直線部分38Bcの、スライドドアの基縁22Bd側の端からドアパネル23Bに向けて湾曲して延びる湾曲部分38Bdを有する。下縁ロック機構の下縁ロックユニット52Bが、ロワレールの直線部分38Bcとドアパネル23Bの間に配置される。ロワレール38Bは、スライドドア22Bが開くときに、スライドドア22Bを車幅方向外側にせり出させるために湾曲部分38Bdを有する。このため、ロワレールの直線部分38Bcとドアパネル23Bの間には空間が形成される。この空間に下縁ロックユニット52Bを配置することで、空間を有効に利用することができる。
【0046】
ドアパネル23Bには、車幅方向内側に下縁ロックユニット52Bを覆うように配置された下縁ロックユニットカバー90が固定されている。下縁ロックユニットカバー90は、図6に示されるように略L字形であり、ドアパネル23Bの先縁近傍と、下縁ロックユニット52Bより後方でドアパネル23Bに固定されている。下縁ロックユニット52Bは、ドアパネル23Bと下縁ロックユニットカバー90の間に位置し、これらに囲まれて保護されている。ロワレール38B、特に直線部分38Bcは、下縁ロックユニットカバー90よりも車幅方向内側に位置している。ドアパネル23Bに対し、下縁ロックユニット52B、下縁ロックユニットカバー90、ロワレール28Bの順に組み付けることができる。
【0047】
下縁ロックユニット52Bよりもスライドドアの基縁22Bd側にてスペーサ92がドアパネル23Bに固定されている。ロワレール38Bは、スペーサ92に固定され、スペーサ92を介してドアパネル23Bに固定されている。ロワレール38Bは、ロワレール先端ブラケット86、ロワレール基端ブラケット88に加え、スペーサ92により支持されることにより、ロワレール38Bに掛かる荷重を分散することができる。
【0048】
スライドドア22Aのロワレール38A周囲の構成は、上述したスライドドア22Bのロワレール28Bに係る構成と左右対称に現れる。
【0049】
図8は、下縁ロックユニット52A,52Bの動作の制御に係る構成のブロック図である。ドア開閉制御装置100は、スライドドア22A,22Bの開閉動作を制御し、下縁ロックユニット52A,52Bの制御に加え、駆動ユニット54A,54Bの動作も制御してよい。また、基縁ロックユニット44Bおよび先縁ロックユニット48がアクチュエータにより動作する場合には、これらの動作も制御してよい。
【0050】
スライドドア22Bが閉じたことがドア閉じセンサ102により検出されると、ドア開閉制御装置100は、下縁ロックユニット52Bのアクチュエータ70を駆動して、フック66を図4に示す矢印Y1の方向に回動させ、フック66を下縁ストライカ50Bと係合させる。これにより、スライドドア22Bの先縁22Bcの下端が車体側面構造体26に引き寄せられる。また、スライドドア22Bの下縁に配置されたウェザストリップ64が、車体側面構造体26、特にフロア56に押圧されてスライドドア22Bとフロア56の間が確実に封止される。ドア閉じセンサ102は、カーテシスイッチを利用することができる。もう1つのスライドドア22Aに配置された下縁ロックユニット52Aも同様に制御される。
【0051】
図9は、本実施形態のスライドドア22A,22Bを備えた車両の側部構造の動作および作用に関する説明図である。図9の上側には、スライドドア22A,22Bが開いた状態が示されており、下側にはスライドドア22A,22Bが閉じた状態が示されている。スライドドア22A,22Bの上部を支持するアッパヒンジ32A,32B、および中央部で支持するセンタヒンジ36A,36Bは、スライドドア22A,22Bと共にスライドする。これに対し、スライドドア22A,22Bを下部で支持するロワヒンジ40A,40Bは、車体側面構造体26に固定されており、スライドドア22A,22Bがスライドしても移動しない。
【0052】
スライドドア22Bに関し、3つのヒンジ32B,36B,40Bが作る三角形Sの面積は、スライドドア22Bが開いたときに大きく、閉じたときに小さい。言い換えれば、アッパヒンジ32Bとロワヒンジ40Bを結ぶ、3辺のうち最も長い辺と、残りの頂点(センタヒンジ36B)の距離が、スライドドア22Bが開いたときに大きく、閉じたときに小さい。このため、スライドドア22Bは、閉じた状態において、開いたときよりも支持の安定性に欠ける傾向にある。もう一つのスライドドア22Aについても同様である。
【0053】
仮に、3つのヒンジがスライドドア22Bと共にスライドするように構成すれば、スライドドア22Bが閉じたときにも三角形Sの形状は変化せず、支持の安定性も維持できる。しかし、この場合、スライドするロワヒンジを案内するロワレールを車体側面構造体26に設ける必要があり、そのためのスペースが、フロア56を低い位置に設置する、いわゆる低床化の妨げとなる。さらに、フロア56下にスロープ板60の格納スペースを設ける必要がある場合は、ロワレールを配置するスペースに関し、より厳しいものとなる。
【0054】
本実施形態の車両側部構造においては、ロワレール38A,38Bをスライドドア22A,22Bに設けたことにより、低床化に貢献している。一方で、上述のように、スライドドア22A,22Bを閉じたときに、支持の安定性が低下するが、スライドドアの先縁22Ac,22Bcの下端を下縁ストライカ50A,50Bと下縁ロックユニット52A,52Bにより引き寄せることで、スライドドア22A,22Bの安定性が高められる。また、ウェザストリップ64による封止性も高められる。
【0055】
両開きのスライドドアについてその支持構造を説明したが、この支持構造は片開きのスライドドアに採用されてもよい。
【符号の説明】
【0056】
10 車両、12 車体、20 ドア、22A,22B スライドドア、22Aa,22Ba (スライドドアの)上縁、22Ab,22Bb (スライドドアの)下縁、22Ac,22Bc (スライドドアの)先縁、22Ad,22Bd (スライドドアの)基縁、23A,23B ドアパネル、26 車体側面構造体、28 乗降用開口、28a (乗降用開口の)上縁、28b (乗降用開口の)下縁、28c (乗降用開口の)前側縁、28d (乗降用開口の)後側縁、30A,30B アッパレール、32A,32B アッパヒンジ、34A,34B センタレール、36A,36B センタヒンジ、38A,38B ロワレール、38Bc (ロワレールの)直線部分、39Bd (ロワレールの)湾曲部分、40A,40B ロワヒンジ、50A,50B 下縁ストライカ、52A,52B 下縁ロックユニット、54A,54B 駆動ユニット、56 フロア、64 ウェザストリップ、66 フック、74 アッパヒンジ基部、76 アッパヒンジブラケット、78 センタヒンジ基部、80 センタヒンジブラケット、82 ロワヒンジ基部、84 ロワヒンジブラケット、90 下縁ロックユニットカバー、92 スペーサ、100 ドア開閉制御装置、102 ドア閉じセンサ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9