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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】電力変換器の制御装置および制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20240828BHJP
   B60L 9/18 20060101ALI20240828BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20240828BHJP
   B60L 7/14 20060101ALI20240828BHJP
   H02P 27/06 20060101ALI20240828BHJP
【FI】
H02M7/48 M
B60L9/18 A
B60L15/20 A
B60L7/14
H02P27/06
H02M7/48 E
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021149239
(22)【出願日】2021-09-14
(65)【公開番号】P2023042118
(43)【公開日】2023-03-27
【審査請求日】2023-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金沢 友美
(72)【発明者】
【氏名】國廣 直希
(72)【発明者】
【氏名】初瀬 渉
【審査官】安食 泰秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-088974(JP,A)
【文献】特開平10-164701(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
B60L 9/18
B60L 15/20
B60L 7/14
H02P 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パンタグラフを介して架線に回生電力を供給可能な鉄道車両における電力変換器の制御装置であって、
前記制御装置は、
電動機に対するトルク指令値に基づいて当該電動機を駆動する前記電力変換器に対してスイッチング指令を出力する制御部と、
前記制御部に対して前記電動機の回生運転時にトルク操作量を出力して前記トルク指令値を補正する回生時操作部と
を備え、
前記回生時操作部は、同期PWMモードでの駆動時に、前記電力変換器の直流電圧検出値が直流電圧目標値を超えている場合に、前記トルク指令値を前記電動機が力行運転に至らない微小な値の力行トルク指令値とする前記トルク操作量を出力する
ことを特徴とする電力変換器の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力変換器の制御装置であって、
前記回生時操作部は、前記直流電圧検出値が前記直流電圧目標値に至るまでは、前記トルク指令値の変化率を前記直流電圧検出値の大きさに基づいて、一定または変化させる
ことを特徴とする電力変換器の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電力変換器の制御装置であって、
前記回生時操作部は、前記直流電圧目標値と前記直流電圧検出値との差に応じて前記トルク操作量を出力し、当該トルク操作量は、前記直流電圧検出値が前記直流電圧目標値を越えるまでは、前記トルク指令値を絞り込まずに、前記直流電圧検出値が過電圧にならない範囲で高い電圧に維持する操作量である
ことを特徴とする電力変換器の制御装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の電力変換器の制御装置であって、
前記回生時操作部は、前記回生運転時に出力する最大力行トルクを設定し、前記トルク操作量が、前記最大力行トルクより小さいときは当該トルク操作量を出力し、前記最大力行トルク以上のときは当該最大力行トルクを出力する
ことを特徴とする電力変換器の制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電力変換器の制御装置であって、
前記回生時操作部は、前記直流電圧検出値の複数回にわたる過電圧発生を含む過電圧の発生頻度に応じて、前記最大力行トルクの設定を増加させる
ことを特徴とする電力変換器の制御装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載の電力変換器の制御装置であって、
前記回生時操作部は、前記電動機の温度情報および前記電力変換器に設置する検出器の温度情報の少なくともいずれかに基づいて、前記最大力行トルクの設定を変更する
ことを特徴とする電力変換器の制御装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の電力変換器の制御装置を搭載する電気車。
【請求項8】
パンタグラフを介して架線に回生電力を供給可能な鉄道車両に搭載する電動機を駆動する電力変換器の制御方法であって、
前記電動機に対するトルク指令値にトルク操作量を操作した値に基づいて前記電力変換器に対するスイッチング指令を出力し、
同期PWMモードでの前記電動機の回生運転時に、前記電力変換器の直流電圧検出値が直流電圧目標値を超えている場合には、前記トルク指令値を前記電動機が力行運転に至らない微小な値の力行トルク指令値とする前記トルク操作量を出力する
ことを特徴とする電力変換器の制御方法。
【請求項9】
請求項8に記載の電力変換器の制御方法であって、
前記トルク操作量を、前記直流電圧検出値の過電圧情報、前記電動機の温度情報および前記電力変換器に設置する検出器の温度情報の少なくともいずれか一つの情報に基づいて変更する
ことを特徴とする電力変換器の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換器の制御装置および制御方法に関し、特に、鉄道車両用電力変換器に対して好適である。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両は、回生運転時、モータを発電機として動作させ、発電した電力を架線に戻して他の列車の加速に使用するなど、電力の有効活用を図っている。しかし、自車両の周辺に負荷車両(力行運転車両)が少ない、または、他の負荷車両が回生して架線電圧が高くなっている状態で、回生ブレーキを掛けると、架線電圧とFC(Filter Capacitor:フィルタコンデンサ)電圧を上昇させることとなり、過電圧に至る。
【0003】
そのため、鉄道車両用電力変換器(インバータ)の制御装置では、制御装置が備えるFC電圧検出器によって検出した電圧値が、FC電圧目標値を超えた場合には、回生ブレーキトルクを絞り込むようにトルク操作量を演算する軽負荷回生制御を備えている。
【0004】
回生電力を消費する電力機器がない無負荷状態では、軽負荷回生制御により回生ブレーキトルクをゼロまで絞り込む無負荷回生状態となる。この無負荷回生状態においては、軽負荷回生制御によるトルク操作後のトルク指令値はゼロとしていても、実際には、PWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)制御を起因とする電圧出力誤差、CT(Current Transformer:電流検出器)による電流検出誤差およびDCPT(Direct Current Potential Transformer:直流電圧検出器)による電圧検出誤差、さらには、モータ損失分によるトルク誤差の影響を受け、動作中に数Nm程度のブレーキトルクが発生し、過電圧検知に至る可能性がある。
【0005】
上記した回生運転時の過電圧を防止するという課題に対しては、様々な改良技術が提案されている。
特許文献1には、回生運転時に、検出したFC電圧がFC電圧目標値を超えた場合に、トルク電流指令を絞り込むことで、電圧値を所定のFC電圧目標値に一致させ、過電圧を防止する技術が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、回生運転時に、FC電圧に応じて周波数調整量を計算し、周波数調整量が正の場合、モータを回生状態から力行状態へ移行させ、過電圧を防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-88974号公報
【文献】米国特許第7126297号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願発明者らは、回生運転時の過電圧防止を目的に鋭意検討した結果、次の知見を得るに至った。
特許文献1に記載の技術は、電圧検出部によって検出された電圧値に基づいて、軽負荷回生制御トルク電流値を演算し、当該電圧値がFC電圧目標値を超えると、軽負荷回生制御演算手段は、軽負荷回生制御トルク電流値を出力するため、トルク電流指令を絞り込む機能を持つ。これにより、電圧検出手段によって検出される電圧値を所定のFC電圧目標値に一致させることが可能となり、その結果、架線電圧を安定化させることを特徴とするものである。
【0009】
しかし、FC電圧目標値と一致した時点で、軽負荷回生制御のトルク操作後のトルク指令値はゼロとしていても、PWMモード起因の電流検出誤差、DCPTの検出誤差およびモータ損失分により、動作中に数Nm程度のブレーキトルクが発生し、過電圧検知に至る可能性があるという課題がある。
【0010】
また、特許文献2に記載の技術は、回生運転時に、FC電圧に応じて出力周波数を計算し、FC電圧が上昇している場合は力行動作を行うことを特徴とするものである。
【0011】
しかし、過電圧検知に至る電圧に関係なく、FC電圧が上昇している場合に力行状態へ移行するため、回生電力を最大限利用できないという課題がある。
【0012】
そこで、本発明は、上記の点を考慮してなされたものであり、軽負荷回生制御中に、軽負荷回生制御のFC電圧目標値を超え、数Nm程度のブレーキトルクが発生した場合に、微小な力行トルクを出力するように操作量のパターンを変更することで、回生運転時に回生電力を最大限利用しつつ、過電圧を防止する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記した課題を解決するために、代表的な本発明に係る電力変換器の制御装置の一つは、パンタグラフを介して架線に回生電力を供給可能な鉄道車両における電力変換器の制御装置であって、制御装置は、電動機に対するトルク指令値に基づいて当該電動機を駆動する電力変換器に対してスイッチング指令を出力する制御部と、制御部に対して電動機の回生運転時にトルク操作量を出力してトルク指令値を補正する回生時操作部とを備え、回生時操作部は、同期PWMモードでの駆動時に、電力変換器の直流電圧検出値が直流電圧目標値を超えている場合に、トルク指令値を電動機が力行運転に至らない微小な値の力行トルク指令値とするトルク操作量を出力するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、例えば、鉄道車両が回生運転時に周辺に負荷車が少ない、または、他の負荷車が回生して架線電圧が高くなっている状態でも、過電圧の発生を防止し、回生電力を最大限活用して運転することができる。
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施をするための形態における説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る電気車の駆動部およびその制御装置の構成例を示すブロック図である。
図2】架線とLCフィルタ回路とを含めた等価的な回路を示す図である。
図3】実施例1の軽負荷回生操作量演算部の入出力態様を示す図である。
図4】軽負荷回生制御(比例制御)の操作量テーブルの一例を示す図である。
図5】軽負荷回生制御(比例制御)の操作量テーブルの変形例を示す図である。
図6】実施例2の軽負荷回生操作量演算部の入出力態様を示す図である。
図7】実施例1および実施例2における電圧検出値およびブレーキトルク指令の特性の一例を示す図である。
図8】実施例2に係る制御装置にPI制御を使用した一例を示すブロック図である。
図9】実施例3に係る制御装置の一例を示すブロック図である。
図10】実施例4に係る制御装置の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態として、実施例1から4について説明する。なお、これら実施例により本発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示す。
【実施例1】
【0017】
図1は、本発明に係る電気車の駆動部およびその制御装置の構成例を示すブロック図である。
図1において、架線107は、パンタグラフ108、直流フィルタリアクトル106を介して、直流フィルタコンデンサ105の正側電位点に接続される。また、直流フィルタコンデンサ105の負側電位点は、車輪109を介して、レール110に接地される。また、図の左側に、上記の構成を搭載した電気車111を模式的に示す。
【0018】
電力変換器102は、直流フィルタコンデンサ105の正側電位点と負側電位点との間に接続され、架線107からの直流電力を交流電力に変換し、電動機103に供給して電動機103を駆動する。
【0019】
制御装置101は、指令発生器113、軽負荷回生操作量演算部112およびベクトル制御部114で構成され、このベクトル制御部114からの出力により電力変換器102を制御する。
【0020】
電力変換器102に入力される直流電圧または架線電圧を検出するために、図1では、電圧検出部104を直流フィルタコンデンサ105に設け、直流フィルタコンデンサ105にかかる直流電圧の検出電圧Ecfを、軽負荷回生操作量演算部112に入力する。
【0021】
相電流検出部115は、電力変換器102から電動機103に流れる交流電流iuおよびiwを検出する。この相電流検出部115は、例えば、ホール素子を用いた電流センサにより実現される。なお、図1では、U相とW相による2相検出としているが、U、VおよびW相のいずれか2相であればよく、また、3相検出としてもよい。検出電流iuおよびiwは、ベクトル制御部114に入力される。
【0022】
指令発生器113は、電動機103のトルク指令値Tm*を発生する。
軽負荷回生操作量演算部112は、検出電圧Ecfの電圧値が目標値を越えた場合に、トルク指令値を補正するためのトルク操作量ΔTm*を演算して出力する。
【0023】
ベクトル制御部114は、相電流検出部115からの交流電流検出値IuおよびIwと、トルク指令値Tm*にトルク操作量ΔTm*を加算した値Tm**とに基づき、電力変換器102のスイッチング素子を駆動するためのスイッチング指令を生成して電力変換器102に入力する。
電力変換器102は、ベクトル制御部114が生成したスイッチング指令に基づいて、直流電力を3相交流電力に変換し、変換した3相交流電力を電動機103に供給する。
【0024】
以上のような電気車制御装置において、電気車111が運行中にある速度から減速する場合には、レール110と車輪109との粘着力により回転力を与えられた電動機103は、発電機として動作する。この発電機動作により発生する直流電力は、直流フィルタコンデンサ105、直流フィルタリアクトル106およびパンタグラフ108を介して、架線107に回生電力として戻す。
【0025】
図2は、架線107とLCフィルタ回路とを含めた等価的な回路を示す図である。
自車が回生時に、他車がどのような振舞いをしているかを模擬した回生負荷抵抗をRLとする。また、架線電圧は、3相交流電圧を全波整流して作られるため、ダイオードで記載している。
【0026】
架線を介して電気的に接続される他車が力行運転で大きな電力量を消費している状態では、回生負荷抵抗は十分に小さくなることから、自車が大きな回生電力を架線側に返しても架線電圧の上昇は発生しない。
【0027】
一方で、架線を介して電気的に接続される他車が電力を消費していない状態では、回生負荷抵抗は大きな値となり、自車が回生電力を架線側に返した場合、自車の回生電流によって架線電圧の上昇を招く。さらに、上昇した架線電圧がある電圧値を超えると、過電圧保護のために電気車制御装置は停止する。
【0028】
図3は、実施例1の軽負荷回生操作量演算部112の入出力態様を示す図である。
軽負荷回生操作量演算部112は、架線電圧の過電圧保護に掛からないようにするために、電圧検出値Ecfに基づいて、電圧検出値Ecfが電圧目標値Ecf*を超えた場合に、軽負荷回生制御として回生ブレーキトルクを絞り込むためのトルク操作量ΔTm*を出力する。
【0029】
電圧検出値Ecfが電圧目標値Ecf*と一致した時点で、軽負荷回生制御のトルク操作後のトルク指令値Tm**は、ゼロとなる。この時、PWMモード起因の電流検出誤差、DCPTの検出誤差およびモータ損失分により、動作中に数Nm程度のブレーキトルクが発生し、過電圧検知に至る可能性がある。
【0030】
特に、鉄道車両用の電力変換器(インバータ)では、消費電力量の低減や回生電力の有効利用を目的にして、電圧利用率を高めるために電圧パルス数の少ない同期PWMモードにて駆動する特徴を持つ。一方で、電圧パルス数の少ない同期PWMモードでは、電流波形に含まれる高調波成分が大きくなりやすく、電流検出時の誤差が発生しやすいという側面もある。
【0031】
図4は、軽負荷回生制御(比例制御)の操作量テーブルの一例を示す図である。
図4に示すように、電圧検出値Ecfが電圧目標値Ecf*を超えた場合に(図4に示す、ii)、微小な力行トルク(図4に示す、b)を出力させるために、操作量のパターンを変更する。これにより、架線電圧の上昇を抑制し、過電圧を防止できる。ただし、この微小な力行トルクの出力により、車両が力行運転にまでは至らない。
【0032】
また、上記の変更操作により架線電圧が絞り込まれた際、または、他車が力行動作を開始した結果架線電圧が低下した際には、電圧検出値Ecfに応じて再び回生トルクを出力する。
ここで、操作量テーブルついては、図4の形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で、種々に変形して実施することが可能である。
【0033】
図5は、図4に示す軽負荷回生制御(比例制御)の操作量テーブルの変形例を示す図である。
図5に示す操作量テーブルは、先の図4に示す操作量テーブルと対比すると、電圧検出値Ecfが電圧目標値Ecf*を超えた場合に(図5に示す、ii)、微小な力行トルク(図5に示す、b)を出力させる点は同じであるが、その点に至るまでの操作量のカーブが異なる。例えば、実線の二次曲線のように制御すれば、トルクを早く絞り込むことが可能となる。一方で、点線の二次曲線のように制御すれば、回生電力を有効活用することが可能である。
【0034】
以上、実施例1によれば、鉄道車両が回生運転時に周辺に負荷車が少ない状態、または、他の負荷車の回生により架線電圧が高くなっている状態でも、演算負荷が少ないシンプルな構成で、過電圧の発生を防止し、安定して回生運転することができる。
【実施例2】
【0035】
実施例2は、実施例1と異なり、電圧目標値Ecf*と電圧検出値Ecfとの差に応じてトルク操作量を出力するものである。
以下では、実施例1との相違点を中心に説明する。
【0036】
図6は、実施例2の軽負荷回生操作量演算部112の入出力態様を示す図である。
実施例2は、軽負荷回生操作量演算部112が、電圧目標値Ecf*から電圧検出部104によって検出される電圧検出値Ecfを減算した差分に応じて、トルク操作量ΔTm*を演算して出力する。その際、軽負荷回生操作量演算部112は、電圧検出値Ecfが電圧目標値Ecf*を越えた場合に、電圧検出値Ecfが電圧目標値Ecf*に一致するように制御する。これにより、架線電圧をある一定値に絞り込ませるようにしている。
【0037】
図7は、実施例1および実施例2における電圧検出値およびブレーキトルク指令の特性の一例を示す図である。
図7の(a)は、実施例1による軽負荷回生制御(比例制御)の操作量テーブル(下側)および電圧検出値Ecf(上側)を示す図で、図7の(b)は、実施例2による軽負荷回生制御(PI制御)のブレークトルク指令(下側)および電圧検出値ECF(上側)を示す図である。
【0038】
実施例2では、電圧検出値Ecfが電圧目標値Ecf*を越えるまでは、ブレーキトルク指令を絞り込まず、過電圧にならない範囲で高い電圧に維持する。これにより、実施例1と比較して、回生電力を最大限利用することができる(図7の(b)でハッチングした部分)。
【0039】
図8は、実施例2に係る制御装置にPI制御を使用した一例を示すブロック図である。また、実施例2では、実施例1と比べて最大力行トルク設定部116を追加している。
軽負荷回生操作量演算部112から、軽負荷回生制御としてのトルク操作量ΔTm*が出力される。このトルク操作量ΔTm*を指令発生器113から出力されたトルク指令値Tm*に加算した値Tm**と、軽負荷回生時に出力する最大力行トルク設定部116で設定された力行トルクbとを比較し、小さい方(MIN)がトルク補償量として出力される。
【0040】
以上のとおり、実施例2によれば、鉄道車両が回生運転時に周辺に負荷車が少ない状態、または、他の負荷車の回生により架線電圧が高くなっている状態でも、過電圧の発生を防止し、回生電力を最大限利用しつつ安定して回生運転することができる。
【0041】
また、上記した実施例2では、PI制御について説明したが、これに限らず、PID制御でもよい。また、出力する最大力行トルクをMINで制限しているが、リミットやテーブルで制限してもよい。これらは、後述する実施例3および実施例4においても同様である。
【実施例3】
【0042】
実施例3は、複数回にわたって過電圧を検知した場合に、力行トルクを出力する量を増加させるものである。
以下では、実施例1および2との相違点を中心に説明する。
【0043】
図9は、実施例3に係る制御装置の一例を示すブロック図である。実施例3では、最大力行トルク設定部116による力行トルク設定が変更可能である点が、実施例1および2と異なる。
【0044】
軽負荷回生時に出力する最大力行トルク設定部116で設定された最大力行トルクの初期値bは、事前に設定されている。この時、必要以上の力行トルクが出力されると、回生から力行への切り替え時に制御が不安定化する可能性があるため、必要最低限の力行トルクを設定しておく必要がある。
【0045】
しかし、電動機の温度変化、電動機の個体ばらつき、CTやDCPTなどの検出器の温度変動などにより、必要な力行トルクの値が変化し、過電圧を検知してしまう可能性がある。
【0046】
そのため、軽負荷回生制御中に、複数回にわたって過電圧を検知した場合、最大力行トルクbを増加させる。また、過電圧の発生頻度や状況によっても、最大力行トルクbを変更する。
【0047】
以上のとおり、実施例3によれば、電動機の温度変化、計測機器の誤差および電動機の個体ばらつきなどにより、必要な力行トルクの値が変化した場合にも、最大力行トルクを増加させる。これにより、過電圧の発生を防止し、安定して回生運転することができる。
【実施例4】
【0048】
実施例4は、実施例3で示す過電圧を検知した場合だけでなく、温度情報も使用して、最大力行トルクbを変更するものである。
以下では、実施例3との相違点を中心に説明する。
【0049】
図10は、実施例4に係る制御装置の一例を示すブロック図である。
過電圧検知情報には別に温度情報も使用することで、電動機およびCTやDCPTなどの検出器の温度変動の少なくともいずれかの温度変動によって必要な力行トルクの値が変化することに対しても、過電圧検知を事前に防止できる。
【0050】
過電圧検知情報と温度情報とでは温度情報を主として使用し、また、温度情報を単独で使用してもよい。なお、使用する温度情報としては、外部センサによる検知信号や機器内部の推定値を使用するが、これらに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で、種々に変形して実施することが可能である。
【0051】
以上のとおり、実施例4によれば、電動機の温度変化により電動機の定数が変化しても、出力する力行トルクを調整することで、過電圧の発生を防止し、安定して回生運転することができる。
【0052】
以上、本発明の各実施例について説明したが、本発明は、上述した各実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0053】
101 制御装置、102 電力変換器、103 電動機、104 電圧検出部、
105 直流フィルタコンデンサ、106 直流フィルタリアクトル、107 架線、
108 パンタグラフ、109 車輪、110 レール、111 電気車、
112 軽負荷回生操作量演算部、113 指令発生器、114 ベクトル制御部、
115 相電流検出部、116 最大力行トルク設定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10