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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】液圧ブレーキシステム
(51)【国際特許分類】
   F16D 65/74 20060101AFI20240828BHJP
   B60T 13/138 20060101ALI20240828BHJP
   F16D 66/00 20060101ALI20240828BHJP
【FI】
F16D65/74
B60T13/138 A
F16D66/00 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021177830
(22)【出願日】2021-10-29
(65)【公開番号】P2023066943
(43)【公開日】2023-05-16
【審査請求日】2024-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000969
【氏名又は名称】弁理士法人中部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】薮崎 直樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 淳
(72)【発明者】
【氏名】大竹 毅
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-26099(JP,A)
【文献】特開2019-138433(JP,A)
【文献】特開2018-83628(JP,A)
【文献】特開2019-127085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 65/72 -65/76
B60T 13/138-13/20
F16D 66/00 -66/02
B60T 17/18
B60T 17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の複数の車輪の各々に設けられ、それぞれ、前記車輪と一体的に回転可能なブレーキ回転体にホイールシリンダの液圧室の液圧により摩擦係合部材を押し付けることにより前記車輪の回転を抑制する液圧ブレーキと、
複数の前記液圧ブレーキのうちの1つ以上の前記液圧室にそれぞれ接続され、それぞれ、前記1つ以上の前記液圧室の液圧を制御可能な液圧制御アクチュエータと
を含む液圧ブレーキシステムであって、
複数の前記液圧制御アクチュエータが、それぞれ、前記1つ以上の液圧ブレーキの前記1つ以上の液圧室に接続され、前記1つ以上の液圧室から流出させられた作動液を収容可能なリザーバと、前記リザーバに収容された作動液の液量である作動液量を検出する作動液量検出装置とを含み、
当該液圧ブレーキシステムが、複数の前記作動液量検出装置によって、それぞれ、前記1つ以上ずつの液圧ブレーキの非作用状態において検出された前記作動液量の予め定められた基準作動液量からの変化量に基づいて、前記1つ以上ずつの液圧ブレーキにおける前記ブレーキ回転体と摩擦係合部材との間の隙間をそれぞれ推定する隙間推定部と、
前記隙間推定部によってそれぞれ推定された前記1つ以上ずつの液圧ブレーキにおける前記隙間に基づいて、前記複数の液圧制御アクチュエータのうちの少なくとも1つをそれぞれ制御する液圧制御部と
を含む液圧ブレーキシステム。
【請求項2】
前記隙間推定部が、前記1つ以上ずつの前記液圧ブレーキについて、それぞれ、前記隙間を、前記1つ以上の液圧ブレーキの作動解除後、設定時間が経過した後には、前記変化量が大きい場合は小さい場合より大きい値であると推定し、前記設定時間が経過する前には、車両の走行速度と、前記1つ以上の液圧ブレーキの作動状態における最大液圧とに基づいて決まる値であると推定するものである請求項1に記載の液圧ブレーキシステム。
【請求項3】
前記複数の液圧ブレーキのうちの第1液圧ブレーキと、前記複数の液圧ブレーキのうち前記第1液圧ブレーキとは異なる第2液圧ブレーキとに、それぞれ、1対1に前記液圧制御アクチュエータが接続され、
前記液圧制御部が、前記隙間推定部によって推定された前記第1液圧ブレーキにおける前記隙間と、前記第2液圧ブレーキにおける前記隙間との差が設定隙間より大きい場合に、前記第1液圧ブレーキに接続された前記液圧制御アクチュエータと前記第2液圧ブレーキに接続された前記液圧制御アクチュエータとの少なくとも一方を制御して、前記第1液圧ブレーキと前記第2液圧ブレーキとの効き開始の時期の差を抑制するものである請求項1または2に記載の液圧ブレーキシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に液圧による制動力を加える液圧ブレーキシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、マスタシリンダを含まないで、複数の液圧ブレーキと、複数の液圧ブレーキのホイールシリンダにそれぞれ接続された圧力発生装置とを含む液圧ブレーキシステムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-26099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、液圧ブレーキシステムの改良であり、例えば、液圧ブレーキの非作用状態におけるブレーキ回転体と摩擦係合部材との間の隙間を推定することである。
【課題を解決するための手段および効果】
【0005】
本発明に係る液圧ブレーキシステムの液圧ブレーキにおいて、液圧ブレーキの解除時に、ホイールシリンダにおけるピストンが後退させられることにより、ホイールシリンダの液圧室の作動液がリザーバに戻される。そのため、液圧ブレーキの非作用状態において、リザーバに収容されている作動液量の基準作動液量からの変化量が大きい場合は小さい場合より、ピストンは後方の位置にあることがわかる。
【0006】
例えば、液圧ブレーキの温度が高い場合には、熱膨張により、ブレーキ回転体、摩擦係合部材の体積が増加するが、ブレーキ回転体、摩擦係合部材の体積変化に対してピストンを保持するシリンダ本体の熱膨張による体積変化は小さい。液圧ブレーキの温度は、主として、ブレーキ回転体と摩擦係合部材との摩擦係合により熱が発生させられることに起因して高くなるため、シリンダ本体の温度はブレーキ回転体、摩擦係合部材の温度より低くなるからである。
そのため、液圧ブレーキの作動状態において、ピストンは、ブレーキ回転体、摩擦係合部材の熱膨張により戻され、液圧ブレーキの解除時にピストンシールにより戻される。その結果、液圧ブレーキの解除後に、液圧ブレーキの温度が高い場合は低い場合よりピストンはより後方に位置する。
【0007】
一方、液圧ブレーキの非作用状態において、ブレーキ回転体、摩擦係合部材等の温度の低下により、ブレーキ回転体、摩擦係合部材が収縮し、ブレーキ回転体と摩擦係合部材との間の隙間は大きくなる。そして、このブレーキ回転体、摩擦係合部材等の温度が低下して、熱膨張による体積変化が小さくなった場合の、ブレーキ回転体と摩擦係合部材との間の隙間は、ピストンの位置で決まる。
以上により、液圧ブレーキの非作用状態において、リザーバに収容されている作動液量の基準作動液量(基準隙間に対応する作動液量)からの変化量等に基づけば、液圧ブレーキの非作用状態におけるブレーキ回転体と摩擦係合部材との間の隙間を推定することができるのである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施例に係る液圧ブレーキシステムの全体を概念的に表す図である。
図2】上記液圧ブレーキシステムの電動シリンダ装置の分解側面図である。
図3】上記液圧ブレーキシステムが搭載された車両を示す図である。
図4】上記液圧ブレーキシステムの液圧ブレーキが解除された状態を示す図である。(a)温度が低い場合。(b)温度が高い場合。(c)ブレーキ回転体等の温度が下がった場合。
図5】(a)上記液圧ブレーキのブレーキ回転体と摩擦パッドとの間の隙間の時間に対する変化を示す図である。(b)勾配を走行速度との関係を示す図である。(c)切片と最大液圧との関係を示す図である。(d)隙間と液面高さ変化との関係を示す図である。
図6】上記隙間対応ブレーキ制御プログラムにおいて基準液面高さの更新状態を示す図である。
図7】上記液圧ブレーキシステムのブレーキECUに記憶された隙間対応ブレーキ液圧制御プログラムを表すフローチャートである。
図8】上記隙間対応ブレーキ液圧制御プログラムの一部(隙間推定)を表すフローチャートである。
図9】上記液圧ブレーキシステムのブレーキECUに記憶されたモータ制御プログラムを表すフローチャートである。
図10】(a)上記液圧ブレーキの作動状態を示す図である。(b)上記液圧ブレーキの別の作動状態を示す図である。
図11】上記液圧ブレーキのピストンシールの特性を示す図である。
図12】上記液圧ブレーキシステムが搭載された別の車両を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態である液圧ブレーキシステムを、図面に基づいて説明する。
【実施例
【0010】
本実施例に係る液圧ブレーキシステムは、運転者によるブレーキ操作部材の操作に起因して液圧を発生させるマニュアル液圧源(例えば、マスタシリンダ)を含まないものである。
【0011】
本液圧ブレーキシステムは、図3に示すように、車両である第1車両の前後左右に位置する4つの車輪WFL,WFR,WRL,WRRの各々に設けられた液圧ブレーキ10FL,10FR,10RL,10RRと、液圧ブレーキ10FL,10FR,10RL,10RRの各々に1対1に対応して接続された電動シリンダ装置12FL,12FR,12RL,12RRとを含む。以下、液圧ブレーキ10等について、車輪位置を表す添え字FL,FR,RL,RR,F,Rは、総称する場合、車輪位置に関係なく説明する場合等には、省略する場合がある。
【0012】
本実施例において、図1に示すように、液圧ブレーキ10FL,10FR,10RL,10RRは、それぞれ、車輪Wと一体的に回転可能に設けられたブレーキ回転体20の両側に位置する一対の摩擦係合部材としての摩擦パッド21,22と、摩擦パッド21,22をブレーキ回転体20に押し付ける押付装置23とを含む。押付装置23は、非回転部材に車輪の回転軸線Nと平行な方向(以下、回転軸線方向と称する)に移動可能に保持されたキャリパ24と、キャリパ24に設けられたホイールシリンダ25とを含む。ホイールシリンダ25は、キャリパ24に形成されたシリンダボアに液密かつ摺動可能に嵌合されたピストン(以下、ホイール側ピストンと称する)27と、ホイール側ピストン27の後方に設けられた液圧室26とを含む。また、キャリパ24には、ピストンシール28が取り付けられる。
【0013】
ホイールシリンダ25の液圧室26に液圧が供給されることにより、ホイール側ピストン27が前進させられるとともにキャリパ24が回転軸線方向に移動させられる。一対の摩擦パッド21,22が液圧室26の液圧Pに応じた押付力Fpによりブレーキ回転体20に押し付けられ、摩擦係合させられる。それにより、車輪の回転が抑制される。また、液圧室26の液圧Pが増加・減少させられることにより、押付力Fpが増加・減少させられる。
【0014】
電動シリンダ装置12は、それに接続された液圧ブレーキ10に液圧を発生させるとともに、液圧を制御可能なものである。電動シリンダ装置12は、ハウジング40と、ハウジング40に液密かつ摺動可能に嵌合されたピストンとしてのピストン部材(以下、電動ピストン部材と称する)42と、駆動源としての電動モータ44と、電動モータ44の回転を電動ピストン部材42の直線移動に変換する運動変換装置48と、リザーバ50とを含む。電動ピストン部材42はハウジング40に電動ピストン部材42の軸線Mの周りに回転不能かつ軸線Mと平行な方向に移動可能に保持される。
【0015】
本実施例において、電動ピストン部材42は、ピストン部47と、ピストン部47と一体的に移動可能に嵌合されたピストンロッド(以下、単にロッドと称する)部46とから構成されたものである。なお、ピストン部47とロッド部46とは一体的に製造されたものであってもよい。本実施例において、特許請求の範囲に記載のピストンは、ピストン部47に対応すると考えたり、電動ピストン部材42に対応すると考えたりすること等ができる。
【0016】
ハウジング40は、電動モータ44が収容された第1ハウジングとしての後側ハウジング40rと、有底筒状を成す第2ハウジングとしての前側ハウジング40fと、前側ハウジング40fと後側ハウジング40rとの間に位置する中間ハウジング40mとを含む。これら後側ハウジング40r、中間ハウジング40m、前側ハウジング40fは、互いに分解可能とされている。
【0017】
電動モータ44は、ロッド部46の外周側に、電動ピストン部材42と同軸上に設けられる。また、電動モータ44は、主として後側ハウジング40rに収容され、後側ハウジング40rと中間ハウジング40mとに保持されたステータとしての複数のコイル52と、コイル52の内周側に位置し、複数の磁石Zを備えた概して筒状を成したロータ54とを含む。ロータ54は、後側ハウジング40rと中間ハウジング40mとに、軸線Mと平行な方向に隔てて設けられた一対のベアリング56,57を介して回転可能に保持される。なお、ロータ54において、磁石Zは外周面に設けても、内部に埋め込んでもよい。
【0018】
また、運動変換装置48は、ロータ54の内周部とロッド部46の外周部との間に設けられる。運動変換装置48は、本実施例において、ボールねじ機構を備えたものであり、ロッド部46の外周部に設けられた雄ねじ部62と、ロータ54の内周部に設けられた雌ねじ部63と、これら雄ねじ部62と雌ねじ部63との間に介在させられた複数のボール64とを含む。なお、運動変換装置48は、台形ねじ機構を備えたものとすることができる。
【0019】
前側ハウジング40fにはシリンダボアが形成され、シリンダボアに電動ピストン部材42が、シール部材66を介して液密かつ摺動可能に保持され、前側ハウジング40fのシリンダボアの電動ピストン部材42の前方が容積変化室67とされる。また、電動ピストン部材42と前側ハウジング40fの底部との間にはリターンスプリング68が設けられる。リターンスプリング68により電動ピストン部材42には後退方向に弾性力が付与される。
【0020】
前側ハウジング40f(ハウジング40の容積変化室67を囲む部分である)の軸線Mと平行な方向に隔たった部分に前側ポート70と後側ポート72とが設けられる。前側ポート70には、液通路74を介してホイールシリンダ25の液圧室26が直接接続され、後側ポート72には、リザーバ50が接続される。後側ポート72はアイドルポートと称することができる。
【0021】
前側ポート70は常に開状態にあり、容積変化室67とホイールシリンダ25の液圧室26とは液通路74を介して常に連通状態にある。本実施例において、液通路74に、電磁弁等は設けられていない。
【0022】
後側ポート72は、電動ピストン部材42が後退端位置にある場合に、開状態にあるが、電動ピストン部材42の前進により閉状態に切り換えられ、容積変化室67に液圧が発生させられる。電動ピストン部材42の後退端位置は、電動ピストン部材42がハウジング40に設けられた図示しないストッパに当接する位置である。
リザーバ50は、摩擦パッドの摩耗や加圧による弾性変形での消費液量変化、作動液が漏れだした後でも、一定の制動を可能とするために、作動液を収容するものである。また、リザーバ50には、ホイールシリンダ25から戻された作動液が収容される。
【0023】
また、本実施例に係る電動シリンダ装置12において、電動ピストン部材42のピストン部47の直径D(図2参照)が小さく、電動ピストン部材42の最大ストロークLが大きい。電動ピストン部材42の最大ストロークLは、例えば、電動ピストン部材42が後退端位置にある場合のピストン部47の前端面と前側ハウジング40fの底面との間の長さLであると考えることができる。また、最大ストロークL,すなわち、フルストロークLには、ポートアイドルLp(後退端位置から後側ポート72が塞がれる位置までのストローク)が含まれる。
【0024】
例えば、マニュアル液圧源としてのマスタシリンダにおいて、加圧ピストンには運転者によって操作可能なブレーキペダルが連結され、加圧ピストンはブレーキペダルの踏込み操作に伴って前進させられる。一方、ブレーキペダルは、運転者によって踏み込まれるため、ブレーキペダルの最大ストロークは人間工学等に基づいて決まり、加圧ピストンの最大ストロークもブレーキペダルの最大ストロークで決まる。そのため、マスタシリンダの加圧ピストンの最大ストロークは、50mmより小さいのが普通である。
【0025】
それに対して、本実施例に係る電動シリンダ装置12において、電動ピストン部材42はブレーキ操作部材の操作によって移動させられるのではなく、電動モータ44によって移動させられる。そのため、人間工学等の制約がなく、最大ストロークを大きくすることができる。そして、電動ピストン部材42の最大ストロークを大きくできるため、電動ピストン部材42の直径D(受圧面積SA)が小さくても、ホイールシリンダ25において要求される量の作動液を供給することが可能となる。換言すれば、ホイールシリンダ25において要求される量の作動液を供給するために、電動ピストン部材42の最大ストロークを大きくすることにより、ピストン部47の受圧面積SA(直径D)を小さくすることができるのである。
【0026】
このように、電動ピストン部材42の受圧面積SAを小さくすることにより、液圧ブレーキ10のホイールシリンダ25のホイール側ピストン27の受圧面積SWを電動ピストン部材42の受圧面積SAで割った値(以下、受圧面積の比率と略称する)SW/SAを大きくすることができる。そのため、ホイールシリンダ25において要求される押付力Fpが同じ場合に、直動変換装置48のロッド部46に加えられる軸力Fsを小さくすることができ、その分、電動モータ44における消費電力の低減を図ることができる。
【0027】
以下、詳細に説明する。
(a)受圧面積の比率SW/SAを大きくし、ロッド部46に加えられる軸力Fsを小さくすることにより、電動モータ44のギヤ比(例えば、「電動モータ44の回転数/ロッド部46の回転数」と表すことができる)を小さくしたり、電動モータ44の出力を小さくしたりすることができる。
【0028】
仮に、ロッド部46に加えられる軸力Fsが大きい場合には、電動モータ44と直動変換装置48との間に減速機を設け、減速比を大きくすることが考えられる。一方、減速機においては、インボリュート歯車が用いられるのが普通であるが、インボリュート歯車はかみ合い時に歯と歯が滑りながら力を伝達する。また、減速機のギヤのスラスト荷重や軸間の押し引きによる摩擦により回転抵抗が生じ、減速機におけるエネルギ消費量が大きくなる。このように、減速比を大きくして、減速機における効率が大きく低下した場合には、電動モータ44の伝達効率(例えば、「ピストン部47に伝達されるエネルギ/電動モータ44に供給されるエネルギ」で表すことができる)が大きく低下する。
【0029】
それに対して、本実施例においては、軸力Fsが小さくされるため、減速比を小さくしたり、減速機をなくしたり、電動モータ44の出力を小さくしたりすること等ができ、その分、電動モータ44の伝達効率を高くすることができるのである。なお、図1等には、電動シリンダ装置12に減速機が設けられていない場合を記載した。
【0030】
(b)ロッド部46に加えられる軸力Fsが小さくされるため、直動変換装置48のロッド部46の直径を小さくすることができる。そのため、直動変換装置48の減速比(例えば、「送り速度/リード×直動変換装置48の入力回転数」で表すことができる)の低下を抑制しつつリード角を大きくすることができ、電動モータ44の伝達効率を高くすることが可能となる。
【0031】
仮に、軸力Fsが大きい場合には、ボールねじ機構のボール64を大きくして、ロッド部46の直径を大きくする必要がある。リード角が同じである場合には、ロッド部46の直径を大きくすると、リードが増加するため、直動変換装置48の減速比が低下する。そのため、電動モータ44のギヤ比を大きくしたり、電動モータ44の出力を大きくしたりする必要がある。また、リード角を小さくすれば、直動変換装置48の減速比が大きくなるため、電動モータ44のギヤ比を小さくすることができるが、リード角を小さくしたことに起因して、電動モータ44の伝達効率が低下する。
【0032】
それに対して、本実施例に係る電動シリンダ装置12においては、軸力Fsを小さくすることができるため、ロッド部46の直径を小さくすることができ、直動変換装置48の減速比の低下を抑制しつつ、リード角を大きくすることができる。そのため、電動モータ44の伝達効率を高くすることができる。
換言すると、電動シリンダ装置12における直動変換装置48の位置が、直動変換装置48に加えられる軸力Fsができる限り小さくなるように設計される。例えば、電動シリンダ装置12において、電動モータ44、直動変換装置48、ピストン部47が直列に配置され、ピストン部47の前方の容積可変室67に液圧ブレーキ10が接続されるが、本液圧ブレーキシステムにおいては、受圧面積の比率が大きくされているため、容積変化室67の液圧に対して摩擦パッド21,22のブレーキ回転体20への押付力を大きくすることができる。そのため、ピストン部47の上流、電動モータ44または減速機の下流側に直動変換装置48を配置したのである。
【0033】
(c)電動ピストン部材42のストロークが大きく、前側ハウジング40fに形成されたシリンダボアの長さが大きくされるが、電動シリンダ装置12のハウジング40におけるアイドルポート72の位置は、前側ハウジング40fに形成されたシリンダボアの長さの大小によらず同じである。そのため、電動ピストン部材42の最大ストロークLに対するポートアイドルLpの比率(Lp/L)は、最大ストロークLが長くなると小さくなる。その結果、電動モータ44の伝達効率が高くなる。
以上のことから、電動モータ44の伝達効率を高くして、電動モータ44の消費電力を低減することができるのである。
【0034】
また、電動モータ44のギヤ比を小さくすることが可能となるため、減速機が不要となったり、減速機の小形化を図ったりことができ、電動シリンダ装置12の小形化、軽量化を図ることができる。さらに、電動シリンダ装置12における部品点数を削減することができる。
【0035】
また、直動変換装置48において、リード角θを大きくできるため、正逆効率、すなわち、正効率(ホイールシリンダ圧/軸力)、逆効率(軸力/ホイールシリンダ圧)を大きくすることができる。
【0036】
以上、直動変換装置48がボールねじ機構である場合について説明したが、直動変換装置48は台形ねじ機構を含むものとすることができ、台形ねじ機構を含む場合においても上述の場合と同様の効果、すなわち、電動モータ44の伝達効率を高くして、消費電力の低減を図ることができる。
特に、台形ねじ機構においては、雄ねじ部と雌ねじ部との間に作用する摩擦力の低減を図るため、潤滑剤としてのグリスの役割が大きい。一般的に、摩擦力は、雄ねじ部と雌ねじ部との間に作用する面圧が大きい場合は小さい場合より大きくなる。また、面圧が設定値より小さい場合には、グリスにより、雄ねじ部と雌ねじ部との間に良好な潤滑効果が得られるが、面圧が設定値以上になると、温度が高くなり、グリスの粘度が低くなり、潤滑効果が低下する。その結果、雄ねじ部と雌ねじ部との間に作用する摩擦力が大きくなり、雄ねじ部や雌ねじ部が削れる等(この状態をグリス切れと称する場合がある)の問題がある。
一方、ロッド部46の直径を大きくすることにより、雄ねじ部と雌ねじ部との間の摺動面積を大きくし、これらの間に作用する面圧を小さくすることにより、摩擦力を小さくすることができるが、電動シリンダ装置12が大型化したり、直動変換装置48の減速比が変わったりする等の別の問題が生じる。
【0037】
それに対して、本実施例においては、ロッド部36に加えられる軸力Fsを小さくできるため、面圧を小さくすることができ、グリスの粘度の低下を抑制し、雄ねじ部と雌ねじ部との間の摩擦力の低減を良好に図ることができる。また、グリスの過熱を抑制することにより、グリスの劣化を抑制することもできる。さらに、一般的に、リード角が小さいと、グリス切れが生じ易いが、リード角を大きくできるため、グリス切れが生じ難くなり、より一層、摩擦力の低減を図ることができる。
【0038】
なお、直動変換装置48がボールねじ機構を含む場合において、ボールねじ機構において、ボール64と、雄ねじ部62および雌ねじ部63との間の摺動抵抗の低下を図るためにグリスが用いられるが、その場合においても、上述のように、軸力Fsの低下により同様の効果を奏することができる。
【0039】
一方、本電動シリンダ装置12は、図2に示すように、容易に分解可能とされている。具体的には、後側ハウジング40r、中間ハウジング40m、前側ハウジング40fは、結合装置によって結合される。結合装置は、例えば、軸線方向に延びた複数のねじ部材80とねじ部材80に螺合するナット部材82とを含むものとすることができる。
【0040】
また、後側ハウジング40r、中間ハウジング40m、前側ハウジング40fの内部には、ベアリング56,57、電動モータ44(コイル52、ロータ54)、ロッド部46、ピストン部47、シール部材66、ボール64等が、それぞれ、容易に分離可能に組み付けられる。そのため、ナット部材82を外すことにより、電動シリンダ装置12を前側ハウジング40f、中間ハウジング40m、後側ハウジング40rに分離することが可能となり、電動シリンダ装置12の各構成要素を取り外すことが可能となる。
【0041】
電動シリンダ装置12はキャリパ24に設けられるのではなく、キャリパ24から伸び出した液通路74に設けられる。一方、車輪Wの回転を抑制する電動ブレーキの電動アクチュエータをキャリパ24に設ける場合には、電動アクチュエータに泥や水が掛からないようにするために、電動アクチュエータを密閉したり、ユニット化したりする必要がある。それに対して、本電動シリンダ装置12については、電動ブレーキの電動アクチュエータに比較して、泥や水等が掛かり難いため、ユニット化したり、ハウジングを密閉したりする必要性が低くなる。
【0042】
また、本実施例において、電動シリンダ装置12の下流側に電磁弁が設けられていない。そのため、電動シリンダ装置12を分解する場合に、電磁弁のオリフィス部に異物等が侵入して、電磁弁に不具合が生じるおそれがない。
その結果、電動シリンダ装置12を容易に分解可能な構造とすることが可能となり、構成部品の各々について個別にメンテナンスを図ることが可能となる。例えば、複数の構成部品のうちの1つに不具合が生じた場合に電動シリンダ装置12全体を交換する必要がなくなり、その不具合が生じた1つの構成部品について交換等することができる。その結果、ユーザにとって車両の維持費の低減を図ることが可能となり、廃棄物の低減を図ることができる。また、電動シリンダ装置12は、車輪の近傍に設けられるため、メンテナンス作業が容易になる。
【0043】
電動シリンダ装置12の各々には、1対1に対応してそれぞれコンピュータを主体とする制御部としてのブレーキECU86が設けられる。電動シリンダ装置12は、それぞれ、ブレーキECU86によって制御される。ブレーキECU86は、インバータ等の駆動回路88を含み、駆動回路88の制御により、電動モータ44への供給電流を制御して、電動モータ44の作動を制御する。
また、ブレーキECU86には、電動シリンダ装置12の構成要素である液面高さセンサ90、ストロークセンサ92、回転数センサ94、車輪速度検出装置としての車輪速度センサ100、液圧センサ102等が接続される。
【0044】
液面高さセンサ90は、リザーバ50に収容された作動液の液面の位置(液面高さ)を検出するものである。液面高さセンサ90は、例えば、液面高さを、光学的、磁気的、静電容量、超音波、圧力等を利用して検出するものとすることができる。また、接触式または非接触式に検出するものとしたり、フロートを利用して検出するものとしたりすること等ができる。具体的に、液面高さセンサ90は、磁力線式マグネット移動ストローク検出装置とすることができ、その場合には、リザーバ50の液面を連続的に検出することができる。
ストロークセンサ92は、電動ピストン部材42のストロークを検出するものであり、例えば、ロッド部46またはピストン部47のハウジング40に対する相対位置を検出することによりストロークを検出するものとすることができる。
回転数センサ94は、電動モータ44の回転数を検出するものである。また、電動モータ44の回転数に基づけば、電動ピストン部材42のストロークや位置を取得することができる。
【0045】
車輪速度センサ100は、前後左右に位置する各車輪Wの各々に対応して設けられ、それぞれ、車輪Wの回転速度を検出するものである。4つの車輪速度センサ100の検出値に基づいて車両の走行速度が取得されたり、各車輪Wの各々のスリップ状態がそれぞれ取得されたりする。
【0046】
液圧センサ102は、前後左右に位置する各車輪Wの各々に設けられた液圧ブレーキ10のホイールシリンダ25の液圧室26の液圧(以下、単に液圧ブレーキ10の液圧またはホイールシリンダ25の液圧と称する場合がある)を検出するものである。液圧センサ102は液通路74に設けられることが多い。
【0047】
また、図3に示すように、電動シリンダ装置12の各々には、それぞれ、1対1に対応して電源Vが設けられる。電源Vは、例えば、種々のバッテリ(例えば、鉛バッテリ、リチウムイオンバッテリ等)とすることができる。また、電源Vは、車両において、図示しない駆動用モータの回生制動により得られた電力を蓄えるメインバッテリの電圧が降圧されて充電される走行用バッテリ、補機バッテリ等とすること等ができる。電動シリンダ装置12、すなわち、ブレーキECU86、駆動回路88、液面高さセンサ90、ストロークセンサ92、回転数センサ94、車輪速度センサ100、液圧センサ102等は、個別の、換言すると、電動シリンダ装置専用の電源Vにより作動可能とされているのである。
【0048】
また、ブレーキECU86(前後左右の各車輪WFL,WFR,WRL,WRRの各々に設けられたブレーキECU86FL,86FR,86RL,86RR)の各々は、それぞれ、CAN(Controller Area Network)95等の車体通信網に接続される。CAN95には、コンピュータを主体とする運転支援ECU96、メータECU110等が接続される。本実施例においては、4つのブレーキECU86の間で、互いに通信が行われる。また、4つのブレーキECU86と、運転支援ECU96、メータECU110との間においても通信が行われる。
【0049】
運転支援ECU96には、操作状態検出装置104、周辺情報取得装置106等が接続される。運転支援ECU96は、車両の運転状態を制御するものであるが、本実施例においては、操作状態検出装置104によって検出されたブレーキ操作部材の操作状態、周辺情報取得装置106によって取得された周辺の物体と自車両との相対位置関係等に基づいて制動要求が有るか否かを判定し、制動要求がある場合には、それらブレーキ操作部材の操作状態、周辺の物体と自車両との相対位置関係等に基づいて要求制動力を取得して、それぞれ、電動シリンダ装置12(ブレーキECU86)に供給する。
【0050】
操作状態検出装置104は、運転者によって操作可能な図示しないブレーキ操作部材の操作状態(例えば、ストローク、操作力)を検出するものである。
周辺情報取得装置106は、カメラ、レーダ装置等を含み、車両である自車両の周辺に位置する物体、自車両の周辺の道路の区画線、道路の湾曲形状等を取得し、物体と自車両との相対位置関係を取得するものである。
【0051】
メータECU110には、報知装置112等が接続される。メータECU110は、ブレーキECU86からの指令に基づいて報知装置112を作動させる。報知装置112は、ディスプレイを含むものとしたり、音声合成装置を含むものとしたり、音または光を発するものとしたりすること等ができる。本実施例においては、外力受け部材に加えられる負荷の大きさを表す値である負荷値の積算値が設定値を越えたこと等が報知される。
【0052】
以上のように構成された液圧ブレーキシステムにおいて、ブレーキECU86の各々において、CAN95を介して受信した要求制動力に基づいて、液圧ブレーキ10の目標液圧がそれぞれ取得され、それぞれ、液圧センサ102の検出値である実液圧が目標液圧に近づくように、電動モータ44への供給電流が制御され、電動ピストン部材42が前進・後退させられる。
電動シリンダ装置12において、電動ピストン部材42が前進させられることにより、容積変化室67の容積が小さくなり、ホイールシリンダ25の液圧室26に作動液が供給され、液圧が高くなる。電動シリンダ装置12において電動ピストン部材42が後退させられることにより、容積変化室67の容積が大きくなり、ホイールシリンダ25の液圧室26から作動液が流出させられ、液圧が低くなる。ホイールシリンダ25の液圧が目標液圧に近づくように、電動ピストン部材42が前進・後退させられるのであり、電動モータ44への供給電流が制御される。
【0053】
制動要求がなくなった場合には、電動シリンダ装置12において、電動ピストン部材42が戻される。それにより、アイドルポート72が開き、液圧室26がリザーバ50に連通させられる。電動ピストン部材42は、ストッパに当接するまで戻される。ホイールシリンダ25において、ピストンシール28によりホイール側ピストン27が戻され、摩擦パッド21,22がブレーキ回転体20から離間させられる。液圧ブレーキ10が非作動状態となる。
【0054】
また、車輪Wのスリップが過大になると、スリップ抑制制御が行われる。スリップ抑制制御においては、電動モータ44への供給電流の制御により、電動ピストン部材42を後退、前進させることにより、ホイールシリンダ25の液圧室26の液圧を減少、増加させて、車輪Wのスリップ率を路面の摩擦係数で決まる適正な大きさとする。
【0055】
スリップ率は、車体速度と、車輪速度とに基づいて取得されるが、車体速度は、例えば、ブレーキECU86FL,86FR,86RL,86RRの間の通信により取得することができる。例えば、各ブレーキECU86は、それぞれ、自らに接続された車輪速度センサ100によって検出された車輪速度VwaとCAN95を介して受信した他のブレーキECU86によって検出された車輪速度Vwb,Vwc,Vwdとに基づいて車体速度Vhを取得する。そして、この車体速度Vhと、自らに接続された車輪速度センサ100によって検出された車輪速度Vwaとに基づいて車輪Wのスリップ状態を取得することができる。車体速度Vhは車輪速度Vwに比較して、変化が緩やかであるため、CAN95を介して受信した情報に基づいて取得した値を用いることができるのである。
【0056】
そして、スリップ率が過大になった場合等には、スリップ率を抑制し、路面の摩擦係数で決まる設定範囲内の大きさになるように、各ブレーキECU86の各々において、ホイールシリンダ25の液圧が制御される。
【0057】
それに対して、本実施例において、基本的には、液圧ブレーキ10の各々において、液圧ブレーキ10の解除時には、ホイール側ピストン27はピストンシール28によって戻される。そのため、液圧ブレーキ10の非作用状態において、ブレーキ回転体20と一対の摩擦パッド21,22との間の隙間は、原則として、同じはずである。
なお、以下、本明細書において、図4に示すように、ブレーキ回転体20と摩擦パッド21との間の隙間B1と、ブレーキ回転体20と摩擦パッド22との間の隙間B2の和を、ブレーキ回転体20と一対の摩擦パッド21,22との間の隙間(個別隙間の一例である)と称する。また、ブレーキ回転体20と一対の摩擦パッド21,22との間の隙間を液圧ブレーキ10における隙間、単なる隙間と称する場合がある。
【0058】
ピストンシール28は、液圧室26の液圧によるホイール側ピストン27の前進によって弾性変形させられ、そのピストンシール28の復元力によってホイール側ピストン27が戻される。また、図11に示すように、液圧室26の液圧が設定液圧Ps以下である場合に、ピストンシール28の弾性変形量は、液圧室26の液圧が高くなるのに伴って大きくなり、かつ、一対の摩擦パッド21,22の圧縮量、キャリパ24の弾性変量等の増加に伴って大きくなる。そのため、液圧ブレーキ10の作用時の液圧室26の最大液圧が設定液圧Ps以下であり、ホイール側ピストン27がピストンシール28によって戻された場合には、液圧ブレーキ10の非作用状態において、ブレーキ回転体20と一対の摩擦パッド21,22との間の隙間Bは原則として同じ大きさになるはずである。以下、本明細書において、このブレーキ回転体20と一対の摩擦パッド21,22との間の隙間を基準隙間BSと称する。
【0059】
なお、一対の摩擦パッド21,22の摩耗が進行すると、摩耗が進行していない場合に比較して、液圧ブレーキ10の作用状態において、ホイール側ピストン27のストロークが長くなり、ホイール側ピストン27はより前方まで前進する。ホイール側ピストン27はピストンシール28を弾性させつつ前進するが、ピストンシール28の弾性変形量が限界に達し、ピストンシール28がそれ以上弾性変形できなくなる。ホイール側ピストン27は、ピストンシール28を弾性変形させることなく(ピストンシール28に対して滑って)前進させられる。そのため、ホイール側ピストン27がピストンシール28によって戻された場合、ホイール側ピストン27は相対的に前方に位置し、リザーバ50の液面高さは低くなる。
なお、液圧ブレーキ10において引き摺りが生じると、車両の走行に伴うブレーキ回転体10の振動等に起因して、ホイール側ピストン27が戻され、ブレーキ回転体10と一対の摩擦パッド21,22との間の隙間が大きくなり、引き摺りが解消される。
【0060】
しかし、液圧室26の液圧が設定液圧Psより高い範囲において、ピストンシール28の弾性変形量は、液圧が高くなっても、一対の摩擦パッド21,22の圧縮量、キャリパ24の弾性変量等が大きくなっても、大きくならない。ピストンシール28の弾性変形量には上限があるのである。そのため、液圧室26の液圧が設定液圧Psより高くなると、液圧ブレーキ10の解除時のブレーキ回転体20と一対の摩擦パッド21,22との間の隙間は、基準隙間BSより小さくなる。
【0061】
また、例えば、液圧ブレーキ10の作動時間が長くなると、液圧ブレーキ10において、ブレーキ回転体20と摩擦パッド21,22との摩擦係合等に起因して、ブレーキ回転体20、摩擦パッド21,22等の温度が高くなる。それにより、ブレーキ回転体20や摩擦パッド21,22が熱膨張させられ、体積が大きく増加する。それに対して、キャリパ22の温度はブレーキ回転体20や摩擦パッド21,22の温度ほど高くならず、熱膨張による体積変化は小さい。そのため、液圧ブレーキ10の作動状態において、ブレーキ回転体20、摩擦パッド21,22の熱膨張によりホイール側ピストン27が戻され、液圧ブレーキ10の解除時にホイール側ピストン27がピストンシール28により戻される。液圧ブレーキ10の温度が高い場合は低い場合より、ホイール側ピストン27の後退量は大きくなり、液圧ブレーキ10が解除された場合に、ホイール側ピストン27はより後方の位置にある。
【0062】
一方、液圧ブレーキ10の非作用状態において、ブレーキ回転体20、摩擦パッド21,22等の温度の低下により、ブレーキ回転体20、摩擦パッド21,22が収縮し、ブレーキ回転体10と一対の摩擦パッド21,22との間の隙間は大きくなる。そして、このブレーキ回転体20、摩擦パッド21,22の温度が低下して、熱膨張による体積変化が小さくなった場合の、隙間は基準隙間BSより大きくなると推定される。
【0063】
なお、本実施例において、「液圧ブレーキ10の温度(ブレーキ回転体20、一対の摩擦パッド21,22等の温度と称することができる)が高い」とは、ブレーキ回転体20、一対の摩擦パッド21,22等の熱膨張による体積変化が大きく、体積変化によるホイール側ピストン27の後退量が設定値より大きい温度をいう。後述するように、設定値は、ホイール側ピストン27の後退に伴うリザーバ50の液面高さ変化ΔHpが誤差δに対応する大きさである。換言すると、液圧ブレーキ10の温度が高い場合には、液圧ブレーキ10の解除時にホイール側ピストン27の戻りに伴うリザーバ50の液面高さ変化が誤差δより大きくなるのである。液面高さ変化ΔHpについては後述するが、液圧ブレーキ10の非作用状態におけるリザーバ50の液面から基準液面高さHpsを引いた値である。
【0064】
それに対して、「液圧ブレーキ10の温度が低い」とは、ブレーキ回転体20、一対の摩擦パッド21,22等の熱膨張による体積変化が小さく、体積変化により戻されるホイール側ピストン27の後退量が設定値以下の温度であり、例えば、外気温度に近い温度とすることができる。また、液圧ブレーキ10の解除時に、ホイール側ピストン27の戻りに伴うリザーバ50の液面高さ変化ΔHpは誤差δ以下になる。なお、後述するように、液圧ブレーキ10が解除された時点から設定時間である第1設定時間以上が経過した場合には、液圧ブレーキ10は、外気温度に近い状態にあり、温度が低い状態にあると考えることができる。外気温度に近く、液面高さ変化ΔHpが誤差δ以下となる温度を設定温度と称する。
【0065】
図4(a)は、液圧ブレーキ10の作用時の液圧室26の最大液圧が設定液圧Ps以下であり、かつ、液圧ブレーキ10の温度が低い場合に、液圧ブレーキ10が解除された状態を示す。ホイール側ピストン27はピストンシール28の復元力によって戻され、それによって、作動液がリザーバ50に戻される。ブレーキ回転体20と一対の摩擦パッド21,22との間の隙間(B1+B2)はほぼ基準隙間BSにある。また、液圧ブレーキ10の作用状態において、摩擦パッド21,22、ブレーキ回転体20の熱膨張による体積変化が小さい。そのため、液圧ブレーキ10の解除後の、非作用状態において、これらの温度の低下幅は小さく、ブレーキ回転体20と一対の摩擦パッド21,22との間の隙間の変化は小さい。
【0066】
それに対して、図4(b)は、液圧ブレーキ10の作用時の液圧室26の最大液圧が設定液圧Ps以下であり、かつ、液圧ブレーキ10の温度が高い場合に、液圧ブレーキ10が解除された状態を示す。熱膨張により摩擦パッド21,22、ブレーキ回転体20の体積が大きくなるため、ホイール側ピストン27が戻される。また、ホイール側ピストン27は、液圧ブレーキ10の解除時に、ピストンシール28により戻される。そのため、図4(a)に示す場合より、ホイール側ピストン27は後退側の位置に存在するのであり、リザーバ50への作動液の戻り量が大きくなる。
【0067】
また、図4(c)に示すように、液圧ブレーキ10の解除後の、非作用状態において、ブレーキ回転体20、一対の摩擦パッド21,22等の温度が下がると、ブレーキ回転体20と一対の摩擦パッド21,22との間の隙間が大きくなる。後述するが、図5(a)に示すように、液圧ブレーキ10の解除後、第1設定時間が経過すると、ブレーキ回転体20、一対の摩擦パッド21,22の温度は外気温度に近くなり、それ以上下がり難くなる。その結果、ブレーキ回転体20と一対の摩擦パッド21,22との間の隙間は、ほぼ一定になり、基準隙間BSより大きくなる。
【0068】
本実施例において、液圧ブレーキ10が、温度が低い状態で、設定液圧Ps以下の液圧で作動させられ、その液圧ブレーキ10が解除された場合のリザーバ50の液面高さを基準液面高さHpsと称する。リザーバ50の液面高さが基準液面高さHpsにある場合には、ブレーキ回転体20と一対の摩擦パッド21,22との間の隙間は、基準隙間BSにある。
【0069】
本実施例においては、図6に示すように、液圧ブレーキ10の作動により車輪Wに制動力が加えられ(制動1)、その液圧ブレーキ10の作動が解除され、制動1が終了した時点から第1設定時間以上が経過した後に、液圧ブレーキ10の作動が開始され、制動力が加えられた場合(制動2)に、その作動が解除され、制動2が終了した時点の液面高さが基準液面高さA1に設定される(Hps=A1)。
しかし、次の液圧ブレーキ10の作動による制動(制動3)は、制動2における液圧ブレーキ10の作動が解除された時点から第1設定時間が経過する前に開始された。そのため、制動3による液圧ブレーキ10の作動が解除された時点において、基準液面高さは更新されず、A1のままである。
【0070】
制動3における液圧ブレーキ10の作動が解除された時点から第1設定時間が経過した後に、液圧ブレーキ10の作動(制動4)が開始され、制動力が加えられた場合には、その液圧ブレーキ10の作動(制動4)が解除された時点の液面高さが基準液面高さA2とされる(Hps=A2)。基準液面高さが更新されるのである。
【0071】
前述のように、一対の摩擦パッド21,22の摩耗の進行により、ホイール側ピストン27が相対的に前進側の位置となり、リザーバ50に収容された作動液量は少なくなる。そのため、リザーバ50の基準液面高さを適宜更新することが望ましいのである。
【0072】
一方、温度が高い状態で、液圧ブレーキ10が作動させられ、解除された場合において、ブレーキ回転体20と一対の摩擦パッド21,22との間の隙間Bは、液圧ブレーキ10の解除後、時間の経過に伴って大きくなる。ブレーキ回転体20、摩擦パッド21,22の温度が下がり、隙間が大きくなるのである。
図5(a)に示すように、これらの隙間Bは、液圧ブレーキ10の作動時における最大液圧Pmaxと、車両の走行速度(冷却速度に対応)Vsと、液圧ブレーキ10の解除時の液面高さ変化ΔHp、液圧ブレーキ10の作動解除後の経過時間tとに基づいて、下式に従って決まる。
B=α*t+C ・・・(1)
t<t0
B=B(ΔHp)+B(Hps) ・・・(2)
t≧t0
t0={B(ΔHp+Hps)-C}/α
で表すことができる。
【0073】
経過時間が設定時間(第2設定時間)t0より短い場合には、勾配αは、図5(b)に示すように、走行速度Vsが早い場合は遅い場合より大きい値になる。走行速度Vsが早い場合は遅い場合より冷却速度が早くなるのである。切片Cは、液圧ブレーキ10の解除時のブレーキ回転体20と一対の摩擦パッド21,22との間の隙間の大きさであり、図5(c)が示すように、最大液圧Pmaxが設定液圧Ps以下である場合には、ほぼ一定であるが、最大液圧Pmaxが設定液圧Psより高くなると、隙間Bが小さくなるのである。前述のように、液圧ブレーキ10の解除時のブレーキ回転体20と一対の摩擦パッド21,22との間の隙間は、ピストンシール28の復元力で決まるからである。
【0074】
また、経過時間が第2設定時間t0以上になると、ブレーキ回転体20と一対の摩擦パッド21,22との間の隙間は、基準隙間BSと液面高さ変化ΔHpとに基づいて決まる大きさとなる。液面高さ変化ΔHpに対応する隙間は、図5(d)のマップに従って取得することができる。
【0075】
なお、第2設定時間t0は、勾配αが小さい場合は長くなり、車両の走行速度Vsが0(車両が停止状態にある)にある場合に最も長くなる。そして、車両が停止している場合であっても、液圧ブレーキ10の解除後、10分以上が経過すると、液圧ブレーキ10の温度がほぼ外気温度となり、隙間が一定になることが実験等により明らかである。そのことから、例えば、第1設定時間を10分程度の時間とすることができる。
【0076】
図10(a)には、破線が示す第1回目の液圧ブレーキ10の作動が解除されてから、直ちに、実線が示す第2回目の液圧ブレーキ10の作動が行われた場合の、ホイール側ピストン27の位置と押付力Fpとの関係の一例を示す。第1回目の液圧ブレーキ10の作動も第2回目の液圧ブレーキ10の作動も、温度が高い状態で、かつ、設定液圧Ps以下の液圧で行われた。
【0077】
第1回目の液圧ブレーキ10の作動において、ホイール側ピストン27が位置X1からストロークΔx1前進させられると、一対の摩擦パッド21,22がブレーキ回転体20に当接し、押付力Fpが発生する。以下、ホイール側ピストン27の後退端位置から押付力Fpが発生するまでのストロークΔx1をアイドルストロークと称する。
それ以降、ホイール側ピストン27の前進に伴って押付力Fpが増加する。この場合、ホイール側ピストン27がアイドルストロークΔx1前進した時が効きの開始時である。そして、押付力Fpを保持する場合に、ホイール側ピストン27は、ブレーキ回転体20、一対の摩擦パッド21,22の熱膨張による体積変化により後退させられる。その後、液圧室26の液圧が減少させられると、ホイール側ピストン27はピストンシール28の復元力によって戻される。
【0078】
このように、ホイール側ピストン27は、ブレーキ回転体20、一対の摩擦パッド21,22の熱膨張による体積変化によって戻されるとともにピストンシール28によって戻されるため、液圧ブレーキ10の解除時のリザーバ50の液面高さHpは基準液面高さHpsより高くなる。また、基準液面高さHpsからの液面高さ変化ΔHp分に相当する変位だけホイール側ピストン27は後退側の位置X2に位置する。
【0079】
そして、この第1回目の液圧ブレーキ10の作動の後、直ちに、第2回目の液圧ブレーキ10が作動させられた場合において、その第2回目の液圧ブレーキ10の作動開始時のブレーキ回転体20と一対の摩擦パッド21,22との間の隙間は、図5(a)に示すように、ほぼ基準隙間BSであると推定される。そのため、第2回目の液圧ブレーキ10の作動開始時に、ホイール側ピストン27は位置X2から第1回目の液圧ブレーキ10の作動開始時とほぼ同様のアイドルストロークΔx1前進させられ、その時点から押付力Fpが増加させられる。その後、同様に、押付力Fpが増加、保持、減少させられ、ホイール側ピストン27が戻される。
【0080】
図10(b)には、破線が示す第1回目の液圧ブレーキ10の作動が解除されてから、時間txが経過した後に、実線が示す第2回目の液圧ブレーキ10の作動が行われた場合の、ホイール側ピストン27の位置と押付力Fpとの関係の一例を示す。第1回目の液圧ブレーキ10の作動も第2回目の液圧ブレーキ10の作動も、温度が高い状態で、かつ、設定液圧以下の液圧で行われた。経過時間txが第2設定時間t0より短い場合には、上述の式(1)に従って、ブレーキ回転体20と一対の摩擦パッド21,22との間の隙間が取得され、第2設定時間t0以上である場合には、(2)式に従って、隙間が取得される。ホイール側ピストン27のアイドルストロークΔx2はアイドルストロークΔx1より長くなる。したがって、第2回目の液圧ブレーキ10の作動において、効き遅れが生じると考えられる。
【0081】
そこで、本実施例においては、液圧ブレーキ10の各々において、それぞれ、液圧ブレーキ10が非作用状態にある場合におけるブレーキ回転体20と一対の摩擦パッド21,22との間の隙間が取得される。また、複数の液圧ブレーキ10の間の、ブレーキ回転体20と一対の摩擦パッド21,22との間の隙間の差が取得される。そして、次に、液圧ブレーキ10が作動させられる場合に、これら隙間の差に起因する複数の液圧ブレーキ10の間の効きの開始時の差が抑制されるように、複数の電動シリンダ装置12の各々の電動モータ44が制御されるようにしたのである。
【0082】
例えば、隙間が大きい液圧ブレーキ10に対応する電動シリンダ装置12において、液圧ブレーキ10の作動開始時の電動モータ44の回転数を大きくすることができる。本実施例においては、複数のブレーキECU86の各々において、それぞれ、それに対応する液圧ブレーキ10における隙間が推定され、互いの通信により、左右前輪の液圧ブレーキ10FL,10FRの各々の隙間の大きい方が特定され、左右後輪の液圧ブレーキ10RL,10RRの各々の隙間の大きい方が特定される。そして、隙間の大きい方に、補正制御フラグがONにされるのである。
【0083】
本実施例においては、図7のフローチャートで表される隙間対応ブレーキ液圧制御プログラムがブレーキECU86の各々において、予め定められたサイクルタイム毎に実行される。
ステップ1(以下、S1と略称する。他のステップについても同様とする)において、ブレーキECU86の各々において、それに対応する液圧ブレーキ10が作動中であるか否かが判定される。S1の判定がNOである場合には、S2において、液面高さセンサ90により液面高さHpが検出される(以下、液面高さセンサ90によって検出された液面高さである実際値をHpaと称する)。そして、S3において、ブレーキ回転体20と一対の摩擦パッド21,22との間の隙間Bが推定される。
【0084】
そして、S4において、複数のブレーキECU86の間の通信により、それぞれ、取得された液圧ブレーキ10各々の隙間Bに基づいて、複数の液圧ブレーキ10の各々の隙間Bの差ΔBが取得され、隙間Bの差ΔBが設定隙間ΔBthより大きいか否かが判定される。設定隙間ΔBthは、例えば、複数の液圧ブレーキ10の間の効き始めの時間差が問題になるとと考えられる大きさとすることができる。S4の判定がYESである場合には、S5において、隙間が大きい方の液圧ブレーキ10について補正制御フラグがONにされる。S4の判定がNOである場合には、S6において、いずれの液圧ブレーキ10についても、補正制御フラグはOFFにされる。隙間の差ΔBが小さいため、補正制御を行う必要性が低いからである。
【0085】
S3は、図8の隙間推定ルーチンにより実行される。
S11において、S1において、液圧ブレーキ10が非作用状態にあるのは、液圧ブレーキ10の作動が、前回の液圧ブレーキ10の解除後、第1設定時間以上経過した後に開始された最初の作動であり、かつ、その作動が解除されたことによるのか否かが判定される。例えば、図6に示す場合において、今回の液圧ブレーキ10の作動による制動が制動2であり、その制動2による液圧ブレーキ10の作動が解除されることにより非作用状態にあるのか否かが判定されるのである。判定がYESである場合には、S12において、S2において検出された液面高さHpaが基準液面高さHpsとして設定されて、記憶される。
【0086】
その次に、S13において、基準液面高さHpsが摩擦パッドフル摩耗判定しきい値Hpth1より高いか否かが判定される。摩擦パッドフル摩耗判定しきい値Hpth1は、リザーバ50の液面高さがこれ以上低い場合には、摩擦パッド21,22が設定状態まで摩耗した状態(設定状態まで摩耗した状態をフル摩耗状態と称する)にあると判定し得るしきい値である。前述のように、摩擦パッド21,22の摩耗が進むと、ホイール側ピストン27の位置が相対的に前進側の位置になるためリザーバ50の液面高さが低くなるのである。
【0087】
そして、S13の判定がYESである場合には、摩擦パッド21,22の摩耗は、設定状態に達していないと判定され、S14において、ブレーキ回転体20と一対の摩擦パッド21,22との間の隙間が基準液面高さHpsに応じた隙間、すなわち、基準隙間BSであると推定される。
【0088】
それに対して、S13の判定がNOである場合には、摩擦パッド21,22が設定状態に達するまで摩耗した状態にあると判定される。S15において、そのことが報知装置108により報知される。また、それに応じた走行制御指令が出力されるようにすることができる。例えば、その摩耗が設定状態に達したと判定された液圧ブレーキ10を非作用状態に保ったままで、他の液圧ブレーキ10により、車両に発生するヨーモーメントが小さくなる状態で、車両が停止するように、他の液圧ブレーキ10を制御することができる。
【0089】
S11の判定がNOである場合、例えば、液圧ブレーキ10の作動による制動が前回の制動による液圧ブレーキ10の作動が解除されてから第1設定時間が経過する前に開始された作動であり、その作動が解除されたことにより非作用状態になった場合(例えば、図6に示す場合において、今回の液圧ブレーキ10の作動による制動が制動2の次に行われた制動3であり、制動3による液圧ブレーキ10の作動が解除されたことにより非作用状態にある場合)等が該当する。
【0090】
S16において、S2において液面高さセンサ90によって検出された液面高さHpaから、その時点において記憶されている基準液面高さHpsを引くことにより液面高さ変化ΔHpaが求められる。そして、S17,18において、液面高さ変化ΔHpが正の誤差δより小さいか否か、負の誤差-δより大きいか否かが判定される。S17,18の判定がYESである場合には、液面高さ変化ΔHpaは0に近い値であり、液面高さHpaがほぼ基準液面高さHpsであると考えることができる。そして、S19において、隙間Bはほぼ基準隙間BSであると推定される。
【0091】
S17,18の判定がYESになる場合は、液圧ブレーキ10の温度が低く、ブレーキ回転体20、一対の摩擦パッド21,22等の熱膨張に起因する体積変化が小さく、それに起因して戻されるホイール側ピストン27の後退量が設定値より小さい場合である。ホイール側ピストン27の後退量が設定値より小さいため、それに応じた、リザーバ50の液面高さ変化ΔHpが誤差δより小さくなるのである。
【0092】
それに対して、S17の判定がYES,S18の判定がNOである場合、すなわち、液面高さHpaが基準液面高さHpsより誤差-δ以上低い場合(Hpa<Hps-δ)には、液漏れが生じた、または、摩擦パッド21,22の摩耗が進行していると推定される。S20において、そのことが報知装置112により報知される。また、それに応じたブレーキ液圧制御指令が出力されるようにすることができる。
【0093】
例えば、作動液の漏れは、主として、液圧ブレーキ10の作動中(液圧が高い状態)に生じるが、後側ポート72が開に切り換えられた場合に、リザーバ50から作動液が容積変化室67に流出し、リザーバ50の液面が低くなるのである。また、摩擦パッド21,22の摩耗が進むと、上述のように、リザーバ50の液面高さが低くなる。
また、その漏れがあると推定された液圧ブレーキ10を非作用状態に保持した状態で、他の液圧ブレーキ10の作動によって、車両のヨーモーメントを抑制しつつ、車両を停止させるように、他の液圧ブレーキ10が制御されるようにすることができる。
【0094】
S17の判定がNOである場合、すなわち、液面高さ変化ΔHpaが正の誤差δ以上である場合には、S21において、液面高さ変化ΔHpaがベーパーロック判定しきい値ΔHpth1より小さいか否かが判定される。ベーパーロックとは、作動液の温度が高くなることに起因して、気泡が発生することであり、後側ポート72が開状態にされることにより、液通路74等に存在する気泡がリザーバ50に供給され、それにより、リザーバ50の液面高さが大きくなる。そのため、液面高さ変化ΔHpaがベーパーロック判定しきい値ΔHpth1より大きい場合には、ベーパーロック現象にあると推定することができる。
【0095】
S21の判定がYESである場合(ベーパーロック現象にない場合)には、S22において、現時点でのブレーキ回転体20と一対の摩擦パッド21,22との間の隙間が取得される。前回の液圧ブレーキ10の作動時の最大液圧Pmax、走行速度Vs、前回の液圧ブレーキ10の作動が解除されてからの経過時間t、液面高さ変化ΔHpa等に基づいて、隙間Bの大きさが取得されるのである。例えば、最大液圧Pmax,Vsと、図5(b)、(c)のマップとに基づいて、それぞれ、切片C,勾配αを取得して、(1)式または(2)式に代入する。時間tが第2設定時間t0より短い場合には、隙間は時間の経過に伴って大きくなるが、時間tが第2設定時間t0を越えると、一定値となる。
【0096】
それに対して、S21の判定がNOである場合には、ベーパーロック現象であると判定され、S23において、そのことが報知装置112により報知される。また、それに応じた走行制御指令が出力されるようにすることができる。
なお、ベーパーロック現象であると判定された場合であって、直ちに、車両を停止させる必要は必ずしもない。車両の走行に伴って作動液の温度が低下すると、気泡がなくなるため、その分、リザーバ50の液面高さが低くなり、S21の判定がYESとなる場合があるのである。その場合には、ベーパーロック現象は解消されたと判断されて、液圧ブレーキ10は、通常通りに作動させられる。
【0097】
ブレーキECU86においては、図9のフローチャートで表される電動モータ制御プログラムが予め定められた設定時間毎に実行される。
S32において、制動要求が有るか否かが判定される。例えば、運転支援ECU96から供給された情報が受信され、受信した情報に制動要求を表す情報が含まれる場合、ブレーキECU86において、スリップ状態等に基づいて制動要求があると判定された場合には、制動要求が有ると判定される。判定がYESである場合には、S33において、補正制御フラグがONであるか否かが判定される。S32の判定がNOである場合には、S33以降が実行されることはない。S33の判定がNOである場合には、S34,35において、要求制動力に基づいて目標液圧Ptが取得され、電動モータ44の回転数の制御により、実液圧Psが目標液圧Ptに近づけられる。例えば、実液圧Psに対して目標液圧Ptが大きい場合には、電動ピストン部材42が前進させられ、目標液圧Ptに対して実液圧Psが小さい場合には、電動ピストン部材42が後退させられるのである。そして、S34において、最大液圧Pmaxが記憶される。最大液圧Pmaxは適宜更新される。
【0098】
それに対して、補正制御フラグがONである場合には、S33の判定がYESとなり、S36,37において、電動モータ44について補正制御が行われる。例えば、電動シリンダ装置12の始動から予め定められた時間の間、電動モータ44の回転数が大きくされる。補正制御が終了すると、補正制御フラグがOFFにされる。その後、S34,35が実行されるのであり、実液圧Psが目標液圧Ptに近づくように、電動モータ44が制御される。
【0099】
例えば、左前輪WFLに設けられた液圧ブレーキ(第1液圧ブレーキ)10FLにおける隙間BFLが、右前輪WFRに設けられた液圧ブレーキ(第2液圧ブレーキ)10FRにおける隙間BFRより設定隙間ΔBthより大きい場合には、液圧ブレーキ10FLについて補正制御フラグがONにされる。電動シリンダ装置12FLにおいて電動モータ44について補正制御が行われる。例えば、電動モータ44の作動開始時の回転数が大きくされるのである。それにより、液圧ブレーキ10FLにおいて作動開始時のホイール側ピストン27の移動速度が大きくされる。液圧ブレーキ10FLの効き遅れが抑制され、液圧ブレーキ10FRとの間の効きの開始時の差を小さくすることができる。
【0100】
このように、本実施例においては、複数の液圧ブレーキ10のうち、隙間が大きい液圧ブレーキ10について、作動開始時のホイール側ピストン27の移動速度が速くされる。それにより、液圧ブレーキ10の効き遅れを抑制し、他の液圧ブレーキ10との間の効き始めの時間差を小さくすることができる。それにより、車両の走行安定性を向上させることができる。
また、本実施例においては、ホイールシリンダ25とリザーバ50とが1対1に対応して設けられるため、リザーバ50は大型のものではない。そのため、ホイールシリンダ25からの作動液の戻り量、すなわち、液面高さ変化を良好に検出することができる。さらに、ホイールシリンダ25とリザーバ50とが1対1に対応して設けられるため、ホイールシリンダ25からの作動液の戻り量を正確に検出することができる。その結果、作動液の戻り量に基づいて、ブレーキ回転体20と一対の摩擦パッド21,22との間の隙間を精度よく取得することができるのである。
【0101】
なお、複数の液圧ブレーキ10のうち、隙間が小さい液圧ブレーキ10について、隙間が大きい液圧ブレーキ10より電動モータ44の作動開始を遅らせるようにすることもできる。その場合には、隙間が小さい液圧ブレーキ10について補正制御フラグがONにされ、電動モータ44について補正制御が行われることになる。
【0102】
また、上記実施例においては、複数の液圧ブレーキ10の間の効き始めの時期の差が抑制されるように、電動モータ44について補正制御が行われるようにされていたが、液圧ブレーキ10の各々における隙間が設定値以上である場合に、補正制御フラグがONに設定され、効き遅れを抑制するように、電動モータ44について補正制御が行われるようにすることもできる。
【0103】
また、本実施例において、車両である第1車両に4つの電動シリンダ装置12が設けられているため、4つの電動シリンダ装置12のうちの一部に異常が生じても、残りの電動シリンダ装置12の作動によりホイールシリンダ25に液圧を発生させることが可能となり、本液圧ブレーキシステムを継続して作動させることができる。また、4つの電動シリンダ装置12のうちの一部が失陥した場合に、ブレーキ操作部材が操作されなくても、液圧ブレーキシステムを継続して作動させることができる。このように、本実施例に係る液圧ブレーキシステムは、フェールオペレータブルのシステムである。
【0104】
しかも、電動シリンダ装置12の各々に1対1に対応して電源Vが設けられるため、4つの電源Vのうちの1つが失陥した場合であっても、残りの電源Vに対応する電動シリンダ装置12を作動させることができるのである。
【0105】
同様に、電動シリンダ装置12の各々に1対1に対応してブレーキECU86が設けられるため、4つのブレーキECU86のうちの1つが失陥した場合であっても、残りの電動シリンダ装置12を作動させることができる。なお、運転支援ECU96、操作状態検出装置104、周辺情報取得装置106等についても、冗長に構成することができる。例えば、運転支援ECU96等を複数設けたり、操作状態検出装置104、周辺情報取得装置106を複数設けたり、運転支援ECU96と複数のブレーキECU86との間の通信手段を複数設けたりすること等ができる。
【0106】
以上のように、液圧ブレーキシステムの構成要素の一部に異常が生じても、他の構成要素により、継続して作動させ得る液圧ブレーキシステムをフェールオペレータブルな液圧ブレーキシステムと称するが、その場合に、故障が生じる確率等から、液圧ブレーキシステムは、3つ以上の互いに独立した液圧源(例えば、電動シリンダ装置12を含む)を備えていることが要求される。それに対して、本実施例においては、液圧ブレーキシステムには4つの液圧源としての電動シリンダ装置12が含まれるため、当該液圧ブレーキシステムはフェールオペレータブルであると言えるのである。
【0107】
また、本実施例に係る液圧ブレーキシステムにおいては、ホイールシリンダ25の各々に対応して電動シリンダ装置12が設けられ、電動シリンダ装置12の各々における消費電力が低減される。そのため、車両に搭載される電動モータ44の個数は増えるが、車両全体における消費電力の増加を抑制できるため、第1車両に4つの電動モータ44を搭載することが可能となるのである。
【0108】
さらに、例えば、第1車両が商用車である場合には、マスタシリンダ、電動ブースタ、1つ以上の電磁弁を含む電磁弁装置等の液圧ブレーキシステムの構成要素の失陥を未然に防ぐために、通常、構成要素を定期的に交換する等が行われていた。特に、電磁弁装置等は、電磁弁の各々を個別に交換して組付けることが困難であるため、電磁弁装置全体(ユニット単位)で交換される場合があった。そのため、メンテナンスに要する費用が高額になり、多量の廃棄物が出される等の問題があった。
【0109】
それに対して、本実施例においては、電動シリンダ装置12の各々の全体を定期交換するのではなく、分解して、異常が生じた部品を容易に交換することができる。例えば、シール部材66等のゴム製の部材は、他の金属製の部材より劣化し易いが、シール部材66だけを交換することができるのである。その結果、メンテナンスに要する費用を低減することができ、廃棄物を低減し、資源の有効利用を図ることができる。
【0110】
以上のように、本実施例においては、液面高さセンサ90、回転数センサ94、車輪速度センサ100、液圧センサ102、ブレーキ操作状態検出装置104、周辺情報取得装置106、ブレーキECU86、運転支援ECU110等により液圧制御部が構成される。そのうちの、液面高さセンサ90、S3(S11-14,16-19,21,22)を記憶する部分、実行する部分等により隙間推定部が構成される。
また、液面高さセンサ90が作動液量検出装置に対応する。作動液量が液面高さに対応し、基準作動液量が基準液面高さに対応し、作動液量の変化量が液面高さ変化に対応する。また、電動シリンダ装置12が液圧制御アクチュエータに対応する。
【0111】
なお、上記実施例においては、電動シリンダ装置12が第1車両に搭載される場合について説明したが、第1車両より重量が小さい第2車両に搭載することができる。その場合には、図12に示すように、第2車両が備える前後左右の各車輪の液圧ブレーキ10のうち、左右前輪WFL,WFRの液圧ブレーキ10FL,10FRには、それぞれ、液通路74FL,74FRを介して1対1に対応して、電動シリンダ装置12FL,12FRが設けられ、左右後輪WRL,WRRの液圧ブレーキ10RL,10RRには、共通に1つの電動シリンダ装置12Rが設けられる。左右後輪WRL,WRRの液圧ブレーキ10RL,10RRのホイールシリンダ25同士が液通路74Rによって接続され、この液通路74Rに電動シリンダ装置12Rが設けられるのである。また、電動シリンダ装置12FL,12FR,12Rの各々に1対1に対応してそれぞれ電源VFL,VFR,VRが設けられるとともに、ブレーキECU86FL,86FR,86Rが設けられる。
なお、液通路74FL,74FR,74Rには、電磁弁は設けられていない。
【0112】
また、スリップ抑制制御(例えば、アンチロック制御、後輪WRL,WRRが駆動輪である場合のトラクション制御等)において、電動シリンダ装置12Rは、左右後輪WRL,WRRのうちの車輪速度の小さい方、換言すれば、スリップ率の大きい方に基づいて、同様に、ホイールシリンダ25RL,25RRの液圧が増加、減少させられる。このようなスリップ抑制制御をローセレクト制御と称する。
このように、第2車両に搭載された液圧ブレーキシステムは、3つの電動シリンダ装置12を含むものであるため、フェールオペレータブルなものであると言える。
【0113】
また、本実施例において、電動シリンダ装置12Rのリザーバ50の液面高さセンサ90の検出値に基づいて、同様に、左右後輪WRL,WRRの液圧ブレーキ10RL,10RRのブレーキ回転体20と一対の摩擦パッド21,22との間の隙間(具体的には、液圧ブレーキ10RLにおけるブレーキ回転体20と一対の摩擦パッド21,22との間の隙間と、液圧ブレーキ10RRにおけるブレーキ回転体20と一対の摩擦パッド21,22との間の隙間との合計、または、液圧ブレーキ10RLにおけるブレーキ回転体20と一対の摩擦パッド21,22との間の隙間と、液圧ブレーキ10RRにおけるブレーキ回転体20と一対の摩擦パッド21,22との間の隙間との平均的な値)が推定される。そして、この隙間(総隙間または複合隙間の一例である)が大きい場合には小さい場合より、電動シリンダ装置12Rの電動モータ44の始動開始時の回転速度を大きくする等の制御を行うことができる。
【0114】
さらに、第1車両、第2車両等のように重量が異なる車両に、搭載する個数を変えることにより、同じ電動シリンダ装置12を用いることができる。換言すれば、第1車両、第2車両等の各々に要求される制動力を、共通する1つ以上の電動シリンダ装置12によって加えることができる。電動シリンダ装置12を多種類の車両に共通に用いることが可能となり、全体として、コストダウンを図ることができる。特に、少量生産の車両に適用することにより、より一層、コストダウンを図ることができる。
【0115】
また、電動シリンダ装置12は、構造は同じで、コイルの巻き数、前側ハウジング40fに形成されたシリンダボアの形状等の諸元を変更等することにより、多種類の車両に共通に適用することが可能となる。同じ構造、すなわち、新たな構造上の設計をすることなく、多種類の車両に共通に適用することができる。
【0116】
さらに、図5(b),5(c),5(d)のマップは一例であり、それに限定されない。
また、上記実施例において、隙間を、液圧ブレーキ10におけるブレーキ回転体20と一対の摩擦パッド21,22との間の隙間としたが、ブレーキ回転体20と摩擦パッド21との間の隙間と、ブレーキ回転体20と摩擦パッド22との間の隙間との平均的な値とすることもできる。
さらに、液面高さセンサ90は、リザーバ50の液面高さをリニアに連続して検出可能なものであったが、それに限らない。
【0117】
また、液圧制御部の構造は問わない。液圧制御部は、1つのECUから構成されたものとしたり、3つ以上のECUから構成されたものとしたりすること等ができる。
【0118】
その他、本発明は、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0119】
10:液圧ブレーキ 12:電動シリンダ装置 25:ホイールシリンダ 26:液圧室 27:ホイール側ピストン 40:ハウジング 40f:前側ハウジング 40r:後側ハウジング 42:電動ピストン部材 44:電動モータ 48:運動変換装置 50:リザーバ 80:ねじ部材 82:ナット部材 86:ブレーキECU 90:液面高さセンサ 96:運転支援ECU 110:メータECU 112:報知装置 V:電源
【特許請求可能な発明】
【0120】
(1)車両の複数の車輪の各々に設けられ、それぞれ、前記車輪と一体的に回転可能なブレーキ回転体にホイールシリンダの液圧室の液圧により摩擦係合部材を押し付けることにより前記車輪の回転を抑制する液圧ブレーキと、
複数の前記液圧ブレーキのうちの1つ以上の前記液圧室にそれぞれ接続され、それぞれ、前記1つ以上の前記液圧室に液圧を制御可能な液圧制御アクチュエータと
を含む液圧ブレーキシステムであって、
複数の前記液圧制御アクチュエータが、それぞれ、前記1つ以上の液圧ブレーキの前記1つ以上の液圧室に接続され、前記1つ以上の液圧室から流出させられた作動液を収容可能なリザーバと、前記リザーバに収容された作動液の液量である作動液量を検出する作動液量検出装置とを含み、
当該液圧ブレーキシステムが、複数の前記作動液量検出装置の各々によって、前記1つ以上の液圧ブレーキの非作用状態において検出された前記作動液量の予め定められた基準作動液量からの変化量に基づいて、前記1つ以上ずつの液圧ブレーキにおける前記ブレーキ回転体と摩擦係合部材との間の隙間をそれぞれ推定する隙間推定部を含む液圧ブレーキシステム。
【0121】
液圧ブレーキと液圧制御アクチュエータとは、1対1に対応する状態で設けても、複数対1に対応する状態で設けてもよいが、本項に記載の液圧ブレーキシステムにおいては、複数の電動シリンダ装置が含まれる。
【0122】
作動液量検出装置は、例えば、リザーバに収容された作動液の液面高さを検出して、作動液量を検出する液面高さセンサを含むものとすることができる。液面高さが高い場合は低い場合よりリザーバに収容された作動液量が多いと考えることができる。
【0123】
液圧制御アクチュエータの構造は問わない。例えば、ポンプ装置、リザーバ、1つ以上の電磁弁等を含むものとすることができる。例えば、電磁弁の制御により、液圧ブレーキから戻された作動液がリザーバに収容されるようにすることができる。
また、液圧制御アクチュエータは、電動モータと、ピストンである電動ピストンと、電動モータの回転を電動ピストンの直線移動に変換する運動変換装置と、電動ピストンの前方に設けられ、リザーバに接続されるとともに、1つ以上の液圧室に接続された容積変化室とを含む電動シリンダ装置とすることができる。容積変化室とリザーバとを接続するポートは、電動ピストンの後退端位置において開状態にあり、電動ピストンが後退端位置からポートアイドル前進すると閉状態なる位置に設けることができる。
【0124】
1つ以上の液圧ブレーキが1つの液圧ブレーキである場合には、その液圧ブレーキのブレーキ回転体と摩擦係合部材との間の隙間が1つ以上の液圧ブレーキの前記隙間に対応する。
1つ以上の液圧ブレーキが複数の液圧ブレーキである場合において、複数の液圧ブレーキのブレーキ回転体と摩擦係合部材との間の隙間は、複数の液圧ブレーキの各々のブレーキ回転体と摩擦係合部材との間の隙間の合計としたり、複数の液圧ブレーキの各々のブレーキ回転体と摩擦係合部材との間の隙間の平均的な値としたりすること等ができる。なお、液圧ブレーキの個々における隙間を個別隙間と称し、1つ以上の液圧ブレーキの隙間(個別隙間の合計または個別隙間の平均的な値)を総隙間または複合隙間と称することができる。
【0125】
基準作動液量は、液圧ブレーキの、外気温度に近い温度である設定温度であり、かつ、最大液圧が設定液圧以下の液圧での作動が解除された後に、作動液量検出装置によって検出された液圧ブレーキに接続されたリザーバに収容された作動液量をいう。
【0126】
(2)前記隙間推定部が、前記1つ以上の液圧ブレーキの作動が解除された時から予め定められた設定時間である第1設定時間が経過した後の最初の前記1つ以上の液圧ブレーキの作動が解除された後に、前記作動液量検出装置によって検出された前記1つ以上の液圧ブレーキに接続された前記リザーバに収容された前記作動液量を前記基準作動液量として設定する基準作動液量設定部を含む(1)項に記載の液圧ブレーキシステム。
【0127】
最初の液圧ブレーキの作動とは、設定液圧以下の液圧で、温度が設定温度にある状態で行われた作動をいう。
【0128】
(3)前記隙間推定部が、前記1つ以上ずつの液圧ブレーキについて、前記隙間を、前記1つ以上の液圧ブレーキの作動解除後、設定時間である第2設定時間が経過した後には、前記変化量が大きい場合は小さい場合より大きい値であると推定し、前記第2設定時間が経過する前には、前記車両の走行速度と、前記液圧ブレーキの作動時の最大液圧とに基づいて決まる値であると推定するものである(1)項または(2)項に記載の液圧ブレーキシステム。
【0129】
第2設定時間は第1設定時間以下である。また、第2設定時間が経過した後には、隙間は、変化量が設定変化量より大きい場合は設定変化量以下である場合より大きい値であると推定される。
【0130】
(4)当該液圧ブレーキシステムが、(a)前記作動液量検出装置によって検出された前記作動液量が第1異常判定しきい値より少ない場合と、(b)前記作動液量検出装置によって検出された前記作動液量の前記変化量が第2異常判定しきい値より大きい場合と、(c)前記作動液量検出装置によって検出された作動液量の前記変化量が第3異常判定しきい値より小さい場合とのうちの1つ以上が成立した場合に、当該液圧ブレーキシステムが異常であると検出する異常検出部を含む(1)項ないし(3)項のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
【0131】
作動液量が第1異常判定しきい値より少ない場合には、摩擦係合部材の摩耗が設定状態に達するまで進んだ状態であると検出することができる。上記実施例において、第1異常判定しきい値は摩擦パッドフル摩耗判定しきい値に対応する。
変化量が第2異常判定しきい値より大きい場合には、ベーパーロック状態であると検出することができる。第2異常判定しきい値は、ベーパーロック判定しきい値に対応する。
変化量が第3異常判定しきい値より小さい場合には、液漏れが生じた、または、摩擦係合部材の摩耗が進んだ状態であると検出することができる。第3異常判定しきい値は、漏れ等判定しきい値と称することができる。
【0132】
(5)当該液圧ブレーキシステムが、前記隙間推定部によってそれぞれ推定された前記1つ以上ずつの液圧ブレーキの前記隙間に基づいて、前記複数の液圧制御アクチュエータのうちの少なくとも1つをそれぞれ制御する液圧制御部を含む(1)項ないし(4)項のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
【0133】
(6)前記液圧制御部が、前記隙間推定部によって推定された前記複数の液圧ブレーキのうちの第1液圧ブレーキにおける前記隙間と、前記複数の液圧ブレーキのうち前記第1液圧ブレーキとは異なる第2液圧ブレーキにおける前記隙間との差が設定隙間より大きい場合に、前記第1液圧ブレーキに対応する前記液圧制御アクチュエータと前記第2液圧ブレーキに対応する前記液圧制御アクチュエータとの少なくとも一方を制御して、前記第1液圧ブレーキと前記第2液圧ブレーキとの効き開始の時期の差を抑制するものである(5)項に記載の液圧ブレーキシステム。
【0134】
上記実施例においては、液圧ブレーキ10FL、液圧ブレーキ10FRのうちの一方が第1液圧ブレーキに対応し、他方が第2液圧ブレーキに対応する。
第1、第2液圧ブレーキは、例えば、左前輪、右前輪に設けられた液圧ブレーキ、または、左後輪、右後輪に設けられた液圧ブレーキとすることができる。
換言すると、第1液圧ブレーキ、第2液圧ブレーキには、それぞれ、液圧制御アクチュエータが1対1に対応して設けられる。
【0135】
(7)前記複数の液圧ブレーキのうちの第1液圧ブレーキと、前記複数の液圧ブレーキのうち前記第1液圧ブレーキとは異なる第2液圧ブレーキとに、それぞれ、1対1に前記液圧制御アクチュエータが接続され、
前記液圧制御部が、前記隙間推定部によってそれぞれ推定された前記第1液圧ブレーキにおける前記隙間と、前記第2液圧ブレーキにおける前記隙間との差が設定隙間より大きい場合に、前記第1液圧ブレーキに接続された前記液圧制御アクチュエータと前記第2液圧ブレーキに接続された前記液圧制御アクチュエータとの少なくとも一方を制御して、前記第1液圧ブレーキと前記第2液圧ブレーキとの効き開始の時期の差を抑制するものである(5)項に記載の液圧ブレーキシステム。
【0136】
(8)前記複数の液圧制御アクチュエータが、それぞれ、電動モータと、ピストンである電動ピストンと、前記電動モータの回転を前記電動ピストンの直線移動に変換する運動変換装置と、前記電動ピストンの前方に設けられ、前記リザーバに接続されるとともに、前記1つ以上の液圧室に接続された容積変化室とを含む電動シリンダ装置を備え、
前記液圧制御部が、前記複数の電動シリンダ装置の各々において、前記電動モータへの供給電流を制御することにより、前記電動ピストンを前進・後退させて、前記容積変化室の容積を減少・増加させることにより、前記1つ以上ずつのホイールシリンダの液圧室の液圧をそれぞれ増加・減少させるものである(1)項ないし(7)項のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
【0137】
(9)当該液圧ブレーキシステムが、
運転者によって操作可能なブレーキ操作部材の操作状態を検出するブレーキ操作状態検出装置と、
前記車両の周辺の情報を取得する周辺情報取得装置と、
前記複数の車輪の各々に対応して設けられ、それぞれ、車輪の回転速度を検出する車輪速度検出装置と
を含み、
前記液圧制御部が、
前記ブレーキ操作状態検出装置によって検出された前記ブレーキ操作部材の操作状態と、前記周辺情報取得装置によって取得された前記車両の周辺の情報との少なくとも一方に基づいて決まる目標液圧に、前記1つ以上ずつのホイールシリンダの液圧がそれぞれ近づくように、複数の前記電動モータへの供給電流をそれぞれ制御し、かつ、
複数の前記車輪速度検出装置によって検出された複数の車輪の各々の車輪速度に基づいて取得された前記複数の車輪の各々のスリップ状態が、路面の摩擦係数で決まる適正な範囲内にあるように、前記複数の電動モータへの供給電流をそれぞれ制御する(8)項に記載の液圧ブレーキシステム。
【0138】
(10)車両の車輪に設けられ、前記車輪と一体的に回転可能なブレーキ回転体にホイールシリンダの液圧室の液圧により摩擦係合部材を押し付けることにより前記車輪の回転を抑制する液圧ブレーキと、
前記液圧ブレーキの前記液圧室に接続され、前記液圧室の液圧を制御可能な液圧制御アクチュエータと
を含む液圧ブレーキシステムであって、
前記液圧制御アクチュエータが、前記液圧ブレーキの前記液圧室に接続され、前記液圧室から流出させられた作動液を収容可能なリザーバと、前記リザーバに収容された作動液の液量である作動液量を検出する作動液量検出装置とを含み、
当該液圧ブレーキシステムが、前記作動液量検出装置によって、前記液圧ブレーキの非作用状態において検出された前記作動液量の予め定められた基準作動液量からの変化量に基づいて、前記液圧ブレーキにおける前記ブレーキ回転体と摩擦係合部材との間の隙間を推定する隙間推定部を含む液圧ブレーキシステム。
【0139】
本項に記載の液圧ブレーキシステムには、(1)項ないし(9)項のいずれかに記載の技術的特徴を採用することができる。
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