(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】車両用歩行者保護装置
(51)【国際特許分類】
B60R 21/38 20110101AFI20240828BHJP
B62D 25/04 20060101ALI20240828BHJP
B62D 25/10 20060101ALI20240828BHJP
B60R 21/36 20110101ALI20240828BHJP
【FI】
B60R21/38
B62D25/04 A
B62D25/10 E
B60R21/36 352
B60R21/36 351
(21)【出願番号】P 2021208051
(22)【出願日】2021-12-22
【審査請求日】2023-08-15
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【氏名又は名称】鈴木 大介
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【氏名又は名称】飛田 高介
(72)【発明者】
【氏名】中島 敦
(72)【発明者】
【氏名】中島 豊
(72)【発明者】
【氏名】土生 優
(72)【発明者】
【氏名】室屋 崇也
(72)【発明者】
【氏名】村上 翔
(72)【発明者】
【氏名】清水 貴之
(72)【発明者】
【氏名】志賀 由美
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 圭希
(72)【発明者】
【氏名】石垣 良太
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-196087(JP,A)
【文献】特開2007-083829(JP,A)
【文献】特開2006-076448(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0043274(KR,A)
【文献】特開2000-264146(JP,A)
【文献】特開2006-282105(JP,A)
【文献】特開2007-112183(JP,A)
【文献】特開2013-133036(JP,A)
【文献】米国特許第06415883(US,B1)
【文献】特開2010-125996(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/34 - 21/38
B62D 25/10 - 25/13
B62D 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のフロントフードの下方に設けられていて該車両と歩行者との接触が予測または検知されたときに該フロントフードのウインドシールド側を上昇させるポップアップ機構と、
前記車両の一対のAピラーそれぞれの基体である基礎部と、
前記基礎部の車両外側に設けられて前記Aピラーの外装を形成している表層部と、
前記表層部の上端と前記基礎部とを回転可能につないでいるヒンジと、
前記表層部の下端と前記フロントフードとをつないでいる接続部と、
を備え、
前記表層部は、前記フロントフードが上昇したときに前記接続部を介して持ち上げられ、前記ヒンジを支点として前記基礎部から離間
し、
前記接続部は、前記表層部と前記フロントフードとを相対的に動作可能につなぐリンク機構を有し、
前記リンク機構は、前記表層部の前端部分および前記フロントフードの後端部分それぞれに固定された複数の回転部と該複数の回転部をつなぐリンク部材とを含むことを特徴とする車両用歩行者保護装置。
【請求項2】
前記ポップアップ機構は、前記フロントフードの下方から前記ウインドシールドに向かって膨張展開するエアバッグクッションを有し、
前記エアバッグクッションは、前記基礎部と該基礎部から離間した表層部との間に膨張展開することを特徴とする請求項1に記載の車両用歩行者保護装置。
【請求項3】
前記エアバッグクッションは、
前記車両の一対のAピラーの一方から他方にまでわたって少なくとも前記ウインドシールドの下部を覆う主膨張部と、
前記主膨張部から前記一対のAピラーそれぞれに沿って上方に突出する一対の突出膨張部と、
を有し、
前記一対の突出膨張部それぞれは、前記基礎部と該基礎部から離間した表層部との間に膨張展開することを特徴とする請求項2に記載の車両用歩行者保護装置。
【請求項4】
車両のフロントフードの下方に設けられていて該車両と歩行者との接触が予測または検知されたときに該フロントフードのウインドシールド側を上昇させるポップアップ機構と、
前記車両の一対のAピラーそれぞれの基体である基礎部と、
前記基礎部の車両外側に設けられて前記Aピラーの外装を形成している表層部と、
前記表層部の上端と前記基礎部とを回転可能につないでいるヒンジと、
前記表層部の下端と前記フロントフードとをつないでいる接続部と、
を備え、
前記表層部は、前記フロントフードが上昇したときに前記接続部を介して持ち上げられ、前記ヒンジを支点として前記基礎部から離間し、
前記ポップアップ機構は、前記フロントフードの下方から前記ウインドシールドに向かって膨張展開するエアバッグクッションを有し、
前記エアバッグクッションは、前記基礎部と該基礎部から離間した表層部との間に膨張展開し、
前記エアバッグクッションは、
前記車両の一対のAピラーの一方から他方にまでわたって少なくとも前記ウインドシールドの下部を覆う主膨張部と、
前記主膨張部から前記一対のAピラーそれぞれに沿って上方に突出する一対の突出膨張部と、
を有し、
前記一対の突出膨張部それぞれは、前記基礎部と該基礎部から離間した表層部との間に膨張展開し、
前記一対の突出膨張部それぞれは、前記表層部の前記基礎部側から屈曲して該表層部のうち該基礎部とは反対側まで覆うことを
特徴とする車両用歩行者保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントフードやAピラーを含む車両前部に備えられる車両用歩行者保護装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の車両には、歩行者や自転車など(以下、歩行者等)と接触した場合に、それら歩行者等を保護するための装置として、車両用歩行者保護装置が搭載されつつある。主な車両用歩行者保護装置としては、例えばウインドシールドなどの歩行者等が接触するおそれのある部位を覆う歩行者保護用エアバッグ装置が挙げられる。
【0003】
その他、車両用歩行者保護装置としては、例えば緊急時にフロントフードを持ち上げることで、フロントフードに接触した歩行者等に与える衝撃を和らげる機構も開発されている。例えば、特許文献1には、本願出願人による技術として、フード持ち上げ装置が記載されている。このフード持ち上げ装置は、円筒形状のアクチュエータ1を中心とした技術であって、アクチュエータ1を利用してフロントフードのウインドシールド側を持ち上げるポップアップ機構を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
車両がある程度の速度をもって歩行者等と接触した場合、歩行者等はフロントフードに乗り上げ、ウインドシールドの他、Aピラーにも接触することがある。Aピラーはウインドシールドの側縁やルーフを支える比較的剛性の高い構造物であるため、歩行者等を十全に保護するためにはAピラーとの接触についても対策を採ることが望ましい。
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような課題に鑑み、簡潔な構成で歩行者等を十全に保護可能な車両用歩行者保護装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明にかかる車両用歩行者保護装置の代表的な構成は、車両のフロントフードの下方に設けられていて車両と歩行者との接触が予測または検知されたときにフロントフードのウインドシールド側を上昇させるポップアップ機構と、車両の一対のAピラーそれぞれの基体である基礎部と、基礎部の車両外側に設けられてAピラーの外装を形成している表層部と、表層部の上端と基礎部とを回転可能につないでいるヒンジと、表層部の下端とフロントフードとをつないでいる接続部と、を備え、表層部は、フロントフードが上昇したときに接続部を介して持ち上げられ、ヒンジを支点として基礎部から離間することを特徴とする。
【0008】
上記構成によれば、緊急時において、フロントフードと共にAピラーの表層部が上昇するため、Aピラーの剛性を下げ、歩行者がAピラーに接触したときの衝撃を和らげることができる。よって、上記構成によれば、簡潔な構成で歩行者等を十全に保護することが可能になる。
【0009】
上記のポップアップ機構は、フロントフードの下方からウインドシールドに向かって膨張展開するエアバッグクッションを有し、エアバッグクッションは、基礎部と基礎部から離間した表層部との間に膨張展開してもよい。
【0010】
上記構成によれば、フロントフードからウインドシールドに向かって膨張展開するエアバッグクッションを利用することで、フロントフードのウインドシールド側を持ち上げると共に、エアバッグクッションを基礎部と表層部との間に膨張展開させ、歩行者等がAピラーに接触したときの衝撃をさらに和らげることができる。
【0011】
上記のエアバッグクッションは、車両の一対のAピラーの一方から他方にまでわたって少なくともウインドシールドの下部を覆う主膨張部と、主膨張部から一対のAピラーそれぞれに沿って上方に突出する一対の突出膨張部と、を有し、一対の突出膨張部それぞれは、基礎部と基礎部から離間した表層部との間に膨張展開してもよい。
【0012】
上記構成によれば、エアバッグクッションを利用して歩行者等をウインドシールド等への接触から保護すると共に、歩行者等がAピラーに接触したときの衝撃を突出膨張部によってさらに和らげることができる。加えて、突出膨張部をAピラーの基礎部と表層部との間に挟み込ませることで、エアバッグクッションの動きを抑えて、エアバッグクッションの拘束性能を向上させることが可能になる。
【0013】
上記の一対の突出膨張部それぞれは、表層部の基礎部側から屈曲して表層部のうち基礎部とは反対側まで覆ってもよい。
【0014】
上記構成によれば、Aピラーの表層部に歩行者等が直接に接触することを防ぎ、歩行者等をより十全に保護することが可能になる。
【0015】
上記の接続部は、表層部とフロントフードとを相対的に動作可能につなぐリンク機構を有していてもよい。
【0016】
上記構成によれば、フロントフードとAピラーの表層部とを動作可能につなぐことで、フロントフードの上昇と、フロントフードに連動したAピラーの表層部の上昇とを、円滑に行うことが可能になる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、簡潔な構成で歩行者等を十全に保護可能な車両用歩行者保護装置を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る車両用歩行者保護装置の概要を例示した図である。
【
図2】
図1のAピラー付近の概略的な断面図である。
【
図4】本発明の第2実施形態に係る車両用歩行者保護装置の概要を例示した図である。
【
図5】
図4のAピラー付近の概略的な断面図である。
【
図7】
図4(b)のエアバッグクッションの変形例を例示した図である。
【
図8】
図2のポップアップ機構の変形例を例示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0020】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る車両用歩行者保護装置(以下、保護装置100)の概要を例示した図である。
図1(a)は、保護装置100の作動前の車両を例示した図である。
図1その他の各図においては、車両前後方向をそれぞれ矢印F(Forward)、B(Back)、車幅方向の左右をそれぞれ矢印L(Left)、R(Right)、車両上下方向をそれぞれ矢印U(up)、D(down)で例示する。
【0021】
保護装置100は、車両102に歩行者の他、自転車やオートバイの運転者などが接触しようとしたときに、これら歩行者等の保護を行うことを目的としている。
【0022】
保護装置100は、中心的な機能を果たす要素として、フロントフード104の下方にポップアップ機構112を備えている。ポップアップ機構112は、車両102と歩行者等との接触が予測または検知されたときに、フロントフード104のウインドシールド108側を上昇させ、歩行者等がフロントフード104に接触するときの衝撃を和らげる。
【0023】
図1(b)は、
図1(a)の保護装置100の作動時の車両を例示した図である。当該保護装置100は、緊急時において、フロントフード104の上昇に連動して、一対のAピラー110a、110bそれぞれの表層部116a、116bも上昇する。これによって、歩行者等がAピラー110a、110bに接触したときの衝撃も和らげることが可能になる。
【0024】
図2は、
図1のAピラー110a付近の概略的な断面図である。
図2(a)は、
図1(a)のAピラー110a付近の概略的なA-A断面図である。Aピラー110a、110bは対称の同じ構造のため、以下では代表して車両左側のAピラー110aを例に挙げて説明を行う。
【0025】
本実施形態のポップアップ機構112は、シリンダ型のアクチュエータ118aを含んで実現されている。本実施形態では、
図1(a)に示したように、車両前部のうちフロントフード104の車両後側の下方であってフロントフード104の車幅方向の両端に、一対のアクチュエータ118a、118bを設置している。保護装置100は、不図示のセンサやカメラなどを通じて、車両102と歩行者等との接触を検知または予測することが可能になっている。保護装置100は、歩行者等との接触を検知等すると、制御部等を介してアクチュエータ118aに作動信号を送り、アクチュエータ118aを作動させる。
【0026】
図2(b)は、
図1(b)のAピラー110a付近の概略的なB-B断面図である。アクチュエータ118aは、ハウジング120の内部に火工装薬122とピストン124とを有していて、制御部等からの信号を受けると火工装薬122が燃焼し、ピストン124がハウジング120から上方に突出する仕組みになっている。このときのピストン124の動きによって、アクチュエータ118aは、フロントフード104の車両後方のウインドシールド108側(
図1(b)参照)を持ち上げる。
【0027】
Aピラー110aは、基礎部114aと表層部116aを含んで構成されている。基礎部114aは、車両102のAピラー110aの基体を形成している部分である。表層部116aは、基礎部114aの車両外側に設けられていて、Aピラー110aの外装を形成している。
【0028】
表層部116aの上端と基礎部114aとは、ヒンジ126によって回転可能につながれている。表層部116aの下端とフロントフード104とは、接続部128で相対的に動作可能につながれている。
【0029】
表層部116aは、接続部128でフロントフード104に接続されていることで、フロントフード104が上昇したときに接続部128を介して持ち上げられ、ヒンジ126を支点として基礎部114aから離間する。この構成によれば、緊急時において、フロントフード104と共にAピラー110aの表層部116aが上昇することで、Aピラー110aの剛性を下げ、歩行者等がAピラー110aに接触したときの衝撃を和らげることができる。
【0030】
接続部128は、表層部116aとフロントフード104とを相対的に動作可能につなぐリンク機構130を有している。リンク機構130は、例えばリンク部材132と複数の回転部134、135を有して表層部116aとフロントフード104とをつなぐ。この構成によって、フロントフード104とAピラー110aの表層部116aとが動作可能につながれていて、フロントフード104の上昇と、フロントフード104に連動した表層部116aの上昇とを円滑に行うことが可能になっている。
【0031】
図3は、
図1のAピラー110a付近の各断面図である。
図3(a)は、
図1(a)Aピラー110a付近のC-C断面図である。Aピラー110aの基礎部114aは、例えば車外側のアウタパネル136と、車内側のインナパネル138、そしてガーニッシュ140などによって構成されている。基礎部114aは、ウインドシールド108やサイドウインドウ142の他、不図示のルーフなども支えるため、相応の剛性を有している。
【0032】
表層部116aは、Aピラー110aの車両外側に面する外装部材として、例えばアウタパネル136と車外側が面一になるよう構成することができる。
【0033】
図3(b)は、
図1(b)のAピラー110a付近のD-D断面図である。表層部116aがフロントフード104(
図2(b)参照)に連動して基礎部114aから離間すると、表層部116aと基礎部114aとの間には空間E1が形成される。この空間E1が形成されることで、仮に表層部116aに歩行者等が接触したとしても、空間E1が形成されていない場合に比べて衝撃を大幅に和らげることが可能になっている。
【0034】
以上のように、本実施形態の保護装置100(
図1(b))によれば、ポップアップ機構112によってフロントフード104とAピラー110a、110bの表層部116a、116bとを連動して上昇させ、簡潔な構成を達成しつつ歩行者等を十全に保護することが可能になっている。
【0035】
(第2実施形態)
図4は、本発明の第2実施形態に係る車両用歩行者保護装置(以下、保護装置200)の概要を例示した図である。
図4(a)は保護装置200の作動前の車両を例示した図であり、
図4(b)は保護装置200の作動後の車両を例示した図である。
【0036】
図4以降の各図では、既に説明した構成要素と同じものには同じ符号を付していて、これによって既出の構成要素については説明を省略する。また、以下の説明において、既に説明した構成要素と同じ名称のものについては、例え異なる符号を付していても、特に明記しない場合は同じ機能を有しているものとする。
【0037】
本実施形態の保護装置200は、ポップアップ機構として、歩行者保護用エアバッグ装置(以下、エアバッグ装置202)を有している点で、
図1の保護装置100と構成が異なっている。
【0038】
エアバッグ装置202は、フロントフード104の下側に設置されている。エアバッグ装置202は、車両と歩行者等の接触が検知等されたとき、ガス発生装置であるインフレータ212(
図5(a)参照)が作動し、
図4(b)のようにエアバッグクッション204がフロントフード104の下方からウインドシールド108に向かって膨張展開する仕組みとなっている。
【0039】
図4(a)に例示するように、エアバッグ装置200は、エアバッグクッション204(
図4(b)参照)を収容するハウジング206を備えている。ハウジング206は、主に樹脂で形成された長尺な箱状の容器であり、エアバッグクッション204やインフレータ212等を収納する。ハウジング206は、その長手方向を車幅方向に向けて、専用のブラケット等を介してフロントフード104の下面に取り付けられる。
【0040】
図4(b)に例示するエアバッグクッション204は、袋状であって、その表面を構成する複数の基布を重ねて縫製または接着することや、OPW(One-Piece Woven)を用いての紡織などによって形成されている。エアバッグクッション204は、ウインドシールド108に沿って膨張展開し、このウインドシールド108に接触しようとする歩行者を受け止める。
【0041】
本実施形態では、エアバッグクッション204のうちガスが流入して膨張する膨張領域は、主膨張部208と一対の突出膨張部210a、210bに大きく分かれている。
【0042】
主膨張部208は、インフレータ212(
図5(a)参照)からガスを受給し、ウインドシールド108の下部を左側のAピラー110aから右側のAピラー110bにわたるまで車幅方向に覆うよう膨張展開して、歩行の身体を広く受け止める。
【0043】
主膨張部208は、フロントフード104の後端近傍を下方から持ち上げる構成とすることも、フロントフード104の後端近傍の上側に重なって膨張展開する構成とすることも可能である。主膨張部208がフロントフード104の後端近傍を持ち上げるポップアップ機構として機能する場合、フロントフード104を浮かせることで歩行者がフロントフード104に接触したときに与える衝撃を和らげることが可能である。
【0044】
一対の突出膨張部210a、210bは、主膨張部208の車幅方向両端側にAピラー110a、110bそれぞれに沿って上方に突出するよう設けられている。突出膨張部210a、210bは、主膨張部208からガスを受給するとそれぞれAピラー110a、110bを覆うよう膨張展開し、歩行者の頭部などが剛性の高いAピラー110a、110bに接触することを防ぐ。
【0045】
図5は、
図4のAピラー110a付近の概略的な断面図である。
図5(a)は、
図4(a)のAピラー110a付近の概略的なE-E断面図である。
【0046】
ハウジング206は、フロントフード104の下側のウインドシールド108側に設置されてる。ハウジング206には、エアバッグクッション204の膨張圧で開裂可能な脆弱部が所定の箇所に設けられている。脆弱部は、例えばハウジング206の内側に彫られた溝状の部位として設けることができる。
【0047】
インフレータ212は、エアバッグクッション204の前端側に車幅方向に沿って配置されている。インフレータ212は、ハウジング206の内側にスタッドボルト214を使用して固定されていて、所定の制御部等から送られる信号に起因して作動し、エアバッグクッション204にガスを供給する。エアバッグクッション204は、インフレータ212からのガスによって膨張を始め、その膨張圧でハウジング206を開裂等してウインドシールド108に向かって膨張展開する。
【0048】
インフレータ212は、本実施例ではシリンダ型(円筒型)のものを採用している。現在普及しているインフレータには、ガス発生剤が充填されていてこれを燃焼させてガスを発生させるタイプや、圧縮ガスが充填されていて熱を発生させることなくガスを供給するタイプ、または燃焼ガスと圧縮ガスとを両方利用するハイブリッドタイプのものなどがある。インフレータ212としては、いずれのタイプのものも利用可能である。
【0049】
図5(b)は、
図4(b)のAピラー110a付近の概略的なF-F断面図である。エアバッグクッション204は、ポップアップ機構としての機能も有している。エアバッグクッション204は、フロントフード104のウインドシールド108側を持ち上げて上昇させ、フロントフード104に接触する歩行者等に与える衝撃を和らげる。そして、フロントフード104の上昇に伴って、Aピラー110aの表層部116aも基礎部114aから上昇する。
【0050】
図6は、
図5(b)のAピラー110a付近の断面図である。エアバッグクッション204のうち、突出膨張部210aは、表層部116aが基礎部114aから離間することで形成される空間E1に膨張展開することができる。
【0051】
本実施形態によれば、フロントフード104からウインドシールド108に向かって膨張展開するエアバッグクッション204を利用することで、フロントフード104のウインドシールド108側を持ち上げると共に、エアバッグクッション204を基礎部114aと表層部116aとの間に膨張展開させ、歩行者等がAピラー110aに接触したときの衝撃をさらに和らげることができる。
【0052】
また、本実施形態では、エアバッグクッション204を利用して歩行者等をウインドシールド108等への接触から保護するとき、突出膨張部210a、210b(
図4(b)参照)をAピラー110a、110bの基礎部114a、114bと表層部116a、116bとの間に挟み込ませることで、エアバッグクッション204の動きを抑えて、エアバッグクッション204の拘束性能を向上させることができる。
【0053】
なお、
図4(b)のエアバッグ装置202は、
図1(b)のアクチュエータ118a、118bと共に設けることも可能である。アクチュエータ118a、118bが機能することで、エアバッグクッション204はより円滑に膨張展開することが可能になる。さらに、エアバッグ装置202とアクチュエータ118a、118bとを共に設ける場合、エアバッグクッション204からポップアップ機構としての機能を省くこともでき、例えば主膨張領域208がフロントフード104の上側に重なって膨張展開する構成とすることも可能である。この構成によれば、エアバッグクッション204の歩行者等に対する拘束面積をより広く形成することが可能になる。
【0054】
(変形例)
以下、上述した各構成要素の変形例について説明する。
図7は、
図4(b)のエアバッグクッション204の変形例(エアバッグクッション220)を例示した図である。
【0055】
図7(a)は、
図4(b)に対応してエアバッグクッション220を例示した図である。エアバッグクッション220は、突出膨張部222a、222bの車幅方向外側が上側かつ車幅方向内側に反り返った形状になっていて、突出膨張部222a、222bによってAピラー110a、110bの表層部116a、116bを包み込むことが可能になっている。
【0056】
図7(b)は、
図6に対応したエアバッグクッション220の断面図である。突出膨張部222aは、Aピラー110aの表層部116aの基礎部114a側から屈曲していて、表層部116aの基礎部114a側およびその反対側までを覆う構成となっている。この構成によって、エアバッグクッション220は、Aピラー110aの表層部116aに歩行者等が直接に接触することを防ぎ、歩行者等をより十全に保護することが可能になっている。
【0057】
図8は、
図2のポップアップ機構112の変形例(ポップアップ機構240)を例示した図である。
図8(a)は、
図2(a)に対応したAピラー110a付近の概略的なA-A断面図である。
【0058】
本実施例のポップアップ機構240は、シリンダ型のアクチュエータ242と、リンク機構244を含んで実現されている。当該アクチュエータ242およびリンク機構244は、
図1(a)のアクチュエータ118a、118bと同様に、車両前部のうちフロントフード104の車両後側の下方であってフロントフード104の車幅方向の両端に、一対設けることができる。
【0059】
アクチュエータ242は、例えば内部に火工装薬(
図2(a)の火工装薬122を参照)を有し、車両102と歩行者等との検知等に起因して、ピストン246が突出し、ハウジング248が車両前方に移動する構成になっている。
【0060】
図8(b)は、
図2(b)に対応したAピラー110a付近の概略的なA-A断面図である。リンク機構は、複数のリンク部材250a~250cを有している。リンク部材およびアクチュエータは、複数の回転部252a~252eで接続されている。ポップアップ機構240では、アクチュエータ242が作動することで、リンク機構244がてこの原理を利用してフロントフード104のウインドシールド108側を持ち上げる構成になっている。
【0061】
本実施例の構成によっても、緊急時において、フロントフード104と共にAピラー110aの表層部116aが上昇することで、Aピラー110aの剛性を下げ、歩行者等がAピラー110aに接触したときの衝撃を和らげることが可能である。
【0062】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、以上に述べた実施形態は、本発明の好ましい例であって、これ以外の実施態様も、各種の方法で実施または遂行できる。特に本願明細書中に限定される主旨の記載がない限り、この発明は、添付図面に示した詳細な部品の形状、大きさ、および構成配置等に制約されるものではない。また、本願明細書の中に用いられた表現および用語は、説明を目的としたもので、特に限定される主旨の記載がない限り、それに限定されるものではない。
【0063】
したがって、当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、フロントフードやAピラーを含む車両前部に備えられる車両用歩行者保護装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0065】
100…保護装置、102…車両、104…フロントフード、108…ウインドシールド、110a、110b…Aピラー、112…ポップアップ機構、114a、114b…基礎部、116a、116b…表層部、118a、118b…アクチュエータ、120…ハウジング、122…火工装薬、124…ピストン、126…ヒンジ、128…接続部、130…リンク機構、132…リンク部材、134、135…回転部、136…アウタパネル、138…インナパネル、140…ガーニッシュ、142…サイドウインドウ、E1…空間、200…保護装置、202…エアバッグ装置、204…エアバッグクッション、206…ハウジング、208…主膨張部、210a、210b…突出膨張部、212…インフレータ、220…エアバッグクッション、222a、222b…突出膨張部、240…ポップアップ機構、242…アクチュエータ、244…リンク機構、246…ピストン、248…ハウジング、250a~250c…リンク部材、252a~252e…回転部