(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】断熱材組成物、断熱材、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16L 59/02 20060101AFI20240828BHJP
H01M 10/613 20140101ALI20240828BHJP
H01M 10/625 20140101ALI20240828BHJP
H01M 10/647 20140101ALI20240828BHJP
H01M 10/658 20140101ALI20240828BHJP
【FI】
F16L59/02
H01M10/613
H01M10/625
H01M10/647
H01M10/658
(21)【出願番号】P 2021512340
(86)(22)【出願日】2020-04-06
(86)【国際出願番号】 JP2020015580
(87)【国際公開番号】W WO2020204209
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2019072936
(32)【優先日】2019-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】水田 航平
(72)【発明者】
【氏名】田原 和人
(72)【発明者】
【氏名】坂輪 盛一
【審査官】岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-163815(JP,A)
【文献】国際公開第2018/211906(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 59/02
H01M 10/613
H01M 10/625
H01M 10/647
H01M 10/658
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が1μm以上50μm以下である湿式シリカ粒子がセルロースミクロフィブリルで包接された複合体を含む、断熱材組成物。
【請求項2】
前記湿式シリカ粒子の含水率が5%以上15%以下である請求項1に記載の断熱材組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の断熱材組成物と基材繊維とを含む断熱材。
【請求項4】
基材繊維が、PET繊維、セルロース繊維、アラミド繊維、ポリイミド繊維、ポリカーボネート繊維、および無機繊維からなる群から選択される1種以上である請求項3に記載の断熱材。
【請求項5】
前記断熱材の23℃における熱伝導率が0.07W/(m・K)以下である請求項3または4に記載の断熱材。
【請求項6】
断熱材表面が難燃化処理されている請求項3~5のいずれかに記載の断熱材。
【請求項7】
請求項3~6のいずれかに記載の断熱材を成形した断熱性シートであり、複数の二次電池セルを有する電池構造体のセル間またはセル周囲に使用するための断熱性シート。
【請求項8】
断熱材組成物と、基材繊維とを混合してスラリーを得る工程と、
前記スラリーを抄紙用スクリーンにて抄造し原料シートを得る工程と、
前記原料シートを乾燥し、シート状の断熱材を得る工程と
を含む、請求項3~6のいずれかに記載の断熱材の製造方法。
【請求項9】
複数の二次電池セルと、二次電池セル同士の間および/または二次電池セルの周囲に配置された請求項7に記載の断熱性シートとを含む、電池構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱材組成物とそれを用いて製造できる断熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギーの観点から放熱エネルギーを抑制するために、断熱材の需要が益々大きくなってきている。また、従来の住宅や配管、溶鉱炉、電気炉といった用途だけでなく、例えば内燃機関や燃料電池等の保温といった観点からも断熱材は注目されており、成形体に限らない様々な形状に適応可能な断熱材が求められている。
【0003】
さらには、石油エネルギーに頼らない電気自動車への注目が高まっており、特に近年ではその普及が急速に進められている。この電気自動車に搭載されるバッテリーは複数の二次電池セルによって構成されているものが一般的であるが、近年は二次電池セルのエネルギー密度が向上されているため、熱暴走のリスクがある。熱暴走した二次電池セルは状況によっては300℃以上に達するほどの急激な温度上昇を示すため、隣接している二次電池セルに熱が伝わり、連鎖的に熱暴走が発生する可能性がある。このため、一箇所の二次電池セルが熱暴走した際に他のセルへの熱暴走の影響を抑える部材が求められている。しかも、電気自動車では部材の収容体積に余裕が無く、かつ部材の質量も軽いことが求められているため、そのような要請に応えられる材料は発展途上である。
【0004】
この熱暴走の連鎖反応を抑える技術として、特許文献1では隣接する二次電池の間に断熱性プラスチック製の熱暴走防止壁を設け、熱暴走が他の二次電池の熱暴走を誘発するのを防止する構造について記載されている。しかしながら、特許文献1の熱暴走防止壁は、二次電池と熱伝導筒とが一体的に成形されており、複雑な独自構成を有している上、プラスチック製防止壁自体への延焼については考慮されていない。
【0005】
また、特許文献2では鉱物系粉体もしくは難燃剤を用いた熱膨張性もしくは熱硬化性の熱暴走防止シートについて記載されている。しかし、航行距離向上のため二次電池セルの熱マネジメント能力も必要性能として見られるようになってきており、熱マネジメント能力の向上と前述した熱暴走の防止の両方を満たす材料であることが望まれている。しかし特許文献2に記載されている熱暴走シートは、その実施例によれば室温における熱伝導率が0.1W/(m・K)程度であり、要請に応えられない。
【0006】
低熱伝導率を有する材料として、例えば特許文献3や特許文献4などに挙げられるような微細な気孔を含有する嵩高い微粒子の使用が有効であることが記載されている。特許文献3では、数nmの気孔を無数に内包するエアロゲル化されたシリカ粒子と繊維を使用した断熱性シートについて記載されており、優れた断熱性と優れた耐水性を有しているとされる。また、特許文献4には、微細な多孔質構造を有する微粒子であるヒュームドシリカあるいはヒュームドアルミナと無機繊維を組み合わせた多孔質断熱材について記載されており、室温から600℃まで非常に低い熱伝導率と耐熱性を示す。
【0007】
しかし、気孔率が90%以上と言われるエアロゲルは製造コストが高く、さらに500℃以上の温度になると大きく収縮することが知られており、同技術をセル間に適用するには熱暴走時の形状保持性に難がある。一方で、ヒュームドシリカ・ヒュームドアルミナは耐熱性に優れるが、微粒子であるために舞いやすく、成形しづらい。このため、成形性にも課題があり、また粉落ち(dust fall)しやすいなどハンドリング性にも課題がある。
【0008】
また、類似する材料組成として、特許文献5では無機粒子と微細セルロース繊維からなる耐熱性と高強度を有する不織布シートについて記載されている。しかし、この不織布シートはセパレータとしての用途が考慮されており、通気性、通液性を有しているためその断熱性と遮炎性には課題がある。
【0009】
特許文献6には、ナノ粒子の圧縮成形体を充填した繊維体を使用した断熱材について記載されている。しかし、記載されている断熱材の厚みは少なくとも1mm以上であって、さらに強度を確保するために両面に被覆層を設ける必要がある。また、特許文献6に記載されているヒュームドシリカやエアロゲルは圧縮によって成形するとスプリングバックと呼ばれる体積回復挙動を示すため、厚みを制御することが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第4958409号公報
【文献】特開2018-206605号公報
【文献】特許第6188245号公報
【文献】特許第5683739号公報
【文献】特開2015-014078号公報
【文献】特許第5615514号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の従来技術では、断熱性と耐熱性に優れつつ、薄い形状と軽い質量と十分な強度・可撓性を以って成形できる性能を併せ持つことができなかった。このため、これらの要請に同時に応えられる新規な材料が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題と背景を鑑みて検討を重ねた結果、湿式法で製造された非晶質シリカ粒子(本明細書では「湿式シリカ粒子」wet silica particleとも称する)と、ミクロフィブリル化したセルロース繊維(本明細書では「セルロースミクロフィブリル」cellulose microfibrilとも称する)との複合体を含む断熱材組成物によって当該課題が解決されることを見出した。すなわち、本発明の実施形態では下記を提供できる。
【0013】
[1] 平均粒子径が1μm以上50μm以下である湿式シリカ粒子がセルロースミクロフィブリルで包接された複合体を含む、断熱材組成物。
【0014】
[2] 上記湿式シリカ粒子の含水率が5%以上15%以下である[1]に記載の断熱材組成物。
【0015】
[3] [1]または[2]に記載の断熱材組成物と基材繊維とを含む断熱材。
【0016】
[4] 基材繊維が、PET繊維、セルロース繊維、アラミド繊維、ポリイミド繊維、ポリカーボネート繊維、および無機繊維からなる群から選択される1種以上である[3]に記載の断熱材。
【0017】
[5] 上記断熱材の23℃における熱伝導率が0.07W/(m・K)以下である[3]または[4]に記載の断熱材。
【0018】
[6] 断熱材表面が難燃化処理されている[3]~[5]のいずれかに記載の断熱材。
【0019】
[7] [3]~[6]のいずれかに記載の断熱材を成形した断熱性シートであり、複数の二次電池セルを有する電池構造体のセル間またはセル周囲に使用するための断熱性シート。
【0020】
[8] 断熱材組成物と、基材繊維とを混合してスラリーを得る工程と、
前記スラリーを抄紙用スクリーンにて抄造し原料シートを得る工程と、
前記原料シートを乾燥し、シート状の断熱材を得る工程と
を含む、[3]~[6]のいずれかに記載の断熱材の製造方法。
【0021】
[9] 複数の二次電池セルと、二次電池セル同士の間および/または二次電池セルの周囲に配置された[7]に記載の断熱性シートとを含む、電池構造体。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、優れた断熱性を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】ある実施形態に係る電池構造体を示す略断面図である。
【
図2】別の実施形態に係る電池構造体を示す略断面図である。
【
図3】実施例で作製した断熱性シートの倍率200倍での光学顕微鏡写真である。
【
図4】実施例で作製した断熱性シートの倍率2000倍での走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の詳細を説明する。本明細書において数値範囲は、別段の定めがない限りは、その下限値および上限値を含む範囲とする。
【0025】
[1.断熱材組成物]
本発明の第一の実施形態に係る断熱材組成物は、湿式法によって製造された非晶質シリカ粒子(以下、湿式シリカ粒子)とセルロースミクロフィブリルとからなる複合体を含む。
【0026】
本実施形態においては、具体的には、親水性である湿式シリカ粒子をセルロースミクロフィブリルで包接して複合体にすることで、形成される微細気孔構造を乾燥前後も維持し、低熱伝導率を発揮していると推察される。さらに、湿式シリカ粒子はヒュームドシリカに代表される嵩高い多孔質微粒子と比較して嵩比重が大きく、ハンドリング性に優れ、水中で複合体を形成するために、工程上の粉体の飛散・噴出が抑えられることが見出された。
【0027】
本明細書で言う「湿式シリカ」または「湿式シリカ粒子」とは、液相中で非晶質シリカ物質を合成する製造方法(すなわち湿式法)で製造される非晶質シリカの粒子を指す。湿式法としては例えば、沈降法もしくはゲル法等、または周知の液相を用いるいずれかの方法が含まれてよい。沈降法とは例えば、珪酸ソーダの水溶液を中和してシリカを析出し、濾過、乾燥する方法をいう。このような湿式法で製造された非晶質シリカは微細な気孔を含んだ粒子(好ましくは微粒子)であって、断熱材組成物中に微細な多孔質構造を与えるものである。
【0028】
湿式シリカに含まれる水分は断熱材組成物の耐熱性を向上させ、粒子に働くファンデルワールス力を抑える役割がある。この含水率は、湿式シリカ全体の質量に対して5質量%以上15質量%以下であるのが好ましい。当該含水率が5質量%以上であると、粒子に働く静電気による付着性が増大しすぎないため、良好なハンドリング性を発揮できる。一方で、含水率が15質量%以下であると、熱伝導率が高くなりすぎず好ましい。
【0029】
上記湿式シリカ粒子は、熱重量分析装置(TGA)によって200℃まで昇温し、昇温前の質量Xと減少した質量分X1を用いて含水率Wを算出する。即ち、質量減少分X1を水分と見なす。
含水率W(質量%)=(X1/X)×100
【0030】
湿式シリカの平均粒子径は1μm~50μmの範囲である。当該平均粒子径は、レーザー回折式粒度測定器(コールター社製「モデルLS-230」型)によって50%積算粒子径D50として測定できる。平均粒子径が1μm未満では、湿式シリカ粒子がセルロースミクロフィブリルと十分に接触できず、包接後の複合体に断熱性を発揮するために必要な多孔質構造が形成できないため、断熱性が悪くなるため好ましくない。一方、平均粒子径が50μm超では形成される複合体が粗大になるため断熱材の強度が得られないおそれがある。
【0031】
湿式シリカのかさ密度(具体的にはISO787-11に従うタップ法によって測定されるかさ密度)は特に限定されるものではないが、流動性向上と噴出性抑制の観点から50g/L以上であることが好ましい。かさ密度が50g/L以上であると、ハンドリング性の制御が容易になる効果が得られる。
【0032】
本明細書で言う「セルロースミクロフィブリル」または「ミクロフィブリル化されたセルロース繊維」とは、結晶度の高いセルロース繊維を高圧ホミジナイザー又はグラインダー等で処理し、高度にフィブリル化して得られる微小繊維である。セルロースミクロフィブリルは、通常のセルロース繊維に比べて繊維径が非常に細くなっており、このため比表面積が高く、かつセルロース分子に由来する水素結合性官能基がより多く表出することで吸着力が極端に増大している。本発明者らは、このセルロースミクロフィブリルが湿式シリカ粒子と相互作用して良好な吸着性を示し、湿式シリカ粒子の微細な気孔を維持したまま粒子を強く包接でき、断熱材組成物として良好に機能する複合体を作成できることを見出した。
【0033】
セルロースミクロフィブリルは、例えば測定装置L&W Fiber Tester Plus(ABB AB製)を用いて評価できる。このような装置を用いて測定したときに、(1)100μm以上の繊維長を持つ繊維の平均繊維長が0.1~1.0mm、(2)100μm未満の微細物の割合が30%以上、より好ましくは30~70%、(3)UV/IR (紫外光と赤外光の散乱強度の比)が1.5以上であり、さらに、(4)1質量%濃度時の分散液をB型粘度計で測定した際の粘度が500cp以上であるものを、本明細書においては「セルロースミクロフィブリル」または「ミクロフィブリル化されたセルロース繊維」と定義する。
【0034】
セルロースミクロフィブリルの繊維径は、例えば10μm以下であり、好ましくは1nm~5μmであってよい。また、セルロースミクロフィブリルの繊維長は、断熱性や分散性が損なわれなければ特に限定するものではない。
【0035】
湿式シリカ粒子とミクロフィブリル化セルロース繊維との混合比は、使用する湿式シリカ粒子の粒子径やミクロフィブリル化セルロース繊維の繊維長等に左右されるため、断熱性が損なわれなければ特に限定するものではないが、湿式シリカ粒子100質量部に対してミクロフィブリル化セルロース繊維は固形分で5~50質量部程度が好ましい。
【0036】
本発明の実施形態に係る断熱材組成物の製造方法は、例えば水中に非晶質湿式シリカとセルロースミクロフィブリルとを分散させ、凝集剤を添加することによって複合体分散液を得る方法が挙げられる。この製造方法で得られる複合体分散液は、乾燥することで固体として使用でき、固体の中でも粉末として使用できる。
【0037】
上記の凝集剤としては当該技術分野で知られる任意の化合物を使用でき、例えばイオン性凝集剤(カチオン性凝集剤、アニオン性凝集剤、ノニオン性凝集剤、両性凝集剤等)を使用できる。凝集剤の一例としては、リン酸塩、ホウ酸塩、イオン性アクリルアミド、ポリエチレンオキサイド等が挙げられる。
【0038】
[2.断熱材]
本実施形態において断熱材は、既述の複合体を含む断熱材組成物を原料として配合してなる。例えば断熱材とは、既述の断熱材組成物を原料として充填し、その断熱材組成物の流動を利用して空間に充填することにより得られる層(断熱層)であってよい。あるいは断熱材を、抄造法によって得ることもできる。
【0039】
ある実施形態においては、断熱材が上記断熱材組成物に加えてさらに基材繊維を含むことが好ましい。そうした基材繊維は、耐熱性の観点から、PET繊維、セルロース繊維、アラミド繊維、ポリイミド繊維、ポリカーボネート繊維もしくは無機繊維からなる群から選択される1種以上である繊維であることが好ましい。耐炎性の観点から難燃化処理された基材繊維を使用しても良い。これらは断熱材の引張強度と柔軟性を与える役割を持つ。また、セルロース繊維としては例えば、木材パルプや非木材パルプ、再生セルロースなどが挙げられるが、任意の繊維を使用することができる。無機繊維は代表的なものとして、耐熱性に優れる人造繊維であるシリカ繊維、アルミナシリカ繊維、ガラス繊維、ジルコニア繊維、炭化ケイ素繊維、鉱物を原料として製造されるロックウール、天然鉱物のウォラストナイト、セピオライトなどが挙げられ、必要に応じてこれらを1種あるいは複数種使用することができる。
【0040】
上記基材繊維や上記ミクロフィブリル化セルロース繊維の平均繊維長および平均繊維径とは、走査型電子顕微鏡(SEM)観察によって確認される繊維100本の直径の平均値である。平均繊維長および平均繊維径は使用する材質によって異なることがあるが、断熱材の断熱性と成形性を損なうものでなければ特に限定されるものではない。上記基材繊維の平均繊維径は、1~50μmが好ましく、5~30μmがより好ましい。
【0041】
上記基材繊維の含有量は、湿式シリカ粒子とミクロフィブリル化セルロース繊維(固形分)からなる複合体100質量部に対して300質量部以下であることが好ましいが、断熱性と成形性を損なうものでなければこれに限定するものではない。湿式シリカ粒子とミクロフィブリル化セルロース繊維(固形分)からなる複合体の質量部は、湿式シリカ粒子の質量部とミクロフィブリル化セルロース繊維(固形分)の質量部との合計から計算できる。基材繊維の含有量が300質量部以下だと、基材繊維間の接触面積が小さくなり、断熱性を発揮する。上記基材繊維の含有量は、湿式シリカ粒子とミクロフィブリル化セルロース繊維からなる複合体100質量部に対して1質量部以上であることが好ましい。
【0042】
本発明における断熱材は、既述のように特に製造方法を限るものではないが、後述する二次電池セルへの適用の際には余剰空間削減と軽量化の観点から、抄造法によって薄いシート状に成形することが好ましい。そうした抄造法による断熱材の製造方法には、上述した断熱材組成物と基材繊維とを混合してスラリーを得る工程と、スラリーを抄紙用スクリーンにて抄造し原料シートを得る工程と、原料シートを乾燥してシート状の断熱材を得る工程とが含まれるのが好ましい。ここで言う「原料シート」とは、原料を抄造して得られる乾燥前の(水分を多量に含んだ)シート状の中間体のことを指す。その乾燥にあたっては、例えばヤンキードライヤーを使用できる。断熱材の熱伝導率は23℃で0.07W/(m・K)以下であると、薄い形状であっても有効な断熱性を示すため好ましい。
【0043】
また、断熱材表面の難燃化処理(防炎加工)も出来る。難燃化処理剤としては例えば、臭素系化合物、塩素系化合物、リン系化合物、ホウ素系化合物、シリコーン系化合物などが挙げられるが、難燃性に寄与するものであればこれらに限定されるものではない。
【0044】
[3.断熱性シート]
本実施形態における断熱性シートは、既述の断熱材をシート状に加工して得られる。断熱材はそのまま使用しても良いが、既述の難燃繊維(難燃化された繊維または無機繊維)を基材繊維として使うか、または表面を難燃化処理もしくは防炎加工し、耐炎性、耐熱性を向上させることで、難燃性を高めた断熱性シートとしてもよい。当該断熱性シートは特に、複数の二次電池セルを有する電池構造体において各セルの周辺、例えば、各セル同士の間やセル周囲に配置することで、電池構造体に優れた断熱性と耐熱性を付与出来る。
【0045】
図1および
図2に示す本実施形態の一例について説明する。
【0046】
図1の電池構造体1は、複数の二次電池セル2と各二次電池セル間に延焼防止断熱層4とを備えている。延焼防止断熱層4は、断熱性シート3を含んでいる。断熱性シート3としては、既述した実施形態に係る断熱性シートを使用でき、その優れた断熱性によって各二次電池セル2で発生する熱が隣接するセルに移動することを阻害し、複数セルの使用に起因する熱暴走を抑制し、熱暴走が発生した際にも耐熱性と断熱性から熱暴走の連鎖的発生を抑える機能を有する。
【0047】
図2の電池構造体1では、
図1同様の複数の二次電池セル2と各二次電池セル間に延焼防止断熱層4(断熱性シート3を含む)に加え、さらに水または冷媒が中を流れる配管を備えた冷却システム5を備えている。さらに、延焼防止断熱層4は二次電池セル2の周囲をとりまくようにもなっている。
図2の実施形態では、各二次電池セル2の周囲が断熱されているため断熱性シート3が熱暴走を抑制するだけでなく、冷却システム5による冷却をより効果的にするため、二次電池セル2の熱マネジメント性能が向上する。さらに、電池構造体1外で発生した熱から二次電池セル2を熱的に保護出来、結果として電池構造体1全体の耐熱性を向上させる。
図2の例では、二次電池セル2の周囲をとりまく延焼防止断熱層4とハウジング7との間に空間6が設けられ、断熱に資している。ハウジング7とは、例えば、複数の二次電池セル2と各二次電池セル間の延焼防止断熱層4(断熱性シート3を含む)を収めるための筐体をいう。別の例では、冷却システム5による冷却が十分に効果的であるならば、空間6は備えなくても良い。
【0048】
本発明の実施形態に係る断熱性シートの用途は、上記の二次電池に限定されず、例えば建築物の防炎材、断熱材等にも使用することができる。
【0049】
以下、実験例、比較例を挙げてさらに詳細に内容を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0050】
「実験例1」
湿式シリカ粉末16質量部を純水84質量部に加え、特殊機化工業社製ホモミキサーで2時間混合した後、セルロースミクロフィブリル(固形分)5.5質量部と凝集剤を加え、断熱材組成物分散液を得た。
【0051】
上記分散液にさらに基材繊維32質量部(湿式シリカ粒子とミクロフィブリル化セルロース繊維(固形分)の合計100質量部に対して148質量部)を添加し、上記ミキサーで1時間混合することで断熱材スラリーを調製した。上記断熱材スラリーを抄紙用スクリーンに抄造し、ヤンキードライヤーで乾燥することで厚み0.2mmの断熱性シートを作製した。
【0052】
上記方法での断熱性シートの製造にあたり、下記に示す異なる粒子径と含水率をもつ湿式シリカ粉末をそれぞれ使用して、各断熱性シートの熱伝導率と引張強度、可撓性をそれぞれ測定した。得られた結果を表1に示す。なお、使用材料は下記のとおりである。
【0053】
(使用材料)
湿式シリカ1(W1):平均粒子径49μm、含水率8.3質量%、非晶質
湿式シリカ2(W2):平均粒子径15μm、含水率8.0質量%、非晶質
湿式シリカ3(W3):平均粒子径1.8μm、含水率8.0質量%、非晶質
湿式シリカ4(W4):平均粒子径15μm、含水率14.7質量%、非晶質
湿式シリカ5(W5):平均粒子径15μm、含水率5.4質量%、非晶質
湿式シリカ6(W6):平均粒子径120μm、含水率5.8質量%、非晶質
【0054】
上記湿式シリカ粒子は、沈降法によって合成され、ふるい機によって分級することで平均粒子径を、乾燥時間を変えることで含水率をそれぞれ制御したものを使用した。平均粒子径はレーザー回折式粒度測定器(コールター社製「モデルLS-230」型)により規定される50%積算粒子径D50として測定された。含水率は、差熱重量分析装置TG-DTA 2000SR(商品名、BrukerAXS社)を使用して、105℃時点での質量減少率とした。
【0055】
セルロースミクロフィブリル:セリッシュ KY-100G(商品名、ダイセルファインケム社製)固形分10質量%
100μm以上の繊維長を持つ繊維の平均繊維長:0.24mm
100μm未満の微細物の割合:60.2%
UV/IR(紫外光と赤外光の散乱強度の比):2.32
1質量%濃度時の分散液をB型粘度計で測定した際の粘度: 850cp
平均繊維径:0.3μm
【0056】
基材繊維:PET繊維(平均繊維径20μm)
【0057】
(評価方法)
熱伝導率:作製した断熱性シート(厚み0.2(mm))を10mm×10mmの大きさに加工し、熱抵抗測定装置(日立テクノロジーアンドサービス社製)を用いて23℃における定常法によって熱抵抗値θ(K/W)を測定した。これらの測定値から下記の式
λ=0.2/(10×10×θ)×103
によって熱伝導率λ(W/(m・K))を算出した。
【0058】
引張強度:テンシロン万能試験機(エーアンドディー社製)を使用し、引張速度10mm/min、チャック間距離を200mmとして引張強度を測定した。
【0059】
可撓性:シートの中央を支点に、シートの内側が120度の角度をなすように、曲率半径10mmで折り曲げた際に、目視上で表面にひび割れが発生せず、元の形状に戻ったならば○(good)、条件を満たさなければ×(NG)として、可撓性を評価した。
【0060】
「比較例1(実験No.1-7)」
湿式シリカ粒子の代わりに、乾式法で製造された非晶質シリカ粒子(以下、乾式シリカ粒子)を使用して、上記実験例1と同様の手法で断熱性シートを作製した。
【0061】
(使用材料)
乾式シリカ粒子(D1):平均粒子径0.20μm、含水率0.9質量%
【0062】
「比較例2」
セルロースミクロフィブリルの代わりに、ミクロフィブリル化されていない下記の対照セルロース繊維を使用して、上記実験例1と同様の手法で断熱性シート作製を試みたが湿式シリカ粉末との複合化が出来ず、シートは得られなかった。
対照セルロース繊維
100μm以上の繊維長を持つ繊維の平均繊維長:0.74mm
100μm未満の微細物の割合:9.8%
UV/IR(紫外光と赤外光の散乱強度の比):0.86
1質量%濃度時の分散液をB型粘度計で測定した際の粘度:15cp
【0063】
【0064】
表1より、所定の平均粒子径をもつ湿式シリカを使用することで、断熱性シートが薄膜でありながら、0.07W/(m・K)以下の優れた断熱性を発揮することがわかる。作製されたシートは通常のパルプ紙と遜色ない柔軟性を有しており、シリカ粒子の粉落ち(dust fall)などもなかった。一方で、平均粒子径が過剰に小さい乾式シリカ粒子を使うと熱伝導率の低減効果が弱くなり、一方で湿式シリカ粒子であっても平均粒子径が過剰に大きいものでは十分なシート強度が得られないことがわかる。
【0065】
「実験例2」
実験例1の基材繊維をシリカ繊維に変えた以外は同様にして断熱性シートを作製し、同様に熱伝導率、引張強度、可撓性を評価した。
【0066】
基材繊維:シリカ繊維(平均繊維径20μm)
【0067】
【0068】
表2より、所定の平均粒子径をもつ湿式シリカを使用することで、断熱性シートが薄膜でありながら、0.07W/(m・K)以下の優れた断熱性を発揮することがわかる。作製されたシートは通常のパルプ紙と遜色ない柔軟性を有しており、シリカ粒子の粉落ち(dust fall)などもなかった。一方で、平均粒子径が過剰に小さい乾式シリカ粒子を使うと熱伝導率の低減効果が弱くなり、一方で湿式シリカ粒子であっても平均粒子径が過剰に大きいものでは十分なシート強度が得られないことがわかる。
【0069】
「実験例3」
実験例1と同じ製造方法で基材繊維を変えて断熱性シートを作製し、同様に熱伝導率、引張強度、可撓性を評価した。
【0070】
(使用材料)
湿式シリカ:平均粒子径15μm、含水率8.0質量%
【0071】
セルロースミクロフィブリル:セリッシュ KY-100G(商品名、ダイセルファインケム社製)固形分10質量%
【0072】
基材繊維1(F1):PET繊維
基材繊維2(F2):セルロース繊維
基材繊維3(F3):ポリイミド繊維
基材繊維4(F4):ポリカーボネート繊維
基材繊維5(F5):アラミド繊維
基材繊維6(F6):シリカ繊維
上記基材繊維はすべて平均繊維径10μmのものを使用した。
【0073】
【0074】
表3より、実施例に係る断熱性シートは基材繊維の種類に依らず優れた断熱性と柔軟性、シート強度を発揮していることがわかる。
【0075】
また、実験No.3-6の断熱性シートについて光学顕微鏡観察によって
図3の写真を、電子顕微鏡観察によって
図4の写真をそれぞれ得た。
図3より、縦横に走る半透明の線のように見えている基材繊維が、白い綿状の多孔質物質に覆われていることがわかる。また
図4より、その多孔質物質が、基材繊維(
図4では右上から左下に走る太い柱のように見えている)と比較して明らかに細い繊維物質、すなわちセルロースミクロフィブリルに湿式シリカ粒子が包接された複合体であることがわかる。
【0076】
「実験例4」
実験例1と同じ製造方法で非晶質シリカ粒子に対するセルロースミクロフィブリルの量を変えて断熱性シートを作製し、同様に熱伝導率、引張強度、可撓性を評価した。
【0077】
(使用材料)
湿式シリカ:平均粒子径15μm、含水率8.0質量%
【0078】
セルロースミクロフィブリル:セリッシュ KY-100G(商品名、ダイセルファインケム社製)固形分10質量%
【0079】
基材繊維:PET繊維(平均繊維径10μm)
【0080】
【0081】
表4より、本発明の範囲内のミクロフィブリル化セルロース繊維量において優れた断熱性と柔軟性、シート強度を発揮していることがわかる。
【0082】
「実験例5」
実験例4の基材繊維をシリカ繊維に変えて断熱性シートを作製し、同様に熱伝導率、引張強度、可撓性を評価した。
【0083】
(使用材料)
湿式シリカ:平均粒子径15μm、含水率8.0質量%
【0084】
セルロースミクロフィブリル:セリッシュ KY-100G(商品名、ダイセルファインケム社製)固形分10質量%
【0085】
基材繊維:シリカ繊維(平均繊維径10μm)
【0086】
【0087】
表5より、シリカ繊維においても本発明の範囲内のミクロフィブリル化セルロース繊維量において優れた断熱性と柔軟性、シート強度を発揮していることがわかる。
【0088】
「実験例6」
実験例1と同じ製造方法で非晶質シリカ粒子に対する基材繊維量を変えて断熱性シートを作製し、同様に熱伝導率、引張強度、可撓性を評価した。
【0089】
(使用材料)
湿式シリカ:平均粒子径15μm、含水率8.0質量%
【0090】
セルロースミクロフィブリル:セリッシュ KY-100G(商品名、ダイセルファインケム社製)固形分10質量%
【0091】
基材繊維:シリカ繊維(平均繊維径10μm)
【0092】
【0093】
表6より、本発明の範囲内の基材繊維量において優れた断熱性と柔軟性、シート強度を発揮していることがわかる。
【0094】
「実験例7」
実験例6の基材繊維をPET繊維に変えて断熱性シートを作製し、同様に熱伝導率、引張強度、可撓性を評価した。
【0095】
(使用材料)
湿式シリカ:平均粒子径15μm、含水率8.0質量%
【0096】
セルロースミクロフィブリル:セリッシュ KY-100G(商品名、ダイセルファインケム社製)固形分10質量%
【0097】
基材繊維:PET繊維(平均繊維径10μm)
【0098】
【0099】
表7より、本発明の範囲内の基材繊維量において優れた断熱性と柔軟性、シート強度を発揮していることがわかる。
【0100】
「実験例8」
実験例2で得られた断熱性シートを用いて、延焼防止性(熱暴走時の連鎖反応を防止できる性能)を評価した。
【0101】
(評価方法)
延焼防止性:得られた断熱性シートから作製した試験片1枚(長さ100mm、幅100mm、厚さ1.0mm)と電池セルの外装材を模擬したアルミ板1枚(長さ100mm、幅100mm、厚さ1.0mm)を用意し、試験片をアルミ板上に4つの角でビス留めし、試験体とした。試験体を試験片側から900~1000℃のバーナー炎で10分間加熱し、加熱によって試験体の非加熱面温度が200℃未満且つ、非加熱面への貫通がなく炎出がない場合を○(good)、いずれかの条件を満たさなければ×(NG)として熱暴走時の連鎖反応を抑える延焼防止性を評価した。
【0102】
【0103】
表8より、所定の平均粒子径をもつ湿式シリカを使用することで、断熱性シートが延焼防止に必要な耐火炎性を有していることがわかる。一方で、平均粒子径が過剰に小さい乾式シリカ粒子を使うと熱伝導率の低減効果が弱くなり、一方で湿式シリカ粒子であっても平均粒子径が過剰に大きいものでは十分な形状保持能力を有するシートが得られないため、延焼防止性が不足することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明によって、ハンドリング性に優れる非晶質湿式シリカ粒子を使用して優れた断熱性を有する断熱材組成物を提供出来る。さらには抄造法によって簡便に薄い断熱性シートも提供出来る。その断熱性シートは、従来以上の耐熱性と断熱性、柔軟性を有するため、様々な形状に対しても適応可能であることから、電池構造体に限らず、建築物や配管等にも優れた断熱性、耐熱性を付与できる。本発明によれば、複数の二次電池セルを有する電池構造体に優れた断熱性、耐熱性を付与出来る。
【符号の説明】
【0105】
1 電池構造体
2 二次電池セル
3 断熱性シート
4 延焼防止断熱層
5 冷却システム
6 空間
7 ハウジング