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特許7545388低速早期着火事象を低減する添加剤としてのヒドリド供与体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】低速早期着火事象を低減する添加剤としてのヒドリド供与体
(51)【国際特許分類】
   C10L 1/232 20060101AFI20240828BHJP
   C10L 1/222 20060101ALI20240828BHJP
   C10L 1/223 20060101ALI20240828BHJP
【FI】
C10L1/232
C10L1/222
C10L1/223
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021518609
(86)(22)【出願日】2019-10-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(86)【国際出願番号】 IB2019058397
(87)【国際公開番号】W WO2020070672
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2022-09-21
(31)【優先権主張番号】62/741,229
(32)【優先日】2018-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】598037547
【氏名又は名称】シェブロン・オロナイト・カンパニー・エルエルシー
(73)【特許権者】
【識別番号】503148834
【氏名又は名称】シェブロン ユー.エス.エー. インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チャーペック、リチャード ユージーン
(72)【発明者】
【氏名】エリオット、イアン ジー.
(72)【発明者】
【氏名】ガナワン、テレサ リャン
(72)【発明者】
【氏名】マリア、アミール ガマル
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第02754216(US,A)
【文献】特開平05-230475(JP,A)
【文献】特開2000-080092(JP,A)
【文献】国際公開第2018/172911(WO,A1)
【文献】特表昭61-500318(JP,A)
【文献】特表2017-514983(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0204505(US,A1)
【文献】米国特許第06156081(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 1/00-1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)50wt.%超の、ガソリンの沸点範囲で沸騰する炭化水素燃料、および(2)1種以上の少量の有機ヒドリド系還元剤、を含む、燃料組成物であって、前記1種以上の有機ヒドリド系還元剤が、下記(a)から(f)から選択される上記燃料組成物
(a)下記式1Aから式1Kで示す還元剤;
【化1】

【化2】


(b)下記式2Aから式2Fで示す還元剤;
【化3】

(c)一般化構造式3で示す還元剤、ここで、R、R、R、およびRは、以下の群、すなわちH、アルキル部分、アリル部分、及びアルカノール部分から各々独立して選択される成分であり、Rは、以下の群、すなわちH、及びアルキル部分から選択される;
【化4】

(d)一般化構造式4で示す還元剤、ここで、Xは、NまたはOであり、
XがNである場合、Rは、以下の群、すなわちH、アルキル部分、アリル部分、アリール部分、及びベンジル部分から選択され、Rは、以下の群、すなわち、H、アルキル部分、アリル部分、アリール部分、ベンジル部分、及びアルカノール部分から選択され、RおよびRは、以下の群、すなわち、H、アルキル部分、アリール部分、ベンジル部分、アミン部分、アルコキシ部分、及びヘテロ原子から各々独立して選択され、RおよびRは、独立して、それぞれの環内で2つ以上の置換位置を占有してもよく、RおよびRまたはRおよびRは、環式構造を形成してもよく、
XがOである場合、該還元剤は下式4Hで示す構造を有す;
【化5】

【化6】


(e)下記式6Aから式6Fで示す還元剤;
【化7】


(f)一般化構造(式7)によって示す還元剤、ここで、XはN、O、またはSであり、 XがNである場合、RおよびRは、以下の群、すなわちH、及びアルキル部分から各々独立して選択され、Rは、以下の群、すなわちH、アルキル部分、アルケン部分、アルキン部分、アリール部分、及びベンジル部分から選択され、Rは、以下の群、すなわちH、アルキル部分、アリール部分、ベンジル部分、及びアリル部分から選択され、Rは、独立して2つ以上の置換位置を占有してもよく、
【化8】


XがOのとき、該還元剤は下式7Iで示す構造を有し、
【化9】

XがSのとき、該還元剤は下式7Jで示す構造を有す;
【化10】


【請求項2】
前記有機ヒドリド系還元剤が、ハロゲン、ホウ素またはケイ素を実質的に含まない、請求項1に記載の燃料組成物。
【請求項3】
前記有機ヒドリド系還元剤が、25~5000重量ppmで存在する、請求項1に記載の燃料組成物。
【請求項4】
前記有機ヒドリド系還元剤が、250~2000重量ppmで存在する、請求項1に記載の燃料組成物。
【請求項5】
酸素化物、アンチノック剤、清浄剤、分散剤、摩擦調整剤、酸化防止剤、金属不活性化剤、または解乳化剤を含む、請求項1に記載の燃料組成物。
【請求項6】
内燃機関の望ましくない着火事象を防止または低減する方法であって、
(1)50wt.%超の、ガソリンの沸点範囲で沸騰する炭化水素燃料、および(2)1種以上の少量の有機ヒドリド系還元剤、を含む燃料組成物をエンジンに供給することを含む、方法であって、前記1種以上の有機ヒドリド系還元剤が、下記(a)から(f)から選択される上記方法
(a)下記式1Aから式1Kで示す還元剤;
【化13】

【化14】


(b)下記式2Aから式2Fで示す還元剤;
【化15】

(c)一般化構造式3で示す還元剤、ここで、R、R、R、およびRは、以下の群、すなわちH、アルキル部分、アリル部分、及びアルカノール部分から各々独立して選択され、Rは、以下の群、すなわちH、及びアルキル部分から選択される;
【化16】

(d)一般化構造式4で示す還元剤、ここで、Xは、NまたはOであり、
XがNである場合、Rは、以下の群、すなわちH、アルキル部分、アリル部分、アリール部分、及びベンジル部分から選択され、Rは、以下の群、すなわち、H、アルキル部分、アリル部分、アリール部分、ベンジル部分、及びアルカノール部分から選択され、RおよびRは、以下の群、すなわち、H、アルキル部分、アリール部分、ベンジル部分、アミン部分、アルコキシ部分、及びヘテロ原子から各々独立して選択され、RおよびRは、独立して、それぞれの環内で2つ以上の置換位置を占有してもよく、RおよびRまたはRおよびRは、環式構造を形成してもよく、
XがOである場合、該還元剤は下式4Hで示す構造を有す;
【化17】

【化18】


(e)下記式6Aから式6Fで示す還元剤;
【化19】


(f)一般化構造(式7)によって示す還元剤、ここで、XはN、O、またはSであり、 XがNである場合、RおよびRは、以下の群、すなわちH、及びアルキル部分から各々独立して選択され、Rは、以下の群、すなわちH、アルキル部分、アルケン部分、アルキン部分、アリール部分、及びベンジル部分から選択され、Rは、以下の群、すなわちH、アルキル部分、アリール部分、ベンジル部分、及びアリル部分から選択され、Rは、独立して2つ以上の置換位置を占有してもよく、
【化20】


XがOのとき、該還元剤は下式7Iで示す構造を有し、
【化21】

XがSのとき、該還元剤は下式7Jで示す構造を有す;
【化22】


【請求項7】
前記内燃機関が火花点火式である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記内燃機関が3000rpm未満で動作する、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記内燃機関が、少なくとも1MPa(10バール)の正味平均有効圧力を含む負荷の下で動作する、請求項6に記載の方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料および潤滑剤組成物、ならびに燃焼機関における低速早期着火活動を低減する組成物の使用方法に関する。組成物は、燃料または潤滑剤添加剤として有機ヒドリド供与体を含む。
【背景技術】
【0002】
燃焼機関における早期着火は、混合気の望ましい着火(例えば、スパークプラグによる)の前に混合気の望ましくない着火が起こる、望ましくない事象である。高負荷エンジン動作中に早期着火が問題となり得るのは、エンジンの動作からの熱が、接触時に混合気に着火するのに十分な温度まで燃焼室の一部を加熱する可能性があるからである。
近年、エンジン製造業者は、摩擦損失およびポンプ損失を低減しながらより高い出力密度および優れた性能を提供する、より小型のエンジンを開発してきた。この性能向上は、ターボチャージャーまたは機械式スーパーチャージャーを使用してブースト圧力を増加させること、およびより低いエンジン速度でのトルク発生の増加で可能となる、より高い変速比を使用してエンジンを減速することによって達成される。欠点は、これらのエンジンは低速かつ高負荷駆動条件で動作することが多く、確率論的な早期着火または低速早期着火(LSPI)として知られる早期着火現象の影響をより受けやすくなることである。最悪のケースのシナリオでは、気筒のピーク圧力が極端に上昇し、壊滅的なエンジン故障につながる。この故障発生度によって、エンジン製造業者は、このようなより小型の高出力エンジンにおいて、より低いエンジン速度でエンジントルクを完全に最適化することができない。
【発明の概要】
【0003】
一態様では、(1)50wt.%超の、ガソリンまたはディーゼルの沸点範囲で沸騰する炭化水素燃料、および(2)1種以上の少量の有機ヒドリド系還元剤(organic hydride-based reductant)、を含む燃料組成物が提供される。
【0004】
別の態様では、内燃機関の低速早期着火事象を防止または低減する方法であって、(1)50wt.%超の、ガソリンまたはディーゼルの沸点範囲で沸騰する炭化水素燃料、および(2)1種以上の少量の有機ヒドリド系還元剤、を含む燃料組成物をエンジンに供給することを含む方法が提供される。
【0005】
さらなる態様では、(1)50wt.%超のベースオイル、および(2)1種以上の少量の有機ヒドリド系還元剤、を含む潤滑油組成物が提供される。
【0006】
さらなる別の態様では、火花点火式内燃機関の低速早期着火事象を防止または低減する方法であって、(1)50wt.%超のベースオイル、および(2)1種以上の少量の有機ヒドリド系還元剤、を含む潤滑油組成物をエンジンに供給することを含む方法が提供される。
なお、下記[1]から[20]は、いずれも本発明の一形態又は一態様である。
[1]
(1)50wt.%超の、ガソリンまたはディーゼルの沸点範囲で沸騰する炭化水素燃料、および(2)1種以上の少量の有機ヒドリド系還元剤、を含む、燃料組成物。
[2]
前記有機ヒドリド系還元剤が、ハロゲン、ホウ素またはケイ素を実質的に含まない、[1]に記載の燃料組成物。
[3]
前記有機ヒドリド系還元剤が、ジヒドロピリジン、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、メチレンテトラヒドロメタノプテリン、アクリジン、トリアリールメタン、ヘキサヒドロトリアザフェナレン、トリアミン、アリールベンゾイミダゾリン、ジオキソラン、ジエーテルシクロヘキサジエン、シクロヘプタトリエン、フラビンアデニンジヌクレオチド、またはそれらの類似体である、[1]に記載の燃料組成物。
[4]
前記有機ヒドリド系還元剤が、25~5000重量ppmで存在する、[1]に記載の燃料組成物。
[5]
前記有機ヒドリド系還元剤が、250~2000重量ppmで存在する、[1]に記載の燃料組成物。
[6]
酸素化物、アンチノック剤、清浄剤、分散剤、摩擦調整剤、酸化防止剤、金属不活性化剤、解乳化剤、流動点降下剤、流動性向上剤、セタン価向上剤、または潤滑性添加剤を含む、[1]に記載の燃料組成物。
[7]
内燃機関の望ましくない着火事象を防止または低減する方法であって、
(1)50wt.%超の、ガソリンまたはディーゼルの沸点範囲で沸騰する炭化水素燃料、および(2)1種以上の少量の有機ヒドリド系還元剤、を含む燃料組成物をエンジンに供給することを含む、方法。
[8]
前記内燃機関が火花点火式である、[7]に記載の方法。
[9]
前記内燃機関が3000rpm未満で動作する、[7]に記載の方法。
[10]
前記火花点火式内燃機関が、少なくとも1MPa(10バール)の正味平均有効圧力を含む負荷の下で動作する、[7]に記載の方法。
[11]
(1)50wt.%超のベースオイル、および(2)1種以上の少量の有機ヒドリド系還元剤を含む潤滑油組成物。
[12]
前記有機ヒドリド系還元剤が、ハロゲン、ホウ素、またはケイ素を実質的に含まない、[11]に記載の潤滑油組成物。
[13]
前記有機ヒドリド系還元剤が、ジヒドロピリジン、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、メチレンテトラヒドロメタノプテリン、アクリジン、トリアリールメタン、ヘキサヒドロトリアザフェナレン、トリアミン、アリールベンゾイミダゾリン、ジオキソラン、ジエーテルシクロヘキサジエン、シクロヘプタトリエン、フラビンアデニンジヌクレオチド、またはそれらの類似体である、[11]に記載の潤滑油組成物。
[14]
前記有機ヒドリド系還元剤が、0.001~10重量%で存在する、[11]に記載の潤滑油組成物。
[15]
前記有機ヒドリド系還元剤が、0.5~5重量%で存在する、[11]に記載の潤滑油組成物。
[16]
酸化防止剤、無灰分散剤、耐摩耗剤、清浄剤、防錆剤、かすみ除去剤(dehazing agent)、解乳化剤、摩擦調整剤、金属不活性化剤、流動点降下剤、粘度調整剤、消泡剤、共溶媒、パッケージ相溶化剤、腐食防止剤、染料、または極圧剤をさらに含む、[11]に記載の潤滑油組成物。
[17]
内燃機関の望ましくない着火事象を防止または低減する方法であって、
(1)50wt.%超のベースオイル、および(2)1種以上の少量の有機ヒドリド系還元剤を含む潤滑油組成物をエンジンに供給することを含む、方法。
[18]
前記内燃機関が火花点火式である、[17]に記載の方法。
[19]
前記内燃機関が3000rpm未満で作動する、[17]に記載の方法。
[20]
前記内燃機関が、少なくとも1MPa(10バール)の正味平均有効圧力を含む負荷の下で動作する、[17]に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0007】
定義
本明細書において使用される場合、以下の単語および表現は、以下に記載される意味を有する。
【0008】
「ブースティング」という用語は、自然吸気エンジンよりも高い吸気圧でエンジンを動作することを指す。ブースト条件は、(排気によって駆動される)ターボチャージャーの使用によって、または(エンジンによって駆動される)スーパーチャージャーによって達成することができる。ブースティングにより、エンジン製造業者は、摩擦損失およびポンピング損失を低減しながら優れた性能を提供するための、より高い出力密度をもたらすより小型のエンジンを使用することが可能になる。
【0009】
「油溶性」という用語は、所与の添加剤について、所望のレベルの活性または性能を提供するのに必要な量を、潤滑粘性の油に溶解、分散または懸濁させることによって組み込むことができることを意味する。通常、これは、添加剤の少なくとも0.001重量%を潤滑油組成物に組み込むことができることを意味する。「燃料可溶性」という用語は、燃料に溶解、分散または懸濁される添加剤の類似の表現である。
【0010】
「ガソリン」または「ガソリン沸点範囲成分」は、主にC-C12炭化水素を少なくとも含有する組成物を指す。一実施形態では、ガソリンまたはガソリンの沸点範囲成分は、少なくとも主にC-C12炭化水素を含有し、さらに約37.8℃(100°F)~約204℃(400°F)の沸点範囲を有する組成物を指すとさらに定義される。代替実施形態では、ガソリンまたはガソリンの沸点範囲成分は、少なくとも主にC-C12炭化水素を含有し、約37.8℃(100°F)~約204℃(400°F)の沸点範囲を有する組成物を指すと定義され、さらにASTM D4814を満たすと定義される。
【0011】
「ディーゼル」という用語は、少なくとも主にC10-C25炭化水素を含有する中間留分燃料を指す。一実施形態では、ディーゼルは、少なくとも主にC10-C25炭化水素を含有し、さらに約165.6℃(330°F)~約371.1℃(700°F)の沸点範囲を有する組成物を指すとさらに定義される。代替的な実施形態では、上記で定義した通り、ディーゼルは、少なくとも主にC10-C25炭化水素を含有し、約165.6℃(330°F)~約371.1℃(700°F)の沸点範囲を有する組成物を指し、さらにASTM D975を満たすと定義される。
【0012】
「アルキル」という用語は、直鎖、分枝鎖、環式、または環式、直鎖および/もしくは分枝鎖の組み合わせであり得る飽和炭化水素基を指す。
【0013】
「少量」は、組成物の50wt.%未満を意味し、記載された添加剤に関して、および組成物の総重量に対して表示され、添加剤の有効成分とみなされる。
【0014】
「還元剤」とは、酸化還元反応において他の化学種に電子を供与する還元剤である。「ヒドリド系還元剤」は、酸化還元反応中にヒドリド(水素のアニオン)を別の化学種に供与する。
【0015】
炭化水素系配合物(特に潤滑剤)の文脈において、「灰」という用語は、炭化水素が焼成された後に残っている金属化合物を指す。この灰は、主に、特定の添加剤に使用される化学物質および固形物に由来する。「無灰」という用語は、灰を生成しない、または灰の生成を制限する配合物または添加剤を指す。無灰添加剤は、一般に、金属(ホウ素を含む)、ケイ素、ハロゲンを含まないか、または典型的な機器の検出限界未満の濃度でこれらの元素を含有する。
【0016】
「ハロゲン」は、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などを含む個々の置換基の総称である。
【0017】
「類似体」は、他の化合物と同様の構造を有するが、特定の成分、例えば他の原子、基、または下部構造で置き換えられる1つ以上の原子、官能基、下部構造などに関して異なる化合物である。
【0018】
「ホモログ」は、繰り返し単位が互いに異なる一連の化合物に属する化合物である。アルカンは、ホモログの例である。例えば、エタンとプロパンとは、繰り返し単位(-CH-)の長さのみが異なるため、ホモログである。ホモログは、特定の種類の類似体とみなすことができる。
【0019】
「誘導体」は、化学反応(例えば、酸-塩基反応、水素化など)によって類似の化合物から誘導される化合物である。置換基との関連において、誘導体は、1つ以上の部分(moiety)の組み合わせであり得る。例えば、フェノール部分は、アリール部分およびヒドロキシル部分の誘導体とみなすことができる。当業者であれば、誘導体とみなされ得るものの境界を知っているであろう。
【0020】
「エンジン」または「燃焼機関」は、燃焼室で燃料の燃焼が起こる熱機関である。「内燃機関」は、燃料の燃焼が限られた空間(「燃焼室」)で起こる熱機関である。「火花点火式機関」は、通常スパークプラグからの火花によって燃焼が点火される熱機関である。これは、圧縮から生じた熱および燃料の噴射によって外部の火花なしで十分に燃焼を開始する「圧縮着火機関」(典型的にはディーゼルエンジン)とは対照的である。
【0021】
序論
低速早期着火(LSPI)の、可能性がある1つの原因は、エンジンが低速で動作しており、かつ圧縮行程時間が最長である期間中に、高圧下でピストン隙間からエンジン燃焼室に入るエンジンオイル滴の自動着火である。ターボチャージャー使用、エンジン設計、エンジンコーティング、ピストン形状、燃料選択、またはエンジンオイル添加剤などの要因が、LSPI事象の増加に寄与し得る。エンジンノッキングおよび早期着火の問題のいくつかは、新しいエンジン技術の使用またはエンジン動作条件の最適化によって解決することができるが、新たな燃料および/または潤滑油組成物によってLSPIを低減することは、最も費用効果の高いアプローチであり得る。
【0022】
本開示は、炭化水素系組成物(例えば、燃料、潤滑油)およびその使用方法を記載し、炭化水素系組成物は、燃焼機関の動作中のLSPI事象を防止するか、またはLSPI活動を低減する。好適な炭化水素系組成物は、本開示による有機ヒドリド系還元剤添加剤を特徴とする。
【0023】
有機ヒドリド系還元剤
燃焼機関においてLSPI事象を防止するか、またはLSPI活動を低減する有機ヒドリド系還元剤を本明細書で提供する。これらの有機ヒドリド系還元剤は、ヒドリド移動工程中にヒドリドを供与しやすい有機分子である。これらの還元剤は無灰添加剤であり、通常、炭素、水素、窒素および/または酸素原子を含有する。用途に応じて、有機ヒドリド系還元剤は、油溶性または燃料可溶性である。
【0024】
ヒドリド移動は、重要な生化学的および工業的酸化還元反応を含む、多くの周知の有機反応における重要な工程である。これらのタイプの反応において、還元剤は、カルボニル化合物、二酸化炭素、イミン、活性化C=C結合を含有する化合物などの基質に移動するヒドリド(H)を提供する。ヒドリド移動の正確な機構は複雑であることが多く、温度、基質、ヒドリド供与体、プロトンの利用可能性、ルイス酸の存在などによって変化し得る。いくつかの場合、ヒドリド移動は、ヒドリド供与体から基質へのヒドリドイオンの直接移動によって進行し得るか、または連続工程で起こり得る(例えば、電子、続いて水素原子、またはプロトンおよび第2の電子の基質への移動)。
【0025】
理論に限定されるものではないが、本発明による好適なヒドリド供与体は、LSPI事象を開始し得る酸化的に不安定な化学種に対して作用することによって、燃焼機関におけるLSPI活動を低減することができると考えられる。これは、酸化的に不安定な化学種の、より安定した反応性の低い還元種への還元を含み得、このようにLSPI事象を抑制する。
【0026】
本発明の1つ以上の実施形態によれば、有機ヒドリド系還元剤は、以下の有機ヒドリド供与体、すなわち、ジヒドロピリジン(DHPD)、還元ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)、メチレンテトラヒドロメタノプテリン、アクリジン、トリアリールメタン、トリアミン、アリールベンゾイミダゾリン、ジオキソラン、ジエーテルシクロヘキサジエン、シクロヘプタトリエン、フラビンアデニンジヌクレオチド(FADH)、ヘキサヒドロトリアザフェナレン、それらの類似体、それらのホモログ、およびそれらの誘導体のうちの少なくとも1つを含む。
【0027】
以下に、有機ヒドリド系還元剤の化学構造を説明のために提供する。各還元剤または還元剤型は、様々な置換位置に一般的なR基(例えば、R、R、Rなど)を含む一般化構造によって表される。各R基は、好適な置換基の群から選択される成分であり得る。R基置換基の組み合わせを変化させることにより、関連する構造のセットを得ることができ、得られる各構造は、セット内の他の構造の類似体である。特定の置換基に望まれることは、これらに限定されないが、有機ヒドリド系供与体のヒドリドを供与する標的能力、安定性、油または燃料への溶解度などを含む多くの要因に依存し得る。
【0028】
ジヒドロピリジン(DHPD)
DHPDまたはDHPD型還元剤は、一般化構造(式1)によって例示される。式1に言及すると、RおよびRは、以下の群、すなわち、H、エステル部分、アミド部分、シアニド部分、それらの任意の誘導体などから各々独立して選択される成分である。RおよびRは、以下の群、すなわち、H、アルキル部分、それらの任意の誘導体などから各々独立して選択される成分である。Rは、以下の群、すなわち、H、アルキル部分、アリル部分、アリール部分、ベンジル部分、アルカノール部分、およびそれらの任意の誘導体などから選択される成分である。
【化1】
【0029】
DHPDの好適な類似体には、以下が含まれる。
【化2-1】

【化2-2】
【0030】
還元ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)
NADHまたはNADH型還元剤は、一般化構造(式2)によって例示される。式2に言及すると、RおよびRは、以下の群、すなわち、H、エステル部分、アミド部分、シアニド部分、それらの任意の誘導体などから各々独立して選択される成分である。RおよびRは、以下の群、すなわち、H、アルキル部分、それらの任意の誘導体などから各々独立して選択される成分である。Rは、以下の群、すなわち、H、アルキル部分、アリル部分、アリール部分、ベンジル部分、アルカノール部分、およびそれらの任意の誘導体などから選択される成分である。Rは、以下の群、すなわちH、アルキル部分、それらの任意の誘導体などから選択される。いくつかの実施形態では、RおよびRまたはRおよびRは、環式または複素環式構造(例えば、式2Cおよび式2E)を形成し得る。
【化3】
【0031】
NADHの好適な類似体には、以下が含まれる。
【化4】
【0032】
メチレンテトラヒドロメタノプテリン
メチレンテトラヒドロメタノプテリンまたはメチレンテトラヒドロメタノプテリン型還元体を一般化構造(式3)で示す。式3に言及すると、R、R、R、およびRは、以下の群、すなわちH、アルキル部分、アリル部分、アルカノール部分、それらの任意の誘導体などから各々独立して選択される成分である。Rは、以下の群、すなわちH、アルキル部分、それらの任意の誘導体などから選択される。
【化5】
【0033】
メチレンテトラヒドロメタノプテリンの好適な類似体には、以下が含まれる。
【化6】
【0034】
アクリジン
アクリジンまたはアクリジン型還元剤を一般化構造(式4)で示す。式4に言及すると、Xは、NまたはOである(式4H)。XがNである場合、Rは、以下の群、すなわちH、アルキル部分、アリル部分、アリール部分、ベンジル部分、それらの任意の誘導体などから選択される。Rは、以下の群、すなわち、H、アルキル部分、アリル部分、アリール部分、ベンジル部分、アルカノール部分、およびそれらの任意の誘導体などから選択される。RおよびRは、以下の群、すなわち、H、アルキル部分、アリール部分、ベンジル部分、アミン部分、アルコキシ部分、ヘテロ原子、それらの任意の誘導体などから各々独立して選択される成分である。さらに、RおよびRは、独立して、それぞれの環内で2つ以上の置換位置を占有してもよい。いくつかの実施形態では、RおよびRまたはRおよびRは、環式構造(例えば、式4Eおよび式4F)を形成し得る。
【化7】
【0035】
アクリジンの好適な類似体には、以下が含まれる。
【化8-1】

【化8-2】
【0036】
トリアリールメタン
トリアリールメタンまたはトリアリールメタン型還元剤を一般化構造(式5)で示す。式5に言及すると、R、RおよびRは、以下の群、すなわちH、アルキル部分、アリール部分、ベンジル部分、アリル部分、アミド部分、エステル部分、エーテル部分、ヒドロキシル部分、アミン部分、それらの任意の誘導体などから独立して選択される。いくつかの実施形態では、R、RおよびRは、独立して、それらのそれぞれの環内で2つ以上の置換位置を占有してもよい(例えば、式5Aおよび式5B)。
【化9】
【0037】
トリアリールメタンの好適な類似体には、以下が含まれる。
【化10】
【0038】
トリアミン
トリアミンまたはトリアミン型還元剤は、一般化構造(式6)によって示され、式中、R、R、R、R、RおよびRは連結されて3つの環状環(例えば、式6A~式6C)を形成する。
【化11】
【0039】
トリアミンの好適な類似体には、以下が含まれる。
【化12】
【0040】
アリールベンゾイミダリン
アリールベンゾイミダリンまたはアリールベンゾイミダリン型還元剤を、一般化構造(式7)によって示す。式7を参照すると、XはN、O、またはSである。XがNである場合、RおよびRは、以下の群、すなわちH、アルキル部分、それらの任意の誘導体などから各々独立して選択される成分である。Rは、以下の群、すなわちH、アルキル部分、アルケン部分、アルキン部分、アリール部分、ベンジル部分、それらの任意の誘導体などから選択される。Rは、以下の群、すなわちH、アルキル部分、アリール部分、ベンジル部分、アリル部分、それらの任意の誘導体などから選択される。いくつかの実施形態では、Rは、独立して2つ以上の置換位置を占有してもよい。
【化13】
【0041】
アリールベンゾイミダリンの好適な類似体には、以下が含まれる
【化14】
【0042】
ジオキソラン
ジオキソランまたはジオキソラン型還元剤を一般化構造(式8)で示す。式8に言及すると、Rは、以下の群、すなわち、H、アルキル部分、アリル部分、ベンジル部分、アルカノール部分、それらの任意の誘導体などから選択される成分である。
【化15】
【0043】
ジオキソランの好適な類似体には、以下が含まれる。
【化16】
【0044】
ジエーテルシクロヘキサジエン
ジエーテルシクロヘキサジエンまたはジエーテルシクロヘキサジエン型還元剤を、一般化構造(式9)によって示す。式9に言及すると、Rは、以下の群、すなわち、H、アルキル部分、アリル部分、ベンジル部分、アルカノール部分、それらの任意の誘導体などから選択される成分である。
【化17】
【0045】
ジエーテルシクロヘキサジエンの好適な類似体には、以下が含まれる。
【化18】
【0046】
シクロヘプタトリエン
シクロヘプタトリエンまたはシクロヘプタトリエン型還元体を、一般化構造(式10)によって示す。式10に言及すると、Rは、以下の群、すなわち、H、アルキル部分、アリル部分、ベンジル部分、アルカノール部分、それらの任意の誘導体などから選択される成分である。いくつかの実施形態では、Rは、2つ以上の置換位置を占有してもよい(例えば、式10B)。
【化19】
【0047】
シクロヘプタトリエンの好適な類似体には、以下が含まれる。
【化20】
【0048】
本明細書に記載のヒドリド供与体は、合成しても、または化学品販売業者から購入してもよい。以下の例は、例示を目的として提供されており、限定することを意図するものではない。DHPDおよびDHPD型還元剤は、異なる1,4ジヒドロピリジンアミドの形態の、オフ-オン切り替え可能なアシル供与体を利用するスキームによって合成することができる(Org.Biomol.Chem.2015,13,185-198)。ジメチル3,5-ジカルボキシラテピリジンは、Sigma-Aldrich(St.Louis,MO)から購入するか、または既知の手順によって調製することができる(J.Am.Chem.Soc.2000,122,9014-9018)。式6Aは、既知のスキームによって合成することができる(Syn.Comm.1994,24,3109-3114)。パラ-メトキシベンゼンベンゾイミダゾリンまたはパラ-tertブチルベンゼンベンゾイミダゾリンは、既知の合成手順を適用して得ることができる(Syn.Comm.1983,13,1033-1039)。式2Fは、既知の合成手順を適用することで得ることができる(Org.Lett.2013,15,180-183)。
【0049】
燃料組成物
本開示の有機ヒドリド系供与体は、燃焼機関における望ましくない着火事象を防止または低減するための、炭化水素燃料の添加剤として有用であり得る。燃料に使用される場合、所望のLSPI低減または有効性を達成するために必要な添加剤の適切な濃度は、使用される燃料の種類、他の清浄剤または分散剤または他の添加剤の存在などを含む様々な要因に依存する。一般に、本開示の添加剤の炭化水素燃料中の濃度の範囲は、25~5000重量百万分率(ppmw)の範囲(50~4000ppm、100~3500、150~3000、200~2500、250~2000、300~1500、350~1000などを含むが限定されない)であり得る。他のヒドリド供与体が燃料組成物中に存在する場合、添加剤の使用量を減らしてもよい。
【0050】
いくつかの実施形態では、本開示の化合物は、65℃~205℃の範囲で沸騰する不活性で安定した親油性(すなわち、炭化水素燃料に可溶である)有機溶媒を使用して濃縮物として配合され得る。脂肪族または芳香族炭化水素溶媒、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、または高沸点芳香族または芳香族希釈剤を使用することができる。炭化水素溶媒と組み合わせた、2~8個の炭素原子を含む脂肪族アルコール、例えばエタノール、イソプロパノール、メチルイソブチルカルビノール、n-ブタノールなども、本発明の添加剤との使用に適している。濃縮物では、添加剤の量は、10~70wt.%(例えば、20~40wt.%)であり得る。
【0051】
ガソリンまたはガソリン燃料では、酸素化物(例えば、エタノール、メチルtert-ブチルエーテル)、他のアンチノック剤、および清浄剤/分散剤(例えば、ヒドロカルビルアミン、ヒドロカルビルポリ(オキシアルキレン)アミン、スクシンイミド、マンニッヒ反応生成物、ポリアルキルフェノキシアルカノールの芳香族エステル、またはポリアルキルフェノキシアミノアルカン)を含む、その他の公知の添加剤を使用することができる。さらに、摩擦調整剤、酸化防止剤、金属不活性化剤および解乳化剤が存在してもよい。
【0052】
ディーゼル燃料では、流動点降下剤、流動性向上剤、セタン価向上剤、潤滑性添加剤などの他の公知の添加剤を使用することができる。
【0053】
本開示の化合物と共に、燃料可溶性の不揮発性分散媒または油を使用してもよい。分散媒は、オクタン必要量の増加に圧倒的に寄与することなく不揮発性残留物(NVR)、または燃料添加剤組成物の無溶媒液体分率を実質的に増加させる、化学的に不活性な炭化水素可溶性液体ビヒクルである。分散媒は、天然または合成油、例えば鉱油、精製石油、合成ポリアルカンおよびアルケン(水素化および非水素化ポリアルファオレフィンを含む)、合成ポリオキシアルキレン由来油、例えばU.S.Patent Nos.3,756,793、4,191,537および5,004,478、ならびにEuropean Patent Appl.Pub.Nos.356,726および382,159に記載されているものであり得る。
【0054】
分散媒は、炭化水素燃料の35~5000重量ppmの範囲(例えば、燃料の50~3000ppm)の量で使用することができる。燃料濃縮物に使用される場合、分散媒は、20~60wt.%(例えば、30~50wt.%)の量で存在し得る。
【0055】
潤滑油組成物
本開示の有機ヒドリド供与体は、燃焼機関における望ましくない着火事象を防止または低減するための、潤滑油の添加剤として有用であり得る。このようにして使用される場合、添加剤は通常、潤滑油組成物の総重量に対して0.001~10wt.%(限定されないが、0.01~5wt.%、0.2~4wt.%、0.5~3wt.%、1~2wt.%など)の濃度で潤滑油組成物中に存在する。他のヒドリド供与体が潤滑油組成物中に存在する場合、添加剤の使用量を減らしてもよい。
【0056】
ベースオイルとして使用される油は、所望の最終用途および完成油中の添加剤に応じて選択または混合されて、エンジンオイルの所望のグレード、例えば、米国自動車技術者協会(SAE)粘度グレード、0W、0W-20、0W-30、0W-40、0W-50、0W-60、5W、5W-20、5W-30、5W-40、5W-50、5W-60、10W、10W-20、10W-30、10W-40、10W-50、15W、15W-20、15W-30、または15W-40を有する潤滑油組成物が得られる。
【0057】
潤滑粘性の油(「ベースストック」または「ベースオイル」と呼ばれることもある)は、潤滑剤の主要な液体成分であり、それに添加剤および場合によっては他の油を混合して、例えば最終的な潤滑剤(または潤滑剤組成物)を製造する。ベースオイルは、濃縮物の製造およびそれからの潤滑油組成物の製造に有用であり、天然(植物、動物または鉱物)および合成潤滑油ならびにそれらの混合物から選択することができる。
【0058】
本開示におけるベースストックおよびベースオイルの定義は、米国石油協会(API)Publication 1509 Annex E(「API Base Oil Interchangeability Guidelines for Passenger Car Motor Oils and Diesel Engine Oils」、2016年12月)に記載されるものと同じである。グループIのベースストックは、90%未満の飽和成分および/または0.03%超の硫黄を含有し、表E-1に指定された試験方法を使用して80以上120未満の粘度指数を有する。グループIIベースストックは、90%以上の飽和成分および0.03%以下の硫黄を含有し、表E-1に指定された試験方法を使用して80以上120未満の粘度指数を有する。グループIIIのベースストックは、90%以上の飽和成分および0.03%以下の硫黄を含有し、表E-1に指定された試験方法を使用して120以上の粘度指数を有する。グループIVのベースストックは、ポリアルファオレフィン(PAO)である。グループVのベースストックには、グループI、II、III、またはIVに含まれない他のすべてのベースストックが含まれる。
【0059】
天然油には、動物油、植物油(例えば、ヒマシ油およびラード油)、および鉱油が含まれる。良好な熱酸化安定性を有する動植物油を用いることができる。天然油の中では、鉱油が好ましい。鉱油は、その粗原料、例えば、パラフィン系、ナフテン系、またはパラフィン-ナフテン混合物であるかどうかに関して幅広く変化する。石炭または頁岩由来の油も有用である。天然油は、それらの製造および精製に使用される方法、例えば、それらの蒸留範囲、およびそれらが直留であるかまたは分解されているか、水素化精製されているか、または溶媒抽出されているかによっても変化する。
【0060】
合成油には、炭化水素油が含まれる。炭化水素油には、重合および共重合オレフィン(例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレンイソブチレンコポリマー、エチレン-オレフィンコポリマー、およびエチレン-アルファオレフィンコポリマー)などの油が含まれる。ポリアルファオレフィン(PAO)油ベースストックは、一般的に使用される合成炭化水素油である。例として、C~C14オレフィン、例えば、C、C10、C12、C14オレフィンまたはそれらの混合物に由来するPAOを利用することができる。
【0061】
ベースオイルとして使用するための他の有用な流体には、好ましくは触媒的に処理され、または合成されて高性能特性を得た、非従来型または非通常型のベースストックが含まれる。
【0062】
非従来型または非通常型のベースストック/ベースオイルには、1つ以上のガスツーリキッド(GTL)材料に由来するベースストックの混合物の1つ以上、ならびに天然ワックスまたはワックス状供給物、スラックワックスなどの鉱物および/または非鉱物油ワックス状供給材料、天然ワックス、およびカスオイルなどのワックス状資源、ワックス状燃料水素化分解装置ボトム油、ワックス状ラフィネート、水素化分解物、熱分解物、または他の鉱物、鉱油、または石炭液化もしくは頁岩油から得られたワックス状材料などの非石油由来ワックス状材料に由来する異性体(isomerate)/イソデワックス(isodewaxate)ベースストック、ならびにこのようなベースストックの混合物が含まれる。
【0063】
本開示の潤滑油組成物に使用するためのベースオイルは、APIグループI、グループII、グループIII、グループIV、およびグループVの油、およびそれらの混合物に対応する多様な油のいずれか、好ましくはAPIグループII、グループIII、グループIV、およびグループVの油、およびそれらの混合物、より好ましくはそれらの並外れた揮発性、安定性、粘度および清浄度特性により、グループIII~グループVのベースオイルである。
【0064】
典型的には、ベースオイルは、100℃(ASTM D445)で2.5~20mm/秒(例えば、3~12mm/秒、4~10mm/秒、または4.5~8mm/秒)の範囲の動粘度を有する。
【0065】
本発明の潤滑油組成物はまた、補助機能を付与して完全な潤滑油組成物を得るために、従来の潤滑油添加剤を含有してもよく、これらの添加剤は、組成物中に分散または溶解される。例えば、潤滑油組成物は、酸化防止剤、無灰分散剤、耐摩耗剤、金属清浄剤などの清浄剤、防錆剤、かすみ除去剤(dehazing agent)、解乳化剤、摩擦調整剤、金属不活性化剤、流動点降下剤、粘度調整剤、消泡剤、共溶媒、パッケージ相溶化剤、腐食防止剤、染料、極圧剤など、およびそれらの混合物とブレンドすることができる。様々な添加剤が公知であり、市販されている。これらの添加剤またはそれらの類似化合物は、通常のブレンド手順によって、本発明の潤滑油組成物の調製に使用することができる。
【0066】
前述の添加剤の各々は、使用される場合、機能的に有効な量を使用して、潤滑剤に所望の特性を付与する。したがって、例えば、添加剤が無灰型分散剤である場合、この無灰型分散剤の機能的に有効な量は、潤滑剤に所望の分散特性を付与するのに十分な量であろう。一般に、これらの添加剤の各々の濃度は、使用される場合、特に明記しない限り、約0.001~約20wt.%、例えば約0.01~約10wt.%であり得る。
【0067】

以下の説明的な例は、非限定的であることを意図している。
【0068】
LSPIは多くの種類の燃焼機関に影響を与え得るが、1500~2500回転/分(rpm)のエンジン速度、例えば1500~2000rpmのエンジン速度で1000kPa(10bar)を超える正味平均有効圧力レベルを作動中に生成する、直接噴射式のブースト(ターボチャージャーまたはスーパーチャージャー付き)火花点火式(ガソリン)内燃機関では特に問題となり得る。正味平均有効圧力(BMEP)は、エンジンサイクル中に達成される仕事量をエンジン行程容積で割ったもの、エンジン排気量によって正規化されたエンジントルクとして定義される。「ブレーキ」という語は、動力計で測定される、エンジンフライホイールで利用可能な実際のトルクまたは動力を示す。したがって、BMEPは、エンジンの有用なエネルギー出力の尺度である。
【0069】
ここで、本開示の燃料組成物または潤滑油組成物は、内燃機関における早期着火問題を防止または最小化できることが分かった。
【0070】
例1~8
試験化合物をガソリンまたは潤滑油に混合し、LSPI事象を低減するそれらの能力を以下に記載される試験方法を用いて決定した。
【0071】
ゼネラルモーターズ(GM)の2.0L LHU 4気筒ガソリンターボチャージャー付き直接噴射式エンジンをLSPI試験に使用した。各気筒に燃焼圧センサーを装備した。
【0072】
6区分の試験手順を使用して、2000rpmのエンジン速度および275Nmの負荷の条件下で発生したLSPI事象の数を測定した。LSPI試験条件は、各区分を停止期間で区切って28分間実行した。各区分を少し切り捨て、過渡部分を除去する。端を切り取られた各区分は、典型的には、約11万燃焼サイクル(気筒当たり27,500燃焼サイクル)を有する。合計で、端を切り取られた6つの区分は、約66万燃焼サイクル(気筒当たり165,000燃焼サイクル)を有する。
【0073】
LSPIに影響された燃焼サイクルを、ピーク気筒圧(PP)および5%の総熱放出(AI5)でのクランク角度を監視することによって決定した。LSPIに影響された燃焼サイクルは、(1)所与の気筒および端を切り取った区分の平均PPの5つの標準偏差を超えるPPと、(2)所与の気筒および端を切り取った区分の平均を下回る5つの標準偏差を超えるAI5との両方を有すると定義される。
【0074】
LSPI頻度は、100万燃焼サイクルあたりのLSPI影響燃焼サイクルの数として報告され、以下のように計算される。
LSPI頻度=[(端を切り取った6つの区分におけるLSPI影響燃焼サイクルの総数)/(端を切り取った6つの区分における燃焼サイクルの総数)]×1,000,000
【0075】
LSPI頻度を低下させる試験燃料および/または試験潤滑剤に関連する添加剤は、対応するベースライン燃料および/またはベースライン潤滑剤と比較した場合、LSPI頻度を低下させる添加剤であると考えられる。本明細書の試験では、ベースライン燃料は、堆積物制御添加剤を含まない従来の49ステートプレミアム無鉛ガソリン燃料であり、ベースライン潤滑剤は、ILSAC GF-5およびAPI SN仕様を満たす従来のエンジンオイルであった。試験結果を表1に示す。
【0076】
例は、様々な燃料または潤滑油添加剤の試験結果をまとめたものである。例えば、例1は、試験燃料流体中の1000ppmwのDHPDの燃料添加剤としての結果を示す。添加剤を含む燃料または潤滑剤を試験したときに観察されたLSPI事象の数を「LSPI活動」と題された列に記載し、添加剤を含まない燃料または潤滑剤を試験したときに観察されたLSPI事象の数を「基準」と題された列に記載する。所与の例では、試験された燃料または潤滑剤組成物についてLSPI活動欄と基準欄との唯一の違いは、添加剤を含むかまたは含まないかである。
【表1】