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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】記憶力向上用の組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/122 20060101AFI20240828BHJP
   A23L 31/00 20160101ALI20240828BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20240828BHJP
   A23L 33/15 20160101ALI20240828BHJP
   A61K 31/355 20060101ALI20240828BHJP
   A61K 36/05 20060101ALI20240828BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240828BHJP
【FI】
A61K31/122
A23L31/00
A23L33/10
A23L33/15
A61K31/355
A61K36/05
A61P25/28
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021535454
(86)(22)【出願日】2020-07-31
(86)【国際出願番号】 JP2020029400
(87)【国際公開番号】W WO2021020552
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2023-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2019141957
(32)【優先日】2019-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019199534
(32)【優先日】2019-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】516067140
【氏名又は名称】BGG Japan株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関川 貴寛
(72)【発明者】
【氏名】木澤 有希
【審査官】愛清 哲
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-002569(JP,A)
【文献】特開2007-126455(JP,A)
【文献】特開2010-270095(JP,A)
【文献】DANILO Zanotta et al.,Cognitive effects of a dietary supplement made from extract of Bacopa monnieri, astaxanthin,phosphat,Neuropsychiatric Disease and Treatment,2014年,Vol. 10,p. 225-230
【文献】JOSHUA, W. Miller,Vitamin E and Memory: Is It Vascular Protection?,Nutrition Reviews,2000年,Vol. 58, No. 4,p. 109-111
【文献】KATAGIRI, Mikiyuki et al.,Effects of astaxanthin-rich Haematococcus pluvialis extract on cognitive function: a randomised, dou,J. Clin. Biochem. Nutr.,2012年,Vol. 51, No. 2,p. 102-107
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 36/00-36/9068
A61P 25/00-25/36
A23L 31/00-31/15
A23L 33/00-33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A)含有する、健常対象に適用される視覚記憶力及び言語記憶力上用の組成物であって、成分(A)が1日当たり8mg以上10mg以下の用量で摂取されるように調製され、8週間以上摂取されるための組成物
成分(A):アスタキサンチン及びアスタキサンチンのエステル体からなる群から選ばれる少なくとも1種
【請求項2】
前記成分(A)の含有量が、0.1質量%以上35質量%以下である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記摂取が、経口摂取である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
食品である、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
食品添加物である、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、認知機能の一部である記憶力を向上させる作用を持つ記憶力向上用の組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アスタキサンチンは、食品添加物の色素として、あるいは養殖魚の色揚げ剤として長年使用されてきた。アスタキサンチンにビタミンEの1000倍もの優れた抗酸化作用があることが見出されてからというもの、アスタキサンチンは医薬品やサプリメントなどの健康食品、基礎化粧品などにおいて利用されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、「CogHealth」というパソコンモニターに映し出されるトランプに反応してボタンを押してもらう5つの作業からなる検査において、アスタキサンチン摂取前に比べてアスタキサンチン摂取後は「単純反応」、「選択反応」、「作動記憶」、「遅延再生」、「注意分散」の5つの作業全ての反応時間が改善し、「作動記憶」の作業では正答率が向上したという結果が得られたことから、アスタキサンチンがヒトの認知機能を改善することを示唆している。
【0004】
特許文献1の検査における「作動記憶」は、ひっくり返ったトランプが、ひとつ前のトランプと同じかどうか判断してボタンを押す課題である。特許文献1の検査において「作動記憶」は、秒単位の非常に短時間の記憶、視覚的な記憶、かつ情報量が少ない記憶と考えられる。
【0005】
また、特許文献1ではアスタキサンチン摂取前に比べてアスタキサンチン摂取後は認知機能が改善したことを確認したのみで、プラセボ群との比較をしていなかった。特許文献1と同様の材料と方法でプラセボ群(コーン油摂取)と比較した試験では、アスタキサンチン群とプラセボ群の間でヒトの認知機能の改善効果について有意差が確認されなかった(非特許文献1)。
【0006】
ビタミンEは脂溶性のビタミンで抗酸化作用を持ち、生体内で細胞膜を酸化障害から守る働きをすることが知られている。この働きから、体内の細胞膜の酸化による老化や、血液中のLDLコレステロールの酸化による動脈硬化など、生活習慣病や老化と関連する疾患を予防することが期待されている。
【0007】
しかしながら、アスタキサンチンとビタミンEをともに摂取した場合における相乗効果を記憶力の向上という観点で詳細に確認した知見は存在しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2010-270095号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Katagiri M, Satoh A, Tsuji S, et al. Effects of astaxanthin-rich Haematococcus pluvialis extract on cognitive function: a randomised, double-blind, placebo-controlled study. J. Clin. Biochem. Nutr. 2012;51:102-107.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1の「作動記憶」は、秒単位の非常に短時間の超短期の記憶、視覚的な記憶、かつ情報量が少ない記憶と考えられるが、本発明者らは、視覚的な情報だけではなく言語の情報を含む記憶を保つ能力を向上させることを考えた。
したがって、本発明が解決しようとする課題は、認知機能のうち、言語記憶力並びに、視覚記憶力及び言語記憶力を含む総合記憶力を向上させる記憶力向上用の組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らが上記課題を解決するために鋭意検討した結果、アスタキサンチン類、又は、アスタキサンチン類及びビタミンEを含有する記憶力向上用の組成物を摂取することで視覚記憶力及び言語記憶力を含む総合記憶力が向上することを見出し、本発明の完成に至った。
【0012】
即ち、本発明は以下を含む。
[1]下記成分(A)、又は、成分(A)および成分(B)を含有する、視覚記憶力及び言語記憶力を含む総合記憶力向上用の組成物;
成分(A):アスタキサンチン及びアスタキサンチンのエステル体からなる群から選ばれる少なくとも1種;
成分(B):ビタミンE。
[2]前記成分(A)の含有量が、0.1質量%以上35質量%以下である、[1]に記載の組成物。
[3]前記アスタキサンチンのエステル体が、モノエステル体及びジエステル体であり、モノエステル体のジエステル体に対する含有量の質量比(モノエステル体/ジエステル体)が、2以上25以下である、[1]又は[2]に記載の組成物。
[4]前記組成物は、成分(A)が1日当たり3mg以上15mg以下の用量で摂取されるように調製されている、[1]~[3]のいずれかに記載の組成物。
[5]前記組成物は、成分(A)が1日当たり3mg以上10mg以下の用量で摂取されるように調製されている、[1]~[4]のいずれかに記載の組成物。
[6]前記組成物は、成分(A)が1日当たり8mg以上10mg以下の用量で摂取されるように調製されている、[1]~[5]のいずれかに記載の組成物。
[7]前記組成物は、成分(B)が1日当たり30mg以上70mg以下の用量で摂取されるように調製されている、[1]~[6]のいずれかに記載の組成物。
[8]前記摂取が、経口摂取である、[1]~[7]のいずれかに記載の組成物。
[9]食品である、[1]~[8]のいずれかに記載の組成物。
[10]食品添加物である、[1]~[8]のいずれかに記載の組成物。
[11]下記成分(A)、又は成分(A)及び成分(B)を摂取させることを含む、視覚記憶力及び言語記憶力を含む総合記憶力を向上させる方法;
成分(A):アスタキサンチン及びアスタキサンチンのエステル体からなる群から選ばれる少なくとも1種;
成分(B):ビタミンE。
[12]前記アスタキサンチンのエステル体が、モノエステル体及びジエステル体であり、モノエステル体のジエステル体に対する1日当たり摂取量の質量比(モノエステル体/ジエステル体)が、2以上25以下である、[11]に記載の方法。
[13]アスタキサンチン及びアスタキサンチンのエステル体からなる群から選ばれる少なくとも1種を1日当たり3mg以上15mg以下の用量で摂取させることを含む、[11]又は[12]に記載の方法。
[14]前記成分(A)を1日当たり3mg以上10mg以下の用量で摂取させることを含む、[11]~[13]のいずれかに記載の方法。
[15]前記成分(A)を1日当たり8mg以上10mg以下の用量で摂取させることを含む、[11]~[14]のいずれかに記載の方法。
[16]前記成分(B)を1日当たり30mg以上70mg以下の用量で摂取させることを含む、[11]~[15]のいずれかに記載の方法。
[17] 前記摂取が、経口摂取である、[11]~[16]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、視覚記憶力及び言語記憶力を含む総合記憶力が向上する作用を持つ組成物、または該総合記憶力を向上させる方法を提供することができる。また、該総合記憶力のうち、中長期の記憶力を向上させる効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A図1Aは、アスタキサンチン(ASX)の摂取前、摂取8週間後、摂取12週間後における認知機能テスト(視覚記憶力)の点数の変化量を示した図である。
図1B図1Bは、アスタキサンチン類及びビタミンE(ASX+VE)の摂取前、摂取8週間後、摂取12週間後における認知機能テスト(視覚記憶力)の点数の変化量を示した図である。
図2A図2Aは、アスタキサンチン(ASX)の摂取前、摂取8週間後、摂取12週間後における認知機能テスト(言語記憶力)の点数の変化量を示した図である。
図2B図2Bは、アスタキサンチン類及びビタミンE(ASX+VE)の摂取前、摂取8週間後、摂取12週間後における認知機能テスト(言語記憶力)の点数の変化量を示した図である。
図3A図3Aは、アスタキサンチン(ASX)の摂取前、摂取8週間後、摂取12週間後における認知機能テスト(視覚記憶力及び言語記憶力を含む総合記憶力)の点数の変化量を示した図である。
図3B図3Bは、アスタキサンチン類及びビタミンE(ASX+VE)の摂取前、摂取8週間後、摂取12週間後における認知機能テスト(視覚記憶力及び言語記憶力を含む総合記憶力)の点数の変化量を示した図である。
図4A図4Aは、アスタキサンチン(ASX)の摂取前と摂取12週間後における「ここ1週間、ヒトやモノの名前を思い出すのに苦労しますか。」という質問に対する自覚の変化量を示した図である。
図4B図4Bは、プラセボ又はアスタキサンチン類及びビタミンE(ASX+VE)の摂取12週間後における「ここ1週間、ヒトやモノの名前を思い出すのに苦労しますか。」という質問に対する自覚の実測値を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、アスタキサンチン類、又は、アスタキサンチン類及びビタミンEを含有する記憶力向上用の組成物に関する。
【0016】
アスタキサンチン(astaxanthin,astaxanthine,3,3’-ジヒドロキシ-β,β-カロテン-4,4’-ジオン)とは、ニンジンのβ-カロテンやトマトのリコペンと同じカロテノイドの一種であって、キサントフィル類に分類される食経験豊富な赤橙色の色素物質である。アスタキサンチンは自然界に広く分布し、身近なところでは甲殻類の殻の他、それらを餌とするマダイの体表やサケ科魚類の筋肉の赤色部分などに見ることができる。
【0017】
アスタキサンチンには、立体異性体が存在する。具体的には、(3R,3'R)-アスタキサンチン、(3R,3'S)-アスタキサンチン及び(3S,3'S)-アスタキサンチンの3種の立体異性体が知られている。天然物由来のアスタキサンチンには、(3S,3'S)-アスタキサンチンが多いと言われている。本明細書の記載で、特に記載がない限り、単にアスタキサンチンと表示する場合は上記3種の立体異性体を含むアスタキサンチンのフリー体を指す。
【0018】
本明細書の記載で、アスタキサンチン類と表示する場合は、アスタキサンチンのフリー体及びアスタキサンチンのエステル体からなる群から選ばれる少なくとも1種を指す。アスタキサンチンのエステル体は、モノエステル体及び/又はジエステル体を含む。さらに、アスタキサンチンのモノエステル体及び/又はジエステル体には、アスタキサンチンの3種の異性体それぞれのモノエステル体及び/又はジエステル体を含む。
【0019】
本発明では、アスタキサンチン類は、アスタキサンチンのフリー体及びエステル体からなる群から選ばれる少なくとも1種が用いられる。アスタキサンチンのエステル体は2つの水酸基のうち一方、又は両方がエステル結合により保護されているため物理的にフリー体よりも安定性が高く飲食物中や薬剤中で酸化分解されにくい。しかし、生体中に取り込まれると生体内酵素により速やかにフリー体のアスタキサンチンに加水分解され、効果を示すものと考えられている。
【0020】
アスタキサンチンのモノエステル体としては、脂肪酸によりエステル化されたモノエステル類をあげることができる。アスタキサンチンのエステル体を形成する脂肪酸は、炭素数の限定はなく例えば炭素数4以上30以下の脂肪酸があげられる。また、アスタキサンチンのエステル体を形成する脂肪酸は、飽和脂肪酸でも不飽和脂肪酸でもよい。アスタキサンチンのエステル体を形成する脂肪酸の具体例としては、酢酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、へブタデカン酸、エライジン酸、リシノール酸、ベトロセリン酸、バクセン酸、エレオステアリン酸、プニシン酸、リカン酸、パリナリン酸、ガドール酸、5-エイコセン酸、5-ドコセン酸、セトール酸、エルシン酸、5,13-ドコサジエン酸、セラコール酸、デセン酸、ステリング酸、ドデセン酸、オレイン酸、ステアリン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸などをあげることができる。
【0021】
さらに、アスタキサンチンのモノエステル体としては、グリシン、アラニンなどのアミノ酸;酢酸、クエン酸などの一価又は多価カルボン酸;リン酸、硫酸などの無機酸;グルコシドなどの糖;グリセロ糖脂肪酸、スフィンゴ糖脂肪酸などの糖脂肪酸;グリセロ脂肪酸などの脂肪酸;グリセロリン酸などによりエステル化されたモノエステル類があげられる。アスタキサンチンのモノエステル体として前記モノエステル類の塩も含む。
【0022】
アスタキサンチンのジエステル体としては、前記脂肪酸、アミノ酸、一価又は多価カルボン酸、無機酸、糖、糖脂肪酸、脂肪酸及びグリセロリン酸からなる群から選択される同一又は異種の酸によりエステル化されたジエステル類をあげることができる。なお、考えられ得る場合は前記ジエステル類の塩も含む。
【0023】
本発明においてアスタキサンチン類とは、天然物由来のもの又は合成により得られるものを意味する。天然物由来のものとしては、例えば、エビ、オキアミ、カニなどの甲殻類の甲殻、卵及び臓器、種々の魚介類の皮及び卵、緑藻ヘマトコッカスなどの藻類、赤色酵母ファフィアなどの酵母類、海洋性細菌パラコッカスなどの細菌類、福寿草及び金鳳花などの種子植物から得られるものをあげることができる。天然からの抽出物及び化学合成品は市販されており、入手は容易である。
【0024】
アスタキサンチン類は、例えば、赤色酵母ファフィア、緑藻ヘマトコッカス、海洋性細菌パラコッカスなどのアスタキサンチン類産生微生物を、公知の方法に準拠して、適切な培地で培養することにより得られる。培養や抽出のしやすさ、アスタキサンチンを最も高濃度で含有すること及び生産性の高さから緑藻ヘマトコッカスが最も好適である。
【0025】
緑藻は、アスタキサンチン類を生産し得る能力がある緑藻であれば、特に制限はない。例えば、ヘマトコッカス(Haematococcus)属に属する単細胞藻類が好ましく用いられる。好ましい緑藻としては、ヘマトコッカス・プルビアリス(H. pluvialis)、ヘマトコッカス・ラクストリス(H. lacustris)、ヘマトコッカス・カペンシス(H. capensis)、ヘマトコッカス・ドロエバケンシ(H. droebakensi)、ヘマトコッカス・ジンバブエンシス(H. zimbabwiensis)などがあげられる。
【0026】
緑藻ヘマトコッカスから得られるアスタキサンチン類は、アスタキサンチンの片方の水酸基に脂肪酸が結合したモノエステル体が多く、次いで、両端に脂肪酸の結合したジエステル体が多く、無修飾のフリー体で存在するものの割合はわずかである。赤色酵母ファフィアから得られるアスタキサンチン類は、無修飾のフリー体で存在しているものが多い。また、海洋性細菌パラコッカスから得られるアスタキサンチン類も、無修飾のフリー体で存在しているものが多い。
【0027】
本発明において、アスタキサンチン類含有抽出物は、次のように製造される。アスタキサンチン類産生微生物を、栄養培地にて培養し、次いでアスタキサンチンを含有する油性物質を抽出する。アスタキサンチンを含有する油性物質の抽出手段には特に制限はなく、当業者が通常用いる手段が用いられる。例えば、培養したアスタキサンチン類産生微生物に対して、溶媒懸濁、乾燥、機械的破砕、圧搾、超臨界抽出などの操作により抽出が行われる。これらの抽出操作は単独で行われてもよいし、これらを組み合わせて行われてもよい。
【0028】
抽出に用いられる溶媒としては、クロロホルム、ヘキサン、アセトン、メタノール、エタノールなどの有機溶媒が用いられる。乾燥方法は、棚式乾燥、流動層乾燥、フラッシュ乾燥、噴霧乾燥など常法にしたがって行うことができる。機械的に粉砕する方法は、湿式、乾式のどちらでもよく、ビーズミル、ロールミル、ハンマーミル、ジェットミル、ピンミルなどで行うことができる。圧搾方法は常法にしたがって行うことができる。超臨界抽出は、常法に従って、粉砕処理したアスタキサンチン類産生微生物をペレット状に成形し、超臨界状態の二酸化炭素を又は超臨界点近傍の状態の二酸化炭素をそのペレットを充填した層を通過させて抽出し、次いで減圧を行って二酸化炭素を除去して抽出物を得る。ペレットからの抽出効率を高めるために高級不飽和脂肪酸や、グリセリン、アルコール、水などを加えてよい。
【0029】
抽出に溶媒を利用した場合は、抽出後、当業者が通常用いる手段によって、溶媒が除去される。さらに溶媒を除去したい場合は、分子蒸留装置などを用いることができる。アスタキサンチン類含有抽出物は、所望により分離カラムやリパーゼ分解によりさらに精製することができる。
【0030】
組成物におけるアスタキサンチン類の含有量は、通常0.1質量%以上、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、また、通常35質量%以下であり、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下であり、これらの上限と下限はいずれの組み合わせであってもよい。また、アスタキサンチン類の含有量は、通常0.1質量%以上35質量%以下、好ましくは0.5質量%以上30質量%以下、より好ましくは1質量%以上25質量%以下である。
【0031】
組成物が含有するアスタキサンチン類におけるモノエステル体の割合は通常40質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、特に好ましくは80質量%以上である。アスタキサンチン類におけるモノエステル体の含有量の上限は特にないが、通常100質量%以下である。アスタキサンチン類におけるモノエステル体の割合について、これらの上限と下限はいずれの組み合わせであってもよい。組成物が含有するアスタキサンチン類におけるモノエステル体の割合は、40質量%以上100質量%以下、好ましくは50質量%以上100質量%以下、より好ましくは60質量%以上100質量%以下、さらに好ましくは70質量%以上100質量%以下、特に好ましくは80質量%以上100質量%以下である。
【0032】
組成物が含有するアスタキサンチン類におけるジエステル体の割合は、通常40質量%以下、好ましくは35質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは25質量%以下、特に好ましくは20質量%以下である。組成物が含有するアスタキサンチン類におけるジエステル体の割合の下限は、特に限定されないが、通常0質量%以上である。またアスタキサンチン類におけるジエステル体の割合について、これらの上限と下限はいずれの組み合わせであってもよい。組成物が含有するアスタキサンチン類におけるジエステル体の割合は、通常0質量%以上40質量%以下、好ましくは0質量%以上35質量%以下、より好ましくは0質量%以上30質量%以下、さらに好ましくは0質量%以上25質量%以下、特に好ましくは0質量%以上20質量%以下である。
【0033】
組成物が含有するアスタキサンチン類におけるモノエステル体のジエステル体に対する質量比(モノエステル体/ジエステル体)は、通常2以上、好ましくは3以上、より好ましくは4以上、さらに好ましくは6以上、特に好ましくは8以上であり、また、通常25以下、好ましくは20以下、より好ましくは15以下、さらに好ましくは13以下、特に好ましくは10以下である。これらの上限と下限はいずれの組み合わせであってもよい。組成物が含有するアスタキサンチン類におけるモノエステル体のジエステル体に対する質量比(モノエステル体/ジエステル体)について、通常2以上25以下、好ましくは3以上20以下、より好ましくは4以上15以下、さらに好ましくは6以上13以下、特に好ましくは8以上10以下である。組成物が含有するアスタキサンチン類におけるモノエステル体のジエステル体に対する質量比が上記範囲内であることは、組成物中の安定性及び生体内での効果を両立できる点で好ましい。
【0034】
アスタキサンチン類の1日当たりの摂取量は、通常3mg以上、好ましくは5mg以上、より好ましくは8mg以上、特に好ましくは9mg以上、また、通常15mg以下、好ましくは13mg以下、より好ましくは11mg以下、特に好ましくは10mg以下であり、これらの上限と下限はいずれの組み合わせであってもよい。アスタキサンチン類の1日当たりの摂取量は、通常3mg以上15mg以下、好ましくは3mg以上10mg以下、より好ましくは8mg以上10mg以下、特に好ましくは9mg以上10mg以下であってよい。アスタキサンチン類の1日当たりの摂取量が上記範囲内であることは、本発明の効果を十分に得る上で好ましい。
【0035】
本発明の組成物は、上記のアスタキサンチン類を含有する組成物でもよいが、アスタキサンチン類及びビタミンEを含有する組成物でもよい。
その場合、上記のようなアスタキサンチン類にビタミンEを配合すればよい。なお、アスタキサンチン類とビタミンEの配合の順序は問わない。アスタキサンチン類及びビタミンEを含有する組成物におけるアスタキサンチン類の好ましい含有量は上述したとおりである。
ビタミンEの主な生理作用は抗酸化作用で、生体内で細胞膜を酸化障害から守る作用を持つ。本発明においてビタミンEは、アスタキサンチン類とともに摂取されることで、アスタキサンチン類の作用効果を高める活性化剤として働く。ビタミンEは脂溶性のビタミンであり、構造中の環状部分に付くメチル基の位置や有無によって8種類の化学的に異なる化合物が存在する。ビタミンEはα-、β-、γ-およびδ-でそれぞれ始まる4種類のトコフェロールと4種類のトコトリエノールを含む。この中でもトコトリエノールが好ましく用いられる。トコトリエノールは、トコフェロール類よりも高い抗酸化作用を持つ可能性がある。
【0036】
本発明においてビタミンEは、天然物由来のもの又は合成により得られるものを用いることができる。トコフェロールは、ひまわり油、綿実油、サフラワー油、米ぬか油、とうもろこし油、なたね油、大豆油、パーム油、オリーブ油、えごま油、アマニ油、ごま油などの植物油から得ることができる。トコトリエノールは、米、大麦、小麦、ライ麦、アブラヤシ(パーム油)及びアナトー・シードから得ることができる。α-、β-、γ-およびδ-トコトリエノールの全種類を相当量含むことから、トコトリエノールはアブラヤシ(パーム油)から得たものを用いることが好ましい。
【0037】
アスタキサンチン類及びビタミンEを含有する組成物におけるビタミンEの含有量は、通常10質量%以上、好ましくは14質量%以上、より好ましくは16質量%以上、また、通常50質量%以下であり、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下であり、これらの上限と下限はいずれの組み合わせであってもよい。また、ビタミンEの含有量は、通常10質量%以上50質量%以下、好ましくは14質量%以上40質量%以下、より好ましくは16質量%以上30質量%以下である。
【0038】
ビタミンEの1日当たりの摂取量は、通常30mg以上、好ましくは35mg以上、より好ましくは40mg以上、特に好ましくは45mg以上、また、通常70mg以下、好ましくは65mg以下、より好ましくは60mg以下、特に好ましくは55mg以下であり、これらの上限と下限はいずれの組み合わせであってもよい。ビタミンEの1日当たりの摂取量は、通常30mg以上70mg以下、好ましくは35mg以上65mg以下、より好ましくは40mg以上60mg以下、特に好ましくは45mg以上55mg以下である。
【0039】
本明細書において1日当たりの摂取量とは、成人1人が1日当たりに摂取する量を指す。
【0040】
本明細書中における記憶力向上用の組成物は、1~数回の摂取により、1日当たりの摂取量が定められた範囲内となるようにアスタキサンチン類を含有する配合量で調製される。
【0041】
なお、アスタキサンチン類(濃度、摂取量)は、アスタキサンチン類を含有する素材を用いる場合にあっては、当該素材中の当該成分そのものの量に基づいて算出されるものとする。また、アスタキサンチン類の含有量(濃度、摂取量)は、アスタキサンチンがエステル体又は塩を形成している場合にあっては、エステル体又は塩の質量を等モルのフリー体の質量に換算した値に基づいて算出されるものとする。
【0042】
本発明の別の態様は、アスタキサンチン類、又は、アスタキサンチン類及びビタミンEを摂取させることで、記憶力を向上させる方法である。アスタキサンチン類、又は、アスタキサンチン類及びビタミンEの含有量、並びに、アスタキサンチン類、又は、アスタキサンチン類及びビタミンEの1日当たりの摂取量は、上述の通りである。摂取方法としては、例えば経口摂取があげられる。本発明における方法では、ビタミンEとアスタキサンチン類であるアスタキサンチンのフリー体、モノエステル体、及び/又はジエステル体をそれぞれ別々に摂取させることを含む。本発明における方法では、アスタキサンチン類、又は、アスタキサンチン類及びビタミンEを通常4週間以上、好ましくは8週間以上、特に好ましくは12週間以上継続して摂取させることが、十分に効果を得る上で好ましい。
【0043】
本発明において、アスタキサンチン類、又は、アスタキサンチン類及びビタミンEを含み本発明の効果を得られる限り、組成物の形状については特に限定されず、例えば、液状、ペースト状、ゲル上、固形状等任意の形状で使用できる。また、組成物の使用形態は、本発明の効果を得られる限り特に限定されず、ドリンク、シロップ、クリーム、ゼリー、粉末、顆粒、タブレット、ソフトカプセル、ハードカプセル等の任意の形態で使用できる。特に本発明はソフトカプセルの形態で使用されることが好ましい。また本発明の記憶力向上用の組成物は、本発明の効果を妨げない範囲で、甘味料、香料、賦形剤、着色料等の他の任意成分を含んでいてもよい。本発明では公知の方法によって記憶力向上用の組成物を例示の形態に製造することができる。本発明では赤色酵母ファフィア、緑藻ヘマトコッカス、海洋性細菌パラコッカスなどの乾燥品及びそれらの破砕品がそのままビタミンEとともに使用されてもよい。アスタキサンチン類は上記抽出方法で得たアスタキサンチン含有抽出物及びそれを含有する粉末や水溶液の形態で単独で使用され、又は、ビタミンEとともに使用されてもよい。
組成物をソフトカプセルに調製する場合、ソフトカプセル全体に対する皮膜の質量は、通常35質量%以上50質量%以下、好ましくは40質量%以上45質量%以下である。
【0044】
本発明における組成物は、医薬品成分、食品成分、食品添加物などとして使用することができる。
【0045】
本発明における組成物は、カプセル剤、水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、エリキシル剤、注射剤、坐剤、吸入剤、経鼻剤、経皮剤などとして使用することができる。
【0046】
前記食品としては、常法により、サプリメント、固形食品、流動食品、飲料などに製造されるが、これらに限定されない。ここで、「食品」とは、飲料及び食料を指し、経口的に用いられる形態のものすべてを含む。前記食品としては機能性食品であってよい。機能性食品とは、例えば、健康食品、健康補助食品、病者用食品、栄養補助食品、または、厚生労働省の定める保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品)のような、通常の食品に比べて優れた生理的特性を有する食品をいう。本発明における組成物は、健康食品、健康補助食品、病者用食品、栄養補助食品、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品の成分として使用することができる。
【0047】
さらに、上記の機能性食品に付する表示には、例えば、厚生労働省の定める保健機能食品に対して認められた表示、又は、記憶力の向上のために用いられる旨の表示が含まれる。それらの表示は、具体的には、例えば機能性食品の包装容器に付される。
【0048】
本発明において視覚記憶力、言語記憶力、及び総合記憶力は、脳の認知機能の概念に含まれる。認知機能とは、内的・外的環境からの刺激を認識する一連の作業であり、知覚、判断、注意、記憶、思考、言語理解などの知的活動として総合的な能力と定義される。
【0049】
認知機能は、神経心理学的検査、神経生理学的検査などの種々の測定方法によって評価できる。神経心理学的検査としては、CogHealth、Cognitraxウェクスラー成人知能検査、スタンフォード・ビネー知能検査、VPTA標準高次視知覚検査、SPTA標準高次動作性検査、ウェクスラー記憶検査、CATCAS標準注意検査法・標準意欲評価法、D-CAT注意機能スクリーニングテスト、浜松式高次脳機能スケール、新ストループ検査、長谷川式認知症スケール、N式精神機能検査、COGNISTAT、MEDE多面的初期痴呆判定検査、NS痴呆症状検査、TAIS、MMSEなどが挙げられる。神経生理学的検査としては、脳波の事象関連電位などがあり、事象関連電位としては、随伴陰性変動(CNV)、P1-N1-P2、NA、Nd、N2b、P300、MMN、N400などが挙げられる。認知機能は、より医学的には、機能的核磁気共鳴画像法(fMRI)、単一光子放射断層撮影(SPECT)、光トポグラフィーなどによる脳の高次機能の活動測定によって評価でき、また、大衆的には、いわゆる脳トレと呼ばれる一連のテレビゲームソフトなどによっても評価できる。さらに、認知機能は、光反応時間などを調べる体力測定などによっても評価できる。
【0050】
認知機能は、例えば後述の試験例のようにパソコン画面上に文字で表示される指示に従って行われるテストを含む検査で測定されることが好ましい。よって、本発明は言語を理解できる人に適用することが好ましい。年齢で言えば5歳程度以上の人に本発明を適用するのが好ましい。一般的に認知機能は、生まれてから年齢を重ねるに従い向上し、20歳前後でピークを迎え、その後は減衰していくと言われている。本発明は、40歳以上の人に適用することがより好ましく、50歳以上の人に適用することが特に好ましい。適用対象の年齢の上限は特にないが、通常100歳以下である。
【0051】
本発明は、健常人に適用することが好ましい。本発明において「健常人」とは、記憶力に影響を及ぼすような疾患の診断を受けていない人である。また、入院患者や病気療養中ではなく、通常の生活を送っている人である。
【0052】
本発明において記憶力は、上記で定義した認知機能(知覚、判断、注意、記憶、思考、言語理解などの知的活動として総合的な能力)の内、少なくとも言語理解に基づく記憶に関する能力である。
【0053】
本明細書において記憶は、記憶するものの観点で、視覚記憶、言語記憶などに分けることができ、また、記憶している時間の長さの観点で、超短期記憶、短期記憶、中長期記憶に分けることができる。本発明において記憶は、作動記憶(ワーキングメモリー)を含む。本明細書において総合記憶力は、視覚記憶力及び言語記憶力を含む。
【0054】
本明細書において視覚記憶力は、例えば図形及び色などの視空間情報についての記憶力である。また、本明細書において言語記憶力は、例えば文字の概念、数字の意味などの言語情報についての記憶力である。
【0055】
本明細書において超短期記憶は、ある情報を認知したときに例えば30秒未満に消滅するものをいい、短期記憶は、ある情報を認知したときに一定時間経過まで(例えば5分未満)に消滅するものをいい、中長期記憶は、認知した情報の一部が一定時間(例えば5分以上)経過後も残っているものをいう。本明細書において、ヒトやモノの名前を思い出すことは、上述の認知機能の試験より前から記憶している情報を呼び起こすことであり、記憶する期間が短期記憶よりも長い中長期記憶に含まれる。
【0056】
本明細書において作動記憶(ワーキングメモリー)は、短期記憶のように記憶自体を目的とするのではなく、課題遂行のために記憶を道具として用いる場合に使われる概念であり、短期記憶を一時しまっておき、また思い出すことを可能にする貯蔵システムである。計算、読解などの複雑な仕事を頭の中で行うときには、必要とされる情報をどこかに記憶する必要がある。このような記憶が、ワーキングメモリー(作動記憶)である。即ち、作動記憶は、必要な情報を書き込む、保存する、あとで確認できる、という三つの働きを持ったメモのようなものである。
【0057】
作動記憶は音声、言語情報を扱う音韻ループ、視空間情報を扱う視空間スケッチパッド、これら2つを統制すると同時に課題遂行のための活動を担う中央実行系から構成されると言われている。音韻ループ又は視空間スケッチパッドでは情報の取入れが行われ、中央実行系が課題遂行の経過を見ながら、どの記憶又は作業へより多くの注意を払うかを調整する。
【0058】
本発明の試験例で用いられている「Cognitrax」という認知機能検査は、米国のCNS Vital Signs社が開発した認知機能検査技術であり、既存の認知機能検査を基にし、コンピューターを用いてウェブ上で検査を実施するものである。「Cognitrax」は記憶力・注意力・処理速度・実行機能など広範囲の機能領域を測定し、結果は数値化、年齢標準値との比較で表示することができる。「Cognitrax」は10種類のテストを提供しており、検査目的によりテストを選択可能であり、個人の値を経時的モニターすることにより記憶力や認知機能の変化を見つけることが可能である。10種類のテストは言語記憶、視覚記憶、指たたき、SDC(Symbol Degit Coding)、ストループ、注意シフト、持続処理、表情認知、論理思考、及び4パート持続処理の検査項目からなる。
【0059】
言語記憶テストは、画面に2秒に1個ずつ表示される15個の単語を記憶し、その直後、新たな単語も含む30の単語から、記憶した単語を見つけるテスト、及び全ての検査の後に、再度新たな単語も含む30の単語から、記憶した単語を見つけるテストである。
【0060】
視覚記憶テストは、画面に2秒に1個ずつ表示される15種類の図形を記憶し、その直後、新たな図形も含む30の図形から、記憶した図形を見つけるテスト、及び全ての検査の後に、再度新たな図形も含む30の単語から、記憶した図形を見つけるテストである。
【0061】
指たたきテストは、人差し指でスペースキーを10秒間できるだけ早く連打することを、右手3回、左手3回の合計6回行うテストである。
【0062】
SDCテストは、下記のサンプル画面1のように、画面上部に8個のシンボルを含む凡例と対応する8個の数字、画面下部に順番が入れ替わった8個の凡例と8個の空欄が表示され、被験者が凡例に対応する数字を画面下部の空欄に入力するテストである。
【0063】
【数1】
【0064】
ストループテストは、以下の3つのパートから成るテストである。
第1パート:文字が画面に現れたらできるだけ早くスペースキーを押す。
第2パート:赤、黄、青および緑の文字が色文字で画面に表示されるので、文字の色と文字の意味が一致したらスペースキーを押す。
第3パート:文字の色が文字の意味と一致しないときだけスペースキーを押す。
【0065】
注意シフトテストは、3個の図が、画面上部に1個、画面下部に2個表示されるので、所定のルールに沿って画面上部の図と適合する図を画面下部の図から選ぶテストである。ルール:「形」が合っているもの、又は「色」が同じものを選ぶ。
【0066】
持続処理テストは、画面にランダムに表示される文字の中で、「B」が表示された場合だけスペースキーを押すテストである。
【0067】
表情認知テストは、画面に表示された顔の表情が、顔の下に書かれた言葉の意味と一致している場合にスペースキーを押すテストである。
【0068】
論理思考テストは、下記のサンプル画面2のように、4つに分けられた区画の内3つの区画には図が入っており1つの区画が空欄となっているパターンが画面中央に表示されており、空いている区画に入るべき図を推論して、画面下部に表示された図の候補から選び、画面下部の図に対応する数字を入力するテストである。
【0069】
【数2】
【0070】
4パート持続処理テストは、以下の4つのパートから成る。4パート持続処理テストは、作動記憶力及び持続性注意力を測定することができる。
パート1:単純反応速度 画面に図形(四角、丸等)が表示されたら出来るだけ早くスペースキーを押すテストである。
パート2:持続処理テスト ランダムに表示される図形の中で、指定された特定の図形(色と形)が表示されたら出来るだけ早くスペースキーを押すテストである。
パート3:1枚前の図の記憶を検査 ランダムに表示される図形の中で、直前と同じ図形(色と形)が表示されたら出来るだけ早くスペースキーを押すテストである。
パート4:2枚前の図の記憶を検査 ランダムに表示される図形の中で、二つ前と同じ図形(色と形)が表示されたら出来るだけ早くスペースキーを押すテストである。
【0071】
「Cognitrax」は上記の10種類のテストによって、神経認知インデックス(NCI)、総合記憶力、言語記憶力、視覚記憶力、認知機能速度、反応時間、総合注意力、認知柔軟性、処理速度、実行機能、社会的認知、論理思考、ワーキングメモリー、持続的注意力、単純注意力、運動速度の項目が評価される。「Cognitrax」の検査による評価では、総合記憶力は、言語記憶力、及び視覚記憶力の点数の和で表される。
【0072】
総合記憶力の点数の算出法を説明する。
言語記憶テストは画面に2秒に1個ずつ表示される15個の単語を記憶し,その直後,新たな単語も含む30の単語から、記憶した単語を見つけるテスト(即時記憶スコア, immediate memory scores),および全ての検査の後に再度新たな単語も含む30の単語から,記憶した単語を見つけるテスト(遅延記憶スコア, delayed memory scores)である。視覚記憶テストは言語記憶テストで記憶する単語が図形に変わったテストであり,手順は言語記憶テストと同様である。
【0073】
総合記憶力は言語記憶テストおよび視覚記憶テストの正解数から求められ,標準化スコアに変換される。標準化スコアは平均値を100、標準偏差値を15とする正規分布での正規化スコアを実測値から求めたものであり,同年代の平均値より1SD良ければ標準化スコアは115となる。
【0074】
上述したように「Cognitrax」における視覚記憶力の検査では15種の図形を連続で示され、言語記憶力の検査では15種の言葉を連続で示され、それらを記憶しているかを調べられる。「Cognitrax」における総合記憶力は、特許文献1の「作動記憶」と比べると、格段に情報量が多く、分単位で比較的記憶しておく時間が長く、視覚的な情報だけでなく言語の情報に関する記憶を検査している。
【0075】
本発明者らは、アスタキサンチン類、又は、アスタキサンチン類及びビタミンEを摂取したヒトの脳内でアスタキサンチン類、又は、アスタキサンチン類及びビタミンEが抗酸化作用、神経保護作用、抗炎症作用を発揮することで、視覚記憶、言語記憶などの記憶力の向上効果が得られると推測している。
【実施例
【0076】
以下に、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、単位は質量基準である。
【0077】
<アスタキサンチン類を含有する組成物の調製>
緑藻ヘマトコッカス・プルビアリス(Haematococcus pluvialis)を、25℃にて光照射条件下3%COを含むガスを通気しながら栄養ストレス(窒素源欠乏)をかけて培養し、シスト化した。シスト化した細胞を、ビーズビーターによって破砕し、エタノールでアスタキサンチンを含む油性物質を抽出した。粗抽出物を減圧濃縮してエタノールを留去し、アスタキサンチンをフリー体換算で10質量%含むエタノール抽出物を調製した。
また、上記同様にシスト化した細胞を粉砕処理した後、ペレット状に成形し、超臨界状態の二酸化炭素を又は超臨界点近傍の状態の二酸化炭素をそのペレットを充填した層を通過させて抽出し、次いで減圧を行って二酸化炭素を除去して超臨界抽出物を調製した。
【0078】
<製造例>
上記の方法で得られたエタノール抽出物90mg及び「TheraPrimETMパームトコトリエノール92%」(BGG Japan社製)70mgを混合して製造例1を得た。
上記の方法で得られた超臨界抽出物90mg及び「TheraPrimETMパームトコトリエノール92%」(BGG Japan社製)70mgを混合して製造例2を得た。
製造例1及び2をソフトカプセルに調製し、それぞれ表1に示す組成の製造例3~8とした。製造例3~8はアスタキサンチン類(ASX)を含有するものである。
一方、表2で示すように、製造例3~8におけるアスタキサンチン類をそれぞれ、ビタミンEと混合して製造例9~14とした。製造例9~14はアスタキサンチン類及びビタミンE群(ASX+VE)を含有するものである。
【0079】
<被験食の調製>
製造例3をアスタキサンチン類(ASX)の被験食とした。被験食の1日分1粒には、アスタキサンチン類9mg(3.26質量%)が含まれていた。
製造例9をアスタキサンチン類及びビタミンE群(ASX+VE)の被験食とした。被験食の1日分1粒には、アスタキサンチン類9mg(3.26質量%)及びトコトリエノール50mg(18.1質量%)が含まれていた。
アスタキサンチン類において、モノエステル体としては89.3質量%、ジエステル体としては9.4質量%が含まれていた。
また、MCT(中鎖脂肪酸)70mLをソフトカプセルに調製し、プラセボ群の被験食とした。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
<被験者>
アスタキサンチン類の評価試験においては、被験者は41歳以上71歳以下の健常な日本人成人男女34名(アスタキサンチン群: n=16名、プラセボ群:n=18名)とした。
アスタキサンチン類及びビタミンEの評価試験においては、被験者は41歳以上75歳以下の健常な日本人成人男女36名(アスタキサンチン類及びビタミンE群:n=18名、プラセボ群:n=18名)とした。
【0083】
<被験食の摂取>
アスタキサンチン群の被験者は製造例3のソフトカプセル1粒を朝食中又は朝食後に摂取することを12週間継続して行った。アスタキサンチン類及びビタミンE群の被験者は製造例9のソフトカプセル1粒を朝食中又は朝食後に摂取することを12週間継続して行った。一方、プラセボ群の被験者は中鎖脂肪酸(MCT)ソフトカプセル1粒を朝食中又は朝食後に摂取することを12週間継続して行った。
【0084】
<統計解析>
本試験では、いずれも試験登録時(被験食の摂取前)、摂取開始から8週間後、12週間後に計3回の検査を行い、認知機能を測定した。試験登録時(被験食の摂取前)の測定データをベースラインとし、摂取開始から各検査ポイントの測定値からベースラインを減算したものを変化量(Δ8週間後、Δ12週間後)とした。被験者の背景として、年齢、MMSE、IgE (RIST)および視力を人口統計学的に集計し、Welchのt検定を用いて群間比較した。認知機能検査のベースラインと変化量は平均と標準偏差で示し、Welchのt検定を用いて群間比較した。自覚症状はベースラインと摂取8、12週間後の実測値をそれぞれMann-WhitneyのU検定を用いて群間比較した。すべての統計解析は両側検定で行うものとし、有意水準は5%に設定した。ソフトウェアは、Windows版のSPSS Ver. 23.0(日本アイ・ビー・エム株式会社製)を用いた。多項目、多時点に起因する多重性は考慮せず有意確率は調整しないこととした。
【0085】
[試験例1]認知機能検査「Cognitrax」
試験例1では、被験食の摂取前、摂取8週間後、摂取12週間後の認知機能を「Cognitrax」により測定した。検査結果のうち、記憶に関する検査項目である視覚記憶力、言語記憶力及びそれらの和から算出される総合記憶力について、変化量をそれぞれ図1~3に示す。図2によれば、アスタキサンチン類及びビタミンE群(ASX+VE)の言語記憶力(変化量)がプラセボ群と比べて摂取後12週間後には有意に向上していることが判る。図3によれば、アスタキサンチン類(ASX)、又は、アスタキサンチン類及びビタミンE群(ASX+VE)の総合記憶力(変化量)がプラセボ群と比べて摂取後12週間後には有意に向上していることが判る。
【0086】
[試験例2]記憶に関する自覚アンケート
試験例2では、記憶に関する自覚アンケートを被験食の摂取前、摂取8週間後、摂取12週間後に実施した。自覚アンケートの質問項目は以下の表3の通りであり、リッカートスケール法を用い、自覚を評価した。6段階で評価し、数値が低いほど記憶に関する自覚が良いことを表す。評価基準は次のとおりである。1.「まったくあてはまらない」、2.「ほとんどあてはまらない」、3.「あまりあてはまらない」、4.「少しあてはまる」、5.「かなりあてはまる」、6.「非常にあてはまる」
アンケートの結果を図4に示す。「ここ1週間、ヒトやモノの名前を思い出すのに苦労しますか。」という質問でアスタキサンチン類(ASX)、又は、アスタキサンチン類及びビタミンE群(ASX+VE)の実測値が、プラセボ群と比べて摂取後12週間後に有意に減少した。ヒトやモノの名前を思い出すことは、本認知機能検査の前から記憶している情報を呼び起こすことであり、記憶する期間が短期記憶よりも長い中長期の記憶に当たる。被験食の摂取により、中長期の記憶力が向上したことが判る。
【0087】
【表3】
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B