(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】ゴム組成物、ゴム-金属複合体、タイヤ、コンベヤベルト、ホース及びクローラ
(51)【国際特許分類】
C08L 21/00 20060101AFI20240828BHJP
C08K 5/098 20060101ALI20240828BHJP
C08K 5/25 20060101ALI20240828BHJP
C08K 5/3415 20060101ALI20240828BHJP
C08K 5/41 20060101ALI20240828BHJP
C08K 5/52 20060101ALI20240828BHJP
C08K 5/55 20060101ALI20240828BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240828BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20240828BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20240828BHJP
B62D 55/24 20060101ALI20240828BHJP
F16L 11/04 20060101ALI20240828BHJP
F16L 11/08 20060101ALI20240828BHJP
【FI】
C08L21/00
C08K5/098
C08K5/25
C08K5/3415
C08K5/41
C08K5/52
C08K5/55
C08K3/04
C08K3/36
B60C1/00 C
B62D55/24
F16L11/04
F16L11/08 A
(21)【出願番号】P 2021551324
(86)(22)【出願日】2020-09-29
(86)【国際出願番号】 JP2020036976
(87)【国際公開番号】W WO2021065931
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2019181067
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金田 一則
(72)【発明者】
【氏名】金冨 芳彦
(72)【発明者】
【氏名】山岸 淳一
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/039375(WO,A1)
【文献】特開2002-205506(JP,A)
【文献】国際公開第2016/203886(WO,A1)
【文献】特開2002-194139(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K,B60C,B62D,F16L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分と、
炭素数が2~25であり、金属種がビスマス、銅、アンチモン、銀、ニオブ及びジルコニウムからなる群より選択されるいずれかであるカルボン酸金属塩(1);及び、下記式(A)で表される化合物(2)からなる群より選択される少なくとも1種を含有するゴム-金属接着促進剤と、
4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミドと
を含有するゴム組成物。
【化1】
〔式(A)中、Zは、式(z-1)~式(z-4)から選ばれる構造である。Mはビスマス、銅、アンチモン、銀、ニオブ、又はジルコニウムである。(RCOO)は炭素数2~25の脂肪族カルボン酸の残基である。xは、(Mの価数-1)の整数である。〕
【請求項2】
更に、ヘキサメチレンビスチオサルフェート2ナトリウム2水和物、1,3-ビス(シトラコンイミドメチル)ベンゼン、及び3-ヒドロキシ-N’-(1,3-ジメチルブチリデン)-2-ナフトエ酸ヒドラジドからなる群より選択される少なくとも1種を含む請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
カーボンブラック及びシリカからなる群より選択される少なくとも1種を含有する充填材を含む請求項1または2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記ゴム成分が天然ゴムを含む請求項1~3のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記ゴム-金属接着促進剤が、前記カルボン酸金属塩(1)を含有し、該カルボン酸金属塩(1)の金属種がビスマスまたは銅である請求項1~4のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項6】
前記ゴム-金属接着促進剤が、前記カルボン酸金属塩(1)を含有し、該カルボン酸金属塩(1)における脂肪族カルボン酸が、脂肪族モノカルボン酸または脂肪族ジカルボン酸である請求項1~5のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項7】
前記脂肪族モノカルボン酸が、炭素数2~20の飽和脂肪族モノカルボン酸である請求項6に記載のゴム組成物。
【請求項8】
前記炭素数2~20の飽和脂肪族モノカルボン酸が、2-エチルヘキサン酸、ネオデカン酸、ヘキサデカン酸またはオクタデカン酸である請求項7に記載のゴム組成物。
【請求項9】
前記ゴム-金属接着促進剤が、前記化合物(2)を含有し、該化合物(2)中のMがビスマスまたは銅である請求項1~8のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項10】
前記ゴム-金属接着促進剤が、前記化合物(2)を含有し、該化合物(2)中のZが前記式(z-1)で表される構造である請求項1~9のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項11】
前記ゴム-金属接着促進剤が、前記化合物(2)を含有し、該化合物(2)における(RCOO)が、炭素数2~20の飽和脂肪族モノカルボン酸の残基である請求項1~10のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項12】
前記化合物(2)における(RCOO)が、2-エチルヘキサン酸の残基、ネオデカン酸の残基、ヘキサデカン酸の残基またはオクタデカン酸の残基である請求項11に記載のゴム組成物。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載のゴム組成物の加硫ゴムと金属とを含むゴム-金属複合体。
【請求項14】
請求項13に記載のゴム-金属複合体を含むタイヤ。
【請求項15】
請求項13に記載のゴム-金属複合体を含むコンベヤベルト。
【請求項16】
請求項13に記載のゴム-金属複合体を含むホース。
【請求項17】
請求項13に記載のゴム-金属複合体を含むクローラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物、ゴム-金属複合体、タイヤ、コンベヤベルト、ホース及びクローラに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の環境規制から、ゴム-金属間接着の促進剤として汎用されているコバルト塩(ステアリン酸コバルト、バーサチック酸コバルト等)に代わる物質の検討が急がれている。
【0003】
例えば、炭素数2~25の脂肪族カルボン酸の金属塩であって、該金属がビスマス、銅、アンチモン、銀またはニオブであるカルボン酸の金属塩(1)、または、下記一般式(A)〔式中、Zは下記式(z-1)~式(z-4)から選ばれる構造である。Mはビスマス、銅、アンチモン、銀またはニオブである。(RCOO)は炭素数2~25の脂肪族カルボン酸の残基である。xは、(Mの価数-1)である。〕で表される化合物(2)を含有することを特徴とするゴムと金属との接着促進剤(例えば、特許文献1参照)が開示されている。
【0004】
平均式:X(OMA′p)m(OMB′p)n[式中、Mはコバルト、ニッケル、またはビスマスであり、B′は炭素数が7-11の芳香族カルボン酸の残基であり、A′は炭素数が7-11の脂肪族カルボン酸の残基であり、pはMがコバルトまたはニッケルである時には1であるかまたはMがビスマスである時には2であり、nは0.5-2であり、そしてmは(3-n)である]の金属有機化合物(例えば、特許文献2参照)が開示されている。
【0005】
フェノール性ヒドロキシ基を有する置換基をもつゲル化可能な高分子物質を含有する水性媒質の粘度を増加せしめるか又はゲル化を起こさせる方法であって、有効量のラッカーゼを該水性媒質に添加することを含んでなる方法(例えば、特許文献3参照)が開示されている。
【0006】
銅、亜鉛およびコバルトを含むめっき層が形成された、1本または複数本スチールフィラメントを有するスチールコードとゴムとが接着されてなるスチールコード-ゴム複合体において、前記ゴムと前記めっき層とが接着され、前記めっき層のうち銅と硫黄の化合物が存在する層を接着層とし、該接着層の硫黄含量を、前記めっき層から前記ゴムに向かって、前記スチールフィラメントの長手方向に対して垂直方向に分析し、硫黄含量が増加する変曲点の位置を接着層最下部としたとき、前記スチールフィラメントの長手方向において等間隔に6点、前記接着層最下部から、前記スチールフィラメントの長手方向に対して垂直方向内側に向かって100nm、コバルトの原子%を分析し、前記めっき層全体のコバルトの原子%よりもコバルトの原子%が高い部分をコバルトリッチ領域(nm)としたとき、前記6点のコバルトリッチ領域の合計(nm)が、前記6点の分析範囲の合計(nm)の40%以上であることを特徴とするスチールコード-ゴム複合体(例えば、特許文献4参照)等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2016/039375号
【文献】特開平4-230397号公報
【文献】特表平10-502962号公報
【文献】国際公開第2016/203886号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1~4に記載のビスマス塩等は、ゴム-金属接着性が得られるものの、加硫ゴムの弾性率が低下し、ゴム-金属接着性と加硫ゴムの耐久性との両立には課題が多い。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑み、弾性率が高く、ゴム-金属接着性に優れる加硫ゴムが得られるゴム組成物、耐久性及びゴム-金属接着性に優れるゴム-金属複合体、並びに耐久性に優れるタイヤ、コンベヤベルト、ホース及びクローラを提供することを目的とし、当該目的を解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
<1> ゴム成分と、炭素数が2~25であり、金属種がビスマス、銅、アンチモン、銀、ニオブ及びジルコニウムからなる群より選択されるいずれかであるカルボン酸金属塩(1);及び、下記式(A)で表される化合物(2)からなる群より選択される少なくとも1種を含有するゴム-金属接着促進剤と、4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミドとを含有するゴム組成物。
【0011】
【0012】
式(A)中、Zは、式(z-1)~式(z-4)から選ばれる構造である。Mはビスマス、銅、アンチモン、銀、ニオブ、又はジルコニウムである。(RCOO)は炭素数2~25の脂肪族カルボン酸の残基である。xは、(Mの価数-1)の整数である。
【0013】
<2> 更に、ヘキサメチレンビスチオサルフェート2ナトリウム2水和物、1,3-ビス(シトラコンイミドメチル)ベンゼン、及び3-ヒドロキシ-N’-(1,3-ジメチルブチリデン)-2-ナフトエ酸ヒドラジドからなる群より選択される少なくとも1種を含む<1>に記載のゴム組成物。
<3> カーボンブラック及びシリカからなる群より選択される少なくとも1種を含有する充填材を含む<1>又は<2>に記載のゴム組成物。
<4> 前記ゴム成分が天然ゴムを含む<1>~<3>のいずれか1つに記載のゴム組成物。
【0014】
<5> 前記ゴム-金属接着促進剤が、前記カルボン酸金属塩(1)を含有し、該カルボン酸金属塩(1)の金属種がビスマスまたは銅である<1>~<4>のいずれか1つに記載のゴム組成物。
<6> 前記ゴム-金属接着促進剤が、前記カルボン酸金属塩(1)を含有し、該カルボン酸金属塩(1)における脂肪族カルボン酸が、脂肪族モノカルボン酸または脂肪族ジカルボン酸である<1>~<5>のいずれか1つに記載のゴム組成物。
<7> 前記脂肪族モノカルボン酸が、炭素数2~20の飽和脂肪族モノカルボン酸である<6>に記載のゴム組成物。
<8> 前記炭素数2~20の飽和脂肪族モノカルボン酸が、2-エチルヘキサン酸、ネオデカン酸、ヘキサデカン酸またはオクタデカン酸である<7>に記載のゴム組成物。
【0015】
<9> 前記ゴム-金属接着促進剤が、前記化合物(2)を含有し、該化合物(2)中のMがビスマスまたは銅である<1>~<8>のいずれか1つに記載のゴム組成物。
<10> 前記ゴム-金属接着促進剤が、前記化合物(2)を含有し、該化合物(2)中のZが前記式(z-1)で表される構造である<1>~<9>のいずれか1つに記載のゴム組成物。
<11> 前記ゴム-金属接着促進剤が、前記化合物(2)を含有し、該化合物(2)における(RCOO)が、炭素数2~20の飽和脂肪族モノカルボン酸の残基である<1>~<10>のいずれか1つに記載のゴム組成物。
<12> 前記化合物(2)における(RCOO)が、2-エチルヘキサン酸の残基、ネオデカン酸の残基、ヘキサデカン酸の残基またはオクタデカン酸の残基である<11>に記載のゴム組成物。
【0016】
<13> <1>~<12>のいずれか1つに記載のゴム組成物の加硫ゴムと金属とを含むゴム-金属複合体。
<14> <13>に記載のゴム-金属複合体を含むタイヤ。
<15> <13>に記載のゴム-金属複合体を含むコンベヤベルト。
<16> <13>に記載のゴム-金属複合体を含むホース。
<17> <13>に記載のゴム-金属複合体を含むクローラ。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、弾性率が高く、ゴム-金属接着性に優れる加硫ゴムが得られるゴム組成物、耐久性及びゴム-金属接着性に優れるゴム-金属複合体、並びに耐久性に優れるタイヤ、コンベヤベルト、ホース及びクローラを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明をその実施形態に基づき詳細に例示説明する。なお、以下の説明において、数値範囲を示す「A~B」の記載は、端点であるA及びBを含む数値範囲を表し、「A以上B以下」(A<Bの場合)、又は「A以下B以上」(A>Bの場合)を表す。
また、質量部及び質量%は、それぞれ、重量部及び重量%と同義である。
【0019】
<ゴム組成物>
本発明のゴム組成物は、ゴム成分と、炭素数が2~25であり、金属種がビスマス、銅、アンチモン、銀、ニオブ及びジルコニウムからなる群より選択されるいずれかであるカルボン酸金属塩(1);及び、下記式(A)で表される化合物(2)からなる群より選択される少なくとも1種を含有するゴム-金属接着促進剤と、4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミドとを含有する。
【0020】
【0021】
式(A)中、Zは、式(z-1)~式(z-4)から選ばれる構造である。Mはビスマス、銅、アンチモン、銀、ニオブ、又はジルコニウムである。(RCOO)は炭素数2~25の脂肪族カルボン酸の残基である。xは、(Mの価数-1)の整数である。
【0022】
ゴム-金属接着の接着剤のコバルト含有化合物の代替品としてビスマス等の金属を含む化合物を用いると、ゴム-金属の接着性は得られるものの、加硫ゴムの弾性率が低下した。これに対し、本発明のゴム組成物が上記構成であることで、弾性率が高く、加硫ゴム-金属接着性に優れる加硫ゴムが得られるゴム組成物、耐久性及びゴム-金属接着性に優れるゴム-金属複合体、並びに耐久性に優れるタイヤが得られる。かかる理由は定かではないが、既述のビスマス等を含むゴム-金属接着促進剤と4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミドとを用いることで、加硫ゴムの弾性率が補完され、弾性率が高くなることから、加硫ゴムはゴム-金属接着性に優れ、ゴム-金属複合体は耐久性に優れると推察される。
【0023】
特に、本発明のゴム組成物は、未加硫状態のゴム-金属複合体(ゴム-金属複合体前駆体と称する)を作製し、時間経過後に加硫してゴム-金属複合体を得た場合も、金属の腐食を抑制し、ゴム-金属接着性に優れ、耐久性の高いゴム-金属複合体を得ることができる。
金属にゴム組成物を接触させ、一定の時間(例えば、1週間)放置することを「トリート放置」と称することがある。
本発明のゴム組成物は、コバルト含有材を含むゴム組成物に比べ、トリート放置後の金属腐食を抑制することができる。従って、例えば、金属コードをゴム組成物で被覆し、一定期間経過後に、ゴム組成物を加硫してゴム-金属複合体を製造した場合、金属腐食に伴うゴム-金属接着性の低下を抑制し、また、ゴム-金属複合体の耐久性の低下を抑制することができる。
以下、本発明のゴム組成物、ゴム-金属複合体、及びタイヤについて、詳細に説明する。
【0024】
〔ゴム成分〕
本発明のゴム組成物は、ゴム成分を含有する。
ゴム成分としては、天然ゴム(NR)及び合成ジエン系ゴムからなる群より選択される少なくとも1種のジエン系ゴムが挙げられる。ゴム成分は変性されていてもよい。
合成ジエン系ゴムとして、具体的には、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ブタジエン-イソプレン共重合体ゴム(BIR)、スチレン-イソプレン共重合体ゴム(SIR)、スチレン-ブタジエン-イソプレン共重合体ゴム(SBIR)等、及びそれらの変性ゴムが挙げられる。
ジエン系ゴムは、金属と加硫ゴムとの接着性の観点から、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム、ポリブタジエンゴム、及びイソブチレンイソプレンゴム、並びにそれらの変性ゴムが好ましく、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、及びポリブタジエンゴムがより好ましく、天然ゴム及びポリイソプレンゴムが更に好ましい。
ジエン系ゴムは、一種単独で用いてもよいし、二種以上をブレンドして用いてもよい。
【0025】
ゴム成分は、金属と加硫ゴムとの接着性を上げ、得られるゴム-金属複合体の耐久性を向上する観点から、天然ゴムを55質量%以上含有することが好ましく、65質量%以上含有することがより好ましく、75質量%以上含有することが更に好ましい。ゴム成分中の天然ゴムの割合の上限は100質量%であってもよい。
ゴム成分は、金属と加硫ゴムとの接着性を上げ、得られるゴム-金属複合体の耐久性を向上する観点から、天然ゴム(NR)とポリイソプレンゴム(IR)とを併用することが好ましく、両者の比(天然ゴムの質量:ポリイソプレンゴムの質量)は、55:45~95:5であることが好ましく、65:35~93:17であることがより好ましく、70:30~90:10であることが更に好ましい。
ゴム成分は、本発明の効果を損なわない限度において、非ジエン系ゴムを含んでいてもよい。
【0026】
〔ゴム-金属接着促進剤〕
本発明のゴム組成物は、炭素数が2~25であり、金属種がビスマス、銅、アンチモン、銀、ニオブ及びジルコニウムからなる群より選択されるいずれかであるカルボン酸金属塩(1);及び、下記式(A)で表される化合物(2)からなる群より選択される少なくとも1種を含有するゴム-金属接着促進剤を含有する。
【0027】
【0028】
式(A)中、Zは、式(z-1)~式(z-4)から選ばれる構造である。Mはビスマス、銅、アンチモン、銀、ニオブ、又はジルコニウムである。(RCOO)は炭素数2~25の脂肪族カルボン酸の残基である。xは、(Mの価数-1)の整数である。
【0029】
カルボン酸金属塩(1)は、炭素数2~25の脂肪族カルボン酸の金属塩である。ここで、金属種は、ビスマス、銅、アンチモン、銀、ニオブ、又はジルコニウムである。金属種の中でも湿熱条件下においてもスチールコードとゴムとの接着が良好な接着促進剤となることからビスマス、銅、アンチモンまたは銀が好ましく、ビスマスまたは銅がより好ましい。
カルボン酸金属塩(1)の炭素数が2より小さいと、カルボン酸金属塩(1)とゴム成分との相溶性が低く、加硫ゴムと金属との高い接着力が得られない。また、炭素数が25よりも大きいカルボン酸金属塩(1)は合成しにくい。
【0030】
炭素数2~25の脂肪族カルボン酸としては、例えば、脂肪族モノカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。なお、脂肪族カルボン酸の炭素数とは、カルボキシ基の炭素数を含めた数をいう。
【0031】
炭素数2~25の脂肪族カルボン酸としては、例えば、飽和脂肪族モノカルボン酸、不飽和脂肪族モノカルボン酸等が挙げられる。
飽和脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、エタン酸、プロパン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、2-エチルヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、イソノナン酸、デカン酸、ネオデカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、エイコサン酸、ドコサン酸、テトラコサン酸、ナフテン酸等が挙げられる。
【0032】
不飽和脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、9-ヘキサデセン酸、cis-9-オクタデセン酸、11-オクタデセン酸、cis,cis-9,12-オクタデカジエン酸、9,12,15-オクタデカトリエン酸、6,9,12-オクタデカトリエン酸、9,11,13-オクタデカトリエン酸、エイコサン酸、8,11-エイコサジエン酸、5,8,11-エイコサトリエン酸、5,8,11,14-エイコサテトラエン酸、桐油酸、アマニ油酸、大豆油酸、樹脂酸、トール油脂肪酸、ロジン酸、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、ピマール酸、デヒドロアビエチン酸等が挙げられる。
【0033】
炭素数2~25の脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、飽和脂肪族ジカルボン酸、不飽和脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。
飽和脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸等が挙げられる。
不飽和脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、フマル酸、マレイン酸等が挙げられる。
【0034】
炭素数2~25の脂肪族カルボン酸は、脂肪族モノカルボン酸または脂肪族ジカルボン酸であることが好ましく、脂肪族モノカルボン酸がより好ましく、飽和脂肪族モノカルボン酸が更に好ましい。飽和脂肪族モノカルボン酸を用いることで、ゴムの硫黄架橋に影響を及ぼしにくく、加硫ゴムのゴム物性の低下を抑制することができる。
飽和脂肪酸の中でも、炭素数2~20の飽和脂肪族モノカルボン酸が好ましく、2-エチルヘキサン酸、ネオデカン酸、ヘキサデカン酸またはオクタデカン酸がより好ましい。
【0035】
カルボン酸金属塩(1)は、例えば、下記に示す方法により得ることができる。
製法1:炭素数2~25の脂肪族カルボン酸(a)と、金属(ビスマス、銅、アンチモン、銀、ニオブ、ジルコニウム)の酸化物(b-1)、金属(ビスマス、銅、アンチモン、銀、ニオブ、ジルコニウム)の水酸化物(b-2)及び金属(ビスマス、銅、アンチモン、銀、ニオブ、ジルコニウム)の炭酸塩(b-3)から選ばれる一種以上とを、直接反応させて製造する方法(直接法)。
【0036】
製法2:炭素数2~25の脂肪族カルボン酸(a)と水酸化ナトリウムとを水の存在下で反応させて脂肪族カルボン酸のナトリウム塩を得た後、該脂肪族カルボン酸のナトリウム塩と金属(ビスマス、銅、アンチモン、銀、ニオブ、ジルコニウムの金属塩)の硫酸塩(c-1)、金属(ビスマス、銅、アンチモン、銀、ニオブ、ジルコニウム)の塩化物(c-2)および金属(ビスマス、銅、アンチモン、銀、ニオブ、ジルコニウム)の硝酸塩(c-3)から選ばれる一種以上とを反応させ製造する方法(複分解法)。
【0037】
金属(ビスマス、銅、アンチモン、銀、ニオブ、ジルコニウム)の酸化物(b-1)としては、例えば、酸化ビスマス(III)、酸化銅(I)、酸化銅(II)、酸化アンチモン(III)、酸化アンチモン(V)、酸化銀(I)、酸化銀(II)、酸化銀(III)、酸化ニオブ(IV)、酸化ニオブ(V)、酸化ジルコニウム等が挙げられる。
金属(ビスマス、銅、アンチモン、銀、ニオブ、ジルコニウム)の水酸化物(b-2)としては、例えば、水酸化銅(II)、水酸化ジルコニウム等が挙げられる。
金属(ビスマス、銅、アンチモン、銀、ニオブ、ジルコニウム)の炭酸塩(b-3)としては、例えば、炭酸ビスマス(III)、炭酸酸化ビスマス(III)、炭酸銅(II)等が挙げられる。
【0038】
金属(ビスマス、銅、アンチモン、銀、ニオブ、ジルコニウム)の硫酸塩(c-1)としては、例えば、硫酸銅(II)、硫酸ジルコニウム等が挙げられる。
金属(ビスマス、銅、アンチモン、銀、ニオブ、ジルコニウム)の塩化物(c-2)としては、例えば、塩化酸化ビスマス(III)、塩化銅(I)、塩化銅(II)、塩化アンチモン(III)、塩化アンチモン(V)、塩化銀(I)、塩化ニオブ(V)等が挙げられる。
金属(ビスマス、銅、アンチモン、銀、ニオブ、ジルコニウム)の硝酸塩(c-3)としては、例えば、硝酸ビスマス(III)、次硝酸ビスマス(III)、硝酸銀(I)等が挙げられる。
【0039】
製法1において、炭素数2~25の脂肪族カルボン酸(a)と、化合物(b-1)~(b-3)とを反応させる際の反応温度は、通常50~150℃である。また、反応時間は通常1~20時間である。
【0040】
製法2において、炭素数2~25の脂肪族カルボン酸(a)と水酸化ナトリウムとを有機溶剤の存在下で反応させる際の反応温度は、通常20~100℃である。また、反応時間は通常1~5時間である。
【0041】
製法2において、脂肪族カルボン酸のナトリウム塩と、化合物(c-1)~(c-3)とを反応させる際の反応温度は、通常20~100℃である。また、反応時間は通常1~5時間である。
【0042】
製法2において、脂肪族カルボン酸のナトリウム塩と、化合物(c-1)~(c-3)とを反応させた後、反応系にある水層を分離する。その後、油層内に存在する溶剤を減圧蒸留により除去することで、カルボン酸金属塩(1)を得ることができる。
【0043】
次に、式(A)で表される化合物(2)について詳述する。
化合物(2)の(RCOO)は、炭素数2~25の脂肪族カルボン酸の残基である。脂肪族カルボン酸の残基の炭素数が2より小さいと、ゴム成分と化合物(2)との相溶性に優れず、その結果として、加硫ゴムと金属との接着力が低下する。また、脂肪族カルボン酸の残基の炭素数が25よりも大きいと、化合物(2)を合成しにくい。また、ゴム成分中で化合物(2)が分散しにくく、あるいは加硫ゴムがスチールコード表面に吸着しにくく、その結果として、加硫ゴムと金属との接着力が低下する。
【0044】
炭素数2~25の脂肪族モノカルボン酸の残基としては、例えば、脂肪族モノカルボン酸の残基が挙げられ、カルボン酸金属塩(1)の説明でした脂肪族モノカルボン酸由来の残基を好ましく例示できる。
【0045】
脂肪族カルボン酸の残基の中でも、飽和脂肪族モノカルボン酸の残基が好ましい。飽和脂肪族モノカルボン酸の残基を用いることで、化合物(2)がスチールコード近傍に分散し易くなり、あるいは、加硫ゴムがスチールコード表面に吸着し易くなる。飽和脂肪族モノカルボン酸の残基の中でも、炭素数2~20の飽和脂肪族モノカルボン酸の残基が好ましく、2-エチルヘキサン酸の残基、ネオデカン酸の残基、ヘキサデカン酸の残基またはオクタデカン酸の残基がより好ましい。
【0046】
式(A)で表される化合物中のMは金属種であり、具体的には、ビスマス、銅、アンチモン、銀、ニオブ、又はジルコニウムである。金属種の中でも湿熱条件下においてもスチールコードとゴムとの接着が良好な接着促進剤となることからビスマス、銅、アンチモンまたは銀が好まく、ビスマスまたは銅がより好ましい。
【0047】
また、式(A)で表される化合物(2)中のxは、(Mの価数-1)の整数である。
【0048】
式(A)で表される化合物(2)中のZは、既述の式(z-1)~式(z-4)から選ばれる構造である。
中でも、加硫ゴムと金属との高い接着力を奏する接着促進剤が得やすいことから式(z-1)で表される構造が好ましい。
【0049】
式(A)で表される化合物(2)は、例えば、炭素数2~25の脂肪族カルボン酸(a)と、無機酸エステル(d)と、酸(e)と、金属化合物M(f)とを混合し、加熱して得られる揮発性エステル(g)を除去することにより製造することができる。
【0050】
炭素数2~25の脂肪族カルボン酸(a)は、既述の炭素数2~25の脂肪族モノカルボン酸等が挙げられる。
【0051】
無機酸エステル(d)としては、炭素数1~5の低級アルコールのホウ酸エステル(d-1)、炭素数1~5の低級アルコールのメタホウ酸エステル(d-2)、炭素数1~5の低級アルコールのリン酸エステル(d-3)、炭素数1~5の低級アルコールの亜リン酸エステル(d-4)等が挙げられる。
【0052】
低級アルコールのホウ酸エステル(d-1)としては、例えば、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリプロピル、ホウ酸トリブチル等が挙げられる。
低級アルコールのメタホウ酸エステル(d-2)としては、例えば、メタホウ酸トリメチル、メタホウ酸トリエチル、メタホウ酸トリプロピル、メタホウ酸トリブチル等が挙げられる。
低級アルコールのリン酸エステル(d-3)としては、例えば、リン酸メチル、リン酸エチル、リン酸プロピル、リン酸ブチル等が挙げられる。
低級アルコールの亜リン酸エステル(d-4)としては、例えば、亜リン酸メチル、亜リン酸エチル、亜リン酸プロピル、亜リン酸ブチル等が挙げられる。
以上の中でも、トリート放置後の金属腐食を抑制する観点から、低級アルコールのメタホウ酸エステル(d-2)が好ましい。
【0053】
酸(e)は、無機酸エステル(d)中に存在している炭素数1~5の低級アルコール残基と揮発性エステル(g)を生成可能な酸である。具体的には、例えば、エタン酸、プロパン酸、ブタン酸等が挙げられる。
【0054】
金属化合物M(f)は、化合物(2)の金属源であり、例えば、カルボン酸金属塩(1)の製造方法で説明した既述の、酸化物(b-1)、水酸化物(b-2)、炭酸塩(b-3)等を使用することができる。
【0055】
金属源である金属化合物M(f)の使用割合としては、例えば、炭素数2~25の脂肪族カルボン酸(a)100質量部あたり20~100質量部である。
無機酸エステル(d)の使用割合としては、例えば、炭素数2~25の脂肪族カルボン酸(a)100質量部あたり10~50質量部である。
酸(e)の使用割合としては、例えば、炭素数2~25の脂肪族カルボン酸(a)100質量部あたり10~50質量部である。
【0056】
炭素数2~25の脂肪族カルボン酸(a)と、無機酸エステル(d)と、酸(e)と、金属化合物M(f)との混合は、1工程で行ってもよいし、複数の工程に分けて行ってもよい。
複数の工程に分けて各種成分を混合する方法としては、例えば、次の第1工程と第2工程を含む製造方法が挙げられる。
【0057】
第1工程は、炭素数2~25の脂肪族カルボン酸(a)と、酸(e)と、金属化合物M(f)とを混合し、加熱して反応物(h)を得る工程である。
第2工程は、第1工程で得られた反応物(h)を含む反応系から水を除去した後、この水を除去した反応系に無機酸エステル(d)を加え、反応物(h)と無機酸エステル(d)とを反応させる工程である。
【0058】
上記の2工程で化合物(2)を製造することで、第1工程で生成する水によって無機酸エステル(d)が加水分解することを防止することができ、効率よく化合物(2)を製造することができる。
【0059】
上記の2工程による製造方法において、炭素数2~25の脂肪族カルボン酸(a)と、無機酸エステル(d)と、酸(e)と、金属化合物M(f)とを反応させる温度は、例えば、100~250℃であり、好ましくは、150~220℃である。また、反応時間は、例えば、1~20時間であり、好ましくは、1~5時間である。
【0060】
ゴム-金属接着促進剤のゴム組成物中の含有量は、加硫ゴムと金属との接着性を向上し、金属-ゴム複合体及びタイヤの耐久性を向上する観点から、ゴム成分100質量部に対し、1.0~5.0質量部であることが好ましく、1.5~4.5質量部であることがより好ましく、1.7~4.0質量部であることが更に好ましい。
【0061】
また、ゴム組成物中の金属含有量は、加硫ゴムと金属との接着性を向上し、金属-ゴム複合体及びタイヤの耐久性を向上する観点から、15~55質量%であることが好ましく、23~50質量%であることがより好ましく、25~45質量%であることが更に好ましい。
【0062】
〔4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド〕
本発明のゴム組成物は、4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミドを含有する。
ゴム組成物が4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミドを含有しないと、金属との接着性に優れる加硫ゴムが得られず、ゴム-金属複合体及びタイヤが耐久性に優れない。また、ゴム組成物が4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミドを含有しないとトリート放置後の金属腐食が進み、ゴム-金属接着性が低下する。
ゴム組成物中の4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミドの含有量は、ゴム成分100質量部に対し、0.3~2.0質量部であることが好ましく、0.3~1.5質量部であることがより好ましく、0.5~1.0質量部であることが更に好ましい。
【0063】
本発明のゴム組成物は、ヘキサメチレンビスチオサルフェート2ナトリウム2水和物、1,3-ビス(シトラコンイミドメチル)ベンゼン、及び3-ヒドロキシ-N’-(1,3-ジメチルブチリデン)-2-ナフトエ酸ヒドラジドからなる群より選択される少なくとも1種(成分Bという)を含むことが好ましい。
ゴム組成物が、ヘキサメチレンビスチオサルフェート2ナトリウム2水和物、1,3-ビス(シトラコンイミドメチル)ベンゼン、及び3-ヒドロキシ-N’-(1,3-ジメチルブチリデン)-2-ナフトエ酸ヒドラジドのいずれか一種又は二種または全てを含むことで、ゴム-金属接着性がより向上し、ゴム-金属複合体及びタイヤの耐久性がより向上する。
成分Bは、ヘキサメチレンビスチオサルフェート2ナトリウム2水和物を少なくとも含むことが好ましい。
ゴム組成物中の成分Bの含有量は、ゴム成分100質量部に対し、0.3~5.0質量部であることが好ましく、0.5~3.0質量部であることがより好ましく、1.0~2.0質量部であることが更に好ましい。
【0064】
[コバルト含有材]
本発明のゴム組成物は、コバルト含有材を含有することができるし、含有しないこともできる。
有機酸コバルト塩としては、例えば、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ロジン酸コバルト、バーサチック酸コバルト、トール油酸コバルト、オレイン酸コバルト、リノール酸コバルト、リノレン酸コバルト、パルミチン酸コバルト等を挙げることができる。また、コバルト金属錯体としては、例えばコバルトアセチルアセトナートが挙げられる。
【0065】
既述のように、従来は、コバルト含有材を用いてゴム-金属接着性の効果を得ていたが、本発明のゴム組成物は、ビスマス等を含むゴム-金属接着促進剤を含有するため、ゴム組成物はコバルト含有材を含まなくてもゴム-金属接着性に優れる。また、ゴム組成物がコバルト含有材を含まないことで、トリート放置後の金属腐食を抑制することができ、また、環境負担を軽減することができる。
具体的には、本発明のゴム組成物中のコバルト原子の含有量は、1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であることがより更に好ましく、0質量%であることがより更に好ましい。
更には、ゴム成分中のコバルト元素の含有量が、1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であることがより更に好ましく、0質量%であることがより更に好ましい。
【0066】
[充填材]
本発明のゴム組成物は、充填材を含有することが好ましい。
ゴム組成物が充填材を含有することで、本発明のゴム組成物から得られる加硫ゴムの補強性を向上し、ゴム-金属複合体及びタイヤの耐久性を向上することができる。
充填材の種類は、特に制限されず、例えば、ゴム組成物を補強する補強性充填材が用いられる。補強性充填材としては、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア等の金属酸化物、水酸化アルミニウム、カーボンブラック等が挙げられる。
充填材は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
加硫ゴムの補強性、並びに、ゴム-金属複合体及びタイヤの耐久性をより向上する観点から、充填材はカーボンブラック及びシリカからなる群より選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0067】
(カーボンブラック)
カーボンブラックは、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。カーボンブラックは、例えば、FEF、SRF、HAF、ISAF、SAFグレードのものが好ましく、HAF、ISAF、SAFグレードのものがより好ましく、HAFグレードのものが更に好ましい。
【0068】
ゴム組成物中のカーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは30質量部以上、より好ましくは40質量部以上、更に好ましくは50質量部以上であり、好ましくは90質量部以下、より好ましくは80質量部以下、更に好ましくは70質量部以下である。
ゴム組成物中の充填材の含有量がゴム成分100質量部に対して、30質量部以上であることで、加硫ゴムの補強性に優れ、90質量部以下であることで、充填材同士の擦れ合いに起因したヒステリシスをより低減することができる。
【0069】
(シリカ)
シリカは、例えば、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、コロイダルシリカ、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられる。これらの中で、湿式シリカを使用することが好ましい。シリカは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。なお、シリカの含有量はゴム成分100質量部に対し、1.0~10質量部であることが好ましく、2.0~9.0質量部であることがより好ましく、4.0~8.0質量部であることが更に好ましい。
【0070】
[硫黄]
本発明のゴム組成物は、硫黄を含むことが好ましい。
硫黄は、特に制限はなく、例えば、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄等を挙げることができる。
ゴム組成物中の硫黄の含有量は、ゴム-金属接着性をより向上し、ゴム-金属複合体及びタイヤの耐久性をより向上する観点から、ゴム成分100質量部に対し、2~10質量部であることが好ましく、3~9質量部であることがより好ましく、4~8質量部であることが更に好ましい。
【0071】
[加硫促進剤]
本発明のゴム組成物は、ゴム成分の加硫をより促進するために、加硫促進剤を含んでいてもよい。
具体的には、例えば、チウラム系、グアジニン系、アルデヒド-アミン系、アルデヒド-アンモニア系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チオ尿素系、ジチオカルバメート系、ザンテート系等の加硫促進剤が挙げられる。加硫促進剤は1種のみ用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
ゴム組成物中の加硫促進剤の含有量は、ゴム-金属接着性をより向上し、ゴム-金属複合体及びタイヤの耐久性をより向上する観点から、ゴム成分100質量部に対し、0.1~5質量部であることが好ましく、0.3~4質量部であることがより好ましく、0.5~3質量部であることが更に好ましい。
【0072】
本発明のゴム組成物は、ゴム成分、ゴム-金属接着促進剤、4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、充填材、及び硫黄と共に、必要に応じて、ヘキサメチレンビスチオサルフェート2ナトリウム2水和物及び1,3-ビス(シトラコンイミドメチル)ベンゼンの他、ゴム工業界で通常使用される配合剤、例えば、軟化剤、ステアリン酸、老化防止剤、亜鉛華、シランカップリング剤、樹脂、ワックス、オイル等を、本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して含有していてもよい。
【0073】
〔ゴム組成物の調製〕
本発明のゴム組成物は、上述した各成分を配合して、バンバリーミキサー、ロール、インターナルミキサー等の混練り機を使用して混練りすることによって製造することができる。
ここで、各成分の配合量は、ゴム組成物中の含有量として既述した量と同じである。
各成分の混練は、全一段階で行ってもよく、二段階以上に分けて行ってもよい。例えば二段階で混練する場合、混練の第一段階の最高温度は、130~160℃とすることが好ましく、第二段階の最高温度は、90~120℃とすることが好ましい。
【0074】
本発明のゴム組成物は、スチールコードに代表される金属コードの被覆用ゴム組成物として用いることが好ましい。
【0075】
<ゴム-金属複合体>
本発明のゴム-金属複合体は、本発明のゴム組成物の加硫ゴムと金属とを含む。
金属を本発明のゴム組成物で被覆し、ゴム組成物を加硫することで、金属が加硫ゴムで被覆されたゴム-金属複合体が得られる。本発明のゴム組成物は、金属の少なくとも一部を被覆していればよいが、ゴム-金属複合体の耐久性を向上する観点から、金属の全面を被覆することが好ましい。
ゴム-金属複合体の金属は特に制限されないが、金属コード、金属板等の種々の金属部材が挙げられる。
ゴム-金属複合体は、各種自動車用タイヤ、コンベアベルト、ホースなど、特に強度が要求されるゴム物品に用いられる補強材として好適に用いられる。特に、各種自動車用ラジアルタイヤのベルト、カーカスプライ、ワイヤーチェーファーなどの補強部材として好適に用いられる。
【0076】
スチールコードの被覆方法としては、例えば以下に示す方法を用いることができる。
好ましくはブラスめっきされた所定の本数のスチールコードを所定の間隔で平行に並べ、このスチールコードを上下両側から、本発明のゴム組成物からなる厚さ0.5mm程度の未架橋ゴムシートでコーティングして、これを例えば160℃程度の温度で、20分間程度加硫処理する。このようにして得られたゴム組成物とスチールコードとの複合体は、優れたゴム-金属接着性を有する。
【0077】
上記のスチールコードは、スチール製のモノフィラメント及びマルチフィラメント(撚りコード又は引き揃えられた束コード)のいずれでも良く、その形状は制限されない。スチールコードが撚りコードである場合の撚り構造についても特に制限はなく、単撚り、複撚り、層撚り、複撚りと層撚りの複合撚りなどの撚り構造が挙げられる。
これらのスチールコードは、ゴム組成物との接着性を好適に確保する観点から表面にめっき処理、接着剤処理などの表面処理がなされていることが好ましい。
スチールフィラメントの表面には、めっきが施されていてもよい。めっきの種類としては、特に制限されず、例えば、亜鉛(Zn)めっき、銅(Cu)めっき、スズ(Sn)めっき、ブラス(銅-亜鉛(Cu-Zn))めっき、ブロンズ(銅-スズ(Cu-Sn))めっき等の他、銅-亜鉛-スズ(Cu-Zn-Sn)めっき、銅-亜鉛-コバルト(Cu-Zn-Co)めっき等の三元めっきなどが挙げられる。これらの中でもブラスめっき及び銅-亜鉛-コバルトめっき三元めっきが好ましい。
また、例えば、表面のN原子が2原子%以上60原子%以下であって、かつ、表面のCu/Zn比が1以上4以下であるスチールフィラメントを使用することができる。また、金属フィラメント1としては、フィラメント半径方向内方にフィラメント最表層5nmまでの酸化物として含まれるリンの量が、C量を除いた全体量の割合で、7.0原子%以下である場合が挙げられる。
また、接着剤処理を使用する場合は例えばロード社製、商品名「ケムロック」(登録商標)などの接着剤処理が好ましい。
【0078】
本発明のゴム組成物は、金属を被覆して一定期間が経過する場合でも金属腐食を抑制することができるため、例えば金属コードをゴム組成物で被覆した状態で製品を流通させ、流通先で加硫してゴム-金属複合体を製造することができる。また、そのようにして製造されたゴム-金属複合体は、金属の腐食が抑制されているため、ゴム-金属接着性が損なわれにくく、耐久性にも優れる。
【0079】
<タイヤ>
本発明のタイヤは、本発明のゴム-金属複合体を含む。
本発明のタイヤは、本発明のゴム-金属複合体を含むことから、耐久性に優れる。
本発明のタイヤの製造方法は、タイヤ内に、本発明のゴム-金属複合体が含まれるように製造し得る方法であれば、特に限定されない。
一般に、各種成分を含有させたゴム組成物が未加硫の段階で各部材に加工され、タイヤ成形機上で通常の方法により貼り付け成形され、生タイヤが成形される。この生タイヤを加硫機中で加熱加圧して、タイヤが製造される。例えば、本発明のゴム組成物を混練の上、得られたゴム組成物でスチールコードをゴム引きして未加硫のベルト層、未加硫のカーカス、及び他の未加硫部材を積層し、未加硫積層体を加硫することでタイヤが得られる。
タイヤに充填する気体としては、通常の空気、酸素分圧を調整した空気等の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いてもよい。
【0080】
<コンベヤベルト、ホース及びクローラ>
本発明のコンベヤベルトは、本発明のゴム-金属複合体を含む。
本発明のホースは、本発明のゴム-金属複合体を含む。
本発明のクローラは、本発明のゴム-金属複合体を含む。
本発明のコンベヤベルト、ホース及びクローラは、耐久性及びゴム-金属接着性に優れる本発明のゴム-金属複合体を含むため、耐久性に優れる。本発明のコンベヤベルト、ホース及びクローラの製造方法は特に制限されない。
【実施例】
【0081】
<実施例1~25、比較例1~22>
〔ゴム組成物の調製〕
表2~10に示す配合組成にて、各成分を混練し、ゴム組成物を調製した。なお、表2~10において、空欄部分は数値が0であることを意味する。表2~10に示す成分の詳細は次のとおりである。
【0082】
天然ゴム:RSS#3
CB1:カーボンブラック、東海カーボン社製、商品名「シーストSO」
CB2:カーボンブラック、東海カーボン社製、商品名「シースト300」
CB3:カーボンブラック、東海カーボン社製、商品名「シースト600」
シリカ:日本シリカ社製、商品名「ニプールVN3」
カップリング剤:デグッサ社製、商品名「Si-69」
加硫促進剤DCBS:大内新興化学工業社製、商品名「ノクセラーDZ」
加硫促進剤CBS:大内新興化学工業社製、商品名「ノクセラーCZ」
加硫促進剤TBSI:大内新興化学工業社製、商品名「ノクセラーNS」
【0083】
BMI:大塚化学社製、4,4’-ビスマレイミドジフェニルメタン
ヘキサメチレンビスチオサルフェートナトリウム2水塩:Eastman社製、商品名「DuralinK-HTS」
1-3-ビス シトラコイミドメチルベンゼン:ランクセス社製、商品名「Perkalink-900」
3-ヒドロキシ-N’-(1,3-ジメチルブチリデン)-2-ナフトエ酸ヒドラジド:大塚化学社製、BMH
レゾルシノール樹脂:田岡化学社製、商品名「スミカノール620」
メチレンドナー化合物(HMMMM):CytecIndustries社製、商品名「CYREZ964」
【0084】
ネオデカン酸Co:ネオデカン酸コバルト、下記(i)の構造、分子量401.5
ネオデカン酸Bi:ネオデカン酸ビスマス、下記(iii)の構造、分子量722.8、金属種がビスマスであるカルボン酸金属塩(1)
【0085】
【0086】
【0087】
<ゴム-金属複合体の作製>
黄銅のブラス鍍金(Cu:63質量%、Zn:37質量)したスチールコード(1×5×0.25mm(素線径))を12.5mm間隔で平行に並べ、調製したゴム組成物で被覆して、厚み5mmの未加硫状態のゴム-金属複合体前駆体(未加硫スチールコードトッピング反)を作製した。その後、速やかにゴム-金属複合体前駆体を145℃で40分間の条件で加硫して、加硫ゴムを含むゴム-金属複合体(通常複合体)を作製した。
【0088】
なお、後述する[4]トリート放置後接着のゴム-金属接着性評価においては、次のようにして各評価用のゴム-金属複合体を作製した。
【0089】
厚み5mmのゴム-金属複合体前駆体(未加硫スチールコードトッピング反)を作製した後、温度40℃かつ湿度80%環境下にゴム-金属複合体前駆体(未加硫スチールコードトッピング反)を1週間放置した後、ゴム-金属複合体前駆体を145℃で140分間の条件で加硫して、加硫ゴムを含むゴム-金属複合体(トリート放置評価用複合体)を作製した。
【0090】
〔評価〕
表1に示す手法にて、評価した
【0091】
【0092】
具体的には、次のとおりである。
1.ゴム-金属接着性
ゴム-金属接着性は、[1]初期接着、[2]湿熱接着、[3]熱接着、及び[4]トリート放置後接着の4種の接着状態において評価した。
[1]初期接着評価及び[4]トリート放置後接着評価では、作製したゴム-金属複合体(通常複合体、及びトリート放置評価用複合体)について、-65±5℃雰囲気内で、ゴム-金属複合体からスチールコードを引き抜いた。
[2]湿熱接着評価では、作製したゴム-金属複合体(通常複合体)を75℃、95%RHで劣化させた後、-65±5℃雰囲気内で、ゴム-金属複合体からスチールコードを引き抜いた。
[3]熱接着評価では、作製したゴム-金属複合体(通常複合体)を100℃で60日間、窒素分圧0.1Mpa(大気圧を0.1Mpaとした場合)の環境下で劣化させた後、-65±5℃雰囲気内で、ゴム-金属複合体からスチールコードを引き抜いた。
【0093】
2.耐久性
ゴム-金属複合体の耐久性を、加硫ゴムの弾性率と引張特性の観点から評価した。
【0094】
(ゴム耐劣化指数)
ゴム-金属接着性評価における[4]トリート放置後接着評価に用いたゴム-金属複合体から加硫ゴムを切り取り、得られた加硫ゴムについて破断伸び(EB)(単位:%)と引張強さ(TB)(単位:MPa)を求めた。得られたEBとTBとを乗じて得た値(EB×TB)について、比較例1のEB×TBを100として実施例及び比較例のEB×TB指数化した。EB×TBの指数が大きいほど、ゴム-金属複合体は耐久性に優れる。
なお、破断伸び(EB)(単位:%)と引張強さ(TB)(単位:MPa)は次のようにして求めた。
【0095】
破断伸びEB(単位:%)×引張強さTB(単位:MPa)
各配合ゴムをシート状(2±0.3mm厚み、15cm×15cm)に成形した後に、145℃40minで加硫した。得られた加硫品を70℃3日酸素分圧0.5Mpa(大気圧を0.1Mpaとした場合)で劣化した。その後、試料をJIS#3形状に打ち抜き、東洋精機ストログラフAP3を用い、500mm/min、100℃の条件で引張り試験をした時の破断伸び×破断時強力を測定した。比較例5の結果を100として、各実施例及び比較例の結果を指数表示した。
【0096】
(ゴム弾性率、tanδ)
ゴム-金属接着性評価における[1]初期接着評価に用いたゴム-金属複合体(通常複合体)から帯状の加硫ゴムを切り取った。得られた帯状加硫ゴムの動的弾性率(E’)とtanδを、東洋精機スぺクトロメータ社製の粘弾性測定装置を用いて測定した。条件は、温度100℃、周波数15Hz、片側引張歪5%の正弦波を与えて測定した。
比較例5の動的弾性率(E’)とtanδをそれぞれ100として、各実施例及び比較例の動的弾性率(E’)とtanδを指数表示した。指数が大きいほどゴム-金属複合体は耐久性に優れる。
【0097】
結果を表2~10に示す。
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明のゴム組成物は、ゴム-金属接着性に優れ、耐久性に優れるゴム-金属複合体を製造することができるため、本発明のゴム組成物を用いて得られたゴム-金属複合体は、トラック用タイヤ、バス用タイヤ等の重荷重用タイヤ、乗用車用タイヤ等の種々のタイヤの製造の他、コンベヤベルト、ホース、クローラ等の製造にも適する。