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特許7545415X線又はガンマ線放射を発する原子種を識別するための方法及びデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】X線又はガンマ線放射を発する原子種を識別するための方法及びデバイス
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/17 20060101AFI20240828BHJP
   G01T 1/167 20060101ALI20240828BHJP
   G01T 1/36 20060101ALI20240828BHJP
【FI】
G01T1/17 H
G01T1/167 C
G01T1/36 D
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021565764
(86)(22)【出願日】2020-05-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-26
(86)【国際出願番号】 EP2020064790
(87)【国際公開番号】W WO2020239884
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-05-09
(31)【優先権主張番号】1905682
(32)【優先日】2019-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】311015001
【氏名又は名称】コミサリヤ・ア・レネルジ・アトミク・エ・オ・エネルジ・アルテルナテイブ
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リムーザン,オリビエ
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル,ジェフリー
(72)【発明者】
【氏名】マイヤー,ダニエル
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109063741(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0034786(US,A1)
【文献】米国特許第05153439(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0282818(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/00-1/16
G01T 1/167-7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シーンにおいてX線又はガンマ線放射を発する発光種(S...S)を識別するための方法であって、以下のステップ、すなわち、
a)分光検出器(SPM)を用いて、前記シーンから発出されるX線又はガンマ線放射のスペクトルを取得するステップと、
b)前記取得したスペクトルに、少なくとも1つの正規化を含む第1のデータ変換演算を適用するステップと、
c)複数の畳み込みニューラルネットワークの第1のセット(CBNN_ID)であって、前記第1のセットの各畳み込みニューラルネットワークが、識別対象の対応する発光種、又は識別対象の発光種の対応するグループと関連付けられており、及び、少なくとも1つの出力を有する前記第1のセットの入力として前記変換されたスペクトルを供給するステップと、
d)前記第1のセットのそれぞれの畳み込みニューラルネットワークごとに、前記対応する発光種、又は前記発光種の対応するグループが、前記出力又は複数の出力が取る値の関数として前記シーンに存在するかどうかを決定するステップと、を含み、
ステップa)~d)が、信号処理回路(CTS)を用いて実装されている方法。
【請求項2】
- 前記第1のセットの各畳み込みニューラルネットワークが、入力層(CC1)と、出力層(CS)と、少なくとも1つの中間層(CC2、CC3、CP)であって、それぞれが複数のニューロンを含む中間層と、を含み、
- ステップc)が、毎回少なくとも1つの中間層の前記ニューロンの一部をランダムにドロップアウトさせることによって、複数回繰り返され、
- ステップd)が、前記第1のセットのそれぞれの畳み込みニューラルネットワークごとに、前記シーンにおける前記対応する発光種又は前記発光種の対応するグループの前記存在の前記決定を含み、前記決定の信頼度の率が、前記ステップc)の異なる繰り返しで前記出力又は複数の出力が取る前記値の統計的分析に基づく、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
信号処理回路(CTS)を用いてもまた実装される以下のステップ、すなわち、
e)前記取得したスペクトルに、少なくとも1つの正規化を含む第2のデータ変換演算を適用するステップと、
f)複数の畳み込みニューラルネットワークの第2のセット(CBNN_PRO)であって、前記第2のセットの各畳み込みニューラルネットワークが、
- ステップd)の後に前記シーンに存在していると決定された、対応する発光種、又は発光種の対応するグループと関連付けられており、及び
- 少なくとも1つの出力を有する前記第2のセットの入力として前記変換されたスペクトルを供給するステップと、
g)前記第2のセットのそれぞれの畳み込みニューラルネットワークごとに、前記単一の又は複数の対応する発光種の信号の割合を、前記出力又は複数の出力が取る前記値の関数として決定するステップと、もまた含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
- 前記第2のセットの各畳み込みニューラルネットワークが、入力層(CC1)と、出力層(CS)と、少なくとも1つの中間層(CC2、CC3、CP)であって、それぞれが複数のニューロンを含む中間層と、を含み、
- ステップf)が、毎回少なくとも1つの中間層のニューロンの一部をランダムにドロップアウトさせることによって、複数回繰り返され、
- ステップg)が、前記第2のセットのそれぞれの畳み込みニューラルネットワークごとに、前記対応する発光種又は前記発光種の対応するグループの前記信号の割合の前記決定を含み、前記決定の信頼度のが、前記ステップf)の異なる繰り返しで前記出力又は複数の出力が取る前記値の統計的分析に基づく、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
各畳み込みニューラルネットワークが、単一の対応する発光種と関連付けられている、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ステップb)が、前記取得したスペクトルの次元数を保存する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップb)が、前記取得したスペクトルの対数変換の後に、前記取得したスペクトルの前記正規化を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
複数個の発光種を有する既知の組成の混合物に対応する、シミュレーションされたX線又はガンマ線放射スペクトルを使用して、前記畳み込みニューラルネットワークの教師あり訓練をする事前のステップもまた含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
各畳み込みニューラルネットワークが、入力層と、出力層と、少なくとも1つの中間層であって、それぞれが複数のニューロンを含む中間層と、を含み、前記教師あり訓練ステップが、少なくとも1つの中間層の前記ニューロンの一部をランダムにドロップアウトさせることによって実行される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記シーンから発出されるX線又はガンマ線放射を取得するステップa)が、
- 一連の事象であって、それぞれが前記分光検出器によって検出されたX線又はガンマ線光子のエネルギー値を表す物理量と関連付けられている事象を取得することと、
- 較正パラメータのセットに依存する較正関数を適用することによって、前記一連の事象を前記X線又はガンマ線放射のスペクトルに変換することと、を含み、及び
前記スペクトルと、前記シーンに存在していると決定された前記発光種の関数として計算された理論上のスペクトルとの間の相関関数を最大化することによって、前記較正パラメータの最適値を決定するステップh)もまた含む請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
各畳み込みニューラルネットワークが、相補的な出力ニューロン(CS)のペアを含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記取得されたスペクトルが、全面的に又は部分的に、2keVから2MeVの間にある範囲内に延びる、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
プログラムがコンピュータによって実行されると、前記コンピュータに、ステップb)及び請求項1~12のいずれか一項に記載の方法の後続のステップを実装させる命令を含む、コンピュータプログラム製品。
【請求項14】
シーンにおいてX線又はガンマ線放射を発する発光種を識別するためのデバイスであって、
- 分光検出器によって生成された信号を処理する信号処理回路(CTS)であって、
- 前記分光検出器から、一連の事象であって、それぞれが前記分光検出器によって検出されたX線又はガンマ線光子のエネルギー値を表す物理量と関連付けられている事象を取得するように、
- 較正パラメータのセットに依存する較正関数を適用することによって、前記一連の事象を前記X線又はガンマ線放射のスペクトルに変換するように、
- 前記X線又はガンマ線放射の前記スペクトルに、少なくとも1つの正規化を含む第1のデータ変換演算を適用するように、
- こうして変換された前記スペクトルを、複数の畳み込みニューラルネットワークからなる第1のセットであって、前記第1のセットの各畳み込みニューラルネットワークが、対応する発光種、又は発光種の対応するグループと関連付けられており、及び少なくとも1つの出力を有する前記第1のセットの入力として供給するように、並びに、
- 前記第1のセットのそれぞれの畳み込みニューラルネットワークごとに、前記対応する発光種、又は前記発光種の対応するグループが、前記出力又は複数の出力が取る値の関数として前記シーンに存在するかどうかを決定するように、
構成されているか、又はプログラムされている前記信号処理回路を含むデバイス。
【請求項15】
前記分光検出器によって生成された信号を処理する前記信号処理回路が、
- 前記X線又はガンマ線放射の前記スペクトルに、少なくとも1つの正規化を含む第2のデータ変換演算を適用するように、
- こうして変換された前記スペクトルを、複数の畳み込みニューラルネットワークからなる第2のセットであって、前記第2のセットの各畳み込みニューラルネットワークが、前記シーンに存在していると決定された、対応する発光種、又は発光種の対応するグループと関連付けられ、及び少なくとも1つの出力を有する前記第2のセットの入力として供給するように、並びに、
- 前記第2のセットのそれぞれの畳み込みニューラルネットワークごとに、前記対応する発光種又は前記発光種の対応するグループの信号の割合を、前記出力又は複数の出が取る前記値の関数として決定するように、
もまた構成されているか、又はプログラムされている、請求項14に記載のデバイス。
【請求項16】
前記分光検出器によって生成された信号を処理する前記信号処理回路が、取得されたスペクトルと、前記シーンに存在していると決定された前記発光種の関数として計算された理論上のスペクトルとの間の相関関数を最大化することによって、前記較正パラメータの最適値を決定するように、もまた構成されているか、又はプログラムされている、請求項14又は15に記載のデバイス。
【請求項17】
各畳み込みニューラルネットワークが、単一の対応する発光種と関連付けられている、請求項14~16のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項18】
各畳み込みニューラルネットワークが、相補的な出力ニューロン(CS)のペアを含む、請求項14~17のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項19】
検出された前記X線又はガンマ線光子が、2keVから2MeVの間にある範囲の少なくとも一部の範囲内のエネルギーを示す、請求項14~18のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項20】
前記分光検出器(SPM)もまた含む、請求項14~19のいずれか一項に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線又はガンマ線放射を発する発光種を識別するための、そして優先的には、放射に対するそれぞれの種の寄与を定量的に決定するための方法及びデバイスに関する。本発明は、核計装の技術分野、より具体的には、X線及びガンマ線分光学の技術分野に関する。
【0002】
本発明は、サンプル中又は環境においてX線蛍光を示す放射性核種及び/又は原子種を識別することが必要な場合、すなわち、放射化学分析、化学分析及び放射化学分析、除染、並びに核施設の解体等に適用される。
【背景技術】
【0003】
X線又はガンマ線放射は、100eVよりも大きいエネルギーの電磁放射であると理解され、より詳細には、本発明の文脈では、焦点が約2keVから2MeVの間にあるエネルギーの放射上にある。X線放射とガンマ線放射との間の区別は、放射の性質に基づくのではなく、その起源に基づく。すなわち、X線放射は、電子的な起源(典型的には、内部エネルギーのレベルに関与する電子遷移)を有し、一方、ガンマ線は核を起源とする。また、本発明は、X線蛍光スペクトルに基づいて、必ずしも放射性でないガンマ線放射スペクトル及び原子種から、放射性核種(同位体)を識別することも可能にする。X線蛍光スペクトルから識別可能な原子種、及びガンマ線スペクトルから識別可能な放射性核種は、合わせて「発光種」という表現によって示される。以下に、発光種が放射性核種である場合をより具体的に検討するが、特に明記しない限り、記載されていることはすべて、X線発光体にも適用することができる。
【0004】
ガンマ線放射に基づいて放射性核種を識別するための従来の方法は、主として、検出器の取得から引き出されたスペクトルの光電ピークを抽出するか、又はスペクトルの対象となるゾーンを調べるか、に基づく。例えば、(Lutter 2018)を参照されたい。このタイプの方法では、対象となる放射性核種(ガンマ線ライン又はX線ライン)に特徴的なスペクトルシグニチャをガウスモジュール及び連続背景に当て嵌め、そこから、エネルギーの観点でのそれらの位置を推定する。スペクトルに存在する1つ又は複数のピークを放射性同位体の核ラインの一覧表と(又は異なる元素のX線蛍光ラインと)同時に比較することで、それらを識別することができる。これらの方法には、スペクトルの対象となるゾーンの識別を専門家頼みにしなければならないという短所がある。さらに、これらの方法は、識別対象のピークを明確に示すためには、十分な光子統計量が必要である。スペクトルの連続背景(コンプトン背景)に含まれている情報が失われる。
【0005】
このような方法には、人工知能技術、とりわけ、ニューラルネットワークを伴う場合がある。早くも1995年には(Vigneron 1995)、「多層パーセプトロン」タイプのニューラルネットワークを用いてガンマ放射ピークを分析して、ウラン濃縮率を決定することが提案された。さらに最近では、「多層パーセプトロン」タイプのニューラルネットワークは、混合物中の放射性核種の識別に適用され(Yoshida 2002)、また定量的放射化学分析に適用された(Medhat 2012)。しかしながら、人工知能技術を使用しても、これらの手法の短所をすべて、とりわけ、スペクトルの分析対象領域を決定するために前処理を行う「専門家」が必要であることを克服することは可能ではない。
【0006】
他の技術では、専門家による前処理を必要とせずにスペクトルをすべて分析することが可能になる。
【0007】
例えば、(Olmos 1991)は、ニューラルネットワークを使用して、混合物によって発せられるガンマ線放射スペクトル全体に基づいて混合物中の放射性核種を識別することを提案している。この論文は、実際に使用されるニューラルネットワークのタイプを明示しておらず、さらに、必要とされる信号レベルは、比較的高いものでなければならない(主発光ピークのみで約10個の光子を検出)。
【0008】
(Bobin 2016)は、「スパイキングニューラルネットワーク」を使用して、混合物が発するガンマ線放射スペクトルに基づいて混合物中の放射性核種の割合を決定している。この方法は、ソースのスペクトルの正確なモデルが必要であり、構成の変化(放射の減衰/散乱の速度の変動)にロバストではない。さらに、この方法では、放射性核種を識別することが可能にならず、また、低い割合で見つかった原子種が存在しないのか、又は低い割合で現実に存在しているのかを知ることも可能ではない。
【0009】
(Kamuda 2017)は、合成データで訓練されたパーセプトロンタイプのニューラルネットワークを使用して、ソースによって発せられたガンマ線放射に寄与するそれぞれの放射性核種の割合を決定している。本来、この方法は、限定的な数(例えば、4個)の別個の放射性核種だけの識別を可能にするものである。
【0010】
(Abdel-Aal 1997)は、アブダクションによるAIMタイプのニューラルネットワークを使用して、関心領域が自動的に識別される分解能の低いスペクトルに基づいて複数個のソースの相対強度を決定している。(Bobin 2016)の場合のように、低い割合で見つかった原子種は、存在しないのか、又は低い割合で現実に存在しているのかを知ることは可能ではない。
【0011】
米国特許出願公開第2019/034786号明細書には、放射性核種の検出又は識別に多層パーセプトロンを使用することが、大まかに、ほとんど詳細の説明なしに開示されている。パーセプトロンは、複数個の出力を有することができ、それぞれが発光種、又は発光種のグループに対応している。
【0012】
中国特許出願公開第109 063 741号明細書にも、放射性核種の検出又は識別にニューラルネットワークを使用することが開示されている。より具体的には、この特許文献には、ニューラルネットワークを適用する前に、ヒルベルト曲線を用いてスペクトルを二次元画像に変換することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】米国特許出願公開第2019/034786号明細書
【文献】中国特許出願公開第109 063 741号明細書
【非特許文献】
【0014】
【文献】(Lutter 2018)G.Lutter,M.Hult,G.Marissens,H.Stroh,F.Tzika‘‘A gamma-ray spectrometry analysis software environment’’Applied Radiation and Isotopes 134(2018):200-204.
【文献】(Vigneron 1995)V.Vigneron,J.Morel,M.-C.Lepy,J.-M.Martinez‘‘Statistical modelling by neural networks in gamma-spectrometry’’Conference and International Symposium on Radionuclide Metrology(1995).
【文献】(Yoshida 2002)E.Yoshida,K.Shizuma,S.Endo,T.Oka‘‘Application of neural networks for the analysis of gamma-ray spectra measured with a Ge spectrometer’’Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A 484(2002).
【文献】(Medhat 2012)M.E.Medhat‘‘Artificial intelligence methods applied for quantitative analysis of natural radioactive sources’’,Annals of Nuclear Energy 45(2012).
【文献】(Olmos 1991)P.Olmos,J.C.Diaz,J.M.Perez,P.Gomez,V.Rodellar,P.Aguayo,A.Bru,G.Garcia-Belmonte,J.L.de Pablos‘‘A New Approach to Automatic Radiation Spectrum Analysis’’IEEE Transactions On Nuclear Science,Vol.38,No.4(1991).
【文献】(Bobin 2016)C.Bobin,O.Bichler,V.Lourenco,C.Thiam,M.Thevenin‘‘Real-time radionuclide identification in γ-emitter mixtures based on spiking neural network’’Applied Radiation and Isotopes 109(2016)405-409(2016).
【文献】(Kamuda 2017):M.Kamuda,J.Stinnett,C.J.Sulliva‘‘Automated Isotope Identification Algorithm Using Artificial Neural Network’’IEEE Transactions On Nuclear Science,Vol.64,No.7(2017).
【文献】(Abdel-Aal 1997)R.E.Abdel-Aal,M.N.Al-Haddad‘‘Determination of radioisotopes in gamma-ray spectroscopy using abductive machine learning’’Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A 391(1997).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上述した先行技術の短所を克服することを目的とする。より詳細には、本発明は、混合物のX線又はガンマ線スペクトルに基づいて、混合物中の任意の数の発光原子種を識別できるようにするとともに、シーンの構成(環境に存在するソースと、分光検出器との間の吸収材又は散乱材の存在)に関係なく、且つ、スペクトルの関心領域の識別を含む複雑化された前処理なしに、これを行うことを目的とする。
【0016】
有利な点として、さらに、本発明は、発光種のそれぞれが存在する確率、そして優先的には、この確率の不確実性を決定することを目的とする。
【0017】
有利な点として、さらに、本発明は、識別された各ソースの信号における割合を決定し、この割合に不確実性を与えることを目的とする。
【0018】
有利な点として、さらに、本発明は、検出された各事象のエネルギーを事象ごとに測定し、復元することが可能であるか、又は最低限、測定されたエネルギーのスペクトルを供給することが可能であるという条件で、異なるタイプの分光検出器(CdTe、CdZnTe、HgI、NaI、HPGe、又はkeVからMeVのエネルギー帯域内で動作する任意のタイプのガンマ線スペクトロメータ、等)を使用可能にすることを目的とする。
【0019】
有利な点として、さらに、本発明は、長時間にわたる複雑精緻なエネルギー較正動作の回避を可能にし、検出器及び動作条件の経時的ないずれかのドリフトを克服することを目的とする。理想的な点として、誤差が2%のオーダーの工場較正であれば、発光種を識別し、必要に応じて、それらの割合を決定するのに十分なはずである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の1つの態様によれば、これらの目的のうちの少なくともいくつかは、それぞれが単一の発光種を識別する役目を担う畳み込みタイプの複数のニューラルネットワークを使用することにより、実現される。変形例として、より詳細に後述するように、各ニューロンは、発光種の別個のグループを識別する役目を担うことができるようになる。
【0021】
本発明の別の態様によれば、これらの目的のうちの少なくともいくつかは、それぞれが単一の、すでに識別された発光種(又は発光種のグループ)の割合を決定する役目を担う畳み込みタイプの第2の複数のニューラルネットワークを使用することにより、実現される。
【0022】
本発明の別の態様によれば、これらのニューラルネットワークは、合成スペクトルデータで訓練される。
【0023】
本発明の別の態様によれば、発光種を識別するためのニューラルネットワークに入力として供給されるスペクトルは、前もって対数スケールに変換される。
【0024】
本発明の別の態様によれば、各発光種の存在の不確実性のレベル、及び必要に応じて各発光種の割合の不確実性のレベルを決定するために、「ドロップアウト(dropout)」演算(内部層のニューロンの一部をランダムにオフに切り替えること)が、これらのニューラルネットワークに適用される。
【0025】
本発明の別の態様によれば、異なるニューラルネットワークはそれぞれ、例えば、「ソフトマックス」タイプの活性化関数を使用する、相補的な出力のニューロンのペアを有する。
【0026】
本発明の別の態様によれば、発光種が識別された後に、この情報を使用して、検出器のエネルギー「自己較正」を実行する。
【0027】
したがって、本発明の主題の1つは、シーンにおいてX線又はガンマ線放射を発する発光種を識別するための方法であって、以下のステップ、すなわち、
a)分光検出器を用いて、シーンから発出されるX線又はガンマ線放射のスペクトルを取得するステップと、
b)取得したスペクトルに、少なくとも1つの正規化を含む第1のデータ変換演算を適用するステップと、
c)複数の畳み込みニューラルネットワークの第1のセットであって、第1のセットの各畳み込みニューラルネットワークが、識別対象のそれぞれの発光種、又は識別対象の発光種のそれぞれのグループと関連付けられており、及び、少なくとも1つの出力を有する前記第1のセットの入力として変換されたスペクトルを供給するステップと、
d)第1のセットのそれぞれの畳み込みニューラルネットワークごとに、対応する発光種、又は対応する発光種のグループが、前記出力又は複数の出力の関数としてシーンに存在するかどうかを決定するステップと、を含み、
ステップa)~d)が、信号処理回路を用いて実装されている方法である。
【0028】
本発明の別の主題は、プログラムがコンピュータによって実行されると、コンピュータに、ステップb)及びこのような方法の後続のステップを実装させる命令を含むコンピュータプログラム製品である。
【0029】
本発明のさらに別の主題は、シーンにおいてX線又はガンマ線放射を発する発光種を識別するためのデバイスであって、
- 分光検出器によって生成された信号を処理する信号処理回路であって、
- 前記検出器から、一連の事象であって、それぞれが前記分光検出器によって検出されたX線又はガンマ線光子のエネルギー値を表す物理量と関連付けられている事象を取得するように、
- 較正パラメータのセットに依存する較正関数を適用することによって、前記一連の事象をX線又はガンマ線放射のエネルギースペクトルに変換するように、
- X線又はガンマ線放射のエネルギースペクトルに、少なくとも1つの正規化を含む第1のデータ変換演算を適用するように、
- こうして変換されたスペクトルを、複数の畳み込みニューラルネットワークの第1のセットであって、第1のセットの各畳み込みニューラルネットワークが、それぞれの発光種、又は発光種のそれぞれのグループと関連付けられており、及び、少なくとも1つの出力を有する前記第1のセットの入力として供給するように、並びに、
- 第1のセットのそれぞれの畳み込みニューラルネットワークごとに、対応する発光種、又は対応する発光種のグループが、前記出力又は複数の出力の関数としてシーンに存在するかどうかを決定するように、
構成されているか、又はプログラムされている前記回路を含むデバイスである。
【0030】
このようなデバイスの特定の実施形態によれば、
放射線検出器によって生成された信号を処理する信号処理回路は、
- X線又はガンマ線放射のエネルギースペクトルに、少なくとも1つの正規化を含む第2のデータ変換演算を適用するように、
- こうして変換されたスペクトルを、複数の畳み込みニューラルネットワークの第2のセットであって、第2のセットの各畳み込みニューラルネットワークが、シーンに存在していると決定されており、及び、少なくとも1つの出力を有する1つ又は複数のそれぞれの発光種と関連付けられている前記第2のセットの入力として供給するように、並びに、
- 第2のセットのそれぞれの畳み込みニューラルネットワークごとに、種の信号の割合、又は対応する発光種の信号の割合を、前記スカラー出力又はスカラー出力のペアの関数として決定するように、
構成するか、又はプログラムすることもまた可能である。
【0031】
放射線検出器によって生成された信号を処理する信号処理回路は、取得されたスペクトルと、シーンに存在していると決定された発光種の関数として計算された理論上のスペクトルとの間の相関関数を最大化することによって、前記較正パラメータの最適値を決定するように、構成するか、又はプログラムすることもまた可能である。
【0032】
各畳み込みニューラルネットワークは、単一のそれぞれの発光種と関連付けることができる。
【0033】
各畳み込みニューラルネットワークは、相補的な出力ニューロンのペアを含むことができる。
【0034】
検出されたX線又はガンマ線光子は、2keVから2MeVの間にある範囲の少なくとも一部の範囲内のエネルギーを示す可能性がある。
【0035】
デバイスは、前記分光検出器(SPM)を含むこともまた可能である。
【0036】
添付の図面は、本発明を図示するものである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明の一実施形態によるデバイスのブロック図である。
図2】本発明によるデバイス及び/又は方法で使用することが可能な畳み込みニューラルネットワークを表現したものである。
図3】本発明の一実施形態による方法のフロー図である。
図4】X線又はガンマ線放射スペクトルの一例である。
図5図4の放射を生じさせる原子種の識別を図示する。
図6】これらの原子種の割合の決定を図示する。
図7A】単一の出力ではなく2つの相補的な出力を有するニューラルネットワークの使用によって付与される利点を図示する。
図7B】単一の出力ではなく2つの相補的な出力を有するニューラルネットワークの使用によって付与される利点を図示する。
図7C】単一の出力ではなく2つの相補的な出力を有するニューラルネットワークの使用によって付与される利点を図示する。
図7D】単一の出力ではなく2つの相補的な出力を有するニューラルネットワークの使用によって付与される利点を図示する。
図7E】単一の出力ではなく2つの相補的な出力を有するニューラルネットワークの使用によって付与される利点を図示する。
図7F】単一の出力ではなく2つの相補的な出力を有するニューラルネットワークの使用によって付与される利点を図示する。
図8A】原子種を識別し、放射に対するそれらの寄与を定量化するための別々のニューラルネットワークの使用によって付与される利点を図示する。
図8B】原子種を識別し、放射に対するそれらの寄与を定量化するための別々のニューラルネットワークの使用によって付与される利点を図示する。
図8C】原子種を識別し、放射に対するそれらの寄与を定量化するための別々のニューラルネットワークの使用によって付与される利点を図示する。
【発明を実施するための形態】
【0038】
図1のデバイスは、X線又はガンマ線放射の分光検出器(すなわち、検出された光子のエネルギーを感知可能な検出器)と、放射線検出器によって生成された信号を処理するための信号処理回路CTSと、を含む。
【0039】
分光検出器SPMは、好ましくはピクセル処理された感応素子ESと、アナログ読み取り回路ELと、アナログ-デジタル変換器ADCと、を含む。
【0040】
分光検出器は、活量A(A...A)の様々な放射性核種(又はX線蛍光の放射を発する原子種)であるS(S...S)が存在するシーンSCから発出される光子を取得するが、その正体及び相対的な存在量が先験的に不明であり、検出器から異なる距離に位置している可能性がある。吸収材又は散乱材ABSは、1つ又は複数のソースと検出器との間に位置している可能性がある。放射性核種Sはそれぞれ、エネルギーEk,iを有する光子Pを発する。例えば、P(Ek,1)を使用して、第1の放射性核種Sによって発せられたエネルギーEk,1の光子を表示する。
【0041】
感応素子ESは、2keV~2MeVのスペクトル範囲の少なくとも一部の範囲内のシーンから発出されるX線/ガンマ線光子を検出するのに適した任意のタイプとすることができる。感応素子は、例えば、Si、Ge、CdTe、等からなる半導体ピクセル、シンチレーションセンサ、ペロフスカイトセンサ、等とすることができる。
【0042】
感応素子は、概して電気的な、受信した各X線又はガンマ線光子のエネルギーを表す物理量(通常は、電荷がそのエネルギーに比例する電流パルス)の形で信号を生成する。電子読み取り回路ELは、感応素子から入来する信号の従来のアナログ前処理、すなわち、増幅、パルス波形整形、その高さ又はエネルギーの検出を実行する。読み取り電子機器から入来するアナログ信号SAは、変換器ADCによってデジタル形式に変換される。
【0043】
好ましくは、光子は1つずつ検出され、それらのエネルギーは検出器によって記録され、日付が刻印される。この情報は、変換器ADCからのデジタルデータストリームFDNに含まれ、処理回路CTSに送信される。この処理回路は、埋め込むこともできるし、又は遠隔とすることもできる。遠隔とする場合、分光検出器と処理回路との間に遠隔通信リンクを確立しなければならない。
【0044】
信号処理回路は、適切にプログラムされた、信号のデジタル処理用の1つ又は複数の包括的なプロセッサ又は専用のプロセッサを含むことができる。変形例として、又は追加例として、信号処理回路は、専用のデジタル回路を含むことができる。さらに、大まかに言えば、信号処理回路は、処理対象のデータ(とりわけ、分光検出器によって生成された事象)を格納するためのランダムアクセスメモリと、較正パラメータ、ニューラルネットワーク係数、等を格納するためのランダムアクセスメモリ及び/又は読み取り専用メモリと、を含む。概して、本発明は、特定の信号処理回路生産技術に限定されない。この回路についての以下の説明では、ブロック及びモジュールへの分類は、純粋に機能上のものであり、これらのブロック及びモジュールは、必ずしも別個の物理的要素に対応しない。
【0045】
図1の実施形態では、信号処理回路CTSは、3つのモジュール、すなわち、ソース識別モジュールIDと、訓練モジュールAPPと、自己較正モジュールAEと、を含む。他の実施形態では、訓練モジュールが存在しない場合があり、その場合には、識別モジュールのニューラルネットワークの訓練は別のデバイスを用いて実行され、学習されたニューラルネットワークの係数が、発光種を識別するためのデバイスに転送されるだけである。他の実施形態では、自己較正モジュールが存在しない場合があるが、それは、前もって正確な較正が(例えば、計測学実験室で)行わなければならないことを意味し、予防措置を講じて、分光検出器の応答におけるドリフトを最小限にすることが必要になる。
【0046】
分光検出器からのデジタルデータストリームFDNは、回路CTSの識別モジュールによって受信され、事象メモリMEVに格納される。スペクトル構築モジュールMCSは、メモリに格納された較正表TEを使用して、これらの事象をスペクトルに変換し、これにより、光子エネルギーを各検出事象と関連付けることが可能になる。前もって確立されたこの較正表は、比較的不正確である可能性があり、エネルギー値の誤差が2%にもなる可能性がある。以下で詳細に説明するように、自己較正モジュールAEにより、較正表を更新して、その精度を向上させることが可能になる。ピクセル処理された検出器の場合には、較正が1ピクセルずつ、それぞれのピクセルごとに異なる較正表を用いて行われる。
【0047】
各スペクトルは、実際には、エネルギーヒストグラムであり、エネルギー値は各事象に起因する。事象は、エネルギークラス(「ビン(bin)」)にグループ分けされ、スペクトルは、各クラスに属する事象の数で構成される。したがって、「スペクトル」とは、所与の時間間隔にわたって検出された光子のスペクトル分布を意味すると理解され、その期間は、ユーザが設定又は選択することができる。
【0048】
次いで、データ変換モジュールMTDが、スペクトル前処理演算を実行する。本明細書で検討する実施形態では、2つの別個の前処理演算が実行される。
【0049】
一方において、取得された各スペクトルは、対数スケールに変換され、次いで、正規化される。こうして変換されたスペクトル、SNlogは、発光種の識別に使用される。より詳細には、Siは、i番目のエネルギークラスにおける事象の数であるとする。第1の演算を適用する。
【数1】
【0050】
次いで、正規化されたスペクトルを以下のように計算する。
【数2】
【0051】
対数スケールの使用により、低振幅のスペクトル構造を明らかにすることが可能になるが、それは、発光種の識別に有効に寄与する。
【0052】
他方において、スペクトルもまた、対数変換せずにノルム1(各エネルギークラスと関連付けられた値の合計が1になるようにすること)に正規化される。こうして変換されたスペクトル、SN1は、
【数3】
により得られ、識別された発光種の割合を決定するために使用される。
【0053】
もっと大まかには、前処理はスケール変換とすることができる。すべての場合において、また中国特許出願公開第109 063 741号明細書の教示に反して、データの次元数の変化がなく、前処理するスペクトルは一次元のままである。
【0054】
スペクトルSNlogは、複数の「ベイジアン(Bayesian)」畳み込みニューラルネットワークM個を実装するモジュールCBNN_IDに入力として供給され、ニューラルネットワークはそれぞれ、すべてのスペクトルを入力として取り込み、その出力で、特定の放射性核種(指数「j」によって識別される)のシーンに存在する確率を示す値PPj、及びその確率の信頼度のレベルを供給する。したがって、識別可能であることが望まれるそれぞれの発光種ごとに、別個のニューラルネットワークが存在する。これらのベイジアン畳み込みニューラルネットワークの構造及び演算について、以下でより詳細に説明することにする。
【0055】
閾値処理モジュールMSを使用して、どの発光種が事実上シーンに存在すると見なされるかを決定する。そのために、閾値処理モジュールは、存在の確率、及び場合によっては、その不確実性のレベルを考慮に入れる。
【0056】
したがって、識別モジュールの出力では、シーンに存在する発光種のリストLEAが得られる。
【0057】
ノルム1に正規化されたスペクトルSN1は、それぞれが特定の放射性核種に対応する複数の「ベイジアン」畳み込みニューラルネットワークを実装するモジュールCBNN_PROに入力として供給される。すでにシーンに存在していると識別された放射性核種「j」に対応するモジュールCBNN_PROの各ニューラルネットワークは、すべてのスペクトルを入力として取り込み、その出力で、記録された信号中のこの放射性核種の割合、及びこの割合の信頼度のレベルを示す値PROjを供給する。言いかえれば、値PROjは、放射性核種「j」に起因する可能性がある記録された光子のパーセンテージに対応する(言葉の誤用により、「シーンにおける放射性核種「j」の割合」という表現は、もっと単純に用いられているが、まったく同じであるのは、特定の状態、すなわち、すべての発光体が検出器から同じ距離にあり、同じ吸収材/散乱材が存在する状態である場合においてのみである)。したがって、それぞれの原子種ごとに別個のニューラルネットワークが存在する。これらのニューラルネットワークは、発光種の識別に使用されるものと同じタイプのものとすることができる。
【0058】
したがって、識別モジュールの出力では、識別された原子種の割合のリストLPもまた取得される。
【0059】
モジュールCBNN_ID及びCBNN_PROのニューラルネットワークは、事前に、訓練モジュールAPPによって生成された合成データベースBDS、すなわち、シミュレーションデータからの教師あり訓練によって訓練されている。訓練により、割合を識別し、決定するためのニューラルネットワークを特徴付けするPRN_ID及びPRN_PROという2つのパラメータのデータベースが作成され、メモリに格納される。
【0060】
合成スペクトルは、モンテカルロシミュレータ(Monte-Carlo simulator:図1のブロックSS)によって生み出され、これにより、検出器内及び検出器の直接的な環境における光子-材料間の相互作用と、有利な点として、任意の背景ノイズと、をシミュレーションすることが可能になる。次いで、それぞれの光子ごとに、検出器の応答、すなわち、電子-正孔ペアの生成時の統計変動によるエネルギー分解能、検出器の電子ノイズ及び電荷の損失によるエネルギー分解能を適用する必要がある(ブロックRD)。これは、必要なだけの数のソースを含む、対象となるソースの所与のリストに対して一度だけ適用される物理モデルである。
【0061】
各発光原子種は、独立してシミュレーションされ、シミュレーションデータは、各光子によって分光検出器に蓄積されたエネルギーを与える事象のリストの形で復元される。次に、異なる放射性元素からなる混合物が、やはり合成的に生成され(MIXブロック)、そのために、混合物のそれぞれの放射性元素ごとにシミュレーションされたエネルギーリストのエネルギーが、異なる統計量及び異なる割合でランダムに引き出される。各発光原子種に起因する光子の割合が記録される。
【0062】
次いで、意図的な「非較正化(decalibration)」を適用して、ニューラルネットワークが較正法則のドリフトの影響を学習するようにする。ゲインgは、1を中心とした標準偏差σgainのガウスで引き出され、同様に、オフセットoffは、0を中心とした標準偏差σoffのガウスで引き出される。次いで、同一の混合物のエネルギーEのすべてに対して、新たな非較正化されたエネルギーEdが、次式によって計算される。
[数式3]
=g(E-off)
【0063】
各ソース及びソースの混合物の複数個の非較正化合成スペクトルが、訓練に使用されるデータベースBDSに記録される。
【0064】
ブロックA_ID1~A_IDMは、ブロックCBNN_IDのM個の畳み込みニューラルネットワークの教師あり訓練アルゴリズムを実装し、及びそれぞれがこれらのニューラルネットワークを特徴付けしているM個のパラメータのセットを生成し、これらのパラメータは、上述したデータベースBDN_IDに格納される。同様に、ブロックA_PRO1~A_PROMは、ブロックCBNN_PROのM個の畳み込みニューラルネットワークの教師あり訓練アルゴリズムを実装し、及びそれぞれがこれらのニューラルネットワークを特徴付けしているM個のパラメータのセットを生成し、これらのパラメータは、上述したデータベースBDN_PROに格納される。
【0065】
分光検出器の自己較正のプロセスを実装するために、ブロックSSの合成のソースもまたモジュールAEによって使用される。ソースに存在する放射性核種及びそれらの割合(識別モジュールIDによって供給されたデータ)を知ることによって、これらの合成のソースを使用して、「予想」スペクトルを計算することが実際に可能である。次に、この予想スペクトルと、モジュールMCSによって供給されたものとの間の相関関係を最大化する較正パラメータのセットを見つけるために、ブロックECCによって適合メッシュ又は遺伝的アルゴリズムタイプのアルゴリズムが使用される。これらのパラメータを使用して、モジュールIDによって使用される較正表を更新する。読み易くするために、ある特定のブロック(MEV、MCS、SS、TE)が、図1の複数箇所で表示されていることに留意されたい。
【0066】
ブロックECCは、(Maier 2016)に記載された相関関係によるエネルギー較正アルゴリズムを実装する。
【0067】
この較正は、ユーザの介在を必要とせず、分析対象のシーンで、リアルタイムで実行される測定にのみ依拠する。
【0068】
発光原子のソースの識別及びそれらの割合の決定に使用されるベイジアン畳み込みネットワークについて、ここで図2を用いて説明することにする。
【0069】
それ自体は知られているように - 例えば、(Aloysius 2017)を参照されたい - 畳み込みネットワークは、入力スペクトルの異なる特性の抽出を可能にする複数個の畳み込み層で構成された第1の部分と、多層パーセプトロン(この文献では、「全結合」層という表現もまた使用されている)からなる第2の部分と、を含む。
【0070】
図1の実施形態では、入力は、2000個のチャネルを含むスペクトルSP0からなり、それぞれのチャネルは、それぞれのスペクトルバンド内のスペクトルのエネルギーを表す値である。
【0071】
第1の畳み込み層CC1は、16個の畳み込みニューロンを含む。各畳み込みニューロンは、以下の演算、すなわち、
- データの次元を保存するためにゼロ充填を用いて、16個の要素からなるカーネルを有する畳み込みフィルタによるフィルタリング
- サイズ2の「最大プーリング」演算によるフィルタの出力の次元減少
- バッチ正規化
- 非線形活性化関数、この場合にはReLUタイプの適用
を実行する。
【0072】
サイズ2の最大プーリング演算には、スペクトルを取り込むことと、2つチャネルごとに大きい方のチャネル1つだけを保存することと、が含まれる。これにより、スペクトルの次元が2分の1に減少される。
【0073】
バッチ正規化演算-それ自体は知られており、(Ioffe 2015)をされたい-には、バッチと呼ばれる部分集合中の訓練データベースからデータを収集し、(後述するように)バッチのそれぞれに訓練を反復して実行し、次いで、検討されるバッチに対応する各ニューロンの出力を平均及び分散で正規化することが含まれる。訓練が行われた後に、データベース全体にわたる正規化パラメータは保存されて、発光種の割合の識別及び決定にニューラルネットワークが使用されるときに、同じ正規化が適用される。
【0074】
活性化関数ReLUは、次式によって定義される。
ReLU(x)=max(0,x)
【0075】
したがって、第1の畳み込み層の出力は、1000次元の特性SP1,0~SP1,15の16個のスペクトルからなる。これらのデータは、入力として第2の畳み込み層CC2に供給され、この層は、1000次元のデータを演算すること以外、すべての点で第1の畳み込み層と同様である。
【0076】
したがって、第2の畳み込み層の出力は、1000次元の特性SP2,0~SP2,15の16個のスペクトルからなる。これらのデータは、入力として第3の畳み込み層CC3に供給され、この層は、500次元のデータを演算すること以外、すべての点で最初の2つと同様であり、したがって、その出力は、250次元の特性SP3,0~SP3,15の16個のスペクトルからなる。
【0077】
スペクトルは平坦化され、畳み込み層のように、ReLUタイプの活性化関数を使用して、すべてが入力としてパーセプトロン層CPの20個のニューロンのそれぞれに供給される4000個の要素のベクトルSPA4を形成する。
【0078】
パーセプトロンの最後の層、すなわち出力層CSは、優先的には、「ソフトマックス」タイプの活性化関数を有する2つのニューロンで構成されており、そこでは、xを使用して、活性化関数の前のニューロンの出力を表示している。
【数4】
jは、2つの出力ニューロンを識別する指数である。
【0079】
識別ネットワークの場合、出力層の第1のニューロンは、混合物中の放射性元素の存在の有無を表す0と1の間にある数を示し、一方、第2のニューロンは、第1のニューロンの数の補数である。
【0080】
割合評価ネットワークの場合、第1のニューロンは、放射性元素の信号の割合に対応する0と1の間にある数を示し、一方、第2のニューロンは、その他のすべての要素の信号の割合に対応する。
【0081】
2つの相補的な出力ニューロンの使用は、必須ではないが、図7A図7Fを用いて後述するように、有利である。
【0082】
ニューラルネットワークのパラメータ又は係数(畳み込み層CC1、CC2及びCC3のカーネル、パーセプトロン層のシナプスの重量)は、例えば、勾配降下法アルゴリズムを使用して、教師ありで学習される。例えば、図4図6を参照して下記で論じる実施形態では、反復ごとに0.001ずつ減少する訓練率0.01で確率的勾配降下法アルゴリズムを使用し、モーメント0.9でネステロフのモーメント(Nesterov moment)を使用して、1000例のバッチで10回の反復にわたって訓練が実行されている。
【0083】
より具体的には、この実施形態では、この識別ネットワークに対する訓練フェーズの間に使用され、最小化される費用関数は、以下のように定義されるバイナリクロスエントロピーである。
[数式6]
L(ypred,yreal)=yreal.log(ypred)+(1-yreal).log(1-yreal
式中、yrealは、ニューロンが出力で有するはずの真値であり、ypredは、ネットワークによって予測される値である。
【0084】
割合を評価するためのネットワークの訓練は、ノルム1に正規化された合成スペクトルで実行される。第1のニューロンによって予測される出力は、混合物中の放射性元素の割合であり、第2のニューロンによって予測される出力は、その他の放射性元素の割合である。
【0085】
このネットワーク用に使用され、最小化される費用関数は、平均二次偏差である。
[数式5]
L(ypred,yreal)=(ypred-yreal
【0086】
2つの費用関数は、データベースのすべての例にわたる平均値によって評価される。
【0087】
図2のニューラルネットワークの「ベイジアン」特徴は、中間層のニューロンの一部をランダムに「ドロップアウト」させることによって得られ((Gal 2016)を参照)、これは、ネットワークの訓練時及び使用中に等しく適用される。各ニューラルネットワークは、各入力スペクトルに複数回適用され、ニューロンがランダムにオフに切り換わるため、毎回異なる結果が返送され、その統計的分布は、発光原子種の識別及び/又はその割合に影響を与える不確実性について通知する。例えば、図4図6を参照して後述する実施形態では、ニューロンのドロップアウト率は、各中間層で50%であり、各ニューラルネットワークが100回適用される。
【0088】
図3は、上述した発光原子種を識別するための方法を概略的に図示する。
【0089】
ステップa)は、分光検出器SPMを用いたスペクトルの取得を含む。
【0090】
ステップb)は、識別ニューラルネットワークの適用に先立つデータの変換、すなわち、本発明の好適な一実施形態において、スペクトルを対数スケールに変換し、それを正規化することを含む。
【0091】
ステップc)は、好ましくはベイジアンである畳み込みニューラルネットワークを、ステップc)によって変換されたスペクトルに適用することを含む。
【0092】
ステップd)は、識別ニューラルネットワークの出力の関数としてシーンに存在する発光種の識別を含む。
【0093】
ステップe)は、割合ニューラルネットワークの適用に先立つデータの変換、すなわち、本発明の好適な一実施形態において、スペクトルをノルム1として正規化することを含む。
【0094】
ステップf)は、好ましくはベイジアンである畳み込みニューラルネットワークを、ステップe)によって変換されたスペクトルに適用することを含む。
【0095】
ステップg)は、ステップd)で割合ニューラルネットワークの出力の関数として識別された発光種の割合の決定を含む。
【0096】
ステップh)は、ステップa)の実装に使用される較正表を更新する自己較正に相当する。
【0097】
事前のステップapp)は、ステップc)及びf)において使用されるニューラルネットワークの訓練に相当する。
【0098】
方法は、発光種の識別だけが必要な場合には、ステップc)において停止することができ、自己較正を使用しない場合には、ステップg)においてさえ停止することができる。
【0099】
半導体ベースのピクセル処理された分光撮像素子CdTe及びその最適化された読み取り回路を分光検出器として使用することにより、本発明を試験した(Gevin 2012)。分光撮像素子は、800μmのピッチで256個のピクセルを含み、厚さが2mm、エネルギーダイナミックレンジが1keV~1MeV、及びエネルギー分解能が0.7keV(中間高さでの全幅)~60keVである。
【0100】
同じタイプだが、厚さが1mmで、ピッチが625μmの分光撮像素子を使用することにより、同様の結果が得られた。検出器を変更しても、ニューラルネットワークの再訓練さえも必要ではなく、このことは、本発明による識別方法のロバスト性を確認する。
【0101】
分光撮像素子を真空チャンバに設置し、ペルティエモジュール(Peltier module)によって約-15℃の温度に冷却し、300V/mmの偏波磁場にさらした。読み取り回路によって記録された信号は、インタフェースカードCIFを介して、プログラム可能なデジタル回路Zynqに送信される。デジタル回路は、事象を格納し、それらを制御コンピュータに送信し、そこで分光識別プロセスが実行される。事象は、相互作用ピクセル、較正されていない蓄積エネルギー、及び相互作用の日付を含んだリストの形で返送される。すべてのピクセルの合計スペクトルは、実験室での1回だけの初期較正によって前もって決定された較正表を用いて事前に較正される(変形例として、取得チェーンの理論上の伝達関数を適用することも可能であろう)。
【0102】
合成データは、検出器及びそのごく近隣の環境、つまり、検出器が含まれている構造をモデル化することによって、半解析的シミュレーションを使用して生成された。環境内及び検出器内の光子材料の相互作用をシミュレーションし、検出器内のエネルギーの蓄積だけでなく、それらの位置もまた記録した。Geant4シミュレータを使用して、これらのシミュレーションを実行することもまた可能である。
【0103】
それぞれのエネルギーの蓄積ごとに、統計的エネルギー変動は、蓄積エネルギーE0を中心とした標準偏差
【数5】
のガウスにエネルギーを引き出すことにより、考慮に入れた。ここで、εw=4.42eVは、CdTeにおける電子-正孔ペアの生成エネルギーであり、F=0.15は、CdTeのファノ因子である。
【0104】
電荷の損失を考慮して、検出器の重み付けポテンシャルは、ポアソン方程式△Uw=0を、有限差分解法を使用して検出器の円筒座標に置き換え、信号が誘起される電極では1に、その他の電極及びカソードでは0に設定するという制限条件で解くことによって計算した。シミュレーションドメインは、信号が誘起される電極の両側にある2つの電極まで拡張された。変形例として、有限要素解法を使用することも可能であった。次いで、電荷の損失CCEは、深さz0の関数として、ヘクト方程式
【数6】
を使用して計算した。ここで、μeτe=1.14.10-3cm.V-1、μhτh=3.36.10-4cm.V-1、L=2mmであり、V0=600Vである。
【0105】
相互作用深さz0でのエネルギーECCEは、次式によって計算した。
【数7】
【0106】
1Dだけでなく3Dでの検出器の電荷の損失を計算して、検出器の応答のより忠実なモデルを得ることもまた可能であったであろう。ただし、これはニューラルネットワークの訓練には必須ではない。
【0107】
電子ノイズに関連する誤差は、ECCEを中心としたガウスで記録された最終的なエネルギーを、rms=50e-が電子ノイズに起因する電子rmsの数に対応する標準偏差σ=εw rmsで引き出すことによって考慮に入れた。
【0108】
原子種の混合物のリストを作成するために、それぞれが個々にシミュレーションされた放射性元素の事象の各リストで10個から1000万個の光子が引き出されるが、この引き出しは復元を用いて実行され、それは同じエネルギーを複数回引き出すことが可能であることを意味する。σgain=0.0055、且つ、σoffset=0.5keVとし、非較正化を実行した。このようにして、200000個の合成混合物が生成された。
【0109】
合成スペクトルは、0~1MeVのエネルギーダイナミックレンジにわたる幅0.5keVの2000個のチャネルで構成されたヒストグラムを作ることによって得られた。
【0110】
割合の識別及び決定に使用されるニューラルネットワークは、図2を参照して上記で説明した通りである。
【0111】
図4は、57Co及び137Csを含む混合物に分光撮像素子を露出することによって得られた、(対数スケールに表現された)スペクトルを示す。検出された光子の数が、数千個のオーダーであり、比較的少ないことに留意されたい。
【0112】
図5は、これらの核種だけでなく、シーンに存在しない他の核種(241Am、133Ba、152Eu、22Na)にも対応する複数個の識別ニューラルネットワークの出力値を図示する。より具体的には、各ニューラルネットワークが各繰り返しでニューロンの50%をランダムにドロップアウトさせることによって100回適用されると、出力の統計的分布が得られる。縦棒は中央値を表し、誤差箱は、第1及び第3の四分位数に相当し、誤差棒は、第1及び第9の十分位数に相当する。
【0113】
検出閾値は中央値で0.5に設定されているが、これは識別ネットワークの出力が対応する発光種の存在の確率を表すと考えれば、当然のことである。出力の統計的ばらつきは、実際に存在する放射性核種の場合には無視できる程度であり、それ以外の場合には、偽陽性のリスクを生じさせない程度の低さであることに留意されたい。
【0114】
図6は、57Co及び137Csの割合(より具体的には、検出された光子の総数に対するそれらの寄与)の統計的分布(中央値、並びに第1及び第9の十分位数に相当する誤差棒)を図示しており、対応する割合ニューラルネットワークを100回適用し、毎回50%のニューロンをドロップアウトさせることによって得られたものである。
【0115】
図7A図7Fは、活性化関数がソフトマックスタイプの2つの相補的な出力を有するニューラルネットワークの使用によって得られた利点を図示する。これらの図では、実線の曲線は、検出された光子の数の関数としてのソフトマックス活性化関数の場合の良好な応答率(1:識別誤差がない)を表し、一方、破線の曲線は、シグモイド活性化関数を用いた単一出力ニューロンに対応する(ソフトマックス関数は単一出力ニューロンには使用することができず、常に1を返送することになる)。これらのグラフの各ポイントは、2500のソースの混合物にわたる良好な応答の平均率に対応する。異なるグラフは、異なる放射性核種に対応している。すなわち、241Am(図7A)、133Ba(図7B)、22Na(図3C)、152Eu(図7D);137Cs(図7E)、57Co(図7F)である。
【0116】
結果は、241Am及び152Euのソースの場合、1つの出力ニューロンを有するネットワークの性能レベルが、2つの出力ニューロンを有するネットワークの性能レベルと同等であることを示している。57Co及び22Naのソースの場合、相対的な性能レベルは、光子の数に依存し、22Naの場合、1つの出力ニューロンを有するネットワークの性能レベルが、2つの出力ニューロンを有するネットワークの性能レベルをほんのわずかだけ上回っている。最後に、133Ba及び137Csの場合、2つの出力を有するニューラルネットワークが、単一出力を有するニューラルネットワークに優っている。
【0117】
概して、少なくとも試験した構成では、2つの出力を有するニューラルネットワークを使用することが好ましく思われる。
【0118】
すべての場合において、光子の数が103に達した時点で、良好な応答の率は0.9に近いか、又はそれよりも大きくなっていることに留意されたい。
【0119】
本発明の重要な一態様は、発光種を識別するステップと、それらの割合を決定するステップとが分かれており、それらが別個のニューラルネットワークのセットによって実装されることである。
【0120】
これにより、演算を前処理する異なるスペクトルを2つの演算に使用することが可能になる。識別の場合、「対数正規化」を使用することが好ましく、これにより、わずかな光子で構成される構造であっても、重要視することが可能になり、光子のエネルギーが増加すると、検出器内での光子の相互作用の確率が大幅に減少するため、特に興味深いことである。一方、割合を評価するためのネットワークの場合、本発明は、小さな構造を「無視する」線形正規化(ノルム1)を使用することが好ましい。このことは、信号中の各ソースの割合が、スペクトル中の各ソースの寄与に直線的に関連しているため、有利である。実験的に、割合の評価に「対数正規化」を使用しても、好結果が得られないことがわかった。
【0121】
このことが、図8A図8B及び図8Cによって図示されている。
【0122】
図8Aのスペクトルを本発明の方法によって分析した。図8Bは、識別ネットワークにより、241Am及び57Coの存在を確実に確認することが可能になることを示している。しかしながら、割合を評価するためのネットワークでは、57Coの割合は0.7%、241Amの割合は99.3%となっている。
【0123】
先行技術のある特定の方法のように、割合だけを決定していたのであれば、57Coが極微量状態で現実に存在しているのか、それとも例えば、133Ba、137Cs、及び22Naのように、現実には存在していないのかを知ることは不可能であったであろう。割合ネットワークとは異なる別個の識別ネットワークを使用することにより、低い割合ではあるが、57Coが現実に存在することを明白に決定することが可能になる。
【0124】
本発明の方法及びデバイスには、先行技術に優るいくつかの長所がある。
【0125】
識別したいそれぞれのソースごとに別個のニューラルネットワークを使用することにより、識別可能な原子種の数を制限しないことが可能になる。さらに、全体的なアーキテクチャを変えずに新たなネットワークを追加し、パーセプトロン部分のみに再訓練を実行することによって、新たなソースの追加が可能になる。一方、畳み込み層では訓練をもう一度実行する必要はない。
【0126】
変形例として、ニューラルネットワークを、複数の発光種、例えば、同様のスペクトルを示す種のファミリーと関連付けさせることが可能である。この場合、識別されるのは個々の種ではなく、種のグループ又はファミリーである。
【0127】
畳み込みタイプのニューラルネットワークを使用すると、較正誤差(較正法則の一時的な不安定性、分光検出器によって変わる器具の応答)、及び構成の変化(ソースと、分光検出器又は検出器との間の吸収材又は散乱材の存在)に関して、データベースでこれらの問題を考慮に入れることにより、優れたロバスト性が得られる。さらに、光子統計量が少ないスペクトルの場合に、良好な性能レベル(ソースの混合物から発出される少なくとも1000個の光子を含有するスペクトルで90%を超える精度)で取り扱うことが可能になる。この方法は、特定のピークではなく、スペクトルの一般的な構造(ピーク、とりわけコンプトン構造(Compton structure))に焦点を当てている。
【0128】
ベイジアンアプローチにより、各ソースが存在する確率の誤差を定量化することが可能になり、これにより、結果の妥当性、したがって自動分析に与え得る信頼度の程度についてユーザに通知される。
【0129】
さらに、「専門家」による前処理は不要であり、精緻な較正が自動的に実行される。したがって、有資格の専門家を頼みとすることが大幅に減る。
【0130】
上記で説明したように、識別するステップ、及び割合を決定するステップが分かれていることにより、原子種が存在しないのか、又は割合は低いが、確かに存在しているのかを確実に決定することが可能になる。
【0131】
特定の実施形態に関して本発明を説明してきたが、多くの変形例を想定することができる。
【0132】
例えば、ニューラルネットワークの構造に関しては、畳み込み層及びパーセプトロンタイプの数、活性化関数、データ整理方法、畳み込みカーネルのサイズ、等が、単なる例として挙げられる。それに加えて、すべてのニューラルネットワークが同一である必要はない。
【0133】
他の教師あり学習技法を実装することができる。それに加えて、訓練に合成のソースを用いることは有利であるが、この代わりに、又はこれに加えて、実在のソースを使用することもまた可能である。
【0134】
ニューラルネットワークの適用に先立つ他のデータ変換演算、とりわけ他の正規化技法を使用することができる。
【0135】
測定値の不確実性に関する情報を必要としない場合には、ニューロンのランダムなドロップアウトを用いることは必須ではない。それに加えて、使用する場合、ランダムなドロップアウトは必ずしも中間層のすべてに関係する必要はない。
【0136】
0.5で閾値選定する以外の判定基準を使用して、特に、偽陽性のリスク、又は逆に偽陰性のリスクを最小限にすることが好ましい場合、原子種が存在すると見なされるのか、又は存在しないと見なされるのかを決定することができる。
【0137】
各ニューラルネットワークは、3つ以上の出力、例えば、発光種が存在する確率を示す出力を1つ、発光種が存在しない確率を示す出力を1つ、及び存在の有無が不確かな状況を示す出力を1つ有することができる。有利な点として、これらの出力は相補的である(すなわち、それらの合計が、所定の値、通常は1を取るということである)。出力の活性化関数は、ソフトマックスタイプとすることができるが、当業者は、他の可能性を想定することができる。
【0138】
複数個の別個の分光検出器からのデータは、組み合わせることができる。
【0139】
参考文献
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図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図7F
図8A
図8B
図8C