(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】温熱インプラントおよびインプラントを加熱する方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
A61N 1/40 20060101AFI20240828BHJP
【FI】
A61N1/40
(21)【出願番号】P 2021576328
(86)(22)【出願日】2020-06-25
(86)【国際出願番号】 IB2020056013
(87)【国際公開番号】W WO2020261169
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-06-05
(32)【優先日】2019-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】517421390
【氏名又は名称】エンドマグネティクス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100139723
【氏名又は名称】樋口 洋
(72)【発明者】
【氏名】ハーマー,クエンティン
(72)【発明者】
【氏名】アゴスティネリ,ティツィアーノ
(72)【発明者】
【氏名】ロリマー,ケヴィン ジョン
【審査官】和田 将彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06230038(US,B1)
【文献】米国特許第06337627(US,B1)
【文献】特開2003-090702(JP,A)
【文献】特開2011-149906(JP,A)
【文献】特表2018-526160(JP,A)
【文献】特開2011-251042(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/40
A61N 2/02
A61F 7/00
A61B 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
身体の組織内に移植され
たインプラントを加熱するための温熱治療システムであって、該システムは、
磁場によって励起されると熱出力を生成するように構成される少なくとも1つのインプラントであって、少なくとも1つの磁性マイクロワイヤを含み、該少なくとも1つのマイクロワイヤは大バルクハウゼンジャンプ材料から形成され、前記少なくとも1つのマイクロワイヤは複数のワイヤ部分を含
み、各ワイヤ部分が軸を有する、インプラント;
サブ-双安定モードで前記インプラントを励起するための、
磁場軸を画定する印加の方向を有する磁場を生成するよう構成された磁場発生器
であって、前記インプラントを交番磁界で励起するように配置された少なくとも1つの駆動コイルを含む、磁場発生器;
を含み、
前記ワイヤ部分は、励起中
、前記ワイヤ部分の少なくとも1つ
の軸
は、
前記インプラントを通る前記磁場の任意の向きについて前記磁場軸に対して60°以下の角度をな
すように互いに配置され、前記インプラントは、その向きとは独立して実質的に均一な熱出力を提供する、
温熱治療システム。
【請求項2】
前記
少なくとも1つのマイクロワイヤが、コイル状マイクロワイヤ
および該コイル状マイクロワイヤの長手軸に沿って配置されたマイクロワイヤを含むことを特徴とする、請求項1に記載の温熱治療システム。
【請求項3】
前記少なくとも1つのマイクロワイヤが、3つの辺を有するまたは4つの辺を有する四面体形状で配置されることを特徴とする、請求項1に記載の温熱治療システム。
【請求項4】
前記インプラントが、前記組織内への移植の前に10mm未満の最大長さを有することを特徴とする、請求項1~
3のいずれか一項に記載の温熱治療システム。
【請求項5】
前記インプラントが、それぞれ直径対長さ比が100未満である直線状ワイヤ部分を含むことを特徴とする、請求項1~
4のいずれか一項に記載の温熱治療システム。
【請求項6】
前記直線状ワイヤ部分がそれぞれ、25mm未満
の長さを有することを特徴とする、請求項
5に記載の温熱治療システム。
【請求項7】
前記磁場発生器が、
30~750kHzの範囲の周波数で磁場を生成するよう構成されることを特徴とする、請求項1~
6のいずれか一項に記載の温熱治療システム。
【請求項8】
前記磁場発生器が、30~750kHzの範囲の周波数で1000A/m~20,000A/mの磁界強度を生成するよう構成されることを特徴とする、請求項
7に記載の温熱治療システム。
【請求項9】
前記少なくとも1つのマイクロワイヤが、鉄に富むガラスコーティングされた非晶質マイクロワイヤ、コバルトに富むガラスコーティングされた非晶質マイクロワイヤ、ニッケルに富むガラスコーティングされた非晶質マイクロワイヤ、鉄-ケイ素-ホウ素系非晶質マイクロワイヤ、鉄系非晶質マイクロワイヤ、および/またはコバルト系非晶質マイクロワイヤを含むことを特徴とする、請求項1~
8のいずれか一項に記載の温熱治療システム。
【請求項10】
温度センサおよびコントローラをさらに含み、前記温度センサが、前記インプラントの温度を感知し前記コントローラに出力するように配置され、前記コントローラが、前記感知された温度と独立して前記
磁場の強度を調整するように構成されることを特徴とする、請求項1~
9のいずれか一項に記載の温熱治療システム。
【請求項11】
身体の組織内に移植するためのインプラントであって、
大バルクハウゼンジャンプ材料から形成される、少なくとも1つの磁気マイクロワイヤ
を含み、
前記インプラントは、
磁場軸を画定する印加の方向を有する磁場によってサブ-双安定モードで励起されると、熱出力を生成するよう構成され、
前記少なくとも1つのマイクロワイヤは、複数のワイヤ部分を含み
、各ワイヤ部分は軸を有し、
前記ワイヤ部分は、励起中
、前記ワイヤ部分の少なくとも1つ
の軸
は、
前記インプラントを通る前記磁場の任意の向きについて前記磁場軸に対して60°以下の角度をな
すように互いに配置され、前記インプラントは、その向きとは独立して実質的に均一な熱出力を提供する、
インプラント。
【請求項12】
四面体または3つの脚を有する三脚の3つの辺を形成する3つのマイクロワイヤを含む、または、四面体の4つの辺を形成する4つのマイクロワイヤを含むことを特徴とする、請求項
11に記載のインプラント。
【請求項13】
前記インプラントが、2mg未満の大バルクハウゼンジャンプ材料を含むことを特徴とする、請求項
11または
12に記載のインプラント。
【請求項14】
身体の組織内に移植される際にインプラントの位置を特定し加熱するための複合検出および温熱治療システムであって、
請求項1~
10のいずれか一項に記載の温熱治療システム;
前記インプラントから受信した信号を検出するよう配置された少なくとも1つの感知コイル;
前記少なくとも1つの感知コイルと関連付けられた少なくとも1つの検出器
を含み、
前記磁場発生器が、1~100kHzの第1の周波数で第1の磁場を生成し、前記組織内の前記インプラントの位置を特定するために前記インプラントを励起し、かつ、30~750kHzの第2のより高い周波数で第2の磁場を生成し、熱出力を提供するために前記インプラントを励起するように構成されることを特徴とする、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、組織の温熱治療の分野に関し、より詳細には、温熱インプラントを用いた腫瘍の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
固形癌腫瘍の従来の治療は、外科的切除である。しかしながら、より小さな腫瘍、例えば20mm未満および特に10mm未満については、全身麻酔下での完全な外科的処置の外傷を避けることが望ましく、より高齢のまたは虚弱な患者についてはさらにそうである。組織が凍結される冷凍アブレーション、および組織が加熱される温熱療法を含む、外科的切除の多くの代替案が検討されてきた。
【0003】
2つのタイプの温熱、すなわち、細胞が物理的に切除され破壊されるのに充分に組織が加熱される切除温熱療法、および、組織の温度が42~45℃の範囲のレベルまで上昇されてこの点で細胞を直接死滅させるかまたは腫瘍細胞を認識して死滅させる免疫系の能力を増強する様々な細胞プロセスが活性化される、より穏やかな形態の温熱療法が当技術分野で知られている。このより穏やかな温熱療法はまた、化学療法、放射線療法および免疫療法などの他の治療を併用した場合にその有効性を高めるので、「アジュバント(adjuvant)」温熱療法と呼ばれることもある。両方のアプローチを用いて癌を治療することができる。
【0004】
温熱療法で治療される腫瘍としては、乳房、肺、肝臓、腎臓、黒色腫、および他の固形腫瘍タイプが挙げられる。温熱療法が成功するために、熱は、好ましくは、制御された方法で腫瘍に局所的に提供され、周囲の非癌性組織の加熱は最小限に抑えられる。
【0005】
温熱療法に使用されるインプラントはまた、組織内への供給に便宜である必要がある。典型的には、そのようなインプラントは、患者への外傷を低減するために、細いゲージ針、例えば18g~14gを通して配置可能である。理想的には、そのようなインプラントは、目立たないようにし、移植中の外傷を最小限にし、かつ治療される組織を取り囲む非疾患組織の望ましくない加熱を最小限にするために、配置前の長さが10mm未満、好ましくは6mm未満の長さである。温熱インプラントは、生検または他の外科的処置中に、身体の関心部位、例えば癌病変またはリンパ節に配置され得る。インプラントは、超音波またはX線/マンモグラフィなどの結像ガイダンスの下で配置される。インプラントはまた、その機能に影響を及ぼすことなく安全に移植されるように堅牢であるべきである。
【0006】
癌患者、特に乳癌患者の増大する割合は、手術または腫瘍の除去の前に化学療法(または他の全身療法)で治療され、これは「ネオアジュバント(neo-adjuvant)」療法と称される。この目的は、手術前に腫瘍を縮小し、それにより侵襲性を減らすことである。場合によっては、これは、乳房切除術で乳房全体を除去する代わりに、乳房の一部分のみが除去される乳房保存手術を可能にする。典型的には、ネオアジュバント療法の前にマーカーが腫瘍またはリンパ節に配置され、腫瘍がネオアジュバント療法によって完全に除去された場合であっても腫瘍部位が見出される。腫瘍が、温熱療法が適切である充分に小さいサイズに縮小した場合、温熱療法で治療するために、さらなる温熱療法インプラントを腫瘍またはリンパ節に配置する必要がある。ほとんどの腫瘍は、診断時に20mm未満であり、多くの腫瘍は、スクリーニングによって診断された場合に10mm未満のサイズである。さらに、ネオアジュバント化学療法の経過後、腫瘍は、わずか数ミリメートルのサイズに縮小している可能性がある。癌は局所リンパ節に広がる可能性があり、これらもインプラント温熱療法から恩恵を受ける可能性がある。リンパ節は、典型的には10mm未満のサイズであり、多くは6mm未満のサイズである。それらを効果的に治療するために、周囲の健康な組織への損傷を最小限に抑えながら、疾患領域に治療を集中する必要がある。したがって、リンパ節を治療するための温熱インプラントがリンパ節内に適合可能であることが望ましい。
【0007】
磁性ナノ粒子温熱療法が、当技術分野において知られている(例えば、非特許文献1を参照)。しかしながら、効果的な温熱療法に必要とされる酸化鉄ナノ粒子の濃度は高く、これは、磁性ナノ粒子温熱療法が使用される臨床用途を制限する。
【0008】
磁場を用いて金属シードに渦電流または磁気ヒステリシス加熱を誘導する磁気シード温熱療法もまた、当該技術で知られている(例えば、特許文献1を参照)。シードは、好ましくは、部分的に消磁係数を低減して加熱応答を増大させるために、また針を通した体内への導入を容易にするために、細長いアスペクト比を有する。これらのシステムの欠点は、細長いアスペクト比(例えば、長さ:直径の比が少なくとも10であり、しばしば20以上である)が、応答を最大にするために、磁場に対するシード配向が既知でなければならないことを意味することである。特許文献1は、針の向きが正確に知られていない場合またはコイルの位置を適切に見出せない場合、それぞれが互いに直角に設定された3つのコイルを使用するコイル配置を提供する必要があり得ることに留意する。コイルは、標準時分割電源によって反復シーケンスで1つずつ通電される。これは、シードの向きに応じて、シードが、電源の各サイクルの3分の1の間だけ完全な磁界強度にさらされることを意味する。配向対磁場は、最適な結果のために制御される必要がある。この配置は、コイルにかなりの複雑さを加える。
【0009】
同様に、ガラスコーティングされたマイクロワイヤは、その磁化曲線における大バルクハウゼンジャンプ(LBJ)による磁気損失を介して加熱することで、当該技術において知られている(例えば、非特許文献2を参照)。ガラスコーティングされたマイクロワイヤは、非常に小さいサイズ(典型的には直径10~50μm)のために少量の熱しか生成せず、したがって、臨床的に有用な加熱を生成するために多くが一緒に使用される必要がある。加熱はまた、磁場軸に対する配向に依存する。
【0010】
磁化曲線にLBJを有する鉄またはコバルトベースのマイクロワイヤはまた、高熱療法のためではないが、磁気マーカーとして使用するために当該技術において知られている。例えば、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、および特許文献7を参照。少なくとも200以上の長さ対直径の比が、そのようなLBJワイヤのスイッチングまたは磁化反転挙動特性の効果的な生成に必要とされる。製造可能な典型的なワイヤ直径(30μm~125μmの範囲)でこの比を達成するために、先行技術はさらに、10mm超、より典型的には25mm超の長さを有するワイヤが必要であることを教示している。したがって、これらのマーカーのいずれも、小さい腫瘍またはリンパ節を標識するのに適していない。
【0011】
従来技術の手法の重大な問題は、加熱効果を最大にするためにインプラントを磁場と位置合わせする必要があることであることは明らかである。インプラントを励起する磁場の方向に対するインプラントの向きにかかわらず、実質的に均一な加熱出力を提供することができる一方で、以下を含むインプラントの全ての要件を満たす温熱療法のためのインプラントを提供することが所望である:小さいサイズ(<10mm長)のマーカー;小さい針(例えば16g~18g)を介して供給できること;および、移植および外科的除去のための頑丈さ。
【0012】
本出願人の同時係属中の、特許文献8からの優先権を主張する公開された特許文献9は、その内容が参照により本明細書に組み込まれ、少なくとも1つの大バルクハウゼンジャンプ物質(LBJ)を含む移植可能な磁気マーカーを使用する検出システムおよび方法を記載している。マーカーは、その後の手術のために身体内の組織部位を標識するために配置され、磁気検出システムは、マーカーの双安定スイッチングのためにスイッチングフィールドの下でマーカーを励起するための手持ち式プローブを含み、それによって、非双安定モードで高調波応答が生成されることを可能にし、マーカーが検出および位置特定されることを可能にする。移植されたマーカーは、LBJ材料の双安定スイッチングを開始するのに必要な臨界長よりも短くてもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】欧州特許第0333381号明細書
【文献】米国特許第466025号明細書
【文献】欧州特許第0961301号明細書
【文献】欧州特許第0710923号明細書
【文献】特開2003-308576号公報
【文献】米国特許第6230038号明細書
【文献】欧州特許第1258538号明細書
【文献】独国特許出願第1801224.5号明細書
【文献】欧州特許出願公開第3518068号明細書
【非特許文献】
【0014】
【文献】Dutz S and Hergt R.Magnetic nanoparticle heating and heat transfer on a microscale: basic principles, realities and physical limits of hyperthermia for tumour therapy. Int J H yperther 2013;29:790-800
【文献】“High Performance Soft Magnetic Materials”: Springer Series in Materials Science, Volume 252. ISBN 978-3-319-49705-1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、上述の欠点を克服するか、または少なくとも軽減する、改良された温熱インプラントを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第1の態様によれば、その磁化曲線において大バルクハウゼンジャンプ(LBJ)を示す少なくとも一片の磁性材料を含む温熱インプラントが提供され、このインプラントは、印加される磁場の軸(X)に対するインプラントの向きとは実質的に独立した加熱の大きさを提供するように構成される。
【0017】
好ましくは、インプラントは、異なる平面に配置された複数の部分の磁性材料を含み、この部分は、インプラントを通る任意の軸から最大で60°、より好ましくは最大で55°である磁性材料の部分のうちの少なくとも1つが常に存在するように構成される。
【0018】
好ましくは、インプラントは、インプラントを通る任意の軸から常に最大で60°、より好ましくは最大で55°である磁性材料の少なくとも一部を提供し、それによって印加される磁場軸(X)から最大で60°、より好ましくは最大で55°である部分を提供するように構成される。
【0019】
本発明の第2の態様によれば、ヒトまたは動物の体内の組織の温熱治療に使用するための本発明の第1の態様による温熱インプラントが提供される。
【0020】
好ましくは、インプラントは、体内に埋め込まれる材料の量を最小限に抑えるために、2mg未満、およびより好ましくは1mg未満のLBJ材料を含む。材料は、ワイヤの形態で提供されてもよい。そのような材料の例としては、鉄、コバルト、およびニッケルに富むガラスコーティングされた非晶質マイクロワイヤ、鉄-ケイ素-ホウ素ベースの非晶質マイクロワイヤ、鉄またはコバルトベースの非晶質マイクロワイヤ、および/またはバルク金属ガラスワイヤが挙げられるが、これらに限定されず、LBJ応答が励起され得る任意の材料が適切であり得る。ワイヤは、中空管内に被覆および/または提供されてもよく、および/または、初期コンパクト構成から拡張展開構成に展開可能であってもよい。好ましくは、インプラントは、移植に伴う外傷および疼痛を最小限に抑えるために、2mm未満の内径を有する針から展開可能である。
【0021】
好ましくは、インプラントは、インプラントを励起している磁場の軸に対するその配向にかかわらず、実質的に同様の大きさの加熱効果を提供する。これは、磁場およびマーカーを互いに対して特定の位置に配向する必要なく、一貫した加熱を提供するために重要である。マーカーおよび励磁磁界の相対的な向きによって加熱効果が変わると、加熱量が、容易に予測できなくなるか、または、マーカーと磁界との間の磁気的な結合が小さい「好ましくない」向きの場合に不十分となるかあるいは結合が強い場合に加熱量が強すぎることとなる。マーカーの向きは、インプラントが体内に配置されると分からないことがあり、外科的観点から、マーカーが特定の向きに配置されることを保証または確認しなければならないことは望ましくない。移植されると、患者を動かすことを除いて、組織内のマーカーの位置または向きを変更することは通常不可能であり、これは可能でないかまたは所望でない可能性がある。
【0022】
好ましい実施形態では、インプラントは、印加される磁場の軸に対するインプラントの向きとは実質的に独立した加熱の大きさを提供するように構成される。
【0023】
好ましい実施形態では、インプラントは、コイル状マイクロワイヤの形態で提供される。別の実施形態では、インプラントは、コイル状ワイヤの中心軸に沿ったさらなる長さのマイクロワイヤを有してもよい。別の好ましい実施形態では、インプラントは、3つの辺または4つの辺を有する四面体を含んでもよく、例えば、四面体の3つまたは4つの辺をそれぞれ形成するように配置された3つまたは4つのマイクロワイヤを含む、あるいは、インプラントは、3つの脚を有する三脚を含んでもよく、例えば、三脚の3つの脚を形成するように配置された3つのマイクロワイヤを含む。これらの構成は、磁場軸に対するインプラントの向きとは実質的に独立した加熱の大きさを提供することが示されている。
【0024】
本発明の第3の態様は、身体の組織内の温熱インプラントを加熱するための温熱システムを提供し、このシステムは:
少なくとも1つの温熱インプラントであって、その磁化曲線において大バルクハウゼンジャンプ(LBJ)を示す少なくとも一片の磁性材料片を含む、インプラント;
交番磁界でインプラントを励起するように配置された少なくとも1つの駆動コイル;および
少なくとも1つの駆動コイルを通して交番磁界を駆動するように構成された磁場発生器
を備え、
インプラントの励起は、周囲組織の温熱治療を提供し、インプラントは、磁場軸に対するインプラントの配向とは実質的に独立した加熱の大きさを提供するように構成される。
【0025】
好ましくは、駆動場の周波数は30kHz~750kHzであり、磁界強度は1000A/m~20,000A/mである。周波数および磁界は、周囲の健康な組織に対する望ましくない付随的な損傷を最小限に抑えるために選択される。周囲組織における加熱は、電界と周波数fHとの積に比例し、したがって、2つのパラメータは、末梢神経刺激または他の組織損傷が経験されるレベル未満に生成物を維持するように選択される。正確な値は、組織の種類およびその場所における組織または身体の断面に依存する。
【0026】
好ましくは、インプラントが直線長さのワイヤを含む場合、インプラント内のLBJ材料の断片のそれぞれの長さは、それが使用されている形態の材料タイプ、例えばワイヤの臨界長さ未満であり、好ましくは、直線ワイヤの各断片の長さは、10mm未満、より好ましくは6mm未満である。
【0027】
好ましくは、インプラントが直線長さのワイヤを含む場合、各ワイヤの長さ対直径比は100未満であり、より好ましくは、比は50~100の範囲である。
【0028】
本発明の第4の態様は、ヒトまたは動物の体内の組織の温熱治療のための本発明の第3の態様によるシステムの使用を提供する。
【0029】
本発明の第3および第4の態様は、インプラントの温度に関するフィードバックを提供するための温度センサを含むことができる。好ましくは、温度センサは、駆動コイルによって印加される磁場の強度を調整するためのコントローラと通信する。
【0030】
本発明のさらなる態様は、体内のインプラントの位置を特定し加熱するための複合検出および温熱治療システムを提供し、複合システムは、以下:
少なくとも1つの移植可能マーカーであって、その磁化曲線において大バルクハウゼンジャンプ(LBJ)を示す少なくとも一片の磁性材料片を含む、移植可能マーカー;
交番磁界を用いてマーカーを励起するように配置された少なくとも1つの駆動コイルおよび励起されたマーカーから受信した信号を検出するように配置された少なくとも1つの感知コイル;
少なくとも1つの駆動コイルを通して交流電流を駆動し、コイルから交番磁界を生成するように配置された磁場発生器;および
感知コイルから信号を受信し、受信した信号内の駆動周波数の1つまたは複数の高調波を検出するように配置された少なくとも1つの検出器であって、少なくとも1つの駆動コイルがマーカーのLBJ材料の双安定スイッチング挙動を開始するために必要なスイッチングフィールド未満でマーカーを励起する、少なくとも1つの検出器;
を含み、
システムはさらに、周囲組織の加熱を提供するためにマーカーを励起するための少なくとも1つの駆動コイルをさらに備え、マーカーは、磁場軸に対するマーカーの向きとは実質的に独立した加熱の大きさを提供するように構成される。
【0031】
検出のためにマーカーを励起する少なくとも1つの駆動コイルは、温熱治療のためにマーカーを励起する同じ駆動コイルであってもよいことを理解されたい。
【0032】
一実施形態では、少なくとも1つの駆動コイルは、インプラントのLBJ材料の双安定スイッチング挙動を開始するために必要なスイッチングフィールド未満でインプラントを励起する。LBJ材料、双安定スイッチング材料、または磁化曲線に大きな不連続変化を有する材料としても知られる大バルクハウゼンジャンプ材料は、材料の瞬間分極に対抗する磁界強度が所定の閾値、すなわちスイッチングフィールドHSWを超える外部磁界によって励起されると、その磁気分極の急速な反転(「双安定スイッチング」挙動)を受ける。本発明において、インプラントは、励起場が「スイッチングフィールド」の励起場を下回るときでさえ、測定可能な高調波応答を感知させる、そのLBJ材料のための励起の「サブ双安定」モードを利用する。
【0033】
LBJ材料はまた、それを下回ると双安定スイッチング挙動が見られない臨界長を有する。典型的には、LBJワイヤの臨界長は、20mm~60mmのオーダーである。LBJワイヤの「臨界長」および「スイッチングフィールド」の概念は、例えば、Vazquez(A soft magnetic wire for sensor application.,J. Phys. D: Appl. Phys. 29(1996) 939-949)から知られている。磁化曲線に大バルクハウゼンジャンプを有するワイヤにおいて双安定スイッチング挙動を開始するために、ワイヤは「臨界長」よりも大きくなければならず、駆動磁界はスイッチングフィールドHSWよりも大きくなければならない。
【0034】
本発明のインプラントが直線長さの材料を含む場合、これらの長さは、好ましくは急速反転に必要な臨界長さ未満で提供され、概して<25mm、より好ましくは<10mm、特に<6mmであり、かつ、200未満、より好ましくは100未満の長さ対直径比を有し、これは、便利な移植およびより小さい病変のマーキングのためにインプラントのサイズを縮小するために好ましい。
【0035】
システムは、好ましくは、受信された高調波信号を処理し、感知コイルに対するマーカーの位置に関する少なくとも1つのインジケータ、例えば、感知コイルに対するマーカーの近接度、距離、方向、または配向の表示をユーザに提供するための出力モジュールを備える。
【0036】
より好ましくは、システムは、例えば1つ以上の奇数次高調波(例えば、第3および第5)、偶数次高調波(例えば、第2、第4および第6)または両方の組合せの大きさ、あるいはこれらの高調波の互いにまたは基本周波数に対する比率のような、マーカーの高調波応答の1つ以上の態様を処理する。感知された信号を強調するために適切なフィルタを提供してもよい。
【0037】
出力モジュールは、画像ディスプレイまたは音源を備えてもよい。
【0038】
本発明のこの態様の一実施形態では、駆動コイルと感知コイルの両方が手持ち式プローブに設けられて、ユーザのためのシステムの設定を単純化する。
【0039】
本発明のこの態様の別の実施形態では、駆動コイルと感知コイルの両方が、患者の治療領域の近くにコイルを位置決めするように動かすことができる構成可能なアームに設けられる。アームは、好ましくは、治療を容易にするために患者に輸送され得る携帯用ユニットに取り付け可能である。
【0040】
本発明のさらなる態様によれば、温熱治療の方法が提供され、この方法は、ヒトまたは動物の身体の組織に温熱療法インプラントを移植する工程であって、インプラントが、その磁化曲線において大バルクハウゼンジャンプ(LBJ)を示す少なくとも1つの磁性材料片を含む、工程;および、インプラントを交番磁界で励起して、周囲組織に温熱治療を提供する工程であって、インプラントは、磁場軸に対するインプラントの向きとは実質的に独立した大きさの加熱を提供するように構成される、工程、を含む。
【0041】
本発明の方法はさらに、インプラントの位置を検出する工程を含んでもよく、この方法は、マーカーを励起するためにインプラントに交番磁界を印加する工程であって、磁場は、マーカーのLBJ材料の双安定スイッチング挙動を開始するために必要なスイッチングフィールドを下回る大きさである、工程;および、そのスイッチングフィールドを下回るインプラントの磁化の変化によって引き起こされる励起されたインプラントから受信した信号の駆動周波数の1つまたは複数の高調波を検出する工程、を含む。
【0042】
好ましくは、検出のための駆動周波数は、1kHzより高く、好ましくは1~100kHz、特に10~40kHzの範囲である。加熱のための駆動周波数は、好ましくは30~750kHz、好ましくは>250kHzである。
【0043】
本発明の方法は、好ましくは、インプラントの位置に関する出力を提供するために、インプラントの高調波応答の態様を測定する工程を含む。例えば、これは、1つ以上の奇数高調波、偶数高調波、または両方の組合せの振幅であってもよく、これらの高調波の相互に対する、または基本周波数に対する比である。信号の適切なフィルタリングおよび処理は、本方法によって提供される出力を向上させるために提供されてもよい。
【0044】
本発明をよりよく理解するために、および本発明がどのように実行に移されるかをより明確に示すために、ほんの一例として、添付の図面が参照される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】本発明の一実施形態による磁気シード温熱治療システムのブロック図
【
図2】本発明の別の実施形態による磁気シード温熱治療システムのブロック図
【
図3】乳癌を治療するための本発明による磁気シード温熱治療システムの使用を示す概略図
【
図4】磁場軸Xと平行に配置された温熱インプラントと共に示される、本発明の一実施形態による温熱インプラントの加熱を調査するための実験設定を示す概略図
【
図5】
図4に示されている実験設定を使用する様々なタイプのシードインプラントの加熱効果を示すグラフ
【
図6】シード容積によって正規化された様々なタイプのシードインプラントの加熱効果を示すグラフ
【
図7】本発明の一実施形態による磁気シード温熱インプラントの磁場軸Xに対する様々な配向の加熱効果を示すグラフ
【
図8A】本発明の実施形態によるコイル状温熱インプラントのタイプを示す図
【
図8B】本発明の実施形態によるコイル状温熱インプラントのタイプを示す図
【
図9】
図8Aおよび
図8Bのインプラントの加熱効果を示すグラフであって、インプラントは、磁場軸Xに対して2つの配向で、軸方向コアを有するおよび有さないコイル状マイクロワイヤを有する、グラフ
【
図10】本発明の別の実施形態による磁気シード温熱インプラントの4つの配向における加熱効果を示すグラフであって、インプラントは、長さ6mmの3つの非晶質マイクロワイヤを含む3エッジ四面体を有する、グラフ
【
図11B】展開可能インプラントのタイプを示す図であって、インプラントは、
図10に示される加熱効果のために使用される、図
【
図11A】展開可能インプラントのタイプを示す図であって、インプラントは、
図17に示される加熱効果のために使用される、図
【
図12】様々なタイプの温熱インプラントの加熱対時間を示すグラフ
【
図13】本発明の実施形態による温熱インプラントおよび異なる磁界強度および周波数を有する他のタイプのインプラントの加熱効果を示すグラフ
【
図14A】本発明による温熱治療システムと組み合わせることができる検出システムの実施形態の概略図
【
図14B】本発明による温熱治療システムと組み合わせることができる検出システムの実施形態のブロック図
【
図15】励起場が100Hzで増加するときの、LBJワイヤと比較した通常のアモルファス金属ワイヤからの第3高調波(H3)応答を示す図
【
図16】インプラント内の各マイクロワイヤの長軸とインプラントを加熱するために印加された磁場の軸との間の角度を示す、本発明によるさらなる展開可能なインプラントを示す図
【
図17】本発明の別の実施形態による磁気シード温熱インプラントの4つの配向における加熱効果を示すグラフであって、インプラントは、長さ4.8mmの4つの非晶質マイクロワイヤを含む4エッジ四面体を有する、グラフ
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明は、温熱治療を必要とする組織に移植することができる温熱インプラントに関する。インプラントは、その磁化曲線において大バルクハウゼンジャンプ(LBJ)を示す少なくとも1つの磁性材料片を含む。本発明はまた、身体の組織内の温熱インプラントを加熱するための温熱システムを提供し、このシステムは、少なくとも1つの温熱インプラントであって、インプラントは、その磁化曲線において大バルクハウゼンジャンプ(LBJ)を示す少なくとも1つの磁性材料片を含む;交番磁界でインプラントを励起するように配置された少なくとも1つの駆動コイル;および、少なくとも1つの駆動コイルを通して交番磁界を駆動するように配置された磁場発生器、を含む;インプラントの励起は、周囲組織の温熱治療を提供する。温熱療法システムは、患者への便利なアクセスのために、静的ユニットまたは携帯用ユニットに収容されてもよい。
【0047】
明確にするために、「その磁化曲線において大バルクハウゼンジャンプ(LBJ)を示す磁性材料」とは、適切な幾何学的形状およびサイズまたは長さで提供され、適切な大きさおよび周波数の磁場によって駆動される場合、大バルクハウゼンジャンプとして知られるその磁化の急速な反転を生じさせることができる材料を指す。実施例または実施形態の1つで使用される任意の特定のワイヤは、充分なサイズまたは形状でなくてもよく、その磁化に迅速な反転を生じさせる適切な磁界によって駆動されなくてもよいが、「LBJ」の記述は、正しい幾何学的形状およびサイズであって適切な磁界によって駆動される場合に同じ磁性材料特性を有する材料片が、磁化において急速な反転を生じ得るような、その磁性材料特性を指す。
【0048】
本発明による磁気温熱インプラントは、インプラントを励起する磁場の方向に対するインプラントの配向にかかわらず、実質的に均一な加熱出力を提供し、したがって、治療中のインプラントの効果的な加熱を確実にすることが見出された。さらに、インプラントは、展開前に小さいサイズ(<10mm長)で提供されてもよく、小さい針(16~18g)を通して供給されてもよく、移植および外科的除去のために頑丈である。
【0049】
添付の図面の
図1および2は、本発明の2つの実施形態による温熱治療システムの基本的な構成要素を示す。本発明による温熱インプラント20は、治療を必要とする組織の領域に挿入される。次いで、信号発生器4、増幅器6、およびAC駆動磁場コイル8に接続された電源2は、インプラント20を励起し、その加熱を引き起こすことができる。必要に応じて、
図2に示すように、インプラントの温度を監視するために温度センサ10を設けてもよく、温度フィードバックコントローラ12が、このデータを増幅器6にフィードバックしてインプラントの温度出力を制御する。
【0050】
図3は、乳癌の治療に使用するための本発明による温熱治療システムを示す。本発明によるインプラント20は、乳房組織に位置する腫瘍30などの、熱療法を必要とする組織領域に配置される。ベースユニット1は、駆動コイルを含むハンドピース14に交流電流または電圧を供給するための信号発生器および増幅器を含み、ベースユニットからの電流または電圧は、ハンドピース内のコイルで磁界を駆動する。ハンドピースは、治療される組織の近傍に配置され、ハンドピース内のコイルは、温熱インプラント20を磁化する働きをする交番磁界を生成する。インプラントにおける交番磁化は、磁気ヒステリシス損失または渦電流を介してインプラントにおいて熱を生成し、これは、細胞を直接破壊するか、または腫瘍細胞における種々の細胞プロセスを活性化し、その結果、それらは、アポトーシスを受けるか、または免疫系の腫瘍細胞を認識し、死滅させる能力を増強する。駆動コイルはさらに、地面または便利な表面上に位置する携帯用ユニットに接続されたアーム上に取り付けられてもよく、ユニットを手で保持する必要なく処置が容易になる。
【0051】
診断される際の乳癌のほとんどは、直径が20mm未満であり、特にスクリーニングプログラムによって診断される場合、多くは直径が10mm未満である。さらに、治療を必要とするリンパ節は、典型的にはサイズが8mm未満であり、しばしば4~6mmのサイズである。癌を治療する場合、疾患組織を治療するが、腫瘍の周囲の健康な組織への損傷を最小限に抑えることが重要である。したがって、温熱療法インプラントのサイズは重要な因子であり、これらの初期段階の癌については、いったん展開されると20mm未満、より好ましくは10mm未満の全体直径を有する小さいインプラントが好ましい(すなわち、マーカーは、この直径の球体内に実質的に適合する)。これは、ワイヤの直線片が使用される場合、これらのワイヤの長さは10mm未満長である必要があることを意味する。しかしながら、磁化曲線においてLBJを示す従来のワイヤでは、10mmがワイヤの臨界長を下回り、したがってスイッチング挙動が見られないので、これは問題を提示する。これは、LBJを有するワイヤを使用する磁気マーカーに関するいくつかの先行技術の特許において説明されており、その教示は、スイッチング挙動を見るために、ワイヤの長さの増加およびワイヤ直径に対するワイヤの長さの高い比率を明らかに促進する。例えば、米国特許第466025号明細書、欧州特許第0961301号明細書、欧州特許題0710923号明細書、特開2003-308576号公報、米国特許第6230038号明細書、および欧州特許第1258538号明細書を参照されたい。これらのいずれも、10mm未満の長さを有するワイヤを開示せず、200未満の長さ対直径比を開示せず、開示される典型的な値は200~400の範囲である。この点において、高い長さ対直径比は、スイッチングまたは磁化反転挙動の効果的な生成に必要であると考えられる。さらに、これらのマーカーに使用されるマイクロワイヤの直径の典型的な範囲(30μm~125μむの領域)を考慮すると、ワイヤの長さを最大化することは、必要な高い長さ対直径比を達成するための主要な方法である。したがって、この先行技術は、長さが10mm未満で長さ対直径比が200未満のマイクロワイヤが所望のスイッチング挙動を提供しないことを教示している。
【0052】
驚くべきことに、本発明者らは、長さが10mm未満で長さ対直径比が200未満のそのようなワイヤの断片が、サブ-双安定励起モードを使用して励起されたときに効果的な加熱をもたらすことができることを見出した。長さ対直径比は、直線ワイヤの長さをワイヤの最大断面直径で割ったものとして定義される。ワイヤが円形断面を有さない場合、例えば矩形断面の場合、直径は、断面の最長対角寸法であると見なされる。
【0053】
LBJ磁性材料の直線片が使用される場合、マーカー内のこれらのワイヤ片はまた、双安定スイッチング挙動を可能にするために必要とされるLBJ材料の臨界長未満、例えば、10mm未満、および200未満の長さ対直径比で提供されてもよい。
【0054】
本発明のLBJインプラントの一実施形態の「臨界長」(例えば以下の実施例1における「e」)は、約40mmであり、これは、40mmより短いこの材料のワイヤが、大バルクハウゼンジャンプスイッチング挙動を示すことができないことを意味する。したがって、本発明のインプラントは、その磁化曲線においてLBJを有する材料を必要とし、これはそのような材料が改良された加熱を与えるためであるのに対し、使用されるインプラント(直線長さのワイヤが使用される場合)は、臨界長を下回り、したがって、LBJスイッチング挙動が見られるには短すぎることが理解されるであろう。先行技術は、LBJワイヤが、その臨界長未満の長さで使用される場合、有用ではないことを示唆するが、本発明者らは、驚くべきことに、本発明の加熱効果が、LBJワイヤ材料およびそれらが有する磁気特性を必要とするが、その機能について先行技術に記載されたLBJスイッチング挙動に依存しないことを見出した。
【0055】
以下の表1は、525kHzの周波数で5kA/mの印加磁場で
図4に示す装置を使用して、本発明による様々なタイプのシードインプラントの加熱効果を試験した結果を示す。LBJ磁性マイクロワイヤは、様々な異なる組成、直径および長さを有する。それぞれの場合において、測定可能な加熱効果を見ることができる。ワイヤは、長さが2mm~8.4mmの範囲であり、したがって、全てが温熱インプラントにおける使用に適している。ワイヤの長さ対直径比は、14~87の範囲である。より高い長さ対直径比を有するワイヤは、改良された加熱を与える傾向があるが、非常に低い長さ対直径比を有する場合でさえも、十分な性能を与え、例えば、長さ対直径比がそれぞれ33.6および28である表1の列2および10である。このような非晶質マイクロワイヤの従来の製造プロセスは、通常、直径が30μm~125μm、より通常には直径が約100μmのワイヤをもたらす。したがって、ワイヤの長さが10mm未満である必要がある場合、直径対長さ比は必然的に100未満である。したがって、長さ対直径比の最適な範囲は、適切な加熱を達成するのに充分に高い、すなわち15超であるが、ワイヤがインプラントで使用するには長すぎないように充分に低い、すなわち直径50μm以下のワイヤでは200未満であり、より好ましくは、ワイヤ直径が約100μmである場合、比は100未満であり、より好ましくは50~100の範囲である。
【表1】
【0056】
本発明による温熱インプラントの加熱効果を調査し、これを他の従来技術の温熱インプラントと比較するために、様々な他の実験を行った。
【実施例1】
【0057】
本発明の実施形態による温熱療法インプラントおよび様々な他のタイプの温熱療法シードインプラントの加熱効果の調査。
【0058】
図4に示す装置を用いて、本発明のインプラントを含む様々なタイプのシードインプラントの加熱効果を調べるために、磁気温熱療法実験を行った。
【0059】
以下で詳述するように、インプラント用の5つの異なる種類の材料を調査した:
(a)フェライト系ステンレス鋼、直径0.9mm×長さ5mm;
(b)銅ワイヤ、直径0.1mm×長さ5.7mm;
(c)LBJを有さない非晶質高透磁率マイクロワイヤ、直径0.1mm×長さ5.5mm;
(d)マンガン鉄フェライト、直径1.0mm×長さ5.3mm;
(e)LBJを有する非晶質マイクロワイヤ、直径0.1mm×長さ5.9mm。
【0060】
各インプラント20を、0.25mlの水40を含むバイアル42に入れ、このバイアルを、インプラントを活性化するための水冷式温熱コイル8で囲み、水の温度上昇を記録する。各インプラント(a)~(e)を2つの向きで試験した;磁場軸Xに平行(
図4に示すように)および磁場軸に垂直。525kHzの周波数で5000A/mの磁界によってインプラントを励起する。
【0061】
結果が
図5に示され、シリーズ1は、インプラントが磁場に対して垂直であるときの結果を示し、シリーズ2は、インプラントが磁場に対して平行であるときの結果を示す。結果は、フェライト系ステンレス鋼から作製されたインプラント(a)が、磁場に対して平行である場合には有意な加熱応答を生じるが、磁場に対して垂直である場合には最小限の応答を生じることを示す。フェライトはまた、磁場に平行である場合により高い応答を生成するが、応答の大きさはかなり低減される。
【0062】
同様の寸法(b)、(c)および(e)の3本のワイヤも試験した。非磁性である銅ワイヤは、いずれの方向においても加熱効果をもたらさなかった。高い透磁率を有するが、その磁化曲線においてLBJを有さない非晶質マイクロワイヤは、磁界に平行であるが磁界に垂直でない場合に中程度の応答を生じた。これは、磁化曲線における磁気ヒステリシスに直接起因して、または磁性材料がインプラントにおける磁場を集中させてワイヤにおける渦電流損失の増加を引き起こす理由のいずれかによって、磁性ワイヤにおける加熱が、材料の磁気特性によって増強されることを示唆する。対照的に、非磁性であるが高導電性である銅ワイヤでは加熱がない。高い透磁率およびその磁化曲線(e)においてLBJを有する非晶質マイクロワイヤは、磁界に平行であり磁界に垂直でない場合に強い加熱応答を生じた。これは、ワイヤ中のLBJの存在が、改良された熱発生のために重要であることを示す。
【0063】
図5で得られたデータは、インプラントの単位体積当たりの加熱効果を示すために、インプラントの体積によって正規化された(すなわち、温度上昇をインプラントの体積で割った)。結果を
図6に示す。これは、フェライト系ステンレス鋼(a)と比較して、高透磁率インプラント(c)が加熱を10倍改良するのに対して、本発明のLBJインプラント(e)は加熱を40倍改良することを示し、インプラントによって提供される加熱効果を増加させるための磁化曲線におけるLBJの重要性をさらに実証する。増加した加熱効果は、ワイヤにおける増加したヒステリシス損失に起因して、あるいは、ワイヤの磁化が磁場をより強くワイヤにまたは別の機構を介して集中させるためであり得る。
【実施例2】
【0064】
インプラントの加熱効果における、本発明の実施形態による温熱インプラントの磁場軸に対する配向の効果の調査。
【0065】
本発明による温熱インプラントの磁場軸に対する配向の効果を、
図4に示す実験設定を用いて調査した。
【0066】
図7は、磁場軸Xに対して様々な向きのLBJ(e)を有する非晶質マイクロワイヤからの加熱効果を示す。最大効果は磁場に平行に得られ、インプラントが磁場に対して45°にあるときにも有意な加熱が達成され、したがって磁場軸に対するインプラントの向きにいくらかの変動があってもよいことを示す。磁場に対して70°では、加熱は最大値の約半分に低減される。したがって、加熱効果を最大にするために、インプラントを磁場軸の70°以内、より好ましくは45°以内にすることが望ましい。しかしながら、実際には、これは、インプラントの配向の知識および磁場に必要とされる角度からのアクセスを必要とするため、達成することが困難であり得る。
【実施例3】
【0067】
インプラントの加熱効果における、本発明の2つの実施形態による温熱インプラントの磁場軸に対する配向の効果の調査。
【0068】
LBJを有する非晶質マイクロワイヤの2つの異なる構成を調査して、本発明による温熱インプラントとしての使用に対するそれらの適合性を評価した。一方のインプラントは、
図8Aに示すようにLBJを有するコイル状マイクロワイヤを含み、他方は、
図8Bに示すように軸方向コアを貫通する非晶質LBJワイヤのさらなる部分を備えたコイル状LBJマイクロワイヤを含む。
【0069】
図9は、
図8Aおよび
図8Bに示すインプラントから得られる加熱効果を、2つの向き(磁場に対して垂直および平行)で示している。
【0070】
その後コイルに形成される微細なステンレス鋼管内にマイクロワイヤを含むコイルは(
図8A)、驚くべきことに、コイル軸が磁場軸に対して垂直であるときに著しい加熱効果を生じ、コイルが磁場軸と位置合わせされるときに最小限の加熱を生じる。これは、ワイヤが直線状で磁場と位置合わせされるときにLBJ効果が見られるので、また、直感的にはコイルがその長軸が磁場と位置合わせされるときにより強い加熱効果をもたらすと予想されるので、LBJワイヤはコイル構成において通常は使用されないため驚くべきことである。
【0071】
同様のステンレス鋼細管内の非晶質LBJワイヤのさらなる軸方向片が、その軸に沿って延びるコイルに加えられると(
図8B)、インプラントは、磁場軸に対して平行および垂直の両方の場合に、著しい加熱効果を生じる。したがって、軸方向コアピースを有するコイルインプラントは、磁場に対するインプラントの向きにかかわらず、実質的に同様の加熱効果を生成する。したがって、インプラントのこの構成は、温熱インプラントとしての使用に特に適している。
【0072】
磁場と位置合わせした場合のコイル単独の加熱効果は小さいが、ゼロではない。この小さな効果は、密に巻かれたコイルでは、コイルを形成するワイヤが主にコイル軸に対して直角であるためである。コイル状ワイヤのより大きい部分が磁場軸の45°の角度内にあるようにコイルのピッチを増大させることによって、この加熱効果を増大させることができる。したがって、最適なピッチにおいて、単一のコイルは、磁場に対するインプラントの向きに実質的に関係なく加熱効果を生成することができる。
【0073】
コイルは、展開前および展開後にその最終構成にあってもよい。代替的に、コイルは、展開時に構成を変化させ、より大きいコイルが微細なゲージ針から展開されることを可能にしてもよい。好ましい実施形態では、コイルは、針内でほどかれて実質的に直線状であるが、展開時にコイル形状を形成する。さらなる実施形態では、コイルは、針内で半径方向または軸方向に圧縮され、展開時に拡張してより大きいサイズのマーカーを形成する。
【0074】
コイルは、好ましくは1~20ターン、より好ましくは3~10ターンを含む。インプラント内に充分な磁性材料を提供して加熱応答を発生させるために、充分な巻数が提供されなければならない。しかしながら、巻数が多いほど、インプラントは大きくなり、製造がより複雑かつ高価になる。
【実施例4】
【0075】
インプラントの加熱効果における、本発明の別の実施形態による温熱インプラントの磁場軸に対する配向の効果の調査。
【0076】
三辺を持つ四面体を有するLBJ温熱インプラントの加熱効果を、
図4に示す実験設定を用いて調査した。インプラントは、添付の図面の
図11Bに概略的に示すように、長さ6mmの3つの非晶質マイクロワイヤを含む。ワイヤ60は、四面体の3つの辺を形成するように配置される。この場合、構築を容易にするために、ワイヤは、厚さ0.33mmのPETスリーブ80に封入される。
【0077】
図10のグラフは、4つの異なる配向における加熱効果を示す。各配向において著しい加熱があり、加熱効果が磁場軸に対するインプラントの配向とは実質的に無関係であることを示している。したがって、LBJインプラントのこの構成は、温熱インプラントとしての使用にも非常に適している。
【実施例5】
【0078】
インプラントの加熱効果における、本発明のさらに別の実施形態による温熱インプラントの磁場軸に対する配向の効果の調査。
【0079】
四辺を持つ四面体を有するLBJ温熱インプラントの加熱効果を、
図4に示す実験設定を用いて調べたが、この実施例では、マーカーを収容するために、インプラントを1.25mlの水を含むバイアル内で加熱する。インプラントは、添付の図面の
図11Cに概略的に示すように、長さ4.8mmの4つの非晶質マイクロワイヤ60’を含む。ワイヤは、四面体の4つの辺を形成するように配置される。この場合、構築を容易にするために、ワイヤは、外径0.26mmおよび壁厚50μmのニチノールスリーブ80’に封入される。
【0080】
図17のグラフは、4つの異なる配向における加熱効果を示す。各配向において著しい加熱があり、加熱効果が磁場軸に対するインプラントの配向とは実質的に無関係であることを示している。したがって、LBJインプラントのこの構成は、温熱インプラントとしての使用にも非常に適している。
【0081】
実施例3、4および5の結果から、磁場軸に対するインプラントの向きとは実質的に独立した加熱効果(「均一な」加熱効果)を、複数の方法で達成できることが分かる。実施例3は、均一な加熱効果が、軸方向ワイヤとともにマイクロワイヤのコイルによって達成され得ることを示す。同様の効果は、より大きいピッチ角を有するコイルのみによっても生じ得る。実施例4および5は、印加磁場の任意の配向について、磁場と部分的に位置合わせされたマイクロワイヤが存在するように構成される、複数のマイクロワイヤ片を備えるインプラントを通して、均一な加熱効果を達成することができることを示す。実施例2が示すように、単一ワイヤからの加熱効果は、ワイヤ軸と印加磁場の軸との間の角度がゼロに近づくにつれて増加する、すなわち、ワイヤは、加熱効果が見られるように、磁場と少なくとも部分的に位置合わせされる必要がある。角度が45°の場合、加熱効果は最大の約85%であり、角度が70°の場合、加熱効果は最大の約半分である。
図7の値の内挿によって、角度が55°であるとき、加熱効果は最大の70%になり、角度が60°であるとき、加熱効果は最大の62%になる。
【0082】
添付の図面の
図16は、軸Xを有する磁場における多数の直線状マイクロワイヤ60a、60b、60cを含む本発明による仮想マーカーを示す。マイクロワイヤの3つが図示されている。
図16では、ワイヤは一端で接合されるが、一般的な場合、ワイヤをこのように接合する必要はなく、ワイヤは別々であってもよい、または他の構成で接合されてもよい。n個のマイクロワイヤの各々と磁場軸Xとの間の角度は、角度θ
1、θ
2、θ
3...θ
nによって与えられる。各角度は、ワイヤ軸および磁場軸の両方を含む平面内で測定される。3つ以上の直線状マイクロワイヤを含むマーカーの場合、好ましくは、マイクロワイヤのうちの少なくとも1つに対する角度θ
nの値は、磁場に対するマーカーの配向とは実質的に独立した加熱を確実にするために、印加される磁場軸Xの任意の配向に対して55°以下である。言い換えれば、磁場軸は、好ましくは、少なくとも1つのマイクロワイヤの軸から55°を超えない。ワイヤの任意の構成について、磁場軸がワイヤと位置合わせされることから生じ得る最大角度を計算することができる。3つの直交するマイクロワイヤがある場合、最大角度は55°に近い。
図11Aの3つの辺を持つ四面体マーカー(実施例4)では、最大角度は60°より大きい。
図11Cの4つの辺を持つ四面体マーカーの場合、最大角度は40~60°である。
【0083】
磁場軸Xが少なくとも1つのマイクロワイヤから決して55°を超えることができないインプラント構成の選択は、少なくとも1つのマイクロワイヤがその最大加熱効果の少なくとも約70%に寄与することを意味する。したがって、ワイヤを互いに適切に離間させることによって、加熱効果は、磁場軸Xに対するインプラントの向きとは実質的に無関係にすることができる。本教示は、いくつかの直線ワイヤを含む他の幾何学形状に適用され得ることが、当業者に明白であろう:好ましい構成は、インプラントを通過する空間内の任意の軸(印加磁場の軸を表す)が、1つ以上のマイクロワイヤの軸から55°以下であるように選択されるものである。この構成は、印加磁場に対するインプラントの向きに関して加熱の均一性を改善する。この状態は、より多数のマイクロワイヤをインプラント内に有することによって、より容易に達成されるが、インプラントの製造および小さい針を通した体内での展開を単純にするために、インプラント内の直線状マイクロワイヤの最適な数は、3~6の間であることが理解されるであろう。
【実施例6】
【0084】
本発明の実施形態による温熱インプラントおよび他のタイプのインプラントの経時的な加熱効果の調査。
【0085】
図12は、様々な磁気温熱インプラント、特にフェライト系ステンレス鋼マーカー(実施例1の「a」)、LBJを有さない非晶質高透磁率マイクロワイヤ(実施例1の「c」)、およびPETコーティングを有する非晶質LBJマイクロワイヤの3つの辺を持つ四面体(実施例4で使用され、
図11Bに示される)の加熱対時間を示すグラフである。加熱効果は、磁場がスイッチオフされる前に約5分間に亘って増加し続ける。
【0086】
したがって、本発明は、移植に適したサイズであり、磁場の軸に対して複数の配向から加熱することができ、デバイスの効率を大幅に高めることができる、新しい温熱インプラントを提供する。
【実施例7】
【0087】
本発明の実施形態による温熱インプラントおよび異なる磁界強度および周波数を有する他のタイプのインプラントの加熱効果の調査。
【0088】
図13は、様々な磁気温熱インプラント、特にフェライト系ステンレス鋼マーカー(実施例1の「a」)、LBJを有する非晶質高透磁率マイクロワイヤ(実施例1の「e」)、LBJマイクロワイヤの軸方向コア片を有するLBJマイクロワイヤのコイルインプラントを含む
図8Bのマーカー、およびPETコーティング80を有する非晶質LBJマイクロワイヤ60の3つの辺を持つ四面体(実施例4で使用され、
図11Bに示される)の加熱対時間を示すグラフである。
【0089】
このグラフは、加熱効果が磁場強度の増加および駆動磁場の周波数の増加と共に増加することを示している。
【実施例8】
【0090】
本発明のさらに別の実施形態による、治療領域の位置特定および加熱のための複合磁気マーカーおよび温熱インプラント。
【0091】
上述のインプラントは、本出願人の同時係属中の未公開の英国特許出願公開第1801224.5号明細書に記載されているように、マーカーとして二重機能できるという有意な追加の利点を有する。インプラントはまた、体内の標的部位、例えば軟組織における腫瘍または他の病変または関心部位などをマーキングするために移植することができる磁気マーカーとして作用し、その後、手持ち式プローブを使用して検出および位置特定することができる(
図14A参照)。マーカーは、病変内またはその付近に配置されてもよく、あるいは複数のマーカーが、手術部位の縁または周縁、例えば、軟組織肉腫の縁をマーキングするように配置されてもよい。
【0092】
このタイプのマーカーのための検出システムは、これまで認識されていなかったLBJ材料のための異なる励起モードを利用する。本発明者らは、マーカーに組み込まれたLBJ材料の励起の異なるモードによって、ワイヤの長さが「臨界長」を下回り、励起場が「スイッチングフィールド」を下回った場合でも、測定可能な高調波応答が生じることを見出した(
図15参照)。これは、LBJ材料の既知の双安定挙動に加えて、以前に同定されていない「サブ-双安定」挙動であった。LBJワイヤの「臨界長」および「スイッチングフィールド」の概念は、例えば、Vazquez(A soft magnetic wire for sensor applications., J. Phys. D: Appl. Phys. 29(1996)939-949)から知られている。さらに、この効果は、より高い励起周波数で大きさが増大し、3kHzよりはるかに高い周波数で動作させることができる。この実現により、病変の部位をマーキングするために移植可能な磁気マーカーを使用した従来のシステムよりも優れた特性を有する新しいタイプの検出システムを提供することが可能になる。
【0093】
したがって、この検出システムは、後続の手術のために身体内の組織部位にマーキングするように展開される大バルクハウゼンジャンプ材料(LBJ)の少なくとも1つの断片を備える移植可能な磁気マーカー、および、マーカーを励起するための駆動コイルを含む磁気検出システムを採用する。システムは、駆動コイルが、マーカーの双安定スイッチングのためのスイッチングフィールド未満の交番磁界でマーカーを励起するとき、マーカーが検出および位置特定されることを可能にする高調波応答が生成されることを特徴とする。さらに、磁場はマーカーを加熱する働きをし、それによって同時に部位の温熱治療を提供する。したがって、本発明は、腫瘍の位置を検出し、同じインプラントを使用してこの位置に温熱治療を提供するための複合システムを提供する。これは、複数の外科的処置を実施して、治療部位の位置特定および温熱治療の実施のために異なるタイプのインプラントを挿入および除去するために複数の外科的処置を実施する必要がある場合に明らかに好ましい。
【0094】
LBJ材料が、前記長さの材料の瞬間的な磁気分極に対抗する磁界強度が所定の閾値、スイッチングフィールドHSWを超える外部磁界に曝されると、その磁気分極は急速に反転する。この磁化の反転は、高調波成分に富む磁気パルスを生成する。従来、マーカーは、いわゆる「臨界長」、すなわち、磁化が、有意な高調波応答を生成するために必要とされる完全双安定遷移または「フリップ」挙動を受けることができる長さ、を上回るようにサイズ決定される。しかしながら、本出願人によって同定された「サブ-双安定」挙動は、高調波応答が、それらの臨界長を有意に下回る、および/またはスイッチングフィールドHSWを下回るマーカーから得られることを可能にし、これは、移植可能マーカーの局在化のための使用、並びに、温熱インプラントとしての使用に有利である。
【0095】
高調波アプローチはまた、漂遊場、組織からの反磁性応答、および渦電流等の基本周波数におけるノイズ源に比較的不透過性でありながら、マーカーの検出を可能にする。
【0096】
検出システムのプローブは、
図14Bに示されており、マーカーの磁化の変化によって引き起こされる磁場の変化を検出するように配置された1つまたは複数のセンスコイルを含み、理想的には、プローブは、マーカーが接近する方向にかかわらず同じ大きさの応答を与える。これは、プローブに対するマーカーの位置に関して一貫したフィードバックを外科医に提供するためである。
【0097】
周波数発生器、例えばオシレータまたは波形ジェネレータ(fDは0.5kHz~30kHz)は、好ましくは、1つ以上の駆動コイル102を励磁する正弦交番信号を生じる。正弦波信号は、感知コイルがスプリアス高調波信号を検出しないように、駆動フィールドにおける高調波成分を最小化する。1つ以上の駆動コイルは、少なくとも一片の大バルクハウゼンジャンプ物質(LBJ)を有する磁気マーカー6を含む組織中に伸長する交番磁界を生成する。
【0098】
交番磁界によりマーカーを励磁し、マーカーの磁化により、磁場中に高調波成分が生成される。マーカーの配置に依存して、高調波は、奇数次高調波(第3、第5、第7など)または偶数次高調波(第2、第4、第6など)または偶数次および奇数次高調波の両方の組合せでもよい。マーカーは、1つ以上の高調波周波数の大きさを直接測定することにより、または1つ以上の高調波の他に対するまたは基礎周波数の大きさに対する比を測定することにより、検出される。
【0099】
マーカーからの応答は、1つ以上の感知コイルによって検出され、感知電圧または電流を生成する。好ましくは、感知コイルは、手持ち式プローブまたはロボットプローブ内にある。広域またはノッチフィルターを配置し、駆動周波数において感知信号の少なくとも構成要素をノイズ除去または軽減してもよく、それによって、生じた信号は、駆動周波数において最小成分を有し、かつ、信号のより高次の高調波成分、例えば、2次、3次、4次、5次または7次高調波またはこれらの組合せを有する。フィルタは、例えばキャパシタ、誘導原およびレジスタのような既知の配置を有するパッシブLCRタイプフィルタ、あるいは、例えば1つ以上のオペアンプ(op-amp)に基づく既知の配置を有するアクティブフィルタの形態を取ってもよい。
【0100】
フィルタ処理した信号を、信号の1つ以上の高調波成分を増幅し、信号をプローブからマーカーまでの距離の単位に換算する、高調波検出回路に供給してもよい。ユーザディスプレイおよび音源は、例えばマーカーの近さまたは磁性信号の強さを示す視覚および聴覚出力をユーザに提供する。システムは、マーカーの近さ、サイズ、マーカーまでの距離、方向または配向、あるいはこれらの組合せを示しうる。
【0101】
駆動コイルからの駆動信号は、フィルタによって電子的にフィルタリングされて、交番磁界が主に所望の励起または駆動周波数になるように、駆動信号の任意の高調波部分を減衰させることができる。これは、高調波応答として誤って解釈されうるより高い周波数でのスプリアス応答を回避するのに役立つ。所望であれば、重畳/変調によって、または、異なる周波数が異なる時間に生成されるように信号を多重化することによって、より複雑な磁気信号を生成するために、複数の駆動周波数が追加されてもよい。
【0102】
上述のように、検出システムのためのマーカーとしても機能し得る本発明の温熱インプラントは、磁化曲線における大バルクハウゼン不連続によって生成される交番磁界に対して高調波または非線形応答を与える1つまたは複数の長さの材料(「磁気マーカー材料」)を含む。そのような材料の例には、鉄、コバルト、およびニッケルに富むガラスコーティングされた非晶質マイクロワイヤ、鉄-ケイ素-ホウ素系非晶質マイクロワイヤ、鉄-コバルト系非晶質マイクロワイヤ、およびバルク金属ガラスワイヤが含まれる。
【0103】
任意の所与の方向から均一である交番磁界に対する高調波応答を提供するマーカーおよび温熱インプラントの両方を提供することが好ましい。さまざまなタイプのマーカー/インプラントが、本出願人の同時係属中の未公開の英国特許出願公開第1801224.5号明細書に記載されており、ある長さの磁気マーカー材料を含み、これは、円の一部に曲げられ、一端が中心に向かって半径方向に曲げられ、次いで実質的に90°で曲げられて円の軸に沿った部分を形成し、別のものは、3つの直交する軸x、yおよびzに沿って配置されたある長さの磁気マーカー材料を含んでもよく、「ジャック」の形状を形成する、あるいは、円形の定在波の形状の、すなわち均一な波形状に形成され、次いで丸く曲げられて端部を接合し、平面視で円形を形成する、ある長さの磁気マーカー材料を含んでもよい。しかしながら、インプラントは、任意の1つの特定の構成に限定されないことを理解されたい。
【0104】
インプラントの磁性材料はまた、生体適合性バリア層またはシェル内に提供されてもよい。シェルはまた、インプラントが展開装置の内側にあるときの初期形状および構成から、インプラントが展開装置を離れて組織内にあるときの最終位置までのインプラントの展開を支援するように機能し得る。例えば、磁性材料を含む1つまたは複数の管またはシェルは、ニチノール合金などの生体適合性形状記憶合金を含むことができ、この合金は、展開装置を出て体温にさらされると、材料が形状遷移を行い、狭いゲージの針、例えば14g~18g内に適合することができる展開前形状から最終展開形状に再構成されるように製造される。
【0105】
さらなる実施例では、磁性インプラント材料を含む1つまたは複数の管は、超塑性ニチノール合金またはバネ材料などの生体適合性の弾性変形可能材料を含み、体内で展開されると、例えば、狭いゲージの針、例えば14g~18g内に適合することができる展開前形状から最終展開形状まで材料の弾性を介して弾性的に再構成される。適切な展開装置は、針およびプランジャーを備えてもよい。使用時、画像ガイダンスの下で針が標的組織に挿入される。展開装置は、プランジャーを押し下げると、磁性インプラントが針の端部から標的組織内に展開されるように配置される。ハウジング材料はさらに、例えば、金または金のコーティングのようなより導電性の材料を使用することによって渦電流加熱を最大にするように選択されてもよい。
【0106】
本発明は、温熱治療のための新規な温熱インプラントおよびシステム、並びに、治療部位の位置を検出し、その部位を温熱療法的に治療するための複合システムを提供する。温熱インプラントは、駆動コイルによって励起され、周囲組織を効果的に加熱する、少なくとも一片のLBJ磁性材料を備える。マーカーは、LBJ磁性材料のコイルの形態であってもよい、または、1つまたは複数の直線状のLBJ磁性材料片、または2つの組合せを含んでもよい。温熱インプラントはまた、双安定スイッチングフィールドよりも低い場で励起されてもよく、生成された高調波は、任意の方向から測定されてインプラントの位置および配向を決定し、それによってその場所を提供する。直線状のLBJ磁性材料片が使用される場合、マーカー内のこれらのワイヤ片はまた、双安定スイッチング挙動を可能にするために必要とされるLBJ材料の臨界長未満、例えば、10mm未満、および200未満の長さ対直径比で提供されてもよい。
他の実施形態
1. 磁化曲線において大バルクハウゼンジャンプ(LBJ)を示す少なくとも一片の磁性材料を含む温熱インプラントであって、前記インプラントは、印加される磁場の軸(X)に対する前記インプラントの向きとは実質的に独立した加熱の大きさを提供するように構成される、温熱インプラント。
2. 前記インプラントが、複数部分の磁性材料を含み、前記部分が、前記インプラントを通る任意の軸から最大で60°、より好ましくは最大で55°である前記磁性材料の部分のうちの少なくとも1つが常に存在するように配置されることを特徴とする、実施形態1の温熱インプラント。
3. 前記インプラントが、2mg未満のLBJ材料を含むことを特徴とする、実施形態1または2の温熱インプラント。
4. 前記インプラントが、コイル状マイクロワイヤの形態で提供されることを特徴とする、実施形態1~3のいずれかの温熱インプラント。
5. 前記コイル状マイクロワイヤが、その中心軸に沿ったさらなる長さのマイクロワイヤを備えることを特徴とする、実施形態4の温熱インプラント。
6. 前記インプラントが、異なる平面に配置された少なくとも3つの直線状マイクロワイヤから成り、「n」個のマイクロワイヤの各々と磁場軸Xとの間の角度が、θ
1
、θ
2
、θ
3
...θ
n
であり、各角度は、前記ワイヤ軸および前記磁場軸の両方を含む平面内で測定され、前記マイクロワイヤのうちの少なくとも1つに対するθ
n
の値が、前記磁場軸Xの任意の配向に対して55°以下であることを特徴とする、実施形態1~3のいずれかの温熱インプラント。
7. 前記インプラントが、四面体の辺の3つを形成する3つのマイクロワイヤから形成される3つの辺を有する四面体、三脚の3つの脚を形成するように配置された3つのマイクロワイヤを含む3つの脚を有する三脚、および、四面体の辺の4つを形成する4つのマイクロワイヤから形成される4つの辺を有する四面体から選択されることを特徴とする、実施形態1~3および6のいずれかの温熱インプラント。
8. 前記インプラント内の各マイクロワイヤが、当該材料について臨界長未満であり、好ましくは、前記インプラントの長さは、<10mm、特に<5mmであることを特徴とする、実施形態6または7の温熱インプラント。
9. 長さ対直径比が、200未満であり、好ましくは100未満であり、特に50~100であることを特徴とする、実施形態6~8のいずれかの温熱インプラント。
10. ヒトまたは動物の体内で組織の温熱治療に使用するための、実施形態1~9のいずれかの温熱インプラント。
11. 前記温熱治療が、前記インプラントに磁場発生器を適用することにより行われ、駆動場の周波数は30kHz~750kHzであり、磁界強度は1000A/m~20,000A/mであることを特徴とする、実施形態10の温熱インプラント。
12. 身体の組織内で温熱インプラントを加熱するための温熱治療システムであって、該システムは、
実施形態1~11のいずれかの少なくとも1つの温熱インプラント;
前記インプラントを交番磁界で励起するよう配置された少なくとも1つの駆動コイル;および
前記少なくとも1つの駆動コイルを介して交番磁界を駆動するよう配置された磁場発生器
を含み、
前記インプラントの励起は、周囲組織の温熱治療を提供し、前記インプラントは、前記磁場の長手軸に対する前記インプラントの向きとは実質的に独立した加熱の大きさを提供するよう構成される
ことを特徴とする、温熱治療システム。
13. 前記インプラントの温度にフィードバックを提供するための温度センサが提供されることを特徴とする、実施形態12の温熱治療システム。
14. 前記温度センサが、前記駆動コイルによって印加される磁場の強度を調整するためのコントローラと通信することを特徴とする、実施形態13の温熱治療システム。
15. ヒトまたは動物の体内の組織の温熱治療のための、実施形態12~14のいずれかのシステムの使用。
16. 体内のインプラントの位置を特定し加熱するための複合検出および温熱治療システムであって、前記複合システムは、
少なくとも1つの移植可能マーカーであって、その磁化曲線において大バルクハウゼンジャンプ(LBJ)を示す少なくとも一片の磁性材料片を含む、移植可能マーカー;
交番磁界を用いて前記マーカーを励起するように配置された少なくとも1つの駆動コイル、および、前記励起されたマーカーから受信した信号を検出するように配置された少なくとも1つの感知コイル;
前記少なくとも1つの駆動コイルを通して交流電流を駆動し、前記コイルから交番磁界を生成するように配置された磁場発生器;および
前記感知コイルから信号を受信し、受信した信号内の駆動周波数の1つまたは複数の高調波を検出するように配置された少なくとも1つの検出器であって、前記少なくとも1つの駆動コイルが、前記マーカーの前記LBJ材料の双安定スイッチング挙動を開始するために必要なスイッチングフィールド未満で前記マーカーを励起する、少なくとも1つの検出器;
を含み、
前記システムはさらに、周囲組織の加熱を提供するために前記マーカーを励起するための少なくとも1つの駆動コイルをさらに備え、前記マーカーは、磁場軸に対する前記マーカーの向きとは実質的に独立した加熱の大きさを提供するように構成される
ことを特徴とする、複合システム。
17. 検出のために前記マーカーを励起する前記少なくとも1つの駆動コイルが、温熱治療のために前記マーカーを励起するのと同じ駆動コイルであることを特徴とする、実施形態16の複合システム。
18. 検出のために前記マーカーに10~40kHzの駆動周波数が適用され、周囲組織の加熱のために前記マーカーに30~750kHz、好ましくは250kHz超のより高い周波数が適用されることを特徴とする、実施形態16または17の複合システム。
19. 前記駆動コイルおよび感知コイルの両方が、手持ち式プローブに設けられることを特徴とする、実施形態16~18のいずれかの複合システム。
20. 前記駆動コイルおよび感知コイルの両方が、患者の治療領域の近くに前記コイルを位置決めするように動かすことができる構成可能なアームに設けられ、好ましくは、前記アームは携帯用ユニットに取り付け可能であることを特徴とする、実施形態16~18のいずれかの複合システム。
21. 温熱治療の方法であって、
ヒトまたは動物の身体の組織に温熱インプラントを移植する工程であって、前記インプラントが、その磁化曲線において大バルクハウゼンジャンプ(LBJ)を示す少なくとも1つの磁性材料片を含む、工程;および、前記インプラントを交番磁界で励起して、周囲組織に温熱治療を提供する工程であって、前記インプラントは、磁場の長手軸に対する前記インプラントの向きとは実質的に独立した大きさの加熱を提供するように構成される、工程
を含むことを特徴とする、方法。
22. 前記インプラントの位置を検出する工程をさらに含み、前記方法は、
前記マーカーを励起するために前記インプラントに交番磁界を印加する工程であって、前記磁場が、前記マーカーのLBJ材料の双安定スイッチング挙動を開始するために必要なスイッチングフィールドを下回る大きさである、工程;および、前記スイッチングフィールドを下回る前記インプラントの磁化の変化によって引き起こされる励起されたインプラントから受信した信号の駆動周波数の1つまたは複数の高調波を検出する工程
を含むことを特徴とする、実施形態21の方法。
23. 前記駆動周波数が、1kHzより高く、好ましくは1~100kHzであり、特に10~40kHzであることを特徴とする、実施形態22の方法。
24. 前記インプラントの高調波応答の態様を測定し、その位置に関する出力を提供する工程をさらに含むことを特徴とする、実施形態21~23のいずれかの方法。