(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】負極層
(51)【国際特許分類】
H01M 4/131 20100101AFI20240828BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240828BHJP
H01M 4/485 20100101ALI20240828BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240828BHJP
H01M 10/0525 20100101ALI20240828BHJP
【FI】
H01M4/131
H01M10/0562
H01M4/485
H01M4/62 Z
H01M10/0525
(21)【出願番号】P 2022017013
(22)【出願日】2022-02-07
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】UBE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】三井 昭男
(72)【発明者】
【氏名】杉田 康成
(72)【発明者】
【氏名】田村 隆明
(72)【発明者】
【氏名】大谷 慎一郎
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-511335(JP,A)
【文献】国際公開第2015/045929(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/044883(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/131
H01M 10/0562
H01M 4/485
H01M 4/62
H01M 10/0525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全固体電池に用いられる負極層であって、
前記負極層は、チタン酸リチウムと、硫化物固体電解質と、を含有し、
前記チタン酸リチウムに含有される水分量が、25ppm以上、547ppm以下である、負極層。
【請求項2】
前記チタン酸リチウムが、Li
4Ti
5O
12で表される組成を有する、請求項1に記載の負極層。
【請求項3】
前記チタン酸リチウムの比表面積が、3.9m
2/g以上、6.5m
2/g以下である、請求項1または請求項2に記載の負極層。
【請求項4】
前記硫化物固体電解質が、Li、P、Sを含有する、請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の負極層。
【請求項5】
前記チタン酸リチウムおよび前記硫化物固体電解質の合計に対する前記チタン酸リチウムの割合が、40体積%以上、80体積%以下である、請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載の負極層。
【請求項6】
正極層と、負極層と、前記正極層および前記負極層の間に配置された固体電解質層と、を有する全固体電池であって、
前記負極層が、請求項1から請求項5までのいずれかの請求項に記載の負極層である、全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、負極層に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体電池は、正極層および負極層の間に、固体電解質層を有する電池であり、可燃性の有機溶媒を含む電解液を有する液系電池に比べて、安全装置の簡素化が図りやすいという利点を有する。例えば、特許文献1には、チタン酸化物および硫化物固体電解質を含有する全固体電池用負極が開示されている。また、特許文献2には、正極層と固体電解質層と負極層とを含む全固体電池であって、正極層が、正極活物質と、導電材と、酸化物リチウムイオン伝導体(例えばチタン酸リチウム)と、硫化物固体電解質とを含む全固体電池が開示されている。また、特許文献3には、チタン酸リチウムにリチウムをドープしてプレドープ材を得る工程と、硫化物固体電解質とシリコン系活物質とプレドープ材とを混合して負極合材を得る工程とを、有する硫化物固体電池の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-128885号公報
【文献】特開2021-072259号公報
【文献】特開2019-106352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
全固体電池の性能向上の観点から、充電抵抗(充電時の抵抗)が低い負極層が求められている。本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、充電抵抗が低い負極層を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示においては、全固体電池に用いられる負極層であって、上記負極層は、チタン酸リチウムと、硫化物固体電解質と、を含有し、上記チタン酸リチウムに含有される水分量が、25ppm以上、547ppm以下である、負極層を提供する。
【0006】
本開示によれば、チタン酸リチウムに含有される水分量が所定の範囲にあるため、充電抵抗が低い負極層となる。
【0007】
上記開示においては、上記チタン酸リチウムおよび上記硫化物固体電解質の合計に対する上記チタン酸リチウムの割合が、40体積%以上、80体積%以下であってもよい。
【0008】
上記開示においては、上記チタン酸リチウムが、Li4Ti5O12で表される組成を有していてもよい。
【0009】
上記開示においては、上記チタン酸リチウムの比表面積が、3.9m2/g以上、6.5m2/g以下であってもよい。
【0010】
上記開示においては、上記硫化物固体電解質が、Li、P、Sを含有していてもよい。
【0011】
また、本開示においては、正極層と、負極層と、上記正極層および上記負極層の間に配置された固体電解質層と、を有する全固体電池であって、上記負極層が、上述した負極層である、全固体電池を提供する。
【0012】
本開示によれば、上述した負極層を用いることで、充電抵抗が低い全固体電池となる。
【発明の効果】
【0013】
本開示においては、充電抵抗が低い負極層を提供できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本開示における全固体電池を例示する概略断面図である。
【
図2】実施例1~6および比較例1~6における、負極活物質の水分量と、充電抵抗率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示における負極層および全固体電池について、詳細に説明する。
【0016】
A.負極層
本開示における負極層は、チタン酸リチウムと、硫化物固体電解質と、を含有し、上記チタン酸リチウムに含有される水分量が、25ppm以上、547ppm以下である。また、本開示における負極層は、全固体電池に用いられる。
【0017】
本開示によれば、チタン酸リチウムに含有される水分量が所定の範囲にあるため、充電抵抗が低い負極層となる。例えば、チタン酸リチウムに含有される水分量が多いと、その水分が、硫化物固体電解質と反応し、硫化物固体電解質の劣化(高抵抗層の発生)が生じる。その結果、負極層の充電抵抗は高くなる。これに対して、本開示においては、チタン酸リチウムに含有される水分量が所定の値以下であることから、硫化物固体電解質の劣化(高抵抗層の発生)を抑制でき、負極層の充電抵抗を低減できる。
【0018】
一方、硫化物固体電解質の劣化を抑制するという観点では、チタン酸リチウムに含有される水分量を極力少なくすることが好ましい。ところが、本発明者等が、チタン酸リチウムに含有される水分量と、充電抵抗との関係性を詳細に検討したところ、チタン酸リチウムに含有される水分量を極端に少なくすると、意外にも、負極層の充電抵抗が増加するという知見を得た。その理由は、完全には明らかではないが、チタン酸リチウムおよび硫化物固体電解質の帯電性(ゼータ電位)の影響が推測される。
【0019】
具体的に、チタン酸リチウムの表面の帯電性は正であり、硫化物固体電解質の表面の帯電性も正である。そのため、水分量が少ない状態では、チタン酸リチウムおよび硫化物固体電解質は、互いに反発していると推測される。これに対して、本開示においては、チタン酸リチウムの表面に、適度な量の水分が存在することで、チタン酸リチウムおよび硫化物固体電解質の親和性が向上し、負極層の充電抵抗が低減したと推測される。
【0020】
1.チタン酸リチウム
本開示における負極層は、チタン酸リチウムを含有する。チタン酸リチウムは、負極活物質として機能する。チタン酸リチウムに含有される水分量は、通常、25ppm以上、547ppm以下であり、53ppm以上、412ppm以下であってもよい。水分量が多いと、硫化物固体電解質の劣化が生じる可能性がある。一方、水分量が少ないと、チタン酸リチウムおよび硫化物固体電解質が電気的に反発し、良好な接触状態が得られない可能性がある。例えば、チタン酸リチウムに含有される水分量が25ppmである場合、チタン酸リチウム1gに、25μgの水分が付着している。上記水分量は、チタン酸リチウムを25℃から300℃まで加熱した際の水分量として定義される。上記水分量は、例えばカールフィッシャー滴定装置による測定から算出される。
【0021】
チタン酸リチウム(LTO)は、Li、TiおよびOを含有する化合物である。チタン酸リチウムにおけるTiの一部は、他の金属元素(例えば遷移金属元素)で置換されていてもよい。また、チタン酸リチウムにおけるLiの一部は、他の金属元素(例えばアルカリ金属元素)で置換されていてもよい。チタン酸リチウムは、スピネル構造の結晶相を有していてもよい。
【0022】
チタン酸リチウムの組成としては、例えばLixTiyOz(3.5≦x≦4.5、4.5≦y≦5.5、11≦z≦13)が挙げられる。xは、3.7以上4.3以下であってもよく、3.9以上4.1以下であってもよい。yは、4.7以上5.3以下であってもよく、4.9以上5.1以下であってもよい。zは、11.5以上12.5以下であってもよく、11.7以上12.3以下であってもよい。チタン酸リチウムは、Li4Ti5O12で表される組成を有することが好ましい。
【0023】
チタン酸リチウムの形状としては、例えば、粒子状が挙げられる。チタン酸リチウムの平均粒径(D50)は、例えば、10nm以上、50μm以下であり、100nm以上、20μm以下であってもよい。平均粒径(D50)は、累積粒度分布の累積50%の粒径(メディアン径)をいい、例えば、レーザー回折式粒度分布計、走査型電子顕微鏡(SEM)による測定から算出される。
【0024】
チタン酸リチウムの比表面積としては、例えば、2m2/g以上、10m2/g以下であり、3m2/g以上、8m2/g以下であってもよく、3.9m2/g以上、6.5m2/g以下であってもよい。比表面積は、例えば、BET法等のガス吸着法による測定から算出される。
【0025】
チタン酸リチウムは、Liが挿入されることで、良好な電子伝導度が発現されることが好ましい。Liが挿入された状態におけるチタン酸リチウムの電子伝導度(25℃)は、例えば、8.0×10-1S/cm以上である。
【0026】
負極層におけるチタン酸リチウムの割合は、例えば、20体積%以上、80体積%以下であり、30体積%以上、70体積%以下であってもよく、40体積%以上、65体積%以下であってもよい。チタン酸リチウムの割合が少ないと、体積エネルギー密度が低くなる可能性がある。一方、チタン酸リチウムの割合が多いと、イオン伝導パスが十分に形成されない可能性がある。
【0027】
2.硫化物固体電解質
本開示における負極層は、硫化物固体電解質を含有する。硫化物固体電解質は、負極層におけるイオン伝導パスを構成する。硫化物固体電解質は、通常、アニオン元素の主成分として硫黄(S)を含有する。硫化物固体電解質は、例えば、Liと、A(Aは、P、As、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、Inの少なくとも一種である)と、Sとを含有する。Aは、少なくともPを含むことが好ましい、また、硫化物固体電解質は、ハロゲンとして、Cl、BrおよびIの少なくとも一つを含有していてもよい。また、硫化物固体電解質は、Oを含有していてもよい。
【0028】
硫化物固体電解質は、ガラス系硫化物固体電解質であってもよく、ガラスセラミックス系硫化物固体電解質であってもよく、結晶系硫化物固体電解質であってもよい。また、硫化物固体電解質が結晶相を有する場合、その結晶相としては、例えば、Thio-LISICON型結晶相、LGPS型結晶相、アルジロダイト型結晶相が挙げられる。
【0029】
硫化物固体電解質の組成は、特に限定されないが、例えば、xLi2S・(100-x)P2S5(70≦x≦80)、yLiI・zLiBr・(100-y-z)(xLi2S・(1-x)P2S5)(0.7≦x≦0.8、0≦y≦30、0≦z≦30)が挙げられる。
【0030】
硫化物固体電解質は、一般式:Li4-xGe1-xPxS4(0<x<1)で表される組成を有していてもよい。上記一般式において、Geの少なくとも一部は、Sb、Si、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、VおよびNbの少なくとも一つで置換されていてもよい。上記一般式において、Pの少なくとも一部は、Sb、Si、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、VおよびNbの少なくとも一つで置換されていてもよい。上記一般式において、Liの一部は、Na、K、Mg、CaおよびZnの少なくとも一つで置換されていてもよい。上記一般式において、Sの一部は、ハロゲン(F、Cl、BrおよびIの少なくとも一つ)で置換されていてもよい。
【0031】
硫化物固体電解質の他の組成として、例えば、Li7-x-2yPS6-x-yXy、Li8-x-2ySiS6-x-yXy、Li8-x-2yGeS6-x-yXyが挙げられる。これらの組成において、Xは、F、Cl、BrおよびIの少なくとも一種であり、xおよびyは、0≦x、0≦yを満たす。
【0032】
硫化物固体電解質は、Liイオン伝導度が高いことが好ましい。25℃における硫化物固体電解質のLiイオン伝導度は、例えば1×10-4S/cm以上であり、1×10-3S/cm以上であることが好ましい。硫化物固体電解質は、絶縁性が高いことが好ましい。25℃における硫化物固体電解質の電子伝導度は、例えば10-6S/cm以下であり、10-8S/cm以下であってもよく、10-10S/cm以下であってもよい。また、硫化物固体電解質の形状としては、例えば、粒子状が挙げられる。硫化物固体電解質の平均粒径(D50)は、例えば0.1μm以上、50μm以下である。
【0033】
負極層における硫化物固体電解質の割合は、例えば、15体積%以上、75体積%以下であり、15体積%以上、60体積%以下であってもよい。硫化物固体電解質の割合が少ないと、イオン伝導パスが十分に形成されない可能性がある。一方、硫化物固体電解質の割合が多いと、体積エネルギー密度が低くなる可能性がある。
【0034】
チタン酸リチウムおよび硫化物固体電解質の合計に対する、チタン酸リチウムの割合は、例えば、40体積%以上、80体積%以下であり、50体積%以上、80体積%以下であってもよく、60体積%以上、70体積%以下であってもよい。チタン酸リチウムの割合が少ないと、体積エネルギー密度が低くなる可能性がある。一方、チタン酸リチウムの割合が多いと、イオン伝導パスが十分に形成されない可能性がある。
【0035】
負極層における、チタン酸リチウムおよび硫化物固体電解質の合計の割合は、例えば、75体積%以上、100体積%以下であり、80体積%以上、100体積%以下であってもよく、90体積%以上、100体積%以下であってもよい。
【0036】
3.負極層
本開示における負極層は、導電材を含有していてもよく、導電材を含有していなくてもよい。本開示における「導電材」とは、チタン酸リチウムの電子伝導度(厳密には、Liが挿入された状態におけるチタン酸リチウムの電子伝導度)よりも高い電子伝導度を有する材料をいう。導電材としては、例えば、炭素材料、金属粒子、導電性ポリマーが挙げられる。炭素材料としては、例えば、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)等の粒子状炭素材料、炭素繊維、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)等の繊維状炭素材料が挙げられる。負極層における導電材の割合は、例えば、0.1体積%以上、10体積%以下であり、0.3体積%以上、10体積%以下であってもよい。一方、負極層が、導電材を含有しない場合、負極層において最も電子伝導度が高い材料は、チタン酸リチウムであることが好ましい。
【0037】
本開示における負極層は、バインダーを含有していてもよい。バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系バインダー、アクリレートブタジエンゴム(ABR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム系バインダーが挙げられる。負極層におけるバインダーの割合は、例えば、1体積%以上、20体積%以下であり、5体積%以上、20体積%以下であってもよい。また、負極層の厚さは、例えば、0.1μm以上1000μm以下である。
【0038】
本開示における負極層の製造方法は、特に限定されない。本開示においては、全固体電池に用いられる負極層の製造方法であって、水分量が25ppm以上547ppm以下であるチタン酸リチウムと、硫化物固体電解質と、分散媒と、を含有するペーストを準備する準備工程と、上記ペーストを塗工し、塗工層を形成する塗工工程と、上記塗工層を乾燥し、上記分散媒を除去する乾燥工程と、を有する、負極層の製造方法を提供することもできる。ペーストは、導電材およびバインダーの少なくとも一方をさらに含有していてもよい。ペーストを塗工する方法は、特に限定されないが、例えばブレード法が挙げられる。塗工層の乾燥温度は、例えば100℃以下である。
【0039】
B.全固体電池
図1は、本開示における全固体電池を例示する概略断面図である。
図1に示される全固体電池10は、正極層1と、負極層2と、正極層1および負極層2の間に配置された固体電解質層3と、正極層1の集電を行う正極集電体4と、負極層2の集電を行う負極集電体5と、を有する。本開示においては、負極層2が、上記「A.負極層」に記載した負極層である。
【0040】
本開示によれば、上述した負極層を用いることで、充電抵抗が低い全固体電池となる。
【0041】
1.負極層
本開示における負極層については、上記「A.負極層」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0042】
2.正極層
本開示における正極層は、少なくとも正極活物質を含有し、必要に応じて、固体電解質、導電材、バインダーおよびの少なくとも一つをさらに含有していてもよい。正極活物質としては、例えば、酸化物活物質が挙げられる。酸化物活物質としては、例えば、LiCoO2、LiMnO2、LiNiO2、LiVO2、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2等の岩塩層状型活物質、LiMn2O4、Li4Ti5O12、Li(Ni0.5Mn1.5)O4等のスピネル型活物質、LiFePO4、LiMnPO4、LiNiPO4、LiCoPO4等のオリビン型活物質が挙げられる。正極活物質の表面には、イオン伝導性酸化物が被覆されていてもよい。イオン伝導性酸化物を設けることで、正極活物質と固体電解質(特に硫化物固体電解質)との間に高抵抗層が生じることを抑制できる。イオン伝導性酸化物としては、例えばLiNbO3が挙げられる。イオン伝導性酸化物の厚さは、例えば、1nm以上30nm以下である。
【0043】
正極層における正極活物質の割合は、例えば20体積%以上であり、30体積%以上であってもよく、40体積%以上であってもよい。正極活物質の割合が少ないと、体積エネルギー密度が低くなる可能性がある。一方、正極活物質の割合は、例えば80体積%以下であり、70体積%以下であってもよく、60体積%以下であってもよい。正極活物質の割合が多いと、イオン伝導パスおよび電子伝導パスが十分に形成されない可能性がある。
【0044】
固体電解質は、特に限定されないが、例えば、硫化物固体電解質が挙げられる。硫化物固体電解質の詳細については、上記「A.負極層」に記載した内容と同様である。導電材およびバインダーについては、「A.負極層」に記載した内容と同様である。また、正極層の厚さは、例えば0.1μm以上1000μm以下である。
【0045】
3.固体電解質層
本開示における固体電解質層は、上記正極層および上記負極層の間に配置される。固体電解質層は、少なくとも固体電解質を含有し、バインダーをさらに含有していてもよい。固体電解質およびバインダーについては、「2.正極層」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。固体電解質層の厚さは、例えば0.1μm以上1000μm以下である。
【0046】
4.全固体電池
本開示において、「全固体電池」とは、固体電解質層(少なくとも固体電解質を含有する層)を備える電池をいう。また、本開示における全固体電池は、正極層、固体電解質層および負極層を有する発電要素を備える。発電要素は、通常、正極集電体および負極集電体を有する。正極集電体は、例えば、正極層の固体電解質層とは反対側の面に配置される。正極集電体の材料としては、例えば、アルミニウム、SUS、ニッケル等の金属が挙げられる。正極集電体の形状としては、例えば、箔状、メッシュ状が挙げられる。一方、負極集電体は、例えば、負極層の固体電解質層とは反対側の面に配置される。負極集電体の材料としては、例えば、銅、SUS、ニッケル等の金属が挙げられる。負極集電体の形状としては、例えば、箔状、メッシュ状が挙げられる。
【0047】
本開示における全固体電池は、上記発電要素を収容する外装体を備えていてもよい。外装体としては、例えば、ラミネート型外装体、ケース型外装体が挙げられる。また、本開示における全固体電池は、上記発電要素に対して、厚さ方向の拘束圧を付与する拘束治具を備えていてもよい。拘束治具として、公知の治具を用いることができる。拘束圧は、例えば、0.1MPa以上50MPa以下であり、1MPa以上20MPa以下であってもよい。拘束圧が小さいと、良好なイオン伝導パスおよび良好な電子伝導パスが形成されない可能性がある。一方、拘束圧が大きいと、拘束治具が大型化し、体積エネルギー密度が低下する可能性がある。
【0048】
本開示における全固体電池の種類は、特に限定されないが、典型的にはリチウムイオン二次電池である。全固体電池の用途は、特に限定されないが、例えば、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)、電気自動車(BEV)、ガソリン自動車、ディーゼル自動車等の車両の電源が挙げられる。特に、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車または電気自動車の駆動用電源に用いられることが好ましい。また、本開示における全固体電池は、車両以外の移動体(例えば、鉄道、船舶、航空機)の電源として用いられてもよく、情報処理装置等の電気製品の電源として用いられてもよい。
【0049】
なお、本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0050】
[実施例1]
(負極ペーストの作製)
まず、負極活物質としてLi4Ti5O12粒子(LTO、比表面積:6.5m2/g)を用いた。この粒子をLTO[A]と称する。次に、LTO[A]を、露点-40℃の雰囲気に一晩静置させることで、LTO[A]の水分量を調整した。また、LTO[A]の水分量は、カールフィッシャー滴定装置(京都電子工業製MKH-710)を用いて、LTO[A]を25℃から300℃まで加熱した際の水分量を測定することにより求めた。
【0051】
次に、負極活物質(LTO[A]、密度:3.5g/cc)、導電材(VGCF、密度:2g/cc)およびバインダー(PVdF、密度:0.9g/cc)および分散媒(酪酸ブチル)を秤量し、超音波ホモジナイザー(SMT社製UH-50)を用いて30分間混合した。その後、硫化物固体電解質(LiI-LiBr-Li2S-P2S5系ガラスセラミック、密度:2g/cc)を添加し、再度、超音波ホモジナイザー(SMT社製UH-50)を用いて30分間混合した。これにより負極ペーストを得た。負極ペーストの組成は、体積比で、負極活物質:硫化物固体電解質:導電材:バインダー=60.7:32.7:2.0:4.6であった。また、分散媒の量は1.6gであり、負極ペーストの固形分濃度は50質量%であった。
【0052】
(正極ペーストの作製)
正極活物質として、LiNbO3で表面処理したLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2を用いた。この正極活物質を2.0g、導電材(VGCF)を0.048g、硫化物固体電解質(LiI-LiBr-Li2S-P2S5系ガラスセラミック)を0.407g、バインダー(PVdF)を0.016g、分散媒(酪酸ブチル)を1.3g秤量し、超音波ホモジナイザー(SMT社製UH-50)を用いて混合した。これにより、正極ペーストを得た。
【0053】
(SE層用ペーストの作製)
ポリプロピレン製容器に、分散媒(ヘプタン)と、バインダー(ブタジエンゴム系バインダーを5質量%含んだヘプタン溶液)と、硫化物固体電解質(LiI-LiBr-Li2S-P2S5系ガラスセラミック、平均粒径D50:2.5μm)とを加え、超音波ホモジナイザー(SMT社製UH-50)を用いて、30秒間混合した。次に、容器を振とう器で3分間振とうさせた。これにより、固体電解質層用ペースト(SE層用ペースト)を得た。
【0054】
(全固体電池の作製)
まず、アプリケーターを使用したブレード法にて、正極集電体(アルミニウム箔)上に、正極ペーストを塗工した。塗工後、100℃のホットプレート上で30分間乾燥させた。これにより、正極集電体および正極層を有する正極を得た。次に、負極集電体(銅箔)上に、負極ペーストを塗工した。塗工後、100℃のホットプレート上で30分間乾燥させた。これにより、負極集電体および負極層を有する負極を得た。ここで、正極の充電比容量を185mAh/gとした場合に、負極の充電比容量が1.15倍となるように、負極層の目付量を調整した。
【0055】
次に、上記正極をプレスした。プレス後の正極層の表面に、ダイコーターにより、SE層用ペーストを塗工し、100℃のホットプレート上で30分間乾燥させた。その後、2ton/cmの線圧でロールプレスを行った。これにより、正極集電体、正極層および固体電解質層を有する正極側積層体を得た。次に、上記負極をプレスした。プレス後の負極層の表面に、ダイコーターにより、SE層用ペーストを塗工し、100℃のホットプレート上で30分間乾燥させた。その後、2ton/cmの線圧でロールプレスを行った。これにより、負極集電体、負極層および固体電解質層を備える負極側積層体を得た。
【0056】
正極側積層体と負極側積層体とを、それぞれ打ち抜き加工し、固体電解質層同士が対向するように配置し、両者の間に、未プレスの固体電解質層を配置した。その後、130℃にて、2ton/cmの線圧でロールプレスし、正極と固体電解質層と負極とをこの順に有する発電要素を得た。得られた発電要素をラミネート封入し、5MPaで拘束することで、全固体電池を得た。
【0057】
[実施例2~4および比較例1、2]
LTO[A]の水分量を、表1に示す値に変更したこと以外は、実施例1と同様にして全固体電池を得た。実施例2~4では、LTO[A]を、真空雰囲気下(負圧計:-0.1~0MPa)、乾燥温度(200~300℃)の条件で事前に乾燥した。LTO[A]の水分量は、乾燥時間により調整した。また、比較例1では、LTO[A]を事前に乾燥させることなく、常温の大気雰囲気下に一晩静置させることで、LTO[A]の水分量を調整した。
【0058】
[実施例5、6および比較例3]
負極活物質としてLi4Ti5O12粒子(LTO、比表面積:3.9m2/g、密度:3.4g/cc)を用いた。この粒子をLTO[B]と称する。LTO[B]を用い、その水分量を、表2に示す値に変更したこと以外は、実施例1と同様にして全固体電池を得た。
【0059】
[比較例4~6]
負極活物質としてハードカーボン(HC、比表面積:4.5m2/g、密度:2g/cc)を用い、その水分量を、表3に示す値に変更したこと以外は、実施例1と同様にして全固体電池を得た。
【0060】
[評価]
(比表面積の測定)
負極活物質の比表面積は、JIS規格「JIS R 1626:1996 ファインセラミックス粉末の気体吸着BET法による比表面積の測定方法」に準拠して測定した。
【0061】
(密度の測定)
負極活物質の密度は、JIS規格「JIS R 1620:1995 ファインセラミックス粉末の粒子密度測定方法」に準拠して測定した。
【0062】
(直流抵抗測定)
実施例1~6および比較例1~6で作製した全固体電池の直流抵抗を特定した。具体的には、全固体電池を、1C相当の電流で定電流充電し、セル電圧が2.95Vに到達した後、定電圧充電し、充電電流が0.01C相当に到達した時点で終了した。その後、1C相当の電流で定電流放電し、1.5Vになった時点で終了した。その後、全固体電池を、3C相当の電流で定電流充電し、充電前の電圧と、10秒間充電後の電圧との差を、3C相当電流で割ることで、直流抵抗(充電抵抗)を算出した。その結果を、表1~表3および
図2に示す。なお、表1における充電抵抗比の値は、比較例2に対する相対値であり、表2における充電抵抗比の値は、比較例3に対する相対値であり、表3における充電抵抗比の値は、比較例4に対する相対値である。
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
表1および
図2に示すように、実施例1~4は、比較例1、2よりも、充電抵抗比が低いことが確認された。実施例1が比較例1よりも充電抵抗比が低くなった理由は、硫化物固体電解質の劣化(高抵抗層の発生)が抑制されたためであると推測される。一方、実施例4が比較例2よりも充電抵抗比が低くなった理由は、チタン酸リチウムの表面に、適度な量の水分が存在することで、チタン酸リチウムおよび硫化物固体電解質の親和性が向上したためであると推測される。同様に、表2および
図2に示すように、実施例5、6は、比較例3よりも、充電抵抗比が低いことが確認された。一方、表3および
図2に示すように、比較例4~6に示すように、カードカーボンの場合、水分量は、充電抵抗比に大きな影響を与えないことが確認された。
【符号の説明】
【0067】
1 …正極層
2 …負極層
3 …固体電解質層
4 …正極集電体
5 …負極集電体
10 …全固体電池