(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】ターボ機械部品の製造方法、それによって得られる部品およびそれを備えたターボ機械
(51)【国際特許分類】
C22C 30/02 20060101AFI20240828BHJP
B22F 5/04 20060101ALI20240828BHJP
B22F 9/08 20060101ALI20240828BHJP
C22F 1/10 20060101ALI20240828BHJP
C21C 7/10 20060101ALI20240828BHJP
C22B 9/18 20060101ALI20240828BHJP
C22B 9/20 20060101ALI20240828BHJP
C21C 7/072 20060101ALI20240828BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20240828BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20240828BHJP
【FI】
C22C30/02
B22F5/04
B22F9/08 A
C22F1/10 H
C21C7/10 J
C22B9/18
C22B9/20
C21C7/072 Z
C21C7/072 S
C21D9/00 N
C22F1/00 621
C22F1/00 628
C22F1/00 640A
C22F1/00 650A
C22F1/00 650D
C22F1/00 651B
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 687
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 692B
C22F1/00 602
(21)【出願番号】P 2022106808
(22)【出願日】2022-07-01
(62)【分割の表示】P 2018562163の分割
【原出願日】2017-05-25
【審査請求日】2022-07-26
(31)【優先権主張番号】102016000055824
(32)【優先日】2016-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517029381
【氏名又は名称】ヌオーヴォ・ピニォーネ・テクノロジー・ソチエタ・レスポンサビリタ・リミタータ
【氏名又は名称原語表記】Nuovo Pignone Tecnologie S.R.L.
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】カプチーニ,フィリッポ
(72)【発明者】
【氏名】ジアノッチ,マッシモ
(72)【発明者】
【氏名】ブッチオーニ,マッシミリアノ
(72)【発明者】
【氏名】ディピエトロ,ドメニコ
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-525842(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1624178(CN,A)
【文献】特公昭47-018332(JP,B1)
【文献】特開平07-238349(JP,A)
【文献】特開平07-207401(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/00
C22C 30/02
B22F 5/04
B22F 9/08
C22F 1/10
C21C 7/10
C22B 9/18
C22B 9/20
C21C 7/072
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターボ機械部品のための合金であって、
前記合金が、合金質量を基準として
C 0.005~0.03質量%
Si 0.05~0.5質量%
Mn 0.1~1.0質量%
Cr 19.5~22.5質量%
Ni 34.0~38.0質量%
Mo 3.0~5.0質量%
Cu 1.0~2.0質量%
Co 0.0~1.0質量%
Al 0.01~0.5質量%
Ti 1.8~2.5質量%
Nb 0.2~1.0質量%
W 0.0~1.0質量%
で構成され、残りはFeおよび不純物であり、前記不純物がS 0.0~0.01質量%およびP 0.0~0.025質量%を構成する化学組成を有し、
29~33HRCの硬度値を有
し、
200~250℃の範囲の温度で腐食耐性を有し、
400~700℃の範囲の温度で、疲労および/またはクリープに対して耐性を有する、合金。
【請求項2】
前記合金が、合金質量を基準として
C 0.005~0.02質量%
Si 0.05~0.2質量%
Mn 0.1~0.6質量%
Cr 20.0~21.5質量%
Ni 35.0~37.0質量%
Mo 3.5~4.0質量%
Cu 1.2~2.0質量%
Co 0.0~0.2質量%
Al 0.05~0.4質量%
Ti 1.9~2.3質量%
Nb 0.2~0.5質量%
W 0.0~0.6質量%
Fe 30質量%以上
で構成され、残りが不純物であり、前記不純物がS 0.0~0.001質量%およびP 0.0~0.02質量%を構成する化学組成を有する、請求項1
に記載の合金。
【請求項3】
前記合金が、合金質量を基準として
C 0.005~0.02質量%
Si 0.06~0.15質量%
Mn 0.2~0.4質量%
Cr 20.2~21.0質量%
Ni 36.0~36.5質量%
Mo 3.6~3.8質量%
Cu 1.3~1.7質量%
Co 0.0~0.1質量%
Al 0.1~0.3質量%
Ti 2.0~2.2質量%
Nb 0.25~0.4質量%
W 0.01~0.4質量%
Fe 30質量%以上
で構成され、残りが不純物であり、前記不純物がS 0.0~0.001質量%およびP 0.0~0.015質量%を構成する化学組成を有する、請求項1
又は2に記載の合金。
【請求項4】
前記合金が、
C 0.015質量%
Si 0.09質量%
Mn 0.3質量%
Cr 20.4質量%
Ni 36.2質量%
Mo 3.7質量%
Cu 1.41質量%
Co 0.03質量%
Al 0.25質量%
Ti 2.04質量%
Nb 0.27質量%
W 0.1質量%
Fe 残り
で構成される化学組成を有し、
不純物が、
P 0.013質量%以下
S 0.0002質量%以下
B 0.003質量%以下
Bi 0.3 ppm以下
Ca 50 ppm以下
Mg 30 ppm以下
Ag 5 ppm以下
Pb 5 ppm以下
N 100 ppm以下
Sn 50 ppm以下
O 50 ppm以下
である、請求項
3に記載の合金。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の合金を含むターボ機械部品。
【請求項6】
請求項
5に記載の部品の少なくとも1つを含むターボ機械。
【請求項7】
遠心圧縮機または遠心ポンプである、請求項
6に記載のターボ機械。
【請求項8】
ガスタービンまたは蒸気タービンである、請求項
6に記載のターボ機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される主題の実施形態は、一般に、ターボ機械用の部品ならびに「油およびガス」用途のターボ機械に関する。
【0002】
いくつかの実施形態は、例えば、他の汚染物質の有無を問わない炭化水素+硫化水素、二酸化炭素を含有する油およびガスの生成および処理の分野で動作する(回転式)遠心圧縮機またはポンプ、ならびにそれらの部品に関する。これらの物質は、「サワーガス」と呼ばれる。このような装置は、最先端のマルテンサイト系ステンレス鋼よりも良好に腐食に耐えることができ、かつプレミアムニッケル基超合金と同様に挙動することができる高腐食耐性合金製の少なくとも1つの部品を有する。
【0003】
いくつかの実施形態は、(回転式)ガスタービンまたは蒸気タービン、ならびにそれらの部品に関する。このような装置は、最先端の材料よりも良好に疲労および/またはクリープに耐えることができる高い機械的耐性を有する合金で作られた少なくとも1つの部品を有する。
【背景技術】
【0004】
圧縮機は、機械的エネルギーを使用して圧縮可能な流体(ガス)の圧力を上昇させることができる機械である。遠心圧縮機では、流体の圧縮は、シャフト上に組み立てられた1つ以上の羽根車によって行われ、ボルトでまとめて積み重ねられた1つ以上のステータ部品(ダイヤフラム)の内部の回転運動を伴う。説明したアセンブリは、通常バンドルと呼ばれる。圧縮される流体は、1つ以上の吸気ダクトを通ってバンドルに引き込まれ、圧縮された流体は、バンドルから1つ以上の送出ダクトに向かって排出される。
【0005】
一般に、遠心圧縮機は、電気モータまたは内燃機関によって、動きを伝達するための継手を介して作動する。
【0006】
サワーガス田で動作する遠心圧縮機は、性能の低下や圧縮機部品の早期故障の原因となり得る環境との異なるタイプの相互作用(腐食)を受ける。
【0007】
サワーサービスは、湿潤硫化水素(H2S)を有する炭化水素を特徴とし、pH2Sは0.0030バールよりも高い。この値は、炭素鋼および低合金鋼に有効である。NACE MR0175/ISO 15156-1およびNACE MR0175/ISO15156-3には、腐食耐性合金(CRA)の最小pH2S限度値が定義されておらず、その理由は、この限度値が溶液の酸性度(pH)の関数でもあり、値は炭素鋼および低合金鋼について定義された値よりも低くなり得るためである。
【0008】
いくつかの腐食現象があり、最も関連のあるタイプとしては、
-一般的腐食-材料表面の均一な腐食
-孔食-局部的な不均一な腐食
-応力腐食割れ(SCCおよびCSCC)
が挙げられる。
【0009】
上に列挙した腐食現象は、凝縮水が存在する場合(湿性ガス)にのみ発生することが指摘されており、これは電気化学的プロセスの電解質として作用する。
【0010】
炭化水素、CO2、H2S、および最終的に硫黄元素の存在下での塩化物(または他のハロゲン化物)を含有する湿性ガスは、上に列挙した全ての現象が起こり得る環境を表す。したがって、製品の信頼性を保証するためには、単一または複数の損傷メカニズムの組合せに対する材料の耐性が不可欠である。
【0011】
上に列挙した腐食メカニズムの中で最も重要なものは、湿式H2Sまたは塩化物(または一般的にはハロゲン化物)のいずれかによる応力腐食割れであり、これはサービスのためのユニットが利用できなくなるためである。
【0012】
一般に、このメカニズムは、腐食によって生じた水素原子が金属中に拡散することを含む。
【0013】
SSCは、
・引張応力(残留応力および/または印加応力)
・H2S+凝縮水
・SSCの損傷を受けやすい材料
の3つの条件が確認された場合にのみ発生し得る。
【0014】
ハロゲン化物、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、シアン化物(CN-)などの汚染物質は触媒として働き、表面の水素原子の濃度を高め、水素分子の再結合を防ぐことによってSSCをより深刻にする。
【0015】
一般に、遠心圧縮機部品(羽根車、シャフト、ダイヤフラムおよびボルト)は、引張応力および湿性ガス状態に曝される。
【0016】
経験に基づき、羽根車およびボルトがSSCおよびCSCCを最も生じやすい部品であることが判明している。これは、他の部品よりも応力レベルが高いため、また、より高い分圧の湿性ガスが発生する圧縮機停止(加圧)中に応力が印加されたままであるためである。したがって、サワーサービス環境では、過酷な環境条件に耐えることができる材料を選択することが必須である。
【0017】
したがって、このようなサービスのための材料選択は、
図1に概略的に表すように、H
2S(p(H
2S))、pH(主にCO
2の関数)および塩化物(および/または他のハロゲン化物)含量の分圧によって支配される3次元空間に基づく。
【0018】
これまで、特定の環境に対して最も費用対効果の高いソリューションを選択するために種々の材料が使用されてきた。
【0019】
目的のアプローチに適合する材料の背後にある複雑なルールを単純化するために、
-低p(H2S)については、選択される材料の種類は、任意のpH、高塩化物含量のデュプレックス合金およびスーパーデュプレックス合金である
-低~中程度のp(H2S)については、選択される材料の種類は、任意のpHおよび低塩化物の異なる種類のマルテンサイト系ステンレス鋼である
-任意のp(H2S)については、選択される材料の種類は、任意のpHおよび高塩化物ニッケル基合金である
という原則が考慮され得る。
【0020】
上記のこれらの原則を3D空間で表すと、費用対効果の高い合金(すなわち、デュプレックス、スーパーデュプレックスおよびマルテンサイト系ステンレス鋼)と、新しい合金で被覆される可能性のあるプレミアムニッケル基合金との間に、大きなスペースがあることは明らかである。
【0021】
したがって、遠心圧縮機用の部品、特に、限定されるものではないが、他の汚染物質の有無にかかわらず炭化水素+硫化水素を含有する油およびガスの生成および処理の分野で動作し、信頼性を高めることができ、(材料の比強度がより高い場合には)速度を上昇させ、高価な合金元素、主にニッケルを削減することによって費用対効果の高い合金を提供する圧縮機の部品が必要である。
【0022】
同様の問題は、ポンプの設計および使用条件、または一部の蒸気タービン用途(すなわち、地熱分野)において取り組む必要がある。
【0023】
ガスタービンは一種の内燃機関である。ガスタービンは、下流のタービンに連結された上流の回転圧縮機と、その中間にある燃焼室とを有する。
【0024】
圧縮機を通る大気の空気流は燃焼室でより高圧になり、混合され、燃料(すなわち、液体またはガス)で燃焼されてエンタルピーが増加する。この高温高圧流は膨張タービンに流入し、プロセス中に軸作用出力を生じる。タービンの軸作用は、圧縮機およびシャフトに連結され得る発電機などの他のデバイスを駆動するために使用される。
【0025】
この環境は、定常条件およびサイクル条件における高温、高応力の組合せによって特徴付けられる。このような用途の材料は、クリープ、低および高サイクル疲労、酸化および腐食に耐えるように設計されなければならない。これは、通常、高強度鋼またはニッケル基合金によって達成される。
【0026】
同様の問題は、蒸気タービンの設計および使用条件において取り組む必要がある。
【0027】
本発明者は、上記の目的の1つまたはいくつかまたは全てを達成しようと試みた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【文献】国際公開第2015/197751号パンフレット
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0029】
第1の例示的な実施形態によれば、ターボ機械部品の製造方法であって、この方法は、
組成物重量を基準として
C 0.005~0.03重量%
Si 0.05~0.5重量%
Mn 0.1~1.0重量%
Cr 19.5~22.5重量%
Ni 34.0~38.0重量%
Mo 3.0~5.0重量%
Cu 1.0~2.0重量%
Co 0.0~1.0重量%
Al 0.01~0.5重量%
Ti 1.8~2.5重量%
Nb 0.2~1.0重量%
W 0.0~1.0重量%
で構成され、残りはFeおよび不純物であり、この不純物がS 0.0~0.01重量%およびP 0.0~0.025重量%を構成する合金化学組成物を
真空誘導溶解(VIM)またはアーク電気炉を介して溶解させる工程と、
アルゴン酸素脱炭(A.O.D)、真空誘導脱ガスおよび注ぎ込み(V.I.D.P)、または真空酸素脱炭(V.O.D)によって精製する工程と、
エレクトロスラグ再溶解(E.S.R)または真空アーク再溶解(VAR)を介して再溶解させる工程と、
工程c)から得られた合金を熱処理して、1020~1150℃の温度で少なくとも1回の熱サイクルにより可溶化を誘導し、その後液体またはガス媒体中で急冷する工程と、
2~20時間600~770℃の温度まで加熱し、室温で冷却することによって時効させる工程と
を含む。
【0030】
第2の例示的な実施形態によれば、上記方法によって得ることができるターボ機械部品であって、この部品は、合金重量を基準として
C 0.005~0.03重量%
Si 0.05~0.5重量%
Mn 0.1~1.0重量%
Cr 19.5~22.5重量%
Ni 34.0~38.0重量%
Mo 3.0~5.0重量%
Cu 1.0~2.0重量%
Co 0.0~1.0重量%
Al 0.01~0.5重量%
Ti 1.8~2.5重量%
Nb 0.2~1.0重量%
W 0.0~1.0重量%
で構成され、残りはFeおよび不純物であり、この不純物がS 0.0~0.01重量%およびP 0.0~0.025重量%を構成する化学組成を有し、
29~33HRCの硬度値を有する合金製である。
【0031】
第3の例示的な実施形態によれば、上記で一般的に定義した少なくとも1つの部品を含むターボ機械である。
【0032】
本発明は、添付図面と併せて考慮される例示的な実施形態に関する以下の説明からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】H
2S(p(H
2S))、pH(主にCO
2の関数)、および塩化物(および/または他のハロゲン化物)の分圧によって支配される3次元空間を示す図である。
【
図4】蒸気タービンの典型的な断面を示す図である。
【
図5】ガスタービンの典型的な断面を示す図である。
【
図6A】実施例1の合金の相平衡対温度を示す図である。
【
図6B】比較となるUNS N07718の相平衡対温度を示す図である。
【
図7A】実施例1の合金の時間温度変態曲線を示す図である。
【
図7B】比較となるUNS N07718の時間温度変態曲線を示す図である。
【
図8】実施例1の合金の硬度処理能力を示し、「ST」は短期標準偏差を意味し、「LT」は長期標準偏差を意味し、「USL」は上側規格限界を意味する図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
例示的な実施形態についての以下の説明では、添付の図面を参照する。異なる図の同じ参照番号は、同一または同様の要素を示す。以下の詳細な説明は、本発明を限定するものではない。むしろ、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって定められる。
【0035】
本明細書の全体を通して、「ある実施形態」または「一実施形態」への言及は、一実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造、または特性が、本開示の主題の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書の全体の様々な箇所における「ある実施形態において」または「一実施形態において」という表現の出現は、必ずしも同じ実施形態を指しているわけではない。さらに、特定の特徴、構造、または特性を、1つ以上の実施形態において任意の適切なやり方で組み合わせることが可能である。
【0036】
本明細書で使用される「室温」という用語は、当業者に知られているその通常の意味を有し、約16℃(60°F)~約32℃(90°F)の範囲内の温度を含み得る。
【0037】
合金組成に関して、「必須元素」という用語は、合金中に存在し、かつ他の必須元素と組み合わせて上記目的の達成を可能にする元素を指す。合金中の必須元素としては、鉄(Fe)、炭素(C)、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)が挙げられる。
【0038】
「任意選択的な元素」という用語は、合金の必須の化学組成を規定する必須元素に加えて、場合によって存在する元素を指す。合金中の任意選択的な元素としては、コバルト(Co)およびタングステン(W)が挙げられる。
【0039】
それに対して、「不純物」または「不純物元素」という用語は、前述の目的を達成するために合金組成の設計に含まれていない元素を指す。しかしながら、この要素は、生産プロセスに依存してその存在が避けられない場合があるために、存在する場合がある。合金中の不純物には、リン(P)、硫黄(S)、ホウ素(B)、ビスマス(Bi)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、銀(Ag)、鉛(Pb)、窒素(N)、錫(Sn)、および酸素(O)が含まれる。
【0040】
第1の実施形態では、ターボ機械部品の製造方法は、
組成物重量を基準として
C 0.005~0.03重量%
Si 0.05~0.5重量%
Mn 0.1~1.0重量%
Cr 19.5~22.5重量%
Ni 34.0~38.0重量%
Mo 3.0~5.0重量%
Cu 1.0~2.0重量%
Co 0.0~1.0重量%
Al 0.01~0.5重量%
Ti 1.8~2.5重量%
Nb 0.2~1.0重量%
W 0.0~1.0重量%
で構成され、残りはFeおよび不純物であり、この不純物がS 0.0~0.01重量%およびP 0.0~0.025重量%を構成する合金化学組成物を
真空誘導溶解(VIM)またはアーク電気炉を介して溶解させる工程と、
アルゴン酸素脱炭(A.O.D)、真空誘導脱ガスおよび注ぎ込み(V.I.D.P)、または真空酸素脱炭(V.O.D)によって精製する工程と、
エレクトロスラグ再溶解(E.S.R)または真空アーク再溶解(VAR)を介して再溶解させる工程と、
工程c)から得られた合金を熱処理して、1020~1150℃の温度で少なくとも1回の熱サイクルにより可溶化を誘導し、その後液体またはガス媒体中で急冷する工程と、
2~20時間600~770℃の温度まで加熱し、室温で冷却することによって時効させる工程と
を含む。
【0041】
このようにして、不純物の存在、その偏析および均質性が著しく低減され、同時に、合金の改善された機械的特性および腐食耐性が達成される。
【0042】
特に、工程e)に設定した選択された時効条件は、硬度に関して非常に有意な改善を達成する一方で、腐食耐性および応力腐食割れ耐性などの他の特性を非常に良好に保つ点で有利である。実際、以下に示すように、結果として得られるターボ機械部品は、29-33HRCの硬度値を達成した。
【0043】
これらの硬度値は、特に硫化物の応力腐食割れ耐性に関して改善された性能を有する非常に丈夫な材料をもたらす。実際、CRAのSSC耐性は合金の硬度低下を上昇させる。記載した時効処理は、NACE MR0175/ISO15156-3に詳述されている硬度要件を狙って、高寸法の鍛造製品においても高いプロセス能力を保証する。
【0044】
好ましい実施形態において、時効の工程e)は、5~10時間720~760℃の温度まで加熱し、室温で冷却することによって実施される。
【0045】
いくつかの実施形態では、本方法は、工程d)の前に、工程c)から得られた合金を少なくとも6時間1100℃を超える温度で均質化する工程d’)をさらに含む。
【0046】
他の実施形態では、本方法は、工程d)の前および工程d’)の後に、最小総圧延比2:1を得るために少なくとも1回の塑性変形サイクルによる熱間または冷間塑性変形の工程d’’)をさらに含む。このような塑性変形サイクルには、鍛造(開または閉型)、圧延、押し出し、冷間膨張が含まれ、生の部品形状を製作するか、またはより一般的には生の部品形状をさらに機械加工して、遠心圧縮機、ポンプ、ガスタービンおよび蒸気タービン、ならびにそれらの部品を製作する。
【0047】
他の実施形態では、1020~1150℃の温度で少なくとも1回の熱サイクルを通して可溶化を誘導するために熱処理する工程d)は、炉内、空気下、制御された雰囲気または真空中で実施され、続いて、後続の熱処理工程のための合金元素(すなわち、銅、チタン、アルミニウム、ニオブなど)を溶液中に入れて保持するために、液体またはガス媒体中で急速冷却することができる。
【0048】
他の実施形態では、合金をさらに噴霧して粉末を生成し、次いで粉末冶金によって処理する。好ましくは、「粉末冶金」という用語は、冷間静水圧プレス(CIP)、金属射出成形(MIM)、焼結、熱間静水圧プレス(HIP)、またはMIMで作りHIPプロセスに曝露させることによって、粉末を固めることを意味する。基本的に、粉末は、ダイに供給され、所望の形状に成形される。圧縮された粉末は、その後、制御された雰囲気の炉内で、室内または高圧で焼結されるかまたは熱間静水圧処理され、粉末粒子間の冶金的結合が生じる。その後、恒温鍛造、浸透、仕上げ加工または表面処理などの任意選択的な後焼結処理を適用して、部品を完成させることができる。
【0049】
第2の実施形態では、ターボ機械部品は、上述のような方法によって得ることができ、部品は、合金重量を基準として
C 0.005~0.03重量%
Si 0.05~0.5重量%
Mn 0.1~1.0重量%
Cr 19.5~22.5重量%
Ni 34.0~38.0重量%
Mo 3.0~5.0重量%
Cu 1.0~2.0重量%
Co 0.0~1.0重量%
Al 0.01~0.5重量%
Ti 1.8~2.5重量%
Nb 0.2~1.0重量%
W 0.0~1.0重量%
で構成され、残りはFeおよび不純物であり、この不純物がS 0.0~0.01重量%およびP 0.0~0.025重量%を構成する化学組成を有し、29~33HRCの硬度値を有する合金製である。
【0050】
高い腐食耐性(高温でさえも)ならびに/または疲労および/もしくはクリープに対する高い耐性により、この部品は非常に有用であり、特にターボ機械の作動流体と接触する部品において非常に有用であると同時に、非常に有利な硬度値を示す。
【0051】
事実、この合金は高腐食耐性かつ高温耐性であり、したがって、最先端のマルテンサイト系ステンレス鋼よりも良好に高温での腐食および/または応力に耐えることができ、UNS N07718 e UNS N00625の要件を満たすようなプレミアムニッケル基超合金と同様に挙動することができるが、同時に、上記のような部品製造方法によって、合金が29~33HRCという望ましい硬度値を達成することが可能になった。
【0052】
好ましい実施形態では、合金は、高温、特に200~250℃の範囲で高い腐食耐性を有する。
【0053】
他の好ましい実施形態では、合金は、高温、特に400~700℃の範囲で、疲労および/またはクリープに対して高い耐性を有する。
【0054】
好ましくは、合金は、合金重量を基準として
C 0.005~0.02重量%
Si 0.05~0.2重量%
Mn 0.1~0.6重量%
Cr 20.0~21.5重量%
Ni 35.0~37.0重量%
Mo 3.5~4.0重量%
Cu 1.2~2.0重量%
Co 0.0~0.2重量%
Al 0.05~0.4重量%
Ti 1.9~2.3重量%
Nb 0.2~0.5重量%
W 0.0~0.6重量%
Fe 30重量%以上
で構成され、残りは不純物であり、この不純物がS 0.0~0.001重量%およびP 0.0~0.02重量%を構成する化学組成を有する。
【0055】
より好ましくは、合金は、合金重量を基準として
C 0.005~0.02重量%
Si 0.06~0.15重量%
Mn 0.2~0.4重量%
Cr 20.2~21.0重量%
Ni 36.0~36.5重量%
Mo 3.6~3.8重量%
Cu 1.3~1.7重量%
Co 0.0~0.1重量%
Al 0.1~0.3重量%
Ti 2.0~2.2重量%
Nb 0.25~0.4重量%
W 0.01~0.4重量%
Fe 30重量%以上
で構成され、残りは不純物であり、この不純物がS 0.0~0.001重量%およびP 0.0~0.015重量%を構成する化学組成を有する。
【0056】
上記合金は、有利には費用対効果の高い合金であると同時に、驚くべきことに、主としてニッケルであるがクロム、モリブデンおよびチタンなどの高価な合金化元素を少ない量で含み、機械的特性および防食特性に悪影響を及ぼすことがない。この合金はまた、高温および高圧に対する高度な耐性を示し、同じ結果で製造された部品はターボ機械、特に遠心圧縮機に有利に適している。
【0057】
不純物は、P、S、B、Bi、Ca、Mg、Ag、Pb、N、Sn、Oまたはこれらの組合せである。
【0058】
好ましくは、不純物は0.5重量%未満であり、より好ましくは0.2重量%未満である。
【0059】
好ましい実施形態において、不純物は、Pが0.025重量%以下、Sが0.01重量%以下、ならびにB、Bi、Ca、Mg、Ag、Pb、N、SnおよびOである。
【0060】
特に好ましい実施形態では、合金は、
C 0.015重量%
Si 0.09重量%
Mn 0.3重量%
Cr 20.4重量%
Ni 36.2重量%
Mo 3.7重量%
Cu 1.41重量%
Co 0.03重量%
Al 0.25重量%
Ti 2.04重量%
Nb 0.27重量%
W 0.1重量%
Fe 残り
で構成される化学組成を有し、
不純物は、
P 0.013重量%以下
S 0.0002重量%以下
B 0.003重量%以下
Bi 0.3ppm以下
Ca 50ppm以下
Mg 30ppm以下
Ag 5ppm以下
Pb 5ppm以下
N 100ppm以下
Sn 50ppm以下
O 50ppm以下
である。
【0061】
いくつかの実施形態では、合金は、ASTM E112によるプレート3よりも微細な粒度を有する。
【0062】
合金は、上述の化学組成、不純物のレベル、プロセス条件に起因する粒度のために、ステンレス鋼(マルテンサイト系、フェライト系、オーステナイト系およびオーステナイト系フェライト系)に関して、
優れた硬度特性、
一般的および局所的腐食の点で優れた防食特性、NACE MR0175による溶液A方法Aにおける優れた限界応力、より高い応力腐食割れ(SCC)耐性、より高い塩化物応力腐食割れ(CSCC)耐性、硫化物応力割れ(SSC)耐性、ガルバニック誘起水素応力割れ(GHSC)耐性、
室温および高温におけるより高い引張特性、
適切な靭性特性、
より高い高および低サイクル疲労特性、
より高いクリープ強度、ならびに
より高い耐酸化性および高温腐食耐性、
の特性を示し、プレミアムニッケル基超合金に匹敵することが有利である。
【0063】
第3の実施形態では、ターボ機械は、上記で一般的に定義した少なくとも1つの部品を含む。
【0064】
好ましい実施形態では、ターボ機械は、遠心圧縮機または遠心ポンプである。
【0065】
他の好ましい実施形態では、ターボ機械は、ガスタービンまたは蒸気タービンである。
【0066】
図2、
図3、
図4および
図5は、上述した1つ以上の部品を使用することができる異なるターボ機械を示している。
図2は、遠心圧縮機の典型的な断面を示し、
図3は、遠心ポンプの典型的な断面を示し、
図4は、蒸気タービンの典型的な断面を示し、
図5は、ガスタービンの典型的な断面を示す。
【0067】
合金部品について好ましいおよび有利であると特定された全ての態様は、その製造方法ならびにそれを含むターボ機械についても同様に好ましいおよび有利であるとみなされるべきであることを理解されたい。
【0068】
また、上に述べたような合金部品の好ましい態様の全ての組合せ、およびその製造方法、ならびにガスタービン用途におけるそれらの使用は、本明細書に開示されているとみなされるべきであることを理解されたい。
実施例
【実施例1】
【0069】
C 0.015重量%
Si 0.09重量%
Mn 0.3重量%
Cr 20.4重量%
Ni 36.2重量%
Mo 3.7重量%
Cu 1.41重量%
Co 0.03重量%
Al 0.25重量%
Ti 2.04重量%
Nb 0.27重量%
W 0.1重量%
Fe 残り
で構成される化学組成を有し、
不純物は、
P 0.013重量%以下
S 0.0002重量%以下
B 0.003重量%以下
Bi 0.3ppm以下
Ca 50ppm以下
Mg 30ppm以下
Ag 5ppm以下
Pb 5ppm以下
N 100ppm以下
Sn 50ppm以下
O 50ppm以下
である。
【0070】
上記の化学組成物を真空誘導溶解(VIM)によって溶解させ、アルゴン酸素脱炭(A.O.D.)によって精製し、エレクトロスラグ再溶解(E.S.R.)による再溶解で再溶解させた。
【0071】
得られた合金を少なくとも6時間1100℃を超える温度で均質化した。
【0072】
次いで、合金を2回の高温塑性変形サイクルに供した。
【0073】
その後、合金を熱処理して1020~1150℃の温度で可溶化させた後、液体またはガス媒体中で急冷した。
【0074】
最後に、合金を6時間約750℃の温度まで加熱し、室温で冷却することによって時効処理を施した。
【0075】
得られた合金を試験して機械的特性および防食特性を評価した。以下の表1において、結果を公知のマルテンサイト系ステンレス鋼(略して「マルテンサイトSS」)と比較した。マルテンサイト系ステンレス鋼は、12~18重量%のクロム含量、低ニッケルおよびマルテンサイトとして定義される結晶構造を特徴とするステンレス鋼の一種である。この種類の合金は、中~高程度の機械的特性と並みの腐食耐性を有する。
【0076】
【0077】
表2および表3に追加で確認したSSC特性を報告する。
【0078】
【0079】
【0080】
合金元素の重量パーセントは、トポロジー的に閉じた充填相(TCP)を回避または最小化するように調整される。Cr、Mo、Wの量が多すぎると、これらの元素が豊富な金属間相の析出が促進される。一般に、TCP相は化学式AxByを有する。例えば、μ相は、理想的な化学量論A6B7に基づいており、W6Co7およびMo6Co7など13個の原子を含む菱面体セルを有する。
【0081】
σ相は、化学量論A2Bに基づいており、Cr2Ru、Cr61Co39およびRe67Mo33など30個の原子を含む正方晶セルを有する。
【0082】
P相、例えばCr18Mo42Ni40は、1セル当たり56個の原子を含む原始的な斜方晶系である。
【0083】
図6A(熱力学的平衡)および7A(動力学推定)に示されているように、σ相のみが熱力学的に可能であり、沈殿動力学は非常に緩慢であるため溶体化焼鈍中も時効中も起こり得ない。
【0084】
この合金の化学組成は、熱間加工性ウインドウを拡大するように最適化される。これは、ニッケル含量が低く、硬化二次相(ガンマプライム)の析出温度を低下させることによって達成される。
図6からわかるように、平衡時の理論的な加工可能範囲は非常に大きく、1020℃~1280℃である。この間隔は、UNS N07718(
図6Bおよび
図7B)によって提供される間隔よりも大きい。
【0085】
平衡間隔は、動力学および粘弾性現象を考慮しないが、他のよく知られている市販のプレミアムニッケル基合金と比較して、この合金の挙動がどれほど優れているかを示すことができる。
【0086】
実際には、この合金は900~1200℃の熱間成形範囲を有し、したがって、製作およびサイクル時間中の破損のリスクを低減する。
【0087】
この合金は、29~33HRCの硬度値を有する750Mpaの最小降伏強度を提供するような二次相硬化を提供する化学元素の組合せを有し、したがって、応力腐食特性が強化される。
【0088】
事実、
図8を参照すると、750℃で6時間30個の合金サンプルを試験したときの、実施例1の合金の硬度処理能力が示されている。
図8の図は、硬度値の平均が30.86HRCで得られたことを示す。
【0089】
UNS N07718のようなプレミアムニッケル基合金と比較すると、硬度レベルが低下するため、機械加工性が向上する。このレベルの硬度は、UNS N07718のようなプレミアムニッケル基合金と比較すると、ターボ機械部品を時効状態で機械加工することを可能にし、生産サイクルの最適化をもたらす。
図7Aは、実施例1の合金の時間温度変態曲線を示し、
図7Bは、比較となるUNS N07718の時間温度変態曲線を示す。UNS N07718に関して提示された合金において、有害な相の析出(すなわち、デルタ相およびシグマ相)がどのように遅いかが明らかにわかる。これにより、熱処理の広い領域、不純物が少ない微細構造、脆化への低い感受性、および低靭性特性を有することができる。
【0090】
この合金は、UNS N06625、UNS N07725またはUNS N09925のような同種または異種のニッケル基溶加材を用いた一般的なアーク溶接方法(SMAWおよびGTAW)によって容易に溶接されるように設計されている。