(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】ビールテイストアルコール飲料
(51)【国際特許分類】
C12G 3/04 20190101AFI20240828BHJP
C12C 5/02 20060101ALI20240828BHJP
C12G 3/021 20190101ALI20240828BHJP
【FI】
C12G3/04
C12C5/02
C12G3/021
(21)【出願番号】P 2022534041
(86)(22)【出願日】2021-06-29
(86)【国際出願番号】 JP2021024550
(87)【国際公開番号】W WO2022004720
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2023-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2020114424
(32)【優先日】2020-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020114425
(32)【優先日】2020-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】高木 理沙
(72)【発明者】
【氏名】首藤 菜子
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 恵子
(72)【発明者】
【氏名】小沢 正晃
(72)【発明者】
【氏名】神田 直人
(72)【発明者】
【氏名】松尾 嘉英
【審査官】二星 陽帥
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-183125(JP,A)
【文献】特開2014-117205(JP,A)
【文献】特開2019-106925(JP,A)
【文献】特開2014-079220(JP,A)
【文献】国際公開第2013/143822(WO,A1)
【文献】Brauwissenschaft,1979年,Jahrgang 32, Heft 6,p. 160-166
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G 3/021 - 3/04
C12C 5/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/AGRICOLA/FSTA(STN)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料中の麦芽の比率が50重量%未満であるビールテイストアルコール飲料であって、
プリン体の濃度が5mg/100mL未満、アデノシンの濃度が5~10ppmであるビールテイストアルコール飲料。
【請求項2】
原料中の麦芽の比率が50重量%未満であるビールテイストアルコール飲料であって、
プリン体の濃度が5mg/100mL未満、アデノシンの濃度が12~18ppmであるビールテイストアルコール飲料。
【請求項3】
さらに、分子量35~50kDaのタンパク質を含み、
前記タンパク質の濃度が1ppm以上である請求項1又は2に記載のビールテイストアルコール飲料。
【請求項4】
前記タンパク質の濃度が30ppm以下である請求項3に記載のビールテイストアルコール飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビールテイストアルコール飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の消費者の嗜好の多様化にともなって、様々な香味特徴をもつビールテイストアルコール飲料の開発が望まれている。
【0003】
特許文献1には、ビールテイストアルコール飲料の香味を改善するために、特定の分子量のペプチドを含有させることが開示されている。
【0004】
また、健康志向が高まる中で、低カロリー、低糖質、低プリン体量の飲料の需要が高まっている。しかし、このような低カロリー、低糖質、低プリン体量の飲料においては、これらの成分が有する香味特徴が失われたり、原料となる麦芽が不足することによって、麦芽に由来する香味特徴が失われてしまうという問題があった。特許文献2には、プリン体濃度を低減しつつ、ビールの飲み応えを増加させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-149975号公報
【文献】国際公開第2019/130458号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、飲料の評価指標として、ビールらしい味わい、スムーズな味の流れ、口内に残るざらつき、といった指標を用いており、10-20kDaのペプチドを所定濃度含有することにより、これらの指標に基づく官能評価スコアが高い飲料が得られることが記載されている。
また、特許文献2では、飲料の評価指標として、ビールの飲み応え、ビールテイスト飲料としての総合評価を用いていることが記載されている。
【0007】
ここで、ビールテイスト飲料を飲んだ直後から感じられる味覚として、5基本味、すなわち、甘味、塩味、酸味、苦味及びうま味では表せない味覚で、味の強さ、広がり、厚み、味が持続する又は味の強さのバランスがとれているという特徴が好まれることがある。このような特徴を本明細書中では「ふくらみ」という。
特許文献1及び特許文献2に記載された飲料は、ふくらみの観点からはさらに改良の余地がある飲料であるといえ、ビールテイストアルコール飲料のふくらみを増強する方法が望まれていた。また、ふくらみに加え他の味わいが増強された飲料も望まれていた。
【0008】
本発明は、ふくらみが増強された飲料を提供することを目的とする。本発明はまた、ふくらみ及びビールらしい苦味が増強された飲料を提供することを目的とする。特に原料中の麦芽の比率が50重量%未満であり、プリン体の濃度が5mg/100mL未満であるビールテイストアルコール飲料において、ふくらみが増強された飲料を提供することを目的とする。また、原料中の麦芽の比率が50重量%未満であり、プリン体の濃度が5mg/100mL未満であるビールテイストアルコール飲料において、ふくらみ及びビールらしい苦味が増強されたビールテイストアルコール飲料を提供することも本発明の目的の一つである。麦芽の比率が50重量%未満であるビールテイストアルコール飲料は、ふくらみやビールらしい苦味が乏しい傾向があり、さらにプリン体の濃度が5mg/100mL未満であると、ふくらみやビールらしい苦味がより乏しい傾向にある。そのためこのような飲料はふくらみを増強すること、又は、ふくらみに加えビールらしい苦味を増強することが特に望まれる飲料である。ここで、本発明においてビールらしい苦味とは、ビールテイストアルコール飲料を飲んだときに感じられる爽快で良質な苦みであり、後味に悪く残らない苦味をいう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、以下のビールテイストアルコール飲料に関する。
〔1〕原料中の麦芽の比率が50重量%未満であるビールテイストアルコール飲料であって、プリン体の濃度が5mg/100mL未満、アデノシンの濃度が5~10ppmであるビールテイストアルコール飲料。
〔2〕原料中の麦芽の比率が50重量%未満であるビールテイストアルコール飲料であって、プリン体の濃度が5mg/100mL未満、アデノシンの濃度が12~18ppmであるビールテイストアルコール飲料。
〔3〕さらに、分子量35~50kDaのタンパク質を含み、上記タンパク質の濃度が1ppm以上である〔1〕又は〔2〕に記載のビールテイストアルコール飲料。
〔4〕上記タンパク質の濃度が30ppm以下である〔3〕に記載のビールテイストアルコール飲料。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、原料中の麦芽の比率が50重量%未満であるビールテイストアルコール飲料であって、プリン体の濃度が5mg/100mL未満である上記飲料において、ふくらみが増強された飲料を提供することができる。また、本発明によれば、原料中の麦芽の比率が50重量%未満であるビールテイストアルコール飲料であって、プリン体の濃度が5mg/100mL未満である上記飲料において、ふくらみ及びビールらしい苦味が増強された飲料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のビールテイストアルコール飲料は、原料中の麦芽の比率が50重量%未満である。
麦芽の比率は好ましくは30重量%以上である。
また、本発明のビールテイストアルコール飲料は、原料中の麦芽の比率が0%であってもよい。
ここで「麦芽の比率」とは、麦芽、米、トウモロコシ、コウリャン、バレイショ、デンプン、麦芽以外の麦、及び糖類など、水とホップ以外の原料中に占める麦芽の重量の比率をいう。ただし、酸味料、甘味料、苦味料、調味料、香料など、微量に添加され得る成分については上記比率の計算に含めない。
【0012】
本発明のビールテイストアルコール飲料は、プリン体の濃度が5mg/100mL未満である。本明細書において、「プリン体」とは、プリン核構造を有する化合物であれば特に限定されるものではない。したがって、「プリン体」としては、たとえば、プリン塩基(アデニン、グアニン、キサンチン、ヒポキサンチン)、プリンヌクレオシド(アデノシン、グアノシン、イノシン)、プリンヌクレオチド(アデニル酸、グアニル酸、イノシン酸)、および低分子または高分子の核酸(オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド)などが挙げられる。
なお、本明細書中、「プリン体濃度」とは、アデニン、グアニン、キサンチン、ヒポキサンチンのプリン体塩基4種の総量を指す。プリン体の測定は公知の方法によって行うことができ、例えば、過塩素酸による加水分解後にLC-MS/MS(液体クロマトグラフィー質量分析法)を用いて検出する方法(「酒類中のプリン体の微量分析のご案内」、一般財団法人・日本食品分析センター、URL:http://www.jfrl.or.jp/item/nutrition/post-31.html 参照)により測定することができる。
【0013】
本発明のビールテイストアルコール飲料におけるプリン体の濃度は、4.5mg/100mL以下が好ましく、4.2mg/100mL以下がさらに好ましい。
【0014】
本発明のビールテイストアルコール飲料は、アデノシンを含む。アデノシンは、アデニンとリボースとからなるヌクレオシドの一種である。
なお、上記アデノシンは、5’デオキシアデノシン等のアデノシンの誘導体を含むものではない。本発明は、原料中の麦芽の比率が50重量%未満であるビールテイストアルコール飲料であって、プリン体の濃度が5mg/100mL未満、アデノシンの濃度が5~10ppmであるビールテイストアルコール飲料、又は、原料中の麦芽の比率が50重量%未満であるビールテイストアルコール飲料であって、プリン体の濃度が5mg/100mL未満、アデノシンの濃度が12~18ppmであるビールテイストアルコール飲料に関する。本明細書において、アデノシン濃度が5~10ppmである本発明のビールテイストアルコール飲料を本発明の第一形態と記載し、アデノシン濃度が12~18ppmである本発明のビールテイストアルコール飲料を本発明の第二形態と記載して説明する。また、本発明の第一形態及び第二形態に共通する説明は、単に、「本発明」や「本発明のビールテイストアルコール飲料」と記載して説明する。
【0015】
本発明の第一形態におけるビールテイストアルコール飲料では、上記アデノシンの濃度が5ppm以上である。
アデノシンの濃度が5ppm以上であると、原料中の麦芽の比率が50重量%未満であり、プリン体濃度が5mg/100mL未満に低減されているビールテイストアルコール飲料におけるふくらみを増強することができる。プリン体の濃度が5mg/100mL未満であるビールテイストアルコール飲料において、アデノシンを所定濃度以上含有することとビールテイストアルコール飲料におけるふくらみが関連することは、これまで知られておらず、本発明者らが見出した知見である。
【0016】
本発明の第一形態におけるビールテイストアルコール飲料では、アデノシンの濃度が10ppm以下である。
アデノシンの濃度が高くなりすぎると、ふくらみの増強の他に、辛みといった味わいが強くなる場合があるためである。よって、本発明のビールテイストアルコール飲料は、アデノシンの濃度を5~10ppmとすることにより、辛みの増加を招くことなく、ふくらみを増強することができる。
本発明の第一形態におけるビールテイストアルコール飲料では、アデノシンの濃度は、好ましくは5~8ppmである。
【0017】
本発明の第二形態におけるビールテイストアルコール飲料では、上記アデノシンの濃度が12ppm以上である。
アデノシンの濃度が12ppm以上であると、原料中の麦芽の比率が50重量%未満であるビールテイストアルコール飲料であって、プリン体濃度が5mg/100mL未満に低減されている上記飲料におけるふくらみを増強することができ、また、味わいにおけるビールらしい苦味も増強することができる。プリン体の濃度が5mg/100mL未満であるビールテイストアルコール飲料において、アデノシンを12ppm以上含有することとビールテイストアルコール飲料におけるふくらみ及びビールらしい苦味が関連することは、これまで知られておらず、本発明者らが見出した知見である。
【0018】
本発明の第二形態におけるビールテイストアルコール飲料では、アデノシンの濃度が18ppm以下である。
アデノシンの濃度が高くなりすぎると、ふくらみやビールらしい苦味の増強の他に、後味の苦み又は収斂味が強く感じられる場合があるためである。よって、本発明のビールテイストアルコール飲料は、アデノシンの濃度を12~18ppmとすることにより、後味の苦味又は収斂味の増加を招くことなく、ふくらみ及びビールらしい苦味を増強することができる。
【0019】
また、本発明のビールテイストアルコール飲料では、さらに、分子量35~50kDaのタンパク質を含み、上記タンパク質の濃度が1ppm以上であることが好ましい。
【0020】
分子量35~50kDaのタンパク質は、ビールテイストアルコール飲料をSDS-PAGEによる電気泳動に供した場合に分子量が35~50kDaの領域にみられるタンパク質である。ビールテイストアルコール飲料をSDS-PAGEによる電気泳動に供する前に、例えば、前処理としてビールテイストアルコール飲料に対して30kDaのカットオフ膜を用いて限外濾過を行ってもよい。
上記タンパク質は、好ましくは分子量が35~45kDaのタンパク質であり、より好ましくは約40kDaのタンパク質である。本明細書では分子量35~50kDaのタンパク質を40kDaタンパク質ともいう。
【0021】
40kDaタンパク質は、穀類由来タンパク質であることが好ましい。
上記穀類は、大麦、小麦、トウモロコシ、イネ、大豆からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
また、穀類が麦である場合、ビールテイストアルコール飲料の製造に使用される公知の麦に由来するタンパク質を含有することができる。このような麦としては、大麦、小麦、ライ麦、カラス麦、オート麦、エン麦などが挙げられ、好ましくは大麦である。また、発芽した麦、未発芽の麦のいずれでもよいが、好ましくは発芽した麦の麦芽である。これらは、単独で含有していてもよく、2種以上を組み合わせて含有していてもよい。
【0022】
また、40kDaタンパク質として、大麦(学名:Hordeum vulgare)由来のSerpin Z4(別名:BSZ4、HorvuZ4、Major endosperm albumin又はProtein Z)、大麦由来Serpin Z7(別名:BSZ7又はHorvuZ7)が好ましい。また、上記タンパク質において、そのアミノ酸配列の一部のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質であってもよい。
【0023】
アデノシンに加えて40kDaタンパク質をさらに含有することによって、ビールテイストアルコール飲料におけるふくらみをさらに増強させることができる。
また、40kDaタンパク質の濃度は5ppm以上であることがより好ましく、また、30ppm以下であることが好ましい。
【0024】
また、アデノシンと40kDaタンパク質をともに含有する場合には、アデノシンと40kDaタンパク質の相乗効果によりビールテイストアルコール飲料のふくらみを効果的に増強させることができる。また、本発明の第二形態におけるビールテイストアルコール飲料において、アデノシンと40kDaタンパク質をともに含有する場合には、アデノシンと40kDaタンパク質の相乗効果によりビールテイストアルコール飲料のふくらみ及びビールらしい苦味を効果的に増強させることができる。
【0025】
本発明のビールテイストアルコール飲料は、アルコールを含有するビールテイスト飲料であり、アルコール濃度は1%(v/v)~10%(v/v)が好ましいが、特に限定されるものではない。さらに、該ビールテイストアルコール飲料に含まれるアルコール分の由来としては、醗酵、非醗酵に限定されるものではない。なお、ここでのアルコールはエタノールを指し、後記の脂肪族アルコールは含まれない。
ビールテイスト飲料とは、ビール様の風味をもつ炭酸飲料をいう。
【0026】
以下に、本発明の第一形態及び第二形態に共通する一般的なビールテイストアルコール飲料の製造工程を示す。
まず、麦芽等の麦の他、必要に応じて他の穀物、でんぷん、糖類、苦味料、又は着色料などの原料及び水を含む混合物に、必要に応じてアミラーゼなどの酵素を添加し、糊化、糖化を行なわせ、ろ過し、糖化液とする。必要に応じてホップや苦味料などを糖化液に加えて煮沸し、清澄タンクにて凝固タンパク質などの固形分を取り除く。この糖化液の代替として、麦芽エキスに温水を加えたものにホップを加えて煮沸してもよい。ホップは煮沸開始から煮沸終了前のどの段階で混合してもよい。糖化工程、煮沸工程、固形分除去工程などにおける条件は、知られている条件を用いればよい。醗酵・貯酒工程などにおける条件は、知られている条件を用いればよい。得られた醗酵液を濾過し、得られた濾過液に炭酸ガスを加える。その後、容器に充填し殺菌工程を経て目的のビールテイストアルコール飲料を得る。
ビールテイストアルコール飲料は、上記のような方法で製造されたビールテイストアルコール飲料に麦由来の蒸留酒(例えば、スピリッツや焼酎など)等の麦由来のアルコール飲料を添加して製造されたものであってもよい。
【0027】
麦芽を原料として使用せずに製造されるビールテイストアルコール飲料は、炭素源を含有する液糖、麦又は麦芽以外のアミノ酸含有材料としての窒素源、ホップ、色素等を、温水と共に混合し、液糖溶液とする。該液糖溶液は、煮沸する。原料としてホップを用いる場合、ホップは煮沸開始前ではなく、煮沸中に、該液糖溶液に混合してもよい。この糖化液の代替として、麦芽以外の原料を用いたエキスに温水を加えたものにホップを加えて煮沸してもよい。ホップは煮沸開始から煮沸終了前のどの段階で混合してもよい。醗酵・貯酒工程などにおける条件は、知られている条件を用いればよい。得られた醗酵液を濾過し、得られた濾過液に炭酸ガスを加える。その後、容器に充填し殺菌工程を経て目的の原料中の麦芽の比率が50重量%未満であるビールテイストアルコール飲料を得る。
【0028】
非醗酵かつアルコールを含有するビールテイストアルコール飲料は、原料用アルコールなどを加えることにより最終製品のアルコール分を調整したものでもよい。原料用アルコールの添加は、糖化工程から充填工程までのどの工程で行ってもよい。
【0029】
本発明に係るビールテイストアルコール飲料のアルコール度数は、飲料中のアルコール分の含有量(v/v%)を意味し、公知のいずれの方法によっても測定することができるが、例えば、振動式密度計によって測定することができる。具体的には、飲料から濾過又は超音波によって炭酸ガスを抜いた試料を調製し、そして、その試料を直火蒸留し、得られた留液の15℃における密度を測定し、国税庁所定分析法(平19国税庁訓令第6号、平成19年6月22日改訂)の付表である「第2表アルコール分と密度(15℃)及び比重(15/15℃)換算表」を用いて換算して求めることができる。アルコール度が1.0%未満の低濃度の場合は、市販のアルコール測定装置や、ガスクロマトグラフィーを用いても良い。
【0030】
本発明に係るビールテイストアルコール飲料に、酒感を付与する観点から、脂肪族アルコールを添加してもよい。脂肪族アルコールとしては、公知のものであれば特に制限されないが、炭素数4~5の脂肪族アルコールが好ましい。本発明において、好ましい脂肪族アルコールとしては、炭素数4のものとして、2-メチル-1-プロパノール、1-ブタノール等が、炭素数5のものとして、3-メチル-1-ブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール等が挙げられる。これらは1種又は2種以上の組み合せで用いることができる。
炭素数4~5の脂肪族アルコールの含有量は好ましくは0.0002~0.0007重量%であり、より好ましくは0.0003~0.0006重量%である。本明細書において、脂肪族アルコールの含有量は、ヘッドスペースガスクロマトグラフ法を用いて測定することができる。
【0031】
本発明に係るビールテイストアルコール飲料に含まれる糖質とは、食品の栄養表示基準(平成15年厚生労働省告示第176号)に基づく糖質をいう。具体的には、糖質は、食品から、タンパク質、脂質、食物繊維、灰分、アルコール分及び水分を除いたものをいう。また、食品中の糖質の量は、当該食品の重量から、タンパク質、脂質、食物繊維、灰分及び水分の量を控除することにより算定される。この場合に、タンパク質、脂質、食物繊維、灰分及び水分の量は、栄養表示基準に掲げる方法により測定する。具体的には、タンパク質の量は窒素定量換算法で測定し、脂質の量はエーテル抽出法、クロロホルム・メタノール混液抽出法、ゲルベル法、酸分解法またはレーゼゴットリーブ法で測定し、食物繊維の量は高速液体クロマトグラフ法またはプロスキー法で測定し、灰分の量は酢酸マグネシウム添加灰化法、直接灰化法または硫酸添加灰化法で測定し、水分の量はカールフィッシャー法、乾燥助剤法、減圧過熱乾燥法、常圧加熱乾燥法またはプラスチックフィルム法で測定する。
【0032】
本発明に係るビールテイストアルコール飲料は、近年の低糖質嗜好に合わせて、低糖質であってもよい。従って、本発明に係るビールテイストアルコール飲料の糖質の含有量は、2.5g/100mL未満であってもよく、0.5g/100mL未満であってもよい。また、下限は特に設定されないが、通常、0.1g/100mL程度であり、例えば、0.15g/100mL以上であっても、0.2g/100mL以上であってもよい。
【0033】
本発明に係るビールテイストアルコール飲料においては、原料の一部にホップを用いることができる。
ホップを使用する際には、ビール等の製造に使用される通常のペレットホップ、粉末ホップ、ホップエキスを、所望の香味に応じて適宜選択して使用することができる。また、イソ化ホップ、還元ホップなどのホップ加工品を用いてもよい。本発明に係るビールテイストアルコール飲料に使用されるホップには、これらのものが包含される。また、ホップの添加量は特に限定されないが、典型的には、飲料全量に対して0.0001~1重量%程度である。
【0034】
本発明に係るビールテイストアルコール飲料は、本発明の効果を妨げない範囲で、必要に応じて、その他の原料を用いてもよい。例えば、甘味料(高甘味度甘味料を含む)、苦味料、香料、酵母エキス、カラメル色素などの着色料、大豆サポニンやキラヤサポニン等の植物抽出サポニン系物質、コーンや大豆などの植物タンパク質およびペプチド含有物、ウシ血清アルブミン等のタンパク質系物質、食物繊維やアミノ酸などの調味料、アスコルビン酸等の酸化防止剤を、本発明の効果を妨げない範囲で必要に応じて用いることができる。
【0035】
本発明に係るビールテイストアルコール飲料は、容器詰めとすることができる。容器の形態は何ら制限されず、ビン、缶、樽、またはペットボトル等の密封容器に充填して、容器入り飲料とすることができる。
【0036】
本発明のビールテイストアルコール飲料の製造方法は、特に限定されるものではないが、原料中の麦芽の比率が50重量%未満であるビールテイストアルコール飲料であって、プリン体の濃度が5mg/100mL未満である上記飲料に対して、プリン体濃度が5mg/100mLを超えないようにアデノシンを所定量添加する方法が例示される。
また、原料中の麦芽の比率が50重量%未満であるビールテイストアルコール飲料であって、プリン体の濃度が5mg/100mL未満である上記飲料に対して、40kDaタンパク質を添加することが好ましい。
添加するアデノシン及び40kDaタンパク質の調製は、例えば、後述する実施例に記載の手順で行うことができる。
また、アデノシン及び40kDaタンパク質については、ビールテイストアルコール飲料の製造過程における諸条件を調整することによって、これらの含有量が増えるようにしてもよい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0038】
(アデノシンの精製)
下記に従いアデノシンの精製を行った。
(1)ビールのHP20による分画
60Lのビールを、10Lのダイヤイオン(登録商標)HP20(三菱ケミカル株式会社製)を用いて分画した。HP20は使用前に、エタノールにより3回洗浄し、次いで50%エタノールにより3回洗浄した。洗浄したHP20を大量分画用カラムへ充填し、水により置換した。脱気させた60Lのビールへ同量の蒸留水を混合し、中圧ポンプを用いてHP20カラムへ流した。HP20カラムを素通りした溶液を素通り画分として得た。中圧ポンプを用いて40Lの蒸留水を流し、溶出液を水溶出画分として得た。同様に、含水エタノール(10%エタノール、30%エタノール、および70%エタノール)を40Lずつ流し、溶出液をそれぞれ10%エタノール溶出画分、30%エタノール溶出画分、および70%エタノール溶出画分として得た。それぞれの溶出画分は、エバポレーターおよび凍結乾燥機を用いて、乾燥体として冷蔵保存した。
【0039】
(2)10%エタノール溶出画分のLH-20分画
HP20分画物のうち、10%エタノール溶出画分について、Sephadex(登録商標)LH-20を用いて分画した(カラム用量:500mL)。エタノールにより洗浄したLH-20を大量分画用カラムへ充填し、水により置換した。HP20分画により得られた10%エタノール溶出画分(2.57g)を蒸留水に溶解させ、LH-20カラムへアプライした。1Lの蒸留水を流し、水溶出画分-1~5を得た。次いで、含水エタノール(35%エタノール、70%エタノール、および100%エタノール)を1Lずつ流し、溶出液をそれぞれ35%エタノール溶出画分、70%エタノール溶出画分、および100%エタノール溶出画分として得た。それぞれの溶出画分は、エバポレーターおよび凍結乾燥機を用いて、乾燥体として冷蔵保存した。
【0040】
(3)アデノシンの分離
LH-20分画により得られた水溶出画分-3(82.4mg)について、HPLC(COSMOSIL 5C18-PAQ,20×250mm)を用いて、10%エタノールにより溶出させた。次いで、5minから12minの溶出液を濃縮し、HPLC(COSMOSIL 5C18-PAQ,20×250mm)を用いて、エタノール-水(5:95→15:85)の濃度勾配の混液により溶出させ、化合物(I)(tR=18.5min)を得た。
化合物(I)は、MS、NMRの物理学的データの解析および標品との比較によりアデノシンであると同定した。
使用した分析機器は以下の通りである。
LC-MS;Q Exactive,Thermo Fisher Scientific社製
NMR;AVANCE400,Bruker社製
【0041】
(40kDaタンパク質の精製)
市販のビール(1L)から下記に従い40kDaタンパク質の精製を行った。
【0042】
(1)陽イオン交換樹脂による分画
陽イオン交換樹脂SP Sepharose50mLを空きカラムに入れた。ビールを樹脂に吸着させた。その後、樹脂をカラムに移し替え、20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)で洗浄した。次いで、20mM酢酸ナトリウム(pH4.5)+0.5M-NaClで溶出し画分を集めた。得られた画分をSDS-PAGEで評価し、40kDaのタンパク質が含まれる画分を集め陽イオン交換樹脂結合画分とした。
【0043】
(2)限外濾過(バッファー交換)
水洗浄した限外ろ過ユニット(Merck社製 Amicon Ultra-15 30K)に(1)で得た陽イオン交換樹脂結合画分を10mLずつ添加し、3500rpmで遠心し限外ろ過し濃縮液を得た。
【0044】
(3)硫安分画
20mMリン酸バッファー(pH7.0)+2M硫酸アンモニウムをビーカーに入れ、(2)で得た濃縮液を滴下、撹拌した。次に懸濁液を遠心(2330g、10分間、室温)した。上清を別容器に集めた。集めた溶液は限外ろ過ユニットを用いて濃縮した。濃縮液を20mM酢酸ナトリウム(pH4.5)に加え遠心(2330g、10分間、室温)し、濃縮を行い、40kDaタンパク質精製品(Bradford定量(ウシ血清アルブミン(BSA)換算)、20.4mg/mL、2.21mL)を得た。得られた40kDaタンパク質の純度はSDS-PAGEで確認した。
【0045】
40kDaタンパク質を酵素で消化後、LC-MS/MSで分析することにより、タンパク質の同定を試みた。
SDS-PAGEで分離した40kDa付近のバンドを切り出し、ジチオスレイトールによる還元(56℃、1時間)、ヨードアセトアミドによるカルバミドメチル化(遮光下、室温、45分間)を行った。次いで0.01%ProteaseMax含有10ng/μLキモトリプシン溶液(5mM塩化カルシウム、50mM炭酸水素アンモニウム溶液)15μL、5mM塩化カルシウム、50mM炭酸水素アンモニウム溶液15μLを添加し一晩インキュベートした後、酵素消化液を回収した。回収した溶液を減圧乾固し、0.1%ギ酸溶液に再溶解した。
これをLC-MS/MS分析に使用した。
【0046】
(LC-MS/MSによる測定)
LC-MS/MSの測定は下記の条件で行った。
使用装置:ダイレクトフローnanoLCシステムEasy-nLC 1000TM (Thermo Scientific)
トラップカラム:Acclaim PepMap(登録商標)(Thermo Scientific)
分析カラム:NANO HPLC CAPILLARY COLUMN(日京テクノス(株))
液体クロマトグラフ質量分析計 Q Exactive Plus(Thermo Scientific)
移動相:A液:0.1%ギ酸/水、B液:0.1%ギ酸/アセトニトリル
流速:300nL/min
グラジエント:0-40%B/0-30min、40-60%B/30-35min、60-90%B/35-37min、90%B/37-45min
注入量:10μL
イオン化モード:ESI Positive
測定範囲:MS1(m/z 350-1750)
Data Dependent Scanモード
【0047】
(4)タンパク質の解析
タンパク質同定は下記の条件で行った。
検索ソフト:Proteome Discoverer 2.2.0.388(ThermoFisher社製)
生物種:大麦(Hordeum vulgare)、ホップ(Humulus)、酵母(Saccharomyces cerevisiae)
検索条件:消化酵素:Chymotrypsin
プリカーサーイオン質量誤差範囲:Monoisotopic、±10ppm
プロダクトイオン質量誤差範囲:±0.02Da
最大ミスクリベージ数:5
コンフィデンスレベル(Percolator):High(確からしさ3段階のうち最も確率が高いレベル)
データベース:SwissProt
【0048】
その結果、40kDaタンパク質は大麦由来Serpin Z4(配列カバー率:77.2%)及び大麦由来Serpin Z7(配列カバー率:72.8%)であることがわかった。
【0049】
(市販のビールテイストアルコール飲料にアデノシンを添加した場合の官能評価)
市販のビールテイストアルコール飲料に、アデノシンを添加し、ふくらみの官能評価を行った。
当該ビールテイストアルコール飲料は、原料に麦芽を含み、原料中の麦芽の比率が50重量%未満であり、プリン体の濃度が5mg/100mL未満のビールテイストアルコール飲料である。
原材料は発泡酒、麦芽、ホップ、糖類、食物繊維、スピリッツ(小麦)であり、栄養成分として100mlあたりアルコール分4%、タンパク質0~0.2g、糖質0.5~0.8g、プリン体約2.0mgを含む。
【0050】
ふくらみの官能評価の基準点は以下の通りである。
専門パネル5名により0.05点刻みで下記の基準によりスコア化、そのスコア値を平均化した。
ふくらみ強度は以下の基準である。
0点:全く感じられない
1点:やや感じられる
2点:明確に感じる
3点:非常に感じる
基準点として、評価対象とする上記市販のビールテイストアルコール飲料と同じ上記市販のビールテイストアルコール飲料を基準のビールテイストアルコール飲料(I)としてそのふくらみを0.7点とした。また、他の市販のビールテイストアルコール飲料を基準のビールテイストアルコール飲料(II)としてそのふくらみを基準点の1.5点とした。
当該基準のビールテイストアルコール飲料(II)は原料中の麦芽の比率が50重量%以上であるビールテイストアルコール飲料である。
原材料は麦芽、ホップであり、栄養成分として100mlあたりアルコール分5.5%、タンパク質0.4~0.6g、糖質3.6g、プリン体約12.5mgを含む。
【0051】
また、ビールらしい苦味の官能評価の基準点は以下の通りである。
専門パネル4名により0.05点刻みで下記の基準によりスコア化、そのスコア値を平均化した。
ビールらしい苦味強度は以下の基準である。
0点:全く感じられない
1点:やや感じられる
2点:明確に感じる
3点:非常に感じる
基準点として、評価対象とする上記市販のビールテイストアルコール飲料と同じ上記市販のビールテイストアルコール飲料を基準のビールテイストアルコール飲料(I)としてそのビールらしい苦味を1.0点とした。また、上述の他の市販のビールテイストアルコール飲料を基準のビールテイストアルコール飲料(II)としてそのビールらしい苦味を基準点の2.0点とした。
【0052】
官能評価の手順は以下の通りである。
(1)ビールテイストアルコール飲料を最終容量の1/10容量(v/v)バイアル瓶に分注する
(2)アデノシンを任意の重量で秤量して加える
(3)30秒ソニケーションする
(4)30分室温で静置する
(5)ビールテイストアルコール飲料を最終容量にフィルアップする
(6)分注して飲み込み評価する
【0053】
(市販のビールテイストアルコール飲料の分析)
官能評価に使用した市販のビールテイストアルコール飲料に含まれるアデノシンの濃度を以下の手順によりLC-MSで定量した。
(1)標品の調製及び検量線の作製
アデノシンについて、それぞれ下記の濃度となるように希釈し、0.22μmのフィルターに通してから測定に供した。
最終濃度:0.001ppm,0.025ppm,0.050ppm,0.100ppm,0.200ppm,0.300ppm,0.500ppm,0.750ppm,1.000ppm
(1ppm=1μg/mLである)
希釈液には、5%(v/v)のエタノール水溶液を用いた。
なお、標品の分析結果において、検量線の直線性が保たれる範囲(R2>0.99)に測定値が入るような希釈倍率の測定値を採用した。
【0054】
LC-MSの測定条件は以下の通りである。
LC-MS:エービー・サイエックス社製X500R
分離カラム:Waters社製 HSST3 1.8μm,2.1x150mm
溶離液:
A液:0.1%ギ酸/水、B液:0.1%ギ酸/アセトニトリル
グラジエント:A液:B液=98:2→2:98(27min)
注入量:5μL
流速:0.2mL/min
カラムオーブン:40℃
(MS)
イオン化モード:ESI Positive
測定範囲:MS1(m/z 100-1000)
Data Independent Scanモード
イオン源温度:350℃
【0055】
(2)市販のビールテイストアルコール飲料からの測定用試料の調製
市販のビールテイストアルコール飲料をソニケーションにより脱気し、気泡が落ち着いてから適宜希釈し、0.22μmのフィルターに通してから測定に供した。
希釈液には、5%(v/v)のエタノール水溶液を用いた。
市販のビールテイストアルコール飲料に含まれる各アデノシンの濃度をコントロールとした。
【0056】
(実施例1:本発明の第一形態におけるアデノシンおよび/または40kDaタンパク質添加によるふくらみの評価)
市販のビールテイストアルコール飲料(コントロール)に含まれるアデノシンの濃度は4.25ppmであった。これに対してアデノシン濃度が5ppm、8ppmにそれぞれなるようにアデノシンを加えて官能評価を行った(試料1及び試料2)。
また、市販のビールテイストアルコール飲料(コントロール)に含まれる40kDaタンパク質の濃度は0ppmであった。これに対してアデノシン濃度が5ppm、40kDaタンパク質濃度が5ppm、9ppmにそれぞれなるようにアデノシン及び40kDaタンパク質を加えて官能評価を行った(試料3及び試料4)。
また、市販のビールテイストアルコール飲料(コントロール)に含まれる40kDaタンパク質濃度が5ppm、9ppm、25ppmになるように40kDaタンパク質を加えて官能評価を行った(対比試料1、対比試料2及び対比試料3)。
40kDaタンパク質には、上記で精製したものを使用した。
官能評価の結果を表1に示した。
また、各試料のプリン体濃度を下記表1に示す。本明細書における「プリン体濃度」は、上述の通りアデニン、グアニン、キサンチン、ヒポキサンチンのプリン体塩基4種の総量であり、例えば、過塩素酸による加水分解後にLC-MS/MS(液体クロマトグラフィー質量分析法)を用いて検出することができる。
【0057】
【0058】
表1に示す結果から、原料中の麦芽の比率が50重量%未満であり、プリン体の濃度が5mg/100mL未満であるビールテイストアルコール飲料につき、アデノシン濃度が5ppm以上(試料1(5ppm)、試料2(8ppm))であるとふくらみが増強されることが分かる。
また、市販のビールテイストアルコール飲料に、アデノシン及び40kDaタンパク質を加えることにより、ふくらみをより増強できることが分かる(試料3及び試料4)。
対比試料1、対比試料2及び対比試料3の結果から、40kDaタンパク質を添加するだけでもふくらみを増強することができることがわかる。しかしながら、上記試料1における官能評価のコントロールからの増加値(0.03)と対比試料1における官能評価のコントロールからの増加値(0.05)の和で求められる、アデノシン(5ppm)と40kDaタンパク質(5ppm)を併用したときの相加効果(0.08)よりも、試料3における官能評価のコントロールからの増加値(0.13)が大きいことから、アデノシンと40kDaタンパク質を併用することにより、予想できない相乗効果が発揮されているといえる。
また、上記試料1における官能評価のコントロールからの増加値(0.03)と対比試料2における官能評価のコントロールからの増加値(0.08)の和で求められる、アデノシン(5ppm)と40kDaタンパク質(9ppm)を併用したときの相加効果(0.11)よりも、試料4における官能評価のコントロールからの増加値(0.17)が大きいことからも、アデノシンと40kDaタンパク質を併用することにより、予想できない相乗効果が発揮されているといえる。
【0059】
(実施例2:本発明の第二形態におけるアデノシン添加によるふくらみの評価)
市販のビールテイストアルコール飲料(コントロール)に含まれるアデノシンの濃度は4.25ppmであった。これに対してアデノシン濃度が8ppm、12ppm、18ppm、23ppmにそれぞれなるようにアデノシンを加えてふくらみの官能評価を行った(対比試料4、試料5、試料6及び対比試料5)。
官能評価の結果を表2に示した。
また、各試料のプリン体濃度を下記表2に示す。本明細書における「プリン体濃度」は、上述の通りアデニン、グアニン、キサンチン、ヒポキサンチンのプリン体塩基4種の総量であり、例えば、過塩素酸による加水分解後にLC-MS/MS(液体クロマトグラフィー質量分析法)を用いて検出することができる。
【0060】
【0061】
表2に示す結果から、原料中の麦芽の比率が50重量%未満であるビールテイストアルコール飲料であって、プリン体の濃度が5mg/100mL未満である上記飲料につき、アデノシン濃度が12ppm以上(試料5、試料6、対比試料5)であると、コントロールのふくらみの評価に対し0.1点以上増加し、効果的にふくらみが増強されることが分かる。
一方で、上記表2の試料6及び対比試料5を比較すると、アデノシン濃度が18ppmを超えても濃度増加分に応じてふくらみが効果的に増加していないことが確認される。
よって、原料中の麦芽の比率が50重量%未満であるビールテイストアルコール飲料であって、プリン体の濃度が5mg/100mL未満である上記飲料につき、アデノシン濃度が12~18ppmの範囲において、効果的にふくらみが増強されることが分る。
【0062】
(実施例3:本発明の第二形態におけるアデノシン及び40kDaタンパク質の添加によるふくらみの評価)
上記市販のビールテイストアルコール飲料に含まれるアデノシンの濃度は4.25ppmであり、40kDaタンパク質の濃度は0ppmであった。
これに対してアデノシン濃度が8ppm、12ppm、18ppmにそれぞれなるようにアデノシンを加え、40kDaタンパク質濃度が5ppmになるように40kDaタンパク質を加えてふくらみの官能評価を行った(対比試料8、試料7及び試料8)。
40kDaタンパク質には、上記で精製したものを使用した。
なお、対比のため、上記市販のビールテイストアルコール飲料に対して40kDaタンパク質濃度が5ppm、25ppmになるように40kDaタンパク質だけを添加してふくらみの官能評価を行った(対比試料6及び対比試料7)。
官能評価の結果を表3に示した。また、各試料のプリン体濃度を下記表3に示す。
【0063】
【0064】
上記表3の結果から、市販のビールテイストアルコール飲料に、アデノシン及び40kDaタンパク質(5ppm)を加えることにより、ふくらみをより増強できることが分かる(対比試料8、試料7及び試料8)。
また、40kDaタンパク質を添加するだけでもふくらみを増強することができることがわかる(対比試料6及び対比試料7)。しかしながら、上記試料5における官能評価のコントロールからの増加値(0.11)と対比試料6における官能評価のコントロールからの増加値(0.06)の和で求められる、アデノシン(12ppm)と40kDaタンパク質(5ppm)を併用したときの相加効果(0.17)よりも、試料7における官能評価のコントロールからの増加値(0.23)が大きいことから、アデノシンと40kDaタンパク質を併用することにより、予想できない相乗効果が発揮されているといえる。
上記相乗効果は、上記試料6における官能評価のコントロールからの増加値(0.14)と対比試料6における官能評価のコントロールからの増加値(0.06)の和で求められる、アデノシン(18ppm)と40kDaタンパク質(5ppm)を併用したときの相加効果(0.2)よりも、試料8における官能評価のコントロールからの増加値(0.25)が大きいことからも確認できる。
【0065】
(実施例4:本発明の第二形態におけるアデノシン及び/又は40kDaタンパク添加によるビールらしい苦味の評価)
市販のビールテイストアルコール飲料(コントロール)に含まれるアデノシンの濃度は4.25ppmであり、40kDaタンパクの濃度は0ppmであった。
これに対してアデノシン濃度が8ppm、12ppm、18ppm、23ppmにそれぞれなるようにアデノシンを加えてビールらしい苦みの官能評価を行った(対比試料4、試料5、試料6及び対比試料5)。
また、市販のビールテイストアルコール飲料に対してアデノシン濃度が12ppm、18ppm、40kDaタンパク質濃度が5ppmにそれぞれなるように上記飲料に対してアデノシン及び40kDaタンパクを加えてビールらしい苦味の官能評価を行った(試料7、試料8)。
40kDaタンパク質には、上記で精製したものを使用した。
また、対比のため、市販のビールテイストアルコール飲料に含まれる40kDaタンパクだけを添加してのビールらしい苦みの官能評価を行った(対比試料6)。
官能評価の結果を表4に示した。また、各試料のプリン体濃度を下記表4に示す。
【0066】
【0067】
表4に示す結果から、原料中の麦芽の比率が50重量%未満であるビールテイストアルコール飲料であって、プリン体の濃度が5mg/100mL未満である上記飲料につき、アデノシン濃度が増加すると、ビールらしい苦味が増加することが分る。そして、アデノシン濃度が12ppm以上(試料5、試料6、対比試料5)であると、コントロールのビールらしい苦味の評価に対し0.1点以上増加し、効果的にビールらしい苦味が増強されることが分かる。
また、市販のビールテイストアルコール飲料に、アデノシン及び40kDaタンパク質(5ppm)を加えることにより、ビールらしい苦味をより増強できることが分かる(試料7及び試料8)。
また、40kDaタンパク質を添加するだけでもビールらしい苦味を増強することができることがわかる(対比試料6)。しかしながら、上記試料5における官能評価のコントロールからの増加値(0.19)と対比試料6における官能評価のコントロールからの増加値(0.04)の和で求められる、アデノシン(12ppm)と40kDaタンパク質(5ppm)を併用したときの相加効果(0.23)よりも、試料7における官能評価のコントロールからの増加値(0.4)が大きいことから、アデノシンと40kDaタンパク質を併用することにより、予想できない相乗効果が発揮されているといえる。
上記相乗効果は、上記試料6における官能評価のコントロールからの増加値(0.34)と対比試料6における官能評価のコントロールからの増加値(0.04)の和で求められる、アデノシン(18ppm)と40kDaタンパク質(5ppm)を併用したときの相加効果(0.38)よりも、試料8における官能評価のコントロールからの増加値(0.58)が大きいことからも確認できる。
なお、原料中の麦芽の比率が50重量%未満であるビールテイストアルコール飲料であって、プリン体の濃度が5mg/100mL未満である上記飲料につき、アデノシン濃度が18ppmを超えると、後味の苦み又は収斂味を感じるパネラーがいたことから、上記ビールテイストアルコール飲料につき、後味の苦味又は収斂味を増加させることなく、ふくらみ及びビールらしい苦味を増強するには、アデノシンの濃度が12~18ppmが好ましいと考えられる。
【0068】
以上の結果から、原料中の麦芽の比率が50重量%未満であり、プリン体の濃度が5mg/100mL未満であるビールテイストアルコール飲料におけるアデノシン濃度を12~18ppmとすることにより、効果的にふくらみ及びビールらしい苦味を増強できることを確認した。さらに、アデノシンと40kDaタンパク質を併用することにより、ふくらみ及びビールらしい苦味の増強において予想できない相乗効果が発揮されているといえる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によれば、原料中の麦芽の比率が50重量%未満であるビールテイストアルコール飲料において、ふくらみが増強された飲料を提供することができる。また、本発明によれば、原料中の麦芽の比率が50重量%未満であり、プリン体の濃度が5mg/100mL未満であるビールテイストアルコール飲料において、ふくらみ及びビールらしい苦味が増強された飲料を提供することができる。