(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】板状焼成治具
(51)【国際特許分類】
F27D 3/12 20060101AFI20240828BHJP
【FI】
F27D3/12 S
(21)【出願番号】P 2022536571
(86)(22)【出願日】2021-10-27
(86)【国際出願番号】 JP2021039578
(87)【国際公開番号】W WO2022158072
(87)【国際公開日】2022-07-28
【審査請求日】2023-05-09
(31)【優先権主張番号】P 2021008369
(32)【優先日】2021-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094536
【氏名又は名称】高橋 隆二
(74)【代理人】
【識別番号】100129805
【氏名又は名称】上野 晋
(74)【代理人】
【識別番号】100189315
【氏名又は名称】杉原 誉胤
(72)【発明者】
【氏名】上野 高文
(72)【発明者】
【氏名】坂本 秀徳
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】実開平03-097199(JP,U)
【文献】特開2000-111269(JP,A)
【文献】特開平07-243770(JP,A)
【文献】登録実用新案第3187105(JP,U)
【文献】特開平06-116002(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状母材と、
前記板状母材の外周部から外側に向かって突出する突出部と、
前記板状母材と前記突出部とを接続する接続部と、
を有
し、
前記板状母材の表面に連なる前記接続部の表面、及び前記接続部の前記表面に連なる前記突出部の表面は、前記板状母材の前記表面に対する角度が互いに異なることを特徴とする板状焼成治具。
【請求項2】
前記突出部が、前記板状母材の外周部の全辺長の50%以上100%以下の範囲で設けられていることを特徴とする請求項1に記載の板状焼成治具。
【請求項3】
前記突出部の厚み寸法は、前記板状母材の厚み寸法に対して、10%以上95%以下であることを特徴とする請求項1、又は2に記載の板状焼成治具。
【請求項4】
前記接続部の幅寸法は、前記突出部の幅寸法に対して、10%以上200%以下であることを特徴とする請求項1~3の何れか一つに記載の板状焼成治具。
【請求項5】
前記接続部は、前記板状母材から前記突出部に向かって傾斜する傾斜面を有しており、前記傾斜面と前記板状母材の表面、又は裏面とのなす角度が、20度以上85度以下であることを特徴とする請求項1~4の何れか一つに記載の板状焼成治具。
【請求項6】
前記突出部は、前記板状母材の表面、及び裏面か
ら薄肉化していることを特徴とする請求項1~5の何れか一つに記載の板状焼成治具。
【請求項7】
前記板状母材は、中空部を有し、
前記中空部の内周部から内側に向かって突出する中空突出部が形成されることを特徴とする請求項1~6の何れか一つに記載の板状焼成治具。
【請求項8】
前記板状母材は、スリット部を有し、
前記スリット部を形成する前記板状母材のスリット内周部から相互に向かって突出するスリット突出部が形成されることを特徴とする請求項1~7の何れか一つに記載の板状焼成治具。
【請求項9】
前記スリット部のスリット幅寸法は、前記スリット突出部の幅寸法に対して、5%以上
1,000%以下であることを特徴とする請求項8に記載の板状焼成治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス製品などの焼成の際、それらを載置する、板状焼成治具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セラミックス製品などを製造する過程には、焼成炉内で被焼成物を焼成する焼成工程が含まれる。当該焼成工程では、被焼成物が焼成炉内の焼成治具に載置されて焼成される。
【0003】
当該焼成治具として、被焼成物が載置される棚板(特許文献1を参照)と、被焼成物が載置された棚板を支持するセッター(特許文献2を参照)や、煉瓦部材とが提案されている。また、被焼成物が載置された焼成治具は、一段、又は複数段積層された状態で、焼成炉内に設置される。そして、焼成された被焼成物は、焼成炉外へ取り出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-166191号公報
【文献】国際公開第2015/008503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、被焼成物の組み換え作業や、焼成炉内外への運搬作業の際、焼成治具の角部や、端面がチッピングにより、焼成治具が破損した場合、焼成治具の交換作業が生じることになり、期待される製造スピードを維持することが困難となっていた。また、焼成治具の交換による製造コストの上昇を招く要因の一つとなっていた。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みて、焼成治具の破損を回避することにより、焼成工程の期待される製造スピードを維持し、また製造コストを抑制できる板状焼成治具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明の板状焼成治具は、板状母材と、前記板状母材の外周部から外側に向かって突出する突出部と、前記板状母材と前記突出部とを接続する接続部とを有することを特徴とする。
この構成により、焼成治具の組み換え作業や、窯炉内への運搬作業の際、角部や、端面がチッピングの発生による、焼成治具の破損を回避し、製造スピードの向上、及び製造コストの抑制を達成することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の板状焼成治具は、焼成治具の組み換え作業や、窯炉内への運搬作業の際に、焼成治具の角部や、端面でチッピングの発生による、焼成治具の破損を回避し、製造スピードの向上、及び製造コストの抑制を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】(a)は本発明に係る第1実施形態の板状焼成治具の平面図であり、(b)は(a)の正面図である。
【
図3】
図1のA-A線断面図であり、接続部の傾斜面角度の説明図である。
【
図4】(a)は本発明に係る第1実施形態の板状焼成治具の変形例を示す正面図であり、(b)は発明に係る第1実施形態の板状焼成治具の別の変形例を示す正面図である。
【
図5】本発明に係る第2実施形態の板状焼成治具の平面図である。
【
図7】
図5のB-B線断面図であり、中空接続部の傾斜面角度の説明図である。
【
図8】(a)は本発明に係る第3実施形態の板状焼成治具の平面図であり、(b)は(a)の正面図である。
【
図10】本発明に係る第4実施形態の板状焼成治具の平面図である。
【
図11】本発明に係る第1実施形態の板状焼成治具に被焼成物を載置した状態を示す正面図である。
【
図12】本発明に係る第1実施形態の板状焼成治具が積層された状態を示す正面図である。
【
図13】本発明に係る板状焼成治具が積層された状態を示す別の実施例の正面図である。
【
図14】本発明に係る板状焼成治具の実施例1~20及び比較例1、2の各試験結果を示す表である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に係る第1~4実施形態の板状焼成治具を、添付図面に基づいて説明する。
【0011】
先ず、本発明に係る第1実施形態の板状焼成治具を、添付図面に基づいて、以下説明する。
図1(a)は本発明に係る第1実施形態の板状焼成治具の平面図であり、(b)は(a)の正面図である。また、
図2は本発明に係る第1実施形態の板状焼成治具のA-A線拡大図である。
【0012】
図1、2に示す通り、第1実施形態の板状焼成治具10は、板状母材11と、板状母材11の外周部12から外側に向かって突出する突出部13と、板状母材11と突出部13とを接続する接続部14とを有する。
【0013】
板状母材11は、
図1(a)に示すように、平面視において略矩形状に形成されている。また、
図1(b)に示すように、板状母材11は、板状である。なお、板状母材11は、略矩形状に限定されるものではなく、例えば正方形や三角形などの多角形、または円形や楕円形などその他の形状であってもよい。
【0014】
突出部13は、板状母材11の外周部12から外側に向かって突出する用に形成されている。ここで、突出部13は、板状母材11の外周部12の全辺長の50%以上100%以下の範囲で設けられている。このように、突出部13が外周部12の全辺長の50%以上100%以下であれば、例えば板状焼成治具10が電気炉内に搬送される際、接触しやすい電気炉の側壁面側に設けることができ、板状母材11の破損を回避することができる(
図14を参照)。さらに、突出部13は、板状母材11の外周部12の全辺長の60%以上であると好ましく、さらに75%以上であるとより好ましい。
【0015】
図2に示すように、突出部13の厚み寸法t1は、板状母材11の厚み寸法Tに対して、10%以上95%以下である。突出部13の厚み寸法t1が、板状母材11の厚み寸法Tに対して、10%以上であれば、突出部13と板状母材11との厚み寸法に差があっても配合ムラが生じることはない(
図14を参照)。また、突出部13の厚み寸法t1が、板状母材11の厚み寸法Tに対して、95%未満であれば、組み換え作業や、運搬作業の際に生じるチッピングから、板状母材11の破損を回避することができる。さらに、突出部13の厚み寸法t1は、板状母材11の厚み寸法Tに対して、25%以上95%以下であると好ましく、50%以上95%以下であるとより好ましく、60%以上90%以下であるとさらに好ましい。
【0016】
また、突出部13は、板状母材11の表面15、及び裏面16から所定寸法薄肉化している。具体的には、突出部13は、板状母材11の表面15、及び裏面16から所定寸法d1、d2だけ薄肉化している。
【0017】
接続部14は、板状母材11と突出部13とを接続する。また、接続部14の幅寸法W1は、突出部の幅寸法w1に対して、10%以上200%以下である。接続部14の幅寸法W1は、突出部の幅寸法w1に対して、10%以上200%以下であれば、組み換え作業や、運搬作業の際に生じるチッピングから、板状母材11の破損を回避することができる(
図14を参照)。
【0018】
図3に示すように、接続部14は、板状母材11から突出部13に向かって傾斜する傾斜面を有しており、当該傾斜面と板状母材11の表面15、又は裏面16とのなす角度θ1、θ2が、20度以上85度以下である。当該傾斜面と板状母材11の表面15、又は裏面16とのなす角度θ1、θ2が20度以上85度以下であれば、組み換え作業や、運搬作業の際に生じるチッピングから、板状母材11の破損を回避することができる(
図14を参照)。
【0019】
ここで、接続部14の傾斜面は、直線状だけでなく、曲線状であってもよく、例えば
図4(a)、(b)に示すような変形例が挙げられる。さらに、接続部14の傾斜面の形状は、これらに限定されるものではなく、プレス加工可能な形状であればよい。
【0020】
また、
図1に示すように、板状焼成治具10の角部17は、角Rが形成されている。板状焼成治具10の角部に角Rが形成されていることにより、角部17におけるチッピング耐性が向上する。
【0021】
上述した構成を有する板状焼成治具10は、粉状、または粘土状の耐火物を図示しない金型に流し込んで加圧する、いわゆるプレス成型によって形成される。耐火物は、例えばアルミナ、ムライト、ジルコニア、コージュライト、スピネル、炭化ケイ素、窒素ケイ素、及びそれらの混合物等であり、例えば1,500℃以上の高温に耐えることが可能な素材であればよい。
【0022】
次に、本発明に係る第2実施形態の板状焼成治具10Aを、添付図面に基づいて、以下説明する。
図5は、本発明に係る第2実施形態の板状焼成治具10Aの平面図である。なお、第1実施形態の板状焼成治具10と同一の構成要素には同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0023】
第2実施形態の板状焼成治具10Aは、板状母材11Aと、板状母材11Aの外周部12から外側に向かって突出する突出部13と、板状母材11Aと突出部13とを接続する接続部14とを有するとともに、板状母材11Aに、中空部40を有し、中空部40の内周部41から内側に向かって突出する中空突出部42が形成されている。
【0024】
中空突出部42は、中空部40の内周部41から内側に向かって突出するように形成されている。ここで、中空突出部42は、内周部41の全辺長の50%以上100%以下の範囲で設けられている。中空突出部42が内周部41の全辺長の50%以上100%以下の範囲で設けられていることにより、組み換え作業や、運搬作業の際に生じるチッピングから、板状母材11の破損を回避することができる(
図14を参照)。また、中空突出部42は、内周部41の全辺長の60%以上であると好ましく、さらに75%以上であるとより好ましい。
【0025】
また、
図6に示すように、中空突出部42の厚み寸法t2は、板状母材11の厚み寸法Tに対して、10%以上95%以下であると好ましい。中空突出部42の厚み寸法t2が板状母材11の厚み寸法Tに対して、10%以上95%以下であれば、組み換え作業や、運搬作業の際に生じるチッピングから、板状母材11の破損を回避することができる(
図14を参照)。
【0026】
さらに、内周部41と中空突出部42とを接続する中空接続部43が形成されている。中空接続部43の幅寸法W2は、中空突出部43の幅寸法w2に対して、10%以上200%以下であると好ましい。中空接続部43の幅寸法W2は、中空突出部43の幅寸法w2に対して、10%以上200%以下であれば、組み換え作業や、運搬作業の際に生じるチッピングから、板状母材11の破損を回避することができる(
図14を参照)。
【0027】
また、
図7に示すように、中空接続部43は、内周部41から中空突出部42に向かって傾斜する傾斜面を有しており、当該傾斜面と板状母材11の表面15、又は裏面16とのなす角度θ3、θ4が、20度以上85度以下である。当該傾斜面と板状母材11の表面15、又は裏面16とのなす角度θ3、θ4が20度以上85度以下であれば、組み換え作業や、運搬作業の際に生じるチッピングから、板状母材11の破損を回避することができる(
図14を参照)。ここで、中空接続部43の傾斜面は、直線状だけでなく、曲線状であってもよい。
【0028】
第2実施形態の板状焼成治具10Aは、中空部40が設けられていることにより、板状焼成治具10Aを軽量化することができる。また、中空部40が設けられていることにより、焼成炉内の熱風が被焼成物Xの下面側に到達しやすくなることから、被焼成物Xの焼成がより一層効率よく実施することができる。
【0029】
なお、
図5に示す中空部40は貫通した形状であるが、貫通ではなく、中空部分に相当する箇所が薄肉した形状としてもよいし、貫通した部分と薄肉化した部分との両方を含む形状であってもよい。
【0030】
また、本発明に係る第3実施形態の板状焼成治具10Bを、添付図面に基づいて、以下説明する。
図8(a)は本発明に係る第3実施形態の板状焼成治具10Bの平面図であり、(b)は(a)の正面図である。なお、第1実施形態の板状焼成治具10と同一の構成要素には同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0031】
第3実施形態の板状焼成治具10Bは、板状母材11Bと、板状母材11Bの外周部12から外側に向かって突出する突出部13と、板状母材11Bと突出部13とを接続する接続部14とを有するとともに、板状母材11Bは、スリット部50を有し、スリット部50を形成する板状母材11Bのスリット内周部51から相互に向かって突出するスリッ
ト突出部52が形成される。
【0032】
スリット突出部52は、スリット部50を形成する板状母材11Bのスリット内周部5
1から相互に向かって突出しており、スリット突出部52同士が対向するように形成されている。また、スリット内周部51とスリット突出部52とを接続するスリット接続部53が形成されている。
【0033】
図9に示すように、スリット部50のスリット幅寸法Wsは、スリット突出部52の幅寸法wsに対して、5%以上1,000%以下である。スリット部50のスリット幅寸法Wsは、スリット突出部52の幅寸法wsに対して、5%以上1,000%以下であれば、組み換え作業や、運搬作業の際に生じるチッピングから、板状母材11の破損を回避することができる(
図14を参照)。
【0034】
第3実施形態の板状焼成治具10Bは、スリット部50にスリット突出部52が形成されていることにより、焼成炉内での焼成工程時に生じる熱膨張を要因とする、チッピングを防止し、板状母材11Bのひび割れ等の破損を抑制することができる。
【0035】
さらに、本発明に係る第4実施形態の板状焼成治具10Cを、添付図面に基づいて、以下説明する。
図10は、本発明に係る第4実施形態の板状焼成治具の平面図である。なお、第1実施形態の板状焼成治具10、第2実施形態の板状焼成治具10A、及び第3実施形態の板状焼成治具10Bと同一の構成要素には同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0036】
第4実施形態の板状焼成治具10Cは、板状母材11Cと、板状母材11Cの外周部12から外側に向かって突出する突出部13と、板状母材11Cと突出部13とを接続する接続部14とを有するとともに、板状母材11Cに、中空部40を有し、中空部40の内周部41から内側に向かって突出する中空突出部42が形成され、またスリット部50を有し、板状母材11Cのスリット内周部51から相互に向かって突出するスリット突出部
52が形成される。
【0037】
第4実施形態の板状焼成治具10Cは、中空部40が設けられていることにより、板状焼成治具10Aを軽量化することができる。また、後述するように、焼成炉内の熱風が被焼成物Xの下面側に到達しやすくなることから、被焼成物Xの焼成がより一層効率よく実施することができる。さらに、第4実施形態の板状焼成治具10Cは、スリット部50にスリット突出部52が形成されていることにより、焼成炉内での焼成工程時に生じる熱膨張を要因とする、スリット部50内のチッピングによる板状母材11Bの破損を抑制することができる。
【0038】
上述した第1~第4実施形態の板状焼成治具10、10A、10B、及び10Cは、以下のように被焼成物Xが載置されて、焼成工程が実施される。なお、第1実施形態の板状焼成治具10について説明するが、第2~第4実施形態の板状焼成治具10A、10B、及び10Cも同様であるため、説明は省略する。
【0039】
図11に示すように、第1実施形態の板状焼成治具10の板状母材11の表面15にセッター20が載置され、そのセッター20の上面21に被焼成物Xが載置された状態で、焼成炉内の炉床100上に配置されて、被焼成物Xが焼成される。ここで、セッター20は、平面視において略矩形状に形成されるとともに、板状母材11の厚さ寸法Tよりも薄い薄板状である。
【0040】
また、セッター20は、通気性が高い耐火物から形成される。セッター20が高い通気性を有することにより、焼成炉内の熱風が、セッター20を通過して被焼成物Xの下面側に到達しやすくなり、被焼成物Xの焼成を効率よく実施することができる。通気性が高い耐火物としては、多くの気孔が形成された多孔質板状がある。
【0041】
ここで、第2、4の実施形態の板状焼成治具10A、Cのように、中空部41が形成されている場合、焼成炉内の熱風が、セッター20を通過して被焼成物Xの下面側により到達しやすくなることから、被焼成物Xの焼成がより一層効率よく実施することができる。
【0042】
また、
図12に示すように、板状焼成治具10を焼成炉内の炉床100上に配置し、被焼成物Xが載置された、複数のセッター20の間に、ブロック状の支持部材30を配置させて、複数段積層させた状態とすることができる。このように複数段積層させた状態とすることにより、一段の場合より、多くの被焼成物Xを一度に焼成させることができる。さらに、
図13に示すように、セッター20の代わりに、板状焼成治具10を複数段積層することも可能である。
【0043】
上述した本実施形態の板状焼成治具10に関し、実施例1~20に係る板状焼成治具、及び比較例1、2に係る板状焼成治具について、熱衝撃試験、摺動試験、及びプレス金型破損試験を行った。実施例1~20、及び比較例1、2の構成、及び各試験結果は、
図14に示した通りである。
【0044】
実施例1~20、比較例1、2に係る板状焼成治具は、粗粒ムライト(平均粒径:約200μm)、微粒ムライト(平均粒径D
50:3μm)の原料粉末と有機バインダー(メ
チルセルロース等)を、Al
2O
3:80質量%、SiO
2:20質量%となるように、高速ミキサーを用いて撹拌混合し、撹拌混合物を生成した。このようにして得られた撹拌混合物を、一軸加圧プレス成形することにより、
図14に示すような形状からなる成形体を得た(
図10を参照)。そして、これらの成形体を、大気雰囲気下で焼成し(到達温度:1700℃)、焼結体を得ることによって、実施例1~20、及び比較例1、2に係る板状焼成治具を作製した。なお、
図14中の実施例9の「中空部薄肉化」が「あり」とは、中空部が貫通孔ではなく、板状母材11の裏面16から観察した場合、薄肉状の凹型状部を有していることを示す。また、比較例1は、板状母材11の外周部に突出部13、接続部14が形成されていない形状である。さらに、比較例2は、板状母材11の外周部に接続部14が形成されておらず、板状母材11に直接突出部13が形成された形状である。
【0045】
〈熱衝撃試験〉
熱衝撃試験は、板状焼成治具が加熱及び急冷を繰り返した際に生じる亀裂の伸びやすさを評価する試験であって、次のように試験を行った。具体的には、(1)試験体である板状焼成治具(200mm×200mm×
図14に示す各母材厚さ)の上下面の面中央にダミーブロック(100mm×100mm×50mm)が配置された状態で、電気炉内に載置し、1,100℃まで加熱したまま、1時間保持する。(2)ダミーブロックが配置された状態のまま電気炉外へ取り出した後、常温まで空冷する際、試験体の突出部13における端部に生じる亀裂を確認する。ここで、ダミーブロックは、セラミックス製であり、試験体を電気炉内外へ移動させる際、試験体が電気炉の出入口や壁面に接触して破損することを防止する。また、当該亀裂の観察は目視にて、亀裂長の測定は、ひび割れ測定用スケールやゲージにより行った。上記(1)から(2)までの工程を1回とし、試験体の突出部13における端部に生じた最大亀裂長が、当該端部から30mmに達するまでに上記(1)及び(2)の工程を繰り返した回数(表1中の「回数」)によって、点数付けし、6点~10点に該当するものは当該端部に生じた亀裂が非常に伸びにくいとしてA(良)と評価し、3点~5点に該当するものは当該端部に生じた亀裂が伸びにくいとしてB(可)と評価し、1点~2点に該当するものは当該端部に生じた亀裂が伸びやすいとしてC(不可)と評価した。
【0046】
【0047】
〈摺動試験〉
摺動試験は、板状焼成治具を任意の方向に移動させた場合の欠けやすさを評価する試験であって、次のように試験を行った。具体的には、(a)試験体である板状焼成治具(200mm×200mm×
図14に示す各母材厚さ)が、例えば板状焼成治具10の裏面16が底面となるように載置された状態で、板状焼成治具10の表面15上に所定重量の重しを配置し、試験体の総重量が10kg重となるように調節した。そして、当該試験体を摺動試験機にセットし、水平方向に、摺動速度100mm/secで、当該試験体と同素材の煉瓦上を前後方向に所定の摺動距離(500mm×40回=20m)を摺動させた。次に、(b)当該試験体を、当該試験体と同素材の煉瓦上で、例えば板状焼成治具10の外周部12に設けられた突出部13が底面となるように90度立ち上げ、その後板状焼成治具10の裏面16が底面となる状態に戻す動作、いわゆる立ち上げ・立ち下げ動作を10往復繰り返し、試験体の突出部13における端部に生じた亀裂及び欠けを確認し、当該端部に生じた亀裂及び欠けの最大値が10mm以上であるかを確認した。ここで、立ち上げ・立ち下げ動作は、10往復終了するまで連続して行った。さらに、立ち上げ・立ち下げ動作10往復を1セットとし、1セット毎に10分間以上の休止時間を設けた。この立ち上げ・立ち下げ動作の最中、突出部13、及び裏面16に対して、落下による衝撃を与えないように行った。さらに、当該亀裂及び欠けの測定は、ひび割れ測定用スケールやゲージを用いて目視により行った。試験体の突出部13における端部に生じた亀裂及び欠けの内、当該端部に生じた亀裂及び欠けの最大値が10mm以上に達するまでに上記(a)及び(b)の工程を繰り返したセット数(表2を参照)によって、点数付けし、6点~10点に該当するものは当該端部に亀裂及び欠けが非常に生じにくいとしてA(良)と評価し、3点~5点に該当するものは当該端部に亀裂及び欠けが生じにくいとしてB(可)と評価し、1点~2点に該当するものは当該端部に亀裂及び欠けが生じやすいとしてC(不可)と評価した。
【0048】
【0049】
〈プレス金型破損試験〉
プレス金型破損試験は、板状焼成治具に対して、プレス加工を繰り返したプレス金型に生じた破損状況を評価する試験であって、次のように試験を行った。具体的には、試験体である板状焼成治具(200mm×200mm×
図14に示す各母材厚さ)に対して、プレス金型を試験体の上下から当接させ、5秒間かけて成形圧100MPaに達するまで加圧し、その成形圧100MPaにて5秒間保持した後、3秒間かけて減圧する工程を所定回数(例えば、100回)繰り返した。その後、プレス金型を試験体から離間させた後、プレス金型の破損状況を確認した。ここで、プレス金型の例えば端部に、最大長10mm以上の亀裂及び欠けを確認した場合、プレス金型の破損であると判定した。当該亀裂及び欠けの測定は、ひび割れ測定用スケールやゲージを用いて目視により行った。また、上記工程を100回繰り返すまで連続して行った。さらに、上述工程100回を1セットとし、1セット毎に10分間以上の休止時間を設けた。そして、プレス金型に破損が生じるまで繰り返したセット数(表3を参照)によって、点数付けし、6点~10点に該当するものはプレス金型が非常に破損しにくいとしてA(良)と評価し、3点~5点に該当するものはプレス金型が破損しにくいとしてB(可)と評価し、1点~2点に該当するものはプレス金型が破損しやすいとしてC(不可)と評価した。
【0050】
【0051】
本明細書開示の発明は、各発明や実施形態の構成の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な構成を本明細書開示の他の構成に変更して特定したもの、或いはこれらの構成に本明細書開示の他の構成を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な構成を部分的な作用効果が得られる限度で削除して特定した上位概念化したものを含む。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の第1~第4実施形態の板状焼成治具10、10A、10B、及び10Cの板状母材11、11A、11B、及び11Cは平板状であるが、板状母材11、11A、11B、及び11Cの裏面16から、鉛直方向に突出する支持部(図示しない)を設け、また板状母材11、11A、11B、及び11Cの表面15に、鉛直方向に当該支持部を受けることが可能な位置に凹部状の受け部(図示しない)を設けてもよい。支持部(図示しない)と、受け部(図示しない)とを設けることにより、
図13のように、ブロック状の支持部材30を複数の板状焼成治具10の間に配置させることなく、複数段積層させることができる。
【符号の説明】
【0053】
10、10A、10B、10C…板状焼成治具
11、11A、11B、11C…板状母材
12…外周部
13…突出部
14…接続部
15…表面
16…裏面
17…角部
20…セッター
30…支持部材
40…中空部
41…内周部
42…中空突出部
43…中空接続部
50…スリット部
51…スリット内周部
52…スリット突出部
53…スリット接続部
100…炉床
X…被焼成物