(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】ペプチドを含む組成物、その製造方法、並びにペプチドの使用
(51)【国際特許分類】
A23L 33/18 20160101AFI20240828BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20240828BHJP
A61K 35/57 20150101ALI20240828BHJP
A61K 38/05 20060101ALI20240828BHJP
A61K 38/08 20190101ALI20240828BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240828BHJP
C07K 7/06 20060101ALI20240828BHJP
C12P 21/06 20060101ALN20240828BHJP
【FI】
A23L33/18
A23L33/10
A61K35/57
A61K38/05
A61K38/08
A61P29/00
C07K7/06
C12P21/06 ZNA
(21)【出願番号】P 2022538449
(86)(22)【出願日】2020-06-26
(86)【国際出願番号】 JP2020025206
(87)【国際公開番号】W WO2021131104
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-02-22
(31)【優先権主張番号】10201913612R
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】中尾 嘉宏
(72)【発明者】
【氏名】シャンメイ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】シャージャン リン
(72)【発明者】
【氏名】シム エリック キアン-シウン
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101007020(CN,A)
【文献】欧州特許出願公開第03053458(EP,A1)
【文献】特開2003-048850(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0293427(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0309401(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0091578(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A61K
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チキンエキス、並びに、
Gly-Pro-Ala-Gly-Pro(配列番号1)で表されるアミノ酸配列からなるペプチド及び/又はその塩を含む
トリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物、を含む組成物。
【請求項2】
前記チキンエキスが、トリ肉を原料として用い、液体中で加熱することにより得られる抽出物である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物がカルノシン及び/又はアンセリン及び/又はそれらの塩の1又は複数を含む請求項1
又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記カルノシン、アンセリン、及びそれらの塩のカルノシン及びアンセリン換算の合計重量と、前記ペプチド及びその塩のペプチド換算の重量との重量比(カルノシン及びアンセリンの合計/ペプチド)が、5000/1~50/1である請求項
3に記載の組成物。
【請求項5】
飲食品又は医薬品である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
炎症を抑制するために使用される、請求項1~
5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物が、単球走化性タンパク質-1(MCP-1)、マクロファージ炎症タンパク質-1(MIP-1)、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-8(IL-8)、インターロイキン-9(IL-9)、及びRANTES(regulated on activation, normal T cell expressed and secreted)からなる群から選ばれる少なくとも1種のサイトカインの産生を抑制する、請求項1~
6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
炎症性の状態又は疾患の予防又は改善のために使用される請求項1~
7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
Gly-Pro-Ala-Gly-Pro(配列番号1)で表されるアミノ酸配列からなるペプチド及び/又はその塩を
含むトリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物、並びに、チキンエキスを有効成分として含む抗炎症用組成物。
【請求項10】
前記組成物が、単球走化性タンパク質-1(MCP-1)、マクロファージ炎症タンパク質-1(MIP-1)、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-7(IL-7)、インターロイキン-9(IL-9)、及びインターロイキン-12(IL-12)からなる群から選ばれる少なくとも1種のサイトカインの産生を抑制する請求項
9に記載の組成物。
【請求項11】
チキンエキスと、Gly-Pro-Ala-Gly-Pro(配列番号1)で表されるアミノ酸配列からなるペプチド及び/又はその塩
を含むトリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物とを混合する工程を含む、組成物の製造方法。
【請求項12】
前記チキンエキスが、カルノシン及び/又はアンセリン及び/又はそれらの塩の1つ又は複数を含む請求項
11に記載の製造方法。
【請求項13】
抗炎症用組成物を製造するための、Gly-Pro-Ala-Gly-Pro(配列番号1)で表されるアミノ酸配列からなるペプチド及び/又はその塩
を含むトリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物、並びに、チキンエキス、の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物抽出物及び/又は植物抽出物とペプチドと含む組成物、並びに、該組成物を製造する方法に関する。本発明は、また、抗炎症用組成物を製造するためのペプチドの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
コラーゲンは、ゼラチンとして、食品分野で従来から広く用いられている。動物性蛋白質であるコラーゲンは、真皮や結合組織などの主成分であることから、近年、医療分野や美容分野の面からも注目を集めている。一般に、高分子量のコラーゲンを経口で摂取しても、摂取したコラーゲンを体内で効率的に利用することが難しいとされるが、近年は、体内での摂取に適するよう、高分子のコラーゲンを加水分解して低分子量化したコラーゲンペプチドが開発され、コラーゲンペプチド入りの食品及び/又は飲料も開発されている。
【0003】
炎症は、細胞損傷によりヒスタミン及びキニンなどが放出され、血管拡張、毛細管透過性増大、及び炎症部位へのマクロファージの集結が起こり、それによって、感染部位の血流量増加、浮腫、兔疫細胞及び抗体の移動、痛症、発熱などが起こる現象である。
【0004】
近年、効果的な炎症緩和のために、炎症関連タンパク質の発現を抑制することができる成分に係わる研究が進められている。非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)とステロイド性抗炎症薬(SAID)とを始めとした、多様なメカニズムの炎症抑制用薬物が開発されているが、それらは副作用の懸念がある。そのため、より安全であり、抗炎症作用を有する成分に対する要求が依然として存在する。
【0005】
例えば、特許文献1では、抗炎症活性を有するテロメラーゼ由来のペプチドを活性成分として含む抗炎症組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、動物抽出物及び/又は植物抽出物とペプチドとを含む新規な組成物を提供することを目的とする。また本発明は、抗炎症作用を有する組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、抗炎症作用を有するペプチドを見出すべく検討した。その結果、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドが抗炎症作用を有することを見出した。
また、該ペプチドを、動物抽出物及び/又は植物抽出物と組み合わせて用いたところ、相乗効果による抗炎症活性の増加が見られ、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
〔1〕動物抽出物及び/又は植物抽出物、並びに、Gly-Pro-Ala-Gly-Pro(配列番号1)で表されるアミノ酸配列からなるペプチド及び/又はその塩を含む組成物。
〔2〕上記ペプチド及び/又はその塩が、トリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物由来のペプチド及び/又はその塩である上記〔1〕に記載の組成物。
〔3〕トリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物を含む上記〔1〕又は〔2〕に記載の組成物。
〔4〕上記動物抽出物がチキンエキスである上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の組成物。
〔5〕上記組成物がカルノシン及び/又はアンセリン及び/又はそれらの塩の1又は複数を含む上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の組成物。
〔6〕上記カルノシン、アンセリン、及びそれらの塩のカルノシン及びアンセリン換算の合計重量と、上記ペプチド及びその塩のペプチド換算の重量との重量比(カルノシン及びアンセリンの合計/ペプチド)が、5000/1~50/1である上記〔5〕に記載の組成物。
〔7〕飲食品又は医薬品である、上記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の組成物。
〔8〕炎症を抑制するために使用される、上記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の組成物。
〔9〕上記組成物が、単球走化性タンパク質-1(MCP-1)、マクロファージ炎症タンパク質-1(MIP-1)、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-8(IL-8)、インターロイキン-9(IL-9)、及びRANTES(regulated on activation, normal T cell expressed and secreted)からなる群から選ばれる少なくとも1種のサイトカインの産生を抑制する、上記〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の組成物。
〔10〕炎症性の状態又は疾患の予防又は改善のために使用される上記〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の組成物。
〔11〕Gly-Pro-Ala-Gly-Pro(配列番号1)で表されるアミノ酸配列からなるペプチド及び/又はその塩を有効成分として含む抗炎症用組成物。
〔12〕上記組成物が、単球走化性タンパク質-1(MCP-1)、マクロファージ炎症タンパク質-1(MIP-1)、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-7(IL-7)、インターロイキン-9(IL-9)、及びインターロイキン-12(IL-12)からなる群から選ばれる少なくとも1種のサイトカインの産生を抑制する上記〔11〕に記載の組成物。
〔13〕動物抽出物及び/又は植物抽出物と、Gly-Pro-Ala-Gly-Pro(配列番号1)で表されるアミノ酸配列からなるペプチド及び/又はその塩とを混合する工程を含む、組成物の製造方法。
〔14〕上記工程が、上記動物抽出物及び/又は植物抽出物と、上記ペプチド及び/又はその塩を含むトリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物とを混合する工程である、上記〔13〕に記載の製造方法。
〔15〕上記動物抽出物がチキンエキスである、上記〔13〕又は〔14〕に記載の製造方法。
〔16〕上記チキンエキスが、カルノシン及び/又はアンセリン及び/又はそれらの塩の1つ又は複数を含む上記〔15〕に記載の製造方法。
〔17〕抗炎症用組成物を製造するための、Gly-Pro-Ala-Gly-Pro(配列番号1)で表されるアミノ酸配列からなるペプチド及び/又はその塩の使用。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、動物抽出物及び/又は植物抽出物並びにペプチドを含む新規な組成物を提供することができる。本発明の組成物は、炎症及び関節痛を抑制するのための飲食品組成物又は医薬品組成物として使用することができる。動物抽出物及び/又は植物抽出物並びに配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドは、飲食品等として摂取可能であり、安全性が高いという利点も有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、トリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物の調製方法を簡略に説明したフロー図である。
【
図2】
図2は、炎症を誘発した細胞に添加されたトリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物(HCII)とチキンエキス(CE)による炎症マーカーMIP-1βの産生抑制効果を示すグラフである。
【
図3】
図3は、トリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物(HCII)を分画した7つの画分のうち、画分P3、画分P4、及び画分P3~P7の組み合わせによる炎症マーカーMIP-1βの産生抑制効果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、炎症マーカーMIP-1βの産生抑制に対するトリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物(HCII)とチキンエキス(CE)の組み合わせの相乗効果を示すグラフである。
【
図5】
図5は、炎症マーカーMCP-1の産生抑制に対するトリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物(HCII)の画分P3及びP4で検出されたペプチドGPAGPの効果を示すグラフである。
【
図6】
図6は、炎症を誘発した細胞に添加されたトリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物(HCII)による炎症マーカーの産生抑制効果を示すグラフである。
【
図7】
図7は、炎症マーカーMCP-1の産生抑制に対するトリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物(HCII)とチキンエキス(CE)の効果、HCIIとCEの組み合わせの効果、及びペプチドGPAGPとCEの組み合わせの相乗効果を示すグラフである。
【
図8-1】
図8-1(a)、(b)、(c)は、炎症マーカーIL-6(
図8-1(a))、IL-8(
図8-1(b))、及び、IL-9(
図8-1(c))の産生抑制に対するHCIIとCEの組み合わせ、ペプチドGPAGPとCEの組み合わせの効果を示すグラフである。
【
図8-2】
図8-2(d)、(e)、(f)は、炎症マーカーMCP-1(
図8-2(d))、MIP-1β(
図8-2(e))、及び、RANTES(
図8-2(f))の産生抑制に対するHCIIとCEの組み合わせ、ペプチドGPAGPとCEの組み合わせの効果を示すグラフである。
【
図9】
図9(a)は、プロトコル準拠集団(n=151)の各処理群において、7日目及び14日目のVAS疼痛スコアに対する、トリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物(HCII)の摂取(14日間)による効果を示すグラフである。
図9(b)は、レジスタンストレーニングの実施回数がレジスタンストレーニング全期間の10パーセンタイル未満の被験者(n=8)の各処理群において、7日目及び14日目のVAS疼痛スコアに対する、トリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物(HCII)の摂取(14日間)による効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一態様によれば、本発明の組成物は、動物抽出物及び/又は植物抽出物、並びに、Gly-Pro-Ala-Gly-Pro(配列番号1)で表されるアミノ酸配列からなるペプチド及び/又はその塩を含む。
【0013】
本発明の組成物は、動物抽出物及び/又は植物抽出物を含む。
動物抽出物としては、例えば、牛、豚、羊、ヤギ等の哺乳類、トリ(鶏)、ウズラ、アヒル、ガチョウ等の鳥類、貝類、昆虫類、魚類、軟体動物類、甲殻類等の抽出物が挙げられる。植物抽出物としては、例えば、茶、果汁の抽出物及びその濃縮物、野菜抽出物及びその濃縮物、大豆及びナッツ抽出物等が挙げられる。
上記動物抽出物及び植物抽出物のうち、動物抽出物が好ましく、鳥類の抽出物がより好ましく、家禽の抽出物が更に好ましく、チキンエキスが特に好ましい。本発明の組成物は、チキンエキスを含有すると、炎症抑制効果がより高くなる。
【0014】
<チキンエキス>
本発明で用いられるチキンエキス(以下ではCEと記載することがある)としては、トリ肉を原料として用い、液体中で加熱することにより得られる抽出物等を用いることができ、市販品を用いてもよい。原料に骨、軟骨、脚等が含まれていてもよいが、トリ頭部及び内蔵を含まないことが好ましい。
上記チキンエキス(CE)の市販品としては、例えば、「BEC Brand’s Essence of Chicken(サントリー食品アジア社製)」や、「ScotchTM Essence of Chicken(Scotch Industrial(タイ)製)」、「Quaker Essence of chicken(Standard Foods Corporation(台湾)製)」、「Chicken stock and broth of SWANSONTM(Campbell Soup Company(NYSE:CPB)製)」、「Drip Chicken Essence(Eu Yan Sang International(シンガポール)製)」、「Boned Chicken Tonic(Eu Yan Sang International(シンガポール)製)」、「Boiled Essence of Chicken(Hao Yi Kang Lao Xie Zhen(台湾)製)」等が挙げられる。いずれの市販品を用いてもよいが、なかでもBEC Brand’s Essence of Chickenを用いることが好ましい。
【0015】
本発明で用いられるチキンエキスを熱水抽出により製造する場合、本分野で用いられている通常の方法により製造することができる。例えば、100℃~125℃の液体を用いた常圧抽出及び/又は加圧抽出を行い、得られた抽出物を膜処理やろ過することにより、チキンエキスを製造することができる。具体的には、(1)トリ肉を液体中にて加熱する前処理工程、及び(2)上記前処理後に液体を交換し、再度加熱する工程により得られる抽出物が挙げられる。なお、工程(1)及び工程(2)における加熱処理は溶媒中で行うのが好ましい。溶媒としては、水、エタノール、又はこれらの混合物等を用いるのが好ましい。チキンエキスは、上記のような方法で得られる抽出液、その希釈液、濃縮物又は乾燥粉末、及び、これらの精製物を含む。精製物としては、例えばチキンエキスの抽出液を限外ろ過や膜処理、分液操作又は樹脂等による分画処理に供して精製度を上げたものが用いられる。チキンエキスの精製度を上げた後、凍結乾燥や噴霧乾燥等によって粉末化しても良い。
【0016】
本発明で用いられるチキンエキスは、カルノシン及び/又はアンセリン及び/又はそれらの塩の1つ又は複数を含むことが好ましい。カルノシンは、βアラニンとヒスチジンのジペプチドでβアラニル・ヒスチジンとなったものである。アンセリンは、ヒスチジン部分がメチル化されβアラニル・1メチルヒスチジンとなったものである。
カルノシンの塩及びアンセリンの塩としては、例えば、後述するGPAGPの塩と同じものが挙げられる。
【0017】
本発明の組成物がカルノシン及び/又はその塩を含む場合、カルノシン及び/又はその塩の含有量は、例えば、該組成物中にカルノシン換算で、0.00001重量%以上が好ましく、0.0001重量%以上がより好ましく、また、10重量%以下が好ましく、1重量%以下がより好ましい。一態様において、カルノシン及び/又はその塩の含有量は、例えば、該組成物中にカルノシン換算で、0.00001~10重量%が好ましく、0.0001~1重量%がより好ましい。
【0018】
本発明の組成物がアンセリン及び/又はその塩を含む場合、アンセリン及び/又はその塩の含有量は、例えば、該組成物中にアンセリン換算で、0.00001重量%以上が好ましく、0.0001重量%以上がより好ましく、また、10重量%以下が好ましく、1重量%以下がより好ましい。一態様において、アンセリン及び/又はその塩の含有量は、例えば、該組成物中にアンセリン換算で0.00001~10重量%であり、0.0001~1重量%がより好ましい。
【0019】
カルノシン、アンセリン、及びそれらの塩は、例えばHPLCで定量することができる。本発明の組成物は、カルノシン及びアンセリンを含むことがより好ましい。
【0020】
<ペプチド>
本発明の組成物は、Gly-Pro-Ala-Gly-Pro(配列番号1)で表されるアミノ酸配列からなるペプチド(以下では、「Gly-Pro-Ala-Gly-Pro(配列番号1)で表されるアミノ酸配列からなるペプチド」を「GPAGP」と記載することがある)を含む。
GPAGPは、動植物のタンパク質等を加水分解して得られるペプチドであってもよいし、人工的に合成したものでもよい。GPAGPは、好ましくは2型コラーゲン加水分解物由来のペプチドであり、より好ましくはトリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物由来のペプチドである。
GPAGPは、精製されたものを使用してもよく、GPAGPを含むトリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物の形態で組成物に含有させてもよい。好ましい態様においては、本発明の組成物は、トリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物を含む。本発明の組成物は、トリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物を含むと抗炎症作用がより高くなる。
【0021】
GPAGPは、必要に応じて無機酸又は有機酸との塩や無機塩基又は有機塩基との塩の形態として、本発明の組成物に含めることができる。酸や塩基としては、塩の用途に応じて選択できるが、飲食品、医薬品などへの用途を考慮すると、以下に挙げる飲食品又は薬学的に許容される塩が好ましい。上記無機酸塩としては、例えば、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、メタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩等を挙げることができる。有機酸塩としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、又はフマル酸等のジカルボン酸との塩、酢酸、プロピオン酸、又は酪酸等のモノカルボン酸との塩等を挙げる事ができる。無機塩基としては、例えば、ナトリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム等の水酸化物、炭酸塩及び重炭酸塩、アンモニア等である。有機塩基との塩としては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリエチルアミンの様なモノ-、ジ-又はトリ-アルキルアミン塩、モノ-、ジ-又はトリ-ヒドロキシアルキルアミン塩、グアニジン塩、N-メチルグルコサミン塩等を挙げる事ができる。
【0022】
組成物中の上記カルノシン、アンセリン及びそれらの塩のカルノシン及びアンセリン換算の合計重量と、GPAGP及びその塩のペプチド換算の重量との重量比(カルノシン及びアンセリンの合計/GPAGP)は、5000/1~1/15000であることが好ましい。より好ましくは、5000/1~50/1、更に好ましくは4000/1~75/1である。
【0023】
<トリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物>
トリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物(以下では、「トリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物」を「HCII」と記載することがある)は、2型コラーゲンを酵素などで加水分解することで得ることができる。2型コラーゲンは、トリ軟骨から公知の方法で抽出することができる。また、本発明で用いられるトリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物は、本分野で用いられる通常の技術を用いて軟骨から調製することができる。
例えば、トリ軟骨を酵素処理することにより2型コラーゲン加水分解物を得ることができる。具体的に、(3)トリ軟骨を液体中にて加熱する前処理工程、及び(4)前処理工程後のトリ軟骨を酵素処理する工程により、2型コラーゲン加水分解物を調製することができる。なお、上記工程(4)で用いられる酵素は、本分野で通常用いられる酵素であればよく、特に限定されないが、例えば、コラゲナーゼ、パパイン、ブロメライン、アクチニジン、フィシン、カテプシン、ペプシン、キモシン、トリプシン、プロテアーゼ、アミノペプチダーゼ、スブチリシン、エンドペプチダーゼ、エキソペプチダーゼ、及びこれらの酵素を混合した酵素製剤等を用いることができる。ただし、2型コラーゲン加水分解物の調製方法は酵素処理方法に限定されるものではない。
【0024】
トリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物には、トリ軟骨を加水分解して得られる溶液を使用してもよく、その濃縮物若しくは乾燥粉末又はこれらの精製物を使用してもよい。トリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物の精製物としては、例えばトリ軟骨を加水分解して得られる溶液を限外ろ過や膜処理、分液操作又は樹脂等による分画処理に供して精製度を上げたものが用いられる。トリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物は、通常GPAGPを含むペプチド混合物であり、2型コラーゲン由来のコラーゲンペプチドということもできる。
トリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物は、平均分子量が100~20000であることが好ましく、2000~8000であることがより好ましく、3000~7000であることが更に好ましい。分子量及び重量平均分子量は、ユーロフィンHPAEC-PAD法で測定することができる。
【0025】
一態様において、トリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物をゲル濾過法等の方法により分子量の大きさに応じて分画して得られたGPAGPを含む画分、又はGPAGPを含む画分とこれ以外の画分の1又は2以上を組み合わせて、本発明の組成物に使用することができる。
本態様の組成物に用いるトリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物を分画した画分としては、分子量が2500未満であって、重量平均分子量が900~1100の画分(画分3)、及び分子量が1800未満であって、重量平均分子量が650~850の画分(画分4)が好ましい。本態様の組成物は、画分3と画分4の組み合わせを含有することが好ましい。GPAGPは、通常、トリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物由来の画分3及び画分4に含まれる。
【0026】
上記トリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物(固形分換算)と、カルノシン、アンセリン、及びそれらの塩のカルノシン及びアンセリン換算の合計との重量比(トリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物/カルノシン及びアンセリンの合計)は、20/1~1/5であることが好ましい。さらに好ましくは、15/1~1/3である。
【0027】
本発明の組成物に含まれる各成分の含有量は特に限定されず、その形態等に応じて設定することができる。
一態様において、本発明の組成物中のチキンエキス(固形分換算)の含有量は、例えば、該組成物中に0.1重量%以上が好ましく、0.5重量%以上がより好ましく、また、99重量%以下が好ましく、90重量%以下がより好ましい。一態様において、チキンエキス(固形分換算)の含有量は、例えば、該組成物中に0.1~99重量%が好ましく、0.5~90重量%がより好ましい。
【0028】
一態様において、本発明の組成物中のGPAGP及び/又はその塩の含有量は、例えば、該組成物中に0.0001重量%以上が好ましく、0.001重量%以上がより好ましく、また、90重量%以下が好ましく、80重量%以下がより好ましい。一態様において、GPAGPの含有量は、例えば、該組成物中に0.0001~90重量%が好ましく、0.001~80重量%がより好ましい。
【0029】
一態様において、本発明の組成物中のトリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物(固形分換算)の含有量は、例えば、該組成物中に0.1量%以上が好ましく、0.5重量%以上がより好ましく、また、99重量%以下が好ましく、90重量%以下がより好ましい。一態様において、トリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物(固形分換算)の含有量は、例えば、該組成物中に0.1~99重量%が好ましく、0.5~90重量%がより好ましい。
本明細書において、トリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物の含有量には、GPAGPが含まれる。
【0030】
本発明の組成物は、飲食品又は医薬品として用いることが好ましい。飲食品としては、機能性食品、保健機能食品、特別用途食品、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメント等が挙げられる。飲食品の形態としては特に限定されず、固形状の食品であってもよいし、液状の飲料であってもよい。好ましくは飲料である。
医薬品の形態としては特に限定されず、カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤、ドライシロップ等の内用剤のほか、軟膏、貼り薬、点眼剤、坐剤等の外用剤や注射剤等が挙げられるが、これに限定されない。医薬品は、好ましくは内用剤(経口用医薬品)である。
【0031】
本発明の組成物には、医薬品又は飲食品への添加物として許容されている各種の担体、賦形剤、希釈剤、酸味料、酸化防止剤、安定剤、保存料、香料、乳化剤、色素類、調味料、pH調整剤、栄養強化剤等が添加されていてもよい。
【0032】
本発明の組成物は、治療的用途(医療用途)又は非治療的用途(非医療用途)のいずれにも適用することができる。非治療的とは、医療行為、すなわち人間の手術、治療又は診断を含まない概念である。
【0033】
<抗炎症用組成物>
本発明の組成物は、炎症を抑制するために用いることができる。本発明の組成物は、抗炎症用組成物であってよく、動物抽出物及び/又は植物抽出物、並びにGPAGP及び/又はその塩を有効成分として含む抗炎症用組成物も含包する。
【0034】
本発明において目的とする炎症抑制効果(抗炎症効果)を得るためには、組成物について上述したのと同様に、GPAGP及び/又はその塩を含むトリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物と、動物抽出物及び/又は植物抽出物(特に、チキンエキス)とを、組成物に配合する。GPAGP及び/又はその塩を含むトリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物及び動物抽出物及び/又は植物抽出物は、そのまま使用してもよく、また本発明の効果を損なわない限り、上述したようにその濃縮物、乾燥粉末又は精製度を高めたものを配合してもよい。添加物等は、上述したものと同様のものを用いることができる。
【0035】
本発明の組成物は、経口で摂取(経口投与)されることが好ましい。本発明の組成物の投与量(摂取量ということもできる)は、炎症の抑制効果が得られるような量であればよく、特に限定されない。本発明の組成物の投与量は、投与形態、投与方法、対象の体重等に応じて適宜設定すればよい。
【0036】
一態様において、本発明の組成物をヒト(成人)を対象に経口で摂取させる又は投与する場合、チキンエキス(固形分換算)の投与量は、1日当たり体重60kgあたり、好ましくは0.1mg以上、より好ましくは1mg以上、また、好ましくは15000mg以下、より好ましくは13000mg以下である。一態様において、チキンエキスの摂取量は、ヒト(成人)であれば、1日当たり体重60kgあたり、好ましくは0.1~15000mg、より好ましくは1~13000mgである。本明細書において、チキンエキスの摂取量には、カルノシン及びアンセリンが含まれる。
【0037】
一態様において、本発明の組成物をヒト(成人)を対象に経口で摂取させる又は投与する場合、カルノシン、アンセリン、及びそれらの塩の合計投与量はカルノシン及びアンセリン換算で、1日当たり体重60kgあたり、好ましくは0.001mg以上、より好ましくは0.01mg以上、また、好ましくは500mg以下、より好ましくは400mg以下である。一態様において、カルノシン、アンセリン、及びそれらの塩の合計投与量は、ヒト(成人)であれば、1日当たり体重60kgあたり、カルノシン及びアンセリン換算で、好ましくは0.001~500mg、より好ましくは0.01~400mgである。
【0038】
一態様において、本発明の組成物をヒト(成人)を対象に経口で摂取させる又は投与する場合、GPAGP及び/又はその塩の摂取量はGPAGP換算で、1日当たり体重60kgあたり、好ましくは0.001mg以上、より好ましくは0.01mg以上、また、好ましくは200mg以下、より好ましくは100mg以下である。一態様において、GPAGP及び/又はその塩の摂取量は、ヒト(成人)であれば、1日当たり体重60kgあたり、GPAPG換算で、好ましくは0.001~200mg、より好ましくは0.01~100mgである。
【0039】
一態様において、本発明の組成物をヒト(成人)を対象に経口で摂取させる又は投与する場合、トリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物(固形分換算)の摂取量は、1日当たり体重60kgあたり、好ましくは0.01mg以上、より好ましくは0.1mg以上、また、好ましくは4000mg以下、より好ましくは3000mg以下である。一態様において、トリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物の投与量は、ヒト(成人)であれば、1日当たり体重60kgあたり、好ましくは0.01~4000mg、より好ましくは0.1~3000mgである。
本明細書において、トリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物の投与量には、GPAGP及び/又はその塩が含まれる。
【0040】
本発明において、チキンエキス、GPAGP及び/又はその塩を含むトリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物の上記量を、1日1回以上、例えば、1日1回又は数回(例えば2~3回)に分けて、摂取させる又は投与することが好ましい。一態様においては、上記量のチキンエキスと、GPAGP及び/又はその塩を含む上記量のトリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物を、ヒトに経口で摂取させる又は投与することが好ましい。一態様において、本発明の組成物は、ヒトに、体重60kgあたり、1日あたり上記量のチキンエキス、GPAGPを含む上記量のトリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物を摂取させる又は投与するために使用することができる。
【0041】
本発明の組成物は、単球走化性タンパク質-1(MCP-1)、マクロファージ炎症タンパク質-1(MIP-1)、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-8(IL-8)、インターロイキン-9(IL-9)及びRANTES(regulated on activation, normal T cell expressed and secreted)等のサイトカイン産生を抑制する。本発明の組成物は、中でも、MCP-1、MIP-1β、IL-6、IL-8、IL-9、及びRANTESの産生を抑制する作用が高い。
上記のサイトカイン産生を抑制することで、生体の炎症を抑制することができる。
【0042】
本発明の組成物は、炎症性の状態又は疾患の予防又は改善のために使用することができる。炎症性の状態又は疾患とは、炎症に起因する状態又は疾患、又は炎症を伴う状態又は疾患が挙げられる。このような状態又は疾患としては、関節炎、関節リウマチ等の膠原病、炎症性大腸炎、変形性関節症、腱炎、坐骨神経痛、椎間板ヘルニア、狭窄症、脊髄症、腰痛、椎間関節痛、手根管症候群、足根管症候群、腰椎術後疼痛症候群、エイズ、動脈硬化、喘息、糖尿病、肝炎、脳卒中、認知症、筋消耗、ウイルス感染、光老化を含めた皮膚老化、がん、老化、アレルギー疾患、パーキンソン病、脳梗塞、白内障、てんかん、脊髄損傷、未熟児網膜症、腎障害、消化性潰瘍、膵炎、潰瘍性大腸炎、心筋梗塞、成人呼吸窮迫症候群、肺気腫、血管炎、浮腫、糖尿病合併症、紫外線障害、高山病、ポルフィリン血症、熱傷、凍傷、接触性皮膚炎、ショック、多臓器不全、DIC、疲労、サルコぺニア(筋力低下)、ミトコンドリア機能障害、アルツハイマー病、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、若年性特発性関節炎、及び全身性エリテマトーデス(lupus)等が挙げられる。本発明の組成物は、これらの疾患の予防又は改善のために、好ましく使用される。特に、該飲食品組成物は、変形性関節症、関節リウマチ、及び乾癬性関節炎等の予防又は改善のために、好ましく使用される。
本明細書において、状態又は疾患の予防は、発症を防止すること、発症を遅延させること、発症率を低下させること、発症のリスクを軽減すること等を包含する。状態又は疾患の改善は、対象を状態又は疾患から回復させること、状態又は疾患の症状を軽減すること、状態又は疾患の症状を好転させること、状態又は疾患の進行を遅延させること、防止すること等を包含する。
【0043】
本発明の組成物を摂取または投与する対象(投与対象ということもできる)は、特に限定されない。好ましくはヒト又は非ヒト哺乳動物であり、より好ましくはヒトである。
一態様において、投与対象として、炎症の抑制を必要とする又は希望する対象等が挙げられる。このような対象として、例えば、炎症の予防又は改善を必要とする又は希望する対象、上記の炎症性の状態又は疾患の炎症の予防又は改善を必要とする又は希望する対象が挙げられる。一態様において、本発明における投与対象として、中高年者が挙げられる。本発明の組成物は、例えば、炎症の抑制により予防又は改善が期待できる状態の予防等を目的として、健常者に対して使用することもできる。
【0044】
本発明の組成物には、炎症を抑制することにより発揮される機能の表示が付されていてもよい。このような表示は機能性表示ともいい、その表示内容は特に限定されない。このような表示として、例えば、「関節の痛みを緩和する」、「関節の痛みを軽減する」、「膝の調子を整える」、「膝を健康に保つ」、「関節の健康を改善する」、「関節の動きを改善する」等、又は、これらと同視できる表示又は機能性表示が挙げられる。
本発明の一態様において、本発明の組成物は、上記の表示が付された飲食品であることが好ましく、飲料であることがより好ましい。また上記の表示は、上記の機能を得るために本発明の組成物を用いる旨の表示であってもよい。当該表示は、組成物自体に付されてもよいし、組成物の容器又は包装に付されていてもよい。
【0045】
本発明はまた、動物抽出物及び/又は植物抽出物と、Gly-Pro-Ala-Gly-Pro(配列番号1)で表されるアミノ酸配列からなるペプチド(GPAGP)及び/又はその塩とを混合する工程を含む、組成物の製造方法に関する。
上記工程において、GPAGP及び/又はその塩は、それ単独で動物抽出物及び/又は植物抽出物と混合することができるが、GPAGP及び/又はその塩を含むトリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物と動物抽出物及び/又は植物抽出物(好ましくはチキンエキス)とを混合して組成物を製造することが好ましい。この場合、例えば、トリ軟骨の2型コラーゲンを酵素などで加水分解して得られた加水分解物をそのままチキンエキスとの混合に用いることができる。また、本発明の効果を損なわない限り、上述したようにその濃縮物、乾燥粉末又は精製度を高めたものを配合してもよい。
【0046】
本発明の製造方法では、原料の配合順は特に限定されない。例えば、GPAGP及び/又はその塩や、これを含むトリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物を先に容器等に投入して、次いでチキンエキスを加えてもよい。また、チキンエキスを先に容器等に投入しておき、その後GPAGP及び/又はその塩や、これを含むトリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物を加えてもよい。
【0047】
チキンエキスは、市販品や熱水抽出して製造したものをそのままGPAGP及び/又はその塩や、GPAGP及び/又はその塩を含むトリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物と混合することができるが、チキンエキスが濃縮物、乾燥粉末又はこれらの精製物の形態である場合、水、エタノール又はその混合物などの液体で希釈、溶解等してからGPAGP、トリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物等と混合してもよい。GPAGP及び/又はその塩を含むトリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物が濃縮物、乾燥粉末又はこれらの精製物の形態である場合も同様に、上記の液体で希釈、溶解等してから混合に用いることができる。予め希釈、溶解等せずに原料を混合し、その後、液体を添加して希釈、溶解等してもよい。
【0048】
本発明の製造方法において、チキンエキスがカルノシン及び/又はアンセリン及び/又はそれらの塩の1つ又は複数を含むことが好ましい。
本発明の製造方法において、チキンエキスの好ましい態様は、上記と同じである。またトリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物の好ましい態様は、上記と同じである。
本発明の製造方法で製造する組成物には、チキンエキス、GPAGP及び/又はその塩、並びにトリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物の他に、上述した添加物を配合することができる。
【0049】
本発明はまた、Gly-Pro-Ala-Gly-Pro(配列番号1)で表されるアミノ酸配列からなるペプチド及び/又はその塩を有効成分として含む抗炎症用組成物に関する。
上記抗炎症用組成物としては、上述した動物抽出物及び/又は植物抽出物並びにGPAGP及び/又はその塩を含む組成物と同様の組成物が挙げられるが、抗炎症用組成物において、動物抽出物及び/又は植物抽出物は必須成分ではない。抗炎症用組成物において、動物抽出物、植物抽出物、GPAGP及び/又はその塩を含むトリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物やその他の添加物は、上述したものと同じものを使用することができる。
【0050】
本発明の抗炎症用組成物は、単球走化性タンパク質-1(MCP-1)、マクロファージ炎症タンパク質-1(MIP-1)、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-7(IL-7)、インターロイキン-9(IL-9)、及びインターロイキン-12(IL-12)等のサイトカインの産生を抑制する。本発明の組成物は、中でも、MCP-1、MIP-1β、IL-6、IL-7、IL-9、及びIL-12の産生を抑制する作用が高い。
【0051】
本発明はまた、抗炎症用組成物を製造するための、Gly-Pro-Ala-Gly-Pro(配列番号1)及び/又はその塩で表されるアミノ酸配列からなるペプチド(GPAGP)及び/又はその塩の使用に関する。
上記抗炎症用組成物としては、上述した動物抽出物及び/又は植物抽出物並びにGPAGP及び/又はその塩を含む組成物と同様の組成物が挙げられるが、抗炎症用組成物において、動物抽出物及び/又は植物抽出物は必須成分ではない。抗炎症用組成物において、動物抽出物、植物抽出物、GPAGP及び/又はその塩を含むトリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物やその他の添加物は、上述したものと同じものを使用することができる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0053】
実施例及び比較例で使用した原料、試薬等を以下に示す。
<トリ軟骨の2型コラーゲン加水分解物の調製>
図1に、HCII調製方法を簡略に説明したフローを示す。先ず、凍結トリ軟骨を40℃の水で解凍し、40℃の水で洗浄を行った(1時間)。次に、洗浄水を廃棄し、新たな水をトリ軟骨の3倍量となるように1200Lポットに入れた。水を酵素処理に最適な温度まで昇温し、ここに洗浄後のトリ軟骨を浸漬させ、数時間酵素処理を行った。酵素処理を行った後に、トリ軟骨の入ったポットを90℃以上まで昇温し、30分間90℃以上で保持し、先の酵素処理で用いた酵素を不活化させた。得られた混合物(液体及び酵素処理後のトリ軟骨)をろ過した。得られた液体を濃縮した。最後に、得られた濃縮液を200℃で噴霧乾燥させ、HCII粉末を調製した。
【0054】
<HCII粉末の分子量の測定>
得られたHCIIの分子量分布をユーロフィンHPAEC-PAD法により測定した。得られたHCIIの分子量分布を下記表1に示す。本分野で用いられている通常の方法で算出されたHCIIの重量平均分子量は、4582であった。
【0055】
【0056】
<HCIIの画分の分画とペプチドの同定>
(HCII分画及び生物活性同定のための材料及び方法)
(材料)
ギ酸は東京化成工業株式会社から購入した。超純水はMerck Milli-Q浄水システムから入手した。合成ペプチドGPAGPは、GenScript社から入手した。
【0057】
(分取ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC))
HCIIの分画は、分取VERITY271HPLCシステム(Gilson社製)を使用して、実施した。HCIIを超純水に溶解して、10mg/mL(w/v)溶液を調製した。14000rpmで5分間遠心分離した後、ガードカラム(SecurityGuard PREP Cartridge C12 15×21.2mm ID(Phenomenex社製))に取り付けられた分取GPCカラム(BioSep 5μm SEC-s2000 145Å LCカラム300×21.2mm(Phenomenex社製))にアリコート(1000μL)を注入し、5mL/minの速度で30分間、溶離液A(超純水:ギ酸=100:0.1(v/v))でイソクラティック溶離した。クロマトグラムは214nmで観察した。
GXシリーズのフラクションコレクター(Gilson社製)を使用して、8分から28分の間、0.5分ごとに画分を収集し、結果として得られた40の個々の画分は、その後、P1からP7の7つの画分にプールされた(P1:8.5-12.0分、P2:12.0-13.5分、P3:13.5-14.5分、P4:14.5-16.0分、P5:16.0-17.5分、P6:17.5-19.0分、P7:19.0-27.5分)。プールした画分を凍結乾燥機(ScanVac社製)で蒸発乾固し、乾燥したサンプルをさらに使用するまで-20℃で保存した。
【0058】
上記で得られた各画分の分子量を表2に示す。表2において、「Mw」及び「Mp」は、それぞれ、重量平均分子量及びピーク分子量を示す。表2に示すように、画分3(P3)及び画分4(P4)は、それぞれ、平均分子量が1035(P3)及び784(P4)の分子で構成されている。
HCII画分の分子量は、下記の条件でHPLCゲル濾過法により測定した。
装置:Agilent1100シリーズ
検出:UV214nm
流速:1mL/分
移動相:pH6.8のアイソクラティック0.1mMリン酸ナトリウムバッファー
実行時間:20分
カラム:BiosepTM 5μm SEC-s2000 145Å LCカラム300×7.8mm
【0059】
【0060】
(GPAGPにつながるペプチドのin-silico検索)
画分P1~P7を、Duo Spray Turbo Vイオンソース及びガス発生器(Peak Scientific社)を用いて、Agilent社のHPLC1290シリーズと連結したTripleTOF5600(AB Sciex社)でLC-MS分析した。主要成分をUHPLC Guard Zorbax EclipsePlusC18 2.1×5mm 1.8μm(Agilent社製)で分離し、溶離液A(超純水:ギ酸=100:0.1(v/v))及び溶離液B(アセトニトリル:ギ酸=100:0.1(v/v))を用いて、下記のリニアグラジエントで溶出した:0-0.5分:溶離液A100%;0.5-7.5分:溶離液A100-65%;7.5-10.0分:溶離液A65-0%;11.0-13.0分:溶離液A0%;13.0-13.1分:溶離液A0-100%;13.1-15.0分:溶離液A100%。実験は、Independent Data Acquisition(IDA)法のポジションモードで行い、MSの衝突エネルギー(CE)及びクラスター解除ポテンシャル(DP)は、それぞれ10.0V及び80Vとして最適化した。PeakView(AB Sciex社製)で分析を行った。続いて、質量分析データを分析し、Uniprot KB fastaファイルに添付されたProtein Pilot(AB Sciex社製)を使用して、gallus gallusをキーワードとして検索した。更に、対象の候補リストでデータを処理し、Genscript社から購入したペプチドで確認した。
【0061】
(LC-MS分析によるペプチドマーカーの検出及び定量)
ペプチドGPAGPの検出及び定量は、LC-MSで行った。LC-MS分析は、Duo Spray Turbo Vイオンソース及びガス発生器(Peak Scientific社)を用いて、Agilent社のHPLC1290シリーズと連結したTripleTOF5600(AB Sciex社製)で行った。質量分析計では、エレクトロスプレーイオン化と多重反応モニタリング(MRM)を、単位質量分解能における陽イオンモードで使用した。パラメータは下記の通りである。衝突エネルギー拡散(CES):10;イオン放出遅延(IRD):67;イオン放出幅(IRW):25;イオン源ガス:40;カーテンガス(CUR):30;温度:500.0;イオンスプレー電圧フローティング(ISVF):5500)。クラスター解除ポテンシャル(DP)及び衝突エネルギー(CE)等のMS化合物依存パラメータ設定は、各ペプチドに合わせて最適化した。Analyst1.5.2(AB Sciex社製)を用いて、機器制御、データ取得、及びデータ処理を行った。
【0062】
GPAGPを超純水で再構成し、UHPLC Guard Zorbax Eclipse Plus C18 2.1×5mm,1.8μm(Agilent社)を含むZorbax Eclipse Plus C18 RRHD 1.8μm 2.1×50mmカラム(Agilent社)に注入し、下記のリニアグラジエントを用いて溶離液A(超純水:ギ酸=100:0.1(v/v))及び溶離液B(アセトニトリル:ギ酸=100:0.1(v/v))で溶出した:0-0.5分:溶離液A100%;0.5-10分:100-65%溶離液A;10-11分:溶離液A65-10%;11-12.5分:溶離液A10%;12.5-14.1分:溶離液A10-100%。流量300μL/min、3.1Th、定量イオン及び確認イオンとして保持時間3.1分で、注入量10μLを注入した。標準GPAGPを31.5ng/mL、62.5ng/mL、125ng/mL、250ng/mL、及び500ng/mLの分量で質量分析計に注入することにより、検量線を作成した。作業溶液として、HCIIの125μg/mL溶液を再構成した。MultiQuant(AB Sciex社製)により、HCII及びそのGPC分画中のGPAGPの定量を行った。
GPAGPは、HCIIの画分P3及びP4に含まれ、GPAGPの含有量は、HCII(1g)に対して914.5±121.4μg/gであった。
【0063】
<カルノシン及びアンセリンの定量>
チキンエキス中のカルノシン及びアンセリンの定量は下記の条件でHPLCにより行った。
カルノシンの標準原液は、カルノシン粉末を脱イオン水に添加して溶解し、カルノシン濃度2.50mg/mlで調製した。アンセリンの標準原液は、L-アンセリン硝酸塩粉末を脱イオン水に添加して溶解し、L-アンセリン濃度3.96mg/mlで調製した。
L-アンセリンの重量は、下記の式を用いて計算した。
L-アンセリン(g)=0.792×L-アンセリン硝酸塩(g)
<HPLC分析条件>
装置:紫外検出器付き高速液体クロマトグラフシステム(Agilent1100(Agilent社製))
カラム:Zorbax 300-SCX 4.6mmID×250mm(Agilent社製)
移動相:50mMリン酸二水素カリウム
流速:1.0mL/分
フローチャネル:チャネルA(50mMリン酸二水素カリウム)、チャネルB(アセトニトリル)、チャネルD(脱イオン水)
UV検出波長:210nm
サンプル注入量:10μL
【0064】
<抗炎症活性の評価方法>
実施例及び比較例では、下記の方法で炎症マーカーの産生抑制効果を評価した。
(原料及び試薬)
チキンエキス(CE):Brand’s Essence of Chicken(サントリー食品アジア社、1ml中のカルノシンの含有量:0.94mg/ml、1ml中のアンセリンの含有量:1.9mg/ml)
軟骨細胞培地(CM)、ウシ胎児血清(FBS)、軟骨細胞増殖サプリメント(CGS)及びペニシリン/ストレプトマイシン(P/S):ScienCell Research Laboratories製
IL-1β:R&D Systems社製
ポリ-L-リジン(PLL)被覆96ウェルプレート(Corning社製)
【0065】
<細胞培養及び前処理>
ヒト軟骨細胞(HC-a、ScienCell Research Laboratories社製)は、ヒト関節軟骨から分離され、5%FBS、1%CGS、1%P/Sを添加したCMで保存した。PLL被覆96ウェルプレートに細胞を細胞密度4000細胞/ウェルで播種し、5%CO2を含む加湿ガスチャンバー内で、37℃で一晩培養した。軟骨細胞をPBSで1回洗浄し、様々な濃度のHCII、CE、HCIIとCEの組み合わせ又はGPAGP単独で24時間前処理し、さらに25ng/mLのIL-1βを添加して24時間処理を行った。細胞を1100gで5分間遠心分離し、上清をサイトカイン分析に使用した。
【0066】
<多重サイトカイン分析>
Pro-Human Cytokine Multiplex Assays(ドイツ、ミュンヘン、Bio-Rad社製)を使用して、培地中のサイトカインを分析した。多重分析は以下の27個である:IL-1β、IL-2、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8(CXCL8)、IL-9、IL-10、IL-12、IL-13、IL-15、IL-17、エオタキシン(CCL11)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、インターフェロン(IFN)-γ、単球走化性タンパク質1(MCP-1;CCL2)、マクロファージ炎症性タンパク質-1α(MIP-1α;CCL3)、MIP-1β(CCL4)、RANTES(CCL5)、TNF-α及び血管内皮増殖因子(VEGF)。製造元の指示に従って多重分析を実行し、Luminex xPONENT for MAGPIXプラットフォームで実行した。データ処理にはBio-Plex Managerバージョン6.0を使用した。サイトカインとケモカインの濃度は、標準曲線を参照して計算された。マルチプレックスキットの感度は5pg/mL未満であった。
【0067】
<統計分析>
GraphPad Prismバージョン5.0(米国カリフォルニア州サンディエゴ)を使用して、統計分析を実施した。すべての結果は、平均±標準偏差として表される。統計分析は、分散分析(ANOVA)とそれに続く事後テューキーの多重比較検定によって実行された。P値がp<0.05の場合、データは有意であると見なされる。
【0068】
<比較例1、2及び実施例1>
ヒト軟骨細胞によって生成される炎症マーカーMIP-1βに対するHCIIとチキンエキス(CE)の効果を評価するために、4つの異なる条件を比較した:処理前の細胞(未処理コントロール)、IL-1β処理細胞(比較例1)、IL-1β+HCII処理細胞(実施例1)及びIL-1β+CE処理細胞(比較例2)。HCII処理細胞、CE処理細胞は、前処理にHCII又はCEを使用したものである。前処理において、HCIIの濃度は0.5mg/ml又は2.5mg/ml、CEの濃度は1.25mg/ml又は6.25mg/mlとした。
図2に示すように、IL-1β25ng/mLはヒト軟骨細胞に炎症を誘発し、未処理細胞(コントロール)と比較して、MIP-1βのレベルを大幅に増加させた。細胞をHCII及びCEで前処理すると、IL-1βによって誘導されるMIP-1βのレベルが低下した。MIP-1βの産生抑制に対するHCII及びCEの用量依存効果もあった。
図2中、データは平均値±SD(n=3)として表される。教示がない限り、*は、p<0.05、**はp<0.01、***はp<0.001のIL-1β(IL-1β処理細胞)に対する有意差を示す。
【0069】
<実施例2>炎症マーカーMIP-1βの産生抑制に対するP3、P4,及びP3~P7の組み合わせの効果
HCIIから分離された7つの画分のうち、P3~P7を使用した。実施例1と同様に、細胞を、IL-1β及びHCII、P3、P4、又はP3~P7の組み合わせ(HCII、P3、P4、及びP3~P7の組み合わせの濃度はそれぞれ5mg/mL)で前処理を行い、効果を比較した。
結果を
図3に示す。データは平均値±SD(n=3)として表される。教示がない限り、*は、p<0.05、**はp<0.01、***はp<0.001のIL-1β(IL-1β処理細胞)に対する有意差を示す。
【0070】
<実施例3>HCIIとCEの組み合わせの相乗効果
炎症マーカーMIP-1βの産生抑制に対するHCIIとCEの組み合わせの相乗効果を評価するために、HCII単独、CE単独、HCIIとCEの組み合わせの条件で前処理を行った。前処理の際のHCIIの濃度は0.5mg/ml、CEの濃度は1.25mg/mlとした。
図4に示すように、HCII0.5mg/mLとCE1.25mg/mLの組み合わせは、HCII又はCE単独での処理と比較して、炎症を軽減する相乗効果をもたらした。データは平均値±SD(n=3)として表される。教示がない限り、*は、p<0.05、**はp<0.01、***はp<0.001のIL-1β(IL-1β処理細胞)に対する有意差を示す。
【0071】
<実施例4及び比較例3>炎症マーカーMCP-1の産生抑制に対するGPAGPの効果
炎症マーカーMCP-1に対するHCII及びGPAGPの影響を評価するために、下記の4つの異なる条件を比較した:処理前の細胞(未処理のコントロール)、IL-1β処理細胞(比較例3)、IL-1β+HCII処理細胞(実施例4)、及びIL-1β+GPAGP処理細胞(実施例4)。細胞はHCII又はGPAGPで前処理を行った。前処理において、HCIIの濃度は5mg/ml、GPAGPの濃度は500mg/mlであった。
結果を
図5に示す。データは平均値±SD(n=3)として表される。教示がない限り、*は、p<0.05、**はp<0.01、***はp<0.001のIL-1β(IL-1β処理細胞)に対する有意差を示す。
【0072】
<実施例5及び比較例4>
炎症マーカーであるIL-6、IL-7、IL-9及びIL-12に対するHCIIの影響を評価するために、下記の3つの異なる条件を比較した:処理前の細胞(未処理のコントロール)、IL-1β処理細胞(比較例4)、及びIL-1β+HCII処理細胞(実施例5)。IL-1β+HCII処理細胞はHCIIで前処理を行った。前処理において、HCIIの濃度は0.5mg/ml又は2.5mg/mlであった。
図6に示すように、IL-1β25ng/mLはヒト軟骨細胞に炎症を誘発し、未処理細胞(コントロール)と比較して、IL-6、IL-7、IL-9又はIL-12のレベルを大幅に増加させた。細胞をHCIIで前処理すると、IL-1βによって誘導されるIL-6、IL-7、IL-9及びIL-12のレベルが低下した。IL-6、IL-7、IL-9及びIL-12の産生抑制に対するHCIIの用量依存効果もあった。
図6中、データは平均値±SD(n=3)として表される。教示がない限り、*は、p<0.05、**はp<0.01、***はp<0.001のIL-1β(IL-1β処理細胞)に対する有意差を示す。
【0073】
<実施例6>炎症マーカーMCP-1の産生抑制に対するHCIIとCEの組み合わせ、及びGPAGPとCEの組み合わせの効果
炎症マーカーMCP-1に対するHCIIとCEの組み合わせ、及びGPAGPとCEの組み合わせの効果の影響を評価するために、実施例1と同様に、IL-1β及びHCIIとCEの組み合わせ又はGPAGPとCEの組み合わせで前処理を行った。前処理において、HCIIの濃度は2.5mg/ml又は5mg/ml、GPAGPの濃度は2.5mg/ml、CEの濃度は6.25mg/mlであった。
結果を
図7に示す。データは平均値±SD(n=3)として表される。教示がない限り、*は、p<0.05、**はp<0.01、***はp<0.001のIL-1β(IL-1β処理細胞)に対する有意差を示す。
【0074】
<実施例7>炎症マーカーの産生抑制に対するHCIIとCEの組み合わせ、及びGPAGPとCEの組み合わせの効果
炎症マーカーであるIL-6、IL-8、IL-9、MCP-1、MIP-1β、及びRANTESに対するHCIIとCEの組み合わせ、及びGPAGPとCEの組み合わせの効果を評価するために、IL-1β及びHCIIとCEの組み合わせ又はGPAGPとCEの組み合わせで前処理を行った。前処理において、HCIIの濃度は2.5mg/ml、GPAGPの濃度は25mg/ml、125mg/ml、又は250mg/ml、及びCEの濃度は6.25mg/mlであった。
結果を
図8-1(a)、
図8-1(b)、
図8-1(c)、
図8-2(d)、
図8-2(e)、及び
図8-2(f)に示す。データは平均値±SD(n=3)として表される。教示がない限り、*は、p<0.05、**はp<0.01、***はp<0.001のIL-1β(IL-1β処理細胞)に対する有意差を示す。
【0075】
<実施例8>膝痛に対するHCII及びCEの効果を調べるためのランダム化二重盲検4アームパイロット試験
本パイロット試験は、単一施設、二重盲検、ランダム化、プラセボ対照試験として実施した。
【0076】
(被験者の登録とランダム化)
表3にまとめる選択基準及び除外基準を用いて、45歳~75歳の合計160人の被験者を選択した。被験者をランダムに下記の4群に分けた:「プラセボ」、「グルコサミン」、「HCII」、及び「HCIIとCE」。各群には40人の被験者が含まれた。
【0077】
【0078】
(試験製品)
「プラセボ」群は、マルトデキストリン6.8g及びキサンタンガム7mgを1日1回、午前中、食後に摂取した。「グルコサミン」群は、グルコサミン塩酸塩1.5gを1日1回、午前中、食後に摂取した。グルコサミン塩酸塩は陽性対照として用いた。
「HCII」群は、2型コラーゲン加水分解物(HCII)の天然の基質と、低分子量コンドロイチン硫酸と、ヒアルロン酸(HA)とからなるトリ胸肋軟骨加水分解抽出物である、BRANDコラーゲン加水分解物(サントリー食品アジア社製)を摂取した。この製品には、ペプチドGPAGPを含むHCIIが含まれる。容量68mLの各ボトルに2gのHCIIが含まれ、HCII(66.5%)と、解重合したコンドロイチン硫酸(18%)と、HA(11%)とからなる天然組成物を提供する。残り4.5%は、胸肋軟骨の成分のうち、特性のないものが占める。
「HCIIとCE」群は、ボトル68mLに含まれるBrand’s Essence of Chicken(BEC)70g(乾燥重量:5~6g)及びHCII2gの混合物を摂取した。試験品は、全て、ガラス瓶詰めの液体製品として調製され、等カロリー、同一の外観、及び同等の風味と食感を有した。参加者は、1日1回、午前中、食後に治験薬を摂取した。
試験結果に影響がないと見なされる場合、併用薬又はサプリメントを継続して摂取することが許可された。痛み止め又は鎮痛剤は、処方箋の下で救急薬として許可された。「鎮痛剤の併用」欄の記録に基づいて鎮痛剤による治療日数カバー比率(PDC)を算出し、visit間の総日数に対する鎮痛剤の治療日数カバー率と定義した。試験期間中、ホルモン療法(成長ホルモン、プロゲステロン、エストロゲン、テストステロン)、カルシウム、ビタミンD、又は、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、オメガ3、オメガ6、グルコサミン、又はコンドロイチンを豊富に含むサプリメント等、関節、骨、及び筋肉の健康をサポートする治療や栄養補助食品は全て禁止された。
【0079】
(手順)
本試験では、最初にスクリーニングvisit(ベースラインvisitの28日前)を行い、その後、ベースラインvisit(ベースラインvisitは0日目であるが、スクリーニングvisitとベースラインvisitは同日でもよい)、そして3回のフォローアップvisit(8週目、16週目、24週目)を行った。0日目の28日前から0日目にかけて被験者をスクリーニングして、試験への適格性を判断した。ベースラインvisitの翌日から168日間(24週間)連続して被験物質を摂取した。168日間(24週間)連続して、被験者は1日1本を午前中、食後に摂取した。摂取コンプライアンスを日誌カードに記録した。
膝痛における視覚的アナログスケール(VAS)は、摂取後0日目、7日目、及び14日目にスコア化した。
試験期間中、被験者はトレーニングスケジュールに従って、自宅で週2回、1回30分のレジスタンストレーニング(強制ではない)を行うことが推奨された。トレーニングは日誌カードに記録し、visit前1週間の食事内容を食事アンケートにより記録した。
【0080】
(処理コンプライアンス)
試験製品の摂取に関するコンプライアンスは、未使用薬の回収と被験者による毎日の摂取記録によって確認した。コンプライアンスは、visit間の日数に対して、割り付けられた用量のうち実際に摂取した用量の割合によって定義した。摂取率が70%であれば、準拠していると見なした。
【0081】
(運動プログラム)
ベースラインvisit時に配布されたトレーニングマニュアルに従って、全被験者に週2回、各30分間の自宅でのレジスタンストレーニングを奨励した。トレーニングプログラムのコンプライアンスを日誌カードに記録し、以下の式で算出した。
【0082】
【0083】
コンプライアンス率が≧50%であれば、準拠していると見なした。
【0084】
(膝痛における視覚的アナログスケール(VAS))
視覚的アナログスケール(VAS)は、0~100mmでスコア化した。0は無痛を示し、100はこれまでで最大の痛みを示す。摂取後0日目、7日目、及び14日目において、対象者は、感じた痛みの程度を特定するよう求められた。痛みの程度は、スケールで直線を引き、実線に沿った位置を示すことで表した。
【0085】
(忍容性と安全性)
試験期間中、自発的に報告された有害事象を記録した。バイタルサインをvisit毎に確認した。試験製品の安全性を評価するため、試験期間中のvisit毎に、全参加者の血清及び尿を測定した。
【0086】
(統計分析)
先験的な統計解析計画に従って、per-protocol統計解析を行った。摂取コンプライアンス率≧70%のランダム化された被験者をper-protocol解析の対象とした。安全性パラメータの解析は、試験製品を28本以上摂取した被験者を対象に実施した。二分変数はパーセンテージで報告し、連続変数は平均値とSDで報告した。カテゴリー変数の比較にはカイ二乗検定を使用し、連続変数の群間差の比較にはクラスカル・ウォリス検定を使用した。
連続的な主要及び副次評価項目に関し、試験群間の変化の平均差の検定で使用する混合効果モデルを用いて、visit毎の摂取の相互作用を固定効果因子として反復測定分散分析(ANOVA)を実施した。結果は全て、対応するp値が0.05未満の場合、統計的に有意であると見なした。visit毎の摂取の相互作用項が有意であった場合、処理群間の事後ペアワイズ比較を行い、調整後のp値を報告した。評価項目に影響を及ぼすと予想される変数は、因子としてモデルに含めた。関節の健康に関する分析では性別とvisit毎の性別の相互作用項を因子として含めた。
更に、レジスタンストレーニングの実施回数が全トレーニング期間の10パーセンタイル未満の被験者については、サブグループ解析を行った。分析は、独立した統計学者によって、SAS version9.4(米国ノースカロライナ州ケーリー)を使用して行われた。
【0087】
<結果>
(ベースライン特性と処理コンプライアンス)
合計160名の被験者が登録され、151名の被験者が試験を完了し、統計解析の対象となった(PP)。9名の被験者が途中で脱落したが、群間において脱落者数に有意差はなかった。なお、脱落者は試験製品又はプラセボの摂取による副作用とは無関係であった。有害事象は認められなかった。血清生化学マーカーと尿検査で臨床的に有意な変化は認められなかった。
全体的に、4つの全ての群間で、コンプライアンス率における統計的な差はなかった(表4)。データの均一性を評価するために、全てのパラメータを4つのアーム間で比較した。ベースライン時の試験群間に統計的に有意な差はなかった(表4)。
【0088】
【0089】
(VAS膝痛スコアにおける変化)
14日間摂取した後、HCII2gとプラセボのペアワイズ比較では、VAS疼痛スコアで測定したところ、HCII2g群はプラセボ群より疼痛が少ない(p=0.021)という統計的有意差が認められた。0日目の疼痛スコアと比較すると、HCII群では、HCII摂取者の疼痛スコアは、ベースラインから7日目で-11.1%、14日目で-25%であった(
図9(a)、表5)。実際、プラセボ群では14日間で痛みが増加する傾向が見られ、0日目からの疼痛スコアは7日目に33.3%、14日目に13.3%増加した。
更に、レジスタンストレーニングの実施回数が全期間のうち10パーセンタイル未満であった被験者のサブグループ解析では、プラセボ群はHCII群に比べ、14日目にベースラインから200%、0日目から8.7%と大幅に疼痛スコアが増加した(
図9(b)、表6)。表5及び表6において、「P値($)」は群間のp値、「(a)」「(k)」はp値の決定に用いた方法((a)=1元配置分散分析、(k)=クラスカル・ウォリス検定)、「*」は統計的有意性、「95%C.I」は95%信頼区間を意味する。
後述の
図9(a)及び
図9(b)において、各データの括弧内の2つの数値は、「平均-標準偏差」「平均+標準偏差」である。
【0090】
【0091】
【0092】
(結論)
以上より、HCIIは、変形性関節症の疼痛に悩む患者に対して、忍容性が高く、迅速かつ有意な症状緩和をもたらすことがわかった。HCII2gの摂取により、プラセボと比較して、わずか14日間で膝関節痛が大幅に減少した。
In vitro試験では、その作用機序は、基礎疾患プロセスの改善、特に局所的な疼痛感覚をもたらす炎症の抑制である可能性が示唆される。HCII及びHCIIとCEの組み合わせは、変形性膝関節症(OA)症状の管理において、現在の医学的及び食事療法の選択肢を安全かつ有効に補完し得ると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、動物抽出物及び/又は植物抽出物及びペプチドを含む新規な組成物を提供する。本発明の組成物は、炎症及び関節痛を抑制するための飲食品組成物又は医薬品組成物として使用することができる。動物抽出物及び/又は植物抽出物及び配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドは、飲食品として摂取可能であり、安全性が高いという利点も有する。
【配列表】