(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】電子制御装置及び流量測定システム
(51)【国際特許分類】
G01F 1/72 20060101AFI20240828BHJP
G01F 1/68 20060101ALI20240828BHJP
【FI】
G01F1/72
G01F1/68 A
(21)【出願番号】P 2022569715
(86)(22)【出願日】2021-09-21
(86)【国際出願番号】 JP2021034485
(87)【国際公開番号】W WO2022130719
(87)【国際公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2020208808
(32)【優先日】2020-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 広人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 邦彦
【審査官】羽飼 知佳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/066548(WO,A1)
【文献】特開2017-090322(JP,A)
【文献】特開2020-186988(JP,A)
【文献】特開2012-112716(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F 1/68-1/699
G01F 1/72
F02D 35/00
F02D 41/18
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気管に組み付けられた流量測定装置の出力信号に基づいて吸入空気の流量を演算する流量演算部と、
前記流量演算部で演算された前記吸入空気の流量の所定期間における平均値、最大値、最小値と、前記流量測定装置の出力信号の基本周波数以上であって前記流量測定装置の出力信号に含まれる1以上の周波数の信号の振幅とを演算し、
前記最大値と前記最小値に対する前記平均値の相対的な位置と、前記1以上の周波数の信号の振幅とをパラメータとして、前記吸入空気の流量に対する補正値を演算する流量補正値演算部と、
前記補正値に基づいて前記吸入空気の流量を補正する流量補正部と、を備える
電子制御装置。
【請求項2】
前記流量補正値演算部は、
前記流量測定装置の出力信号に含まれる前記1以上の周波数のいずれかに対応して設けられた1以上の帯域通過フィルタと、
前記1以上の帯域通過フィルタに対応して設けられ、対応する前記帯域通過フィルタを通過した前記出力信号の振幅を演算する1以上の振幅検出部と、を備える
請求項1に記載の電子制御装置。
【請求項3】
前記流量補正値演算部は、
前記流量測定装置の出力信号に含まれる前記1以上の周波数のいずれかに対応して設けられた1以上のフーリエ変換部と、
前記1以上のフーリエ変換部に対応して設けられ、対応する前記フーリエ変換部から出力される基本波又は高調波の振幅を演算する1以上の振幅検出部と、を備える
請求項1に記載の電子制御装置。
【請求項4】
前記流量補正値演算部は、
前記流量演算部で演算された前記吸入空気の流量の所定期間における平均値、最大値、最小値と、前記流量測定装置の出力信号の基本周波数以上であって前記流量測定装置の出力信号に含まれる1以上の周波数の信号の振幅と、を入力とし、前記吸入空気の流量に対する補正値を出力とするニューラルネットワークモデル、を備える
請求項1又は2に記載の電子制御装置。
【請求項5】
前記流量補正値演算部は、前記1以上の周波数の信号の振幅を演算する際に、内燃機関の回転速度に基づいて演算対象の周波数を選択する周波数選択部、を備える
請求項4に記載の電子制御装置。
【請求項6】
前記周波数選択部は、前記1以上の周波数の信号の振幅が演算される際に、前記内燃機関の回転速度により決まる基本周波数及び高調波の周波数から、少なくとも一つ以上の周波数の組み合わせを選択する
請求項5に記載の電子制御装置。
【請求項7】
前記周波数選択部は、前記1以上の周波数の信号の振幅が演算される際に、固定された1以上の周波数と、前記内燃機関の回転速度により決まる基本周波数及び高調波の周波数と、から少なくとも一つ以上の周波数の組み合わせを選択する
請求項5に記載の電子制御装置。
【請求項8】
前記流量補正値演算部の演算、及び前記流量補正部の補正は、内燃機関の吸気間隔に同期した周期で行われる
請求項1に記載の電子制御装置。
【請求項9】
前記流量補正値演算部が、前記流量演算部で演算された前記吸入空気の流量の平均値、最大値、最小値の演算を行う前記所定期間は、前記内燃機関の吸気間隔に同期した期間、又は前記期間の整数倍とする
請求項8に記載の電子制御装置。
【請求項10】
前記補正値は、補正係数及び/又は補正量であり、
前記流量補正部は、前記流量演算部で演算された前記吸入空気の流量に、前記補正係数を乗算、前記補正量を加算、又は、前記補正係数を乗算かつ前記補正量を加算する
請求項1に記載の電子制御装置。
【請求項11】
前記吸気管に組み付けられたスロットル弁の下流圧力の前記所定期間における変化量が所定値を超える場合には、前記流量補正値演算部による前記補正値の演算を停止する
請求項1に記載の電子制御装置。
【請求項12】
前記流量演算部で演算された前記吸入空気の流量の前記所定期間における平均値、最大値、及び最小値、前記流量測定装置の出力信号に含まれる前記1以上の周波数の信号の振幅のいずれか又は複数が所定の範囲外となった場合、前記流量補正値演算部による前記補正値の演算を停止する
請求項1に記載の電子制御装置。
【請求項13】
吸気管に組み付けられた流量測定装置と、電子制御装置とを備えた流量測定システムであって、
前記電子制御装置は、
前記流量測定装置の出力信号に基づいて吸入空気の流量を演算する流量演算部と、
前記流量演算部で演算された前記吸入空気の流量の所定期間における平均値、最大値、最小値と、前記流量測定装置の出力信号の基本周波数以上であって前記流量測定装置の出力信号に含まれる1以上の周波数の信号の振幅とを演算し、
前記最大値と前記最小値に対する前記平均値の相対的な位置と、前記1以上の周波数の信号の振幅とをパラメータとして、前記吸入空気の流量に対する補正値を演算する流量補正値演算部と、
前記補正値に基づいて前記吸入空気の流量を補正する流量補正部と、を備える
流量測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子制御装置及び流量測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関の吸気管内に組み付けられた流量センサにより内燃機関に吸入される空気流量を測定し、測定された吸入空気量に基づいてシリンダ内に充填される空気量を演算し、上記演算された空気量に応じて燃料噴射量や点火時期を制御する内燃機関の制御技術が知られている。例えば、内燃機関に吸入される空気の脈動が大きくなるに従って、流量センサの検出誤差が大きくなるために、脈動振幅に基づいて流量センサの検出誤差を補正する技術が開示されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、内燃機関の運転条件によっては、脈動振幅に基づく補正だけでは流量センサの検出誤差を補正しきれないことがある。この流量センサの検出誤差によって、燃料噴射量や点火時期の制御精度が悪化し、内燃機関の排ガス性状や燃費が悪化するという問題がある。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、流量センサ位置において吸入空気の流れに種々の脈動が発生する内燃機関の運転条件下であっても、吸入空気の流量を精度よく求められるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様の電子制御装置は、吸気管に組み付けられた流量測定装置の出力信号に基づいて吸入空気の流量を演算する流量演算部と、その流量演算部で演算された吸入空気の流量の所定期間における平均値、最大値、最小値と、流量測定装置の出力信号の基本周波数以上であって流量測定装置の出力信号に含まれる1以上の周波数の信号の振幅とを演算し、演算結果を基に吸入空気の流量に対する補正値を演算する流量補正値演算部と、補正値に基づいて吸入空気の流量を補正する流量補正部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明の少なくとも一態様によれば、流量測定装置の出力信号の平均値、最大値、最小値と、流量測定装置の出力信号に含まれる1以上の周波数成分の振幅情報とに基づいて、流量測定装置の検出誤差を適切に補正する。それにより、流量測定装置位置において吸入空気の流れに種々の脈動が発生する内燃機関の運転条件であっても、吸入空気の流量を精度よく求めることができる。それゆえ、大脈動時に懸念される内燃機関の排ガス性状の悪化や燃費の悪化を防止することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る電子制御装置の制御対象である内燃機関システムの全体構成例を示す概略図である。
【
図2】ECUのハードウェア構成例を示すブロック図である。
【
図3】内燃機関の回転速度と充填効率とで規定される運転領域において、EGRを導入する運転領域を表したグラフである。
【
図4】内燃機関の回転速度と充填効率とで規定される運転領域において、ミラーサイクルを実施する運転領域を表したグラフである。
【
図5】遅閉じミラーサイクル及び早閉じミラーサイクルを実現する吸気バルブ及び排気バルブのリフトパターンを表したグラフである。
【
図6】ミラーサイクル及びEGRを実施した際の流量センサの出力信号の脈動(吸気脈動挙動)の例を表したグラフである。
【
図7】流量センサ内部の空気の流れを示す概念図である。
【
図8】異なる脈動流れにおける主流路の平均流速と、流量センサが計測するバイパス流路の平均流速との関係を表したグラフである。
【
図9】異なる脈動流れにおける流量センサの検出誤差(補正量)の違いを表したグラフである。
【
図10】流量センサの検出誤差を補正する一般的な脈動補正マップの例である。
【
図11】異なる脈動流れにおける流量センサの出力信号の最大値、最小値、及び平均値の例を表したグラフである。
【
図12】本発明の第1の実施形態に係る流量センサの検出誤差を、脈動波形の最大値と最小値間における平均値の位置をパラメータとして補正する脈動補正多次元マップの例である。
【
図13】本発明の第2の実施形態に係る脈動波形の特徴量を抽出する方法を示す説明図である。
【
図14】ニューラルネットワークモデルを構成する各ニューロンの重みとバイアスを示す概略図である。
【
図15】本発明の第2の実施形態に係る脈動波形の特徴量に基づく脈動補正量の演算をニューラルネットワークモデルで実現する方法を示す説明図である。
【
図16】本発明の第2の実施形態に係るECUに実装される、流量センサの検出誤差を補正する脈動補正ロジックの例を示すブロック図である。
【
図17】本発明の第2の実施形態に係るECUによる流量センサの脈動補正の手順例を示すフローチャートである。
【
図18】スロットリング状態からスロットル弁を開くことで過給状態へと加速する際のスロットル弁開度、圧力センサ検出値、流量センサ検出値の変化を示すタイミングチャートである。
【
図19】本発明の第1及び第2の実施形態の効果として、脈動振幅比と脈動補正値の関係を表したグラフである。
【
図20】本発明の第1及び第2の実施形態の効果として、高回転における脈動振幅比と脈動補正値の関係を表したグラフである。
【
図21】本発明の第3の実施形態に係るECUに実装される、流量センサの検出誤差を補正する脈動補正ロジックの例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態の例について、添付図面を参照して説明する。本明細書及び添付図面において実質的に同一の機能又は構成を有する構成要素については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0010】
<第1の実施形態>
まず、本発明の第1の実施形態に係る電子制御装置の制御対象である内燃機関システムの全体構成について説明する。
【0011】
[内燃機関システムの全体構成]
図1は、内燃機関システムの全体構成例を示す概略図である。
内燃機関システムは、内燃機関1、流量センサ2、ターボ過給機3、エアバイパス弁4、インタークーラ5、過給温度センサ6、スロットル弁7、吸気マニホールド8、過給圧センサ9、流動強化弁10、吸気バルブ11、排気バルブ13、燃料噴射弁15、点火プラグ16、ノックセンサ17、及びクランク角度センサ18を備える。さらに、内燃機関システムは、ウェイストゲート弁19、空燃比センサ20、排気浄化触媒21、EGR(Exhausted Gas Recirculation)管22、EGRクーラ23、EGR弁24、温度センサ25、差圧センサ26及びECU(Electronic Control Unit)27を備えている。
【0012】
内燃機関1を介して吸気流路(吸気管28)及び排気流路(排気管29)が連通している。吸気流路には、流量センサ2及び流量センサ2に内蔵された吸気温度センサ(図示略)が組み付けられている。ターボ過給機3は、コンプレッサ3aとタービン3bから構成される。コンプレッサ3aが吸気流路に接続され、タービン3bが排気流路に接続されている。ターボ過給機3のタービン3bは、内燃機関1からの排出ガスの有するエネルギーをタービン翼の回転エネルギーに変換する。ターボ過給機3のコンプレッサ3aは、タービン翼と連結されたコンプレッサ翼の回転によって、吸気流路から流入した吸入空気を圧縮する。
【0013】
インタークーラ5は、ターボ過給機3のコンプレッサ3aの下流に設けられ、コンプレッサ3aにより断熱圧縮されて上昇した吸入空気の吸気温度を冷却する。過給温度センサ6は、インタークーラ5の下流に組み付けられ、インタークーラ5によって冷却された吸入空気の温度(過給温度)を計測する。
【0014】
スロットル弁7は、過給温度センサ6の下流に設けられ、吸気流路を絞って内燃機関1のシリンダに流入する吸入空気量を制御する。スロットル弁7は、運転者によるアクセルペダル踏量とは独立して弁開度の制御が可能な電子制御式バタフライ弁により構成される。スロットル弁7の下流には、過給圧センサ9が組み付けられた吸気マニホールド8が連通している。
【0015】
なお、スロットル弁7の下流に設けられた吸気マニホールド8とインタークーラ5とを一体化させる構成としてもよい。この場合、コンプレッサ3aの下流からシリンダに至るまでの容積を小さくできるので、加減速の応答性及び制御性の向上が可能になる。
【0016】
流動強化弁10は、吸気マニホールド8の下流に配置され、シリンダに吸入される空気に偏流を生じさせることによって、シリンダ内部の流れの乱れを強化させる。後述する排ガス再循環燃焼を実施する際に、流動強化弁10を閉じることで乱流燃焼を促進、安定化させる。
【0017】
内燃機関1には、吸気バルブ11及び排気バルブ13が設けられている。吸気バルブ11及び排気バルブ13は、バルブ開閉の位相を連続的に可変とするための可変動弁機構をそれぞれ有している。吸気バルブ11及び排気バルブ13の可変動弁機構には、バルブの開閉位相を検知するための吸気バルブ位置センサ12及び排気バルブ位置センサ14がそれぞれ組み付けられている。内燃機関1のシリンダには、シリンダ内に直接燃料を噴射する直接式の燃料噴射弁15が備えられている。なお、燃料噴射弁15は、吸気ポート内に燃料を噴射するポート噴射方式であってもよい。
【0018】
内燃機関1のシリンダには、シリンダ内に電極部を露出させ、スパークによって可燃混合気を引火する点火プラグ16が組み付けられている。ノックセンサ17は、シリンダブロックに設けられ、燃焼室内で発生する燃焼圧力振動に起因して生じるシリンダブロック振動を検出することで、ノックの有無を検出する。クランク角度センサ18は、クランク軸に組み付けられ、クランク軸の回転角度に応じた信号を、クランク軸の回転速度を示す信号としてECU27へ出力する。
【0019】
空燃比センサ20は、ターボ過給機3のタービン3bの下流に設けられ、検出された排ガス組成すなわち空燃比を示す信号をECU27へ出力する。排気浄化触媒21は、例えば三元触媒であり、空燃比センサ20の下流に備えられて、排ガス中の一酸化炭素、窒素化合物及び未燃炭化水素等の有害排出ガス成分を触媒反応によって浄化する。一般に、触媒物質には、白金とロジウム、若しくはこれにパラジウムを加えたものが使われる。
【0020】
ターボ過給機3には、エアバイパス弁4及びウェイストゲート弁19が備えられている。エアバイパス弁4は、コンプレッサ3aの下流からスロットル弁7の上流までの圧力が過剰に上昇することを防ぐために、コンプレッサ3aの上流と下流とを結ぶバイパス流路上に配置される。過給状態でスロットル弁7が急激に閉止された場合には、ECU27の制御に従ってエアバイパス弁4が開かれることにより、コンプレッサ3aの下流の圧縮された吸入空気がバイパス流路を通ってコンプレッサ3aの上流部に逆流される。その結果、過給圧を直ちに低下させることで、サージングとよばれる現象を防止でき、コンプレッサ3aの破損を適切に防止する。
【0021】
ウェイストゲート弁19は、タービン3bの上流と下流とを結ぶバイパス流路上に配置される。ウェイストゲート弁19は、ECU27の制御によって、過給圧に対して自由に弁開度が制御可能な電動式の弁である。過給圧センサ9により検知された過給圧に基づいてECU27によってウェイストゲート弁19の開度が調整されると、排ガスの一部がバイパス流路を通過することにより、排ガスがタービン3bに与える仕事を減じることができる。その結果、過給圧を目標圧に保持することができる。
【0022】
EGR管22は、排気浄化触媒21の下流の排気流路と、コンプレッサ3aの上流の吸気流路とを連通し、排気浄化触媒21の下流から排ガスを分流して、コンプレッサ3aの上流へ還流する。EGR管22に備えられたEGRクーラ23は、排ガスを冷却する。EGR弁24は、EGRクーラ23の下流に備えられ、排ガスの流量を制御する。EGR管22には、EGR弁24の上流を流れる排ガスの温度を検出する温度センサ25と、EGR弁24の上流と下流との差圧を検出する差圧センサ26とが設けられている。
【0023】
ECU27は、電子制御装置の一例であり、内燃機関システムの各構成要素を制御したり、各種のデータ処理を実行したりする演算回路である。ECU27には、上述した各種のセンサと各種のアクチュエータとが通信可能に接続されている。ECU27は、スロットル弁7、燃料噴射弁15、吸気バルブ11、排気バルブ13、及びEGR弁24等のアクチュエータの動作を制御する。また、ECU27は、各種センサから入力された信号に基づいて、内燃機関1の運転状態を検知して、運転状態に応じて決定したタイミングで点火プラグ16に点火させる。本実施形態において、流量センサ2とECU27は流量測定システムを構成する。
【0024】
[ECUのハードウェア構成]
次に、ECU27のハードウェア構成について説明する。ここでは、ECU27が備える計算機のハードウェア構成例を説明する。
【0025】
図2は、ECU27のハードウェア構成例を示すブロック図である。
ECU27は、システムバス36を介して相互に接続された、制御部31、記憶部32、及び入出力インターフェース33を備える。制御部31は、CPU(central processing unit)31a、ROM(Read Only Memory)31b、及びRAM(Random Access Memory)31cより構成されている。CPU31aがROM31bに記憶された制御プログラムをRAM31cにロードして実行することにより、ECU27の各機能が実現される。すなわち、制御部31は、内燃機関システムの動作を制御するコンピューターの一例として用いられる。
【0026】
記憶部32は、半導体メモリ等からなる補助記憶装置である。例えば、記憶部32には、制御プログラムで用いられるパラメータ、変換テーブル、脈動補正マップ(
図10、
図12参照)、ニューラルネットワークモデル(
図15参照)、及び制御プログラムを実行して得られたデータなどが記録される。また、記憶部32に制御プログラムが格納されていてもよい。
【0027】
入出力インターフェース33は、各センサや各アクチュエータと信号やデータの通信を行うインターフェースである。ECU27は、各センサの入出力信号を処理する図示しないA/D(Analog/digital)変換器、ドライバ回路等を備えている。入出力インターフェース33がA/D変換器を兼ねてもよい。なお、プロセッサにCPUを用いたが、MPU(micro processing unit)等の他のプロセッサを用いてもよい。
【0028】
以下、内燃機関1に備えられたEGRシステム、ミラーサイクルシステム、及びウェイストゲートシステムによって低燃費運転を実現する内燃機関1の制御方法について説明する。
【0029】
[EGRを実施する運転領域]
図3は、内燃機関1の回転速度と充填効率とで規定される運転領域において、EGR(再循環される排気)を導入する運転領域を表したグラフである。充填効率は、シリンダ容積相当の標準状態空気質量に対する一サイクルにシリンダへ吸入される空気質量の割合である。
図3のグラフは、コールドEGRを導入する場合の例であり、横軸は回転速度、縦軸は充填効率を表す。太い破線で囲まれた部分はコールドEGR導入領域である。
【0030】
内燃機関1の運転領域は、非過給域と過給域に大別される。非過給域においてはスロットル弁によって充填効率を制御し、過給域においてはスロットル弁を開き、ウェイストゲート弁によって過給圧を制御することによって充填効率を制御する。このように、非過給域と過給域との間で、エンジントルクを調整する手段を切り替えることによって、内燃機関1に生じるポンプ損失を低減でき、低燃費運転を実現することができる。細い破線は、新気等流量ラインを表す。
【0031】
さらに、本実施形態で示した内燃機関1には、EGRシステムが搭載されている。内燃機関1の非過給域の比較的高負荷条件(充填効率高)から過給域にかけて、EGRクーラによって冷却されたEGRガスをシリンダに還流することによって、シリンダ内に吸入される空気を不活性ガスであるEGRガスで希釈する。これにより、高負荷条件で生じやすいノックと呼ばれる不正燃焼を抑制することができる。そして、ノックを抑制できるので、点火時期(進角、遅角)を適切に制御することが可能となり、低燃費運転を実現することができる。
【0032】
[ミラーサイクルを実施する運転領域]
図4は、内燃機関1の回転速度と充填効率とで規定される運転領域において、ミラーサイクルを実施する運転領域を表したグラフである。太い破線で囲まれた部分はミラーサイクル導入領域である。
【0033】
内燃機関1の比較的低流量の運転領域では、シリンダに吸入する空気量を減じるために、スロットル弁7がより閉じ側に制御される。これによってポンプ損失が増加する傾向がある。吸気バルブ閉じ時期を下死点から早い側又は遅い側にずらすことによって、ピストンの圧縮仕事を低減することができ、ミラーサイクルを実現できる。また、スロットル弁7を代替して、吸気バルブ位相を制御することによって、吸入空気量を制御すれば、スロットル弁7をより開き側に設定でき、ポンプ損失を低減できる。ミラーサイクルの効果とポンプ損失低減効果により、低燃費運転を実現することができる。
【0034】
[吸気バルブ及び排気バルブのリフトパターン]
図5は、遅閉じミラーサイクル及び早閉じミラーサイクルを実現する吸気バルブ11及び排気バルブ13のリフトパターンを表したグラフである。
吸気バルブ11の位相を可変できる構成を採用して、吸気バルブ閉じ時期を、下死点を基点に早い側又は遅い側に設定すると、シリンダに吸入される空気量が増減する。同図の上段に示す遅閉じミラーサイクルでは、一旦シリンダ内に吸入されたガスが下死点以降に吸気管28に吹き戻されることでシリンダ内への吸入空気量が抑制される。一方、同図の下段に示す早閉じミラーサイクルでは、シリンダにガスが吸入されている途中に吸気バルブが閉じられることによって、シリンダ内への吸入空気量が抑制される。
【0035】
本実施形態に係る内燃機関システムでは、吸気バルブ位相可変機構を採用してミラーサイクルを実現する構成としているが、吸気バルブの開閉時期とリフト量を切り換え可能な可変バルブタイミング・リフト機構や、位相・リフト連続可変機構を採用してミラーサイクルを実現することも可能である。
【0036】
[ミラーサイクル及びEGRを実施時の吸気脈動挙動]
図6は、ミラーサイクル及びEGRを実施した際の流量センサ2の出力信号の脈動(吸気脈動挙動)の例を表したグラフである。
図6の横軸は時間[s]、縦軸は流速[m/s]を示す。なお、本明細書において、流量センサ2の出力信号を「流量信号」とも記載する。また、流量センサ2の出力信号の形状を「脈動波形」と称することがある。
【0037】
同図の上段に示すように、内燃機関1は各シリンダの吸気行程のみで断続的に吸気がなされるために、吸気管28内には脈動を生じる。特に、低回転・高負荷領域では、低周波数において脈動振幅比の大きい脈動を生じる傾向があり、流量センサ2の検出精度を悪化させる要因となる。脈動振幅比は、流量信号に含まれる基本周波数成分の信号の振幅(最大値-最小値間)と、当該信号の平均値との比である。平均流速に対して脈動振幅が大きくなる低回転・高負荷条件では、流速方向が逆流を示すタイミングが存在する。
【0038】
同図の中段は、ミラーサイクル(遅閉じ)を実施した際の流量センサ2の吸気脈動挙動(脈動A)を示している。
図5で述べたように、遅閉じミラーサイクルでは、一旦シリンダに吸入されたガスが吸気管28に吹き返される。また、遅閉じミラーサイクルは、通常サイクルと比較して、スロットル弁7が開き側に設定される。これらの影響によって、遅閉じミラーサイクル中は、シリンダ内で生じた脈動が流量センサ2に到達しやすい状況となる。
【0039】
同図の下段は、EGR導入時の流量センサ2の吸気脈動挙動(脈動B)を示している。排気脈動は吸気側と比較してより大きい脈動(流速及び振幅が大)であり、EGR管22を通じて吸気側に脈動が伝播する。より多くのEGRガスを還流させるためにEGR弁を開き側に設定すると、流量センサ2の脈動が大きくなる傾向がある。
【0040】
上述したように、ミラーサイクルやEGRの実施により、吸気管28内の流れに乱れが生じる。よって、ミラーサイクルやEGRを実施した際の脈動は、通常サイクルの吸気行程に起因した脈動に対してより高周波の周波数成分を持つ脈動となる。このような脈動現象においては、脈動振幅率のみならず脈動周波数、これらが組み合わさって決まる脈動波形が重要である。
【0041】
[流量センサ内部の空気の流れ]
図7は、流量センサ2内部の空気の流れを示す概念図である。
流量センサ2にはバイパス流路が備えられ、バイパス流路内に流速を検知するためのセンサエレメントが設置されている。バイパス流路形状を工夫することによって、センサエレメントへのダストや水の付着を防止することができる。流量センサ2は、発熱抵抗体を主要な構成要素とするセンサエレメントの局所流れに起因した放熱量を検出することで、吸気管28の流量センサ2を搭載した部分の主流の流量に対応する電圧信号を出力する。同図に示すように、主流とバイパス流とでは、流れ場の形状(長さL,l、内径D,d)、形状損失係数(Cp,cp)や摩擦損失係数(Cf,cf)がそれぞれ異なるために、異なる運動量方程式に基づく流れ場となる。主流路の流量をU、パイパス流路の流量をuとすると、主流の流速dU/dt及びパイパス流の流速du/dtはそれぞれ、下記式(1)及び式(2)で表すことができる。
【0042】
【0043】
[主流路の平均流速とバイパス流路の平均流速の関係]
図8は、異なる脈動流れにおける主流路の平均流速と、流量センサ2が計測するバイパス流路の平均流速との関係を表したグラフである。条件1~3はそれぞれ、異なる運転条件である。ただし、条件1~3のいずれの脈動流れでも、各条件の主流の流速平均値と脈動振幅比は同一である。
【0044】
バイパス流路は主流路に対して内径(d)が小さく、曲がり形状を含むため圧損が大きい。また、主流路内の偏流やバイパス流路内の偏流、共振、流量センサ2の応答遅れなどにより、周波数や流速の絶対値、流速方向で特性が変化する。これらにより同図が示すように、主流路の流速と流量センサ2が計測するバイパス流路の流速は同一とはならず、誤差が生じる。条件1~3に示すように、所定期間(例えば3サイクルの期間)における主流の流速平均値が同一(20m/s)であっても、脈動波形が異なると、所定期間における主流路の平均流速と流量センサ2が計測するバイパス流路の平均流速は異なる値を示す。そのため、脈動条件(影響因子)に応じた脈動補正量の適合が必要である。
【0045】
[主流の流速平均値と流量センサの検出流速平均値]
図9は、異なる脈動流れにおける流量センサ2の検出誤差(補正量)の違いを表したグラフである。横軸は流量センサ2が検出した流速平均値、縦軸は主流の流速平均値を示す。
主流の流速平均値が同じであっても、脈動条件1~3ごとに流量センサ2が検出した流速平均値が異なる。よって、脈動条件1~3の各々で、主流の流速平均値に対する流量センサ2の検出誤差に相当する補正量cv1~cv3が異なる。
【0046】
[一般的な脈動補正マップ]
図10は、脈動現象に起因して生じる流量センサ2の検出誤差を補正する一般的な脈動補正マップの例である。脈動補正マップにおいて、横方向に脈動周波数[Hz]、縦方向に脈動振幅比[%]が設定されている。
【0047】
脈動補正マップ適合では、内燃機関1の回転速度から基本周波数(=脈動周波数)を決定し、基本周波数以上の周波数を脈動成分とみなす。基本周波数以下の帯域を通過させる低域通過フィルタで得られる基本周波数の信号の振幅(最大値-最小値間)と、当該信号の平均値から脈動振幅比を求め、脈動補正量を脈動周波数と脈動振幅比を軸とする脈動補正マップ1000に記録しておく。車載時には、流量センサ2の検出値と回転速度に基づいて、脈動周波数と脈動振幅比を求め、これに対応する脈動補正量に基づいて流量センサ2の検出値を補正する。
【0048】
図8及び
図9で述べたように、脈動補正の適合値は脈動波形の影響を受けて変化するので、脈動波形に影響を与える影響因子ごとに脈動補正多次元マップを備える必要がある。
図10の下段には、脈動補正多次元マップ1100が示されている。脈動補正多次元マップ1100は、基準条件の脈動補正マップ1000、あるミラーサイクル条件の脈動補正マップ1010、あるEGR条件の脈動補正マップ1020、及び外気条件違いの脈動補正マップ1030から構成されている。例えば、基準条件は、ある外気条件においてミラーサイクル制御及びEGR制御をしない条件である。
【0049】
例えば、外気条件は、音波の速さに影響を与えることから、脈動波形の影響因子である。そのため、脈動補正多次元マップ1100は、前提となる気温や大気圧等の外気条件が異なる脈動補正マップ1030を備える必要がある。
【0050】
また、ミラーサイクル制御やEGR制御には中間状態が存在するため、中間状態を適切に補間する必要がある。例えば、脈動補正マップ1020のEGR条件がEGR率30%であるとき、基準条件(EGR率0%)の脈動補正マップ1000とEGR条件30%の脈動補正マップ1020の各補正量を用いて、中間状態としてEGR率10%のときの脈動補正量を補間により求める。外気条件に関しても、補間により現在の外気条件に適した脈動補正量を求めるようにするとよい。
【0051】
<第1の実施形態>
以下、第1の実施形態として、脈動現象に起因して生じる流量センサ2の検出誤差を、脈動波形の最大値と最小値間における平均値の位置に基づいて補正する方法を説明する。
【0052】
[流量センサ出力信号の最大値、最小値、平均値]
図11は、異なる脈動流れにおける流量センサ2の出力信号の最大値、最小値、及び平均値の例を表したグラフである。
図11に示すように、流量センサ2の出力信号の波形(脈動波形)によって、最大値と最小値に対する平均値の相対的な位置、すなわち最大値と最小値間における平均値の位置が変化する。
図11の上段の脈動波形では、平均値(20m/s)の位置が最小値寄りである。また、
図11の下段の脈動波形では、最小値が上段の脈動波形よりも小さいものの最小値付近の波形が尖っているために、平均値(20m/s)の位置が最大値寄りである。
【0053】
そこで、本実施形態では、このように流量センサ2の出力信号の波形(脈動波形)によって最大値と最小値間の平均値の位置が変化することを利用し、脈動補正マップを作成する。具体的には、
図10下段のように脈動波形に影響を与える影響因子ごとの脈動補正多次元マップ1100を持つ代わりに、流量センサ2が検出した流量の脈動波形の最大値と最小値間における平均値の位置をパラメータとして、脈動補正マップを作成する。
【0054】
[最大値と最小値に対する平均値の位置を考慮した脈動補正マップ]
図12に、脈動現象に起因して生じる流量センサ2の検出誤差を、脈動波形の最大値と最小値間における平均値の位置をパラメータとして補正する脈動補正多次元マップの例を示す。
図12に示す脈動補正多次元マップ1200において、横方向に脈動周波数[Hz]、縦方向に脈動振幅比[%]が設定されている。ここで、脈動波形において最小値の位置を0%、最大値の位置を100%とする。脈動補正多次元マップ1200は、最大値と最小値間における平均値の位置が20%の脈動補正マップ1210、同50%の脈動補正マップ1220、及び、同80%の脈動補正マップ1230を含んでいる。
【0055】
上述した第1の実施形態によれば、流量センサ2の出力信号の最大値と最小値間における平均値の位置ごとに、脈動周波数と脈動振幅比を軸とした脈動補正マップ1210~1230を用意し、この脈動補正マップ1210~1230から補正値を取得して流量センサ2の検出誤差を補正する。それにより、ミラーサイクル制御やEGR制御を実施するなどの、流量センサ位置において吸入空気の流れに種々の脈動が発生する内燃機関1の運転条件であっても、吸入空気の流量を精度よく求めることができる。それゆえ、大脈動時に懸念される内燃機関1の排ガス性状の悪化や燃費の悪化を防止することができる。
【0056】
また、本実施形態によれば、脈動波形に影響を与える影響因子ごとの脈動補正多次元マップ1100(
図10参照)を用意する場合と比較して、脈動補正マップの数を低減することができる。
【0057】
<第2の実施形態>
次に、第2の実施形態として、脈動波形の特徴量に基づく脈動補正量の演算をニューラルネットワークモデルで実現する方法について、
図13から
図15を参照して説明する。
【0058】
[脈動特徴量抽出方法]
図13は、脈動波形の特徴量を抽出する方法を示す説明図である。
図13の上段に示すような流量センサ2の出力信号(流速データ)に対し、
図13の下段に示す脈動波形の特徴量の抽出を行う。一例として、
図13の上段に示す流量センサ2の出力信号の波形(脈動波形)は、
図8の下段と同じ波形である。主流路の流速平均値(上側バー付きU)と流量センサ2の検出平均値(上側バー付きu)には差異が生じている。
【0059】
脈動特徴量抽出では、内燃機関1の回転速度で規定される期間における流量センサ2の出力信号の平均値μ、最大値max、及び最小値minを求める処理を行い、異なる周波数の帯域通過フィルタ(1)~(4)によりフィルタ処理を行う。流量センサ2の検出結果に対し、上記の異なる周波数の帯域通過フィルタ(1)~(4)の処理を施すことで、異なる周波数帯の波形ごとの振幅σ1~σ4が得られる。これらの脈動特徴量と脈動補正量δ(上側バー付きU/上側バー付きu)を関連づける。
【0060】
例えば、帯域通過フィルタ(1)を通過する周波数帯域は、流量センサ2の出力信号に含まれる基本周波数を含む帯域とする。また、帯域通過フィルタ(2),(3),(4)の各々の通過帯域は、第2高調波、第3高調波、及び第4高調波の周波数を含む帯域とする。ただし、帯域通過フィルタ(1)の通過帯域は、基本周波数を含む帯域でなくてもよい。同様に、帯域通過フィルタ(2)~(4)の通過帯域は、高調波の周波数を含む帯域でなくてもよい。
【0061】
なお、4つの帯域通過フィルタ(1)~(4)が設けられているが、帯域通過フィルタは1個以上あればよい。なお、所定のルールに基づいて複数の帯域通過フィルタの中から使用する帯域通過フィルタを選択してもよいし、固定の数の帯域通過フィルタを使用してもよい。例えば、
図13では複数の帯域通過フィルタが設定されているが、このうち実際にフィルタ処理を実行する帯域通過フィルタは一つであってもよい。ただし、複数の帯域通過フィルタによるフィルタ処理の結果を用いることで、脈動補正量の精度が向上する。
【0062】
[各ニューロンの重み、バイアス、活性化関数]
図14は、ニューラルネットワークモデルを構成する各ニューロンの重みとバイアスを示す概略図である。
ニューラルネットワークモデルとは、人間の脳神経回路の仕組みを模した数学モデルである。ニューラルネットワークは、機械学習において深層学習を行う手段として用いられることが多い。例えば、機械学習のアルゴリズムには、誤差逆伝播法を適用できる。本実施形態ではニューラルネットワークを利用しているが、機械学習により流量センサ2の検出誤差を補正できるものであればこの例に限らない。
【0063】
図14に示すように、ニューラルネットワークモデルを構成する各ニューロン(ユニット)に重みwとバイアスbが設定される。n個のニューロンに入力a
1~a
nがそれぞれ入力され、ニューロンごとに設定された重みw
1~w
nが乗算される。そして、次層のニューロンにおいて重みw
1~w
nが乗算された入力a
1~a
nを加算(結合)するとともに、加算結果にバイアスbを付与した出力zが得られる。次層のニューロンは、関数f(z)で表されるaを出力する。
【0064】
また、各ニューロンには、活性化関数と呼ばれる関数が定義されている。活性化関数には、ロジスティック関数(シグモイド関数)やランプ関数(ReLU関数)などが適宜設定される。
図14では、入力xが0よりも大きいほどニューロンが活性化されて出力y(=f(x))が1に近づき、入力xが0よりも小さいほどニューロンが非活性化されて0に近づく例が示されている。例えば、入力xが“5”のとき、活性化関数の出力yは“1”となり、当該ニューロンから次層のニューロンへ“1”を出力する。
【0065】
[ニューラルネットワーク]
図15は、脈動波形の特徴量に基づく脈動補正量の演算をニューラルネットワークモデルで実現する方法を示す説明図である。
ニューラルネットワークモデルは、複数のニューロンで一つの層が形成され、入力層と出力層との間には、中間層が設定される。ニューロン数や中間層の層数を増加することで、より複雑な入出力関係を近似することができる。近似精度とモデル規模との間にはトレードオフの関係があり、双方の要求を満足する両立点が選定される。
【0066】
図13に示した脈動特徴量を入力層に、脈動補正量の適合結果を出力層に、それぞれ設定し、重みwとバイアスbを機械学習(教師有り)することによって、入出力関係を近似することができる。脈動特徴量は、流量センサ2の出力信号の所定期間(
図16の特徴量検出期間)における平均値μ、最大値max、最小値min、並びに、脈動波形の周波数成分ごとの振幅σ1~σ4である。脈動補正量の適合結果は、脈動補正量δである。このような学習をした学習済みモデルは、脈動特徴量が入力されると学習内容に基づいた演算を実行し、演算結果として脈動補正量を出力する。
【0067】
本実施形態では、脈動波形の最大値と最小値間における平均値の位置と、脈動波形に含まれる1又は複数の周波数成分の振幅と、脈動補正量とを関連づけることで、
図12に示した脈動補正多次元マップ1200を用いた場合と同じように、平均値の位置の違いに応じた脈動補正量を決定することができる。
【0068】
[脈動補正ロジック]
図16は、ECU27に実装される、流量センサ2の検出誤差を補正する脈動補正ロジックの例を示すブロック図である。ECU27と流量センサ2は、流量測定システムを構成する。
【0069】
ここではまず、流量センサ2で採用している熱線式流量センサの原理について説明する。熱線式流量センサは、測定対象である空気流の中に配置された発熱抵抗体を主要な構成要素とする。熱線式流量センサには、発熱抵抗体に流れる電流値は吸入空気量が多いときに増加し、逆に吸入空気量が少ないときには減少するようにブリッジ回路が構成されている。熱線式流量センサは、発熱抵抗体に流れる電流により空気量を電圧信号として取り出す。
【0070】
ECU27は、A/D変換部1601、電圧流量変換部1602、回転速度演算部1603、流量補正値演算部1615、電圧圧力変換部1616、及び流量補正部1620を備える。流量補正値演算部1615は、帯域通過フィルタ1604~1607、特徴量検出期間設定部1608、最大/最小/平均値演算部1609、振幅検出部1610~1613、及び補正量導出部1614を備える。
【0071】
A/D変換部1601は、流量センサ2及び過給圧センサ9から出力されるアナログ電圧信号を、A/D変換器によってデジタル電圧信号に変換する。A/D変換部1601は、デジタル電圧信号を電圧流量変換部1602及び電圧圧力変換部1616へ出力する。
【0072】
電圧流量変換部1602は、電圧/流量変換テーブルによってデジタル電圧信号から流量信号(流量値)に換算し、演算結果を流量補正値演算部1615の帯域通過フィルタ1604~1607及び最大/最小/平均値演算部1609、並びに流量補正部1620へ出力する。
【0073】
なお、本実施形態では、空気量に対応した電圧信号は電圧値として出力される方式を採用しているが、電圧信号が図示しない電圧/周波数変換回路によって周波数信号に変換されて出力される方式もある。電圧/周波数変換された周波数信号として入力される場合は、その信号の周期をCPU31aのポート入力で計測することによって、周期又は周期から周波数に変換された値が入力となる。電圧流量変換部1602が参照する空気量変換テーブルは、周期又は周波数に応じて予め記憶された値から検索し、ちょうど適合する値がないときは補間演算されて検出空気量に変換される。
【0074】
図16に示した電圧流量変換部1602の特性曲線は、一般的な熱線式流量センサの吸入空気量と出力信号の関係を示したものであり。この特性曲線は、吸入空気量が少ないと出力する信号の電圧は低く、吸入空気量が多いと出力する信号の電圧が高くなる非線形関係にある特性曲線である。非線形性特性とするのは、発熱抵抗体からの検出信号を空気量に変換する際に空気量Qに対して、主としてキングの式と呼ばれる次の式(3)が採用されているためである。
【0075】
Ih・Rh=(α+β・√Q)・(Th-Ta) ・・・・(3)
【0076】
ここで、Ihは発熱抵抗体の電流値、Rhは発熱抵抗体の抵抗値、Thは発熱抵抗体の表面温度、Taは空気の温度、Qは空気量、α、βは発熱抵抗体の仕様で決まる定数である。一般的には、(Th-Ta)が一定となるように発熱抵抗体の電流値Ihを制御するので、空気量は抵抗器の電圧降下により電圧値Vに変換して検出するが、結果として電圧値Vは4次関数式になる。このため、発熱抵抗体からの検出信号を空気量へ変換する場合に、4次曲線の曲率すなわち出力と空気量との関係が非線形になる。
【0077】
電圧圧力変換部1616は、電圧/圧力変換テーブルによってデジタル電圧信号から圧力信号に変換し、変換結果を流量補正値演算部1615の補正量導出部1614へ出力する。なお、電圧圧力変換部1616は、電圧流量変換部1602と同様に、圧力に対応した電圧信号が電圧値として出力される方式を採用している。ただし、電圧圧力変換部1616は、図示しない電圧/周波数変換回路によってデジタル電圧信号から変換した周波数信号から圧力信号を得る構成としてもよい。
【0078】
回転速度演算部1603は、クランク角度センサ18の出力信号に基づき内燃機関1の回転速度を演算し、演算結果を流量補正値演算部1615の特徴量検出期間設定部1608へ出力する。
【0079】
帯域通過フィルタ1604~1607は、電圧流量変換部1602から入力される流量信号に対して、それぞれ異なる通過周波数帯の帯域通過フィルタ処理を行う。帯域通過フィルタ1604~1607はそれぞれ、フィルタ処理後の流量信号を対応する振幅検出部1610~1613へ出力する。帯域通過フィルタ1604~1607は、
図13の帯域通過フィルタ(1)~(4)に相当する。複数の帯域通過フィルタ1604~1607を有することによって、流量センサ2の出力信号(脈動波形)の様々な特徴量を使うことができ、脈動補正量の推論精度が向上する。
【0080】
なお、
図16に4個の帯域通過フィルタ1604~1607の例を示しているが、帯域通過フィルタの数は4個以外、すなわち1~3個又は5個以上でもよい。以降の説明において、帯域通過フィルタ1604~1607を帯域通過フィルタ(1)~(4)と記載することがある。
【0081】
特徴量検出期間設定部1608は、回転速度演算部1603から入力される回転速度から特徴量を検出する特徴量検出期間を決定し、決定した特徴量検出期間を最大/最小/平均値演算部1609、及び振幅検出部1610~1613へ出力する。特徴量検出期間は、内燃機関1の吸気間隔に同期した期間、又はその周期の整数倍の期間とする。例えば、4サイクルエンジンにおいて各気筒の特徴量検出期間を、内燃機関1の1以上のサイクルの期間に設定することが望ましい。
図13には、3サイクルの期間に脈動特徴量を抽出する例が示されている。特徴量検出期間は、内燃機関1の回転速度とシリンダ数により決定するが、所定のクランク角度ごととしてもよい。
【0082】
最大/最小/平均値演算部1609は、流量センサ2の出力信号(脈動波形)の特徴量検出期間内の平均値、最大値、及び最小値を演算し、演算結果を補正量導出部1614へ出力する。なお、平均値の計算方法として、時間平均の他に、算術平均、フィルタ処理、フーリエ変換の直流分などが使用できる。例えば、フィルタ処理は、加重平均処理や調和平均処理などである。
【0083】
振幅検出部1610~1613は、各帯域通過フィルタ1604~1607を通過した流量センサ信号の特徴量検出期間内の振幅を検出し、検出結果を補正量導出部1614へ出力する。以下、振幅検出部1610~1613を振幅検出部(1)~(4)と記載することがある。
【0084】
このように、流量補正値演算部1615は、流量センサ2の出力信号に含まれる1以上の周波数のいずれかに対応して設けられた1以上の帯域通過フィルタ1604~1607と、1以上の帯域通過フィルタに対応して設けられ、対応する帯域通過フィルタを通過した上記出力信号の振幅を演算する1以上の振幅検出部1610~1613と、を備える。これにより、流量センサ2の出力信号から複数の周波数成分を抽出し、その周波数成分の振幅を算出できる。
【0085】
補正量導出部1614は、最大/最小/平均値演算部1609の演算結果と、振幅検出部(1)~(4)の検出結果から、
図15で説明したニューラルネットワークモデル(学習済みモデル)を用いて脈動補正量を演算し、演算結果を流量補正部1620へ出力する。また、補正量導出部1614は、電圧圧力変換部1616から入力される圧力信号の最大値、最小値、及び振幅を計算し、その計算結果に基づいて
図17に示す脈動補正の実行可否を決定する。
【0086】
流量補正部1620は、電圧流量変換部1602から入力される流量信号(補正前流量)と、補正量導出部1614から入力される脈動補正量とに基づいて、補正前流量に対して補正処理する。ECU27は、流量補正部1620により補正された吸入空気の流量(補正後流量)を用いて、燃料噴射量や点火時期等を制御する。
【0087】
流量補正値演算部1615及び流量補正部1620は、内燃機関1の吸気間隔(サイクル)に同期した周期で演算を実行する。これにより、内燃機関の吸気間隔に同期した周期、例えば1サイクルごとに、脈動の補正値の算出及び、その補正値に基づく吸入空気の流量の補正が行われる。なお、流量補正部1620と流量補正部1620は、一つのブロックに構成してもよい。
【0088】
このような流量センサ2の脈動に起因する検出誤差を補正する機能を備えることで、脈動により流量センサ2の検出誤差を生じやすい内燃機関1の運転条件においても、流量センサの検出誤差を適切に補正することができる。そのため、流量センサ2の検出精度を確保し、空燃比制御の精度が向上する。そして、空燃比制御を高い精度で行うことで、内燃機関1の排出ガスの悪化を防止することができる。
【0089】
なお、前述したように、脈動補正量は、脈動周波数ごとの脈動振幅比を各軸とした脈動補正多次元マップ1200(
図12参照)に基づいて求めることも可能である。この場合、補正量導出部1614は、回転速度演算部1603又は特徴量検出期間設定部1608から回転速度(脈動周波数)を取得する。また、最大/最小/平均値演算部1609が、流量信号の最大値と最小値間における平均値の位置と脈動振幅比とを計算し、計算結果を補正量導出部1614へ出力する。補正量導出部1614は、脈動周波数と、脈動振幅比と、平均値の位置と基づいて脈動補正多次元マップ1200を検索し、適合する脈動補正量を決定する。
【0090】
[脈動補正処理]
図17は、ECU27による流量センサ2の脈動補正の手順例を示すフローチャートである。
図17に示す各ステップの処理は一定周期ごと、例えば1msごとに実行される。
【0091】
まず、A/D変換部1601は、流量センサ2から出力されたアナログ電圧信号、及びスロットル弁7下流に配置された過給圧センサ9から出力されたアナログ電圧信号を、アナログ電圧信号からデジタル電圧信号に変換する(S1)。
【0092】
次いで、電圧流量変換部1602は、流量センサ2のアナログ電圧信号をA/D変換して生成されたデジタル電圧信号を流量信号に変換する(S2)。
また、電圧圧力変換部1616は、過給圧センサ9のアナログ電圧信号をA/D変換して生成されたデジタル電圧信号を圧力信号に変換する(S3)。
【0093】
次いで、最大/最小/平均値演算部1609は、流量信号の平均値を算出するため特徴量検出期間設定部1608で設定された特徴量検出期間において、ステップS2で演算された流量信号に基づいて流量を積算する(S4)。
【0094】
次いで、複数の帯域通過フィルタ(1)~(4)は、電圧流量変換部1602から入力される流量信号に対して帯域通過フィルタ処理を行う(S5)。
【0095】
次いで、最大/最小/平均値演算部1609は、上記の特徴量検出期間における、流量信号の最大値及び最小値(
図13のmax、minに相当)、並びに圧力信号の最大値及び最小値を更新する。また、振幅検出部(1)~(4)は、各帯域通過フィルタ(1)~(4)を通過した流量信号の最大値及び最小値を更新する(S6)。
【0096】
次いで、最大/最小/平均値演算部1609は、クランク角度センサ18の出力信号に基づいて、クランク軸が予め設定したクランク角度位置を通過したかどうかを判定する(S7)。所定のクランク角度は、例えば、内燃機関1の各シリンダの圧縮上死点などである。ECU27は、最大/最小/平均値演算部1609によりクランク軸が所定のクランク角度を通過した(S7のYES)と判定されると、ステップS8以降の処理を行う。一方、クランク軸が所定のクランク角度を通過していない場合には(S7のNO)、本フローチャートの処理を終了する。
【0097】
次いで、最大/最小/平均値演算部1609は、ステップS4で求めた流量積算値から特徴量検出期間における流量平均値(
図13のμに相当)を算出する(S8)。次いで、補正量導出部1614は、ステップS6で求めた圧力信号の最大値及び最小値から圧力振幅を算出する(S9)。なお、流量補正値演算部1615が、圧力信号の最大値及び最小値から圧力振幅を算出する図示しない振幅検出部を備え、この振幅検出部で算出した圧力振幅を補正量導出部1614へ入力するようにしてもよい。
【0098】
次いで、振幅検出部(1)~(4)は、ステップS6で求めた各帯域通過フィルタ(1)~(4)を通過した流量信号の最大値及び最小値を用いて、各帯域通過フィルタ(1)~(4)を通過した流量信号の振幅(
図13のσ1~σ4に相当)を算出する(S10)。
【0099】
次いで、補正量導出部1614は、
図13から
図15に示した脈動補正の手法に基づいて脈動補正量(
図13のδに相当)を導出する(S11)。すなわち、補正量導出部1614は、ステップS6で求められた流量信号の最大値と最小値、ステップS8で求められた流量信号の平均値、及び、ステップS10で求められた各帯域通過フィルタ(1)~(4)を通過した流量信号の振幅を学習済みモデルに入力し、脈動補正量を得る。
【0100】
次いで、ECU27は、次回計算用に、流量信号の最大値、最小値、及び積算値、並びに、圧力信号の最大値及び最小値を初期化する(S12)。
【0101】
次いで、補正量導出部1614は、ステップS9で求められた圧力振幅が所定値以下であるかどうかを判定する(S13)。圧力振幅が所定値を超える場合には(S13のNO)、本フローチャートの処理を終了する。
【0102】
そして、圧力振幅が所定値以下である場合には(S13のYES)、流量補正部1620は、ステップS8で求めた流量信号の平均値(
図13の上側バー付きuに相当)に、ステップS11で求めた脈動補正量(
図13のδに相当)を乗算して、流量を補正する(S14)。このような一連の処理により、主流の流量(
図13の上側バー付きU)が求められる。ECU27は、内燃機関1のシリンダごとに
図17に示すフローチャートの一連の処理を周期的に繰り返し実行する。
【0103】
なお、本フローチャートでは全ての処理を一定周期ごとに行うと説明としたが、ステップS8以降をクランク角度に同期した処理として分離して実行してもよい。すなわち、ステップS8以降をクランク角度に同期した割り込み処理として構成してもよい。
【0104】
[スロットル弁開度、過給圧センサ検出値、流量センサ検出値の変化]
図18は、スロットリング状態からスロットル弁7を開くことで過給状態へと加速する際のスロットル弁7の開度、過給圧センサ9の検出値、流量センサ2の検出値の変化を示すタイミングチャートである。
図18において、横軸は時間[s]、縦軸は上段、中段、下段の順に、スロットル弁7の開度[deg]、スロットル弁7の下流圧力[MPa]、流量[kg/s]を示す。過給圧センサ9の検出値は、スロットル弁7の下流圧力である。
【0105】
同図からわかるように、中段においてスロットル弁7の下流圧力が非過給域(大気圧の下側)から過給域(大気圧の上側)に加速する際、スロットリング状態からスロットル弁7が開いた直後に大気圧条件までスロットル弁7下流に空気が充填される間(S13のNO判定に相当)は、下段に示す流量検出結果に脈動成分が存在しない。したがって、この間は、脈動補正の必要がないため脈動補正を停止する(脈動補正OFF)。流量検出結果に脈動が生じるのは、下段に示すように、スロットル弁7の下流圧力が大気圧条件となって以降である。脈動補正OFFの前後の時間帯では、脈動補正ONに設定されている。このように、適切に脈動補正を停止することで、過補正による流量誤差の発生を防止する。
【0106】
このように、本実施形態に係る電子制御装置(ECU27)は、吸気管に組み付けられたスロットル弁7の下流圧力の所定期間(特徴量検出期間)における変化量が所定値を超える場合(S13のNO相当)には、流量補正値演算部1615(補正量導出部1614)による補正値の演算を停止するように構成されている。
【0107】
また、本実施形態に係る電子制御装置(ECU27)は、流量演算部(電圧流量変換部1602)で演算された吸入空気の流量の所定期間(特徴量検出期間)における平均値、最大値、及び最小値、流量測定装置(流量センサ2)の出力信号に含まれる1以上の周波数の信号の振幅のいずれか又は複数が所定の範囲外となった場合、流量補正値演算部(補正量導出部1614)による補正値の演算を停止する構成としてもよい。
【0108】
吸入空気の流量の平均値、最大値、及び最小値、1以上の周波数の信号の振幅のいずれか又は複数が、所定の範囲外となった場合には、内燃機関1の異常が疑われる。このような場合、適切に脈動補正を停止することで、異常値による誤った流量誤差、又は、過補正による流量誤差の発生を防止できる。なお、このような内燃機関1の異常を検知した場合には、ECU27はフェールセーフ処理してもよい。
【0109】
[脈動振幅比と脈動補正値の関係]
図19は、上述した第1及び第2の実施形態の効果として、脈動振幅比と脈動補正値との関係を表したグラフである。ここでは、固定された回転速度(例えば1500rpm)で異なるスロットル弁開度に固定した動作点(運転条件)1~4において、流量センサ2の出力信号を複数回計測し、脈動振幅比と脈動補正値を演算している。
【0110】
上段は、動作点1~4において計測された脈動振幅比と流量センサ2の検出誤差から計算した複数の必要補正値を、それぞれ平均してプロットしたグラフである。「●」で示したプロット点は、各動作点1~4における計測平均値である。例えば、10秒間などの所定期間に得られた複数の脈動振幅比に対する必要補正値を平均する。
【0111】
中段は、特許文献1に記載の技術を適用して内燃機関1を動作させたときの補正値をプロットしたグラフである。「○」、「◇」、「△」、「□」で示したプロット点は、各動作点1~4において特許文献1に記載の制御を適用したときの計測平均値である。動作点3の補正値「△」と動作点4の補正値「□」は重ならないように上下にずらしてプロットしている。実線は、脈動補正マップに設定した補正値である。脈動補正マップは、変曲点を細かく設定して計測値をトレースするように設定することも可能である。例えば、実線を、動作点2側から動作点3側、そして動作点3側から動作点4側に結んだような形状に設定できる。しかし、脈動振幅比の変動に対して補正量が急変することは好ましくないため、中段に示したような実線の設定にしている。
【0112】
中段に示すように、回転速度及びスロットル弁開度を固定した各動作点(同じ運転条件)においても脈動振幅比が変動し、特に補正量の傾きが大きいところ(実線の傾斜部分)で補正量の変化が大きくなる。また、動作点3,4においては脈動振幅比が同程度(約300%)であるため、動作点3と動作点4の必要補正量は8%の開きがあるにも関わらず、同程度の補正値となる。
【0113】
下段は、本発明を適用した場合の補正値をプロットしたグラフである。「○」、「◇」、「△」、「□」で示したプロット点は、各動作点1~4において本発明の制御を適用したときの計測平均値である。同図に示すように、本発明(例えば
図13~
図15参照、
図12も含む)では各動作点の脈動特徴量から必要補正量を求めるため、動作点3,4の補正値を分離可能である。したがって、それぞれの動作点で必要な補正値を求めることが可能である。
【0114】
[高回転時の脈動振幅比と脈動補正値の関係]
図20は、上述した第1及び第2の実施形態の効果として、高回転時の脈動振幅比と脈動補正値の関係を表したグラフである。ここでは、比較的高速の固定された回転速度(例えば4000rpm)で異なるスロットル弁開度に固定した動作点(運転条件)1~4において、流量センサ2の出力信号を複数回計測し、脈動振幅比と脈動補正値を演算している。
【0115】
上段は、高回転速度(例えば4000rpm)の動作点1~4において計測された脈動振幅比と流量センサ2の検出誤差から計算した複数の必要補正値を、それぞれ平均してプロットしたグラフである。「●」で示したプロット点は、各動作点1~4における計測平均値である。
【0116】
中段は、脈動波形の特徴量として、異なる周波数の帯域通過フィルタ1604~1607を通過した流量信号の脈動振幅のみを、補正量導出部1614の入力とした場合の補正値をプロットしたグラフである。「○」、「◇」、「△」、「□」で示したプロット点は、各動作点1~4において流量信号の異なる周波数成分の脈動振幅を適用したときの計測平均値である。すなわち、各プロット点が示す補正値には、流量信号の最大値と最小値間における平均値の位置が加味されていない。同図に示すように、高回転においては脈動波形に含まれる周波数が上昇するが、高周波になるほど減衰が大きくなるために各動作点における特徴量の差が小さくなり、流量センサ2の検出誤差が大きくなる。そのため、動作点1~4の間で補正値のばらつきが大きい。
【0117】
下段は、本発明を適用した場合、すなわち脈動波形の特徴量として、異なる周波数の帯域通過フィルタ1604~1607を通過した流量信号の脈動振幅に、流量信号の平均値、最大値、及び最小値を加えた場合の補正値をプロットしたグラフである。「○」、「◇」、「△」、「□」で示したプロット点は、各動作点1~4において本発明の制御を適用したときの計測平均値である。同図に示すように、本発明では高周波成分が減衰しても
図11及び
図12で説明したとおり、流量信号の平均値、最大値、最小値の位置関係を脈動特徴量の一つに含むため、それぞれの動作点で必要な補正値を求めることが可能である。
【0118】
以上のとおり、第2の実施形態に係る電子制御装置(ECU27)は、吸気管に組み付けられた流量測定装置(流量センサ2)の出力信号に基づいて吸入空気の流量を演算する流量演算部(電圧流量変換部1602)と、その流量演算部で演算された吸入空気の流量の所定期間(特徴量検出期間)における平均値(μ)、最大値(max)、最小値(mix)と、流量測定装置の出力信号の基本周波数以上であって流量測定装置の出力信号に含まれる1以上の周波数の信号の振幅(σ1~σ4)とを演算し、演算結果を基に吸入空気の流量に対する補正値(δ)を演算する流量補正値演算部(流量補正値演算部1615)と、補正値に基づいて吸入空気の流量(上側バー付きu)を補正する流量補正部(流量補正部1620)と、を備えて構成される。
【0119】
上記のように構成された第2の実施形態によれば、流量測定装置(流量センサ2)の出力信号の平均値、最大値、最小値と、流量測定装置の出力信号に含まれる1以上の周波数成分の振幅情報とに基づいて、流量測定装置の検出誤差を補正する。それにより、流量測定装置位置において吸入空気の流れに種々の脈動が発生する内燃機関の運転条件であっても、吸入空気の流量を精度よく求めることができる。それゆえ、大脈動時に懸念される内燃機関の排ガス性状の悪化や燃費の悪化を防止することができる。
【0120】
また、上述した本実施形態に係る電子制御装置(ECU27)では、流量補正値演算部(流量補正値演算部1615)は、流量演算部(電圧流量変換部1602)で演算された吸入空気の流量の所定期間(特徴量検出期間)における平均値(μ)、最大値(max)、最小値(mix)と、流量測定装置(流量センサ2)の出力信号の基本周波数以上であって流量測定装置の出力信号に含まれる1以上の周波数の信号の振幅と、を入力とし、吸入空気の流量に対する補正値(例えば脈動補正量δ)を出力とするニューラルネットワークモデル(補正量導出部1614)を備える。
【0121】
上記のように構成された本実施形態によれば、ニューラルネットワークモデルを用いて、
図12に示した脈動補正多次元マップ1200を用いた場合と同じように、流量測定装置(流量センサ2)の出力信号の最大値と最小値間における平均値の位置の違いに応じた補正値を決定することができる。
【0122】
また、上述した本実施形態に係る電子制御装置(ECU27)では、上記補正値は、補正係数及び/又は補正量であり、流量補正部(流量補正部1620)は、流量演算部(電圧流量変換部1602)で演算された吸入空気の流量(上側バー付きu)に、補正係数(脈動補正量δ)を乗算、補正量を加算、又は、補正係数を乗算かつ補正量を加算する。
【0123】
<第3の実施形態>
第3の実施形態は、内燃機関1の回転速度に応じて、複数の帯域通過フィルタ1604~1607から使用する帯域通過フィルタを適宜選択する構成である。
【0124】
[脈動補正ロジック]
図21は、本発明の第3の実施形態に係るECU27Aに実装される、流量センサ2の検出誤差を補正する脈動補正ロジックの例を示すブロック図である。ECU27Aは、ECU27(
図16参照)と比較して、周波数選択部1617を備える点が異なる。以下、ECU27Aについて、ECU27との相違点に着目して説明する。
【0125】
周波数選択部1617は、回転速度演算部1603で演算された内燃機関1の回転速度に基づいて、複数の帯域通過フィルタ1604~1607から使用する帯域通過フィルタを選択し、選択信号を該当する帯域通過フィルタに出力する。
【0126】
周波数選択部1617から選択信号を受信した帯域通過フィルタは、電圧流量変換部1602から入力される流量信号(脈動波形)に対してフィルタ処理を行い、処理結果を対応する振幅検出部へ出力する。
【0127】
このように、本実施形態に係る流量補正値演算部(流量補正値演算部1615)は、流量測定装置(流量センサ2)の出力信号に含まれる1以上の周波数の信号の振幅を演算する際に、内燃機関の回転速度に基づいて演算対象の周波数を選択する周波数選択部(周波数選択部1617)を備える。
【0128】
この周波数選択部(周波数選択部1617)は、流量測定装置(流量センサ2)の出力信号に含まれる1以上の周波数の信号の振幅が演算される際に、内燃機関の回転速度により決まる基本周波数及び高調波の周波数から、少なくとも一つ以上の周波数の組み合わせを選択する。例えば、帯域通過フィルタ(1)~(4)のうち、帯域通過フィルタ(1)を基本周波数、帯域通過フィルタ(2)~(4)を第2~第4高調波の周波数に設定するなどの構成が考えられる。補正値の推論精度を向上させる上で、基本周波数を含む複数の周波数(帯域通過フィルタ)を選択することが有用である。ただし、基本周波数のみ、又は基本周波数を含まない複数の周波数を選択してもよい。
【0129】
また、周波数選択部(周波数選択部1617)は、流量測定装置(流量センサ2)の出力信号に含まれる1以上の周波数の信号の振幅が演算される際に、固定された1以上の周波数と、内燃機関の回転速度により決まる基本周波数及び高調波の周波数と、から少なくとも一つ以上の周波数の組み合わせを選択するように構成してもよい。例えば、帯域通過フィルタ(1)~(4)のうち、帯域通過フィルタ(1)を固定の周波数、帯域通過フィルタ(2)を基本周波数、帯域通過フィルタ(3),(4)を高調波の周波数に設定するなどの構成が考えられる。
【0130】
以上のように構成された第3の実施形態では、第1及び第2の実施形態と同様の効果を得られる。さらに、第3の実施形態では、第1及び第2の実施形態と異なる下記の効果も得られる。第3の実施形態によれば、周波数選択部(周波数選択部1617)により、内燃機関の回転速度に応じて適切な演算対象の周波数を選択することができる。それゆえ、流量測定装置(流量センサ2)の出力信号に含まれる任意の周波数の信号の振幅を加味して、吸入空気の流量の補正値を演算することができる。それゆえ、流量測定装置位置において吸入空気の流れに種々の脈動が発生する内燃機関の運転条件であっても、吸入空気の流量を精度よく求めることができる。
【0131】
<変形例>
なお、上述した第1から第3の実施形態では、流量センサ2の出力信号(流量信号)の最大値、最小値、及び平均値を用いる構成としたが、これに限定されない。例えば、流量信号の上側振幅(絶対値)と下側振幅(絶対値)と平均値の組み合わせや、振幅値と平均値と振幅内の平均値の位置との組み合わせを用いても、上記と同様の効果を奏する。
【0132】
また、上述した第1から第3の実施形態において、流量センサ2の出力信号に含まれる1以上の周波数のいずれかに対応して設けられた1以上の帯域通過フィルタ(帯域通過フィルタ(1)~(4))に代えて、図示しない1以上のフーリエ変換部を備える構成としてもよい。例えば、
図16に示した帯域通過フィルタ(1)~(4)に代えてフーリエ変換部(1)~(4)を設け、かつフーリエ変換部(1)~(4)に処理対象の周波数を設定する。
【0133】
フーリエ変換部(1)は、流量信号に対してフーリエ変換を行い、変換結果から基本波を取り出して振幅検出部(1)へ出力する。また、フーリエ変換部(2)は、流量信号に対してフーリエ変換を行い、変換結果から第2高調波を取り出して振幅検出部(2)へ出力する。同様に、フーリエ変換部(3)は、流量信号に対するフーリエ変換結果から第3高調波を取り出して振幅検出部(3)へ出力し、フーリエ変換部(4)は、流量信号に対するフーリエ変換結果から第4高調波を取り出して振幅検出部(4)へ出力する。
【0134】
そして、フーリエ変換部(1)~(4)に対応する振幅検出部(1)~(4)の各々が、対応するフーリエ変換部(1)~(4)から出力される基本波又は高調波の振幅を演算する。このように帯域通過フィルタに代えてフーリエ変換部を有する場合でも、帯域通過フィルタを備える場合と同様の効果が得られる。
【0135】
また、第1から第3の実施形態において、帯域通過フィルタ(1)~(4)の通過帯域を変更できる構成としてもよい。例えば、帯域通過フィルタは、その論理構成やパラメータ等を変更又は切り替えることにより、通過できる周波数帯を変えられる構成とする。周波数選択部1617は回転数に基づいて周波数を選択すると、いずれかの帯域通過フィルタ(1)~(4)に周波数選択信号を出力する。周波数選択信号が入力された帯域通過フィルタは、周波数選択信号に含まれる周波数情報に基づいて通過帯域を変更する。そして、帯域通過フィルタは、変更後の通過帯域を通過した信号を対応する振幅検出部へ出力する。
【0136】
さらに、本発明は上述した各実施形態に限られるものではなく、請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、その他種々の応用例、変形例を取り得ることは勿論である。
例えば、上述した各実施形態は本発明を分かりやすく説明するために電子制御装置(ECU27,27A)の構成を詳細かつ具体的に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成要素を備えるものに限定されない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成要素に置き換えることが可能である。また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成要素を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成要素の追加又は置換、削除をすることも可能である。
【0137】
また、上記の各構成、機能、処理部等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計するなどによりハードウェアで実現してもよい。ハードウェアとして、FPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの広義のプロセッサデバイスを用いてもよい。
【0138】
また、
図17に示すフローチャートにおいて、処理結果に影響を及ぼさない範囲で、複数の処理を並列的に実行したり、処理順序を変更したりしてもよい。
【符号の説明】
【0139】
1…内燃機関、 2…流量センサ、7…スロットル弁、 9…過給圧センサ、 15…燃料噴射弁、 16…点火プラグ、 18…クランク角度センサ、 22…EGR管、 24…EGR弁、 27,27A…ECU、 1602…電圧流量変換部、 1603…回転速度演算部、 1604~1607…帯域通過フィルタ、 1608…特徴量検出期間設定部、 1609…最大/最小/平均値演算部、 1610~1613…振幅検出部、 1614…補正量導出部、 1615…流量補正値演算部、 1616…電圧圧力変換部、 1620…流量補正部、 1615…流量補正値演算部、 1620…流量補正部