(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】鉄道車両
(51)【国際特許分類】
B61D 27/00 20060101AFI20240828BHJP
B61D 17/06 20060101ALI20240828BHJP
【FI】
B61D27/00 N
B61D17/06
(21)【出願番号】P 2022576929
(86)(22)【出願日】2021-01-25
(86)【国際出願番号】 JP2021002395
(87)【国際公開番号】W WO2022157964
(87)【国際公開日】2022-07-28
【審査請求日】2023-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】小畑 亮二
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2008-0030987(KR,A)
【文献】実公平6-35853(JP,Y2)
【文献】中国特許出願公開第106739953(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61D 27/00
B61D 17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室の空気を車外に排気する排気口を備える鉄道車両において、
前記排気口は、車両長手方向の両端に設けられた一対の妻構体に各々設けられており、
前記一対の妻構体には、それぞれ、
下方のみに開口する状態で前記排気口の周囲を覆うように配設され、前記排気口に連通する流路を形成するカバーと、
前記排気口を塞ぐ塞ぎ板であって、前記排気口より下側の位置で下端部を揺動可能に支持され、自重で前記妻構体に対して車外側に揺動する前記塞ぎ板と、
を有し、
前記塞ぎ板は、
車幅方向の横寸法が前記カバーより小さく設定され、前記妻構体と前記カバーとの間に架け渡された状態で前記カバーに係止されて前記流路の一部を塞ぎ、
走行時に前記カバーの下方から進入する風圧で妻構体側に揺動し、前記排気口を塞ぐこと、
を特徴とする鉄道車両。
【請求項2】
請求項1に記載する鉄道車両において、
前記塞ぎ板は、前記妻構体側に凹む受圧凹部を有すること、
を特徴とする鉄道車両。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載する鉄道車両において、
前記カバーの下方開口部に、前記流路に進入する外気を前記カバーの内壁に向かって整流する1又は2以上のルーバが配設されていること、
を特徴とする鉄道車両。
【請求項4】
請求項1から請求項3の何れか1つに記載する鉄道車両において、
前記妻構体は貫通幌が取り付けられ、
前記排気口は、前記貫通幌の上方に設けられていること、
を特徴とする鉄道車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室の空気を車外に排気する排気口を備える鉄道車両に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両では、一定量の新鮮気を空調設備に取り込んでコンディションを整えた調和空気を車室に供給する一方、車室の空気を車外に排出することで、換気を行っている。車室の空気は、開閉扉や戸袋の隙間などから車外に排出されるが、換気量を増やすために、車室の空気を車外に排出する排気口を構体に設けることがある。
【0003】
例えば、特許文献1には、車両長手方向の一方の端部に排気送風機室を設け、排気送風機室が妻構体側に排気口と開口部とを備える鉄道車両が開示されている。排気口は排気送風機に接続され、開口部は開閉装置を備える。開閉装置は、軸部回りに翼を回動させることによって開口率が調整され、車室の空気を車外に排出する。鉄道車両は、速度が比較的速くて、車室の空気の圧力が車外の空気の圧力より高い場合には、開閉装置を経由する排気ルートで排気を行う一方、速度が比較的遅く、車外の空気を車室に導入したい場合には、排気送風機を経由する排気ルートで排気を行う。
【0004】
例えば、特許文献2には、妻構体に設けられた排気口に、第1グリルと第2グリルと第3グリルの順に3列配置した整流手段を設けた鉄道車両が開示されている。第1グリルと第2グリルと第3グリルは、各々複数の水平ルーバからなる。第1~第3グリルの各水平ルーバは、水や飛沫等の進入を防止するように、傾斜する向きを調整して配置されている。
【0005】
例えば、特許文献3には、排気口に設けたシャッタを、コントローラが車内と車外との圧力差に応じて高速開閉する鉄道車両が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-71680号公報
【文献】特開2009-119943号公報
【文献】特開平10-152051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来技術には以下の問題があった。すなわち、特許文献1に記載される技術では、開閉装置の駆動に動力が必要であった。また、特許文献1に記載される技術では、排気送風機が停止された状態で、車両進行方向にある開閉装置が開口部を開くと、外気や雨水が開口部や排気口に流入することがあった。外気が排気口を介して車室に流入すると、車室温度が上昇するなど、車室環境を損なう虞がある。また、開閉装置や排気送風機の内部清掃には手間がかかるため、雨水が開閉装置や排気送風機に流入すると、雑菌などが開閉装置や排気送風機の内部で増殖する虞がある。
【0008】
特許文献2に記載される技術では、雨水の流入を防止できるものの、外気が車室に流入して車内環境を損なう虞がある。特許文献3に記載される技術では、車内圧力が車外圧力より高くされることで、外気や雨水の流入を防止できるものの、シャッタの駆動に動力を必要としていた。
【0009】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、車室の空気を車外に排気する排気口が妻構体に設けられた鉄道車両において、動力を使わずに換気を促進できると共に、外気や雨水が排気口に流入することを抑制できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、(1)車室の空気を車外に排気する排気口を備える鉄道車両において、前記排気口は、車両長手方向の両端に設けられた一対の妻構体に各々設けられており、前記一対の妻構体には、それぞれ、下方のみに開口する状態で前記排気口の周囲を覆うように配設され、前記排気口に連通する流路を形成するカバーと、前記排気口を塞ぐ塞ぎ板であって、前記排気口より下側の位置で下端部を揺動可能に支持され、自重で前記妻構体に対して車外側に揺動する前記塞ぎ板と、を有し、前記塞ぎ板は、車幅方向の横寸法が前記カバーより小さく設定され、前記妻構体と前記カバーとの間に架け渡された状態で前記カバーに係止されて前記流路の一部を塞ぎ、走行時に前記カバーの下方から進入する風圧で妻構体側に揺動し、前記排気口を塞ぐこと、を特徴とする。
【0011】
上記構成の鉄道車両は、停車中、一対の妻構体に設けられた塞ぎ板が、それぞれ、自重によってカバーに係止される位置まで揺動し、排気口を開放する。鉄道車両が走行し始めると、前方側(鉄道車両が進行する方向を基準として前方に位置する側)の妻構体では、カバーの下方から流路に進入した外気の風圧によって塞ぎ板が妻構体側に揺動し、排気口を塞ぐ。一方、後方側(鉄道車両が進行する方向を基準として後方に位置する側)の妻構体では、塞ぎ板が風圧を受けず、排気口を開放し続ける。このように、鉄道車両は、動力を使わなくても、塞ぎ板の自重と風圧を利用して、一対の妻構体の少なくとも一方において排気口を開放し、換気を促進できる。カバーが下方のみに開口する状態で排気口の周囲を覆うため、開放された排気口に雨水が流入しにくい。鉄道車両が走行する場合、前方側の妻構体では、塞ぎ板が風圧で排気口を塞ぐので、外気と雨水が排気口に流入しない。一方、後方側の妻構体では、塞ぎ板が排気口より下側の位置で妻構体とカバーとの間に掛け渡され、流路の一部を塞ぐので、カバー内に進入した雨水が排気口に流入することを抑制しつつ、車室の空気を排気口から車外に排出できる。従って、上記構成の鉄道車両によれば、動力を使わずに換気を促進できると共に、外気や雨水が排気口に流入することを抑制できる。
【0012】
(2)(1)に記載する鉄道車両において、前記塞ぎ板は、前記妻構体側に凹む受圧凹部を有すること、が好ましい。
【0013】
上記構成の鉄道車両は、受圧凹部によって、外気の風圧が塞ぎ板に作用する受圧面積が大きくされるので、車両走行開始後に、車両進行方向に位置する妻構体の塞ぎ板が風圧で排気口を塞ぎやすい。
【0014】
(3)(1)又は(2)に記載する鉄道車両において、前記カバーの下方開口部に、前記流路に進入する外気を前記カバーの内壁に向かって整流する1又は2以上のルーバが配設されていること、が好ましい。
【0015】
上記構成の鉄道車両は、カバーの下方から流路に進入した雨水がカバーの内壁に当たり、外気から除去されるため、雨水が排気口に流入しにくい。
【0016】
(4)(1)から(3)の何れか1つに記載する鉄道車両において、前記妻構体は貫通幌が取り付けられ、前記排気口は、前記貫通幌の上方に設けられていること、が好ましい。
【0017】
上記構成の鉄道車両は、走り出すと、貫通幌に沿って流れる外気がカバーの下方から進入し、塞ぎ板を風圧で揺動させやすい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、車室の空気を車外に排気する排気口が妻構体に設けられた鉄道車両において、動力を使わずに車室の換気を促進できると共に、走行中に外気や雨水が排気口に流入することを抑制できる技術を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係る鉄道車両の上面図である。
【
図3】
図1に示す鉄道車両を第1妻構体の車外側から見た図である。
【
図8】車両進行方向と外気の流れとの関係を説明する図である。
【
図9】前方側の妻構体に設置した塞ぎ板の動作を説明する図である。
【
図10】後方側の妻構体に設置した塞ぎ板の動作を説明する図である。
【
図12】車両進行方向と外気の流れとの関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態は、在来線で使用される小型車両に、本発明を適用したものである。
【0021】
(鉄道車両の構成)
図1は、本発明の実施形態に係る鉄道車両100の上面図である。
図1では、ダクト構造を示すため、屋根構体102の記載を省略している。
図2は、
図1のA-A断面図である。鉄道車両100は、台枠101と、屋根構体102と、第1及び第2側構体103A,103Bと、第1及び第2妻構体104A,104Bの6面体で車体を構成され、車室105を備える。第1及び第2妻構体104A,104Bは「一対の妻構体」の一例である。第1妻構体104Aは第1排気構造1Aを備え、第2妻構体104Bは第2排気構造1Bを備える。
【0022】
第1空調機120Aと第2空調機120Bは、屋根構体102上に設置され、屋根構体102と天井パネル108との間に配設された空調ダクト130に接続されている。空調ダクト130は、車室105に連通している。第1空調機120Aと第2空調機120Bは、それぞれ、車外と車室105から空気を取り入れるリターン口122と、調和空気を空調ダクト130に吹き出す吹出口123とを備える。第1及び第2側構体103A,103Bは、例えば、開閉扉106や図示しない戸袋や側窓を備える。
【0023】
図3は、
図1に示す鉄道車両100を第1妻構体104Aの車外側から見た図である。第1妻構体104Aは、ドア1041によって開閉される妻出入口1042が、車幅方向中央部に設けられている。第1妻構体104Aは、鉄道車両100同士を連結する場合、貫通幌107が妻出入口1042の外側に沿って取り付けられる。第1排気構造1Aは、貫通幌107の上方(妻出入口1042の上側)に、配設されている。第2妻構体104Bは、第1妻構体104Aと同様に構成されているので、説明を省略する。
【0024】
(排気構造の構成)
第1及び第2排気構造1A,1Bは同様に構成されている。そこで、以下の説明と図面において特に区別する必要がない場合、「第1及び第2妻構体104A,104B」を「妻構体104」と総称し、「第1及び第2排気構造1A,1B」を「排気構造1」と総称する。
図4は、排気構造1の正面図である。
図5は、
図4のB-B断面図である。
図6は、
図4のC-C断面図である。
図7は、
図5のD-D断面図である。
【0025】
排気構造1は、主として、排気ダクト2と、ベースプレート6と、塞ぎ板3と、カバー4とを備える。排気ダクト2は車内に配設され、車室105と連通している。ベースプレート6は、妻構体104の外側面に固定され、車室105の空気を車外に排出するための排気口61が形成されている。カバー4は、下方のみに開口する状態で排気口61の周囲を覆うように妻構体104に固定され、排気口61に連通する流路9を形成している。塞ぎ板3は、排気口61を塞ぐ部材である。塞ぎ板3は、排気口61より下側の位置で下端部をベースプレート6に揺動可能に支持され、自重で妻構体104に対して車外側に揺動するように設けられている。排気口61は妻構体に設けられた「排気口」の一例である。
【0026】
図5に示すように、妻構体104には、貫通幌107の上方(妻出入口1042の上側)に、構体開口部1043が開設されている。排気ダクト2は、屋根構体102と天井パネル108との間に配設され、構体開口部1043と車室105とを連通させている。排気ダクト2は、車室105側に位置する妻構体104の内側面に一端を溶接等で固定され、第1排気ダクト開口部21が構体開口部1043に連通している。排気ダクト2は、天井パネル108に他端を固定され、第2排気ダクト開口部22が車室105に連通している。
【0027】
図7に示すように、構体開口部1043は、車幅方向(図中左右方向)に横長な長方形状に設けられている。第1排気ダクト開口部21は、構体開口部1043より縦寸法と横寸法が短い長方形状に形成されている。ベースプレート6は、構体開口部1043より大きい長方形状をなし、構体開口部1043を塞ぐように妻構体104に固定されている。
【0028】
ベースプレート6には、第1排気ダクト開口部21と重なる位置に、排気口61が長方形状に開設されている。排気口61は、第1排気ダクト開口部21より小さい開口面積で形成されている。これにより、第1排気ダクト開口部21から流出される空気は、排気口61にて流速を加速させ、車外に排出されやすい。
【0029】
図4及び
図5に示すように、カバー4は、下方のみに開口する状態で排気口61の周囲を囲むように配設され、排気口61に連通する流路9を形成する。カバー4は、上板41と、一対の側板42,43と、前板44と、フランジ部45とを備える。上板41は、長方形状をなす。一対の側板42,43は、上板41の長手方向両端部に接続している。前板44は、上板41と一対の側板42,43の妻構体104と反対側に位置する前部に接続している。フランジ部45は、上板41と一対の側板42、43の妻構体104側に位置する後部に沿って、上板41と一対の側板42,43に対して直角に設けられている。
【0030】
図5及び
図6に示すように、カバー4は、ベースプレート6の外形とほぼ同じ寸法で形成され、フランジ部45をベースプレート6に重ねた状態で固定部材48によって妻構体104に固定されている。なお、カバー4とベースプレート6は個別に妻構体104に固定されてもよい。
【0031】
図5に示すように、カバー4には、受金5と複数のルーバ46を備える。受金5は、前板44の内壁にボルトや溶接などで固定され、妻構体104に対して車外側に揺動した塞ぎ板3を下側から支えるように係止する。
図4及び
図5に示すように、カバー4は、前板44とベースプレート6(妻構体104)との間の距離が、塞ぎ板3の上下方向(短辺方向)の寸法より短くなるように、設けられている。これにより、カバー4は、塞ぎ板3をカバー4内で揺動させて排気口61を開閉させつつ、カバー4が妻構体104から張り出す量を抑制し、空気抵抗を低減させることができる。
図5及び
図6に示すように、塞ぎ板3が妻構体104に対して車外側に揺動した場合、妻構体104と前板44との間に架け渡されるように、カバー4は受金5の取付位置を調整されている。
【0032】
図4及び
図5に示すように、複数のルーバ46は、カバー4の下方開口部に配設され、流路9に進入する外気を整流する整流手段を構成する。
図6に示すように、複数のルーバ46は、妻構体104に対して平行に配列され、両端部が一対の側板42,43に固定されている。複数のルーバ46は、カバー4の下方開口部に進入した外気を前板44に案内するように、向きを調整されている。
【0033】
塞ぎ板3は、排気口61より大きい長方形状をなし、一対の蝶番8,8を介してベースプレート6に取り付けられている。一対の蝶番8,8は、それぞれ、塞ぎ板3の下端部と、ベースプレート6の排気口61より下側部分とに結合されている。塞ぎ板3は、重心より下側に位置する下端部が一対の蝶番8,8を介してベースプレート6に連結されているので、自重で妻構体104に対して車外側に揺動して排気口61を開放することができる。
【0034】
ベースプレート6は、妻構体104に当接する裏面と反対側に位置する表面に、パッキン7が接着されている。パッキン7は、弾性材料で形成され、排気口61の車幅方向外縁部(
図7において左右の外縁部)と上側外縁部(
図7において上側の外縁部)に沿って配設されている。塞ぎ板3は、パッキン7を介して、妻構体104に固定されたベースプレート6に係止され、排気口61を塞ぐ。
【0035】
図5及び
図6に示すように、塞ぎ板3は、排気口61に対応する位置に、受圧凹部3aが設けられている。塞ぎ板3は、排気口61より内側となる領域で、妻構体104側に凹むように受圧凹部3aが形成されている。これにより、塞ぎ板3は、受圧凹部3aをベースプレート6に衝突させることなく揺動し、パッキン7に密着できる。
【0036】
本実施形態の受圧凹部3aは、
図5に示すように、塞ぎ板3を短辺方向(図中上下方向)に沿って切断した場合の断面において、直角三角形状になるように設けられている。受圧凹部3aは、直角部が塞ぎ板3の重心より上側に位置するように配設され、塞ぎ板3が自重で、妻構体104に対して車外側に揺動しやすくしている。尚、受圧凹部3aの断面形状は、本実施形態に限らず、直角三角形以外の三角形状でもよいし、矩形状や円弧形状であってもよい。
【0037】
本実施形態の塞ぎ板3は、
図6及び
図7に示すように、長方形状の枠体31の中央開口部に、受圧凹部3aを形成する受圧凹部形成部材32を嵌め合わせ、固定部材33を用いて両者を結合することで形成されている。
【0038】
図6に二点鎖線で示すように、塞ぎ板3は、車幅方向(図中左右方向)の横寸法がカバー4の車幅方向の横寸法(一対の側板42,43の間隔)より小さく設定され、受金5に係止された場合に流路9の一部を塞ぐ。そのため、塞ぎ板3が受金5に係止された場合、排気口61は、側板42と塞ぎ板3との間に形成される空隙部9aと、側板43と塞ぎ板3との間に形成される空隙部9bを介して、カバー4の下方開口部と連通する。
【0039】
続いて、鉄道車両100の排気動作について説明する。
図2に示すように、鉄道車両100では、第1及び第2空調機120A,120Bがリターン口122を介して車外と車室105から空気を取り入れて調和空気を生成し、吹出口123から空調ダクト130に供給する。調和空気は、空調ダクト130から車室105に供給される。そのため、車室105は、車外から取り入れた新鮮気の分だけ、圧力が上昇する。そこで、車室105の空気は、開閉扉106や図示しない戸袋の隙間や第1及び第2排気構造1A,1Bから、新鮮気と同じ風量で車外に排出される。
【0040】
図5に示すように、塞ぎ板3は、重心より下側となる下端部が、ベースプレート6に揺動可能に支持されている。そのため、鉄道車両100が停車する場合、
図2に示すように、第1及び第2妻構体104A,104Bでは、それぞれ、塞ぎ板3が下端部を基点に、妻構体104に対して車外側へ自重で揺動して、受金5に係止され、排気口61を開放する。このように、排気口61を開放する塞ぎ板3の姿勢を「第1姿勢」とする。
【0041】
この場合、
図2に示すように、鉄道車両100は、開閉扉106や戸袋の隙間だけでなく、第1及び第2妻構体104A,104Bの排気口61からも、車室105の空気を車外に排出する。よって、鉄道車両100は、新鮮気の導入量を増やして、車室105の換気を促進することができる。排気口61は、妻出入口1042より上方に設けられている。そのため、鉄道車両100は、開閉扉106や図示しない戸袋の隙間などから排出できない空気(例えば、天井パネル108付近や妻構体104付近の空気)を、排気口61を介して車外に排出でき、車室105全体の換気を促進できる。
【0042】
図8は、車両進行方向X1と外気の流れY1との関係を説明する図である。
図8の矢印X1は、列車(鉄道車両100)の進む方向(以下「車両進行方向」とする)を示し、矢印Y1は列車(鉄道車両100)から見た外気の流れを示す。鉄道車両100は、貫通幌107を介して別の鉄道車両100に連結され、列車を編成する。
【0043】
列車が車両進行方向X1(図中左方向)に走り出すと、図中矢印Y1に示すように、外気が、車両進行方向X1と反対向きに鉄道車両100や貫通幌107の周りを流れる。鉄道車両100の連結部では、前方の鉄道車両100の屋根構体102に沿って車両進行方向X1と逆向きに流れる外気が、後方側[鉄道車両が進行する方向(ここでは車両進行方向X1)を基準として後方に位置する側]の第2妻構体104B付近で貫通幌107側に向きを変える。外気は、貫通幌107の上面に沿って、後方の鉄道車両100に向かって流れると、後方の鉄道車両100の前方側[鉄道車両が進行する方向(ここでは車両進行方向X1)を基準として前方に位置する側]の第1妻構体104Aに当たり、屋根構体102側に流れ方向を変える。そして、外気は、後方の鉄道車両100の屋根構体102に沿って車両進行方向X1と逆向きに流れる。
【0044】
各鉄道車両100では、前方側の第1妻構体104A付近が正圧となり、後方側の第2妻構体104B付近が負圧となる。
【0045】
図9は、前方側の第1妻構体104Aに設置した塞ぎ板3の動作を説明する図である。図中Y1に示すように、貫通幌107に沿って後方に流れた外気は、第1妻構体104Aに当たると、屋根構体102側に向きを変え、カバー4の下方開口部から流路9に進入する。外気は、ルーバ46,46によって、前板44に向かって流れる。外気は、前板44にぶつかった後、第1姿勢の塞ぎ板3に向かって流れる。塞ぎ板3は、この外気の風圧によって、第1妻構体104A側へ押圧される。
【0046】
カバー4は下方のみに開口している。そのため、塞ぎ板3に作用する風圧は、鉄道車両100が加速するにつれて、上昇する。塞ぎ板3に作用する風圧が塞ぎ板3の自重を超えると、塞ぎ板3は、第1妻構体104A側に高速で揺動する。塞ぎ板3は、パッキン7を介して第1妻構体104Aに係止され、排気口61を塞ぐ。この排気口61を塞ぐ塞ぎ板3の姿勢を「第2姿勢」とする。例えば、車速が時速30~40kmに到達すると、塞ぎ板3が風圧で自動的に第1姿勢から第2姿勢に変位する。これにより、鉄道車両100は、走行中、前方側の第1妻構体104A付近が正圧となり、外気や雨水がカバー4内に入り込んでも、排気口61に外気や雨水が流入しない。
【0047】
特に、塞ぎ板3の下端部は、
図7に示すように、ベースプレート6と僅かに重なる状態で一対の蝶番8,8を介してベースプレート6に支持されている。また、塞ぎ板3の上端外縁部と左右外縁部は、パッキン7に密着する。よって、第2姿勢となった塞ぎ板3は、排気口61の周囲に殆ど隙間を形成せずに、排気口61を塞ぐことができ、外気や雨水が排気口61に流入することを防止できる。
【0048】
図10は、後方側の第2妻構体104Bに設置した塞ぎ板3の動作を説明する図である。
図11は、排気の流れZを説明する図である。図中Y1に示すように、第1妻構体104A側から屋根構体102に沿って流れた外気は、後方側の第2妻構体104Bにて、第2排気構造1Bのカバー4側に向きを変える。そして、貫通幌107に沿って後方へ流れる。車内側からの排気風量と塞ぎ板3の自重により、第2妻構体104Bの塞ぎ板3は、鉄道車両100が走行を開始した後も、第1姿勢を維持し続ける。
【0049】
第2妻構体104B付近が負圧状態であれば、流路9の空気は、カバー4の下方からカバー4の外側に吸引される。これにより、流路9の圧力が、車室105の圧力より低くなり、車室105の空気が排気口61から車外に排出されやすい。
【0050】
図11に示すように、第1姿勢の塞ぎ板3の車幅方向両側には、空隙部9a,9bが形成されている。そのため、排気口61から排出された空気は、図中矢印Zに示すように、空隙部9a,9bを通ってカバー4の下方へ流れる。流路9の流路面積が空隙部9a,9bにて絞られるため、排気口61から排出された空気は、空隙部9a,9bにて流速を加速され、カバー4から流出しやすい。
【0051】
尚、鉄道車両100が雨天時に走行しても、カバー4が排気口61の周りを覆っているため、雨水が開放された排気口61に流入しない。仮に、貫通幌107に当たった雨水が、カバー4内に入り込んでも、塞ぎ板3が第2妻構体104Bとカバー4の前板44との間に掛け渡されている。そのため、雨水は、塞ぎ板3に遮られ、排気口61に流入しにくい。
【0052】
鉄道車両100は、走行中、第1妻構体104A側の排気口61は塞ぎ板3によって塞がれるが、第2妻構体104B側の排気口61は開放されている。そのため、鉄道車両100は、走行中に開閉扉106が閉じられているが、車室105の空気を一方の排気口61から排気することができ、車室105の換気が促進される。
【0053】
鉄道車両100が減速して停車する場合、前方側の第1妻構体104Aでは、塞ぎ板3に作用する風圧が小さくなる。塞ぎ板3は、一対の蝶番8,8を基点として、第1妻構体104Aに対して車外側に高速で揺動し、第2姿勢から第1姿勢に自動的に復帰する。なお、第2妻構体104B側に設けた塞ぎ板3は、第1姿勢を維持し続ける。第1妻構体104Aと第2妻構体104Bの塞ぎ板3がそれぞれ第1姿勢になると、車両停車時と同様に、車室105の空気が、第1妻構体104Aと第2妻構体104Bの両方の排気口61から車外に排出される。
【0054】
なお、
図12に示すように、鉄道車両100が、上記車両進行方向X1と反対の車両進行方向X2に進行する場合、図中Y2に示すように、外気の流れも反対となる。この場合、第2妻構体104Bが前方側の妻構体となり、第1妻構体104Aが後方側の妻構体となる。この場合、鉄道車両100は、走行中、第2妻構体104Bに設けられた第2排気構造1Bの塞ぎ板3が第2姿勢となり、第1妻構体104Aに設けられた第1排気構造1Aの塞ぎ板3が第1姿勢となる。この動作は、鉄道車両100が車両進行方向X1に走行する場合と同様なので、説明を省略する。
【0055】
(流入確認試験について)
発明者らは、鉄道車両100と同様の構成を備える実車を用いて、車両走行時に排気口61に外気が流入するか否かを確認する実験を行った。実験では、タフト法(目視可能な糸)若しくは煙を用いて、車室105の空気の流れを可視化した。車室105にビデオカメラを設置し、可視化した空気の流れを撮影し録画した。その結果、車両停車時にも、車両走行時にも、外気が車室105に流入しないことを確認した。
【0056】
以上説明したように、本実施形態の鉄道車両100は、停車中、第1及び第2妻構体104A,104Bに設けられた塞ぎ板3が、それぞれ、自重によってカバー4に係止される位置まで揺動し、排気口61を開放する。鉄道車両100が走行し始めると、前方側[車両進行方向X1(X2)に位置する側]の第1妻構体104A(第2妻構体104B)では、塞ぎ板3が風圧によって第1妻構体104A(第2妻構体104B)側に揺動し、排気口61を塞ぐ。一方、後方側[車両進行方向X1(X2)と反対側に位置する側]の第2妻構体104B(第1妻構体104A)では、塞ぎ板3が風圧を受けず、排気口61を開放し続ける。このように、鉄道車両100は、動力を使わなくても、塞ぎ板の自重と風圧を利用して、第1妻構体104Aと第2妻構体104Bの少なくとも一方において排気口61を開放し、排気を促進できる。カバー4が下方のみに開口する状態で排気口61の周囲を覆うため、開放された排気口61に雨水が流入しにくい。鉄道車両100が走行する場合、前方側の第1妻構体104A(第2妻構体104B)では、塞ぎ板3が風圧で排気口61を塞ぐので、外気と雨水が排気口61に流入しない。一方、後方側の第2妻構体104B(第1妻構体104A)では、塞ぎ板3が排気口61より下側の位置で妻構体104とカバー4との間に掛け渡され、流路9の一部を塞ぐので、カバー4内に入り込んだ雨水が排気口61に流入することを抑制しつつ、車室105の空気を排気口61から車外に排出できる。従って、本実施形態の鉄道車両100によれば、動力を使わずに車室105の換気を促進できると共に、走行中に外気や雨水が排気口61に逆入することを抑制できる。
【0057】
尚、本発明は、上記実施形態に限定されることなく、色々な応用が可能である。例えば、特急列車等に本発明の鉄道車両を適用してもよい。
【0058】
塞ぎ板3は受圧凹部3aを備えなくてもよい。但し、上記実施形態のように塞ぎ板3に受圧凹部3aを設けると、受圧凹部3aによって、外気の風圧が塞ぎ板3に作用する受圧面積が大きくされる。これにより、鉄道車両100は、車両走行開始後、前方側の第1妻構体104A(第2妻構体104B)の塞ぎ板3が風圧で排気口61を塞ぎやすくなる。
【0059】
ルーバ46は1つでもよい。また、ルーバ46は、省略してもよい。但し、上記実施形態のように、カバー4の下方から流路9に進入した外気をカバー4(前板44)の内壁に向かって整流するようにルーバ46をカバー4に設けることにより、カバー4の下方から流路9に進入した雨水が、カバー4(前板44)の内壁に当たり、外気から除去される。そのため、雨水が排気口61に流入しにくくなる。
【0060】
排気口61は、貫通幌107(妻出入口1042)の側方に設けられてもよい。但し、上記実施形態のように排気口61が貫通幌107の上方(妻出入口1042の上側)に設けた場合、鉄道車両100が走り出すと、貫通幌107に沿って流れる外気がカバー4の下方から進入し、塞ぎ板3を風圧で揺動させやすくなる。
【0061】
受金5を省略し、カバー4の前板44によって塞ぎ板3を係止してもよい。但し、カバー4に受金5を設けることで、塞ぎ板3とカバー4との間で生じる摩擦を減らし、塞ぎ板3を円滑に揺動させることができる。
【0062】
受金5は、一対の側板42,43の両方若しくは一方の内壁に取り付けられてもよい。但し、上記実施形態のように受金5を前板44に固定し、塞ぎ板3の揺動経路上に配設することで、塞ぎ板3が受金5に係止された場合に形成される空隙部9a,9bを広く確保し、排気効率を良好にすることができる。
【0063】
カバー4の形状は上記実施形態に限らず、例えば、上板41と前板44との接続部分を円弧状に形成してもよい。また、カバー4の後部に後板を設けてもよい。但し、上記実施形態のように、カバー4は、前板44と対向する面を備えなくても、妻構体104に固定されることで、妻構体104との間に流路9を形成できる。これによれば、カバー4の下方開口部付近に余分な段差が形成されず、妻構体104にぶつかった外気をカバー4に円滑に進入させることができる。
【0064】
排気ダクト2は、排気ファンを介して車室105に連通させてもよい。排気ファンが稼動している場合でも、車速が速いと、妻構体104に作用する風圧が大きくなり、外気や雨水が排気口61に流入する虞がある。しかし、上記実施形態のように、塞ぎ板3やカバー4などを備えることで、外気や雨水が排気口61に流入することを防止できる。
【0065】
塞ぎ板3は1部品で形成してもよい。但し、上記実施形態のように、枠体31と受圧凹部形成部材32を別々に形成することで、塞ぎ板3を加工する手間を軽減できる。
【0066】
例えば、
図5に示すように、天井パネル108に取り付けられて第2排気ダクト開口部22を覆う部材を備える場合、その部材を天井パネル108から取り外し、第2排気ダクト開口部22側から排気口61の排気ダクト2側に、虫等の侵入を防ぐフィルタを設置してもよい。
【符号の説明】
【0067】
3 塞ぎ板
4 カバー
9 流路
61 排気口
100 鉄道車両
104A 第1妻構体
104B 第2妻構体
105 車室