IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ポスコ カンパニー リミテッドの特許一覧

特許7545497耐食性、加工性及び表面品質に優れためっき鋼板、並びにその製造方法
<>
  • 特許-耐食性、加工性及び表面品質に優れためっき鋼板、並びにその製造方法 図1
  • 特許-耐食性、加工性及び表面品質に優れためっき鋼板、並びにその製造方法 図2
  • 特許-耐食性、加工性及び表面品質に優れためっき鋼板、並びにその製造方法 図3
  • 特許-耐食性、加工性及び表面品質に優れためっき鋼板、並びにその製造方法 図4
  • 特許-耐食性、加工性及び表面品質に優れためっき鋼板、並びにその製造方法 図5
  • 特許-耐食性、加工性及び表面品質に優れためっき鋼板、並びにその製造方法 図6
  • 特許-耐食性、加工性及び表面品質に優れためっき鋼板、並びにその製造方法 図7
  • 特許-耐食性、加工性及び表面品質に優れためっき鋼板、並びにその製造方法 図8
  • 特許-耐食性、加工性及び表面品質に優れためっき鋼板、並びにその製造方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】耐食性、加工性及び表面品質に優れためっき鋼板、並びにその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 2/06 20060101AFI20240828BHJP
   C23C 2/02 20060101ALI20240828BHJP
   C23C 2/40 20060101ALI20240828BHJP
   C23C 2/26 20060101ALI20240828BHJP
   C22C 18/04 20060101ALI20240828BHJP
   C22C 21/10 20060101ALI20240828BHJP
【FI】
C23C2/06
C23C2/02
C23C2/40
C23C2/26
C22C18/04
C22C21/10
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2022578875
(86)(22)【出願日】2021-06-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-14
(86)【国際出願番号】 KR2021007705
(87)【国際公開番号】W WO2021256906
(87)【国際公開日】2021-12-23
【審査請求日】2023-02-15
(31)【優先権主張番号】10-2020-0075335
(32)【優先日】2020-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】ソン、 イル-リョン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 スン-ユ
(72)【発明者】
【氏名】キム、 テ-チョル
(72)【発明者】
【氏名】ユ、 ボン-ファン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ミュン-ス
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ジョン-サン
(72)【発明者】
【氏名】ハン、 サン-テ
(72)【発明者】
【氏名】キム、 クワン-ウォン
【審査官】菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/108496(WO,A1)
【文献】特開2006-009100(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0070841(KR,A)
【文献】国際公開第2020/111775(WO,A1)
【文献】特開2011-214145(JP,A)
【文献】国際公開第2018/139620(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0066339(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/06
C23C 2/02
C23C 2/40
C23C 2/26
C22C 18/04
C22C 21/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地鋼板と、
前記素地鋼板の少なくとも一面に設けられたZn-Mg-Al系めっき層と、
前記素地鋼板と前記Zn-Mg-Al系めっき層との間に設けられ、FeとAlの金属間化合物を含むFe-Al系抑制層と、を含み、
前記めっき層は、重量%で、Mg:4%以上、Al:Mg含量の2.1倍以上14.2%以下、Si:0.2%以下(0%を含む)、Sn:0.1%以下(0%を含む)、残部Zn及び不可避不純物を含み、
鋼板の厚さ方向の切断面において、素地鋼板の界面線をめっき層の表面側へ5μm離隔させたとき、前記離隔した線と交差するアウトバースト相が占有する長さが、前記離隔した線の長さに対して10%以下であり、
前記めっき層と前記抑制層との界面に接触する長径が500nm以上であるMg Si相の個数が100μm当たり10個以下である、めっき鋼板。
【請求項2】
鋼板の厚さ方向の切断面において、素地鋼板の界面線をめっき層の表面側へ5μm離隔させたとき、前記離隔した線と交差するアウトバースト相が占有する長さが、前記離隔した線の長さに対して%以下である、請求項1に記載のめっき鋼板。
【請求項3】
前記アウトバースト相のFe含量は、重量%で10~45%であり、
前記アウトバースト相の合金相は、FeAl、FeAl及びFe-Zn系のうち1種以上を含み、Znを重量%で20%以上含む、請求項2に記載のめっき鋼板。
【請求項4】
前記めっき層の断面硬度は200~450Hvである、請求項1に記載のめっき鋼板。
【請求項5】
前記めっき層と前記抑制層との界面に接触する長径が500nm以上であるMgSi相の個数が100μm当たり個以下である、請求項4に記載のめっき鋼板。
【請求項6】
前記めっき層のSi含量は0.01%以下である、請求項1に記載のめっき鋼板。
【請求項7】
前記めっき層のSn含量は0.09%以下である、請求項1に記載のめっき鋼板。
【請求項8】
前記めっき層のSn含量は0.05%以下である、請求項7に記載のめっき鋼板。
【請求項9】
前記めっき層のFe含量は1%以下である、請求項1に記載のめっき鋼板。
【請求項10】
前記抑制層は、その厚さが0.02μm以上2.5μm以下である、請求項1に記載のめっき鋼板。
【請求項11】
MgZn相の内部に含まれたAl単相の面積の和が全めっき層の断面積に対して0.5~10%の面積比率で存在する、請求項1に記載のめっき鋼板。
【請求項12】
前記Al単相は、MgZn相の内部に全部または一部が位置する、請求項11に記載のめっき鋼板。
【請求項13】
前記MgZn相の内部に含まれた前記Al単相は、以下の記載のうち少なくとも一つの場合に該当するAl単相である、請求項12に記載のめっき鋼板。
- MgZn相の内部に含まれ、MgZn相により全部含まれたAl単相
- 一部はMgZn相の内部に含まれ、一部はMgZn相の外部に突出したAl単相
- MgZn相の内部にAlとZnの混合相が全部含まれ、前記AlとZnの混合相の内部に全部が含まれたAl単相
- 一部はMgZn相の内部に含まれ、一部はMgZn相の外部に突出したAlとZnの混合相に全部が含まれたAl単相
- 一部はMgZn相の内部に含まれ、一部はMgZn相の外部に突出したAlとZnの混合相に一部が含まれたAl単相であって、MgZn領域の内部に全部が含まれたAl単相
- 一部はMgZn相の内部に含まれ、一部はMgZn相の外部に突出したAlとZnの混合相に一部が含まれたAl単相であって、一部はMgZn領域の内部に含まれ、一部はMgZn領域の外部に突出したAl単相
【請求項14】
前記Al単相は、重量%で、Al:40~70%、残部Zn及びその他の不可避不純物を含む、請求項12に記載のめっき鋼板。
【請求項15】
前記めっき層において、めっき層の全断面に対するAl単相の比率は面積分率で1~15%である、請求項12に記載のめっき鋼板。
【請求項16】
前記めっき層の表面粗さRaは0.5~3.0μmである、請求項1に記載のめっき鋼板。
【請求項17】
前記めっき層の表面粗さRzは1~20μmである、請求項1に記載のめっき鋼板。
【請求項18】
前記めっき層の厚さは5~100μmである、請求項1に記載のめっき鋼板。
【請求項19】
Alの(200)面のX線回折強度I(200)と、Alの(111)面のX線回折強度I(111)との比である回折強度比I(200)/I(111)が0.8以下である、請求項1に記載のめっき鋼板。
【請求項20】
大気環境及びISO14993の塩化物環境下で、前記Zn-Mg-Al系めっき層の表面に、LDH((Zn、Mg)Al(OH)16(CO)・4HO)がシモンコライト(Zn(OH)Cl)及びヒドロジンサイト(Zn(OH)(CO)よりも先に形成される、請求項1に記載のめっき鋼板。
【請求項21】
大気環境及びISO14993の塩化物環境下で、前記Zn-Mg-Al系めっき層の表面に、LDH((Zn、Mg)Al(OH)16(CO)・4HO)が大気環境で6時間、ISO14993の塩化物環境で5分以内に形成される、請求項1に記載のめっき鋼板。
【請求項22】
塩水噴霧及び浸漬環境を含む塩化物環境で赤錆発生にかかる時間が、同一厚さのZnめっきに対して、平板部で40~50倍であり、及び90度の曲げ加工部で20~30倍である、請求項1に記載のめっき鋼板。
【請求項23】
素地鋼板を、重量%で、Mg:4%以上、Al:Mg含量の2.1倍以上14.2%以下、Si:0.2%以下(0%を含む)、Sn:0.1%以下(0%含む)、残部Zn及び不可避不純物を含み、平衡状態図上の凝固開始温度に対して20~80℃の高い温度に保持されるめっき浴に浸漬して、溶融亜鉛めっきする段階と、
めっき浴湯面から冷却を開始してトップロール区間まで3~30℃/sの平均冷却速度で不活性ガスを用いて冷却する段階と、
を含み、
前記冷却する段階は、下記関係式1-1及び1-2を満たすように冷却速度を制御する、めっき鋼板の製造方法。
[関係式1-1]
A>2.5/{ln(t×20)}1/2×B
[関係式1-2]
0.7×C≦B≦1.2×C
[前記関係式1-1及び1-2において、前記tは鋼板の厚さ(mm)であり、前記Aはめっき浴温度から凝固開始温度までの平均冷却速度(℃/s)であり、前記Bは前記凝固開始温度から凝固開始温度-30℃までの平均冷却速度(℃/s)であり、前記Cは凝固開始温度-30℃から300℃までの平均冷却速度(℃/s)である。]
【請求項24】
溶融亜鉛めっきする段階の後に、下記関係式2を満たすようにエアナイフ処理を行う、請求項23に記載のめっき鋼板の製造方法。
[関係式2]
0.1≦(AK間隔×鋼板の厚さ)/AK圧力≦25
[前記関係式2において、前記AK間隔はナイフ間の間隔(mm)を示し、前記鋼板の厚さは素地鋼板、めっき層及び抑制層を全て含む鋼板の厚さ(mm)を示し、前記AK圧力はノズルのエアナイフ圧力(KPa)を示す。]
【請求項25】
溶融亜鉛めっきする段階の前に、ショットブラスト処理を行って素地鋼板の表面酸化物を除去する段階をさらに含み、
前記ショットブラスト処理は、直径が0.3~10μmである金属材ボールを用いて、50~150mpmの運行速度で進行する鋼板に、300~3,000kg/minの金属材ボールを鋼板の表面に衝突させるように行われる、請求項23に記載のめっき鋼板の製造方法。
【請求項26】
前記冷却する段階は、センター部のダンパ開度率Dcに対するエッジ部のダンパ開度率Deの比率De/Dcが60~99%を満たすように冷却を行う、請求項23に記載のめっき鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐食性、加工性及び表面品質に優れためっき鋼板、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛系めっき鋼板は、腐食環境に晒されたとき、鉄より酸化還元電位が低い亜鉛が先に腐食し、鋼材の腐食を抑制する犠牲防食の特性を有する。また、めっき層の亜鉛は酸化しながら鋼材の表面に緻密な腐食生成物を形成し、酸化雰囲気から鋼材を遮断することで鋼材の耐腐食性を向上させる。このような有利な特性により、亜鉛系めっき鋼板は、最近、建材、家電製品及び自動車用鋼板にその適用範囲が拡大している。
【0003】
しかし、産業の高度化に伴う大気汚染の増加によって腐食環境が徐々に悪化しており、資源及び省エネに対する厳しい規制により、従来の亜鉛めっき鋼材よりも優れた耐食性を有する鋼材の開発に対する必要性が高まっている。
【0004】
このような問題を改善するために、亜鉛めっき浴にアルミニウム(Al)及びマグネシウム(Mg)などの元素を添加して鋼材の耐食性を向上させる亜鉛合金系めっき鋼板の製造技術に関する研究が様々に進められている。代表的な例としては、Zn-Alめっき組成系にMgをさらに添加したZn-Mg-Al系亜鉛合金めっき鋼板がある。
【0005】
一方、Zn-Mg-Al系亜鉛合金めっき鋼板の場合、加工されて使用されることが多いが、めっき層内に硬度の高い金属間化合物を多量に含んでおり、曲げ加工時にめっき層内にクラックを引き起こすなど、曲げ加工性が悪くなるという欠点がある。加工後にも、スポット溶接などによる溶接時に、溶融状態の亜鉛が素地鉄の結晶粒界に沿って浸透して脆性クラックを誘発する、いわゆる液相金属脆化(LME;Liquid Metal Embrittlement)が発生するという問題もある。
【0006】
また、加工後の亜鉛系めっき鋼板は、製品の外郭に設けられることが多いが、加工による表面損傷などにより表面品質が低下し、外板品質の改善に対する必要性があった。
【0007】
したがって、これまで上述した耐食性、加工性、LME発生の低減及び表面品質の特性の全てに優れる高レベルの需要を満たすことができる技術は開発されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】韓国公開特許第2013-0133358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の一態様によると、耐食性、加工性及び表面品質に優れるとともに、液相金属脆化(LME)の発生を低減させることができる、めっき鋼板及びその製造方法を提供することができる。
【0010】
本発明の課題は、上述の内容に限定されない。本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、誰でも本発明の明細書全体にわたる内容から本発明の更なる課題を理解する上で困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、素地鋼板と、上記素地鋼板の少なくとも一面に設けられたZn-Mg-Al系めっき層と、上記素地鋼板と上記Zn-Mg-Al系めっき層との間に設けられたFe-Al系抑制層と、を含み、上記めっき層は、重量%で、Mg:4%以上、Al:Mg含量の2.1倍以上14.2%以下、Si:0.2%以下(0%を含む)、Sn:0.1%以下(0%を含む)、残部Zn及び不可避不純物を含む、めっき鋼板を提供する。
【0012】
本発明のさらに他の一態様は、素地鋼板を重量%で、Mg:4%以上、Al:Mg含量の2.1倍以上14.2%以下、Si:0.2%以下(0%を含む)、Sn:0.1%以下(0%含む)、残部Zn及び不可避不純物を含み、平衡状態図上の凝固開始温度に対して20~80℃高い温度に保持されるめっき浴に浸漬して溶融亜鉛めっきする段階と、めっき浴湯面から冷却を開始してトップロール区間まで3~30℃/sの平均冷却速度で不活性ガスを用いて冷却する段階と、を含み、上記冷却する段階は、下記関係式1-1及び1-2を満たすように冷却速度を制御する、めっき鋼板の製造方法を提供する。
【0013】
[関係式1-1]
A>2.5/{ln(t×20)}1/2×B
【0014】
[関係式1-2]
0.7×C≦B≦1.2×C
[上記関係式1-1及び1-2において、上記tは鋼板の厚さであり、上記Aはめっき浴温度から凝固開始温度までの平均冷却速度(℃/s)であり、上記Bは上記凝固開始温度から凝固開始温度-30℃までの平均冷却速度(℃/s)であり、上記Cは凝固開始温度-30℃から300℃までの平均冷却速度(℃/s)である。]
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様によると、耐食性、加工性及び表面品質に優れるとともに、液相金属脆化(LME)の発生を低減させることができる、めっき鋼板及びその製造方法を提供することができる。
【0016】
本発明の多様かつ有益な利点及び効果は、上述した内容に限定されず、本発明の具体的な実施形態を説明する過程でより容易に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明による例1に対するめっき鋼板について、めっき層全体と素地鉄とが共に観察されるように厚さ方向への断面試験片を作製し、上記断面試験片を500倍率に拡大して電界放射走査電子顕微鏡(Field Emission Scanning Electron Microscope、以下「FE-SEM」という)で観察した写真である。
図2】本発明による例4に対するめっき鋼板の厚さ方向への断面を2,000倍率に拡大してFE-SEMで観察した写真である。
図3】本発明による例2に対するめっき鋼板の表面を1,000倍率のFE-SEMで観察した写真である。
図4】アウトバーストが発生した本発明による例10に対するめっき鋼板の厚さ方向への断面試験片を1,000倍率に拡大してFE-SEMで観察した写真である。
図5】本発明による例16に対するめっき層のX-ray diffraction(以下、「XRD」という)グラフである。
図6】Mg-Al-Znの三元系状態図を示す。
図7】本発明による例4に対するめっき鋼板に対する断面を2,500倍率に拡大して電界放射走査電子顕微鏡(FE-SEM)で観察した写真を示す。
図8】アウトバースト相が占有する長さの測定方法を模式的に示す図である。
図9】本発明のめっき鋼板で観察できる微細組織の模式図を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書で使用する用語は、特定の実施例を説明するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。また、本明細書で使用する単数形は、関連する定義がこれと明らかに反対の意味を示さない限り、複数の形態も含む。
【0019】
本明細書で使用する「含む」の意味は、構成を具体化し、他の構成の存在や付加を除外するものではない。
【0020】
他に定義しない限り、本明細書で使用する技術用語及び科学用語を含むすべての用語は、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が一般に理解する意味と同じ意味を有する。辞書に定義された用語は、関連技術文献と現在開示されている内容に一致する意味を有するものと解釈される。
【0021】
以下、本発明の一態様によるめっき鋼板について詳細に説明する。本発明において各元素の含量を示すときには、特に断りのない限り、重量%を意味する。
【0022】
従来のZn-Mg-Al系亜鉛合金めっき鋼板に関する技術では、耐食性の向上のためにMgを添加したが、Mgを過剰に添加する場合、めっき浴浮遊ドロスの発生が多くなり、ドロスを頻繁に除去しなければならないという問題があるため、Mg添加量の上限を3%に制限していた。
【0023】
さらに、上述したように、従来は、耐食性、加工性及び表面品質に優れるとともに、液相金属脆化(LME)の発生を低減させることができるめっき鋼板を提供することができなかった。
【0024】
そこで、本発明者らは、上述の問題を解決するために鋭意検討を行った結果、Mgの添加量を増加させることで、従来技術よりも耐食性をより向上させることができるのはもちろん、耐食性だけでなく、加工性、表面品質及び液相金属脆化の低減という効果が共存可能なめっき鋼板及びその製造方法を発明し、本発明を完成するに至った。以下では、本発明の構成について具体的に説明する。
【0025】
本発明の一態様によると、めっき鋼板は、素地鋼板と、上記素地鋼板の少なくとも一面に設けられたZn-Mg-Al系めっき層と、上記素地鋼板と上記Zn-Mg-Al系めっき層との間に設けられたFe-Al系抑制層と、を含む。
【0026】
本発明では、素地鋼板の種類について特に限定しなくてもよい。例えば、上記素地鋼板は、通常の亜鉛系めっき鋼板の素地鋼板として使用されるFe系素地鋼板、すなわち、熱延鋼板または冷延鋼板であってもよいが、これに限定されない。あるいは、上記素地鋼板は、例えば、建築用、家電用、自動車用素材として使用される炭素鋼、極低炭素鋼または高マンガン鋼であってもよい。
【0027】
ただし、非制限的な一例として、上記素地鋼板は、重量%で、C:0.17%以下(0は含まない)、Si:1.5%以下(0は含まない)、Mn:0.01~2.7%、P:0.07%以下(0は含まない)、S:0.015%以下(0は含まない)、Al:0.5%以下(0は含まない)、Nb:0.06%以下(0は含まない)、Cr:1.1%以下(0を含む)、Ti:0.06%以下(0は含まない)、B:0.03%以下(0は含まない)及び残部Fe及びその他の不可避不純物を含む組成を有することができる。
【0028】
本発明の一態様によると、上記素地鋼板の少なくとも一面には、Zn-Mg-Al系合金からなるZn-Mg-Al系めっき層が設けられてよい。上記めっき層は、素地鋼板の一面にのみ形成されていてもよく、あるいは、素地鋼板の両面に形成されていてもよい。このとき、上記Zn-Mg-Al系めっき層とは、Mg及びAlを含み、Znを50%以上含むめっき層をいう。
【0029】
また、本発明の一態様によると、上記素地鋼板と上記Zn-Mg-Al系めっき層との間にはFe-Al系抑制層が設けられてよい。上記Fe-Al系抑制層は、FeとAlの金属間化合物を含む層であって、FeとAlの金属間化合物としては、FeAl、FeAl、FeAl等が挙げられる。その他にも、Zn、Mgなどのように、めっき層に由来する成分が一部、例えば、40%以下さらに含まれてもよい。上記抑制層は、めっき初期の素地鋼板から拡散したFe及びめっき浴成分による合金化によって形成された層である。上記抑制層は、素地鋼板とめっき層との密着性を向上させる役割を果たすとともに、素地鋼板からめっき層へのFe拡散を防止する役割を果たすことができる。
【0030】
本発明の一態様によると、上記めっき層は、重量%で、Mg:4%以上、Al:Mg含量の2.1倍以上14.2%以下、Si:0.2%以下(0%を含む)、Sn:0.1%以下(0%を含む)、残部Zn及び不可避不純物を含むことができる。以下では、各成分について具体的に説明する。
【0031】
(Mg:4%以上)
Mgは、めっき鋼材の耐食性を向上させる役割を果たす元素であって、本発明では、目的とする優れた耐食性を確保するために、めっき層内のMg含量を4%以上に制御し、より好ましくは4.1%以上に制御することができる。一方、耐食性確保の観点から、Mgを添加するほど効果が向上するため、Mg含量の上限については特に限定しなくてもよい。ただし、一例として、Mgが過剰に添加される場合には、ドロスが発生する可能性があるため、Mg含量を6.7%以下に制御することができ、より好ましくは6.5%以下に制御することができる。
【0032】
(Al:Mg含量の2.1倍以上14.2%以下)
一般にMgが1%以上添加される場合、耐食性向上の効果は発揮するが、Mgが2%以上添加されると、めっき浴内のMgの酸化によるめっき浴浮遊ドロスの発生が増加し、ドロスを頻繁に除去しなければならないという問題がある。このような問題のため、従来技術では、Zn-Mg-Al系亜鉛合金めっきにおいて、Mgを1.0%以上添加して耐食性を確保し、且つMg含量の上限を3.0%に設定して商用化していた。
【0033】
しかし、上述したように、耐食性をさらに向上させるためには、Mg含量を4%以上に高める必要があるが、めっき層内のMgを4%以上含むと、めっき浴内のMgの酸化によるドロスが発生するという問題がある。このようなドロスを抑制するために、めっき層内のAl含量をMg含量の2.1倍以上含む必要がある。上述したドロス抑制の効果をより向上させるために、めっき層内のAl含量の下限は、好ましくは8.7%であってもよく、より好ましくは8.8%であってもよい。ただし、ドロス抑制のためにAlを過剰に添加すると、めっき浴の融点が高くなり、それに伴う操業温度が過度に高くなるため、めっき浴構造物の浸食及び鋼材の変性をもたらす等、高温作業による問題が生じる可能性がある。さらに、めっき浴内のAl含量が過剰であると、Alが素地鉄のFeと反応してFe-Al抑制層の形成に寄与せず、AlとZnの反応が急激に起こり、塊状のアウトバースト(Outburst)相が過剰に形成されて耐食性が悪化する可能性がある。したがって、めっき層内のAl含量の上限は14.2%に制御することが好ましく、より好ましくは14%に制御することができ、最も好ましくは13.8%に制御することができる。
【0034】
また、本発明の一態様によると、上記Al及びMg含量は、図6のMg-Al-Zn三元系状態図において、MgZnとAlの2工程ライン付近に位置するように決定されてよい。ここで、2工程ラインに位置するように決定されるとは、正確に2工程ライン上に位置するように決定される場合はもちろん、上記2工程ラインから若干ずれて2工程ラインを基準にMg=±0.5wt%、Al=±1wt%以内に位置するように決定される場合も含まれる。図6には、X軸をAl含量とし、Y軸をMg含量としたときのMg-Al-Zn三元系状態図が示されている。図6においてAは、本発明の一例に該当する条件を示し、図6に示すように、Al及びMg含量は、Mg-Al-Zn三元系状態図においてMgZnとAlの二元工程ライン付近に位置するように決定されてもよい。
【0035】
(Si:0.2%以下(0%を含む))
亜鉛系めっき鋼板と関連し、通常、合金化防止のためにSiを添加することができる。しかし、Siが過度に添加されると、Siがめっき浴内のMgと反応してMgSiを形成するが、このように形成されたMgSiは脆い(brittle)組織であるため、曲げ加工などの加工時に加工性を悪化させる要因として作用することがある。したがって、本発明では、加工性の確保のためにSiの含量を0.2%以下に制御し、好ましくは0.02%以下に、より好ましくは0.01%以下に、最も好ましくは0.009%以下に制御することができる。あるいは、MgSiが形成されないことが好ましいため、上記Siは0%であってもよい。
【0036】
(Sn:0.1%以下(0%を含む))
めっき層の耐食性向上のためにSnを添加することができる。しかし、本発明では、Snが過度にZn-Mg-Al系めっき浴に添加されると、融点を低下させ、めっき層の凝固完了点が10℃またはそれ以上下がり、このような凝固点の下落は、凝固不均一による表面欠陥を誘発させる可能性がある。また、スポット溶接(spot welding)時に、溶融しためっき層が素地鉄の界面に浸透して生成されるLME(Liquid Metal Embrittlement)割れを招きやすい。さらに、Snはめっき浴のMgと反応してMgSn金属間化合物を形成するが、上記化合物は、めっき層内の他の相に比べて相対的に軽く、融点が770℃と高い。したがって、MgSn金属間化合物が生成されると、めっき浴の表面に浮上して再溶解が難しく、めっき湯面に残留するMgSn金属間化合物が溶融めっき時にめっき層の表面に吸着されると、表面欠陥を誘発する可能性がある。
【0037】
したがって、本発明では、めっき層内のSn含量は0.1%以下に制御する必要がある。一方、目的とする効果を発現させるために、より好ましくはSn含量が0.09%以下であってもよく、最も好ましくは0.05%以下であってもよい。
【0038】
(残部Zn及びその他の不可避不純物)
上述のめっき層の組成以外に、残部はZn及びその他の不可避不純物であってよい。不可避不純物は、通常の溶融亜鉛めっき鋼板の製造工程で意図せずに混入し得るものであれば、いずれも含まれてよく、当該技術分野の技術者であれば、その意味を容易に理解することができる。
【0039】
本発明の一態様によると、特に限定するものではないが、上記めっき層は、選択的に後述する構成をさらに満たすことができる。
【0040】
(Fe:1%以下)
本発明の一態様によると、素地鋼板に含まれるFe成分は、めっき過程で拡散してめっき層に含まれてもよく、特に限定するものではないが、めっき層内のFe含量は1%以下(0%含む)であってよい。一方、より好ましくは、上記めっき層内のFe含量の上限は0.3%であってもよく、上記めっき層内のFe含量の下限は0%であってもよい。
【0041】
一方、素地鋼板のFeがめっき層まで拡散すると、合金化または金属間化合物を生成することによりアウトバースト相を形成し、上記抑制層が不連続的に形成される。ところが、アウトバースト相は耐食性低下の要因となるため、本発明では、めっき鋼板の切断面(鋼板の圧延方向と垂直な方向)を基準に、上記抑制層は連続的に形成されていることが好ましい。すなわち、上記抑制層が連続的に形成されているとは、アウトバースト相が形成されていない場合を意味する。
【0042】
ただし、ある程度のFeは、素地鋼板からめっき層に拡散して、素地鋼板とめっき層間の合金相であるアウトバースト相を形成することができる。
【0043】
したがって、本発明では、アウトバースト相が形成されても、耐食性確保の観点から、鋼板の厚さ方向の切断面において、素地鋼板の界面線をめっき層の表面側へ5μm離隔させたとき、上記離隔した線と交差するアウトバースト相が占有する長さは、上記離隔した線の長さに対して10%以下となる必要があり、より好ましくは5%以下に制御することができ、理想的には0%であってよい。上記離隔した線と交差するアウトバースト相が占有する長さの比率に対する下限は0%を含むため、別にこれを限定しない。ここで、上記素地鋼板と隣接する層によって形成された界面に沿って引いた線を界面線という。
【0044】
このようなアウトバースト相の占有する長さの測定方法を図8に模式的に示した。図8に示すように、L1が上記離隔した線の長さを示し、L2が離隔した線と交差するアウトバースト相が占有する長さを示す。
【0045】
したがって、本発明の後述する例10に対するめっき鋼板の厚さ方向への断面試験片を1,000倍率に拡大してFE-SEMで撮影した写真である図4を一例として、上述した図8の測定方法をそのまま適用してアウトバースト相の占有長さを測定することができる。
【0046】
その結果、本発明では、上記抑制層が連続的に形成されることが好ましく、上記抑制層が不連続的に形成されても、素地鋼板と抑制層の全界面長さの90%以上を占有するように形成されることが好ましい。例えば、界面長さとそれによる長さの比率は、走査電子顕微鏡の倍率を1000倍にして測定することができ、任意の3箇所で測定して少なくとも1箇所で観察される場合を含む。
【0047】
本発明の一態様によると、上記アウトバースト相のFe含量は、重量%で10~45%であり、上記アウトバースト相の合金相はFeAl、FeAl及びFe-Zn系のうち1種以上を含み、Znを重量%で20%以上含むことができる。
【0048】
本発明の一態様によると、上記抑制層は、その厚さが0.02μm以上2.5μm以下であってよい。上記抑制層は、合金化を防止し、耐食性を確保する役割を果たすが、脆いため加工性に悪影響を及ぼす可能性があることから、その厚さを2.5μm以下に制御することができる。ただし、抑制層としての役割を果たすためには、その厚さを0.02μm以上に制御することが好ましい。上述した効果をより向上させる観点から、好ましくは、上記抑制層の厚さの上限は1.8μm(より好ましくは0.9μm)であってもよい。また、上記抑制層の厚さの下限は0.05μmであってもよい。このとき、上記抑制層の厚さは、素地鋼板の界面に対して垂直な方向への最小厚さを意味することができる。
【0049】
本発明の一態様によると、抑制層が不連続的に形成される場合であって、素地鋼板の界面において抑制層とアウトバースト相とが共存してもよい。すなわち、アウトバースト相は、上述したように、界面から5μm平行移動した線と交差する領域を含むものであって、その領域が素地鋼板の界面に接する部分までをアウトバースト相と見なすことができる。ただし、上記アウトバースト相以外のFe-Al系金属間化合物を含む合金層を抑制層と見なす。
【0050】
一方、本発明の一態様によると、上記めっき鋼板の切断面を基準に、上記抑制層とめっき層の界面に接触する長径500nm以上のMgSi相の個数は、界面長さ100μm当たり10個以下(0%を含む)であってよい。このとき、上記めっき層の断面硬度は200~450Hvであってよい。ここで、上記めっき層と上記抑制層の界面に接触するMgSiは、上記界面を通過するか又は界面に接する形態のMgSiをいずれも含む。なお、上記界面長さは、上記めっき層と上記抑制層との界面に沿って測定した長さを示す。上記抑制層とめっき層の界面には応力が集中するが、脆い(brittle)金属化合物であるMgSiが界面に多数形成されていると、曲げ加工時にクラック発生の起点として働くようになる。特に、本発明の一態様によるZn-Mg-Al系めっき層は、硬度が200~450Hvと高く、脆いため、MgSi相の存在は加工性をさらに悪化させるおそれがある。上述した加工性悪化の要因を防止し、加工性をより改善する観点から、界面長さ100μm当たりの上記抑制層とめっき層の界面に接触する長径500nm以上であるMgSi相の個数(Na)は、4個以下であってもよく、より好ましくは2個以下であってもよい。
【0051】
したがって、本発明では、Mgの含量を高く制御してめっき層の硬度を200~450Hvの範囲に高く制御しながらも、上記抑制層とめっき層の界面に接触する長径500nm以上であるMgSi相の個数を、界面長さ100μm当たり10個以下に制御することにより、耐食性の向上と同時に、加工性に優れためっき鋼板を提供することができる。例えば、界面長さとMgSi相の個数は、走査電子顕微鏡の倍率を1000倍にして測定することができ、上記界面長さ100μmが観察されるまで繰り返し複数個の写真を撮影することができる。
【0052】
また、本発明の一態様によると、耐食性の確保のために、MgZn相の内部に含まれたAl単相の面積の和が全めっき層の断面積に対して0.5~10%の面積比率で存在することができ、より好ましくは0.5~5%の面積比率で存在することができる。全めっき層の断面積に対してMgZn相の内部に含まれたAl単相の比率が上述の範囲を満たすことにより、MgZn相の内部に含まれるAl単相が骨格保持の役割を果たして優れた耐食性を確保するとともに、優れた犠牲防食性を確保することができる。
【0053】
ここで、上記MgZn相の内部に含まれたAl単相とは、MgZn相の内部に完全に含まれたAl単相はもちろん、MgZn相の内部にAl単相の一部が含まれた相も意味する。
【0054】
一方、MgZn相の内部に一部が含まれたAl単相の測定方法を図7に示した。具体的に、MgZn相の内部に侵入するAl相(またはAl相を囲む他の相)の境界線とMgZn相の境界線とが接する2つの接点を直線で連結することにより、MgZn相の内部にAl単相が占める領域を計算することができる。
【0055】
すなわち、図7のようなめっき鋼板に対する断面を2,500倍率に拡大して電界放射走査電子顕微鏡(FE-SEM)で観察した写真からMgZnとAl単相とを区分することができる。このとき、符合1の領域は、MgZnのみがある形態を示す。符合2の領域は、MgZn内にAl単相が含まれている形態を示す。符合3の領域は、Al単相の一部がMgZn相の内部に含まれ、一部はMgZn相の外部に突出した形態を示す。符合4の領域は、MgZn相内にAlが含まれている形態と、Al単相の一部がMgZn相の内部に含まれ、一部はMgZn相の外部に突出した形態の両方がある場合を示す。
【0056】
あるいは、当技術分野において、一般に知られているEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)を用いてMg、Al成分の分布を観察できるように成分マッピング(mapping)して、このような実験結果を活用することができる。これにより、めっき組織においてMgZn相の全分率を求めることができ、MgZnの内部に属しているか、MgZnに跨るAlのみの分率を別途に求めることができる。
【0057】
すなわち、本発明の一態様によると、Al単相はMgZn相の内部に全部または一部が位置することができる。
【0058】
また、本発明の一態様によると、Al単相の(200)面のX線回折強度I(200)とAl相の(111)面のX線回折強度I(111)との比である回折強度比I(200)/I(111)が0.8以下(0は含まない)であり、より好ましくは0.79以下、最も好ましくは0.7以下であってよい。このとき、Alの(111)面の積分強度に対する(200)面の積分強度の比を測定した。これを満たすことにより、MgZn相内のAl単相の比率を制御して耐食性を発揮することができる。本発明によると、耐食性の発揮のためにMgZn相内に一定量のAlを含まなければならず、このような組織特性は、XRDで測定したときにAl結晶の方位比で確認することができる。XRD測定は、Cu-Kα源を用いてX線回折パターンを34~46°(2theta)の範囲内でAlの範囲別強度比を確認することができる。
【0059】
本発明の一態様によると、上記MgZn相の内部に含まれた上記Al単相は、以下の記載のうち少なくとも一つの場合に該当することができ、これを図9に模式的に示した。
【0060】
- MgZn相の内部に含まれ、MgZn相により全部含まれたAl単相[図9の微細組織1]
- 一部はMgZn相の内部に含まれ、一部はMgZn相の外部に突出したAl単相[図9の微細組織2]
- MgZn相の内部にAlとZnの混合相が全部含まれ、上記AlとZnの混合相の内部に全部が含まれたAl単相[図9の微細組織3]
- 一部はMgZn相の内部に含まれ、一部はMgZn相の外部に突出したAlとZnの混合相に全部が含まれたAl単相[図9の微細組織4]
- 一部はMgZn相の内部に含まれ、一部はMgZn相の外部に突出したAlとZnの混合相に一部が含まれたAl単相であって、MgZn領域の内部に全部が含まれたAl単相[図9の微細組織5]
- 一部はMgZn相の内部に含まれ、一部はMgZn相の外部に突出したAlとZnの混合相に一部が含まれたAl単相であって、一部はMgZn領域の内部に含まれ、一部はMgZn領域の外部に突出したAl単相[図9の微細組織6]
【0061】
一方、本発明で言うAl単相とは、Alが主体である単独相を意味し、その相内にZn及びその他の異なる成分が固溶して含まれることができる。本発明の一態様によると、上記Al単相は、重量%で、Al:40~70%と残部Zn及びその他の不可避不純物を含むことができる。一つの例として、上記Al単相は、重量%で、Al:40~70%、Zn:30~55%、及びその他の不可避不純物を含むことができ、一つの実現例では、AlとZnの合計含量は95~100%であってよい。ここで、残部は、Mgまたはその他の不可避不純物であってもよい。
【0062】
本発明の一態様によると、上記めっき層において、めっき層の全断面に対するAl単相の比率は面積分率で1~15%であってもよい。上記Al単相の比率が1%以上であると、骨格保持の機能を果たすAlにより、めっき層が物理的な保護遮断膜としての役割に寄与することができる。一方、上記Al単相の比率が15%以下であると、Alの腐食による安定性に劣ることを防止することができる。上述した効果改善の観点から、好ましくは、上記Al単相の比率の下限は1.7%であってもよい。あるいは、上述した効果の改善の観点から、上記Al単相の比率の上限は11%(より好ましくは9.8%)であってもよい。
【0063】
また、本発明の一態様によると、MgZn相の内部に含まれたAl-Zn混合相が全めっき層の断面積に対して10%以下存在することができる。
【0064】
本発明の一態様によると、上記めっき層の算術平均表面粗さRaは0.5~3.0μmであってもよく、より好ましくは、Raが0.6~3.0μmであってもよい。表面粗さRaが0.5μm未満であると、表面摩擦力が減少して板材を重ねたときに板材の滑りが発生して作業に支障をきたすことがある。また、鋼板の表面に防錆油を塗油する場合、防錆油が表面に残留する特性が低下する可能性がある。一方、表面粗さRaが3.0μm超過であると、物理的な加圧によって3.0μm超過に形成させる過程で、過度な圧力によりめっき層に割れを誘発する可能性がある。
【0065】
本発明の一態様によると、上記めっき層の十点平均表面粗さRzは1~20μmであってもよく、より好ましくは5~18μmであってもよい。Rzが1μm未満であるか、又は20μmを超える場合、鋼板表面の審美的効果を示す金属光沢度の面で、過度に明るく又は暗く観察されることがある。したがって、適切な範囲として1~20μmの範囲に管理することが適切である。以上の粗さは、KS B 0161に準じた測定方法に従って、粗さ測定時のカットオフ値は2.5μmを基準とした。
【0066】
本発明の一態様によると、上記めっき層の断面硬度は200~450Hvであってよい。めっき層の硬度は、めっき層を構成している結晶相の種類及びサイズに関係し、断面硬度が200Hv未満である場合、めっき層は外部摩擦力に対する抵抗が弱くなる。その結果、外部からの面摩擦がある場合、摩擦係数が高くなって加工性に劣る可能性があり、さらに変形を誘発する可能性がある。しかし、めっき層の硬度が450Hvを超える場合は、過度に脆いため、加工時にめっき層に割れが発生する副作用が生じる可能性がある。
【0067】
本発明の一態様によると、上記めっき層の厚さは5~100μmであってもよく、より好ましくは5~90μmであってもよい。上記めっき層の厚さが5μm未満であると、めっき層の厚さ偏差から生じる誤差により、局所的にめっき層が過度に薄くなる場合があるため、耐食性に劣る可能性がある。めっき層の厚さが100μmを超えると、溶融めっき層の冷却が遅れる可能性があり、一例として、流れ模様など、めっき層の表面に凝固欠陥が発生する余地があり、めっき層を凝固させるために鋼板の生産性が低下することがある。
【0068】
さらに、特に限定するものではないが、本発明の一態様によると、上記めっき層は、大気環境及び塩化物環境(例えば、ISO14993試験基準)下で、表面にLDHがシモンコライト及びヒドロジンサイトよりも先に形成されることができる。すなわち、腐食環境下で(あるいは、大気環境下で長時間の間)保持すると、めっき層の表面に緻密な初期腐食生成物であるLDH(Layered Double Hydroxide;(Zn、Mg)Al(OH)16(CO)・4HO)の急速な核形成-結晶化が行われることができる。その後、経時的に表面全体にわたって均一分布して腐食活性領域を遮蔽し、二次的に形成されるシモンコライト(Simonkolleite;Zn(OH)Cl)及びヒドロジンサイト(Hydrozincite;(Zn(OH))(CO)の均一な形成を誘導することができる。
【0069】
本発明の一態様によると、上記めっき層の表層部に形成されるLDH腐食生成物は、大気環境で6時間、ISO14993の塩化物環境では5分以内に形成されることができる。
【0070】
次に、本発明のさらに他の一態様によるめっき鋼板の製造方法について詳細に説明する。ただし、本発明のめっき鋼板が必ずしも以下の製造方法により製造されるべきであることを意味するものではない。
【0071】
本発明の一態様によると、素地鋼板を準備する段階をさらに含むことができるが、素地鋼板の種類は特に限定しない。通常の溶融亜鉛めっき鋼板の素地鋼板として使用されるFe系素地鋼板、すなわち、熱延鋼板または冷延鋼板であってもよいが、これらに制限されるものではない。また、上記素地鋼板は、例えば、建築用、家電用、自動車用素材として使用される炭素鋼、極低炭素鋼または高マンガン鋼であってもよいが、これらに制限されるものではない。
【0072】
次に、本発明の一態様によると、素地鋼板を重量%で、Mg:4%以上、Al:Mg含量の2.1倍以上14.2%以下、Si:0.2%以下(0%を含む)、Sn:0.1%以下(0%を含む)、残部Zn及び不可避不純物を含むめっき浴に浸漬して溶融亜鉛めっきする段階を含むことができる。上記組成のめっき浴を製造するために、所定のZn、Al、Mgを含有する複合インゴットまたは個別成分が含有されたZn-Mg、Zn-Alインゴットを使用することができる。一方、めっき浴の成分については、素地鋼板から流入するFeの含量を除き、上述しためっき層の成分に対する説明を同様に適用することができる。
【0073】
溶融めっきにより消耗されるめっき浴を補充するためには、上記インゴットをさらに溶解して供給する。この場合、インゴットを直接めっき浴に浸積して溶解する方法を選ぶこともでき、インゴットを別途のポットに溶解させた後、溶融した金属をめっき浴に補充する方法を選ぶこともできる。
【0074】
また、本発明の一態様によると、めっき浴の温度は、平衡状態図上の凝固開始温度(Ts)に対して20~80℃高い温度に保持されることができ、このとき、特に限定するものではないが、上記平衡状態図上の凝固開始温度は390~460℃の範囲(より好ましくは390~452℃)であってもよい。あるいは、上記めっき浴の温度は440~520℃の範囲(より好ましくは450~500℃)に保持されることができる。
【0075】
上記めっき浴の温度が高いほど、めっき浴内の流動性確保及び均一な組成の形成が可能であり、浮遊ドロスの発生量を減少させることができる。めっき浴の温度が平衡状態図上の凝固開始温度に対して20℃未満(あるいは、440℃未満)であると、インゴットの溶解が非常に遅く、めっき浴の粘性が大きく、優れためっき層の表面品質を確保し難い可能性がある。一方、めっき浴の温度が平衡状態図上の凝固開始温度に対して80℃を超える(あるいは、520℃を超える)と、Zn蒸発によるAsh性欠陥がめっき表面に誘発されるという問題が発生し得る。さらに、過度に高いめっき浴温度のため、Feの拡散が過剰に進行され、アウトバースト相が過剰に形成される可能性がある。これにより、上述の離隔した線と交差するアウトバースト相が占有する長さが、上記離隔した線の長さに対して10%を超え、耐食性低下の要因となり得る。
【0076】
本発明の一態様によると、めっき浴に素地鋼板を浸漬した後、入浴時間は1~10秒の範囲であってもよい。
【0077】
また、本発明の一態様によると、めっき浴湯面から冷却を開始してトップロール区間まで3~30℃/sの平均冷却速度で不活性ガスを用いて冷却する段階を含むことができる。このとき、めっき浴湯面からトップロール区間までの冷却速度が3℃/s未満であると、MgZn組織が過度に粗大に発達してめっき層表面の屈曲が激しくなる可能性がある。また、二元系工程組織と三元系工程組織もそれぞれ粗大に形成され、均一な耐食性及び加工性の確保に不利になる可能性がある。一方、めっき浴湯面からトップロール区間までの冷却速度が30℃/sを超えると、溶融めっき過程中、液相から固相に凝固し始めて液相が全て固相に変化する間の温度区間で急激な凝固が起こり、これにより、MgZn組織のサイズが過度に小さく形成され、局所的に均一でない耐食性の結果を示すことがある。また、Fe-Zn-Al相の均一な成長が不十分であり、めっき層と素地鋼板の界面に集中して加工性に劣る可能性があり、過度な冷却速度のために窒素の使用量が増加して製造コストが増加する可能性がある。上述の効果をより向上させる観点から、上記平均冷却速度は、より好ましくは3~27℃/sであってもよい。
【0078】
本発明の一態様によると、上記不活性ガスは、N、Ar、及びHeのうち1種以上を含むことができ、製造コストの削減の観点からNまたはN+Arを使用することがより好ましい。
【0079】
また、本発明の一態様によると、上記冷却する段階は、下記関係式1-1及び1-2を満たすように冷却速度を制御することができる。
【0080】
[関係式1-1]
A>2.5/{ln(t×20)}1/2×B
【0081】
[関係式1-2]
0.7×C≦B≦1.2×C
【0082】
上記関係式1-1及び1-2において、上記tは鋼板の厚さであり、上記Aはめっき浴温度から凝固開始温度までの平均冷却速度(℃/s)であり、上記Bは上記凝固開始温度から凝固開始温度-30℃までの平均冷却速度(℃/s)であり、上記Cは凝固開始温度-30℃から300℃までの平均冷却速度(℃/s)である。このとき、本発明の一態様によると、上記Aは特に限定するものではないが、4~40℃/sの範囲であってもよい。
【0083】
関係式1-1及び1-2を満たさない場合として、初期の冷却速度が速すぎると、MgZn相のサイズが過度に小さく形成され、MgZn相の内部にAl単相が含まれた形態が形成されない可能性があり、MgZn相の内部のAl単相を適正範囲に制御することができない。一方、初期の冷却速度が遅すぎると、Al成分がZn-Al混合相の形成に寄与するため、Al単相が形成されない可能性があり、めっき層内のAl単相の範囲を適正範囲に制御し難くなる可能性がある。
【0084】
一方、めっき層の表面欠陥を低減するためには、めっき層凝固組織の均一性を確保することが重要である。このように、均一性を確保するためには、凝固初期の凝固核生成が均一になされる必要があり、めっき成分別の溶融温度及び冷却速度の制御が重要である。さらに、このように冷却速度を制御することにより、加工性に不利なMgSi相などが抑制層とめっき層の界面に形成されることを抑制することができる。
【0085】
このために、本発明では、冷却段階において、上述したように3段階の冷却区間を設定し、各区間における冷却速度が上記関係式1-1及び1-2を満たすように制御することにより、凝固初期の凝固核生成が均一に形成されることで、最終製品における表面欠陥を低減することができる。
【0086】
特に、めっき浴から鋼板が引き出され始めるとともに、初期の冷却区間で凝固開始起点が定められるが、このとき、冷却速度が上記関係式を満たさず、過度に遅く凝固開始起点が定められると、局所部位において組織が粗大に形成され始め、不均一な凝固となる可能性がある。したがって、冷却段階で凝固核の均一な分布を確保して組織的差異を低減するためには、上述の関係式を満たすように冷却速度を制御することが好ましく、これにより、表面品質に優れためっき鋼板が得られる。
【0087】
一方、特に限定するものではないが、本発明の一態様によると、素地鋼板をめっき浴に浸漬して溶融めっきを完了した後、下記関係式2を満たすようにエアナイフ処理を行うことができる。
【0088】
[関係式2]
0.1≦(AK間隔×鋼板の厚さ)/AK圧力≦25
[上記関係式2において、上記AK間隔はナイフ間の間隔(mm)を示し、上記鋼板の厚さはエアナイフで処理した後の鋼板の厚さ(mm)を示し、上記AK圧力はノズルのエアナイフ圧力(kPa)を示す。]
【0089】
特に限定するものではないが、本発明の一態様によると、上記エアナイフ間隔は5~150mmの範囲であってもよい。また、上記エアナイフで処理した後の鋼板の厚さは0.2~6mmの範囲であってもよい。また、上記ノズルのエアナイフ圧力は8~70kPaの範囲であってもよい。
【0090】
上述したエアナイフ条件及び/または関係式2を満たすように制御することにより、過酷な条件でエアナイフ処理が行われ、めっき鋼板の表面に未めっきが発生することを防止することができる。また、凝固時に複数の組織が均等に成長できるように寄与することで、均一なめっき層を形成できるとともに、全めっき層の断面積に対するMgZn相の内部に含まれたAl単相の面積比率、及び全めっき層の断面積に対するAl単相の面積比率を適正範囲に制御することができる。したがって、耐食性に優れるとともに、表面品質に優れためっき鋼板を効果的に提供することができる。
【0091】
また、本発明の一態様によると、特に限定するものではないが、上記冷却時に、選択的に溶融亜鉛めっきされた鋼板の幅方向にセンター(Center)部のダンパ開度率Dcに対するエッジ(Edge)部のダンパ開度率Deの比率De/Dcが60~99%を満たすように冷却を行うことができる。このとき、上記鋼板の「幅方向」とは、溶融亜鉛めっきされた鋼板の厚さ側の表面(すなわち、鋼板の厚さが見える表面)を除く表面を基準に、鋼板の移送方向に垂直な方向を意味する。また、上記ダンパ開度率とは、冷却装置から素地鋼板に送ろうとする冷却ガスの流量を制御する調節板の開度程度を示す数値である。これは、後述する鋼板の幅に応じた均一な冷却能を確保するために、冷却装置に入力、または制御した総冷却ガスを素地鋼板の幅方向に沿ってセンター部及びエッジ部に分けて注入できるようにダンパを設置する。上記ダンパ間の境界は、素地鋼板の幅に応じて3区間に分けて、中央をセンター部、外郭側に存在する2つをエッジ部として占有するように可変的に位置を制御することができる。
【0092】
従来の溶融亜鉛めっきされた鋼板の冷却時には、上記比率De/Dcの比率を調節する方法又は装置を使用せずに、エッジ部とセンター部の冷却ガスの流量を一定にしたため、めっき層の表面において均一な微細組織的特性を確保し難いという問題があった。これに対して、本願発明は、通常の冷却条件とは逆に、上記比率De/Dcを60~99%の範囲に、エッジ部のダンパ開度率をセンター部に対して低く制御することにより、鋼板の幅方向に均一な冷却能を実現することができる。すなわち、本発明者らは、鋼板の幅方向に、エッジ部がセンター部に比べて外部雰囲気に露出する面積がさらに多く、必然的にエッジ部に対応する領域に鋼板の温度が低下する速度がセンター部よりも速いということを認識し、エッジ部での冷却速度を人為的に減少させて、めっき層表面の均一な特性を確保できることを見出したものである。すなわち、上述した冷却過程において、センター部に入射した冷却ガスは、自然にセンター部からエッジ部を経て外郭に排出される。ところが、上記エッジ部では、エッジ部に入射した冷却ガスとともに、センター部への入射後の冷却ガスを重複して収容するようになるため、センター部に比べて過冷却され、悪影響を与える可能性がある。したがって、上記エッジ部の冷却速度は、人為的な冷却ガスを加えなくてもさらに速いため、幅方向の均一な冷却性能を実現するとともに、初期腐食生成物としてLDH(Layered Double Hydroxide;(Zn、Mg)Al(OH)16(CO)・4HO))を形成させて耐食性を増大させるためには、エッジ部のダンパ開度率がセンター部に比べて低い方向に制御される必要がある。
【0093】
このとき、上記センター部のダンパ開度率Dcに対するエッジ部のダンパ開度率Deの比率De/Dcが60%未満になると、エッジ部がむしろセンター部よりも徐冷が行われ、99%を超過すると、センター部に比べてエッジ部が過冷却され、鋼板の幅方向への均一な冷却能の実現に不利になり得る。これにより、上記エッジ部及びセンター部におけるめっき層表面の組織が不均一となり、腐食環境下で(あるいは、大気環境下で長時間の間)保持する際に、初期腐食生成物としてLDH(Layered Double Hydroxide;(Zn、Mg)Al(OH)16(CO)・4HO))が均一に形成され難くなる可能性がある。
【0094】
また、特に限定するものではないが、本発明の一態様によると、めっき前の素地鋼板の表面酸化物を除去する段階をさらに含むことができる。このとき、めっき前にショットブラスト処理を行って素地鋼板の表面酸化物を除去することができる。また、鋼板の表面に微細な塑性変形を付与して素地鉄組織に転位(dislocation)密度を増加させてめっき反応を活性化させる効果がある。
【0095】
また、本発明の一態様によると、上記ショットブラストの処理時に使用される金属材ボールの直径は0.3~10μmであるものを用いることができる。
【0096】
本発明の一態様によると、上記ショットブラスト処理時に鋼板の運行速度を50~150mpm(meter per minute)に制御することができる。
【0097】
本発明の一態様によると、上記ショットブラスト処理時に300~3,000kg/minの投射量で金属材ボールを鋼板の表面に衝突させるように制御することができる。
【0098】
本発明の一態様によると、直径が0.3~10μmである金属材ボールを用いて、50~150mpmの運行速度で進行する鋼板に、300~3,000kg/minの金属材ボールを鋼板の表面に衝突させることで、ショットブラスト処理を行うことができる。
【0099】
本発明の一態様によると、めっき前の素地鋼板に対して上述の条件を満たすように、素地鋼板をめっきする前にショットブラスト処理を行うことにより、表面めっき前の機械的転位を導入して抑制層が迅速かつ均一に形成されるか、又はめっき層の凝固時に凝固核の生成がより均一に形成できるように、素地鋼板の表面を活性化することができる。
【0100】
すなわち、ショットブラスト処理時に、上述の条件を満たすことにより、過酷にショットブラスト処理されることで組織が粗く形成され加工性が悪化したり、ショットブラスト処理が不十分であったりして、めっき前の素地鋼板表面の活性化の程度が低くなり、表面の均一性が低下するという問題を防止することができる。
【0101】
したがって、めっき前の素地鋼板に対してショットブラスト処理し、ショットブラストの処理条件を最適化することにより、上述した特定範囲のめっき層のRa、Rz、断面硬度及び厚さのうち一つ以上の条件を満たすめっき鋼板を容易に製造することができる。これにより、耐食性及び加工性に優れるだけでなく、均一性または未めっき領域の発生を抑制した表面品質に優れためっき鋼板を得ることができる。
【実施例
【0102】
(実施例)
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、下記の実施例は、例示を通じて本発明を説明するためのものであり、本発明の権利範囲を制限するためのものではないことに留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項及びこれにより合理的に類推される事項によって決定されるものである。
【0103】
(実験例1)
C:0.025%、Si:0.03%、Mn:0.15%、P:0.01%、S:0.003%、Al:0.03%及び残部Feとその他の不可避不純物の組成を有する素地鋼板について、下記表1の条件を満たすめっき浴に浸漬して溶融めっきされた鋼板を得た。溶融めっきされた鋼板を、めっき浴湯面からトップロール区間まで下記表1に記載の冷却速度を満たすように、冷却区間の一部に不活性ガスを用いて冷却した。
【0104】
【表1】

Ts*:平衡状態図上の凝固開始温度
t*:鋼板の厚さ[mm]
A*:めっき浴温度からめっき凝固開始温度までの平均冷却速度[℃/s]
B*:めっき凝固開始温度からめっき凝固開始温度-30℃までの平均冷却速度[℃/s]
C*:めっき凝固開始温度-30℃から300℃までの平均冷却速度[℃/s]
【0105】
一方、上述しためっき鋼板について、上記めっき層を塩酸溶液に溶解した後、溶解された液体を湿式分析(ICP)方法により分析し、めっき層の組成を測定した。また、上記めっき層と素地鉄の界面が観察されるように鋼板の圧延方向に垂直な方向に切った断面試験片を製造した。断面試験片を製造した後、SEMで撮影し、素地鋼板;Zn-Mg-Al系めっき層;上記素地鋼板とZn-Mg-Al系めっき層の間にFe-Al系抑制層;が形成されることを確認した。このようなめっき鋼板の厚さ方向への断面試験片を1,000倍率に拡大してFE-SEMで撮影した写真である図4を一例として、上述した図8の測定方法をそのまま適用してアウトバースト相の占有長さを測定した。また、界面長さ100μm当たりの抑制層とめっき層との間の界面に形成された長径が500nm以上であるMgSi合金相の個数を測定した。また、各例について下記の基準として特性を評価した。
【0106】
<耐食性>
耐食性を評価するために、塩水噴霧試験装置(Salt Spray Tester)を用いてISO14993に準じた試験方法により、下記基準に従って評価した。
【0107】
◎:赤錆発生にかかる時間が同一厚さのZnめっきに比べて30倍超過
○:赤錆発生にかかる時間が同一厚さのZnめっきに比べて20倍以上30倍未満
△:赤錆発生にかかる時間が同一厚さのZnめっきに比べて10倍以上20倍未満
X:赤錆発生にかかる時間が同一厚さのZnめっきに比べて10倍未満
【0108】
<均一性>
均一性を評価するために、めっき層の断面をSEM装置を用いてBSI(Back Scattering Mode)で写真撮影し、めっき層内の相を識別した。長さ600μmで任意の5箇所を撮影した後、円相当直径5μm以上のMgZn結晶が形成されていない区間の長さを測定し、下記の基準に従って評価した。
【0109】
◎:円相当直径5μm以上のMgZn結晶が形成されていない区間の長さが100μm未満
○:円相当直径5μm以上のMgZn結晶が形成されていない区間の長さが100μm以上200μm未満
△:円相当直径5μm以上のMgZn結晶が形成されていない区間の長さが200μm以上300μm未満
X:円相当直径5μm以上のMgZn結晶が形成されていない区間の長さが300μm以上
【0110】
<曲げ性>
曲げ性を評価するために、曲げ試験装置を用いて3Tベンディングした後、ベンディングした部位のめっき層のクラック幅の平均を求める方法により、下記の基準に従って評価した。
【0111】
◎:3Tベンディング後、めっき層のクラックの平均幅が30μm未満
○:3Tベンディング後、めっき層のクラックの平均幅が30μm以上50μm未満
△:3Tベンディング後、めっき層のクラックの平均幅が50μm以上100μm未満
X:3Tベンディング後、めっき層のクラックの平均幅が100μm以上
【0112】
上述の測定値及び特性に対する評価結果を下記表2に示した。
【0113】
【表2】

Lo*:素地鋼板の界面線をめっき層の表面側へ5μm離隔させたとき、上記離隔した線の長さに対して上記離隔した線と交差するアウトバースト相が占有する長さの比率(%)
Na*:界面長さ100μm当たりの抑制層とめっき層との間の界面に形成された長径が500nm以上であるMgSi合金相の個数
【0114】
上記表1、2に示すように、本発明によるめっき層の組成及び製造条件を全て満たす例1~6の場合、めっき層の組成及び製造条件のうち一つ以上を満たさない例7~14に比べて、耐食性、均一性及び曲げ性の特性がすべて優れていることを確認した。
【0115】
一方、上記例1から製造されためっき鋼板について、めっき層全体と素地鉄とが共に観察されるように、鋼板の圧延方向に垂直な方向に切った断面試験片を作製した。上記断面試験片をFE-SEMによって500倍率で撮影した写真を図1に示した。これにより、素地鋼板上にFe-Al系抑制層及びZn-Al-Mg系めっき層が形成されることを確認した。
【0116】
また、上記例4から製造されためっき鋼板について、上述した方法と同様に切った断面試験片を2,000倍率に拡大してFE-SEMで観察した写真を図2に示した。
【0117】
また、上記例2から製造されためっき鋼板の表面を1,000倍率のFE-SEMで観察した写真を図3に示した。
【0118】
(実験例2)
下記表3のエアナイフ(AK;air knife)の間隔、鋼板の厚さ及びエアナイフの圧力を満たすように条件を追加した以外は、上述した実験例1と同様の方法によりめっき鋼板を製造した。このとき、実験例1と同様の分析方法を用いて素地鋼板上にZn-Al-Mg系めっき層及びFe-Al系抑制層が形成されることを確認した。
【0119】
【表3】
【0120】
上記表3の例から製造されためっき鋼材について、全めっき層の断面積に対する、MgZn相の内部に含まれたAl単相の面積比率を測定した。このとき、MgZn相の内部に含まれたAl単相は、本願明細書で上述した方法で測定し、図7のようにめっき鋼板に対する断面を電界放射走査電子顕微鏡(FE-SEM)で撮影した写真と、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)を用いてMg、Al成分の分布が観察できるように成分マッピング(mapping)した結果を分析し、MgZnとAl単相とを区分して測定した。なお、抑制層の厚さは、SEM、TEM装置を用いて界面に対して垂直な方向への最小厚さを測定した。
【0121】
【表4】

Ne*:全めっき層の断面積に対するMgZn相の内部に含まれたAl単相の面積比率
【0122】
一方、上述した表4の実験例について、めっき層の断面積5,000μm当たりの上記MgZn相の内部に含まれた上記Al単相として、下記の例があるか否かを観察し、下記表5に○、Xを示した。このとき、めっき層に含まれる各相は、上述したFE-SEM撮影写真及びEPMAによる成分マッピング結果を活用してその有無を評価した。
【0123】
(1)MgZn相の内部に含まれ、MgZn相により全部含まれたAl単相
(2)一部はMgZn相の内部に含まれ、一部はMgZn相の外部に突出したAl単相
(3)MgZn相の内部にAlとZnの混合相が全部含まれ、上記AlとZnの混合相の内部に全部含まれたAl単相
(4)一部はMgZn相の内部に含まれ、一部はMgZn相の外部に突出したAlとZnの混合相に全部含まれたAl単相
(5)一部はMgZn相の内部に含まれ、一部はMgZn相の外部に突出したAlとZnの混合相に一部が含まれたAl単相であって、MgZn領域の内部に全部が含まれたAl単相
(6)一部はMgZn相の内部に含まれ、一部はMgZn相の外部に突出したAlとZnの混合相に一部が含まれたAl単相であって、一部はMgZn領域の内部に含まれ、一部はMgZn領域の外部に突出したAl単相
【0124】
【表5】
【0125】
特に、上記実施例8について、めっき層のX-ray diffraction(XRD)測定結果を図5に示し、このとき、Al単相の(200)面のX線回折強度I(200)とAl相の(111)面のX線回折強度I(111)の比である回折強度比I(200)/I(111)が0.8未満であることを確認した。
【0126】
一方、上述した実施例5~22について特性を評価して下記表6に示した。このとき、耐食性、均一性及び曲げ性は、上述した実験例1と同様の方法により評価し、未めっき領域の発生の有無を下記の基準で評価した。
【0127】
<未めっき領域の発生の有無>
◎:未めっき発生なし
○:未めっき1個~3個
△:未めっき4個以上
【0128】
【表6】
【0129】
上記表3~6に示すように、本発明のめっき層の組成、製造条件を全て満たす本願の例5~21の場合、めっき層の条件を満たさない例22に比べて均一性、未めっきの発生の有無及び曲げ性などの特性がより優れている。
【0130】
特に、関係式2の条件を満たす本願の例16、17、19、21の場合、関係式2を満たさない実施例15、18、20に比べて、均一性、未めっき領域の発生の有無、曲げ性のうち一つ以上の特性がより優れていることを確認した。
【0131】
(実験例3)
実験例1と同じ素地鋼板に、下記表7の条件を満たすショットブラスト処理を行って表面酸化物を除去した後、めっきを行った以外は、上述の実験例2と同様の方法によりめっき鋼板を製造した。このとき、実験例1と同様の方法により素地鋼板上にFe-Al系抑制層及びZn-Al-Mg系めっき層が形成されることを確認した。
【0132】
【表7】

mpm*:meter per minute
【0133】
上述した実験例1、2と同様の測定方法を用いてその結果を下記表8、9に示した。一方、表9のRaは2次元表面粗さ測定装置を用い、RzはKS B 0161測定方法を使用して、粗さ測定時のカットオフ値は2.5μmを基準として測定した。また、めっき層の断面を基準に、めっき層の断面硬度をめっき層の厚さ内で測定が可能な微小硬度測定装置を用いて測定した。
【0134】
【表8】
【0135】
上述の例23~36から製造されためっき鋼板について、上述の実験例2と同様の方法により特性を評価し、下記表10に示した。
【0136】
【表9】
【0137】
【表10】
【0138】
上記表8~10に示すように、本発明のめっき層の組成、製造条件を全て満たす本願の例23~34の場合、めっき層の条件又はめっき浴の温度条件を満たさない例35、36に比べて均一性、未めっきの発生の有無、及び曲げ性などの特性にさらに優れていた。
【0139】
特に、直径が0.3~10μmである金属材ボールを用いて、50~150mpmの運行速度で進行する鋼板に300~3,000kg/minの金属材ボールを鋼板の表面に衝突させるショットブラスト処理条件を全て満たす例24、26、28、30、32及び34の場合、上述のショットブラスト処理条件のうち一つ以上を満たさない例23、25、27、29、31及び33に比べて、均一性、未めっき領域の発生の有無、曲げ性のうち一つ以上の特性にさらに優れていることを確認した。
【0140】
(実験例4)
下記表11を満たすように製造条件を変更し、冷却時に溶融めっきされた鋼板の表面を基準に鋼板の幅方向にエッジ部及びセンター部の平均ダンパ開度率を下記表12のように設定した以外は、上記実験例1と同じ条件で実験を行った。
【0141】
【表11】
【0142】
【表12】

De*:エッジ部の平均ダンパ開度率[%]
Dc*:センター部の平均ダンパ開度率[%]
【0143】
上述しためっき鋼板の試験片を作製し、めっき層を塩酸溶液に溶解した後、溶解された液体を湿式分析(ICP)方法で分析してめっき層の組成を測定し、本発明のめっき層の組成を満たすことを確認した。また、上記めっき層と素地鉄の界面が観察されるように鋼板の圧延方向に垂直な方向に切った断面試験片を製造した後、SEMで撮影し、素地鋼板;Zn-Mg-Al系めっき層;上記素地鋼板とZn-Mg-Al系めっき層との間にFe-Al系抑制層;が形成されることを確認した。
【0144】
各実施例及び比較例から得られるめっき層の表面試験片について、下記の基準で特性を評価し、特性の評価結果を下記表13に示した。
【0145】
<平板耐食性>
平板の耐食性を評価するために、塩水噴霧試験装置(Salt Spray Tester、SST)を用いてISO14993に準じた試験方法により、下記基準に従って評価した。
【0146】
◎:赤錆発生にかかる時間が同一厚さのZnめっきに比べて40倍超過
○:赤錆発生にかかる時間が同一厚さのZnめっきに比べて30倍以上40倍未満
△:赤錆発生にかかる時間が同一厚さのZnめっきに比べて20倍以上30倍未満
X:赤錆発生にかかる時間が同一厚さのZnめっきに比べて20倍未満
【0147】
<曲げ部耐食性>
曲げ部の耐食性を評価するために、塩水噴霧試験装置(SST)を用いてISO14993に準じた試験方法により評価した。上記耐食性の評価試験片は、同一の素材の厚さ及び同一のめっき量で90°曲げ加工を行った。
【0148】
◎:赤錆発生にかかる時間が同一厚さのZnめっきに比べて30倍以上
○:赤錆発生にかかる時間が同一厚さのZnめっきに比べて20倍以上30倍未満
△:赤錆発生にかかる時間が同一厚さのZnめっきに比べて10倍以上20倍未満
X:赤錆発生にかかる時間が同一厚さのZnめっきに比べて10倍未満
【0149】
<散乱反射度>
溶融めっきされた鋼板の幅方向に1/4地点、中央、3/4地点、edgeに位置を区分して各試験片を採取し、各試験片について、総反射に対して散乱反射される光の量を評価するために、積分球に可視光線波長帯(400~800nm)の光を入射して反射される光の種類に応じてISO9001に準じた試験方法により評価した。
【0150】
◎:幅方向の平均総反射度に対する散乱反射度の比率80%超過、及び幅方向の散乱反射度の偏差10%未満
○:幅方向の平均総反射度に対する散乱反射度の比率70%以上80%未満、及び幅方向の散乱反射度の偏差10%以上
△:幅方向の平均総反射度に対する散乱反射度の比率60%以上70%未満、及び幅方向の散乱反射度の偏差10%以上
X:幅方向の平均総反射度に対する散乱反射度の比率60%未満、及び幅方向の散乱反射度の偏差10%以上
【0151】
上記例37~40から得られるめっき鋼板について、EDSまたはXRD装置を使用して表面に最初に形成される腐食生成物の種類及びLDH腐食生成物が形成される時間を測定して下記表13に示した。
【0152】
【表13】

De*:エッジ部の平均ダンパ開度率[%]
Dc*:センター部の平均ダンパ開度率[%]
【0153】
上記表13に示すように、本発明のめっき組成及び製造条件を全て満たす例37~39の場合、耐食性の評価実験時にめっき鋼板の表面に最初にLDHが形成されることを確認した。これにより、平板部及び曲げ加工部においても耐食性がより向上し、鋼板表面の散乱反射度がやや高く、表面品質に優れていることを確認した。
【0154】
これに対し、本発明の冷却条件を満たさない例40の場合、耐食性の評価実験時にめっき鋼板の表面に最初にシモンコライトが形成されることを確認した。これにより、めっき鋼板の平板耐食性だけでなく、曲げ加工部の耐食性もやや劣っていた。さらに、散乱反射度もやや低く、表面品質に劣ることを確認した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9