(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】マルチコアファイバ
(51)【国際特許分類】
G02B 6/02 20060101AFI20240828BHJP
【FI】
G02B6/02 461
(21)【出願番号】P 2023023214
(22)【出願日】2023-02-17
【審査請求日】2023-07-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100143764
【氏名又は名称】森村 靖男
(72)【発明者】
【氏名】小田 拓弥
(72)【発明者】
【氏名】竹永 勝宏
【審査官】山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/044089(WO,A1)
【文献】特開2004-309923(JP,A)
【文献】国際公開第2012/121027(WO,A1)
【文献】特開2014-197094(JP,A)
【文献】特開2011-170099(JP,A)
【文献】特開2014-048645(JP,A)
【文献】特開2016-212157(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1249576(CN,A)
【文献】特開平09-152386(JP,A)
【文献】特開平02-150722(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 11/00-11/30
G02B 6/02- 6/10
6/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のコアと、
それぞれのコアを囲うクラッドと、
を備え、
通信波長帯域以外の波長の測定光の伝搬損失が特定のコアと他のコアとで異なり、
前記測定光の波長が、1360nm以上1460nm以下であり、
前記特定のコアの水酸基の含有量が、前記他のコアの水酸基の含有量より多い
ことを特徴とするマルチコアファイバ。
【請求項2】
前記測定光の前記特定のコアにおける伝搬損失と前記他のコアにおける伝搬損失との差が、0.1dB/km以上である
ことを特徴とする請求項1に記載のマルチコアファイバ。
【請求項3】
前記測定光の波長が、前記通信波長帯域より短い
ことを特徴とする請求項1または2に記載のマルチコアファイバ。
【請求項4】
前記測定光の前記特定のコアにおける伝搬損失と前記他のコアにおける伝搬損失との差が、前記通信波長帯域の波長の光の
前記特定のコアにおける伝搬損失と
前記他のコアにおける伝搬損失との差より大きい
ことを特徴とする請求項1または2に記載のマルチコアファイバ。
【請求項5】
前記測定光の波長が、前記コアを伝搬する前記通信波長帯域の波長の光のモードより次数が一次高いモードの光が伝搬可能な波長以下である
ことを特徴とする請求項1または2に記載のマルチコアファイバ。
【請求項6】
前記特定のコアとの距離が前記他のコアとの距離より小さいマーカーを備える
ことを特徴とする請求項1または2に記載のマルチコアファイバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチコアファイバに関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ通信装置の伝送容量増大を実現するために、導波路としての複数のコアの外周が1つのクラッドにより囲まれたマルチコアファイバを用いて、それぞれのコアを伝搬する光により、複数の信号を伝送させることが知られている。下記特許文献1には、このようなマルチコアファイバが記載されている。
【0003】
下記特許文献1のマルチコアファイバでは、複数のコアにおける特定のコアと他のコアとで伝搬損失が異なる。このため、この伝搬損失の違いに基づいて調芯を行うことができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光通信においては、それぞれのコアを伝搬する光の伝搬損失のばらつきを少なくしたいとの要望がある。この要望に対しては、上記特許文献1のマルチコアファイバにおいて、特定のコアと他のコアとの光の伝搬損失の差を小さくすることが考えられる。しかし、伝搬損失の差を小さくすると特定のコアを識別し難くなる。
【0006】
そこで、本発明は、コアにおける通信波長帯域の波長の光の伝搬損失のばらつきが小さくても特定のコアを容易に識別し得るマルチコアファイバを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様1は、複数のコアと、それぞれのコアを囲うクラッドと、を備え、通信波長帯域以外の波長の測定光の伝搬損失が特定の前記コアと他の前記コアとで異なることを特徴とするマルチコアファイバである。
【0008】
態様1では、上記のように、通信波長帯域以外の波長の測定光の伝搬損失が特定のコアと他のコアとで異なる。このため、態様1によれば、コアにおける通信波長帯域の波長の光の伝搬損失のばらつきが小さくても、特定のコアを調べるために上記の測定光を用いてそれぞれのコアの伝搬損失を調べることで、特定のコアを容易に識別し得る。伝搬損失を調べる方法としては、例えば、OTDR(Optical Time Domain Reflectometer)、OFDR(Optical Frequency Domain Reflectometry)、OLTS(Optical Loss Test Sets)等による測定が挙げられる。特に、OTDR及びOFDRを用いる場合、マルチコアファイバの一端側から光を入射させるだけで伝搬損失を調べることができる為、容易に測定が実現出来得る。
【0009】
本発明の態様2は、前記測定光の特定の前記コアにおける伝搬損失と他の前記コアにおける伝搬損失との差が、0.1dB/km以上であることを特徴とする態様1のマルチコアファイバである。
【0010】
一般的なマルチコアファイバにおけるコア同士の伝搬損失の差は0.1dB/km未満となる傾向にある。このため、態様2によれば、特定のコアを容易に識別し得る。
【0011】
本発明の態様3は、前記測定光の波長が、1360nm以上1460nm未満であることを特徴とする態様1または2のマルチコアファイバである。
【0012】
コアを伝搬する光の波長が所謂E帯である1360nm以上1460nm未満である場合、コアに含有される水酸基による光の損失が大きくなることが知られており、OHロスと言われることがある。態様3によれば、特定のコアの水酸基の含有量を他のコアの水酸基の含有量より多くすることで、測定光の特定のコアにおける伝搬損失を他のコアにおける伝搬損失より大きくできる。従って、測定光の特定のコアにおける伝搬損失と他のコアにおける伝搬損失との差を、通信波長帯域の波長の光の特定のコアにおける伝搬損失と他のコアにおける伝搬損失との差より大きくできる。
【0013】
本発明の態様4は、前記測定光の波長が、前記通信波長帯域より短いことを特徴とする態様1から3いずれか1つのマルチコアファイバである。
【0014】
コアを伝搬する光の波長が短いほど当該光のコア間クロストークが抑制される傾向にある。このため、態様4によれば、通信波長帯域が同じかつ測定光の波長が通信波長帯域より長い場合と比べて、上記の測定光を用いてそれぞれのコアの伝搬損失を調べる際にコアを伝搬する測定光のコア間クロストークを抑制し得る。このため、態様4によれば、特定のコアをより容易に識別し得る。
【0015】
本発明の態様5は、前記測定光の特定の前記コアにおける伝搬損失と他の前記コアにおける伝搬損失との差が、前記通信波長帯域の波長の光の特定の前記コアにおける伝搬損失と他の前記コアにおける伝搬損失との差より大きいことを特徴とする態様1から4のいずれか1つのマルチコアファイバである。
【0016】
態様5によれば、特定のコアをより容易に識別し得る。
【0017】
本発明の態様6は、前記測定光の波長が、前記コアを伝搬する前記通信波長帯域の波長の光のモードより次数が一次高いモードの光が伝搬可能な波長以下であることを特徴とする態様1から5のいずれか1つのマルチコアファイバである。
【0018】
態様6によれば、コアを伝搬する測定光には、コアを伝搬する通信波長帯域の波長の光のモードと同じモードの光と、当該光のモードより高次のモードの光とが含まれる。高次モードの光ほど当該光が伝搬するコアから染み出しやすい傾向にあり、当該コアの外周部や当該コアの外側に位置する伝搬損失因子の影響を受けやすい。伝搬損失因子としては、コアの外周部やクラッドにおけるコアの周囲に添加される測定光を吸収し易い元素、コアとクラッドとの境界の凹凸、コアの近傍に位置するマーカーなどが挙げられる。マーカーから受ける影響としては、マーカーに添加される不純物の影響、マーカーとクラッドとの界面の凹凸の影響などが挙げられる。コアから染み出した高次モードの光がこれら伝搬損失因子まで広がることで、これら伝搬損失因子の影響によって当該高次モードの光の損失が大きくなる。このため、態様6によれば、例えば、これら伝搬損失因子によって通信波長帯域の波長の光のモードより高次のモードの光の特定のコアにおける伝搬損失が他のコアにおける伝搬損失より大きくすることで、測定光の特定のコアにおける伝搬損失を他のコアにおける伝搬損失より大きくできる。従って、測定光の特定のコアにおける伝搬損失と他のコアにおける伝搬損失との差を、通信波長帯域の波長の光の特定のコアにおける伝搬損失と他のコアにおける伝搬損失との差より大きくできる。
【0019】
本発明の態様7は、前記測定光の波長が、800nm以上950nm以下であることを特徴とする態様1、2、及び4から6のいずれか1つのマルチコアファイバである。
【0020】
マルチモードファイバ通信で使用する光の波長は、800nm以上950nm以下とされることがあり、当該波長帯域の光を用いた既存のOTDR、OLTSがある。このため、態様7によれば、例えば、既存のOTDR、OLTSによる伝搬損失の測定によって特定のコアを識別し得る。
【0021】
本発明の態様8は、前記測定光の波長が、360nm以上830nm未満であることを特徴とする態様1、2、及び4から6のいずれか1つのマルチコアファイバである。
【0022】
波長が360nm以上830nm未満の光は可視光であり、当該光はエネルギーが減少するにつれて暗く見える。このため、態様8によれば、例えば、マルチコアファイバの一端側からそれぞれのコアに上記の測定光を入射させた際の戻り光の明るさを目視で調べることで、特定のコアを識別し得る。
【0023】
本発明の態様9は、特定の前記コアとの距離が他の前記コアとの距離より小さいマーカーを備えることを特徴とする態様1から態様8のいずれか1つのマルチコアファイバである。
【0024】
光がコアを伝搬する際、光の一部がコアから染み出す。上記のように、態様9では、マーカーは、特定のコアに最も近い。このため、特定のコアから染み出した光がマーカーの影響を受け易く、特定のコアを伝搬する測定光の損失が他のコアを伝搬する測定光の損失より大きくなるようにし得る。このため、態様9によれば、例えば、マルチコアファイバのそれぞれのコアを構成する材料が同じであっても、測定光の伝搬損失が特定のコアと他のコアとで異なるようにし得る。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、本発明によれば、コアにおける通信波長帯域の波長の光の伝搬損失のばらつきが小さくても特定のコアを容易に識別し得るマルチコアファイバが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施形態に係るマルチコアファイバを備える光通信装置を示す概念図である。
【
図2】
図1に示す伝送用マルチコアファイバの長手方向に垂直な断面を示す図である。
【
図3】シングルコアファイバの長手方向に垂直な断面を示す図である。
【
図4】本実施形態に係る光通信装置の光学特性を示す図である。
【
図5】変形例における伝送用マルチコアファイバの長手方向に垂直な断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係るマルチコアファイバの好適な実施形態について図を参照しながら詳細に説明する。以下に例示する実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、実施形態から変更、改良することができる。なお、理解の容易のため、それぞれの図のスケールと、以下の説明に記載するスケールとが異なる場合がある。
【0028】
図1は、本発明の実施形態に係るマルチコアファイバを備える光通信装置を示す概念図である。本実施形態のマルチコアファイバは伝送用マルチコアファイバ10であり、光通信装置1は、伝送用マルチコアファイバ10と、ファン・イン/ファン・アウトデバイス20と、を主な構成として備える。
【0029】
図2は、
図1に示す伝送用マルチコアファイバ10の長手方向に垂直な断面を示す図である。本実施形態の伝送用マルチコアファイバ10は、非結合型のマルチコアファイバであり、4つのコア11a~11d、それぞれのコア11a~11dの外周面を隙間なく囲むクラッド12、クラッド12の外周面を被覆する被覆層13を備える。なお、コアの数は複数であればよく、制限されるものではない。
【0030】
本実施形態では、クラッド12の長手方向に垂直な断面における外形は、概ね円形であり、それぞれのコア11a~11dはクラッド12の中心を中心として概ね4回回転対称となる位置に配置されている。なお、コアの配置は、制限されるものではない。
【0031】
それぞれのコア11a~11dの屈折率はクラッド12の屈折率よりも高く、本実施形態では、それぞれのコア11a~11dのクラッド12に対する比屈折率差は、互いに同じである。このようなコア11a~11dは、例えば、ゲルマニウム等の屈折率が高くなるドーパントが添加されたシリカガラスから成り、クラッド12は、例えば、ドーパントが添加されていないシリカガラスから成る。また、コア11a~11dが何らドーパントを添加されていないシリカガラスから成り、クラッド12がフッ素等の屈折率が低くなるドーパントが添加されたシリカガラスから成る構成であってもよい。
【0032】
本実施形態では、コア11aの水酸基の含有量が、コア11b~11dの水酸基の含有量より多い。コア11aの水酸基をコア11b~11dの水酸基より多くする方法として、例えば、伝送用マルチコアファイバ10の母材を製造する過程において、コア11aとなるコアロッドの脱水工程の時間をコア11b~11dとなるコアロッドの脱水工程の時間より短くすることが挙げられる。
【0033】
被覆層13は紫外線硬化性樹脂等の樹脂から成る。
【0034】
次に、ファン・イン/ファン・アウトデバイス20について説明する。ファン・イン/ファン・アウトデバイスはFIFOと呼ばれることがあり、以下では、ファン・イン/ファン・アウトデバイス20をFIFO20と呼ぶ場合がある。
【0035】
図1に示すように、本実施形態のFIFO20は、4つのシングルコアファイバ30a~30dと、導波路部材40とを主な構成として備える。なお、シングルコアファイバ30a~30dの数は、伝送用マルチコアファイバ10のコア11a~11dの数と同じであればよく、コア11a~11dの数に応じて変化する。
【0036】
それぞれのシングルコアファイバ30a~30dの構成は互いに同じである。このため、以下では、シングルコアファイバ30aについて説明し、他方のシングルコアファイバ30b~30dについては、特に説明する場合を除き、同一の参照符号を付して重複する説明は省略する。
【0037】
図3は、シングルコアファイバ30aの長手方向に垂直な断面を示す図である。本実施形態のシングルコアファイバ30aは、コア31、コア31の外周面を隙間なく囲むクラッド32、クラッド32の外周面を被覆する被覆層33を備える。
【0038】
本実施形態では、クラッド32の長手方向に垂直な断面における外形は、概ね円形であり、コア31はクラッド32の中心に配置されている。コア31の直径は、伝送用マルチコアファイバ10のコア11a~11dの直径と概ね同じである。
【0039】
コア31の屈折率はクラッド32の屈折率よりも高い。このようなコア31は、例えば、屈折率が高くなるドーパントが添加されたシリカガラスから成り、クラッド32は、例えば、ドーパントが添加されていないシリカガラスから成る。また、コア31が何らドーパントを添加されていないシリカガラスから成り、クラッド32が屈折率が低くなるドーパントが添加されたシリカガラスから成る構成であってもよい。
【0040】
被覆層33は紫外線硬化性樹脂等の樹脂から成なる。
【0041】
導波路部材40は、それぞれのシングルコアファイバ30a~30dのコア31と伝送用マルチコアファイバ10のコア11a~11dとを個別に光学的に結合する部材である。本実施形態では、導波路部材40は、マルチコアファイバ50とピッチ変換部60とを含む。
【0042】
本実施形態のマルチコアファイバ50は、伝送用マルチコアファイバ10と同じ構成であり、4つのコア11a~11d、クラッド12、被覆層13を備える。マルチコアファイバ50の一端は、当該マルチコアファイバ50のそれぞれのコア11a~11dが伝送用マルチコアファイバ10のコア11a~11dに個別に光学的に結合されるように、伝送用マルチコアファイバ10の一端に接続される。
【0043】
本実施形態のピッチ変換部60は、一端から他端まで延在する4つの導波路61a~61dを有する導波路基板である。ピッチ変換部60の一端での導波路61a~61dの配置は、マルチコアファイバ50のコア11a~11dの配置に対応する。マルチコアファイバ50の他端は、当該マルチコアファイバ50のそれぞれのコア11a~11dがこれらの導波路61a~61dの一端に個別に結合されるように、ピッチ変換部60の一端に接続される。ピッチ変換部60の他端での導波路61a~61dの配置は、直線状に一列に並ぶ配置であり、他端側での導波路61a~61d間の距離が一端側での導波路61a~61d間の距離より大きい。シングルコアファイバ30aの一端は、マルチコアファイバ50のコア11aに結合される導波路61aに結合されるように、ピッチ変換部60の他端に接続される。シングルコアファイバ30bの一端は、マルチコアファイバ50のコア11bに結合される導波路61bに結合されるように、ピッチ変換部60の他端に接続される。シングルコアファイバ30cの一端は、マルチコアファイバ50のコア11cに結合される導波路61cに結合されるように、ピッチ変換部60の他端に接続される。シングルコアファイバ30dの一端は、マルチコアファイバ50のコア11dに結合される導波路61dに結合されるように、ピッチ変換部60の他端に接続される。こうして、導波路部材40によって、それぞれのシングルコアファイバ30a~30dのコア31と伝送用マルチコアファイバ10のコア11a~11dとが個別に光学的に結合される。
【0044】
なお、導波路部材40は、それぞれのシングルコアファイバ30a~30dのコア31と伝送用マルチコアファイバ10のコア11a~11dとを個別に光学的に結合すればよく、制限されるものではない。例えば、ピッチ変換部60の他端での導波路61a~61dの配置は、所定の円周上に所定の間隔をあけて並ぶ配置であってもよい。導波路部材40は、ピッチ変換部60のみから成っていてもよく、ピッチ変換部60は、複数のレンズから成る空間光学系であってもよい。また、ピッチ変換部60は、複数のシングルコアファイバ30a~30dと一体に形成されてもよい。このようなピッチ変換部60は、例えば、複数のシングルコアファイバ30a~30dが束ねられたファイバ束の端部を延伸することで形成することができる。
【0045】
図4は、本実施形態の光通信装置1の光学特性を示す図であり、
図1に示されるOTDR70によって測定された波形を示す図である。OTDR70の測定光の入射位置は、FIFO20におけるそれぞれのシングルコアファイバ30a~30dの導波路部材40側と反対側の端である。また、測定光は通信波長帯域以外の波長の光であり、測定光の波長は、所謂E帯である1360nm以上1460nm未満である。また、測定光の波長は、通信波長帯域より短く、本実施形態では、通信波長帯域は、所謂C帯である1530nm以上1565nm未満、及び所謂L帯である1565nm以上1625nm未満である。
図4には、シングルコアファイバ30aに測定光を入射した際の波形WFaとシングルコアファイバ30bに測定光を入射した際の波形WFbとが上下方向に並べられて示されている。
【0046】
図4に示すように、本実施形態では、波形WFaにおける伝送用マルチコアファイバ10及びマルチコアファイバ50に対応する部位の傾きが、波形WFbにおける伝送用マルチコアファイバ10及びマルチコアファイバ50に対応する部位の傾きより大きい。つまり、測定光の伝送用マルチコアファイバ10及びマルチコアファイバ50のコア11aにおける伝搬損失が伝送用マルチコアファイバ10及びマルチコアファイバ50のコア11bにおける伝搬損失より大きい。コアを伝搬する光の波長がE帯である場合、コアに含有される水酸基による光の損失が大きくなることが知られており、OHロスと言われることがある。本実施形態では、OHロスによって、測定光の伝送用マルチコアファイバ10及びマルチコアファイバ50のコア11aにおける伝搬損失が伝送用マルチコアファイバ10及びマルチコアファイバ50のコア11bにおける伝搬損失より大きい。
【0047】
なお、図示による説明は省略するが、シングルコアファイバ30cに測定光を入射した際の波形及びシングルコアファイバ30dに測定光を入射した際の波形は、波形WFbと概ね同じである。このため、測定光の伝搬損失がコア11aと他のコア11b~11dとで異なり、測定光のコア11aにおける伝搬損失が、測定光の他のコア11b~11dの伝搬損失より大きい。また、シングルコアファイバ30a~30dのそれぞれに通信波長帯域の光を入射した際の波形は、波形WFbと概ね同じである。このため、測定光のコア11aにおける伝搬損失と他のコア11b~11dにおける伝搬損失との差が、通信波長帯域の波長の光のコア11aにおける伝搬損失と他のコア11b~11dにおける伝搬損失との差より大きい。
【0048】
以上説明したように、本実施形態のマルチコアファイバとしての伝送用マルチコアファイバ10では、通信波長帯域以外の波長の測定光の伝搬損失がコア11aと他のコア11b~11dとで異なる。このため、本実施形態の伝送用マルチコアファイバ10によれば、コア11a~11dにおける通信波長帯域の波長の光の伝搬損失のばらつきが小さくても、コア11aを調べるために上記の測定光を用いてそれぞれのコア11a~11dの伝搬損失を調べることで、コア11aを容易に識別し得る。
【0049】
本実施形態では、測定光のコア11aにおける伝搬損失と他のコア11b~11dにおける伝搬損失との差が、通信波長帯域の波長の光のコア11aにおける伝搬損失と他のコア11b~11dにおける伝搬損失との差より大きい。このため、本実施形態の伝送用マルチコアファイバ10によれば、コア11aをより容易に識別し得る。
【0050】
なお、伝搬損失を調べる方法は、OTDR70による測定に限定されるものではなくて、例えばOFDR、OLTS等による測定であってもよい。OTDR及びOFDRを用いる場合、伝送用マルチコアファイバ10の一端側から光を入射させるだけで伝搬損失を調べることができる為、容易に測定が実現出来得る。また、伝送用マルチコアファイバ10の他端側に作業員を要しないことに起因してコストを低減し得る。
【0051】
本実施形態では、測定光の波長が通信波長帯域より短い。コアを伝搬する光の波長が短いほど当該光のコア間クロストークが抑制される傾向にある。このため、本実施形態の伝送用マルチコアファイバ10によれば、通信波長帯域が同じかつ測定光の波長が通信波長帯域より長い場合と比べて、上記の測定光を用いてそれぞれのコア11a~11dの伝搬損失を調べる際にコア11a~11dを伝搬する測定光のコア間クロストークを抑制し得る。このため、本実施形態の伝送用マルチコアファイバ10によれば、コア11aをより容易に識別し得る。
【0052】
本実施形態では、測定光の波長が、所謂E帯であり、1360nm以上1460nm未満である。本実施形態によれば、前述のように、コア11aの水酸基の含有量を他のコア11b~11dの水酸基の含有量より多くすることで、測定光のコア11aにおける伝搬損失を他のコア11b~11dにおける伝搬損失より大きくできる。従って、測定光のコア11aにおける伝搬損失と他のコア11b~11dにおける伝搬損失との差を、通信波長帯域の波長の光のコア11aにおける伝搬損失と他のコア11b~11dにおける伝搬損失との差より大きくできる。また、光通信で使用する光の波長は、E帯とされることがあり、当該波長帯域の光を用いた既存のOTDR、OFDR、OLTS等がある。このため、本実施形態によれば、例えば、既存のOTDR、OFDR、OLTS等であっても伝搬損失を測定でき得る。このため、コア11aを識別し易くし得る。
【0053】
なお、測定光のコア11aにおける伝搬損失と他のコア11b~11dにおける伝搬損失との差は、0.1dB/km以上であることが好ましい。このような構成にすることで、伝搬損失の測定可能な最小の値が大きい測定装置(例えば、汎用の測定装置)であっても伝搬損失の差を測定でき得るため、コア11aを識別し易くし得る。ここで、特に短尺のマルチコアファイバの場合、伝搬損失が小さいため測定される伝搬損失の誤差が大きくなる場合がある。しかし、このような構成にすることで、短尺の伝送用マルチコアファイバ10であっても誤差を抑制してコア11aを容易に識別し易くし得る。また、一般的なマルチコアファイバにおけるコア同士の伝搬損失の差は0.1dB/km未満となる傾向にある。このため、このような構成にすることで、コア11aを識別し易くし得る。また、一般的な光ファイバの伝搬損失の典型値と光ファイバ準拠規格の伝搬損失の値の上限との差は、0.1dB/km未満となる傾向にある。そして、伝搬損失の差が0.1dB/km以上の場合、上記の差の値から1桁以上と、一般的に通信に用いる光ファイバの準拠規格から外れる程度に伝搬損失の差が高いことを示すことになるため、より確実にコア11aを識別し易くなる。なお、これらの観点では、上記の差は、0.5dB/km以上であることがより好ましく、1.0dB/km以上であることが更に好ましい。
【0054】
以上、本発明について、上記実施形態を例に説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。通信波長帯域以外の波長の測定光の伝搬損失がコア11aと他のコア11b~11dとで異なっていればよく、例えば、測定光のコア11aにおける伝搬損失が、測定光の他のコア11b~11dの伝搬損失より小さくてもよい。
【0055】
また、通信波長帯域及び測定光の波長は制限されるものではない。例えば、コアを伝搬する光の波長が400nm以上600nm未満である場合、コアのニッケル・クロム・コバルト・鉄・銅の含有量に応じて光の損失が大きくなる傾向にある。コアを伝搬する光の波長が600nm以上800nm未満である場合、コアのニッケル・クロム・コバルト・鉄の含有量に応じて光の損失が大きくなる傾向にある。コアを伝搬する光の波長が800nm以上900nm未満である場合、コアのクロムの含有量に応じて光の損失が大きくなる傾向にある。コアを伝搬する光の波長が900nm以上1000nm未満である場合、コアのクロム・水酸基の含有量に応じて光の損失が大きくなる傾向にある。コアを伝搬する光の波長が所謂T帯である1000nm以上1260nm未満である場合、コアのニッケル・コバルト・水酸基の含有量に応じて光の損失が大きくなる傾向にある。コアを伝搬する光の波長が所謂O帯である1260nm以上1360nm未満である場合、コアのニッケル・コバルトの含有量に応じて光の損失が大きくなる傾向にある。コアを伝搬する光の波長がE帯である場合、コアのニッケル・コバルト・水酸基の含有量に応じて光の損失が大きくなる傾向にある。コアを伝搬する光の波長が所謂S帯である1460nm以上1530nm未満である場合、所謂C帯である1530nm以上1565nm未満である場合、所謂L帯である1565nm以上1625nm未満である場合、及び所謂U帯である1625nm以上1675nm未満である場合、コアのニッケル・コバルトの含有量に応じて光の損失が大きくなる傾向にある。コアを伝搬する光の波長が1675nm以上である場合、コアの水酸基・コバルト・ニッケルの含有量に応じて光の損失が大きくなる傾向にある。このため、例えば、伝送用マルチコアファイバ10のコア11aの上記物質の含有量を調節することによって、上記の構成にすることができる。このため、例えば、通信波長帯域をC帯、L帯、O帯、及びS帯の少なくとも1つの帯域とし、通信波長帯域以外の波長帯域をT帯、E帯、U帯、波長が10nm以上360nm未満である紫外線帯域、波長が360nm以上830nm未満である可視光帯域、及び波長が830nm以上2.5μm以下である赤外線領域における、C帯、L帯、O帯及びS帯を除く帯域の少なくとも1つとしてもよい。
【0056】
伝送用マルチコアファイバ10は、マーカー等のコア11a~11dと異なる部材を更に有していてもよく、このような変形例について説明する。
図5は変形例における伝送用マルチコアファイバ10の長手方向に垂直な断面を示す図である。
図5に示す変形例の伝送用マルチコアファイバ10は、マーカー15を備える。コア11aとマーカー15との距離は、他のコア11b~11dとマーカー15との距離より小さい。このため、本変形例によれば、結合導波路21aの一部であるマルチコアファイバ50のコア11aから染み出した光がマーカー15の影響を受け易い。コア11aから染み出した光がマーカー15から受ける影響としては、マーカー15に添加される不純物の影響、マーカー15とクラッド12との界面の凹凸の影響などが挙げられる。マーカー15に添加される不純物としては、水分や前述した光の損失を大きくするドーパント、ゲルマニウム、鉄、ほう素等のドーパントが挙げられる。界面の凹凸を大きくする方法としては、例えば、穿孔法でマルチコアファイバ50の母材を作製する際に、マーカー15となるマーカーロッドの外周面の表面粗さや、クラッド12となるクラッドロッドにおけるマーカーロッドが挿入される孔を規定する面の表面粗さを粗くすることが挙げられる。コア11aから染み出した光がマーカー15まで広がることで、上記の影響によって当該光の損失が大きくなる。このため、コア11aを伝搬する測定光の損失が他のコア11b~11dを伝搬する測定光の損失より大きくなるようにし得る。このため、本変形例によれば、例えば、それぞれのコア11a~11dを構成する材料が同じであっても、測定光の伝搬損失がコア11aと他のコア11b~11dとで異なるようにし得る。また、コア11aをマーカー15に基づいて目視で識別することができる。
【0057】
また、測定光の波長は、コア11a~11dを伝搬する通信波長帯域の波長の光のモードより次数が一次高いモードの光が伝搬可能な波長以下であってもよい。この場合、コア11a~11dを伝搬する測定光には、コア11a~11dを伝搬する通信波長帯域の波長の光のモードと同じモードの光と、当該光のモードより高次のモードの光とが含まれる。高次モードの光ほど当該光が伝搬するコアから染み出しやすい傾向にあり、当該コアの外周部や当該コアの外側に位置する伝搬損失因子の影響を受けやすい。伝搬損失因子としては、コアの外周部やクラッドにおけるコアの周囲に添加される測定光を吸収し易い元素、コアとクラッドとの境界の凹凸、コアの近傍に位置するマーカーなどが挙げられる。マーカーから受ける影響としては、マーカーに添加される不純物の影響、マーカーとクラッドとの界面の凹凸の影響などが挙げられる。コアから染み出した高次モードの光がこれら伝搬損失因子まで広がることで、これら伝搬損失因子の影響によって当該高次モードの光の損失が大きくなる。このため、上記の構成によれば、例えば、これら伝搬損失因子によって通信波長帯域の波長の光のモードより高次のモードの光のコア11aにおける伝搬損失が他のコア11b~11dにおける伝搬損失より大きくすることで、測定光のコア11aにおける伝搬損失を他のコア11b~11dにおける伝搬損失より大きくできる。従って、測定光のコア11aにおける伝搬損失と他のコア11b~11dにおける伝搬損失との差を、通信波長帯域の波長の光のコア11aにおける伝搬損失と他のコア11b~11dにおける伝搬損失との差より大きくできる。この場合、コア11a~11dを伝搬する通信波長帯域の波長の光のモードは、シングルモードであってもよい。なお、クラッドの外周面とコアとの距離が小さい場合、漏洩する高次モードの光量が増加し光の損失が大きくなる。このため、コア11aの位置を調節することによって、通信波長帯域の波長の光のモードより高次のモードの光のコア11aにおける伝搬損失が他のコア11b~11dにおける伝搬損失より大きくすることもできる。
【0058】
測定光の波長は、800nm以上950nm以下であってもよい。マルチモードファイバ通信で使用する光の波長は、800nm以上950nm以下とされることがあり、当該波長帯域の光を用いた既存のOTDR、OLTSがある。このため、このような構成によれば、例えば、既存のOTDR、OLTSによる伝搬損失の測定によってコア11aを識別し得る。
【0059】
測定光の波長は、所謂U帯である1625nm以上1675nm未満であってもよい。マルチモードファイバ通信で使用する光の波長は、U帯の波長とされることがあり、当該波長帯域の光を用いた既存のOTDR、OLTSがある。このため、このような構成によれば、例えば、既存のOTDR、OLTSであっても伝搬損失を測定でき得る。このため、コア11aを識別し易くし得る。
【0060】
測定光の波長は、360nm以上830nm未満であってもよい。波長が360nm以上830nm未満の光は可視光であり、当該光はエネルギーが減少するにつれて暗く見える。このため、このような構成によれば、例えば、伝送用マルチコアファイバ10の一端側からそれぞれのコア11a~11dに上記の測定光を入射させた際の戻り光の明るさを目視で調べることで、コア11aを識別し得る。また、伝搬損失を測定する装置を用いなくてもコア11aを識別し得る。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上説明したように、本発明によれば、コアにおける通信波長帯域の波長の光の伝搬損失のばらつきが小さくても特定のコアを容易に識別し得るマルチコアファイバが提供され、光ファイバ通信等の分野で利用することが期待される。
【符号の説明】
【0062】
1・・・光通信装置
10・・・伝送用マルチコアファイバ(マルチコアファイバ)
11a~11d・・・コア
12・・・クラッド
13・・・被覆層
20・・・ファン・イン/ファン・アウトデバイス
【要約】
【課題】 コアにおける通信波長帯域の波長の光の伝搬損失のばらつきが小さくても特定のコアを容易に識別し得るマルチコアファイバを提供する。
【解決手段】 伝送用マルチコアファイバ10は、複数のコア11a~11dと、それぞれのコア11a~11dを囲うクラッド12と、を備え、通信波長帯域以外の波長の測定光の伝搬損失がコア11aと他のコア11b~11dとで異なる。
【選択図】
図2