(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】シリンダ装置
(51)【国際特許分類】
F16F 9/32 20060101AFI20240828BHJP
F16F 9/19 20060101ALI20240828BHJP
【FI】
F16F9/32 J
F16F9/19
F16F9/32 M
(21)【出願番号】P 2023037033
(22)【出願日】2023-03-10
【審査請求日】2024-06-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】カヤバ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】松岡 良樹
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-053677(JP,A)
【文献】実開昭53-010084(JP,U)
【文献】実開昭53-072085(JP,U)
【文献】実開平07-041092(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/32
F16F 9/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、
前記シリンダ内に軸方向で移動可能に挿入されるロッドと、
前記シリンダ内に軸方向で移動可能に挿入されるとともに前記ロッドに連結されるピストン本体と前記ピストン本体の外周に装着されて前記シリンダの内周に摺接するピストンリングとを有するピストンとを備え、
前記シリンダは、外周側から加締められることによって形成されて前記シリンダの内周側へ突出するとともに、前記ピストンが前記シリンダ内を一方向にストロークエンドまで移動したときに前記ピストン本体の一端側の外周端に当接するストッパ部を有し、
前記ストッパ部の軸方向の前記ピストン側端と前記ストッパ部の前記ピストン本体が当接する部分との間の軸方向距離が、前記ピストンリングの前記シリンダの内周に摺接する摺動面の前記ストッパ部側の端部と前記ピストン本体の前記外周端との間の軸方向距離よりも短い
ことを特徴とするシリンダ装置。
【請求項2】
前記ピストン本体の外周には周方向に沿う環状溝を複数有するピストンリング装着部が設けられ、
前記ピストンリングは、合成樹脂製の円盤状の母材を前記ピストンリング装着部の一端側に配置される前記環状溝に嵌合した状態で、前記ピストン本体を一端側から筒状のダイ内に押し込むことで、前記ピストン本体の外周に装着されている
ことを特徴とする請求項1に記載のシリンダ装置。
【請求項3】
前記ピストンリングは、前記摺動面の前記ストッパ部側の端部から内側に向けて傾斜する傾斜部を有する
ことを特徴とする請求項1に記載のシリンダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来シリンダ装置としては、例えば、車両における車体と車軸との間に介装されて、伸縮時に発揮する減衰力で車体および車輪の振動を抑制する緩衝器がある。
【0003】
このような緩衝器は、シリンダと、シリンダ内に軸方向で移動可能に挿入されるロッドと、シリンダ内に軸方向で移動可能に挿入されるとともにロッドに連結されるピストン本体とピストン本体の外周に装着されてシリンダの内周に摺接するピストンリングとを有してシリンダ内を伸側室と圧側室とに区画するピストンと、ピストン本体に設けられて伸側室と圧側室とを連通するとともに通過する液体の流れに抵抗を与える減衰通路とを備えている。
【0004】
このような緩衝器では、ロッドは車両に搭載される緩衝器に要求されるストローク量を確保できるだけの長さがあればよいので、緩衝器を軽量化するために、ロッドの長さをシリンダの長さよりも短くする場合がある。
【0005】
このような緩衝器では、例えば、緩衝器の運搬時に作業者がロッドをシリンダ内に押し込んでおき、緩衝器の全長を短くしておく場合がある。ところが、作業者がロッドをシリンダ内に押し込む際に誤ってロッド全体をシリンダ内に押し込んでしまった場合、ロッドがシリンダ内に潜り込んで、シリンダ内の液体が外部に流出する恐れがある。
【0006】
また、ロッドの端側に潜り込みを防止するためのストッパを設ける場合では、ストッパがロッドの外周をシールするシールリングに干渉して、やはり、液体の外部への流出を招く可能性がある。
【0007】
そこで、特許文献1の緩衝器では、作業者がロッドをシリンダ内に押し込む際にロッドがシリンダ内に潜り込む前にピストンが当接してロッドの移動を規制するストッパ部をシリンダの内周に設けることで、ロッドがシリンダ内に潜り込むのを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このストッパ部はシリンダを外周から加締めることで断面円弧状に形成されている。そして、ストッパ部の先端から中央の頂部までの何れかの部位にピストンの端部が当接することで、ロッドのシリンダ内への潜り込みを防止している。
【0010】
ところが、ストッパ部が断面円弧状に形成されていると、ピストンのピストン本体がストッパ部に当接するより前に、ピストンリングのストッパ側を向く端部がストッパ部のピストンに当接する部位に接触する場合がある。すると、ピストンリングがストッパ部の先端側に乗り上げて、ピストン本体とストッパ部との間にピストンリングが噛み込んで、ピストンリングの劣化を招いたり、ピストンがシリンダに対して固着して動けなくなるなどの問題が生じる恐れがある。
【0011】
そこで、本発明は、シリンダの内周にシリンダを外周側から加締めて形成されるストッパ部を設けても、ピストン本体とストッパ部との間にピストンリングが噛み込む恐れのないシリンダ装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述の課題を解決するため、本発明のシリンダ装置は、シリンダ内に軸方向で移動可能に挿入されるロッドに連結されてシリンダ内に軸方向で移動可能に挿入されるピストン本体とピストン本体の外周に装着されてシリンダの内周に摺接するピストンリングとを有するピストンとを備え、シリンダは、外周側から加締められることによって形成されてシリンダの内周側へ突出するとともに、ピストンがシリンダ内を一方向にストロークエンドまで移動したときにピストン本体の一端側の外周端に当接するストッパ部を有し、ストッパ部の軸方向のピストン側端とストッパ部のピストン本体が当接する部分との間の軸方向距離が、ピストンリングのシリンダの内周に摺接する摺動面のストッパ部側の端部とピストン本体の外周端との間の軸方向距離よりも短いことを特徴とする。この構成によると、ピストン本体の一端側の外周端がストッパ部に当接する際に、ピストンリングの摺動面のストッパ部側の端部は、ストッパ部の軸方向のピストン側端から離間した状態となるため、ピストンリングがストッパ部に乗り上げてしまうことがない。
【0013】
本発明のシリンダ装置では、ピストン本体の外周には周方向に沿う環状溝を複数有するピストンリング装着部が設けられ、ピストンリングは、合成樹脂製の円盤状の母材をピストンリング装着部の一端側に配置される環状溝に嵌合した状態で、ピストン本体を一端側から筒状のダイ内に押し込むことで、ピストン本体の外周に装着されてもよい。このように装着されたピストンリングの一端は、内側に向けて傾斜する傾斜部となるため、この傾斜部をストッパ部側へ向くようにピストンをロッドに連結すると、傾斜部の軸方向長さの分だけピストンリングの摺動面のストッパ部側端とピストン本体の一端側の外周端との間の軸方向距離を長く確保できる。よって、上記構成によると、ピストンリングの摺動面のストッパ部側端とピストン本体の一端側の外周端との間の軸方向距離を、ストッパ部の軸方向のピストン側端とストッパ部のピストン本体が当接する部分との間の軸方向距離よりも長く設定しやすくなる。
【0014】
本発明のシリンダ装置では、ピストンリングは、摺動面のストッパ部側の端部から内側に向けて傾斜する傾斜部を有してもよい。この構成によると、傾斜部の軸方向長さの分だけピストンリングの摺動面のストッパ部側端とピストン本体の一端側の外周端との間の軸方向距離を長く確保できる。よって、上記構成によると、ピストンリングの摺動面のストッパ部側端とピストン本体の一端側の外周端との間の軸方向距離を、ストッパ部の軸方向のピストン側端とストッパ部のピストン本体が当接する部分との間の軸方向距離よりも長く設定しやすくなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のシリンダ装置によれば、ピストン本体とストッパ部との間にピストンリングが噛み込む恐れがないため、ピストンリングの劣化やピストンがシリンダに対して固着するといった問題が生じなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】本実施の形態の緩衝器の一部を拡大して示す断面図である。
【
図3】(A)は本実施の形態の緩衝器におけるピストン本体の外周にピストンリングを装着する加工手順を説明する図である。(B)は本実施の形態の緩衝器におけるピストン本体の外周にピストンリングを装着する加工において、母材がダイの内周に押し込まれている状態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のシリンダ装置としての緩衝器Dについて、図面を参照しながら説明する。いくつかの図面を通して付された同じ符号は、同じ部品を示す。また、緩衝器Dが車両に取り付けられた状態での上下を、特別な説明がない限り、単に「上」「下」という。
【0018】
本実施の形態における緩衝器Dは、
図1に示すように、シリンダ1と、シリンダ1内に軸方向で移動可能に挿入されるロッド2と、シリンダ1内に軸方向で移動可能に挿入されるとともにロッド2に連結されるピストン本体30とピストン本体30の外周に装着されてシリンダ1の内周に摺接するピストンリング31とを有するピストン3とを備え、シリンダ1が、外周側から加締められることによって形成されてシリンダ1の内周側へ突出するとともに、ピストン3がシリンダ1内を下方向にストロークエンドまで移動したときにピストン本体30の一端に当接するストッパ部10を有している。なお、本実施の形態では、緩衝器Dは、ロッド2を車体側に連結し、シリンダ1を車軸側に連結する正立型とされているが、緩衝器Dは、シリンダ1を車体側に連結しロッド2を車軸側に連結する倒立型とされてもよい。
【0019】
以下、本実施の形態の緩衝器Dの各部について詳細に説明する。本実施の形態の緩衝器にあっては、シリンダ1内の
図1中下方にシリンダ1の内周に摺接してシリンダ1内を液室Rと気室Gとに区画するフリーピストン7が設けられており、液室Rはシリンダ1内に摺動自在に挿入されるピストン3によって伸側室R1と圧側室R2とに区画されている。そして、伸側室R1および圧側室R2には作動油等の液体が充満されており、気室G内には窒素などの不活性ガスが充填されている。ただし、伸側室R1および圧側室R2内に充填される液体は、作動油以外にも、たとえば、水、水溶液といった液体を使用することもできる。また、気室G内には、不活性ガス以外の気体を充填してもよい。
【0020】
シリンダ1は、
図1中下端がボトムキャップ4により閉塞されており、
図1中上端には、ロッド2を摺動自在に軸支する環状のロッドガイド5が装着されている。また、シリンダ1の
図1中上端であって、ロッドガイド5の
図1中上方には、ロッド2の外周に摺接するシール部材6が装着されている。このシール部材6は、ロッド2の外周をシールして、シリンダ1内の液体の漏洩を阻止している。
【0021】
なお、ロッド2は、シール部材6に摺接するとともにシリンダ1内に出入りする本体部2aと、本体部2aの上方に本体部2aより外径が小径であって車両等に連結可能な連結部2bとを有している。
【0022】
ピストン3は、
図1に示すように、環状のピストン本体30と、合成樹脂製であってピストン本体30の外周に装着される円筒状のピストンリング31とを備えて構成されている。
【0023】
ピストン本体30は、
図2に示すように、中心に取付孔30aが形成される環状の円盤部32と、円盤部32の外周から
図1中下方へ軸方向に沿って延びる環状のスカート部33と、円盤部32を軸方向に貫通する複数の伸側ポート34及び複数の圧側ポート35と、円盤部32の
図1中下端であってスカート部33の内側に設けられる環状の伸側弁座36と、円盤部32の
図1中上端に設けられる花弁型の圧側弁座37とを備えている。
【0024】
また、圧側ポート35は、入口端が円盤部32の
図1中下端における伸側弁座36の外側に開口し、出口端が円盤部32の
図1中上端における圧側弁座37に囲まれた独立開口窓37aから開口して、伸側室R1と圧側室R2とを連通している。
【0025】
また、伸側ポート34は、入口端が円盤部32の
図1中上端における圧側弁座37に囲われない箇所から開口し、出口端が円盤部32の
図1中下端における伸側弁座36の内側に開口して、伸側室R1と圧側室R2とを連通している。
【0026】
また、ピストン3の伸側室R1に面する
図1中上端には、圧側弁座37に着座する環状の圧側リーフバルブV1が積層されており、ピストン3の圧側室R2に面する
図1中下端には、伸側弁座36に着座する環状の伸側リーフバルブV2が積層されている。
【0027】
そして、ピストン3に圧側リーフバルブV1および伸側リーフバルブV2を積層した状態で、これらをロッド2の本体部2aの先端に設けた小径なピストン装着部2cの外周に組み付けた後、ピストン装着部2cの先端の螺子部2dにピストンナット8を装着して締め付けることで、ピストン3、圧側リーフバルブV1および伸側リーフバルブV2がロッド2に固定される。
【0028】
このようにロッド2にピストン3、圧側リーフバルブV1および伸側リーフバルブV2が固定されると、圧側リーフバルブV1および伸側リーフバルブV2は、外周の撓みが許容されつつその内周がロッド2に固定される。
【0029】
圧側リーフバルブV1は、圧側弁座37に着座した状態では、圧側ポート35を閉塞し、外周側が撓むと圧側ポート35を開放するようになっていて、圧側ポート35を開閉することができる。また、伸側リーフバルブV2は、伸側弁座36に着座した状態では、伸側ポート34を閉塞し、外周側が撓むと伸側ポート34を開放するようになっていて、伸側ポート34を開閉することができる。
【0030】
また、ピストン本体30の外周である円盤部32とスカート部33の外周には、周方向に沿う環状溝を複数有するピストンリング装着部30bが設けられている。ピストンリング31は、加熱された状態でピストンリング装着部30bに押し付けられて装着されることで、内周がピストンリング装着部30bに符合する形状に変形せしめられて、ピストン本体30に一体化されている。
【0031】
つづいて、本実施の形態の緩衝器Dの作動について詳細に説明する。まず、シリンダ1内をピストン3が
図1中下方へ移動して緩衝器Dが収縮する場合、圧縮されて圧力上昇する圧側室R2の圧力により伸側リーフバルブV2がピストン3側へ押圧されて伸側ポート34が閉塞される一方、圧側ポート35を介して圧側室R2の圧力を受ける圧側リーフバルブV1は撓んで圧側弁座37から離座して、圧側ポート35を開放する。圧側リーフバルブV1は、圧側ポート35を通過して圧側室R2から伸側室R1へ移動する液体の流れに抵抗を与えるため、緩衝器Dは、自身の収縮を妨げる圧側減衰力を発揮する。
【0032】
反対に、シリンダ1内をピストン3が
図1中上方へ移動して緩衝器Dが伸長する場合、圧縮されて圧力上昇する伸側室R1の圧力により圧側リーフバルブV1がピストン3側へ押圧されて圧側ポート35が閉塞される一方、伸側ポート34を介して伸側室R1の圧力を受ける伸側リーフバルブV2は撓んで伸側弁座36から離座して、伸側ポート34を開放する。伸側リーフバルブV2は、伸側ポート34を通過して伸側室R1から圧側室R2へ移動する液体の流れに抵抗を与えるため、緩衝器Dは、自身の伸長を妨げる伸側減衰力を発揮する。
【0033】
また、シリンダ1内に出入りするロッド2の体積は、フリーピストン7がシリンダ1内で移動して気室Gを圧縮或いは膨張させることで吸収される。このように、本実施の形態の緩衝器Dは、単筒型緩衝器とされているが、シリンダ1の下端にベースバルブを設けてシリンダ外にリザーバを設けるいわゆる複筒型緩衝器として構成されてもよい。
【0034】
つづいて、シリンダ1に設けられるストッパ部10について詳細に説明する。ストッパ部10は、シリンダ1を外周側から加締めることによって、シリンダ1の内周側へ突出するように環状に形成されている。そして、
図2に示すように、ピストン3がシリンダ1内を下側のストロークエンドまで移動したときにピストン本体30の下端側の外周端がストッパ部10に当接して、ピストン3の軸方向下側への移動を規制する。
【0035】
ここで、ストッパ部10は、車両に搭載された緩衝器Dに要求されるピストン3のストローク範囲のうちで緩衝器Dの収縮側の最大ストローク位置である下限位置以下の位置に設けられている。
【0036】
そして、ストッパ部10がピストン3の下限位置に設けられる場合には、ストッパ部10は、車両に搭載された緩衝器Dに要求されるピストン3のストロークを許容しつつ、緩衝器Dの最収縮時にピストン本体30の下端側の外周端がストッパ部10に当接して緩衝器Dがそれ以上収縮するのを規制できる。また、ストッパ部10がピストン3の下限位置よりも下方に設けられる場合には、ストッパ部10は、車両に搭載された緩衝器Dに要求されるピストン3のストロークを許容しつつ、緩衝器Dが要求される範囲内で伸縮して減衰力を発揮する際にはピストン3に干渉しないようになる。
【0037】
さらに、本実施の形態では、ストッパ部10は、フリーピストン7のストローク範囲外の位置に設けられているため、フリーピストン7とも干渉しない。
【0038】
なお、緩衝器Dが、シリンダ1の下端にベースバルブを設けてシリンダ外にリザーバを設けるいわゆる複筒型緩衝器として構成される場合には、シリンダ1のベースバルブよりも上方にストッパ部10が設けられているため、ストッパ部10は、ピストン3がベースバルブに接触するのを防止できる。
【0039】
また、ストッパ部10は、緩衝器Dを押し縮めてロッド2をシリンダ1内に押し込んでいくと、ロッド2の本体部2aの全体がシリンダ1内に侵入するより前にピストン本体30の下端側の外周端が当接する位置に設けられている。したがって、本実施の形態のストッパ部10は、ロッド2の本体部2aがシリンダ1内に潜り込む前に、ピストン3の下端側の外周端がストッパ部10に当接して、ピストン3の軸方向下側への移動を規制するので、ロッド2の本体部2aがシリンダ1内に潜り込むのを防止できる。
【0040】
また、図示しないが、ロッド2の本体部2aの上端外周には、バンプクッション等をロッド2の上端外周に取付けるためのカラー等からなる大径部が設けられる場合がある。このような場合に、ロッド2の本体部2aがシリンダ1内に潜り込んでしまうと、ロッド2の大径部が、ロッドガイド5の上方に配置されるシール部材6に接触して、シール部材6を傷つけてしまう恐れがある。これに対して、本実施の形態では、前述したように、ロッド2の本体部2aがシリンダ1内に潜り込む前に、ピストン3の下端側の外周端がストッパ部10に当接し、ピストン3の軸方向下側への移動を規制しているため、シール部材6が傷つけられるのを防止できる。
【0041】
より詳細には、ストッパ部10は、
図2に示すように、シリンダ1を外周側から加締めることで、断面円弧状に形成されている。そして、ピストン3がシリンダ1内を下側のストロークエンドまで移動すると、ピストン本体30の下端側の外周端がストッパ部10の上端10bから中央の頂部の中間の部位(当接部10a)に当接して、ピストン3の下方向への移動を規制する。ただし、当接部10aの位置は、ストッパ部10の曲率半径やピストン本体30の下端側の外周端の形状によって変わるため、ストッパ部10の上端10bから中央の頂部の中間には限定されず、ストッパ部10の上端10bから中央の頂部の何れかの部位が当接部10aとなる。
【0042】
そして、
図2に示すように、ストッパ部10の上端10b(ピストン3側端)とストッパ部10のピストン本体30が当接する部分である当接部10aとの間の軸方向距離Wが、ピストンリング31のシリンダ1の内周に摺接する摺動面31aの下端31a1(ストッパ部10側の端部)とピストン本体30の下端側の外周端(ストッパ部10の当接部10aと当接する部位)との間の軸方向距離Lよりも短くなるように設定されている。
【0043】
ここで、ストッパ部10の上端10bと当接部10aとの間の軸方向距離Wとは、ストッパ部10の上端10bから径方向に延びる延長線とストッパ部10の当接部10aから径方向に延びる延長線との間の距離を指す。また、ピストンリング31のシリンダ1の内周に摺接する摺動面31aの下端31a1とピストン本体30の下端側の外周端との間の軸方向距離Lとは、ピストンリング31の摺動面31aの下端31a1から径方向に延びる延長線とピストン本体30の下端側の外周端から径方向に延びる延長線との間の距離を指す。
【0044】
このように、ストッパ部10の上端10bと当接部10aとの間の軸方向距離Wが、ピストンリング31のシリンダ1の内周に摺接する摺動面31aの下端31a1とピストン本体30の下端側の外周端との間の軸方向距離Lよりも短く設定されると、
図2に示すように、ピストン本体30の下端側の外周端がストッパ部10に当接する際に、ピストンリング31の摺動面31aの下端31a1は、ストッパ部10の上端10bから離間した状態となる。
【0045】
よって、ピストンリング31がストッパ部10の上端10b側に乗り上げて、ピストン本体30とストッパ部10との間にピストンリング31が噛み込むのを防止できるため、ピストンリング31の劣化を招いたり、ピストン3がシリンダ1に対して固着して動けなくなるといった問題が生じない。
【0046】
なお、本実施の形態では、ストッパ部10は、シリンダ1を外周側からロール加締めして形成されているが、ロール加締め以外の加締め方法、例えば、シリンダ1を周方向に複数の点で加締める多点加締めによってストッパ部が形成されてもよい。多点加締めによってストッパ部を形成する場合、ストッパ部は少なくとも2つ設けられれば良い。
【0047】
ただし、多点加締めによってストッパ部を形成する場合、加締めた点の軸方向位置が周方向でずれてしまうと、ピストン本体30の下端側の外周端がストッパ部に当接するときに、ストッパ部がピストン本体30に当接する箇所と当接しない箇所ができてしまう。これに対し、本実施の形態のようにストッパ部10をロール加締めによって形成すると、ストッパ部10の軸方向位置が周方向で揃うため、ピストン本体30の下端側の外周端がストッパ部10に当接するときに、ストッパ部10全体でピストン本体30を支持できる。よって、ストッパ部10をロール加締めによって形成すると、ストッパ部10の耐荷重性が向上する。
【0048】
また、ピストンリング31は、
図3(A)に示すように、合成樹脂製の円盤状の母材Jをピストン本体30の外周に設けられたピストンリング装着部30bの一端側に配置される環状溝に嵌合した状態で、
図3(B)に示すように、ピストン本体30を一端側から筒状のダイ20内に押し込むことで、ピストン本体30の外周に装着されている。
【0049】
より具体的には、ピストン本体30の外周にピストンリング31を装着する場合、まず、
図3(A)に示すように、ピストン本体30を固定治具11,12で挟み込んで固定した状態で、ピストンリング31となる合成樹脂製の円盤状の母材Jをピストンリング装着部30bの一端側に配置される環状溝に嵌合する。
【0050】
次に、
図3(B)に示すように、ピストン本体30の一端側に当接する固定治具11上に設置された筒状のダイ20をピストン本体30の他端側に向けて移動させていき、加熱されて変形しやすくなった母材Jをピストン本体30の一端側から母材Jもろとも、筒状のダイ20内に押し込んでいく。ダイ20の内径は、ピストン本体30の外径よりも大径ではあるが、ダイ20とピストン本体30との間の隙間は、母材Jの肉厚より狭くなっている。
【0051】
そして、母材Jは、加熱されていて軟化しているため、ピストン本体30のダイ20内への侵入量の増加に伴って、ダイ20によってしごかれて、ダイ20によってピストンリング装着部30bに外周から押し付けられる。すると、母材Jは、内周がピストンリング装着部30bの外周形状に倣って環状溝に入り込むように変形し、ピストン本体30に強固に固定される。
【0052】
このように、母材Jをピストン本体30の外周に設けられたピストンリング装着部30bの一端側に配置される環状溝に嵌合した状態で、ピストン本体30を一端側から筒状のダイ20内に押し込んでいくと、ピストンリング31の一端は、ダイ20によってピストンリング装着部30bの環状溝に押し付けられるので、内側に傾斜する傾斜部31bとなる。したがって、ピストン本体30の外周に装着されるピストンリング31は、
図2に示すように、シリンダ1の内周に摺接する筒状の摺動面31aと、摺動面31aの下端31a1に連なって内向きに傾斜する傾斜部31bとを有する。
【0053】
そして、ピストンリング31の傾斜部31bは、シリンダ1の内周には摺接しないため、
図2に示すように、傾斜部31bが下側(ストッパ部10側)を向くようにピストン3をロッド2に連結すると、傾斜部31bの軸方向長さの分だけピストンリング31の摺動面31aの下端31a1とピストン本体30の下端側の外周端との間の軸方向距離Lを長く確保できる。
【0054】
よって、ピストンリング31の摺動面31aの下端31a1とピストン本体30の下端側の外周端との間の軸方向距離Lを、ストッパ部10の上端10bと当接部10aとの間の軸方向距離Wよりも長く設定しやすくなる。
【0055】
なお、ピストンリング31を、傾斜部31bが摺動面31aの上端に連なるように、ピストン3の外周に取付けてもよい。ただし、このような場合においても、ピストンリング31の摺動面31aの下端31a1とピストン本体30の下端側の外周端との間の軸方向距離Lをストッパ部10の上端10bと当接部10aとの間の軸方向距離Wよりも長く設定する必要があるため、ピストンリング31の摺動面31aの下端31a1とピストン本体30の下端側の外周端の軸方向の位置関係は本実施の形態と変わらない。つまり、本実施の形態のピストンリング31から摺動面31aの下端に連なる傾斜部31bを除去しても、ピストン本体30の軸方向長さを短くすることはできない。
【0056】
さらに、摺動面31aの軸方向長さを本実施の形態と同じにする場合、傾斜部31bを摺動面31aの上端に連ねると、ピストン本体30に傾斜部31bを装着する装着部を追加で設ける必要があるので、ピストン本体30の軸方向長さは、その装着部の分だけ本実施の形態のピストン本体30よりも長くなる。
【0057】
すなわち、ピストンリング31を、傾斜部31bが摺動面31aの上端に連なるように、ピストン3の外周に取付けることもできるが、本実施の形態のように、ピストンリング31を、傾斜部31bを摺動面31aの下端に連なるように、ピストン3の外周に取付けた方が、ピストン本体30の軸方向長さを短くできる。
【0058】
また、ピストンリング31のピストン本体30の外周への装着方法は上述した方法には限定されず、例えば、ピストンリングが割りを有する筒状であって、割りを押し広げてピストン本体30の外周にピストンリングを装着するようにしてもよい。
【0059】
前述したように、本実施の形態のシリンダ装置としての緩衝器Dは、シリンダ1と、シリンダ1内に軸方向で移動可能に挿入されるロッド2と、シリンダ1内に軸方向で移動可能に挿入されるとともにロッド2に連結されるピストン本体30とピストン本体30の外周に装着されてシリンダ1の内周に摺接するピストンリング31とを有するピストン3とを備え、シリンダ1は、外周側から加締められることによって形成されてシリンダ1の内周側へ突出するとともに、ピストン3がシリンダ1内を下方向にストロークエンドまで移動したときにピストン本体30の下端側の外周端に当接する環状のストッパ部10を有し、ストッパ部10の軸方向の上端10b(ピストン側端)とストッパ部10のピストン本体30が当接する部分である当接部10aとの間の軸方向距離Wが、ピストンリング31のシリンダ1の内周に摺接する摺動面31aの下端31a1(ストッパ部10側の端部)とピストン本体30の外周端との間の軸方向距離Lよりも短くなっている。
【0060】
この構成によると、ピストン本体30の下端側の外周端がストッパ部10に当接する際に、ピストンリング31の摺動面31aの下端31a1は、ストッパ部10の上端10bから離間した状態となる。
【0061】
よって、ピストンリング31がストッパ部10の上端10b側に乗り上げて、ピストン本体30とストッパ部10との間にピストンリング31が噛み込むのを防止できるため、ピストンリング31の劣化を招いたり、ピストン3がシリンダ1に対して固着して動けなくなるといった問題が生じない。
【0062】
また、前述したように、本実施の形態では、ストッパ部10は、車両に搭載された緩衝器Dに要求されるピストン3のストローク範囲のうちで緩衝器Dの収縮側の最大ストローク位置である下限位置以下の位置であるピストン3の下側のストロークエンドの位置に設けられて、ピストン3の下方向の移動を規制している。ただし、ストッパ部10は、車両に搭載された緩衝器Dに要求されるピストン3のストローク範囲のうちで緩衝器Dの伸長側の最大ストローク位置である上限位置以上の位置であるピストン3の上側のストロークエンドの位置に設けられて、ピストン3の上方向の移動を規制してもよい。このようにすると、ピストンが上限位置にある状態からロッド2が引っ張られても、ピストン3がロッドガイド5に当たるより前にピストン3の移動が規制されるので、図示しないがロッドガイド5の内周にシールが設けられる場合などにピストン3によって当該シールが傷つけられるのを防止できる。
【0063】
また、本実施の形態の緩衝器Dでは、ピストン本体30の外周には周方向に沿う環状溝を複数有するピストンリング装着部30bが設けられ、ピストンリング31は、合成樹脂製の円盤状の母材Jをピストンリング装着部30bの一端側に配置される環状溝に嵌合した状態で、ピストン本体30を一端側から筒状のダイ20内に押し込むことで、ピストン本体30の外周に装着されている。
【0064】
このように装着されたピストンリング31の一端は、内側に向けて傾斜する傾斜部31bとなるため、この傾斜部31bをストッパ部10側へ向くようにピストン3をロッド2に連結すると、傾斜部31bの軸方向長さの分だけピストンリング31の摺動面31aのストッパ部10側端(下端31a1)とピストン本体30の一端側の外周端との間の軸方向距離Lを長く確保できる。
【0065】
よって、上記構成によると、ピストンリング31の摺動面31aのストッパ部10側端とピストン本体30の一端側の外周端との間の軸方向距離Lを、ストッパ部10の軸方向のピストン3側端(上端10b)とストッパ部10のピストン本体30が当接する部分(当接部10a)との間の軸方向距離Wよりも長く設定しやすくなる。
【0066】
なお、本実施の形態では、ピストンリング31の傾斜部31bは、円盤状の母材Jを筒状のダイ20内に押し込んでピストンリング31がピストン本体30の外周に装着されたときに形成されているが、傾斜部31bはどのような手法で形成されてもよい。
【0067】
どのような手法で傾斜部31bが形成されたとしても、ピストンリング31が、摺動面31aのストッパ部10側の端部から内側に向けて傾斜する傾斜部31bを有していれば、傾斜部31bの軸方向長さの分だけピストンリング31の摺動面31aのストッパ部10側端(下端31a1)とピストン本体30の一端側の外周端との間の軸方向距離Lを長く確保できる。
【0068】
よって、ピストンリング31の摺動面31aのストッパ部10側端とピストン本体30の一端側の外周端との間の軸方向距離Lを、ストッパ部10の軸方向のピストン3側端(上端10b)とストッパ部10のピストン本体30が当接する部分(当接部10a)との間の軸方向距離Wよりも長く設定しやすくなる。
【0069】
また、ピストンリング31のピストン本体30の外周への装着方法は上述した方法には限定されず、例えば、ピストンリングが割りを有する筒状であって、割りを押し広げてピストン本体30の外周にピストンリングを装着するようにしてもよい。
【0070】
なお、本実施の形態では、本発明のシリンダ装置を緩衝器Dとしているが、本発明のシリンダ装置は、例えば、ガススプリングであってもよい。
【0071】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形および変更が可能である。
【符号の説明】
【0072】
1・・・シリンダ、2・・・ロッド、3・・・ピストン、10・・・ストッパ部、10b・・・ストッパ部の上端(ストッパ部のピストン側端)、20・・・ダイ、30・・・ピストン本体、30b・・・ピストンリング装着部、31・・・ピストンリング、31a・・・摺動面、31a1・・・摺動面の下端(摺動面のストッパ部側の端部)、31b・・・傾斜部、D・・・緩衝器(シリンダ装置)、J・・・母材
【要約】
【課題】本発明は、ピストン本体とストッパ部との間にピストンリングが噛み込む恐れがなく、ピストンリングの劣化やピストンのシリンダへの固着を防止するシリンダ装置の提供を目的とする。
【解決手段】本発明は、シリンダ1内に軸方向で移動可能に挿入されるロッド2に連結されてシリンダ1内に軸方向移動可能に挿入されるピストン本体30とピストン本体30の外周に装着されるピストンリング31とを有するピストン3を備え、シリンダ1は、外周側から加締められて形成されるとともに、ピストン3がシリンダ1内をストロークエンドまで移動したときにピストン本体30の一端側の外周端に当接する環状のストッパ部10を有し、ストッパ部10の軸方向のピストン側端とピストン本体30が当接する部分との間の軸方向距離Wが、ピストンリング31の摺動面31aのストッパ部側の端部とピストン本体30の外周端との間の軸方向距離Lよりも短い。
【選択図】
図2