(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】劣化評価装置、劣化評価方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/06 20240101AFI20240828BHJP
【FI】
G06Q50/06
(21)【出願番号】P 2023037639
(22)【出願日】2023-03-10
【審査請求日】2023-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000135771
【氏名又は名称】株式会社パスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田丸 和章
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 淳一
(72)【発明者】
【氏名】宇野 哲生
【審査官】牧 裕子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-192221(JP,A)
【文献】特開2022-003207(JP,A)
【文献】特開2018-014063(JP,A)
【文献】特開2017-138217(JP,A)
【文献】再公表特許第18/179376(JP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0112807(US,A1)
【文献】小林 潔司 外3名,橋梁の劣化速度の異質性を考慮した補修戦略プロファイリング,土木学会論文集D3(土木計画学),[online],2017年,土木学会論文集D3(土木計画学),[令和6年4月18日検索],インターネット<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscejipm/73/4/73_201/_pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の劣化
の種別を
表す複数の調査項目についてそれぞれ
前記対象物の劣化状態を調査した調査結果を取得する取得手段と、
前記調査項目ごとに
前記劣化状態の進行をハザード関数を含むモデルによりそれぞれ表し、前記調査項目ごとに当該調査項目の
劣化状態の前記調査結果
に対して前記調査項目の前記ハザード関数のパラメータとして統計的に尤もらしい値を推定する劣化予測分析を行
うことで、前記調査項目ごとの
前記ハザード関数の
前記パラメータを導出する劣化予測手段と、
を備える劣化評価装置。
【請求項2】
前記複数の調査項目についてそれぞれ導出された前記パラメータを統合して前記対象物の劣化に関する統合情報を生成する統合情報生成手段を備える請求項1記載の劣化評価装置。
【請求項3】
前記統合情報生成手段は、
前記複数の調査項目のそれぞれについて、前記パラメータとして導出された前記劣化状態の標準ハザード率から当該劣化状態の生起確率を算出し、
前記複数の調査項目の前記劣化状態の組み合わせとして、前記対象物の劣化に関する統合状態を判定する所定の判定基準に応じて、前記複数の調査項目に係る前記劣化状態の前記生起確率を積和して、前記統合状態の生起確率を算出する、
請求項2記載の劣化評価装置。
【請求項4】
前記統合情報生成手段は、前記複数の調査項目のそれぞれについて前記パラメータとして導出された個別ハザード率同士を比較して、前記複数の調査項目の中から前記個別ハザード率が最大の調査項目を判定する、請求項2記載の劣化評価装置。
【請求項5】
コンピュータの制御部による劣化評価方法であって、
対象物の劣化
の種別を
表す複数の調査項目についてそれぞれ
前記対象物の劣化状態を調査した調査結果を取得する取得ステップ、
前記調査項目ごとに
前記劣化状態の進行をハザード関数を含むモデルによりそれぞれ表し、前記調査項目ごとに当該調査項目の
劣化状態の前記調査結果
に対して前記調査項目の前記ハザード関数のパラメータとして統計的に尤もらしい値を推定する劣化予測分析を行
うことで、前記調査項目ごとの
前記ハザード関数の
前記パラメータを導出する劣化予測ステップ、
を含む劣化評価方法。
【請求項6】
コンピュータを、
対象物の劣化
の種別を
表す複数の調査項目についてそれぞれ
前記対象物の劣化状態を調査した調査結果を取得する取得手段、
前記調査項目ごとに
前記劣化状態の進行をハザード関数を含むモデルによりそれぞれ表し、前記調査項目ごとに当該調査項目の
劣化状態の前記調査結果
に対して前記調査項目の前記ハザード関数のパラメータとして統計的に尤もらしい値を推定する劣化予測分析を行
うことで、前記調査項目ごとの
前記ハザード関数の
前記パラメータを導出する劣化予測手段、
として機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、劣化評価装置、劣化評価方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
下水道の管渠などの施設に対し、複数項目の調査結果から劣化の度合を統合的に評価する技術がある。非特許文献1には、従来、硫化水素濃度、侵食状態、変形などの複数の点検項目の総合点により老朽度点を定める技術があり、この老朽度点に対応して規定された健全度を用いて管渠の劣化予測分析を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】貝戸清之、外4名、「下水道管渠の空間的劣化異質性に着目した充填管理区域スクリーニングと改築更新施策」、土木学会論文集F4(建設マネジメント)、2021年、Vol.77,No.1,p.115-134
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のような総合評価では、複数の調査項目を総合的に評価できる反面、個々の調査項目に着目した施策検討が困難であるという課題がある。例えば、侵食状態について劣化が予測される管渠を優先的に改築する施策を検討したい場合に、該当する管渠を総合評価に基づいて抽出することは困難であった。
【0005】
本開示の目的は、下水道施設の管渠などの対象物の劣化について調査項目に着目した施策検討を可能とする劣化評価装置、劣化評価方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示の劣化評価装置は、
対象物の劣化の種別を表す複数の調査項目についてそれぞれ前記対象物の劣化状態を調査した調査結果を取得する取得手段と、
前記調査項目ごとに前記劣化状態の進行をハザード関数を含むモデルによりそれぞれ表し、前記調査項目ごとに当該調査項目の劣化状態の前記調査結果に対して前記調査項目の前記ハザード関数のパラメータとして統計的に尤もらしい値を推定する劣化予測分析を行うことで、前記調査項目ごとの前記ハザード関数の前記パラメータを導出する劣化予測手段と、
を備える。
【0007】
本開示に従うと、対象物の劣化について調査項目に着目した施策検討を可能とすることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】情報処理装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図4】劣化評価制御処理の制御手順を示すフローチャートである。
【
図5】グループ化処理の制御手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態の劣化評価装置である情報処理装置1の機能構成を示すブロック図である。
【0010】
情報処理装置1は、電子計算機(コンピュータ)であってもよい。
情報処理装置1は、制御部11と、記憶部12と、入出力インターフェイス13(I/F)と、操作受付部14と、表示部15などを備える。
【0011】
制御部11は、情報処理装置1の全体動作を統括制御する。制御部11は、CPU(Central Processing Unit)とRAM(Random Access Memory)などを有する。CPUは、演算処理を行って各種プログラムなどを実行する。RAMは、CPUに作業用のメモリ空間を提供し、一時データを記憶する。CPUは、単一のプロセッサであってもよいし、並列に、又は用途などに応じて独立に動作する複数のプロセッサであってもよい。RAMは、DRAMなどであるが、これに限られない。
【0012】
記憶部12は、不揮発性メモリであり、プログラム121や設定データなどを記憶する。不揮発性メモリは、例えばフラッシュメモリであるが、これに限られない。フラッシュメモリには、HDD(Hard Disk Drive)が含まれていてもよい。プログラム121には、後述の劣化評価制御処理が含まれる。
【0013】
入出力インターフェイス13(I/F)は、外部機器20との間でデータなどのやり取りをするための接続用のインターフェイスである。入出力インターフェイス13は、接続端子131と、通信部132とを有する。接続端子131には、当該接続端子131(コネクタ)の形状に応じたケーブル(信号線)が接続可能であり、当該ケーブルを介して周辺機器などが情報処理装置1に接続され得る。接続端子は、例えば、USB(Universal Serial Bus)などを含む。
【0014】
通信部132は、定められた通信規格による通信(ここでは無線通信)を制御する。通信規格には、例えば、無線LAN(Local Area Network)やブルートゥース(登録商標)などが含まれ得る。これらには、例えば、データベース装置21や光学読取装置22などがつながっている。
【0015】
データベース装置21には、下水道施設の位置情報及び特性情報が記憶された下水道施設データ201、下水道施設の状態に係る調査結果が記憶された調査データ202や、グループ設定データ203などが記憶されていてもよい。あるいは、これらのデータは、光学読取可能な携帯記録媒体、すなわち、CD-ROM、DVDディスク、Blu-ray(登録商標)ディスクなどから読み取られて取得可能であってもよい。上記データベース装置21及び携帯記録媒体が本実施形態の記憶手段を構成する。記憶手段には、記憶部12が含まれてもよい。
【0016】
操作受付部14は、外部からの入力操作を受け付けて受け付けた入力操作に応じた操作信号を制御部11へ出力する。操作受付部14は、特には限られないが、例えばキーボード及びポインティングデバイス(マウス、タッチパネル、タッチペンなど)の一部又は全部を含む。
【0017】
表示部15は、表示画面を有し、制御部11の制御に基づいて当該表示画面に文字、図形などを含む画像(映像)を表示することができる。表示画面は、特には限られないが、例えば液晶表示画面(LCD)である。また、表示部15は、報知動作用のLEDランプなどを備えていてもよい。
なお、操作受付部14及び表示部15、あるいはこれらのいずれか一方やその更に一部は、接続端子131などを介して接続される周辺機器であってもよい。
【0018】
次に、本実施形態の劣化評価について説明する。
下水道施設は、時間の経過に伴って劣化し、たるみ、腐食、ひび割れ(クラック)などの異常が発生する。このような内容の異常は、詰まりや下水漏れなどの顕著なトラブルが生じる前に適切に補修され、又は新しい管渠へ改築、更新される必要がある。しかしながら、下水道施設に係る管渠は、道路下などの地下に多数(複数)が連なって広く埋設されており、目視や撮影画像の処理などによるこれら各異常内容(複数の調査項目)の調査(検査)及び劣化状態の評価には、手間や費用を要する。したがって、多くの下水道施設を頻繁に調査して、異常を最適なタイミングで検出することは困難である。そこで、情報処理装置1は、過去の調査結果をもとに劣化予測を行って下水道施設の管渠(対象物)の劣化状態を評価することで、対象物の改築、更新、補修、調査など(以下、改築更新などと称する)のスケジュールの立案、調整といった施策検討に資する情報を提供する。
【0019】
地下にある下水道施設は、劣化状態がしばしばその特性に依存する。そこで、情報処理装置1は、対象物である管渠を特性に基づいてグループ化し、グループごとに劣化予測分析を行うことで分析精度を向上させる。管渠の特性は、複数の項目(特性項目)で定められ、特性には、例えば、設置年、管種、管径(口径)、圧送管からの距離などの施設特性に係る特性項目と、設置位置の道路区分(歩車道)、用途地域、地下水への水没状況(最大地下水位)などの地域特性に係る特性項目とが含まれる。これら特性項目は、数値的に表される量的特性(設置年、管径、最大地下水位など)と、非数値により表される質的特性(道路区分、管種など)とにも分類され得る。
【0020】
管渠は、例えば、隣り合うマンホール間のスパンを単位として下水道施設データ201により管理され得る。1スパンの長さは一定ではなくてもよい。各スパンの両端位置は、緯度経度といった地理的座標、特にそのうち平面座標で規定され得る。スパンが直線ではない場合には、折れ曲がり/屈曲地点の地理的座標が更に位置情報に含まれていてもよい。あるいは、形状によらず所定の長さ毎の位置が地理的座標により記憶されていてもよい。これらの位置情報に対応付けられてスパンの識別ID(番号など)及び上記特性情報が記憶保持されることで、スパンの設置位置と特性が一意に特定される。
【0021】
情報処理装置1は、評価対象地域を適宜な形状及び面積のメッシュ(局所)に区分し、メッシュ単位で、当該メッシュ内に含まれるスパンの劣化状態を評価する。そのために、情報処理装置1は、上述したスパンごとの情報をもとにメッシュごとの情報を生成して、下水道施設データ201に記憶させる。
【0022】
メッシュの区分について説明する。メッシュサイズは、特には限られないが、メッシュ当たり数個、例えば、3~9個のスパンが含まれるように定められてもよい。情報処理装置1は、初期サイズのメッシュでスパンの割り当てを行った後、1つ以上のスパンが含まれるメッシュ内のスパン数の平均値を算出する。この平均値が基準範囲内(3~9個など)に含まれない場合には、情報処理装置1は、メッシュサイズを変更して、再度スパンをメッシュに割り当ててもよい。平均値が基準範囲内にある場合には、割り当てを確定して、各メッシュに対応付けられてそれぞれ属するスパンの識別情報(ID)が記憶保持される。
【0023】
図2は、上記により得られた下水道施設データ201の例を表す図表である。
メッシュには、各々を一意に識別するためのIDが付される。メッシュは、特には限られないが、例えば矩形、特に正方形である。この場合には、例えば、対角2頂点の座標が規定される。ここでは、地図上の左上(上向きが北であれば北西)と右下(南東)の頂点が規定されている。形状及びサイズが固定されている場合には、所定の1頂点のみが規定されてもよい。
【0024】
各スパンは、設置位置に基づいてそれぞれ属するメッシュが定められる。例えば、各スパンは、それぞれ当該スパンの範囲のうち最も長い部分と重なるメッシュに属するものとして定められてもよい。あるいは、より単純に直線状のスパンの中点が位置する範囲のメッシュに属するものとされてもよい。
【0025】
各メッシュの特性は、特性項目ごとに、あるメッシュに属するスパンの当該特性項目の内容のうち最も多いものとされてもよい。あるいは、量的特性の場合には、メッシュに属するスパンの特性の数値を当該メッシュ内にある各スパンの長さに応じて重み付け平均して、メッシュの特性項目の内容を定めてもよい。
【0026】
各スパンの特性情報は、特性項目ごとに異なるデータファイルから取得されてもよい。すなわち下水道施設データ201は、複数のデータファイルの組み合わせであってもよい。各メッシュの特性は、これらのデータファイルから取得された内容に基づいて設定、保持される。
【0027】
各スパンの状態に係る情報には、新設、改築、更新、補修(以下、新設・交換と称する)時の初期状態、すなわち、まだ何ら劣化が生じていないと想定される状態が含まれ得る。新設・交換時以外の状態が調査により調査データ202として取得された場合には、当該調査結果の情報が取得されるとともに、調査有として設定(例えば、0/1の2値フラグが「0」に設定)される。
【0028】
メッシュに属するスパンが1つもない場合には、帰属スパン及び対応する特性情報が設定されず、ここでは空欄で示されている。このメッシュには、調査結果の情報が取得されないため、調査無しとして設定(上記2値フラグが「1」に設定)される。
【0029】
次に、劣化予測分析について説明する。
下水道施設の劣化は、不可逆であり、進行して状態が悪化する方向にのみ変化する。統計的には、劣化の進行は時間経過に対して確率的に表される。下水道施設の劣化は、マルコフ劣化ハザードモデル又は混合マルコフ劣化ハザードモデルを用いて表わされる。本実施形態では、混合マルコフ劣化ハザードモデルが用いられる。
【0030】
混合マルコフ劣化ハザードモデルでは、劣化の度合又は健全度が異常の種別ごとにそれぞれ複数のランクiで表される。特に、本実施形態で適用される混合マルコフ劣化ハザードモデルにおいては、調査項目ごとの分析を行うため、劣化の度合又は健全度が調査項目kごとにそれぞれ複数のランクiで表される。ある経過時間の間に劣化が進行してランクiが一つ下がる確率がそれぞれハザード率λとして定められる。各ランクの設定基準やランク数Iは、下水道協会発行の維持管理指針などに従ったものであってもよいし、ローカルルールに従ったものであってもよい。例えば、ランク数Iは、4段階であってもよい。実際に調査データで設定されているランクiは、アルファベット(文字)若しくは記号又はこれらの組み合わせ、例えば、-、C、B、Aなどであってもよいが、処理上では、これらが数値に変換されて処理される。ランクiは、値が大きいほど劣化が進んでいるものとされてもよい。最低のランク(値が最大)にまで劣化が進行した場合には、それ以降ランクiは変化しない。上記の通り、同一のメッシュn(スパン)において、ランクiが小さい値に変化することはない。スパン(管渠)の新設・交換時には、このスパンの劣化状態は、改めて最高のランク(値が最小)から開始される。
【0031】
あるIDのメッシュnにおいて、調査対象とされるある異常の種別(調査項目k)に関してランクiから劣化が進行する確率(個別ハザード率L)は、以下の数式(1)のようにモデル化される。
【数1】
【0032】
λk、iは、調査項目k及びランクiに対する標準ハザード率であり、εn,kは、メッシュn及び調査項目kについての異質性パラメータである。すなわち、メッシュnに依存しない全体の平均的な劣化を規定する標準ハザード率λと、ランクiに依存せず、メッシュnごとの劣化に係る標準ハザード率λからのばらつきを規定する係数である異質性パラメータεとの積により、個別ハザード率Lが得られる。
【0033】
ここで、ランクiが維持される時間ζの確率分布関数をf
k、i(ζ)とした場合、ある時間yの間にランクが変化する確率F
k、i(y)は、数式(2)に示すように、上記確率分布関数f
k、i(ζ)の積分値である。
【数2】
したがって、ある時間yの間ランクiが維持される確率は、1-F
k、i(y)である。ある時間yが経過した後、単位時間Δyの間にランクiが変化する確率D
k、iは、これらを組み合わせて数式(3)により表される。
【数3】
【0034】
混合マルコフ劣化ハザードモデルでは、この確率D
k、iがハザード関数λ
k、iである。ハザード関数λ
k、iは、定数とされるとき、λ
k、iはハザード率である。この場合、確率分布関数f
k、i(ζ)は、以下の数式(4)で表される。
【数4】
【0035】
標準ハザード率λk、i、個別ハザード率Lk、i、n及び異質性パラメータεn、kは、調査データ202を参照して、調査結果に対する統計的に尤もらしい値としてベイズ推定により得られる。公知の具体的な処理方法の例には、最尤法やMCMC法(Markov chain Monte Carlo methods;マルコフ連鎖モンテカルロ法)などがある。
【0036】
本実施形態の情報処理装置1では、複数の調査項目kについて各々別個にハザード率や異質性パラメータなどの劣化予測に係るハザード関数のパラメータが求められる。調査における調査項目kは、上述のように、たるみ、腐食、クラックなどを含み得る。クラックの調査項目kには、たるみ及び腐食以外の残り全ての異常内容が不良発生としてまとめられて、3種類の調査項目kが設定されるのであってもよい。
この設定に対応し、本実施形態での調査データ202は、例えば1997年度に新設されたスパン「1」の2014年度調査に基づく「スパン『1』、調査間隔(年)『8』、腐食の事前ランク『-』、腐食の事後ランク『C』」、「スパン『1』、調査間隔(年)『8』、たるみの事前ランク『-』、たるみの事後ランク『-』」、「スパン『1』、調査間隔(年)『8』、不良発生率の事前ランク『-』、不良発生率の事後ランク『B』」というようなスパンのID、調査時期の組の調査間隔及び各調査時期における調査項目ごとのランクを対応付けたデータが、スパンと調査時期のペアと調査項目の組み合わせだけ列挙された調査結果として取得される。なお上記例は、新設・更新年度を調査時期のペアの一方とみなして作られたデータであったが、新設・更新年度より後の調査時期のペアから作られたデータも当然に含まれていてもよい。メッシュ単位で行われる本実施形態の劣化予測分析では、各メッシュに帰属するスパンごとのデータが当該メッシュの調査結果として用いられる。このように、調査結果は、対象物と調査時期のペアと調査項目の組み合わせごとに各調査時期における劣化の度合又は健全度が記された情報であり、劣化予測分析は調査結果を用いて行われる。
施策検討においては、腐食を他の異常よりも優先して対策したい、劣化速度が最も速い異常の種類を見つけてその異常を優先して対策したい、というように、異常の種別によって施策検討への影響が生じる場合がある。そこで、本実施形態の情報処理装置1は、調査項目kごとに劣化予測分析を行うことで、異常の種類による管渠の劣化の違いを示す情報を提供可能にする。
【0037】
また、異質性パラメータεn、k及びこれに依存する個別ハザード率Ln、k、iは、ある程度特性に依存する。すなわち、同一又は類似性の高い特性を有するメッシュnにおける異質性パラメータεは、近い値となりやすい。そこで、本実施形態の情報処理装置1は、特性の組み合わせに基づいて全メッシュを複数のグループに分割する。そして、情報処理装置1は、グループgごとの標準ハザード率λg、k、iを定めるとともに、標準ハザード率λg、k、iに対して個々のメッシュnにおける異質性パラメータεg、n、kを定義し、グループgごとに劣化予測分析を行う。これにより、異質性パラメータεのばらつきが小さく抑えられて、標準ハザード率λg、k、i、異質性パラメータεg、n、kや個別ハザード率Lg、n、k、iが高精度に求められる。
【0038】
また、管渠は、その特性に応じて発生、進行しやすい異常の種別が異なり得ると考えられる。すなわち、特性と調査項目にある程度の関連性があると考えられる。よって、特性に基づくグループごとの劣化予測分析を調査項目ごとに行うことで、高精度なハザード関数のパラメータに基づき、個々の調査項目に着目した評価を行うことができると期待される。
【0039】
あるグループgのメッシュn、調査項目k、ランクiの個別ハザード率L
g、n、k、iは、以下の数式(5)で表される。
【数5】
【0040】
図3は、グループ分けについて説明する図である。
グループ分けは、二分木を用いて行われる。予め各特性項目の値域を2分割する境界位置が定められて、定められた全ての境界位置がグループ設定データ203として記憶保持されている。上記量的特性の場合には、境界位置は、境界値によって定められればよい。質的特性の場合には、分割された各グループに属する特性内容がそれぞれ列挙されればよい。例えば、質的特性である管種は、一方のグループに「コンクリート管及び陶管」が含まれ、他方のグループに「塩ビ管」が含まれるというように定められていてもよい。境界位置は、一つの特性項目に対して複数通り定められてもよい。例えば、施工年度の境界値として、1920、1987の2通りが設定されていてもよい。これらの境界位置の組み合わせにより、施工年度が実質的に1919以前、1920~1986、1987以降などに3分割され得る。
【0041】
全メッシュnを含むグループを最上位のノード1とする。このノード1を親として、各境界位置で分割した部分木を生成する。部分木ごとにメッシュnをグループ分けして、各グループgに含まれるメッシュnの異質性パラメータεのばらつき度合を算出する。部分木の親及び子のそれぞれに対応するメッシュのグループは、分割前及び分割後の局所の集合の一例である。この異質性パラメータεは、全メッシュnに対する標準ハザード率λk、iに対するばらつきを規定するものである。上記の通り、異質性パラメータεの大小に影響を及ぼす特性に注目する場合、同一/類似の特性であれば、異質性パラメータεのばらつきの方向及び大きさは互いに近くなり、ある平均値付近に偏りやすい。したがって、この異質性パラメータεのばらつき度合は、小さくなることが見込まれる。異質性パラメータεのばらつき度合は、例えば、分散σ2により求められる。
【0042】
上記により得られた部分木によるばらつき度合が、親のばらつき度合よりも小さくなる度合(低減の度合)が、低減度dIとして算出される。低減度dIは、例えば、親のメッシュN個の分散σ
2(p)に対し、子ノードaのn
a個のメッシュに係る分散σ
2(ca)と、子ノードbのn
b個(N=n
a+n
b)のメッシュに係る分散σ
2(cb)とから、以下の数式(6)により表される。
【数6】
【0043】
メッシュnを定められている全ての境界位置で分割して、それぞれ低減度dIが算出される。得られた低減度dIが最大の特性項目A及びその境界による分割を確定して、親のノード1に対して異質性パラメータεのばらつき度合が最小となる2つの子のノード2、3が定められる。
【0044】
定められたノード2、3をそれぞれ親ノードとして、上記の処理を繰り返す。直列に同一の境界位置が定められなければ、ノード2の系列とノード3の系列とで同一の境界位置が設定、確定されてもよい。また、上記のように、同一の特性項目に係る異なる境界位置が複数の段階で設定されることで、当該特性項目について3以上のグループに分割することができる。このとき、分割が困難である場合、例えば分割された少なくとも一方に属するメッシュnの数が統計処理に必要な下限数に満たない場合などには、そのノードを最下位ノードとして定め、これ以上の分割を行わない。また、低減度dIが基準を満たさない、例えば低減度dIが負になる場合や、分割されたメッシュnの最新劣化状態が偏っているもの、すなわち、ランク1~Iの各段階にあるメッシュnの数の少なくともいずれかが下限数に満たない場合も、分割不可であるとして、当該ノードが最下位ノードに定められてもよい。
図3の例では、ノード5、7、8、10、11、12、13がそれぞれ最下位ノードとなっている。ノード12、13は、4種類の特性項目A、B、D、Fの組み合わせで表されている。
【0045】
なお、分割の上限回数や最大階層数が別途規定されていてもよい。例えば、上限回数が3(最大階層数が4)の場合には、ノード9をノード12、13に分割する処理は行われず、ノード9が最下位ノードとなる。上限回数が2(最大階層数が3)の場合には、ノード4、5、6、7が最下位ノードとなり、以降の分割は行われない。
【0046】
以上の処理の繰り返しにより、全ての最下位ノードが定まる。最下位ノードまでの各経路により、特性の類似性が高いもの(メッシュ)同士で分割されてばらつき度合を最小化するように適切なグループ分けが確定する。その後、改めてグループごとに標準ハザード率λg、k、i及び当該標準ハザード率λg、k、iに対する異質性パラメータεg、n、kが求められる。グループ分けは、調査項目kごとに別個に行われてもよい。すなわち、あるメッシュnは、調査項目kごとに異なるグループに属していてもよい。
【0047】
劣化予測分析により個々のメッシュn、グループg及び調査項目kに係る劣化を規定するパラメータであるハザード率λ及び異質性パラメータεが得られると、これらのパラメータから、経過時間zの間にランクiがある値から他の値に変化する確率π(遷移確率)がマルコフ遷移確率として求められる。
【0048】
上記のグループ分けがされて各々得られた標準ハザード関数λ
g、k、i及び個別ハザード関数L
g、n、k、iに基づいて、経過時間zの間にグループg、メッシュn及び調査項目kの組み合わせごとの初期のランクiから最終的なランクjまで変化する遷移確率π
g、n、k、ijは、ランクiとランクjとの間のランク数に応じた回数ランクが変化する確率として、数式(7)によって表される。
【数7】
なお、この数式(7)において変数mがi、jのいずれかと等しい場合には、数式(8)のように取り扱われる。
【数8】
【0049】
最終的なランクjが最低ランクIである場合には、遷移確率π
g、n、k、iIは、初期ランクiからI-1までのいずれかのランクに変化する又は変化しない遷移確率の合計を1から差し引いたものとなる。したがって、この遷移確率π
g、n、k、iIは、下記の数式(9)により表される。
【数9】
【0050】
上記遷移確率に基づいて最終的にあるランクi(i=1~I)となる生起確率p
g、n、k、i(各劣化状態の生起確率)が配列された確率行列P
g、n、kは、数式(10)~数式(12)に示す通り、j≧iであるランクiからランクjとなる遷移確率π
g、n、k、ijの和として求められる。式中Π
g、n、kは、数式(12)に示すように、グループg、メッシュn及び調査項目kにおいて、ランクiがaからbへ変化する上記遷移確率π
abをab成分に配列した遷移確率行列である。
【数10】
【数11】
【数12】
【0051】
開始時刻が管渠の新設・交換時(z=0)の場合には、全ての下水道施設のランクiは最高ランク(値が最小)であると考えられ、数式(11)において、pg、n、k、1(0)=1、pg、n、k、i(0)=0(i=2~I)である。
【0052】
このようにして得られた時間zの経過後における各生起確率pg、n、k、i(z)は、ランクiが大きいものの値が高いほど改築更新などの必要性が高い。情報処理装置1は、この生起確率pg、n、k、i(z)を調査項目kごとに算出するので、施策を検討する者は、異常内容に着目しつつ改築更新などの必要性を判断できる。
【0053】
さらに、情報処理装置1は、グループgごとかつ調査項目kごとに得られた生起確率p
g、n、k、i(z)を積和することで統合して、統合的な生起確率を改築更新などの要否に係る統合情報として求める。統合は、ここでは、各調査項目kのランクiの数に着目して行われる。情報処理装置1は次の緊急度1~3を統合情報として算出する。すなわち、情報処理装置1は、グループgに分割された各メッシュnについて、複数の調査項目k、例えば3項目k1~k3のうち2項目以上においてランクがIとなる確率の積和を緊急度1の生起確率U
g、n(1)として求める。生起確率U
g、n(1)は、以下の数式(13)により求められる。
【数13】
【0054】
すなわち、ここでは、緊急度1は、3個の調査項目kの全て又は任意の2個の調査項目でランクが最低のIである確率の積和(2個が最低ランクである場合、残り1個の調査項目kのランクは任意)として求められている。その他、緊急度2、3の生起確率Ug、n(2)、Ug、n(3)がそれぞれ求められる。例えば、緊急度2は、3項目の調査項目kのうちいずれか1つのランクが最低のIである場合、又は2項目以上でランクが最低より一つ手前の(I-1)である場合の確率の積和とされる。緊急度3は、3項目の調査項目kにランクが最低のIであるものが含まれず、かつランクが最低より一つ手前の(I-1)であるものが1つ含まれるか、又はランクが最低より二つ手前の(I-2)であるものが含まれる確率である。ランクの値が(I-2)未満のものしか含まれない場合には、緊急度は設定されなくてもよい。例えば、下水道協会発行の維持管理指針に従うと、調査項目k1が腐食、調査項目k2がたるみ、調査項目k3が不良発生率であり、Iが4の場合の緊急度Ug、n(1)~Ug、n(3)が上記の通り求められる。
【0055】
このようにして求められた緊急度1の生起確率Ug、n(1)が高い下水道施設は、速やかに改築更新などが必要とされる。上記のように類似した特性を有するグループごとに生起確率pg、n、k、I(z)及び生起確率Ug、nが求められることで、当該生起確率pg、n、k、I(z)及び生起確率Ug、nのばらつきが小さくなり、生起確率pg、n、k、I(z)及び生起確率Ug、nが高精度に算出される。また、従来は、先に複数の調査項目kのランクiを統合した緊急度についての劣化予測分析を行って、緊急度の生起確率を算出していたので、統合により緊急度の生起確率になまけが生じ、その精度が低下していた。本実施形態の情報処理装置1は、調査項目kごとに各ランクiについての生起確率pg、n、k、I(z)を算出してから、これらを直接的に統合して緊急度の生起確率Ug、nを算出している。特に上記の算出方法による緊急度の生起確率Ug、nでは、各調査項目kの影響が相殺されない。したがって、この緊急度の生起確率Ug、nは、統合によるなまけが生じにくく、高い精度で生起確率Ug、nが算出される。したがって、この指標によれば、より精度よく必要な改築更新などを計画することが可能になる。本実施形態の情報処理装置1では、この生起確率Ug、n(1)を表示部15の表示画面に表示した白地図上に、メッシュ位置に対する色分けなどによりマッピング表示することができる。生起確率Ug、n(1)と色との対応関係は、予め色設定情報として記憶部12に記憶されていればよい。
【0056】
調査結果がないメッシュnが含まれる場合、生起確率Ug、n(1)のマッピング表示には、隙間が生じることになる。このような隙間の発生を避けたい場合などには、調査結果のないメッシュnに対し、推定の異質性パラメータεsを周囲のメッシュの異質性パラメータεにより補間して求めてもよい。補間処理には、同一グループgの同一調査項目kに係る調査結果が用いられる。また、補間処理には、例えば、デュアルカーネル密度推定法が用いられる。カーネル関数Kは、原点が極大となり、原点の周囲で対称に漸減する非負の関数、例えば、ガウシアン関数、イパネクニコフ関数、四次関数(2つの極小点間)などである。すなわち、補間対象のメッシュnを特定する位置(x、y)に対して、周囲の調査有メッシュの位置(xn、yn)の調査結果は、(x-xn)及び(y-yn)が小さいほど補間結果に大きく影響する。
【0057】
特には限られないが、ここでは、周囲の異質性パラメータε
g、n、kを予め正規化しておく。すなわち、正規化パラメータeは、以下の数式(14)により表される。
【数14】
【0058】
補間対象位置(x、y)における異質性パラメータεs(x、y)は、以下の数式(15~17)により表される。
【数15】
【数16】
【数17】
【0059】
数式(16)中のバンド幅h及び数式(17)中のバンド幅ηは、それぞれ距離に対する減衰の比率を定める。バンド幅h、ηは、経験的に又は試行錯誤により適宜定められればよい。なお、上記では、同一グループgの全て(N個)の調査結果を用いて補間することとしたが、これに限られない。著しく離れた、すなわち、(x-xn)及び/又は(y-yn)が大きいものは、補間に係る演算処理から省略されてもよい。このようにして得られた異質性パラメータεsに基づいて、又は別個に個別ハザード率Lsも求められる。求められた異質性パラメータεs及び個別ハザード率Lsは、該当するメッシュのデータとして追加保持される。
【0060】
調査結果のないメッシュがそもそも帰属するスパンのないメッシュである場合には、そのメッシュの特性情報、特に施設特性も存在しないので、このメッシュが属するグループgを特定することができない。この場合には、当該メッシュの周囲のメッシュの施設特性が流用されてもよい。
【0061】
なお、総合的な緊急度の評価では、複数の調査項目kは、同一の重みで扱われなくてもよい。例えば、緊急度1は、腐食に係るランクiが最低(値が最大値I)となる確率を含む、すなわち、他の調査項目kに係るランクiがIではなくてもよい、というように、任意に設定され得る。また、緊急度1の生起確率Ug、n(1)の計算式自体を変更しない場合であっても、緊急度1の生起確率Ug、n(1)が高いエリア(メッシュ)について、いずれの調査項目kに係る生起確率pg、n、k、Iが高いのかが更に表示可能とされてもよい。これらにより、劣化の主たる異常内容をより容易かつ適切に把握し、特定の調査項目kに係る異常を優先的に考慮した施策を検討することが可能となる。
【0062】
現在の緊急度に係る生起確率Ug、nなどのマッピング表示に加えて、個々の調査項目kごとに、劣化の速度に対応する個別ハザード率Lg、n、k、iの分布や、同一グループ内での劣化速度の相対的な差を表す異質性パラメータεg、n、kの分布、あるいは、各ランクiの期待寿命をつないで、最高ランクから最低ランクまでの経過時間を示した期待劣化パスなどを表示させることもできる。例えば、個別ハザード率Lg、n、k、iのうちランクiの大きいもの、特に、最低ランク(i=I)の個別ハザード率Lg、n、k、Iが大きいエリアが多い調査項目kを特定することによっても、当該調査項目kに係る異常を優先的に考慮した施策を検討することができる。期待劣化パスにより最低ランクまでの期待時間が相対的に短い、すなわち傾きが大きいとの結果が得られたメッシュの多い調査項目kを特定することによっても、当該調査項目kに係る異常を優先的に考慮することが可能となる。あるいは、調査項目kの間で期待劣化パスを比較し、傾きの最も大きい調査項目kを特定することで、優先的に考慮すべき異常内容を定めてもよい。
【0063】
また、生起確率pg、n、k、Iがグループgごとに算出されていることで、そのばらつきが小さく、高精度で求められるので、各調査項目kに係る異常の内容を適切に評価しやすい。また、例えば、各グループgにおいて異質性パラメータεg、n、kが1から大きくずれているエリアがある場合には、このグループgの標準ハザード率λg、k、iなどから想定される改築更新などのスケジュールに対して、上記エリアのスケジュールを前倒し又は後回しにするといった調整に係る施策検討が容易に可能となる。また、特定の調査項目k、すなわち異常内容を優先したスケジュールの立案、調整なども容易に可能となる。一方で、生起確率pg、n、k、Iが高いエリアがいずれのグループgに属しているものが多いかを特定することによって、当該グループgに対応する特性の組み合わせを考慮しながら施策を検討することもできる。また、最低ランク(i=I)の個別ハザード率Lg、n、k、Iが大きいエリアが多いグループgを特定することでも、当該グループgに対応する特性の組み合わせを考慮して、施策を検討することができる。
【0064】
図4は、本実施形態の情報処理装置1で実行される劣化評価制御処理の制御部11による制御手順を示すフローチャートである。
本実施形態の劣化評価方法を含むこの劣化評価制御処理は、例えば、操作受付部14への処理の開始に係る入力操作に応じて開始される。
【0065】
劣化評価制御処理が開始されると、制御部11は、評価対象地域をメッシュに区分する。制御部11は、各メッシュnに属するスパンを特定していく(ステップS101)。制御部11は、取得手段として、各メッシュnに属しているスパンの特性を下水道施設データ201などから取得し、当該メッシュの特性を決定する(ステップS102;取得ステップ)。
【0066】
制御部11は、調査項目kを1つ選択して注目調査項目とする(ステップS103)。制御部11は、劣化予測手段として、各ランク1~Iについて、調査データ202を用いてそれぞれ劣化予測分析を行い、全体の標準ハザード率λk、i、個々のメッシュの個別ハザード率Ln、k、i及び異質性パラメータεn、kといったハザード関数の各パラメータを算出(導出)する(ステップS104;劣化予測ステップ)。
【0067】
制御部11は、後述のグループ化処理を行う(ステップS105)。制御部11は、設定されたグループごとに調査データ202を用いた劣化予測分析を再度行い、各グループgの各ランクiで、標準ハザード率λg、k、i、異質性パラメータεg、n、k、個別ハザード率Lg、n、k、iを算出する(ステップS106)。
【0068】
制御部11は、調査結果のないメッシュの個別ハザード率Lsg、n、k、i及び異質性パラメータεsg、n、kを補間取得する(ステップS107)。制御部11は、得られた各メッシュnの劣化速度に係る情報のデータを出力する(ステップS108)。出力データは、上記のように、用途に応じて調査項目kごとの異質性パラメータε、εs及び/又は個別ハザード率L、Lsが適宜指定されればよく、指定内容は予め定められていてもよい。また、制御部11は、統合情報生成手段として、各調査項目kに応じた個別ハザード率Lg、n、k、i同士を比較して、最大の個別ハザード率Lg、n、k、iを示す調査項目kを判定し、当該調査項目k及びその個別ハザード率Lg、n、k、iを出力してもよい。出力は、値や調査項目kを色に変換して各メッシュ位置を着色した色マッピングなどの図であってもよいし、等高線表示などであってもよい。また、値と調査項目kを併記する場合には、一方が色で示され、他方が等高線や塗りつぶしパターンなどで示されるなどであってもよい。あるいは、出力は、単純に数値をリスト表示するものであってもよい。
【0069】
統合情報生成手段は、各グループgの標準ハザード率λg、k、i(z)及び個別ハザード率Lg、n、k、i(z)に基づいて、各ランクi(劣化状態)の生起確率pg、n、k、i(z)を算出する(ステップS109)。上記のように、生起確率pg、n、k、i(z)は、各ランク間の遷移確率πg、n、k、ij(z)から求められる。調査結果のないメッシュについては、補間された個別ハザード率Lsg、n、k、i(z)が個別ハザード率Lg、n、k、i(z)として用いられる。
【0070】
制御部11は、ステップS103において全ての調査項目kを注目調査項目として選択したか否かを判別する(ステップS110)。全ての調査項目kを選択していない(選択していない調査項目kがある)と判別された場合には(ステップS110で“NO”)、制御部11の処理は、ステップS103に戻る。
【0071】
全ての調査項目kを選択して、複数の調査項目についての調査結果に基づく劣化予測がそれぞれなされたと判別された場合には(ステップS110で“YES”)、統合情報生成手段は、グループgごとに、全て(3個)の調査項目kの各ランクiの生起確率pg、n、k、i(パラメータ)を統合して、劣化に係る統合情報として各緊急度uの生起確率Ug、n(u)を算出(生成)する(ステップS111)。上記の例では、u=1~3であり、生起確率Ug、n(1)の計算式は、数式(13)に示した通りである。制御部11は、生起確率Ug、n(1)の分布データを出力する(ステップS112)。上記のように、出力は、カラーマップなどにより行われてもよい。制御部11は、各メッシュの生起確率Ug、n(1)を色設定情報に基づいて色(輝度値)変換し、白地図上のメッシュに対応する座標範囲を変換された色(輝度)に設定した出力画像データを生成する。また、制御部11は、生起確率Ug、n(1)とともに、ランクIの生起確率pg、n、k、Iをそれぞれ出力してもよい。そして、制御部11は、劣化評価制御処理を終了する。
【0072】
図5は、ステップS105で実行されるグループ化処理の制御手順を示すフローチャートである。
グループ化処理では、制御部11は、全メッシュnを含むノードを二分木の最上位ノードとして、これを親ノードに設定する(ステップS501)。
【0073】
制御部11は、2個の子ノードを分割するための特性に係る条件を変更設定する(ステップS502)。特性に係る条件は、グループ設定データ203から読み出されればよい。制御部11は、各メッシュnの特性に基づいてメッシュnをそれぞれ該当する子ノードに割り当てる(ステップS503)。
【0074】
制御部11は、2個の子ノードのそれぞれに下限数以上のメッシュnが割り当てられたか否かを判別する(ステップS504)。子ノードへの割り当て数が下限数に満たず十分ではないと判別された場合には(ステップS504で“NO”)、制御部11の処理は、ステップS506へ移行する。
【0075】
子ノードへの割り当て数が下限数以上であると判別された場合には(ステップS504で“YES”)、制御部11は、各子ノード(グループg)に割り当てられたメッシュnの異質性パラメータεn、kの分散σ2(ca)、σ2(cb)を算出する。制御部11は、当該分散σ2(ca)、σ2(cb)及び各子ノードに割り当てられたメッシュの数na、nbと、算出済みの親ノードの分散σ2(p)とに基づいて、低減度dIを算出する(ステップS505)。それから、制御部11の処理は、ステップS506へ移行する。
【0076】
ステップS506へ移行すると、制御部11は、グループ設定データ203に記憶されている全種類の子ノード分割に係る特性条件が設定されたか否かを判別する(ステップS506)。全種類の分割設定がなされていない(設定されていない特性条件がある)と判別された場合には(ステップS506で“NO”)、制御部11の処理は、ステップS502に戻る。
【0077】
全種類の分割設定がなされたと判別された場合には(ステップS506で“YES”)、制御部11は、現在設定されている子ノードによる低減度dIの算出結果があるか否かを判別する(ステップS507)。低減度dIの算出結果がないと判別された場合には(ステップS507で“NO”)、制御部11は、現在の親ノードを最下位ノードとして設定する(ステップS508)。それから、制御部11の処理は、ステップS510に移行する。
【0078】
低減度dIの算出結果があると判別された場合には(ステップS507で“YES”)、制御部11は、低減度dIが最大の分割設定(子ノードの各特性項目及び境界)を特定して、当該子ノードを確定する(ステップS509)。なお、上記のように、子ノードにより最大分割数や最大階層数に到達した場合には、この子ノードが最下位ノードとして設定される。それから、制御部11の処理は、ステップS510に移行する。
【0079】
ステップS510の処理では、制御部11は、最下位ノードとして設定されたもの以外のノードで選択されていないノード(有効ノード)があるか否かを判別する(ステップS510)。有効ノードがあると判別された場合には(ステップS510で“YES”)、制御部11は、有効ノードから1つを選択して親ノードとして設定する(ステップS511)。それから、制御部11の処理は、ステップS502に戻る。
【0080】
有効ノードがないと判別された場合には(ステップS511で“NO”)、制御部11は、グループ化処理を終了して、劣化評価制御処理に戻る。
【0081】
なお、本発明は、上記実施の形態に限られるものではなく、様々な変更が可能である。
例えば、上記実施の形態では、グループ化の際に用いる異質性パラメータεのばらつき度合として分散σ2を用いたが、これに限られない。標準偏差σや、異質性パラメータεの平均値からのずれ量の絶対値の平均値や最大値などが用いられてもよい。
【0082】
また、統合情報として求められる緊急度uや生起確率U(u)の算出方法は、上記に限られない。また、複数の調査項目kは、上記した腐食、たわみ及び不良発生率以外の分け方や項目であってもよい。
【0083】
また、上記のように、劣化速度の調査項目kの間での比較に係る結果出力のみが行われて、統合情報が生成されなくてもよい。
【0084】
また、上記では、各スパンは排他的にいずれか一つのメッシュに属するものとされたが、これに限られない。スパンが位置している全てのメッシュに属するものとして重複設定されてもよい。
【0085】
また、調査の結果は、スパン単位ではなく、管渠ごとに保持されていてもよい。この場合には、各管渠が属するメッシュがそれぞれ特定されて、各メッシュの特性の設定及び劣化評価がなされればよい。
【0086】
また、上記実施の形態では、メッシュ単位でカラーマッピングなどによる表示がされるとして説明したが、これに限られない。メッシュ単位で設定された色(輝度)が、当該メッシュ内で各スパンが位置する範囲のみに割り当てられてもよい。
【0087】
また、メッシュの形状は、正方形に限られない。メッシュは長方形であってもよいし、矩形以外の三角形や六角形などであってもよい。
【0088】
また、上記実施の形態では、対象物の設置位置に基づいて定める劣化評価の単位、すなわち局所をメッシュとする例を説明したが、そもそもメッシュ単位に集約されなくてもよい。元の管渠単位又はスパン単位で劣化評価がなされてもよい。すなわち局所は、管渠又はスパンとされてもよい。また、各管渠やスパンが直接グループ化されてもよい。この場合、必要に応じてスパンの長さなどに応じた重み付けがなされてもよい。
【0089】
また、管渠やスパンを単位として劣化評価がなされる場合、そもそも管渠やスパンがない部分については補間されない。管渠やスパンがあるが、調査が行われていない部分が補間されればよい。また、特にこのような場合の補間は、単純に線形補間などで行われてもよい。例えば、補間対象の管渠やスパンから基準距離内の管渠やスパンについて、それぞれ補間対象からの距離及び各管渠やスパンの長さに応じてそれぞれ重み付けされた平均などにより、補間値などが求められてもよい。
【0090】
また、上記に限らず、メッシュごとに劣化評価がなされる場合でも補間処理を行わなくてもよい。また、補間処理は、劣化予測分析の結果である異質性パラメータεに対して行われるのではなくてもよい。緊急度uの生起確率Uが求められてから、当該生起確率Uが補間処理されてもよい。
【0091】
また、上記実施の形態では、下水道施設における管渠を劣化評価の対象の例として示したが、これに限られるものではない。上水道施設などのその他の配管、道路施設におけるマンホールや路面舗装など、頻繁な調査に大きな手間を有する施設全般に対して上記実施形態の劣化評価に係る処理が適用可能である。
【0092】
また、上記実施の形態では、単一の情報処理装置1で劣化予測分析や統合情報の導出などが行われたが、これに限られない。複数の情報処理装置により分散処理されてもよい。
【0093】
また、以上の説明では、本発明の劣化評価制御に係るプログラム121を記憶するコンピュータ読み取り可能な媒体としてHDD、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリなどからなる記憶部12を例に挙げて説明したが、これらに限定されない。その他のコンピュータ読み取り可能な媒体として、MRAMなどの他の不揮発性メモリや、CD-ROM、DVDディスクなどの可搬型記録媒体を適用することが可能である。また、本発明に係るプログラムのデータを、通信回線を介して提供する媒体として、キャリアウェーブ(搬送波)も本発明に適用される。
【0094】
その他、上記実施の形態で示した具体的な構成、処理動作の内容及び手順などは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。本発明の範囲は、特許請求の範囲に記載した発明の範囲とその均等の範囲を含む。
【0095】
以上のように、本実施形態の劣化評価装置としての情報処理装置1は、制御部11を備える。制御部11は、取得手段として、下水道施設の管渠などの対象物の劣化状態(ランクi)を複数の調査項目kについてそれぞれ調査した調査結果を取得する。制御部11は、劣化予測手段として、調査項目ごとに当該調査項目の調査結果を用いた劣化予測分析を行って、調査項目ごとのハザード関数のパラメータを導出する。
このように、情報処理装置1は、調査項目kごとに劣化予測を行うので、ユーザは、異常の種別に応じた劣化の評価を知得可能である。したがって、ユーザは、調査項目(異常の種別)に着目した施策検討を適切かつ柔軟に行うことができる。また、これは調査結果による分類であり、要因による分類ではない。したがって、特に、要因に対する抜本的な対応が難しいような場合に、わざわざ当該要因やその組み合わせの影響を細かく定量的に評価せずとも、適切な施策検討が可能となる。
【0096】
また、制御部11は、統合情報生成手段として、複数の調査項目kについてそれぞれ導出された劣化予測分析に係るパラメータを統合して、対象物の劣化に関する統合情報、例えば、管渠の劣化に係る緊急度uの生起確率U(u)や個別ハザード率Lg、n、k、i(z)が最大の調査項目を示す情報を生成してもよい。これにより、各調査項目kの影響をより柔軟に反映し、また、各調査項目kの影響をより適切に理解することが可能な統合情報を生成できる。したがって、ユーザは、調査項目kに着目した施策検討を適切かつ柔軟に行うことができる。
【0097】
また、統合情報生成手段は、複数の調査項目kのそれぞれについて、上記パラメータとして導出された劣化に係るランクiの標準ハザード率λk、iから当該ランクiの生起確率pn、k、iを算出する。統合情報生成手段は、複数の調査項目kの劣化に係るランクの組み合わせとして、メッシュ(管渠)の劣化に関する統合状態としての緊急度uを判定する所定の判定基準に応じて、複数の調査項目kに係るランクiの生起確率pn、k、iを積和して、緊急度uの生起確率U(u)を算出してもよい。このような手順で処理を行うことで、情報処理装置1は、各調査項目kの結果を明示的に反映した統合状態の生起確率を出力することができる。これにより、ユーザは、調査項目kの影響を考慮しながらより詳細な施策検討を行うことができる。
【0098】
また、統合情報生成手段は、複数の調査項目kのそれぞれについて、劣化予測分析に係るパラメータとして導出された個別ハザード率Lg、n、k、i(z)同士を比較して、複数の調査項目kの中から個別ハザード率Lg、n、k、i(z)が最大の調査項目を判定することとしてもよい。これにより、情報処理装置1は、どの調査項目k、すなわち異常の種別が個別ハザード率Lg、n、k、i(z)の上昇に貢献しているのかについての情報を、ユーザに対して提供することができる。したがって、ユーザは、調査項目kに着目した施策検討を適切かつ柔軟に行うことができる。
【0099】
また、本実施形態の劣化評価方法は、対象物の劣化状態(ランクi)を複数の調査項目kについてそれぞれ調査した調査結果を取得する取得ステップ、調査項目kごとに当該調査項目kの調査結果を用いた劣化予測分析を行って、調査項目kごとのハザード関数のパラメータを導出する劣化予測ステップ、を含む。この劣化評価方法によれば、調査項目kごとに劣化予測を行うので、ユーザは、異常の種別に応じた劣化の評価を知得可能である。したがって、ユーザは、調査項目(異常の種別)に着目した施策検討を適切かつ柔軟に行うことができる。
【0100】
また、上記劣化評価方法に係る処理を含むプログラム121をコンピュータ(情報処理装置1)にインストールして実行することで、特殊な構成を用いずに容易に適切な劣化予測分析を行うことができる。
【符号の説明】
【0101】
1 情報処理装置
11 制御部
12 記憶部
121 プログラム
13 入出力インターフェイス
131 接続端子
132 通信部
14 操作受付部
15 表示部
20 外部機器
21 データベース装置
22 光学読取装置
201 下水道施設データ
202 調査データ
203 グループ設定データ
【要約】
【課題】調査項目に着目した改築更新などの施策検討を可能とする劣化評価装置、劣化評価方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】劣化評価装置は、対象物の劣化状態を複数の調査項目についてそれぞれ調査した調査結果を取得する取得手段と、調査項目ごとに調査項目の調査結果を用いた劣化予測分析を行って、調査項目ごとのハザード関数のパラメータを導出する劣化予測手段と、を備える。劣化評価装置は、複数の調査項目についてそれぞれ導出されたパラメータを統合して対象物の劣化に関する統合情報を生成する統合情報生成手段を備えてもよい。
【選択図】
図4