(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】デジタルPCRの測定方法および測定装置
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6844 20180101AFI20240828BHJP
C12Q 1/6816 20180101ALI20240828BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240828BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20240828BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20240828BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20240828BHJP
【FI】
C12Q1/6844 Z ZNA
C12Q1/6816 Z
C12M1/00 A
C12M1/34 Z
G01N21/64 F
C12N15/09 Z
(21)【出願番号】P 2023038011
(22)【出願日】2023-03-10
(62)【分割の表示】P 2019118981の分割
【原出願日】2019-06-26
【審査請求日】2023-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 淳子
(72)【発明者】
【氏名】中川 樹生
(72)【発明者】
【氏名】島崎 譲
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 亜希子
【審査官】藤井 美穂
(56)【参考文献】
【文献】特許第7245734(JP,B2)
【文献】国際公開第2018/128013(WO,A1)
【文献】Sci. Rep.,2019年02月22日,Vol.9, No.2626,pp.1-8
【文献】Anal. Chem.,2017年06月20日,Vol.89, No.12,pp.6305-6308
【文献】J. Clin. Microbiol.,2018年01月24日,Vol.56, No.2,e01239-17, pp.1-9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 - 15/90
C12Q 1/00 - 3/00
C12M 1/00 - 3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種類の検出対象のDNAと、前記複数種類の
検出対象のDNAにそれぞれ結合する、同一の蛍光色素で標識された複数種類の蛍光標識プローブとを含有するDNA溶液を複数の区画に分割する工程と、
前記
複数の区画の中で核酸増幅反応を行う工程と、
温度変化に伴って
前記DNA溶液から放出される蛍光の蛍光強度を測定する工程と、
前記DNA溶液の温度変化に伴う前記
蛍光強度の変化からDNA二重鎖の融解温度を算出する工程と、
第1の軸に融解曲線又は融解曲線の微分曲線の形状を示す値をとり、第2の軸に前記融解温度をとって、前記複数の区画のそれぞれの前記DNA溶液についてプロットする工程と、
前記プロットに基づいて、前記複数の区画のそれぞれが前記検出対象のDNAを2種類含む区画なのか、1種類含む区画なのかを判別する工程と、を含み、
前記複数種類の検出対象のDNAに対する、前記複数種類の蛍光標識プローブおのおのの融解温度の差が10℃以下である、デジタルPCRを用いたDNA検出方法。
【請求項2】
前記融解曲線又は融解曲線の微分曲線の形状を示す値が、前記融解曲線の所定値の傾きを有する2点の温度差であることを特徴とする請求項1に記載のDNA検出方法。
【請求項3】
前記融解曲線又は融解曲線の微分曲線の形状を示す値が、前記微分曲線の半値幅であることを特徴とする請求項1に記載のDNA検出方法。
【請求項4】
前記蛍光強度が所定の閾値以上の区画をDNA有りと判別し、前記所定の閾値未満の区画をDNA無しと判別する工程をさらに含み、
DNA有りと判別された区画に対して、前記検出対象のDNAを2種類含む区画なのか、1種類含む区画なのかが判別される、請求項1に記載のDNA検出方法。
【請求項5】
前記
複数の区画内のDNAの判別を行うためのデータとして、融解温度よりも低温な温度での蛍光強度、融解温度よりも高温な温度での蛍光強度、融解温度よりも高温な温度での蛍光強度に対する融解温度よりも低温な温度での蛍光強度の比、融解温度よりも低温な温度での蛍光強度と融解温度よりも高温な温度での蛍光強度との差、融解温度、及び融解曲線の形状を表す特徴量からなる群から選択される請求項1に記載のDNA検出方法。
【請求項6】
複数種類の検出対象のDNAと、前記複数種類の
検出対象のDNAにそれぞれ結合する、同一の蛍光色素で標識された複数種類の蛍光標識プローブとを含有するDNA溶液を複数の区画に分割する工程と、
前記
複数の区画の中で核酸増幅反応を行う工程と、
温度変化に伴って
前記DNA溶液から放出される蛍光の蛍光強度を測定する工程と、
前記DNA溶液の温度変化に伴う前記
蛍光強度の変化からDNA二重鎖の融解温度を算出する工程と、
前記
蛍光強度の変化を示す融解曲線の微分曲線における所定値(=-Δ蛍光強度/Δ温度)を有する2点の温度差を算出する工程と、を含み、
前記複数種類の検出対象のDNAに対する、前記複数種類の蛍光標識プローブおのおのの融解温度の差が10℃以下である、デジタルPCRを用いたDNA検出方法。
【請求項7】
前記
蛍光強度の変化を示す融解曲線の微分曲線における所定値(=-Δ蛍光強度/Δ温度)を有する2点の温度差は、前記微分曲線の半値幅であることを特徴とする請求項6に記載のDNA検出方法。
【請求項8】
前記複数の区画に分割された前記DNA溶液について、前記融解温度を算出した後、前記
蛍光強度の変化を示す融解曲線の微分曲線における所定値(=-Δ蛍光強度/Δ温度)を有する2点の温度差を第1の軸に、前記融解温度を第2の軸にして、プロットすることにより、前記
複数の区画のそれぞれが前記検出対象のDNAを2種類含む区画なのか、1種類含む区画なのかを判別することを特徴とする請求項6に記載のDNA検出方法。
【請求項9】
前記
複数の区画のそれぞれが前記検出対象のDNAを2種類含む区画なのか、1種類含む区画なのかを判別する工程の後、遺伝子の種類または変異の種類ごとにカウントされた検体溶液の区画の数または割合を表示する工程をさらに有する、請求項8に記載のDNA検出方法。
【請求項10】
複数種類の検出対象のDNAと、前記複数種類の
検出対象のDNAにそれぞれ結合する、同一の蛍光色素で標識された蛍光標識プローブとを含
み、複数の区画に分割されたDNA溶液中の前記DNAを検出するための、デジタルPCRを用いたDNA検出装置であって、
前記DNA溶液を加温するための加温部と、
前記
複数種類の検出対象のDNAを増幅するための増幅部と、
前記DNA溶液から放出される蛍光の
蛍光強度を測定するための蛍光測定部と、
前記DNA溶液の温度変化に伴う前記
蛍光強度の変化からDNA二重鎖の融解温度を算出し、第1の軸に融解曲線又は融解曲線の微分曲線の形状を示す値をとり、第2の軸に前記融解温度をとって、
複数の区画のそれぞれの前記DNA溶液についてプロットされて作成されたグラフに基づいて、前記複数の区画のそれぞれが前記検出対象のDNAを2種類含む区画なのか、1種類含む区画なのかを判別する計算部と、
前記計算部による結果を出力する出力部と、を備え、
前記複数種類の検出対象のDNAに対する、前記複数種類の蛍光標識プローブおのおのの融解温度の差が10℃以下である、DNA検出装置。
【請求項11】
前記融解曲線又は融解曲線の微分曲線の形状は、前記融解曲線の所定値の傾きを有する2点の温度差であることを特徴とする請求項10に記載のDNA検出装置。
【請求項12】
前記融解曲線又は融解曲線の微分曲線の形状は、前記微分曲線の半値幅であることを特徴とする請求項10に記載のDNA検出装置。
【請求項13】
前記計算部は、前記蛍光強度が閾値以上の区画をDNA有りと判別し、閾値以下の区画をDNA無しと判別し、DNA有りと判別された区画に対して、前記検出対象のDNAを2種類含む区画なのか、1種類含む区画なのかを判別する、請求項10に記載のDNA検出装置。
【請求項14】
データを記憶しておく記憶部を有し、前記計算部は、前記記憶部に格納された、前記
複数の区画内のDNAの判別を行うためのデータとして、融解温度よりも低温な温度での蛍光強度、融解温度よりも高温な温度での蛍光強度、融解温度よりも高温な温度での蛍光強度に対する融解温度よりも低温な温度での蛍光強度の比、融解温度よりも低温な温度での蛍光強度と融解温度よりも高温な温度での蛍光強度との差、融解温度、融解曲線の形状を表す特徴量のいずれかを用いることを特徴とする請求項10に記載のDNA検出装置。
【請求項15】
前記出力部は表示装置であって、前記グラフ
及び/又は前記蛍光標識プローブの蛍光強度または融解温度に対する検体溶液の数をプロットした
ヒストグラムを表示する、請求項10に記載のDNA検出装置。
【請求項16】
前記表示装置に表示された前記グラフ及び/又は
前記ヒストグラムを基にして修正され入力された、前記融解曲線の所定値の傾きを有する2点の温度差の範囲設定に基づいて、対象遺伝子の数を計算して前記出力部に出力する、
請求項15に記載のDNA検出装置。
【請求項17】
複数種類の検出対象のDNAと、前記複数種類の
検出対象のDNAにそれぞれ結合する、同一の蛍光色素で標識された蛍光標識プローブとを含
み、複数の区画に分割されたDNA溶液中の前記DNAを検出するための、デジタルPCRを用いたDNA検出装置であって、
前記DNA溶液を加温するための加温部と、
前記
複数種類の検出対象のDNAを増幅するための増幅部と、
前記DNA溶液から放出される蛍光の
蛍光強度を測定するための蛍光測定部と、
前記DNA溶液の温度変化に伴う
前記蛍光強度の変化からDNA二重鎖の融解温度を算出し、前記
蛍光強度の変化を示す融解曲線の微分曲線における所定値(=-Δ蛍光強度/Δ温度)を有する2点の温度差を算出する計算部と、
前記計算部による結果を出力する出力部と、を備え、
前記複数種類の検出対象のDNAに対する、前記複数種類の蛍光標識プローブおのおのの融解温度の差が10℃以下である、DNA検出装置。
【請求項18】
前記
蛍光強度の変化を示す融解曲線の微分曲線における所定値(=-Δ蛍光強度/Δ温度)を有する2点の温度差は、前記微分曲線の半値幅である、請求項17に記載のDNA検出装置。
【請求項19】
前記計算部は、前記複数の区画に分割された前記DNA溶液について、前記融解温度を算出した後、第1の軸に前記
蛍光強度の変化を示す融解曲線の微分曲線における所定値(=-Δ蛍光強度/Δ温度)を有する2点の温度差をとり、第2の軸に前記融解温度をとって、前記複数の区画のそれぞれの前記DNA溶液についてプロットされて作成されたグラフに基づいて、前記複数の区画のそれぞれが前記検出対象のDNAを2種類含む区画なのか、1種類含む区画なのかを判別する、
請求項17に記載の
DNA検出装置。
【請求項20】
前記出力部は、前記
複数の区画
のそれぞれが前記検出対象のDNAを2種類含む区画なのか、1種類含む区画なのかを
前記計算部が判別した後、遺伝子の種類または変異の種類ごとにカウントされた検体溶液の区画の数または割合を表示する、請求項10または
19に記載のDNA検出装置。
【請求項21】
DNA検出装置に、請求項1~9のいずれか1項に記載のDNA検出方法を行わせるためのプログラム。
【請求項22】
前記
DNA検出装置は、請求項10~20のいずれか1項に記載の検出装置である、請求項21に記載のプログラム。
【請求項23】
請求項21または22に記載のプログラムを格納する記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルPCRの測定方法および測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルPCR(特許文献1)は、PCR(特許文献2-4)やリアルタイムPCR(非特許文献1)などの従来の遺伝子検査において、検出対象の遺伝子(本明細書で、対象遺伝子と称する)が微量なときに測定再現性が低下するという課題を解決する方法として開発された。デジタルPCRを用いると、限界希釈したサンプルを用いてDNAを0(無し)か1(有り)で検出することで微量なDNAを定量できる。
【0003】
デジタルPCRの検出方法の一例を以下に示す。まず、限界希釈した検体に、PCRに必要となるDNAポリメラーゼ、プライマー、蛍光標識プローブを加え、PCR反応液を調製する。PCR反応液をウェルまたはドロップレットなど微小な区画に分割する。このとき、1区画に1分子の対象遺伝子が入っているか、入っていないかのいずれかであるようにする。次に、微小区画内の対象遺伝子を、PCRにより増幅する。PCR後に各微小区画の蛍光強度を測定し、閾値を超える蛍光強度をもつ微小区画の数をカウントすることにより、対象遺伝子を定量することができる。
【0004】
このようなデジタルPCRは、限界希釈した検体を用いるため、PCRの反応を阻害する要因となる検体由来成分の影響を抑えることができる。また、検量線を必要としないため、対象とするDNAの絶対量を直接測定できる。
【0005】
ところで、従来のPCRでは、反応液中の反応阻害物の存在、テンプレートDNAの二次構造の形成、プライマーの設計不十分などの理由により、反応効率が低下することが知られている。
【0006】
一方、デジタルPCRでは、反応のエンドポイントで測定するため、PCRの反応効率自体は測定結果に大きく影響しないとされてきた。しかし実際には、エンドポイントで測定しても各微小区画のPCR反応効率の不均一性による蛍光強度ばらつきが大きく、デジタルPCRの測定再現性および測定精度を低下させていた。
【0007】
そこで、本発明者らは、デジタルPCRの測定再現性および測定精度の向上のため、各微小区画のPCR反応効率が不均一でも、PCR増幅産物の融解温度(Tm)を測定することによって、微小区画内の対象遺伝子の判別ができる技術を開発した(特許文献5)。具体的には、例えば、PCR後、微小区画内で増幅した対象遺伝子と蛍光標識プローブの融解温度(Tm)を測定することで、PCRの反応効率が不均一でも融解温度の違いによって対象遺伝子の遺伝子型を同定できるようになった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2013-521764号公開公報
【文献】米国特許第4683195号公報
【文献】米国特許第4683202号公報
【文献】米国特許第4800159号公報
【文献】特開2018-108063号公開公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Genome Res.,10,pp986-994,1996
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
デジタルPCRでは微小区画に入る対象遺伝子の数はポワソン分布に従うため、検体を希釈して、大部分が1区画に1分子の対象遺伝子が入っているか、入っていないかのいずれかであっても、一定の確率で1区画に2分子の対象遺伝子が入る。頻度の低い変異型が同じ区画に2分子入ることはまれだが、変異型と野生型が1分子ずつ入ることは容易に生じ得る。このような2種類の分子が入った微小区画を判別することは、変異型遺伝子の擬陰性、擬陽性を低減し、測定再現性および測定精度を向上させる上で重要である。
【0011】
そこで、本発明の目的は、融解曲線分析を用いたデジタルPCRにおいて、1区画に2種類の異なる検出対象遺伝子が入った微小区画を測定装置により明確に見分け、対象遺伝子のカウント数を補正する新たなデジタルPCRの測定方法および測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、融解曲線分析を用いたデジタルPCRにおいて、プローブとの融解温度が異なる2種類の対象遺伝子があり、それぞれのプローブを同じ蛍光色素で標識した場合、2種類の対象遺伝子が同一の微小区画に1分子ずつ入ると、融解曲線の傾きが全体的になだらかになり、融解曲線の微分曲線の半値幅が大きくなることから、融解曲線の微分曲線から融解温度に加えて半値幅も算出することによって、統計的に2種類の分子が入った微小区画を見分けられることを見出し、本発明の完成に至った。
【0013】
本発明の一実施態様は、蛍光標識プローブまたはDNAインターカレーターと複数種類の検出対象のDNAを含有するDNA溶液を複数の微小区画に分割する工程と、前記微小区画の中で核酸増幅反応を行う工程と、温度変化に伴って蛍光強度を測定する工程と、前記DNA溶液の温度変化に伴う前記蛍光の強度の変化からDNA二重鎖の融解温度を算出する工程と、前記蛍光の強度の変化を示す融解曲線上で、所定値の傾きを有する2点の温度差を算出する工程と、を含む、DNA検出方法である。前記温度差が所定の閾値以上の区画を、前記検出対象のDNAを2種類含む区画であると特定する工程や、前記温度差が所定の閾値未満の区画を、前記検出対象のDNAを1種類含む区画であると特定する工程をさらに含んでもよい。
【0014】
上記いずれかのDNA検出方法において、前記DNA溶液が蛍光標識プローブを含み、前記融解温度が、前記蛍光標識プローブと前記検出対象のDNAとの間で形成される二重鎖の融解温度であってもよい。ここで、前記蛍光標識プローブが、蛍光色素とそのクエンチャーを有してもよい。あるいは、前記DNA溶液がDNAインターカレーターを含み、前記融解温度が、前記検出対象のDNAの二重鎖の融解温度であってもよい。
【0015】
上記いずれかのDNA検出方法において、前記複数の微小区画が平面配置されていてもよい。また、前記DNA溶液を、ドロップレットまたはウェルによって前記複数の区画に分割してもよい。
【0016】
本発明の他の実施態様は、複数種類の検出対象のDNAを含むDNA溶液中の前記DNAを検出するためのDNA検出装置であって、前記DNA溶液を加温するための加温部と、前記DNA溶液から放出される蛍光の強度を測定するための蛍光測定部と、前記DNA溶液の温度変化に伴う前記蛍光の強度の変化からDNA二重鎖の融解温度を算出し、前記蛍光の強度の変化を示す融解曲線において、所定値の傾きを有する2点の温度差を算出する計算部と、を備える、DNA検出装置である。このDNA検出装置は、前記検出対象の
DNAを増幅するための増幅部をさらに備えてもよい。また、前記検出結果を表示するモニターをさらに備えてもよい。
【0017】
本発明のさらなる実施態様は、上記いずれかのDNA検出装置などのDNA検出装置に、上記いずれかのDNA検出方法を行わせるためのプログラムである。
【0018】
本発明のさらなる実施態様は、上記プログラムを格納する記録媒体である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によって、融解曲線分析を用いたデジタルPCRにおいて、1区画に2種類の異なる対象遺伝子が入った微小区画を測定装置により明確に見分け、対象遺伝子のカウント数を補正する、新たなデジタルPCRの解析方法を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施態様における融解曲線分析を用いたデジタルPCRにおいて、PCR増幅産物に対し、温度変化に伴う蛍光強度の変化に基づいて計測されるDNA二重鎖の融解温度に加えて、蛍光の強度の変化を示す融解曲線上で、所定値の傾きを有する2点の温度差を算出して行うDNA検出方法の基本概念を示す図である。
【
図2】本発明の一実施態様における融解曲線分析を用いたデジタルPCRにおいて、PCR増幅産物の融解温度と蛍光強度を用いて行うDNA検出方法の基本概念を示す図である。
【
図3】本発明の一実施態様における、ドロップレットまたはウェルが含む蛍光色素の色と蛍光強度を測定するための蛍光測定部の模式図である。
【
図4】本発明の一実施態様における、(A)PCR増幅産物の蛍光強度および融解温度を用いて行うDNA検出方法を用いたデジタルPCR測定結果の一例、(B)PCR増幅産物に対し、蛍光強度の変化の微分関数における、所定値の融解曲線の傾きを有する2点の温度差と融解温度を用いて行うDNA検出方法を用いたデジタルPCR測定結果の一例、を示す図である。
【
図5】本発明の一実施態様におけるDNA検出方法において、DNAインターカレーターを用いてDNAの融解温度を測定する方法を示す模式図である。
【
図6】本発明の一実施態様におけるDNA検出方法において、蛍光標識プローブを用いてDNAの融解温度を測定する方法を示す模式図である。
【
図7】
図3の装置とカートリッジを用いて融解温度測定を行う方法の一実施態様を示すフローチャートである。
【
図8】モニターに表示される測定結果の一例である。
【
図9】モニターに表示される測定結果の一例である。
【
図10】本発明の一実施例において、蛍光標識プローブを用いてウェル内対象遺伝子の種類を判別する結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的に実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0022】
(1)DNA検出方法の原理及び効果
本発明に係るDNA検出方法は、蛍光標識プローブまたはDNAインターカレーターと数種類の検出対象のDNAを含有するDNA溶液を複数の区画に分割する工程と、区画の
中で核酸増幅反応を行う工程と、温度変化に伴って蛍光強度を測定する工程と、DNA溶液の温度変化に伴う蛍光の強度の変化からDNA二重鎖の融解温度を算出する工程と、蛍光の強度の変化を示す融解曲線上で、所定値の融解曲線の傾きを有する2点の温度差を算出する工程と、を含む。なお、融解曲線上のある点における融解曲線の傾きとは、その点における融解曲線に対する接線の傾きを意味する。
【0023】
ここで、
図1に、PCR増幅産物に対し、温度変化に伴う蛍光強度の変化に基づいて計測されるDNA二重鎖の融解温度に加えて、蛍光の強度の変化を示す融解曲線上での、所定値の傾きを有する2点の温度差を算出して行うことによって、DNAを検出する方法の代表的な実施態様において想定される測定結果の例を示した。また、
図2に、PCR増幅産物の融解温度と蛍光強度を用いて行う場合の融解曲線分析を用いたデジタルPCRの測定結果の例を示した。
【0024】
融解曲線分析を用いたデジタルPCRでは、蛍光標識プローブとDNAとの融解温度が遺伝子型によって異なることを利用し、遺伝子型の判別を行う。
図2の例は、対象遺伝子の野生型と変異型のそれぞれに対応した蛍光標識プローブを用いて、各微小区画内のDNAの融解温度を測定した結果を模式的に示した図である。ここで、蛍光標識プローブは、例えばモレキュラービーコンを用いることができ、以下モレキュラービーコンを例として、DNA検出方法を詳細に説明する。モレキュラービーコンは、検出対象遺伝子を増幅させるPCRに用いられるプライマーペアの間にある配列に相補的であって、両端に相補的な配列を有し、末端にはそれぞれ蛍光色素と消光色素(クエンチャー)が設けられているオリゴヌクレオチドである。モレキュラービーコンは、検出対象遺伝子とハイブリダイズすると、両末端にある蛍光色素と消光色素が離れて蛍光を発するが、温度上昇に伴って検出対象遺伝子から解離すると、両端の相補的な配列がハイブリダイズしてステムループ構造を形成し、蛍光色素と消光色素が近づいて蛍光色素が消光する。検出対象遺伝子の野生型アレルを含む微小区画201では、検出対象遺伝子の野生型アレルに対応した蛍光標識プローブがPCRにより増幅したDNAにハイブリダイズして蛍光を発し、野生型アレルの蛍光標識プローブに対応した融解温度が観察される。また、検出対象遺伝子の変異型アレルを含む微小区画202では、検出対象遺伝子の変異型アレルに対応した蛍光標識プローブがPCRにより増幅したDNAにハイブリダイズして蛍光を発し、変異型アレルの蛍光標識プローブに対応した融解温度が観察される。こうして、蛍光強度、蛍光の種類および融解温度で、野生型アレルを有する検出対象遺伝子の有無及び変異型アレルを有する検出対象遺伝子の有無を判断できる。微小区画内のPCRの反応効率は微小区画ごとに均一でないこと、蛍光測定時の平面内測定ばらつきが大きいことなどにより、検出対象遺伝子の野生型アレルを含む微小区画201と変異型アレルを含む微小区画202を蛍光強度によって判別するのが難しい場合がある。そのような場合おいても、DNAの融解温度はPCRの反応効率や蛍光測定時の平面内測定ばらつきに左右されないため、各蛍光標識プローブの検出対象遺伝子に対する融解温度(Tm)が異なるように蛍光標識プローブの配列を決めておき、微小区画内のDNAに対し、温度変化に伴う蛍光強度変化を測定し、融解曲線分析を行い、融解温度を比較することにより、より高精度な遺伝子検出が可能になる。
【0025】
このように、デジタルPCRでは、実験者が蛍光強度や融解温度の閾値を設定し、対象遺伝子を含まない空の微小区画をデータから排除したり、変異の種類ごとに微小区画の数をカウントしたりすることができる。しかしながら、デジタルPCRでは微小区画に入る対象遺伝子の数はポワソン分布に従うため、検体を希釈して、大部分が1区画に1分子の対象遺伝子が入っているか、入っていないかのいずれかであっても、一定の確率で1区画に2分子の対象遺伝子が入ることが生じる。検出対象遺伝子の野生型アレルと変異型アレルを1分子ずつ含む微小区画203は、検出対象遺伝子の野生型アレルおよび変異型アレルのそれぞれに対応した蛍光標識プローブがPCRにより増幅したDNAにハイブリダイ
ズして蛍光を発し、野生型アレルおよび変異型アレルに対応した融解温度の中間温度が観察される。しかし、各蛍光標識プローブの検出対象遺伝子に対する融解温度が十分離れていない場合、例えば、その差が10℃以下、好ましくは5℃以下、より好ましくは3℃以下、さらに好ましくは1℃以下であって、0℃より大きい場合、検出対象遺伝子の野生型アレルおよび変異型アレルの2つの融解曲線が合わさって1つの傾きの小さい融解曲線として観察されるため、融解温度を算出するための微分曲線が広がりの大きい形状となり、融解温度が定まりにくくばらつきが大きくなる。その結果、
図2に示すように、検出対象遺伝子の野生型アレルが含まれる微小区画201、変異型アレルが含まれる微小区画202のグラフ上での分布と、検出対象遺伝子の野生型アレルおよび変異型アレルが1分子ずつ含まれる微小区画203のグラフ上での分布が重なってしまい、その部分で、遺伝子の有無が判定できなくなって、測定精度が低下する要因となる。
【0026】
そこで、2種類の検出対象遺伝子が同一の微小区画に1分子ずつ入ると、融解曲線の傾きが小さくなり、融解曲線の所定値の傾きを有する2点の温度差が大きくなることを利用して、融解温度に加えて、融解曲線の微分曲線において、融解曲線の所定値の傾きを有する2点の温度差を算出する。そして、
図1に示すように、横軸を融解曲線の所定値の傾きを有する2点の温度差、縦軸を蛍光標識プローブとDNAの融解温度として計測結果をプロットすると、検出対象遺伝子の野生型アレルが含まれる微小区画201、変異型アレルが含まれる微小区画202、検出対象遺伝子の野生型アレルおよび変異型アレルが1分子ずつ含まれる微小区画203の分布をグラフ上で分離することができる。このとき、横軸に用いる値は、融解曲線や融解曲線の微分曲線の形状を示すものであればよいが、融解曲線の所定値の傾きを有する2点の温度差であることが好ましく、微分曲線の半値幅であることがさらに好ましい。融解曲線の形状を微小区画内で増幅した検出対象遺伝子の判別に用いることで、2種類の検出対象遺伝子が同じ微小区画に入った場合も確実に識別することができ、測定再現性および測定精度を向上させることができる。
【0027】
(2)DNA検出装置の主要な構成
本発明のDNA検出装置は、DNA溶液中の検出対象のDNAを検出するためのDNA検出装置であって、DNA溶液を加温するための加温部と、DNA溶液から放出される蛍光の強度を測定するための蛍光測定部と、DNA溶液の温度変化に伴う前記蛍光の強度の変化である融解曲線からDNA二重鎖の融解温度を算出し、融解曲線または融解曲線の微分曲線の形状を算出する計算部と、を備える。
【0028】
DNA溶液は、どのような担体にあってもよく、例えば、オイル中のドロップレットであってもよく、プレートなどのウェル内の溶液であってもよい。
図3に、DNA検出装置の一例として、ドロップレットまたはウェル中のDNA溶液が含む蛍光色素の色と蛍光強度を測定するための蛍光測定部を有するDNA検出装置を示すが、本発明のDNA検出装置はこれに限定されない。
【0029】
図3Aに示す蛍光測定部の例では、マイクロ流路を用いてドロップレットの蛍光強度を測定する。ドロップレット301がマイクロ流路303中を矢印の方向に流れている。ドロップレット302の位置までドロップレットが流れると、加温部(図示せず)によってドロップレットが加温されつつ、光源304により励起光がドロップレットに照射される。光源304によりドロップレットに含まれる蛍光物質が励起され、発する蛍光を蛍光フィルター305を通してフォトマルチプルメーター306で検出する。検出された蛍光データは、計算部(図示せず)に送られ、そこで蛍光標識プローブとDNAとの融解温度またはDNAの二重鎖の融解温度が算出される。光源304、蛍光フィルター305、フォトマルチプルメーター306で構成される蛍光測定部は、蛍光色素の色ごとに別々に設けてもよいし、
図3Aに示すように1つの光源の励起光で励起して2つの蛍光フィルターでそれぞれの蛍光を同時に検出する構成にしてもよい。
【0030】
また、
図3BおよびCのようにドロップレットを平面配置し、ドロップレットの蛍光色素の色と蛍光強度を測定してもよい。具体的には、例えば、ドロップレット311をドロップレット検出用カートリッジ310に平面配置し、加温部である温調ステージ312の上にセットする。温調装置312でドロップレット検出用カートリッジの温度を変化させ、温度変化に伴うドロップレットの蛍光強度を以下の手順で測定する。まず、光源304からレンズ308、フィルター305およびダイクロイックミラー309を通して、励起光をドロップレット検出用カートリッジ310に平面配置したドロップレット311に照射する。励起光によりドロップレットに含まれる蛍光物質が励起され、発する蛍光をダイクロイックミラー309、フィルター305、レンズ308を通してCCDカメラ307で検出する。検出された蛍光データは、計算部(図示せず)に送られ、そこで増幅産物の融解温度が算出される。
図3Aでは、ドロップレットを一つずつ処理する必要があるが、多数のドロップレットを一度に処理できるという点で、
図3BおよびCの装置が好ましい。また、
図3BおよびCの装置では、温調装置312をDNAの増幅反応にも用いることができる点でも、
図3Aより好適である。
【0031】
さらに、
図3Dのようにドロップレットの代わりにアレイ状に並んだウェルを用いて、1ウェルに1つか0の対象遺伝子が入るように検体を添加し、ウェル内でPCRを行ってウェルの蛍光色素の色と蛍光強度を測定してもよい。具体的には、例えば、ウェル方式検出用カートリッジ313に設けられたウェルに検体を含む反応液を添加後、ウェル内でPCRを行い、加温部である温調ステージ312の上にセットする。温調装置312でウェル方式検出用カートリッジの温度を変化させ、温度変化に伴うウェルの蛍光強度を以下の手順で測定する。まず、光源304からレンズ308、フィルター305およびダイクロイックミラー309を通して、励起光をウェル方式検出用カートリッジ313に平面配置したウェルに照射する。励起光によりウェル内の反応液に含まれる蛍光物質が励起され、発する蛍光をダイクロイックミラー309、フィルター305、レンズ308を通してCCDカメラ307で検出する。検出された蛍光データは、計算部(図示せず)に送られ、そこで増幅産物の融解温度が算出される。
図3Dのようにウェルを用いた場合、ドロップレットをドロップレット検出用カートリッジに平面配置する工程なしに、ウェル方式検出用カートリッジ内でPCRから融解曲線分析まで行える。
【0032】
本発明の一実施態様にかかるDNA検出装置は、検出対象のDNAを含有するDNA溶液をカートリッジ内にアレイ上に並んだウェルまたはオイル中に分散するドロップレットなどの微小区画に分割するサンプル分割部、及び/又は微小区画に対してDNAを増幅するための増幅部を含んでもよい。
【0033】
(3)融解曲線分析方法
図4Aは、
図2で述べたのと同様に、PCR増幅産物の融解温度(Tm)を用いて行うDNA検出方法を用いた場合で、計測した融解温度が重なり、各微小区画の検体溶液内の対象遺伝子の種類を判定できない場合がある測定結果の一例を示す模式図である。一方、
図4Bは
図1で述べたのと同様に、PCR増幅産物に対し、蛍光の強度の変化を示す融解曲線における所定値の傾きを有する2点の温度差と融解温度とを用いて行うDNA検出方法を用いたデジタルPCR測定結果の一例で、各微小区画の検体溶液内の対象遺伝子の種類をより精度高く判定できた測定結果の一例を示す模式図である。
図5および
図6は、
図4で検出対象遺伝子の種類を判定できなかった検体溶液に対し、溶液内で増幅したDNAの融解曲線分析を行った結果の一例を示す模式図である。
【0034】
図4Aに示すように、融解温度と低温時の蛍光強度により検体溶液内の検出対象遺伝子の遺伝子型判別を行うと、測定結果が検体溶液a404または検体溶液b405の位置にプロットされれば、融解温度の値から溶液a404が検出対象遺伝子の野生型遺伝子を含
み、検体溶液b405が検出対象遺伝子の変異型遺伝子を含むと分かる。しかし、検体溶液c406や検体溶液d407の位置に蛍光強度が観察されると、それらの検体溶液が検出対象遺伝子の変異型を含むかどうかは測定結果から判断することができない。
【0035】
そこで、DNAインターカレーターを用いて検体溶液内で増幅したDNAの融解温度を測定する際に、蛍光の強度の変化を示す融解曲線における所定値の傾きを有する2点の温度差も算出することによって、
図4Aで判別できなかった対象遺伝子の有無を判別することができるようになる。具体的な方法は、まず、DNAインターカレーター502をPCR反応液に添加して検体溶液を作製し、PCRなどの核酸増幅反応を行うと、室温程度の温度では検体溶液内で増幅した2本鎖DNA501にDNAインターカレーター502が結合し、強い蛍光を発する。その後、検体溶液の温度が上昇するにつれ、検体溶液内の2本鎖DNA501が解離して1本鎖DNA501となり、DNAインターカレーター502が結合しなくなるため、蛍光強度が減少する。このときの温度変化に対する蛍光強度変化をグラフにプロットした時の結果の一例を
図5に示す。なお、温度変化に対する蛍光強度変化の測定は、核酸増幅反応とは独立に(例えば、核酸増幅反応完了後に)、検体溶液を昇温させることによって行ってもよい。
【0036】
図5では、検体溶液a404の測定結果が
図5A、検体溶液b405の測定結果が
図5C、検体溶液c406の測定結果が
図5B、検体溶液d407の測定結果が
図5Dに示されている。さらに、
図5A~Dの蛍光強度変化を温度変化で微分するとそれぞれ
図5E~Hのようになり、蛍光強度変化の変極点となる温度が求められ、これがDNA二重鎖の融解温度として算出できる。
図4Aでは、検体溶液c406と検体溶液d407は検体溶液が対象遺伝子を含むのかどうか測定結果から判断することができないが、融解曲線の傾きが
図5Bは大きく、
図5Dは小さいために、融解曲線の微分曲線における、所定値の融解曲線の傾き(=-Δ蛍光強度/Δ温度)を有する2点の温度差が
図5Fは小さく、
図5Hは大きくなり、
図4Bのように所定値の融解曲線の傾きを有する2点の温度差を横軸に、融解温度を縦軸にプロットすると検体溶液c406は対象遺伝子の野生型を含み、検体溶液d407は野生型と変異型の両方を含む溶液だと判断できる。
【0037】
なお、対象遺伝子の融解温度は、プライマーの設計を変えることでPCR増幅産物の配列や配列の鎖長に依存して制御することができる。
【0038】
ここで用いるDNAインターカレーターは、2本鎖DNAと結合することによって蛍光強度が増加し、2本鎖DNAの検出に用いることのできるインターカレーターであれば適用できる。具体的には、SYBR(登録商標) Green IやSYBR Gold、PicoGreen(登録商標)、SYTO(登録商標) Blue、SYTO Green、SYTO Orange、SYTO Red、POPO(登録商標)-1、BOBO(登録商標)-1、YOYO(登録商標)-1、TOTO(登録商標)-1、JOJO(登録商標)-1、POPO-3、LOLO(登録商標)-1、BOBO-3、YOYO-3、TOTO-3、PO-Pro(登録商標)-1、YO-Pro(登録商標)-1、TO-Pro(登録商標)-1、JO-Pro(登録商標)-1、PO-Pro-3、YO-Pro-3、TO-Pro-3、TO-Pro-5、エチジウムブロマイドなどが適用可能である。DNAインターカレーターが熱耐性である場合、PCR反応を行う前からウェルまたはドロップレットに添加しておくことができる。
【0039】
図6に示すように、本方法で、DNAインターカレーターの代わりとして、蛍光標識プローブを用いることもできる。蛍光標識プローブは、両端またはその近傍に蛍光色素とそのクエンチャーを有し、両端周辺の配列が相補的になっており、モレキュラービーコンのようなステムループ構造を形成する一方、ループ部分の配列が検出対象遺伝子と相補的になっており、検出対象遺伝子にハイブリダイズできるような構造を有するように設計する
。蛍光標識プローブ602は、単独で遊離して存在するとき、ステムループを形成し、蛍光色素603とクエンチャー604が近接しているため、蛍光は発しない。蛍光標識プローブ602をPCR反応が終了した検体溶液に添加すると、室温程度の温度では検体溶液に内で増幅したDNA601に蛍光標識プローブ602のループ部分がアニールし、蛍光色素603とクエンチャー604が離れるため、蛍光標識プローブ602は強い蛍光を発する。その後、検体溶液を加熱すると、DNA601と蛍光標識プローブ602が解離し、蛍光標識プローブ602内でステムループが形成するため蛍光標識プローブ602からの蛍光強度が低下する。さらに検体溶液を加熱すると、蛍光標識プローブ602のステムループも解離するため、蛍光強度が再度増加する。このときの温度変化に対する蛍光強度変化をグラフにプロットした時の結果の一例を
図6に示す。なお、この蛍光標識プローブは、PCRのための蛍光標識プローブと共用してもよいが、PCRのための蛍光標識プローブとは別のプローブを作製して用いてもよい。また、温度変化に対する蛍光強度変化の測定は、核酸増幅反応の中で行ってもよく、核酸増幅反応とは独立に(例えば、核酸増幅反応完了後に)、検体溶液を昇温させることによって行ってもよい。
【0040】
図6では、検体溶液a404の測定結果が
図6A、検体溶液b405の測定結果が
図6C、検体溶液c406の測定結果が
図6B、検体溶液d407の測定結果が
図6Dのようになる。さらに、
図6A~Dの蛍光強度変化を温度変化で微分するとそれぞれ
図6E~Hのようになり、蛍光強度変化の変極点となる温度が求められ、これが検出対象遺伝子を検出するための蛍光標識プローブとDNAの融解温度となる。
図4Aでは、検体溶液c406と検体溶液d407は検体溶液が検出対象遺伝子を含むのかどうか測定結果から判断することができなかったが、融解曲線の傾きが
図6Bは大きく、
図6Dは小さいために、所定値の融解曲線の傾きを有する2点の温度差が
図6Fは小さく、
図6Hは大きくなり、
図4Bのように所定値の融解曲線の傾きを有する2点の温度差を横軸に、融解温度を縦軸にプロットすると検体溶液c406は対象遺伝子の野生型を含み、検体溶液d407は野生型と変異型の両方を含む溶液だと判断できる。
なお、検出対象遺伝子を検出するための蛍光標識プローブの融解温度は、プローブの配列や鎖長を変えることで制御することができる。また、Peptide Nucleic
Acid(PNA)やLocked Nucleic Acid(LNA)のような人工DNAを利用することで、融解温度を制御することができる。蛍光標識プローブの設計によっては検出対象遺伝子の野生型と変異型の融解温度が大きく異なるために、
図6Dのようになだらかな融解曲線にならず、2段階で蛍光強度が減少し、微分曲線を求めると
図6Eのピークと
図6Gのピークの両方が観察されることもある。その場合は、野生型と変異型の融解温度の両方が得られるため、融解温度によって各微小区画の検体溶液内のDNAの種類を判別できる。
【0041】
ここで用いる蛍光標識プローブ602の蛍光色素603とクエンチャー604の組み合わせは、一般的にリアルタイムPCRに用いられている組み合わせであれば特に限定されず、蛍光色素603がFAM、VIC、ROX、Cy3、Cy5など、クエンチャー604がTAMRA、BHQ1、BHQ2、BHQ3などが例示できる。
【0042】
蛍光標識プローブ602が認識する配列は、検出対象遺伝子と同じ遺伝子上にあっても、異なる遺伝子上にあってもよく、検出対象の遺伝子と1塩基だけ異なる配列を有する遺伝子、例えば同じ遺伝子の野生型と変異型であってもよい。一例として、肺がんの遺伝子検査を行う場合であれば、分子標的薬の効果を予測するため、ALK融合遺伝子とEGFR遺伝子変異の有無を判定する。その時、ALK融合遺伝子とEGFR遺伝子の各々を認識する配列であってもよいし、EGFRのL858R変異型とその野生型を認識する配列であってもよい。
【0043】
(4)融解温度測定方法
図3Bの装置と
図3Dのウェルを備えたカートリッジ、及びDNAインターカレーターまたはモレキュラービーコンを用いて融解温度測定を行う方法の一例を、
図7のフローチャートを参考にしながら説明する。まず、DNAを含む生体試料由来の検体溶液を、DNAポリメラーゼ、プライマー、DNAインターカレーターまたはモレキュラービーコン、デオキシリボヌクレオチド類、緩衝液を含むPCR反応液に添加する(S701)。このPCR反応液をカートリッジ313内にアレイ上に並んだウェルに分割する(S702)。カートリッジ313をサーマルサイクラーにセットし、サーマルサイクラーの温度制御によりPCRを行う(S703)。変性工程、伸長工程、アニーリング工程のサイクルを繰り返すことで、DNAが増幅するとともに、DNAインターカレーターの場合は増幅したDNAにインターカレートし、モレキュラービーコンの場合は増幅したDNAにハイブリダイズすることによって、蛍光強度が高くなる。各工程の温度や時間、サイクル数などの反応条件は、当業者が容易に設定することができる。PCR後、温度を室温へと下げると合成したDNAは2本鎖を形成する。
【0044】
PCR後、カートリッジ313をDNA検出装置の温調装置312上に置き、温調装置312によりカートリッジ313を温度変化させながら、蛍光測定部(
図3A)が、各ウェルのDNAインターカレーターまたはモレキュラービーコンからの蛍光強度を測定し、得られた蛍光データを、計算部(図示せず)に送る。
【0045】
計算部は、その蛍光データをもとに融解曲線を作成し(S704)、その融解曲線を用いて融解温度を算出する(S705)。さらに、融解曲線の微分曲線を作成し、所定値の融解曲線の傾きを有する2点の温度差を算出する(S706)。蛍光強度が閾値以上のウェルをポジティブ(DNA有)、蛍光強度が閾値以下のウェルをネガティブ(DNA無)として、ウェル内のDNAの有無を判別する(S707)。ポジティブと判別されたウェルに対して、融解温度と、所定値の融解曲線の傾きを有する2点の温度差とからウェル内のDNAの種類を判別する(S708)。最後に、カートリッジ内の対象遺伝子の数を計測し、モニターに表示する。
【0046】
温度変化に伴うウェルの蛍光強度変化を観察する際は、カートリッジ313を置く温調装置312の下に傾斜調整部(図示せず)を設けてもよい。傾斜調整部は、温調装置312による温度によってカートリッジ313内に発生した気泡を除去する。これは、その後、温調装置312により試料の温度を下降させながら各ウェルの蛍光強度を計測する際、気泡によって蛍光画像が取得できなくなるのを防ぐ。
【0047】
各ウェルのDNAがポジティブかネガティブかの判定においては、蛍光強度の情報が利用されるが、この際、例えば、融解温度よりも低温な温度での蛍光強度と、融解温度よりも高温な温度での蛍光強度との比あるいは差を用いることで、蛍光強度を標準化することができる。例えば、50℃での蛍光強度から85℃での蛍光強度を減算することにより、蛍光標識プローブ自体の蛍光の影響、すなわち、バックグラウンドの影響を除去することができる。
【0048】
なお、所定の蛍光強度の閾値、融解温度の所定の範囲、および所定値の融解曲線の傾きを有する2点の温度差の閾値は、あらかじめパイロット実験などを行い、その結果から統計的に作業者が決めてもよく、自動的に決まるようにしてもよい。また、デジタルPCR測定のたび、カートリッジ内の各ウェルの測定データを用いて統計的に蛍光強度の閾値および融解温度の所定の範囲を決めてもよい。
【0049】
ウェル内のDNAの判別を統計的に行うためのデータには、次のような項目が含まれてもよい:融解温度よりも低温な温度での蛍光強度、融解温度よりも高温な温度での蛍光強度、融解温度よりも高温な温度での蛍光強度に対する融解温度よりも低温な温度での蛍光
強度の比、融解温度よりも低温な温度での蛍光強度と融解温度よりも高温な温度での蛍光強度との差、融解温度、融解曲線の形状を表す特徴量など。
【0050】
用いる検体溶液は特に限定されないが、検出対象のDNAを含む試料であればよく、動植物の体液や組織、細胞、排泄物などの生体試料や、土壌サンプルなど真菌や細菌などが含まれる試料が例示できる。体液としては血液、唾液、髄液などが例示でき、血液中には存在するセルフリーDNA(cfDNA)や血中循環腫瘍DNA(ctDNA)が含まれる。組織としては、外科手術や生検法によって得られた疾患の患部(例えば、乳房や肝臓などのがん組織)が例示できる。すでに固定された組織でもよく、例えばホルマリン固定パラフィン包埋組織切片(FFPE)でもよい。細胞としては、生検法によって採取した患部またはその付近の細胞や、血液中を循環する血中循環腫瘍細胞などが例示できる。これらの検体の前処理は特に限定されず、生体や環境などから採取後、懸濁液に添加してホモジネートしたり、あるいは溶解液で溶解させたりしたものをそのまま用いてもよいが、それらに含まれる核酸を抽出したり、精製したものを用いることが好ましい。
【0051】
ウェルに分割したPCR反応液がPCRおよび融解曲線分析の計測中に蒸発しないように、PCR反応液の上面にオイルを添加することが望ましい。オイルはPCR反応液に不溶性もしくは難溶性である化学的に不活性な物質であり、また、PCRのような高温での温度変化に対して安定である物質が好ましく、フッ素系オイル、シリコーン系オイル、炭化水素系オイルなどが使用可能である。フッ素系オイルとしては、例えばPerfluorocarbonやHydrofluoroetherなどが挙げられる。フッ素系オイルは、炭素鎖が長いほうが揮発性が低いので好ましい。シリコーン系オイルとしては、例えばPolyphenylmethylsiloxaneやTrimethylsiloxysilicateなどが挙げられる。炭化水素系オイルとしては、例えばミネラルオイルや流動パラフィン、ヘキサデカンなどが挙げられる。このオイルは、界面活性剤を添加して用いてもよい。ここで界面活性剤の種類は特に限定されないが、Tween 20、Tween 80、Span80、Triton X-100などが適用可能である。
【0052】
(5)結果の表示
図8および
図9は、モニターに表示される測定結果のイメージの一例である。
図8に示すように、がん関連遺伝子の種類や変異の種類ごとにカウントされた検体溶液の数が表示されてもよいし、
図9に示すように、がん関連遺伝子の種類や変異の種類ごとにカウントされた検体溶液の割合が表示されてもよい。モニターに表示される結果は、
図8や
図9のような検体溶液の数や割合だけでなく、
図1のような所定値の融解曲線の傾きを有する2点の温度差、融解温度の2軸で検体溶液の計測値をプロットしたグラフを含んでいてもよい。また、蛍光標識プローブの蛍光強度または融解温度に対する検体溶液の数をプロットしたヒストグラムを含んでいてもよい。ユーザーがそのグラフやヒストグラムを見て、蛍光標識プローブの蛍光強度や融解温度の範囲および/または所定値の融解曲線の傾きを有する2点の温度差の範囲の設定を変えて、蛍光強度の範囲内及び融解温度の範囲内にある検体溶液の数を再度カウントすることもできる。
【0053】
なお、上述したように、検体溶液はウェルやドロップレット中の溶液として扱われるので、検体溶液数の代わりに、ウェル数やドロップレット数として表されてもよい。
【0054】
(6)プログラム
本発明の一実施態様は、DNA検出装置に、DNA検出方法を行わせるためのプログラムである。ここでDNA検出装置は、(2)で詳述した装置を用い、DNA検出方法として、(1)で詳述した方法を実行する。
【0055】
また、このプログラムを格納する記録媒体も、本発明の実施形態の一つである。
【実施例】
【0056】
本実施例では、蛍光標識プローブを用いて、ウェル内のDNAの融解温度を測定した結果を示す。
【0057】
まず、KRAS遺伝子の野生型およびG13D変異型のゲノムDNA(最終濃度133分子/μL)を用意し、PCRに必要となるフォワードプライマー(最終濃度0.25μM)、リバースプライマー(最終濃度2.0μM),野生型に対応した蛍光標識プローブ(最終濃度0.5μM)、G13D変異型に対応した蛍光標識プローブ(最終濃度0.5μM)、及び1xマスターミックス(DNAポリメラーゼ,dNTPを含む)を加え、PCR反応液を調製した。このとき、蛍光標識プローブの相補DNA鎖が過剰に増幅するようにプライマーペアの濃度は非対称になるように添加した。プライマー及びプローブの配列は以下のとおりである。なお、蛍光標識プローブはいずれも、両端近くに相補的な配列を有し、それらが分子内で二重鎖を形成するように設計されている。また、5’末端に蛍光色素としてHEX、3’末端にクエンチャーとしてBHQ-1が結合している。
【0058】
フォワードプライマー:5'‐GTCACATTTTCATTATTTTTATTATAAGG‐3' (配列番号1)
リバースプライマー:5'‐GTATCGTCAAGGCACTCTTGCC‐3' (配列番号2)
野生型に対応した蛍光標識プローブ:5'‐TTGGAGCTGGTGGCGT‐3' (配列番号3)
変異型に対応した蛍光標識プローブ:5'‐CTGGTGACGTAGGCA‐3' (配列番号4)
その後、各ウェルに対し、KRAS遺伝子の野生型またはG13D変異型のDNAのいずれかが1個入るか、どちらも入らないようにするため、15μLのPCR反応液を入れて、PCRによりDNAを増幅した。PCRの反応は,96℃、10分処理後、(60℃,2分→98℃,30秒)を59サイクル行い、最後に60℃、2分処理をした。反応後、ウェルが設けられたチップを温調ステージ上で85℃から50℃に冷却しながら各ウェルの蛍光強度変化を観察し、融解曲線の測定および解析を行った。
【0059】
図10Aは、KRAS遺伝子の野生型とG13D変異型が等量混合された検体を測定した際の結果を、50℃の蛍光強度を横軸に、融解温度を縦軸にプロットしたものである。融解温度の違いにより2つの分布に分かれ、69℃付近に分布をもつ集団1001が野生型のみを含むウェル、63℃付近に分布をもつ集団1003が変異型のみを含むウェルである。融解温度が63℃から69℃の間に広くばらついて観察されている点1002が野生型とG13D変異型が1コピーずつ入ったウェルである。
【0060】
図10Aの融解温度によって分けられた1001、1002、1003に含まれる各ウェルの融解曲線をそれぞれ
図10B~Dに示し、融解曲線の微分曲線を
図10E~Gに示す。野生型のみを含むウェルおよびG13D変異型のみを含むウェルは、
図10BおよびDに示すように、融解曲線の傾きが大きく、
図10EおよびGに示すように微分曲線の半値幅も小さい。一方、野生型とG13D変異型が1コピーずつ入ったウェルは、
図10Cに示すように、融解曲線の傾きが小さく、微分曲線の半値幅も大きいことが分かる。
【0061】
図10Hは、KRAS遺伝子の野生型とG13D変異型が等量混合された検体を測定した際の結果を、融解曲線の微分曲線の半値幅を横軸に、融解温度を縦軸にプロットしたものである。融解曲線の微分曲線の半値幅を横軸に用いた結果、KRAS遺伝子を1種類含むウェルと2種類含むウェルの横軸方向の分布が異なることから、野生型のみを含むウェル、G13D変異型のみを含むウェル、野生型とG13D変異型の2種類を含むウェルの集団を明確に判別できる。
【0062】
このように、融解曲線の傾きや融解曲線の微分曲線の半値幅をウェル内のDNAの種類の判別に用いることで、蛍光強度と融解温度だけではプロットが重なって分けられない、
野生型と変異型が1コピーずつ入ったウェルを判別でき、測定再現性および測定精度の向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0063】
101 野生型の遺伝子を含む微小区画
102 変異型の遺伝子を含む微小区画
103 野生型および変異型の遺伝子を含む微小区画
201 野生型の遺伝子を含む微小区画
202 変異型の遺伝子を含む微小区画
203 野生型および変異型の遺伝子を含む微小区画
301 対象遺伝子を含むドロップレット
302 対象遺伝子を含まないドロップレット
303 マイクロ流路
304 光源
305 フィルター
306 フォトマルチプルメーター
307 CCD
308 レンズ
309 ダイクロイックミラー
310 ドロップレット検出用カートリッジ
311 ドロップレット
312 温調装置
313 ウェル方式検出用カートリッジ
314 対象遺伝子を含むウェル
315 対象遺伝子を含まないウェル
401 野生型の遺伝子を含む微小区画
402 変異型の遺伝子を含む微小区画
403 野生型および変異型の遺伝子を含む微小区画
404 微小区画a
405 微小区画b
406 微小区画c
407 微小区画d
501 DNA
502 DNAインターカレーター
503 融解温度
601 DNA
602 蛍光標識プローブ
603 蛍光色素
604 クエンチャー
605 融解温度
1001 野生型のみを含むウェル
1002 野生型と変異型が1コピーずつ入ったウェル
1003 変異型のみを含むウェル
【配列表】