(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】焼却炉の制御装置、及び焼却炉の制御方法
(51)【国際特許分類】
F23G 5/50 20060101AFI20240828BHJP
【FI】
F23G5/50 Z
F23G5/50 G ZAB
F23G5/50 H
(21)【出願番号】P 2023145149
(22)【出願日】2023-09-07
【審査請求日】2024-04-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000192590
【氏名又は名称】株式会社神鋼環境ソリューション
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】福川 宙季
(72)【発明者】
【氏名】奥住 宣裕
【審査官】柳本 幸雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-188813(JP,A)
【文献】特開2023-59470(JP,A)
【文献】特開2005-242524(JP,A)
【文献】特開2000-46323(JP,A)
【文献】特開2019-207048(JP,A)
【文献】特開2021-173497(JP,A)
【文献】特開2001-289401(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23G 5/50
F22B 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被焼却物を燃焼する焼却炉からの熱を利用してボイラを運転する焼却炉の制御装置であって、
前記焼却炉のプロセスデータを取得するプロセスデータ取得部と、
前記焼却炉の運転状態データを取得する運転状態情報取得部と、
前記プロセスデータ及び前記運転状態データを順次、記憶する記憶部と、
前記ボイラから所定の第1時間後に排出される蒸気の量の予測値として、前記記憶部に記憶されている前記プロセスデータ及び前記運転状態データに基づいて、所定の期間に亘る短期変動予測蒸気量を算定し、前記ボイラから所定の第2時間後に排出される蒸気の量の予測値として、前記記憶部に記憶されている前記プロセスデータ及び前記運転状態データに基づいて、前記所定の期間よりも長い期間に亘る長期変動予測蒸気量を算定する予測蒸気量算定部と、
前記短期変動予測蒸気量に基づいて、短期制御対象量を制御する短期制御部と、
前記長期変動予測蒸気量に基づいて、長期制御対象量を制御する長期制御部と、
を備える焼却炉の制御装置。
【請求項2】
前記短期制御対象量は、前記焼却炉に供給する空気の量であり、
前記長期制御対象量は、前記焼却炉に供給する前記被焼却物の量である請求項1に記載の焼却炉の制御装置。
【請求項3】
前記長期制御部及び前記短期制御部は、前記ボイラから排出される前記蒸気の量の変動量が予め設定された変動量以下となるように、前記短期制御対象量及び前記長期制御対象量を制御する請求項2に記載の焼却炉の制御装置。
【請求項4】
前記短期制御部は、前記ボイラから排出される蒸気の量の実測値と前記ボイラから排出される蒸気の量の設定値とに応じて算定された前記焼却炉に供給する空気の量を、前記短期変動予測蒸気量に基づいて補正し、
前記長期制御部は、前記ボイラから排出される蒸気の量の実測値と前記ボイラから排出される蒸気の量の設定値とに応じて算定された前記焼却炉に供給する前記被焼却物の量を、前記長期変動予測蒸気量に基づいて補正する請求項3に記載の焼却炉の制御装置。
【請求項5】
前記短期制御部は、前記短期変動予測蒸気量が予め設定された量を下回る場合は、前記長期変動予測蒸気量にかかわらず、前記焼却炉に前記被焼却物を強制的に供給する請求項2から4のいずれか一項に記載の焼却炉の制御装置。
【請求項6】
被焼却物を燃焼する焼却炉からの熱を利用してボイラを運転する焼却炉の制御方法であって、
前記焼却炉のプロセスデータを取得するプロセスデータ取得ステップと、
前記焼却炉の運転状態データを取得する運転状態情報取得ステップと、
前記プロセスデータ及び前記運転状態データを順次、記憶部に記憶する記憶ステップと、
前記ボイラから所定の第1時間後に排出される蒸気の量の予測値として、前記記憶部に記憶されている前記プロセスデータ及び前記運転状態データに基づいて、所定の期間に亘る短期変動予測蒸気量を算定し、前記ボイラから所定の第2時間後に排出される蒸気の量の予測値として、前記記憶部に記憶されている前記プロセスデータ及び前記運転状態データに基づいて、前記所定の期間よりも長い期間に亘る長期変動予測蒸気量を算定する予測蒸気量算定ステップと、
前記短期変動予測蒸気量に基づいて、短期制御対象量を制御する短期制御ステップと、
前記長期変動予測蒸気量に基づいて、長期制御対象量を制御する長期制御ステップと、
を含む焼却炉の制御方法。
【請求項7】
前記短期制御対象量は、前記焼却炉に供給する空気の量であり、
前記長期制御対象量は、前記焼却炉に供給する前記被焼却物の量である請求項6に記載の焼却炉の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被焼却物を燃焼する焼却炉からの熱を利用してボイラを運転する焼却炉の制御装置、及び焼却炉の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、焼却炉において被焼却物(例えばごみ)を燃焼した際に生じる熱を利用してボイラで蒸気を生成し、この蒸気により蒸気タービン発電機を回転させて発電する発電システムが利用されている。ボイラで生成される単位時間当たりの蒸気の量(以下「蒸気流量」とも称する)は、被焼却物の供給量や、被焼却物の質によって変動する。発電システムにおいて、発電量の変動を抑制するには、ボイラから排出される蒸気流量の変動を抑制する必要がある。このようなボイラから排出される蒸気流量の変動を抑制するための技術として、例えば下記に出典を示す特許文献1に記載のものがある。
【0003】
特許文献1には、ごみの燃焼制御を行う制御装置について記載されている。この制御装置は、蒸気流量予測部と、制御部とを備えている。蒸気流量予測部は複数の予測モデルを用いて、60秒後、120秒後、180秒後の蒸気流量を予測する。制御部は、蒸気流量の将来的な予測値が予め設定された下限閾値を下回る場合に燃焼を促進するように燃焼制御し、当該予測値が予め設定された上限閾値を上回る場合に燃焼を抑制するように燃焼制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ボイラにおいて、蒸気流量が設定値から逸脱する原因として、燃焼空間への空気の過剰供給や供給不足が挙げられる。また、燃料(特許文献1ではごみ)が過剰供給や供給不足であっても、蒸気流量が設定値から逸脱する原因となり得る。燃焼炉では、燃焼状態が時々刻々と変化するので、制御遅れが生じて、燃焼状態に応じた最適な制御を行うことができず、蒸気流量が下限閾値を下回るアンダーシュートや、上限閾値を上回るオーバーシュートが生じる可能性がある。
【0006】
そこで、ボイラから排出される蒸気の量を適切に制御することが可能な技術が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る焼却炉の制御装置の特徴構成は、被焼却物を燃焼する焼却炉からの熱を利用してボイラを運転する焼却炉の制御装置であって、前記焼却炉のプロセスデータを取得するプロセスデータ取得部と、前記焼却炉の運転状態データを取得する運転状態情報取得部と、前記プロセスデータ及び前記運転状態データを順次、記憶する記憶部と、前記ボイラから所定の第1時間後に排出される蒸気の量の予測値として、前記記憶部に記憶されている前記プロセスデータ及び前記運転状態データに基づいて、所定の期間に亘る短期変動予測蒸気量を算定し、前記ボイラから所定の第2時間後に排出される蒸気の量の予測値として、前記記憶部に記憶されている前記プロセスデータ及び前記運転状態データに基づいて、前記所定の期間よりも長い期間に亘る長期変動予測蒸気量を算定する予測蒸気量算定部と、前記短期変動予測蒸気量に基づいて、短期制御対象量を制御する短期制御部と、前記長期変動予測蒸気量に基づいて、長期制御対象量を制御する長期制御部と、を備えている点にある。
【0008】
このような特徴構成とすれば、記憶部に記憶されているプロセスデータ及び運転状態データに基づいて所定時間後の蒸気の量を予測し、この予測した結果に基づいて制御を行うことで、蒸気の量の変動を低減することが可能となる。さらに、本構成では短期変動予測蒸気量と長期変動予測蒸気量とを区分して算定しているため、蒸気の流量が設定値から逸脱する原因に応じて最適な制御を実現できる。したがって、ボイラから排出される蒸気流量を適切に制御することが可能となる。
【0009】
また、前記短期制御対象量は、前記焼却炉に供給する空気の量であり、前記長期制御対象量は、前記焼却炉に供給する前記被焼却物の量であると好適である。
【0010】
このような構成とすれば、短期変動予測蒸気量に基づいて焼却炉に供給する単位時間当たりの空気の量(「空気流量」と称することも可能である)を制御し、長期変動予測蒸気量に基づいて焼却炉に供給する単位時間当たりの被焼却物の量(「被焼却物供給量」と称することも可能である)を制御することが可能となる。その結果、蒸気の流量が設定値から逸脱する原因に応じて最適な制御を実現できる。
【0011】
また、前記長期制御部及び前記短期制御部は、前記ボイラから排出される前記蒸気の量の変動量が予め設定された変動量以下となるように、前記短期制御対象量及び前記長期制御対象量を制御すると好適である。
【0012】
このような構成とすれば、焼却炉に供給する空気の量と焼却炉に供給する被焼却物の量とに基づいて、ボイラから排出される蒸気の量の変動量を所定の変動量以下にできるので、ボイラから排出される蒸気の量を適切に制御することが可能となる。
【0013】
また、前記短期制御部は、前記ボイラから排出される蒸気の量の実測値と前記ボイラから排出される蒸気の量の設定値とに応じて算定された前記焼却炉に供給する空気の量を、前記短期変動予測蒸気量に基づいて補正し、前記長期制御部は、前記ボイラから排出される蒸気の量の実測値と前記ボイラから排出される蒸気の量の設定値とに応じて算定された前記焼却炉に供給する前記被焼却物の量を、前記長期変動予測蒸気量に基づいて補正すると好適である。
【0014】
このような構成とすれば、ボイラから排出される蒸気の量の実測値とボイラから排出される蒸気の量の設定値とに応じて焼却炉に供給する空気の量を単純にフィードバック制御する場合に比べて、短期変動予測蒸気量に基づいて補正することにより、ボイラから排出される蒸気の量の変動量を制御遅れなく所定の変動量以下に制御することができる。また、ボイラから排出される蒸気の量の実測値とボイラから排出される蒸気の量の設定値とに応じて焼却炉に供給する被焼却物の量を単純にフィードバック制御する場合に比べて、長期変動予測蒸気量に基づいて補正することにより、ボイラから排出される蒸気の量の変動量を制御遅れなく所定の変動量以下に制御することができる。
【0015】
また、前記短期制御部は、前記短期変動予測蒸気量が予め設定された量を下回る場合は、前記長期変動予測蒸気量にかかわらず、前記焼却炉に前記被焼却物を強制的に供給すると好適である。
【0016】
このような構成とすれば、被焼却物の燃焼により生じる熱量を増大させて、ボイラから排出される蒸気の量を増大させることが可能となる。その結果、ボイラから排出される蒸気量が不足する事態を回避できる。
【0017】
また、本発明に係る焼却炉の制御方法の特徴構成は、被焼却物を燃焼する焼却炉からの熱を利用してボイラを運転する焼却炉の制御方法であって、前記焼却炉のプロセスデータを取得するプロセスデータ取得ステップと、前記焼却炉の運転状態データを取得する運転状態情報取得ステップと、前記プロセスデータ及び前記運転状態データを順次、記憶部に記憶する記憶ステップと、前記ボイラから所定の第1時間後に排出される蒸気の量の予測値として、前記記憶部に記憶されている前記プロセスデータ及び前記運転状態データに基づいて、所定の期間に亘る短期変動予測蒸気量を算定し、前記ボイラから所定の第2時間後に排出される蒸気の量の予測値として、前記記憶部に記憶されている前記プロセスデータ及び前記運転状態データに基づいて、前記所定の期間よりも長い期間に亘る長期変動予測蒸気量を算定する予測蒸気量算定ステップと、前記短期変動予測蒸気量に基づいて、短期制御対象量を制御する短期制御ステップと、前記長期変動予測蒸気量に基づいて、長期制御対象量を制御する長期制御ステップと、を含む点にある。
【0018】
このような特徴構成とすれば、プロセスデータ及び運転状態データに基づいて所定時間後の蒸気の量を予測し、この予測した結果に基づいて制御を行うことで、蒸気の量の変動を低減することが可能となる。さらに、本方法では短期変動予測蒸気量と長期変動予測蒸気量とを区分して算定しているため、蒸気の流量が設定値から逸脱する原因に応じて最適な制御を実現できる。したがって、ボイラから排出される蒸気の量を適切に制御することが可能となる。
【0019】
また、前記短期制御対象量は、前記焼却炉に供給する空気の量であり、前記長期制御対象量は、前記焼却炉に供給する前記被焼却物の量であると好適である。
【0020】
このような構成とすれば、短期変動予測蒸気量に基づいて焼却炉に供給する空気の量を制御し、長期変動予測蒸気量に基づいて焼却炉に供給する被焼却物の量を制御することが可能となる。その結果、蒸気の流量が設定値から逸脱する原因に応じて最適な制御を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図3】記憶部に記憶されるプロセスデータの一例である。
【
図4】短期変動予測蒸気量の算定前に行われる前処理について示す図である。
【
図7】短期変動予測蒸気量及び長期変動予測蒸気量の算定の説明図である。
【
図8】ボイラから排出される蒸気流量と、短期変動予測蒸気量との比較結果の一例を示す図である。
【
図9】ボイラから排出される蒸気流量と、長期変動予測蒸気量との比較結果の一例を示す図である。
【
図10】短期制御部及び長期制御部による制御を示す図である。
【
図11】制御装置により制御を行った場合におけるボイラからの蒸気流量の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係る焼却炉の制御装置は、被焼却物を燃焼する焼却炉からの熱を利用してボイラを運転する焼却炉を制御することができるように構成されている。以下、本実施形態の焼却炉の制御装置(以下「制御装置」とする)100について説明する。ただし、制御装置100は、以下の実施形態に限定されることなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。
【0023】
図1は、
図2に示される制御装置100により制御される焼却炉10からの熱に基づいて運転されるボイラ20からの蒸気を用いて発電する発電システム1である。
図1に示されるように、発電システム1は、焼却炉10と、ボイラ20と、蒸気タービン発電機30、煙突40とを備えている。
【0024】
本実施形態では、焼却炉10は、炉本体11が円筒状に形成され、軸心を回転中心として回転する回転ストーカ式焼却炉として構成されている。炉本体11には、上流側に被焼却物Wの入口11aが設けられ、下流側に被焼却物Wの出口11bが設けられている。炉本体11は、入口11aが出口11bよりも高くなるように軸心が水平方向に対して傾斜している。炉本体11は例えば炭素鋼等の金属を用いて形成される。なお、被焼却物Wとは、例えば汚泥やごみ等が相当する。
【0025】
炉本体11は、カバーケーシング12に収容されている。炉本体11には、軸方向に沿って延出する複数の水管13が、周方向に所定の間隔を有して設けられる。周方向に沿って互いに隣接する2つの水管13に亘って、軸方向に沿って延出する金属製のフィン14が設けられる。したがって、水管13とフィン14とは、周方向に沿って交互に並んで設けられる。フィン14には、径方向に貫通する気孔15が複数、設けられている。このような水管13とフィン14とで火格子が構成される。
【0026】
炉本体11には、炉本体11の入口11a側及び出口11b側に回転伝達部材(図示せず)が設けられており、この回転伝達部材は、駆動装置(図示せず)により、軸心を回転中心として回転可能に構成される。炉本体11は、この回転に応じて回転する。
【0027】
炉本体11の入口11a側には、ホッパ5が設けられている。ホッパ5に投入された被焼却物Wは、給じん装置6により炉本体11に供給される。本実施形態では給じん装置6はプッシャ式である。
【0028】
炉本体11の下側には、カバーケーシング12の下端に連通する複数の風箱25が設けられている。風箱25に供給された一次気体(例えば空気)は、炉本体11の下部から気孔15を介して炉本体11の内部に導入される。炉本体11への一次気体の供給量及び炉本体11における各燃焼エリアへの一次気体の供給割合は、押込送風機の回転数やダンパ等の流量調整装置(図示せず)を用いて調整することが可能である。一次気体の供給量及び炉本体11における各燃焼エリアへの一次気体の供給割合は、例えば、炉本体11内の被焼却物Wの成分や、量や、分布状態に応じて、変更可能に構成されている。
【0029】
被焼却物Wは、焼却炉10が低速回転している間に炉本体11内に供給される。炉本体11に供給された被焼却物Wは、炉本体11の回転に応じて攪拌されながら、徐々に下流側に移動する。また、被焼却物Wが炉本体11内を移動している間に、一次気体が風箱25から炉本体11に導入される。一次気体の供給量は、被焼却物Wの緩慢燃焼が維持される程度の量に設定すると好適である。緩慢燃焼時には未燃ガスが生じるが、この未燃ガスは、炉本体11の下流側に設けられた二次燃焼室27に導入される。二次燃焼室27には、未燃ガスと共に、例えば空気等の二次気体が供給される。これにより、未燃ガスが燃焼される。また、炉本体11から排出された被焼却物Wの灰に含まれる未燃焼成分は、後燃焼ストーカ28において燃焼される。
【0030】
ボイラ20は、二次燃焼室27よりも上側に、二次燃焼室27と連結されて設けられ、炉内、後燃焼室29、二次燃焼室27から排出される排ガスの熱を利用して蒸気を発生させる。ボイラ20には、給水装置8より水が供給され、排ガスとの熱交換により蒸気が発生する。
【0031】
蒸気タービン発電機30は、ボイラ20が発生させた蒸気が供給され、蒸気によってタービンを回して発電を行う。ボイラ20にて熱が回収された排ガスは、冷却処理やボイラ20と煙突40の間の排ガスルート上に設けられた除塵装置による除塵処理が行われてから煙突40を介して系外に排出される。
【0032】
給水装置8は、蒸気タービン発電機30のタービンの出口から排出される低圧湿り蒸気を冷却して凝縮させることにより、飽和水に戻して貯留する復水器と、ポンプにより復水器からボイラ20に戻される飽和水の脱気処理を行う脱気器とを含んでいる。
【0033】
このような焼却炉10の運転は制御装置100により制御される。
図2は、制御装置100の構成を模式的に示したブロック図である。
図2に示されるように、制御装置100は、プロセスデータ取得部51と、運転状態情報取得部53と、記憶部55と、予測蒸気量算定部57と、短期制御部59と、長期制御部61とを備えて構成され、各機能部は、焼却炉10の制御に係る処理を行うために、CPUを中核部材としてハードウェア又はソフトウェア或いはその両方で構築されている。
【0034】
プロセスデータ取得部51は、焼却炉10のプロセスデータを取得する。プロセスデータとは、焼却炉10において被焼却物Wを燃焼する際の発電システム1の状態を示すデータである。したがって、プロセスデータとは、焼却炉10だけのデータではなく、例えばボイラ20の状態を示すデータも含まれる。このようなプロセスデータは、例えば、炉本体11に導入される押し込み空気の流量、焼却炉10の下方に設けられる複数の風箱25からの圧力、二次空気の流量、被焼却物Wを燃焼した際に生じるガスの量、煙突40から排出されるガス(排ガス)の流量、二次燃焼室27の酸素濃度、除塵装置出口の酸素濃度、炉本体11内の入口温度、後燃焼ストーカ28の温度、除塵装置入口の排ガス温度、被焼却物Wを燃焼した際に生じるガスの温度、ホッパ5に投入される被焼却物Wの投入量、ボイラ20の圧力、ボイラ20からの蒸気の量(以下「蒸気流量」とも称する)、蒸気の温度が相当する。これらは一例であって、これら以外のデータをプロセスデータとして用いることは可能である。
【0035】
このような焼却炉10のプロセスデータを取得する工程は、被焼却物Wを燃焼する焼却炉10からの熱を利用してボイラ20を運転する焼却炉10の制御方法におけるプロセスデータ取得ステップと称される。
【0036】
運転状態情報取得部53は、焼却炉10の運転状態データを取得する。運転状態データとは、焼却炉10の運転(発電システム1)に係る装置の状態を示すデータである。このようなデータは、例えば機器の運転状態を設定する機器設定値や、機器の運転状態を示す計測値が相当する。これらの値は、絶対値でなくてもよく、例えば所定の値に対する偏差や相対値であってもよい。このような運転状態データは、例えば、炉本体11に被焼却物Wを押し込む押し込み量や、給じん装置6の給じん周期や、給じん装置6の給じんストローク長や、炉本体11の回転数(火格子速度)、後燃焼ストーカ28の周期設定値、といった焼却炉10内の被焼却物Wの移動に関わるデータ、風箱25から空気を押し込む押込送風機のファンあるいは当該ファンを駆動するモータの回転数、ダンパ開度が相当する。また、ボイラ20の蒸気流量の設定値や、ボイラ20においてスートブロワを行っていることを示すスートブロワ信号を含んでもよい。これらは一例であって、これら以外のデータを運転状態データとして用いることは可能である。
【0037】
このような焼却炉10の運転状態データを取得する工程は、焼却炉10の制御方法における運転状態情報取得ステップと称される。
【0038】
記憶部55には、プロセスデータ取得部51により取得されたプロセスデータ、及び運転状態情報取得部53により取得された運転状態データが順次、記憶される。詳細は後述するが、制御装置100は、焼却炉10の制御において、プロセスデータや運転状態データを利用する。このため、記憶部55に記憶されたプロセスデータや運転状態データは、取得された時刻を示すタイムスタンプと関連付けられて、継続して記憶される。
【0039】
図3には、記憶部55に記憶されるプロセスデータの一例が示される。
図3では、プロセスA、プロセスB、及びプロセスCのプロセスデータが示されている。これらのプロセスデータは、取得された時間を示すタイムスタンプと関連付けされて記憶されている。もちろん、プロセスA、プロセスB、及びプロセスCとは異なる他のプロセスのプロセスデータを記憶するように構成することも可能であるし、実際には運転状態データも記憶される。このようなプロセスデータ及び運転状態データは、後述するボイラ20で生成される蒸気流量の予測にあたり、関連がある変数情報をドメイン知識から選択したり、予測結果の精度に応じて選択したり、機械学習(重回帰分析や特徴量分析等)により重要であると判定されたものを選択したりするように構成することが可能である。このようにして、記憶部55にはプロセスデータや運転状態データが蓄積される。
【0040】
このようなプロセスデータ及び運転状態データを順次、記憶部55に記憶する工程は、焼却炉10の制御方法における記憶ステップと称される。
【0041】
予測蒸気量算定部57は、短期変動予測蒸気量を算定する。短期変動予測蒸気量とは、ボイラ20から所定の第1時間後に排出される蒸気流量の予測値である。第1時間後は、現在から第1時間後であってもよいし、所定の時点から第1時間後であってもよい。予測蒸気量算定部57は、このような予測値として、所定期間に亘る短期変動予測蒸気量を算定する。所定期間に亘る短期変動予測蒸気量とは、ある時点から予測時点までの期間における蒸気流量の変動を予測したものであって、本実施形態ではある時点から予測時点までの移動平均値にあたる。このため、所定期間に亘る短期変動予測蒸気量とは、蒸気流量の短時間移動平均値に相当する。予測蒸気量算定部57は、このような移動平均値からなる短期変動予測蒸気量を継続して算定する。したがって、予測蒸気量算定部57は、ボイラ20から所定の第1時間後に排出される蒸気流量の予測値として、ある時点から予測時点までの移動平均値からなる短期変動予測蒸気量を、継続して算定する。
【0042】
このような移動平均値からなる短期変動予測蒸気量は、記憶部55に記憶されているプロセスデータ及び運転状態データに基づいて算定される。予測蒸気量算定部57は、短期変動予測蒸気量を算定するにあたり、記憶部55に記憶されているプロセスデータ及び運転状態データを用いて前処理を行う。本実施形態では、プロセスデータを用いた前処理として、プロセスデータのラグ特徴量の算定、プロセスデータの移動平均値の算定、プロセスデータの移動平均値に対するラグ特徴量の算定が行われる。プロセスデータのラグ特徴量の算定におけるラグ数、プロセスデータの移動平均値の算定におけるプロセスデータを使用する数(プロセスデータが取得された時間)、プロセスデータの移動平均値に対するラグ特徴量の算定におけるラグ数は、発電システム1の規模や構成によって異なるため、適宜、変更可能である。
【0043】
予測蒸気量算定部57は、短期変動予測蒸気量の算定の前処理として、このようなプロセスデータのラグ特徴量、プロセスデータの移動平均値、及びプロセスデータの移動平均値に対するラグ特徴量を求める。
【0044】
図4は、短期変動予測蒸気量の算定前に行われる前処理ついて示した図である。
図4に示されるように、「0:00:00」から「0:00:10」までの間のプロセスAのプロセスデータが、「A1」から「A11」であるとする。
図4の例では、プロセスAのプロセスデータのラグ特徴量として、s秒前と、2s秒前とが求められる。具体的には、「0:00:00」の時点のs秒前のラグ特徴量として、「A1_Lags」が求められ、「0:00:00」の時点の2s秒前のラグ特徴量として、「A1_Lag2s」が求められる。同様に、「0:00:01」の時点のs秒前のラグ特徴量として、「A2_Lags」が求められ、「0:00:01」の時点の2s秒前のラグ特徴量として、「A2_Lag2s」が求められる。
【0045】
更に、プロセスAのプロセスデータの移動平均値が求められる。具体的には、「0:00:00」の時点の移動平均値として、「A1_ma」が求められ、「0:00:01」の時点の移動平均値として、「A2_ma」が求められる。
【0046】
続いて、このプロセスAのプロセスデータの移動平均値に対するラグ特徴量が求められる。具体的には、「0:00:00」の時点のs秒前のプロセスAのプロセスデータの移動平均値に対するラグ特徴量として、「A1_ma_Lags」が求められ、「0:00:00」の時点の2s秒前のプロセスAのプロセスデータの移動平均値に対するラグ特徴量として、「A1_ma_Lag2s」が求められる。同様に、「0:00:01」の時点のs秒前のプロセスAのプロセスデータの移動平均値に対するラグ特徴量として、「A2_ma_Lags」が求められ、「0:00:01」の時点の2s秒前のプロセスAのプロセスデータの移動平均値に対するラグ特徴量として、「A2_ma_Lag2s」が求められる。
【0047】
同様に、「0:00:00」から「0:00:10」までの間のプロセスBのプロセスデータが、「B1」から「B11」であり、プロセスBのプロセスデータのラグ特徴量として、s秒前と、2s秒前とが求められる。具体的には、「0:00:00」の時点のs秒前のラグ特徴量として、「B1_Lags」が求められ、「0:00:00」の時点の2s秒前のラグ特徴量として、「B1_Lag2s」が求められる。同様に、「0:00:01」の時点のs秒前のラグ特徴量として、「B2_Lags」が求められ、「0:00:01」の時点の2s秒前のラグ特徴量として、「B2_Lag2s」が求められる。また、図示はしないが、プロセスBのプロセスデータの移動平均値や、プロセスBのプロセスデータの移動平均値に対するラグ特徴量も求められる。
【0048】
また、運転状態データを用いた前処理として、運転状態データのラグ特徴量の算定、運転状態データの移動平均値の算定、運転状態データの移動平均値に対するラグ特徴量の算定が行われる。運転状態データのラグ特徴量の算定におけるラグ数、運転状態データの移動平均値の算定における運転状態データを使用する数(運転状態データが取得された時間)、運転状態データの移動平均値に対するラグ特徴量の算定におけるラグ数は、発電システム1の規模や構成によって異なるため、適宜、変更可能である。
【0049】
予測蒸気量算定部57は、図示はしないが、短期変動予測蒸気量の算定の前処理として、このような運転状態データのラグ特徴量、運転状態データの移動平均値、及び運転状態データの移動平均値に対するラグ特徴量を求める。
【0050】
予測蒸気量算定部57は、
図5に示されるように、前処理により求めたプロセスデータのラグ特徴量、プロセスデータの移動平均値、及びプロセスデータの移動平均値に対するラグ特徴量と、プロセスデータと、運転状態データのラグ特徴量、運転状態データの移動平均値、及び運転状態データの移動平均値に対するラグ特徴量と、運転状態データとを説明変数として、機械学習(回帰モデル)により、ボイラ20から所定の第1時間後に排出される蒸気流量の予測値(目的変数である)として、ある時点から予測時点までの移動平均値からなる短期変動予測蒸気量(
図7参照)を、継続して算定する。具体的には、まず前処理したデータセットと蒸気流量の正解データ(本実施形態では、正解データは、前処理したデータセットの時点から第1時間後に排出されるある時点から予測時点までの移動平均値である)の組み合わせとに基づき機械学習することで蒸気流量の予測モデルが生成される。予測モデルは種々のものがあるが、公知の種々の機械学習のアルゴリズムを用いて行うことが可能である。その後、現在またはある時点の前処理したデータセットと機械学習モデルとを用いて蒸気流量を予測する。なお、機械学習のインプットとして、1つのデータに対して複数の移動平均パターンを用いてもよいし、移動平均ではなく加重平均値を用いてもよい。
【0051】
移動平均値を求めるためのウィンドウ幅、ステップ数、ラグ特徴量を求めるためのラグ数、ステップ数は、ボイラ20からの蒸気流量の予測精度と比較しながら、精度が最もよくなるように決定するとよい。また、予測精度の評価は、例えばRMSE、MSE、MAE、決定係数R2、AIC等の公知の予測評価指標を用いることが可能である。
【0052】
例えば、予測蒸気量算定部57は、300秒後の短期変動予測として蒸気流量の60秒の移動平均値を予測することが可能である。もちろん、このような60秒、300秒は、一例であって、適宜、変更可能である。
【0053】
なお、目的変数は、第1時間後と現在の蒸気流量との差でもよいし、第1時間後の蒸気流量の偏差でもよいし、第1時間後の蒸気流量のクラス(分類モデル)であってもよい。蒸気流量の偏差は、(実測値-設定値)/設定値により求めることが可能である。また、第1時間は、発電システム1の規模により最適値が変わる。そこで、予測精度が保証される最大の時間を用いるとよい。
【0054】
ここで、例えば焼却炉10内の被焼却物Wの量に対して燃焼空気量が適切でない場合や、焼却炉10内の被焼却物Wの量が不十分、あるいは過剰である場合には、蒸気流量が設定値から逸脱する。このとき、短期変動予測蒸気量に基づいて、給じん制御を行うと、特に焼却炉10内の被焼却物Wの量に対して燃焼空気量が適切でない場合に蒸気流量が設定値に対してオーバーシュートする可能性がある。そこで、本制御装置100では、後述する長期変動予測蒸気量が用いられる。
【0055】
予測蒸気量算定部57は、長期変動予測蒸気量を算定する。長期変動予測蒸気量とは、ボイラ20から所定の第2時間後に排出される蒸気流量の予測値である。第2時間後は、現在から第2時間後であってもよいし、所定の時点から第2時間後であってもよい。また、この第2時間は、上述した第1時間の長さと同じ長さであってもよいし、異なる長さであってもよい。「所定の時点」は、上述した第1時間に始期となる「所定の時間」と同じであってもよいし、異なっていてもよい。予測蒸気量算定部57は、このような予測値として、所定期間よりも長い期間に亘る長期変動予測蒸気量を算定する。所定期間よりも長い期間に亘る長期変動予測蒸気量とは、上述した短期変動予測蒸気量の算定に用いた期間よりも長い期間からなる、ある時点から予測時点における蒸気流量の変動を予測したものであって、本実施形態では、ある時点から予測時点までの移動平均値にあたる。このため、所定期間に亘る長期変動予測蒸気量とは、蒸気流量の長時間移動平均値に相当する。したがって、長期変動予測蒸気量は、短期変動予測蒸気量よりも長い期間の移動平均値にあたる。予測蒸気量算定部57は、このような移動平均値からなる長期変動予測蒸気量を継続して算定する。したがって、予測蒸気量算定部57は、ボイラ20から所定の第2時間後に排出される蒸気流量の予測値として、短期変動予測蒸気量よりも長い期間からなる、ある時点から予測時点までの移動平均値からなる長期変動予測蒸気量を、継続して算定する。
【0056】
このような移動平均値からなる長期変動予測蒸気量は、記憶部55に記憶されているプロセスデータ及び運転状態データに基づいて算定される。予測蒸気量算定部57は、長期変動予測蒸気量を算定するにあたり、記憶部55に記憶されているプロセスデータ及び運転状態データを用いて前処理を行う。プロセスデータ及び運転状態データを用いた前処理は、上述した短期変動予測蒸気量の算定において説明したので、ここでは説明を省略する。
【0057】
予測蒸気量算定部57は、
図6に示されるように、前処理により求めたプロセスデータのラグ特徴量、プロセスデータの移動平均値、及びプロセスデータの移動平均値に対するラグ特徴量と、プロセスデータと、運転状態データのラグ特徴量、運転状態データの移動平均値、及び運転状態データの移動平均値に対するラグ特徴量と、運転状態データとを説明変数として、機械学習(回帰モデル)により、ボイラ20から所定の第2時間後に排出される蒸気流量の予測値(目的変数である)として、ある時点から予測時点までの移動平均値からなる長期変動予測蒸気量(
図7参照)を、継続して算定する。具体的には、上述した短期変動予測蒸気量のケースと同様に、まず前処理したデータセットと蒸気流量の正解データの組み合わせとに基づき機械学習することで蒸気流量の予測モデルが生成される。予測モデルは種々のものがあるが、公知の種々の機械学習のアルゴリズムを用いて行うことが可能である。その後、前処理したデータセットと機械学習モデルとを用いて蒸気流量を予測する。なお、機械学習のインプットとして、1つのデータに対して複数の移動平均パターンを用いてもよいし、移動平均ではなく加重平均値を用いてもよい。
【0058】
また、この場合も移動平均値を求めるためのウィンドウ幅、ステップ数、ラグ特徴量を求めるためのラグ数、ステップ数は、ボイラ20からの蒸気流量の予測精度と比較しながら、精度が最もよくなるように決定するとよい。また、予測精度の評価は、例えばRMSE、MSE、MAE、決定係数R2、AIC等の公知の予測評価指標を用いることが可能である。
【0059】
例えば、予測蒸気量算定部57は、900秒後の長期変動予測として蒸気流量の1800秒の移動平均値を予測することが可能である。もちろん、このような1800秒、900秒は、一例であって、適宜、変更可能である。
【0060】
なお、目的変数は、第2時間後と現在の蒸気流量との差でもよいし、第2時間後の蒸気流量の偏差でもよいし、第2時間後の蒸気流量のクラス(分類モデル)であってもよい。蒸気流量の偏差は、(実測値-設定値)/設定値により求めることが可能である。また、第2時間は、発電システム1の規模により最適値が変わる。そこで、予測精度が保証される最大の時間を用いるとよい。
【0061】
図8には、蒸気流量の60秒の移動平均値を用いて、300秒後の蒸気流量を予測した短期変動予測蒸気量の算定結果が示される。また、
図9には、蒸気流量の1800秒の移動平均値を用いて、900秒後の蒸気流量を予測した長期変動予測蒸気量の算定結果が示される。
図8に示されるように、予測値を300秒だけスライド移動すると実測値に近い値となっている。また、
図9に示されるように、予測値を900秒だけスライド移動すると実測値に近い値となっている。このように予測蒸気量算定部57は、適切に将来の蒸気流量を予測することができる。
【0062】
このようなボイラ20から所定の第1時間後に排出される蒸気流量の予測値として、記憶部55に記憶されているプロセスデータ及び運転状態データに基づいて、所定の期間に亘る短期変動予測蒸気量を算定し、ボイラ20から所定の第2時間後に排出される蒸気流量の予測値として、記憶部55に記憶されているプロセスデータ及び運転状態データに基づいて、所定の期間よりも長い期間に亘る長期変動予測蒸気量を算定する工程は、焼却炉10の制御方法における予測蒸気量算定ステップと称される。
【0063】
なお、予測蒸気量算定部57が、短期変動予測蒸気量の算定に用いるプロセスデータ及び運転状態データと、長期変動予測蒸気量の算定に用いるプロセスデータ及び運転状態データとは、互いに同じであってもよい。あるいは、予測蒸気量算定部57は、短期変動予測蒸気量の算定及び長期変動予測蒸気量の算定に用いる機械学習モデルの作成の際にパラメータを適宜、最適なものを選択して用いてもよい。選択して用いる場合は、短期変動予測蒸気量の算定に用いるプロセスデータ及び運転状態データと、長期変動予測蒸気量の算定に用いるプロセスデータ及び運転状態データとは、全てが互いに異なっていてもよいし、一部が互いに異なっていてもよい。さらには、選択して用いる場合でも、短期変動予測蒸気量の算定に用いるプロセスデータ及び運転状態データと、長期変動予測蒸気量の算定に用いるプロセスデータ及び運転状態データとが互いに同じであってもよい。
【0064】
図2に戻り、短期制御部59は、短期変動予測蒸気量に基づいて、短期制御対象量を制御する。短期変動予測蒸気量は、上述したように予測蒸気量算定部57により算定され、伝達される。短期制御対象量とは、短期変動予測蒸気量を用いて、焼却炉10において被焼却物Wを燃焼するために行われる制御量であって、本実施形態では焼却炉10に供給する空気の量が相当する。焼却炉10に供給する空気とは、燃焼空気を意味する。したがって、短期制御部59は、予測蒸気量算定部57により算定された短期変動予測蒸気量に応じて、燃焼空気の量を制御する。このような燃焼空気の量は、風箱25から空気を押し込む押込送風機のファンあるいは当該ファンを駆動するモータの回転数、ダンパ開度で制御可能である。
【0065】
本実施形態では、短期制御部59は、ボイラ20から排出される蒸気流量の実測値とボイラ20から排出される蒸気流量の設定値とに応じて算定された焼却炉10に供給する空気の量を、短期変動予測蒸気量に基づいて補正する。すなわち、
図10に示されるように、短期制御部59は、蒸気流量の実測値と設定値に基づいてPID制御による押込空気の量の制御量を算定するが、このPID制御による制御量を、短期変動予測蒸気量で補正して押込空気の量を制御する。なお、実際には、蒸気流量のみでPID制御を行うのではなく、例えば炉本体11の温度や被焼却物Wの量も含めてPID制御の制御量を算定される。
【0066】
なお、短期制御部59は、短期制御対象量が予め設定された閾値を基準に設定された所定の範囲からの逸脱に応じて、補正量を設定し、この補正量に基づいて補正するとよい。この閾値や補正量は、発電システム1の規模や構成に応じて設定するとよい。
【0067】
また、短期制御部59は、ボイラ20からの蒸気流量と、短期制御対象量との偏差を算定し、この偏差に応じて補正量を設定し、この補正量に基づいて補正するように構成することも可能である。
【0068】
このような短期変動予測蒸気量に基づいて、短期制御対象量を制御する工程は、焼却炉10の制御方法における短期制御ステップと称される。
【0069】
長期制御部61は、長期変動予測蒸気量に基づいて、長期制御対象量を制御する。長期変動予測蒸気量は、上述したように予測蒸気量算定部57により算定され、伝達される。長期制御対象量とは、長期変動予測蒸気量を用いて、焼却炉10において被焼却物Wを燃焼するために行われる制御量であって、本実施形態では焼却炉10に供給する被焼却物Wの量が相当する。焼却炉10に供給する被焼却物Wは、給じん装置6により炉本体11に押し込まれる。したがって、長期制御部61は、予測蒸気量算定部57により算定された長期変動予測蒸気量に応じて、給じん装置6により炉本体11に押し込まれる被焼却物Wの量を制御する。このような被焼却物Wの量は、給じん装置6の給じん周期や、給じん装置6の給じんストローク長を制御することで制御可能である。
【0070】
本実施形態では、長期制御部61は、ボイラ20から排出される蒸気流量の実測値とボイラ20から排出される蒸気流量の設定値とに応じて算定された焼却炉10に供給する被焼却物Wの量を、長期変動予測蒸気量に基づいて補正する。すなわち、
図10に示されるように、長期制御部61は、蒸気流量の実測値と設定値に基づいてPID制御による給じん装置6の制御量(動作周期)を算定するが、このPID制御による制御量を、長期変動予測蒸気量で補正して給じん装置6を制御する。なお、実際には、蒸気流量のみでPID制御を行うのではなく、例えば炉本体11の温度や被焼却物Wの量も含めてPID制御の制御量を算定される。
【0071】
なお、長期制御部61は、長期制御対象量が予め設定された閾値を基準に設定された所定の範囲からの逸脱に応じて、補正量を設定し、この補正量に基づいて補正するとよい。この閾値や補正量は、発電システム1の規模や構成に応じて設定するとよい。
【0072】
また、長期制御部61は、ボイラ20からの蒸気流量と、短期制御対象量との偏差を算定し、この偏差に応じて補正量を設定し、この補正量に基づいて補正するように構成することも可能である。
【0073】
このような長期変動予測蒸気量に基づいて、長期制御対象量を制御する工程は、焼却炉10の制御方法における長期制御ステップと称される。
【0074】
ここで、蒸気流量が設定値から外れる要因として、炉本体11内の被焼却物Wの量に対して燃焼空気量が適切でないこと、炉本体11内の被焼却物Wの量が不十分である又は過剰であることが挙げられる。例えば短期変動予測蒸気量に基づいて、給じん装置6により炉本体11に押し込まれる被焼却物Wの量を制御すると、蒸気流量が設定値から外れる原因が、炉本体11内の被焼却物Wの量に対して燃焼空気量が適切でないということであれば、ボイラ20で生成される蒸気流量が設定値に対してオーバーシュートする可能性がある。そこで、本実施形態のように、長期変動予測蒸気量に基づいて、給じん装置6により炉本体11に押し込まれる被焼却物Wの量を制御することで、オーバーシュートが生じないようにすることが可能となる。
【0075】
図11には、制御装置100が、焼却炉10を、短期変動予測蒸気量に基づいて焼却炉10に供給する空気の量を制御し、長期変動予測蒸気量に基づいて焼却炉10に供給する被焼却物Wの量を制御して、焼却炉10を制御した場合のボイラ20からの蒸気流量の変化(蒸気流量の30分の移動平均値)が示される。
図11に示されるように、蒸気流量の30分の移動平均値が閾値に対して3%以内に収まっている。このように本制御装置100によれば、蒸気流量の変動を抑制することが可能である。
【0076】
〔その他の実施形態〕
上記実施形態では、焼却炉10が回転ストーカ式焼却炉であるとして説明したが、焼却炉10は回転ストーカ式焼却炉に限定されず、回転ストーカ式焼却炉とは異なる焼却炉であってもよい。
【0077】
上記実施形態では、短期制御部59は、短期変動予測蒸気量に基づいて、焼却炉10に供給する空気の量を制御するとして説明したが、短期制御部59は、短期変動予測蒸気量と長期変動予測蒸気量とに基づいて、焼却炉10に供給する空気の量を制御してもよい。
【0078】
上記実施形態では、短期制御部59と長期制御部61とは別体で構成されているものとして説明したが、例えば、単一の制御ユニットを構成し、当該制御ユニットが短期制御部59と長期制御部61とを有するように構成することも可能である。
【0079】
上記実施形態では、短期制御部59は、蒸気流量の実測値と設定値に基づくPID制御による制御量を、短期変動予測蒸気量で補正して押込空気の量を制御するとして説明したが、蒸気流量の設定値と短期変動予測蒸気量とに基づくPID制御による補正量を算定し、蒸気流量の実測値と設定値に基づくPID制御による制御量を、この補正量で補正して押込空気を制御するように構成することも可能である。
【0080】
上記実施形態では、長期制御部61は、蒸気流量の実測値と設定値に基づくPID制御による制御量を、長期変動予測蒸気量で補正して給じん装置6を制御するとして説明したが、蒸気流量の設定値と長期変動予測蒸気量とに基づくPID制御による補正量を算定し、蒸気流量の実測値と設定値に基づくPID制御による制御量を、この補正量で補正して給じん装置6を制御するように構成することも可能である。
【0081】
上記実施形態では、短期制御対象量が焼却炉10に供給する空気の量であり、長期制御対象量が焼却炉10に供給する被焼却物Wの量であるとして説明したが、短期制御対象量及び長期制御対象量の少なくともいずれか一方に、焼却炉10の回転数や、二次燃焼室27の火格子の速度が含まれるように構成してもよい。この場合にも、蒸気流量の予測値から補正量を決定して制御するとよい。
【0082】
上記実施形態では、長期制御部61及び短期制御部59は、ボイラ20から排出される蒸気流量の変動量が予め設定された変動量以下となるように、短期制御対象量及び長期制御対象量を制御するとして説明したが、この場合、短期制御対象量で用いる「予め設定された変動量」と、長期制御対象量で用いる「予め設定された変動量」とは、互いに同じ値であってもよいし、互いに異なる値であってもよい。
【0083】
上記実施形態では、短期制御部59が、短期変動予測蒸気量に基づいて、焼却炉10に供給する空気の量を制御するとして説明したが、短期変動予測蒸気量が大きく低下する場合は、被焼却物Wの供給を制御してもよく、短期制御部59は、最終の被焼却物Wの供給から所定の時間が経過しており、短期変動予測蒸気量が予め設定された量を下回る場合は、長期変動予測蒸気量にかかわらず、焼却炉10に被焼却物Wを強制的に供給するように構成することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、被焼却物を燃焼する焼却炉からの熱を利用してボイラを運転する焼却炉の制御装置、及び焼却炉の制御方法に用いることが可能である。
【符号の説明】
【0085】
10:焼却炉
20:ボイラ
51:プロセスデータ取得部
53:運転状態情報取得部
55:記憶部
57:予測蒸気量算定部
59:短期制御部
61:長期制御部
100:制御装置(焼却炉の制御装置)
W:被焼却物
【要約】
【課題】ボイラから排出される蒸気の量を適切に制御する焼却炉の制御装置を提供する。
【解決手段】焼却炉の制御装置100は、焼却炉のプロセスデータを取得するプロセスデータ取得部51と、焼却炉の運転状態データを取得する運転状態情報取得部53と、プロセスデータ及び運転状態データを記憶する記憶部55と、ボイラから第1時間後に排出される蒸気の量の予測値として、記憶部55のプロセスデータ及び運転状態データに基づいて、所定の期間に亘る短期変動予測蒸気量を算定し、ボイラから第2時間後に排出される蒸気の量の予測値として、記憶部55のプロセスデータ及び運転状態データに基づいて、所定の期間よりも長い期間に亘る長期変動予測蒸気量を算定する予測蒸気量算定部57と、短期変動予測蒸気量に基づいて、短期制御対象量を制御する短期制御部59と、長期変動予測蒸気量に基づいて、長期制御対象量を制御する長期制御部61と、を備える。
【選択図】
図2