(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】光回折素子ユニット及び光演算装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/18 20060101AFI20240828BHJP
G06N 3/067 20060101ALI20240828BHJP
G02F 3/00 20060101ALI20240828BHJP
【FI】
G02B5/18
G06N3/067
G02F3/00
(21)【出願番号】P 2023500628
(86)(22)【出願日】2022-01-14
(86)【国際出願番号】 JP2022001047
(87)【国際公開番号】W WO2022176458
(87)【国際公開日】2022-08-25
【審査請求日】2023-08-03
(31)【優先権主張番号】P 2021024501
(32)【優先日】2021-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】日下 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】柏木 正浩
【審査官】小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-134232(JP,A)
【文献】特開2010-145672(JP,A)
【文献】特開2006-001050(JP,A)
【文献】国際公開第2019/147828(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/18
5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性及び可撓性を有する層状の部材である基材と、
前記基材の一方の主面の一部に形成された光回折構造であって、
厚み又は屈折率が互いに独立に設定された複数のマイクロセルを含む光回折構造と、
一対の主面を貫通する開口が設けられた層状又は板状の部材であり、前記基材を保持する保持部と、を備え、
前記保持部は、前記開口が前記光回折構造を包含するように前記基材のうち前記一部を取り囲む環状部分を保持する、
ことを特徴とする光回折素子ユニット。
【請求項2】
前記保持部の前記一対の主面のうち少なくとも一方の主面における特定の波長を有する光に対する吸収率は、
アルミニウム合金の当該光に対する吸収率よりも大きい、
ことを特徴とする請求項1に記載の光回折素子ユニット。
【請求項3】
前記保持部の全表面における特定の波長を有する光に対する吸収率は、
アルミニウム合金の当該光に対する吸収率よりも大きい、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の光回折素子ユニット。
【請求項4】
前記保持部は、一対の主面を貫通する開口が各々に設けられた2枚の層状又は板状の部材である第1部材及び第2部材を含み、前記第1部材と前記第2部材とが前記環状部分を挟み込むことによって当該環状部分を保持している、
ことを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の光回折素子ユニット。
【請求項5】
前記開口の面積の平方根を開口サイズL
(μm)として、
前記開口から前記保持部の外縁までの距離D
H
(μm)は、D
H≧2
1/2×Lを満たす、
ことを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の光回折素子ユニット。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1項に記載の光回折素子ユニットである第1光回折素子ユニット~第N光回折素子ユニット(Nは、2以上の整数)と、
前記第1光回折素子ユニット~前記第N光回折素子ユニットの各々を、前記基材の前記一方の主面の法線方向に沿って順番に収容する筐体と、を備えている、
ことを特徴とする光演算装置。
【請求項7】
前記筐体の内壁における特定の波長を有する光に対する吸収率は、
アルミニウム合金の当該光に対する吸収率よりも大きい、
ことを特徴とする請求項6に記載の光演算装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のマイクロセルからなる光回折構造を含む光回折素子ユニットと、そのような光回折素子ユニットを複数備えた光演算装置と、に関する。
【背景技術】
【0002】
透光性を有する層状部材からなる基材と、当該基材の一方の主面に形成された光回折構造とを備えた光回折素子が知られている。光回折構造は、厚み又は屈折率が個別に設定された複数のマイクロセルを有し、各マイクロセルを透過した信号光を相互に干渉させることによって、予め定められた演算を光学的に実行する。ここで、「マイクロセル」とは、例えば、セルサイズが10μm未満のセルのことを指す。また、「セルサイズ」とは、セルの面積の平方根のことを指す。
【0003】
このような光回折素子を複数用い、信号光が伝搬する方向(すなわち、マイクロセルの厚み方向)に沿って、各光回折構造を周期的に配置することによって、光学的な演算である光演算を複数回実行する光演算装置が得られる。このような光演算装置には、プロセッサを用いた電気的な演算装置と比べて高速且つ低消費電力であるという利点がある。特許文献1には、入力層、中間層、及び出力層を有する光ニューラルネットワークが開示されている。上述した光回折素子は、例えば、このような光ニューラルネットワークの中間層として利用することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような光演算装置において、周期的に配置された光回折構造同士の間隔Dは、信号光の波長λに応じておおよそ定められている。この間隔Dの一例としては、D=40λが挙げられる。すなわち、信号光としてλ=1.5μmの光を採用した場合、D=60μmとなる。この場合、基材の厚みと、マイクロセルの厚みの最大値との和を60μm以下にすることが求められる。そのため、光回折素子の基材としては厚みが薄い樹脂フィルムが採用される場合が多い。樹脂フィルムの厚みの例としては、3μmや5μmなどが挙げられる。このような樹脂フィルムは、可撓性を有するため、そのままでは主面の形状を正しく平面に保つことが困難である。
【0006】
本発明の一態様は、上述した課題に鑑みなされたものであり、その目的は、単体でも基材の主面の形状を平面に保つことが容易な光回折素子ユニットと、そのような光回折素子ユニットを複数備えた光演算装置とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る光回折素子ユニットは、透光性及び可撓性を有する層状の部材である基材と、前記基材の一方の主面の一部に形成された光回折構造であって、複数のマイクロセルを含む光回折構造と、一対の主面を貫通する開口が設けられた層状又は板状の部材であり、前記基材を保持する保持部と、を備えている。本光回折素子ユニットにおいては、前記保持部は、前記開口が前記光回折構造を包含するように前記基材のうち前記一部を取り囲む環状部分を保持する、構成が採用されている。
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る光演算装置は、上述した本発明の一態様に係る光回折素子ユニットである第1光回折素子ユニット~第N光回折素子ユニット(Nは、2以上の整数)と、前記第1光回折素子ユニット~前記第N光回折素子ユニットの各々を、前記基材の前記一方の主面の法線方向に沿って順番に収容する筐体と、を備えている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、単体でも基材の主面の形状を平面に保つことが容易な光回折素子ユニットと、そのような光回折素子ユニットを複数備えた光演算装置とを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る光回折素子ユニットの分解斜視図である。
【
図2】
図1に示した光回折素子ユニットの断面図である。
【
図3】
図1に示した光回折素子ユニットが備えている光回折素子の斜視図である。
【
図4】
図1に示した光回折素子ユニットの第1の変形例の断面図である。
【
図5】
図1に示した光回折素子ユニットの第2の変形例の断面図である。
【
図6】本発明の第2の実施形態に係る光演算装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔第1の実施形態〕
<光回折素子ユニットの構成>
本発明の第1の実施形態に係る光回折素子ユニットUについて、
図1~
図3を参照して説明する。
図1は、光回折素子ユニットUの分解斜視図である。
図2は、光回折素子ユニットUの断面図であって、
図1に示したA-A’線に沿ったA-A’断面の断面図である。A-A’断面は、保持部20の互いに対向する主面211及び主面222に垂直な断面であり、光回折構造12を通る断面である。
図3は、光回折素子ユニットUが備えている光回折素子10の斜視図である。なお、主面211及び主面222については、後述する。また、
図1~
図3に示した直交座標系は、主面211及び主面222の法線方向をz軸方向と定め、主面211及び主面222と平行な平面のうち、光回折構造12の各辺と平行な2つの平行をx軸方向及びy軸方向と定めている。
【0012】
図1及び
図2に示すように、光回折素子ユニットUは、光回折素子10と、保持部20と、を備えている。
【0013】
なお、本実施形態では、信号光として、波長λがλ=1.5μmである光を用いる。また、信号光は、その伝搬方向に直交する平面において2次元的な強度分布を有する光である。後述する光回折構造12は、厚み又は屈折率が個別に設定された複数のマイクロセルAを有し、各マイクロセルAを透過した信号光を相互に干渉させることによって、予め定められた演算を光学的に実行する。
【0014】
ただし、波長λは、1.5μmに限定されず、電磁波の帯域内において適宜定めることができる。例えば、この帯域は、可視域(360nm以上830nm未満)、近赤外域(830nm以上2μm未満)、中赤外域(2μm以上4μm未満)、及び、遠赤外域(4μm以上1000μm以下)により構成されている。波長λは、360nm以上1000μm以下の帯域内に含まれる波長のうち少なくとも一部の波長であってもよい。λ=1.5μmである信号光は、特定の波長を有する光の一例である。なお、信号光の波長λは、光回折素子ユニットUの設計段階において、その用途などに応じて定められる。信号光として用いる光は、例えば、可視光であってもよいし、近赤外光であってもよい。
【0015】
(光回折素子)
図3に示すように、光回折素子10は、基材11と、光回折構造12と、を備えている。
【0016】
基材11は、互いに対向する主面111及び主面112を有する層状の部材(例えばフィルム)であって、透光性を有する材料により構成されている。主面111は、基材11の一方の主面の一例である。なお、以下において、基材11の主面111の中央に位置する一部を中央部分113と称し、中央部分113を取り囲む環状の部分を環状部分114と称する。なお、
図3においては、光回折構造12の下層に中央部分113が位置することを、符号「113」に破線の下線を付すことで示している。
【0017】
本実施形態においては、基材11を構成する材料として、アクリル系樹脂を採用している。ただし、基材11を構成する材料は、信号光として用いる光の波長域において透光性を有していればよく、アクリル系樹脂に代表される樹脂に限定されない。基材11を構成する材料は、石英ガラスに代表されるガラス材料であってもよい。
【0018】
また、基材11を構成する材料は、後述する光回折構造12を主面111に造形した場合に、光回折構造12を構成する樹脂(例えば光硬化樹脂)と良好な密着性を有する材料であることが好ましい。
【0019】
また、本実施形態においては、基材11の厚みとして5μmを採用している。このような厚さの樹脂フィルムは、可撓性を有するため、単体では自立することができない。なお、基材11の厚みは、5μmに限定されない。
【0020】
また、基材11を主面111の法線方向から平面視した場合の形状(以下において平面視形状と称する)は、正方形であり、後述する保持部20の平面視形状と一致している(
図1)。本実施形態において、平面視した場合における基材11のサイズ(すなわち、環状部分114の外縁のサイズ)は、平面視した場合における保持部20のサイズと等しい、ただし、基材11のサイズは、後述する中央部分113のサイズを上回っていればよく、その範囲内において適宜定めることができる。
【0021】
複数の光回折素子ユニットUを備えた光演算装置A(
図6参照)において、周期的に配置された光回折構造12同士の間隔Dは、信号光の波長λに応じておおよそ定められている。この間隔Dの一例としては、D=40λが挙げられる。すなわち、信号光としてλ=1.5μmの光を採用した本実施形態においては、D=60μmとなる。この場合、基材11の厚みと、光回折構造12の厚みの最大値と、後述する保持部20の厚みとの和を60μm以下にすることが求められる。基材11の厚みは、この条件を満たす範囲内において適宜定めることができる。なお、仮に基材11の厚みとして60μmを採用した場合であっても、基材11は、可撓性を有する。したがって、波長λによっては、このような場合にも本発明を適用可能である。
【0022】
光回折構造12は、中央部分113に形成されている。本実施形態において、中央部分113は、例えば、200μm×200μmの正方形である。光回折構造12は、厚み又は屈折率が互いに独立に設定された複数のマイクロセルAにより構成されている(
図3参照)。本実施形態において、各マイクロセルAは、透光性を有する樹脂(例えば光硬化樹脂)製である。ただし、光回折構造12は、ガラス(例えば石英ガラス)製であってもよい。
【0023】
光回折構造12に信号光が入射すると、各マイクロセルAを透過した信号光が相互に干渉することによって、予め定められた光演算が行われる。光回折構造12から出力される信号光の強度分布は、その光演算の結果を表す。
【0024】
ここで、「マイクロセル」とは、例えば、セルサイズが10μm未満のセルのことを指す。また、「セルサイズ」とは、セルの面積の平方根のことを指す。例えば、マイクロセルの平面視形状が正方形である場合、セルサイズとは、セルの一辺の長さである。セルサイズの下限は、特に限定されないが、例えば1nmである。
【0025】
図1の拡大図に例示した光回折構造12は、マトリックス状に配置された20×20個のマイクロセルAにより構成されている。各マイクロセルAの平面視形状は、例えば、1μm×1μmの正方形であり、光回折構造12の平面視形状は、例えば、200μm×200μmの正方形である。
【0026】
なお、セルサイズ、各マイクロセルAの平面視形状、及び、光回折構造12の平面視形状は、上述した例に限定されず、適宜定めることができる。
【0027】
(保持部)
保持部20は、互いに対向する主面211及び主面222を有する層状又は板状の部材(例えば箔)である。本実施形態において、保持部20は、互いに対向する主面211及び主面212を有する層状又は板状の部材(例えば箔)である第1部材21と、互いに対向する主面221及び主面222を有する層状又は板状の部材(例えば箔)である第2部材22と、により構成されている。
【0028】
保持部20には、一対の主面である主面211及び主面222を貫通する開口23が設けられている。本実施形態においては、第1部材21には、一対の主面である主面211及び主面212を貫通する第1開口213が設けられており、第2部材22には、一対の主面である主面221及び主面222を貫通する第2開口223が設けられている。開口23は、第1開口213と第2開口223とにより構成されている。
【0029】
保持部20は、主面211を主面211の法線方向から平面視した場合に、開口23が光回折構造12を包含するように、基材11のうち環状部分114を保持する。より具体的には、保持部20は、第1部材21と第2部材22とが環状部分114を挟み込むことによって、基材11を保持する。
【0030】
本実施形態において、基材11の主面111と第1部材21の主面212とは、
図1及び
図2に図示しない接着層により固定されている。同様に、基材11の主面112と第2部材22の主面221とは、
図1及び
図2に図示しない接着層により固定されている。これらの接着層は、基材11、第1部材21、及び第2部材22を互いに接合する接合手段の一例である。ただし、接合手段は、接着層に限定されず、適宜選択することができる。
【0031】
本実施形態においては、保持部20を構成する材料として、アルミニウム合金を採用している。ただし、保持部20を構成する材料は、基材11を保持するために基材11よりも高い剛性を有していればよく、アルミニウム合金に限定されない。保持部20を構成する他の金属材料としては、ステンレス及び銅が挙げられる。また、保持部20を構成する材料は、ガラス繊維強化樹脂やカーボン繊維強化樹脂などの樹脂材料であってもよい。
【0032】
保持部20の一対の主面211及び主面222のうち、少なくとも一方の主面は、信号光に対する吸収率がアルミニウムの信号光に対する吸収率よりも大きくなるように構成されていることが好ましい。また、保持部20の全表面は、信号光に対する吸収率がアルミニウムの信号光に対する吸収率よりも大きくなるように構成されていることがより好ましい。なお、アルミニウム合金の信号光に対する吸収率は、アルミニウムの信号光に対する吸収率と同程度と見做すことができる。
【0033】
なお、吸収率を定義する場合に用いるアルミニウムの表面は、非酸化面であってもよいが、吸収率がより大きな酸化面であることが好ましい。例えば、λ=1μmである場合、アルミニウムの非酸化面における信号光の吸収率は、10%程度であり、アルミニウムの酸化面における信号光の吸収率は、40%程度である。また、一対の主面211及び主面222のうち少なくとも一方の主面、又は、保持部20の全表面は、アルミニウム合金の信号光に対する吸収率が50%以上になるように構成されていることがより好ましい。
【0034】
本実施形態においては、保持部20の全表面の吸収率がアルミニウムの信号光に対する吸収率よりも大きくなるように構成されている。なお、保持部20の全表面は、主面211、主面212、第1開口213の内側面、第1部材21の外側面、主面221、主面222、第2開口223の内側面、及び、第2部材22の外側面により構成されている。主面211及び主面222と同様に、主面212及び主面221の吸収率がアルミニウムの信号光に対する吸収率よりも大きくなるように構成されていることによって、なんらかの理由により基材11の面内方向に伝搬する迷光が生じた場合に、その迷光を主面212及び主面221が吸収することができる。したがって、光回折素子ユニットUは、その迷光が基材11の外縁まで伝搬するまえに吸収することができるので、外部に出射され得る迷光を抑制することができる。なお、信号光に対する吸収率が高ければ高いほど、迷光をより抑制することができる。
【0035】
なお、信号光を吸収する構成は、限定されない。信号光を吸収する構成としては、保持部20の表面に、黒色の被覆膜を設けてもよいし、信号光の波長λを含む波長域の光を吸収するメタサーフェス光回折構造を設けてもよい。黒色の被覆膜の一例としては、黒色の塗膜が挙げられる。なお、黒色の塗膜は、カーボンブラックを含んでいてもよい。また、本実施形態のように、保持部20がアルミニウム合金製である場合には、保持部20の表面に黒色アルマイト処理を施すことによって形成される黒色の酸化層を特色の被覆層として用いることもできる。また、保持部20を構成する材料として樹脂を採用している場合には、その材料として、信号光の波長λを含む波長域の光を吸収する樹脂を用いることもできる。
【0036】
また、
図2に示すように、開口23から保持部20の外縁までの距離D
Hは、開口23の一辺の長さLを用いて、D
H≧2
1/2×Lを満たすことが好ましい。なお、本実施形態において、開口23の形状は、中央部分113及び光回折構造12の形状に対応して、正方形である。ただし、開口23の形状は、正方形に限定されず、適宜さだめることができる。開口23の形状が正方形ではない場合、開口23の一辺の長さLの代わりに開口23の面積の平方根を開口サイズLとして用いることができる。なお、開口23の一辺の長さLは、開口サイズLの一例である。
【0037】
また、本実施形態において、保持部20は、第1部材21及び第2部材22により構成されている。ただし、保持部20において、第1部材21及び第2部材22の何れかは、省略することができる。なお、第1部材21及び第2部材22の何れかを省略する場合、第2部材22を省略することが好ましい。第2部材22を省略した場合、光回折構造12を第1部材21の213の内部に収容することができるので、光回折構造12を異物との衝突などから保護することができる。
【0038】
<第1の変形例>
光回折素子ユニットUの第1の変形例である光回折素子ユニットUAについて、
図4を参照して説明する。
図4は、光回折素子ユニットUAの断面図である。
図4に示した光回折素子ユニットUAの断面は、
図2に示した光回折素子ユニットUの断面と同様に、保持部20の互いに対向する主面211B及び主面222Bに垂直な断面であり、光回折構造12を通る断面である。なお、
図4に示した直交座標系は、
図1~
図3に示した直交座標系と同様に定められている。
【0039】
光回折素子ユニットUAは、光回折素子ユニットUをベースにして、光回折素子10を構成する基材11を基材11Aに変形し、吸収層30Aを追加することによって得られる。以下では、光回折素子ユニットUAの構成部材のうち、基材11A及び吸収層30Aについて説明し、光回折素子ユニットUと共通する部材の説明は省略する。
【0040】
(基材)
図4に示すように、基材11Aは、
図2に示した基材11のサイズを小さく変形したものである。なお、小さく変形したのは基材11の外縁のサイズだけであり、光回折構造12が形成されている領域(基材11における中央部分113)の大きさは、基材11の場合と同じである。
【0041】
(吸収層)
基材11Aのサイズを小さく変形することに伴い、第1部材21及び第2部材22を用いて基材11Aを挟み込んだ場合、第1部材21と第2部材22との間であって、基材11Aの外側には、環状の空隙が生じる。吸収層30Aは、この環状の空隙に充填された樹脂により構成されている。吸収層30Aを構成する樹脂は、信号光の波長λを含む波長域の光を吸収する樹脂又はフィラーを含む。
【0042】
光回折素子ユニットUにおいては、なんらかの理由により基材11の面内方向に伝搬する迷光が生じた場合に、その迷光が基材11の外縁まで伝搬し、光回折素子ユニットUの外部に出射される可能性がある。
【0043】
光回折素子ユニットUAにおいては、そのような迷光が基材11Aの外縁から出射された場合であっても、その迷光を吸収層30Aが吸収することができる。したがって、光回折素子ユニットUAは、外部に出射され得る迷光を抑制することができる。
【0044】
<第2の変形例>
光回折素子ユニットUの第2の変形例である光回折素子ユニットUBについて、
図5を参照して説明する。
図5は、光回折素子ユニットUBの断面図である。
図5に示した光回折素子ユニットUBの断面は、
図2に示した光回折素子ユニットUの断面と同様に、保持部20の互いに対向する主面211B及び主面222Bに垂直な断面であり、光回折構造12を通る断面である。なお、
図5に示した直交座標系は、
図1~
図3に示した直交座標系と同様に定められている。
【0045】
光回折素子ユニットUBは、光回折素子ユニットUをベースにして、光回折素子10を構成する基材11を基材11Aに変形し、第1部材21を第1部材21Bに変形することによって得られる。なお、光回折素子ユニットUBに含まれる基材11Aは、光回折素子ユニットUAに含まれる基材11Aと同一である。したがって、以下では、光回折素子ユニットUBの構成部材のうち、第1部材21Bについて説明し、光回折素子ユニットUと共通する部材の説明は省略する。
【0046】
第1部材21Bの第2部材22側の主面である212Bには、光回折素子10を収容する凹部214Bが第1開口213Bに連なって形成されている。なお、第1開口213Bは、第1部材21の第1開口213に対応する。
【0047】
この構成によれば、基材11Aの面内方向に伝搬する迷光が基材11Aの外縁から出射された場合であっても、光回折素子ユニットUBの外部に出射される迷光を抑制することができる。
【0048】
なお、凹部214Bの内部を伝搬する迷光を迅速に吸収するために、凹部214Bの表面は、主面211及び主面222と同様に、信号光に対する吸収率がアルミニウムの信号光に対する吸収率よりも大きくなるように構成されていることが好ましい。
【0049】
〔第2の実施形態〕
<光演算装置の構成>
本発明の第2の実施形態に係る光演算装置Aについて、
図6を参照して説明する。
図6は、光演算装置Aの断面図である。
図6に示した光演算装置Aの断面は、
図2に示した光回折素子ユニットUの断面と同様に、各光回折素子ユニットUの保持部20の互いに対向する主面211及び主面222に垂直な断面であり、光回折構造12を通る断面である。
【0050】
図6に示すように、光演算装置Aは、3つの光回折素子ユニットU1,U2,U3と、光回折素子ユニットU1,U2,U3を収容する筐体40と、を備えている。光回折素子ユニットU1,U2,U3の各々は、第1の実施形態において説明した光回折素子ユニットUであり、第1光回折素子ユニット~第N光回折素子ユニット(Nは、2以上の整数)の一例である。本実施形態では、3つの光回折素子ユニットUの各々を区別するために、符号の末尾に数字を付している。なお、光演算装置Aが備えている光回折素子ユニットUの数は、3つに限定されず、2以上の範囲内において適宜定めることができる。
【0051】
本実施形態では、光回折素子ユニットU1,U2,U3の説明を省略し、筐体40について説明する。
【0052】
本実施形態においては、筐体40を構成する材料として、アルミニウム合金を採用している。ただし、筐体40を構成する材料は、光回折素子ユニットU1,U2,U3の各々を保持するために十分な剛性を有していればよく、アルミニウム合金に限定されない。筐体40を構成する他の金属材料としては、ステンレス及び銅が挙げられる。また、筐体40を構成する材料は、ガラス繊維強化樹脂やカーボン繊維強化樹脂などの樹脂材料であってもよい。
【0053】
筐体40は、直方体状であり、内部に空洞が形成された箱である。
図6に示すように、筐体40は、互いに対向する一対の底壁41,42と、底壁41と底壁42との間に介在する側壁43とを備えている。
【0054】
底壁41は、互いに対向する一対の主面である主面411と主面412とを含む。同様に、底壁42は、互いに対向する一対の主面である主面421と主面422とを含む。
【0055】
側壁43は、横断面形状が正方形である筒状部材である。側壁43は、互いに対向する内側面431と外側面432とを含む。側壁43の両端の各々に設けられた開口には、それぞれ、底壁41及び底壁42が接合されている。
【0056】
底壁41,42の各々の中央近傍には、それぞれ、開口413,423が設けられている。開口413,423の形状及びサイズは、光回折構造12の形状及びサイズに応じて適宜定めることができる。本実施形態において、開口413,423を主面211の法線方向(z軸方向)から平面視した場合の形状は、正方形である。また、本実施形態において、開口413,423のサイズは、開口413,423を平面視した場合に、光回折構造12を包含するように定められている。
【0057】
側壁43の内側面431には、光回折素子ユニットU1,U2,U3の各々を保持するための溝が設けられている。各溝の幅は、光回折素子ユニットU1,U2,U3の各々の厚みと略等しい。各溝は、底壁41,42と平行に、内側面431の全周に亘って環状に設けられている。光演算装置Aにおいては、光回折素子ユニットU1,U2,U3の各々を各溝に差し込むことによって、光回折素子ユニットU1,U2,U3の各々が側壁43により保持される。
【0058】
隣接する溝同士の間隔は、光演算装置Aにおける光回折構造12同士の間隔Dが所定の値(例えばD=60μm(=40λ))になるように定められている。なお、
図6に示した3本の一点鎖線の各々は、光回折素子ユニットU1,U2,U3の厚み方向(z軸方向)の位置を示す。
【0059】
光演算装置Aにおいて、光回折素子ユニットU1,U2,U3の各々は、基材11の一対の主面(
図2における主面111,112)の法線方向(z軸方向)に沿って、順番に且つ重なるように、筐体40の内部に収容されている。
【0060】
また、本実施形態において、筐体40の表面(主面411,412、開口413の内側面、主面421,422、開口423の内側面、内側面431、及び、外側面432)は、内側及び外側を問わず、全て、信号光に対する吸収率がアルミニウムの信号光に対する吸収率よりも大きくなるように構成されている。この信号光を吸収する構成としては、保持部20の場合と同様に、筐体40の表面に、黒色の被覆膜を設けてもよいし、信号光の波長λを含む波長域の光を吸収するメタサーフェス光回折構造を設けてもよい。黒色の被覆膜の一例としては、黒色の塗膜が挙げられる。なお、黒色の塗膜は、カーボンブラックを含んでいてもよい。また、本実施形態のように、筐体40がアルミニウム合金製である場合には、筐体40の表面に黒色アルマイト処理を施すことによって形成される黒色の酸化層を特色の被覆層として用いることもできる。また、筐体40を構成する材料として樹脂を採用している場合には、その材料として、信号光の波長λを含む波長域の光を吸収する樹脂を用いることもできる。
【0061】
ただし、筐体40の表面における信号光を吸収するための構成は、省略されていてもよいし、筐体40の表面のうち所定の領域のみに設けられていてもよい。筐体40の表面のうち所定の領域のみに信号光を吸収するための構成を設ける場合、所定の領域の一例としては、筐体40の内壁(主面412、主面421、及び、内側面431)が挙げられる。また、筐体40の内壁に加えて、開口413の内側面及び開口423の内側面に信号光を吸収するための構成を設けてもよい。
【0062】
〔まとめ〕
本発明の第1の態様に係る光回折素子ユニットは、透光性及び可撓性を有する層状の部材である基材と、前記基材の一方の主面の一部に形成された光回折構造であって、複数のマイクロセルを含む光回折構造と、一対の主面を貫通する開口が設けられた層状又は板状の部材であり、前記基材を保持する保持部と、を備えている。本光回折素子ユニットにおいては、前記保持部は、前記開口が前記光回折構造を包含するように前記基材のうち前記一部を取り囲む環状部分を保持する、構成が採用されている。
【0063】
上記の構成によれば、前記開口が前記光回折構造を包含しているため、光回折構造を透過する特定の波長を有する光は、保持部の影響を受けない。更に、保持部が前記基材のうち前記環状部分を保持している。そのため、前記基材の主面の形状は、平面に保持される。このように、本光回折素子ユニットは、前記基材の主面の形状を平面に保つことができる。
【0064】
また、本発明の第2の態様に係る光回折素子ユニットにおいては、上述した第1の態様に係る光回折素子ユニットの構成に加えて、前記保持部の前記一対の主面のうち少なくとも一方の主面における特定の波長を有する光に対する吸収率は、アルミニウムの当該光に対する吸収率よりも大きい、構成が採用されている。
【0065】
上記の構成によれば、前記保持部の前記一対の主面のうち少なくとも一方の主面が特定の波長を有する光をアルミニウムよりも吸収するように構成されている。そのため、特定の波長を有する光に付随する迷光が前記保持部の一方の主面に入射した場合に、その迷光の少なくとも一部は、前記一方の主面により吸収される。したがって、本光回折素子ユニットは、特定の波長を有する光に付随して光回折素子ユニットを透過し得る迷光を抑制することができる。
【0066】
なお、特定の波長は、電磁波に含まれる波長であり、光回折素子ユニットの設計段階において、その用途などに応じて、適宜定めることができる。例えば、360nm以上1000μm以下の帯域内である。当該帯域は、可視域(360nm以上830nm未満)、近赤外域(830nm以上2μm未満)、中赤外域(2μm以上4μm未満)、及び、遠赤外域(4μm以上1000μm以下)により構成されている。特定の波長は、360nm以上1000μm以下の帯域内に含まれる波長のうち少なくとも一部の波長であってもよい。
【0067】
また、本発明の第3の態様に係る光回折素子ユニットにおいては、上述した第1の態様又は第2の態様に係る光回折素子ユニットの構成に加えて、前記保持部の全表面における特定の波長を有する光に対する吸収率は、アルミニウムの当該光に対する吸収率よりも大きい、構成が採用されている。
【0068】
上記の構成によれば、特定の波長を有する光に付随して光回折素子ユニットを透過し得る迷光を、確実に抑制することができる。
【0069】
また、本発明の第4の態様に係る光回折素子ユニットにおいては、上述した第1の態様~第3の態様の何れか一態様に係る光回折素子ユニットの構成に加えて、前記保持部は、一対の主面を貫通する開口が各々に設けられた2枚の層状又は板状の部材である第1部材及び第2部材を含み、前記第1部材と前記第2部材とが前記環状部分を挟み込むことによって当該環状部分を保持している、構成が採用されている。
【0070】
上記の構成によれば、前記基材の主面の面内方向に伝搬する迷光が生じた場合であっても、その迷光は、第1部材と第2部材との間に導かれる。したがって、前記基材の主面の面内方向に伝搬する迷光が、後段の光回折素子ユニットに向かって漏れ出すことを抑制することができる。
【0071】
また、本発明の第5の態様に係る光回折素子ユニットにおいては、上述した第1の態様~第4の態様の何れか一態様に係る光回折素子ユニットの構成に加えて、前記開口の面積の平方根を開口サイズLとして、前記開口から前記保持部の外縁までの距離DHは、DH≧21/2×Lを満たす、構成が採用されている。
【0072】
上記の構成によれば、特定の波長を有する光に付随して光回折素子ユニットを透過し得る迷光を、確実に抑制することができる。
【0073】
本発明の第6の態様に係る光演算装置は、上述した第1の態様~第5の態様の何れか一態様に係る光回折素子ユニットである第1光回折素子ユニット~第N光回折素子ユニット(Nは、2以上の整数)と、前記第1光回折素子ユニット~前記第N光回折素子ユニットの各々を、前記基材の前記一方の主面の法線方向に沿って順番に収容する筐体と、を備えている。
【0074】
上記の構成によれば、本発明の一態様に係る光回折素子ユニットを複数備えた光演算装置を提供することができるので、本発明の一態様に係る光回折素子ユニットと同様の効果を奏する。
【0075】
また、本発明の第7の態様に係る光演算装置においては、上述した第6の態様に係る光演算装置の構成に加えて、前記筐体の内壁における特定の波長を有する光に対する吸収率は、アルミニウムの当該光に対する吸収率よりも大きい、構成が採用されている。
【0076】
上記の構成によれば、特定の波長を有する光に付随して光演算装置内を伝搬し得る迷光を抑制することができる。
【0077】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0078】
A 光演算装置
U,UA,UB,U1,U2,U3 光回折素子ユニット
10 光回折素子
11,11A,11B 基材
111 主面(一方の主面)
112 主面
113 中央部分(基材の一方の主面の一部)
114 環状部分
12 光回折構造
20 保持部
23 開口
21,21B 第1部材
211,212,211B,212B 主面
213,213B 第1開口
22 第2部材
221,222 主面
223 第2開口
40 筐体
41,42 底壁
411,412,421,422 主面
413,423 開口
43 側壁
431,432 内側面,外側面