IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オリンパス株式会社の特許一覧

特許7545565医療用エネルギーデバイスの処置部、その製造方法、および医療用エネルギーデバイス
<>
  • 特許-医療用エネルギーデバイスの処置部、その製造方法、および医療用エネルギーデバイス 図1
  • 特許-医療用エネルギーデバイスの処置部、その製造方法、および医療用エネルギーデバイス 図2
  • 特許-医療用エネルギーデバイスの処置部、その製造方法、および医療用エネルギーデバイス 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】医療用エネルギーデバイスの処置部、その製造方法、および医療用エネルギーデバイス
(51)【国際特許分類】
   A61B 18/04 20060101AFI20240828BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20240828BHJP
【FI】
A61B18/04
C08L83/04
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023503265
(86)(22)【出願日】2021-03-03
(86)【国際出願番号】 JP2021008221
(87)【国際公開番号】W WO2022185455
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2023-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100207789
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 良平
(72)【発明者】
【氏名】小川 義幸
(72)【発明者】
【氏名】葛西 広明
(72)【発明者】
【氏名】藤原 卓矢
(72)【発明者】
【氏名】村野 由
(72)【発明者】
【氏名】前田 一誠
(72)【発明者】
【氏名】立川 明日香
【審査官】和田 将彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-524500(JP,A)
【文献】特開2020-80995(JP,A)
【文献】特開2018-75303(JP,A)
【文献】特許第3182153(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/04
A61B 18/08
A61B 18/14
C08L 83/04
A61L 31/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織に接触した状態で、前記生体組織に対してエネルギーを伝達して前記生体組織を処置する医療用エネルギーデバイスの処置部であって、
前記生体組織に前記エネルギーを伝達する本体部と、
シリコーンを主成分とし、前記本体部の表面を被覆する被覆膜と、を備え、
前記シリコーンは、少なくともD単位とT単位とを含み、全珪素原子に対する、D単位を形成する珪素原子のモル比が40%以上99%以下であり、かつ
前記シリコーンにおいて、珪素原子に結合する全官能基に対する、珪素原子に結合するメチル基のモル比が60%以上である、
医療用エネルギーデバイスの処置部。
【請求項2】
前記シリコーンにおいて、前記全珪素原子に対する、D単位を形成する珪素原子の前記モル比が60%以上99%以下である、
請求項1に記載の医療用エネルギーデバイスの処置部。
【請求項3】
前記シリコーンにおいて、前記全官能基に対する、珪素原子に結合するメチル基の前記モル比が90%以上である、
請求項1に記載の医療用エネルギーデバイスの処置部。
【請求項4】
前記被覆膜の膜厚は60μm以下である、
請求項1に記載の医療用エネルギーデバイスの処置部。
【請求項5】
前記被覆膜は導電性フィラーを含有する、
請求項1に記載の医療用エネルギーデバイスの処置部。
【請求項6】
前記被覆膜は前記導電性フィラーを体積比率で40%以上90%以下含有する、
請求項5に記載の医療用エネルギーデバイスの処置部。
【請求項7】
前記被覆膜の中空率は20%以上90%以下である、
請求項1に記載の医療用エネルギーデバイスの処置部。
【請求項8】
前記被覆膜の膜厚は50μm以上である、
請求項7に記載の医療用エネルギーデバイスの処置部。
【請求項9】
請求項1に記載の処置部を有する、
医療用エネルギーデバイス。
【請求項10】
生体組織に接触した状態で、前記生体組織に対してエネルギーを伝達して前記生体組織を処置する医療用エネルギーデバイスの処置部の製造方法であって、
前記生体組織に前記エネルギーを伝達する本体部と、少なくともD単位とT単位とを含み、全珪素原子に対する、D単位を形成する珪素原子のモル比が40%以上99%以下であり、かつ珪素原子に結合する全官能基に対する、珪素原子に結合するメチル基のモル比が60%以上である重合体を形成するシリコーンを含む塗布液と、を準備することと、
前記塗布液を前記本体部の表面に塗布することと、
塗布された前記塗布液を加熱して硬化させることによって、前記シリコーンを主成分とし、前記本体部の表面を被覆する被覆膜を形成することと、
を含む、
医療用エネルギーデバイスの処置部の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用エネルギーデバイスの処置部、その製造方法、および医療用エネルギーデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
医療用エネルギーデバイスの処置部において、金属製の基材の表面にシリコーン膜を形成した構成が知られている。例えば、特許文献1には、医療用エネルギーデバイスの一例として、金属製の電極部の表面に、導電性材料を含むシリコーン樹脂膜が形成された高周波ナイフが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特開2018-75303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような背景技術には、以下のような問題がある。
医療用エネルギーデバイスにおける処置部は、生体組織に接触した状態で生体組織を加熱することによって、生体組織の切開、焼灼、凝固などの処置を行う。処置が繰り返されことにより、処置部に繰り返しの温度負荷が生じる。
例えば、特許文献1に例示された医療用エネルギーデバイスにおける処置部は、金属製の電極部の表面にシリコーン樹脂膜が形成されている。この場合、電極部とシリコーン樹脂膜との熱膨張係数の差によって、シリコーン樹脂膜に繰り返しの熱応力が発生する。この結果、シリコーン樹脂膜にひび割れが生じたり、シリコーン樹脂膜が電極部から剥離したりする。このようなひび割れまたは剥離が生じると、生体組織が処置部に付着しやすくなるので、処置性能が低下したり、困難になったりする。
近年、処置性能を向上するために、処置部の温度をより高温にした状態で処置が行われることが強く求められている。例えば、シリコーン樹脂膜の場合、特に300℃以上の高温下で処置が繰り返されると、亀裂、剥離などが発生しやすくなり、処置部の寿命が低下しやすい可能性がある。
【0005】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、処置の繰り返しにおける耐久性を向上することができる医療用エネルギーデバイスの処置部、その製造方法、および医療用エネルギーデバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の第1の態様の医療用エネルギーデバイスの処置部は、生体組織に接触した状態で、前記生体組織に対してエネルギーを伝達して前記生体組織を処置する医療用エネルギーデバイスの処置部であって、前記生体組織に前記エネルギーを伝達する本体部と、シリコーンを主成分とし、前記本体部の表面を被覆する被覆膜と、を備え、前記シリコーンにおいて、全珪素原子に対するD単位を形成する珪素原子のモル比が40%以上99%以下であり、かつ前記シリコーンにおいて、珪素原子に結合する全官能基に対する、珪素原子に結合するメチル基のモル比が60%以上である。
【0007】
本発明の第2の態様の医療用エネルギーデバイスの処置部の製造方法は、生体組織に接触した状態で、前記生体組織に対してエネルギーを伝達して前記生体組織を処置する医療用エネルギーデバイスの処置部の製造方法であって、前記生体組織に前記エネルギーを伝達する本体部と、全珪素原子に対するD単位を形成する珪素原子のモル比が40%以上99%以下であり、かつ珪素原子に結合する全官能基に対する、珪素原子に結合するメチル基のモル比が60%以上であるシリコーンを含む塗布液と、を準備することと、前記塗布液を前記本体部の表面に塗布することと、塗布された前記塗布液を加熱して硬化させることによって、前記シリコーンを主成分とし、前記本体部の表面を被覆する被覆膜を形成することと、を含む。
【0008】
本発明の第3の態様の医療用エネルギーデバイスは、第1の態様の処置部を有する。
【発明の効果】
【0009】
上記第1の態様の医療用エネルギーデバイスの処置部、上記第2の態様の医療用エネルギーデバイスの処置部の製造方法、および上記第3の態様の医療用エネルギーデバイスによれば、処置の繰り返しにおける耐久性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る医療用エネルギーデバイスの処置部の例を示す模式的な斜視図である。
図2】本発明の実施形態に係る医療用エネルギーデバイスの処置部の模式的な断面図である。
図3】本発明の実施形態に係る医療用エネルギーデバイスの処置部の作用を説明する模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下では、本発明の実施形態の医療用エネルギーデバイスの処置部およびその製造方法について添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る医療用エネルギーデバイスの処置部の例を示す模式的な斜視図である。図2は、本発明の実施形態に係る医療用エネルギーデバイスの処置部の模式的な断面図である。
【0012】
図1に示す本実施形態の医療用エネルギーデバイス101は、生体組織に接触した状態で、生体組織に対してエネルギーを伝達して生体組織を処置する医療機器の一例である。
処置の種類としては、生体組織に接触した状態で生体組織に対してエネルギーを伝達することによって実現される処置であれば、特に限定されない。例えば、処置の種類としては、生体組織の切断、切除、凝固(止血)、焼灼などが挙げられる。このような処置は、例えば、生体組織の水分が蒸発したり、生体組織のタンパク質が変性したりする温度まで、生体組織の温度を上昇させることによって実現される。
生体組織を高温状態にするために、生体組織に伝達するエネルギーの種類は、特に限定されない。例えば、エネルギーの種類としては、電気エネルギー、超音波振動エネルギー、熱エネルギーなどが挙げられる。生体組織に伝達されるエネルギーは、1種類には限定されず、複数のエネルギーが伝達されてもよい。
具体的な医療用エネルギーデバイスの種類としては、例えば、高周波ナイフ、高周波ハサミ型ナイフ、電気メス、スネア、超音波凝固切開装置、高周波焼灼装置、高周波・超音波混合装置、加熱焼灼ヒータなどが挙げられる。
【0013】
医療用エネルギーデバイス101は、ホルダ9、処置部1、および電源10を備える。
ホルダ9は、処置部1を支持する部材である。ホルダ9は、例えば、術者が手で保持できる形状を有していてもよい。ホルダ9は、例えば、医療用ロボットが保持できる形状を有していてもよい。ホルダ9は、例えば、医療用ロボットに固定されていてもよい。ホルダ9は、患者の体外に配置される部位であり、処置対象の生体組織と接触して用いられることはない。
図1に示す例では、ホルダ9は、術者または医療用ロボットが保持できることを目的として、棒状に形成されている。
【0014】
処置部1は、生体組織と接触した状態で処置に必要なエネルギーを伝達可能な適宜の形状を有する。
図1に示す例では、処置部1は、超音波振動エネルギーと、高周波の電気エネルギーと、の一方または両方を生体組織に伝達できる。
処置部1は、支持部材4、第1把持部2、および第2把持部3を備える。
【0015】
支持部材4は、ホルダ9の端部に固定されている。本実施形態では、支持部材4は棒状部材である。
支持部材4の形状は特に限定されない。図1に示す支持部材4の外形は、一例として、延在方向の側方に4つの側面4bを有する四角柱である。支持部材4の内部には、後述する電源10に接続された配線10aが挿通されている。配線10aは、ホルダ9の内部に挿通されている。配線10aは、ホルダ9の端部からホルダ9の外部に延出している。支持部材4の長さは、ホルダ9を患者の体外において保持した状態において、処置部1を患者の体内において処置対象の近傍に配置できる長さである。
【0016】
支持部材4は、後述する第1把持部2および第2把持部3の近傍では、第1把持部2および第2把持部3からの熱伝導によって温度上昇する可能性がある。第1把持部2および第2把持部3の近傍における支持部材4は、処置対象の生体組織と接触する可能性がある。このため、支持部材4の各側面4bは、少なくとも第1把持部2および第2把持部3の近傍では、生体組織の付着を防止する付着防止膜で被覆されることがより好ましい。
【0017】
本実施形態では、図2に側面4bの近傍の断面構成を示すように、支持部材4は、基材40(本体部)と、被覆膜5と、を備える。
基材40は、例えば、金属、セラミック、樹脂、およびその複合材料のいずれかで形成されてもよい。
基材40に好適に用いることができる金属の例としては、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金などが挙げられる。
基材40に好適に用いることができるセラミックの例としては、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、アルミナ(酸化アルミニウム)などが挙げられる。
支持部材4における被覆膜5は、基材40の表面40aを被覆している。被覆膜5の詳細構成については処置部1の説明の後に説明する。
【0018】
図1に示すように、支持部材4における延在方向の端部において互いに対向する側面4bには、後述する第2把持部3との間に回動支持部4aが設けられている。回動支持部4aは、後述する第2把持部3を延在方向に直交する軸線回りに回動支持する。
【0019】
回動支持部4aの構成は、後述する第2把持部3を回動支持できれば特に限定されない。例えば、回動支持部4aは、回動支軸または軸受を備えてもよい。
図示は省略するが、支持部材4の内部には、後述する第2把持部3の回動量を制御する操作部材が挿通している。操作部材は、ホルダ9の内部に延出され、図示略のホルダ9の操作部と連結されている。例えば、操作部材としては、支持部材4の長手方向に進退する操作ワイヤー、操作ロッドなどが用いられてもよい。
【0020】
第1把持部2および第2把持部3の一方または両方は、生体組織の処置時に、生体組織を把持することができるように、互いに相対移動可能に支持部材4に固定されている。
図1に示す例では、第1把持部2は、支持部材4の先端部から前方に突出する棒状体である。第1把持部2の長手方向の基端部は、支持部材4内に配置された圧電素子が介在した状態で支持部材4に固定されている。
圧電素子は、第1把持部2を超音波振動させる振動源である。圧電素子は、配線10aを通して電源10の振動制御端子と電気的に接続されている。後述する電源10の振動制御端子からは、圧電素子を超音波発振させる駆動信号が供給される。
第2把持部3は、支持部材4における回動支持部4aによって回動可能に支持されている。
本実施形態では、第1把持部2および第2把持部3は、配線10aを通して後述する電源10の高周波出力端子と電気的に接続されている。高周波出力端子からは、第1把持部2および第2把持部3を通して、第1把持部2および第2把持部3と接触する生体組織を高周波処置するための高周波電力が供給される。
【0021】
第1把持部2の表面は、生体組織に接触させる第1把持面2aと、第1把持面2aを除く外表面2bと、からなる。
第1把持部2の形状は特に限定されない。本実施形態では、第1把持部2は、一例として、凸五角形が延在方向に押し出された形状を有する五角柱である。第1把持面2aは、五角柱の延在方向に延び、周方向において互いに隣り合う2つの側面からなる。各第1把持面2aは、延在方向に延びる断面三角形状の突条を形成している。
【0022】
図2に第1把持面2aおよび外表面2bの近傍の断面構成を示す。第1把持部2は、基材20(本体部)と、被覆膜5と、を備える。
基材20は、例えば、金属、セラミック、およびその複合材料のいずれかで形成されてもよい。例えば、基材20がセラミックからなる場合、第1把持部2は、基材20で被覆された金属電極(図示略)をさらに備えることがより好ましい。
基材20に好適に用いることができる金属の例としては、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金などが挙げられる。
基材20に好適に用いることができるセラミックの例としては、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、アルミナ(酸化アルミニウム)などが挙げられる。
高周波出力端子に接続された配線10aは、基材20が金属の場合には基材20に、非金属の基材20が金属電極を被覆している場合には金属電極に、接続される。
第1把持部2における被覆膜5は、基材20の表面20aを被覆している。被覆膜5の詳細構成については処置部1の説明の後に説明する。
【0023】
図1に示すように、第2把持部3は、第1把持部2における第1把持面2aとの間に、生体組織を把持する目的で設けられた棒状体である。
第2把持部3の長手方向の端部には連結部3cが形成されている。
連結部3cは、支持部材4の回動支持部4aと回動可能に連結する。例えば、回動支持部4aが回動支軸を有する場合、連結部3cは、回動支軸を中心として回動可能な溝、穴、軸受などで構成されてもよい。例えば、回動支持部4aが軸受を有する場合、連結部3cは、軸受に係合する軸、突起などで構成されてもよい。
【0024】
本実施形態では、連結部3cと回動支持部4aとは、互いに電気的に絶縁されている。
図示は省略するが、連結部3cの近傍には、上述の操作部材と接続する接続部が形成されている。例えば、操作部材が進退する場合、接続部は操作部材の動きを第2把持部3に伝達する。接続部に作用する操作力のモーメントによって、第2把持部3は回動支持部4aを中心として回動する。
操作部材および接続部の少なくとも一方は、第2把持部3に接続された配線10aとは、電気的に接続されていない。
【0025】
第2把持部3の形状は、被処置体を第1把持部2との間に把持できれば特に限定されない。図1に示す例では、第2把持部3は、第1把持部2と同程度の長さを有する棒状体である。
第2把持部3の表面は、被処置体に接触させる第2把持面3aと、第2把持面3aを除く外表面3bと、からなる。
第2把持面3aは、互いに隣接する2平面からなる。第2把持面3aは、第2把持部3の長手方向に延びるV字溝を形成する。
本実施形態では、V字溝の形状は、第1把持部2における第1把持面2aによる凸形状に対応する凹形状である。回動によって第2把持部3が第1把持部2と平行になるとき(以下、閉状態)、各第2把持面3aは、第1把持部2の各第1把持面2aと互いに平行である。閉状態において互いに対向する第1把持面2aと第2把持面3aとの距離は、0mm以上であって被処置体の厚さよりも小さければ特に限定されない。
ただし、回動によって第2把持部3を第1把持部2に近づけるとき、第1把持面2aがV字溝の内部に入ることができれば、各第1把持面2aのなす角度と、各第2把持面3aのなす角度とは、互いに異なっていてもよい。
【0026】
図2に第2把持面3aおよび外表面3bの近傍の断面構成を示すように、第2把持部3は、基材30(本体部)と、被覆膜5と、を備える。
基材30は、例えば、金属、セラミック、およびその複合材料のいずれかで形成されてもよい。例えば、基材30がセラミックからなる場合、第2把持部3は、基材30で被覆された金属電極(図示略)をさらに備えることがより好ましい。
基材30に好適に用いることができる金属、セラミックの例は、上述の基材20と同様である。
高周波出力端子に接続された配線10aは、基材30が金属の場合には基材30に、非金属の基材30が金属電極を被覆している場合には金属電極に、接続される。
第2把持部3における被覆膜5は、基材30の表面30aを被覆している。被覆膜5の詳細構成については処置部1の説明の後に説明する。
【0027】
図1に示すように、電源10は、配線10aを通して処置部1と電気的に接続されている。電源10は、振動制御端子と、高周波出力端子と、これらに電気信号を出力する電源回路と、を有している。振動制御端子には、第1把持部2が連結された圧電素子を超音波発振させる駆動信号が出力される。高周波出力端子には、第1把持部2と、第2把持部3と、に印加する高周波電力が出力される。
【0028】
処置部1において、第1把持部2および第2把持部3は、生体組織にエネルギーを伝達する本体部の例である。支持部材4は、生体組織にエネルギーを伝達することを目的としていないが、処置中に生体組織と接触して、エネルギーを伝達する可能性がある場合には、本体部の例になっている。
【0029】
次に、被覆膜5について説明する。
被覆膜5は、主として、処置部1に生体組織が付着することを抑制する目的で設けられている。被覆膜5は、処置部1において生体組織と接触する可能性のある部材および部位であれば、どのような部材および部位に設けられてもよい。
図2に示すように、本実施形態では、被覆膜5は、少なくとも、第1把持部2の第1把持面2aおよび外表面2bと、第2把持部3の第2把持面3aおよび外表面3bと、支持部材4の側面4bと、に形成されている。
【0030】
被覆膜5は、シリコーンを主成分としている。被覆膜5は、基材20、30、40の各表面を被覆している。
シリコーンは、撥水性と耐熱性とに優れるので、処置部の表面における付着防止膜として用いられる場合がある。しかし、処置を繰り返すと、次第に処置性能が低下することが知られている。
本発明者の観察によれば、処置性能の低下した処置部には、シリコーン膜がひび割れしたり、本体部から剥落したりする部位に生体組織が付着していた。このような劣化は、シリコーン膜の温度が300℃以上になる場合に、特に顕著に見られた。本発明者は、シリコーン膜のひび割れや剥落は、本体部とシリコーン膜の熱膨張係数の相違によって生じる内部応力に起因すると考え、内部応力の緩和手段を鋭意研究したところ、新規な緩和手段を見出して本発明に到った。
【0031】
シリコーンは、シロキサン結合を主骨格とする有機珪素化合物である。シリコーンは、M単位、D単位、T単位、およびQ単位の組合せによって形成される。
M単位は、1個の珪素原子に対し、酸素原子が1個と、3つの官能基が結合している。M単位の原子団は、隣接する他の単位と酸素原子が共通であるから、Rを有機官能基として、RSiO1/2のように表される。
D単位は、1個の珪素原子に対し、酸素原子が2個と、2個の官能基と、が結合している。D単位の原子団は、RSiO2/2のように表される。
T単位は、1個の珪素原子に対し、酸素原子が3個と、1個の官能基と、が結合している。T単位の原子団は、RSiO3/2のように表される。
Q単位は、1個の珪素原子に対し、酸素原子が4個結合している。Q単位の原子団は、SiO4/2のように表される。
官能基として、メチル基(CH-)が含まれることで、撥水性が顕著になるので、生体組織の付着防止性能を向上できる。官能基としてフェニル基(C-)も好適である。
例えば、他の官能基としては、エチル基、プロピル基、アミノ基などが含まれてもよい。
【0032】
シリコーンは、M単位、D単位、T単位、およびQ単位が種々の割合で互いに結合することによって、全体としての特性が変化する。具体的には、酸素原子は2つの珪素原子に共有されることにより、当該2つの珪素原子を結びつける「手」となる。従って、Q単位は手を4本、T単位は手を3本、D単位は手を2本、M単位は手を1本もつことになる。例えば、Q単位が多い場合、Q単位は手が4本であるから、3次元網目構造が支配的になるので、硬性の固体樹脂が形成される。これに対して、多数のD単位同士が結合すると、D単位は手が2本であるから、線状構造が形成される。この線状構造は、途中で分岐することなく螺旋状に延びるので、伸縮性と可撓性とに富んでいる。
このため、全体として3次元網目構造を有するシリコーン樹脂であっても、D単位の豊富な部位は、Q単位が豊富な部位に比べると、線状構造の割合が高いので、伸縮性と可撓性とに優れる。
【0033】
本実施形態では、被覆膜5に含まれるシリコーンは、シリコーンにおける全珪素原子に対するD単位を形成する珪素原子のモル比が40%以上99%以下であり、かつシリコーンにおいて、珪素原子に結合する全官能基に対する、珪素原子に結合するメチル基のモル比が60%以上である(メチル基のモル比は付着防止性能に関係する)。
以下では、簡単のため、シリコーンにおける全珪素原子に対するD単位を形成する珪素原子のモル比を、「D単位成分モル比」と称する。「D単位成分モル比」は、シリコーンにおける全珪素原子の個数に対するD単位を形成する珪素原子の個数の割合を表す。同様にシリコーンにおける全珪素原子に対するT単位を形成する珪素原子のモル比を、「T単位成分モル比」と称する。
シリコーンにおいて、珪素原子に結合する全官能基に対する、珪素原子に結合するメチル基のモル比を、「メチル基モル比」と称する。「メチル基モル比」は、シリコーンの全珪素原子に結合する全官能基の個数に対するメチル基の個数の割合を表す。
D単位成分モル比は、例えば、被覆膜5の試料の29Si-NMR(核磁気共鳴)スペクトルを測定することによって求めることができる。
メチル基モル比は、例えば、被覆膜5の試料の13C-NMRスペクトルおよびH―NMRスペクトルを測定することによって求めることができる。
【0034】
D単位成分モル比が40%未満であると、相対的にT単位およびQ単位を形成する珪素原子が多くなり、被覆膜5の伸縮性と可撓性とが少なくなるので、処置の繰り返しによる熱応力によってひび割れや剥落が生じ易くなる。
D単位成分モル比はより多い方が好ましい。例えば、D単位成分モル比は60%以上であってもよい。但し、D単位成分のモル比が100%になると被覆膜5の硬度が低く、処置時に破壊される可能性がある。例えば、ポリジメチルシロキサンはD単位成分モル比が100%であるが、被覆膜5の硬度が不十分であることが本願発明者の実験によって明らかになっている。また、D単位成分モル比が高い他のシリコーンで被覆膜5の硬度が不十分であるものは発見されていない。このため、D単位成分モル比は40%以上99%以下が適切な範囲と言える。
D単位成分モル比は40%以上が適切な範囲であるとした場合には、ポリジメチルシロキサンを除外する必要がある。
【0035】
メチル基モル比が60%未満であると、被覆膜5の撥水性が低下するので、被覆膜5における生体組織の付着防止性能自体が低下する。
メチル基モル比は多いほどより好ましい。例えば、メチル基モル比は90%以上であってもよい。
【0036】
被覆膜5の膜厚は、被覆膜5の内部応力を低減しやすい点では、薄いほどより好ましい。例えば、被覆膜5の膜厚は、60μm以下であることがより好ましい。
被覆膜5の膜厚が60μmを越えると、処置の繰り返しに伴う温度差による内部応力の変化が大きくなるので、被覆膜5が劣化しやすくなる。
内部応力の変化を小さくできる点では、被覆膜5の膜厚の下限値は特に限定されない。例えば、被覆膜5の膜厚は1nm以上であってもよい。
被覆膜5をより容易に製造できるようにする観点では、被覆膜5の膜厚は10μm以上であることがより好ましい。
被覆膜5の絶縁性を確保しやすくする観点では、被覆膜5の膜厚は20μm以上であることがより好ましい。
【0037】
被覆膜5としてシリコーン膜単体を20μmより厚く成膜した場合、処置部1から生体組織に高周波を通電することはできない。しかし、被覆膜5として、シリコーン膜を20μm以下で成膜すること、またはシリコーン膜に導電フィラーを配合することによって、処置部1から生体組織に高周波を通電することが可能になる。
例えば、高周波通電によって止血を行う場合には、処置部1において生体組織を把持する表面への焦げ付きが生じる可能性もある。しかし、被覆膜5として、シリコーン膜単体を20μm以下で成膜すること、またはシリコーンに導電フィラーを配合することによって、処置部1の把持する側に用いても、処置時の焦げ付きを防ぐことができる。
このため、特に高周波通電が必要な処置を行う処置部1では、少なくとも第1把持面2aおよび第2把持面3aを覆う被覆膜5は、導電性フィラーを含むシリコーン膜か、または導電性フィラーを含まない膜厚20μm以下のシリコーン膜で形成されることがより好ましい。
【0038】
被覆膜5に好適に用いることができる導電性フィラーの例としては、銅、銀、アルミナ、タングステン、カーボンなどが挙げられる。
また、導電性フィラーの被覆膜5全体に占める体積比率は40%以上から90%以下が良好な導電性を得るために好ましいことが発明者の実験から明らかになっている。
導電性フィラーは被覆膜5の内部に混入されてもよいし、シリコーンを成膜した後、シリコーン膜の表面に塗布するなどして付着させることによって、被覆膜5の表面部に配置されてもよい。
【0039】
被覆膜5は中空フィラーを含有してもよい。この場合、被覆膜5の断熱性を向上させることができる。例えば、中空フィラーの材料は、アルミナ、シリカ、ホウケイ酸アルミナガラス、ホウケイ酸ナトリウム、アミノケイ酸ガラス、ソーダ石灰ホウケイ酸ガラスなどであってもよい。例えば、中空フィターは、導電フィラーであってもよい。
中空フィラーの形状、中空率などは、被覆膜5に必要な断熱性能が得られれば、特に限定されない。
例えば、処置時には処置部の背面等の外表面2b、3bが高温になりすぎると、外表面2b、3bにおける高温部が臓器等の生体組織に接触することによって、生体組織が損傷する可能性がある。
被覆膜5の断熱性が良好であると、処置時に発生する熱が処置部1の背面等に伝わりにくくなるので、熱による臓器等の損傷を防ぐことができる。
被覆膜5の体積に占める中空空間(vacant space)の体積の割合を中空率(vacancy rate)として定義すると、例えば、中空率が20%以上90%以下において被覆膜5は良好な断熱性をもつ。
中空率が20%を下回ると断熱性が不十分となる可能性があり、中空率が90%を超えると膜の強度が不足する可能性がある。
【0040】
被覆膜5に中空フィラーを含有させる代わりに、被覆膜5の中に気泡を分散させて被覆膜5の内部に中空空間を形成してもよい。この場合にも、中空率は20%以上90%以下であってもよい。
【0041】
中空フィラーの添加または中空空間の形成によって被覆膜5の断熱性を向上する場合、被覆膜5の膜厚は厚い方がよい。例えば、被覆膜5の膜厚は、50μm以上であることが好ましい。
【0042】
例えば、処置部1において処置対象と接触し処置対象に超音波振動を伝達する超音波振動部上にシリコーンレジンを塗装して被覆膜を形成する場合、被覆膜が超音波の振動に追従することができず、破壊されてしまう可能性がある。
しかし、後述するように、本実施形態における被覆膜5の主成分であるシリコーンは、D単位を多く含むのでシリコーンレジンに比べて柔軟である。このため、本実施形態における被覆膜5は、シリコーンレジン膜に比べると、超音波振動を受けても超音波振動に追従しやすいので、破壊されにくく、耐久性が向上する。
このため、本実施形態の被覆膜5は、超音波振動する処置部1において特に好適である。
【0043】
次に、本実施形態の医療用エネルギーデバイスの処置部1の製造方法について説明する。
処置部1を製造するには、基材20、30、40の各表面に被覆膜5を形成して、第1把持部2、第2把持部3、および支持部材4を形成する。この後、第1把持部2、第2把持部3、および支持部材4を組み立てることにより、処置部1が製造される。
基材20、30、40に被覆膜5を形成する工程は、共通なので、以下では、基材20に被覆膜5を形成する例で説明する。第2把持部3、支持部材4の製造方法については、以下の基材20および表面20aを、それぞれ基材30、40および表面30a、40aに読み換えればよい。
【0044】
第1把持部2の製造工程には、被覆膜5に関連する工程として、準備工程と、塗布工程と、硬化工程とが、含まれる。
準備工程では、基材20と、被覆膜5を成膜するための塗布液と、を準備する。
本工程において準備される基材20の表面20aは、被覆膜5を除く第1把持部2の形状に形成される。
塗布液は、重合体を形成する少なくとも1種のシリコーンを含んでいる。少なくとも1種のシリコーンは、重合時に、D単位成分モル比が40%以上になり、かつメチル基モル比が60%以上になる材料が選ばれる。
すなわち、塗布液に含まれるシリコーンの全体における、D単位成分モル比は、重合反応におけるD単位の減少分を考慮して40%よりも大きい。同様に、塗布液に含まれるシリコーンの全体における、メチル基モル比は、重合反応におけるメチル基の減少分を考慮して60%よりも大きい。
塗布液におけるD単位成分モル比は、例えば、塗布液の試料の29Si-NMR(核磁気共鳴)スペクトルを測定することによって求めることができる。
塗布液におけるメチル基モル比は、例えば、塗布液の試料の13C-NMRスペクトルおよびH―NMRスペクトルを測定することによって求めることができる。
【0045】
塗布液に複数種類のシリコーンが含有される場合、複数種類のシリコーンを適宜の比率で混合することで、塗布液中のシリコーンのD単位の量、メチル基の量などを調整できる。複数種類のシリコーンにおけるD単位およびメチル基の量は、硬化後に必要なD単位およびメチル基の量が得られれば、特に限定されない。
例えば、複数種類のシリコーンには、分子中のD単位成分モル比が大きい第1シリコーンと、第1シリコーンに比べて分子中のD単位成分モル比が小さい第2シリコーンと、が含まれてもよい。この場合、第1シリコーンと第2シリコーンとの配合比によって、硬化後のD単位の量を制御しやすい。
第1シリコーンおよび第2シリコーンの各分子におけるメチル基モル比の大きさは、重合体におけるメチル基モル比が全体として60%以上になれば、特に限定されない。メチル基モル比を向上しやすい点では、第1シリコーンがメチル基を含むことが好ましく、第1シリコーンおよび第2シリコーンの両方がメチル基を含むことがより好ましい。
【0046】
第1シリコーンとしては、D単位が多いシリコーンであれば、特に限定されない。例えば、第1シリコーンとしては、ポリジオルガノシロキサンが用いられてもよい。被覆膜5におけるメチル基の含有量を増大させやすい点では、第1シリコーンとして、ポリジメチルシロキサンを用いることがより好ましい。
第2シリコーンとしては、第1シリコーンに比べて分子中のD単位成分モル比が小さいシリコーンであり、T単位を含んでいれば、特に限定されない。例えば、第2シリコーンは、D単位を含んでいなくてもよい。例えば、第2シリコーンはQ単位を含んでいてもよい。
例えば、第2シリコーンとしては、分子中の珪素原子においてT単位を形成する珪素原子のモル比が大きいポリオルガノシリコーンが用いられてもよい。例えば、第2シリコーンとしてシリコーンレジンなどが用いられてもよい。被覆膜5におけるメチル基の含有量を増大させやすい点では、第2シリコーンの官能基の主成分は、メチル基であることがより好ましい。
【0047】
塗布液には、例えば、シリコーンの他に、溶剤、顔料、粘度調整剤、シリコーンを重合させる添加物、導電フィラー、中空フィラーなどが含まれてもよい。
シリコーンを重合させる添加物としては、重合開始剤、pH調整剤などが挙げられる。
重合開始剤の例としては、例えば、チタンアルコキシド、スズ化合物などの重合触媒を挙げることができる。
pH調整剤の例としては、例えば、塩酸、水酸化ナトリウムなどを挙げることができる。
【0048】
準備工程の後、塗布工程が行われる。
塗布工程では、塗布液を基材20の表面20aに塗布する。塗布量は、硬化時の膜厚が60μm以下になる量であることがより好ましい。
塗布方法は、特に限定されない。例えば、塗布方法としては、スプレー塗装、ディップ塗装、スピン塗装、はけ塗り、真空蒸着などが挙げられる。
【0049】
塗布工程の後、硬化工程が行われる。
硬化工程では、表面20aに塗布した塗布液を加熱して硬化させる。加熱方法と加熱条件とは、塗布液中のシリコーンの重合反応が進行して、被覆膜5が形成できれば特に限定されない。例えば、重合開始温度未満で溶剤を揮発させる低温で加熱し、この後、重合開始温度以上に加熱してもよい。
【0050】
以上、第1把持部2における被覆膜5の形成工程について説明した。同様にして、基材30の表面30a上に被覆膜5を形成して第2把持部3を、基材40の表面40a上に被覆膜5を形成して支持部材4を、それぞれ製造できる。
第1把持部および第2把持部3に、配線10aを接合し、操作部材を連結するなどした状態で、第1把持部および第2把持部3を支持部材4およびホルダ9に固定する。これにより処置部1が製造される。
【0051】
次に、処置部1の作用について、被覆膜5の作用を中心として説明する。
医療用エネルギーデバイス101は、例えば、生体組織を第1把持部2および第2把持部3で挟んだ状態で、超音波振動エネルギーおよび高周波の電気エネルギーの一方または両方を、生体組織に伝達することができる。
例えば、電源10から配線10aを通して圧電素子の駆動信号が供給されると、圧電素子が超音波振動する。第1把持部2が超音波振動すると、第1把持部2に当接する生体組織に超音波振動が伝達される。第2把持部3と生体組織との接触部における摩擦熱によって生体組織が加熱される。
例えば、電源10から配線10aを通して、第1把持部2と第2把持部3との間の生体組織に高周波電流が流れ、ジュール熱が発生する。これにより生体組織が加熱される。
このようにして、超音波振動および高周波電流の一方または両方によって生体組織が加熱されると、生体組織の水分が急速に蒸発し、生体組織のタンパク質が変性する。これにより、生体組織が焼灼される。生体組織に血液が流れている場合には、焼灼部において止血される。処置目的が止血の場合には、止血状態で加熱を停止する。
例えば、処置目的が切断の場合には、さらに加熱を続ける。焼灼された生体組織は脆くなり、第1把持部2および第2把持部3からの押圧力によって、脆弱部が切断される。
【0052】
処置を迅速に行うためには、処置対象の生体組織の温度をなるべく高くする必要がある。例えば、処置対象の生体組織の温度は、従来200℃程度であったが、より迅速に処置を行うには、300℃以上であることがより好ましい。この場合、生体組織と接触する処置部1の温度も300℃以上になる。
被覆膜5は、主成分がシリコーンの重合体からなるので、全体としては、強固なシロキサン結合による3次元網目構造を含む固体膜である。
被覆膜5は、シリコーンにおける官能基として、撥水性に優れるメチル基をモル比で60%以上含むので、生体組織の付着防止性能に優れる。
【0053】
シロキサン結合は熱分解温度が高いので、被覆膜5は、耐熱性に優れる。例えば、被覆膜5は、単体では、400℃以下であれば使用可能である。
しかし、被覆膜5は、シリコーンよりも熱膨張係数が小さい金属、セラミックなどからなる基材20等に成膜されている。被覆膜5は処置が繰り返されると、熱膨張係数の違いに応じて、繰り返しの熱応力を受ける。処置時における生体組織の温度が高いほど、熱応力も大きくなる。
このため、シリコーンの耐熱温度より低い温度でも、処置を繰り返すにつれてシリコーンが劣化し、処置部の被覆膜にひび割れや剥がれなど生じるという問題が従来はあった。
【0054】
図3は、本発明の実施形態に係る医療用エネルギーデバイスの処置部の作用を説明する模式的な断面図である。
本実施形態では、被覆膜5の主成分であるシリコーンの重合体において、D単位成分モル比が40%以上であるので、Q単位が豊富な部位の間に、D単位同士が結合する線状構造が多数形成されている。D単位同士が結合する線状構造は螺旋状に延びるので、主としてQ単位で構成される3次元網目構造に比べると、伸縮性と可撓性に優れる。
このため、被覆膜5は、図3の(a)に模式的に示すように、Q単位を主体とし相対的に硬質な多数の硬質部5Bの間に、D単位をより多く含む相対的に軟質な多数の軟質部5Aが介在した膜構造を有する。
例えば、処置が行われると、処置対象の生体組織とともに処置部1の温度が上昇し、被覆膜5および基材20が熱膨張する。被覆膜5には、基材20と被覆膜5のシリコーンの各熱膨張係数の差に基づく内部応力が発生する。
しかし、図3の(b)に温度上昇時の様子を模式的に示すように、硬質部5BよりもD単位のモル比が多い軟質部5Aは、変形容易であるため、内部応力が緩和されやすい。この結果、被覆膜5の全体として温度上昇による内部応力が緩和されるので、繰り返しの熱応力によるひび割れ、剥がれなどが抑制される。
【0055】
被覆膜5の膜厚が薄いほど、熱膨張の繰り返しによる内部応力の変化自体が抑制されるので、被覆膜5の膜厚をなるべく薄くすることによって、被覆膜5の耐久性をさらに向上することができる。
【0056】
以上説明したように、本実施形態の処置部1および医療用エネルギーデバイス101によれば、処置の繰り返しにおける耐久性を向上することができる。
【0057】
なお、上記実施形態の説明では、生体組織に対して、超音波振動および高周波電気エネルギーの一方または両方を伝達可能な医療用エネルギーデバイスに用いる処置部の例で説明した。しかし、生体組織を処置する際のエネルギーは、これには限定されない。
例えば、処置部は、超音波振動のみ、または高周波電気エネルギーのみを生体組織に伝達してもよい。
例えば、処置部は、ヒータ等の加熱装置を備え、生体組織に加熱装置で発生した熱エネルギーを伝達してもよい。
【0058】
上記実施形態の説明では、処置部は、生体組織を把持する機構を有し、生体組織を把持して処置を行う例で説明した。しかし、処置部は、生体組織を把持する機構を有しなくてもよい。この場合、例えば、処置部は、生体組織に押し付けて処置を行える棒状、板状などの形状に形成されてもよい。
【0059】
上記実施形態の説明では、第1把持面2a、第2把持面3aの形状が平面の組合せからなる場合の例で説明した。しかし、被覆膜が被覆する基材の表面は、例えば、平面、湾曲面などでもよい。被覆膜が被覆する基材の表面は、例えば、膜厚に比べて凹凸量が小さい凹凸面でもよい。
【0060】
上記実施形態の説明では、処置部1における第1把持部2、第2把持部3、および支持部材4の各表面の全体に、同様の被覆膜5が形成された例で説明した。
しかし、処置部1の各表面における温度、生体組織との接触可能性などに応じて、被覆膜5の組成、膜厚などが適宜変えられてもよい。
特に、支持部材4は、第1把持部2および第2把持部3に比べると、使用時に被処置体に押圧される機会が少ない。さらに、支持部材4の温度は、第1把持部2および第2把持部3に比べるとより低い可能性がある。したがって、支持部材4における機械的強度、耐熱性、および生体組織の付着防止性は、第1把持部2および第2把持部3よりも低くてもよい場合がある。
同様に、第1把持部2および第2把持部3において、第1把持面2aおよび第2把持面3aにおける被覆膜5の材料、膜厚と、外表面2b、3bにおける被覆膜5の組成、膜厚とは、互いに異なっていてもよい。
さらに、処置部1において、生体組織が接触する可能性が低いか、または低温の表面には、被覆膜5が形成されていなくてもよい。すなわち、D単位成分モル比が40%以上かつメチル基モル比が60%以上のシリコーンを主成分とする被覆膜5は、少なくとも処置部1において生体組織が接触する表面領域に形成されていればよい。処置部1において、被覆膜5で覆われる以外の表面領域は、本体部が露出していてもよいし、被覆膜5に該当しない被覆膜が形成されていてもよい。
【実施例
【0061】
次に、実施形態に関する実施例1~5について、比較例1、2とともに説明する。下記[表1]に、実施例1~5および比較例1、2における塗布液の成分、被覆膜の構成、および評価結果が示されている。
【0062】
【表1】
【0063】
[実施例1]
実施例1は、上述の処置部1に対応する実施例である。
実施例1では、第1把持部2、第2把持部3、および支持部材4の形状に形成された基材20、30、40と、被覆膜5を形成するため塗布液と、が準備された。
基材20、30、40の材料としては、ステンレス鋼であるSUS304が用いられた。
[表1]に示すように、塗布液は、第1シリコーン、第2シリコーン、および重合開始剤を含んで調製された。
第1シリコーンと第2シリコーンとを混合しているのは、それぞれの配合比を変えることによって、D単位モル比が異なる他の実施例に用いる塗布液を容易に調製できるからである。
第1シリコーンとしては、D単位成分モル比が100%のポリジオルガノシロキサンが用いられた。第1シリコーンの官能基はすべてメチル基([表1]には「メチル」と記載)とされた。第1シリコーンの含有量は100質量部であった。
第2シリコーンとしては、T単位成分モル比が100%であり、官能基としてメチル基とフェニル基とを含むメチル/フェニルシリコーンレジン([表1]の「官能基」には「メチル/フェニル」と記載)が用いられた。第2シリコーンの含有量は80質量部であった。
重合開始剤としては、重合触媒であるチタンアルコキシドを15質量部添加した。
【0064】
この後、基材20、30、40の表面に、スプレー塗装によって塗布液を塗布した。塗布量は、硬化時の膜厚が80μmになるようにした。
この後、塗膜が形成された基材20、30、40を80℃に調整され乾燥炉内で30分間加熱し、塗膜を仮硬化させた。この後、塗膜が形成された基材20、30、40を240℃に調整された乾燥炉内で1時間加熱した。これにより、第1シリコーンおよび第2シリコーンの重合が進み、膜厚80μmの被覆膜5が形成された。
このようにして形成された第1把持部2、第2把持部3、および支持部材4を組み立てて、実施例1の処置部1を製造した。
【0065】
[実施例2~5]
以下、実施例2~5について、実施例1等と異なる点を中心に説明する。
実施例2では、塗布液における第2シリコーンが40質量部とされた以外は、実施例1と同様の被覆膜5が形成された。
実施例3では、塗布液における第2シリコーンの官能基がすべてメチル基とされた以外は、実施例2と同様の被覆膜5が形成された。
実施例4では、塗布液の塗布量を変更することにより、膜厚が20μmとされた以外は、実施例3と同様の被覆膜5が形成された。
実施例5では、塗布液における第2シリコーンが105質量部とされた以外は、実施例4と同様の被覆膜5が形成された。
【0066】
[比較例1、2]
比較例1では、塗布液における第2シリコーンが200質量部とされた以外は、実施例3と同様の被覆膜が形成された。
比較例2では、塗布液における第1シリコーンの官能基がすべてフェニル基であり、第2シリコーンの官能基がすべてメチル基である以外は、実施例1と同様の被覆膜が形成された。
【0067】
[被覆膜の評価]
各実施例、各比較例の各被覆膜のD単位成分モル比([表1]には「D単位の珪素のモル比」と記載)と、メチル基モル比([表1]には「メチル基のモル比」と記載)、とを測定した。
D単位成分モル比の定量方法としては、核磁気共鳴装置 JNM-ECA400(商品名;日本電子(株)製)を用いた固体29Si-NMR法が用いられた。具体的には、29Si-NMRスペクトルを取得、分析し、D単位成分モル比を、すべてのピーク面積に対するD単位のピーク面積の比として定量した。
メチル基モル比の定量方法としては、JNM-ECA400を用いた固体13C-NMR法と、固体H-NMR法とを併用した。具体的には、13C-NMRスペクトルと、H-NMRスペクトルと、を取得、分析し、メチル基モル比を、珪素原子に結合している全官能基のピーク面積に対するメチル基のピーク面積の比として定量した。
【0068】
[処置性能の評価]
各実施例、各比較例の各処置部は、医療用エネルギーデバイスとして組み立てられた後、生体組織の切開処置試験が行われた。
被処置体である生体組織としては、豚の血管が用いられた。
1回の切開動作は、処置部によって豚の血管を2Nの力で把持し、3秒間保持して行った。その際、超音波振動と高周波電力との発振パターンと、被覆膜の温度との関係を予め調べておき、被覆膜の温度が300℃となる発振パターンに基づく信号を印加した。
被処置体に対して、5秒おきに、上述の切開動作を繰り返した。各切開動作が終了した時点で、血管の切り分かれたかどうかと、処置部に生体組織が付着しているかどうかと、を評価した。
処置部に生体組織が付着しており、かつ血管が切り分かれなくなったときまでの回数を切開回数として記録した([表1]参照)。各実施例および各比較例において、血管が切り分かれていない場合に、生体組織の付着が見られなかった例はなかった。このため、処置部の切開性能の低下は、生体組織の付着に起因すると考えられる。
切開回数が50回以上の場合を、「良い」(good、[表1]では「A」と記載)と定義した。切開回数が50回未満の場合を、「不良」(not good、[表1]では「B」と記載)と定義した。
【0069】
[評価結果]
[表1]に示すように、実施例1~5におけるD単位成分モル比は、それぞれ50%、73%、73%、73%、43%であった。実施例1~5におけるメチル基モル比は、それぞれ67%、84%、100%、100%、60%であった。
これに対して、比較例1、2におけるD単位成分モル比は、それぞれ29%、50%であった。比較例1、2におけるメチル基モル比は、それぞれ100%、33%であった。
実施例1~5における切開回数は、それぞれ50回、60回、80回、90回、70回であった。
これに対して、比較例1、2における切開回数は、それぞれ20回、10回であった。
【0070】
以上の評価結果から、実施例1~5の被覆膜5は、いずれも、D単位成分モル比が40%以上99%以下であり、かつメチル基モル比が60%以上であった。
実施例1~5の切開性能は、いずれも「良い」と判定された。
膜厚が同じ場合には、D単位成分モル比と、メチル基モル比と、が大きいほど、切開回数が多かった。例えば、実施例2、3を比べると、膜厚およびD単位成分ンモル比が同じ場合には、メチル基モル比が大きい実施例3の方が、切開回数が多かった。
例えば、実施例3、4を比べると、D単位成分モル比と、メチル基モル比と、が同じ場合には、膜厚が薄い実施例4の方が、切開回数が多かった。
例えば、実施例1、5を比べると、実施例1よりもD単位成分モル比と、メチル基モル比と、が小さくても、膜厚が薄い実施例5の方が、切開回数が多かった。
膜厚が薄いと、被覆膜5に発生する内部応力が低くなるため、被覆膜のひび割れ等が発生しにくくなり、切開性能が向上すると考えられる。
【0071】
これに対して、比較例1、2はいずれも「不良」と判定された。
比較例1の場合、膜厚とメチル基モル比とが、実施例3と同じであったが、D単位成分モル比が40%未満であったため、切開回数が格段に少なくなった。
比較例1では、メチル基による付着防止効果は実施例3と同様だった。しかし、D単位が少なすぎて、被覆膜の伸縮性および可撓性が低かったと考えられる。このため、切開の繰り返しで、被覆膜にひび割れが生じ、ひび割れに固着する生体組織が増えたことにより切開性能が低下したと考えられる。
比較例2の場合、膜厚とD単位成分モル比とが、実施例1と同じであったが、メチル基モル比が60%未満であったため、切開回数が格段に少なくなった。
比較例2では、D単位成分モル比によって、ある程度伸縮性を有していた。しかし、被覆膜の表面の撥水性が不充分であったため、付着防止性能が低下したと考えられる。
【0072】
次に、実施形態に関する実施例6~9について、比較例3~5とともに説明する。実施例6~9および比較例3~5は、被覆膜5に中空フィラーが含有された実施例および比較例である。実施例6~9および比較例3~5による評価は、中空フィラーを含有した被覆膜の断熱性能の評価を目的としている。
以下、実施例1と異なる点を中心に説明する。
下記[表2]に、実施例6~9および比較例3における塗布液の成分、被覆膜の構成、および評価結果が示されている。
なお、被覆膜の耐久性の評価に関しては、特に示していないが、D単位成分モル比が40%以上99%以下であり、かつメチル基モル比が60%以上であった実施例6~9、比較例3は、いずれも良好な性能を示した。
【0073】
【表2】
【0074】
[実施例6~9]
実施例6では、第2シリコーンが50質量部とされ、第1シリコーンの官能基がすべてメチル基、第2シリコーンの官能基がすべてメチル基であり、中空フィラーが10質量部添加された塗布液によって形成された以外は、実施例1と同様の被覆膜5が形成された。ただし、実施例6~9における被覆膜5は、処置時に生体組織を把持しない部位、例えば、第1把持部2の外表面2bおよび第2把持部3の外表面3b等の部位に形成された。
中空フィラーの材料としては、アルミナホウケイ酸ガラス系の無機材料が用いられた。
実施例7では、膜厚が100μmとされた以外は、実施例6と同様の被覆膜5が形成された。
実施例8では、第2シリコーンが80質量部とされた塗布液によって形成された以外は、実施例6と同様の被覆膜5が形成された。
実施例9では、塗布液における中空フィラーが45質量部とされた以外は、実施例8と同様の被覆膜が形成された。
【0075】
[比較例3]
比較例3では、塗布液における中空フィラーが5質量部とされた以外は、実施例7と同様の被覆膜が形成された。
【0076】
[比較例4]
比較例4では、塗布液における第2シリコーンが200質量部とされた以外は、実施例7と同様の被覆膜が形成された。
【0077】
[比較例5]
比較例5では、塗布液における中空フィラーが50質量部とされた以外は、比較例4と同様の被覆膜が形成された。ただし、比較例5では、成膜後すぐに被覆膜が剥離した。
【0078】
[被覆膜の評価]
実施例6~9、比較例3~5の各被覆膜のD単位成分モル比([表2]には「D単位の珪素のモル比」と記載)と、メチル基モル比([表2]には「メチル基のモル比」と記載)、とを、実施例1と同様にして測定した。
さらに、走査型電子顕微鏡 ERA-600FE(商品名;(株)エリオニクス製)を用いて、実施例6~9、比較例3~5の各被覆膜の断面を観察することによって、中空率を測定した。
実施例6~9、比較例3~5は、中空フィラーを含有した被覆膜の断熱性能の評価を目的としたので、処置性能の定量評価は省略した。しかし、実施例6~9、比較例3によって切開を実施したところ、中空フィラーが含有されていても、処置性能はD単位成分モル比に応じた性能を示した。
【0079】
[断熱性能の評価]
実施例6~8、比較例3、4の各処置部は、医療用エネルギーデバイスとして組み立てられた後、被覆膜の断熱性能を評価する目的で、以下のようにして、処置部部の断熱性能試験が行われた。
まず、処置部の表面が300℃になるように、超音波振動と高周波電力とを発振した後、常温に戻すことを、500回繰り返した。この後、再度、処置部の表面が300℃になるよう発振した後、発振を停止してすぐに、処置部において生体組織を把持していない外表面、具体的には、外表面のうち把持面に対向する背面部を豚肝臓に2Nの力で3秒間押し付けた。
この後、背面部を押し付けた豚肝臓の表面(押し付け面)において白化(白焼け)した部位の表面積を測定し、押し付け面の総面積に対する白化した部位の表面積の割合(白焼け面積の割合)を求めた。
白焼け面積の割合が、10%以下の場合を「非常に良い」(very good)、[表2]では、「A+」と記載)、10%を超え60%以下の場合を「良い」(good)、[表2]では「A」と記載)、60%を超えた場合を「不良」(not good)、[表2]では「B」と記載)と定義した。
【0080】
[評価結果]
[表2]に示すように、実施例6~9におけるD単位成分モル比は、それぞれ62%、62%、50%、50%であった。実施例6~9におけるメチル基モル比は、すべて100%であった。
これに対して、比較例3~5におけるD単位成分モル比は、それぞれ62%、30%、30%であった。比較例3~5におけるメチル基モル比は、すべて100%であった。
実施例6~9における被覆膜5の中空率は、それぞれ20%、20%、20%、90%であった。
これに対して、比較例3~5における被覆膜の中空率は、それぞれ10%、20%、95%であった。
実施例6~9における白焼け面積の割合は、それぞれ、9%、5%、50%、2%であった。このため、実施例6、7、9の断熱性能は「非常に良い」、実施例8の断熱性能は「良い」と判定された。
これに対して、比較例3、4における白焼け面積の割合は、いずれも80%であった。このため、比較例3、4の断熱性能は「不良」と判定された。
比較例5は、被覆膜が評価開始までに剥離していたので、白焼け面積も評価できなかった。このため、断熱性能も「不良」と判定された。
【0081】
以上の評価結果から、実施例6~9の被覆膜5は、いずれも、D単位成分モル比が40%以上99%以下であり、かつメチル基モル比が60%以上であった。
断熱性能に関しては、被覆膜の中空率が20%以上90%以下の実施例6~9では、白焼け面積が「非常に良い」または「良い」と判定された。
実施例6~9の被覆膜5は、断熱性が良好だったので、被覆膜を通した豚肝臓へ伝熱が少なくなり、白焼け面積の割合が小さかった。
これに対して、比較例3では、被覆膜の中空率が10%と低かったので、断熱性能が低くなり、白焼け面積が「不良」と判定された。
比較例4では、被覆膜の中空率は20%であったが、白焼け面積が「不良」と判定された。この理由は、D単位の珪素のモル比が30%と低かったため、被覆膜の耐久性が低くなり、被覆膜が破壊されたからである。
被覆膜5の中空率を20%以上90%以下にすると被覆膜5の断熱性能が向上するので、生体組織への伝熱が低減し、生体組織が損傷することを抑制できることが分かった。
【0082】
以上、本発明の好ましい実施形態を各実施例とともに説明したが、本発明はこれらの実施形態、各実施例に限定されることはない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。
また、本発明は前述した説明によって限定されることはなく、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【産業上の利用可能性】
【0083】
上記実施形態によれば、処置の繰り返しにおける耐久性を向上することができる医療用エネルギーデバイスの処置部、その製造方法、および医療用エネルギーデバイスを提供できる。
【符号の説明】
【0084】
1 処置部
5 被覆膜
20、30、40 基材(本体部)
101 医療用エネルギーデバイス
図1
図2
図3