(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】炭素量子ドットの製造方法
(51)【国際特許分類】
B82B 3/00 20060101AFI20240828BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20240828BHJP
B82Y 20/00 20110101ALI20240828BHJP
C09K 11/65 20060101ALI20240828BHJP
C09K 11/08 20060101ALI20240828BHJP
C01B 32/15 20170101ALI20240828BHJP
【FI】
B82B3/00
B82Y40/00 ZNM
B82Y20/00
C09K11/65
C09K11/08 A
C01B32/15
(21)【出願番号】P 2023509005
(86)(22)【出願日】2022-03-11
(86)【国際出願番号】 JP2022010764
(87)【国際公開番号】W WO2022202385
(87)【国際公開日】2022-09-29
【審査請求日】2023-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2021050403
(32)【優先日】2021-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 裕佳
(72)【発明者】
【氏名】坂部 宏
(72)【発明者】
【氏名】石津 真樹
(72)【発明者】
【氏名】葛尾 巧
【審査官】今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110003899(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110184050(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108441214(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108559497(CN,A)
【文献】特開2018-035035(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B82B 1/00-3/00
B82Y 5/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ素、硫黄
、またはリンを含有し、かつ1気圧、25℃において固体である結晶性化合物、および反応性基を有する有機化合物を混合し、混合物を調製する工程と、
前記混合物を実質的に無溶媒で100℃以上300℃以下に加熱し、炭素量子ドットを調製する工程と、
を有し、
前記結晶性化合物が有機化合物であり、分子中に芳香環を有し、
前記混合物における、前記結晶性化合物の量が、前記有機化合物の量100質量部に対して45質量部以上1000質量部以下である、
炭素量子ドットの製造方法。
【請求項2】
前記炭素量子ドット
に、波長350nm以上700nmの光を照射したときの極大発光波長が350nm以上
700nm以下である、
請求項1に記載の炭素量子ドットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、25℃、1気圧で固体状の炭素量子ドットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素量子ドットは粒子径が数nmから数10nm程度の安定な炭素系微粒子であり、良好な蛍光特性を示すことから、太陽電池、ディスプレイ、セキュリティインク等のフォトニクス材料への使用が期待されている。また、低毒性で生体親和性も高いため、バイオセンサーやイメージング等の医療分野への応用も期待されている。
【0003】
炭素量子ドットを含有する発光体として、ホウ酸マトリクスと、当該マトリクス中に担持された炭素量子ドットと、を含む発光体が報告されている(非特許文献1)。当該文献には、炭素量子ドットを水熱合成によって形成し、反応液から固形分を遠心分離除去後、上澄み液の透析精製物をフリーズドライして固体状の炭素量子ドットを調製することが記載されている。その後、固体状の炭素量子ドットとホウ酸水溶液とを混合し、100~400℃で加熱して(例えば180℃で5時間加熱して)、混合液中の水分を徐々に蒸発させることで、アモルファスのガラス状複合体を得ることも記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Angewandte Chemie International Edition 2019,58,7278-7283
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、当該方法では、水熱合成や、遠心分離、透析、フリーズドライ、ホウ酸との複合化等、種々の工程を行う必要があり、さらには様々な溶媒や装置が必要であった。
【0006】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、発光量子収率が高い炭素量子ドットを非常に簡便な方法で製造する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の炭素量子ドットの製造方法を提供する。
ホウ素、硫黄、および/またはリンを含有し、かつ1気圧、25℃において固体である結晶性化合物、および反応性基を有する有機化合物を混合し、混合物を調製する工程と、前記混合物を実質的に無溶媒で100℃以上300℃以下に加熱し、炭素量子ドットを調製する工程と、を有し、前記混合物における、前記結晶性化合物の量が、前記有機化合物の量100質量部に対して45質量部以上1000質量部以下である、炭素量子ドットの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の炭素量子ドットの製造方法によれば、遠心分離や透析、フリーズドライ等を行うことなく、発光量子収率が高い炭素量子ドットが、簡便なプロセスで得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1Aは、実施例3の炭素量子ドットの製造方法で得られた、炭素量子ドットおよび結晶性化合物を含む組成物の透過型電子顕微鏡による写真であり、
図1Bは、
図1Aの写真の中央付近を拡大した写真である。
【
図2】
図2Aは、実施例10の炭素量子ドットの製造方法で得られた、炭素量子ドットおよび結晶性化合物を含む組成物の透過型電子顕微鏡による写真であり、
図2Bは、
図2Aの写真を拡大した写真であり、
図2Cは、
図2Bの写真の空孔内部の写真である。
【
図3】
図3は、実施例5、比較例11、および比較例12で得られた炭素量子ドットの赤外透過スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、「~」で示す数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を含む数値範囲を意味する。
【0011】
本発明の炭素量子ドットの製造方法は、炭素量子ドットを製造するための方法であり、得られる炭素量子ドットは、25℃、1気圧で固体状である。前述のように、炭素量子ドットを溶媒中で調製し、当該炭素量子ドットを遠心分離等によって取り出し、これをさらに溶媒中でホウ素化合物と混合して複合化する方法は知られている。しかしながら、当該方法では、製造プロセスが煩雑な上、投入エネルギーおよび時間がかかる、という課題があった。
【0012】
これに対し、本発明の炭素量子ドットの製造方法では、炭素量子ドットの主な原料となる有機化合物と、ホウ素、硫黄、および/またはリンを含有し、かつ1気圧、25℃において固体である結晶性化合物とを所定の比で混合して、混合物を調製する(以下、「混合物調製工程」とも称する)。そして、上記混合物を実質的に無溶媒で加熱することで、炭素量子ドットを調製する(以下、「加熱工程」とも称する)。
【0013】
本発明のように、有機化合物と、比較的多量の結晶性化合物とを混合して、加熱工程を行うと、複雑な工程を行わなくても、非常に発光量子収率が高い炭素量子ドットが得られる。得られる炭素量子ドットの発光量子収率が高くなる理由は、定かではないが、以下のように考えられる。
【0014】
炭素量子ドットの原料である有機化合物を加熱すると、当該有機化合物が炭化し、炭素量子ドットとなる。このとき、炭素量子ドットの周囲に結晶性化合物が存在すると、その結晶性化合物内に炭素量子ドットが微分散した生成物が得られる。この過程において、有機化合物を炭化する温度で結晶性化合物が固体状であった場合、結晶性化合物の結晶構造または多孔質構造が鋳型となり、得られる炭素量子ドットのサイズが均一化される。また、有機化合物を炭化する温度で結晶性化合物が液体状であった場合、有機化合物どうしが縮合して炭素量子ドットを形成する過程で、液体状の結晶性化合物が有機化合物や縮合生成物(炭素量子ドットを含む)の周辺に存在し、化学的に相互作用することで、副反応や過剰な縮合が抑制され、粒子サイズの均一化が促進される。また、結晶性化合物の結晶内または多孔質内に担持された炭素量子ドットは、凝集が生じ難く、分散性の高い状態が維持される。したがって、炭素量子ドットの発光量子収率が高くなると考えられる。
【0015】
またさらに、炭素量子ドットの調製時に、有機化合物と共にホウ素やリン、硫黄を含む結晶性化合物が周囲に存在すると、炭素量子ドットの表面に、ホウ素原子や、リン原子、硫黄原子、さらにはこれらを含む官能基が均一に配置されやすい。そして、これらの原子もしくは基が、炭素量子ドットの主骨格と相互作用して、発光量子収率が高まると考えられる。
【0016】
また、上記加熱工程において、炭素量子ドットを実質的に無溶媒で加熱して調製すると、製造プロセスが簡易になるだけでなく、炭素量子ドットを調製するために必要な加熱時間を短くでき、さらには投入エネルギー量も低減できる、という利点がある。さらに、このときの温度を100℃以上300℃以下とすると、得られる炭素量子ドットが水素元素を含みやすくなり、当該炭素量子ドットが水や極性溶媒に溶解しやすくなる。以下、本発明の方法の各工程について、説明する。
【0017】
・混合物調製工程
混合物調製工程では、反応性基を有する有機化合物と、25℃、1気圧で固体状である結晶性化合物とを混合して、混合物を調製する。なお、本工程で調製する混合物は、本発明の目的および効果を損なわない範囲で、上記有機化合物および結晶性化合物以外の化合物を含んでいてもよい。例えば、反応性基を有さない有機系の化合物や無機系の化合物、層状粘土鉱物等をさらに有していてもよいが、上記有機化合物および結晶性化合物の総量は、混合物の総量に対して、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。上記有機化合物および結晶性化合物の総量が50質量%以上であると、効率よく炭素量子ドットを調製可能である。また特に、混合物は、層状粘土鉱物を実質的に含まないことが好ましい。本明細書において、層状粘土鉱物を実質的に含まないとは、混合物の総量に対して、層状粘土鉱物の量が5質量%以下であることをいう。層状粘土鉱物の量は、3質量%以下がより好ましく、1質量%以下がより好ましく、一切含まないことがさらに好ましい。
【0018】
混合物が含む上記有機化合物は、反応性基を有し、炭化(縮合反応)によって炭素量子ドットを生成可能な化合物であればよい。混合物は、一種の有機化合物のみを含んでいてもよく、二種以上の有機化合物を含んでいてもよい。混合物が二種以上の有機化合物を含む場合、これらは互いに反応しやすい基を有することが好ましい。
【0019】
ここで、有機化合物が有する「反応性基」とは、後述の加熱工程において、有機化合物どうしの重縮合反応等を生じさせるための基であり、炭素量子ドットの主骨格の形成に寄与する基である。なお、加熱工程によって得られる炭素量子ドットには、これらの反応性基の一部が残存してもよい。反応性基の例には、カルボキシ基、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミド基、スルホ基、アミノ基等が含まれる。
【0020】
上記反応性基を有する有機化合物の例には、カルボン酸、アルコール、フェノール類、アミン化合物、糖類、イミダゾール、トリアジン類、トリアゾール類、トリアゼン類、およびオキシム類が含まれる。有機化合物は、1気圧25℃で固体状であってもよく、液体状であってもよいが、1気圧25℃で固体状であることがより好ましい。
【0021】
有機化合物の一種であるカルボン酸は、分子中にカルボキシ基を1つ以上有する化合物(ただし、フェノール類、アミン化合物、または糖に相当するものは除く)であればよい。カルボン酸の例には、ギ酸、酢酸、3-メルカプトプロピオン酸、α-リポ酸、4-カルボキシフェニルボロン酸等のモノカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、ポリアクリル酸、(エチレンジチオ)二酢酸、チオリンゴ酸、テトラフルオロテレフタル酸、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン等の2価以上の多価カルボン酸;クエン酸、グリコール酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、5-スルホサリチル酸等のヒドロキシ酸;が含まれる。
【0022】
アルコールは、炭素原子にヒドロキシ基が1つ以上結合した化合物(ただし、カルボン酸、フェノール類、アミン化合物、または糖に相当するものは除く)であればよい。アルコールの例には、エチレングリコール、グリセロール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、アスコルビン酸、ポリエチレングリコール、ソルビトール等の多価アルコールが含まれる。
【0023】
フェノール類は、ベンゼン環にヒドロキシ基が結合した構造を有する化合物であればよい。フェノール類の例には、フェノール、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、フロログルシノール、ピロガロール、1,2,4-トリヒドロキシベンゼン、没食子酸、タンニン、リグニン、カテキン、アントシアニン、ルチン、クロロゲン酸、リグナン、クルクミン、3-ヒドロキシフェニルボロン酸、3-ヒドロキシフェニルボロン酸ピナコール等が含まれる。
【0024】
アミン化合物の例には、1,2-フェニレンジアミン、1,3-フェニレンジアミン、1,4-フェニレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、尿素、チオ尿素、チオシアン酸アンモニウム、エタノールアミン、1-アミノ-2-プロパノール、メラミン、シアヌル酸、バルビツール酸、葉酸、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリエチレンイミン、ジシアンジアミド、グアニジン、アミノグアニジン、ホルムアミド、グルタミン酸、アスパラギン酸、システイン、アルギニン、ヒスチジン、リシン、グルタチオン、RNA、DNA、システアミン、メチオニン、ホモシステイン、タウリン、チアミン、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、4,5-ジフルオロ-1,2-フェニレンジアミン、スルファニル酸、o-ホスホセリン、アデノシン5’-三リン酸、グアニジンリン酸塩、グアニル尿素リン酸塩、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、ホウ酸トリエタノールアミン、3-アミノフェニルボロン酸、4-(ジフェニルアミノ)フェニルボロン酸、2-アミノピリミジン-5-ボロン酸、4-アミノフェニルボロン酸ピナコール、o-ホスホリルエタノールアミン等が含まれる。
【0025】
糖類の例には、グルコース、スクロース、グルコサミン、セルロース、キチン、キトサン等が含まれる。
【0026】
イミダゾールの例には、1-(トリメチルシリル)イミダゾール等が含まれる。トリアジン類の例には、1,2,4-トリアジンが含まれ、トリアゾール類の例には、1,3,5-トリアジン、1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾールが含まれる。トリアゼン類の例には、1,3-ジフェニルトリアゼン、1-メチル-3-p-トリルトリアゼンが含まれ、オキシム類の例には、ベンズアミドオキシム、p-ベンゾキノンジオキシムが含まれる。
【0027】
上記の中でも、縮合反応が効率的に進行する有機化合物が好ましく、好ましいものの一例として、カルボン酸、フェノール類、アミン化合物、もしくはカルボン酸とアミン化合物との組み合わせが挙げられる。
【0028】
一方、結晶性化合物は、ホウ素、硫黄、および/またはリンを含有し、1気圧25℃において固体であり、結晶性を有する化合物であればよい。本明細書において、「結晶性を有する」とは、結晶質を一部に含んでいればよく、化合物全てが結晶質で構成されていてもよく、一部に非晶質である部分を含んでいてもよい。また、結晶の種類は特に制限されず、単結晶であってもよく、多結晶であってもよい。また、結晶性化合物は、無機系の化合物であってもよく、有機系の化合物であってもよい。
【0029】
なお、結晶性化合物が、有機系の化合物である場合(上記有機化合物の反応性基を含む場合も含む)、当該化合物(結晶性化合物)は、後述の加工工程によって、炭素量子ドットとなるか否かで、上記有機化合物と区別できる。具体的には、化合物を実施例のような条件で加熱(例えば170℃で1.5時間加熱)し、得られた炭化物(縮合物)に波長350nm以上700nm以下の光を照射したとき、波長350nm以上700nm以下の範囲に、極大発光を有するものは有機化合物として取り扱う。一方で、極大発光を有さない化合物のうち、1気圧25℃において固体であり、かつ結晶性を有する化合物を結晶性化合物として取り扱う。なお、上述の反応性基を有していても、上記極大発光を有さず、結晶性化合物に分類されるものもある。
【0030】
ホウ素を含む結晶性化合物の例には、ホウ素、ホウ酸、四ホウ酸ナトリウム、酸化ホウ素、ホウ酸トリオクタデシル、ホウ酸トリフェニル、2,4,6-トリフェニルボロキシン、ホウ酸トリス(2-シアノエチル)、2-アントラセンボロン酸、9-アントラセンボロン酸、フェニルボロン酸、4-ビフェニルボロン酸、3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニルボロン酸、4-ヒドロキシフェニルボロン酸、4,4’-ビフェニルジボロン酸、2-ブロモフェニルボロン酸、4-ブロモ-1-ナフタレンボロン酸、3-ブロモ-2-フルオロフェニルボロン酸、3-シアノフェニルボロン酸、4-シアノ-3-フルオロフェニルボロン酸、3,5-ジフルオロフェニルボロン酸、3-フルオロフェニルボロン酸、4-メルカプトフェニルボロン酸、1-ナフタレンボロン酸、9-フェナントレンボロン酸、1,4-フェニレンジボロン酸、1-ピレンボロン酸、2-ブロモピリジン-3-ボロン酸、2-フルオロピリジン-3-ボロン酸、4-ピリジルボロン酸、キノリン-8-ボロン酸、4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)ピリジン、ジボロン酸、テトラヒドロキシジボラン、水素化ホウ素ナトリウム、テトラフルオロホウ酸ナトリウム等が含まれる。
【0031】
リンを含む結晶性化合物の例には、リン単体、酸化リン、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸、フィチン酸、リン酸アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、塩化リン、臭化リン、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムクロリド、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、N,N,N’,N’-エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、フェニルホスホン酸等が含まれる。
【0032】
また、硫黄を含む結晶性化合物の例には、硫黄、チオ硫酸ナトリウム、硫化ナトリウム、硫酸ナトリウム、p-トルエンスルホン酸、水硫化ナトリウム、4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸水和物、スルファニル酸等が含まれる。
【0033】
上記の中でも、ホウ酸、または分子中に芳香環を有する化合物が好ましい。分子中に芳香環を有する化合物の好ましい例には、フェニルボロン酸、2,4,6-トリフェニルボロキシン、フェニルホスホン酸、4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸水和物、スルファニル酸等が含まれる。
【0034】
混合物中の結晶性化合物の量は、上記有機化合物の量100質量部に対して、45質量部以上1000質量部以下であればよく、45質量部以上750質量部以下が好ましく、50質量部以上500質量部以下がより好ましい。結晶性化合物の量が当該範囲であると、後述する加熱工程において、結晶性化合物が鋳型となって、炭素量子ドットのサイズを調整しやすくなる。
【0035】
上記有機化合物および結晶性化合物以外のその他の成分の一例には、ケイ素を含む化合物やフッ素を含む化合物が含まれる。ケイ素を含む化合物の例には、テトラクロロシラン、テトラエトキシシラン等が含まれる。フッ素を含む化合物の例には、2,2,3,3,4,4-ヘキサフルオロ-1,5-ペンタンジオールジグリシジルエーテル、2-(ペルフルオロヘキシル)エタノール、フッ化ナトリウムが含まれる。
【0036】
混合物中のケイ素を含む化合物やフッ素を含む化合物の量は、所望のヘテロ原子の量に合わせて適宜選択される。通常、混合物の総量に対する、ケイ素を含む化合物およびフッ素を含む化合物の合計量は、0質量%~20質量%が好ましく、0質量%~10質量%がより好ましい。これらの化合物の量が20質量%以下であると、相対的に有機化合物や結晶性化合物の量が十分に多くなり、効率よく炭素量子ドットを調製できる。
【0037】
混合物の混合方法は、有機化合物と、結晶性化合物と、必要に応じてその他の化合物とを均一に混合可能であれば、特に制限されない。例えば、乳鉢ですりつぶしながら混合したり、ボールミル等によって粉砕しながら混合したりしてもよい。さらに、有機化合物またはその他の化合物が液体である場合、固体の成分を液体の成分に溶解、混和あるいは分散させて混合してもよい。また、少量の溶媒に各材料を溶解、混和あるいは分散させて混合したりしてもよい。この場合、後述の加熱工程で、実質的に無溶媒で加熱を行えるように、溶媒の量や種類を調整することが好ましい。具体的には、混合物の温度が加熱温度に到達するまでに、略全ての溶媒が揮発するよう、溶媒の量や種類を調整することが好ましい。なお、本明細書における溶媒とは、1気圧25℃において液体であり、かつ上記有機化合物に相当しない化合物をいう。
【0038】
・加熱工程
加熱工程では、上述の混合物調製工程で調製した混合物を、実質的に無溶媒で加熱する。本明細書における「実質的に無溶媒」とは、混合物中の溶媒の量が、有機化合物等を炭化させる温度(加熱温度)に到達した時点で、混合物の総量に対して5質量%以下であることをいう。加熱温度における混合物中の溶媒の量は、2質量%以下がより好ましく、0質量%がさらに好ましい。したがって、上述のように、加熱温度までに十分に揮発可能であれば、加熱開始時に混合物が溶媒を含んでいてもよい。なお、炭素量子ドットの原料となる有機化合物や、上述の結晶性化合物は、当該加熱温度において液体状であってもよい。
【0039】
混合物の加熱方法は、有機化合物等を炭化させて炭素量子ドットを生成可能な方法であればよく、その例には、ヒータによる加熱や、電磁波の照射等が含まれる。
【0040】
混合物をヒータ等によって加熱する場合、加熱温度は70℃以上700℃以下が好ましく、100℃以上500℃以下がより好ましく、100℃以上300℃以下がより好ましく、120℃以上300℃以下がより好ましく、120℃以上200℃以下がさらに好ましい。加熱温度が好ましくは300℃以下、より好ましくは200℃以下であると、得られる炭素量子ドットの水素含有量が高い状態が維持される。また、加熱温度での保持時間は0.01時間以上45時間以下が好ましく、0.1時間以上30時間以下がより好ましく、0.5時間以上10時間以下がさらに好ましい。加熱時間によって、得られる炭素量子ドットの粒子径、ひいては発光波長を調整できる。またこのとき、窒素等の不活性ガスを流通させながら非酸化性雰囲気で加熱を行ってもよい。
【0041】
電磁波(例えばマイクロ波)を照射する場合、ワット数は1W以上1500W以下が好ましく、1W以上1000W以下がより好ましい。また、電磁波(例えばマイクロ波)による加熱時間は0.01時間以上10時間以下が好ましく、0.01時間以上5時間以下がより好ましく、0.01時間以上1時間以下がさらに好ましい。電磁波の照射時間によって、得られる炭素量子ドットの粒子径、ひいては発光波長を調整できる。
【0042】
上記電磁波の照射は、例えば半導体式電磁波照射装置等によって行うことができる。電磁波の照射は、上記混合物の温度を確認しながら行うことが好ましい。加熱温度が70℃以上700℃以下となるように調整しながら、電磁波を照射することが好ましく、100℃以上300℃以下がより好ましく、120℃以上300℃以下がより好ましく、120℃以上200℃以下がさらに好ましい。加熱温度が好ましくは300℃以下、より好ましくは200℃以下であると、得られる炭素量子ドットの水素含有量が高い状態が維持される。。
【0043】
当該加熱工程により、炭素量子ドットが得られる。なお、得られる炭素量子ドットの周囲には、結晶性化合物が存在する。炭素量子ドットと結晶性化合物とが混合された組成物の状態で炭素量子ドットを各種用途に使用してもよく、炭素量子ドットのみを取り出し、これを各種用途に使用してもよい。さらに、得られた炭素量子ドットおよび結晶性化合物を含む組成物や、取り出した炭素量子ドットを有機溶媒等で洗浄して、未反応物や副生物を除去して精製してもよい。
【0044】
なお、得られる炭素量子ドットは、1気圧、25℃において、固体である。当該炭素量子ドットを原子間力顕微鏡(AFM)により観察して測定される平均粒子径は、1nm以上100nm以下が好ましく、1nm以上80nm以下がより好ましい。炭素量子ドットの平均粒子径が当該範囲であると、量子ドットとしての性質が十分に得られやすい。なお、上記炭素量子ドットの平均粒子径は、3個以上の炭素量子ドットについて測定し、これらの平均値を測定することが好ましい。
【0045】
さらに、当該炭素量子ドットは、波長350nm以上700nm以下の光を照射したときに、可視光または近赤外光を発することが好ましく、このときの極大発光波長は350nm以上700nm以下が好ましく、450nm以上680nm以下がより好ましく、460nm以上680nm以下が特に好ましい。極大発光波長が当該範囲であると、本発明の方法で得られる炭素量子ドットを種々の用途に使用できる。
【0046】
また、当該炭素量子ドットの発光量子収率は、30%以上が好ましく、40%以上がより好ましく、50%以上がさらに好ましい。発光量子収率が当該範囲であると、炭素量子ドットを種々の用途に使用できる。
また、当該炭素量子ドットは、水素元素の含有量が好ましくは2.0質量%以上、より好ましくは2.1質量%以上であることで、水をはじめとした極性溶媒に溶解させることができる。水素元素の含有量が所定量以上であることで極性溶媒に可溶となる理由は定かではないが、当該炭素量子ドットに含まれる水素元素がヒドロキシ基又はカルボキシ基の形態をとっており、それによって当該炭素量子ドットが可溶性を有しているものと考えられる。上記水素元素の量は、元素分析装置PE2400シリーズII(パーキンエルマージャパン社製)のCHNモードで実施する有機元素分析によって特定される。
【0047】
・用途
上述の製造方法で得られる炭素量子ドットは、発光特性が良好である。したがって、当該炭素量子ドットは各種用途に利用可能である。炭素量子ドットの用途は、特に制限されず、炭素量子ドットの性能に合わせて、例えば太陽電池、ディスプレイ、セキュリティインク、量子ドットレーザ、バイオマーカー、照明材料、熱電材料、光触媒、特定物質の分離剤等に使用できる。
【0048】
なお、上述の炭素量子ドットは、25℃、1気圧において固体であるが、これを溶媒等に分散させた溶液の状態で、各種用途に使用してもよい。
【実施例】
【0049】
以下、本発明の具体的な実施例を比較例とともに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
[実施例1]
(1)炭素量子ドットの調製
有機化合物(フロログルシノール二水和物)0.1gと、結晶性化合物(フェニルボロン酸)0.1gとを、乳鉢ですりつぶしながら混合した。当該粉体混合物を内容積15mlのねじ口試験管に入れ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、170℃で1.5時間加熱し、1気圧25℃で固体の炭素量子ドット組成物(炭素量子ドットおよび結晶性化合物を含む組成物)を調製した。
【0051】
(2)固体発光特性の評価
得られた組成物をKBrプレートに挟み、プレスして測定用サンプルを作製した。積分球ユニットILF-835付属の分光蛍光光度計FP-8500(日本分光社製)を用いて、当該測定用サンプルの固体状態での発光波長(蛍光波長)、発光量子収率を評価した。励起光は、組成物の発光量子収率が最大となる波長の光を照射した。結果を表1に示す。
【0052】
(3)水素元素の量および水溶性の評価
得られた炭素量子ドットの元素分析を有機元素分析により行い、水素元素の量を特定した。また、得られた炭素量子ドットの濃度が0.1質量%になるように、炭素量子ドットおよび水を混合した。そして、目視により、水溶液が透明になるかを確認した。沈殿物がない場合を水に可溶、沈殿物が確認された場合を水に不溶と判断した。結果を表1に示す。
【0053】
[実施例2]
有機化合物(フロログルシノール二水和物)0.1gと、結晶性化合物(フェニルボロン酸)0.2gとを、実施例1と同様の方法で混合して混合物を調製した。当該混合物を、実施例1と同様に加熱し、1気圧25℃で固体の炭素量子ドット組成物(炭素量子ドットおよび結晶性化合物を含む組成物)を調製した。得られた組成物について、実施例1と同様に、固体発光特性を評価した。また、水素元素の量も特定した。結果を表1に示す。
【0054】
[実施例3]
有機化合物(フロログルシノール二水和物0.1gおよびメラミン0.1g)と、結晶性化合物(フェニルボロン酸)0.144gとを、実施例1と同様の方法で混合して混合物を調製した。当該混合物を実施例1と同様に表1に示す温度および時間加熱し、1気圧25℃で固体の炭素量子ドット組成物(炭素量子ドットおよび結晶性化合物を含む組成物)を調製した。得られた組成物について、実施例1と同様に、固体発光特性を評価した。また、水素元素の量も特定した。結果を表1に示す。
【0055】
[実施例4]
有機化合物(フロログルシノール二水和物0.03gおよびメラミン0.06g)と、結晶性化合物(フェニルホスホン酸)0.144gとを、実施例1と同様の方法で混合して混合物を調製した。当該混合物を実施例1と同様に加熱し、1気圧25℃で固体の炭素量子ドット組成物(炭素量子ドットおよび結晶性化合物を含む組成物)を調製した。得られた組成物について、実施例1と同様に固体発光特性を評価した。また、水素元素の量も特定した。結果を表1に示す。
【0056】
[実施例5]
有機化合物(フロログルシノール二水和物0.03gおよびメラミン0.06g)と、結晶性化合物(フェニルホスホン酸)0.144gとを、実施例1と同様の方法で混合して混合物を調製した。当該混合物を実施例1と同様に表1に示す温度および時間加熱し、1気圧25℃で固体の炭素量子ドット組成物(炭素量子ドットおよび結晶性化合物を含む組成物)を調製した。得られた組成物について、実施例1と同様に固体発光特性を評価した。また、水素元素の量の特定、および水溶性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0057】
[実施例6]
有機化合物(ジシアンジアミド)0.02gと、結晶性化合物(ホウ酸)0.096gと、を実施例1と同様の方法で混合して混合物を調製した。当該混合物を実施例1と同様に加熱し、1気圧25℃で固体の炭素量子ドット組成物(炭素量子ドットおよび結晶性化合物を含む組成物)を調製した。得られた組成物について、実施例1と同様に固体発光特性を評価した。また、水素元素の量も特定した。結果を表1に示す。
【0058】
[実施例7]
有機化合物(3-アミノフェニルボロン酸)0.03gと、結晶性化合物(ホウ酸)0.144gとを、実施例1と同様の方法で混合して混合物を調製した。当該混合物を実施例1と同様に加熱し、1気圧25℃で固体の炭素量子ドット組成物(炭素量子ドットおよび結晶性化合物を含む組成物)を調製した。得られた組成物について、実施例1と同様に固体発光特性を評価した。また、水素元素の量も特定した。結果を表1に示す。
【0059】
[実施例8]
有機化合物(クエン酸0.03gおよびメラミン0.02g)と、結晶性化合物(スルファニル酸)0.048gとを、実施例1と同様の方法で混合して混合物を調製した。当該混合物を実施例1と同様に加熱し、1気圧25℃で固体の炭素量子ドット組成物(炭素量子ドットおよび結晶性化合物を含む組成物)を調製した。得られた組成物について、実施例1と同様に固体発光特性を評価した。また、水素元素の量の特定、および水溶性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0060】
[実施例9]
有機化合物(フロログルシノール二水和物0.03gおよびメラミン0.06g)と、結晶性化合物(4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸水和物)0.144gとを、実施例1と同様の方法で混合して混合物を調製した。当該混合物を実施例1と同様に加熱し、固体の炭素量子ドットを調製した。得られた炭素量子ドットについて、実施例1と同様に固体発光特性を評価した。また、水素元素の量も特定した。結果を表1に示す。
【0061】
[実施例10]
有機化合物(クエン酸0.15gおよびジシアンジアミド0.1g)と、結晶性化合物(ホウ酸)0.72gとを、実施例1と同様の方法で混合して混合物を調製した。当該混合物を実施例1と同様に加熱し、1気圧25℃で固体の炭素量子ドット組成物(炭素量子ドットおよび結晶性化合物を含む組成物)を調製した。得られた組成物について、実施例1と同様に固体発光特性を評価した。また、水素元素の量も特定した。結果を表1に示す。
【0062】
[実施例11]
有機化合物(フロログルシノール二水和物)0.2gと、結晶性化合物(トリフェニルボロキシン)0.1gとを、実施例1と同様の方法で混合して混合物を調製した。当該混合物を実施例1と同様に加熱し、1気圧25℃で固体の炭素量子ドット組成物(炭素量子ドットおよび結晶性化合物を含む組成物)を調製した。得られた組成物について、実施例1と同様に固体発光特性を評価した。また、水素元素の量も特定した。結果を表1に示す。
【0063】
[実施例12]
有機化合物(クエン酸0.03gおよび尿素0.03g)と、結晶性化合物(ホウ酸)0.144gとを、実施例1と同様の方法で混合して混合物を調製した。当該混合物を実施例1と同様に加熱し、1気圧25℃で固体の炭素量子ドット組成物(炭素量子ドットおよび結晶性化合物を含む組成物)を調製した。得られた組成物について、実施例1と同様に固体発光特性を評価した。また、水素元素の量も特定した。結果を表1に示す。
【0064】
[比較例1]
有機化合物(フロログルシノール二水和物)0.2gを実施例1と同様に加熱し、固体の炭素量子ドットを調製した。得られた炭素量子ドットについて、実施例1と同様に発光特性を評価した。結果を表1に示す。
【0065】
[比較例2]
有機化合物(フロログルシノール二水和物0.1gおよびメラミン0.1g)を、実施例1と同様の方法で混合して混合物を調製した。当該混合物を実施例1と同様に表1に示す温度および時間加熱し、固体の炭素量子ドットを調製した。得られた炭素量子ドットについて、実施例1と同様に固体発光特性を評価した。結果を表1に示す。
【0066】
[比較例3]
結晶性化合物(フェニルボロン酸)0.1gを、実施例1と同様に加熱した。得られた化合物について、実施例1と同様に固体発光特性を評価した。なお、得られた化合物では、励起波長を350nm未満とする必要があり、さらに観察された発光波長も350nm未満であった。つまり、当該発光は、原料が有する固有の発光であると考えられ、炭素量子ドットは調製されていないと考えられた。結果を表1に示す。
【0067】
[比較例4]
結晶性化合物(ホウ酸)0.3gを、実施例1と同様に加熱した。得られた化合物について、実施例1と同様に固体発光特性を評価した。なお、得られた化合物では、励起波長を350nm未満とする必要があり、さらに観察された発光波長も350nm未満であった。つまり、当該発光は、原料が有する固有の発光であると考えられ、炭素量子ドットは調製されていないと考えられた。結果を表1に示す。
【0068】
[比較例5]
結晶性化合物(フェニルホスホン酸)0.3gを、実施例1と同様に加熱した。得られた化合物について、実施例1と同様に固体発光特性を評価した。なお、得られた化合物では、励起波長を350nm未満とする必要があり、さらに観察された発光波長も350nm未満であった。つまり、当該発光は、原料が有する固有の発光であると考えられ、炭素量子ドットは調製されていないと考えられた。結果を表1に示す。
【0069】
[比較例6]
結晶性化合物(スルファニル酸)0.3gを、実施例1と同様に加熱した。得られた化合物について、実施例1と同様に固体発光特性を評価した。なお、得られた化合物では、励起波長を350nm未満とする必要があり、さらに観察された発光波長も350nm未満であった。つまり、当該発光は、原料が有する固有の発光であると考えられ、炭素量子ドットは調製されていないと考えられた。結果を表1に示す。
【0070】
[比較例7]
結晶性化合物(4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸水和物)0.3gを、実施例1と同様に加熱した。得られた化合物について、実施例1と同様に固体発光特性を評価した。なお、得られた化合物では、励起波長を350nm未満とする必要があり、さらに観察された発光波長も350nm未満であった。つまり、当該発光は、原料が有する固有の発光であると考えられ、炭素量子ドットは調製されていないと考えられた。結果を表1に示す。
【0071】
[比較例8]
結晶性化合物(トリフェニルボロキシン)0.3gを、実施例1と同様に加熱した。得られた化合物について、実施例1と同様に固体発光特性を評価した。なお、得られた化合物では、励起波長を350nm未満とする必要があり、さらに観察された発光波長も350nm未満であった。つまり、当該発光は、原料が有する固有の発光であると考えられ、炭素量子ドットは調製されていないと考えられた。結果を表1に示す。
【0072】
[比較例9]
有機化合物(クエン酸)0.15gと、結晶性化合物(ホウ酸)0.048gを、実施例1と同様に加熱し、固体の炭素量子ドットを調製した。得られた炭素量子ドットについて、実施例1と同様に固体発光特性を評価した。結果を表1に示す。
【0073】
[比較例10]
有機化合物(フロログルシノール二水和物)0.15gと、1気圧、25℃において液体状のリン酸0.091gを、200℃で3時間加熱し、炭素量子ドットを調製した。得られた炭素量子ドットについて、実施例1と同様に固体発光特性を評価した結果を表1に示す。
【0074】
[比較例11]
有機化合物(クエン酸0.03gおよびジシアンジアミド0.02g)と、結晶性化合物(ホウ酸)0.144gとを、実施例1と同様の方法で混合して混合物を調製した。当該混合物を、内容積25mlの石英試験管に入れ、大気下、500℃で1.5時間加熱し、固体の炭素量子ドットを合成した。実施例1と同様に、得られた炭素量子ドットの固体発光特性を評価した。また、水素元素の量を特定し、水溶性も評価した。結果を表1に示す。
【0075】
[比較例12]
有機化合物(フロログルシノール二水和物0.03gおよびメラミン0.06g)と、結晶性化合物(フェニルホスホン酸)0.144gとを、実施例1と同様の方法で混合して混合物を調製した。当該混合物を、内容積25mlの石英試験管に入れ、大気下、500℃で1.5時間加熱し、固体の炭素量子ドットを合成した。実施例1と同様に、得られた炭素量子ドットの固体発光特性を評価した。また、水素元素の量を特定し、水溶性も評価した。結果を表1に示す。
【0076】
【0077】
上記比較例1に示すように、有機化合物のみ加熱し、炭素量子ドットを調製した場合には、いずれも発光量子収率が低く、十分な量の炭素量子ドットが得られなかったと考えられる(比較例1および2)。また、結晶性化合物のみを加熱した場合には、波長350nm以上750nm以下に発光が見られず、炭素量子ドット自体が得られなかったと考えられる(比較例3~8)。
【0078】
さらに、有機化合物と結晶性化合物とを混合して加熱した場合であっても(比較例9)、結晶性化合物の量が有機化合物の量に対して少なすぎる場合には、発光量子収率が低かった(比較例9)。さらに、有機化合物とともに、1気圧、25℃で液体状のリン酸を加熱した場合には、発光が確認されなかった(比較例10)。
【0079】
これに対し、有機化合物に対して一定量以上の結晶性化合物を混合して100℃以上300℃以下に加熱した実施例1~12の製造方法では、溶媒を用いることなく、混合物の調製工程および加熱工程からなる簡便なプロセスで、炭素量子ドットが得られた。有機化合物とともに結晶性化合物を混合したことによって、加熱によって生成した炭素量子ドットが、結晶性化合物の結晶を鋳型として所望の大きさになったと考えられる。また、生成された炭素量子ドットが凝集し難く、これによっても発光量子収率が大きくなったと考えられる。
【0080】
図1Aに、実施例3の炭素量子ドットの製造方法で得られた、炭素量子ドットおよび結晶性化合物を含む組成物の透過型電子顕微鏡による写真を示す。
図1Bは、
図1Aの写真の中央付近を拡大した写真である。
図1Aに示すように、組成物には、フェニルボロン酸の結晶が存在していた。さらに、
図1Bに示されるように、当該結晶の一部には、約20nm程度の炭素量子ドットと考えられる粒子状の凝集物が確認できた。なお、
図1Aの結晶が有する大きな空孔は、焼成に伴って生じたガス(水や二酸化炭素、水素等)が抜け出た跡と考えられる。
【0081】
図2Aに、実施例10の炭素量子ドットの製造方法で得られた、炭素量子ドットおよび結晶性化合物を含む組成物の透過型電子顕微鏡による写真を示す。また、
図2Bは、
図2Aにみられる塊の表面を拡大した写真であり、
図2Cは、
図2Bの写真の空孔内部の写真である。
図2Aに示されるように、組成物中には、ブロック状または砕石状の塊があり、これらは、ホウ酸または酸化ホウ素の結晶であると考えられた。さらに、
図2Bに示されるように、当該塊の表面には、10~50nmの空孔(黒点)が確認された。さらに、
図2Cに示されるように、空孔内部には、炭素量子ドットと考えられる3~10nmの粒子が確認された。
【0082】
さらに、表1に示すように、実施例1や実施例5、実施例8のように、300℃以下で加熱工程を行うと、得られた炭素量子ドット中の水素元素の量が、2.0質量%以上となり、水に溶解させることが可能であった。なお、実施例1、実施例5、および8で調製した水溶液に対して、波長365nmの光を照射したところ、蛍光を発することが確認された。これに対し、比較例11および12のように、500℃で加熱工程を行うと、得られた炭素量子ドット中の水素元素の量が、2.0質量%未満となり、水に溶解させることができなかった。また、当該炭素量子ドットを添加した水溶液に対して、波長365nmの光を照射したところ、蛍光が確認されなかった。
【0083】
図3に実施例5、比較例11、および比較例12の赤外透過スペクトルを示す。波数3400cm
-1近傍のピークは、OH基の存在を表す。実施例5では、波数3500cm
-1付近に鋭いピークがあり、OH基を多く含むことが確認できる。これに対し、比較例11および比較例12では、多少ピークが見られるものの、鋭いピークがなく、OH基の量が少ないといえる。また、波数3400cm
-1近傍のピークはC=O基の存在を表すと考えられ、実施例5では、鋭いピークが見られ、C=O基を多く含むといえる。これに対し、比較例11および比較例12では、多少ピークが見られるものの、鋭いピークがなく、C=O基の量が少ないといえる。そのため、実施例5では、炭素量子ドットが水に可溶であり、比較例11および12では、水に不溶であったと考えられる。
【0084】
本出願は、2021年3月24日出願の特願2021-050403号に基づく優先権を主張する。当該出願明細書および図面に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の炭素量子ドットの製造方法によれば、簡便なプロセスで、発光量子収率が高い炭素量子ドットを調製できる。当該方法で製造される炭素量子ドットは、各種照明材料や熱電材料等、種々の製品に適用可能である。