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特許7545574中電圧または高電圧の電気装置を再構築するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】中電圧または高電圧の電気装置を再構築するための方法
(51)【国際特許分類】
   H02B 13/055 20060101AFI20240828BHJP
   H01F 41/00 20060101ALI20240828BHJP
   H01F 30/12 20060101ALI20240828BHJP
【FI】
H02B13/055 D
H02B13/055 A
H01F41/00 Z
H01F30/12 H
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2023514935
(86)(22)【出願日】2021-09-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-26
(86)【国際出願番号】 EP2021074454
(87)【国際公開番号】W WO2022073704
(87)【国際公開日】2022-04-14
【審査請求日】2023-04-28
(31)【優先権主張番号】20201068.2
(32)【優先日】2020-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】523380173
【氏名又は名称】ヒタチ・エナジー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HITACHI ENERGY LTD
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヘンクストラ,ヨハネス
(72)【発明者】
【氏名】ブッフォーニ,サスキア
(72)【発明者】
【氏名】ストローマン,ウルリヒ
(72)【発明者】
【氏名】ネフ,マヌエル
(72)【発明者】
【氏名】ファブ,ロイク
【審査官】関 信之
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-506376(JP,A)
【文献】国際公開第2009/144907(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02B 13/055
H01F 41/00
H01F 30/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中電圧または高電圧の電気装置を再構築するための方法であって、前記方法は、
a)SFを含む絶縁媒体を使用するように設計された電気装置を提供するステップと、
b)前記装置に含まれる絶縁空間から前記SFを含む絶縁媒体を少なくとも部分的に除去するステップと、
c)代替絶縁媒体を前記絶縁空間に充填するステップとを含み、
前記代替絶縁媒体は、少なくとも1つの有機フッ素化合物Aと、窒素を含有するキャリアガスとの混合物であり、
前記代替絶縁媒体は、ヘプタフルオロイソブチロニトリルを前記有機フッ素化合物Aとして含む、方法。
【請求項2】
中電圧または高電圧の電気装置を再構築するための方法であって、前記方法は、
a)SF を含む絶縁媒体を使用するように設計された電気装置を提供するステップと、
b)前記装置に含まれる絶縁空間から前記SF を含む絶縁媒体を少なくとも部分的に除去するステップと、
c)代替絶縁媒体を前記絶縁空間に充填するステップとを含み、
前記代替絶縁媒体は、少なくとも1つの有機フッ素化合物Aと、窒素を含有するキャリアガスとの混合物であり、
ステップc)の後において、前記有機フッ素化合物Aの分圧は、少なくとも5kPaである、方法。
【請求項3】
中電圧または高電圧の電気装置を再構築するための方法であって、前記方法は、
a)SF を含む絶縁媒体を使用するように設計された電気装置を提供するステップと、
b)前記装置に含まれる絶縁空間から前記SF を含む絶縁媒体を少なくとも部分的に除去するステップと、
c)代替絶縁媒体を前記絶縁空間に充填するステップとを含み、
前記代替絶縁媒体は、少なくとも1つの有機フッ素化合物Aと、窒素を含有するキャリアガスとの混合物であり、
前記方法は、前記代替絶縁媒体の密度を監視するように設計されたガス密度モニタを設置するさらなるステップを含み、
前記ガス密度モニタを設置するステップは、ステップb)の後、かつステップc)の前に、実行され、
前記ガス密度モニタを設置するステップの後、かつステップc)の前に、前記絶縁空間は少なくとも部分的に排気される、方法。
【請求項4】
前記有機フッ素化合物Aは、フルオロエーテル、フルオロケトン、フルオロオレフィン、およびフルオロニトリル、ならびにこれらの混合物からなる群より選択される、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記キャリアガスは、前記代替絶縁媒体の全ガス圧力の、60%超である、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記代替絶縁媒体中の窒素のモル百分率は、50%超である、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記キャリアガスは、酸化性ガスをさらに含有する、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記代替絶縁媒体中の酸化性ガスのモル百分率は、1~25%の範囲にある、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記代替絶縁媒体中の二酸化炭素の量は、窒素の量よりも少ない、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記代替絶縁媒体に含まれる前記有機フッ素化合物Aのモル百分率は、0.5%~35%である、請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記絶縁空間は、EPDMゴム、ニトリルゴムおよびブチルゴムからなる群より選択される封止材料を含む封止部品によって封止される、請求項1から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
ステップb)の後、かつ前記ガス密度モニタを設置するステップの前に、前記絶縁空間に含まれる、1つ以上の吸着材、吸収材、および/またはガス充填弁の少なくとも一部が交換される、請求項に記載の方法。
【請求項13】
前記ガス密度モニタを設置するステップは、前記装置の動作中に、逆止弁を用いて実行される、請求項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか1項に従う方法によって得ることができる中電圧または高電圧の電気装置。
【請求項15】
前記代替絶縁媒体を含む前記絶縁空間は、EPDMゴム、ニトリルゴムおよびブチルゴムからなる群より選択される封止材料を含む封止部品によって封止される、請求項14に記載の電気装置。
【請求項16】
前記装置は、開閉装置、またはその一部および/または構成要素、ガス絶縁送電線(GIL)、バスバー、またはブッシングである、請求項14または15に記載の電気装置。
【請求項17】
前記装置は、ケーブル、ガス絶縁ケーブル、ケーブル継手、電流変成器、電圧変性器、センサ、湿度センサ、サージアレスタ、キャパシタ、インダクタンス、抵抗器、絶縁体、空気絶縁絶縁体、ガス絶縁金属封止絶縁体、電流リミッタ、高電圧スイッチ、接地スイッチ、断路器、複合断路器および接地スイッチ、負荷遮断スイッチ、回路遮断器、ガス回路遮断器、発電機回路遮断器、ガス絶縁真空回路遮断器、中電圧スイッチ、リングメインユニット、リクローザ、セクショナライザ、低電圧スイッチ、および/または任意のタイプのガス絶縁スイッチ、変圧器、配電変圧器、電力変圧器、タップ切換器、変圧器ブッシング、回転電気機械、発電機、モータ、ドライブ、半導体デバイス、コンピューティングマシン、パワー半導体デバイス、パワーコンバータ、コンバータステーション、コンバータビルディング、ならびにそのようなデバイスの構成要素および/または組み合わせである、請求項14または15に記載の電気装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中電圧または高電圧の電気装置を再構築するための方法に関する。本発明はさらに、この方法によって得ることができる電気装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上述のタイプの電気装置において、気体または液体状態の誘電体絶縁媒体は、従来、導電性部品の絶縁のために適用される。
【0003】
たとえば、中電圧または高電圧金属封止開閉装置において、導電性部品は、絶縁空間を画定する気密筐体内に配置され、この絶縁空間は、絶縁ガスを含み、絶縁空間に電流が流れないようにして筐体を導電性部品から分離する。たとえば高電圧開閉装置において電流を遮断するために、絶縁ガスはさらに消弧ガスとして機能する。
【0004】
六フッ化硫黄(SF)は、その優れた誘電特性およびその化学的不活性により、定評のある絶縁ガスである。これらの特性にもかかわらず、特にSFよりも低い地球温暖化係数(GWP)を有する代替物という観点で、代替絶縁ガスを探す取り組みが、なおも強化されている。
【0005】
非SF代替物を提供するという観点から、誘電体絶縁媒体において有機フッ素化合物を使用することが提案されている。具体的には、WO-A-2010/142346は、4~12個の炭素原子を含有するフルオロケトンを含む誘電体絶縁媒体を提案している。
【0006】
フルオロケトンは高い絶縁耐力を有することが示されている。同時に、フルオロケトンは非常に低い地球温暖化係数(GWP)および非常に低い毒性を有する。これらの特徴の組み合わせにより、フルオロケトンは、SFの、実現可能な代替物を構成する。
【0007】
この点に関するさらなる発展は、誘電体絶縁ガスを提案するWO-A-2012/080246に反映されており、この誘電体絶縁ガスは、正確に5個の炭素原子を含有するフルオロケトンを、特に1,1,1,3,4,4,4-ヘプタフルオロ-3-(トリフルオロメチル)-ブタン-2-オンを、キャリアガス、特に空気または空気成分との混合物中に含み、これが、フルオロケトンとともに、絶縁媒体のガス成分の絶縁耐力の合計を超える絶縁媒体の絶縁耐力の非線形的増加をもたらす。
【0008】
代替の「非SF」絶縁媒体を発見しようとするさらなる試みが、WO2013/151741に反映されており、これは、誘電性流体として、ヘプタフルオロイソブチロニトリル、(CFCFCN、または2,3,3,3-テトラフルオロ-2-(トリフルオロメトキシ)プロパンニトリル(CFCF(OCF)CN)の使用を、提案している。
【0009】
これに基づいて、WO2015/040069は、ヘプタフルオロイソブチロニトリル、二酸化炭素および酸素を含む気体媒体が含まれる筐体を含む中電圧または高電圧の電気装置を記載している。
【0010】
上述の代替絶縁媒体は、環境適合性、特に低GWPという点において好ましい特性にもかかわらず、その絶縁耐力は、動作条件において、SFの絶縁耐力よりも低い。提案されている「非SF」代替物のうちの少なくともいくつかについて、その原因は、沸点が比較的高いことにある。十分な絶縁耐力を提供するためには、多くの場合、「非SF」代替物の十分に高いガス密度を実現するための、追加の加熱手段が必要である。
【0011】
加えて、中電圧または高電圧の電気装置の筐体または外郭の設計圧力が製造後に固定される(それぞれの表示が筐体に刻印される)ことを考慮すると、より高いガス密度および最終的にはより高い絶縁耐力を得るために、絶縁ガスの圧力を増す可能性は限られている。加えて、圧力上昇は、多くの場合、装置からの絶縁ガスの漏出を伴い、最終的には装置の安全な動作を維持できないという状況につながる。具体的には、これは、WO2015/040069で提案されている、ヘプタフルオロイソブチロニトリルと二酸化炭素とを含む周知の混合ガスに該当し、これは、SFを使用する装置に従来用いられている封止部品、すなわちEPDMからなる封止部品を透過することが判明している。これらの装置の安全な動作は、当業者にもよく知られている、本質的にヘプタフルオロイソブチロニトリルおよび二酸化炭素からなる2成分気体混合物を使用する場合、維持することができない。
【0012】
SFの使用を最小限まで削減する必要性が増していることを考慮すると、SFに合わせて作られた既存の装置を、特に低減されたGWPという点で環境適合性が改善された装置に置き換えることが、望ましいであろう。しかしながら、先に述べた理由から、現在、装置の安全な動作を損なうことなく、および/または装置の全体設計の実質的変更を要求されることなく、SFを置き換えることは不可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そのため、本発明によって解決されるべき課題は、環境適合性の改善、特にGWPの低減という要件を満たすが装置の安全性を損なわないやり方で、SFに合わせて作られた装置を再構築するための簡単な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この課題は請求項1に係る方法によって解決される。本発明の好ましい実施形態は従属請求項において規定される。
【0015】
請求項1に従うと、本発明は、中電圧または高電圧の装置を再構築するための方法に関する。本発明が関連する電気装置は、電気エネルギの生成、伝送、分配および/または使用のための、どの種類のものであってもよい。本発明の文脈において、「中電圧」は、1kVから52kVの電圧レベル範囲を意味し、「高電圧」は、52kVよりも高い電圧レベル範囲を意味する。
【0016】
請求項1に従うと、この方法は、SFを含む絶縁媒体を使用するように設計された電気装置を提供する第1のステップa)を含み、この電気装置は、すなわち、その構成要素およびこれらの構成要素の配置(構成要素間の間隔の距離を含む)をSFの使用に適合させた装置である。言い換えると、この方法は、SFを含む媒体を使用する装置から始まり、媒体は、装置の絶縁空間に収容され、絶縁媒体の機能を有し、任意で消弧媒体の機能も有する。このタイプの装置は当業者によく知られている。これらの装置は、装置の絶縁空間に存在するSFについて気密である。これらの装置において、SFを含む絶縁空間は、典型的には、封止材料としてEPDMゴム(エチレンプロピレンジエンモノマーゴム)を用いて封止される。上記タイプの装置はさらに、電気部品から効率的に熱を放散させる機能を有する。これらの装置で使用されるSFを含む媒体は、純粋な形態のSFであってもよいが、SF以外の不純物が存在する媒体も包含する。これに代えて、SFを含む媒体は、たとえばキャリアガスと、またはさらに他の誘電性化合物と組み合わされたSFを含む混合物にも関連し得る。
【0017】
本発明の方法は、
b)装置に含まれる絶縁空間からSFを含む絶縁媒体を少なくとも部分的に除去するステップと、
c)代替絶縁媒体を絶縁空間に充填するステップとをさらに含む。
【0018】
驚くべきことに、少なくとも1つの有機フッ素化合物Aと、窒素を含有するキャリアガスとの混合物を使用することにより、装置の安全性を損なうことなく環境適合性の向上を実現できることが判明している。
【0019】
特に、装置の全体設計、ならびに使用される構成要素および材料の選択において、変更が不要であることが判明している。
【0020】
具体的には、本発明の方法により、同じ構成であるがSFを含む媒体を使用する装置と比較して、GWPがより低い電気装置の実現が可能になる。よって、本発明は、ステップa)において提供される電気装置のGWPを低減するための方法に関する。
【0021】
本発明によって得られる技術的効果は、有機フッ素化合物Aが、フルオロエーテル、特にハイドロフルオロモノエーテル、フルオロケトン、特にペルフルオロケトン、フルオロオレフィン、特にハイドロフルオロオレフィン、およびフルオロニトリル、特にペルフルオロニトリル、ならびにこれらの混合物からなる群より選択される場合に、特に顕著である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
特に好ましい実施形態に従うと、有機フッ素化合物Aは、フルオロニトリル、特にペルフルオロニトリルである。
【0023】
より具体的には、フルオロニトリルは、ペルフルオロアルキルニトリル、具体的にはペルフルオロアセトニトリル、ペルフルオロプロピオニトリル(CCN)および/またはペルフルオロブチロニトリル(CCN)であってもよい。
【0024】
好ましくは、フルオロニトリルは、ペルフルオロイソブチロニトリル(式(CFCFCNに従う)および/またはペルフルオロ-2-メトキシプロパンニトリル(式CFCF(OCF)CNに従う)であってもよい。これらのうち、ペルフルオロイソブチロニトリルは、その低毒性のため、特に好ましい。
【0025】
窒素とは別にヘプタフルオロイソブチロニトリルを有機フッ素化合物Aとして含む、上述の特定の代替絶縁媒体の場合、ガス混合物の予め定められた全圧力に対し、有機フッ素化合物Aの分圧を実現できることが判明し、この分圧は、同じ露点または最小動作温度に達する全圧力に対する、二酸化炭素を含有するガス混合物中で実現可能な化合物の分圧よりも高い。以下でさらに詳細に指摘されるように、フルオロニトリルを含有するガス混合物における窒素の使用は、沸点が比較的高いヘプタフルオロイソブチロニトリルの使用に起因する露点の上昇を部分的に補償するポインティング効果(Poynting effect)の実現を可能にする。窒素に固有の比較的高い絶縁耐力と組み合わせて、SFと同様の誘電体絶縁性能を、代替絶縁媒体によって実現することができる。
【0026】
加えて、有機フッ素化合物A、具体的にはヘプタフルオロイソブチロニトリルは、装置に含まれる他の材料との高い相溶性を示すことが判明している。特に、SFを使用する電気装置において典型的に使用される封止部品に関して、代替絶縁媒体の透過速度は比較的低いことが判明している。よって、絶縁空間に存在する誘電体絶縁特性は経時的に維持することができ、このことは、本発明に従って再構築される装置の高い安全性にも寄与する。
【0027】
最終的には、上述のように、SFを使用する電気装置を、環境適合性が改善された電気装置に、装置の全体設計ならびに使用される構成要素および材料の選択において変更を要求されることなく、置き換えることができる。よって、本発明の概念は、EP-A-3118955に開示されたものと明確に区別され、これによると、SFから環境効率の高い絶縁ガスへの将来の切り替えを可能にすることを考慮して、装置の設計が変更される。
【0028】
ステップc)の後において、有機フッ素化合物Aの分圧は、少なくとも5kPa、好ましくは少なくとも10kPa、より好ましくは少なくとも15kPa、最も好ましくは少なくとも20kPaであることが、好ましい。
【0029】
本発明に従うと、窒素を含有するキャリアガスは、本発明に係る代替絶縁媒体において使用される。使用されるキャリアガスは、本質的に窒素からなるものであってもよい。これに代えて、キャリアガスは、窒素以外の少なくとも1つのさらに他のキャリアガス成分を、特に窒素よりも少ない量で含有していてもよい。具体的には、少なくとも1つのさらに他のキャリアガス成分は、煤煙の形成を防止するための酸化性ガスであってもよい。
【0030】
本発明の好ましい実施形態に従うと、キャリアガスは、代替絶縁媒体の全ガス圧力の60%超、好ましくは70%超、最も好ましくは80%超である。
【0031】
特に好ましい実施形態に従うと、代替絶縁媒体中の窒素のモル百分率は、50%超、より好ましくは60%超、さらにより好ましくは70%超、最も好ましくは80%超である。
【0032】
上述のように、キャリアガスは、酸化性ガス、特に酸素をさらに含有していてもよい。この点に関して、これも先に述べたように、酸化剤の量は窒素の量より少ないことがさらに好ましい。好ましくは、代替絶縁媒体中の酸化性ガスのモル百分率は、1~25%、より好ましくは2~20%、さらにより好ましくは3%~15%、最も好ましくは4~10%の範囲にある。
【0033】
さらに好ましい実施形態に従うと、代替絶縁媒体中の二酸化炭素の量は、窒素の量よりも少ない。好ましくは、代替絶縁媒体中の二酸化炭素のモル百分率は、5%未満、より好ましくは2%未満である。最も好ましくは、代替絶縁媒体は、少なくとも概ね二酸化炭素を含まない。
【0034】
好ましくは、代替絶縁媒体に含まれる有機フッ素化合物Aのモル百分率は、0.5%~35%、より好ましくは1%~30%、最も好ましくは1.5%~25%である。最終的に、上記のように規定された混合物を誘電体絶縁または消弧媒体として使用することにより、非常に高い誘電性能を実現することができる。
【0035】
先に述べたように、ヘプタフルオロイソブチロニトリルと窒素とを含有する混合物の使用が特に好ましいことが判明している。この混合物は、排他的にヘプタフルオロイソブチロニトリルと窒素とを含有する2成分混合物であってもよい。これに代えて、さらに他の成分、特に酸素が含まれていてもよい。
【0036】
また、先に述べたように、窒素と組み合わされる、フルオロニトリルを含有する代替絶縁媒体は、フルオロニトリル自体の露点よりも低い露点を有することが、判明している。このことは、フルオロニトリル、より具体的にはヘプタフルオロイソブチロニトリルと、窒素との、特定の混合物について実現される実質的なポインティング効果によって説明することができる。より具体的には、窒素および酸素を含有するキャリアガスと混合されたヘプタフルオロイソブチロニトリルを含有する代替絶縁媒体の露点測定は、-33℃の露点を明らかにし、これは、混合物中で使用されるのと同じ分圧における単離されたヘプタフルオロイソブチロニトリルの露点(約-30℃)よりも低く、先に定義したものと同様であるが窒素の代わりに二酸化炭素を使用する3成分混合物の露点(約-27℃)よりも実質的に低い。
【0037】
具体的な非常に好ましい実施形態に従うと、代替絶縁媒体は、約85%の窒素と、約10%のヘプタフルオロイソブチロニトリルと、約5%の酸素とを含有し、すべての百分率はそれぞれの成分のモル百分率に関する。
【0038】
以下でも述べるように、本発明の、特に先に定義した組成の代替絶縁媒体は、それが使用される電気装置に含まれる封止材、固体絶縁体等の他の材料との高い相溶性という観点から、好ましい。特に、代替絶縁媒体は、SFを使用するように設計された電気装置において典型的に使用されるEPDMゴム、ニトリルゴムおよびブチルゴムからなる群より選択される封止材料と相溶性がある。これらの封止材料についても、本発明に係る代替絶縁媒体の透過速度は比較的低いことがわかっている。
【0039】
先に定義した特定の絶縁媒体に含まれるフルオロニトリルの代わりにまたはそれに加えて、代替絶縁媒体は、フルオロケトン、より具体的にはペルフルオロケトンを含み得る。
【0040】
本願で使用される「フルオロケトン」という用語は、広く解釈されねばならないものであり、ペルフルオロケトンおよびハイドロフルオロケトンの両方を包含するものでなければならず、さらに、飽和化合物および不飽和化合物の両方、すなわち炭素原子間の二重および/または三重結合を含む化合物を包含するものでなければならない。少なくとも部分的にフッ素化された、フルオロケトンのアルキル鎖は、直鎖もしくは分枝鎖であってもよく、または、環を形成していてもよく、これは、任意で1つ以上のアルキル基で置換される。例示される実施形態において、フルオロケトンはペルフルオロケトンである。さらに他の例示される実施形態において、フルオロケトンは、分岐アルキル鎖、特に少なくとも部分的にフッ素化されたアルキル鎖を有する。さらに他の例示される実施形態において、フルオロケトンは、完全に飽和した化合物である。
【0041】
有機フッ素化合物Aは、正確に5個の炭素原子もしくは正確に6個の炭素原子を含有するフルオロケトン、またはそれらの混合物であることが、特に好ましい。6個を超える炭素原子を有する、より大きな鎖長のフルオロケトンと比較して、5個または6個の炭素原子を含有するフルオロケトンは、沸点が比較的低いという利点を有する。このため、たとえ装置が低温で使用されても、液化に伴う問題を回避することができる。
【0042】
5個以上の炭素原子を含有するフルオロケトンは、概ね非毒性であり人間の安全性について傑出した余裕度を有する、というさらに他の理由から、好ましい。このことは、毒性があり反応性が高い、ヘキサフルオロアセトン(またはヘキサフルオロプロパノン)等の、4個未満の炭素原子を有するフルオロケトンとは対照的である。特に、正確に5個の炭素原子を含有するフルオロケトンおよび正確に6個の炭素原子を含有するフルオロケトンは、500℃まで熱的に安定している。
【0043】
有機フッ素化合物Aがフルオロケトンである実施形態の文脈において、フルオロケトンは分岐アルキル鎖を有することが特に好ましく、その理由は、その沸点が、対応する(直鎖アルキル鎖を有する)化合物の沸点よりも低いことにある。
【0044】
さらに好ましい実施形態に従うと、この方法は、代替絶縁媒体の密度を監視するように設計されたガス密度モニタを設置するさらなるステップを含む。
【0045】
本発明の文脈において、「ガス密度モニタ」という用語は、ガス成分の密度を監視するための任意のデバイスを包含し、特に、体積当たりのガス分子の量を直接測定するためのデバイスおよび温度補償圧力センサを採用するデバイスを包含する。
【0046】
新たなガス密度モニタを設置する必要性は、SFを監視するためのガス密度モニタが、代替絶縁媒体を監視するためのガス密度モニタの圧力センサとは異なるしきい値圧力でトリガされる圧力センサを採用する場合に、生じる可能性がある。また、再構築する装置において使用されるガス密度モニタの交換が、それが代替絶縁媒体とは異なる基準ガスとの比較に基づく場合、必要となる。必須ではないが、ガス密度モニタの設置は、好ましくは、ステップb)の後、かつステップc)の前に、実行される。
【0047】
上記実施形態に関して、ガス密度モニタを設置するステップの後、かつステップc)の前に、絶縁空間を少なくとも部分的に排気することがさらに好ましい。
【0048】
この点に関して、ステップb)の後、かつガス密度モニタを設置するステップの前に、絶縁空間に含まれる、1つ以上の吸着材、吸収材、および/またはガス充填弁の少なくとも一部が交換されることが、特に好ましい。吸着材および/または吸収材の交換に関して、これは、装置の各ポートを開いて、カップまたはサシェ等の、吸着材および/または吸収材を含む各容器の取り外しと、未消費の吸着材および/または吸収材を含む新たな容器の絶縁空間への配置とを、可能にすることにより、実現できる。ガス充填弁の交換に関して、新たなガス充填弁は、交換するガス充填弁とは異なるねじ山を有することが、特に好ましい。このことは、確実に、代替絶縁媒体の充填のためのガス供給を正確にガス充填弁に実施させることを可能にし、よって、代替絶縁媒体の代わりにSFを誤って充填することにつながり得る動作不良のリスクを効率的に緩和することができる。
【0049】
ガス密度モニタがステップb)の後かつステップc)の前に設置される上記実施形態に代わるものとして、ガス密度モニタを、ステップc)の後かつ装置の動作中に、たとえば逆止弁を用いて設置することも考えられる。
【0050】
上記方法とは別に、本発明はまた、このプロセスによって得ることが可能な電気装置に関する。
【0051】
このさらに他の態様に従うと、本発明は、このように、中電圧または高電圧の電気装置に関し、この電気装置は、SFを含有する絶縁媒体を使用するように構成されるが、上記代替絶縁媒体すなわち少なくとも1つの有機フッ素化合物Aと窒素を含有するキャリアガスとの混合物を含むように、再構築される。
【0052】
具体的には、代替絶縁媒体を含む絶縁空間は、EPDMゴム(エチレンプロピレンジエンモノマーゴム)、ニトリルゴムおよびブチルゴムからなる群より選択される封止材料を含む封止部品によって封止される。
【0053】
上述のように、驚くべきことに、代替絶縁ガスは、上記封止材料との相溶性が高く、かつ、これらの材料を透過する透過速度が低いことが、判明した。
【0054】
典型的には、絶縁空間を封止する封止部品は、Oリングの形態である。封止部品に使用される封止材料は、好ましくはEPDMゴム(エチレンプロピレンジエンモノマーゴム)であるが、代替的に、ニトリルゴム、および未変性ブチルゴムおよび変性ブチルゴムを含むブチルゴム、特にクロロブチルゴム(CIIR)またはブロモブチルゴム(BIIR)であってもよい。
【0055】
具体的には、本発明の装置、特にガス絶縁装置は、開閉装置、特にガス絶縁開閉装置(GIS)、またはその一部および/または構成要素、ガス絶縁送電線(GIL)、バスバー、またはブッシングである。
【0056】
本発明のさらに他の実施形態に従うと、この装置は、ケーブル、ガス絶縁ケーブル、ケーブル継手、電流変成器、電圧変成器、センサ、湿度センサ、サージアレスタ、キャパシタ、インダクタンス、抵抗器、絶縁体、空気絶縁絶縁体、ガス絶縁金属封止絶縁体、電流リミッタ、高電圧スイッチ、接地スイッチ、断路器、複合断路器および接地スイッチ、負荷遮断スイッチ、回路遮断器、ガス回路遮断器、発電機回路遮断器、ガス絶縁真空回路遮断器、中電圧スイッチ、リングメインユニット、リクローザ、セクショナライザ、低電圧スイッチ、および/または任意のタイプのガス絶縁スイッチ、変圧器、配電変圧器、電力変圧器、タップ切換器、変圧器ブッシング、回転電気機械、発電機、モータ、ドライブ、半導体デバイス、コンピューティングマシン、パワー半導体デバイス、パワーコンバータ、コンバータステーション、コンバータビルディング、ならびにそのようなデバイスの構成要素および/または組み合わせであるか、またはそれらの一部である。
【0057】
本発明を以下の実施例を用いてさらに説明する。
実施例
SFを誘電体絶縁媒体として使用するように設計された、タイプELK-3,420kV(ABB Power Grids Switzerland Ltd.)のガス絶縁開閉装置が提供され、装置の絶縁空間に含まれるSFが、絶縁空間を取り囲む筐体に接続された通気孔によって除去されている。
【0058】
次に、85.5%の窒素、10%のヘプタフルオロイソブチロニトリル、および約4.5%の酸素を含有する代替絶縁媒体が、絶縁空間を囲む筐体内のそれぞれのソケットに接続された供給パイプにより、絶縁空間に充填された。
【0059】
このように本発明に従い再構築された装置は、雷インパルス耐電圧、スイッチングインパルス耐電圧、電力周波数耐電圧および部分放電測定に関して、IECによる絶縁耐力試験に首尾よく合格した。
【0060】
混合物の露点は、流体を絶えずゆっくりと冷却し流体のそれぞれの圧力を監視することによって求められ、圧力の降下は凝縮が始まるポイントを示す。これにより、混合物の露点-33℃、すなわち、同じ分圧における単離されたヘプタフルオロイソブチロニトリルの露点-30℃よりも低い露点が、求められた。
【0061】
さらに、代替ガス混合物は、設置された受動部品に使用されるすべての材料、すなわち、使用される塗料、封止材、吸着材および吸収材と相溶性があることがわかった。
【0062】
気密性に関して、装置内の標準SF封止部品として使用されるEPDM Oリングは、使用される代替ガス混合物の許容可能な透過度を示した。具体的には、EPDM Oリングを透過する窒素の透過性は、二酸化炭素の透過性の7分の1に減少することがわかっている。