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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】保持部材
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20240828BHJP
   H02N 13/00 20060101ALI20240828BHJP
【FI】
H01L21/68 R
H02N13/00 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024034982
(22)【出願日】2024-03-07
【審査請求日】2024-05-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100195659
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 祐介
(72)【発明者】
【氏名】稲吉 輝
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敦
【審査官】久宗 義明
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-222977(JP,A)
【文献】特開2011-222979(JP,A)
【文献】特開2019-165184(JP,A)
【文献】特開2023-55633(JP,A)
【文献】特表2018-510937(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
H02N 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
保持部材であって、
第1部材と、
第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材とを接着する接着部材と、を備え、
前記接着部材は、フィラーを含み、
前記フィラーには、球形フィラーと無定形フィラーとが含まれ、
前記球形フィラーの平均直径は、前記無定形フィラーの短径の最大値よりも小さいことを特徴とする、保持部材。
【請求項2】
請求項1に記載の保持部材であって、
前記球形フィラーの長径の最大値は、前記無定形フィラーの長径の最大値以上であることを特徴とする、保持部材。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の保持部材であって、
前記フィラーに含まれる前記球形フィラーの個数基準での割合は、前記フィラーに含まれる前記無定形フィラーの個数基準での割合よりも多いことを特徴とする、保持部材。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の保持部材であって、
前記接着部材の厚みは、100μm以下であり、
前記球形フィラーの長径の最大値および前記無定形フィラーの長径の最大値は、前記接着部材の厚みよりも小さいことを特徴とする、保持部材。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の保持部材であって、
前記フィラーの長径の最大値は、前記接着部材の厚みに1/2を乗じた値よりも大きいことを特徴とする、保持部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持部材に関する。
【背景技術】
【0002】
対象物を保持する保持部材として、静電引力により対象物であるウエハを保持する静電チャックが知られている。例えば、特許文献1には、電極が表面に形成されたセラミック誘電体と、セラミック誘電体を支持するセラミック基板と、セラミック誘電体とセラミック基板とを接着する接着部材と、を備える静電チャックが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5557164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の静電チャックにおいて、接着部材に含まれる球形フィラーおよび無定形フィラーは、接着部材の柔軟性の維持と接着部材全体の熱伝導率の向上との両立を考慮した設計とはなっていなかった。このため、接着部材において、柔軟性を維持しつつ接着部材全体の熱伝導率を高めることができる技術が要望されていた。
【0005】
本発明は、上述した課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、接着部材において、柔軟性を維持しつつ接着部材全体の熱伝導率を高めることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現できる。
(1)本発明の一形態によれば、保持部材が提供される。この保持部材は、第1部材と、第2部材と、前記第1部材と前記第2部材とを接着する接着部材と、を備え、前記接着部材は、フィラーを含み、前記フィラーには、球形フィラーと無定形フィラーとが含まれ、前記球形フィラーの平均直径は、前記無定形フィラーの短径の最大値よりも小さいことを特徴とする。
【0007】
無定形フィラーと球形フィラーとが同じ体積である場合、無定形フィラーの表面積は球形フィラーの表面積よりも大きい。したがって、接着部材に含まれる無定形フィラーは、接着部材に含まれる球形フィラーと比べて、接着部材のうちフィラーを内包している材料との接触面積が多くなるために当該材料への熱伝導が高いことから、接着部材全体の熱伝導率を高めることができる。一方、接着部材に含まれるフィラーが全て無定形フィラーである場合、フィラーを接着部材へ高密度で充填できないため、接着部材の高熱伝導率化には限界がある。上述の構成によれば、接着部材に球形フィラーと無定形フィラーとが含まれつつ、球形フィラーの平均直径は、無定形フィラーの短径の最大値よりも小さくなっている。このため、接着部材に含まれるフィラーが全て無定形フィラーである場合と比べて、フィラーを接着部材へ高密度で充填できることから、接着部材を高熱伝導率化することができる。さらに、上述の構成によれば、無定形フィラーの中に含まれた比較的体積の大きい無定形フィラーによってフィラーを内包している材料への熱伝導も高められているとともに、球形フィラーの含有によって柔軟性が担保されていることから、柔軟性を維持しつつ接着部材全体の熱伝導率を高めることができる。
【0008】
(2)上記形態の保持部材において、前記球形フィラーの長径の最大値は、前記無定形フィラーの長径の最大値以上であってもよい。
接着部材に含まれる球形フィラーと無定形フィラーとのうち長径の最大値が大きい方のフィラーの物性が接着部材の物性に大きく反映される。無定形フィラーは、球形フィラーと比べて長径が長くなる傾向にあるため、無定形フィラーの長径の最大値が球形フィラーの長径の最大値以上である場合、接着部材の厚みのばらつきや接着部材表面からのフィラーの突出の頻発が懸念されることから、接着部材を薄く形成し難い。これに対し、上述の構成によれば、球形フィラーの長径の最大値が無定形フィラーの長径の最大値以上であるため、接着部材の厚みはばらつきにくく、且つ、接着部材表面からのフィラーの突出も生じにくいことから、接着部材を薄く形成することができる。また、無定形フィラーよりも球形フィラーの方が柔軟性への寄与が大きいため、この構成によれば、接着部材の柔軟性が高められていることから、接着部材を介して接着された第1部材と第2部材との間に生じる熱応力を緩和することができる。その結果、熱応力によって保持部材に生じる反り等の変形を抑制することができる。
【0009】
(3)上記形態の保持部材において、前記フィラーに含まれる前記球形フィラーの個数基準での割合は、前記フィラーに含まれる前記無定形フィラーの個数基準での割合よりも多くてもよい。
この構成によれば、無定形フィラーの個数基準での割合よりも球形フィラーの個数基準での割合の方が多いことから、球形フィラーの物性が接着部材の物性に大きく反映される。すなわち、この構成によれば、接着部材において、柔軟性を維持しつつフィラーを高密度で充填できることから、接着部材全体の熱伝導率も高めることができる。
【0010】
(4)上記形態の保持部材において、前記接着部材の厚みは、100μm以下であり、
前記球形フィラーの長径の最大値および前記無定形フィラーの長径の最大値は、前記接着部材の厚みよりも小さくてもよい。
この構成によれば、接着部材の厚みが比較的薄くなっていることから、接着部材による熱抵抗を低減させることができる。また、接着部材表面からの球形フィラーの突出および無定形フィラーの突出をともに生じさせにくくすることができる。
【0011】
(5)上記形態の保持部材において、前記フィラーの長径の最大値は、前記接着部材の厚みに1/2を乗じた値よりも大きくてもよい。
一般的に、接着部材を構成するフィラーおよびフィラーを内包している材料において、フィラーの熱伝導率は、フィラーを内包している材料の熱伝導率よりも高い。この構成によれば、フィラーの中に接着部材の厚みに1/2を乗じた値よりも大きい長径を有するフィラーが含まれている。このため、そのようなフィラーによって熱が伝導される場合、フィラーを内包している材料によってのみ熱が伝導される場合と比べて、熱が効率よく伝導されることから、接着部材による熱抵抗を低減させることができる。
【0012】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、保持部材、保持部材および保持部材の保持面に静電引力を発生させる静電電極を備える静電チャック、真空チャック、セラミックスヒータ、半導体製造装置、およびこれらを備える部品、およびこれらの製造方法等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態としての保持部材の断面構成を示す説明図である。
図2】接着部材の断面構成を拡大した拡大図である。
図3】球形フィラーおよび無定形フィラーの説明図である。
図4】接着部材に含まれるフィラーの粒度分布を示した説明図である。
図5】本実施形態の接着部材と比較例の接着部材とを比較した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の実施形態としての保持部材1の断面構成を模式的に示す説明図である。保持部材1は、対象物である半導体ウエハWを静電引力により吸着して保持する静電チャックである。図1に示した矢印は、保持部材1に対して、半導体ウエハWが吸着される方向を示している。保持部材1は、例えば、半導体製造装置の真空チャンバー内で半導体ウエハWを固定するために使用される。保持部材1は、セラミックス部材10と、ベース部材20と、接着部材30と、静電電極40と、ヒータ電極50と、を備える。
【0015】
セラミックス部材10は、円盤状の部材であり、セラミックスにより形成されている。セラミックス部材10を形成する材料としては、酸化アルミニウム(アルミナ、Al23)や窒化アルミニウム(AlN)等が例示され、本実施形態では、アルミナである。セラミックス部材10は、吸着面10fを有する。吸着面10fは、半導体ウエハWを吸着する側の円形状の面である。吸着面10fは、対象物である半導体ウエハWを保持する保持面ともいえる。
【0016】
ベース部材20は、セラミックス部材10より径が大きい円盤状の部材であり、金属や種々の複合材料により形成されている。ベース部材20を形成する金属としては、Al(アルミニウム)やTi(チタン)、または、それらの合金が用いられることが好ましい。ベース部材20を形成する複合材料としては、炭化ケイ素(SiC)を主成分とする多孔質セラミックスに、アルミニウムを主成分とするアルミニウム合金を溶融して加圧浸透させた複合材料が用いられることが好ましい。複合材料に含まれるアルミニウム合金は、Si(ケイ素)やMg(マグネシウム)を含んでいてもよいし、性質等に影響の無い範囲でその他の元素を含んでいてもよい。
【0017】
ベース部材20の内部には、冷媒流路21が形成されている。冷媒流路21に冷媒(例えば、フッ素系不活性液体や水等)が流されると、ベース部材20が冷却される。このとき、接着部材30を介したベース部材20とセラミックス部材10との間の伝熱(熱引き)によりセラミックス部材10も冷却され、セラミックス部材10の吸着面10fに吸着された半導体ウエハWも冷却される。
【0018】
接着部材30は、セラミックス部材10とベース部材20との間に配置され、セラミックス部材10とベース部材20とを接着している。セラミックス部材10とベース部材20とは、接着部材30を介して互いに接着された第1部材と第2部材とに相当する。第1部材および第2部材は、接着部材30を介して互いに接着された部材を指す場合に用いる。接着部材30は、セラミックス部材10とベース部材20とを接合する樹脂層R(後述の図2で図示)であり、その樹脂層Rは、フィラーF(後述の図2で図示)を含む。接着部材30に占める樹脂層Rの体積パーセントと、接着部材30に占めるフィラーFの体積パーセントと、の和を100vol%としたとき、接着部材30に占めるフィラーFの体積パーセントは、60vol%である。また、接着部材30の厚みThは、100μmである。
【0019】
樹脂層Rを構成する樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、あるいはエポキシ樹脂等を用いることができる。これらの樹脂の中でも、シリコーン樹脂は、弾性率が比較的低いために、接着部材30で生じる熱応力を緩和する機能が高く、且つ、接着部材30の耐熱温度も比較的高いことから、樹脂層Rを構成する樹脂として望ましい。本実施形態では、樹脂層Rを構成する樹脂は、シリコーン樹脂である。
【0020】
フィラーFとしては、例えば、窒化アルミニウム(AlN)、酸化アルミニウム(アルミナ:Al23)、酸化ジルコニウム(ジルコニア:ZrO2)、酸化イットリウム(イットリア:Y23)、フッ化イットリウム(YF3)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si34)、二酸化ケイ素(シリカ:SiO2)、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等を用いることができる。これらの材料の中でも、窒化アルミニウム、酸化アルミニウムおよび炭化ケイ素は、熱伝導率が比較的高いために接着部材30の熱抵抗を抑え易くなることから、フィラーFに用いられる材料として望ましい。本実施形態では、フィラーFに用いられる材料は、窒化アルミニウムである。
【0021】
静電電極40は、セラミックス部材10の内部に設けられた円盤状の部材であり、タングステンやモリブデン等の導電性材料により形成されている。静電電極40は、図示しない外部電源から電力が供給されることによって、吸着面10fに静電引力を発生させる。半導体ウエハWは、この静電引力で吸着面10fに向けて吸着されることによって、吸着面10fに保持される。
【0022】
ヒータ電極50は、セラミックス部材10の内部に設けられ、タングステンやモリブデン等の導電性材料により形成されている。ヒータ電極50は、図示しない外部電源から電力が供給されることによって発熱する。この発熱によりセラミックス部材10が温められ、セラミックス部材10の吸着面10fに吸着された半導体ウエハWも温められる。
【0023】
図2は、接着部材30の断面構成を拡大した拡大図である。上述したように、接着部材30は、フィラーFを含む樹脂層Rである。図2において、接着部材30のうちフィラーF以外の部分は樹脂層Rを示している。一般的に、フィラーFの熱伝導率は、樹脂層Rの熱伝導率よりも高くなっている。
【0024】
図3は、球形フィラーFsおよび無定形フィラーFaの説明図である。フィラーFには、球形フィラーFsと無定形フィラーFaとが含まれる。球形フィラーFsは、フィラーFのうちアスペクト比が1.4未満のフィラーである。無定形フィラーFaは、フィラーFのうちアスペクト比が1.4以上のフィラーである。アスペクト比は、フィラーFの長径の長さをフィラーFの短径の長さで除した値であり、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した接着部材30の断面画像を2値化したのち楕円近似した各フィラーFの長径および短径を用いて算出される。接着部材30の断面撮影は、クロスセクションポリッシャ(登録商標)(CP)で接着部材30の断面を加工したのち、カーボン蒸着によりその断面に導電性を付与した後に行った。走査型電子顕微鏡による撮影の条件は、加速電圧15kV、拡大倍率300倍であるのが好ましい。なお、後述する粒度分布(図4参照)を評価可能な粒子数を確保するために、断面画像を撮影する際の拡大倍率は適宜調整してよい。また、後述する粒度分布(図4参照)を評価可能な粒子数を確保するために、断面画像を撮影する際の撮影場所は複数個所であってもよい。図2(A)は、アスペクト比(長径L/短径S)が1.4未満のフィラーである球形フィラーFsを例示している。図2(B)は、アスペクト比(長径L/短径S)が1.4以上のフィラーである無定形フィラーFaを例示している。なお、図2に示した短径Sは、無定形フィラーFaの短径Sを示している。
【0025】
図4は、接着部材30に含まれるフィラーFの粒度分布を示した説明図である。詳細には、図4には、SEMで撮影した接着部材30の断面画像から無作為に100個のフィラーFを選んだ際の粒度分布を示している。図4の横軸は、各フィラーFの粒径(直径)を示している。図4の縦軸は、各々の粒径のフィラーFの個数基準での存在頻度を示している。1点鎖線DLは、フィラーFの粒径ごとの存在頻度を示している。太線HLは、球形フィラーFsの粒径ごとの存在頻度を示している。細線TLは、無定形フィラーFaの粒径ごとの存在頻度を示している。
【0026】
接着部材30に含まれる球形フィラーFsの平均直径は、接着部材30に含まれる無定形フィラーFaの短径の最大値よりも小さくなっている。球形フィラーFsの平均直径は、SEMで撮影した接着部材30の断面画像を2値化してから、各フィラーFの面積を真円(πr2)近似したのち、その各フィラーFの直径(2r)のメジアン径に相当する。無定形フィラーFaの短径の最大値は、無定形フィラーFaの各々の短径のうちの最大の長さの値である。図4に示した粒度分布においては、球形フィラーFsの平均直径は7.651μmであり、無定形フィラーFaの短径の最大値は22.45μmであった。
【0027】
また、接着部材30に含まれる球形フィラーFsの長径の最大値は、接着部材30に含まれる無定形フィラーFaの長径の最大値以上である。球形フィラーFsの長径の最大値は、球形フィラーFsの各々の長径のうちの最大の長さの値である。無定形フィラーFaの長径の最大値は、同様に、無定形フィラーFaの各々の長径のうちの最大の長さの値である。図4に示した粒度分布においては、球形フィラーFsの長径の最大値は53.57μmであり、無定形フィラーFaの長径の最大値は38.62μmであった。
【0028】
また、接着部材30において、フィラーFに含まれる球形フィラーFsの個数基準での割合は、フィラーFに含まれる無定形フィラーFaの個数基準での割合よりも多くなっている。図4に示した粒度分布においては、フィラーFに含まれる球形フィラーFsの個数基準での割合は62%であり、フィラーFに含まれる無定形フィラーFaの個数基準での割合は38%であった。
【0029】
また、接着部材30において、接着部材30に含まれる球形フィラーFsの長径の最大値および接着部材30に含まれる無定形フィラーFaの長径の最大値は、接着部材30の厚みよりも小さくなっている。上述したように、図4に示した粒度分布においては、球形フィラーFsの長径の最大値は53.57μmであり、無定形フィラーFaの長径の最大値は38.62μmである。一方、接着部材30の厚みThは、100μmである。
【0030】
また、接着部材30において、フィラーFの長径の最大値は、接着部材30の厚みに1/2を乗じた値よりも大きくなっている。上述したように、図4に示した粒度分布においては、球形フィラーFsの長径の最大値は53.57μmであり、無定形フィラーFaの長径の最大値は38.62μmであることから、フィラーFの長径の最大値は53.57μmである。一方、接着部材30の厚みThは、100μmであることから、接着部材30の厚みに1/2を乗じた値は50μmである。
【0031】
図5は、本実施形態の接着部材30と比較例の接着部材30cとの物性を比較した説明図である。比較例の接着部材30cは、その接着部材30cに占めるフィラーFの体積パーセントが40vol%である点が接着部材30と異なる。また、比較例の接着部材30cにおいては、その接着部材に含まれる球形フィラーFsの平均直径が、無定形フィラーFaの短径の最大値よりも大きくなっている点が接着部材30と異なる。また、比較例の接着部材30cにおいては、球形フィラーFsの長径の最大値が、無定形フィラーFaの長径の最大値よりも小さくなっている点が接着部材30と異なる。また、比較例の接着部材30cにおいては、フィラーFに含まれる球形フィラーFsの個数基準での割合が、フィラーFに含まれる無定形フィラーFaの個数基準での割合よりも少なくなっている点が接着部材30と異なる。また、比較例の接着部材30cにおいては、フィラーFの長径の最大値が、その接着部材の厚みに1/2を乗じた値よりも小さくなっている点が接着部材30と異なる。その一方で、比較例の接着部材30cは、その接着部材の厚みが100μmであって、且つ、球形フィラーFsの長径の最大値および無定形フィラーFaの長径の最大値は、接着部材30の厚みよりも小さくなっている点は接着部材30と同じである。
【0032】
図5に示すように、本実施形態の接着部材30の弾性率(MPa)は3.1であったのに対して、比較例の接着部材30cの弾性率(MPa)は2.6であった。また、本実施形態の接着部材30のゴム硬度(ShoreA)は61であったのに対して、比較例の接着部材30cのゴム硬度(ShoreA)は52であった。また、本実施形態の接着部材30の熱伝導率(W/mk)は2.4であったのに対して、比較例の接着部材30cの熱伝導率(W/mk)は1.2であった。このような結果より、本実施形態の接着部材30と比較例の接着部材30cとは同等の柔軟性を有する一方で、本実施形態の接着部材30は、比較例の接着部材30cと比べて、熱伝導率が高くなっていることが確認された。
【0033】
接着部材30の弾性率は、以下の測定方法により測定できる。公知の引張試験機(例えば、島津製作所製オートグラフ(AG-X plus 5kN)))を使用し、引張試験時の接着部材30の引張弾性率を、接着部材30の弾性率として測定した。測定のための試験片は、接着部材30を塗工して100℃で10時間硬化させたのち、さらに、150℃で50時間硬化させてから、幅10mm×長さ70mmの短冊状に切り出すことによって作製した。接着部材30の厚さは、100μmとした。接着部材30の引張弾性率は、当該試験片の両端から長さ20mmの各部分を治具で保持し、中間の長さ30mmの部分で引張弾性率を測定した。詳細には、当該試験片(接着部材30)が破断するまで引張速度50mm/分で引っ張りながら、サンプル長による荷重の変化を測定した。このとき、当該荷重を試験片の断面積(幅10mm×厚さ100μm)で除することにより引張応力を算出する。引張弾性率は、以下の式(1)により算出される歪みを横軸とし、上記引張応力を縦軸とするグラフにおいて、上記引張応力が0.2~0.5MPaとなる範囲の傾きを計算することにより算出した。
歪み(%)=[引張中のサンプル長(mm)-元のサンプル長(mm)]/元のサンプル長(mm)・・・(1)
【0034】
ゴム硬度(ShoreA)は、JIS―K6253に規定のデュロメータタイプAを用いて測定できる。接着部材30を、例えば、直径30mm、深さ10mmのPTFE製シャーレに入れて、100℃で10時間硬化させたのち、さらに、150℃で50時間硬化させてから、PTFE製シャーレから取り出して測定できる。
【0035】
無定形フィラーFaと球形フィラーFsとが同じ体積である場合、無定形フィラーFaの表面積は球形フィラーFsの表面積よりも大きい。したがって、接着部材30に含まれる無定形フィラーFaは、接着部材30に含まれる球形フィラーFsと比べて、接着部材30のうちフィラーFを内包している樹脂(樹脂層R)との接触面積が多くなるために樹脂(樹脂層R)への熱伝導が高いことから、接着部材30全体の熱伝導率を高めることができる。一方、接着部材30に含まれるフィラーFが全て無定形フィラーFaである場合、フィラーFを接着部材30へ高密度で充填できないため、接着部材30の高熱伝導率化には限界がある。以上説明した実施形態の接着部材30では、接着部材30に球形フィラーFsと無定形フィラーFaとが含まれつつ、接着部材30に含まれる球形フィラーFsの平均直径は、接着部材30に含まれる無定形フィラーFaの短径の最大値よりも小さくなっている。このため、接着部材30に含まれるフィラーFが全て無定形フィラーFaである場合と比べて、フィラーFを接着部材30へ高密度で充填できることから、接着部材30を高熱伝導率化することができる。さらに、無定形フィラーFaの中に含まれた比較的体積の大きい無定形フィラーFaによって樹脂層Rへの熱伝導も高められているとともに、球形フィラーFsの含有によって柔軟性が担保されていることから、柔軟性を維持しつつ接着部材30全体の熱伝導率を高めることができる。
【0036】
接着部材30に含まれる球形フィラーFsと無定形フィラーFaとのうち長径の最大値が大きい方のフィラーFの物性が接着部材30の物性に大きく反映される。無定形フィラーFaは、球形フィラーFsと比べて長径が長くなる傾向にあるため、接着部材30に含まれる無定形フィラーFaの長径の最大値が接着部材30に含まれる球形フィラーFsの長径の最大値以上である場合、接着部材30の厚みThのばらつきや接着部材30表面からのフィラーFの突出の頻発が懸念されることから、接着部材30を薄く形成し難い。これに対し、上述した実施形態の接着部材30では、接着部材30に含まれる球形フィラーFsの長径の最大値が接着部材30に含まれる無定形フィラーFaの長径の最大値以上であるため、接着部材30の厚みThはばらつきにくく、且つ、接着部材30表面からのフィラーFの突出も生じにくいことから、接着部材30を薄く形成することができる。また、無定形フィラーFaよりも球形フィラーFsの方が柔軟性への寄与が大きいため、上述した実施形態の接着部材30では、接着部材30の柔軟性が高められていることから、接着部材30を介して接着されたセラミックス部材10とベース部材20との間に生じる熱応力を緩和することができる。その結果、熱応力によって保持部材1に生じる反り等の変形を抑制することができる。
【0037】
また、上述した実施形態の接着部材30では、フィラーFに含まれる無定形フィラーFaの個数基準での割合よりもフィラーFに含まれる球形フィラーFsの個数基準での割合の方が多いことから、球形フィラーFsの物性が接着部材30の物性に大きく反映される。すなわち、上述した実施形態の接着部材30では、柔軟性を維持しつつフィラーFを高密度で充填できることから、接着部材30全体の熱伝導率も高めることができる。
【0038】
また、上述した実施形態の接着部材30では、接着部材30の厚みThは、100μmであり、且つ、接着部材30に含まれる球形フィラーFsの長径の最大値および接着部材30に含まれる無定形フィラーFaの長径の最大値は、接着部材30の厚みよりも小さくなっている。このため、接着部材の厚みThが比較的薄くなっていることから、接着部材30による熱抵抗を低減させることができる。また、接着部材30表面からの球形フィラーFsの突出および無定形フィラーFaの突出をともに生じさせにくくすることができる。
【0039】
一般的に、接着部材30を構成するフィラーFおよびフィラーFを内包している樹脂(樹脂層R)において、フィラーFの熱伝導率は、樹脂の熱伝導率よりも高い。上述した実施形態の接着部材30では、フィラーFの中に接着部材30の厚みThに1/2を乗じた値よりも大きい長径を有するフィラーFが含まれている。このため、そのようなフィラーFによって熱が伝導される場合、フィラーFを内包している樹脂(樹脂層R)によってのみ熱が伝導される場合と比べて、熱が効率よく伝導されることから、接着部材30による熱抵抗を低減させることができる。
【0040】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0041】
上記実施形態において、セラミックス部材10とベース部材20とが、接着部材30を介して互いに接着された第1部材と第2部材とに相当していたが、これに限られない。対象物を保持する保持部材中において、接着部材30を介して互いに接着された部材である限り、それら互いに接着された部材は、第1部材および第2部材に相当する。
【0042】
上記実施形態において、接着部材30の厚みThは、100μmであったが、これに限られない。接着部材30の厚みThは、100μm以下である限り、任意の厚みであってよい。むろん、接着部材30の厚みThは、接着部材30による熱抵抗を低減させるために、より薄い方が望ましい。
【0043】
上記実施形態において、接着部材30は、接着部材30に含まれる球形フィラーFsの平均直径は、接着部材30に含まれる無定形フィラーFaの短径の最大値よりも小さくなっていることに加えて、接着部材30に含まれる球形フィラーFsの長径の最大値が接着部材30に含まれる無定形フィラーFaの長径の最大値以上であり、且つ、フィラーFに含まれる無定形フィラーFaの個数基準での割合よりもフィラーFに含まれる球形フィラーFsの個数基準での割合の方が多くなっていたが、これに限られない。例えば、接着部材30は、接着部材30に含まれる球形フィラーFsの平均直径は、接着部材30に含まれる無定形フィラーFaの短径の最大値よりも小さくなっているが、接着部材30に含まれる球形フィラーFsの長径の最大値が接着部材30に含まれる無定形フィラーFaの長径の最大値以上であることと、フィラーFに含まれる無定形フィラーFaの個数基準での割合よりもフィラーFに含まれる球形フィラーFsの個数基準での割合の方が多くなっていることと、のうちいずれか一方のみを満たしていてもよいし、いずれも満たしていなくてもよい。むろん、接着部材30を薄く形成することやフィラーFを高密度で充填すること、接着部材30の柔軟性維持の観点からは、いずれも満たしている方が好ましい。
【0044】
上記実施形態の接着部材30において、フィラーFの長径の最大値は、接着部材30の厚みに1/2を乗じた値よりも大きくなっていたが、これに限られない。フィラーFの長径の最大値は、接着部材30の厚みに1/2を乗じた値よりも小さくなっていてもよい。むろん、接着部材30による熱抵抗を低減させる観点からは、フィラーFの長径の最大値が接着部材30の厚みに1/2を乗じた値よりも大きくなっている方が好ましい。
【0045】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【0046】
本発明は、以下の形態としても実現することが可能である。
[適用例1]
保持部材であって、
第1部材と、
第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材とを接着する接着部材と、を備え、
前記接着部材は、フィラーを含み、
前記フィラーには、球形フィラーと無定形フィラーとが含まれ、
前記球形フィラーの平均直径は、前記無定形フィラーの短径の最大値よりも小さいことを特徴とする、保持部材。
[適用例2]
適用例1に記載の保持部材であって、
前記球形フィラーの長径の最大値は、前記無定形フィラーの長径の最大値以上であることを特徴とする、保持部材。
[適用例3]
適用例1または適用例2に記載の保持部材であって、
前記フィラーに含まれる前記球形フィラーの個数基準での割合は、前記フィラーに含まれる前記無定形フィラーの個数基準での割合よりも多いことを特徴とする、保持部材。
[適用例4]
適用例1から適用例3までのいずれかに記載の保持部材であって、
前記接着部材の厚みは、100μm以下であり、
前記球形フィラーの長径の最大値および前記無定形フィラーの長径の最大値は、前記接着部材の厚みよりも小さいことを特徴とする、保持部材。
[適用例5]
適用例1から適用例4までのいずれかに記載の保持部材であって、
前記フィラーの長径の最大値は、前記接着部材の厚みに1/2を乗じた値よりも大きいことを特徴とする、保持部材。
【符号の説明】
【0047】
1…保持部材
10…セラミックス部材
10f…吸着面
20…ベース部材
21…冷媒流路
30…接着部材
40…静電電極
50…ヒータ電極
F…フィラー
Fs…球形フィラー
Fa…無定形フィラー
R…樹脂層
【要約】
【課題】接着部材において、柔軟性を維持しつつ接着部材全体の熱伝導率を高めることができる技術を提供する。
【解決手段】保持部材であって、第1部材と、第2部材と、第1部材と第2部材とを接着する接着部材と、を備え、接着部材は、フィラーを含み、フィラーには、球形フィラーと無定形フィラーとが含まれ、球形フィラーの平均直径は、無定形フィラーの短径の最大値よりも小さいことを特徴とする。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5