(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】パルス電源装置
(51)【国際特許分類】
H02M 9/02 20060101AFI20240828BHJP
H05H 1/46 20060101ALI20240828BHJP
【FI】
H02M9/02
H05H1/46 R
(21)【出願番号】P 2024076624
(22)【出願日】2024-05-09
【審査請求日】2024-07-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001292
【氏名又は名称】株式会社京三製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】藤原 武
(72)【発明者】
【氏名】國玉 博史
(72)【発明者】
【氏名】安達 俊幸
【審査官】今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-501351(JP,A)
【文献】特表2016-500132(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 9/02
H05H 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電圧の第1電圧を生成する第1直流電源と、
台形波形電圧を生成する勾配電源と、
接地電位と前記勾配電源の台形波形電圧との切り替えによりパルス波形を生成し、前記パルス波形を所定周期で繰り返してパルスを出力するスイッチ部と、
前記勾配電源を制御する制御部と、
を備え、
前記勾配電源は、
第2直流電源と、
直流電圧を交流電圧に変換するインバータ回路と、
前記インバータ回路の交流電圧を直流電圧に変換してランプ波形電圧を生成する整流回路と、
前記第1直流電源の出力と前記整流回路の出力とを重畳して台形波形電圧を生成する電圧重畳回路と、
を備え、
前記制御部は、
インバータ制御によりインバータ回路を制御して、接地電位から所定の電圧変化率dv/dtで直線状に時間変化するランプ波形電圧を生成し、当該ランプ波形電圧と前記第1電圧とを重畳し、前記第1電圧から所定の電圧変化率dv/dtで直線状に電圧が時間変化する台形波形電圧を生成する勾配電源の制御と、
前記勾配電源と出力端との間の開閉、及び接地電位と出力端との間の開閉とを交互に切り替える切り替え動作と、前記切り替え動作を所定周期で繰り返す周期動作とを制御するスイッチ部の制御と、
を備え、
前記勾配電源の制御と前記スイッチ部の制御とを同期させ、前記台形波形電圧の生成と前記パルスの生成とを同期させる、
パルス電源装置。
【請求項2】
前記スイッチ部の平滑出力を検出する検出部を備え、
前記勾配電源のインバータ制御は、インバータ制御のデューティ比を制御するPWM制御、又はインバータ制御の周期を制御するPFM制御により、前記検出部で検出した出力電圧の電圧変化が設定された電圧変化率dv/dtとなるように電圧制御を行う、
請求項1に記載のパルス電源装置。
【請求項3】
前記スイッチ部の平滑出力を検出する検出部を備え、
前記勾配電源のインバータ制御は、インバータ制御のデューティ比を制御するPWM制御、又はインバータ制御の周期を制御するPFM制御により、前記検出部で検出した出力電流が定電流値となるように電流制御を行う、
請求項1に記載のパルス電源装置。
【請求項4】
前記定電流値は、外部指令、又は前記第1電圧印加後の静定電流値である、
請求項3に記載のパルス電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の傾斜で電圧が直線的に変化する勾配波形を含むパルス出力を生成するパルス電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パルス電源装置が生成するパルス出力は、成膜処理やエッチング処理等のプラズマ処理に用いられる他、プラズマ処理に限らず種々の産業用装置に適用することができる。例えば、半導体デバイスのエッチング処理において、導体をプラズマ処理する際に基板の表面全体にわたって実質的に均一な負電圧を生成するために、接地に対して負の電圧が基板に印加される。
【0003】
プラズマエッチングや堆積の処理において、エッチングフェーズでの広い負のパルスと、放電フェーズでの短い正のパルスとを備えるパルス波形のバイアスが使用されることが知られている。
【0004】
エッチングや堆積フェーズにおいて、誘電体基板へのイオン堆積効果を補償するためにパルス波形のバイアスを適用されることが知られている。パルス波形は、エッチングや堆積フェーズでの基盤電位の上昇を補償するために減少する負の電圧勾配と、放電フェーズでの電荷バイアスを維持するために電子を引く付けるための正の電圧パルスで構成される。スイッチモード電源に電流源などのイオン電流補償を組み込むことによって負の電圧勾配を生成する構成が知られている(特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第7214046号公報
【文献】特許第6181792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
基板電圧を一定電圧に維持するイオン電流を供給するには、所定の負の電圧勾配の設定が求められる。上記した従来のパルス電源装置は、負の電圧勾配とイオン電流との間は所定の関数で関係付けられていることから、負の電圧勾配を実現するために電流源などのイオン電流補償電流源が用いられる。
【0007】
しかしながら、高抵抗を備える電流源では、分布容量の影響を受けて電流源を構成する回路の時定数が大きくなり、高速応答性が低いという課題がある。この高速応答性の課題は、高周波のパルス周波数ではより顕著となる。
【0008】
電流源には、上記した高速応答性の課題の他に考慮すべき点がある。一般に、電流源は内部抵抗や温度変動の影響を受けるため温度補償やフィードバック補償が必要となり、パルス電源装置の構成要素のコストが上昇する要因となる。上記したように、電流源を用いた高周波のパルスを出力するパルス電源装置では、電流源を用いることによる高速応答性やコスト等の課題がある。
【0009】
本発明は、上記した従来の課題を解決し、電流源を用いることなく負の電圧勾配を得ることができる勾配電源を備えたパルス電源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のパルス電源装置は、勾配電源の制御において、インバータ制御によって所定の電圧変化率dv/dtで直線状に電圧が時間変化する電圧波形を生成し、生成した電圧波形に直流電圧を重畳させて台形波形電圧を生成し、スイッチ部の制御において、スイッチング動作によってパルス波形が所定周期で繰り返すパルスを出力する。勾配電源の制御とスイッチ部の制御との同期によって、台形波形電圧の生成とパルスの生成とを同期させる。
【0011】
本発明のパルス電源装置は、直流電圧の第1電圧を生成する直流電源と、台形波形電圧を生成する勾配電源と、接地電位と前記勾配電源の台形波形電圧との切り替えによりパルス波形を生成し、パルス波形を所定周期で繰り返してパルスを出力するスイッチ部と、勾配電源を制御する制御部と、を備える。
【0012】
本発明のパルス電源装置は、一定電圧の直流電圧とランプ波形電圧とを重畳することにより所定の電圧勾配を有した台形波形のパルスを生成する。ランプ波形電圧は接地電位から所定の電圧変化率dv/dtで直線状に時間変化する電圧勾配を有した電圧である。本発明のパルス電源装置は、このランプ波形電圧をインバータ制御で生成し、直流電圧とランプ波形電圧とを重畳して台形波形電圧を生成し、台形波形電圧からパルス波形を生成することにより、電流源を用いることなく電圧勾配を有したパルスを生成する。
【0013】
本発明のパルス電源装置は、一定電圧の直流電圧である第1電圧を生成する直流電源を第1電源とし、生成した第1電圧とランプ波形電圧とから台形波形電圧を生成する勾配電源を第2電源として備え、さらに、勾配電源で生成した台形波形電圧からパルスを生成するスイッチ部を備える。
【0014】
スイッチ部は、接地電位と第2電源の勾配電源の台形波形電圧とを切り替えることによってパルス波形を生成し、生成したパルス波形を所定周期で繰り返してパルスを出力する。
【0015】
本発明の勾配電源は、インバータ制御により接地電位から所定の電圧変化率dv/dtで直線状に時間変化するランプ波形電圧を生成し、生成したランプ波形電圧と直流電源の第1電圧とを重畳し、この電圧重畳によって第1電圧から所定の電圧変化率dv/dtで直線状に電圧が時間変化する台形波形電圧を生成する。
【0016】
本発明の勾配電源は、直流電圧を交流電圧に変換するインバータ回路と、インバータ回路の交流電圧を直流電圧に変換する整流回路と、第1電源の直流電源の出力と整流回路の出力とを重畳する電圧重畳回路とを備える。
【0017】
インバータ回路は、インバータ制御で直流交流電圧変換を行う際、交流電圧の電圧を電圧変化率dv/dtで調整する。電圧変化率dv/dtは電圧の時間に対する変化率であり、インバータ回路は、直流電圧を交流電圧に変化する際に制御量を時間的に変えることによって電圧変化率dv/dtを調整する。電圧変化率dv/dtを負極性とすることで負の勾配の台形波形電圧が生成される。
【0018】
整流回路は、インバータ回路の交流電圧出力を整流して直流電圧とし、接地電位から直線状に時間変化するランプ波形電圧を生成する。ランプ波形電圧の電圧変化率はインバータ制御で調整された電圧変化率である。
【0019】
電圧重畳回路は、整流回路の出力のランプ波形電圧と第1電源の直流電源の第1電圧とを電圧重畳して台形波形電圧を生成する。
【0020】
整流回路から出力されるランプ波形電圧は、直線状に電圧が時間変化する電圧波形を呈するが、その始点となる電圧は接地電位であり接地電位から電圧が時間変化する。台形波形電圧は、ランプ波形電圧に第1電圧が電圧重畳されることにより、第1電圧を始点電圧として所定の電圧変化率dv/dtで直線状に時間変化する電圧波形となる。ランプ波形電圧の電圧変化率dv/dtを負の値とすることにより、負電圧の台形波形電圧が生成される。
【0021】
スイッチ部は、当該スイッチ部におけるパルス生成の開始を勾配電源の出力の開始と同期させ、接地電位の0Vと勾配電源で生成した台形波形電圧とを切り替えてパルス波形を生成する。生成されたパルス波形は、電位が接地電位である第1の区間と、第1電圧から所定の電圧変化率dv/dtで直線状に時間変化する台形波形電圧の第2の区間と、を有する。第1の区間の0Vと第2の区間の始点の第1電圧とは第1電圧分の電位差を有することになる。
【0022】
台形波形電圧の終点における第2電圧は、ランプ波形電圧の電圧変化率dv/dtと台形波形電圧の第2の区間の時間幅で定まる。
【0023】
スイッチ部は、台形波形電圧から生成したパルス波形を1パルスとし、このパルス波形を所定周期で繰り返して周期パルスを出力する。1パルスの時間幅は第1の区間の時間幅と第2の区間の時間幅を加算した値であり、パルス周期に応じて定まる。
【0024】
負極性の台形波形電圧の場合には、スイッチ部は0Vの第1の区間と負の第1電圧から直線状に時間変化する台形波形電圧の第2の区間との2つの電圧区間からなる電圧波形を1パルスとする周期パルスが出力される。
【0025】
本発明の制御部は、インバータ制御によりインバータ回路を制御して、接地電位から所定の電圧変化率dv/dtで直線状に時間変化するランプ波形電圧を生成し、当該ランプ波形電圧と第1電圧とを重畳し、第1電圧から所定の電圧変化率dv/dtで直線状に電圧が時間変化する台形波形電圧を生成する勾配電源の制御と、勾配電源と出力端との間の開閉、及び接地電位と出力端との間の開閉とを交互に切り替える切り替え動作と、切り替え動作を所定周期で繰り返す周期動作とを制御するスイッチ部の制御と、を備え、勾配電源の制御とスイッチ部の制御とを同期させ、台形波形電圧の生成とパルスの生成とを同期して行う。
【0026】
勾配電源のインバータ制御は、インバータ制御のデューティ比を制御するPWM制御、インバータ制御の周期を制御するPFM制御、又はインバータの導通角をシフト制御する位相シフト制御、を適用することができる。
【0027】
インバータ制御は、電圧制御と電流制御の2つ制御形態を適用することができる。インバータ制御の第1の制御形態は、検出部で検出した出力電圧の電圧変化が設定された電圧変化率dv/dtとなるように制御する電圧制御である。
【0028】
一方、インバータ制御の第2の制御形態は、検出部で検出した出力電流が定電流値となるように制御する電流制御である。定電流値は、外部指令、又は第1電圧印加後の静定電流値を用いることができる。
【発明の効果】
【0029】
以上説明したように、本発明のパルス電源装置によれば、電流源を用いることなく所定の電圧勾配を得ることができる勾配電源を備えることにより高速応答性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明のパルス電源装置の概略構成を説明するための図である。
【
図2】本発明のパルス電源装置の動作例を説明するためのタイミングチャートである。
【
図3A】本発明のパルス電源装置の放電フェーズの動作例を説明するための図である。
【
図3B】本発明のパルス電源装置の放電フェーズの動作例を説明するための図である。
【
図4A】本発明のパルス電源装置の印加フェーズの動作例を説明するための図である。
【
図4B】本発明のパルス電源装置の印加フェーズの動作例を説明するための図である。
【
図5】本発明の勾配電源の制御例を説明するための図である。
【
図6】PWM制御によるインバータ制御形態、PFM制御によるインバータ制御形態、及び位相シフト制御を説明するための図である。
【
図7】本発明の勾配電源の第1の構成例の概略構成図である。
【
図8】本発明の勾配電源の第1の構成例のタイミングチャートである。
【
図9】本発明の勾配電源の第2の構成例の概略構成図である。
【
図10】本発明の勾配電源の第2の構成例のタイミングチャートである。
【
図11A】本発明の電圧重畳回路の構成例を説明するための図である。
【
図11B】本発明の電圧重畳回路の構成例を説明するための図である。
【
図12】本発明の平滑回路を説明するための図である。
【
図13】本発明の平滑回路の第1の形態例を説明するための図である。
【
図14】本発明の平滑回路の第2の形態例を説明するための図である。
【
図15A】本発明の平滑回路の波形例を示す図である。
【
図15B】本発明の平滑回路の波形例を示す図である。
【
図16】本発明のパルス電源装置の負荷がプラズマ負荷の例を説明するための図である。
【
図17】スイッチ駆動信号、電源出力Vout、及び出力電流Ioutの一例を示す図である。
【
図18】ウェハー電圧Vsh、電源出力Vout、及びイオン電流Ipを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(1)本発明のパルス電源装置の概略構成および動作例
以下、本発明のパルス電源装置の概略構成および動作例について
図1、
図2を用いて説明する。
【0032】
パルス電源装置1は、電源部10とスイッチ部13と制御部15と検出部16とを備える。電源部10は、一定電圧の第1電圧を生成する第1直流電源11を第1電源とし、台形波形電圧を生成する勾配電源12を第2電源として備える。
【0033】
勾配電源12は、接地電位を始点として所定の電圧変化率dv/dtで電圧が変化するランプ波形電圧Vlampを生成し、このランプ波形電圧Vlampに第1直流電源11の第1電圧を重畳させることによって、第1電圧を始点として所定の電圧変化率dv/dtで電圧が変化する台形波形電圧を生成し、勾配電源出力Vgraのパルスを出力する。
【0034】
スイッチ部13は、スイッチング動作によって負荷側に蓄積された電荷を放電する放電フェーズと負荷側に周期パルスを印加する印加フェーズを順に繰り返し、負荷に対して電流を供給する。スイッチ部13は、印加フェーズにおいて勾配電源出力Vgraのパルスを負荷に出力するためのパルススイッチ部13aと、負荷に蓄積された電荷を放電するための放電回路13bと、を備える。パルススイッチ部13a及び放電回路13bのスイッチング動作は、制御部15によって制御される。
【0035】
印加フェーズでは、スイッチ部13は、勾配電源12で生成された台形波形電圧を周期パルスの1パルス波形として負荷に印加する。放電フェーズでは、負荷側に蓄積された電荷が放電されてスイッチ部13の出力は0Vとなるため、印加フェーズの開始時点でのスイッチ部13の出力は、0Vから第1電圧に変化する。スイッチ部13から出力されたパルス出力は、電源出力として負荷21に供給される。
【0036】
パルス電源装置1は、平滑回路を備えた構成としてもよい。平滑回路の形態として、勾配電源12の出力端に平滑回路が接続される第1の形態、及びスイッチ部13のパルススイッチ部13aの出力端に平滑回路が接続される第2の形態、とすることができる。第1の形態の平滑回路は、勾配電源出力に含まれるノイズ分を抑制する。第2の形態の平滑回路は、スイッチ部13において放電フェーズと印加フェーズとの間の電圧変化に伴って生じるオーバーシュートやアンダーシュートの電圧振動を抑制する。なお、
図1では平滑回路は示していない。
【0037】
検出部16は、パルス電源装置1の電源出力の出力電圧Vout、又は出力電流Ioutを検出し、検出値を制御部15にフィードバックする。
【0038】
制御部15は、勾配電源12及びスイッチ部13を制御する。この際、勾配電源12の勾配電源出力Vgraの出力制御、及びスイッチ部13のパルス制御を同期して行う。
【0039】
制御部15は、勾配電源をインバータ制御することによって勾配電源出力Vgraの出力制御を行う。インバータ制御は、デューティ比を制御するPWM制御、インバータ制御の周期を制御するPFM制御、又はインバータの導通角をシフトする位相シフト制御、を適用することができる。
【0040】
インバータ制御の第1の制御形態は、検出部16で検出した検出電圧値に基づいて出力電圧の電圧変化が電圧変化率dv/dtの設定値となるように電圧制御する。
【0041】
制御部15は、検出電圧値に基づいて電圧変化率dv/dtを算出し、算出値と設定値とを比較し、算出値が設定値となるようにインバータ制御を行う。電圧変化率dv/dtの設定値は、装置内部に記憶しておく他、外部から入力することで取得することができる。
【0042】
インバータ制御の第2の制御形態は、検出部16で検出した出力電流値が定電流値となるように制御する電流制御する。制御部15は、検出電流値と設定値とを比較し、算出値が設定値となるようにインバータ制御を行う。設定値として定電流値を定めることにより定電流制御を行う。定電流値は、外部指令、又は第1電圧印加後の静定電流値を用いることができる。
【0043】
インバータ制御の第3の制御形態は、検出部16で検出した検出電圧値に基づいて出力電圧が設定電圧となるように電圧制御する。制御部15は、検出電圧値と設定値とを比較し、算出値が設定値となるように位相シフト制御を行う。位相シフト制御では、インバータを構成するフルブリッジ回路において、進みレグに対する遅れレグの導通角の位相ずれを定める位相シフト量を制御することにより出力が制御される。
【0044】
図2は、本発明のパルス電源装置の動作例を説明するためのタイミングチャートである。
【0045】
電源部10は、第1直流電源11の第1電源と、勾配電源12の第2電源と、を備える。第1電源の第1直流電源11は、一定電圧の第1電圧V1を出力生成する。第2電源の勾配電源12は、接地電位を始点として所定の電圧変化率dv/dtで電圧が変化するランプ波形電圧Vlampを生成し、このランプ波形電圧Vlampに第1電圧V1を重畳させて台形波形電圧を生成する。
【0046】
勾配電源12は、制御部15からの勾配電源制御信号に基づいてランプ波形電圧Vlampと生成し、生成したランプ波形電圧Vlampと第1電圧V1とを重畳して台形波形電圧を生成し、勾配電源出力Vgraとして出力する。
【0047】
勾配電源制御信号は、スイッチ部13を制御するスイッチ制御信号と同一の出力パルス周期Tを備えると共に、スイッチ制御信号と同期している。勾配電源制御信号によるランプ波形電圧Vlampの発生と、スイッチ制御信号によるパルスの印加フェーズの開始とは同時点Aである。また、勾配電源制御信号によるランプ波形電圧Vlampの終了と、スイッチ制御信号によるパルスの印加フェーズの終了及び放電フェーズの開始とは同時点Bである。
【0048】
ここで、出力パルス周期T(=Ton+Toff)に対するデューティ比をTon/Tとしたとき、勾配電源制御信号のオン時間と印加フェーズの時間は同一のTonとなり、勾配電源制御信号のオフ時間と放電フェーズの時間は同一のToffとなる。
【0049】
ランプ波形電圧Vlampは、印加フェーズの始点の0Vから所定の電圧変化率dv/dtで変化し、印加フェーズの終点では、電圧変化率dv/dtとTonとの積(Ton×dv/dt)で定まる電圧ΔVとなる。勾配電源出力Vgraは、印加フェーズの始点の第1電圧V1から所定の電圧変化率dv/dtで変化し、印加フェーズの終点では、第1電圧V1に電圧ΔVを重畳した電圧V2(=V1+ΔV)となる。
【0050】
電圧ΔV及び電圧V2は、ΔVが電圧変化率dv/dtとTonとの積(Ton×dv/dt)であるため、電圧変化率dv/dt及びTonあるいは周期パルスのデューティ比に依存した電圧となる。したがって、電圧変化率dv/dt、Ton又は周期パルスのデューティ比が変更された場合には、電圧ΔV及び電圧V2は異なる値となる。
【0051】
第1の形態の平滑回路は、勾配電源出力に含まれるノイズ分を抑制し、第2の形態の平滑回路は、スイッチ部13のスイッチ部出力に含まれるオーバーシュートやアンダーシュートの電圧振動を抑制する。パルス電源装置1の電源出力は、負荷21に供給される。
【0052】
図2において、Ph_disを付した区間は放電フェーズを表し、Ph_addを付した区間は印加フェーズを表している。放電フェーズは、パルススイッチ部13aのスイッチSWAがオフ状態で、放電回路13bのスイッチSWBがオン状態である。一方、印加フェーズは、パルススイッチ部13aのスイッチSWAがオン状態で、放電回路13bのスイッチSWBがオフ状態である。
【0053】
パルススイッチ部13aのスイッチSWAは、オフ状態からオン状態に切り替えることによって、放電フェーズから印加フェーズに切り替え、印加フェーズのTonの間において勾配電源出力Vgraをパルス出力として出力する。
【0054】
放電回路13bのスイッチSWBは、オフ状態からオン状態に切り替えることによって、印加フェーズから放電フェーズに切り替え、放電フェーズのToffの間において負荷に蓄積されていた電荷を接地に放電し、勾配電源出力Vgraの電圧を0Vとする。
【0055】
図3は、放電フェーズの動作例を説明するための図であり、
図3Aと
図3Bは、それぞれ
図2中の放電フェーズPh_disにおいて電源出力VoutがV2から0Vに立ち上がる時点の動作状態、及び電源出力Voutが0Vとなる動作状態を表している。
【0056】
図3Aの放電フェーズPh_dis1は、パルススイッチ部13aのSWAがオフ状態に切り替わり、放電回路13bのSWBがオン状態に切り替わった時点である。この時点は、
図2においてDis1で表される区間に相当する。このDis1では、電源出力VoutがV2から0Vに立ち上がり、出力電流Ioutは、急峻した放電電流が0Aに向かって減少する。印加フェーズの電流Ipは、プラズマ負荷の場合にはイオン電流Ipに相当する。
【0057】
図3Bの放電フェーズPh_dis2は、パルススイッチ部13aのSWAがオフ状態にあり、放電回路13bのSWBがオン状態にある。この状態は、
図2においてDis2で表される区間に相当する。このDis2では、電源出力Voutが0Vであり、出力電流Ioutは0Aとなる。
【0058】
図4は、印加フェーズの動作例を説明するための図であり、
図4Aと
図4Bは、それぞれ
図2中の印加フェーズPh_appにおいて、電源出力Voutが0VからV1に立ち下がる時点の動作状態、及び電源出力VoutがV1からV2に変化する動作状態を表している。
【0059】
図4Aの印加フェーズPh_app1は、パルススイッチ部13aのSWAがオン状態に切り替わり、放電回路13bのSWBがオフ状態に切り替わった時点である。この時点は、
図2においてApp1で表される時点に相当する。このApp1の時点では、電源出力Voutが0VからV1に立ち下がり、負荷に向かって電流Iqが流れる。App1の時点における電圧変化は、スイッチ部より後段に接続される回路の時定数で定まる。
【0060】
図4Bの印加フェーズPh_app2は、パルススイッチ部13aのSWAがオン状態にあり、放電回路13bのSWBがオフ状態にある。この状態は、
図2においてApp2で表される区間に相当する。このApp2では、電源出力VoutはV1から電圧変化率dv/dtで変化し、App2の終点では、電源出力VoutはV2となる。プラズマ負荷の場合において、出力電流Ioutには、電圧変化率dv/dtに基づいて定まるイオン電流に相当する一定電流の電流Irが流れる。なお、電流Ir及び電流Iqの一例については
図17に示す。
【0061】
(2)勾配電源
本発明の勾配電源12は、直流電圧を交流電圧に変換するインバータ回路と、インバータ回路の交流電圧を直流電圧に変換する整流回路と、第1電源の直流電源の出力と整流回路を介して出力されるランプ波形電圧Vlampとを重畳して台形波形電圧を生成し、勾配電源出力Vgraとして出力する電圧重畳回路と、を備える。
【0062】
(2-1)勾配電源の制御
図5を用いて勾配電源12の制御例を示す。なお、
図5は、勾配電源12が備える構成の内、一部のみを示している。
【0063】
勾配電源12の勾配電源出力の制御は、制御部15によって行われる。制御部15は、検出部16で検出した電源出力の検出値をフィードバックして取得し、比較部15aで検出値と比較値とを比較する。制御指令生成部15bは、比較結果に基づいてインバータ回路12bをインバータ制御する制御指令を生成する。
【0064】
制御部15の制御において、フィードバック制御は、電圧制御あるいは電流制御を適用することができる。また、各制御において、インバータ制御は、デューティ比を制御するPWM制御、インバータ制御の周期を制御するPFM制御、インバータの位相シフト量を制御する位相シフト制御、を適用することができる。
【0065】
したがって、制御部15による制御形態として、電圧制御のフィードバック制御をPWM制御のインバータ制御、PFM制御のインバータ制御、あるいは位相シフト制御で行う制御形態、電流制御のフィードバック制御をPWM制御のインバータ制御、PFM制御のインバータ制御、あるいは位相シフト制御で行う各制御形態、を選択的に適用することができる。
【0066】
(a)電圧制御による制御形態
フィードバック制御の電圧制御の制御形態では、検出部16で検出した出力電圧Voutに基づいて、出力電圧の電圧変化が電圧変化率dv/dtの設定値となるように電圧制御を行う。制御部15は、出力電圧Voutに基づいて電圧変化率dv/dtを算出し、算出値と設定値とを比較して算出値が設定値となるようにフィードバック制御を行い、制御指令を生成する。電圧変化率dv/dtの設定値は、装置内部に記憶しておく他、外部から入力することで取得することができる。
【0067】
(b)電流制御による制御形態
フィードバック制御の電流制御の制御形態では、検出部16で検出した出力電流Ioutが定電流値となるように制御する電流制御を行う。制御部15は、出力電流Ioutと設定値とを比較し、出力電流Ioutが設定値となるようにフィードバック制御を行う。設定値として定電流値を定めることにより定電流制御が行われる。定電流値は、外部指令、又は第1電圧印加後の静定電流値を用いることができる。
【0068】
(c)インバータ制御
図6は、PWM制御によるインバータ制御形態、PFM制御によるインバータ制御形態、及び位相シフト制御、の一例を示している。
図6は、インバータ制御の周期、PWM制御のインバータ出力、PFM制御のインバータ出力、PWM制御とPFM制御とを組み合わせたインバータ出力、及び位相シフト制御の各信号例、を順に示している。なお、各信号は説明の便宜上から概略を示すものであって、実際の信号を表すものではない。
【0069】
図6に示すインバータ制御の周期の信号例において、インバータ制御の周期Tは、インバータ制御を行われる時間がTonの期間とインバータ制御を停止している時間がToffの期間とを備える。インバータ制御を行われるTonの期間は、スイッチ部がパルスを出力する区間と同じ時間幅で同期し、インバータ制御が停止するToffの期間は、スイッチ部が出力を停止する区間と同じ時間幅で同期している。
【0070】
(c1)PWM制御によるインバータ制御形態
図6に示すPWM制御のインバータ出力例において、PWM制御によるインバータ制御では、Tonの期間における同一の周期Tinvでインバータのオン/オフ動作が行われる。各周期Tinvは、スイッチがオン状態となるオン区間ton_w1,ton_w2,・・・,ton_wiと、スイッチがオフ状態となるオフ区間toff_w1,toff_w2,・・・,toff_wiと、を備える。このときのデューティ比は(Ton/Tinv)で表される。
【0071】
Ton_w1/Tinv,Ton_w2/Tinv,・・・,Ton_wi/Tinvのデューティ比が漸次増加するように制御することによって、インバータ回路12bの出力を整流して得られる出力電圧は直線状に増加する。PWM制御を行う場合には、インバータ制御の各周期におけるデューティ比を調整する。
【0072】
(c2)PFM制御によるインバータ制御
図6に示すPFM制御のインバータ出力例において、PFM制御によるインバータ制御では、PWM制御によるインバータ制御と同様に、Tonの期間において周期Tinvでインバータのオン/オフ動作が行われる。各周期Tinvは、スイッチがオン状態となるオン区間ton1_f1,ton_f2,・・・,ton_fiと、スイッチがオフ状態となるオフ区間toff_f1,toff_f2,・・・,toff_fiと、を備える。このときのデューティ比は(Ton/T)で表され、周期Tinvの時間幅によってパルス周波数を変調する。
【0073】
PFM制御において、周波数の変調は周期Tinvの時間幅の変調に相当する。周期Tinv_f1,Tinv_f2,・・・,Tinv_fiの時間幅が漸次減少するように制御することによって、インバータ回路12bの出力を整流して得られる出力電圧は直線状に増加する。PFM制御を行う場合には、インバータ制御の各周期の周期時間を調整する。
【0074】
(c3)PWM制御とPFM制御の組み合わせによるインバータ制御
本発明は、PWM制御によるインバータ制御とPFM制御によるインバータ制御とを組み合わせた制御形態としてもよい。
【0075】
図6に示すような、PWM制御によるインバータ制御とPFM制御によるインバータ制御とを組み合わせたインバータ出力例では、制御開始時点から数周期の間は同一の周期Tinv_f1とし、この数周期においてオン区間ton1_fを漸次増加させるPWM制御を行い、次に続く数周期の間を短縮した周期Tinv_f2とするPFM制御を行い、この数周期においてオン区間ton1_fを漸次増加させるPWM制御を行う。
【0076】
このように、インバータ制御をPWM制御とPFM制御とを組み合わせて行うことによって、PWM制御におけるデューティ比の調整、及びPFM制御における周期幅の調整に余裕を持たせることができる。
【0077】
(c4)位相シフト制御によるインバータ制御
図6に示す位相シフト制御例は、位相シフト量φの変化を示している。この位相シフト量φは、フルブリッジ回路において、進みレグのスイッチング素子を駆動するドライバ信号に対する遅れレグのスイッチング素子を駆動するドライバ信号の位相ずれの量である。位相シフト量φが漸次減少するよう制御することによって、インバータ回路12bの出力を整流して得られる出力電圧は直線状に増加する。
【0078】
(c5)PWM制御又はPFM制御と位相シフト制御の組み合わせによるインバータ制御
本発明は、PWM制御によるインバータ制御又はPFM制御によるインバータ制御と、位相シフト制御と、を組み合わせた制御形態としてもよい。位相シフト制御を組み合わせた制御形態では、PWM制御あるいはPFM制御において、各オン区間ton1_wあるいはton1_fにおいて進みレグと遅れレグとの間の導通角をずらす位相シフト量を順次調整する。位相シフト制御を組み合わせることによって、PWM制御におけるデューティ比の調整、及びPFM制御における周期幅の調整に余裕を持たせることができる。なお、
図6にはこのインバータ制御については示していない。
【0079】
本発明の勾配電源は、直流電源の出力とランプ波形電圧Vlampとを重畳する電圧重畳回路を勾配電源の回路において、異なる位置に配置する複数形態で構成することができる。以下、本発明の勾配電源の第1の構成例~第2の構成例について
図7~
図11を用いて説明する。
【0080】
図7及び
図8は、勾配電源の第1の構成例を説明するための図であり、
図9及び
図10は、勾配電源の第2の構成例を説明するための図である。
図11は、電圧重畳回路の構成例を説明するための図である。
【0081】
(2-2)勾配電源の構成例
(a)第1の構成例
図7は、本発明の勾配電源の第1の構成例の概略構成を示し、
図8は、本発明の勾配電源の第1の構成例のタイミングチャートを示している。
【0082】
第1の構成例の勾配電源12Aは、第2直流電源12a、インバータ回路12b、トランス12c、及び整流回路12dを備え、電圧重畳回路12eは整流回路12d内に設けられる。
【0083】
第2直流電源12aは、交流を直流に変換して直流電圧を出力するAC/DC電源を用いる他、通常の直流電源を用いても良い。AC(交流)の発生源は、外部電源あるいは内部電源のいずれとしてもよい。インバータ回路12bは、入力した直流電圧を交流電圧に変換すると共に、変換した交流電圧の電圧値を調整して出力する。トランス12cは、インバータ回路12bからの交流電圧の振幅を所定の巻線比で定まる変圧比に基づいて変換する。整流回路12dは、トランス12cの交流電圧を整流して直流電圧に変換する。
【0084】
インバータ回路12bは、制御部15から出力される制御指令に基づいてインバータ制御される。制御部15の制御指令は、勾配電源出力の電圧及び/又は電流のフィードバック信号に基づいて生成される他、図示しない外部装置からの外部信号に基づいて生成される構成としてもよい。
【0085】
インバータ回路12bは、例えば、数100kHz~数十MHzの高周波で駆動される。インバータ回路12bは、1つのスイッチング素子を用いた1石型のフライバックインバータ、2つのスイッチング素子を用いた2石型のハーフブリッジインバータ、4つのスイッチング素子を用いた4石型のフルブリッジインバータの何れを用いてもよい。
【0086】
電圧重畳回路12eは整流回路12d内に組み込まれ、整流回路12dの整流出力に第1直流電源11の第1電圧V1を重畳する。
図11Aは、整流回路12d内に組み込んだ電圧重畳回路12eの構成例を示している。ここでは、整流回路12dとして、ダイオードブリッジから構成される回路例を示している。
図11Aの回路構成例では、整流回路12dの一方の出力端に電圧重畳回路12eの出力端を接続し、第1電圧V1を重畳した整流出力を勾配電源出力として出力する。
【0087】
図8は、インバータ制御としてPWM制御を用いた場合を示している。インバータ制御は、出力パルス周期Tの内でデューティ比に基づくオン時間Tonの間に行われ、オフ時間Toffが経過した後に再開される。PWM制御は、駆動周波数f_invで定まるインバータ周期Tinv(=1/f_inv)毎にパルス幅を制御する。パルス幅を漸次増加あるいは漸次減少させて出力電圧の波高値を昇圧あるいは降圧することによって、出力電圧を調整する。
【0088】
インバータ制御によってランプ波形電圧Vlamp、及び勾配電源出力Vgraの電圧の勾配波形を生成する際には、勾配電源12の後段に平滑回路が接続された際の応答性を考慮して、インバータ制御を行うPWM制御の駆動周波数f_invは、出力パルス周波数f_pulseよりも高い周波数とする必要があり、5倍以上の高周波数であることが望ましい。
【0089】
トランス12cは、インバータ回路12bのインバータ出力の波高値を巻線比で定まる変圧比に基づいて調整し、整流回路12dに出力する。整流回路12dはインバータ出力を整流し、所定の電圧変化率dv/dtで電圧変化するランプ波形電圧を出力する。ランプ波形電圧は、オン時間Tonの時間内に出力され、オフ時間Toffでは出力されない。電圧重畳回路12eは、整流回路12dの整流出力に第1電圧V1を重畳して重畳出力を生成する。
【0090】
(b)勾配電源の第2の構成例
図9は、本発明の勾配電源の第2の構成例の概略構成を示し、
図10は、本発明の勾配電源の第2の構成例のタイミングチャートを示している。
【0091】
第2の構成例の勾配電源12Bは、第2直流電源12a、インバータ回路12b、トランス12c、及び整流回路12dを備え、電圧重畳回路12eをトランス12c内に備える。
【0092】
第2の構成例の勾配電源12Bは、第1の構成例の勾配電源12Aと同様に、第2直流電源12a、インバータ回路12b、トランス12c、及び整流回路12dを備えるが、電圧重畳回路12eがトランス12cに組み込まれて構成される点で相違している。ここでは、第2直流電源12a、インバータ回路12b、トランス12c、及び整流回路12dについての説明は省略し、電圧重畳回路12eについてのみ説明する。
【0093】
電圧重畳回路12eは、トランス12c内に組み込まれる形態で構成され、インバータ回路12bのインバータ出力に第1直流電源11の第1電圧V1を重畳する。
図11Bは、電圧重畳回路12eの構成例を示している。
【0094】
図11Bの回路構成例では、トランス12cの2次側に一方の出力端に第1直流電源11を接続することによって、トランス12cで電圧変換されたインバータ出力に第1電圧V1を重畳する。
【0095】
図8は、
図6と同様に、インバータ制御としてPWM制御を用いた場合を示している。インバータ制御は、出力パルス周期Tの範囲内でデューティ比に基づくオン時間Tonの間に行われ、オフ時間Toffが経過した後に再開される。PWM制御は、駆動周波数f_invで定まるインバータ周期Tinv毎にパルス幅を制御する。パルス幅を漸次増加あるいは漸次減少させて出力電圧の波高値を昇圧あるいは降圧することによって、出力電圧を調整する。
【0096】
第1の構成例と同様に、インバータ制御によってランプ波形電圧Vlamp、及び勾配電源出力Vgraの電圧の勾配波形を生成する際には、勾配電源12の後段に平滑回路が接続された際の応答性を考慮して、インバータ制御を行うPWM制御の駆動周波数f_invは、出力パルス周波数f_pulseよりも高い周波数とする必要があり、5倍以上の高周波数であることが望ましい。
【0097】
トランス12cは、インバータ回路12bのインバータ出力の波高値を変圧比に基づいて調整する。
【0098】
電圧重畳回路12eは、トランス12cで電圧変換したインバータ出力に第1電圧V1を重畳してトランス出力を生成し、整流回路12dに出力する。整流回路12dはインバータ出力を整流し、所定の電圧変化率dv/dtで電圧変化するランプ波形電圧を出力する。ランプ波形電圧は、オン時間Tonの時間内に出力され、オフ時間Toffでは出力されない。
【0099】
(3)平滑回路
図12は、平滑回路14の構成例を示している。平滑回路14は、直列接続されたインダクタLpと並列接続されたキャパシタCpのLC回路で構成される。なお、この平滑回路14は一例であって、このLC回路に限定されるものではない。
【0100】
本発明のパルス電源装置1の平滑回路は、勾配電源12の出力端に平滑回路が接続される第1の形態と、スイッチ部13のパルススイッチ部13aの出力端に平滑回路が接続される第2の形態と、により構成することができる。第1の形態の平滑回路は、勾配電源出力に含まれるノイズ分を抑制する。第2の形態の平滑回路は、スイッチ部13において放電フェーズと印加フェーズとの間の電圧変化に伴って生じるオーバーシュートやアンダーシュートの電圧振動を抑制する。
【0101】
(a)平滑回路の第1の形態例
第1の形態の平滑回路14Aについて
図13を用いて説明する。なお、
図13では、整流回路12dにおいて電圧重畳を行う勾配電源12Aの構成例を示している。
【0102】
平滑回路14Aは、勾配電源12Aの整流回路12dの出力端とスイッチ部13の入力端との間に接続され、整流回路等で発生した勾配電源出力に含まれる高周波成分のノイズを抑制する。この回路構成では、スイッチ部13内のパルススイッチ部13aのSWAがオフ状態に切り替わっても、平滑回路14A内のコンデンサに充電された電圧はV1電源の電圧まで下がらない。そのため、第1の形態では、平滑回路14A内のコンデンサに充電された電圧を放電するために、放電回路17が接続される。
【0103】
(b)平滑回路の第2の形態例
第2の形態の平滑回路14Bについて
図14,
図15を用いて説明する。
図14は、整流回路12dにおいて電圧重畳を行う勾配電源12Aの構成例を示し、
図15は、平滑回路14Bの波形例を示している。
【0104】
第2の形態例の平滑回路14Bは、スイッチ部13において、パルススイッチ部13aと放電回路13bとの間に接続される。スイッチ部13のパルススイッチ部13aで行われるスイッチング動作により、放電時にはV2から第1電圧V1に電圧が急峻に切り替わり、また接地電位の0Vから第1電圧V1に電圧が急峻に切り替わる。この電圧変化は、出力波形においてオーバーシュートあるいはアンダーシュートが発生する。
【0105】
パルススイッチ部13aのSWAがオン状態において、平滑回路14Bのコンデンサは充電される。その後、パルススイッチ部13aのSWAがオフ状態に切り替わると、平滑回路14Bのコンデンサに充電された電圧は、放電回路13bがオン状態となるため放電される。これにより、放電フェーズと印加フェーズとの間において、パルススイッチ部13aのオン状態とオフ状態の切り替えの際に、電圧変化に伴うオーバーシュートやアンダーシュートの電圧振動を抑制され、電源出力の電圧値は所定の時定数で整定され、変動が抑制された電源出力Voutが出力される。
【0106】
図15は、平滑回路14Bの波形例を示している。
図15Aは、インダクタLfとキャパシタCfの定数が小さい場合を示し、
図15Bは、インダクタLfとキャパシタCfの定数が大きい場合を示している。インダクタLf及びキャパシタCfを小さな定数に選択することにより、LC回路の時定数は小さな値に設定され、これにより、電圧の立ち上がり時間を短縮することができる。LC回路の時定数が大きい場合には、電圧の立ち上がり時間t2が長くなって放電時間を長く設定する必要が生じ、高周波の出力パルス周波数f_pulseを設定する際に影響する。電圧の立ち上がり時間t1は、パルス周期の例えば10%よりも短いことが望ましい。
【0107】
(4)プラズマ負荷の例
図16を用いて、本発明のパルス電源装置の負荷がプラズマ負荷の例について説明する。プラズマ負荷である場合には、プラズマチャンバ2内のプラズマ負荷は、キャパシタCw、Cp、及びイオン電流Ipで表される。キャパシタCwは、基板等のプラズマチャンバが備える構成要素の固有容量であり、Cpは、シース容量や浮遊容量の不定容量である。
【0108】
プラズマチャンバ2では、チャンバ内に配置した基板に供給するイオン電流Ipを一定電流とし、これによって、基板のウェハー電圧Vshを一定電圧に維持することが求められる。
【0109】
本発明のパルス電源装置は、上記のような一定電流のイオン電流Ipを供給し、基板のウェハー電圧Vshを一定電圧に維持するための電力をプラズマチャンバ2の負荷に供給する。
【0110】
本発明のパルス電源装置は、検出部16で検出した電源出力Vout、及び/又は出力電流Ioutを制御部15にフィードバックし、電源出力Vout、又は出力電流Ioutを一定値とする制御値を生成し、パルススイッチ部13aのスイッチSWA、及び放電回路13bのスイッチSWBを制御する。
【0111】
図17は、スイッチを駆動する駆動信号、電源出力Vout、及び出力電流Ioutの一例を模式的に示し、
図18は、ウェハー電圧Vsh、電源出力Vout、及びイオン電流Ipを示している。
【0112】
放電フェーズから印加フェーズに切り替わる際、電源出力Voutは接地電位の0VからV1に平滑回路14Bの時定数で変化し、時間tqの間の電流Iqが流れる。時間tqが経過した後、電源出力Voutは電圧変化率dv/dtで変化し、電流Irは一定電流に維持される。この電流Irは、時間tqが経過した後に一定電流に静定される電流であり、前記したフィードバック制御の電流制御の制御形態において行う定電流制御で設定される設定値の定電流値として用いることができる。
【0113】
印加フェーズの終了時点では、電源出力Voutは電圧V2となる。この電圧V2は、電圧変化率dv/dtと印加フェーズの時間幅で定まる電圧値となる。なお、印加フェーズの勾配区間の時間幅は、出力パルス周期Tのオン時間Tonに相当する。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明のパルス電源装置は、プラズマ処理に適用する他、一定電圧のパルス出力を要する負荷に適用することができる。
【符号の説明】
【0115】
1 パルス電源装置
2 プラズマチャンバ
10 電源部
11 第1直流電源
12 勾配電源
12A 勾配電源
12B 勾配電源
12C 勾配電源
12a 第2直流電源
12b インバータ回路
12c トランス
12d 整流回路
12e 電圧重畳回路
12f 整流出力用平滑回路
13 スイッチ部
13a パルススイッチ部
13b 放電回路
14 平滑回路
15 制御部
16 検出部
21 負荷
Ph_dis 放電フェーズ
Ph_add 印加フェーズ
Cf キャパシタ
Cp キャパシタ
Cw キャパシタ
Iout 出力電流
Ip イオン電流
Ir 電流
Iq 電流
Lf インダクタ
Lp インダクタ
SWA スイッチ
SWB スイッチ
T 出力パルス周期
Tinv インバータ周期
Toff オフ時間
Ton オン時間
V1 第1電圧
Vgra 勾配電源出力
Vlamp ランプ波形電圧
Vout 電源出力
Vsh ウェハー電圧
dv/dt 電圧変化率
f_inv 駆動周波数
f_pulse 出力パルス周波数
【要約】
【課題】電流源を用いることなく負の電圧勾配を得ることができる勾配電源を備えたパルス電源装置を提供する。
【解決手段】本発明のパルス電源装置は、勾配電源の制御において、インバータ制御によって所定の電圧変化率dv/dtで直線状に電圧が時間変化する電圧波形を生成し、生成した電圧波形に直流電圧を重畳させて台形波形電圧を生成し、スイッチ部の制御において、スイッチング動作によってパルス波形が所定周期で繰り返すパルスを出力する。勾配電源の制御とスイッチ部の制御との同期によって、台形波形電圧の生成とパルスの生成とを同期させる。
【選択図】
図1