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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】雪上滑走具およびエッジの加工方法
(51)【国際特許分類】
   A63C 5/048 20060101AFI20240829BHJP
【FI】
A63C5/048
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2023554625
(86)(22)【出願日】2022-10-13
(86)【国際出願番号】 JP2022038260
(87)【国際公開番号】W WO2023068169
(87)【国際公開日】2023-04-27
【審査請求日】2023-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2021171493
(32)【優先日】2021-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】514147066
【氏名又は名称】山根 利昭
(72)【発明者】
【氏名】山根 利昭
【審査官】槙 俊秋
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-52776(JP,A)
【文献】特開昭55-141259(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0096103(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0292886(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第0530395(EP,A1)
【文献】欧州特許出願公開第3045212(EP,A1)
【文献】国際公開第01/51138(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第19809005(DE,A1)
【文献】西独国特許出願公開第3441058(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63C 5/048
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細長い板状のコアと、前記コアの下面に形成された滑走面と、前記滑走面の外周に取り付けられたエッジとを備えた雪上滑走具であって、
前記エッジは、前記雪上滑走具の長手方向に沿った全部または一部の長さにわたって特定の断面形状を有し(この特定の断面形状を有するエッジを「スルーエッジ」という)、
前記スルーエッジは、前記滑走面から上方向に所定距離離れた位置に形成された角部を有し、
前記角部よりも内周側に、前記滑走面つながるように形成された、前記角部よりもグリップ力の低い形状を持った傾斜部が形成され、
前記雪上滑走具の長手方向に垂直な断面を見て、前記傾斜部は、前記滑走面に対して0度を超える第1の角度だけ上側に傾いており、前記角部から上に延びる前記エッジの側面は、前記滑走面に垂直な仮想面に対して0度または0度を超える第2の角度だけ内側に傾いており、前記角部は、前記傾斜部に対して、上方向に見て同じ高さまたはより高い位置に配置されている、雪上滑走具。
【請求項2】
前記角部と前記傾斜部との間に外側下面部が形成され、前記外側下面部における下面は、前記滑走面と平行に形成されている、請求項1に記載の雪上滑走具。
【請求項3】
前記角部における前記エッジの側面は、前記滑走面に対して直角に形成されている、請求項2に記載の雪上滑走具。
【請求項4】
前記傾斜部の外周に前記角部が形成されている、請求項1に記載の雪上滑走具。
【請求項5】
前記角部における前記エッジの側面は、前記滑走面に垂直な仮想面に対して内側に0度を超える前記第2の角度だけ傾斜して形成されている、請求項4に記載の雪上滑走具。
【請求項6】
前記傾斜部が前記エッジと同一の素材によって一体に形成されている、請求項1に記載の雪上滑走具。
【請求項7】
前記傾斜部が前記エッジと同一でない素材によって形成されている、請求項1に記載の雪上滑走具。
【請求項8】
前記同一でない素材が、前記滑走面の素材もしくは前記コアの素材またはそれらの両方を含む、請求項7に記載の雪上滑走具。
【請求項9】
前記スルーエッジは、前記滑走面の前側接雪点と後ろ側接雪点との間に形成されている、請求項1に記載の雪上滑走具。
【請求項10】
前記角部が、前記滑走面から上方向に0.1mmから8mm上がった位置に形成され、好ましくは前記滑走面から上方向に0.1mmから3.8mm上がった位置に形成されている、請求項1に記載の雪上滑走具。
【請求項11】
雪上滑走具の長手方向に垂直な断面を見て、前記傾斜部が、曲線、円弧、斜線、またはこれらの組み合わせによって形成されて前記滑走面につながっている、請求項1に記載の雪上滑走具。
【請求項12】
前記滑走面から前記角部までの上方向への距離が、前記エッジの高さ方向の厚みの5%から95%の範囲内にあり、好ましくは前記エッジの高さ方向の厚みの10%から90%の範囲内にある、請求項1に記載の雪上滑走具。
【請求項13】
雪上滑走具の長手方向に垂直な断面を見て、前記角部の角度が70度~110度の範囲にあり、好ましくは、前記角部の角度が85度~95度の範囲にあり、より好ましくは、前記角部の角度が88度~92度の範囲にある、請求項1に記載の雪上滑走具。
【請求項14】
前記雪上滑走具がスキー板、スノーボード、スノースケートのボード、またはスノースクートのボードである、請求項1に記載の雪上滑走具。
【請求項15】
細長い板状のコアと、前記コアの下面に形成された滑走面と、前記滑走面の外周に取り付けられたエッジとを備えた雪上滑走具のエッジを加工する方法であって、
前記エッジの角部を前記エッジの滑走面から上方向に所定距離離れた位置に形成する工程と、
前記形成された前記エッジの角部の内周側に、前記エッジの角部よりもグリップ力の低い形状を持った傾斜部を、前記滑走面につながるように形成する工程とを含み、
前記雪上滑走具の長手方向に垂直な断面を見て、前記角部は、前記傾斜部に対して、上方向に見て同じ高さまたはより高い位置に配置されている、雪上滑走具の加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は雪上滑走具に関し、特に、雪上滑走具の滑走面の外周に付いているエッジの構造に関する。また本発明はそのエッジの加工方法に関する。雪上滑走具の例としては、スキー板、スノーボード、スノースケートのボード、スノースクート(snow scoot)のボードがあげられる。
【背景技術】
【0002】
スキー場などで、雪上の所々にボックスやレールなどの人工物を配置し、スノーボードで雪上を滑りながら、ボックスやレールの上に飛び乗ってその上でスノーボードを滑らせる「ジビング」(jibbing)という滑り方がある。また、スキーにおいても、特にフリースタイルスキーにおいて、凸凹の雪の上を滑りながら、各所に設置されている人工物の上を滑ることがある。
【0003】
このような人工物の上を滑る場合、滑走方向がボードの長手方向から所定角度ずれる、いわゆる横滑りが行われることがある。この横滑り時に、滑走面の外周に付いているエッジの角が人工物に引っ掛かり(逆エッジという)、転倒などの事故が起こることがある。
【0004】
このような事故を防止するために、ユーザー自身が人工物の上を滑るために、所有しているスキー板やスノーボードのエッジの角を丸くする加工をすることがある。
【0005】
また、スキーやスノーボードの初心者、初級者あるいは中級者(以下「初心者など」という)が人工物でない通常の雪面を滑るときでも、逆エッジによって転倒などの事故が起こることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表平09-500037号公報
【文献】特開2002-306665号公報
【文献】米国特許第5083810号明細書
【文献】米国特許第5580078号明細書
【文献】特開2003-236031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、エッジの角を丸くすると、そのようなボードやスキー板で通常の雪上滑走をしようとするとエッジのグリップが効きにくくなり、特に硬い雪面での方向転換が難しくなり、自在に滑ることができなくなる。そこでユーザーは、エッジ・グリップの効くボードまたはスキー板と、エッジの角を落としたボードまたはスキー板の2種類をスキー場に持ちこむ必要があり、不便であった。
【0008】
また、スキーやスノーボードの初心者などが雪面を滑るときの、逆エッジによる転倒事故を防止する必要がある。
【0009】
本発明は、かかる実情に鑑み、1種類のスノーボードやスキー板で、雪面でターンするときの操作性を確保でき、かつ、人工物の上を滑る場合の逆エッジによる事故率を下げ、さらにはスキーやスノーボード初心者などが雪面を滑るときの逆エッジによる事故率を下げ、もって滑走の安全性を高めることのできる雪上滑走具およびエッジの加工方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る雪上滑走具は、細長い板状のコアと、前記コアの下面に形成された滑走面と、前記滑走面の外周に取り付けられたエッジとを備えた雪上滑走具であって、前記エッジは、前記雪上滑走具の長手方向に沿った全部または一部の長さにわたって特定の断面形状を有し(この特定の断面形状を有するエッジを「スルーエッジ」という)、前記スルーエッジは、前記滑走面から上方向に所定距離離れた位置に形成された角部を有し、前記角部よりも内周側に、前記滑走面つながるように形成された、前記角部よりもグリップ力の低い形状を持った傾斜部が形成され、前記雪上滑走具の長手方向に垂直な断面を見て、前記傾斜部は、前記滑走面に対して0度を超える第1の角度だけ上側に傾いており、前記角部から上に延びる前記エッジの側面は、前記滑走面に垂直な仮想面に対して0度または0度を超える第2の角度だけ内側に傾いており、前記角部は、前記傾斜部よりも、上方向に見て同じ高さまたはより高い位置に配置されているものである。
【0011】
前記第1の角度は、前記滑走面に対して0度を超え、好ましくは20度以下、より好ましくは10度以下の角度であってもよい。前記第2の角度は、前記滑走面に垂直な仮想面に対して0度または0度を超え、好ましくは20度以下、より好ましくは10度以下の角度であってもよい。
【0012】
この構成によれば、エッジの角部が滑走面から上方向に所定距離離れた位置に形成されており、かつエッジの角部よりも内周側に、滑走面つながるように形成された、エッジの角部よりもグリップ力の低い形状を持った傾斜部を有するので、特に人工物などの硬い表面を横滑りするときに、傾斜部を使って滑ることができ、エッジの角部が引っかかる「逆エッジ」が生じにくくなる。また、角部が、傾斜部よりも、滑走面から上方向に見て同じ位置か、高い位置に存在するため、傾斜部と角部との間に凹所または溝が形成されることはない。
【0013】
さらに、雪上滑走具の長手方向に垂直な断面を見て、傾斜部が、滑走面に対して0度を超える第1の角度だけ上側に傾いており、角部から延びるエッジの側面は、滑走面に垂直な仮想面に対して0度または0度を超える第2の角度だけ内側に傾いているように設定されている。 これらの角度によって、通常の雪面を滑るときにこのエッジの角部を使って滑るようにすれば、雪面でのターン時などの操作性を確保できる。
【0014】
スルーエッジは、雪上滑走具の滑走面の全外周に形成されていてもよく、滑走面の前側接雪点と後ろ側接雪点との間に形成されていてもよい。
【0015】
本発明の1つの側面によれば、雪上滑走具は、角部と傾斜部との間に外側下面部が形成され、外側下面部における下面は、滑走面と平行に形成されていてもよい。角部におけるエッジの側面は、滑走面に対して直角に形成されていてもよい。
【0016】
本発明の他の側面によれば、傾斜部の外周が直接角部につながっていてもよい。この場合、角部におけるエッジの側面は、滑走面に垂直な仮想面に対して内側に0度を超える第2の角度だけ傾斜して形成されていてもよい。
【0017】
「上方向に所定距離離れた」の「所定距離」は、0.1mm~8mmの範囲、より好ましくは0.1mm~3.8mmの範囲にある。
【0018】
「エッジの角部よりもグリップ力が低い」とは、傾斜部の形状が雪上滑走具の長手方向に垂直な断面を見て、曲線もしくは下から見て凹凸を含む曲線で形成されている、特に円の一部(円弧)によって形成されている、斜線で形成されている、またはこれらの形状を組み合わせた形状で形成されていることをいう。
【0019】
傾斜部は、エッジと同一の素材(通常、ステンレスや鉄である)によって一体に形成されていてもよく、エッジと同一でない素材によって形成されていてもよい。同一でない素材は、滑走面の素材もしくはコアの素材またはその両方を含んでいてもよい。
【0020】
滑走面から角部までの上方向への距離は、エッジの高さ方向の厚みの5%から95%の範囲内にあり、エッジの高さ方向の厚みの10%から90%の範囲内にあることが好ましい。
【0021】
エッジの角部の角度は、雪上滑走具の長手方向に垂直な断面を見て、70度~110度の範囲にあることが好ましく、特に、85度~95度の範囲にあることが好ましく、88度~92度の範囲にあることがより好ましい。
【0022】
本発明に係る雪上滑走具の加工方法は、細長い板状のコアと、コアの下面に形成された滑走面と、滑走面の外周の一部または全部に取り付けられたスルーエッジとを備えた雪上滑走具を加工する方法であって、エッジの角部を滑走面から上方向に所定距離離れた位置に形成する工程と、形成されたエッジの角部の内周側に、エッジの角部よりもグリップ力の低い形状を持った傾斜部を、滑走面につながるように形成する工程とを含む。前記雪上滑走具の長手方向に垂直な断面を見て、前記角部は、前記傾斜部に対して、上方向に見て同じ高さまたはより高い位置に配置されている。
【0023】
エッジの角部を形成する工程は、エッジの接雪面の外周側の部分を、滑走面から上方向に所定距離切削する工程を含み、傾斜部を形成する工程は、エッジの切削されなかった内周側の一部または全部を、エッジの角部よりもグリップ力の低い形状を持つように加工する工程を含んでいてもよい。
【0024】
また、エッジの角部を形成する工程は、エッジの接雪面の全部を、滑走面から上方向に所定距離切削する工程を含み、傾斜部を形成する工程は、エッジの接雪面の切削によって露出した滑走面もしくはコアまたはそれらの両方を、形成されたエッジの角部よりもグリップ力の低い形状を持つように加工する工程を含んでいてもよい。
【0025】
傾斜部を形成する工程は、エッジの接雪面を、滑走面に接する部分から、滑走面に対して0度を超える第1の角度だけ斜め上方向に切削する工程を含み、エッジの角部を形成する工程は、エッジの側面部を斜め内側に削って、滑走面に垂直な仮想面との間に第2の角度が形成されるようにする工程を含んでいてもよい。前記第1の角度は、前記滑走面に対して0度を超え、好ましくは20度以下、より好ましくは10度以下の角度であってもよい。前記第2の角度は、前記滑走面に垂直な仮想面に対して0度または0度を超え、好ましくは20度以下、より好ましくは10度以下の角度であってもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、1種類のスノーボードやスキー板で、雪面でターンする操作性を確保でき、かつ、人工物の上を滑る場合の逆エッジ事故を減らし、安全性を高めることができる。 また、スキーやスノーボードの初心者などが雪面を滑るときに逆エッジによる事故率を下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は本発明の実施の形態に係る雪上滑走具を示す図であり、Aはスキー板を示す上面図、Bはスノーボードを示す上面図、Cは側面図である。
図2図2は雪上滑走具の横断面(図1で一点鎖線T-Tで表される)に沿った断面図であり、エッジ3が、少なくとも角部5と傾斜部6とで構成されている状態を示す。
図3図3はエッジ3の角部5が、滑走面2よりも上方向に所定距離dだけ離れた位置に形成された状態を示す外形断面図であり、Aは距離dが比較的小さい場合、Bは距離dが比較的大きい場合を示す。
図4図4は他の実施の形態に係る雪上滑走具の横断面(図1で一点鎖線T-Tで表される)に沿った断面図であり、エッジ3が、少なくとも角部5と傾斜部6とで構成されている状態を示す。
図5図5はエッジ3の角部5が、滑走面2よりも上方向に所定距離dだけ離れた位置に形成された状態を示す外形断面図であり、Aは距離dが比較的大きい場合、Bは距離dが比較的小さい場合を示す。
図6図6は雪上滑走具の横断面(図1で一点鎖線T-Tで表される)に沿った断面図であり、エッジ3と同一でない素材で傾斜部6が形成されている状態を示す。
図7図7は雪上滑走具の横断面(図1で一点鎖線T-Tで表される)に沿った断面図であり、エッジ3と同一でない素材で傾斜部6が形成されている状態を示す。
図8図8は雪上滑走具の横断面(図1で一点鎖線T-Tで表される)に沿った断面図であり、エッジ3と同一でない素材で傾斜部6が形成されている状態を示す。
図9図9は傾斜部6の断面外形形状のいくつかの具体例を示す外形断面図である。
図10図10は傾斜部6の断面外形形状の他のいくつかの具体例を示す外形断面図である。
図11図11はエッジ3の一部が傾斜部6を構成する場合の、傾斜部6の横方向の幅wを示す断面図である。
図12図12は滑走面2およびコア1が傾斜部6を構成する場合の、傾斜部6の横方向の幅wを示す断面図である。
図13図13は雪上滑走具のエッジ3を加工して、角のついた角部5とグリップ力の低い曲線状の傾斜部6とを形成する各工程を示す断面図である。
図14図14は雪上滑走具のエッジ3を加工して、角のついた角部5とグリップ力の低い斜線状の傾斜部6とを形成する各工程を示す断面図である。
図15図15は雪上滑走具のエッジ3を加工して角のついた角部5を形成し、滑走面2およびコア1を加工してグリップ力の低い曲線状の傾斜部6を形成する各工程を示す断面図である。
図16図16は雪上滑走具のエッジ3を加工して、角のついた角部5とグリップ力の低い斜線状または曲線状の傾斜部6とを形成する各工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0029】
図1は、本発明の実施の形態に係る雪上滑走具10を示す図であり、図1Aは雪上滑走具10の具体例としてスキー板をそのトップから見た図を示し、図1Bは雪上滑走具10の具体例としてスノーボードをそのトップから見た図を示す。スノーボードおよびスキー板の各長手方向Fに沿った中心線もしくは中心面を一点鎖線Cで表す。図1Cはスノーボードまたはスキー板の側面図である。
【0030】
スノーボードやスキー板の各滑走面2は、周知のようにトップ面の裏側に付いており、滑走面2の接雪点20,21を示す。接雪点20および接雪点21のうち、雪上滑走具10の走行方向前側の接雪点を「前側接雪点」といい、走行方向後ろ側の接雪点を「後ろ側接雪点」という。
【0031】
雪上滑走具10の滑走面2の外周には、エッジが取り付けられている。エッジは、本発明の実施の形態においては、長手方向Fに沿った雪上滑走具10の全部の長さにわたって、あるいは一部の長さにわたって特定の断面形状を有する。この特定の断面形状を有する部分を「スルーエッジ」という。スルーエッジが形成されている範囲は、滑走面2の全周であってもよく、一部の範囲であってもよい。「一部の範囲」の例として、スルーエッジは、滑走面2の接雪点20から接雪点21までの範囲で形成されていてもよい。接雪点20から接雪点21までの範囲内の任意の位置で、中心線Cに垂直な横断面を設定する。この横断面を一点鎖線T-Tで表す。
【0032】
図2は、1つの実施の形態に係る雪上滑走具10を、雪上滑走具の長手方向Fに垂直な横断面T-T(図1参照)でカットした断面図である。図2では、中心線Cから一方の側(例えば右側)の断面のみ示しているが、言うまでもなく、中心線Cから他方の側(例えば左側)の断面も対称的な形状になっている。すなわち、雪上滑走具10は、中心線Cを基準として、左右対称な形状となっている。これは本願添付の他の断面図においても同じである。
【0033】
雪上滑走具10は、コア1と、そのコア1の下面に形成された滑走面(ソール面ともいう)2と、滑走面2の外周に取り付けられたエッジ3と、コア1の上面に形成されたトップ面4とを備えている。
【0034】
エッジ3には、角部(グリップ部ともいう)5が形成され、さらに傾斜部6が形成されている。角部5はエッジ3の最外周にあり、主としてターン時に雪面をとらえるための部分である。傾斜部6は主として人工物の上などを安全に横滑りするために、あるいは初心者などが雪面を滑るとき逆エッジによる事故が発生しにくいように、グリップ力の低い形状に形成された部分である。
【0035】
ここで、雪上滑走具10のエッジ3の、中心線Cに近い側を「内周側」といい、符号「L」で表す。中心線Cから遠い側を「外周側」といい、符号「M」で表す。
【0036】
角部5は、中心線Cから最も遠く、かつエッジ3の最外周側に形成され、この実施の形態では滑走面2あるいはエッジ3の接雪面3cを基準として上方向(トップ面4を向く方向)に所定距離dだけ離れて形成されている。
【0037】
ここで、エッジ3の雪に接する面を「接雪面」3cという。この実施の形態では、接雪面3cと滑走面2とは、基本的に同一の面を構成する。あるいは、接雪面3cのない実施も可能である。すなわち傾斜部6が直接滑走面2につながっていてもよい。
【0038】
傾斜部6は、エッジ3の比較的内周側に形成され、接雪面3cを介して、あるいは直接、滑走面2につながっている。また、エッジ3の比較的外周側に外側下面部3aが形成され、傾斜部6の上端6aが、外側下面部3aを介して角部5につながっている。外側下面部3aは、滑走面2またはエッジの接雪面3cと、基本的に平行な平面を作っている。
【0039】
しかし、これに限定されず、外側下面部3aは、滑走面2から上方向に見て、角部5に近づくに連れて、上に上がっていく斜面を作っていてもよい。なお、外側下面部3aがなく、傾斜部6の上端6aが直接角部5につながる実施の形態も考えられる(後に図4を参照して説明する)。
【0040】
これらの実施の形態では、角部5は、滑走面2から上方向に見て、傾斜部6の上端6aと同じ高さまたはそれより高い位置に存在するため、言い換えれば、角部5は傾斜部6の上端6aよりも低い位置にないため、傾斜部6と角部5との間に凹所または溝(例えばV溝、U溝)が形成されることはない。
【0041】
傾斜部6の形状は、この図2では下から見て凸な円弧状であるが、これに限られず、 斜線状、任意の曲線状、またはこれらの組み合わせであってもよい。傾斜部6の形状の変形例は、図9図10を用いて後に説明する。
【0042】
コア1の材質は、限定されないが、木、樹脂、炭素繊維(カーボン)、ハニカムまたはそれらの混合体があげられる。木や樹脂が、炭素繊維や金属などで補強されることもあり、炭素繊維が金属などで補強されることもある。滑走面2の材質にはポリエチレン、ポリカーボネードなどの樹脂があげられる。エッジ3の材質にはステンレスもしくはそれと他の金属との合金、鉄もしくはそれと他の金属との合金、炭素繊維(カーボン)またはセラミックスなどがあげられる。トップ面4の材質は樹脂、木などがあげられる。
【0043】
図2に示す実施の形態では、角部5と傾斜部6とが、ともに一体となってエッジ3を構成している。すなわち角部5と傾斜部6とが、エッジ3を構成する同一の金属素材(前述したステンレスや鉄など)によって連続して一体的に形成されている。加えて、角部5と傾斜部6との間に単一の外側下面部3aが存在する。この外側平面部が存在しない例は、後に図4を用いて説明する。
【0044】
エッジ3自体は高さ方向に厚みを有し、その厚みを図では「H」で示している。このHの値は、個々の雪上滑走具によって異なる。本発明にしたがって製作された複数(例えば100個以上)の雪上滑走具の集団を想定すると、厚みHは、ある確率で約1mmから約10mmの範囲で分布していてもよい。その中で、より高い確率で、約2mmから約10mmの範囲で分布していてもよい。その中で、より高い確率で、約2mmから約5mmの範囲で分布していてもよい。またエッジ3の横幅を「K」で表すと、本発明にしたがって製作された複数(例えば100個以上)の雪上滑走具の集団を想定すると、横幅Kは、ある確率で約2mmから約10mmの範囲で分布していてもよい。その中で、より高い確率で、約2mmから約5mmの範囲で分布していてもよい。
【0045】
ここで角部5とは、雪面にエッジ・グリップを効かせるためのエッジ3の角ばった部分のことを言う。角部5から内周側に延びるエッジ3の外側下面部3aとエッジ3の側面部3bとによって作られる角度Qは、70度~110度の範囲に設定されていることが好ましい。角度Qが110度よりも大きくなると、雪面、特に硬くなった雪面(アイスバーン)にエッジを立てることが容易でなくなり、急角度のターンが難しくなる。70度よりも小さくなると、エッジが効きすぎ、滑走が不安定になり、またエッジが欠けやすくなる。角度Qの角度範囲は、直角プラスマイナス5度の85度~95度の範囲にあることが好ましく、直角プラスマイナス2度の88度~92度の範囲にあることがさらに好ましい。
【0046】
傾斜部6は、その上端(図の場合右端)6aが角部5から延びるエッジ3の外側下面部3aにつながっている。傾斜部6の断面形状は、角部5よりもなめらかに形作られている。傾斜部6の他端は、接雪面3cを介して滑走面2につながり、あるいは直接滑走面2につながっている。
【0047】
この傾斜部6が設けられていることにより、人工物など硬い表面を横滑りするときなどに、角部5を当該硬い表面から浮き上がらせることができるので、角部5による引っかかりを防止することができる。また、傾斜部6の断面形状がなめらかに形作られていることによって、硬い表面上を、多少横揺れしても、逆エッジになることなく容易に横滑りすることができる。また、初心者などが雪面を滑るときに逆エッジによる転倒の確率を低くすることができる。
【0048】
また、雪上滑走具10を、長手方向Fを回転軸にして右または左に傾ける(ロールさせる)ことにより、角部5を雪面に強く効かせることができる。図2では、雪上滑走具10を、例えば矢印Rに示すように角度Pだけ右に傾けることにより、角部5を雪面に強く効かせることができる。この角部5を雪面に効かせるために雪上滑走具10を左または右に傾ける角度Pは、角部5が滑走面2あるいは接雪面3cよりも上方向に離れて形成されている距離dに関係するので、図3を用いて説明する。
【0049】
図3は、傾斜部6が、下から見て凸状の曲線で形成されて、外側下面部3aにつながっている状態を示す。凸状の曲線の種類は限定されず、円の一部(円弧)、楕円の一部などであってよい。角部5が滑走面2あるいは接雪面3cよりも上方向に離れて形成されている距離をdで表す。
【0050】
図3Aに示すように、距離dが比較的小さいときは、雪上滑走具10をわずかに傾けるだけで、すなわち小さなロール角度Pでエッジを雪面に効かせることができ、雪面での方向転換などの操作が容易になる。しかし人工物などの硬い表面を横滑りするときは、雪上滑走具10をわずかにロールさせただけでエッジを引っかけるおそれがある。
【0051】
一方、図3Bに示すように、距離dが比較的大きいときは、雪上滑走具10を大きく傾けなければエッジを雪面に効かせることができず、雪面で方向転換するときの動作が難しくなってしまう。しかし人工物などの硬い表面を横滑りするときは、雪上滑走具10をある程度の角度ロールさせてもエッジを引っかけるおそれがないので、ジビングのようなアクロバットな滑り方をするときに有利である。
【0052】
実際、この距離dは、0.1mmから8mmの範囲、より好ましくは0.1mmから3.8mmの範囲に設定する。あるいは距離dを、エッジ3の厚みHの5%から95%の範囲内に設定することが好ましく、厚みHの10%から90%の範囲内に設定することがより好ましい。これらの範囲内に設定すれば、雪面での方向転換などの操作を容易にでき、かつ人工物などの硬い表面を横向きに滑ることも容易にできる。
【0053】
図4は、本発明の他の実施の形態に係る雪上滑走具10を、雪上滑走具の長手方向Fに垂直な横断面T-T(図1参照)から見た断面図である。
【0054】
雪上滑走具10は、コア1と、そのコア1の下面に形成された滑走面2と、滑走面2の外周に取り付けられたエッジ3と、コア1の上面に形成されたトップ面4とを備えている。
【0055】
エッジ3は、外周に角部5を有し、そこから内周にかけて傾斜部6が形成されている。角部5は主として雪面をとらえるための部分である。傾斜部6は主として人工物の上などを安全に横滑りするために、あるいは初心者などが雪面を滑るとき逆エッジによる事故が発生しにくいように、グリップ力の低い形状に形成されている。
【0056】
角部5は、中心線Cから最も遠く、かつエッジ3の最外周側に形成され、かつ滑走面2あるいはエッジ3の接雪面3cを基準として上方向(トップ面4を向く方向に)に所定距離dだけ離れて形成されている。ここで、「接雪面」3cとは、エッジ3の雪に接する面をいう。この実施の形態では、接雪面3cと滑走面2とは、基本的に同一の面を構成する。あるいは、接雪面3cのない実施も可能である。すなわち傾斜部6が直接滑走面2につながっていてもよい。
【0057】
傾斜部6は、エッジ3の下面に形成され、その内周側は接雪面3cを介して、または直接滑走面2につながっている。また、傾斜部6の外周側は直接、角部5につながっている。傾斜部6の外周側を構成し、角部5に近接した部分を、特に外側斜面部6bという。外側斜面部6bの形状は、傾斜部6の形状をそのまま延長した形状であってもよく、それ自体がほぼ平面を形成していてもよい。この実施の形態では、角部5は、傾斜部6よりも、滑走面2から上方向に見て同じ位置またはより高い位置に存在する。言い換えれば、角部5は傾斜部6よりも、滑走面2から上方向に見て、より低い位置に存在しない。このため、傾斜部6と角部5との間に、下から見て凹所または溝(例えばV溝、U溝)が形成されることはない。
【0058】
傾斜部6の形状は、この実施の形態では下から見て凸な円弧状である。しかしこれに限られず、 斜線状、任意の曲線状、またはこれらの組み合わせであってもよい。
【0059】
外側斜面部6bの滑走面2に対する角度Vは、反時計回りに測って0度より大きな角度である。このため外側斜面部6bは、図面上、右斜め上に向かっている。角度Vの好ましい範囲は0度を超え20度以下であり、より好ましい範囲は0度を超え10度以下である。
【0060】
また、角部5よりも上側(トップ面4を向く方向)に形成されているエッジ3の側面部3bは、角部5から上に離れていくにしたがって、(1)垂直に上がるように垂直面を形成してもよく、あるいは(2)内周側Lに近づくように斜面を形成していてもよい。すなわち、この側面部3bの滑走面2に垂直な仮想面Jに対する角度Uは反時計回りに測って0度またはそれより大きな角度であり、このため側面部3bは垂直であるか、または内側に傾いている。角度Uの好ましい範囲は0度以上20度以下であり、より好ましい範囲は0度以上10度以下である。
【0061】
したがって、エッジ3の外側斜面部6bと側面部3bとによって作られる角部5の角度Qは、次の式で表される(単位:度)。
Q=90+V-U
【0062】
角度Qは、70度~110度の範囲に設定されていることが好ましい。すなわち、 角度差(V-U)がマイナス20度からプラス20度の範囲にあることが好ましい。角度Qが110度よりも大きくなると、雪面、特に硬くなった雪面(アイスバーン)にエッジを立てることが容易でなくなり、急角度のターンが難しくなる。70度よりも小さくなると、エッジが効きすぎ、滑走が不安定になり、またエッジが欠けやすくなる。
【0063】
角度Qは、直角90度プラスマイナス5度の85度~95度の範囲にあること、すなわち 角度差(V-U)がマイナス5度からプラス5度の範囲にあることがさらに好ましい。
【0064】
角度Qは、直角90度プラスマイナス2度の88度~92度の範囲にあることがさらに好ましい。すなわち、 角度差(V-U)がマイナス2度からプラス2度の範囲にある。
【0065】
傾斜部6の断面形状は、この図4の実施の形態では、円弧を形成するようになめらかに形作られている。その一端(図4の場合右端)は外側斜面部6bを介して角部5につながり、あるいは角部5に直接つながっている。傾斜部6の他端は、接雪面3cを介して滑走面2につながり、あるいは滑走面2に直接つながっている。この傾斜部6が設けられていることにより、人工物など硬い表面を横滑りするときなどに、角部5の位置を当該硬い表面から浮き上がらせることができるので、角部5による引っかかりを防止することができる。また、傾斜部6の断面形状がなめらかに形作られていることによって、硬い表面上を、多少横揺れしても、逆エッジになることなく容易に横滑りすることができる。また、初心者などが雪面を滑るときに逆エッジによる転倒の確率を低くすることができる。
【0066】
また、人工物でなく、雪面を滑るときは、雪上滑走具10を、長手方向Fを回転軸にして右または左に傾ける(ロールさせる)ことにより、角部5を雪面に強く効かせることができる。図4では、雪上滑走具10を、例えば矢印Rに示すように角度Pだけ右に傾けることにより、角部5を雪面に強く効かせることができる。この角部5を雪面に効かせるために雪上滑走具10を左または右に傾ける角度Pは、角部5が滑走面2あるいは接雪面3cよりも上方向に離れて形成されている距離dに関係する。
【0067】
図5は、傾斜部6が、下から見て凸状の曲面で形成されて、外側斜面部6bを介して角部5につながっている状態を示す。曲面の例として、中心線が長手方向Fに沿って延びている円筒の側面の一部であってもよい。外側斜面部6bはそれ自体平面であってもよく、曲面であってもよい。曲面の例として、傾斜部6と同様、中心線が長手方向Fに沿って延びている円筒の側面の一部であってもよい。
【0068】
角部5は滑走面2よりも上方向に距離dだけ離れている。図5Aは距離dが比較的大きな場合を示し、図5Bは距離dが比較的小さい場合を示す。
【0069】
距離dが比較的小さいときは、雪上滑走具10をわずかに傾けるだけで、すなわち小さなロール角度Pでエッジを雪面に効かせることができ、雪面での方向転換などの操作が容易になる。しかし人工物などの硬い表面を横滑りするときは、雪上滑走具10をわずかにロールさせただけでエッジを引っかけるおそれがある。
【0070】
距離dが比較的大きいときは、雪上滑走具10を大きく傾けなければエッジを雪面に効かせることができず、雪面で方向転換するときの動作が難しくなってしまう。しかし人工物などの硬い表面を横滑りするときは、雪上滑走具10をある程度の角度ロールさせてもエッジを引っかけるおそれがないので、ジビングのようなアクロバットな滑り方をするときに有利である。
【0071】
実際、この距離dは、好ましくは0.1mmから8mmの範囲に、より好ましくは0.1mmから3.8mmの範囲に設定する。これらの範囲内に設定すれば、雪面での方向転換などの操作を容易にでき、かつ人工物などの硬い表面を横向きに滑ることも容易にできる。
【0072】
次に図6図8に、傾斜部6がエッジ3と一体でなく、傾斜部6とエッジ3とが別の材料で形成されている、本発明の実施の形態に係る各構造を示す。これらの構造では、ステンレスや鉄などでできている硬いエッジ3に、曲面、斜面などを形成するといった特別な加工が必要でなく、滑走面2およびコア1を構成している樹脂、炭素繊維あるいは木に、曲面、斜面などを形成する加工をすればよいので、全体としての加工が容易になる。
【0073】
図6では、角部5から延びる、エッジ3の底面を構成する単一の外側下面部3aが滑走面2から上方向に距離dだけ離れた位置に配置され、さらに、エッジ3の内周側に隣接した滑走面2の端部を曲面に加工することによって傾斜部6が形成されている。したがって、滑走面2の一部が傾斜部6を構成している。コア1は曲面加工された滑走面2で覆われている。
【0074】
図7は、角部5から延びる、エッジ3の底面を構成する単一の外側下面部3aが滑走面2から上方向に距離dだけ離れた位置に形成され、傾斜部6が、エッジ3の内周側に隣接したコア1の端部を曲面に加工することによって形成されている状態を示す。すなわち傾斜部6がコア1の素材によって形成されている状態が示されている。したがってコア1が端面において露出した状態になっている。滑走面2は、傾斜部6よりも所定距離だけ、中心線Cに近い位置で終端されている。よってこのコア1の端面に水などがしみ込んで端面の形状が崩れるおそれがある場合は、それを防止するために防水塗装などの加工を施してもよい。
【0075】
図8は、角部5から延びる、エッジ3の底面を構成する単一の外側下面部3aが滑走面2から上方向に距離dだけ離れた位置に形成され、傾斜部6は、コア1および滑走面2を曲面加工することによって形成されている状態を示す。すなわち傾斜部6がコア1および滑走面2の各素材で形成されている状態が示されている。この場合も、コア1の端面に防水塗装などの加工を施すことが好ましい。
【0076】
図9図10は、傾斜部6の断面形状のいくつかの具体例を示す。傾斜部6の断面形状を説明する場合、傾斜部6が、エッジと同じ素材(例えばステンレス、鉄)によって一体的に形成されているか、コア1および/または滑走面2を構成する素材(したがってエッジ3と同じでない素材)によって形成されているかを問わない。したがって図9図10では、コア1、滑走面2、エッジ3の各断面内部構造は示さないで、外形断面のみを示す。
【0077】
図9Aは、傾斜部6が直線で形成された状態を示す。傾斜部6は、内周側では滑走面2につながり、外周側では、外側下面部3aを介して角部5につながっている。
【0078】
図9Bは、傾斜部6のさらに他の形状を示す外形断面図である。この図では傾斜部6は、滑走面2と、エッジ3の外側下面部3aとの間で、滑走面2につながる部分は下から見て凸状の曲線31で形成されて、外側下面部3aにつながる部分は下から見て凹状の曲線32で形成されている。凸から凹に切り替わる点は、この実施の形態では滑走面2と外側下面部3aとのほぼ中間の位置にあるが、これに限定されず、滑走面2と外側下面部3aとの間の任意の位置であってもよい。また、凸状の曲線31の形状も、円弧、楕円の一部など任意の曲線形状であってよい。凹状の曲線32の形状も、円弧、楕円の一部など任意の曲線形状であってよい。
【0079】
また、図9Bで示した凸状の曲線31と凹状の曲線32のいずれかが直線状であってもよく、両方が直線状であってもよい。凹状の曲線が直線である状態を、図10Aに示す。図10Aでは、傾斜部6の、外側下面部3aにつながっている部分33は直線で形成されて、滑走面2につながっている部分が下から見て凸状の曲線31で形成されている。これとは逆に、傾斜部6の、滑走面2につながっている部分は直線で形成されて、外側下面部3aにつながっている部分が下から見て凹状の曲線で形成されていてもよい(図示せず)。滑走面2につながる部分、およびエッジ3の外側下面部3aにつながる部分の両方が直線状である場合、傾斜部6は折れ線で形成されることになる。
【0080】
図10Bは、傾斜部6を、複数の直線36,37,38を連結して形成した状態を示す。すなわち傾斜部6がすべて折れ線で形成されている。各直線と滑走面2との角度は、直線36が最も小さく、直線37はより大きく、直線38は最も大きくなっている。一般に、複数の直線を連結する場合、それぞれ滑走面2となす角度は、滑走面2につながる直線が最も小さく、それから、徐々に大きくなり、外側下面部3aにつながる直線で最も大きくなることが好ましい。このような角度関係で複数のつながった直線を形成することによって、下から見て、全体として凸状に形成された傾斜部6を作ることができる。
【0081】
また折れ線の一形態として折れ角がすべて同一であってもよい。すなわち滑走面2からエッジ3の外側下面部3aまで一つの直線で形成されてもよい。図9Aがこの一つの直線で形成された形態を示す。
【0082】
次に傾斜部6の横幅について議論する。図11は、雪上滑走具10を長手方向Fに垂直な断面T-Tで切った断面図であり、傾斜部6が形成されている場合の傾斜部6の横幅wを示す。この図11の雪上滑走具10では、傾斜部6はエッジ3の材料(鉄、ステンレスなど)によって形成されている。しかし他の実施の形態として、傾斜部6がコア1および/または滑走面2を構成する素材(したがってエッジ3と同じでない素材)によって形成されていてもよい(後に図12を用いて説明する)。
【0083】
図11Aおよび図11Bは、エッジ3の外側下面部3aがほぼ水平に形成され、その内周側に傾斜部6がつながっている場合を示す。
【0084】
図11Aは、傾斜部6の形成されている横幅wが比較的小さい場合を示し、図11Bは形成されている横幅wが比較的大きな場合を示す。図11Aでは、傾斜部6の一端はエッジ3の接雪面3cを介して滑走面2につながっている。図11Bでは、傾斜部6の一端は滑走面2に直接つながっている。
【0085】
傾斜部6の横幅wのとり得る値は、エッジ3の横幅Kの5%から98%の範囲にあればよく、より好ましくは10%から90%の範囲にあればよい。形成されている横幅wが小さいほど傾斜部6の曲がり角度は急峻になり、 形成されている横幅wが大きいほど傾斜部6の曲がりを緩やかにできる。
【0086】
図11Cはエッジ3の下側全体が傾斜部6になっている場合を示す。すなわち、エッジ3の横幅Kが傾斜部6の横幅wに等しい。図に示すように、エッジ3の側面部3bは内側に所定の角度傾いて形成されている。
【0087】
横幅wが小さいほど傾斜部6の曲がり角度は急峻になり、横幅wが大きいほど傾斜部6の曲がりを緩やかにできる。傾斜部6を形成する横幅wの最適な範囲の最小値は0.2mmであり、最大値は50mmである。好ましくは、横幅wは10mmから50mmの範囲をとる。より好ましくは、横幅wは10mmから30mmの範囲をとる。
【0088】
図12は、雪上滑走具10を長手方向Fに垂直な断面T-Tで切った断面図であり、エッジ3の下面部がほぼ水平に形成され、その内周側に傾斜部6がつながっている場合を示す。この図12の雪上滑走具10では、傾斜部6の内周側の一端は滑走面2につながり、傾斜部6の外周側の一端はエッジ3の内周側の端面3gに直接つながっている。この傾斜部6は、滑走面2およびコア1の材料によって形成されている。
【0089】
傾斜部6が形成されている横幅をwで示す。図12Aは、傾斜部6の形成されている横幅wが比較的小さい場合を示し、図12Bは形成されている横幅wが比較的大きな場合を示す。この場合も、横幅wが小さいほど傾斜部6の曲がり角度は急峻になり、横幅wが大きいほど傾斜部6の曲がりを緩やかにできる。傾斜部6を形成する横幅wの最適な範囲の最小値は0.2mmであり、最大値は50mmである。好ましくは、横幅wは10mmから50mmの範囲をとる。より好ましくは、横幅wは10mmから30mmの範囲をとる。
【0090】
次に、雪上滑走具10のエッジを加工して、または、エッジおよび滑走面2を加工して、本発明の特徴を有するスルーエッジおよび当該スルーエッジを備えた雪上滑走具10を製作するための、本発明の実施の形態に係るエッジの加工方法を説明する。エッジ3の雪に接する面を「接雪面」3cという。接雪面3cと滑走面2とは、基本的に同一の面を構成する。
【0091】
図13は、エッジ3の接雪面3cの外周側を、滑走面から上方向に所定距離dだけ切削して外側下面部3aを形成する工程と、エッジ3の接雪面3cの切削されなかった部分の一部または全部を、その断面が曲線または斜線を形成するように加工して傾斜部6を形成する工程とを含む工程図である。
【0092】
図13Aは、コア1と、コア1の下面に設定された滑走面2と、滑走面2の外周に取り付けられたエッジ3とを備える、加工前の雪上滑走具を示す。エッジ3の下面である接雪面3cも示されている。
【0093】
図13Bは、エッジ3の接雪面3cの外周側を、滑走面2から上方向に所定距離dだけ切削して外側下面部3aを形成した状態を示す。
【0094】
図13Cは、エッジ3の接雪面3cの切削されなかった部分の一部または全部を、曲線を形成するように加工して傾斜部6を形成した状態を示す図である。図では、傾斜部6を円弧状にかつ下から見て凸状に形成しているが、この形状に限定されるものではなく、傾斜部6を、図9図10に示したように、曲線、斜線、もしくは凹凸のある曲線、またはこれらの組み合わせが形成されるように加工してもよい。
【0095】
図14は、エッジ3の接雪面3cを、滑走面2に接する部分から斜め上方向に切削する工程と、切削後の斜面3eの外周側を、滑走面2から上方向に所定距離dだけ、かつ滑走面2とほぼ平行に切削して外側下面部3aを形成し、切削されなかった斜面3eを斜めに削り落として、または丸めて傾斜部6を形成する工程とを含む工程図である。
【0096】
図14Aは、コア1と、コア1の下面に形成された滑走面2と、滑走面2の外周に取り付けられたエッジ3とを含む、加工前の雪上滑走具を示す。
【0097】
図14Bは、エッジ3の接雪面3cを、滑走面2に接する部分から斜め上方向に切削した状態を示す。切削後の面を斜面3eとする。斜面3eの形状は、図示のような平面でもよく、あるいは曲面であってもよい。
【0098】
図14Cは、エッジ3の斜面3eの外周側の一部を、接雪面3cあるいは滑走面2から上方向に距離dが保たれるようにように切削して、外側下面部3aと垂直面3fとを形成し、さらに斜面3eと垂直面3fとのあいだの角を落として傾斜部6とした状態を示す。
【0099】
垂直面3fと斜面3eとの交わる部分は、図では斜めに直線状に切り落として傾斜部6を作っているが、曲線が形成されるように丸く削って傾斜部6を作ってもよい。
【0100】
図15は、エッジ3の接雪面3cの全面を、滑走面2から上方向に所定距離dだけ切削する工程と、エッジ3の切削によって端面が露出された滑走面2もしくはコア1またはそれらの両方を、曲線、斜線、もしくは凹凸のある曲線、またはこれらの組み合わせが形成されるように加工して傾斜部6を形成する工程とを示す工程図である。
【0101】
図15Aは、コア1と、コア1の下面に形成された滑走面2と、滑走面2の外周に取り付けられたエッジ3とを備えた、加工前の雪上滑走具を示す。
【0102】
図15Bは、エッジ3の接雪面3cの全面を、滑走面2から上方向に所定距離dだけ切削した状態を示す。
【0103】
図15Cは、エッジ3の切削によって露出された滑走面2の端面およびコア1の端面を、曲線を形成するように加工して傾斜部6を形成した状態を示す。図では、傾斜部6を円弧状かつ下から見て凸になるように形成しているが、この形状に限定されるものではなく、傾斜部6を、図9図10に示したように、曲線、斜線、もしくは凹凸のある曲線、またはこれらの組み合わせになるように加工してもよい。
【0104】
図16は、エッジ3の接雪面3cを、滑走面2に接する部分から斜め上方向に切削して斜面3eを形成する工程と、エッジ3の側面部3bを斜めに切削する工程とを示す工程図である。
【0105】
図16Aは、コア1と、コア1の下面に形成された滑走面2と、滑走面2の外周に取り付けられたエッジ3とを備えた、加工前の雪上滑走具を示す。
【0106】
図16Bは、エッジ3の接雪面3cを、滑走面2に接する部分から斜め上方向に切削した状態を示す。切削後の面を斜面3eとする。斜面3eの形状は、図示のような平面でもよく、あるいは曲面であってもよい。
【0107】
図16Cは、エッジ3の側面部3bを斜め内側に削って、滑走面2に垂直な仮想面Jとの間に角度Uが形成されるようにし、エッジ3の斜面3eとエッジ3の側面部3bとの角度Qが70度~110度の範囲、より好ましくは88度~92度の範囲にある角度になるようにして傾斜部6を形成した状態を示す。さらに符号3fで示すように、傾斜部6の内周側および滑走面2の外周側を丸く連続的に削って、傾斜部6が滑走面2に、より滑らかにつながるようにしてもよい。
【0108】
以上で本発明の実施の形態を説明したが、本発明の実施は、スキー板やスノーボードを想定した前述の形態に限定されるものではなく、例えば、雪上を滑走するスノースケートのボードや、雪上を滑走するスノースクート(snow scoot)のボードにも適用が可能である。
【0109】
ここで開示された発明の実施の形態はすべての意味において例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および均等の範囲内でのすべての変更が含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0110】
1 コア
2 滑走面
3 エッジ
3a グリップ部と傾斜部との間の平面
3b エッジの側面
3c エッジの接雪面
4 トップ
5 エッジの角部
6 傾斜部
10 雪上滑走具
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16