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特許7545625水性バリアコーティング剤、印刷物及び積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】水性バリアコーティング剤、印刷物及び積層体
(51)【国際特許分類】
   C09D 129/04 20060101AFI20240829BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20240829BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240829BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20240829BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20240829BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240829BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20240829BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
C09D129/04
C09D5/02
C09D7/61
C09D7/20
B32B27/28 102
B32B27/30 102
B32B27/20 Z
B32B27/18 Z
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2024059456
(22)【出願日】2024-04-02
【審査請求日】2024-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2023128936
(32)【優先日】2023-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(73)【特許権者】
【識別番号】711004436
【氏名又は名称】東洋インキ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】春山 直樹
(72)【発明者】
【氏名】植木 克行
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-231789(JP,A)
【文献】特開2003-268183(JP,A)
【文献】特開2011-31455(JP,A)
【文献】特開2006-282947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D、C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性樹脂、無機層状化合物、及び水性媒体を含み、
前記親水性樹脂が、ポリビニルアルコール、エチレン含有比率が25mol%以下であるエチレン-ビニルアルコール共重合体、及びこれらの変性体からなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記水性媒体が、ノルマルプロパノール及び水を含み、水性媒体の全質量中の水の含有量が50質量%以上であり、水性媒体の全質量中のイソプロパノールの含有量が15質量%以下である、水性バリアコーティング剤。
【請求項2】
前記エチレン-ビニルアルコール共重合体は、エチレン含有比率が20mol%以下である、請求項1に記載の水性バリアコーティング剤。
【請求項3】
下記式1で表される粘度変化率が、30%以下である、請求項1または2に記載の水性バリアコーティング剤。
(式1)粘度変化率=|粘度B-粘度A|/粘度A×100
(上記式1において、粘度Aは、製造直後または製造後15~35℃の温度で保管された水性バリアコーティング剤の25℃における粘度を表し、粘度Bは、前記水性バリアコーティング剤を5℃で24時間静置後の前記水性バリアコーティング剤を、25℃で測定した粘度を表す。粘度A及び粘度BはそれぞれザーンカップNo.3による粘度測定における流出秒数(秒)である。)
【請求項4】
前記親水性樹脂が、水性バリアコーティング剤の固形分全質量中50~95質量%である、請求項1または2に記載の水性バリアコーティング剤。
【請求項5】
前記ノルマルプロパノールが、水性媒体の全質量中5質量%以上である、請求項1または2に記載の水性バリアコーティング剤。
【請求項6】
第2級モノアルコール及び第3級モノアルコールの合計の含有量が、水性媒体の全質量中15質量%以下である、請求項1または2に記載の水性バリアコーティング剤。
【請求項7】
前記無機層状化合物が、モンモリロナイト、カオリナイト、及び天然マイカからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1または2に記載の水性バリアコーティング剤。
【請求項8】
前記無機層状化合物が、アスペクト比が50~1000である無機層状化合物を含む、請求項1または2に記載の水性バリアコーティング剤。
【請求項9】
前記無機層状化合物が、ナトリウムイオンを含む、請求項1または2に記載の水性バリアコーティング剤。
【請求項10】
ナトリウム塩化合物を更に含む、請求項1または2に記載の水性バリアコーティング剤。
【請求項11】
水性バリアコーティング剤中の前記無機層状化合物は、レーザー回折・散乱法にしたがう平均粒子径(D50)が、3μm以下である、請求項1または2に記載の水性バリアコーティング剤。
【請求項12】
前記無機層状化合物が、水性バリアコーティング剤の固形分全質量中20質量%超過40質量%以下である、請求項1または2に記載の水性バリアコーティング剤。
【請求項13】
前記無機層状化合物が、モンモリロナイトを含み、前記モンモリロナイトが、無機層状化合物中50~100質量%である、請求項1または2に記載の水性バリアコーティング剤。
【請求項14】
基材と、請求項1または2に記載の水性バリアコーティング剤により形成されたバリアコート層とを含む、印刷物。
【請求項15】
基材1と、請求項1または2に記載の水性バリアコーティング剤により形成されたバリアコート層と、基材2とを含み、前記基材1と前記基材2の間に前記バリアコート層が介在する、積層体。
【請求項16】
ポリビニルアルコール、エチレン含有比率が25mol%以下であるエチレン-ビニルアルコール共重合体、及びこれらの変性体からなる群から選択される少なくとも1種を含む親水性樹脂及び水を混合し80℃以上で1時間以上かけて温度管理し、プレ親水性樹脂組成物を提供すること、
前記プレ親水性樹脂組成物及びノルマルプロパノールを混合し親水性樹脂組成物を提供すること、及び
前記親水性樹脂組成物及び無機層状化合物を混合し、水性バリアコーティング剤を提供することを含み、
前記水性バリアコーティング剤は、水性媒体がノルマルプロパノール及び水を含み、水性媒体の全質量中の水の含有量が50質量%以上であり、水性媒体の全質量中のイソプロパノールの含有量が15質量%以下である、水性バリアコーティング剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水性バリアコーティング剤、印刷物及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品包装材料等の酸素バリア性が要求される材料には、アルミニウム箔及びアルミニウム蒸着を施したプラスチックフィルムや紙が多く用いられてきた。しかしながら、近年、環境問題等もあり包装材料には薄膜化やラミネートの簡素化、リサイクル性が要求されているため、脱アルミの技術開発が進んでいる。
【0003】
また、プラスチックフィルムにコーティングによりポリ塩化ビニリデン(PVDC)層が形成された熱可塑性樹脂フィルムは、低湿度下だけでなく高湿度下においても高い酸素バリア性を示す上、水蒸気に対するバリア性も高い。しかしながら、このPVDCがコーティングされた熱可塑性樹脂フィルムは、廃棄物処理の際の焼却時に、PVDC中の塩素に起因する塩素ガスの発生並びにダイオキシン発生の恐れを有しており、環境並びに人体に多大な悪影響を与える恐れを有することから、他の材料への移行が望まれている。
【0004】
塩素を有しないガスバリアコーティング剤として、ポリビニルアルコールやエチレン-ビニルアルコール共重合体を含むバリアコーティング剤がよく知られている(特許文献1)。また、ポリビニルアルコールやエチレン-ビニルアルコール共重合体に加え、無機層状化合物を含むことでガスバリア性を高められることがよく知られており、特許文献2、3及び4では、フィラー、ポリビニルアルコール又はエチレン-ビニルアルコール共重合体を含むガスバリアコーティング剤の記載があり、フィラーとしては粘土鉱物粒子が好ましいことが記載されている。しかし、特許文献3などで周知のとおり、ポリビニルアルコール又はエチレン-ビニルアルコール共重合体と、粘土鉱物粒子とを、慎重に混合しても、ポットライフはきわめて短いものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-144761号公報
【文献】特開2015-214154号公報
【文献】特開2019-94502号公報
【文献】特開2015-208924号公報
【文献】特開2003-268183号公報
【文献】特開2003-231789号公報
【文献】特開2011-031455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の様なバリアコーティング剤は一般的に低温保存安定性に課題がある場合が多く、ガスバリア層のガスバリア性やコーティング性について課題がある場合が多かった。また、背景技術で記載した通り、無機層状化合物を含む場合は無機層状化合物の分散安定性、及び、コーティング剤のゲル化起因の印刷不良による酸素バリア性劣化の問題が考えられる。
【0007】
特許文献5、6及び7の開示によれば、高エチレン含有比率であるエチレン-ビニルアルコール共重合体は即時の溶解性の観点から水とアルコール系有機溶剤との組み合わせが好適である。一方、特許文献5の開示によれば、低エチレン含有比率であるエチレン-ビニルアルコール共重合体は、水を主体としてエチレン-ビニルアルコール共重合体の溶液が提供される。従来技術では、低エチレン含有比率であるエチレン-ビニルアルコール共重合体を用いたコーティング剤は、水への即時の溶解性が高いため、水を主体とした水溶液として提供される。一方、エチレン-ビニルアルコール共重合体を用いたコーティング剤を保管後に、このコーティング剤を基材に塗工して塗工物を得る場合に、塗工物のガスバリア性が低下する現象がある。
【0008】
本開示の一つの目的は、コーティング剤を経時保管した後に作製される塗工物においてガスバリア性の低下を抑制することである。本開示のさらに他の目的は、無機層状化合物の分散安定性が良好、かつ、バリアコーティング剤製造から経時保存後であってもガスバリア性が良好な水性バリアコーティング剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題に対して鋭意研究を重ねた結果、以下に記載のいくつかの実施形態を用いることで上記課題を解決することを見出し、本発明を成すに至った。
【0010】
[1]親水性樹脂、無機層状化合物、及び水性媒体を含み、前記親水性樹脂が、ポリビニルアルコール、エチレン含有比率が25mol%以下であるエチレン-ビニルアルコール共重合体、及びこれらの変性体からなる群から選択される少なくとも1種を含み、前記水性媒体が、ノルマルプロパノール及び水を含み、水性媒体の全質量中の水の含有量が50質量%以上であり、水性媒体の全質量中のイソプロパノールの含有量が15質量%以下である、水性バリアコーティング剤。
【0011】
[2]前記エチレン-ビニルアルコール共重合体は、エチレン含有比率が20mol%以下である、[1]に記載の水性バリアコーティング剤。
【0012】
[3]下記式1で表される粘度変化率が、30%以下である、[1]または[2]に記載の水性バリアコーティング剤。
(式1)粘度変化率=|粘度B-粘度A|/粘度A×100
(上記式1において、粘度Aは、製造直後または製造後15~35℃の温度で保管された水性バリアコーティング剤の25℃における粘度を表し、粘度Bは、前記水性バリアコーティング剤を5℃で24時間静置後の前記水性バリアコーティング剤を、25℃で測定した粘度を表す。粘度A及び粘度BはそれぞれザーンカップNo.3による粘度測定における流出秒数(秒)である。)
【0013】
[4]前記親水性樹脂が、水性バリアコーティング剤の固形分全質量中50~95質量%である、[1]から[3]のいずれかに記載の水性バリアコーティング剤。
[5]前記ノルマルプロパノールが、水性媒体の全質量中5質量%以上である、[1]から[4]のいずれかに記載の水性バリアコーティング剤。
[6]第2級モノアルコール及び第3級モノアルコールの合計の含有量が、水性媒体の全質量中15質量%以下である、[1]から[6]のいずれかに記載の水性バリアコーティング剤。
【0014】
[7]前記無機層状化合物が、モンモリロナイト、カオリナイト、及び天然マイカからなる群から選択される少なくとも1種を含む、[1]から[6]のいずれかに記載の水性バリアコーティング剤。
[8]前記無機層状化合物が、アスペクト比が50~1000である無機層状化合物を含む、[1]から[7]のいずれかに記載の水性バリアコーティング剤。
[9]前記無機層状化合物が、ナトリウムイオンを含む、[1]から[8]のいずれかに記載の水性バリアコーティング剤。
【0015】
[10]ナトリウム塩化合物を更に含む、[1]から[9]のいずれかに記載の水性バリアコーティング剤。
[11]水性バリアコーティング剤中の前記無機層状化合物は、レーザー回折・散乱法にしたがう平均粒子径(D50)が、3μm以下である、[1]から[10]のいずれかに記載の水性バリアコーティング剤。
[12]前記無機層状化合物が、水性バリアコーティング剤の固形分全質量中20質量%超過40質量%以下である、[1]から[12]のいずれかに記載の水性バリアコーティング剤。
【0016】
[13]前記無機層状化合物が、モンモリロナイトを含み、前記モンモリロナイトが、無機層状化合物中50~100質量%である、[1]から[13]のいずれかに記載の水性バリアコーティング剤。
[14]基材と、[1]から[13]のいずれかに記載の水性バリアコーティング剤により形成されたバリアコート層とを含む、印刷物。
[15]基材1と、[1]から[13]のいずれかに記載の水性バリアコーティング剤により形成されたバリアコート層と、基材2とを含み、前記基材1と前記基材2の間に前記バリアコート層が介在する、積層体。
【0017】
[16]ポリビニルアルコール、エチレン含有比率が25mol%以下であるエチレン-ビニルアルコール共重合体、及びこれらの変性体からなる群から選択される少なくとも1種を含む親水性樹脂及び水を混合し80℃以上で1時間以上かけて温度管理し、プレ親水性樹脂組成物を提供すること、前記プレ親水性樹脂組成物及びノルマルプロパノールを混合し親水性樹脂組成物を提供すること、及び前記親水性樹脂組成物及び無機層状化合物を混合し、水性バリアコーティング剤を提供することを含み、前記水性バリアコーティング剤は、水性媒体がノルマルプロパノール及び水を含み、水性媒体の全質量中の水の含有量が50質量%以上であり、水性媒体の全質量中のイソプロパノールの含有量が15質量%以下である、水性バリアコーティング剤の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本開示の一つの側面により、コーティング剤を経時保管した後に作製される塗工物においてガスバリア性の低下を抑制することができる。本開示の他の側面により、分散安定性が良好、かつ、水性バリアコーティング剤製造から経時保存後であってもガスバリア性が良好な水性バリアコーティング剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明のいくつかの実施の形態を詳細に説明するが、記載する実施形態又は要件の説明は、本発明の実施形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限りこれらの内容に限定されない。
【0020】
本発明の代表的な形態は、水性バリアコーティング剤(以下、単に「コーティング剤」ともいう)である。水性バリアコーティング剤は、基材上に印刷され、バリアコート層を形成して、印刷物を提供可能である。当該印刷物は、他の基材と貼り合わせて積層体を提供可能である。
【0021】
本開示による水性バリアコーティング剤は、親水性樹脂、無機層状化合物、及び水性媒体を含み、記親水性樹脂が、ポリビニルアルコール、エチレン含有比率が25mol%以下であるエチレン-ビニルアルコール共重合体、及びこれらの変性体からなる群から選択される少なくとも1種を含み、水性媒体が、ノルマルプロパノール及び水を含み、水性媒体の全質量中の水の含有量が50質量%以上であり、水性媒体の全質量中のイソプロパノールの含有量が15質量%以下であることを特徴とする。
【0022】
この水性バリアコーティングによれば、コーティング剤の製造直後から経時保存後においても、コーティング剤を用いて形成される印刷物又は積層体において、良好なガスバリア性を得ることができる。例えば、経時保存後のコーティング剤を用いて形成される印刷物又は積層体において、ガスバリア性が低下する現象がある。この原因について鋭意研究した結果、経時保存の間にコーティング剤が低温環境に晒されていることに着目した。ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、これらの変性体、又はこれらの組み合わせを含むコーティング剤は、保管の間に低温環境に晒されると、コーティング剤中でこれらの親水性樹脂のゲル化が引き起こされやすくなる。そして、コーティング剤においてゲル化が一旦発生すると、このコーティング剤を用いて作製される印刷物又は積層体においてガスバリア性の低下が引き起こされ得る。本開示では、コーティング剤が、親水性樹脂および無機層状化合物とともに、水性媒体の全質量中の水の含有量が50質量%以上であり、かつ水性媒体の全質量中のイソプロパノールの含有量が15質量%以下である範囲内で、ノルマルプロパノールを含むことで、経時保存後であっても、コーティング剤を用いて形成される印刷物又は積層体においてガスバリア性の低下を抑制可能であることを見出した。この作用は、特に低温環境に晒される経時保存後に顕著に確認することができる。また、この作用は、ガスバリア性の中でも酸素バリア性に特に有効であり、食品及び医薬品の包装材料に有用である。
【0023】
このように、印刷物又は積層体においてガスバリア性の低下は、コーティング剤の経時保存性の制御によって改善することができる。そこで、本発明の技術的思想は、コーティング剤の経時保存性を確保するための手段を提供するものである。コーティング剤の経時保存性は、製造直後の水溶液の状態が大きく影響することがわかっている。従来技術で示されたコーティング剤のゲル化は、水溶液のミクロな状態に起因すると考えられる。この状態を評価する方法の一つとしてポットライフがある。例えば、従来技術で示されたコーティング剤は、ポットライフが24時間以内であり、経時保存性が十分とはいえない。また、従来技術のポットライフの評価方法では、印刷物又は積層体においてガスバリア性の低下に影響し得るまでのコーティング剤の経時保存性を十分に評価することができない。
【0024】
なお、本開示において、コーティング剤の経時保存性は、コーティング剤の製造後から、コーティング剤を常温で保存する場合、コーティング剤を低温で保存する場合、又はこれらの組み合わせの場合であっても、改善されることが好ましい。例えば、コーティング剤の経時保存性は、5℃程度の低温環境においても改善されるとよい。
【0025】
<粘度変化率>
コーティング剤の経時保存性は、低温の熱履歴を経ていないものと、低温の熱履歴を経たものとの粘度変化率を精密に制御することが重要である。いくつかの実施形態は、このような粘度変化率を精密に制御した処方を、ガスバリア性を備える処方範囲内で提供するものである。
【0026】
いくつかの実施形態では、水性バリアコーティング剤は、下記式1で表される粘度変化率が、30%以下であるとよい。
(式1)粘度変化率=|粘度B-粘度A|/粘度A×100
(上記式1において、粘度Aは、製造直後または製造後15~35℃の温度で保管された水性バリアコーティング剤の25℃における粘度を表し、粘度Bは、水性バリアコーティング剤を5℃で24時間静置後の水性バリアコーティング剤を、25℃で測定した粘度を表す。粘度A及び粘度BはそれぞれザーンカップNo.3による粘度測定における流出秒数(秒)である。)
【0027】
ここで、|粘度B-粘度A|は粘度Aと粘度Bの差の絶対値であることを表す。ザーンカップはNo.3は、株式会社離合社製のザーンカップNo.3を用いることができる。株式会社離合社製のザーンカップNo.3は、ステンレス製、カップ容量43ml、オリフィス径3mmである。流出秒数は、試料中に沈めたカップを素早く一定の動作で引き上げ、カップ底面が液面から離れる瞬間から、オリフィスから流出する試料の流れ(定常流)が途切れるまでの秒数である。粘度Bは、例えば、水性バリアコーティング剤を、溶剤が揮散しないよう、例えば密閉容器に入れた状態において5℃で24時間静置後、コーティング剤を温度25℃において測定した粘度であってよい。詳しい測定方法は、実施例に従う。
【0028】
従来技術の水性バリアコーティング剤は、低温(例えば5℃以下)の熱履歴を記憶して増粘する傾向があった。いくつかの実施形態によるバリアコーティング剤は、低温の熱履歴を経ていないものと、低温の熱履歴を経たものとの粘度変化率が、30%以下であるとよい。当該粘度変化率は25%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましい。当該粘度変化率がこれらの範囲にあることで、印刷物及び積層体のガスバリア性をより良好に維持できる。また、経時保存後においても適正粘度が維持されることから、印刷時の塗布量が安定することからも、印刷物及び積層体のガスバリア性をより良好に維持できる。
【0029】
水性バリアコーティング剤の粘度変化率を上記範囲とするための手段を以下に示す。
例えば、親水性樹脂を水性媒体に溶解する際の温度(溶解温度)を高くすることが好ましく、溶解させる時間を長くすることが好ましく、又はこれらの組み合わせが好ましい。溶解温度は、80℃以上であることが好ましく、85℃以上であることがより好ましく、90℃以上であることがさらに好ましく、95℃以上であることが一層好ましい。溶解時間は、1時間以上であることが好ましい。例えば、溶解温度が80~100℃、溶解時間が1~3時間であってよい。また、親水性樹脂を水に溶解させ、加熱した場合は常温に戻してから、ノルマルプロパノールを添加するとなおよい。これらの条件では、コーティング剤において親水性樹脂自体の分散安定性がより高まり、低温の熱履歴を経たとしても粘度変化が起こりにくくなるためである。
【0030】
<親水性樹脂>
いくつかの実施形態において、親水性樹脂は、ポリビニルアルコール、エチレン含有比率が25mol%以下であるエチレン-ビニルアルコール共重合体、及びこれらの変性体からなる群から選択される少なくとも1種を含む。親水性樹脂は、エチレン含有比率が25mol%以下であるエチレン-ビニルアルコール共重合体、その変性体、又はこれらの組み合わせ(以下、これらを総称してエチレン-ビニルアルコール共重合体類と称する。)を含むことが好ましい。
【0031】
エチレン-ビニルアルコール共重合体は、エチレン単位と、ビニルアルコール単位とを有する共重合体である。エチレン-ビニルアルコール共重合体は、ビニルエステル単位をさらに含んでもよい。エチレン-ビニルアルコール共重合体において、ビニルエステル単位は、10モル%以下、又は5モル%以下が好ましい。エチレン-ビニルアルコール共重合体は、エチレン-ビニルエステル共重合体をけん化したものであってよい。エチレン-ビニルエステル共重合体は、エチレンとビニルエステル単量体を用いて合成することができる。ビニルエステル単量体としては、例えば、ギ酸、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等が挙げられ、工業上、酢酸ビニルが好ましい。
【0032】
エチレン-ビニルアルコール共重合体類を含む場合のエチレン由来構造の含有比率(以下、エチレン含有比率ともいう。原料仕込みモル%比率と等しい。)は、25モル%以下であるとよいが、22モル%以下、20モル%以下、又は18モル%以下であるとなおよい。これらの範囲では、ガスバリア性をより良好に維持可能である。低エチレン含有比率のエチレン-ビニルアルコール共重合体類は、それ自体によりガスバリア性が低くなる傾向があるが、水性媒体中で水を主成分として水とノルマルプロパノールとを組み合わせて用いることで、得られる印刷物又は積層体においてガスバリア性が改善され得る。例えば、当該エチレン含有比率は、0.1~15モル%であることが好ましく、5~13モル%であるとより好ましく、7~11モル%であるとより好ましい。これらの範囲にあることで、ガスバリア性がより良好となる。当該エチレン含有比率は、印刷物又は積層体のガスバリア性を備えながら、コーティング剤の低温経時保存性を改善するという観点から、15モル%以下、13モル%以下、11モル%以下、10モル%以下、8モル%以下、6モル%以下、4モル%以下、又は2モル%以下であってよい。この場合の下限値は、それぞれ0.1モル%、0.5モル%、又は1モル%であってよい。
【0033】
エチレン含有比率は、エチレン-ビニルアルコール共重合体類の原料又はエステル化物であるエチレン-ビニルエステル共重合体を核磁気共鳴(NMR)測定して求めることができる。
【0034】
水性媒体中で水を主成分として水とノルマルプロパノールと組み合わせて用いることで、得られる印刷物又は積層体においてガスバリア性が改善され得ることから、親水性樹脂は、ポリビニルアルコール、その変性体、又はこれらの組み合わせ(以下、これらを総称してポリビニルアルコール類と称する。)を含んでもよい。
【0035】
ポリビニルアルコール類及びエチレン-ビニルアルコール共重合体類の重合度は、それぞれ100~3000であることが好ましく、500~2400であることがより好ましい。これらの範囲にあることで、ガスバリア性がより良好となる。
【0036】
ポリビニルアルコール類及びエチレン-ビニルアルコール共重合体類は、それぞれ酢酸ビニル由来のアセチル基をけん化し水酸基にして製造されるが、さらに当該水酸基が変性されている場合も好ましい。具体的には、変性された官能基(変性基)を有するよう変性することが好ましい。当該変性としては、カルボニル変性、ケイ素変性等の公知の変性手段が挙げられ、これらに限定されない。また、ポリビニルアルコール類及びエチレン-ビニルアルコール共重合体類はそれぞれ架橋剤で架橋されたものを使用することができる。この場合に使用される架橋剤としては、イソシアネート系、エポキシ系、メラミン系、オキサゾリン系、シランカップリング系等の公知の架橋剤が挙げられ、オキサゾリン系、シランカップリング系が好ましい。
【0037】
ポリビニルアルコール類のけん化度は、下記式2で表され、80モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましく、95モル%以上であることが好ましい。これらの範囲である場合、ガスバリア性がより良好となる。ポリビニルアルコール類は、完全けん化ポリビニルアルコールであってもよい。
(式2)けん化度=(水酸基数)/{(水酸基数)+(アセチル基数)}×100 [モル%]
【0038】
エチレン-ビニルアルコール共重合体類において、ビニルエステル由来の単位のけん化度は、上記ポリビニルアルコール類と同様の範囲であることが好ましい。
【0039】
親水性樹脂は、コーティング剤全質量中、1~20質量%であることが好ましく、2~15質量%であることがより好ましく、3~10質量%であることが特に好ましく、5~10質量%又は6~10質量%であることが一層好ましい。ポリビニルアルコール類とエチレン-ビニルアルコール共重合体類をそれぞれ単独で用いる場合もこれらの範囲であるとよい。ポリビニルアルコール類を単独で用いる場合は、ポリビニルアルコール類の含有量は、5~20質量%、又は6~10質量%であるとより好ましい。エチレン-ビニルアルコール共重合体類を単独で用いる場合は、エチレン-ビニルアルコール共重合体類の含有量は、5~20質量%、又は6~10質量%であるとより好ましい。本実施形態によれば、分散安定性が良好な状態で、より多くの親水性樹脂を含むことができる。
【0040】
親水性樹脂は、コーティング剤の固形分全質量中50~95質量%であることが好ましく、60~90質量%であることがより好ましく、70~80質量%であることが特に好ましい。本開示において、固形分は、コーティング剤を100℃で熱処理する場合に質量変化がない状態まで乾燥した後に残留する成分である。
【0041】
ポリビニルアルコール類及びエチレン-ビニルアルコール共重合体類としては、クラレポバールRシリーズ(クラレ社製、ポリビニルアルコール樹脂)、クラレエクセバールAQ-4104、RS-2117(クラレ社製、特殊変性ポリビニルアルコール)、クラレエバールL104B、F104B(クラレ社製、エチレンビニルアルコール共重合樹脂)等を使用することができる。
【0042】
いくつかの実施形態においては、コーティング剤は、親水性樹脂としてポリビニルアルコール類及びエチレン-ビニルアルコール共重合体類以外の樹脂も含むことができ、具体例として、ポリビニルピロリドン、デンプン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アクリル樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。なお、コーティング剤に含まれる樹脂全質量に対し、ポリビニルアルコール類及びエチレン-ビニルアルコール共重合体類の合計質量は、上限値が100質量%、99質量%、又は98質量%の範囲で、20質量%以上、50質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、又は95質量%以上あってよい。
【0043】
<無機層状化合物>
いくつかの実施形態において、コーティング剤は無機層状化合物を含む。無機層状化合物を含むことでガスバリア性が向上する。ここでいう無機層状化合物とは、単位結晶層が重なって層状構造を形成するものであり、特に水性媒体中で膨潤、劈開するものが好ましい。
【0044】
無機層状化合物としては、水性媒体となじみが良いものを選定することが好ましい。また、無機層状化合物及びその層間イオンが、ナトリウムイオンを含むと膨潤性が高まり、層間距離が大きくなるため、凝集や沈降が起こりにくく、分散安定性、ガスバリア性がより良好なるため好ましい。また、無機層状化合物は、ガスバリア性の観点から、アスペクト比が10~2000、又は50~1000である無機層状化合物を含むことが好ましい。
【0045】
無機層状化合物の好ましい例としては、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、バーミキュライト、マイカ、パラゴナイト、レピドライト、マーガライト、クリントナイト、アナンダイト、緑泥石、ドンバサイト、スドーアイト、クッケアイト、クリノクロア、シャモサイト、ニマイト、テトラシリリックマイカ、タルク、パイロフィライト、ナクライト、カオリナイト、ハロイサイト、クリソタイル、ナトリウムテニオライト、ザンソフィライト、アンチゴライト、ディッカイト、ハイドロタルサイトなどがあり、モンモリロナイト、カオリナイト、及び天然マイカから選ばれてなることがより好ましい。好ましくは、モンモリロナイト、カオリナイト、及び天然マイカからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、モンモリロナイトであることが特に好ましい。
【0046】
例えば、水性バリアコーティング剤固形分中の無機層状化合物の含有量は、固形分100質量%中、5~50質量%であることが好ましく、10~40質量%であることがより好ましく、20~30質量%であることが更に好ましい。無機層状化合物の沈降やコーティング剤のゲル化を防ぎ、粘度変化が起こりにくくなるためである。この観点から、無機層状化合物は、水性バリアコーティング剤の固形分全質量中20質量%超過40質量%以下であることが好ましい。
【0047】
<モンモリロナイト>
いくつかの実施形態で用いられるモンモリロナイトは、下記式3で示される。また、モンモリロナイトを主成分とし、更に石英や長石等の鉱物を含むベントナイトも使用することができる。
(式3)MaSi(Al2-aMg)O10(OH)・nH
(式3~6中、Mは層間陽イオンを表し、aは0.25~0.60である。またnH2Oは、水分子の数を表す。)
またモンモリロナイトには下記式4~6で表される、マグネシアンモンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、鉄マグネシアンモンモリロナイトの同型イオン置換体も存在し、これらを用いてもよい。
(式4)MaSi(Al1.67-aMg0.5+a)O10(OH)・nH
(式5)MaSi(Fe2-a 3+Mg)O10(OH)・nH
(式6)MaSi(Fe1.67-a 3+Mg0.5+a)O10(OH)・nH
【0048】
上記層間陽イオンとして、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、カリウムイオン等の無機カチオンや、第4級アンモニウムイオン等の有機カチオンが挙げられ、水への親和性の観点から、無機カチオンであることが好ましく、ナトリウムイオン及び/又はカルシウムイオンであることがより好ましい。ナトリウムイオンを含むことが更に好ましい。また、水処理により精製したモンモリロナイトを用いることが好ましい。
【0049】
モンモリロナイトの体積平均での粒子厚さとしては、0.05~30nmであることが好ましく、0.1~10nmであることがより好ましく、0.5~3nmであることが更に好ましい。また、モンモリロナイトの体積平均での粒子長径としては、0.01~5μmであることが好ましく、0.05~3μmであることがより好ましく、0.1~1μmであることが更に好ましい。加えて、モンモリロナイトの体積平均での粒子アスペクト比は、10~2000であることが好ましく、50~1000であることがより好ましく、100~1000であることが更に好ましく、300~700であることが特に好ましい。これらの範囲にあることで、ガスバリア性がより良好になる。
なお、本開示において、モンモリロナイトの粒子厚さ、粒子長径、及び粒子アスペクト比は、原子間力顕微鏡(AFM)で測定できる。
【0050】
モンモリロナイトは、クニピア-F、クニピア-G(クニミネ工業社製)等の市販品を使用することができる。
【0051】
モンモリロナイトを用いる場合は、ガスバリア性の観点から、モンモリロナイトが無機層状化合物中10質量%以上、30質量%以上、50質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、又は95質量%以上であって、上限値がそれぞれ100質量%、99質量%、又は98質量%であることが好ましい。無機層状化合物としてモンモリロナイトのみを用いてもよい。
【0052】
<ヘクトライト>
いくつかの実施形態で用いられるヘクトライトは、下記式7で示され、天然品であっても、合成品であってもよい。
(式7)Na0.3Si(Mg2.7Li0.3)O10(OH)・nH
【0053】
ヘクトライトの体積平均での粒子厚さは、0.05~30nmであることが好ましく、0.1~10nmであることがより好ましく、0.5~3nmであることが更に好ましい。粒子アスペクト比は、10~1000であることが好ましく、100~500であることがより好ましく、20~200であることが更に好ましい。これらの範囲にあることで、ガスバリア性がより良好になる。
なお、いくつかの実施形態において、ヘクトライトの粒子厚さ、粒子長径、及び粒子アスペクト比は、走査型電子顕微鏡(SEM)で測定できる。
【0054】
ヘクトライトは、ラポナイトJS、ラポナイトS482(ビックケミー・ジャパン株式会社製)等の市販品を使用することができる。
【0055】
<カオリナイト>
いくつかの実施形態で用いられるカオリナイトは、カオリナイト(Al・2SiO・HO)またはハロイサイトAl・2SiO・2HOが主成分であり、天然品であっても、合成品であってもよい。また、製造方法の違いにより、乾式カオリナイト、湿式カオリナイト、焼成カオリン等があるが、これらに限定されない。
【0056】
カオリナイトの体積平均での粒子径は、ガスバリア性の観点から、1~100μmであることが好ましく、3~50μmであることがより好ましく、5~20であることが更に好ましい。また、カオリナイトの体積平均でのアスペクト比は、10~1000であることが好ましく、30~500であることがより好ましく、50~200であることが更に好ましい。
なお、いくつかの実施形態において、カオリナイトの粒子径は、レーザー解析・散乱法によって測定することができ、アスペクト比は、走査型電子顕微鏡(SEM)で測定することができる。
【0057】
カオリナイトは、バリサーフHX(イメリス社製)、NNカオリンクレー、STカオリンクレー(竹原化学工業社製)等の市販品を使用することができる。
【0058】
<マイカ>
いくつかの実施形態で用いられるマイカは、天然マイカ、合成マイカいずれも使用できる。天然マイカとは、鉱石のマイカ(雲母)を粉砕した鱗片状基材であり、機械粉砕や、か焼による劈開などにより粒径やアスペクト比をコントロールできる。合成マイカとは、SiO、MgO、Al、KSiF、NaSiF等の工業原料を加熱し、約1500℃の高温で熔融し、冷却して結晶化させて合成したものなどがある。
【0059】
マイカの体積平均での粒子径は、印刷適性やガスバリア性の観点から、30μm以下であることが好ましく、1~25μmであることがより好ましく、5~15μmであることが更に好ましい。またマイカの体積平均でのアスペクト比は、30~200であることが好ましく、70~170であることがより好ましく、100~150であることが更に好ましい。
なお、本開示において、マイカの粒子径は、レーザー解析・散乱法によって測定することができ、アスペクト比は、走査型電子顕微鏡(SEM)で測定することができる。
【0060】
マイカは、マイカパウダーTMシリーズ、マイカパウダーNCFシリーズ(ヤマグチマイカ社製)、L60M、L100M(セイシン企業社製)等の市販品を使用することができる。
【0061】
<ナトリウム塩化合物>
いくつかの実施形態の水性バリアコーティング剤は、ナトリウム塩化合物を含むことが好ましく、オキソ酸を含むナトリウム塩化合物を含むことがより好ましい。当該ナトリウム塩化合物を含むことで、無機層状化合物の分散安定性がより良好となる。これは、ナトリウム塩化合物由来のナトリウムイオンの一部または全部が、上述した無機層状化合物の層間イオンを補うためであると考えられる。
オキソ酸を含むナトリウム塩化合物の具体例としては、炭酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム等があげられる。
【0062】
ナトリウム塩化合物を用いる場合は、水性バリアコーティング剤固形分中のオキソ酸を含むナトリウム塩化合物の添加量は、無機層状化合物100質量%に対し、0.1~10質量%であることが好ましく、0.2~5質量%であることがより好ましく、0.3~3質量%であることが更に好ましい。
【0063】
<水性媒体>
いくつかの実施形態において、コーティング剤は水性媒体を含む。水性媒体は、ノルマルプロパノール及び水を含み、水性媒体の全質量中の水の含有量が50質量%以上であり、水性媒体の全質量中のイソプロパノールの含有量が15質量%以下であるとよい。水性媒体の主成分(水性媒体の内50質量%以上)は水であることが好ましく、水に加えて、ノルマルプロパノールを使用できる。ノルマルプロパノールに加えて追加的な親水性有機溶剤を使用してもよく、具体的には、アルコール系有機溶剤、グリコール系有機溶剤、エーテル系有機溶剤等を含有させることができる。好ましくはアルコール系有機溶剤である。水及びノルマルプロパノールを含む水性媒体は、得られる印刷物又は積層体のガスバリア性を改善することができる。また、水性媒体がノルマルプロパノールを単独で、又は追加的な親水性有機溶剤と組み合わせて含むことで、印刷において印刷物の乾燥性、コーティング剤の消泡性の効果をより向上させることができる。水性媒体の全質量中のイソプロパノールの含有量が15質量%以下であることで、低温環境に晒される経時保存後においても、コーティング剤の分散安定性を得ることができ、得られる印刷物又は積層体のガスバリア性を改善することができる。
【0064】
水性バリアコーティング剤中の水性媒体の含有量は、コーティング剤全質量中、60~99質量%であることが好ましく、70~98質量%であることがより好ましく、80~97質量%であることが特に好ましい。
親水性有機溶剤は水性媒体全質量中、5~45質量%含むことが好ましく、11~40質量%含むことがより好ましく、20~35質量%含むことが更に好ましい。
また、親水性有機溶剤はコーティング剤全質量中、4~42質量%含むことが好ましく、10~37質量%含むことがより好ましく、18~33質量%含むことが更に好ましい。
水は水性媒体全質量中、50質量%以上で含まれるとよく、例えば、50~99質量%、55~90質量%、60~85質量%、又は65~80質量%で含むことが好ましい。
また、水はコーティング剤全質量中、45質量%以上で含まれるとよく、例えば、45~98質量%、50~90質量%、55~85質量%、又は60~80質量%で含むことが好ましい。
【0065】
(ノルマルプロパノール)
水性媒体はノルマルプロパノールを含むことが好ましく、コーティング剤全質量中のノルマルプロパノールの質量比率は1質量%以上であると好ましく、5質量%以上であるとより好ましく、11質量%以上であると更に好ましく、20質量%以上であると特に好ましい。これらの範囲では、得られる印刷物又は積層体においてガスバリア性がより改善され得る。また、これらの範囲にあることで、コーティング剤の経時保存の間の分散安定性が高まり、ゲル化による粘度変化を防ぐことができる。例えば、コーティング剤全質量中のノルマルプロパノールの質量比率は、1~50質量%、5~45質量%、11~40質量%、又は20~30質量%であるとよい。
【0066】
水性媒体全質量中のノルマルプロパノールの質量比率は1質量%以上であると好ましく、5質量%以上であるとより好ましく、10質量%以上あるいは15質量%以上であると更に好ましく、20質量%以上であると特に好ましい。これらの範囲では、得られる印刷物又は積層体においてガスバリア性がより改善され得る。また、これらの範囲にあることで、コーティング剤の経時保存の間の分散安定性が高まり、ゲル化による粘度変化を防ぐことができる。例えば、水性媒体全質量中のノルマルプロパノールの質量比率は、1~50質量%、5~45質量%、10~40質量%、又は15~30質量%であるとよい。
【0067】
水性媒体がノルマルプロパノール及び水を含み、水性媒体の全質量中の水の含有量が50質量%以上である場合、水性媒体の全質量中のイソプロパノールの含有量が15質量%以下であることが好ましく、12質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが更に好ましく、8質量%以下であることが特に好ましい。これらの範囲では、低温環境に晒される経時保存後においても、コーティング剤の分散安定性を得ることができ、得られる印刷物又は積層体のガスバリア性を改善することができる。水性媒体の全質量中のイソプロパノールの含有量は、ガスバリア性の観点から、0質量%であってもよく、0~5質量%、0~2質量%、又は0~1質量%であってもよい。
【0068】
コーティング剤全質量中のイソプロパノールの質量比率は0質量%であってもよく、15質量%以下、12質量%以下、10質量%以下、又は8質量%以下であることが好ましい。ガスバリア性をより改善する観点から、コーティング剤全質量中のイソプロパノールの質量比率は0質量%であってもよく、0~5質量%、0~2質量%、又は0~1質量%であってもよい。
【0069】
(2級及び/又は3級モノアルコール)
いくつかの実施形態において、追加的な親水性有機溶剤として、第2級モノアルコール及び第3級モノアルコールからなる群から選択される少なくとも1つを含んでもよい。第2級モノアルコール及び第3級モノアルコールの合計の含有量は水性媒体の全質量中0質量%または15質量%以下であるとなおよい。例えば、コーティング剤の式1で表される粘度変化率を30%以下にするためには、水性媒体は第2級モノアルコール及び/又は第3級モノアルコールが15質量%以下であることが好ましい。第2級モノアルコール及び第3級モノアルコールの合計の含有量は、水性媒体全質量中0又は15質量%以下であるとよく、0又は10質量%未満であることが好ましく、0又は8質量%以下であることが好ましく、0又は5質量%以下であることが更に好ましい。これらの範囲では、得られる印刷物又は積層体においてガスバリア性がより改善され得る。また、これらの範囲にあることで、コーティング剤の経時保存の間の分散安定性が高まり、ゲル化による粘度変化を防ぐことができる。なお、第2級モノアルコール及び第3級モノアルコールの合計の含有量にはイソプロパノールの含有量が含まれる。
【0070】
第2級モノアルコール及び/又は第3級モノアルコールとしては、炭素原子数が3~6であってよく、3又は4がより好ましく、例えば、イソプロパノール、tert-ブタノール、sec-ブタノール等が挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
上記以外のアルコール系有機溶剤として、炭素原子数が1~20、1~10、又は1~8のアルコール系有機溶剤等が挙げられ、具体的には、メタノール、エタノール、ノルマルブタノール、ヘキサノール、オクタノール、デカノール等が挙げられ、これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
上記グリコール系有機溶剤としては、アセチレンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等が挙げられる。これは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。好ましくはプロピレングリコールである。
【0073】
また、グリコールエーテル系有機溶剤を用いてもよい。例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノオクチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジピロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジブチルグリコール等が挙げられる。これは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。好ましくは、プロピレングリコールモノエチルエーテルである。
【0074】
水性媒体は、水100質量%に対してノルマルプロパノールが1~50質量%、5~50質量%、又は10~50質量%であるとよい。さらに、ガスバリア性の観点から、水性媒体は、水100質量%に対してノルマルプロパノールが12~50質量%、15~50質量%、20~50質量%、又は30~50質量%であることが好ましい。これらの範囲で、ガスバリア性をより改善することができる。
【0075】
水性媒体は、イソプロパノールを含む場合、ノルマルプロパノールはイソプロパノールの含有量より多いことが好ましい。例えば、水性媒体は、ノルマルプロパノール100質量%に対してイソプロパノールが90質量%以下、80質量%以下、又は75質量%以下であることが好ましい。これらの範囲で、ガスバリア性をより改善することができる。
【0076】
<水性バリアコーティング剤の製造方法>
水性バリアコーティング剤の製造方法は特に限定されないが、以下に水性バリアコーティング剤を製造するためのいくつかの実施形態を説明する。例えば、水性バリアコーティング剤は、親水性樹脂、無機層状化合物、及び水性媒体を一括又は分割して混合し、任意的に分散処理することで得ることができる。好ましくは、水性バリアコーティング剤は、親水性樹脂と水性媒体とを混合し親水性樹脂組成物を得て、この親水性樹脂組成物と無機層状化合物を混合及び分散して得ることができる。
【0077】
いくつかの実施形態では、ポリビニルアルコール、エチレン含有比率が25mol%以下であるエチレン-ビニルアルコール共重合体、及びこれらの変性体からなる群から選択される少なくとも1種を含む親水性樹脂及び水を混合し80℃以上で1時間以上かけて温度管理し、プレ親水性樹脂組成物を提供すること、プレ親水性樹脂組成物及びノルマルプロパノールを混合し親水性樹脂組成物を提供すること、及び親水性樹脂組成物及び無機層状化合物を混合し、水性バリアコーティング剤を提供することを含み、水性バリアコーティング剤は、水性媒体がノルマルプロパノール及び水を含み、水性媒体の全質量中の水の含有量が50質量%以上であり、水性媒体の全質量中のイソプロパノールの含有量が15質量%以下である、水性バリアコーティング剤の製造方法が提供される。
【0078】
この製造方法において、温度管理は、85℃以上で1時間以上であることがより好ましい。この製造方法では、プレ親水性樹脂組成物は、親水性樹脂組成物の水溶液であることが好ましいが、親水性樹脂の一部が溶け残っていてもよい。この製造方法では、親水性樹脂組成物は、親水性樹脂組成物の水及びプロパノールの溶液であることが好ましいが、親水性樹脂の一部が溶け残っていてもよい。この製造方法によれば、得られるバリアコーティング剤の常温保存時のポットライフが24時間超過とすることができる。この製造方法において、得られるバリアコーティング剤の常温保存時のポットライフが24時間以内のものは除かれるとよい。
【0079】
より具体的な方法の一例としては、水性バリアコーティング剤は、以下の2工程を経ることで得ることができる。
工程1においては、攪拌羽根、回転翼等を供えた攪拌機に、親水性樹脂及び水性媒体を仕込み、撹拌、混合を行う。工程2においては、無機層状化合物を添加し、分散を行う。工程1、工程2ともに撹拌速度としては特に制限されることはなく、50~2000rpmで行うことが可能である。工程1においては、高温で撹拌、混合を行うことが好ましく、温度は80℃以上であることが好ましく、85℃以上であることがより好ましく、90℃以上であることが更に好ましく、95℃以上であることが一層好ましい。例えば、溶解温度が80~100℃、溶解時間が1~3時間であってよい。高温で行うことで、長期間の保存においてもゲル化しにくくなり経時保存の間の分散安定性がより良好になる。工程2においては、分散機を用いるが、分散機は撹拌機(ディスパー)だけでなく、ビーズミル分散を行うことも好ましく、無機層状化合物の分散安定性がより良好になる。この製造方法では、得られる水性バリアコーティング剤において、水性媒体がノルマルプロパノール及び水を含み、水性媒体の全質量中の水の含有量が50質量%以上であり、水性媒体の全質量中のイソプロパノールの含有量が15質量%以下であるとよい。
【0080】
工程1においては、親水性樹脂及び水を攪拌及び混合してプレ親水性樹脂組成物を得て、このプレ親水性樹脂組成物にノルマルプロパノールを添加して親水性樹脂組成物を得る方法がより好ましい。この方法を経ることで、コーティング剤を用いて形成される印刷物又は積層体においてガスバリア性がより改善し得る。さらに、この方法によれば、コーティング剤において、低温での経時保存後にも親水性樹脂のゲル化の発生をより抑制することができる。
【0081】
<平均粒子径(D50)>
いくつかの実施形態では、水性バリアコーティング剤中の無機層状化合物を粒度分布測定装置で測定した際の平均粒子径(D50)は、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、3μm以下であることが特に好ましい。10μm以下であることで、無機層状化合物の分散安定性がより良好になる。本開示において、粒度分布測定装置で測定した際の平均粒子径(D50)は、レーザー回折・散乱法による粒度分布において体積基準の積算値が50%になる粒子径である。
【0082】
<印刷物>
いくつかの実施形態によれば、基材と、水性バリアコーティング剤により形成されたバリアコート層とを含む、印刷物が提供される。水性バリアコーティング剤は、上記説明したものを用いることができる。本開示において、印刷物に使用される基材を基材1ともいう。いくつかの実施形態では、水性バリアコーティング剤を、基材1上に印刷することで、バリアコート層を備えた印刷物を得ることができる。任意の印刷方式で印刷を行うことができ、特段の制限はないが、グラビア印刷が好適に使用できる。
【0083】
<基材、基材1>
いくつかの実施形態に使用できる基材1は、特に限定されないが、例えば、紙基材として、中質紙、上質紙、含浸紙、ボール紙、クラフト紙等が挙げられ、プラスチック基材として、二軸延伸ポリプロピレン(OPP)、無延伸ポリプロピレン(CPP)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、一軸延伸ポリエチレン(MDOPE)等のポリエチレン、酸変性ポリエチレン、酸変性ポリプロピレン、共重合ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリ乳酸、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、ナイロン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、セロハンなどが挙げられ、上記の複合材料からなる基材も使用することができる。加えて、上記基材に、シリカ、アルミナ、アルミニウムなどの無機化合物の蒸着や、ポリエチレンやポリビニルアルコールなどのコート処理を施されていてもよく、また、コロナ処理が施されていてもよい。
基材1の厚みは特に限定されないが、印刷物又は積層体の加工性を考慮すると、好ましくは5μm以上150μm以下であり、より好ましくは10μm以上70μm以下である。
【0084】
基材1としては、単層でもよく、単純にプラスチック基材同士が積層されていてもよいし、同一または異なる基材が積層されていてもよい。また、「異なる基材」は、異なる性質を有する、プラスチック基材や紙基材が挙げられ、種類を問わない。また、積層された基材である場合は接着剤層を含む形態であってもよい。積層させる方法は特に限定されず、共押出製法、熱融着、接着剤層を介した圧着など、従来公知の方法が挙げられる。
【0085】
<印刷物の製造方法>
いくつかの実施形態において、水性バリアコーティング剤は、例えば、グラビア印刷に適した粘度及び濃度にまで希釈溶剤で希釈され、印刷ユニットに供給され、基材1に塗布される。その後、オーブン等による乾燥によって被膜を定着させることで、バリアコート層を備えた印刷物を得ることができる。
【0086】
乾燥後のバリアコート層の塗工量は、0.1~5g/mであることが好ましく、0.3~3g/mであることがより好ましく、0.5~1.5g/mであることが更に好ましい。これらの範囲である場合、ガスバリア性及び基材密着性がより良好となる。
【0087】
<積層体>
いくつかの実施形態によれば、基材1と、水性バリアコーティング剤により形成されたバリアコート層と、基材2とを含み、基材1と基材2の間にバリアコート層が介在する積層体が提供される。水性バリアコーティング剤は、上記説明したものを用いることができる。基材1は、上記印刷物の基材として説明したものを用いることができる。積層体は、基材1と、水性バリアコーティング剤により形成されたバリアコート層と、基材2とをこの順で含み、それぞれの層間が直接積層されてもよいし、それぞれの層間の間に中間層が介在してもよい。
【0088】
基材1上にバリアコート層を備えた印刷物のバリアコート層上に、更に基材2を積層することで、積層体を得ることができる。積層体の構成は、具体的には、以下の構成を例示することができるが、これらに限定されない。なお以下(1)から(5)の構成表示においては、「/」は各層の境界を意味する。
【0089】
アンカーコート層は、基材表面の微細な凹凸を埋めることができるため、アンカーコート層上にバリアコート層を形成することで、バリアコート層が均一となり、かつピンポールの発生を抑制することができる。また、用いる基材によっては、基材密着性向上のため、アンカーコート層にイソシアネート系硬化剤を加えることも可能である。
接着剤層は従来公知の方法であるドライラミネート及びノンソルラミネートで使用される接着剤で構成されるものに限らず、押し出しラミネートにおける、ポリオレフィン樹脂やその他の熱可塑性樹脂層である場合も含まれる。
印刷層は、積層体に、各種情報、意匠性を与えるため、バリアコート層とは別に設けた層である。
また、各層の名称は、使用形態上の機能的なもので、基材1、基材2、熱可塑性樹脂層、中間基材は、素材の視点では区別できないときがある。また、それぞれの層は、単層であっても、複数層であってもよい。
(1)基材1/バリアコート層
(2)基材1/バリアコート層/接着剤層/基材2
(3)基材1/アンカーコート層/バリアコート層/接着剤層/中間基材/接着剤層/基材2
(4)基材1/アンカーコート層/バリアコート層/接着剤層/第1の中間基材/接着剤層/第2の中間基材/接着剤層/基材2
(5)基材1/アンカーコート層/バリアコート層/印刷層/接着剤層/基材2
ただし、本開示の形態はこれらに限定されない。
【0090】
基材2は特に限定されないが、いくつかの実施形態において、ポリオレフィン樹脂の中でもヒートシール性を有するものを好適に使用できる。これに該当する例として、コロナ処理二軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム、高密度ポリエチレンフィルム(HDPE)、無延伸ポリプロピレン(CPP)フィルム、リニア低密度ポリエチレン(LLDPE)フィルム、溶融塗工で形成されたPE樹脂膜などが挙げられる。
基材2の厚みは、特に限定されないが、包装容器製造時の加工性の観点から、5~150μmであることが好ましく、10~70μmであることがより好ましい。
【0091】
積層体において、基材1及び基材2を単一素材とすることで、積層体のリサイクル効率よりを高めることができる。本開示の水性バリアコーティング剤は、ポリビニルアルコール類及びエチレン-ビニルアルコール共重合体類を含むことから、基材1及び基材2にオレフィン系樹脂を用いることで積層体全体のリサイクル効率をより高めることができる。
【0092】
本開示のさらにいくつかの実施形態を以下に挙げるが、本開示は以下の実施形態に限定されない。
本開示は、親水性樹脂、無機層状化合物及び水性媒体を含む水性バリアコーティング剤であって、前記親水性樹脂が、ポリビニルアルコール及び/又はエチレンビニルアルコール共重合体を含み、前記水性バリアコーティング剤の、下記(式1)で表される粘度変化率が、30%以下である、水性バリアコーティング剤に関する。
(式1)粘度変化率=|粘度B-粘度A|/粘度A×100
(上記式1において、粘度Aは、製造直後または製造後15~35℃の温度で保管された水性バリアコーティング剤の25℃における粘度を表し、粘度Bとは、前記水性バリアコーティング剤を5℃で24時間静置後の前記水性バリアコーティング剤を、25℃で測定した粘度を表す。)
【0093】
また、本開示は、親水性樹脂、無機層状化合物及び水性媒体を含む水性バリアコーティング剤の製造方法であって、前記親水性樹脂が、ポリビニルアルコール及び/又はエチレンビニルアルコール共重合体を含み、水性媒体が、水およびノルマルプロパノールを含み、前記親水性樹脂を水に、90℃以上で1時間以上かけて溶解することを特徴とする水性バリアコーティング剤の製造方法(ただし、当該バリアコーティング剤の常温保存時のポットライフが24時間以内のものを除く)に関する。
【実施例
【0094】
以下、実施例をあげて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、本発明における部及び%は、特に注釈の無い場合、質量部及び質量%を表す。
【0095】
(水性バリアコーティング剤の製造)
<実施例1>
エチレン-ビニルアルコール共重合体PVA1(エチレン含有率:8モル%、固形分100%)6部、水64部を攪拌しながら加熱し、95℃で1時間、加熱攪拌を継続し、その後、加熱を停止して、常温に戻るまで攪拌を継続し、ノルマルプロパノール28部を加え、混合撹拌することで、エチレン-ビニルアルコール共重合体PVA1水溶液を得た。エチレン-ビニルアルコール共重合体PVA1水溶液にモンモリロナイト(粒子アスペクト比:500、固形分100%)2部を加えて混合し、分散機で20分間分散し、水性バリアコーティング剤V1を得た。
【0096】
<実施例2~16、比較例1~6>
表1に記載した原料、配合比及び分散方法を使用した以外は、実施例1と同様の方法で、水性バリアコーティング剤V2~22を得た。実施例15では平均粒子径(D50)が粗大になるように、実施例1に対して分散処理の程度を弱めた。なお、使用した原料の性状は以下の通りである。
【0097】
・ポリビニルアルコールPVA5:けん化度98%以上、固形分100%
・エチレン-ビニルアルコール共重合体PVA2:エチレン含有率2モル%、固形分100%
・エチレン-ビニルアルコール共重合体PVA3:エチレン含有率14モル%、固形分100%
・エチレン-ビニルアルコール共重合体PVA4:エチレン含有率27モル%、固形分100%
・水溶性アクリル樹脂A1:株式会社日本触媒製、アクアリックHL415、重量平均分子量10000、固形分45%
【0098】
・モンモリロナイト:クニミネ工業株式会社製、クニピアF、層状化合物、アスペクト比500、固形分100%
・ヘクトライト:BYK社製、LAPONITE-S482、層状化合物、アスペクト比25、固形分100%
・カオリナイト:林化成株式会社製、Hydrite SB100、層状化合物、アスペクト比100、固形分100%
・天然マイカ:株式会社ヤマグチマイカ製、TM-10、層状化合物、アスペクト比130、固形分100%
・シリカ粒子:水澤化学工業株式会社製、ミズカシルP-707、非層状化合物、平均粒子径(レーザー散乱法):4μm、吸油量:250ml/100g、固形分100%
・ナトリウム塩化合物:太平化学産業株式会社製、トリポリリン酸ナトリウム、固形分100%
【0099】
<粘度変化率の測定>
得られたコーティング剤V1~22を密閉容器に入れ、5℃で24時間静置保管した。その後、静置保管後のコーティング剤V1~22について温度25℃において粘度を測定し、下記式1にて粘度変化率を算出した。
コーティング剤の粘度はザーンカップを用いて測定した数値である。具体的には、オリフィス径3mm、容量43mlのステンレス製カップ(株式会社離合社製のザーンカップNo.3)を用い、温度25℃において、試料中に沈めたカップを素早く一定の動作で引き上げ、カップ底面が液面から離れる瞬間から、オリフィスから流出する試料の流れ(定常流)が途切れるまでの秒数を下記式の粘度A及び粘度Bとして用いる。
【0100】
例えば、実施例1のV1では、温度25℃において測定した粘度(粘度A)が18秒、5℃で24時間静置後、温度25℃において測定した粘度(粘度B)が18秒であるため、下記式1より、粘度変化率は0%となる。
(式1)粘度変化率=|粘度B-粘度A|/粘度A×100
実施例1の粘度変化率=|18-18|/18×100=0
【0101】
(水性バリアコーティング剤の印刷)
<実施例1> 塗工物p1、積層体P1
水性バリアコーティング剤V1をコロナ処理された機械縦方向配向延伸ポリエチレン(MDOPE)フィルム(厚み20μm)のコロナ処理された面上の全面に対し、版深30μmのグラビア版を備えたグラビア印刷機を用いて、印刷速度40m/分、インラインオーブン70℃の条件下で、2度印刷してバリアコート層を形成し、MDOPE(基材1)/バリアコート層の塗工物p1を得た。次いで、ドライラミネート機を用いて、塗工物p1のバリアコート層上に、ポリエーテル系反応性ウレタン接着剤(東洋モートン株式会社製「TM-340V/CAT-29B」)を塗工し、オーブンにて溶剤を乾燥し接着剤層を形成した後、接着剤層上に、ライン速度40m/分にて直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)フィルム(厚み30μm)を貼り合わせ、40℃で1日間保温し、MDOPE(基材1)/バリアコート層/接着剤層/LLDPE(基材2)構成である積層体P1を得た。積層体P1のバリアコート層の乾燥後の塗工量を下記の方法で算出したところ1.0g/mであった。
【0102】
<実施例2~16、比較例1~6>塗工物p2~22、積層体P2~22
実施例1と同様の方法で、V2~22について印刷を行い、塗工物p2~22、積層体P2~22を得た。
【0103】
(水性バリアコーティング剤経時後の印刷)
<実施例1~16、比較例1~6>塗工物q1~22、積層体Q1~22
コーティング剤V1~22をガラス規格瓶に入れ、蓋をして密閉した状態で5℃にて1週間静置した後、上記の方法で印刷を行い、塗工物q1~22、積層体Q1~22を得た。
【0104】
<塗工量測定方法>
上記の方法により得られた塗工物におけるフィルム基材/バリアコート層の構成部分から、10cm角に5枚のフィルム基材/バリアコート層のサンプルを切り出し、フィルム基材から、10cm角に5枚のフィルム基材のサンプルを切り出した。それぞれのサンプルの質量を測定し、下記式8でバリアコート層の塗工量を算出した。なお、フィルム基材は、コロナ処理機械縦方向配向延伸ポリエチレン(MDOPE)フィルム(厚み20μm)である。
(式8)バリアコート層の塗工量(g/m)=(フィルム基材/バリアコート層の5サンプルの平均質量)-(フィルム基材の5サンプルの平均質量)
【0105】
<分散安定性>
得られた水性バリアコーティング剤V1~22をガラス規格瓶に入れ、蓋をして密閉した状態で5℃にて1週間静置した後に水性バリアコーティング剤の状態を目視で観察し、下記基準にて評価した。なお、A、B及びCが実用上問題ない範囲である。
A:沈殿なし、ゲル化なし
B:沈殿あり、ゲル化なし、撹拌により使用可能
C:沈殿なし、ゲル化あり、撹拌により使用可能
D:沈殿なし、ゲル化あり、使用不可能
【0106】
<酸素バリア性>
得られた積層体P1~22及びQ1~22を100mm×100mmの大きさに切り出し、MOCON社製OX-TRAN2/22、温度23℃相対湿度65%RHの雰囲気下で酸素透過度(cc/m・day・atm)を測定し、下記基準にて評価した。なお、A、B及びCが実用上問題ない範囲である。
<<評価基準>>
A:酸素透過度が1cc/m・day・atm未満である。
B:酸素透過度が1cc/m・day・atm以上、5cc/m・day・atm未満である。
C:酸素透過度が5cc/m・day・atm以上、20cc/m・day・atm未満である。
D:酸素透過度が20cc/m・day・atm以上、100cc/m・day・atm未満である。
E:酸素透過度が100cc/m・day・atm以上である。
【0107】
【表1-1】
【0108】
【表1-2】
【0109】
【表2】
【0110】
上記の結果から、各実施例の結果より、親水性樹脂及び無機層状化合物とともに、ノルマルプロパノールを含むバリアコーティング剤を低温保管し、その後にこれを用いて作製した積層体Qにおいて、酸素バリア性が良好であることがわかる。
比較例1は、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコールを含まないため、酸素バリア性が不良であった。比較例2及び3は、無機層状化合物を含まないため、酸素バリア性が不良であった。比較例4及び5は、ノルマルプロパノールを含まず、低温保管後のバリアコーティング剤においてゲル化が発生した。
【要約】
【課題】コーティング剤を経時保管した後に作製される塗工物においてガスバリア性の低下を抑制すること。
【解決手段】親水性樹脂、無機層状化合物、及び水性媒体を含み、親水性樹脂が、ポリビニルアルコール、エチレン含有比率が25mol%以下であるエチレン-ビニルアルコール共重合体、及びこれらの変性体からなる群から選択される少なくとも1種を含み、水性媒体が、ノルマルプロパノール及び水を含み、水性媒体の全質量中の水の含有量が50質量%以上であり、水性媒体の全質量中のイソプロパノールの含有量が15質量%以下である、水性バリアコーティング剤である。
【選択図】なし