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特許7545644撥水剤組成物、繊維製品および繊維製品の撥水処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】撥水剤組成物、繊維製品および繊維製品の撥水処理方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/263 20060101AFI20240829BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20240829BHJP
   D06M 13/144 20060101ALI20240829BHJP
   D06M 15/643 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
D06M15/263
C09K3/18 104
D06M13/144
D06M15/643
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021008159
(22)【出願日】2021-01-21
(65)【公開番号】P2022112353
(43)【公開日】2022-08-02
【審査請求日】2023-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097490
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 益稔
(74)【代理人】
【識別番号】100097504
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 純雄
(72)【発明者】
【氏名】花田 舞結
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-034784(JP,A)
【文献】特開平11-080711(JP,A)
【文献】特開平07-097770(JP,A)
【文献】特開2020-007681(JP,A)
【文献】特開2006-328624(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/18
D06M 13/00 - 15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(X)含シリコーン共重合体と(Y)アルコールを含有する撥水剤組成物であって、
(X)含シリコーン共重合体と(Y)アルコールとの合計含有量を100質量部とした時、(X)含シリコーン共重合体の質量比が0.1~10質量部であり、(Y)アルコールの質量比が90~99.9質量部であり、
(X)含シリコーン共重合体を構成する単量体由来の構成単位の合計を100質量部とした時、(a)下記式(1)で表される単量体由来の構成単位が30~50質量部であり、(b)下記式(2)で表される単量体由来の構成単位が10~30質量部であり、(c)下記式(3)で表される単量体由来の構成単位が20~40質量部であり、(d)下記式(4)で表される単量体由来の構成単位が5~10質量部であり、
(Y)アルコールは、炭素数2~4の一価アルコールおよび炭素数2~4の二価アルコールからなる群より選ばれた一種以上のアルコールであることを特徴とする、撥水剤組成物。

【化1】

(式(1)において、nは5~500の整数を表す。)

【化2】

(式(2)において、
は水素原子またはメチル基を示し、
は炭素数2~4の直鎖状の脂肪族炭化水素基を表す。)

【化3】

(式(3)において、
は水素原子またはメチル基を示し、
は炭素数4の分岐状の脂肪族炭化水素基を表す。)

【化4】

(式(4)において、
は水素原子またはメチル基を示し、
は炭素数12~22の脂肪族炭化水素基を表す。)
【請求項2】
請求項1記載の撥水剤組成物によって撥水処理されていることを特徴とする、繊維製品。
【請求項3】
請求項1記載の撥水剤組成物を用いて繊維製品を撥水処理することを特徴とする、繊維製品の撥水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理物に対し、優れた撥水性、柔軟な風合い、及び良好な耐チョークマーク性を付与可能な撥水剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、繊維、衣料、皮革等の製品を処理する撥水剤に、フッ素化合物を含まない非フッ素系撥水剤への要求が高まってきている。フッ素系撥水剤の代替としては、シリコーン樹脂を主剤とする撥水剤組成物が用いられている。しかし、一般的にシリコーン樹脂は溶解性の観点から、ケトン類や、エステル類、脂肪族あるいは芳香族炭化水素類等の有機溶剤が使用されている。したがって、溶剤に関しても安全性の高いものが求められている。
【0003】
例えば、特許文献1ではアルコールを主溶剤とするアクリル-シリコーン系グラフト共重合体を用いた繊維用撥水処理剤を開示している。このアクリル-シリコーン系グラフト共重合体は、含シリコーン単量体と(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体との共重合体である。
さらに、特許文献2では、アクリル-シリコーン系グラフト共重合体を繊維用撥水処理剤として開示している。このアクリル-シリコーン系グラフト共重合体は、優れた撥水性、柔軟な風合い、良好な耐チョークマーク性を繊維製品に与える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-97770
【文献】特開2018-95879
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非フッ素系撥水剤は、十分な撥水性を繊維製品に付与しようとすると、撥水成分が高濃度となる条件で繊維製品を処理する必要があった。このような条件で処理された繊維製品は、風合いが硬くなり、爪で繊維表面をこすったときに爪痕(チョークマーク)が現れやすいという問題がある。
【0006】
特許文献1に開示されている繊維用撥水処理剤はフッ素系撥水剤と遜色ない撥水性を示すものの、前記グラフト共重合体をアルコール溶剤に溶解させるためトルエン等の有機溶剤を含む必要があり、安全性に欠ける。また、良好な風合いおよび耐チョークマーク性を繊維製品に付与することを記載していない。
【0007】
また、特許文献2記載の繊維用撥水処理剤では、柔軟な風合い、良好な耐チョークマーク性を繊維製品に与えるものの、溶媒としてトリプロピレングリコールを用いているため、繊維製品に溶媒が残存してしまう。
【0008】
本発明の課題は、安全性が高く溶媒除去が容易であるアルコール溶剤に適用可能であり、被処理物に対して、優れた撥水性、柔軟な風合い、良好な耐チョークマーク性を付与できる撥水剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を達成するため鋭意検討した結果、特定の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位を含む含シリコーン共重合体が、アルコールに溶解可能であり、さらに含シリコーン共重合体をアルコールに溶解させた組成物を繊維製品等の被処理物に処理することで、優れた撥水性、柔軟な風合い、良好な耐チョークマーク性を付与できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
したがって、本発明は、(1)~(3)に係るものである。
(1) (X)含シリコーン共重合体と(Y)アルコールを含有する撥水剤組成物であって、
(X)含シリコーン共重合体と(Y)アルコールとの合計含有量を100質量部とした時、(X)含シリコーン共重合体の質量比が0.1~10質量部であり、(Y)アルコールの質量比が90~99.9質量部であり、
(X)含シリコーン共重合体を構成する単量体由来の構成単位の合計を100質量部とした時、(a)下記式(1)で表される単量体由来の構成単位が30~50質量部であり、(b)下記式(2)で表される単量体由来の構成単位が10~30質量部であり、(c)下記式(3)で表される単量体由来の構成単位が20~40質量部であり、(d)下記式(4)で表される単量体由来の構成単位が5~10質量部であり、
(Y)アルコールは、炭素数2~4の一価アルコールおよび炭素数2~4の二価アルコールからなる群より選ばれた一種以上のアルコールであることを特徴とする、撥水剤組成物。

【化1】


(式(1)において、nは5~500の整数を表す。)

【化2】


(式(2)において、
は水素原子またはメチル基を示し、
は炭素数2~4の直鎖状の脂肪族炭化水素基を表す。)

【化3】


(式(3)において、
は水素原子またはメチル基を示し、
は炭素数4の分岐状の脂肪族炭化水素基を表す。)

【化4】


(式(4)において、
は水素原子またはメチル基を示し、
は炭素数12~22の脂肪族炭化水素基を表す。)
(2) (1)の撥水剤組成物によって撥水処理されていることを特徴とする、繊維製品。
(3) (1)の撥水剤組成物を用いて繊維製品を撥水処理することを特徴とする、繊維製品の撥水処理方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、有害な有機溶剤を使用することなく、被処理物に対して、優れた撥水性、柔軟な風合い、及び良好な耐チョークマーク性を付与できる撥水剤組成物を提供することができる。
【0012】
本発明の撥水処理剤では、含シリコーン共重合体は、炭素数4の分岐状の脂肪族炭化水素基、炭素数12~22の脂肪族炭化水素基および特定の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体をも併用している点で、特許文献1とは異なり、これによって有害な有機溶媒を含まず、優れた撥水性、柔軟な風合い、耐チョークマーク性を付与する撥水剤組成物が得られる。
【0013】
また、本発明の撥水処理剤では、炭素数4の分岐状の脂肪族炭化水素基と特定の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を併用している点で特許文献2とは異なり、これにより、除去が容易な溶媒に溶解可能な撥水剤組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の撥水剤は、(X)含シリコーン共重合体および(Y)アルコールを含んでなる。
【0015】
[(X)含シリコーン共重合体]
(X)含シリコーン共重合体は、(a)式(1)で表される含シリコーン単量体由来の構成単位、(b)式(2)で表される炭素数2~4の直鎖状の脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位、(c)式(3)で表される炭素数4の分岐状の脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位、および(d)式(4)で表される炭素数12~22の直鎖状の脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位を含む。
【0016】
(a)式(1)において、nは5~500の整数を表す。風合いの観点から、nは50以上が好ましく、100以上が更に好ましい。また、nは、300以下が好ましく、200以下が更に好ましい。
(a)含シリコーン単量体は、市販品として入手可能であり、例えばサイラプレーンFM-0711(式(1)中、n=10)(JNC株式会社製)、サイラプレーンFM0721(式(1)中、n=64)(JNC株式会社製)、サイラプレーンFM0725(式(1)中、n=131)(JNC株式会社)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。式(1)の含シリコーン単量体は、それぞれ単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0017】
(b)式(2)において、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは炭素数2~4の直鎖状の脂肪族炭化水素基を示す。
脂肪族炭化水素基は、アルキル基、アルケニル基であることが好ましく、例えば、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基が挙げられる。好ましくは、エチル基、n-ブチル基である。式(2)で表される炭素数2~4の脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体は、1種または2種以上の単量体を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
(c)式(3)において、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは炭素数4の分岐状の脂肪族炭化水素基を示す。
は炭素数4の分岐状のアルキル基、アルケニル基であることが好ましく、例えば、イソブチル基、tert-ブチル基が挙げられ、tert-ブチル基がより好ましい。式(3)で表される炭素数4の分岐状の脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、1種または2種以上の単量体を組み合わせてもよく、特にメタクリル酸tert-ブチルが好ましい。
【0019】
(d)式(4)において、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは炭素数12~22の直鎖状の脂肪族炭化水素基を示す。
の脂肪族炭化水素基は、アルキル基、アルケニル基であることが好ましい。また、本発明の観点からは、Rの脂肪族炭化水素基の炭素数は、18~22が好ましい。
の脂肪族炭化水素基は、例えば、ラウリル基、ステアリル基、ベヘニル基が好ましく、ステアリル基、ベヘニル基がより好ましい。
また、式(4)で表される炭素数12~22の直鎖状の脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、1種または2種以上の単量体を組み合わせてもよく、特にメタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ベヘニルが好ましい。
【0020】
<含シリコーンブロック共重合体の重合方法>
<含シリコーン共重合体の重合方法>
含シリコーン共重合体は、公知の方法によって製造することができるが、ペルオキシドを重合開始剤とした製法によっても製造することができる。
ペルオキシドとは、1分子中に1個のペルオキシ結合を持つ化合物である。ペルオキシドとしては、例えば、下記式(5)で表されるものを利用することができる。
【0021】
【化5】

【0022】
ペルオキシドは、それぞれ単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
(X)含シリコーン共重合体は、前記ペルオキシドを用いて、溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法によって得ることができる。
【0023】
<(Y)アルコール>
本発明の撥水処理剤で溶媒として用いる(Y)アルコールは、炭素数2~4の一価アルコールおよび炭素数2~4の二価アルコールからなる群より選ばれた一種以上のアルコールである。(Y)アルコールは、1種であってもよく、2種以上を混合してもよい。
【0024】
(Y)アルコールとしては、例えばエチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、エチレングリコールなどが挙げられる。これらのアルコールのうち、安全性および臭気、乾燥性の観点から、エタノールおよびn-プロパノール、イソプロピルアルコールが好ましい。
【0025】
<組成比率>
本発明の撥水剤組成物において、(X)含シリコーン共重合体と(Y)アルコールを、(X)と(Y)の合計含有量を100質量部とした時、(X)含シリコーン共重合体を0.1~10質量部とする。(Y)アルコールの含有量は100質量部の残部である。(X)含シリコーン共重合体の含有量が当該範囲の0.1質量部よりも小さい場合は、撥水耐久性が低くなる傾向にあるので、0.1質量部以上とするが、0.5質量部以上とすることが好ましく、3.0質量部以上とすることが一層好ましい。また、(X)含シリコーン共重合体の含有量が当該範囲の10質量部よりも大きい場合は、被処理物の耐チョークマーク性が低下する傾向にあるので、10質量部以下とするが、7.0質量部以下とすることが更に好ましく、5.0質量部以下とすることが特に好ましい。
【0026】
(X)含シリコーン共重合体を構成する(a)含シリコーン単量体の含有量と(b)、(c)、(d)(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の含有量の合計含有量を100質量部としたとき、(a)成分を30~50質量部(好ましくは35質量部以上、更に好ましくは40質量部以上)と、(b)成分を10~30質量部(好ましくは20~30質量部)、(c)成分を20~40質量部(好ましくは25質量部以上)、(d)成分を5~10質量部(好ましくは7質量部以上)含有することとする。
【0027】
(X)含シリコーン共重合体は、実質的に(a)成分、(b)成分、(c)成分および(d)成分からなることが好ましいが、本発明に悪影響がない範囲で(a)~(d)成分以外の成分が5質量部以下含まれていてもよい。
【0028】
詳細な要因については、明らかになっていないが、(X)含シリコーン共重合体において、上記範囲の含有量で(b)成分、(c)成分および(d)成分の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を含有することで、(X)含シリコーン共重合体がアルコール中において、特殊な分散状態をとり、アルコールに溶解可能となるものと思われる。また(c)(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の分岐したブチル基は、水分子との相互作用を防ぎ、水滴が転がりやすい表面の形成に寄与すると思われる。さらに(b)炭素数2~4の直鎖状の脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体および、(d)炭素数12~22の直鎖状の脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体は、チョークマークが付きにくい表面の形成に寄与すると思われる。
【0029】
本発明の撥水剤組成物は、従来既知の方法により被処理物に適用することができる。従来既知の方法として例えば、ディップコート、スプレーコート、ロールコート等により、被処理物の表面に撥水剤組成物を塗布し、乾燥する方法が挙げられる。さらに、本発明の撥水剤組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、抗菌剤、保湿剤、帯電防止剤、防皺剤、柔軟剤等の添加剤を併用することも可能である。
【0030】
本発明の撥水剤組成物で処理される被処理物としては、繊維製品、皮革、ガラス、プラスチック、紙等が挙げられる。その中でも、繊維製品に対して特に優れた撥水性を付与することができる。繊維製品としては例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル等の合成繊維、綿、麻、絹等の動物性天然繊維、レーヨン、アセテートなどの半合成繊維、ガラス繊維、炭素繊維等の無機繊維、あるいはこれらの混合繊維が挙げられる。
また、本発明の撥水剤組成物を被処理物に付着させた後は、適宜熱処理することが好ましい。温度条件は特に制限はないが、本実施形態の撥水剤組成物を用いると、100~150℃の温和な条件により繊維製品に十分良好な撥水性を発現させることが可能である。
【実施例
【0031】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。
(実施合成例X-1)
温度計、撹拌機および還流冷却管を備えた5リットルの4つ口フラスコに、イソプロピルアルコール 2000gを仕込み、窒素ガスを吹き込みながら55℃に加熱した。その後、当該フラスコに、メタクリル酸n-ブチル 240g、メタクリル酸tert-ブチル 360g、メタクリル酸ステアリル 120g、ポリシロキサン基含有単量体としてサイラプレーンFM0725(JNC社製)480g、イソプロピルアルコール 470gからなる混合液と、イソプロピルアルコール 270g、式(5)のペルオキシド60gからなる混合液の両液を同時に3時間かけて滴下し、さらに4時間重合反応を行った。その後、70℃に昇温して1時間重合反応を行い、(X)含シリコーン共重合体を含む液体を得た。
【0032】
(実施合成例X2~X9)
実施合成例X2~X9では、単量体を表4に記載の種類または量に変更した以外は、実施合成例1と同様の方法で製造した。
【0033】
(比較合成例X’1~X’7)
比較合成例X’1~X’7は、単量体を表5に記載の種類または量に変更した以外は、実施合成例1と同様の方法で製造した。
【0034】
実施合成例X1~X9、比較合成例X’1~X’7で得られた含シリコーン重合体の重量平均分子量を測定した。具体的には、GPCシステムとしてTOSOH HLC-8320GPCを用い、カラムとしてTOSOH TSKgel Super Multipore HZ-Mを2本と、TOSOH TSKgel Super Multipore H-RCを1本連続装着し、カラム温度を40℃とし、基準物質をポリスチレンとし、展開溶剤をテトラヒドロフランとし、展開溶媒は、1mL/分の流速で流し、サンプル濃度0.1重量%のサンプル溶液0.1mLを注入し、EcoSEC-WorkStation GPC計算プログラムを用いて測定した。
なお、表5では、各単量体の質量部は、上記の実施合成例および比較合成例で使用した単量体成分の合計を100質量部として換算した値で表記した。
【0035】
(繊維試験片の作製)
上記で得られた含シリコーン共重合体の分散溶液を、イソプロピルアルコールで希釈して濃度1~8質量%の溶液に調製した。試験片として、ポリエステルタフタ(ポリエチレンテレフタラート、KM製)を用いた。各溶液にポリエステルタフタを浸漬させることで塗布し、150℃で3分間乾燥させた。
【0036】
(撥水耐久性評価)
JIS L 1092のスプレー試験に準じて、表1に示す5段階の基準によって評価を行った。
【0037】
(試験片の風合い評価)
各試験片の風合いについて、表2に示す5段階の基準によって評価を行った。
【0038】
(チョークマーク性評価)
摩擦摩耗試験機トライボギア(TYPE14DR 新東科学株式会社製)を用いて、試験片に測定子(POM製タッチペン)を押し付けなぞった後(荷重300g、測定子の移動速度6000mm/min)、その痕跡が残存するか、表3に示す5段階の基準によって評価を行った。
[評価結果]
表6、7には、実施例1~11および比較例1~7の評価結果を示している。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
【表4】
【0043】
【表5】
【0044】
【表6】
【0045】
【表7】
【0046】
表4~表5に示す「FM0725」および「FM0721」は、JNC製サイラプレーンFM0725(式(1)の構造:n=131)、サイラプレーンFM0721(式(1)の構造:n=64)である。
表4、表6の結果から明らかなように、実施例1~11は、いずれもIPAに可溶であり、撥水耐久性、風合い、耐チョークマーク性に優れていた。
【0047】
一方、表5、表7に示すように、比較例1~7では、これらの性能のバランスが不十分であった。
具体的には、比較例1、2では、(X)含シリコーン共重合体中に成分(d)を含まないため、耐チョークマーク性を示さなかった。撥水剤の希釈濃度を検討したものの、風合いとの両立が困難であった。
比較例3では、(d)式(4)の炭素数12~22の脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位が過大なため、撥水耐久性に低下が認められた。
【0048】
比較例4では、(c)式(3)の炭素数4の分岐状の脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位が過大なため、耐チョークマーク性に低下が認められた。
比較例5では、(c)式(3)の炭素数4の分岐状の脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位を含まないため、撥水耐久性に低下が認められた。
比較例6では、(b)式(2)の炭素数4の直鎖状の脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位を含まないため、耐チョークマーク性に低下が認められた。
比較例7では、成分(c)および成分(d)が含有されていないため、((X)含シリコーン共重合体中にポリマー溶液がIPAに溶解性を示さなかった。